ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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取りあえず書きあがりましたので投稿。
クロスオーバー企画第三弾。『FGO』シリーズから『清姫』参戦!

今後も続けば数体の鯖を参戦させる予定がありますが、取りあえず最初の一人として、物語が書きやすい彼女を主役にしました。

鬼太郎的なテーマは『嘘』。


道成寺の清姫 其の①

 

 

 愛しくて、恋しくて――

 愛しくて、恋しくて、裏切られて――

 

 悲しくて、悲しくて、悲しくて――

 悲しくて悲しくて悲しくて――

 

 

 

 

 

 憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎――――

 

 

 

 

 

 

 だがら焼き殺しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけでだ!!」

「…………」

「…………」

 

 本来ならば、妖怪たちしか立ち入ることが許されない領域――ゲゲゲの森。

 清流のせせらぎで心癒される川辺の付近にて。汚いボロきれを纏った人間の男らしき人物が大勢の異形・妖怪たち相手に大声で演説をかましていた。妖怪たちは胡散臭いものを見る目を男へ向けながらも、彼の話に黙って聴き入っている。

 

「このねずみ男様がプロデュースする一大プロジェクト! 乗っかるってんなら、今しかチャンスはねぇぜ!!」

 

 彼の名はねずみ男。このゲゲゲの森の顔役とも呼べるゲゲゲの鬼太郎の親友を自称する男。妖怪と人間との間に生まれた『半妖』である。

 とにかく金に汚く、自分が儲けるためなら時としてその親友である鬼太郎すら平然と裏切る。稀にではあるが鬼太郎のために命懸けの行動を起こす人情味も持ち合わせてはいるが、基本、金にも食い物にも女にも意地汚い、どうしようもない男である。

 ねずみ男のそんな人柄を知っているためか、大半の妖怪たちは日頃から彼に対して警戒の糸を緩めない。

 

「そのぷろじぇくと……てやつに入会すれば、本当に簡単にお金が手に入んのか?」

 

 しかし、そんな警戒心を薄れさせながら、妖怪の一人・呼子がねずみ男の話に前のめりになって質問する。

 

「おう、あったりめえよ! お前たちの努力次第で、いくらでも稼ぐことができるぜ!!」

 

 現在、ねずみ男が妖怪たちに話している一大プロジェクトとは――身も蓋もない言い方をすれば、ただの『ねずみ講』である。『マルチ商法』や『MLM』とは違い、今の日本社会では完全に違法なブラックな商法だ。

 勿論、人間たち相手にそれを行えばすぐに捕まる。だが、相手が法的に守られていない妖怪であれば、何の問題もないとねずみ男は考えた。

 今の世の中、妖怪でさえある程度金を溜め込んでいる。その金を掠め取ろうとさらに彼は熱弁を振るう。

 

「しかもだ!? 今加入すれば、何と入会金が通常の半額!! これを逃さねぇ手はねぇぞ!!」

「う~ん、なるほど……?」

  

 ねずみ男のさらなる追い打ちに、呼子を始めとした幾人かの妖怪が腕を組んで頭を悩ませる。

 このねずみ男、半妖として人間社会で相当の修羅場を潜ってきている。そして、このゲゲゲの森に住みついている妖怪というものは、基本的に人間社会の情勢に疎いものが多い。

 彼が本気になって話術を用いれば、世間知らずな妖怪たちを丸め込むなど造作もないことであった。

 

 ――けけけ……もう少しで何人か墜とせそうだな、へっ! ちょろいもんだぜ……。

 

 悩む妖怪たちに、ねずみ男は心の中で舌を出す。

 当然、ねずみ男は最初の入会金とやらを受け取ればすぐにでも雲隠れするつもりだ。暫く身を隠し、ほとぼりが冷めたところでまた戻り、適当な理由を付けて言いくるめればいい。

 

「さあさあ、どうする!? 得しかねぇ話だ! これを逃す手はねぇと思うぜ!?」 

 

 とりあえず、今日明日多少の贅沢が出来るだけのまとまった金があればいいと、ねずみ男は学のない妖怪たちを急かし始める。

 

 だが不幸にも――その日に限り『彼女』が、ねずみ男が話していたすぐ側を通りかかってしまった。

 

「――――『嘘』を……ついておいでですね?」

「……あん?」

 

 突然、ねずみ男の話に割って入って来たのは幼い少女だった。

 緑髪で、白拍子風の着物を纏った中学生くらいの美少女。頭には一見すると髪飾りのようにも見える、白い二本の角を生やしている。

 このゲゲゲの森に立ち入れたことや、その角から妖怪であることがわかる。

 その少女は神秘的な雰囲気、どこか品のある上品な言葉遣いで、さらにねずみ男の『嘘』について言及し始める。

 

「その方は嘘をついておいでです。得しかないなど……心にもないことを仰って……」

「おいおい、嬢ちゃん、人聞きの悪いこと言わねぇでくれよ!」

 

 彼女の指摘にギクッとしながらも、ねずみ男は咄嗟に言い返す。せっかくあとちょっとで金を騙し取れるところなのだ。こんなところで台無しにされてたまるかと、凄むように少女に声を張り上げた。

 

「俺はコイツらのためを思って今回の儲け話を持ち掛けてやったんだ! 誰だか知らねぇが、邪魔するようならどっか行ってくれや!!」

 

 自分の商売の邪魔をさせまいと、ねずみ男はさらに『嘘』を重ねて少女をシッシと追い払う。

 しかし、それがさらに少女の逆鱗に触れる行為だということに彼が気づくことはなかった。

 

「あらあら……まあまあ……」

 

 ねずみ男の『嘘』に――少女はお上品に扇子で口元を隠しながら笑みを浮かべる。

 

「また嘘ですか……嘘に嘘を重ねて……まったく、どうしようもない人ですこと……」

 

 にこやかな微笑みではあるが、その瞳の奥は――まったく笑ってはいなかった。

 まるで生ごみでも遠ざけるような視線をねずみ男に向け、徐々にその語気を強めていく。

 

 そして――

 

「そんなどうしようもない人は――燃えるごみとして焼却しなければなりませんね!」

 

 次の瞬間、少女の体から――『炎の柱』が迸る。

 

「ひ、ひぇええ~!?」

 

 メラメラと燃え盛る真っ赤な炎。火の気のないゲゲゲの森に突如君臨した災害を前に、呼子を始めとするねずみ男の話に乗っかろとしていた妖怪たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 

「――へっ?」

 

 そんな中、一人逃げ遅れるねずみ男。立ち尽くす彼に容赦なく怒りの業火が襲い掛かる。

 

「――あっち!? あっちぃいいいいいいいいいい!!」

 

 ねずみ男は瞬く間に火だるまとなり、体に燃え移った火を消そうと必死に地べたを転がり回り、最終的に近場にあった川へ飛び込んで炎を鎮火する。

 なんとか火は消し止められ、黒焦げになったねずみ男の焼死体(一応息はある)がプカプカと川に浮かび上がった。

 

「――なんの騒ぎだ?」

「――全くうるさいのう……静かにせんと、チューするぞ!!」

 

 妖怪たちの悲鳴を聞きつけ、たまたま近くを通りかかったゲゲゲの鬼太郎、そして砂かけババアがその場に現れる。

 

「ああ……お騒がせして申し訳ありません」

 

 現場に駆け付けてきた彼らを前に、清姫は素直に炎を引っ込めた。

 

「目の前に大声で嘘を付いている恥知らずな輩がおりましたので……私ったら、ついうっかり燃やしてしまいましたわ、ふふっ」

 

 チラッと焼け焦げたねずみ男を見下しながら、少女はにこやかに鬼太郎たちへ頭を下げる。

 

「見ない顔じゃな、お嬢さん。君は……どこの妖怪かのう?」

 

 鬼太郎の頭からひょっこりと顔を出す目玉おやじ。

 ねずみ男が酷い目に遭うのはいつものことと、黒焦げになった彼のことは目もくれず、目玉おやじは初対面である少女の妖怪に何者かと問いを投げかける。

 その問い掛けに、少女はさらに恭しく姿勢を正して挨拶の礼を述べた。

 

「あらあら……私としたことが、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 

 

 

「私――『清姫』と申します。以後お見知りおき下さい。ゲゲゲの森の皆々様――」

 

 

 

×

 

 

 

「清姫か。確か……『今昔物語集』にも載っとる。紀州辺りの妖怪だったかのう?」

「あら、よくご存じで……」

 

 清姫の自己紹介に砂かけババアは茶を啜りながら古い記憶を辿っていく。自身のことを知っている砂かけババアに清姫は微笑みを向けながらこちらも茶を啜っている。

 先ほどの騒ぎから離れ、現在清姫はゲゲゲハウスにお邪魔していた。そこで鬼太郎や砂かけババアと机越しに向かい合い、お茶を頂く清姫。

 彼女はこのゲゲゲの森にいたるまでの道中を、自身の成り立ちから語って聞かせていく。

 

 

 

「時を遡ること千年ほど前。舞台は紀州……今でいう和歌山県から私の物語は始まりました」

 

 もともと清姫は人間――それも豪族、所謂貴族の出身だった。 

 彼女は豪族の一人娘として、それはそれは大切に育てられた。蝶よ花よと愛でられ、いずれは相応しい家柄の下へと嫁ぎ、人としてささやかな生を終える――その筈だった。

 だがその日――彼女は人生を狂わせる運命の出会いと遭遇する。

 

「あの日、私の生家にあの御方が……安珍様が訪れて下さったのです!」

 

 清姫が夢見る乙女のように語る安珍様とは、お坊さん――旅の僧のことである。

 当時、修行僧が宿を貸してくれと頼んでくることは珍しいことではなかった。だが清姫はよりにもよって、一夜の宿を借りに来たその修行僧に一目惚れしてしまったのである。

 

「あの方こそ私の運命の相手……翌朝には旅立ってしまうあの方の下へ、私は一夜を共にしようと夜這いをかけたのです!!」

「ぶぅー! よ、夜這い!?」

 

 あまり興味無さそうに話を聴いていた鬼太郎が、そのとんでも発言に茶を吹き出す。

 ちなみに当時の常識としては男性が女性に夜這いをするのが一般的であり、女性が男性に夜這いをかけるのは絶対にあり得ない。ましてや当時、清姫は十二歳――今でいう小学生である。

 

 『小学生』である。

 

 いかに結婚の早かった時代とは言え、流石に早すぎる。ましてや安珍は旅の僧。当然の如く彼は清姫の誘いを断った。

 

「すげなく断われる私……けれど、私は諦めませんでした!!」

 

 だが想いを断ち切ることができず清姫は食い下がる。そんな彼女に――安珍はひとつの『約束』を交わした。

 

『――帰りにはきっと立ち寄るから』

 

 清姫はその言葉を信じ、大人しく安珍に別れを告げた。きっと帰りの道中で立ち寄ってくれるであろう彼を待ち続ける日々が始まる。

 

「ですが……約束の日。待てども待てども安珍様は来てくれませんでした。日が落ち、足が棒になり、最後まで私はあの御方をお待ち申し上げておりましたのにっ!!」

「……う、うむ。それは大変じゃったのう」

 

 段々と熱を帯びていく清姫の語り口。彼女には火を操る能力があるらしいが、その炎を上手く制御できず、漏れ出た火の粉が飛び火し、目玉おやじたちが肝を冷やす。

 自身の能力を制御できなくなっていることにも気づかず、さらに清姫は熱く語る。

 

「そう……その時になって私は気づいてしまったのです。あの方が私との約束を破ったことに――」

 

 安珍が――『嘘』をついていたことに。

 

「私は必死にあの方の後を追い掛けました。もう一度お逢いしたくて、何故嘘をつかれたのか確かめたくて……」

 

 清姫は安珍の背中を求め、彼が辿ったであろう後を走って追いかけた。

 当時、清姫のような位の高い女性は歩くことすらはしたないと思われていた時代。それが身綺麗な格好のままで飛び出し、着物を振り乱して走る様は実に異様な光景に見えたことだろう。

 

 激情と憤怒に駆られて追跡を開始した清姫。彼女は走って、走って、走り続け――。

 執念の果て、ついに安珍に追いついた。しかし――彼の名を叫ぶ清姫に安珍は無情にもこう言った。

 

『――人違いです』

 

「ええ、嘘に嘘を重ねたのです。そのような不誠実……どうして許すことができるでしょうか?」

「う、うむ……そうじゃな。嘘はいかんな……」

 

 完全に病んだ目つきで語る清姫に迂闊なツッコミを出来ず、適当に相槌を打つ砂かけババア。 

 そして、ついに『安珍・清姫伝説』はクライマックスへと差しかかる。

 

「怒りのあまり……私はその身を人であることを保つことができなくなりました。気が付けば、私の体は人ならざるモノ――巨大な大蛇となって、安珍様に襲い掛かったのです」

 

 可愛さ余って憎さ百倍。安珍に裏切られた絶望と怒りが清姫を妖怪として転身させてしまったのだ。大蛇となった清姫に理性はなく、ただ安珍を求める怪物として彼に襲い掛かった。

 

 清姫から安珍は命からがら逃げ出し『道成寺』という寺に助けを求めた。

 彼女をやり過ごすべく、寺の住職は鐘撞につかう鐘をおろし、その中に安珍を隠して匿った。

 

 だが――不運にも安珍の草鞋の紐が鐘の外にはみ出し、彼は清姫に見つかってしまう。

 

 ああ、あわれ。逃げ場を失くした安珍は清姫の炎で蒸し焼きになって殺されてしまう。

 その時の情景が、現代にもわらべ歌として伝わっている。

 

『トントンお寺の道成寺 釣鐘下ろいて身を隠し

 安珍清姫蛇に化けて 七重に巻かれてひとまわり ひとまわり』

 

 

 

「うむ、そうじゃったな。確かその後……お前さんは絶望に悲観し、入水自殺を遂げたという話じゃったが……」

 

 当事者から話を聞き、砂かけババアはうろ覚えだった清姫・安珍伝説の詳細を思い出す。彼女の記憶が確かであればその後、清姫は安珍の後を追って自殺した――という結末になっている。

 しかし、当人が言うにはその下りには若干の相違点があるらしい。

 

「ええ、私もそうしようと思ったのですが……そこに偶然、法師の一団が通りかかりまして……」

 

 寺の住職が安珍を救うべく助けを求めた際、たまたま近くに法師の一団がいたという。残念ながら安珍救出には一歩遅かったものの、その法師たちは怒り狂う清姫を鎮め、その地に彼女を封じたという。

 

「そのまま封じられて千年……つい数年ほど前、何かの拍子で封印が壊され私は現代に蘇りました」

 

 千年もの長きの間封じられていた清姫は、そうして現代に解き放たれた。蘇った彼女は角こそ生えてはいたが、ほとんど人の形を保っていた。

 思考も些か冷静になり、自身のこれからを考え、彼女は自らの『願い』を叶えるべく旅に出ることになる。

 

「そう! 今度こそ安珍様と添い遂げるべく……私はあの方を捜し求める流浪の旅に出ることにしたのです!」

「……えっ? 安珍さんは君が……その、焼き殺したんじゃないのか?」

 

 清姫の出したその結論に鬼太郎が些か困惑する。

 焼き殺した筈の安珍を捜す? それも千年後のこの現代で?

 

「ええそうですとも……安珍様は死に、嘘つきの罪できっと地獄に堕ちました。けれど、あれから千年も経っているのです」

 

 いったいどういうことかと鬼太郎が尋ねるが、清姫は特に取り乱した様子もなく答える。

 

「それだけの時があればきっと生前の罪を償い終え、輪廻の輪を潜りこの世に転生している筈。生まれ変わった安珍様の魂と添い遂げる。それこそ、現代に蘇った私の切なる望みなのです!!」

「ああ……なるほど、そういうことじゃったか……」

 

 清姫の主張に呆れながらも目玉おやじが納得する。

 

『輪廻転生』という考え方が仏教にある。

 死んであの世に還った霊魂が、再びこの世に生を受けることだ。清姫は安珍の魂も生前の償いを終え、この現代に転生していると考えたのだろう。途方もない話に思えるが、一応辻褄は合っている。

 

 そうした旅の途中、清姫はこのゲゲゲの森に立ち寄り、ねずみ男が『嘘』をつく場面に遭遇した。

 

「どういうわけか私……他人の嘘がわかってしまうのです。あの小汚いねずみは臆面もなく堂々と嘘八百を並べ立てていましたので、ついうっかり燃やしてしまいましたの、ふふっ」

 

 今の姿に留まった清姫には二つの力が備わっていた。

 炎を操る力と、人の嘘を見抜く力である。二つの能力を駆使し、清姫はねずみ男にお仕置きを与えたのだろう。

 そこをたまたま鬼太郎たちが通りかかり、今にいたる。

 

「ま、まあ……見つかるかどうかは別として、今日はもう遅い。袖振り合うも他生の縁じゃ。今日はこの森でゆっくり旅の疲れを癒すといい。オババよ、一晩彼女を泊めてやってはくれんか?」

「ん……ああ、ワシは構わんが?」

 

 清姫という妖怪の根本をとりあえず理解した目玉おやじ。長々と話していたためか既に外が暗くなりかけていることもあって、目玉おやじは今日一日、このゲゲゲの森に泊まることを清姫に提案する。

 相手が女性であることから、砂かけババアの家に。砂かけババアもその提案に不満を述べることなく頷く。

 

「……そうですわね。そうさせてもらうと助かります」

 

 彼らの提案に清姫はにっこりと笑顔を浮かべ、感謝の意を示していた。

 

 

 

 

 

「――父さん、彼女……大丈夫でしょうか?」

 

 砂かけババアの家にお邪魔するべく、ゲゲゲハウスを後にする清姫の後ろ姿を小窓から鬼太郎が心配そうな表情で見下ろす。このとき鬼太郎が不安に思ったのは彼女の旅路ではない。彼女の妖怪としての『在り方』だ。

 

 嘘をついたという理由でねずみ男を消し炭にした清姫。相手が無駄に頑丈なねずみ男だからこそよかったものの、あれをもしもただの人間相手にやれば大惨事である。

 愛した男性に騙されて傷ついた彼女の気持ちはよくわかったが、ただ嘘を付かれたという理由であの調子で暴れられても困る。

 おそらく、このゲゲゲの森にいたるまでの道中でも、似たような騒ぎを起こしてきたと容易に想像できる。

 

「うむ、普通に話す分には問題なさそうなんじゃがな……」

 

 目玉おやじも鬼太郎と同じ懸念を抱く。しかし清姫とて、こちらが嘘を交えずに話す分には見た目に違わぬ普通の少女然としていた。

 穏やかで淑やかな振る舞い、非常に礼儀正しい態度で鬼太郎たちと接していた。安珍の嘘を振り返る場面で幾度となく『危険なオーラ』を纏ってはいたが、それを理由に退治するわけにもいかない。

 

「あまり人々に迷惑を掛けなければよいのじゃが……」

 

 とりあえず、目玉おやじは暫く様子を見るしかないと呟きを漏らす。

 

 これからの旅の道中、嘘を理由に彼女が『大惨事』を起こさないことを信じて――

 

 

 

 

 

「――なるほど。嘘を見抜く力ねぇ……」

 

 だがこのとき、ゲゲゲハウスの裏側で鬼太郎と清姫の会話を盗み聞きしているものがいた。

 

 ねずみ男である。

 

 大事な一張羅を真っ黒こげにされながらも、一命を取り留めた彼はなんとか自力で這い上がり、鬼太郎たちと清姫の様子を窺っていた。

 彼女の身の上話から、何か弱みでも握って仕返しできないかと小さな復讐心を滾らせながら、彼はこっそりと耳をすませる。

 だが、清姫の持つ能力――『嘘を見抜く力』とやらに着目し、ねずみ男はその瞳をギラつかせる。

 

「確かにやっかいな能力かもしれねぇな~……けど――」

 

 嘘や御託を並び立てて人を煙に巻くことを得意とするねずみ男にとって、彼女の力は脅威ではある。しかし――

 

「バカとハサミは使いよう……てね、シッシシ!」

 

 彼はいやらしい笑みを浮かべながら、その力を上手く利用する手段を思いついていた。

 

 

 

 金儲けの手段として――。

 

 

 

×

 

 

 

「それではお世話になりました、おババ様」

「うむ、道中……気を付けるんじゃぞ」

 

 翌日の早朝。砂かけババアの家に一晩泊めてもらった清姫。彼女は砂かけババアに別れの挨拶を済ませ、再び安珍を捜す旅の出るべく、ゲゲゲの森の出口へと向かっていた。

 朝早くということもあり、誰ともすれ違うことなく清姫は木漏れ日が降り注ぐ中を歩いていく。

 だが出口まであと少し、といったところで――。

 

「よお! 待ってたぜ、お嬢ちゃん!」

「あら、あなたは……」

 

 そこで清姫の到来を待ち構えていたねずみ男に遭遇する。顔を合わせるや、清姫は生ゴミを見るような目つきでねずみ男を見下す。 

 

「ああ……昨日の嘘つきさんではありませんか? 何ですか? 性懲りもなく燃やされにきたのでしょうか。懲りない困ったお方ですこと、ふふっ」 

 

 昨日の第一印象から清姫がねずみ男に抱く印象はマイナス評価。彼女は自分の眼前に立ち塞がる彼を問答無用で消し炭に変えようと、メラメラと炎を焚き始める。

 殺気立つ清姫に、ねずみ男は慌てて彼女を制止する。

 

「ちょっ!? たんま! たんま! 昨日は俺が悪かったって! お詫びといっちゃなんだが……アンタにいい儲け話を持ってきたんだ。どうだい、アンタも一口噛まないか?」

「……はぁ? 儲け話ぃ~?」

 

 ねずみ男の口から出た言葉に、呆れた様子で清姫は『小汚いネズミ』に絶対零度の視線を向ける。

 

「馬鹿馬鹿しい……どうして私がそのような話に乗らなければならないのか、理解できませんね。私、別にお金に困っているわけじゃありませんので」

 

 清姫という妖怪は特にお金がなくても生きていけていた。ここまでの道中も徒歩、交通費なども必要としなかったし、基本寝泊まりも野宿だ。

 食料などもその辺の野生の鹿や猪を捕まえ、自前の炎で適当に調理して食してきた。

 特に贅沢がしたいわけでもない、安珍を捜し出すことこそ彼女の全てなのだ。人間社会に潜り込んでまで、お金を必要とはしていなかった。だが――

 

「へぇ~そうかい。それじゃあ聞くが……これからこの先、どうやって安珍とやらを捜し出す気だい?」

「……?」

 

 ねずみ男の意味深な問いに、彼を燃やすため炎を飛ばそうとしていた清姫の動きが止まる。彼女が疑問符を浮かべたチャンスを逃さず、ねずみ男は捲し立てる。

 

「聞いたぜ、お嬢ちゃん。アンタ……安珍って坊さんの生まれ変わり捜してるんだってな? けど、この世界は広いぜ? 闇雲に捜しまわったところで、そう簡単に見つかる訳がねぇ……」

「何ですって……?」

 

 安珍は見つからない。その言葉にビキリと額に青筋を浮かべる清姫。しかし怒れる表情の清姫にも臆さず、ねずみ男は続ける。

 

「いやいや、落ち着けって……俺が言いたいのはもっと効率よく捜す方法があるんじゃないかってことさ。たとえば……これだっ!!」

 

 そう主張しながら、ねずみ男は画面の割れた自身のスマートフォンを清姫に見せつける。

 

「……なんですか、その小汚い板のようなものは?」

 

 現代に蘇って日が浅いためか、一目でそれが何なのか理解できない清姫。ねずみ男はスマホというものがいかなる代物なのか。現代文明に疎い清姫にも分かるよう、懇切丁寧に説明してやる。

 

「――なるほど。俗にいう『いんたーねっと』というやつですね。聞いたことくらいはありますが……」

 

 ねずみ男の話を聴き終え、とりあえず清姫はある程度のことを理解する。どうやら、インターネットに関する知識はこれまでの旅の道中で耳にしたことくらいはあるようだ。

 

「おうよ!! こいつを使えば、掲示板で世界中の人間に問いかけることができるんだぜ! 『安珍様を捜してる。どこかで見かけませんでしたか?』ってな!!」

 

 答えてくれるかは別問題だが、確かにねずみ男の言うとおり。掲示板や知恵袋といったサイトに書き込みすることはできる。それにより、清姫が安珍を捜している事実を世界中の人間に報せることができる。

 

「だが、こいつを手に入れるのにも、運用するのにも少なからず金が要る。悲しいがそれが資本主義ってもんなのよ……」

 

 達観した様子でうんうんと頷きながら、さらにねずみ男は畳みかける。

 

「それに、まとまった金があれば懸賞金を掛けて人に安珍の行方を捜させることも出来るし、興信所……探偵って奴等に安珍の捜索を正式に依頼することだって出来るんだ。どうでい? あんた一人で闇雲に捜すより、遥かに効率的だと思わねぇか?」

「む……そ、それは確かにそうですが…………」

 

 ねずみ男の提案に清姫の心が揺らぐ。

 実際、ここ数年は彼女が一人で安珍を捜しており、手掛かり一つ掴めないでいる。いつか巡り合えると心の奥底から信じてはいるが、一日でも早く会いたいというのが彼女の正直な心情だ。

 それが実現できるというのならば、そういった手段も悪くないと思える。

 

 そして――清姫にとって何より大事なことなのだが。

 それはここまでの話で、ねずみ男が『嘘を何一つ付いていない』ということだった。

 

 結局のところ、清姫にとって他人という生き物は嘘を『ついているか』『いない』かで評価が二分される。

 それまでねずみ男にきつい態度をとっていたのは、初対面に彼が嘘を付いていたからだ。嘘のない情報を自分にもたらした時点で、清姫の中の彼に対する評価は大分上向きに修正されていた。

 

「……まあ、いいでしょう。とりあえず……話だけでも聞いてあげます。私に何をお望みで?」

 

 とりあえず話を聞く態勢になり、炎を引っ込める清姫。

 もし、ここでねずみ男が『体を売れ』などとほざいていれば、清姫とて顔を真っ赤に今度こそ、塵一つ残らず彼を焼き尽くしていたことだろう

 だが、このときねずみ男が考えていた金儲けの手段は清姫が思いもつかない方法だった。

 

「な~に……簡単なことさ。アンタのその嘘を見抜く力。そいつをちょっとばかし貸して欲しいだけなのよ、くくくっ……」

「???」

 

 実際に口にされた時点でも、それがいかなる方法なのか清姫には想像も出来なかった。

 

 

 

×

 

 

 

「――もう限界! 離婚よ!」

「――ああ、いいぜ!! こっちだって、お前の我侭にこれ以上振り回されてたまるか!!」

 

 現在、たった今離婚を宣言した一組の夫婦がいた。

 原因は性格の不一致、暴力、精神的な苦痛、浪費癖、性的不調和と家庭によって様々だが、その結論に到達する夫婦は決して珍しくない。

 そして、いざ離婚となれば問題となるのは『財産分与』である。

 誰だって貧乏は嫌だろう。幸せになる筈だった自分の人生をぶち壊した相手には一銭だって払いたくない。少しでも自分が有利な立場で離縁したく、ありとあらゆる手段で相手側に非を認めさせたい。

 

「……あんた、浮気してたでしょ?」

 

 そんなときに一番手っ取り早い手段が『浮気』である。離婚の原因に浮気を認めさせれば、ほぼ100%裁判でも有利に立てる。当然、そんなことは相手側も承知の上。だからこそ、浮気を疑う妻の言葉に夫ははぐらかすように答える。

 

「はぁ? してねぇよ……そんなもん!!」

 

 実際に浮気をしていても、ここで素直に頷く者はいない。だからこそ、離婚を切り出す前に探偵などに浮気調査を依頼するのが一般化しているのだが。

 このとき、妻がとった手段は思いもよらない方法だった。

 

「へぇ~、シラを切るつもり? いいわ……先生お願いします!!」

「あっ? なんだこいつら……?」

 

 既に準備をしていたのか、妻が声を上げると同時に部屋の中に一組の怪しい男女が現れる。

 

「いや~、どーもどーも。此度はご利用ありがとうございます!」

「…………」

 

 小汚い恰好をした男に、身綺麗な着物らしき和服に袖を通す美少女。愛想笑いを振りまく男とは対照的に、少女の方は冷たい視線を夫へと向けている。

 二人の風体に怪しむ夫に対し、妻は再び問い尋ねる。

 

「もう一度聞くわ。あんた『浮気』してたでしょ?」

 

 しつこく食い下がる質問に、夫は苛立ちながら吐き捨てる。

 

「だから……してないって、『浮気』なんて! 何度言ったら――――」

 

 たび重なる追及にキレかける夫。しかし、夫が何かを叫ぶ前に――

 

「――はい、『嘘』です」

「!?」

 

 夫の言葉を嘘と断定する少女の言葉が冷淡に響き渡り、彼の心胆をギクリと凍えさせる。

 実際、夫は浮気をしており、今回の離婚騒動もそれを発端とした互いの心のすれ違いが原因である。だが、それを認めれば自分が悪者になってしまう。夫は言い逃れをするのに必死だ。

 

「い、いきなり何を言ってるんだ、アンタ!? だいたい……何を証拠にそんなことをっ!?」

 

 どうして自分の嘘がバレたのかは不明だが、証拠がなければ裁判に取り上げられることもない。

 しかし、妻は追及の手を緩めない。複数の女性の写真を机の上に取り出し、一つ一つ指さしながら夫への尋問を続けていく。

 

「浮気をしてるのはこの子? それともこっちの女? 白状しなさい!!」

「だ、だから浮気なんてしてないって……なんなんださっきから!!」

 

 しつこく食い下がる妻に、夫はまだ誤魔化しきれると怒鳴り声を上げる。ところが――

 

「……右から二番目の女性。彼女を指さされたときに『嘘』をつきましたわ」

「なっ!?」

 

 またしても夫の言葉を嘘と見抜く少女。しかも、今度はピンポイントで浮気相手まで言い当ててしまう。

 

「って……課長の奥さんじゃない!? あんた、そんな人に手を出したの!?」

「おやおや。これは所謂、ダブル不倫……てやつですね? いやはや、恐れ入りました」

 

 驚く妻にニヤニヤと笑みを浮かべる小汚い男。一方、続けざまに嘘を直に言い当てられ、夫は内心テンパっていた。

 

「な、なな……なんなんだよ! 俺がその人と……どうやって浮気したっていうんだよ!?」

 

 しかしまだ大丈夫だと。夫は最後まで黙秘を貫こうと覚悟を決めたところで、今度は小汚い男の方が詰め寄ってくる。

 

「『自宅』『職場』『上司の家』『ホテル』……」

「――っ!?」

 

 小汚い男は浮気場所の候補と思われる名前を口にしていく。すると――

 

「ホテル……という部分で厭な匂いがしました。おそらく逢引先はそこでしょう……汚らわしい!!」

「ひぃっ!?」

 

 今度は贔屓にしていた浮気場所までズバリと言い当てられ、夫は少女に対し恐怖心を抱く。

 何故こうも次から次へと自身の嘘を見破ってしまうのか。自分に侮蔑の表情を向けてくる少女の存在に、ついに夫は腰を抜かしてヘタレこんでしまう。

 

「さあ!! この調子で洗いざらい吐いてもらうわよ!!」

 

 完全に戦意を喪失した夫へ、妻はさらに猛攻を仕掛けていくこととなる。

 

 

 

 

 

 一時間後。

 

「ありがとう……これは今回の謝礼よ」

「毎度あり!! また何かお困りの際は、ビビビサービス『嘘見破り相談室』までご連絡を!」

 

 あれから何度も質問を重ね続け、ついに夫は浮気相手との不倫を認めた。この証拠を裁判所に持ち込めば、妻の勝訴は確実。妻は今回の功労者――嘘見破り相談室所長、ねずみ男に分厚い封筒を手渡す。

 

「それじゃ……次の依頼がありますんで!」

 

 金を受け取るや、ねずみ男は用は済んだとばかりに車に乗り込む。後部座席には『嘘を見抜く』という仕事を終えた清姫が仏頂面で座り込んでいた。

 彼女を連れ、ねずみ男は次なる依頼人――『彼女の嘘を見抜いて欲しい』という男性の下へと車を出す。

 

 

 これこそ、ねずみ男が考え付いた金儲け――『他人の嘘を見抜くこと』を商売にするサービス業である。

 

 

 今の世の中、大半の人間が人には言えないような秘密や本音といった弱みを隠しながら生きている。

 そこに隠されている『嘘』を見抜き、揺さぶりや脅しを掛けることで利益を上げることをねずみ男は思いついた。

 先ほどの離婚相談での浮気相手の調査など序の口。既に何件かの依頼をこなし、ねずみ男と清姫の『嘘見破り相談室』は多額の利益を得ていた。

 

 あるときは、恋人の嘘を見抜いて別れさせてくれと若い男女に頼まれ――。

 あるときは、同僚の弱みが真実かどうか確かめてくれと平凡な会社員に依頼され――。

 またあるときは、組織の大事なブツをどこかへと隠した売人の口を割らしてくれと協力を求められ――。

 またあるときは、テキ屋のインチキを証明してくれと動画投稿者に同伴を求められた。

 

 当初、インチキ臭いとネットで叩かれたりもしたが、清姫の嘘を見破る力が本物であることが仕事を通して証明され、口コミで評判が爆発的に広がり、さらに依頼者の数は激増していく。

 

「うししっ! 今日も絶好調だぜ!」

 

 右肩上がりの収益に、ねずみ男はホクホク顔で笑いを堪えきれずにいる。

 その一方で――。

 

「……………………ふぅ~」

 

 依頼をこなせばこなすほど、清姫のストレスは加速度的に増していく。

 

 

 

 この仕事を始める前、清姫はねずみ男から何度も念を押された。

 

『――いいか? 相手が嘘を付いても、手を出してくるまでは燃やそうとすんじゃねぇぞ? 客が来なくなっちまうからな……』

 

 嘘を蛇蝎の如く忌み嫌う清姫にとっては、まるで理解できないことばかりだ。

 

 どうして、わざわざ嘘を付いてまで自身の弱みを隠そうとするのか。嘘で取り繕うくらいなら、最初から弱みなど作らなければいいのに。

 この商売だってそうだ。何故他者の嘘を見抜くことを、これほどまでに望む依頼人が後を絶たないのか。

 どうして嘘を付いた不埒者に手を出してはいけないのかと、清姫は怒りを抑えきれずにいる。

 

 ――けど、これも安珍様のため、安珍様のため…………。

 

 だが、必死に自分に言い聞かせることで、何とか清姫はこの『嘘だらけの仕事』を耐え抜いていた。

 

 あとちょっと、もう少しすれば目標金額まで到達する。そうすればまとまった金が手に入り、探偵とやらに大金を使って安珍を捜させることができる。

 そうすれば、こんな不愉快な仕事ともオサラバだと、最後まで我慢することを安珍へ捧げる愛に誓う清姫――。

 

 

 

 

 だが、その我慢が――既に限界ギリギリまで来ていたことを、ねずみ男も清姫自身も気づけずにいた。

 

 

 

 




登場人物紹介

 清姫
  ご存じヤンデレバーサーカー。
  今回はサーヴァントなどの設定がないので、あくまで生身の妖怪としての登場。
  性格や行動原理などは、ほぼ原作に近づけています。
  彼女の物語を詳しく知りたい方は『教えてFGO! 偉人と神話のグランドオーダー」を是非お読みください。

 安珍
  清姫に惚れられてしまった哀れな暗黒イケメン。
  キノコ日記的には――ゲイだったという話を小耳に挟みましたが……


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