ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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fgoの星4交換……皆様は何と交換しましたか?
ちなみに自分は持っていなかったサーヴァントから、ラクシュミー・バーイーを選択。他のスト限や、水着サバとで悩みましたが……やはり自身の好みを優先することこそが無料配布に失敗しないときのコツです!
あんまり悩みすぎて、交換期限までに決められなかった……などということにならないように気を付けましょう。

さて、今回からいよいよ妖怪ラリーの本番が始まります。
鬼太郎とゲスト妖怪である悪路王。そしてfgoキャラたちで織りなす混沌としたレース。話の都合上、レース途中でリタイヤするキャラなどもいますが、そこはご了承下さい。


レースクイーン鈴鹿御前・灼熱のサマーレース 其の③

『——ついに始まりました、妖怪ラリー!! 実況は引き続き、姫路城でお馴染み刑部姫と……』

『——インドの超人気者! ガネーシャでお送りするっス!!』

 

 いよいよ開幕した、鬼ヶ島オニランド妖怪ラリー。

 鈴鹿御前から実況を仰せつかった刑部姫と、その友人枠として来日した解説のガネーシャが和気藹々とレース盛り上げていく。

 

『…………』

 

 同じく実況席にいる猫娘だが、彼女は二人のテンションについていけず、今のところは静かにレースの状況を見守っていくしかないでいた。

 

『まずは各車一斉にスタート!! 最初に先頭に躍り出るのは……』

 

 そんな中、開始早々だがさっそくレースの方に動きがあった。

 今回のレースに参加しているのは七チーム。スタートと同時に誰よりも先にトップを走るあの影は——。

 

「——イェーイ!! 夏呼んでるし! 風切っちゃうし!!」

「——っ! は、はやっ!?」

 

 日本代表——鈴鹿御前&ゲゲゲの鬼太郎チームである。

 鈴鹿御前の乗り回すバイク『KMR3000ーMH』が誰よりも先にコースを走り抜けていく。その速さは、サイドカーに乗り込んでいる鬼太郎ですらも戸惑うほどである。

 

『よし!! いい感じよ、鬼太郎!!』

 

 これには猫娘も思わずガッツポーズ。鬼太郎とペアを組む鈴鹿御前への嫉妬心こそ健在だが、それでもレースに勝つためならば仕方がないと。とりあえず、幸先のいいスタートに喝采を上げる。

 

 だが、このまま二人の独走状態を許すほど——此度の妖怪ラリーの参加者たちは甘くない。

 

 

「——ハッハッッハ!! いいぜ、そうでなくっちゃ面白くねぇ……よな!!」

 

 

 先頭を走る鈴鹿御前と鬼太郎の元に一台のバイクが迫る。インド代表——アシュヴァッターマンである。

 彼の乗り回すバイク『スダルシャンチャクラ』が鈴鹿御前のKMR3000へと追いつき、並走するや幅寄せでの体当たりを仕掛けてくる。

 

「なによ、やろうっての!?」

 

 アシュヴァッターマンのタックルに目を剥きつつも、持ち前の気の強さで鈴鹿御前もすかさず反撃を試みる。

 互いにぶつかり合う両マシンであったが——体格差から、鈴鹿後前の方が押し負けて弾かれてしまう。

 

「つ……!」

「鈴鹿御前!!」

 

 一瞬、バランスを崩しかける鈴鹿御前ではあったものの、何とか転倒は回避。しかし一位の座をアシュヴァッターマンに奪われ、二位へと転落してしまう。

 

『ちょっと!? あれってアンタのとこの選手でしょ!? 何てことしてくれんのよ!!』

 

 アシュヴァッターマンの過激なラフプレーに、猫娘は同じ国の出身者であるガネーシャにクレームを入れる。

 

 この妖怪ラリー、相手選手への妨害行為自体はルール違反ではない。レース中のクラッシュなどは全て自己責任。身も蓋もない言い方をすれば——相手選手を走行不能に追い込んでも全然構わない。

 しかし、ガネーシャは今回の『悪路王を無力化する作戦』の協力者だ。インドの代表であるアシュヴァッターマンにも、『鈴鹿御前を勝たせなければならない』という話が行き届いてもいい筈なのだが——。

 

『ひぃいい!! 無理っスよ!! 引きこもりのボクが、あんなヤンキーな人に意見なんて出来るわけないじゃないっスか!?』

 

 アシュヴァッターマンに怯えて、みっともなく涙目になるガネーシャ。

 

 シヴァの半化身であるアシュヴァッターマンは、ガネーシャにとって親戚の叔父さんのような感覚らしい。だがそれ以前に、アシュヴァッターマンのチンピラのような性格をガネーシャは苦手としているようだ。

 きっと自分から何を言ったところで聞き入れられるわけがないと、ガネーシャは完全にアシュヴァッターマンの説得を諦めている。

 

「聞こえてっぞ、ガネーシャ様!! 誰がヤンキーだ、コラァア!!」

『ひぃいい!?』

 

 実況席でのやり取りが聞こえていたのか。ガネーシャの失礼な発言に対し、アシュヴァッターマンがキレ気味に噛み付く。一応、ガネーシャという神様相手に様と敬称こそ付けてはいるが、その態度はまさに『内気な学生に因縁を付ける不良』そのものである。

 

『ええ……何やら複雑な家庭事情のようですが……そうこうしている間に、後方からも他の選手たちが迫ってくるぞ!!』

 

 そんな二人のやり取りを家庭事情と称しつつ、刑部姫は淡々とレース実況を続けていく。

 

 二位を走る鈴鹿御前の後ろに、三位以下の後続組が続く。

 中国、イギリス、アメリカ&ドイツ、エジプト代表と。彼らの間にそれほどの大差はなく、先ほどから抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り返しているが——。

 

『おっと……!? これは……』

 

 だが、その中にもう一組の日本代表——悪路王の姿がないことに刑部姫が気付く。

 

『一反木綿さん! ちょっと後方にカメラ回してくれませんか!?』

「ほいほい~、コットン承知!」

 

 彼女は即座に一反木綿——今回のレースでカメラマンを担当することになった彼に指示を出す。一反木綿がその指示に素直に従うのは、仮にも刑部姫が美人だからであろう。

 言われるがまま、一反木綿が後方の方にカメラを向けると——。

 

 

「——もっと速度は出んのか!?」

「——こ、これが精一杯です!!」

 

 

 悪路王の乗る巨大なモンスタートラック『極悪丸マークII』がビリ——ぶっちぎりの最下位を走っていた。何かしらの策略かもと思ったが、悪路王と部下のやり取りを見るに彼らにとっても予想外のことだったのか相当に慌てている。

 いったい、これはどういうことだろうか。

 

 

『——驚くことではない。当然の帰結であろう』

「バベッジ……なにか、わかるの?」

 

 

 すると、ここでイギリス代表・フランちゃんの乗機——チャールズ・バベッジを名乗る蒸気機関車が口を開く。バベッジの冷静な発言に、フランは幼なげな仕草で首を傾げている。

 

『あれだけの巨体、重量のものを乗せて走るのだ。いかにマシンを大型化しようと、出せる速度に制限が出るというもの。計算上、直線コースでヤツが我々に追いついてくる可能性は限りなく0に近い』

 

 バベッジは悪路王という巨大な妖怪が乗り込んでいるせいで、極悪丸マークIIに大幅な速度制限が出てしまっていると。それを一目見ただけで看破したのだろう、完全に余裕を持って解説してくれている。

 

『なるほど! 流石はイギリスを代表する数学者!! チャールズ・バベッジを名乗るだけのことはありますね!!』

 

 これに感心したとばかりに刑部姫が、彼をその名前と共に褒め称える。

 

 

 チャールズ・バベッジは十九世紀、実際にイギリスで活動した数学者の名だ。

 彼は世界で初めて機械に数を計算させるという発想から『プログラム可能な計算機』を考案、『コンピュータの父』と呼ばれるほどの偉人である。

 彼が実際に考案した『階差機関(かいさきかん)』『解析機関(かいせききかん)』などの実現こそ、彼が存命の間には叶わなかったが、それが確かに正しく計算を行うことの出来るものだと。彼の死後である百年以上後、それが本物であることが証明された。

 

 その天才的な頭脳を讃えてか。彼の母国であるイギリスでは——彼の『脳』が保管されており、それが一般にも公開されている。

 何故、巨大な変形ロボットである蒸気機関車がバベッジを名乗るのかは定かではないが、仮に『バベッジの脳を移植したロボット』が存在しているのであれば——もはやそれは、チャールズ・バベッジ本人だと言えるのではないだろうか。

 

『今のうちに引き離す……しっかり掴まっているがいい、フランよ!』

「うー!」

 

 いずれにせよ、彼が何者かを今は語るときではない。

 バベッジを名乗る彼自身もレースに注力すべく、乗り手たるフランへと声を掛け速度を上げていく。

 

 

 

『なによ、案外呆気なかったわね……』

『猫娘さん……それ、フラグっスから……』

 

 まさかの悪路王の出遅れに、猫娘もその表情を緩める。

 もっとも、まだまだレースは始まったばかり。迂闊な発言が命取りになりかねないとガネーシャが釘を刺していく。

 

 

 

×

 

 

 

『——まもなく、先頭走者が第一のチェックポイントに辿り着きます!!』

 

 序盤のコースをとりあえず走る選手たちだが、そこに待ち受けるは『第一チェックポイント』。妖怪ラリーもここからが本番だとばかりに、刑部姫も実況のテンションを上げていく。

 

『最初のチェックポイントは——砂漠だ!!』

 

 選手たちを待ち受ける最初の関門は——それはどこまでも広がる不毛な大地『砂漠』であった。

 曲がりなりにも舗装されている道路とは違い、人の手が加えられていない平地を前に選手たちの足が一旦は停止する。

 

「ハッ!! この程度の障害で俺が止まると思ってんのかよ、ああん!?」

 

 だがそれも一瞬、最初にその関門に辿り着いていたアシュヴァッターマンは何の躊躇もなく砂漠エリアへと飛び込んだ。

 ただ道が安定しない程度、自分にとっては何の障害にもならないと余裕綽々といった態度である。

 

 

 しかし、次の瞬間にも——そのエリアに『設置』されていた試練が容赦なく選手たちに牙を剥いていく。

 

 

「!! なん……だぁあああ!?」

 

 何事もなく砂漠を進んでいたアシュヴァッターマンの足元が——文字通り、爆発した。

 これには流石のアシュヴァッターマンも車体をふらつかせる。即座に体勢を持ち直すも、爆発は続け様に彼を襲い続けた。

 

『これは……地雷です!! アシュヴァッターマン選手を襲ったのは、砂の中に設置されていた数多の地雷!!』

 

 刑部姫がその爆発の正体を暴露。

 それはこの砂漠エリアにランダムに設置されていた——『地雷』であった。第一エリアの砂漠では、この地雷原の上を進んで行かなければならないということだ。

 

『ちょっ……!! いくらなんでもやりすぎじゃ……鬼太郎!!』

 

 いくら妖怪といえども、あれだけの爆発力を持った地雷を直に踏めばただでは済まない。猫娘は真っ先に彼の——鬼太郎の安否を心配していく。

 

「——鈴鹿御前! スピードを上げてくれ!!」

「——!! OK、かしこまり!!」

 

 だが鬼太郎は怯むどころか、鈴鹿御前に速度を上げるように要求していた。鬼太郎の強気な発言に驚きながらも、鈴鹿御前は彼の指示通りにバイクのスピードを上げる。

 

「指鉄砲!!」

 

 するとサイドカーから立ち上がった鬼太郎が、指先に妖力を集めて指鉄砲を——自分たちの進路上に向かって全力で放った。

 次の瞬間、地面をスレスレで飛来する指鉄砲の衝撃の余波が、瞬く間に地雷を自壊させていく。

 

『なんと、鬼太郎選手!! 必殺の指鉄砲で進路上の地雷を誘爆させた! なんとも鮮やかな手際だ!!』

『ほへ~、なかなかやるっスね……あの子』

 

 鬼太郎の見事な手際に刑部姫から称賛の声が上がり、初めて彼の活躍を目の当たりにしたガネーシャが感心したような呟きを溢す。

 

『よしっ!!』

 

 当然、猫娘もグッと拳を握る。

 

「ナイス、鬼太郎くん!!」

 

 機転を効かせた鬼太郎の活躍もあり、鈴鹿御前は先を走っていたアシュヴァッターマンから再び一位の座を奪い返す。

 

「やろう……舐めるんじゃねぇ!!」

 

 だが追い抜かれたことで、アシュヴァッターマンの闘志に火が付いた。

 彼は乗機ごと全身に炎を纏い、そのまま全速力で砂漠を走り抜けていく。当然、進路上の地雷は一つ残らず爆発するが、そんなもの意にも介さずに突っ走る。

 かなりの荒技、力技で砂漠エリアを踏破していった。

 

 

 さらに後から追いついてくる他選手たちも、それぞれの手段で砂漠の地雷原を突破していく。

 

『問題ない。先に走った彼らの足跡を辿れば……地雷など恐るるに足らず』

「うー!!」

 

 イギリス代表のバベッジは地雷を破壊しながら進んでいく選手たちの、そのすぐ後ろを走るようにとフランに指示を出す。そうすれば地雷に遭遇することなく進むことが出来ると、頭を使った頭脳プレーで地雷原を無傷でクリア。

 

 

「効かぬ!! こんなもので、この呂布の走りを止めることなど叶いません……ヒヒーン!!」

 

 中国代表の自称呂布・赤兎馬など地雷を気にしてすらいない。

 地雷を全力で踏み抜こうが、何度爆風に晒されようがお構いなしに走り続ける。ダメージがないわけではないようだが、受ける被害を全て痩せ我慢で突破していく無駄な耐久力……なんなんだコイツ?

 

 

『グゥウウ……!』

『————!』

 

 その一方で、アメリカ&ドイツ代表のロボ&ヘシアンなどは、器用にも地雷を躱しながら進んでいた。

『シートン動物記』によれば、狼王ロボはありとあらゆる罠を全て見破り、決してトラップには引っ掛からなかったという。

 ロボの脅威的な嗅覚を持ってすれば、地雷の設置場所など丸わかりということなのだろう。

 

 

 

 そうして、次々と選手たちが地雷原を突破していく中——意外にも苦戦する選手がいた。

 

「——もっとスピードを上げないと……引き離されてしまいますよ!!」

「——いけません。これ以上速度を上げたら死んでしまいます……」

 

 エジプト代表のメジェド様である。

 彼?彼女?は地雷など恐れずに進もうとするも、サポーターとして付き添ってくれているアラビアンな女性にその無謀を止められてしまい、なかなか思うように進めないでいた。

 土地柄砂漠は得意な地形だろうが、これではその優位性を活かすこともできない。

 

『エジプト代表のメジェド様たち、だいぶ出遅れている感がありますが、大丈夫でしょうか?』

『う~ん……慎重になるのは構わないっスけど、レース的には若干盛り上がりに欠けるっスね……』

 

 実況席の刑部姫たちが、そんなエジプト代表をクローズアップしていく。

 鈴鹿御前に一位を取らせたい立場ではあるが、表向き実況者としてはどの選手にも公平に目を配っていかなければならないのだ。

 

『そのエジプト代表ですが……日本を支配したあかつきにはエジプトの歴史、特にファラオたちの偉大さを説く世界史を義務教育に盛り込んでいきたいと語っていましたね……』

 

 ここで刑部姫がメジェド様の、エジプトが妖怪ラリーに参加を表明した理由を語っていく。

 

 優勝者に譲渡されるという日本の支配権。それを用いて、メジェド様は日本の学校教育でエジプトの歴史をより詳しく学ばせるつもりのようだ。ぶっちゃけ、そのくらいであれば普通に叶えてあげてもいいような些細な願望である。

 仮にエジプト代表が優勝し、日本の支配権を手に入れたところで特に問題にはならないような気がして来たが——。

 

『……うん? おっと!? ここで出遅れていた日本代表……悪路王が追いついて来たぞ!?』

 

 だがここでエジプト代表のすぐ後方、その重量故に他選手に先を越されていた極悪丸マークII——悪路王が追いついて来た。

 

「グッハッハッッハ!! 進め!! どんな悪路だろうと、この儂の前では無意味であることを見せてやるぞ!! 悪路王だけに……悪路王だけに!!」

 

 砂漠エリアへと辿り着いて早々、悪路王は自身の名前を引っ掛けた冗談のようなことをドヤ顔で口にしていく。

 そのダジャレには誰一人反応を示さなかったが、彼を乗せた巨大マシンが第一関門でもたついていたエジプト代表——メジェド様へと追いつく。

 

 

「——邪魔だ!!」

 

 

 すると悪路王は搭乗席から重い腰を上げるや、担いでいた金棒を構える。エジプト代表に追いつくと同時に、その金棒を思いっきり横凪にぶん回した。

 

「——えっ?」

 

 地雷への対処に手一杯であったメジェド様たちはその一撃に反応することが出来ず、悪路王の気合いのこもった一閃をまともに喰らってしまう。

 

 刹那、メジェド様たちの乗機——ザ・ファラオレジェンドが宙を舞った。

 

『な、なんということだ!? 悪路王の放った金棒の一閃が……メジェド様を乗機ごと吹っ飛ばした!?』

 

 これには刑部姫も驚天動地だとばかりに実況席から叫ぶ。

 

「ふぎゃっ!?」

「ああ……これは……」

 

 メジェド様が短い悲鳴を上げ、サポーターの女性などは死すら覚悟したかもしれない。

 

「う~ん……な、なんと不敬な……」

「なんとか死なずに済みましたが……これではもう走れませんね……」

 

 しかしなんとか五体満足のままで、その身が砂漠へと投げ出される。

 仮にも神様を名乗るだけあって、メジェド様自身は目を回すくらいの被害で収まっている。サポーターの女性も、命があったことにまずはホッと胸を撫で下ろした。

 

 だが肝心の乗り物——ザ・ファラオレジェンドが粉々に砕け散ってしまった。

 たとえクラッシュしようと、自力でコースまで復帰出来れば再度レースに参加することはルール上可能だが——マシンがなければどうにもならない。

 

 

 事実上——エジプト代表・メジェド様はここでリタイアとなる。

 

 

『なんということだ!? 悪路王選手の強烈な一撃により……まさかの脱落者が出てしまったぞ!?』

「な、なんなんだよ……あの化け物は!?」

 

 これに実況席の刑部姫は勿論、観客席でレースを見守るしかない人間たちも騒然となっている。

 

「流石は悪路王様だ!!」

「見たか!! これが鬼ヶ島の主たる……我らが王の実力よ!!」

 

 反対に、悪路王の活躍に島中の鬼たちから会場を揺るがすほどの大歓声が上がった。

 

 

 

『まさか……こんなことって……』

 

 猫娘は、実況席で声を上げることを忘れるほどに戦慄していた。

 正直なところ、彼女は悪路王を侮っていた節があった。ちょっぴり間抜けな言動が目立つあの大鬼を相手に、わざわざ妖怪ラリーなどという搦手を使う意味はあったのだろうかと。

 もしものときは正面から鬼太郎が奴を倒してくれると、そう思っていた。

 

 だが、その考えが甘かったことを今の一瞬で思い知らされる。

 

 メジェド神、神様が乗り回すマシンを一撃で粉砕した破壊力。鈴鹿御前の言っていた通り、この鬼ヶ島の支配者である悪路王は妖怪として凄まじい強さを得てしまったようだ。

 真正面から戦えばどうなっていたか——正直想像もしたくない。

 

『……これ、悪路王だけ別のゲームしてないッスか?』

 

 ふと、その強さを目の当たりにしたことでガネーシャが何かを察したように呟く。

 

『? どういうことでしょう、ガネーシャさん。別ゲーム……とはいったい?』

『いや、鈴鹿御前たちにとっては純粋なレースゲームっスけど……これ、悪路王に追いつかれたら即ゲームオーバーじゃないっスか?』

 

 刑部姫はガネーシャの言わんとしていることを詳しく尋ねた。

 ガネーシャが言うに、これは速さを競うレースであると同時に——迫り来る悪路王から逃げる『逃げゲー』でもあるというのだ。

 速度こそ誰より遅い悪路王だが、彼に追いつかれたら最後——その圧倒的な力で何者であろうと粉砕されてしまう。

 

 さながら『鬼ごっこ』のよう、悪路王に追いつかれたらそこでゲームオーバーとなってしまうのだ。

 

 これにより、鈴鹿御前を始めとした走者たちは絶対に速度を落とすことが出来なくなった。

 逆に悪路王は相手に追いつけばいいだけなのだから、心情としては随分と楽なものだ。ガネーシャが別ゲームと称した理由がそこにあった。

 悪路王の遅さに安堵したのも束の間。後ろから迫り来る恐怖という、新たなプレッシャーを背負わされることになった選手たち。

 

『鬼太郎……』

 

 そんな選手たちに、鬼太郎に対する心配と不安で胸を苦しそうに抑える猫娘。

 だが彼女がどれだけ心配しようと、実況席からでは手が出せない。

 

 

 見守る群衆がどのような思いであれ、妖怪ラリーは滞りなく続けられていく。

 

 

 

×

 

 

 

『——第一関門を突破した各選手たちが……次なる試練の門を叩く!!』

 

 そうして、最初のチェックポイントである砂漠を抜け、一行が新たなステージに辿り着いたことを刑部姫が伝えていく。

 

『第二チェックポイントは——溶岩です!!』

『よ、溶岩って……まさか、あのマグマの上を走れっての!?』

 

 その溶岩エリアの情景を一反木綿が撮影するカメラ越しで目にするや、猫娘が抗議の声を上げた。

 

 地理的に、そこは鬼ヶ島の中心地に聳え立っていた山であり——それは今も活動を続ける『活火山』であった。その火口近くすれすれを通る道筋。まさに灼熱地獄を彷彿とさせるマグマが、すぐ側でぐつぐつと煮えたぎっている。

 あのマグマの川を渡って行けとでもいうのなら、無茶振りもいいところであるが。

 

『そこはご心配なく!! ちゃんと固まった溶岩の上を走れるようなコース設計になっていますので!』

 

 しかしいくらなんでもそれはないと、刑部姫が説明する。

 選手たちの進むべきコースは溶岩——マグマが冷えて固まった大地であるとのこと。彼女の指し示す先を見れば、確かにそこに道があった。その道を進んで行けば次のエリアに辿り着けるということだ。

 

 ところが——ここでアクシデント発生。

 

「……妖気!? 鈴鹿御前、避けるんだ!!」

「ちょっ……何事!?」

 

 先頭を走る鬼太郎の妖怪アンテナに反応があった。次の瞬間、鬼太郎たち目掛けて炎を纏った岩——いくつもの火炎岩が降り注いでくる。

 鬼太郎の警告もあり、それらを華麗に回避する鈴鹿御前であったが——飛来してきた火炎岩は、選手たちが通るべき筈のコースすらも吹き飛ばしてしまう。

 

『ああ!? 道がなくなった!?』

 

 狼狽える刑部姫のリアクションからも察せられるよう、それは彼女の意図したことではない。何者かの横槍によって絶たれてしまった正規ルートを前に、選手たちの動きが停止してしまう。

 

 もっとも、そんな彼らの困惑をよそに——。

 

 

「——ふふふ……お待ちしておりましたわ、安珍様!」

「——っ!!」

 

 

 道を破壊した元凶は——たった一人の男性に熱烈なラブコールを送っていた。彼女の声を聞いた瞬間、鬼太郎の背筋から嫌な汗がブワッと噴き出てくる。

 

「き、清姫……」

 

 消え入りそうな声で、鬼太郎が彼女の名を呼ぶ。

 溶岩エリアに着いて早々、鬼太郎たちの前に立ち塞がったのは角が生えた一人の女の子——鬼太郎を安珍と呼ぶ少女・清姫であった。夏という季節柄、その服装は大胆にも水着である。

 

「——ええ、貴方の清姫です! ところで鬼太郎様……その女は、いったい誰ですか?」

 

 ゲゲゲの鬼太郎のことを前世で『死に別れた愛する人』にして『自分が殺した相手』だと認識している彼女は——彼の隣にいる女性・鈴鹿御前へと冷ややかな視線を送っていた。

 

 

 

『ちょっと……! きよひーってば何してくれちゃってんのよ!?』

 

 清姫の行動に対し、実況席から刑部姫のクレームが飛んでくる。

 

『ここはさりげなく相手選手だけを妨害して、鬼太ちゃんたちを援護する予定だったでしょう!?』

『ああ……そういう仕込みだったんスね……』

 

 そう、清姫もガネーシャ同様、刑部姫が呼び寄せた協力者の一人である。

 本来の予定であれば、清姫がこのエリアの妨害キャラとして鬼太郎たち以外の選手たち足止め。彼を楽々と進ませる手筈であった。

 だがそんな刑部姫の策略を無視し、清姫はその敵意を一人の女性——鈴鹿御前へと向けている。

 

「はぁ……全く油断も隙もありません。私が少し目を離した隙に……次から次へと新しい女がすり寄ってくるんですから」

「ま、待ってくれ……清姫! 君は誤解してる! 彼女とはそういう関係じゃないんだ!!」

 

 清姫が呆れてため息を吐く姿に、後ろめたさなどない筈の鬼太郎が必死に弁明する。

 その様はまるで、浮気がバレたことを必死に言い訳するかのよう。勿論、鬼太郎は浮気などしていなければ、そもそも清姫と付き合ってすらいない。彼に落ち度など全くない。

 

「いや……私、鬼太郎くんに恋愛的な興味はないんだけどな……」

 

 鈴鹿御前も、鬼太郎とは共にレースを走ることになったが、そこに恋愛感情が芽生える予定はないとはっきりと口にする。

 

「ええ……分かっておりますとも!」

 

 それは清姫も承知の上。他人の嘘が分かる彼女は、鬼太郎や鈴鹿御前が決して嘘を付いていないことを理解していた。

 

「ですが……世の中、友情が愛情に変わることなどままあること……」

 

 だからといって、ここで二人を見逃すほど甘くはない。妖怪ラリーという困難を共に潜り抜けることで生まれる、ラブロマンスがあるかもしれないのだ。

 

「芽は……早いうちに摘み取っておくべきかと……」

 

 そうなる前にと、未然に二人の仲が深まることを阻止すべく。

 

 

『——転身火生三味』

「——!!」

 

 

 その瞳に虚無を宿しながら、呪詛を吐くかのようにその言葉を唱える。瞬間、灼熱に包まれた清姫の姿が——炎の大蛇へと転身する。

 そうなってしまっては最後、もはや言葉による説得は不可能。

 

『————!!』

 

 清姫は嫉妬に燃える炎蛇となり、鈴鹿御前&鬼太郎チームへと襲い掛かった。

 

 

 

「お、落ち着いてくれ、清姫!!」

「ちょいマジ!?」

 

 思いがけず始まってしまった清姫との戦闘に対し、鬼太郎と鈴鹿御前は困惑しながらもなんとか応戦する。

 鈴鹿御前は愛車たるKMR3000を自由自在に駆り、清姫の攻撃を掻い潜る。鬼太郎はなんとか清姫の怒りを鎮めようと説得を続けるが、あまり効果は見られない。

 まさかの事態に冷静に考えを巡らせる余裕もなく、イタズラに時間を取られることとなってしまう。

 

 

 その間、コースが破壊されたことで一旦は動きを止めていた他の選手たちが——それぞれ動きを見せ始めた。

 

「おいおい……とんでもねぇ、修羅場だな。まあ、あれだ……人の痴話喧嘩に首を突っ込むほど野暮じゃねぇ。悪いが先に行かせてもらうぜ!!」

 

 インド代表・アシュヴァッターマン。

 彼は鬼太郎たちのいざこざに余計な首を突っ込まず、その全身に再び炎を纏い始めた。彼の炎はマグマすらも寄せ付けず、乗機たるスダルシャンチャクラが溶岩流の上を悠々と突き進んでいく。

 

 

『流石にこのまま突入するのは自殺行為か……』

「うぅ……どうする……?」

 

 一方でイギリス代表・フランちゃんとバベッジ。

 バベッジ自身に、マグマの上を走るような機能は搭載されていないらしい。フランがどうしようと彼に向かって不安げに首を傾げる。

 

『案ずるな……蒸気噴射で飛行する。速度は低下するが……安全第一である』

 

 だが、その程度の問題なら即座に解決可能だと。バベッジはロコモーティブモード——蒸気機関車の姿を解除し、二足歩行のロボット形態へと移行。足元から蒸気を噴射し、その巨体を宙に浮かせていく。

 

「うぅー!? とんでる!!」

 

 バベッジの頭にしがみつくフランが、初めての飛行に瞳を輝かせた。イギリス代表はホバー飛行によってマグマの上を通過していく。

 

 

『グルル……グアッ!!』

『——!!』

 

 すると、バベッジたちのすぐ横を——アメリカ&ドイツ代表・ロボ&ヘシアンが駆け抜けていく。

 狼王ロボはマグマの、僅かに剥き出しになっていた岩の部分を足場にしていた。岩から岩へと飛び乗るという器用さと敏捷さを駆使し、バベッジたちを追い抜き——見事二位へと躍り出た。

 

 一位——アシュヴァッターマン。

 二位——ロボ&ヘシアン。

 三位——フランちゃん&バベッジ。

 

 激しい順位の変動により、さらにレースは混沌と化していく。

 

 

 

「これ以上はやばいって!! 早くコースに戻んないと……」

 

 そして——順位を四位まで下げることになってしまった鈴鹿御前&鬼太郎。

 未だに清姫の追撃を振り切れず、その場に釘付けにされている。これ以上、ここで足止めをくらうわけにはいかないと鈴鹿御前も焦りを見せ始めているが、いかんせん清姫の攻撃が激し過ぎる。

 

『——逃しませんよ!!』

 

 大蛇となった彼女は、まさに蛇のように執念深い。

 

『——人の恋路を邪魔する不届きものが……馬に蹴られるのを待たずして、焼き殺して差し上げます!!』

 

 完全に鈴鹿御前を恋敵と認識していて容赦もなく。わざわざ慣用句など用いながらも、そのたとえを無視して全力で殺意をぶつけてくる。

 

 

「——今、馬と仰いましたか……お嬢さん?」

 

 

 しかし——ここで予想外の乱入者が割り込んでくる。

 

『なんですか、貴方は!! ……いや、本当になんなんですか……馬?』

 

 その無粋な闖入者に清姫が苛立ちを露わにするが——それを視界に入れた瞬間、怒りに支配されているであろう彼女が暫し困惑に包まれた。

 大蛇の妖怪である彼女にとっても、それはかなり異質な姿をしているということだ。半人半馬のケンタウロスのような謎生物——そう、中国代表・赤兎馬である。

 

「ええ、馬といえば赤兎馬ですが、私は呂布です!! 真の人馬一体を体現するこの身に……なんの不満がありましょうぞ!?」

『……誰も貴方のことなど言っていませんよ……』

 

 意味不明なことを口にしながら絡んでくる赤兎馬に、流石の清姫も対応に困っていた。いったい相手が何を言いたいのか、その言葉の意味を半分も理解することが出来ない。

 

「ですが……!! お望みとあらばこの力……今この場でお見せしましょう!!」

『……はい?』

 

 もっとも、清姫の当惑など気にも留めず——赤兎馬は手にした槍の矛先を、何故か鬼太郎と鈴鹿御前へと向けてくる。

 

「我が武勇、今こそ天下に知らしめるとき!! 日本代表、お覚悟!!」

「え、ええ……!?」

 

 レースそっちのけ、日本代表である鬼太郎たちに戦いを挑んできたのである。

 

 

 

『ええ……赤兎馬選手、きよひー乱入にかこつけて日本チームを襲い始めました……いったい、これはどういうことでしょうか……猫娘さん?』

『わ、私に聞かれたって分かんないわよ!!』

 

 実況席にも困惑が伝播していた。

 清姫の暴走だけでも対応しきれないというのに、ここに来て赤兎馬の介入。いったい、何故に彼は日本チームに喧嘩を売ってくるのか、刑部姫や猫娘などは既に理解を放り投げて諦めの境地に達している。

 

『う~ん……あれじゃないっスか? やっぱり中国の妖怪だし……日本に対して思うところがあるんじゃないんスかね?」

 

 すると解説のガネーシャが、赤兎馬の謎行動をなんとか解読しようと試みる。

 

 中国と日本は海で隔たれているとはいえ、隣国といってもいい距離感にある。そのため、昔から一言では説明しきれないほど色々なことがあり、なにかと小競り合いが起きては、それが外交的な問題へと発展してしまう。

 そのことが、インド出身であるガネーシャに『日本と中国、なんかよく分からんがいつも歪みあっている』といった印象を抱かせてしまっているようだ。

 

『おっと……ここで赤兎馬選手に関して気になる情報が……』

 

 だがここで、刑部姫の元に中国代表である赤兎馬に関する書類が届けられた。

 一応は大会運営側である刑部姫。彼女の手元には、各国の選手がこの妖怪ラリーに参加を表明した動機や経緯などが資料として纏められている。

 

『赤兎馬選手……彼はもとより、強者との戦いを望んで妖怪ラリーに参加を決めたとのこと! 呂布……ええと、つまりは自身の武勇をあまねく天下に知らしめたい、とのことですが……』

『なーる、元から日本の支配権とか興味ないんスね……』

 

 どうやら赤兎馬にとって、レースでの優勝など二の次。純粋に強者と競い合う場が欲しかったということだ。それならば、いきなり戦いを挑んできた理由にも一定の理解を示せるが——。

 

『しかし、まさかこんな形で絡んでくるとは……これ以上時間を掛けるのは得策じゃありませんよ!!』

『そうっスね、そろそろ最後尾から……悪路王が追いついてくる筈っス!」

 

 だがこのタイミングは不味いと、刑部姫やガネーシャは客観的な視点から現状を分析する。

 

 これ以上の時間ロスは先行を走る選手たちと差が開きすぎ、最悪追いつけなくなってしまう。おまけに後方からは——追い抜かれると同時に、致命の一撃を放ってくる悪路王が迫ってきていた。

 

 果たしてこの窮地、鬼太郎と鈴鹿御前はどのように乗り越えるのだろうか。

 

 

 

 

 

「——鬼太郎、鈴鹿御前よ……わしに考えがある」

「父さん?」

 

 清姫と赤兎馬の攻撃をなんとか凌いでいる間、鬼太郎の頭からひょっこりと目玉おやじが顔を出してきた。

 

「一瞬でも彼らの隙をつくことは出来ぬか? そうすれば……」

 

 どうやら、目玉おやじにはこの窮地を脱する『策』があるらしい。そのためにも一瞬、ほんの僅かな時間でもいいから清姫と赤兎馬——この両者の動きを止めてほしいと願い出る。

 

「め、目眩しくらいなら、なんとか用意できそうだけど……おっと!!」

 

 目玉おやじの提案に、相手の攻撃を必死に躱しながら鈴鹿御前が了承の返事をする。数秒でいいのなら彼女にも足止めの手段があるというが、果たしてそれで上手くいくかどうか。

 

「それで構わん! そのあとは鬼太郎、お前の出番じゃぞ!!」

「ボクがですか? いったいどうすれば……?」

 

 目玉おやじが鬼太郎の耳元で何事かを囁く。自身の考えた策とやらを、息子へと授けているのだろう。

 

「——わかりました。危険は伴うかもしれませんが……やってみます!!」

 

 父親の作戦に一定の勝算を見出したのか、鬼太郎は確かな決意のもとに頷いていた。

 

 

 

「OK! それじゃ、仕掛けるわよ……大通連!!」

 

 そうして、準備が出来たところで鈴鹿御前が仕掛けを施す。

 彼女はバイクの運転をしながらも、器用にも空中に『浮かせている』二本の刀——その内の一本を、清姫に向かって突っ込ませる。

 それらの刀は、彼女が神通力で動かしているものだ。銀の刀が『小通連(しょうつうれん)』、黄金の刀が『大通連』という。

 そして、この大通連という刀には——『別の物質に変化する』という特性があった。

 

「変われ——水錬(すいれん)!!」

 

 その特性を利用し、鈴鹿御前は清姫の眼前で大通連を『水』へと変化させた。しかし周囲の環境、何より清姫の炎の身体に触れたことで、その水は一瞬にして水蒸気へと変化してしまう。

 

『——っ!! 小癪な!!』

「——むっ! 視界が……」

 

 しかし、それこそが鈴鹿御前の狙いである。一瞬で蒸発した水が水蒸気の煙幕を作り出し、清姫や赤兎馬の目から鈴鹿御前たちの姿を隠していく。

 

「よし……鈴鹿御前、速度を最大まで上げるんじゃ!!」

「かしこまり!!」

 

 そこから、目玉おやじが鈴鹿御前にもバイクの速度を上げるように指示を出す。既にアクセル全開でエンジンを吹かせていたKMR3000が、乗り手の意思に合わせて一直線に走り抜けていく。

 

 だが、その進路の先に——道はない。

 

 清姫によって破壊されたコースに無策に突っ込んだところで、その先は火口——マグマの海へと真っ逆さまへと落ちてしまうだけだが。

 

「——いっけええええええ!!」

『と、飛んだ!? 鈴鹿御前選手のバイクが宙を舞ったぞ!?』

『な、何してんのよ!?』

 

 あろうことか、鈴鹿御前は躊躇うことなく直進を続け——崖から飛び降りるようにコースアウト。向こう岸に渡ろうとでもいうのだろうが、明らかに跳躍力が足りていない。

 

 そのままでは、マグマの中にドボンだ。

 チームとしての敗北が確定してしまうどころか、肉体すらタダでは済まない。まさかの危機にも刑部姫は実況者としての職務を全うしているが、猫娘はその光景を直視出来ずに堪らず顔を手で覆う。

 

 

「——指鉄砲!!」

 

 

 だがここで、ゲゲゲの鬼太郎の指鉄砲が炸裂した。

 彼はバイクの後方に向かい、全力で指鉄砲を放ち続ける。その勢いはまさにジェット噴射のよう、空中を舞うバイクを前へ前へと押し進めていく。

 

 そして、凄まじい勢いで飛翔するKMR3000が——見事にマグマの上を飛び越えていった。

 

「ふう~……なんとかギリギリ届いた感じ?」

「ああ、少し肝は冷えたけど……」

 

 対岸へと着地した鈴鹿御前が安堵の息を吐く。彼女としてもかなり無茶な賭けだったのだろう、額に結構な汗をかいている。

 鬼太郎も——彼の場合、清姫から逃れられたという安心感の方が大きかったが、とりあえずこれで再びレースに戻れると一安心。

 

「やるじゃん、鬼太郎くん!! 私たち……結構いいコンビじゃない!?」

「ああ、そうかもしれないな……」

 

 共に力を合わせて危機を乗り越えたという結束感、極度の緊張状態から抜けられた興奮もあってか、テンションの上がったハイタッチで喜びを分かち合っていた。

 

 

 

『——に、逃しません!!』

 

 これに焦りを見せたのが清姫だ。鬼太郎と鈴鹿御前の仲が深まるような逃避行をこれ以上許してなるものかと、急いでその後を追いかけようとする。

 

「私も、そろそろレースに戻らなければ……ヒヒーン!!」

 

 赤兎馬も、鬼太郎たちの後を追う形でレースに復帰しようと、自らの戦意を鼓舞するように鳴き声を上げていく。

 

 

「——そこをどけ!!」

 

 

 しかし、このタイミングで——とうとう悪路王がやって来てしまった。

 眼前に誰が立ち塞がろうとも関係ないとばかりに、選手である赤兎馬は勿論、清姫にすらもその金棒を躊躇なくぶん回していく。

 

『——なっ……そ、そんなっ!?』

「——なんとっ!?」 

 

 これには大蛇と化している清姫も、謎生物である赤兎馬ですら、為す術もなく吹き飛ばされてしまう。盛大に吹っ飛ばされた両者がポチャンと、マグマの中へと落下してしまった。

 

『きよひー!!』

『ちょっ……生きてんの!?』

 

 清姫に場を引っ掻き回されたとはいえ、友人の危機に刑部姫も声を上げる。猫娘も、恋敵だからといって清姫に死んでほしいわけではない。

 果たして、溶岩流に飲み込まれた彼女の運命やいかに——。

 

「ああ……また安珍様が遠ざかってしまう……けど、次こそは必ず!!」

 

 普通に無事だった。ダメージを負った影響で大蛇の変身こそ解けてはいるが、身体そのものは至って健康体。水着を着用しているからなのか、マグマの海をスイスイと泳ぎながら、そのまま溶岩エリアを立ち去っていく。

 

「ここまでのようですな……不覚!! 暫しの間、湯に浸かり……この傷を癒すことにしましょう」

 

 ついでに赤兎馬も、負傷したことで潔くレースを諦めつつ——湯治と称してマグマの中に気持ちよさそうに浸かっている。

 

 

 

『…………なんで無事なのよ……』

『さ、さあ……?』

 

 これには清姫の心配をしていた猫娘や刑部姫も呆然とするしかない。

 

 ちなみに——。

 

「——道がなければ……作るまでよ!! ぬん!!」

 

 最後尾の悪路王はマグマを避けるため、周辺の地形から金棒で瓦礫を掘り出していた。集めた岩をマグマの上に敷き詰め、それを足場に溶岩流を渡っていく。

 新たに道を作り出してしまう怪力は流石といったところだが、悪路王でさえマグマに直で触れることを避けたのだ。

 

 マグマに浸かっても平然としていられる清姫と赤兎馬……ほんと、なんで無事だったのか?

 

 

 

×

 

 

 

『——さて、早くも二チームが脱落してしまいましたが……敗者たちの犠牲を糧に、妖怪ラリーはどこまでも続いていきます』

 

 第二チェックポイントを通過するまでにエジプト代表、中国代表が立て続けに走行不能へと追いやられたが、それでも淡々と実況の仕事をこなしていく刑部姫。

 

『おっと、見えてきたぞ!! 第三のチェックポイント——水辺だ!』

 

 彼女は選手たちが次なるエリアへと辿り着いたことを告げる。

 そこはそれまでの激しいエリア、砂漠や溶岩といったあからさまな危険地帯とは違い、一見すると穏やかな水辺——緩やかに川が流れるエリアであった。

 一本道で障害物らしいものもない、水嵩も浅く比較的穏やかに車体を走らせることが出来そうだ。

 

『ええ……こちらのチェックポイントにも、何かしらの障害を設置する予定だったのですが、予算と工期の関係上……やめました!』

『やめたのか! 世知辛い話っスね~……』

 

 刑部姫、運営側はこのエリアにも何かしらの『仕込み』を用意するつもりだったようだが、時間やお金の関係上、どうしても都合が付かずお蔵入になったとのこと。

 なんともシビアな現実的問題に、ガネーシャも頭を抑えている。

 

『ですので、このエリアでは特にこれといった見せ場はございません。観客の皆様……お昼休憩だと思って、どうかお寛ぎ下さい』

『適当!? ちょっとはペース配分とか考えなさいよね!!』

 

 そうした理由もあってか、観客に一休みするように告げる刑部姫。彼女自身もちょっと疲れてきたのか一旦マイクを置き、休憩に入る様子だ。猫娘からその適当な仕事振りにツッコミを入れられている。

 

 もっとも、運営側からの実況や仕掛けなどなくとも——選手たちはこのエリアでもぶつかり合っていく。

 

 

 

「——うぅ……バベッジ! わたしも、そろそろ……」

『——仕掛けるのか? よかろう、お前の思うようにするといい……ヴィクターの娘よ』

 

 現在、三位を走るフランちゃん&バベッジ。

 フランは何かを思いついたかのよう、バベッジへと呼び掛けた。バベッジは保護者のように、フランのやりたいことを見守ると彼女の意思を尊重する。

 

 フランは人造人間——フランケンシュタインの怪物。よく誤解されがちだが、フランケンシュタインとはあくまで怪物を造った人の名前であり、本来怪物に名などない。

 だが便宜上、バベッジは怪物をフラン——ときより、彼女のことを『ヴィクターの娘』とも呼ぶ。

 

「フラン、つくったのバベッジ……フランはバベッジのむすめ……ちがうの?」

 

 これにフランは素朴な疑問を抱く。

 フランの設計図を紐解き、彼女を現代に甦らせたのはバベッジその人である。その経緯を考えるのであれば、フランの親はバベッジということになるのではないだろうか。

 

『いや、我は設計図通りにお前をデザインしただけである。お前はヴィクターの……我が友の娘だ』

 

 しかし、バベッジはあくまで彼女をヴィクター・フランケンシュタイン——今は亡き、友人の娘として扱う。

 本来のヴィクター博士は、自身が創造した怪物第一号によって殺され、そのまま名前すらも奪われてしまった。彼が何のために怪物を創り、怪物に何を求めたのか。それは彼の人生を小説としてまとめたメアリー・シェリーにも預かり知らぬことである。

 

『お前がこの現代で何を為すのか……友がお前たちに何をさせたかったのか……我はそれが知りたい』

 

 故に、バベッジが新たな怪物を創造したのも、全てはヴィクター博士の意思を知るため。

 あるいは、友が見ることの叶わなかった怪物たちの、その行く末を記録したいがためか。バベッジにとって妖怪ラリーの参加も、その記録の一端に過ぎないのかもしれない。

 

「うぅ……! でかいの……いきまーす!!」

 

 そうした、バベッジの期待に応えるようにフランは立ち上がった。走行中ながらも、どこから取り出したのか巨大な大剣を構える。

 それはバベッジが彼女のためにあつらえた装備、名称はプライダル・ブレイドと呼ぶ。勢いよく回転させることでエネルギーを急速に充填。膨大な『雷』を纏ったプラズマブレイドが展開される。

 怪物が動き出すためにも、大量の電気を必要としたという。電気こそが、彼女の力の源なのだろう。プラズマの刀身を思いっきり振り上げるや——それを地面へと突き立てていく。

 

 ただの地面に剣を突き立てたところで、効果は薄かっただろうが——そこは水辺だ。プラズマの刀身から電撃が迸り、水を通じて電流が先を行く走者へと襲い掛かる。

 

『——ッ!!』

 

 フランの先を走る第二位——狼王ロボは事前にその危険を察知。ジャンプすることで電流から逃れ、なんとか感電の危機から脱する。

 

「——うごああああああ!?」

 

 だがトップを走るアシュヴァッターマン。彼は直前まで伝わってくる電流に気づくことが出来ず、電撃をまともに浴びてしまう。身体が痺れたのか、マシンに不調をきたしてしまったのか、その動きが急停止していく。

 

『見事だ、フランよ!』

「やってやったぜ。ごほうびにこおりください!!」

 

 フランの電撃で一位の走者を止めたことをバベッジが褒め称え、彼女自身も自慢げに胸を張る。電撃を発したことで自身の体内温度が上昇してしまったためか、ご褒美として氷の提供を希望していく。

 

『グルルル……グォオオオオオオオ!!』

『————!』

 

 だが、ここで電撃から逃れた狼王ロボが牙を剥く。

 動物としての本能からか、攻撃してきたフランに逆襲とばかりに飛び掛かってきたのだ。ロボに乗る首無騎士のヘシアンも、その両手に握る鎌状の剣を振り下ろしてくる。

 

「やるか!」

 

 これにフランも、再び大剣を掲げて応戦。ブラスマの刀身と鎌状の剣がぶつかり合い、閃光の如き火花が激しく迸っていく。

 

「ぐぐぐ……!」

『————!』

 

 互いに一歩も譲らぬ剣戟。何度も何度も刀身をぶつけ合うため、自然とその足も止まっていく。

 

「——テメェら……俺を差し置いて、何を楽しんでやがる!!」

 

 すると、そこへアシュヴァッターマンまでもが乱入してきた。

 フランの電撃を浴びて怯んでいた彼だが、それも一瞬。自分を無視して戦いを楽しんでいる両者に激怒しながら、バイクを足場に跳躍——拳に炎を纏わせながら思いっきりぶん殴ってくる。

 

「あぶない!!」

『————』

 

 その一撃をまともに食らうのは不味いと判断し、フランとヘシアンが互いに刃を退いていく。

 

『緊急回避!!』

『グゥウ!?』

 

 両者の乗機たるバベッジやロボも、アシュヴァッターマンの拳から逃れるために慌てて距離を取った。

 実際、その判断は適切だ。避けられたアシュヴァッターマンの拳は地面へとめり込み、凄まじい轟音を上げながら大地を砕く。衝撃の余波が水辺エリアに水飛沫を巻き上げていく。

 

 

 

「ハッ!! ここで決着を付けようってんなら、相手してやんぞ、コラァア!!」

 

 水飛沫が雨のように降り注ぐ中、バイクの上に仁王立ちになるアシュヴァッターマン。フランの攻撃が彼の闘志に火を付けてしまったのだろうか、その身体から目に見えるほどの闘気が立ち上ってくる。

 

「うー、のぞむところ!」

『遅かれ早かれ、こうなることは必然である』

 

 その気迫に応じる形で、フランも大剣を構える。バベッジもいずれはこのような形で雌雄を決することになったであろうと、その流れを受け入れた。

 

『グルルルルル……』

『————』

 

 狼王ロボとヘシアンも、いつでも飛び掛かれるよう臨戦態勢で身構えていく。

 

 三者三様が互いに距離を取りながら睨み合う状況。妖怪ラリーそっちのけ、そのまま力尽きるまでぶつかり合おうとでも言うのだろうか。

 

 

「——お先に失礼!!」

 

 

 だがそんな緊張状態の中を、一陣の風が駆け抜けた。

 怒涛の勢いでここまで追い上げてきた——鈴鹿御前である。三者が互いに睨み合う中を、漁夫の利を得たとばかりに疾走していく。

 

「気を付けてくれ! 悪路王がすぐそこまで迫ってきてる!!」

 

 すれ違いざま、鬼太郎は他選手に警告を飛ばしていた。彼の言葉通りに後方を振り返れば——遠目に悪路王の姿が見えていた。

 

「——ガッハッハ!! すぐにでも追いついてやるぞ!!」

 

 既に第三チェックポイントである水辺エリアに侵入を果たしており、ここまで追いついてくるのも時間の問題だろう。

 

「チィっ!! しゃあねぇな……!!」

『やむを得まい……行くぞ、フラン!』

『グルゥ……』

 

 これには争い合っていた選手たちも矛を納め、再びレースへと戻っていく。流石に悪路王と正面からやり合うという愚を犯したくないらしい。

 悪路王から逃げるよう、まずは水辺エリアを突破するべく直線コースを走り抜けていく。

 

 

 

 

 

「——そっちはどう、砂かけババア?」

 

 実況席。

 マイクもカメラも切っていたため、観客席などからその様子を探ることが出来ない密室内で、猫娘はとある相手に連絡を取っていた。

 

『うむ、大丈夫じゃ! 避難の方はあらかた終わっておる……鬼どもに気づかれた様子もないわい』

 

 通話越しから聞こえてきたのは、砂かけババアの声だ。

 

 彼女を含めた子泣き爺やぬりかべなどは、とあるミッションのため秘密裏に動いていた。

 それは——『捕まっていた人間たちの救助』。鬼ヶ島に連れ去られていた、およそ百人ほどの人々をこの島から退避させることである。

 

 鬼ヶ島の守りに付いている筈の鬼たちも、白熱するレース展開に夢中で『人間たちがいつの間にかいなくなっている』事実に全く気付けていなかった。既に大半の人間たちがレース会場からの避難を終えており、今は海岸付近に停泊させておいた舟にて待機している。

 

「分かったわ、ひとまずはそこで待機しててちょうだい……またあとで連絡するから」

 

 そこからすぐにでも島から脱出することも出来たが、流石に船を出せば気付かれてしまう恐れがあるため、一時待機に留めておく。砂かけババアたちに人々のことを任せ、とりあえずは通話を切っていく猫娘。

 

「刑部姫……そっちの進行状況は?」

 

 砂かけババアとの通話を終え、猫娘は協力者である刑部姫の方へと向き直る。

 

「うんうん……いい感じかな? これなら予定通り、上手くいくと思うけど……」

 

 刑部姫も実況者としてレースを盛り上げながらも、裏ではきちんと本来の役目をこなしていたようだ。『何か』の進捗状況によしよしと頷いている。

 

「そりゃよかったっスね〜……ここまでやって肝心なところで機能しないなんて、笑い話にもならないっスから〜……モグモグ……」

 

 一方で、ガネーシャなどは特に何かをするでもなくお菓子をモグモグと頬張っていた。

 

「ちょっと、ガっちゃん! アンタにも大事な役目があるんだから……今のうちにしっかり準備しといてよ!」

 

 そんな怠惰な態度のガネーシャに刑部姫が釘を刺していく。

 どうやら、ガネーシャにもちゃんとした役割があるらしい。そのときのため、今のうちに心構えをしておくべきだということだろう。

 

 

 

「あとは、鈴鹿御前と鬼太郎が……勝ってくれることを祈るだけね……」

 

 そうして、着々と進められていく準備だが、結局のところ——鈴鹿御前とゲゲゲの鬼太郎が、この妖怪ラリーに勝たなければ全ては元の木阿弥だと。

 猫娘は二人の勝利を信じ、そのときがくるのを静かに実況席から待ち続けていく。

 

 




人物紹介

 メジェド様
  エジプトの神様……ただし、その中身に関しては最後まで触れませんでした。
  レース開始早々の退場となってしまいましたが、決してメジェド様の実力が劣っているわけではありません。
  尚、サポーターであるアラビアンな女性に関しても特に深掘りはありませんのでご容赦の程を。

 清姫
  刑部姫に続き、本シリーズ三度目の登場。
  今回は溶岩エリアの妨害キャラとして登場ーー味方である筈の鬼太郎を苦しめました。
  マグマの中を平然と泳ぐのは……公式設定ですので。

 赤兎馬
  自ら呂布を名乗る、謎の怪馬。東洋のケンタウロス。
  一応、妖怪というカテゴリーに属することになりましたが……果たして彼が何者だったのかは最後まで謎。
  清姫同様、きっとマグマに落ちても無事だろうという謎の安心感がある……。

 フランちゃん
  フランケンシュタインの怪物。
  6期に登場するヴィクターフランシュタインとは、一応兄妹機という設定です。
  生意気な兄の方とは違い、まだ生まれたてなので純真無垢。
  
 チャールズ・バベッジ
  イギリスの数学者ーーチャールズ・バベッジと同じ名前を持つ、謎の変形型ロボット。
  一応、設定的には『バベッジの脳を移植されたマシン』。
  リアルな話、バベッジ博士の脳は半分にされ、それぞれ別の場所に保管されてるとかなんとか。
  きっとその脳を秘密裏に移植したのでしょう……という感じでイメージを膨らませてみました。
  
 とりあえず、今回の人物紹介はここまで。
 他選手の紹介は次回に回します……果たして次話で完結するかどうかは、お話の進捗具合によります。
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