一応、何かしらの要因でハーメルン内のデータが消えても別のメモリにデータ保存してるので大丈夫。皆さんも、こまめにバックアップは取っておきましょう。
さて、今回のクロスオーバーは『リトルナイトメア』。
以前にクロスした『夜廻』シリーズのようなホラー系のサバイバル探索ゲームです。
子供の悪夢を具現化したような独特の世界観、ほとんど説明なしで進んでいく謎めいたストーリー。作者自身、こういったゲームは苦手なのですが、何故か惹き込まれるような魅力に目が離せなくなる。
怖くて直接ゲームがプレイ出来なくても、実況や考察動画などといった楽しみかたもあります。
次回予告でも分かる通り、今回は目玉おやじの主役回です。目玉おやじが鬼太郎を助けるため、悪夢の中を巡っていく。
基本的に原作の雰囲気を出すため、目玉おやじ以外の人物はほとんど喋りません。
目玉おやじと共にいく実況動画……みたいな感じでお楽しみください。
「…………ん? ここは…………はっ!?」
昏い深淵の中、目玉おやじが目を覚ます。
「わしはいったい……鬼太郎、どこじゃ!? 返事をせい、鬼太郎!!」
意識を覚醒してすぐに、彼は愛すべき息子・鬼太郎の名を呼ぶ。しかし返答はなく、彼の叫びは闇の中に虚しく溶けていくだけ。
「いったいここは……こ、これは……檻の中!?」
状況を把握しきれていない目玉おやじであったが、そこでようやく自分が檻の中——鳥籠のような鉄檻に入れられていることに気付いた。
「むむむ……開かぬ!! いったい何がどうなって……」
その檻からなんとか抜け出そうと体を揺り動かすも、目玉おやじの力では自力での脱出は不可能。
いったいどうしてこのようなことになってしまっているのかと、意識を失うまでの自身の行動を思い返し——。
「——そうじゃ!! わしは鬼太郎と一緒にモウとやらに赴き……そこであやつに、レディとかいう魔女に……!!」
自分が、自分たちがどのような道順を追ってこのようなことになってしまったのか、これまでの経緯を思い出していく。
ゲゲゲハウスにて、鬼太郎と目玉おやじが穏やかな時間を過ごしていたときだ。その報せは何の前触れもく彼らの元に届いた。
差出人不明の手紙、そこには丁寧な日本語で以下のようなことが書かれていた。
曰く、この国の近海に『モウ』と呼ばれる船が浮上してくるとのこと。『胃袋』という意味を持つモウには、多くの人間たちが『ゲスト』として招かれ、彼らを呑み込んでいくのだとか。
モウに呑み込まれたものは二度と戻って来ない。そうしてゲストたちをひとしきり呑み込むと、モウは再び海中へと沈んでいく。
モウが現れるのは一年に一回。それも毎年違う国の近海に姿を現し、その国のゲストたちを呑み込んでいくとか。
そして、今年は日本を訪れることになったというモウに、何者からか定かではないが鬼太郎宛てに手紙が——『招待状』という形で届けられたのであった。
手紙の内容は抽象的で、不明瞭なことが多く首を傾げる鬼太郎たちであったが、『人間を呑み込む』などという物騒な言葉を捨て置く事は出来ないと。
熟考の末、鬼太郎と目玉おやじは二人でそのモウとやらへと赴くこととなった。
「今思えば……あれはわしらをおびき寄せるための罠だったのやもしれん……」
しかし、その判断を今になって後悔することになる目玉おやじ。
せめてもう少し用心していれば、あんなことにはならなかっただろうと——さらに記憶を掘り起こしていく。
他の仲間たちが森を留守にしていたこともあり、鬼太郎は手紙に記されていたポイント——モウが浮上するとされる場所まで船を漕いでやって来た。
暫くの間は何も起きず、もしかしたらイタズラだったのではないかと、思わず帰ろうとしたくらいだ。
だがそのように思い立った瞬間にも、海面がせり上がってくる。
何かが浮上してくると、慌ててボートを転覆させまいとバランスを取る鬼太郎。そんな慌てふためく彼を嘲笑うように、『それ』は海上へと姿を現した。
海の上に浮かぶそれは、一般的に船と呼ばれるものとは明らかに異なる様相をしていた。
ドーム型の建物。天辺には煙突が一つ、吐き出すように煙を上げている。正面には入り口が一つ、まさに乗り込むものを呑み込まんと大口を開けていた。
しかしその見てくれも氷山の一角とばかりに、船体の大部分が海中に隠れているようだ。それは深海の奥まで続いており、その全貌を海上からでは推し量ることが出来ない。
初見ではあったが、鬼太郎にも一目で分かった。
それこそが『モウ』——胃袋の異名を持った、巨大船舶であると。
『……行きましょう、父さん』
その異様さを前に、流石の鬼太郎も最初は尻込みしていた。
だが、ここまで来た以上引き返すわけには行くまいと、唯一の出入り口からモウの中へと足を踏み入れていったわけだが——。
「あやつ、レディとか言ったか? 魔女を名乗っておったが……いったい、何者なのか……」
モウへと踏み入れたその矢先、鬼太郎と目玉おやじは手荒い歓迎を受けることとなる。
そのモウを支配する女主人——魔女・レディの手によって。
レディは、暗闇の中から浮かび上がるように鬼太郎たちの前に現れた。
漆黒に溶け込むような彼女の姿を、目玉おやじははっきりと視認したわけではない。だが着物らしい衣服に袖を通しており、どことなく日本人らしい佇まいをしていたような気もする。
彼女は魔女として、怪しげな魔法を用いて鬼太郎の動きを封じ込めてしまった。
咄嗟のことでまともに対処することが出来ず、鬼太郎は成す術もなく敗北——レディの魔の手に陥ることとなってしまったのだ。
『——鬼太郎っ!? ぐっ……!?』
目玉おやじも、鬼太郎同様レディの魔法に掛かってしまい——そのまま意識を失うこととなった。
そうして気が付けば檻の中に、つまり今に至るというわけである。
「……鬼太郎、待っておれ!! 必ず……必ず助けに行くからなっ!!」
ここに至るまでの出来事、自身の状況をはっきりと思い出した目玉おやじは、すぐにでも鬼太郎、大切な我が子を助けに行かなければと考える。
その際、『誰かの助けを待つ』などという選択肢は思考の外だ。
鬼太郎よりも小さく、見るからに非力な体であろうとも、目玉おやじにとって鬼太郎が守るべき息子であることに変わりはないのだから。
×
「やはり……まずはここからどうにかして脱出せねば……」
目玉おやじは鬼太郎を助けるためにも、まずはここから抜け出ださなくてはと、自身を閉じ込めている檻にもう一度手を掛ける。
しかし、先ほども試したが目玉おやじの力では檻から抜け出すことは不可能。鍵もしっかりと掛けられているのだろう、内側からではどうにならない。
「それにしても、ここは……」
そこで目玉おやじは視点を切り替え、周囲に目を向けることにした。
暗闇に目が慣れてきたこともあり、朧げながらも周りの様子が見えるようになっていた。目玉おやじのいる部屋には、彼を閉じ込めている以外にも、いくつもの鉄檻が無造作に置かれていた。
よくよく見れば、その檻の中に——自分と同じように閉じ込められているものたちがいるではないか。
「おーい!! お主らも、あの魔女に捕まってここに!?」
その檻に向かって声を掛ける目玉おやじだったが、返答はない。
檻の中にどのようなものが閉じ込められているかまでは見えないが——皆、全てに絶望するように顔を伏せってしまっている。
「…………ん?」
そんな中、目玉おやじの呼び掛けに反応するかのよう『ガシャン、ガシャン』と大きな音を立てるものがいた。
それは闇の中にポツンと光るよう、『黄色い』何かを帯びていた。それも他同様に檻の中に閉じ込められていたが、自力で脱出しようと鉄檻を揺り動かしている。
たまたま、その檻が高所にあったことが幸いしたのか。次の瞬間——少しづつ動いていた檻が、高所から勢いよく落下してくる。
「うおっと!? だ、大丈夫か?」
すぐ間近へと落ちてきた檻、その中にいるものへと目玉おやじが呼び掛ける。
かなり古びていたのか、檻は落下の衝撃によって破損してしまい。壊れた檻の中からのっそりと、黄色い何かが出てきた。
「キミは……こ、子供か?」
それは、黄色いレインコートを羽織った『人間の子供らしき』ものだった。
しかし、大きさは目玉おやじとほとんど変わらない。どれだけ小さかろうと、そんなサイズの人間などありえないと思いつつも、やはりどう見ても人間としか表現しようのない子供を前に目玉おやじが戸惑いを見せる。
「…………き、キミ!! 済まないが……手を貸してくれんか!?」
暫し、呆然としていた目玉おやじだったが、檻から脱出したその子供にここから出してくれないかと頼んでみる。
「…………」
すると返答こそなかったものの、黄色いレインコートの子供がピクリと目玉おやじの言葉に反応を示す。
子供は周囲をキョロキョロと見渡し、小さな鍵らしきものを見つけ、目玉おやじの元まで抱えて持ってきてくれたのだ。
「おおっ、ありがたい!! なんと礼を言えばいいか……」
すぐにその鍵を使い、自身を閉じ込めていた檻を開錠。なんとか外へ出ることが出来た目玉おやじは、レインコートの子供に感謝を伝える。
「んん? キミは……もしや、女の子か?」
そこで、目玉おやじは改めてレインコートの子供に目を向ける。
フードを深々と被っているため顔の表情などはっきりと見えないが、佇まいや雰囲気から相手が女の子であることに気付いた。
「何故、キミのような子がここに……? ここはいったい……」
その子の存在も含めて様々な疑問が浮かび、いくつか質問を投げ掛ける目玉おやじ。彼女が何者なのか、ここはどこなのか。まだまだ分からないことが多すぎる。
「……? ……!!」
ところが、目玉おやじの質問にレインコートの女の子は言葉で返事をしなかった。首を傾げたり、指で指し示したりと。リアクションこそ取ってくれるが基本的には何も喋ろうとしない。
「喋れないのか……? もしかしたら……わしの言葉が分からないのかもしれんな……」
目玉おやじは女の子が口をきけない、あるいは言葉を理解していない可能性などを考える。
だが、こちらが何を言いたいかなどは察してくれるのか、先ほど鍵を持ってきてくれたときのよう、目玉おやじからのリアクションを待ってくれているようにも感じられる。
「そ、そうじゃ!! 他のものたちも出してやらんと……」
ふと、目玉おやじは自身の檻を開けた鍵で他の檻——見れば山と積まれた鳥籠のような鉄檻の中に、レインコートの女の子と同じよう、人間の子供らしきものたちが閉じ込められているではないか。
子を持つ親として、子供を見捨てるなど出来ない。目玉おやじはそれらの檻へ順々に鍵を差し込もうとする。
「むっ……鍵が合わん……これもダメかっ!!」
しかし当然のことながら、その鍵で全ての檻を開けられるわけではない。寧ろ、目玉おやじの檻が素直に開いたことが幸運だったというべきか。
「他に鍵は……」
それでも子供たちを助けることを諦めきれず、目玉おやじは他に鍵はないかと暗い部屋の中を探索しようとし始めた。
まさに、そのときである。
昏い深淵の奥から——『腕』が伸びてきた。
「なっ……むぐっ!?」
思わず悲鳴を上げそうになる目玉おやじの口元を、背後からレインコートの女の子が塞ぐ。
声を出すなということだろう。そうして静かにしていると、長く伸びたその腕は子供の入っている檻の一つを引きずるように持っていってしまった。
「……ぷはっ!! なにが……今のはいったい……?」
レインコートの女の子が手を離し、目玉おやじは一呼吸入れる。
伸びてきた腕は人間のものに見えたが、明らかに長さがおかしかった。一瞬しか見えなかったが、少なく見積もっても常人の倍の長さはあっただろう。
「まさか、妖怪か!? いかん、あの子を助けなければ……」
目玉おやじはそれが真っ先に妖怪の仕業であると疑い、あの檻の中に入れられていた子供の身を案じてすぐに追いかけようとする。
「…………」
そんな目玉おやじの後を、黄色いレインコートの女の子も黙ってついてくる。
こうして小さな二人の、悪夢の中を旅する冒険が幕を開けたのである。
×
「済まん……キミたちのことは、後で必ず迎えにくる!! もう少しだけ、辛抱してくれ!!」
目玉おやじは先ほどの『長い腕』を追いかけることを決意するが、そうなると部屋の中に取り残されている子供たちを見捨てることとなってしまう。
もっとも、目玉おやじだけではここにいる全員の安全を確保するのは難しい。
断腸の思いだが、今は彼らをここに残しておくしかない。鬼太郎を助けたら再びここへ戻り、この子たちを助けようと、とりあえず闇の中を進んでいく。
「しかし、こうも暗いと前が……おおっ、灯りが……済まんな、助かったぞ!」
だが、足元もおぼつかない暗闇の中をなんの頼りもなく進むことに、妖怪である目玉おやじも不安を感じていた。すると、レインコートの女の子がどこからか取り出したライターに火を付け、明かりを灯してくれる。
その明かりのおかげで、とりあえず進むべき道が見えた。そのことに感謝をしつつ、目玉おやじはレインコートの彼女を連れていくことに一抹の不安を感じていた。
「キミも……どこかに隠れたまま待っていて欲しいんじゃが……」
勿論、それもその子の安全を考えた上での発言だ。
自分についてきて危険な橋を渡るよりは、安全な場所で隠れている方がずっといいと思ったのだ。
「…………!」
だがそんな目玉おやじの説得に、彼女は明確に首を横に振って拒否を示す。
檻の中に閉じ込められている他の子供たちと違い、彼女には自らの意思で前に進もうとする強い覚悟があるようだった。
「むう……仕方ない。決して、無茶だけはしないでくれ……よいな?」
そんな彼女の意思を尊重し、とりあえずの同伴を認める目玉おやじ。二人は檻だらけの部屋から飛びだし、次なる『ステージ』へと足を踏み入れていく。
「先ほどから、揺れているように感じるが……やはりここは、モウとやらの中なのか……?」
暗闇を進みながら目玉おやじが考えたのは、ここがモウ——胃袋の名を冠するあの巨大船舶の中だろうかということだ。
先ほどから、不規則な揺れを感じるのはモウという船が波に揺られているからだろう。
「ふむ……ならばこの辺りは倉庫……モウの下層といったところか?」
となれば、ここは荷物などを放り込んでおくエリア——倉庫に当たる場所だろうという考えが浮かぶ。
実際、室内は子供たちが入れられていた檻の他にも様々なものが放置されており、およそ生活感というものが感じられなかった。
「…………キミは、キミたちはどうしてモウにおるんじゃ? どこからか連れて来られたのか?」
ふと、進みながら目玉おやじはレインコートの女の子に改めて問いを投げ掛ける。
ここにいる小さな子供たちはどのような経緯で、どんな理由で檻の中に囚われているのだろうかと。
「…………」
「やはり答えることは出来んか……分かった、これ以上は何も聞かんさ……」
もっとも、その問い掛けに言葉が返ってくることはなく、彼女はだんまりを決め込んだまま。
目玉おやじは仕方ないとため息を吐きつつ、これ以上は何も詮索しないことに決め、進むことに意識を集中させていくことにした。
「むっ……誰かおるようじゃ……?」
そうして進んでいくうち、目玉おやじは何者かの気配を察知する。気づかれないようにと、物陰からその部屋の中を覗き込むと——そこに『腕の長い男』がいた
帽子を被り、粗末な作業服に袖を通した男。
成人男性にしては背が低いようだが、異様に長い腕が身長の二倍はある。
しわくちゃの顔、目元を覆うように布で目隠しをしていた。
目が見えていないのか、長い腕で手探りをしながら何らかの作業に集中しているようだ。
「何をして……っ!?」
先刻、子供の入った檻を持ち去っていった腕の持ち主に間違いない。もしかしたら妖怪かもしれないその人物が何の作業をしているのか、目玉おやじが目を凝らす。
瞬間、彼の視界に見えたのは——男が子供たちを『ラッピング』している光景だった。
檻から取り出された小さな子供たちは、次から次へと白い布でぐるぐる巻きにされていた。
そうして『包装』し終えた子供たちが、空中に架け渡したロープに吊り下げられたフックへと掛けられていく。フックで吊るされた包装済みの子供たちは、そのまま『生産ライン』へと乗せられ運ばれていくようだ。
男が作業する脇には、既に何十という数の包装済みの子供たちが山のように積まれている。その全てが——これから『出荷』されていく商品といったところか。
「な、なんということを……」
息を呑む、目玉おやじ。
いったいここに囚われている子供たちがなんなのか、包装された子供たちが何のために消費されるのか。目玉おやじの脳裏には口に出すのも憚れるような、身の毛がよだつ想像が浮かび上がってしまう。
止めなくては、しかし今のままでは何も出来ない。
自身の無力感を突き付けられているようで、目玉おやじの握り拳にも自然と力が入ってしまう。
『————————!!』
刹那——腕の長い男がこちらを振り返った。
目が見えていないにも関わらず、その腕が目玉おやじに向かってまっすぐ伸ばされてくる。
「見つかった!?」
咄嗟に身を躱すが、男の腕は逃げる目玉おやじを正確に追尾するように追いかけてくる。
どうやら、男は聴覚——『音』で相手の位置を特定している様子。目玉おやじの移動した先を把握するのに若干のタイムラグこそあるものの、執拗に彼を追い詰めようと腕を伸ばし続けてくる。
「くぅ……!! ここは一旦退くしかない!!」
目玉おやじの表情が歪む。
腕の長い男は、異様に長い腕以外にこれといって脅威と呼べるものを持っていなかったが、その腕に掴まればきっとまた檻の中に逆戻りだろう。いや、もしかしたらその場でラッピングされ、自分たちも『出荷』されてしまうかもしれない。
ひとまずは逃げるしかない。レインコートの女の子も男の腕を躱しながら、目玉おやじの後へと続いてくれる。
とはいえ、狭い部屋の中ではいつまでも逃げ続けることなど出来ない。どこか男が追って来れないような逃げ道はないかと、視線を彷徨わせると——そこに下層へと続く『穴』のようなものが見えた。
人が通れるような大きさでないところを見るに、おそらく何かものを捨てる——所謂、ダストシュートなのかもしれない。
「ええい、ままよ!!」
一抹の不安はあったが、もうそこ以外に逃げ道はなさそうだ。
僅かな躊躇いこそあったが、すぐにでもダストシュートに向かって、目玉おやじとレインコートの女の子が飛び込んで行く。
「痛っ……! だ、大丈夫か……お嬢ちゃん!?」
ダストシュートのチューブを流れるままに落下。着地が失敗してしまい、目玉おやじは尻餅を付いてしまった。痛む腰を摩りながらも何とか立ち上がり、レインコートの女の子へと目を向ける。
彼女の方は無事に着地出来たようだ。妖怪とはいえ結構な歳である目玉おやじと違い、子供は元気なものだ。
「ほっ……とりあえず、逃げ切れたが……ここは……」
そうして、彼女と共に長い腕の男から一旦は逃げ切れたことに安堵しつつ、周囲の状況を見渡すことで再び目玉おやじの表情が曇っていく。
「——何故、これほどの靴が捨てられておるんじゃ?」
ダストシュートの先にあったのは『大量の靴』だ。その部屋一面が、靴一色で埋められていたのだ。
靴で『山』が出来る、どころの話ではない。
靴で『海』が出来上がっていた。
その異様な光景に目玉おやじが圧倒されている間にも、ダストシュートのチューブからは定期的に靴が廃棄されてくる。
これだけの靴があるということは、靴を履いていた人間がそれだけいるということ。その数は百や二百どころではない。
それだけの人間、いったいこの船のどこにいるというのだろうか。
「この中を進んでいくしかないのか……」
そうした靴に関する疑問を抱きながらも、目玉おやじは目の前に広がる靴の海を進むことにした。どうやらこの場所から抜け出すためにも、避けては通れない道のようだ。
「行くぞ!! くっ……この匂いは……!!」
いざ、靴の海へと飛び込む。
靴たちは長い間放置されていることもあってか、鼻が曲がるような悪臭を放っていた。その匂いに表情を顰めながらも、レインコートの女の子が後ろからついて来やすいよう、靴を大きく掻き分けながら進んでいく。
「ふぅ……ふぅ……あと少しで……な、なんじゃ!?」
数分間、靴の海の中を悪戦苦闘しながらも何とか渡り終えるかとホッと安堵しかけた——まさにそのときであった。
靴の海の中で——『何か』が蠢く。
その何かは後方から、靴の海を押しのけながら目玉おやじたちへと一直線に迫ってくるではないか。
「お、おおおおおお!?」
姿の見えない襲撃者。まるで大海の只中、海中に潜むサメが迫り来るかのような恐怖感である。
「急ぐんじゃ!!」
目玉おやじは急ぎ、靴の海を渡り切ることでその何かから逃れようと。レインコートの女の子の手を引っ張りながら、大慌てで進んでいく。
あと少しで追いつかれる、と冷や汗を掻きながらも——何とか靴の海から脱出。
靴の海に潜む何かも、そこから上がってまで目玉おやじたちを追いかけては来ない。
「はぁ……はぁ……いったい、なんだったんじゃ?」
目玉おやじが息を切らせながらも振り返る。
靴の水面は、先ほどまでの津波の如く勢いが嘘のように静まり返っていたが、あの奥にいまだに『何か』が潜んでいるのは間違いないだろう。
もっとも、わざわざその正体を確かめようなどとは思わない。
確かめようと瞬間、きっと姿を見る間もなく——『それ』は自分たちを引き摺り込み、その身を引き裂くのだろうから。
「さて……ここからどうするか……」
大量に靴が廃棄された部屋を抜けた、目玉おやじとレインコートの女の子。二人の目の前には、大きな通路が一直線に続いていた。
ここを駆け抜ければ、また違う道が見えてくるだろう。だが狭いダストシュートなどとは違い、ここは人間サイズのものが普通に通れる通路だ。
つまり——。
「っ!? う、上から何かが……奴じゃ!!」
『————!!』
目玉おやじが思案を巡らせる暇もなく、襲撃者の魔の手は絶え間なく襲いかかる。
逃れたと思っていた、長い手の男——奴が上層から、吹き抜けを通って目玉おやじのすぐ背後まで迫っていたのだ。
「走れ!!」
どうしてここになどと疑問を持つ暇もなく、レインコートの女の子へ叫びながら自身も全力で走り出す。
奴は既に自分たちの大まかな位置を把握しているのか。通路を駆け抜ける目玉おやじたちに、長い手を伸ばしながら追いかけてくる。
相手の視界が閉ざされているというハンディキャップも、身体の大きさ、腕のリーチなどで帳消しだ。単純な速度比べでは、たちまち追い付かれてしまうだろう。
「っ……行き止まり……!」
加えて、走り抜けた通路の先は行き止まりであった。
そこは正方形の小さな箱のような部屋で、ダストシュートのような逃げ場もない。今度こそ万事休すかと、万が一のときのため覚悟を決める目玉おやじ。
——もしものときは……この子だけでも!!
そう、もしものときは自分が囮になっても黄色いレインコートの女の子だけでも逃そうと、自分の隣で息を潜める彼女へと慈しみの視線を向けていたのだ。
——うっ!? なんじゃ? 部屋が……動いておる?
すると、長い腕の男は目玉おやじたちの位置を手探りで探しながら、部屋にあったボタンを押した。瞬間、彼らのいる部屋が上に向かって移動を開始していく。
——ここは……エレベーターか?
逃げるのに夢中で気付かなかったが、そこはエレベーターの中だったようだ。上へと向こう昇降機の隅に身を隠しながら、目玉おやじはタイミングを見計らう。
——エレベーターが停止した瞬間……飛び出すなら、そこしかない!!
既に自分が囮になることを前提に、目玉おやじは次の行動を思案していた。エレベーターが止まって、入り口の扉が開いた瞬間、大きな音を立てながら全力で駆け抜けようと。
そうすれば男は自分を追ってくる、それでひとまずは女の子の安全が確保される筈だと。
身投げするような覚悟で飛び出そうとした——まさにそのときである。
「おおっ!?」
「————————!!」
目玉おやじよりも先に、カサカサと音を立てて動くものがいた。それは頭にトンガリ帽子を被った——奇妙な小人であった。
小人も、長い腕の男から逃れるためエレベーターの外へと飛び出していき、その駆け抜ける音に反応し、男が小人を追いかけるべくエレベーターを飛び出していった。
「今のは……人間ではなかったようじゃが……」
結果として、目玉おやじたちは難を逃れることが出来た。
長い腕の男が自分たちから遠ざかっていくことに安堵しながらも、目玉おやじは今し方走り去っていった『奇妙な小人』が何者だったのか、首を傾げるしかなかった。
×
それからも、目玉おやじとレインコートの女の子はモウの探索を続け、その度——長い腕の男の襲撃にあった。
男はモウ内部の構造を熟知しているのか。一度引き離したと思っても、すぐに目玉おやじたちの位置を音だけで特定し、先回りするように彼らの前に現れる。
長い腕の男の私室らしき場所で、彼は物言わぬ『人形』にボソボソと何かを語り掛けていた。
目が見えていない筈の男が、至近距離で人形に話しかける姿はいかにも近寄りがたいものであったが、その横を通り抜けなければ先に進めない。
幸い大量の人形に混じっていた、音を鳴らす『猿のオモチャ』で注意を逸らし、男の隙を作ることが出来た。
大きな『古時計』が整然と並べられた部屋において、女の子がうっかり時計の一つを倒してしまい、それを聞きつけて男がやって来た。
逃げるのが間に合わずに危うく捕まりかける場面もあったが、部屋中の時計が一斉に鳴り響いたかと思えば、男が苦しむように耳を塞いだ。『時計の音』が苦手なのだろうか。
広々とした空間内に、大量の『本棚』が陳列した図書館のような場所があった。
目が見えていないであろう男に読書など無縁の趣味だろう、いったいその本は誰のためのものなのか。
そこには本だけでなく『テレビ』もあった。テレビの電源を入れると奇妙な歌を歌う番組がリピートで流れ、長い腕の男がテレビの前に釘付けとなった。
「はぁはぁ……全く、いったいどこまで行けば……奴を振り切ることが出来るのか……」
そうした一進一退の攻防を繰り広げながらも、目玉おやじたちは確実に上へ上へと歩を進めていた。
しかし、どこまで行っても追いかけてくる『長い腕の男』の存在が目玉おやじに常にプレッシャーを与えてくる。
あの男を何とかしなければ、この先も奴に襲われる可能性を常に考慮し続けなければならないのだ。
「っ……足元に注意しなさい!! こんなところで落ちたら……もう、上がってこれないぞ……」
もっとも現状、目玉おやじたちに腕の長い男をどうにか出来る術などない。
奴の対処方法など、とりあえず後回しにしながら。目玉おやじは眼前の障害へと集中、レインコートの女の子にも気を付けるよう注意喚起していく。
いくつもの部屋を抜けた先で、彼らは断崖絶壁のような場所、不安定な足場を進むことになる。眼下を見れば、広大な吹き抜けがどこまでも『穴』として広がっていた。
目玉おやじたちのいる場所からでも、『底』を見ることが出来ない。ここから墜落などすれば一巻の終わりだろうと、背筋がゾクリと寒くなる。
「むっ……あれは……」
しかしそういった高さへの恐怖以上に、そこに『収穫』とも呼べる光景があった。
「あれは……先ほどの子供たちの……っ!?」
目玉おやじの視界に飛び込んできたのは——『ロープウェイ』とも呼ぶべきもの。
そのロープウェイに、長い腕の男によって先ほど『ラッピング』された子供たちがフックによって吊るされ、上層へと運ばれていたのだ。
その様は——まさに『出荷』されていく子供たちを送り出す生産ラインだ。
「あのロープウェイに乗れば……一気に上まで行けるかもしれん」
子供たちが出荷されているという事実に再び寒気を覚える目玉おやじだったが、その行き先がモウの上層であることに一筋の光明を見る。
子供たちが何のために、いったい誰の元に届けられているかは未だ定かではないが、あの流れに乗っていけばさらに上層——このモウを支配する女主人・レディのところにまで辿り着けるかもしれないと。
「……行くしかない!!」
闇雲に逃げ回るだけであった先ほどまでと違い、明確な目的地が見えたことで目玉おやじの声にも漲るような生気が宿る。
ロープウェイに飛びつけるような場所まで距離こそあったが、狭い通風口などを通っていけばあの男とエンカウントすることもないだろう。
「お嬢ちゃん、まだ行けるか? とりあえず、ここから逃げる道筋が見えたかもしれんぞ!」
「…………!」
レインコートの女の子にもその話を伝える。
相変わらず言葉で返事こそしてくれなかったが、彼女もどこかやる気を漲らせるよう、その身を奮い立たせてくれた。
しかしそうした希望、期待を胸に抱いたときにこそ——『最大の危機』というものは訪れるものである。
そのロープウェイまでの道のり。狭い通風口、ダクト内を通って難を逃れようとする目玉おやじたちの油断を突くよう——ダクトの中にまで『腕』が突っ込まれてきた。
『腕の長い男』だ。
通風口の破損していた僅かな隙間から腕を伸ばし、中に潜んでいる目玉おやじたちを捕まえようと躍起になっているようだ。
「っ……!! こんなところにまで……いい加減にせんか!!」
これには流石の目玉おやじもウンザリである。
いったい、いつになったら諦めてくれるのか。もういい加減、自分たちを追いかけることなど止めればいいものを。
何があの男をそこまで駆り立てるのか、その執念は目玉おやじにも最後まで理解出来なかった。
「ここではダメだ……外にっ!!」
もはや通風口も安全でないと分かるや、目玉おやじはレインコートの女の子と共にダクトの外へと飛び出す。
大きな通路へ出れば当然、長い腕の男自身が追いかけてくるだろうが、もはや奴の出現に一々驚いている暇もない。
「——うぉおおおおおおおおお!!」
後ろを振り返ることなく、目玉おやじは全速力で通路を走り抜けていく。
行き着く先には——『扉』が見えていた。
かなり分厚い、おそらくは防火扉だろう。上下式で今にも閉じ掛かっていたが、何故か壊れかけの鉄檻が中途半端に挟まっているせいで僅かな隙間が空いていた。
人が潜れるような隙間ではないが、目玉おやじたちくらいのサイズであればギリギリ通り抜けられるであろうスペース。
「——行けええええええ!!」
「——!!」
その隙間に向かって、最後はスライディングで滑り抜けていく。そうすることで目玉おやじも、レインコート女の子も何とか扉を潜り抜けることが出来た。
「むおっ!? し、しつこい奴じゃ!!」
だが扉を潜り抜けたその後も、男は長い腕を扉の下から突き出す。
自身が潜れない扉向こうにいる目玉おやじたちをどうにかして捕まえようと、執念深く手探りで長い腕を伸ばし続けてくる。
「これ以上は無駄じゃ!! 諦めい!!」
これに、目玉おやじが威勢のいい声で啖呵を切る。
もはや、腕の長い男に目玉おやじたちを捕まえることなど出来ない。この先にあるであろうロープウェイに乗って上層へと向かえば、おそらく奴とて容易には追いかけてこれないだろうという確信があった。
既に長い腕の男など脅威ではない。このまま奴のことなど放置して先を急げばいいだけのこと、だったのだが——。
「…………!!」
「!? お、お嬢ちゃん……な、何をして……?」
だがここで、これまで大人しく目玉おやじの後についてくるだけだった、レインコートの女の子が驚きの行動に出る。
彼女は、自分たちを捕まえようと必死に手探りを続ける男の腕をすり抜けながら、扉の目の前まで来た。
そして上下式のシャッター扉を中途半端な形で押さえ込んでいる鉄檻の柱を一本、引っこ抜いた。
『————!!』
瞬間、ガクンとシャッターが閉まりかける。
まだ鉄檻が支えになっているおかげで完全には閉じなかったが、扉に挟まり掛かっている長い腕が焦りを覚えるよう、もがき足掻いていた。
きっと扉の向こう側でも、男がその顔を苦痛に歪めているだろう。
「…………!!」
しかしそこで手を緩めることなく、女の子は鉄檻からもう一本、柱を引っこ抜こうと踏ん張っていく。
「よ、よせっ!!」
これに目玉おやじが制止の声を掛けるが、彼女は聞く耳を持たない。
さらに腰を据えて、全力で鉄檻を引っ張り——もう一本の柱が抜けた。
刹那、扉の重さを支えきれなくなった鉄檻がグシャリと潰れ、まさに断頭台のギロチンのように——扉が落ちる。
『——オオオオオオオォォォォォォォォ!!』
瞬間、扉の向こうから男の絶叫が突風のように吹き荒れる。頭の隅にこびりつくような、嫌な悲鳴だ。
それまで忙しなく動いていた男の腕も、ダランと力なく地面へと転がっていく。
「な、なんと……なにも、そこまでせんでも……」
静まり返る静寂の中、唖然となったまま目玉おやじが思ったことを口にしていた。
もう既に男から逃げる算段はついていた筈だ。
わざわざトドメを刺すようなことせずとも良かったというのに、女の子の過剰防衛とも呼べる行為で男の腕が、彼の命が——。
「いや……それだけ、怖かったのじゃろう……キミは何も悪くない……悪くない筈じゃ……」
しかし、女の子の立場を考えればある意味仕方がなかったとも言える。
あのような恐ろしげな男に意味も分からず追い回され、捕まったら他の子供たちのような目に遭わされるかもしれないという、恐怖に晒され続けたのだ。
男への恐怖心から、あのような行き過ぎた行動に走っても仕方がなかったと、それ以上目玉おやじは彼女を責めようとは思わなかった。
「…………先を急ごう……」
痛いような沈黙の後、ようやく冷静さを取り戻すことが出来た目玉おやじが先に進むことを決意する。
もう閉じた扉の方を振り返ったりはしなかったが、その扉の向こうで男がどのような結末を迎えたかを想像すると——不思議と身震いが止まらなかった。
「予想通りじゃ!! ここからロープウェイに乗って……上に行けるぞ!!」
そうして、目玉おやじは目的地まで辿り着いた。
眼前には——『ロープウェイの生産ラインに乗って運ばれていく、ラッピングされた子供たち』という光景があった。今すぐにでも包装されているその子たちを助けたいと思ったが、ここで一人二人救ったところで意味はない。
「済まん、今は……もう少しだけ、我慢してくれ!!」
やりきれない思いで胸を締めつけられつつも、目玉おやじは何も吊るされていなかったフックの一つにしがみついていく。
そのまま、出荷されていく子供たちと共にロープウェイの流れに乗って、次なるステージ——さらなる『上層』を目指していく。
「……行けそうか、お嬢ちゃん?」
「…………」
目玉おやじは自分と同じようにフックの一つにしがみつく、レインコートの女の子に目を向ける。
やはり、彼女もこの先まで一緒についてくるようだ。目玉おやじの呼び掛けに無言だが力強く頷いていく。
「待っていてくれ、みんな……!!」
そうして、ロープウェイの流れに身を任せたまま、目玉おやじは流れていく景色に目を向ける。
まずはその視線を、先ほどまで自分がいた下層へと。
あの場所には未だ多くの子供たちが取り残されている。全てが終わったら必ず彼らを助けにまた戻ってこようと、改めて胸に誓う。
「鬼太郎!! わしは必ず……お前を救い出してみせるぞ!!」
そして上層、これから自分たちが向かうであろう場所へと力強い視線を向ける。
きっとそこにいるだろう、自身の囚われた息子を救ってみせると。
その息子への想いこそ、目玉おやじがこの悪夢の中で己を見失わないでいられる、何よりも大切な原動力なのだから。
人物紹介
本小説内では明言されない、公式での呼び名についても解説していきます。
黄色いレインコートの女の子・シックス
原作の主人公。全身がレインコートで覆われているため、はたから見ると分かりにくいけど女の子。
リトルナイトメア『1』では一人でモウ内を探索していますが、続編の『2』では同行者と共に悪夢の中を探索。
その同行者がどうなったか……彼女と共にモウ内を進む、目玉おやじの運命やいかに?
腕の長い男・管理人
最初のステージでシックスに立ちはだかる、盲目の男。
目が見えないため、音だけでシックスの居場所を探知し、その長い腕を伸ばしてくる。
公式の紹介文曰く、どこからか逃げ出し、モウにやってきたとのこと。
考察によると続編である『2』で彼の過去が分かるとか。
魔女レディ
リトルナイトメア『1』におけるラスボス。
ゲームの舞台となる巨大船舶・モウを支配する女主人。
海外産のゲームなのに、何故か和服を着ている。多分、日本人じゃないと思うが……その正体は?