ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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活動報告でお勧めされた作品、全てに目を通すことは出来ないのですが……最近、たまたま見る機会のあった『ハズビンホテル』をAmazon Primeで全話視聴してきました。

アニメにここまで嵌ったのは久しぶりだわ……これかなり面白いぞ!!
大人向けなだけあって、ちょっとアレなネタも多いけど……ストーリー、世界観がしっかりしており、キャラクターも魅力的だわ。カトゥーン独特のタッチも、ミュージカルパートも割とすんなり受け入れられて楽しめる!!

シーズン2の制作も決定してるとか。クロス出来るかどうかは別として、今後も楽しみにしたい作品です。

ちなみに、原作が同じの『ヘルヴァ・ボス』もYouTubeで配信されていますが……。
こっちも面白いけど……まずはハズビンホテルで耐性を身につけてから、視聴することをオススメしておきます……。



聖剣伝説レジェンドオブマナ 不死皇帝と煉獄の妖女 其の②

 今から千年ほど前。

 

 その時代の人間が決して立ち入れないような、西洋の絶海の孤島にて——強大な妖気が渦巻いていた。

 それは怪物たちの群れがぶつかり、激突し合うことで発生する戦いの余波だ。渦巻く妖気が島全体を鳴動させるほど、怪物たちは激しい死闘を繰り広げていた。

 

 彼らは二つの勢力に分かれていた。

 

『——ウォオオオオオオオオオオ!!』

 

 片や、西洋妖怪の帝王・バックベアードが率いる怪物たち。

 狼男や吸血鬼、悪魔といった古来より人々から恐れられたモンスターたちを中心に構成された西洋妖怪軍団。

 

『——オオオオオオオオオオオオ!!』

 

 片や、人の身でありながら不老不死へと辿り着いた、滅んだ国の帝王・不死皇帝。

 その皇帝に死して尚、仕えることを強制された騎士たち、成仏できずに現世を彷徨い続ける亡者の群れ。

 

 両勢力の実力はほぼ拮抗しており、争いは七日七晩続いた。

 最終的に戦いは大将同士の一騎打ち——バックベアードと不死皇帝の直接対決へともつれ込む。

 

 

 

『——はぁはぁ……勝った、勝ったぞ!! フハハハッハハハハ!!』

 

 激戦の末、勝利したのは——バックベアードだった。

 

 普段は異空間に潜み、巨大な目だけを覗かせているような怪物が、滅多に見せることのない黒い人型——完全な戦闘形態の姿で自らの勝利に酔いしれ、拳を天へと突き上げる。

 

『おお!! バックベアード様が……我らの主人の勝利だ!!』

『これで西洋は我ら、バックベアード軍団のものだ!!』

 

 バックベアードの勝利宣言に、配下の怪物たちが喝采の唸り声を上げる。此度の戦い、軍団の方にもかなりの犠牲者が出てしまったが、そんなもの彼らにとっては粗末なことだ。

 全てはバックベアードのため、バックベアードの野望の礎になれるならと、彼らは喜んで自らの命を捧げるだろう。

 

 一方で——。

 

『——ふっ、見事だ、バックベアード……だが、貴様に我を滅ぼすことはできん……』

 

 バックベアードの手によって、地を這いつくばることになった不死皇帝の巨体。しかし敗北したにも関わらず、皇帝は賛辞の言葉を帝王へと投げ掛け、不敵に笑みを浮かべる。

 

『この身は既に不老不死……いかに貴様といえども、我が肉体を消滅させるには至らなかったようだな……』

 

 元より人の身ではなくなった不死皇帝だが、その肉体は普通の妖怪よりもさらに頑強なものへと変貌を遂げていた。

 通常、妖怪は肉体が消滅すれば魂だけの存在となり、時間が経てばその肉体もいずれは元に戻る。敵に容赦のない、非情なバックベアードであれば、その魂すらも握り潰すことに躊躇いはなかっただろう。

 

 だが、どれだけ致命傷を与えても不死皇帝は肉体を保ったまま。その魂を剥き出しにさせることすら困難だった。

 バックベアードでは不死皇帝を負かすことは出来ても、この世から『消滅』させることが出来なかったのである

 

『そのようだな。だが……それならそれでやりようはあるさ』

『なんだと……?』

 

 もっとも、その不死性に対する対処法を既にバックベアードは用意していた。戸惑いを見せる不死皇帝に、これ見よがしに天を指差して見せる。

 

『あれは……魔女どもか!?』

 

 不死皇帝が上空へと視線を向けると、そこには空中を浮遊する無数の影があった。その正体は箒に跨って空を飛ぶ女たち——魔女だ。

 魔女は西洋でも有名な妖怪の一種族。これまで戦いの場に姿を現さなかった彼女たちが、この瞬間に何十人と集団でやってきたのである。

 

『魔女会の連中さ。奴らもお前の扱いに手を焼いていたというのでな……この機会にお前を封じ込めておきたいと、私に協力を申し出てきたのだよ』

 

 魔女会、魔女同士が身を寄せ合う組合だ。

 バックベアード軍団と魔女会。この両者は互いに不干渉を貫いており、一部を除いた魔女たちがバックベアードの命を聞く義務はない。

 

 だが、魔女たちは不死皇帝の不死性を危険視していた。

 

 どうやっても殺すことのできない化け物の存在など、捨て置くことは出来ぬと。バックベアードとの共闘を望んでまで、不死皇帝を封じることを決めたのだ。

 

『魔女たちの魔法でお前を封じ、私の妖力でその封印に蓋をする』

 

 バックベアードが不死皇帝を弱らせ、追い込んだその隙をつき——魔女たちが不死皇帝に魔法による封印式を施す。

 しかもその封印は魔女たちとバックベアード、双方の力を利用したものだった。

 

『この私が健在である限り、この封印が解けることは決してない。つまり、何よりも強固な封印がここに完成したということだ』

 

 バックベアードの妖力——つまりは、彼の命そのものを『鍵』にした言っても過言ではない。これによりバックベアードが生きている限り、不死皇帝が復活することもなくなるのである。

 自分が誰かに倒されるなど考えてもいないバックベアードは、自信満々に不死皇帝が封じられる様を見届けていく。

 

『さらばだ……我が好敵手。私が世界を手に入れるそのときを、地の底から指を咥えて見届けるがいい』

 

 もう出会うこともない相手に、さしものバックベアードも感慨深げな表情を浮かべていた。

 だがすぐに見下すように、敗者である不死皇帝が自分にどんな恨み言を吐くのかと、嘲るような顔でその最後を見届けようとした。

 

 

『——ふ、ふふふ……それでよい』

『——なに?』

 

 

 だが封じられるその間際、不死皇帝の顔に浮かんでいたのは怒りでも、焦燥でもなく——安堵だった。

 その強面な骸骨の顔を、心底から安心したように緩め——。

 

 

『これでやっと——』

 

 

 そのまま穏やかな表情で、抵抗することなく自身が封じられるという結果を受け入れていった。

 

 

 

『…………ふん、まあいい……』

 

 不死皇帝の予想外の反応。絶望もせず、全てを悟ったかのように封印を受け入れるその態度に、少し釈然としない気持ちを抱えながらも、バックベアードを再び拳を天に向かって突き上げる。

 

『これで邪魔者はいなくなった!! 我こそが西洋妖怪の頂点に君臨する帝王……バックベアードだ!!』

『おおおおお!! バックベアード様、万歳!!』

 

 今一度、帝王としての堂々たる姿をその場に集った全てのものたちへと見せつけていく。バックベアードに付き従う怪物たちから、大地を揺るがすほどの歓声が上がる。

 

 

 こうして、名実共にバックベアードは帝王の名を不動のものとしたのである。

 

 

 

 

 

『これがお前の望んだ結末か……不死皇帝……』

 

 戦いの舞台となった孤島から少し離れた岩礁より、佇む一人の女がボソリと呟く。彼女は不死皇帝が封じられるその光景を、静かに見届けながらもかぶりを振る。

 

『だが……バックベアードといえども、いつかは敗れるときが来る……』

 

 バックベアード自身、自分に敵などいないと驕っているようだが、この世界は広い。強大な力を誇る帝王といえども、いずれは誰かに倒されてしまうこともあるだろう。

 バックベアードの妖気が途切れるとなれば、せっかくの封印も意味はなくなり——不死皇帝が復活してしまう。

 

『そのときまでに……私も色々と模索するとしよう……』

 

 そうなったときのためにと、彼女は今から準備を進めていく。

 もしも万が一、不死皇帝が復活してしまったとしても、それに対処できるようにと——。

 

 

『——それまでは静かに眠るがいい……本当の安らぎを得られる……その日を夢見ながら……』

 

 

 それから、千年後。

 彼女の懸念通りバックベアードは倒され、不死皇帝は現世への復活を果たした。

 

 

 

×

 

 

 

「カシラ、もう逃げちゃいましょうよ!!」

「なにもこの街と運命を共にする必要はありやせんぜ!!」

 

 境港にて、不死皇帝の襲来に恐れ慄く海賊ペンギンたちが我が身可愛さに逃げ出す算段を立てていた。

 

 現在、不死皇帝の姿はそこにはない。自らの要求——『マーメイドを引き渡せ』という要求を一方的に突きつけるや、その姿を霞のように決してしまった。おそらくは、沖合に集まっている幽霊船団へと戻っていったのだろう。

 境港の人たちが要求どおり、マーメイドを連れてくるための猶予時間を設けているといったところか。

 だがもしも、その要求に応えないようであれば——宣言どおり、境港が不死皇帝とその配下たちによって火の海とされてしまうことは想像に難くない。

 

 境港の人たちと仲良くなったペンギンたちだが、この町と心中するのは勘弁とばかりに騒ぎ立てている。

 

「落ち着け、お前ら!! 今船を出したところで、格好の的になるだけだ……」

 

 しかし、ペンギンたちの頭であるセイウチのバーンズは、手下たちに冷静になるよう宥める。

 

 それは決して情に流されての判断ではない。彼らとて海賊だ。最悪の場合、境港を見捨てて脱出することも勘定に入っている。

 だが今船を出したところで、沖合に集まっている幽霊船に囲まれてしまい、下手をすればそのまま沈められかねない。

 そもそも、船の修理そのものがまだ完全ではないのだ。今の時点で慌てて出航するのは、明らかに自殺行為でしかない。

 

「もう少し様子を見よう。なに、望みが完全に潰えたわけじゃねぇんだからな……」

 

 バーンズは手下たちに様子を見るように言い含め、チラリと視線を別のところへと向ける。

 彼の視線の先には、港に駆けつけていた猫娘がおり——。

 

「——鬼太郎、大丈夫なの!?」

「——ああ、なんとか……」

 

 彼女のすぐ側に、傷を負いながらも五体満足で立っている——ゲゲゲの鬼太郎の姿があった。

 

 そう、不死皇帝の巨腕によってペシャンコにされたかに思われた鬼太郎。だが彼は潰される直前、ギリギリのタイミングで地中へと潜り、不死皇帝の魔の手から逃れていたのだ。

 流石に無傷というわけにはいかなかったが、まだまだ十分に戦える余力を残していた。

 

「不死皇帝……バックベアードと並び称されるだけのことはある。またとんでもない奴が出てきたもんじゃ……」

「そうですね、父さん……」

 

 とはいえ、無策で戦える相手ではないと。不死皇帝が立ち去った後、目玉おやじが腕を組んで考え込む。

 鬼太郎も僅かに交戦しただけだが、それだけでも十分に強敵であることを実感したと父親の言葉に頷く。

 

「そうね……けど、なんであんな奴がマーメイド……人魚なんて欲しがるわけ?」

 

 猫娘も不死皇帝の強敵さに頷きつつも、ふと感じていた疑問を口にする。それは不死皇帝が目的とするものがマーメイド——日本でいうところの人魚であったということだ。

 あれだけの力を持った怪物が、たった一人の人魚を求め、わざわざ日本まで来たという事実に純粋に首を傾げる。

 

「マーメイド……あのフラメシュという子のことだと思うけど……」

 

 猫娘の疑問に鬼太郎も同意する。

 境港にいるマーメイド、おそらくはセイレーンのエレと共にこの地に流れ着いたフラメシュという娘のことだということは予想が付く。

 だがやはり西洋で帝王と呼ばれるほどの大物が、あのような娘一人のために何故という疑問が残る。

 

「人魚……やはり、人魚の肉を喰らうことで得られる不老不死が狙いか……」

 

 だが思い当たる節がない訳ではないと、目玉おやじが一つの可能性に行き当たる。

 人魚の特質性といえば、やはりその肉を喰らうことで得られるという『不老不死』だろう。古今東西、その肉を求めて幾人もの人間が翻弄され、その運命を狂わされてきた。

 

「…………」

 

 鬼太郎たちも、実際に人魚の肉を喰らったという人間たちと関わり持ち、彼らがどのような生き方をして来たのかを聞かされたことがある。

 決して恵まれているとはいえない彼らの境遇を思い返し、鬼太郎の顔が曇る。

 

「……不老不死? なんだそりゃ? 日本の人魚にはそんな伝説があるのか?」

 

 ところが、ここで鬼太郎たちの話に聞き耳を立てていたバーンズが口を挟んでくる。彼は鬼太郎たちが口にした『不老不死をもたらす人魚の肉』という話に違和感を覚えているようだ。

 

「少なくとも西洋じゃ聞かない逸話だな……お前ら、聞いたことあるか?」

「いや、ないっすね……」

「初耳っすよ、そんな話……マーメイドの肉なんて、誰も進んで食いたくねぇでやんす!」

「えっ……?」

 

 手下のペンギンたちも揃って首を傾げる。

 海に生きる海賊たちですらも知らないのだから、西洋では人魚——マーメイドの肉に特別な効力があるとは考えられていないのだろう。

 

 

 そもそもな話——『人魚の肉を食べることで不老不死になれる』というのは、日本独自の伝承なのだ。日本で有名な人魚の伝説といえば、一般的には『八百比丘尼(やおびくに)』の逸話が挙げられる。

 人魚の肉を食べたことで不老不死となってしまった女性。彼女は出家して尼となった後、己の死を求めて八百年間、日本各地を彷徨い歩いたという。そのため、彼女にまつわる伝説が日本の各地に残っているのである。

 その八百比丘尼の伝説があるからこそ、日本では人魚の肉が不老不死の源だという話が広く知れ渡っている。逆に言えば、そういったエピソードがなければ人魚が不老不死をもたらすなどという話、日本でも広まりはしなかっただろう。

 

 

「それに……奴はとっくに不老不死なんだ。今更、人魚の肉なんざ必要ねぇ筈だが?」

 

 それにと、バーンズは不死皇帝が既に『不死』であるという事実を口にする。

 仮に人魚の肉が不老不死をもたらしてくれるとしても、きっと不死皇帝は興味など示さない。元より死を超越した怪物なのだから、それ以上何を望むというのだろう。

 

「なら、どうして……奴はいったい……?」

「う~む……」

 

 不死皇帝の狙いが理解出来ず、ますます疑問を深めていく鬼太郎たち。相手の狙いが分からないという曖昧さが、彼らの胸中を不安で埋め尽くしていく。

 

 

 

「確かに気にはなるが……今は彼女たちに、あのマーメイドの子に不死皇帝のことを伝えてやらねば……鬼太郎!!」

「そうですね……」

「ええ、急ぎましょう!」

 

 もっとも、ここで答えの出ない問題にいつまでも頭を悩ませていても仕方がない。目玉おやじは迫り来る危機をマーメイド本人——フラメシュに伝えてやらねばと、鬼太郎を急かしていく。

 

 元より鬼太郎にも、猫娘にも、境港の人々にも。フラメシュを差し出し、見逃してもらおうなどという考えはない。

 まずは狙われている本人の安全を第一にと。急いでエレやフラメシュたちが滞在している、洞窟の方へと駆け出して行った。

 

 

 

×

 

 

 

「——そんな……まさか、不死皇帝がそんなことを……」

 

 鬼太郎たちから不死皇帝の話を聞かされたエレが、ショックを隠しきれない様子で驚いていた。

 

 ここは境港市から少し離れた、海岸沿いの洞窟だ。この洞窟内に、西洋の生活圏を追われてこの地に逃れて来たセイレーンのエレが滞在していた。

 少しの間ここで羽根を休め、時期がくれば次の住処を求めて旅立つと言っていたが、前回の騒動からまだ日も経っていないので、未だこの地に留まっている。

 

「それで、どうしてあのマーメイドの子が狙われてるのかが分からないのよ……何か知らないかしら?」

「ご、ごめんなさい……私にも、よく分からないです……」

 

 不死皇帝の脅威を話した後、猫娘はエレに奴がマーメイドを欲する理由を尋ねた。マーメイドと友人である彼女であれば何か知っていると思ったのだが、それはエレにも分かりかねるとのことだ。

 

「フラメシュ……あなたは心当たりないの? 不死皇帝に目をつけられるような理由に……」

 

 なので今度はエレの方から、マーメイドである友人へと問いが投げ掛けられる。その問いに対し——。

 

「——知らないわよ、そんなの!!」

 

 洞窟にまで繋がっていた水辺から、マーメイドのフラメシュが姿を現す。可愛い顔ながらもつっけんどんな物言いで、彼女は心当たりなどまるでないとキッパリと強気に答える。

 

「マーメイドの私に特別な力なんかないわよ! セイレーンみたいに綺麗な声で歌えるわけじゃないし、空も自由に飛べるわけでもないし!!」

 

 彼女は自分には何も特別な力がないと、僅かに自虐気味に吐き捨てた。

 その態度からも分かるように、何か秘密を隠しているというわけでもない。彼女自身、本気で狙われる意味が分からないと怒っている様子だった。

 

「そうか……じゃが! 不死皇帝が君のことを捜しているのは間違いない。しばらくの間、ここで身を隠しておるんじゃ……危険だからのう」

「それがいいでしょう。不死皇帝の方は……ボクたちがなんとかしますから……」

 

 だが当人に心当たりがなくとも、不死皇帝がマーメイドを欲しているのは確かなのだ。

 目玉おやじはフラメシュの身を案じ、暫くの間姿を隠すように願い出る。フラメシュが隠れている間に、鬼太郎たちの方で不死皇帝に対処するとのことだ。

 

「……大丈夫なの? あんな化け物相手に、アンタたちで勝負になるのかしら……」

 

 すると、その提案にフラメシュがボソリと呟きを溢す。

 それは少し厳しい言い方だったが、彼女の言葉には鬼太郎や境港の人たちを心配するような気遣いが垣間見えた。実際、フラメシュは口は悪いがその心根には確かな優しさを秘めている。

 海で溺れかけていた人々を助けたり、親友であるエレを心配して当てのない放浪の旅に付き合ったりと。

 

「大丈夫……なんとかするさ。だけど……流石にボク一人じゃ心細ない。猫娘、手を貸してくれないか?」

「ええ、当然じゃない!!」 

 

 こちらを心配するフラメシュの不安を払拭しようと、鬼太郎は堂々と答える。しかし一人では荷が勝ちすぎると、素直に猫娘——仲間を頼ることにする。鬼太郎に頼られて猫娘は嬉しそうだ。

 

「うむ、そうじゃな! 皆にも応援を頼もう!! 今すぐゲゲゲの森に連絡を……」

 

 目玉おやじも同じ考えだったようだ。ゲゲゲの森にいるであろう仲間に声を掛けようと、ひとまずは洞窟から出て皆に連絡を取ろうとした。

 

 

 だが、そのとき——足音が聞こえて来た。

 何者かが、ガチャガチャと音を立てながら洞窟の中へと集団で雪崩れ込んできたのである。

 

 

「なっ……! 何よ、アンタたち!?」

「この妖気は……不死皇帝の!?」

 

 いきなり洞窟へと上がり込んできた乱入者相手に、猫娘は素早く爪を伸ばして身構える。

 鬼太郎もすぐに臨戦態勢で構える。そして妖怪アンテナで感じ取れる妖気の質から、それが不死皇帝——それに類する『何か』であることを察した。

 

『————』

『————』

『————』

 

 彼らは皆、一様に西洋甲冑を身につけていた。だがバックベアード軍団に属する首無し騎士たちとは異なり、兜を着用している。無論、中身がどうなっているかまでは分からない。

 何十体と並ぶ騎士たちの集団、そのほとんどが黒い甲冑で身を固めていたが、一人だけ黄金色の鎧を纏っているものがいた。

 その鎧の人物が、騎士たちを代表するように一歩前へと歩み出る。

 

『我ラハ、不死皇帝ニ仕エルモノ……我ハ騎士団長、トーナ……』

「……!?」

 

 彼らは自分たちが不死皇帝に仕えるもの、皇帝の騎士団を名乗った。黄金色の鎧を纏うものは団長のトーナ。

 

 彼らは生前、人間だった頃から皇帝に仕えていた、滅んだ国の騎士団である。不死皇帝が不死身の化け物となり、祖国が滅んだその後も、亡霊になってまで主に仕えている。

 もっとも、忠誠心から皇帝に従っているわけではない。彼らは死後、不死皇帝の魔法によって黄泉から呼び戻され、無理やり戦うことを強制されているに過ぎない。

 

『不死皇帝ノ望ミヲ叶エル……ソノタメニ、マーメイドガ必要ナノダ!』

 

 既に己の意思などない操り人形も同然。命じられるがまま、不死皇帝が欲しているマーメイド——フラメシュの身柄を狙って襲い掛かってくる。

 

「くっ……霊毛ちゃんちゃんこ!!」

「ニャアアアア!!」

 

 問答無用で剣を抜いてきた亡霊騎士を相手に、鬼太郎は腕にちゃんちゃんこを巻いて応戦。猫娘もその鋭い爪で反撃する。

 

『グムッ……』

『オノレ……抵抗スルカ……』

 

 幸いなことに、騎士一体一体の力はそれほど強いものではない。鬼太郎たちの攻撃で何体かの騎士たちが退けられていく。

 

『構ウナ……マーメイドサエ手ニ入レバ良イ……』

『連レテ行ク、不死皇帝ノ元マデ……』

 

 だがいかんせん数が多く、しかも——彼らには『恐怖』という概念がない。

 

 どれだけ殴り飛ばされようと、爪で切り裂かれようと、すぐにでも起き上がっては何度でも襲い掛かってくる。痛みも感じないのだろう、どれだけ手傷を負おうと全く怯むことなく向かってくる。

 目的であるマーメイドへと一心不乱に進軍を続ける、その様はまさに生者へと群がるゾンビそのもの。

 

「ちょ……ちょっと、ちょっと!! なんなのよ、こいつら……!?」

「フラメシュっ!!」

 

 そんな連中にその身を狙われ、冗談じゃないとばかりにフラメシュが悲鳴を上げる。友人の危機にエレもすかさず彼女の元へと駆け寄る。

 

「あとをつけられたか!? しかし、そんな気配はなかった筈じゃが……」

 

 目玉おやじは、不死皇帝の手勢がこの場にやってきたことに驚く。騎士たちの口ぶりから察するに、この洞窟に人魚が潜んでいると、分かった上で襲撃を掛けたのだろう。

 しかし、鬼太郎たちも警戒を怠っていなかった。少なくとも、尾行がないことを注意した上でエレたちの元まで来た筈だ。騎士たちはどのようにして、ここを嗅ぎつけたのか。

 

「いかん!! こんな狭い場所では……鬼太郎!!」

 

 だが今はそれどころではないと。狭い洞窟内で戦う危険性を考慮した上で、目玉おやじが息子へと呼び掛ける。

 

「はい、父さん!! この場はボクが食い止める! 猫娘、彼女たちを頼むっ!!」

「分かったわ!! 二人とも、ついてきなさい!!」

 

 鬼太郎も父親の考えを察し、フラメシュとエレを洞窟から逃がそうと奮闘する。猫娘もすぐさま彼の意図を理解し、彼女たちの護衛につく。

 以心伝心、このあたりのチームワークは流石といったところか。

 

「行きましょう、エレ!!」

「え、ええ!! フラメシュ!!」

 

 鬼太郎たちに呼び掛けられ、フラメシュとエレが互いに頷き合う。

 フラメシュは洞窟の水辺から海へと繋がる水路を泳いで行き、エレは羽根を羽ばたかせて猫娘と共に洞窟内を駆けていく。

 

『逃スナ、追エ!!』

「行かせない!!」

 

 逃げていく彼女たちに、騎士団長のトーナが追いかけるよう部下たちに号令を掛けるが、それは鬼太郎がなんとか阻止していく。

 

 

 

 

 

「こっちよ!! もうすぐ出口に……!?」

 

 そうして、なんとか騎士たちからの追撃を逃れ、洞窟の外まで逃れることができた猫娘たちだが——。

 

 

「——ほう、トーナたちの包囲を突破したか……」

「!!」

 

 

 出口に差し掛かったところで、聞き覚えのない女性の声が聞こえて猫娘の足が止まる。洞窟の出入り口にも数体の騎士たちが待ち構えており、彼らを従えるように一人の女が佇んでいたのだ。

 

「誰っ!? アンタも……あの皇帝とやらの手下!?」

「ね、猫娘さん……」

 

 猫娘はエレを後ろ手に庇いながら、その女に向かって化け猫の表情で威嚇していく。

 

 それは胡乱な女だった。金髪の長髪はまるで手入れがされておらずくすんでおり、全身を包帯でぐるぐる巻きにするという異常な佇まい。包帯の隙間から僅かに見える肌は腐ったように変色しており、瞳も暗く澱んでいる。

 

「私はテセニーぜ……不死皇帝に仕える……魔女だ」

 

 自由意思のない騎士たちと違い、ボソボソと覇気のない声音ながらも彼女——テセニーゼは自らの名と、自身が魔女であることを告げる。

 

「魔女……!!」

 

 魔女と聞き、猫娘がより警戒心を露わにする。魔女たちの魔法は味方にすると心強いが、敵に回ると厄介であることを、彼女は嫌というほど思い知っていた。

 一見すると無防備なテセニーゼに即座に飛び掛かるようなことはせず、油断なく身構える。

 

「マーメイドの姿が見えないようだが……どこだ……?」

 

 だが敵対心を剥き出しにする猫娘など気にも留めず、テセニーゼはマーメイドの姿が見えないことに眉を顰める。

 フラメシュは今のところ水中に隠れている。元より深海の底に住まうような種族なのだから、わざわざ息継ぎで海面に上がってくる必要もないのだ。

 

「まさか……私たちを謀ったわけではあるまい、なあ……」

 

 表立ってマーメイドの姿が見えないことで、テセニーゼはその胡乱な視線を後方——自身の後ろに隠れている男へと向け、その名を呼び捨てる。

 

「——ねずみ男とやら?」

「——っ!!」

 

 

「いや~、そんな筈はないですぜ!! きっとどっかに隠れてるんでさ! 炙り出しちゃいやしょう!!」

 

 

 すると、そこにいた男——ねずみ男が、テセニーゼに対して腰低く擦り寄っている。瞬間、何故不死皇帝の手勢がこの場所を嗅ぎつけたのか、猫娘はその理由を理解する。

 

 

「ねずみ男!! アンタ、こいつらに密告したわね!?」

 

 

 そう、いつの間にか姿が見えなくなっていたと思っていたが、どうやらねずみ男が不死皇帝に告げ口をしたようだ。

『この洞窟にマーメイドがいる』と、それで自分を見逃してもらおうと思ったのだろう。

 

 事実、鬼太郎が不死皇帝に叩きのめされるのを見たねずみ男は、すぐに不死皇帝の元へと下った。

 単身、わざわざ小舟を漕いでまで不死皇帝の幽霊船へと向かい——。

 

『——不死皇帝様!! マーメイドの居場所を教えますんで、どうか見逃がしてくだせぇ!!』

『…………なんだと?』

 

 そのあまりの変わり身の早さに、流石の不死皇帝も驚いていたという。

 

 

「わ、悪く思うなよ!! これも境港のためさ!!」

 

 しかしそのような裏切り行為に一切悪びれた様子もなく、ねずみ男はこれが境港のためだと胸を張っている。

 実際、我が身が可愛いだけであれば、とっととこの町から逃げ出していただろう。危険を冒してまで不死皇帝と交渉しに行っただけ、ねずみ男にしては勇気ある行動だった。

 彼なりに、境港という場所を守ろうとしたのだ。

 

「バカっ!! 西洋妖怪の連中が……約束なんか守ると思ってんの!? 奴らのやり口、もう忘れたの!?」

 

 だが、猫娘は西洋妖怪——特にバックベアード軍団のような連中を引き合いに出し、彼の行いを責める。

 アニエスやアデルといったものたちと信頼関係を築いている猫娘だが、それ以外の西洋妖怪の印象はかなり悪い。それはバックベアード軍団の連中にしてやられた記憶が新しく、彼らのやり口を知っているからだ。

 口約束など彼ら相手には無意味だ。どうせ利用するだけ利用して、潰されてしまうだけだと思っている。

 

「心配するな……魔女は約束は……契約は必ず守る。マーメイドさえ差し出せば……この町に手など出さない……」

「えっ……?」

 

 もっとも猫娘の心配とは裏腹に、テセニーゼは約束を守ると言い切った。ボソボソとした小声ながらも、そこに嘘がないことを感じ取り猫娘は困惑する。

 まさか本当に、マーメイド一人を差し出せば他は見逃すとでも言うのだろうか。

 

「——ハッ!! 上等じゃない!! そんなに私が欲しいのなら……望みどおり出てきてやるわよ!!」

「——フラメシュっ!?」

 

 瞬間、テセニーゼの言葉を聞いていたのか、隠れていたフラメシュが水中から飛び出してきた。狙われている当人が出てきてしまったことにエレが狼狽するも、あくまでフラメシュは挑発的に吐き捨てる。

 

「これでも食らって……お腹でも満たしてなさいよ!!」

 

 彼女は妖力で水を操作。海水で竜巻を起こし、それを魔女に向かって解き放った。凄まじい海流のうねりだ。たとえ魔女であろうと、それに飲み込まれればひとたまりもないだろう。

 

「散れ……」

 

 ところがテセニーゼは慌てることなく、軽く手を翳して呪文を唱える。それだけで——水の竜巻は呆気なく霧散してしまった。

 

「そ、そんな……!?」

 

 マーメイドとしての特性、水を操る術においても魔女の方が上手だと。自分の力が通じないことにフラメシュが驚愕する。

 

「行け……マーメイドを捕らえよ……」

 

『承知致シマシタ、テセニーゼ様……』

『マーメイドヲ捧ゲ、不死皇帝ニ……』

 

 動揺するフラメシュを尻目に、テセニーゼは控えていた騎士たちに号令を掛ける。騎士たちはテセニーゼに恭しく頷きながら、不死皇帝の望みを叶えようとマーメイドへと剣を抜き放っていく。

 

「な、舐めないでよね!!」

「この……ニャアアアア!!」

 

 問答無用で襲い掛かってくる亡者の群れ。だがフラメシュが水流で彼らを洗い流し、そこに猫娘も手を貸すことで次々と騎士たちを退けていく。

 

 

 

「……隙だらけだな……これで終わりだ……」

 

 もっとも、テセニーゼも最初から騎士たちに期待などしていない。彼らは言わば目眩しだ。乱戦で彼女たちが集中力を欠いたところに——テセニーゼが魔法を放つ。

 

 それは黄金に輝く光の矢だった。

 放たれた矢は騎士たちの合間を通り抜け、マーメイドへと一直線に飛んでいく。

 

「——ハッ!?」

 

 騎士たちを迎撃するのに夢中だったのか、フラメシュはその矢が目の前に迫り来るその瞬間まで気づけなかった。気づいたときには、もはや躱せるタイミングになかった。

 

「——危ないっ!! フラメシュ!!」

「——エレ!?」

 

 だが寸前のところで、フラメシュと光の矢の間に、ものすごい速さで飛翔してきたエレが割り込む。フラメシュを庇い、彼女の代わりに魔法の直撃を受けたのだ。

 瞬間、エレに直撃した光の矢が形を変える。エレを囲い込む『籠』へと変化し、エレの動きを封じ込めた。

 光の籠は、そのまま捕まえたエレを術者の元へと運ぶ。しかし狙った相手ではなかったことに、テセニーゼは不満気味に愚痴を溢す。

 

「セイレーンか……研究材料としては興味深い素体だが……今はお前に用はない……」

 

 一瞥、興味深げにエレを見たが、すぐに視線をフラメシュへと移す。彼女を捕まえようと、もう一度魔法を行使しようとする。

 

「——させない!!」

「っ……!?」

 

 だがそこで洞窟の奥から、青白く輝く光弾が飛来してくる。テセニーゼは唱えていた魔法を途中で止め、光弾から逃れようと大きく退いた。

 

「済まない、遅くなった!!」

「鬼太郎!! 遅いのよ、もう!!」

 

 光弾の正体は鬼太郎の指鉄砲だ。騎士たちの包囲を突破してきたのか、彼の救援に猫娘が嬉しそうに頬を赤らめる。

 

「ゲゲゲの鬼太郎……貴様の相手をするのに……私では荷が重いか……」

 

 指鉄砲を回避しながらも、自分ではゲゲゲの鬼太郎を相手取れないと、テセニーゼは戦況を冷静に分析。

 

「やむを得ん……ここは一旦、引くとしよう……」

 

 素直に撤退を選ぶ彼女だが、そこに焦りらしきものは見られない。

 

「フラメシュっ!!」

「エレっ!!」

 

 それは手元にエレ——人質として効果を発揮するであろう、彼女を手中に収めているからだ。ふわりと宙を浮くテセニーゼに追従するよう、エレを捕らえた光の檻も地上から離れていく。

 

 エレとフラメシュが互いに手を伸ばすも、その手が届くことはない。

 

「マーメイドの娘……このセイレーンを無事に返して欲しければ……お前から不死皇帝の元へと降るがいい……さもなくば……分かるな?」

 

 弱みを握ったテセニーゼは、フラメシュに不死皇帝の下まで来るように促す。もしも来なければエレが無事では済まないと、軽く脅しをかけながらその場から飛び去っていく。

 

『撤退、撤退ダ……』

 

 その後を追いかけるよう、団長のトーナを始めとする亡霊騎士たちもその場から消え去っていく。

 

 

 

「エレ……今、助けに行くから!!」

 

 とりあえず、無事敵の襲撃を乗り切ったものの、フラメシュにとって何よりも大事な親友が連れ去られてしまった。

 捕らえられた友を救うため、彼女はすぐにその後を追いかけようと、勢いよく海の中へと飛び込んでいく。

 

「ま、待て! 行ってはいかん!!」

 

 そんなフラメシュに目玉おやじが制止の言葉を投げ掛けるが、彼の声が響く頃には既にその場から彼女はいなくなってしまった。

 海中を自在に泳ぐマーメイドであれば、あっという間に不死皇帝の幽霊船団まで行き着いてしまうだろう。

 

「時間がない……! すぐに後を追おう!!」

「ええ……けど、その前に……!!」

 

 フラメシュたちの身を案じ、鬼太郎もすぐに不死皇帝の幽霊船へと向かうことにする。どのみち、いずれは戦わなければならない相手なのだから、鬼太郎に躊躇いなどない。

 猫娘も、それ自体に不満はないと。鬼太郎と共に戦う心構えをしながらも——ギロリと、非難の目をねずみ男へと向けていく。

 

 マーメイドの居場所を告げ口した裏切り者に、とりあえずの罰を与えなければと爪を研ぎ澄ませる。

 

「な、なんだよ、なんだよ!? 俺を責めるなよ!! 良かったじゃねぇか!? これで結果的に連中はいなくなるんだからよ!!」

 

 しかし、怒る猫娘に負けじとねずみ男は反論を口にする。

 結果的として、これでマーメイドを手に入れることになった不死皇帝。これで境港も、日本も救われる。本人としては、いいことをしたつもりなのだろう。

 

「そういうことじゃないだろ……!!」

 

 だがそうではない、そうではないと鬼太郎も厳しい視線をねずみ男へとぶつける。

 

 仮に、本当に仮に不死皇帝がマーメイド一人で満足し、日本から手を引いたとしても。それが正しかったなどと、鬼太郎は口が裂けても言いたくはなかった。

 きっと少数を犠牲にして大勢を維持しようなどと、そんな価値観は唾棄すべきものだと思うからだろう。

 

 

「——おーい、ゲゲゲの鬼太郎!!」

 

 

 すると、口論している鬼太郎たちの元に、手を振りながらドタドタと駆け付けてくるものたちがいた。

 

「バーンズさん?」

「ペンギンたちも……どうしたのよ、そんなに血相を変えて?」

 

 それは、未だ境港に残っていた海賊たちだ。

 真っ先にねずみ男のように裏切って、逃げ出したところで問題ない立場であろうに。彼らは『とある大切な情報』を持って、鬼太郎たちの元へと来てくれたのだ。

 

「実はな、不死皇帝の狙いが分かったんだよ……おい、新入り!!」

「へ、へい……お頭!!」

 

 駆け付けたバーンズは、一羽のペンギンに説明するようにその背を叩く。

 

「デイビットと言いやす!! あっし、思い出したでやんす!! 昔、ヴァレリ……恋人が教えてくれた、マーメイドの伝説を……!!」

 

 そのペンギン、見分けはつかないだろうが。彼は海賊歴の浅い新入りのデイビットだ。 

 デイビットは子供の頃、陸で今も待っている幼馴染の恋人ペンギン・ヴァレリから、とある昔話を聞かされたという。

 

 

 それは深海の底で暮らす、マーメイドたちの伝説。

 何故、不死皇帝がその身を求めるのか。その理由になるかもしれない伝説での、彼女たちの呼び名を口にしていくのである。

 

 

 

×

 

 

 

『セイレーンか。生前であれば物珍しいと飼っていたかもしれんが……今の我には不要な存在だな……』

「あ、ああ……」

 

 幽霊船団の中でも一際大きな船の上、甲板上に不死皇帝の巨体が静かに漂っていた。

 彼の視線の先には、魔女であるテセニーゼが捕まえてきたエレの入った黄金に輝く魔法の檻、それが船のマストにぶら下がっている。

身動き取れない状態のまま、至近距離から不死皇帝にギロリと睨まれ、エレは言葉が出ないほどに震え上がっていた。

 

『テセニーゼよ……本当にこのセイレーンを餌に、マーメイドを誘き寄せることが出来るのだな?』

 

 不死皇帝はその視線をエレから自身の配下、セイレーンをここまで連れてきたテセニーゼへと移す。並のものなら震え上がってしまうその眼光を前に、魔女はまるで動揺した様子を見せずに一言だけ呟く。

 

「おそらくは……」

『…………』

 

 彼女の後ろには騎士団長のトーナを始めとする、亡霊騎士たちが控えている。不死皇帝の操り人形同然な彼らは二人の会話に口を挟むのも憚れると、死んだように膝をついてその場に待機している。

 

『おそらくだと……? それでマーメイドに逃げられたらどうするつもりだ!! 我が妻といえども、そのような失態は許さんぞ!!』

 

 するとテセニーゼの推測の入った呟きに、不死皇帝が突如として激怒。船を揺るがすほどの妖力を迸らせながら——自身の妻を睨みつける。

 

 そう、このテセニーゼという女。実は不死皇帝とは人間時代からの付き合いであり——彼の妻なのだ。

 彼女、元々は魔法大臣として、滅んだ帝国を影から支えてきた魔女だ。その活躍を認めた皇帝はテセニーゼを気に入り、彼女を妃として迎え入れたという。その付き合いは皇帝が不死の怪物となった今も続いている。

 

「……心配するな……それならそれで手を打ってある……任せておけ……」

『むっ……そ、そうか。お前がそこまで言うのなら……』

 

 その立場からか、不死皇帝の癇癪にも全く動じずに慣れたように彼を宥めるテセニーゼ。彼女の諭すような言葉に、不死皇帝も即座に冷静さを取り戻す。どうやら夫婦としての相性は良好のようだ。

 

 

「——エレっ!!」

 

 

 だがテセニーゼが別の手とやらを打つまでもなく、海の方から叫び声が響いてきた。

 見れば美しい少女——マーメイドのフラメシュが海面から、不死皇帝たちがいる幽霊船を見上げているではないか。

 

「来たか……」

『おおっ!! あれこそマーメイド……私が求めていたものに間違いない!!』

 

 フラメシュの到来を予想していたテセニーゼは動じてもいなかったが、不死皇帝は歓喜の声を上げる。自分が求めてやまなかったマーメイドが、自ら懐へと飛び込んできたのだから、これほど嬉しいことはない。

 

「フラメシュ、来ちゃダメよ!! そのまま逃げてっ!!」

 

 しかし、せっかく来てくれたフラメシュに、エレが逃げるようにと籠の中から叫ぶ。たとえこの身がどうなろうと友を守りたいという彼女の必死さが、その叫びから伝わって来るようだ。

 

『黙れっ!! さあ……こちらまで来るがいい、マーメイドよ。さもなくば……鳥籠ごと、このセイレーンを握り潰してしまうぞ!!』

 

 しかしそうはさせまいと。不死皇帝は片腕しかないその巨大な左手で、エレを閉じ込めている籠に手を掛けた。そのまま力を込めれば、一瞬で握り潰してしまえるだろう。実際、魔法で出来た頑丈な筈の檻がミシミシと悲鳴を上げている。

 このまま放置すれば、間違いなくエレの命はない。

 

「……っ!!」

 

 もっとも、フラメシュは既に覚悟を決めていた。

 この後に及んで足踏みする理由などないと、躊躇うことなく海面から飛び上がり、そのまま幽霊船の甲板上へと着地。器用に尾を足代わりに直立不動している。

 

「これでいいでしょ? さっさとエレを解放しなさいよ!!」

『人魚、モウ逃サナイ……!』

 

 幽霊船の上、すぐに彼女を包囲し始めた幽霊騎士たちを前にしながらも、フラメシュは強気な態度を崩しはしなかった。しかしよくよく見れば、身体が僅かに震えているのが見て取れた。

 必死に恐怖に耐えているのだろう。それを相手に悟られまいと気丈に振る舞っている。

 

『ふっふっふ、よかろう……』

 

 自身の要求に応えたフラメシュに敬意を評し、不死皇帝は素直に檻から手を離した。だがまだエレを解放するわけにはいかないと、不敵な笑み浮かべながらマーメイドと正面から向かい合っていく。

 

 

 

「それで? いったい、私に何の用? 言っとくけど……私たちマーメイドにアンタが望むようなことが出来る力があるとは思えないけど?」

 

 不死皇帝の視線を一身に浴びながら、フラメシュは相手が自分に何をして欲しいのか問いを投げ掛ける。決して惚けているわけでも、謙遜しているわけでもない。皇帝とまで言われた相手が、何故自分を欲しているのか、本気で分からないのだ。

 

『マーメイドの娘よ……貴様も西洋のものであれば、我の伝説を耳にしたことはあるだろう? 人間でありながら不死を求め、その望みを叶えた最初で最後の皇帝……』

「……はぁ? 何よ、自慢話? アンタの過去話に付き合ってる暇はないってのに……」

 

 すると不死皇帝はフラメシュの質問には答えず、自身の身の上話を始めていく。彼の昔語りに呆れたようにフラメシュはため息を吐くも、今は大人しく聞き役に徹するしかない。

 

『そうだ!! 我は望みどおり、確かに不死を得た!! 不老不死の法にて、脆弱な人間の肉体を捨てた我は……強大な怪物として生まれ変わったのだ!!』

 

 そんなフラメシュの心情など知らず、不死皇帝の語り口がヒートアップしていく。彼は自分が望みどおり不死を得たと——何故か、怒りに震えるように叫んでいた。

 

 

『そうして得た不滅の肉体、それがどのようなものか……見ろ!!』

 

 

 次の瞬間、彼は体を覆い隠すように羽織っていた真紅のマントを翻した。マントの下に隠されていた、不死皇帝の全貌が明らかになる。

 

「うっ……ひどい……」

「うげっ……! どうなってんのよ、その身体……」

 

 それを見た瞬間、エレとフラメシュ、乙女二人の顔が歪む。

 

 不死皇帝の不滅の肉体——ほとんど骨しか残っていない朽ちた体は、外側だけを見ても酷いものだったが、マントの下はさらに酷かった。辛うじて残っている骨でさえもボロボロと崩れ、腐り落ちていっているのだ。

 そうして崩壊した肉体はその都度再生し、また端から順に腐り落ちていくという工程を繰り返している。

 

 

 崩壊と再生を何度も繰り返し、無理矢理にその肉体を保つ——それが不死皇帝の不死身の正体である。

 

 

『これが……身の程知らずにも、人の身でありながら、不老不死を得ようとした人間の末路だ!! 我が肉体は今この瞬間も、絶えず我自身を苦しめているのだ!!』

 

 自身の肉体が腐り落ちていくという激痛は、今この瞬間も不死皇帝を苦しめている。

 不滅の肉体、永遠の命。響きだけ聞けば素晴らしいかもしれないが、その内情がこれでは、何のために不死身になったのかと。

 不死皇帝は嘆くように頭を抱えるしかなかった。

 

「フン……何よ、それ……そんなのアンタの自業自得じゃない」

 

 だが、苦痛に苛む不死皇帝の叫びを聞き届けながらも、フラメシュは強気な態度を崩さない。

 

 結局のところ、不死皇帝の身を蝕む苦痛など彼自身の自業自得だ。人間でありながら不死などと、過ぎた欲望に身を焦がした、その報いに過ぎないのだと辛辣に吐き捨てる。

 

『そうだ!! こうなることを何より望んだのは我なのだ!! だがもう十分だ……もうこれ以上、我はこの苦痛に耐えることなど出来ない!!』

 

 それは不死皇帝も理解している。だがだからといって、いつまでもこんな苦痛の日々に甘んじてなどいられないのだ。

 故に、彼はこの苦しみから逃れる術を模索するようになった。

 

『千年前……バックベアードとの戦いに敗れたとき、私は奴の封印を甘んじて受け入れた。封じられている間は、我も穏やかに眠ることが出来たのだ!! 我にとってあの時間は、久しく得ていなかった安息をもたらしてくれた!!』

 

 そのための手段の一つとして、不死皇帝はバックベアードとの頂上決戦に挑んだ。奴との戦いに敗れて、封じられること——それすらも、不死皇帝の望みの内だったのだ。

 事実、封印されている間は彼も苦痛を感じられすに済んでいた。だが、バックベアードが倒されたことで復活してしまった彼は、またもや苦痛の日々に苛まれるようになってしまったのだ。

 

 

『——我は……私は、もう死にたい……これ以上、生きていることそのものが……私にとって、苦痛でしかないのだ……』

 

 

 だからこそ、不死皇帝はもう一度あの安息を目指して行動する。それこそ、今度は封印などという一時凌ぎではなく、本当の安息を求めて。

 もう二度と、絶対に苦しむことがなくなるだろう——『死』を皇帝は求め続けるのだ。

 

 

 

 

 

「……死にたいって、そんな辛気臭い夢が私と何の関係があるってのよ?」

 

 ようやく知り得ることが出来た、不死皇帝の真の目的。彼の持つ自殺願望に呆れながらも、やはり訳が分からないとフラメシュは首を傾げる。

 いったい、その話が自分という存在——マーメイドとどう結びつくのか、本当に理解しかねると首を傾げる。

 

 

『——お前の中にこそ『炎』があるのだ。何もかもを燃やし尽くす、煉獄の炎がな……』

 

 

 フラメシュの疑問に対して、不死皇帝は今度こそ真正面に答えた。

 だが、それの意味するところを——少なくとも、フラメシュは理解することが出来ないでいる。

 

「はぁ? アンタ、何言ってんの? 私はマーメイドよ? 水は操れても炎なんか、私には……」

 

 深海の底で暮らすマーメイドにとって『炎』ほど、縁遠いものはないだろう。一族の中では火など見ることなく、一生を終えるものすらいるのだ。

 そんな自分の中に炎があるなどと、戯言もいいところだと笑い飛ばそうとしたフラメシュ——だが、そう思った矢先、彼女の体に異変が起きる。

 

「はぁはぁ……なに? 体が乾いて……熱い……!?」

 

 マーメイドである彼女はこれまでずっと海、水のある場所と共に生きてきた。そんな彼女にとって、体が『乾く』という現象は初めての体験だったのか。

 しかし、たかが肉体が乾いた程度で『燃えるような熱さ』を感じるなど、それが明らかに異常なことであることは分かる。

 いったい、自分の体に何が起ころうとしているのか、彼女にも理解が追いつかない。

 

「……予想どおりだ……」

『おおっ!! ついに始まるのだな、これでやっと……!!』

 

 だがテセニーゼはそれが予想通りの現象だと冷静に、不死皇帝が興奮するようにフラメシュの体に起こる異変を見届けていく。

 

 

「——う、うううう……も、燃えてる? 私の尾が……体が……心臓が……!?」

 

 

 そう、強烈な乾きと熱さを感じたかと思ったその刹那——マーメイドであるフラメシュの体から、『火』が着き始めたのだ。

 発火元は——彼女の肉体そのもの。体の内側から激しく炎が燃え上がり始めたのである。

 

「フラメシュっ!? 何で!? いったい、何が起こってるの!?」

 

 フラメシュの異変を前に、鳥籠に囚われているエレも目を丸くする。彼女と長い付き合いであるエレですら、それがなんなのか何も分からないのだ。

 

 だがこれこそ、マーメイドたちの隠された秘密。

 彼女たち自身ですら、忘却の彼方に忘れ去ってしまった——伝説にある、彼女たちのもう一つの姿なのだ。

 

 

 

 マーメイドという種族は、深海の底で暮らすことを是としてきたが、それは何も外敵の侵入を防ぐだけが目的ではない。

 彼女たち自身の胸に秘めた『炎』を燃え上がらせないようにするため。水中で生きることでその身を守ってきたのである。

 

 それは、その伝説を知らなかったフラメシュも本能的に理解していた。だからこそ、これまで彼女は決して水辺から離れるようなことはしなかった。

 自由を夢見て外の世界を訪れていた彼女ですらも、水から上がることが自身の身を滅ぼすと本能的に察していたのだろう。

 

 

「ああ……ああ……!?」

 

 

 だが友を救うため、フラメシュは自らの意思で陸へと上がり——その身を完全に水から引き揚げてしまった。すぐに海の中に戻ればどうにかなったかもしれないが、一度でも『炎』が目覚めればもう終わりだ。

 

 一度目覚めてしまった炎は、全てを燃やし尽くすまで消えはしない。

 それこそ——自分自身をその存在ごと抹消するまで。

 

 

『——さあ、目覚めよ! 煉獄の妖女よ!! 醜く歪みきった我が肉体を……その魂ごと燃やし尽くしておくれ!!』

 

 

 だがその炎こそが、不死皇帝の求めたもの。

 全てを焼き尽くしてくれると言われるマーメイドの『煉獄の炎』にこそ、彼は救いを求めたのだ。

 

 

 

「……ああ、あああああああああああああ!!」

 

 

 

 そして、燃え広がった炎がついにフラメシュの全身を燃やし始めた。

 その瞬間、彼女は周囲に厄災をもたらす存在——煉獄(れんごく)妖女(ようじょ)へと変貌を遂げたのである。

 

 




人物紹介

 亡霊騎士トーナ
  不死皇帝の死後も彼に仕える、帝国の元騎士たち。
  トーナはその中の一人、今作では騎士団長という役職を与えてみました。
  ほとんど自我のない操り人形。原作においては、時期によっては仕える相手が違ったりする。

 テセニーゼ
  不死皇帝の帝国に魔法大臣として仕えていた魔女。それと同時に彼の妻でもあった。
  原作においては魔法学園という場所で教師をしている。
  転生の魔女と呼ばれ、何度も何度も転生を続けながら生き延びているとのこと。

 煉獄の妖女
  マーメイドであるフラメシュのもう一つの姿。全てを焼き尽くす煉獄の炎をその身に纏う。
  ゲーム本編にも出てこないが、裏設定で彼女の詳細な設定が明かされている。
  レジェンドオブマナの独自設定であり、実際の伝承にマーメイドが燃える等の伝説はありません。
  
 次回で聖剣伝説のクロスも完結予定。
 次は……『ゲゲゲの謎』の話を踏まえた上でのクロスを書いてみたいと思ってます。
 
  
  
  

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