ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、無事に大ヒットしているようで何よりです!
このハーメルンでも、鬼太郎の小説を新しく書いている方がいるみたいで……そのおかげか、ここ数日間のアクセス数がだいぶ伸びました!!
これを機に、一人でも多くの人が鬼太郎そのものに興味を向けてくれるとありがたいです!

fgoぐだぐだイベント『激走!川中島24時 ぐだぐだ超五稜郭 殺しのサインはM51』。
相変わらず意味不明なタイトルですが……全てを終えた後にこそ、その意味が分かるいつものぐだぐだ!!
ストーリーも最高でしたが、やはりレイド戦が超最高でした!!
休みであったこともあり、小説の執筆も手につかないほど延々とレイド戦してましたわ!
人類悪(ユーザーたち)の猛攻を耐え切った男、服部武雄は凄かったな……新撰組最強は、紛れもなく貴方です。

今回の話で境港編の前編は完結です。
次回も境港の話をやる予定ですが……12月は忙しいため、本編の更新は今年はこれが最後です。
短編など、もしかしたら書くかもしれませんが……全ては年末の忙しさ次第ですね。



聖剣伝説レジェンドオブマナ たゆたう歌声 其の②

「…………ん? う、うん……こ、ここは? 俺はいったい……はっ!?」

 

 微睡の中、犬山庄司がその意識を覚醒させる。目を覚ましたとき、彼は身動きが取れない状態となっていた。

 

「お、おお!! 起きたか、庄司……」

「き、キノピー!? みんなも……無事だったのか……」

 

 周囲を見渡せばキノピーを始めとした漁船の乗組員たち、全員が揃っていた。

 海に投げ出された筈の自分たちが溺れ死なずに済んだことをまずは安堵しつつ、今の状況に庄司は首を傾げる。

 

「ここは……船の上か? いったい……何がどうなってる?」

 

 庄司たちがいるのは船の上だ。甲板上と思しき場所で一箇所に集められた彼らは、抵抗が出来ないようにその手足を縄で縛られていた。

 

「はっ!? あ、あれは……海賊旗!!」

 

 満足に移動もままならない中、首だけを動かして上を見上げる。

 そこには、気を失う前に目撃したその船の象徴『海賊旗』——頭蓋骨と交差する二本の骨の紋章が堂々と掲げられていた。

 

 海賊旗——通称『ジョリー・ロジャー』。かつて世界の海を暴れ回った『海賊』と呼ばれる輩が好んで使用していたマークである。

 いかにも恐ろしげな象徴だが、そのマークには『相手を畏怖させて降参を呼び掛ける』という意味合いもある。素直に降伏すればよし、積荷は奪い取っていくだろうが、命だけは助ける。

 だがもしも、そのマークを目にしながらも抵抗しようというのであれば、骨だけの姿になっても文句は言えないだろう——そんな脅し文句が含まれている。

 

 現代でもソマリア沖付近など、武装集団が身代金目的とした誘拐などの海賊行為を行うことはあるが、海賊旗を堂々と掲げるような輩はもうほとんどいないだろう。

 もはや過去の遺物といってもいい海賊旗。そんなものを掲げて、しかもこんな日本の近海に現れるなど尋常なことではない。

 いったい何者なのかと、囚われの身である庄司たちは困惑するしかない。

 

「——よぉ~! 目が覚めたようだな!!」

「!! だ、誰だ!?」

 

 そのとき、何者かが庄司たちに声を掛けてきた。その余裕たっぷりの言葉遣いから、この船の船員——海賊たちであることが瞬時に想像できた。

 庄司たちの身に緊張が走る。いったいどんなに恐ろしげな風体をしているのだろうと、覚悟を持って声のした方を振り返る一同。

 

 

「…………はっ?」

「…………ん?」

 

 

 だが振り返ってすぐに、庄司やキノピーたちの目が点になる。彼らの眼前にいたのは見るも恐ろしい野蛮な大男たち——などではなかった。

 

「俺たちゃ、海の男……正真正銘の海賊さ!!」

 

 彼らは、ご丁寧なことに自分たちが海賊であることを告げてくる。確かにその服装、纏う雰囲気は海の荒くれ者といった感じだ。

 海賊だと言われればそうなのだろうと。とりあえず、納得が出来なくもない。

 

 

 問題は——それが人間ではなかったということだ。

 

 

 体の大きさは人間の子供ほど。威勢はいいのだが、その時点で海賊としての威厳が四割ほど削がれていた。

 次にその長く尖ったクチバシ。魚をついばむのには最適だろうが、それでつつかれても致命傷にはならないだろう。

 全身が暖かそうな羽毛で覆われており、脂肪をたっぷりと蓄えているであろうボディが丸みを帯びている。

 ヒレのような羽に、水かきが付いた足で地上をヨタヨタ歩いている。

 しまいにはくりくりっとした可愛い瞳が、海賊としての威厳残り六割を吹き飛ばしていた。

 

「ぺ……ペンギン……ペンギンだ!!」

「ペンギンが……喋ってる……」

 

 そう、その海賊たちは、どこからどう見ても——『ペンギン』としか表現できない生物だったのだ。日本では水族館くらいでしかお目にかかれないだろう、南半球に生息する海鳥。

 そのペンギンが海賊っぽいコスチュームを身に纏い、あまつさえ人間の言葉を喋っていた。

 

 そんな一見すると理解不能な存在を前に、庄司たちも上手く言葉が出て来ない。

 

「へっへっへ……どうした? ぶるって声も出ねぇのか?」 

「大人しく言うことを聞いていれば、痛い目に遭わなくて済むでやんすよ!!」

 

 そうした庄司たちの反応を、海賊ペンギンたちは自分たちに恐怖していると都合よく解釈したようだ。

 だが、何故か語尾に「やんす」と付けているのもそうだが、全体的に話し方にも威厳というものが感じられない。

 ペンギンたちはチンピラのような言葉遣いで、庄司たちを脅しつけていく。

 

「カシラ!! 人間どもが目を覚ましやしたぜ!!」

「!?」

 

 ここでペンギンたちはカシラ——海賊の親玉と思しきものを呼ぶ。

 ペンギンが海賊をしている船の船長なのだから、カシラも同じペンギンなのだろうと、特に理由もなく漠然とそう思う庄司たち。

 ところが——。

 

 

「——おお!! そうか、これでようやく話が出来るぜ!!」

 

 

 ずっしりと重みのある言葉でペンギンたちの呼び掛けに答えたのはペンギンではなく、何故か『セイウチ』だった。

 

 セイウチは、鰭脚類(ききゃくるい)という動物に分類される海獣だ。所謂、アザラシやアシカ、オットセイの仲間などに分類される。何を持ってアザラシとするのか。何を持ってアシカなのか、オットセイなのか、セイウチなのか。そこんところの詳しい差異は、素人目には分からないだろう。

 とにかくペンギンたちの親玉はセイウチだった、その認識で支障はない。

 

「お前ら……境港と言ったか? ここらの漁師なら、この辺の海には詳しい筈だ……違うか?」

「だ、だったらなんだっていうんだ!?」

 

 船長らしく偉そうな服に袖を通しているそのセイウチは、庄司たちが境港市の人間であること、この海で漁を生業とする漁師であることを念を押すように確認してきた。その質問に庄司は怯みながらも強気に返す。

 たとえ相手がペンギンだろうが、セイウチだろうと関係ない。海賊なんて輩に自分たちがこのような扱いを受ける謂れはないのだと、一歩も譲る気はなく睨み返す。

 

「テメェ、人間!! バーンズ船長になんて口の聞き方をしてやがる!!」

「痛い目に遭いたいでやんすか、ああん!?」

 

 そんな庄司の反抗的な返事が気に食わなかったのだろう。ペンギンたちは船長——バーンズという名前らしい、その態度を改めさせようと迫ってくる。

 

「いちいち突っかかるな、ペンギン共!! 話が一向に進まねぇんだよ!!」

 

 しかし、そんな部下たちを船長であるバーンズが叱り宥めていく。どうやらペンギンたちよりは話が出来るようだ。彼は単刀直入に、自分たちの要件を庄司たちへと伝えていく。

 

「見ての通り、俺たちは海賊だ。わざわざ日本まで来たのは他でもねぇ。この辺りの海域には昔、財宝をどっさりと積んだまま沈んだ船があるって聞いてな。そいつを引き揚げに来たのさ!」

「財宝……沈没船……あっ!?」

 

 バーンズの話に庄司がハッと息を呑む。財宝を積んだまま沈んだ船——十中八九、北前船のことだろう。

 一昨年にこの境港を騒がせた妖怪・海座頭が何百年も前に沈めた船だ。海座頭はその財宝を回収しようと、境港の人たちを船幽霊に変えて労働力にしようとしていた。

 

「お前らなら、その船がどの辺りに沈んだか、大まかな場所を知ってるんじゃないかと思ってな。ついでにテメェらにもお宝の引き揚げを手伝ってもらうぜ!」

 

 どこからその話を聞き付けたかは知らないが、この海賊たちの目的もその財宝にあるらしい。

 そして、境港の住人であればその船が沈んだ場所を知っていると考えたのだろう。さらにはその財宝の回収も手伝えと言ってくる。

 

「無事にお宝さえ手に入れば、お前らを解放して俺たちもこの海から出ていこう。少しくらいなら分け前をやってもいい……どうだ? 悪くねぇ話だと思うが?」

 

 財宝さえ得ることが出来れば、海賊たちは大人しく日本から去ると言う。庄司たちも解放され、いかほどかは不明だが報酬も支払ってくれるという。

 

「……お、おい……どうする?」

「ど、どうするって……言われても……」

 

 海賊からの突然の提案に、キノピーを始めとする漁師たちが困惑しながら互いの顔を見合わせていく。

『提案』という形こそ取っては入るものの、実質的にそれは『要求』と言ってもいい。この状況下、漁師たちが海賊たちの要求を拒否するという選択肢を取れるわけもない。

 もしも断れば、いったいどんな目に遭わされるか分かったものではないからだ。

 

 

「——断る!!」

 

 

 だが、海賊たちの脅迫も含んだ提案に毅然として「NO!!」と答えるものがいた——犬山庄司である。

 

「お前ら海賊のためなんかに、俺たちが働いてやる道理はない!! とっととこの海から出てってくれ!!」

「お、おい……庄司……」

 

 キノピーが庄司を宥めようとするも、彼は海賊たちへと強気な言葉を返していた。

 どれだけオブラートに包んだ言い方をしようと、海賊たちのやっていることは力で相手を威圧し、言うことを聞かせようとする卑劣な行為であると。

 そのような理不尽な脅しには決して屈さないぞと、庄司は強い意志を持って拒否を示した。

 

「こ、この野郎……!!」

「カシラからの提案を無碍にするとは……」

 

 これにペンギンたちは怒り心頭、船長の顔に泥を塗ったと庄司に対して鋭い敵意を向けてくる。

 

「ほう、なかなか肝が据わってるじゃねぇか。この俺様に真正面から楯突くとはいい度胸だ……」

 

 その一方で、庄司の威勢のいい啖呵にバーンズは感心したように呟く。流石にカシラと敬われているだけあって、余裕な態度を保っている。

 しかし次の瞬間にも、バーンズの眼光がギロリと鋭さを増す。

 

「だが!! この海賊船バルドの船長はこの俺だ!! この船の上では俺の言葉が絶対!! その掟を破ることは誰であろうと許さねぇ!!」

 

 海賊は自由奔放、好き勝手に生きていたように思われることが多いが、実際のところは厳しい掟の下に共同生活を送っていたとされている。

 それは船の上という、ある種の密室で何十日と過ごさなければならない関係上、トラブルを避けるためにも秩序を保つ必要があるからだ。

 制定されるルールなど船ごとによって違いはあるが、その掟を破ったものには厳しい罰が与えられるというのは変わらない。

 

 もっとも重い処分などで、島への置き去り刑や死刑など。

 まさに命懸けで守らなければならない——鉄の掟だ。

 

「口答えは許さねぇ!! もしもこれ以上、俺に逆らおうってんなら……コ……コ……」

「ご、ゴクリ……」

「うっ……」

 

 庄司の反抗的な言動、船長であるバーンズに逆らうことはこの海賊船の掟に反していたのだろう。船長直々に、捕虜の身である庄司へと処罰が下されることとなる。

 恐ろしい刑罰を想像してか。ペンギンたちが緊張にゴクリと唾を飲み込み、庄司も自分がどのような目に遭わされるかを想像し、その表情に焦りを浮かべた。

 

 そうして船長の口から下される、その『刑罰』の衝撃の内容が——。

 

 

 

「——コロがしてやる!!」

「——ズコッ!?」

 

 

 

 瞬間、まるで雛壇から崩れ落ちる芸人のように、ペンギンたちが一斉にズッコケる。

 

「へっ…………?」

 

 想像もしていなかった言葉に、庄司やキノピーたちの顔からも緊張が抜け落ちていく。

 

 

 

「カシラ!! カシラともあろうお方が、なんと迫力のない!!」

「コロスって、言ってくだせぇ……カシラ!!」

 

 カシラであるバーンズのなんとも締まらない台詞に、抗議の声を上げたのはペンギンたちだ。彼らは船長が海賊らしく堂々と『コロス!!』と発言してくれることを期待していたのだろう。

 

「いや、お前……コロスは不味いよ。子供の教育にも悪いし……俺のママだって……」

「ママっ!?」

 

 もっとも、バーンズに最初からその気はなく。寧ろそんな言葉を使っちゃいけないと、ペンギンたちを宥めていく。

 なんだか海賊の親玉に相応しくない発言が聞こえたような気もするが、それは気にしないでおこう。

 

「見てください……こいつらのキョトンとしたツラ!!」

「あっしらペンギン一同、カシラが舐められるのだけは我慢できやせん!!」

「言ってくだせぇ!! 海賊らしく!!」

 

 しかし、ペンギンたちは尚も納得しないで食い下がる。

 彼らにとって、自分たちの親分が人間たちに舐められることは耐え難い屈辱だ。庄司たちがポカンとしている今の状況に、侮られていると憤りを隠し切れない。

 

「そうか……ペンギン衆!! ならば言うぜ!! 耳穴かっぽじって聞きやがれ!!」

 

 それならばと、ペンギンたちの心意気を組んだバーンズが改めて言い直す。海賊らしく、堂々と自らの台詞に訂正を入れた。

 

 

「——この俺に逆らう奴は誰であろうと許さねぇ……ぶっコロ~~~ス!!」

 

 

 すると海賊らしい過激なその発言に、ペンギンたちがやんややんやと喜びを露わにしていく。

 

「ヒュ~!! それでこそ、カシラ!! ついて行きやすとも、どこまでも!!」

「ささっ!! それじゃあ、さっそく……まずはこの反抗的なオヤジから!!」

 

 そして、まずは自分たちに逆らう庄司を見せしめに『コロス』べきだと、声高らかに叫ぶ。

 

「いや、待て……俺にも心の準備ってものが……」

 

 けれど、やっぱりそれに関しては躊躇してしまうバーンズ。ただ言葉にするのと、それを実行に移すのとでは雲泥の差だ。

 浮かれた調子で騒ぐペンギンたちとは違い。その言葉の意味をしっかりと理解しているからこそ、バーンズは慎重な判断を取らざるを得ない。

 

 

「——リモコン下駄!!」

「——あでっ!?」

 

 

 だが次の瞬間、そんなバーンズの頭部に『下駄』が直撃する。予想だにしなかった不意打ちに、一撃で昏倒してその場にぶっ倒れるセイウチの船長。

 

「か、カシラがやられた!?」

「だ、誰だ!?」

 

 親分が倒されたことにペンギンたちが慌てふためき、飛来する下駄が飛んできた方角へと目を向ける。

 

「お前たち……今すぐその人たちを解放するんだ!」

 

 いつの間に船へ乗り込んでいたのか、そこには一人の少年が立っていた。その少年の姿を前に、囚われの身である庄司たちの表情が明るくなっていく。

 

 

「——鬼太郎さん! 来てくれたのか!?」

 

 

 

×

 

 

 

「鬼太郎、こいつら……妖怪なの?」

「分からない……けど油断するな、猫娘」

 

 その船——海賊船バルドにカラスのブランコから飛び乗った、鬼太郎と猫娘が海賊たち相手に身構える。

 

 鬼太郎たちがこの場に現れたのは偶然ではない。

 セイレーンとの一件をとりあえず解決した鬼太郎たちはそのまま一晩、境港に泊まることになった。あのセイレーン・エレが本当に約束を守るかの確認があったというのもあるが、それ以上に庄司たちが鬼太郎にお礼をしたいと彼らを呼び止めた方が大きかった。

 そして、鬼太郎のためにも活きのいい魚を獲ってこようと、張り切って漁に出た庄司。その庄司を乗せた船が帰って来ないということで、またも騒ぎになり様子を見に来たのだが——案の定、トラブルに見舞われていたようだ。

 

 鬼太郎たちは眼前の海賊——どこからどう見てもペンギンにしか見えない謎生物たちに、庄司たちを解放するよう要求する。

 

「き、鬼太郎だと!? こんなガキンチョが!?」

「バックベアードを倒したって言う……ゲゲゲの鬼太郎か!?」

 

 すると、ペンギンたちは鬼太郎という名前に明らかな動揺を見せた。

 セイレーンのエレやマーメイドのフラメシュの反応からも分かるように、海外の妖怪。特に西洋から来たものたちにとって、ゲゲゲの鬼太郎は『バックベアードを倒した少年』ということで通っているようだ。

 ペンギンたちも、あのバックベアードを倒した実力者ということで鬼太郎に対して及び腰になってしまっている。

 

「ひ、怯むんじゃねぇ!! 相手はたったの二人だ!!」

「囲んで畳んじまえ!!」

 

 しかし、そんな前評判だけで戦意を喪失させるほど、海賊ペンギンたちも柔ではないようだ。

 カシラの敵討ちということもあり、海賊らしくカトラスなどを手に取り、血気盛んに鬼太郎へと戦いを挑んでくる。

 

「やむを得んな……鬼太郎!!」

「はい、父さん! 髪の毛!! リモコン下駄!!」

 

 目玉おやじの呼び掛けもあり、鬼太郎は向かってくるペンギンたち相手に応戦していく。

 

「ニャアアアア!!」

 

 猫娘も鬼太郎を援護するため、爪を伸ばして敵を引っ掻く。

 

「ぐわっ!?」

「いたたたっ!? やめて、やめて!?」

 

 ペンギンたちは、海賊を名乗るだけあって戦闘などの荒事には慣れている様子だった。しかし所詮はペンギン。不良に毛が生えた程度の戦力でしかない彼らに、百戦錬磨の鬼太郎の相手など出来るわけもなく。

 鬼太郎たちも、相手が脅威でないことを察してかなり手加減している。

 

 

 

「ぐぐぐ……な、なかなかやるじゃねぇか……」

「か、海賊相手にここまでやれるなんて……褒めてやるでやんすよ!!」

 

 そうして、あっという間に何十羽のペンギンたちが倒れ伏し、残ったペンギンたちも追い込まれながら負け惜しみを口にするしかないでいる。

 

「さっさと降参しなさい……これ以上はやるだけ時間の無駄よ」

「大人しく境港の人たちを解放すれば、これ以上の危害は加えない」

 

 そんなペンギンたちに呆れた様子でため息を吐く猫娘。鬼太郎もこれ以上の争いは無意味だと、海賊たちに降伏を促していた。

 

 

「——そこまでだぜ、小僧!!」

 

 

 ところが、ここで思わぬ伏兵が現れて鬼太郎たちを危機へと追い込んでいく。

 

「動くんじゃねぇ……動けば、こいつの命はねぇぞ!!」

「くっ……」

 

 そこにいたのはセイウチの船長・バーンズだ。

 一度は鬼太郎の一撃で気を失っていた彼だが、いつの間にか意識を取り戻していたのか。その手にカトラスを握りしめ、その剣先を人質——犬山庄司へと突きつけていた。

 

「!! しょ、庄司さん!?」

 

 これには流石の鬼太郎も焦りを見せる。まさかの深刻な事態にその場を一気に緊迫感が支配する。

 

「か、カシラ!! 人質を取るだなんて……とんでもねぇワルでやんす!?」

「ひゃああああ!! そこに痺れる、憧れるっす!!」

 

 これにはペンギンたちも驚愕だ。彼らには『人質を取る』という発想すらなかったのか、自分たちのカシラが取ったあまりにも卑怯な手口に惚れ惚れするようだと歓声を上げる。

 そんなペンギンたちに、演説をかますようにバーンズは言葉を発していく。

 

「いいか、ペンギン……よ~く聞いとけ。人の道をまっすぐ進むだけじゃ、海賊は務まらねぇ。海賊の胸の中には、悪のラッコと正義のラッコがいるってことよ!」

「ラッコでやんすか!?」

 

 何故セイウチではなくラッコなのか、という無粋なツッコミはなしだ。

 

「おうよ!! 今俺の胸の中で、悪のラッコが貝を笑いながら打ち鳴らしてやがるぜ!!」

「カシラ……!」

「あっしら……涙が出てきたでやんす……」

 

 バーンズの有難いお言葉に、感動に声もないという感じで震えるペンギンたち。中には涙ぐむものまでいる。

 

「くっ……何を言っているのか分からないが……くっ!」

「どうするの、鬼太郎!?」

 

 一方で、バーンズの例えの意味が分からないと困惑しながら、鬼太郎が状況の悪さに足踏みしてしまう。猫娘も、迂闊に動くことが出来ずその場に立ち尽くすしかない。

 

「鬼太郎さん……! 俺に構わず、こいつらをやっつけてくれ!!」

 

 庄司などは人質にされながらも自分に構うなと叫んでいるが、当然鬼太郎たちに彼を見捨てるなんて選択肢を取れるわけもなく。

 

「よーし! ペンギンども、今のうちにそいつらをふん縛れ!!」

「アイアイサー! おらおら、大人しくしやがれ!!」

 

 動けないでいる鬼太郎たちを無力化しようと、ペンギンたちは包囲網を狭めながらにじり寄ってくる。

 

 このままでは、鬼太郎たちも捕まってしまう。

 そうなれば誰にも海賊たちの暴虐を止めることが出来ず、この海での彼らの横暴を許してしまうことになってしまう。

 

 

 

「…………あん? なんだありゃ?」

 

 だがふと、ペンギンたちが上空から差す何者かの影に気付いて空を見上げた。

 そこには——花のように美しい羽根を羽ばたかせて飛翔する、一人の女性のシルエットがあった。

 

「お、おい……あれは、まさか……!?」

「せ、セイレーンじゃねぇか!?」

 

 世界の海を股に掛ける海賊というだけあって、ペンギンたちはそれがセイレーンと呼ばれる怪物であることを瞬時に察する。

 

「…………」

 

 そう、エレだ。

 昨日にも鬼太郎たちと『海に船が出ている間は歌わない』と約束を交わした彼女が、何を思ってかこの青空の下に姿を現した。

 勿論、それだけなら何の問題もない。彼女が優雅に空中散歩を楽しもうと、誰かに迷惑を掛けるわけではないのだから。

 

「すぅ~……」

 

 だが、エレは大きく息を吸う。

 鬼太郎や庄司、そして海賊たちがどのような状況下にあるのか、彼女はそれを上空から正しく認識している。

 認識した上で——この空の下、その魔性の歌声を響かせていく。

 

 

「~~♪ ~~♪♪」

 

 

 瞬間、響き渡る歌声の魔力が海賊船バルドに襲い掛かる。

 

「うぉおおおおお!? な、なんだぁああ!?」

「か、カシラ!! せ、船底に穴がっ……!!」

 

 爆発するような揺れが起こったと思いきや、船の中で待機していたペンギンが甲板へと慌てて駆け付けてきた。

 セイレーンの歌が海を荒らし、その衝撃で船底に穴が空いてしまったようだ。

 

「すぐに塞げ!! モタモタすんな!!」

 

 これに船長らしくバーンズがすぐに指示を出す。船が沈むという危機を前に、もはや人質などどうでもいいとばかりに庄司からあっさりと手を離した。

 

「庄司さん、ご無事ですか!?」

「あ、ああ……俺は大丈夫だが……」

 

 解放された庄司へとすぐに駆け寄り、その縄を解いていく鬼太郎。ようやく訪れた自由だが、それで安堵もしていられない。

 

「~~♪ ~~♪♪」

 

 セイレーンの歌声は未だに続いていた。船上に混乱が広がろうとお構いなし、寧ろ混乱を作り出そうとばかりにエレは声量をより一層強めている。

 

「てぇへんでやんす!! 左舷後方にも穴が……」

「ペンギン第二小隊を向かわせろ!!」

「オキノテズルモズルだ!! ペンギン第四小隊は右舷デッキへ急げ!!」

「モタモタしてんじゃねぇ!! ペンギン第三小隊は船体側面の対処だ!!」

 

 ペンギンたちがさらに慌ただしく駆けずり回る。

 既に彼らの視界には人間たちのことも、鬼太郎たちのことも映っていない。この船を沈めまいと、襲い掛かるトラブルの対処に大忙しだ。

 

「ニャアア!!」

 

 その間に、猫娘はキノピーを始めとした漁師たちの縄を爪で切り裂いていく。皆が束縛から解放されていくが、今の状況下で自由を取り戻してもあまり意味がない。

 

「ど、どうなってるんだよ!! これは!?」

「約束と違うじゃないか!?」

 

 人々はパニック状態に陥りながらも、頭上を飛ぶエレに非難の目を向けていた。

 自分たちが海にいる間は歌わない、その約束を破って見せつけるように歌う彼女に憤りを覚えるものもいただろう。

 

「あの子……まさか……」

 

 だがそんな中、犬山庄司は彼女が『何を思って』このようなことをしでかしたのか。その真意を察しようとしていた。

 

 

 

「~~♪ ~~♪♪」

 

 尚も歌い続けるエレ。セイレーンの歌声に翻弄され、海賊たちはもうてんやわんやだ。このままでは遠からず自分たちの船が沈んでしまうと、船員たちの顔に不安や恐怖が過ぎる。

 だがそのあたりのタイミングで、ようやくエレの声量が段々と小さくなっていき、徐々にだが船の揺れも収まっていく。

 

「…………」

 

 海賊たちは未だに混乱の最中にいるようだが、この様子であれば船が沈むことはないだろうと。内心で、エレもほっと胸を撫で下ろしていた。

 

 

『——ガァアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

 しかし、彼女の魔性の歌声によって引き寄せられた特大の『厄災』が——次の瞬間、その姿を現す。

 

「——っ!? な、なんだぁああああ!?」

 

 それは、今までの比ではない衝撃だった。何か巨大なもの、まるで氷山とでもぶつかったような衝撃が海賊船を襲う。さらにその巨大な『何か』は、船体を締め上げるようにしがみついてきたのだ。

 

 ミシミシと音をあげる海賊船、その周囲の海面から——何本もの巨大な『触手』が顔を出す。

 それを目の当たりにした瞬間、ペンギンたちが絶望の表情で叫んでいた。

 

 

「——く、クラーケンだ!! クラーケンが出やがった!!」

 

 

 

×

 

 

 

 クラーケン——通称・海の怪物。

 

 北欧の伝承に登場する海の魔物。中世や近代にかけて多くの船を沈めたとされる、船乗りたちがこの海でもっとも恐れる怪物である。

 その正体は巨大なタコ、あるいはイカとされていることが多いが、明確に決まった形があるわけではない。伝承によっては巨大なウミヘビやクラゲ、クジラがクラーケンなどと呼称されることもある。

 だがどのような個体であれ、共通しているのは——それがどうしようもなく巨大で、決して抗えない脅威であることだ。

 

 クラーケンとはまさに、海に生きるものたちにとっての絶望そのもの。

 

「あ、ありゃ……シュリーゲルじゃねぇか!?」

 

 このとき、海賊船を襲ったクラーケンはかなり特殊な個体だった。

 それは『シュリーゲル』と呼称されるものであり、その触手はイカのそれであったが、その胴体には——サメの顔が付いていた。

 

 フロリダ半島のバハマ諸島には、ルスカという怪物の伝承がある。まるでタコとサメの身体を掛け合わせた、自然界の法則を冒涜したような姿をしているというが、このシュリーゲルという個体もそれに近いものがある。

 いずれにせよ、海賊船バルドはクラーケンの襲撃を受けている。それは海賊たちにとって完全に想定外の出来事であった。

 

「なんだってこんな、日本の近海にシュリーゲルなんかいやがるんだよ!?」

「知るか!! おおかた、セイレーンの歌声に引き寄せられたんだろ!!」

 

 慌てふためきながらも、ペンギンたちはシュリーゲルの出現に疑問を抱き——その答えを出す。

 そう、本来であればクラーケンが日本の近海に出没するなどあり得ない。西洋でも遭遇するのが稀な海の怪物が、何故こんな場所に出現したのか。

 

 理由など明白——セイレーンだ。

 セイレーンの歌声の魔力が、クラーケンをこの海へと呼び寄せてしまったのだろう。

 

「そ、そんな……わ、私の……歌が……」

 

 これはエレにとっても予想外のことであったのか、ショックを隠しきれない表情で口元を手で覆っている。彼女ではこの事態に対処できる力もなく、成す術もなく空の上で呆然とするしかない。

 

『——ガァアアアアアアアアアアア!!』

 

 だがエレや海賊たちが呆然としている間にも、シュリーゲルは活動を始める。船体を締め上げていた巨大な触手、そのうちの数本を乗組員であるペンギンたちへと伸ばしてきたのだ。

 

「うおおおおおお!?」

「こ、この野郎!! こっち来んなや!!」

 

 その触手に抗うペンギンたち。彼らはその手に武器を持っていることもあり、なんとか抵抗することが出来ている。

 

「う、うぇええええええ!?」

「こ、こっちにも来た!?」

 

 しかし、人間たちはそうもいかない。束縛を解かれた身とはいえ、彼らは無防備な状態だ。

 その触手に掴まれたもの——キノピーが、シュリーゲルのサメの胴体、口の中へと引き摺り込まれようとしていた。

 

「き、キノピー!?」

「ひぇえええええええ!?」

 

 庄司がキノピーに駆け寄ろうとするが、間に合うわけもなく。あわや、シュリーゲルの犠牲者が——。

 

「——霊毛ちゃんちゃんこ!!」

 

 といったところで間一髪、寸前のところで鬼太郎が剣のように細めた霊毛ちゃんちゃんこで触手を切断する。

 

「た、助かった……」

 

 キノピーを命からがら、なんとかシュリーゲルの触手から抜け出すことが出来た。

 

「不味いぞ、鬼太郎!! このままでは……」

「キリがないわよ、こんなの!?」

 

 しかしいくら鬼太郎と猫娘といえども、無数に蠢く触手から全ての人々を守り切るなど不可能だ。

 このままでは遠からず犠牲者が、シュリーゲルの『餌食』になってしまうものも出てくるだろう。

 

「ふ、船が……し、沈んじまう!!」

「も、もうダメだ!!」

 

 さらにシュリーゲルがしがみついている船体、自分たちの海賊船がバラバラになってしまうとペンギンたちが狼狽えている。

 海の怪物の出現により、船上はかつてないほどの混沌へと陥っていた。

 

 

「——ガタガタ抜かしてんじゃねぇぞ、テメェら!!」

 

 

 だがそんな混乱の最中、叱りつけるように檄を飛ばす——海の男が一人。

 海賊船の船長・バーンズである。彼は自分の配下であるペンギンたちは勿論、敵対する鬼太郎や人間たちに向かっても喝を入れていく。

 

「たかがクラーケン一匹に、みっともなく騒ぐんじゃねぇ!! テメェら、それでも海の男か!?」

「「「か、カシラ!!」」」

 

 自分たちの船長の喝に、ペンギンたちがピタリとその動きを止めた。闇雲に動くことをやめ、船長からの命令を気を付けの姿勢で待つ。

 

「——まずはこのデカブツを船から引き剝がすぞ!! 大砲用意!!」

 

 手下たちの期待に応える形で、バーンズは的確な指示を下していく。

 まずは船体にしがみついているシュリーゲルを引き剥がすためにと、海賊船に常備されている『大砲』を準備するようにと命令を出した。

 

「あ、アイアイサー!!」

 

 船長命令に再びペンギンたちが慌ただしく動き出す。だが先ほどまでのように狼狽えた様子はない。船長の命令の下、確かな統率力でペンギンたちは自らの持ち場へと付いていく。

 

「第一小隊!! 準備完了!!」

「第二小隊……すいやせん、もう少し時間がかかりやす!!」

「おい!! うちらの大砲どこいった!?」

 

 それぞれの小隊が自分たちの担当する大砲を持ち出し、それをシュリーゲルへと向ける。しかし全ての小隊の準備がすぐに整うわけではない。焦りのせいか準備に手間取っている小隊もちらほらと。

 

「落ち着け! 合図があるまでは撃つな! 全砲門……一斉に放つんだ!!」

 

 バーンズはペンギンたちに、全ての大砲が準備できるまで待てと言う。

 それはシュリーゲルの巨体を考えたとき、砲弾の一発や二発を浴びせたところで効果は薄いだろうと判断してのことだ。

 どうせ放つのなら、全ての大砲による一斉射撃しかないと決断する。

 

「こっちだ、こっちに来い!!」

「ニャアアアア!!」

 

 ペンギンたちが大砲を準備している間、鬼太郎や猫娘がシュリーゲルの触手を引き付けていく。

 鬼太郎たちとしても、海賊たちと共闘するのは不本意かもしれないが、現状では彼らの作戦に乗るしかない。

 

「お、おい……大砲って、これじゃないか!?」

「せえーの、で動かすぞ……せえーの!!」

 

 庄司やキノピーといった漁師たちも、大砲を用意しているペンギンたちの動きを補助する。誰に言われるまでもなく、自然とそのような行動を取るようになっていた。

 

 そして——。

 

「——カシラ!! 全小隊……準備完了いたしやした!!」

 

 ペンギンたちから、全ての準備が整ったとの報告。

 

「よーし……」

 

 その報告を受けたバーンズは、一呼吸置いた後に——声を張り上げていく。

 

 

「——撃てぇええええええええ!!」

 

 

 瞬間、用意された何梃もの大砲が一斉に火を吹いた。数発、数十の砲弾——その全てがシュリーゲルの本体に着弾する。

 

『——グギャアアアアアアア!?』

 

 砲弾の直撃にシュリーゲルが悲鳴のような唸り声を上げた。船体にしがみついていた本体も仰け反り、その巨体が退いていく。

 しかし、シュリーゲルの肉体そのものはそこまでダメージを負っていない。大砲の一斉射撃といえども、それだけで倒せるほど甘い相手ではないということだろう。

 

「今じゃ、鬼太郎!!」

「はい!! 体内電気!!」

 

 だが、ここで目玉おやじの指示の下、すかさず鬼太郎が追撃を放つ。敵が船体から離れたことで他者を巻き込む必要がなくなったため、一切の遠慮なく全力の一撃——体内電気を海面に向かって解き放った。

 水は電気を通すと言うが、海水——特に塩水は電気の伝導率が高いとされている。鬼太郎の放射した体内電気が、海水からシュリーゲルの全身へと電撃を巡らせていく。

 

『————————!!』

 

 鬼太郎の致命的な一撃に、もはや悲鳴すら上げられなくなったシュリーゲル。肉体は黒焦げに感電し、その巨体が海中へと沈んでいった。

 

 

 

×

 

 

 

 海の怪物ことクラーケンを退治したことで、なんとか船沈没の危機を阻止した一向。これで事件は解決、一件落着でめでたしめでたし——とはならない。

 

「てめぇ、セイレーン!! よくもやってくれやがったな!!」

「この落とし前、どう付けるつもりだ……ああん!?」

 

 海賊ペンギンたちが、この事態を引き起こしたものへと激しく詰め寄っていた。

 

「…………」

 

 歌で船を沈めようとしたセイレーンのエレだ。彼女こそが全ての元凶であると、皆で包囲して責め立てていく。

 

「まったくだぜ!! 俺たちが海にいる間は歌わないって言ってたじゃないか!!」

「あの約束は嘘だったのかよ!?」

 

 海賊たちだけではない。キノピーを始めとした漁師たちも、ペンギンたちと一緒になってエレを責めている。

 約束を破られたと、その憤りは海賊たちよりも大きかったかもしれない。

 

「皆の衆!! 少し落ち着いてくれ……」

「何か事情があったのかもしれません……」

 

 そんな怒り心頭な人間たちを、目玉おやじがなんとか宥めていく。鬼太郎としてもエレを庇いたい気持ちはあるようだが、約束を一方的に破った彼女に対する不信感が拭いきれない様子である。

 

「ええ、全部私が悪いんです……もう、好きなようにしてください」

 

 一方で、エレは自らの非を素直に認めていた。

 逃げることも、抵抗するような素振りもなく。投げやり気味に自身の処遇を皆に委ねていく。

 

「覚悟出来てんじゃねぇか!! よーよーよー!!」

「なら望み通り、八つ裂きにして……!!」

 

 エレの殊勝な態度にも怒りが収まらないペンギンたち。ついには物騒な言葉を口にしながら、その手にカトラスなどの武器を握り始める。

 このままでは血を見ることになると、流石に止めに入ろうと鬼太郎は身構えるが——。

 

 

「——よさねぇか!! テメェらには、海の男の魂がねぇのか!?」

 

 

 ペンギンたちが実力行使へと走ろうとしたところ、凄まじい怒声を響かせて彼らを叱りつけたのは——船長のバーンズだ。

 海賊船のカシラという立場でありながらも、彼は船を沈めようとしたエレではなく、彼女を責め立てている配下のペンギンや漁師たちに怒声を浴びせていた。

 

「こうして素直に自分の行いを悔いているものに……どうして危害を加えられようか!?」

「な、何を言ってるでやんすか!? こいつの歌のせいで、あっしら……えれぇめに遭ったでやんすよ!?」

「…………?」

 

 まさかの船長からの叱責に、流石にペンギンたちも反論する。漁師たちも、彼が何故エレを庇うような言動を取るのか理解出来ないでいる。

 

「…………」

 

 そんな中、庄司一人だけはエレを責めるでもなく。何かを察するように静かに口を閉ざしている。

 

「お嬢さん……あんたは何も悪くねぇ」

 

 バーンズはエレを囲んでいるペンギンたちを押し除け、彼女を真正面に見据える。

 そして、エレが『何故あのような行動を取ったのか』その理由を口にしていく。

 

 

「……人間たちを、俺たちの手から助けようとしたんだろ?」

「——!!」

 

 

 バーンズの言葉に、鬼太郎やキノピーたちがハッと目を見開く。

 

「やっぱり!! あんたは俺たちを助けるために、約束を破ってまで……!!」

 

 これに庄司もやはりと、エレの行動が自分たちのためであったことを確信する。

 

 そう、エレは海賊たちの魔の手から人々を救うため。わざと歌声を響かせたのだ。

 実際、彼女のおかげで庄司たちは無事でいられた。もしもエレが歌で混乱を作ってくれていなかったら、今頃は海賊たちに庄司も鬼太郎たちも酷い目に遭わされていたかもしれない。

 それが結果として約束を破ることになったとしても、自分が憎まれ役になることになっても——エレは人々が傷つくことを止めたかったのである。

 

「……ごめんなさい。ちょっと驚かせればそれでいいと思って……けど、まさかクラーケンまで来るなんて思わなかったわ……」

 

 指摘されたこともあってか、エレは自身の行動理由を認めて深々と頭を下げる。

 だがシュリーゲルの出没までは予想していなかったのだろう。想像以上の混乱を呼び込んでしまったことを悔い、甘んじて罰を受ける覚悟でいたようだ。

 

「また犠牲者を出しちゃうところだったわ……やっぱり私の歌は不幸しか生まないのよ……」

「エレさん……」

 

 エレの本心から後悔している姿に、同じ女性として猫娘が寄り添う。

 

 今回の件だけではない。彼女はセイレーンという在り方に、ずっと苦悩を重ねてきたのだ。

 もしかしたら、ここで人々から罰せられることを心の奥底で望んでいたのかもしれない。だから、下手に言い訳をしなかったのだろう。

 だが——。

 

「お嬢さん、あんたみてぇな優しい人がそんなに自分を責めちゃいけねぇ」

 

 バーンズは力強く、なんでもないように言葉を重ねていく。

 

「たかが歌で船が沈むもんか。あんたの言い分は思い込みさ。セイレーンの歌が船を沈めるなんてのは、単なる迷信なんだよ」

「…………えっ?」

 

 バーンズはそもそもな話——セイレーンが歌で船を沈めるという伝承。それそのものを『与太話』だとキッパリと言い切る。

 これには、セイレーンとしてエレもキョトンとしている。

 

「沈みかけたでやんす!!」

「俺の船も沈んでるんだけど!!」

 

 これにペンギンたちや、自身の船を沈められているキノピーが異議を唱えた。

 事実として、セイレーンの歌声には船を沈める魔力が込められている。それ自体は決して間違った話ではない筈だが。

 

「なあ、お前ら……頭ん中のピーナッツバターこね回して、よーく考えろ」

 

 すると、そんなペンギンやキノピーたちに対し、バーンズは落ち着いた声音で順序立てて説明を重ねていく。

 

「この船の重さは軽く数百トンくれぇはある。そいつが沈まねぇで海に浮いているのはどうしてだ?」

「そりゃ……あっしらにはとんと……」

 

 船長からの突然の問い掛けに、ペンギンたちは言葉を詰まらせる。

 

 船が水の上を浮くのは『浮力』によるものだ。浮力とは、水の上の物体を下から押し上げようとする力。物体が大きければ大きいほど浮力は強く作用し、船を浮かせようとする。

 そして、どれだけ巨大な船だろうと基本的に中身は空洞になっており、この浮力よりも船が重くならないようにと計算されて設計されている。

 もしも、船が中身までぎっしりと詰まっていれば、浮力よりも重くなって沈んでしまう。逆に船の大きさと重さのバランスが取れている限り、理論上どれだけ巨大な船であろうと決して沈むことはない。

 

 だがそういった小難しい理屈を、ペンギンたちは分かっていない。

 

「ええっと……それは……」

 

 境港の漁師たちも。理解はしているのかもしれないが、それをこの場で言葉にすることが難しいのか、上手く答えられないでいた。

 

 そうして、何も答えられないでいる皆に代わって——バーンズは堂々と答えを口にしていく。

 

 

「——気力よ、男の気力で浮いてんだよ」

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 それは違うと、誰もがツッコミを入れたかっただろう。しかし言い出せるような空気ではない。

 皆が何も言えないでいると、さらにバーンズは自信満々に告げる。

 

「特に俺様の気力が百で、おめぇたちの気力は一くれぇだ。俺様の気力で浮いている船が、歌くれぇで沈むなんて本気で思ってやがんのか?」

 

 どうやら本気らしい。本気でバーンズは『男の気力』こそが、船を浮かしているものだと確信めいた口調で話している。

 そして、それが嘘ではないことを証明してやるとエレに向かって言い放つ。

 

「お嬢さん、嘘じゃねぇぜ。嘘だと思うなら、試してみな」

「ダメよ…………沈んじゃうわ…………」

 

 当然、その提案にエレも首を横に振った。

 試しに歌など歌って、今度こそ沈んでしまってはそれこそ犠牲者が出てしまうかもしれないのだ。

 

「かまやしねぇ!! ここにいるのはペンギンとセイレーンのあんた……俺はセイウチだか、オットセイだか、まぁ……なんか海獣だ」

 

 しかし、バーンズは一歩も引こうとしない。仮に船が沈んだところで問題はない、自分たちが海の中でも平然と活動できる生物であることを告げる。

 

「おい、お前ら!! お前らも船乗りなら……泳ぎの心得くらいあんだろ!?」

「え……? そ、そりゃ……まあ……」

「ゲゲゲの鬼太郎!! てめぇも妖怪なら、この程度のことでビビるんじゃねぇぞ!!」

「は、はい…………えっ?」

 

 ちなみに庄司や鬼太郎たちは海の生物ではないが、それでも泳ぐことくらいできるだろうと無理矢理にでも納得させていく。

 実際に船が沈められて一番困るのは、彼らなのだが——そんなこと知ったことではないと言わんばかりだ。

 

「さあ、歌いな!! 心の底から……」

「…………」

 

 そんなバーンズの根拠のない自信と説得に、とうとうエレは観念したのか。

 

 

「~~♪ ~~♪♪」

 

 

 次の瞬間——その口から、美しい歌声を響かせ始める。

 

 

 

「!! やっぱり来たでやんす!!」

 

 エレの歌声が聞こえてくるのとほぼ同時に、再び船体が揺れ始めた。爆弾でも爆発するようなその衝撃に慌てふためくペンギンたち。

 

「ビクついてんじゃねぇ!!」

 

 しかし、船長であるバーンズはピクリとも動かない。

 

「船長!! 左舷後方の穴が広がって……」

「いつものことだろ!! とっとと直せ!!」

 

 たとえ、船底に穴が開こうとも——。

 

「右舷、高波でやんす!!」

「波が怖くて海に出れるか!!」

 

 たとえ、どれだけ高い波に襲われようとも——。

 

「第三艦橋大破!! マジやばいでやんす!!」

「かまやしねぇ!! お前ら、肝が小せぇぞ!!」

 

 ペンギンたちからどのような損害報告を受けようとも、全く動じる様子もなく淡々と指示を下していく。

 そんな船長の堂々たる態度に応えようと、ペンギンたちも迷いなくトラブルに対処していく。

 

 バーンズからは海賊の親玉としての貫禄が。

 ペンギンたちからは、親分の期待に応えようとする忠義心のようなものを確かに垣間見えた。

 

「!! やばい!! 帆のロープが……!?」

「誰か……手の空いてるヤツはいないのか!?」

 

 だが続け様のアクシデントに、ついに人手が回らなくなってしまう。

 強風に煽られたことで、海賊船の帆を張るロープが切れてしまったようだ。すぐにでも支えなければ、バランスを崩した船が転覆してしまう恐れすらあっただろう。

 しかしペンギンたちはどこも手一杯、とても手を回せる状況ではなかった。

 

「——俺たちも手伝うぞ!!」

「——みんなでロープを引っ張るんだ!!」

 

 しかし、ここで彼らが——犬山庄司やキノピーといった漁師たちが手を貸していく。

 彼らにも海の男としての意地がある。海賊たちが船を沈めまいと必死に頑張っている横で、何もしないわけにはいかないのだ。

 

 自分たちも負けてはいられないと、ペンギンたちと共に船を保たせようと奮闘していく。

 

 

 

「〜〜♪ 〜〜♪♪ …………」

 

 そうして、エレはついに歌を一曲歌い終えた。

 一才の遠慮なく魔性の歌声を響かせた後でありながらも——船は沈んではいなかった。

 

 海賊たちは、漁師たちは見事に——セイレーンの歌を耐え切ったのである。

 

「見たかい? 本物の海の男の船は、歌如きで沈みなんかしねぇのさ」

「…………」

 

 この結果を前にバーンズが、それ見たことかとばかりにエレに向かってドヤ顔で誇る。

 エレはそんなバーンズに何も言えないでいる。

 

 勿論、こんなものは結果論だ。

 エレがさらに歌を歌い続けていれば、一歩でも何かを間違えていたら。この海賊船とて他の船のように沈んでいただろう。

 

 しかし、彼らは耐え抜いた。セイレーンの歌声を真正面から乗り越えたのである。

 その事実がエレに確かな衝撃を与え、彼女の憂いを僅かだが晴らしていく。

 

「へっへっへ……やるなぁ、人間ども! ちっとは骨があるじゃねぇか!!」

「あんたたちもな! 海賊なんて、ただの無法者の集まりかと思ったが……意外と根性あるんだな!!」

 

 さらには共に危機を乗り越えたということもあり、ペンギンたちと人間たちとの間に奇妙な一体感が生まれる。

 もはや海賊たちにこの海を荒らす気などなく、人々も彼らに対する敵対心をほぼほぼ薄れさせていた。

 

 

 

 

「な、何がどうなってるのよ……いったい?」

 

 そんな海の男たちの様子に、何が何だかよく分かっていない猫娘。彼女からすれば、海賊と漁師たちがどうしていきなり仲良くなったのか、いまいちその理由に納得が出来ないだろう。

 

「なんとも、呆れるほどの力技じゃ……しかし、結果オーライというやつかのう……」

「そうですね、父さん……」

 

 だが、目玉おやじは『セイレーンたるエレの悩み』や『海賊と漁師たちとの和解』。その両方に力任せな解決策を示したバーンズのやり方に呆れたため息を吐きつつ、どこか満足したように頷いている。

 鬼太郎も父親の言葉に同意を示しながら、その口元に笑みを浮かべる。

 

 

 ふと、空を見上げれば空が青々と晴れ渡っている。

 快晴の下、穏やかな波に揺られながら船乗りたちが互いに肩を寄せ合い、陽気な微笑みを浮かべ合っていた。

 

 




人物紹介

 海賊ペンギン
  原作ゲームを知らない人は「なんだこれ?」と思うかもしれませんが、ガチで原作に登場するペンギンたち。
  海賊だけどどこか抜けていて、妙な愛嬌のある面々。
  時々、語尾にやんすを付ける個体がいます。

 バーンズ
  海賊船の船長、ペンギンたちのカシラであるセイウチ。
  ゲームの公式設定によると、ペンギンたちは『自分たちより強い者をカシラにする』伝統があるとか。
  海賊として悪の道に走ることもあるが、義侠心も持ち合わせている本物の海の男。

 クラーケン
  海の怪物でお馴染み。
  一般的なイメージだと巨大なタコやイカになっていますが、その定義は意外と曖昧?
  今回はゲームにもボスとして登場する『シュリーゲル』という個体が、クラーケンの一種として登場。
  どのような見た目か分かりづらい方は『シャークトパス』で検索……だいたいあんな感じ。


次回予告

「境港に立ち込める暗雲……この凄まじい妖気は?
 西洋妖怪の皇帝!? かつて、あのバックベアードと覇を競った不死の怪物!?
 父さん! 境港に……かつてないほどの危機が迫っているようです!!

 次回——ゲゲゲの鬼太郎 『不死皇帝と煉獄の妖女』 見えない世界の扉が開く」

 次話も舞台は境港、『聖剣伝説レジェンドオブマナ』を題材にしたクロスオーバーになります。
 予告にもある通り、境港の街全てを巻き込んでの大騒動になる予定です。

 前書きに書きました通り、今年の更新はここまで。
 来年まで暫しのお別れです……少し早いですが、良いお年を!!
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