ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『Fate/サムライレムナント』いよいよ本日発売です。
様子を見ようかと予約はしませんでしたが……めちゃくちゃ気になってきましたので仕事帰りに買ってきます!
プレイ感想などは、後日改めて……。

今回は久しぶりのfgo関連、鈴鹿御前が主役の夏回です!
鈴鹿御前サマバケのレースクイーン姿から、妖怪ラリーの話を思い付いたので書いていきます。
とりあえず序盤はレースが始まるまでの流れ。レース本編は次回からですが……それでも結構な文字数になってます。

ちなみに鈴鹿御前は型月の設定を基準にしていますが、彼女の出自に関わる話など、未だ語られていない部分などが多々あります。
今回の話ではその辺りを補完し、作者なりの解釈で書いていきたいと思っています。
後々になって判明するかもしれない設定と矛盾が生じるかもしれませんが、そのときはご勘弁を……。


レースクイーン鈴鹿御前・灼熱のサマーレース 其の①

 夏、真っ盛り!!

 今年も熱い夏がやって来た!!

 

 妖怪との戦争で甚大な被害を受けた日本だが、あれから数ヶ月ともなればそれなりに復興も形となってくる。勿論、まだまだ課題は山積みだが、それはそれとしてリフレッシュする時間も必要になってくるのが人間だ。

 

 特に夏ともなれば——『夏休み』。

 長期休暇で多くの人々が、日頃の疲れを癒そうと羽を伸ばしに観光地などを訪れる。ここ日本で有数な海水浴場でも、さっそくの夏を満喫しようとたくさんの人で賑わっていた。

 

「パパ!! ママ!! 早く泳ごうよ!!」

「きゃっ! ちょっと……水かけないでよ!」

「スイカ割りやろうぜ……って、このスイカでかっ!?」

 

 家族、恋人、友人同士で過ごす束の間の休息。青い空、白い砂浜でのパカンスをこれでもかと満喫している人間たち。

 

 ところが——そんな安らぎのひとときに、不穏な影が忍び寄る。

 

「ん……? な、なんだ……あれは!?」

 

 ビーチを訪れた観光客の一人が何かに気付く。

 水平線の向こう側に——何か大きなものが浮かんでいる。遠近感が麻痺するほどに巨大な何かがいつの間にか視界に入り込んでいたのだ。

 

「し、島……島だ!! それに……あの山は!?」

「お、鬼……鬼の顔をしてるぞ!?」

 

 それの存在に気づき始めた人々が俄かに騒ぎ出す。その正体は——『巨大な島』だった。

 そこに本来ならある筈のない島が突如として出現。しかもその島の中心には巨大な山が聳え立っており、その中腹がまるで『鬼の顔』のように見えていたのだ。

 その鬼の顔の、あまりに禍々しい形相に戦慄する人間たち。

 

「おおっ!! あれぞまさしく……鬼ヶ島じゃ!!」

「し、知ってるのか爺さん!? ……てか、あんた誰?」

 

 すると、それを見た地元住人らしき老人が物知り顔で語っていく。

 いきなり現れた老人相手に観光客が胡散臭そうな視線を向けるも、老人は気にせず話を続けた。

 

「鬼ヶ島。かつてこの地に存在した……幻の島じゃよ……」

 

 日本人なら誰もが聞いたことがあるだろう『桃太郎』という物語。

 その桃太郎に登場する悪役——鬼。その鬼たちが住まう本拠地こそが、まさに『鬼ヶ島(おにがしま)』と呼ばれる島なのだ。

 

 実際に、その島が桃太郎の舞台となった場所であるかどうかは謎だ。だが鬼ヶ島と呼ばれる島は確かに実在し、そこにはたくさんの鬼たちが住み着いている。

 

「わしが子供の頃……一度だけ見たことがある。あのときは島から大勢の鬼どもがやって来て……食料やら財宝やら、根こそぎ奪っていったもんじゃ」

「な、なんだって!?」

 

 どうやら過去にもこの地に鬼ヶ島が出現し、人々の平和を脅かしたという。

 老人が子供の頃だから、およそ五十年以上も昔の話だ。不幸中の幸いか、そのときは食べ物や金銀財宝が奪われるだけで、人的被害などはなかったとのことだが——。

 

 今回も、その程度で済むとは限らない。

 

「——ヒャッハー!!」

「——いたぞ、人間どもだ!!」

 

 人々が鬼ヶ島の存在に騒ぎ始めた、そのタイミングで『彼ら』は姿を現した。それはまさに大多数の日本人が頭の中に思い描くであろう、物語に登場するような『鬼』そのものであった。

 

 人間の子供ほどの大きさの——小鬼。

 成人男性よりも逞しい筋肉を持った——鬼

 見上げるほどに巨大な——大鬼。

 

 大小様々な鬼どもが、ビーチに集まった人間たちへと容赦なく襲い掛かったのだ。

 

「捕まえろ! 男も女も関係ねぇ!!」

「全員ふん縛って、鬼ヶ島に連れてっちまぇ!!」

 

 此度の彼らの目的は——『人間を連れ去る』ことにあるようだ。

 男だろうと、女だろうと関係ない。捕まえた人々を端から順に小舟へと乗せ、そのままどんぶらこと海を渡り鬼ヶ島まで運んでいく。

 

「な、なにをするだぁあ!? うわああああ!!」

「いやあああ!! やめて! 離してぇえ!!」

 

 鬼たちに強制連行される人々の阿鼻叫喚の悲鳴が平和だったビーチに響き渡る。

 

「どけ、爺!! 老いぼれに用はねぇ!!」

「ガキどもが……怪我しねぇうちにとっとと家に帰んな!!」

 

 一方で、鬼は老人や子供といった面々には手を出さないでいる。

 物知り顔で自分たちのことを語っていた老人を突き飛ばし、年端もいかない子供に対してはわざわざ警告までして家に帰るように促す。

 

「あいたっ!?」

「お父さん!! お母さん!!」

 

 もっとも、年寄りを突き飛ばすなど褒められた行為ではないし、子供たちだけに妙な気遣いを見せたところで両親を連れ去ってしまうことに変わりはない。

 

 結局、鬼たちの暴虐は誰にも止めることが叶わず。真夏のビーチには小さな子供たちや、腰の曲がった老人だけが取り残されてしまう。

 

 

 

「わ、私たち……これからどうなるの?」

「ああ……どうしてこんなことに……!」

 

 そうして、浜辺に集まっていた人間の大人たち——およそ百人が鬼ヶ島へと連れてこられる。

 彼らは島の入り口付近の広場へと集められた。特にこれといって拘束などされてはいなかったが、周囲には何十匹もの鬼たちが睨みを利かせており、下手に動くことが出来ない。

 

 これから何が始まるのかと、戦々恐々となる人間たちが互いの顔を不安げに見合わせる。

 ここから生きて帰れるのだろうか、果たして彼らの命運やいかに。

 

 

「——静まれ! 静まれ、静まれぇええ!!」

 

 

 そんな人々の混乱がより混沌となる前に、一匹の鬼が人間たちの眼前にて声を張り上げる。

 二メートルの体躯に赤黒い肌。金棒を背負った虎柄のパンツ、額には二本の角。いかにも鬼といった風貌だが、ヘアスタイルはモヒカンと髪型で個性が出ている。

 そんなモヒカンヘアの鬼が、小鬼たちの鳴らす太鼓の音をバックミュージックに叫んでいく。

 

「——悪路王様のおな~り~!!」

「——っ!?」

 

 仰々しい宣言と共に、鬼たちの親玉——悪路王(あくろおう)という名の鬼が皆の眼前にその姿を晒していく。

 

 

「——グハッハハハハハ!! 我こそがこの鬼ヶ島の主……悪路王である!!」

 

 

 下品な高笑いと共に出て来たのは、モヒカン鬼の三倍はあるであろう身長六メートルを越える大鬼だった。厳つい顔面に鋭い眼光。髪や髭はモジャモジャ。口から飛び出るほどに鋭利な牙と、額にはとても立派な角が二本聳え立っている。

 その恐ろしそうな名に相応しい、鬼の親玉としての風格を見事に備えた怪物であった。

 

「さて、今日貴様らに集まってもらったのは他でもない。お前たち人間に……我が野望を叶えるための礎になってもらおうかと思ってな……ガッハッハ!!」

「……ひぃっ! い、礎……?」

 

 悪路王はその場に用意されていた巨大な椅子にずっしりと腰掛け、そこから人間たちを見下ろしながら告げる。

 その口から言葉が放たれるだけでも凄まじい威圧感に怯える人間たちだが、その言葉の内容そのものにも恐れ慄く。

 

 礎——柱、土台。

 自らの野望を成就するため、人間たちを踏み台にするということだろうか。その言葉の真意を様々な意味で解釈した人々の顔色が一瞬で青ざめていく。

 

「ヒャッハッハ!! 人間如きが悪路王様のお役に立てるのだ!!」

「光栄に思うがいい!! ウシャシャシャシャ!!」

 

 そんな人間たちの絶望などさして気にした様子もなく、手下の鬼たちが品のない笑い声を上げていく。

 こんな鬼どものために礎になるなど、誰もが冗談ではないと思っただろう。だが、ただの人間たちが鬼などという化け物に逆らえるわけもなく。

 

 口ごたえする間もなく、悪路王が語るその『野望』とやらの具体的な内容について聞かされることとなった。

 

 

「そう……この国を魔国とするためにも! 我らが鬼の楽園を築くためにも……!!」

 

 

 

 

 

「まずはこの鬼ヶ島に……夢のテーマパーク『オニランド』を建設する!!」

 

 

 

×

 

 

 

「…………」「…………」「…………」「…………」

 

 広場に集められた人間たちが、ポカンと口を開けたまま呆けている。

 想像の斜め上をいく悪路王の宣言に、どのようなリアクションを取るべきか。恐怖以上に困惑が大きく、未だその発言の意味を理解出来ないでいた。

 

「あの……あ、悪路王さん?」

「くらぁああっ!! 様をつけんかデコ助野郎!!」

 

 誰もが口を閉ざす中、人間の中でも勇気ある青年が恐る恐ると悪路王に向かってその真意を尋ねる。

 ただ、名前の後に『様』と敬称を付けなかったことに二メートル越えの鬼、スキンヘッドで個性を出した個体が無礼だと叱り飛ばす。

 

「あ、悪路王様!! その……オニランドというのは、いったいなんなのでしょうか……?」

 

 その怒声にビビりながらも、青年は肝心の質問を引っ込めなかった。オニランドとは何か、その意味をもう少し詳しく聞きたかったのだ。

 

「なにもクソもあるか!! その名前の通り、鬼を題材にした遊園地だ!!」

 

 しかし特に深い意味などなく。悪路王はそれが言葉通りの意味——鬼をモチーフとした遊園地。即ち娯楽施設の類であることを率直に告げる。

 

「このオニランドは、我ら鬼の逞しさ!! 偉大さ!! 格好良さを伝えるための娯楽施設だ!! 正しき鬼の姿を教え広めるため……この島全体を夢の国へと変えるのだ!!」

 

 どうやら本気らしい。本気で悪路王はこの鬼ヶ島に、アミューズメントパークとしてオニランドとやらを建設するつもりのようだ。

 

「そして、そのオニランドに君臨するこの悪路王こそが、鬼たちの頂点!! ひいてはこの日本を治めるに相応しい妖怪であることを、客として訪れた人間どもに知らしめるのである!!」

 

 それが自分たち鬼の知名度を上げ、オニランドの支配者である悪路王という妖怪の名を全国に広めることに繋がると。

 彼なりに、オニランドがこの国を支配するために必要だと考えあっての企みだというのだ。

 

「貴様らを連れてきたのは、オニランド建設の人手……そして、完成後の従業員として雇うためである!!」

 

 そのオニランドの設立、運営のためにと。悪路王は手下の鬼たちに人間を集めるように命じたようだ。とりあえず、取って食うなどといった血生臭い理由でなかったことに安堵する人間たち。

 

 だが、それならそれで困ると——人々から不満の声が続出する。

 

「こ、困りますよ!! 私たちには私たちの仕事があるんです……」

「そ、そうだ、そうだ!! なんだって俺たちがそんなもんのために……」

「む、息子のところに帰してくれ!! きっとあの子は……今も一人で泣いてるんだ!!」

 

 その場に集められた人の大半が、既に人間社会でちゃんとした仕事に就いている。

 それにガキに用はないとビーチに置いてけぼりにされた子供たちの親などが、家族に会わせてくれと悪路王に集団で抗議していく。

 

 だが、彼らは忘れている。あまりにも相手の提案が予想外であったために、失念してしまっていたのだ。

 彼らが妖怪——人に仇をなす『悪鬼』であるということを。

 

「貴様!! 悪路王様のご提案の何が不満なのだ!?」

「ぐわっ!?」

「あなたっ!?」

 

 逆らう人間たちを黙らせるため、モヒカンヘアの鬼が文句を言ってきた人間の一人を金棒でぶん殴った。

 息子のところに返してくれと言っていた父親だ。彼の妻らしき女性が傷つき倒れる夫に悲痛な叫び声を上げながら駆け寄る。

 

「生意気な人間には教育が必要だなぁ、ゲッヘッヘ!!」

「覚悟しな!! お客様の笑顔がなくちゃ、生きていけない身体にしてやる!!」

「オニランドのキャストとしての心得! その魂にまで刻み込んでやるぜ!!」

 

 地面へとひれ伏したその人間の夫婦へと、小鬼の群れが下卑た笑みを浮かべながら迫る。

 他の人間たちへの見せしめか。単純に、従業員としての研修を受けさせるという意味合いに聞こえないでもない。

 

「そ、そんな……だ、誰か……誰か助けて!?」

 

 いずれにせよ、鬼たちが恐ろしいものであることには変わりはない。倒れ伏す夫を庇いながら、妻が周りの人々に助けを求める。

 しかし、鬼を相手に只人に出来ることなどなく。彼らは鬼たちの暴力が自分たちにまで及ばないようにと、口を閉ざすしかないのであった。

 

「さあ、覚悟し——」

 

 そうして、さらなる理不尽によって人々が蹂躙されようとした。

 

 

「——リモコン下駄!!」

 

 

 その間際——上空より鬼目掛けて『下駄』が飛来してきた。

 

「ぎゃっ!?」

「ひでぶっ!?」

 

 その下駄の一撃をまともに喰らい、小鬼どもが呻き声を上げながら吹っ飛んでいく。

 

「むむっ!? おのれ……何奴!?」

 

 手下の鬼たちを蹴散らされた悪路王が、何事かと下駄が飛んできた上空へと目を向ける。

 

「あ、あれは……まさか!?」

「間違いないよ……あの子は、あの子は!!」

 

 視線を上空へと向けたのは人間たちも同じだ。彼らは空を飛翔する反物——その上に乗った見覚えのある『少年』の姿に表情を明るくする。

 日本人であれば、先の戦争でテレビを見ていたものなら彼が何者か知っているだろう。人々はその少年の名を期待と希望を込めて呼んだ。

 

「——ゲゲゲの鬼太郎だ!! 鬼太郎が来てくれたぞ!!」

 

 

 

「父さん、連れ去られた人間たちが……!! あの鬼の数は!?」

「うむ……これは思っていた以上に大規模な軍勢かもしれんぞ……」

 

 鬼たちが人間を連れ去ってしまったという騒ぎを聞きつけ、鬼太郎はこの鬼ヶ島までやって来た。

 一反木綿の背に乗り、上空から広場に集められている人々や、それを取り囲む鬼の軍勢を目の当たりにする。

 

 鬼ヶ島に住み着いている鬼たちは、鬼太郎たちの想像を遥かに越える規模であった。

 島のあちこちには小さな小鬼が無数に蠢き、人間サイズの鬼が何十匹と島の要所要所を守っている。大鬼は数えるほどだが、一体一体の威圧感が半端ではない。

 

 そして、一際大きな鬼たちの親玉。

 これだけの鬼を同時に相手取るなど、流石の鬼太郎でも困難を極めるであろう。

 

「どうするとね、鬼太郎しゃん!? 一旦退くかいな!?」

 

 これには一反木綿も、退却を提案するほど及び腰になってしまっている。

 鬼太郎の実力を信頼していないわけではないが、この戦力差だ。少なくとも他の仲間たち。猫娘や砂かけババア、子泣き爺やぬりかべといった面子の協力を仰ぐ必要はあるだろう。

 

「いや……あの人たちを放っておくわけにはいかない。高度を下げてくれ、一反木綿」

 

 だが、鬼太郎はここで逃げるという選択肢を取らなかった。鬼たちに誘拐された人間たち。出来ることなら彼らを救出してやりたいと考えている。

 しかし、この場で戦いともなれば人々を巻き込む乱戦となってしまうだろう。まずは相手側の様子を見ようと、鬼太郎は慎重に地上へと近づいていくよう一反木綿に指示を出す。

 

「貴様……ゲゲゲの鬼太郎だと!? 儂がおらん間に名を上げた妖怪か!?」

 

 会話の出来る距離まで近づいたところで、玉座にふんぞり変える巨大な鬼が鬼太郎に向かって吠えるように叫んだ。

 

「!! お前が……この鬼たちの大将か?」

 

 言葉を発するだけで放たれる威圧感から、鬼太郎はそれが鬼たちのリーダーであると見抜いて問いを投げ掛ける。

 

「いかにも! この鬼ヶ島の新たな主となった悪路王である!!」

「悪路王……これまた厄介なやつが出てきたもんじゃ!!」

 

 鬼太郎の問いに堂々と答える悪路王。

 目玉おやじもその名を聞いたことがある妖怪らしい、いかにも面倒そうにない筈の眉を顰める。

 

「何故人間たちを連れ去った? 今すぐこの人たちを解放しろ、悪路王」

 

 まずは鬼太郎から、悪路王に人間たちを解放するようにと要求を突きつける。

 少なくとも今回は人間側が被害者だ。理由はどうあれ、鬼たちの一方的な暴虐を放置するなど鬼太郎には出来ない。

 

「断る!! こやつらには、ここでオニランド建設のために働いてもらわねばならないのだ!!」

「お、オニランド……!?」

 

 だが、鬼太郎の要求を悪路王は『人間を必要とした理由』を添えて突っぱねた。鬼太郎は初めて聞かされる悪路王の野望に思わず困惑の表情を浮かべるが、怯まずに言い返す。

 

「そ、その……オニランドとやらがどういうものかは知らないが……無関係な人間を巻き込むな! 作るなら自分たちだけの手で作れ!!」

 

 至極もっともな意見を口にする鬼太郎。もっとも、そのような正論を聞き入れるような相手であれば最初から苦労などしない。

 

「ふっはっは!! 生憎と鬼だけでは労働力が足らんのだ!! 安心しろ、給料はきちんと払ってやるさ!!」

「そういう問題じゃなかとね……」

 

 悪路王は鬼太郎の正論など豪快に笑い飛ばしていく。一応給料が出るとのことだが、それで許されるようなことではないと一反木綿が呆れる。

 

「小僧!! 頭上から悪路王様に意見するとはなんと畏れ多い!!」

「降りて来いや!! しばき倒してやらぁ!!」

 

 すると、平行線になる両者の言い争いに痺れを切らした鬼たちが殺気立った。モヒカンとスキンヘッドの鬼がそれぞれを声を張り上げ、他の鬼たちに号令を掛けるように金棒を天へと掲げる。

 それを合図に眼下の鬼たちが一斉に動き出し、その動きに人々が怯え惑う。

 

「こ、こりゃいかんな……!!」

 

 鬼たちの動きに目玉おやじが焦りを見せる。

 このまま戦いともなれば必然的に人々を巻き込み、多くの怪我人が出てしまうだろう。最悪、鬼たちが人間を人質に取るなど、卑劣な手段に出る可能性もあるのだ。

 犠牲者を出さないためにも慎重な対応が求められる中、鬼太郎の脳裏にも撤退の二文字が浮かんでくる。

 

 果たしてどう動くべきかと、鬼太郎は緊張感に額から汗を滲ませていく。

 

 

 

「——待ちなさい」

 

 

 

 刹那、その場に凛とした女性の声が響き渡る。

 

「——!?」

 

 突如として聞こえて来た声に鬼太郎たちが上を向くや——彼らよりも、さらに高度の上空から『何か』が飛来してくる。

 

「ちっ! 今度は誰……!?」

 

 鬼太郎に続く新たな邪魔者の登場に苦虫を噛み潰したような顔をする悪路王だが、落下して来たもの——『黄金の刀』が地面に突き刺さっていたことに驚愕の表情を浮かべる。

 

「こ、この刀は……大通連!! ま、まさか……!?」

 

 悪路王は一目見ただけで、その刀の銘が『大通連(だいとうれん)』だということを察したらしい。

 その刀を持つものと面識があるのだろう——天より舞い降りてくる、輝きを纏った女性のシルエットに向かって叫んでいた。

 

 

「——その妖気……その輝き!! 間違いない……貴様は、鈴鹿御前!!」

「——久しいな、悪路王よ。相も変わらず粗暴な男だ……」

 

 

 戸惑いの中にも、どこか歓喜な感情を匂わせる悪路王。

 それとは対照的に、その女性——鈴鹿御前の声には厳かながらも、どこかうんざりとしたようなニュアンスが含まれていた。

 

 

 

×

 

 

 

 鈴鹿御前(すずかごぜん)、平安時代の女性。

 文献によって天女、盗賊、そして鬼と。様々な有り様で描かれる彼女だが、唯一の共通点として——『絶世の美女』であるという点があげられる。

 

 どのような物語であれ、彼女は非常に美しい女性として描かれ、人々の想像力を掻き立ててきた。その本物が眼前に降臨したともなれば、是が非でもその顔を見たくなるというものだ。

 

「ま、眩し!? てか……眩しすぎて何も見えんとね!!」

 

 しかし、女好きな一反木綿が美女と名高い鈴鹿御前に声を掛けられずにいる。

 

 それは鈴鹿御前の放つ輝きが、あまりにも眩し過ぎたからだ。溢れるようにこぼれ落ちる彼女の後光があまりにも神々しく、彼女の容姿を直視することが出来ない。

 かろうじて見えるのは、天女の如き女性のシルエットのみ。これでは彼女が本当に鈴鹿御前その人だと分からないではないか。

 

「おお! 鈴鹿御前よ!! 儂の復活を祝福しに来てくれたのか!?」

 

 だが、悪路王は気配だけでも彼女が鈴鹿御前で間違いないと判断出来たようだ。久方ぶりの再会に親しげに声を掛けていく。

 

「悪路王……今更人の世に何用だ? お前のようなものが表舞台に上がれるほど、当世の人界は脆くはないぞ?」

 

 一方で、鈴鹿御前は悪路王の挨拶を華麗にスルーし、彼にその目的を問う。

 遠い昔に一度は討伐された悪路王という妖怪。長い時間を掛けて肉体を取り戻したようだが、今更になって彼が人の世に何を望むというのか。

 

「ガッハッハ!! おかしなことを聞くな、鈴鹿御前よ! 人の世がどうあろうと、儂の望みは今も昔も変わらぬ!! この国を鬼の支配する魔国へと!! それが我ら鬼の悲願……お主とて一度はそれを望んでいた筈ではないか?」

「…………」

 

 鈴鹿御前の問い掛けに悪路王が平然と言い返す。

 日本を鬼が支配する魔国へと。それこそが、最終的に悪路王が目指すべき到達点といったところか。

 

「だからこそ、そのためにも……オニランドの建設は必要不可欠なのだ!!」

 

 そして、何がだからなのかは不明だが、そのために悪路王はオニランドの建設を強く望んでいた。

 

「…………本気か? 貴様は本気でオニランドとやらが、日本を侵略するのに必要だとか言いたいわけ?」

 

 これには流石の鈴鹿御前も呆れたようにため息を吐き、徐々にだが言葉遣いが崩れていく。

 

「そうだ!! オニランドの建設は、日本を侵略するために欠かすことのできない事業だ! オニランドの完成こそが、この悪路王が進むべき覇道! その偉大なる第一歩となるであろう!!」

 

 しかし、鈴鹿御前に呆れられようと悪路王は全くめげない。どうやら他のものたちが思っているより、オニランドの存在は彼にとって重要なもののようである。

 

「そ、それでだ……鈴鹿御前よ。もしもだ……もしも、このオニランドが無事に完成したあかつきには……」

 

 だがここで、先ほどまで堂々としていた悪路王が途端、妙にオドオドとした態度を取り始める。恥ずかしそうに視線を下へと向け、チラチラと鈴鹿御前を盗み見ていく。

 どうやら、彼女に何か言いたいことがあるらしい。言い出すべきタイミングを見計らいながら、顔をほんのり朱色に染めていき。

 

 意を決したのか——悪路王は鈴鹿御前に向かい、自らの思いの丈をぶつけていく。

 

 

 

「——儂と……儂と、結婚してくれ!!」

「「「——な、なにぃいいいいいい!?」」」

 

 

 

 これには鬼太郎も、人間たちも。そして悪路王の手下である鬼たちですらも、驚愕の声を上げる。

 結婚、つまりは鈴鹿御前を自分の妻に娶りたいということだ。悪路王が鈴鹿御前に愛を告白するというまさかの展開に、周囲が騒然となっていく。

 

「えっ……な、なに? この展開?」「あの図体で、何て恥ずかしそうに告白するんだ!」「あ、悪路王様!? お、お気を確かに!!」「つ、ついに言った!! その胸に秘めたる思いを!!」「……俺たちは何を見せられているんだ?」「ど、どうなるの!? この後どうなっちゃうの!?」

 

 わいわいきゃっきゃっと敵味方関係なしに、皆が固唾を呑んで鈴鹿御前の返答を待つことになる。

 

 

 

 

 

「——ないわ~、まじでないわ~」

「な、なに……?」

 

 しかし、鈴鹿御前からの返答は勿論——『NO!』。

 

 悪路王の告白はあっけなく一蹴され、彼の思いはあえなく撃沈となる。

 だが、その残酷な返答にショックを受ける以上に、悪路王は彼女の『喋り方』に困惑した表情を浮かべる。

 

 そう、先ほどまで確かに厳かだった鈴鹿御前の言動が、どこか軽薄なものへと変わっていったのだ。

 さらには、彼女を輝かしていた後光がやる気をなくすように光を失い——それにより、鈴鹿御前という女性の全体像が露となっていく。

 

「——アンタみたいのがカレシとかマジ無理なんですけど~。つーか、いきなり結婚とかマジ有り得なくない? どんだけ必死なんだって話だし~」

「…………」

 

 気怠げな口調で悪路王のプロポーズを揶揄する彼女は、浮遊していた空中から手近な柱に腰掛け——だらしなく足を組んでスマホなどを弄り始めた。

 

「……す、鈴鹿御前? お、お主……本当に鈴鹿御前だよな?」

「はぁ? あったりまえじゃん! てか……気安く呼び捨てにするなし~」

 

 それまで素顔すら見えない相手を確かに鈴鹿御前と認識していた悪路王が、何故か不安げに彼女が本物かどうかを尋ねる。

 悪路王の疑惑に鈴鹿御前は当然のように答えるが、彼がそう言いたくなる気持ちも分からないでもない。

 

 そう、現代に降臨した鈴鹿御前は——思いっきり今風にかぶれていた。

 平安時代の女性とされる彼女は本来であれば淑やかな、それでいて凛とした姫としての威厳を兼ね備えた女性であった。

 ところが今の彼女は当世風の衣装——白いブラウスに緋色のミニスカート、肩に掛けたブランドモノのバッグから、最新機種のスマホ取り出し弄んでいる。

 その風貌や口調を一言で表すのなら——まさに『ギャル』というやつになっていたのである。

 

「す、鈴鹿御前さん? そ、その変わりようはいったい……?」

 

 その変化が悪路王を戸惑わせていた。思わず敬語で彼女に何があったのかとお伺いを立ててしまう。

 

「何って……知らないの~? 今はこういうのが最新のトレンド……流行りっていうのよ!!」

 

 そんな悪路王の戸惑いなどどこ吹く風と、鈴鹿御前は実にマイペースに己のライフスタイルを貫いていく。

 

「やっぱ女なら恋に生きなきゃ!! そんで恋に生きるなら女子高生……所謂JKであることが必須条件なのよ!!」

「と、とれんど? じぇ、じぇいけい?」

「…………」「…………」「…………」

 

 鈴鹿御前の言っていることを半分も理解出来ずに硬直する悪路王。手下の鬼たちも、何をどうすべきか判断に困ってしまっている。

 

 しかし、これこそ——この姿こそ、現代に復活した鈴鹿御前が辿り着いた『答え』なのだ。

 絶世の美女とされる彼女がより自分の美しさを追求、その美しさを極めんと行き着いたファッションスタイル。

 恋に生きる華の女子高生スタイルこそが、自分には相応しいものであると鈴鹿御前自身が定めたのだ。その姿は、彼女の類まれなる美貌と相まって確かに見惚れるほどに美しいものであった。

 

「……最近の女子高生ってあんな感じなのか?」

「いや……今どきはあんま見ないね、ああいう感じの子……」

「ちょっとイメージが古いっていうか……私らの学生時代にもいなかったと思う……」

 

 もっとも、そのJKスタイルが今の人間たちの視点からも多少古臭いものに見えるらしい。彼女の美貌に見惚れているより、そのファッションスタイルに戸惑っているものの割合の方が多い。

 

 

 

「そ、そうか…………だが!! お主が美しいことに変わりはない!! やはり儂はお前が好きだ!!」

 

 鈴鹿御前の思い掛けない変わりように戸惑っていた悪路王であったが、ここでようやく思考が現実に追いついてきた。

 たとえJKとやらでもお前が好きだと、改めて鈴鹿御前に告白する。

 

「だからないって言ってるじゃんか~、しつこい男は嫌われるわよ~? そんなんだから、アンタモテないのよ~」

 

 しかし、どれだけ悪路王がしつこい言い寄ろうと、鈴鹿御前の答えに変わりはない。

 うんざりしながら相手の駄目なところを容赦なくディスっていく鈴鹿御前の指摘に、悪路王のメンタルが「ぐはっ!?」と傷つけられていく。

 

「な、何故だ!! 儂の何が不満だというのだ!?」

 

 ところが、悪路王は自分が振られるという現実を素直に認めることが出来ず、本当にしつこく食い下がってくる。

 何故自分が振られるのか、どうすれば自分に振り向いてくれるのかと鈴鹿御前に意見を求めてきたのだ。

 

「う~ん……そうねぇ……」

 

 ここで鈴鹿御前が『顔が悪い』と身も蓋もないことを言ってしまえば、それで話は終わっていただろう。しかし彼女はわざとらしく考えるそぶりを見せながら、悪路王の反応を伺っていく。

 

「力だけが自慢の男ってのは浅はかね~、その無駄に鍛えられた筋肉も超暑苦しいし~」

「ぐぐぐっ……」

 

 まずは、悪路王が自身の長所だと思っているところを潰していく。

 鬼である彼の価値観からして、強くて逞しい肉体こそが何よりの自慢だろう。しかしそんなもので靡く女ではないことを、いの一番に分からせる。

 

「あと粗暴で乱暴で……短気な男も駄目! 男なら常に余裕があって、誰からの挑戦も受けるような器の大きさを見せてくれなきゃ!」

「な、なるほど……?」

 

 そして悪路王でも我慢すれば出来そうなことを告げ、彼が短慮な考えへと走らないよう、その動きを抑制していく。

 

「あとは……個人的な好みを言わせてもらうなら~」

 

 その上で——悪路王を『自らの思惑に乗せるべく』、鈴鹿御前は自身の好みと称し、とあるポイントを語っていく。

 

「——速い男とかは、割と好みかもね~」

「…………? それはどういう意味だ?」

「???」「???」「???」

 

 鈴鹿御前の発言の意図を、悪路王は即座に察することが出来ないでいた。手下の鬼たちや人間たちも、彼女の言葉にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「それは勿論……スピードがって意味よ!! こんな感じにね!!」

 

 すると、鈴鹿御前は無邪気な笑顔を垣間見せつつ、先ほどから操作していたスマホの画面を悪路王へと見せつけていく。

 

「これは……? 人間どもの走らせる自動車とやらが……ものすごいスピードで走っているが?」

 

 悪路王はそのスマホに映し出されていた動画を見せつけられて尚、鈴鹿御前の言わんとしていることが理解出来ないようだ。

 悪路王が見せられた動画——それは所謂『レース動画』というやつだった。とあるサーキット場で、何台もの自動車が高速でスピードを競い合っている。

 モータースポーツというやつだろう。なかなかの迫力ではあるが、それだけで鈴鹿御前のような女性が興味を持つものだろうか。

 

「知ってる? このコース鈴鹿サーキットって、私と同じ名前でさ~!! なんか親近感湧くよね!!」

 

 だが鈴鹿御前は、自身の名前を冠するこのサーキット場が特にお気に入りだと嬉しそうに語る。

 

 実際、世界的にも有名な『鈴鹿サーキット』のある三重県・鈴鹿市は鈴鹿御前の伝承の舞台とされる鈴鹿山にも近いところに位置している。

 その縁から彼女は鈴鹿サーキットに、ひいてはそのサーキットを高速でかっ飛んでいくレーサーたちに興味を持ったというところか。

 

「…………つまり、このように車を速く走らせる男に、お前は惹かれるというのだな?」

 

 ようやく、悪路王は鈴鹿御前の好みとやらに付いて把握し始めたようだ。念を押すように問いを投げ掛け、それに鈴鹿御前が頷く。

 

「そうよ! けど、ただの速さ自慢じゃ駄目! 私のカレシになるってんなら、世界最速くらいは名乗ってもらわないとね!!」

 

 しかし、ただ速いだけでは駄目だと。自身と付き合うためのハードルをさりげなく上げていくのを忘れない。

 

「クックック……ふっはっはっは!! そういうことであれば……モヒカン!! スキンヘッド!!」

「は、ははっ!!」「いかがなされましたか、悪路王様!?」

 

 すると悪路王、鈴鹿御前の無茶振りに臆することなく高笑いを上げ、二人の側近——モヒカンとスキンヘッドの鬼を呼び付ける。

 

「……そういう名前なのか……」

「……髪型変えたくなったら、どうする気なんだろう……」

 

 何気に髪型で呼ばれている鬼の幹部に驚く人間たちだが、今の悪路王の耳にそんなツッコミは入ってこない。

 何を閃いたというのか、彼は得意げな笑みを浮かべながら自らの発言を、その場にいる全てのものたちへと聞かせていく。

 

 

「——オニランド、第一回目のイベント内容が、たった今決まったぞ!!」

 

 

 オニランド、鬼のテーマパーク。悪路王が日本を魔国にするため、その建設を何より重要視する娯楽の殿堂。

 仮にもアミューズメントパークを名乗るのであれば、楽しいイベントがつきものというもの。もしもオニランドが完成したのなら、お客様を飽きさせないよう、定期的にイベントを催すことになるだろう。

 

 そんな記念すべき第一回目のイベント開催が、オニランドの建設前に決定と相なったのだ。

 

 

「聞けっ!! これより悪路王の名の下に……妖怪ラリーの開催を宣言する!!」

「!!」「!!」「!!」

 

 

 そのイベントこそが——『妖怪ラリー』だ。

 悪路王の宣言に妖怪たちの表情が緊張で強張る。どうやら妖怪だけには意味の通じる言葉らしく、人間たちは訳が分からずキョトンとしている。

 

 

「世界中の猛者たちを集めよ!! このレースに儂が勝利したあかつきにこそ、この悪路王が世界最速であることが証明されるのだ!! ガッハッハっ!!」

 

 

 既に勝った気になっている悪路王が拳を突き上げて吠える。全ては世界最速となり、鈴鹿御前のハートを射止めるため。

 

 

 漢・悪路王の負けられない戦いが今始まる!! 

 

 

 

 

 

「…………つまり……どういうことじゃ?」

「さ、さあ……?」

 

 そんな悪路王の提案に、完全に蚊帳の外であった鬼太郎親子が揃って首を傾げていた。

 

 

 

×

 

 

 

「——というわけで!! 妖怪ラリーで奴らと決着をつけることになった訳だけど~」

「いや……何がというわけよ? そもそもアンタ誰よ? いきなり出てきて……いったいなんなの?」

 

 鬼ヶ島から場所は変わって、ゲゲゲの森。

 夜も遅いが鬼太郎の家にて、これからのことを決める話し合いが行われていたが、そこにさも当然のように入り込んでいる女性・鈴鹿御前の存在に猫娘が眉を顰める。

 

 悪路王との戦いは、とりあえず保留となった。

 それは鈴鹿御前が悪路王を焚きつけた結果——『妖怪ラリー』で勝負を決めよう、などという流れになってしまったからだ。

 話をややこしいことにしたと、鈴鹿御前に猫娘は多少お怒りである。

 

「しょうがないじゃん~、あの場で戦いになったら人間たちの犠牲が半端なかったし~」

 

 だが鈴鹿御前の言う通り、あの場で戦いともなれば鬼ヶ島に連れて来られていた人間たちがタダでは済まなかっただろう。妖怪ラリーで勝敗を決めると決まったからこそ、鬼たちも大人しく矛を納めたのだ。

 人間たちはそのまま鬼ヶ島に囚われの身となってしまったが、大事な労働力だからこそぞんざいに扱われることはないだろう。

 

 とりあえず妖怪ラリーが開催されることになった、一週間後。

 それまでは、なんとか耐え忍んでもらうしかない。

 

「それは……まあ、確かに……」

「うむ……しかし、妖怪ラリーとは……なんとも懐かしい響きじゃのう……」

 

 鈴鹿御前の機転に鬼太郎も同意する。あの場で戦いにならなかったのは、確かに彼女のおかげである。しかし、妖怪ラリーという懐かしい『競技名』に目玉おやじは腕を組んで思案に耽っている。

 

 

 

 何百年も昔のことだ。妖怪たちの間で争いが絶えない時代があった。

 妖怪同士が互いに傷つけ合い、無意味に血を流し、そして魂になるまで相手の肉体を滅ぼそうと躍起になっていた野蛮な時代。

 

 あの時代。不毛な争いをなんとか辞めさせようと、争いを嫌う妖怪たちが幾人も知恵を振り絞った。

 

 例えば——『妖怪大裁判』。

 妖怪裁判所という主張の違う妖怪同士を公平に裁く場所を設立し、抹殺罪なる罪状まで作ることで、妖怪たちが無意味に殺し合うことを抑制しようとしたのである。

 

 だがそれでも、争いは一向になくならない。

 ならばと、今度は『戦い以外』の手段で互いの優劣を決める方法はないかと、様々な『競技』が妖怪たちの間で流行るようになったのだ。

 

 例えば——『狐や狸の化け合戦』。

 どちらがより上手く化けれるか、人間を上手く化かすことが出来るかを夢中で競い合った。

 

 例えば——『人間の罪を暴く推理勝負』。

 どちらがより正しく人間たちの隠された罪を暴き出し、地獄へと突き落とすことが出来るか知恵を振り絞った。

 

 例えば——『妖怪大運動会』。

 立場の違う団体同士が様々な種目でぶつかり合い、健康的に汗を流した。全ての競技が終了する頃には、互いの健闘を称え合って固い握手を結んだものである。

 

 そして——『妖怪ラリー』。

 どちらがより速く、決められたコースを走り抜けることが出来るのか、その速度を競い合うのだ。

 

 

 

「過去には佐渡島や、富士の樹海などで開催されたとも聞くが……その妖怪ラリーをオニランドとやらで決行するつもりのようじゃな。世界中の妖怪を集めて……」

 

 妖怪ラリーに関する話を思い返していた目玉おやじだが、そこでテーブルの上に置かれた『招待状』に目を向ける。それは悪路王から、鬼太郎宛に送られたレースへの参加案内である。

 

 悪路王が鬼太郎をライバルの一人と、認めたからこその挑戦状だ。

 別に妖怪ラリーで決着を付けることに文句はない鬼太郎だが、その参加状の最後に書かれていることに問題があった。

 

 

『——尚、このレースに勝利した者には鈴鹿御前を嫁にする権利。それから、日本の支配権を得るものとします』

 

 

「……あのバカ鬼……人を勝手に賞品にしてくれやがって……」

「それより、なんで日本の支配権がついでみたいに書かれてんのよ……」

 

 なんと、悪路王は『鈴鹿御前との結婚』さらには『日本の支配権』なんてものを優勝賞品にしてしまったのである。

 これに当然ながら鈴鹿御前が激怒、美しいその顔を恐ろしい形相へと歪めている。さらには、日本の支配権なんてものまで勝手に付け加えられていることに猫娘が呆れ返っている。

 

 確かにこれなら世界中の妖怪たちがレースに参加しようと食いついてくるだろうが、負けたら大惨事である。

 

「これは逃げるわけには行きませんね、父さん……」

「そうじゃな……」

 

 とりあえず、悪路王や世界各国から集まってくるだろうレース参加者に日本を好き勝手されないためにも、鬼太郎は妖怪ラリーへの参加を決意する。

 勿論、鈴鹿御前を嫁にしようなどとは毛ほども考えていない。

 

「じゃが……勝ったところで、あの悪路王のやつが素直に負けを認めるじゃろうか……」

 

 しかし、ここで目玉おやじが一つの懸念を口にする。

 

 鈴鹿御前に振られたにも関わらず、あそこまで食い下がったあの悪路王が、果たして妖怪ラリーに負けたからといって素直に引き下がるかどうか。

 負けた後にも色々とごねて、勝敗をうやむやぬにしてしまうかもしれないが。

 

「ああ、それなら大丈夫!! てか……悪路王のやつが文句言ってくることも全部計算済みだし!」

「……どういうことじゃ、鈴鹿御前?」

 

 ところが、鈴鹿御前は陽気な笑顔でそれは問題ないと目玉おやじの不安を払拭した。

 

「この妖怪ラリーには仕掛けがあってね~、実は————」

 

 そして念の為にと声を潜ませながら、鬼太郎たちにこっそりと今回の作戦の『肝』を打ち明けていく。

 

 

 

×

 

 

 

「——それは……本当に可能であればたいしたもんじゃが……」

 

 鈴鹿御前の話に目玉おやじは半信半疑ながらも、彼女のアイディアに感心する。

 

 もしもその『作戦』が有効であるのならば、鈴鹿御前は最初から悪路王を妖怪ラリーという舞台に引きずり込もうと画策していたことになる。

 ギャルっぽい喋り方からは想像も付かなかったが、鈴鹿御前とはとても賢く思慮深い女性なのかもしれない。

 

「けど、そんな回りくどいことしなくても……普通に戦って倒しちゃえばいいんじゃないの?」

 

 もっとも、そんな面倒な手順を踏まなくても普通に悪路王を倒せないかと、猫娘が苦言を呈する。

 人間を巻き込まないよう、一騎討ちにでも持ち込むことさえ出来れば、あとは鬼太郎がヤツを倒してくれるだろうと。彼への信頼があればこその意見である。

 

「そんなに簡単な話じゃないのよ~……あいつ、馬鹿だけど腕っぷしだけはとんでもなく強いし……」

 

 しかし、そんな単純な方法で倒せる相手であれば苦労はしないと、鈴鹿御前は猫娘の意見を却下した。

 オニランドの建設やら、鈴鹿御前へのプロポーズなど。数々の珍行動に思わず油断してしまいがちだが、悪路王は鬼の中でも相当に凶悪な個体だ。

 

「それに……今のあいつは鬼ヶ島の主として君臨しちゃってて……尚更厄介なのよ……」

 

 加えて、どのような経緯かは不明だが、悪路王は鬼たちの聖地とも呼べる——『鬼ヶ島』を支配下に置いてしまった。

 鈴鹿御前曰く、あの島はこの国の人間たちの『鬼』というものに対する恐怖心、畏怖がそのまま形となったものだという。そんな島の支配者ともなれば、より一層人々の『畏れ』がその身に集中し、妖力が増大されるという。

 

 真っ向からぶつかれば勝ち目などほとんどないと。

 だからこそ、妖怪ラリーという手段を用いて悪路王を『無力化』するのが最善だと、鈴鹿御前は自らの案で計画を進めていくつもりだ。

 

「私の方でも必要な人員は集めておくけどさ~、鬼太郎くんたちにも手伝って欲しいんだよね……お願い出来る?」

 

 そして、そのためにも鈴鹿御前は鬼太郎に協力を申し出ていた。

 彼女にも手伝ってくれる知り合いはいるらしいが、協力してくれる仲間は多い方がいいだろう。

 

「分かった……僕の方からも、みんなに声を掛けておく」

 

 鬼太郎も鈴鹿御前の案に同意し、彼女に協力していく方向で話を進めていくこととなった。

 

 

 

 

 

「——それにしても、まさか鈴鹿御前の正体が獣の妖怪であったとはのう……」

「……ん?」

 

 そうして、悪路王を無力化する具体的な流れを話し合う場にて、ふと目玉おやじが鈴鹿御前の『正体』について話題を振っていく。というのも、鈴鹿御前は伝承によってその正体が異なっており、どれが本来の在り方かはっきりと分かっていなかったのだ。

 

 だが、今目の前にいる鈴鹿御前の頭部には『獣の耳』が、お尻にはふさふさな『尻尾』が生えていた。それらの特徴から、目玉おやじは彼女を『獣が変化した妖怪』と判断し、意外な正体にしきりに頷いている。

 

「ああ、これは違うわよ?」

 

 ところが、そのような結論を出す目玉おやじに鈴鹿御前本人が待ったを掛ける。

 

「——だってこの耳も尻尾も、あとから生やしたもんだし~」

「は、生やした!? な、なんでわざわざ……」

 

 なんと、鈴鹿御前の獣耳は後付け——取って付けた偽物だというのだ。猫娘はそんなことが可能なのか、寧ろ何故そんなことをしているのかと疑問を投げ掛ける。

 

「だってカワイイじゃん? あんたも猫耳付ければ~? その方がカワイイし、モテるよ~」

「な、何言ってんのよ……べ、別に私は……そんな、カワイイとか興味ないし……」

 

 特に深い理由もなく、鈴鹿御前が耳や尻尾を生やしているのは可愛いからだと言い、それを猫娘にも勧めていく。

 そのアドバイスに、猫娘はいかにも興味なさげにそっぽを向くが——その視線がチラチラと鬼太郎を見ていたり、頬を赤く染めていたりと、どのような心境かは丸わかりである。

 

「どうした、猫娘? 顔が真っ赤だぞ?」

「な、なんでもないわよ!!」

 

 尚、当の本人には相変わらず全く気付かれていない。

 

「ふふっ! まっ……私ってばこれでも天魔の姫だし~? このくらいはちょちょいのチョイってね!」

 

 そんな鬼太郎と猫娘のことを微笑ましく見守りながら、何気ない呟きを溢す鈴鹿御前。

 

「天魔の……ということは、やはりお前さんの正体は天帝の——第四天魔王の娘ということか!?」

「? どういうことですか、父さん?」

 

 だがその何気ない言葉で、目玉おやじは鈴鹿御前の正体を察した。

 鬼太郎はいまいち理解しきれていない様子だが、彼女の伝承を知るものであればなんとなく察しは付くだろう。

 

 

 

 鈴鹿御前のことを記した伝承の一つ、『田村三代記(たむらさんだいき)』曰く。

 彼女は元々、実の父親から『日の本を混乱へと陥れ、魔国にせよ』という命を受け、天界より下ってきたという。そして、その父親というのが天竺より来訪した天魔——第六天魔王(だいろくてんまおう)、あるいは第四天魔王(だいよんてんまおう)とされているのだ。

 

 天魔とは『仏道の修行を妨げるもの』。人心を惑わし、人々の善心を妨げようとする悪魔や魔王、その眷属のことを指す。

 ちなみに、かの有名な戦国武将——織田信長が『第六天魔王』と呼ばれるようになったのも、敵対する仏教勢力とのいざこざが原因だ。かの『延暦寺(えんりゃくじ)』にて行われた『比叡山(ひえいざん)焼き討ち』。僧侶や女子供を容赦なく虐殺したその所業が、まさに魔王の仕業にでも見えたのだろう。

 

 以後、信長はその所業を恐れる信仰深い人々から神仏の敵——まさに第六天魔王であると呼ばれるようになり、自らもそう名乗るようになったという。

 

 

 

「……まあ、別に隠すようなことでもないし……確かに私の父親は、第四天魔王とか呼ばれてイキってた頃があったていうか……」

 

 目玉おやじの話が的を得ていたのか。鈴鹿御前は少しだけばつが悪そうに自らの素性を語る。

 彼女の父親には、第四天魔王と呼ばれていた時期があると。その父の命により、鈴鹿御前は日本を魔国にしようと地上の鬼たちと手を組もうとしていたという。

 

「…………」

「…………」

 

 その話に、鬼太郎や猫娘の身に自然と警戒心が宿る。そういえば、悪路王も鈴鹿御前に言っていた。

 

『——この国を鬼の支配する魔国へと!! それが我ら鬼の悲願』

 

『——主とて一度はそれを望んでいた筈ではないか?』

 

 もしも、鈴鹿御前が本当に日本を魔国へと変えようとしていたのならば、彼女も悪路王と同じ悪鬼の仲間。

 もしかしたら、罠に誘い込まれようとしているのは自分たちの方ではと、鬼太郎たちが不安に思ってしまうのも仕方がない。

 

「これこれ……二人とも、そう警戒するでない。もしも鈴鹿御前がその気なら、それこそ日本はとうの昔に魔国へと変わり果てておるわい」

 

 しかし、鬼太郎と猫娘の心配は杞憂であると。目玉おやじは彼女の伝承の続きを語ることで、鈴鹿御前への疑いを晴らそうとした。

 

 

 

 第四天魔王の命を受けた鈴鹿御前。彼女は伊勢国と近江国——今でいう三重県と滋賀県の県境にあった鈴鹿山へと降り立ち、さっそく日本を魔国にするべく、地上の鬼たちと同盟を結ぼうとした。

 

 その相手は——大嶽丸(おおたけまる)という鬼だった。

 

 大嶽丸は鬼の中でも最強の一角。あの酒呑童子と同等、あるいはそれ以上の悪鬼とされていた。大嶽丸と鈴鹿御前が手を組んでいれば、日本は本当に鬼たちの支配する魔国へと変えられていたかもしれない。

 

 だが、プライドの高かった鈴鹿御前は大嶽丸をあくまで『配下』にしようと考えていた。天魔の姫である自分が地上の鬼と対等な立場などと、彼女には耐え難いことだったのだ。

 そんな鈴鹿御前相手に大嶽丸も鬼としての、あるいは男としてのプライドからか、素直に同盟を結ぶことが出来ずにいた。

 互いに譲れぬプライドが足を引っ張り合い、日本を魔国にする計画は先送り先送りとなってしまう。

 

 そんな最中——鈴鹿御前を討伐しようと、一人の人間が鈴鹿山を訪れた。

 その人物こそが——坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)。何を隠そう、鈴鹿御前の夫となる男性だ。

 

 

 

「夫って……アンタ、結婚してたの!?」

「…………」

 

 話の途中ながらも、鈴鹿御前が人妻であったことに猫娘が驚愕。一方で、鈴鹿御前は顔を伏せっているためにその表情を窺い知ることが出来ない。

 

 

 

 坂上田村麻呂は帝の命により、妖怪たる鈴鹿御前を討伐しに来た人間の武士であった。鈴鹿御前としても、自分を討伐しに来た人間など邪魔者以外の何者でもなかっただろう。

 ところが、あろうことか二人は互いに一目惚れ——清い交際をすっ飛ばし、そのまま夫婦となってしまったのだ。

 

 夫である坂上田村麻呂のためにと、鈴鹿御前は日本を侵略する立場でありながらも、彼と共に多くの鬼たちと戦う道を選んだ。

 鈴鹿御前と坂上田村麻呂は夫婦二人で、数多くの名だたる鬼たちを討伐していった。

 

 悪路(あくじ)高丸(たかまる)や、大武丸(おおたけまる)。今回の騒動で出てきた悪路王もその内の一体だ。

 そして、かつての同盟相手——大嶽丸。

 

 こうして鈴鹿御前の活躍もあり、日本は鬼たちの魔の手から逃れたのであった。

 

 

 

「へぇ……そんなことがね……」

「なるほど、それなら彼女はボクたちの味方と考えてよさそうですね……」

 

 目玉おやじの話を肯定的に受け取り、猫娘や鬼太郎も鈴鹿御前への警戒を解いていく。

 

 その伝説が真実であれば、鈴鹿御前には既に日本を魔国にするなどという考えはなさそうだ。実際、彼女は過去にも討伐したことのある悪路王を倒すべく力を貸してくれている。

 それなら一安心と、改めて悪路王対策についての話に戻ろうとするのだが——。

 

「——あのさ、目玉おやじさん……」

「……ん?」

 

 ところが、鈴鹿御前はそんな自分の活躍を誇るでも、威張るでもなく。自らの伝承を語った目玉おやじに対し——警告の意味も込めて眼を飛ばす。

 

 

「——悪気がないから許すけど……私の前で迂闊にその名を口に出さないことよ?」

「——っ!!」

 

 

 鋭い眼光と共に投げられた静かな激情のこもった言葉に、目玉おやじが押し黙る。

 その名とは、言葉のニュアンスから『坂上田村麻呂』のことだと察せられる。彼女は自分の夫である彼の名前を軽々しく口にするなと、目玉おやじを睨め付けたのである。

 

 その形相は——悪路王への悪態を付いたとき以上の怒りに満ちていた。

 

「…………私、今日はもう帰るね」

 

 それから、暫くして鈴鹿御前は帰ってしまった。

 

 

 

 

 

「な、なんなのよ、いったい?」

 

 明らかに気分を害した鈴鹿御前の態度に、猫娘は訳が分からないと首を傾げる。どうして彼女の夫——坂上田村麻呂の名前を出しただけで、あそこまで気を悪くしたのだろう。

 少なくとも、目玉おやじにあのような怒りをぶつけられる落ち度などなかったように思われるが。

 

「しまった……! 実は……大嶽丸を退治する際、鈴鹿御前は奴の懐に潜り込むため……三年もの間、偽りの花嫁となって大嶽丸の妻として過ごしていたんじゃ」

「えっ……?」

 

 だが目玉おやじは、鈴鹿御前の怒りに己の落ち度を察した。

 

 

 それは、かつての同盟相手であった大嶽丸を倒す際の逸話だ。

 鈴鹿御前はかの鬼を打ち倒すため、坂上田村麻呂の元を離れ——大嶽丸の元へ、『妻』として下ってしまったのだ。身も蓋もない言い方をすると浮気というやつだ。

 

 しかし、それもこれも全ては愛する夫のため。宿敵である大嶽丸を倒して彼に喜んでもらおうと、その懐から大嶽丸を弱体化させようと一計を案じたのだ。

 そのような搦手を使わなければならないほどに、大嶽丸はどんな鬼よりも強かった。

 三年もの時間、神通力で念じることにより鈴鹿御前は大嶽丸の岩よりも固いとされる皮膚を柔らかくし、その身に坂上田村麻呂の刃が通るようにしたのである。

 

 

「じゃが……坂上田村麻呂はその事実を知らんかった。鈴鹿御前に本気で裏切られたと思い、気を病んでしまった彼は……弱体化した大嶽丸ごと、愛するものをその手に掛けたのじゃ……」

「——!?」

 

 

 ところが、坂上田村麻呂のためにとやったことが——肝心の彼には本当に『裏切り』と思われてしまっていた。

 大嶽丸を欺くためにも、誰にも計画を話さずにいたことが鈴鹿御前と坂上田村麻呂との関係を悲劇へと導いてしまった。

 

 最後、愛憎と失意、絶望の中で——坂上田村麻呂は鈴鹿御前を大嶽丸もろとも葬ってしまう。

 鈴鹿御前自身も、それを運命と受け入れ——愛する人の手で今生の生を終えたのである。

 

 

「その後……真相を知った坂上田村麻呂は、冥府に落ちたとされる鈴鹿御前を救い出しに赴いたという話もあるんじゃが……あの様子を見るにその伝承は創作に過ぎないようじゃな……」

「…………」

 

 その後の物語として、再び愛を取り戻した二人が幸せに暮らしたという話もあるにはあるのだが、鈴鹿御前のあの態度を察するに愛する人との和解は最後まで叶わなかったようだ。

 

 もう名前も聞きたくないということだろうか。坂上田村麻呂という名に激しい感情を隠しきれない様子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ゲゲゲハウスから飛び出してきた鈴鹿御前は、ゲゲゲの森の広場にある大岩に一人静かに腰掛けていた。

 

「はぁ〜……思わず飛び出してきちゃったな〜……反省! 反省っと!」

 

 夜風で頭を冷やしたこともあり、鈴鹿御前は自身の軽率な行動を恥じていた。

 久しぶりとはいえ、『あの人』のことを他者の口から語られたくらいで、ああも感情を露わにしてしまうとは。もう少し自制心を利かせなければと、自身の行いを反省する。

 

「あとで目玉おやじさんや、鬼太郎くんにも謝っておかないとね〜……」

 

 とりあえず、目玉おやじたちには後日謝罪しよう。今は悪路王の件もあるのだから、ここで彼らと仲違いをしているわけにもいかない。

 たとえ感情的になることがあっても、それをいつまでも引きずってはいけない。鈴鹿御前がなりたいと願う女子高生スタイル—— JKであれば、きっとすぐに気持ちを切り替えるだろうと、そう思うから。

 

「大丈夫よ……」

 

 そうして心機一転、気持ちを改めた鈴鹿御前はふと、空に浮かぶ月を見上げる。

 

 綺麗な月だった。

 遠い昔、愛しい人と共に見上げた月と寸分違わぬ美しさである。

 

 鈴鹿御前の活躍した時代から人の世の営みなど、随分と様変わりしたがあの月の輝きだけは何も変わらない。

 その月に愛しい人を想い浮かべながら、鈴鹿御前は改めて決意を口にしていく。

 

 

「——アンタが守ろうとした人の世は私が護るから……」

 

 

 たとえそれが、もう二度と届かない想いだとしても。

 鈴鹿御前は胸のうちに彼との想い出を秘めながら、自らの信じる道を突き進んでいく。

 

 




人物紹介

 鈴鹿御前
  まだレース前とのことなので、先に通常霊基での登場です。
  基本的に鈴鹿御前はJk、女子高生スタイルで口調などもギャルっぽくなります。
  ですが素の性格は思慮深く、生真面目でかなり賢いとのこと。
  そんな彼女の仕掛けた妖怪ラリー……次回のサマバケスタイルもお楽しみに!

 悪路王
  今回のゲスト妖怪。
  色々な伝承がある人物でもありますが……めんどいのでその辺りの逸話は省略!
  本作においては、『とっても強くて悪い鬼』くらいの認識でお願い致します。ただし頭は悪い。
  伝承によっては、鈴鹿御前の夫であったという話も……果たしてその真相は!?

 手下の鬼たち
  基本的に鬼ヶ島の鬼たちはfgoに出てくる小鬼や大鬼を思い浮かべていただければ。
  ただしモヒカンとスキンヘッドだけはちょっと特別な個体。
  本当はちゃんとした名前を付けたかったのですが……分かりやすく髪型で個体識別させていただきます。
  ちなみに鬼たちのイメージは『世紀末に出てきそうなモブ敵』です。

 大嶽丸
  鈴鹿御前の宿敵。今回は過去語りでのみの登場です。
  何故彼を本編に出さないかというと……大嶽丸は『Fate/フォックステール』の方で回想ながらある程度キャラが固まっているためです。
  鈴鹿御前によると、彼は理系で頭も良かったとか。
  そんなクールキャラが妖怪ラリーをやるイメージがどうしても湧かなかったため、今回は出番なし。

 坂上田村麻呂
  こちらも過去語りでのみの登場。
  鈴鹿御前と夫婦になりながらも、彼女が裏切ったと思い込んでその手にかけてしまった。
  果たしてどのような人物だったのか、いずれfgoに実装されるかもしれないので詳しくは描きません。

 悪路の高丸、大武丸
  過去に鈴鹿御前と坂上田村麻呂が討伐した鬼たち。
  悪路王や大嶽丸と名前が似通っていますが、鈴鹿御前のマテリアルを見る限りではどちらも別個体。
  
 まだ見ぬ強敵たち
  今回はレース前とのことで、妖怪ラリーに参加する各国の代表が登場しませんでしたが。
  一応予告という意味で、エントリーする国名をここにあげておきたいと思います。

 日本代表——鈴鹿御前&ゲゲゲの鬼太郎。
 日本代表——悪路王とその手下たち。
 イギリス代表——???。
 エジプト代表——???。
 インド代表——???。
 中国代表——???。
 アメリカ&⚪︎⚪︎⚪︎代表——???。

 何故かアメリカと⚪︎⚪︎⚪︎だけ合同チームになっております。
 代表チームの人選を予想しつつ、どうか次回をお楽しみに!
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