活動報告にも書き殴った『天穂のサクナヒメ』が個人的今期の覇権大本命。
原作ゲームをアニメで丁寧に描いてくれていることに、制作陣の愛を感じます。
日常アニメとしては『ラーメン赤猫』が見ていてほっこりする。
アニメならではのおまけ要素も面白い。次回予告がちょっと『サザエさん』ぽいのに笑えた。
作画面だと『逃げ上手の若君』がすごい。
残酷描写や、若君の性癖全開がアニメでもちゃんと描かれてて満足。
アニメで原作未読勢にも人気が出始めているって聞くし……これはポスト鬼滅もあり得るのか?
意外にも面白かったのが『異世界スーサイドスクワッド』かな。
異世界ものだけど主要人物たちの悪党ぶりが冴えわたって、とても見ごたえがあった。
『推しの子・二期』は……なんかタイムリーな話題で世間の注目を集めてるっぽい。
とりあえずここら辺は、最終話まで追っかけていくつもりです。
読者の皆様も、何かオススメがあれば活動報告のリクエスト欄に投稿してみてください。
「どこまで続くのか、そろそろ到着してもよさそうなもんじゃが……」
「…………」
現在、目玉おやじと黄色いレインコートの女の子はロープウェイのフックにぶら下がった状態だ。
そろそろ掴む腕の力にも限界が見え始めてきたこともあり、目玉おやじが目的地はまだかと愚痴を溢し始める。
そう、二人の小さな探索者は白い布でラッピングされた子供たちの出荷、生産ラインの流れに紛れ込んで巨大船舶——モウの『上層』を目指していた。
先ほどまで自分たちがいたエリア、『下層』からそれなりの距離を上がって来たが、まだ先が見えてこない。
目玉おやじたちが小さいというのもあるが、それ以上にモウという船の広大さが浮き彫りになっていくようである。
もっとも、それでも終着点というものは必ずあるものだ。
「おっ!? 見えてきたぞ!!」
目玉おやじの視界に次なるエリア——何らかの施設が見えて来た。
そこが何をする場所か、外側からでは分からないが、ロープウェイの流れもひとまずはそこで終わりのようだ。
とりあえず、着地に備えて身構える目玉おやじであったが——。
「……ん?」
ふと、目玉おやじは何者かの気配を感じ取る。
視線の感じた方を振り返ると——ベランダのような場所に『何者』かが立っていた。
「あれは……人間か? まだ、誰かいるのか……」
遠目からで輪郭しか分からなかったが、それは明らかに『人のようなもの』であった。そいつは目玉おやじたちを——厳密にはロープウェイによって運ばれてくる、包装済みの子供たちを見ていた。
まるで、送られてくる商品に不備がないかをチェックするかのように——。
「何者かは分からんが、油断するでないぞ……お嬢ちゃん!」
先ほどの『腕の長い男』のこともあり、目玉おやじは警戒心を高め、レインコートの女の子にも用心するよう声を掛ける。
そうして、いざ心構えを十分に新しい『ステージ』へと降り立つ。
「こ、これは……これが全て、子供たちじゃというのか……くっ!!」
ところが、ある程度覚悟を決めていた筈の目玉おやじの心が早くも挫けそうになってしまう。
その原因は、目玉おやじたちが降り立った先——そこで山積みにされていた『ラッピングされた子供たち』である。
長い腕の男が包装し、上層へと『出荷』していた子供たちの総数は、目玉おやじの予想を遥かに超えていた。
その数は二十や三十では収まらない。五十、いや下手をすれば三桁にも及ぶかもしれない。
しかもそうしてラッピングされた子供たちの大半が、大事な商品として丁重に扱われている様子もなく放置されているのだ。
埃の溜まり具合などから、それなりの時間が経過しているだろう。
ガチガチに包装されているせいか、それとも——既に息絶えているためかピクリとも動かない。
もはやそこにあるのは子供たちではない、ただの——物言わぬ『肉塊』であった。
「…………済まん、本当に済まん……もっと早く……わしらがキミたちのことを知っておれば……」
これだけの数の子供たちが、自分たちの知らぬところでこのような悍ましい最後を迎えていたという事実が目玉おやじの心を追い詰める。
彼の小さな体が絶望に打ちひしがれ、膝から崩れ落ちていく。
「…………これ以上の犠牲者は出さぬ……鬼太郎を助け出さなければ!!」
しかしそこで一度は膝を突き、打ちのめされながらも目玉おやじは顔を上げる。
きっとまだ助けられる命もある筈だ。何より、最愛の息子である鬼太郎をこのような目に遭わせるわけにはいかないと。
そういった思いが、再び目玉おやじの心を奮い立たせていく。
「…………!?」
「ど、どうした、お嬢ちゃん!? どこか痛いのか?」
だが、そうして意気込む目玉おやじの隣で、レインコートの女の子が突然苦しみ始めた。
お腹を抑えながら蹲る姿に、自分のようにこの凄惨な現場に気分を悪くしたのかと、目玉おやじは心配して駆け寄る。
ところが——『ぐ、ぐるるる~』と、どうにも間の抜けた音が女の子のお腹を鳴らす。
「……ははっ! 何だ、お腹が空いたのか? こんな状況で……何ともタフなもんじゃ!!」
どうやら、ただ単純にお腹が空いているだけのようだ。
「やれやれ……少し待っておれ。偵察がてら、何か食べられそうなものがあれば持ってこよう……」
このような状況下で空腹を感じられることに呆れつつ、きっと囚われている間まともなものを食べさせてもらえなかったのだろうと。
目玉おやじはこの先に軽く食べられるものがないかを探しに、単独で偵察へと出向くこととなった。
レインコートの女の子——シックスは飢えていた。
立っていることも出来ないような、強烈な飢餓感。何か食べないと死んでしまうという危機感が彼女を突き動かす。
ふいに——『バチン!』という音が、彼女の耳に届けられる。
音のした方に行ってみれば、一匹のねずみがねずみ捕りの罠に引っかかって挟まれているではないか。
哀れなねずみが必死にもがいている姿に同情でも抱いたのか、シックスはねずみへとゆっくり近づいていく。
そして——。
「…………済まん……待たせてしまったか……」
数分後、偵察を終えた目玉おやじが意気消沈と戻ってきた。
「まさか……これほどとは…………これほどの子供たちが…………うっ!」
彼がここまで気を沈ませていたのには理由があった。
この先は、出荷された子供たちの『保管庫』になっていた。
大量に山と積まれた包装済みの子供たちにも衝撃を受けた目玉おやじだが、この先にはそれ以上の子供たちが、箱の中にぎゅうぎゅう詰めで保管されていたのだ。
さらに、床には血痕や何かを捌いた痕跡まであった。
その様は、まさに『食肉工場』といったところ。いったい何の肉を加工しているのかなど、考えるだけでも吐き気を催してくる。
とてもではないが、食べ物を探そうという気にすらなれなかった。
「済まんが、もう少し我慢してくれんか? きっと、キミも食欲などすぐに失せるじゃろう……」
故に、目玉おやじは女の子に食料を渡そうとは思わなかった。彼女もこの先の光景を見ればすぐに食欲などなくなるだろうと考えていた。
「…………」
実際、目玉おやじが戻ってきた頃には女の子もケロリとしていた。あれだけ苦しそうにしていたのが嘘のように、お腹の音も聞こえなくなっている。
どうやら空腹は我慢出来るようだと、目玉おやじもホッと一安心である。
「…………?」
ふと、先に進もうとした目玉おやじの視界に、どうにも奇妙なものが映り込んだ。
それは——『ねずみの死骸』。
哀れにもねずみ捕りに引っかかった、一匹のネズミの成れの果て。しかしその死因はねずみ捕りによるものではない。
ねずみは、まるで何かにハラワタを食い荒らされたかのよう、臓物を床にぶちまけていたのだ。
ヒクヒクと痙攣していることから、死んでからそれほど時間が経過していないことが分かる。
「…………」
一瞬、何か言葉にしようのない不安が胸の奥を過ったが——それを気のせいと思うことにして、目玉おやじは先を急いでいく。
×
「ここは……調理場か?」
胸糞悪くなるような子供たちの保管庫を足早に抜け、目玉おやじと女の子がやってきたのは——調理場であった。
それまでの薄暗い倉庫などとは打って変わり、申し訳ない程度の照明が室内を照らしていた。壁際の食器棚には食器や野菜、果物、魚、チーズ、調味料などが適当に並べられている。
衛生環境はお世辞にも良いと言えない、寧ろ『劣悪』と言っていいだろう。汚れが平然と床に染みついていたり、食材があちこちに転がっていたり。
部屋の奥からねずみや、黒いアイツが出てきても何らおかしくないほど不衛生な現場である。
「しっ!! 何か……聞こえてくるぞ……」
そんな調理場として最悪な環境に顔を顰めながら、目玉おやじはそこで作業をしている『何者』かを発見する。
こっそりとバレないよう女の子にも注意を促しながら、そっと物陰から覗き込んでいく。
そこには——『シェフ』がいた。
白いコックコートに、白いコック帽を被った調理場を支配する料理人。まな板に載せられている肉を掻っ捌こうと、包丁を叩きつけるように振り下ろしていた。
——な、なんじゃ……あれは!?
声を出すのを我慢しながらも、目玉おやじはそのコックの存在に驚きを隠せなかった。調理場に料理人が立つなど何もおかしいことではないが、異様なのはそのコックの風貌である。
はちきれんばかりの贅肉にたるんだ皮膚、焦点の定まっていない胡乱な瞳が虚空を見つめている。
油まみれの素手で肉を掴み、ぐつぐつと煮立つ鍋の熱気に体中から汗が吹き出し、それを料理の上に平然と撒き散らしている。
清潔感など微塵もない。とても調理場に立つような人間——いや、人間と呼ぶのも憚れるくらいに醜く悍ましいものが、一心不乱に料理に没頭していたのである。
——人間……なのか?
目玉おやじも、それを人間と呼んでいいものかと思わず判断に迷ってしまう。
確かに人間としての外見的特徴を有してはいるが、人間らしさというものをどこかに置き忘れてきたかのような風貌だ。
下層で遭遇した長い腕の男といい、どうやらこのモウで働いているものにまともに人間と呼べるものはいないようであった。
——さて……先に進むにはここを突破するしかないが……行けるか?
とはいえ、いつまでもその料理人の風体に驚いているわけにはいかない。
見たところ、そのシェフは一人で厨房を切り盛りしている。料理に夢中で目玉おやじたちの存在にも気づいていないようだし、今ならばその後ろを通り抜けられそうだ。
「そーっと、そーっとじゃぞ?」
「…………」
抜き足、差し足、忍び足で目玉おやじとレインコートの女の子がシェフの支配する調理場を通過しようと試みていく。
『————?』
だが瞬間、侵入者の気配を察知したのか——グルンと、シェフが首だけで後ろを振り返る。
『——プギャアア!!』
台所に侵入した目玉おやじたちの姿を視界に捉えるや血相を変え、豚の呻き声のような絶叫を上げながらこちらへと迫って来た。
「見つかったか!!」
またしても始まってしまった、追跡者との追いかけっこ。
もっとも、腕の長い男と違ってそのシェフの手足は常人に比べてもだいぶ短い。動きそのものもかなり鈍臭く、テーブルの下などを潜って行くだけで十分撹乱になるようだ。
『————?』
案の定、身を隠しながら進んでいく目玉おやじたちの居場所をすぐに見失ってしまい、シェフはキョロキョロと周囲を見渡しながら台所を歩き回る。
料理の方もおろそかにする訳にもいかないのか、鍋の火加減を調節したり、食材に味付けをしたりと。調理と並行しながら目玉おやじたちの姿を探しているようだった。
「————!!」
すると動き回るシェフに反応し、物陰からカサカサと——『何者』かが音を立てながら飛び出してきた。
「あれは……」
テーブルの下で息を潜める目玉おやじも、それの姿を視界に捉える。
それは腕の長い男に追いかけ回され、エレベーターまで追い詰められたときにも一度見た——トンガリ帽子を被った『奇妙な小人』である。
ひょっとしたら何かしらの妖怪かもしれないが、少なくとも目玉おやじの知識ではそれがなんなのか正体は不明であった。
「——!?」
「——!!」
その奇妙な小人たち、少なくとも二、三匹はいるだろう。彼らもこの厨房を支配する料理人にとっては許し難い侵入者、害虫として扱われて然るべき存在なのか。
怒り狂うシェフが彼らを追い回し——そのうちの一匹を捕まえてしまう。
「な、何をする気じゃ……!?」
その小人の末路、シェフの手に落ちてしまったものがどのような目に遭わされるのか。目玉おやじにはそれを黙って見ているしかなかった。
次の瞬間、捕まえたその小人をシェフは躊躇することなく、鍋の中へと放り込んでしまった。
既に沸騰するまで熱々に煮立っていた鍋の中で、小人は手足をバタバタと地獄の熱さに悶え苦しんでいく。
だが、あがいたところで彼に救いが訪れることはなく——やがて小人は動かなくなり、そのまま鍋の底へと沈んでいく。
「な、なんということじゃ……」
目の前で見せつけられた小人の最後は、目玉おやじの苦悩をさらに加速させていく。このモウに来てからというもの、理不尽に奪われていく命をただただ見ているばかりだ。
弱いものが虐げられる。
弱者が一方的に搾取される現実に、目玉おやじはがっくりと項垂れる。
「…………」
「……お嬢ちゃん……」
ふと、落ち込む目玉おやじの気持ちを察してか、あるいは単純に言いたいことがあっただけか。レインコートの女の子が目玉おやじの肩を叩き、見てくれと言わんばかりに『上の方』を指差す。
「上……天井に何かあるのか?」
目玉おやじは指し示されたとおりに上を——『天井裏』を見上げる。
どうやら、そちらにも進めそうな道があるようで、そこからさらに上の階へと行けそうな作りになっていたのだ。
そこを通ってこの厨房を脱出しようということだろうか、女の子は先を進みながらこちらに来るよう手招きしてくれる。
「今は……進むしかないか……」
目玉おやじも、ひとまずは彼女の指示通り進むことにした。
そこに到着するまでの道のりとして、シェフに勘付かれることがないよう慎重に食器棚を登っていき、そこから天井裏の
橋のようにとなっている梁の上をうっかり滑り落ちないよう、足元に注意しながら進んでいく。
『——プギャアア!!』
「——!?」
「——!!」
その際、眼下の厨房ではシェフが今だに小人たちを追いかけている光景が見えた。
小人たちも捕まるまいと必死に逃げ回っているようだが、あまり知能は低くないのか闇雲に走り回っているだけで、いずれは追いつかれてしまう。
案の定、一匹の小人がまたもシェフの手によって鷲掴みにされてしまう。このままではあの小人も、先の小人の二の舞となってしまうだろう。
「これ以上は……やらせはせんぞ!!」
それを天井裏という安全圏から見ていた目玉おやじだが、だからといって他人事として放置は出来なかった。
彼はせめてもの抵抗として、何故か梁の上に障害物のように置かれてあった小瓶を持ち上げ、それを下にいるシェフに向かって思いっきり投げ付けてやる。
『——プギィィ!?』
投擲された小瓶は、見事にシェフの頭へと命中した。
勿論、それで倒せるような柔な相手ではない。寧ろ目玉おやじの行為は相手の怒りを無駄に買っただけ。シェフは激怒するよう唸り声を上げ、天井裏に潜む目玉おやじたちを睨め上げる。
だが小瓶をぶつけた衝撃で、シェフは小人から手を離した。その意識が完全に目玉おやじへと向けられたこともあり、床を走り回る小人たちのことなど、もはや眼中にない様子だ。
小人たちも物陰へと逃げ込むことが出来たようで、なんとか生き延びた。
「もう捕まるでないぞ……」
逃げるだけしかなかったシェフ相手に一矢報いたこと、小人を無事に逃がせたことで僅かに溜飲を下げた目玉おやじ。
自分たちを恨めしそうに見上げるシェフを尻目に先へと進んでいく。
×
天井裏から上の階に繋がっていたダクトを抜けると——そこは『居住区』のような場所であった。
厨房で働くシェフが住み込みで生活しているのだろうが、奇妙なことに洗面所には便器が二つ、不自然なまでに隣り合っていた。
洗面所を出て廊下を進んでいくとエレベーターが見える。ぐずぐずしていたら下の階からシェフが追いかけてくるかもしれないと、素早く廊下を抜けて別の部屋へと入る。
「むっ……誰か寝ておる……」
そこは寝室だったのか、部屋の中央にこれまた隣り合っているベッドが二つ。そのうちの一つの寝台で、誰かが寝息を立てていた。
部屋の中が真っ暗なため、どのような人物が寝ているかまでは分からなかったが、起こしたところで良いことなどないだろう。
「ふむ、行き止まりか……」
残念ながら、その部屋からどこか別のところへと繋がりそうな抜け道はない。ここまで来て引き返す必要性が発生したが、他に進めそうな道があったかどうかと、そこで暫し考え込む目玉おやじ。
「おっ、あんなところに鍵が……」
ふと視線を壁際に向けると、そこに一本の『鍵』が吊るされていることに気づいた。
「そういえば……台所の奥に鍵付きの扉があったような……」
記憶を思い返し、目玉おやじは厨房の奥に鍵付きの扉があったことを思い出す。もしかしたらこの鍵を使えば先に進めるかもしれないと考え、その鍵を拝借することにした。
「……!!」
どうやらレインコートの女の子も同じ考えらしく、目玉おやじが声を掛けるよりも先に、その鍵を取ろうと体ごと壁に向かって飛びついていた。
だがその際、鍵を掴みそこねて謝って床に落としてしまう。『チャリン』と、鍵が落ちたその音で——ベッドで眠っていた人物が目を覚まし、体を起こそうとしたのだ。
「いかん……こっちへ!!」
目玉おやじは落ちた鍵を慌てて拾い、女の子と共にベッドの下に隠れる。目を覚ました人物にバレないようにと息を潜めながら、相手の様子を伺おうと覗き込んでいく。
——ば、馬鹿な!?
その際、目玉おやじの瞳が驚愕で見開かれる。
起き上がった人物は天井からぶら下がった蛍光灯の紐を引っ張り、部屋の灯りを付けた。そうすることで露わになったその人物は——まさに調理場に立っていた『シェフ』の姿そのものだったのだ。
容姿から体型、着ている服ですら何一つ変わらない同一人物のような出で立ち。
しかし先ほどまで厨房にいた筈の人間が、寝室で寝ているなどあり得ないことである。どれだけ姿形が似通っていても、両者は別々の人物でなくてはならない。
——兄弟? いや……双子か?
体型も含めた瓜二つな姿形に、目玉おやじは彼らシェフが『双子』であると結論付けるしかなかった。
『————』
寝起きであるためか、目覚めたもう一人のシェフは鍵が紛失していることや、目玉おやじたちの存在に気付いた様子もなく、のそのそと部屋から出ていってしまった。
「ふぅ~……危ないところじゃった……ここからは、より慎重に進んで行かなければな……」
見つからずにやり過ごしたことにホッと一息入れつつも、自分たちを追いかけてくるシェフが二人となったことで、目玉おやじはさらに油断出来なくなったと気を引き締め直す。
実際に危惧したとおり、追跡者が二人となったことで、目玉おやじとレインコートの女の子はこれまで以上に困難な道のりを進んでいくこととなっていく。
手に入れた鍵で、さっそく厨房の奥にあった扉を開ける。
扉の先には、大きな『肉挽き機』が鎮座しており、部屋のいたるところで肉が吊るされていた。その光景に再び気分を悪くする目玉おやじだったが、その横でレインコートの女の子が肉挽き機に肉塊を放り込み、『ソーセージ』を作っていた。
巨大な肉挽き機から吊るされるように出てきたそのソーセージを、女の子は移動用の『ツタ』に見立てまるでターザンのように移動していく。
そのソーセージが何の肉かを想像すると躊躇いはあったが、やむを得ず目玉おやじも彼女の後へと続いていく。
進んだ先にあった『エレベーター』に乗り込もうとしたのだが、既に乗り込んでいたシェフの一人とバッタリと鉢合わせしてしまう。
すぐにエレベーターから離れ、追いかけてくるシェフを隠れてやり過ごし、隙を見て再びエレベーターへと乗り込む。
慌てて追いかけてきたシェフだが、ギリギリのところでエレベーターの扉が閉じて乗り遅れる。
目玉おやじたちに出し抜かれた『屈辱』か、憎悪の籠った瞳でこちらを睨め上げていた。
肉の加工場で、シェフの一人が乱暴に肉の『解体作業』に勤しんでいた。
手を血塗れにしながら包丁で乱暴に肉塊を切り刻む姿は、料理というより『遺体を解体する殺人鬼』のようであった。そうして解体した肉を一部摘み上げ、生のまま味見する。
その際、自身の顔を捲るようにしてから肉を口に運んだ。よくよく見れば、シェフの醜くたるんだ顔が『マスク』であることに気付かされる。
マスクの下がどのような顔をしているか、それは誰にも分からない。
「くっ……まだ……追いかけてくるのか……」
二人のシェフとの追いかけっこをどうにか切り抜けてきた目玉おやじだったが、ここでついに苦しそうに膝を突いてしまった。
それは体力的にキツイというのも勿論あったが、それ以上に精神面の負担が大きかったりする。
それはこのエリアの環境。見せつけられるように吊るされている加工済みの肉や、その肉を加工する過程の処理など。グロテスクな光景をさまざまと見せつけられ、その精神に多大な負荷が掛かってしまっていたからだ。
実際の食肉工場でも家畜を解体する工程や、充満する血の匂いなどで気分を害するものも多い。何よりここで扱っている肉のことを考えると——目玉おやじの気が滅入るのも当然のことだろう。
「…………?」
反面、女の子の方は特にこれといった動揺もなくケロリとしている。彼女は目玉おやじがどうしてそこまで疲弊しているのか、彼の心情を理解できないのか首を傾げている。
おそらく彼女はこのフロアの異様さ、解体されている肉が何なのかいまいち理解しきれていないのだろう。
だがそれでいいのかもしれない。この場所の残酷さなど、幼子がわざわざ苦しんでまで理解する必要などないのだから。
今はただ、ここから脱出することだけを考え、先に進んでいけばいいだけなのだ。
「さて……どうやら、あれが最後の難関のようじゃが……」
そうして、疲弊しながらも何とか突き進んでいき、ようやく次に繋がりそうな『光明』を見出す。
それはこのエリアに来るまでに使用したロープウェイ、それと同じようなラインの流れが目の前にあったのだ。
その流れに乗っていけば、ここよりもさらに上層のエリアに行けるのだろうが——。
「問題は……どうやってあそこまで行くかじゃが……」
問題は、そのロープウェイがその部屋の天井——はるか高所にあったこと。
『ブギィイ……』
『ブギャッ……』
それから、双子のシェフが洗い場となっていたそこで二人仲良く大量の皿を洗っており、そこから立ち退く気配がなかったということだろうか。
「……奴らが立ち去るのを待つか? いや……ここでこれ以上、時間を浪費するわけには……」
物陰に隠れながら、目玉おやじはシェフたちが皿洗いを終えるのを待とうかとも考えた。
しかし、皿が塔のように積み上がってもまだ終わりが見えない仕事量に、そんなに長時間待ってもいられないと頭を振るう。
今は一刻も早くここから抜け出し、鬼太郎が囚われているさらに上層へと向かいたいところだ。
「……!!」
すると、目玉おやじがもたついている間にも、物陰からレインコートの女の子が飛び出した。
彼女はシェフたちに見つかるのも構わず——何故か皿と洗剤の泡に溢れた洗い場へと、一直線に走り出していたのだ。
「な、何をするつもりじゃ!?」
無謀といえば、あまりにも無謀な突貫。
しかし今まで目玉おやじ共に慎重に進んできた彼女が、ここに来て自暴自棄になるとは思えない。きっと何かしらの考えがあると、彼女が何をしようとしているのかを目玉おやじは静かに見守る。
『ブギャアア!!』
予想どおり、女の子の存在に気付いて捕まえようと動き始めるシュフたち。だがやはりというかその動きは鈍臭く、彼女の動きを追いきれずに反応が遅れてしまっている。
「……!」
そんなワンテンポ反応が遅れるシェフたちを尻目に、女の子は塔のように積み上がっていた皿の上を迅速に登っていく。
シェフたちは彼女に向かって慌てて腕を伸ばそうとするが、彼らの短い手では届かない。皿を倒せばいいのだろうが、せっかく洗った皿を台無しにしたくないのか、それも出来ない様子。
「おおっ!! 何と大胆な……!?」
レインコートの女の子の行動力に、目玉おやじが驚きながらも感心する。
塔のように積み上がった皿の上は、確かにシェフたちの手の及ばない範囲だ。しかし先に続く逃げ場などなく、そこから飛び降りようものならすぐにでも捕まっていたことだろう。
ところが、皿のタワーは天井近くまで積み上がっており——そこからロープウェイへと飛び乗れるような距離となっていたのだ。
瞬間、女の子はロープウェイに向かってダイブ。ロープに吊るされていたフックへと掴まり、そのままロープウェイの流れに乗って運ばれていく。
『プギィイイイイイ!!』
そうして運ばれていく女の子を、双子のシェフが馬鹿正直に追いかける。
当然、手など届く筈もないだろうに、それでも愚直に追いかけようと仕事を放り出し、持ち場からも離れていく。
「——っ!! 今じゃっ!!」
洗い場からシェフたちがいなくなった隙を突き、今度は目玉おやじも皿のタワーを登っていく。女の子の後に続く形でロープウェイへと飛び移り、このエリアからの脱出を図る。
こうして、目玉おやじとレインコートの女の子はロープウェイの流れに乗り、ノンストップで進むこととなった。
途中、双子のシェフたちが目玉おやじたちを行かせまいと、皿や瓶を投げたりもしてきたが、その狙いも悉く外れて終わりだ。
『——ブギャアアアアアアアアアア!!』
『——ブギィイ!! プギィィイい!!』
最後には呻き声を上げる二人のシェフが、目玉おやじたちの離脱を指を咥えながら悔しそうに睨みつけていた。
「今はこうするしかない……じゃが、必ず戻ってくるぞ!!」
一方で、シェフたちの悔しそうな姿を見下ろしながらも、目玉おやじ自身もどこか悔しそうにロープウェイの流れに乗っていく。
先を急ぐためにシェフたちから逃げる道を選んだが、本当であれば連中の暴虐を止め、下層で囚われている子供たちをすぐにでも解放してあげたいというのが本音だ。
しかし、今の目玉おやじだけではそれも叶わない。このモウに蔓延る全ての悪行、邪悪な行いをやめさせるためにも——。
「待っていてくれ、鬼太郎……今、迎えにいくからな……!!」
やはり鬼太郎でなければ、彼でなければ全ての闇を晴らすことは出来ない。このモウの歪を正すためにも、ゲゲゲの鬼太郎の救出は急務であり。
「早く、お前に会いたいぞ……」
親としても、息子に早く再会したいと心から願う目玉おやじであった。
×
「……ん? なんじゃ、雨か? いや、これは……!?」
「…………」
そうして、ロープウェイで行けるところまで行き着いた先で、目玉おやじと黄色いレインコートの女の子がそれまでとは違う『何か』を感じ取る。
そこは、雨のような水滴がポツポツと落ちてくる暗いドームのような場所だった。だが、窓のようなところからは温かな光が差し込んできている。
「これは……波の音? もしや!?」
さらに耳を澄ませば波の音が聞こえてくる。よもやと思い、目玉おやじは急いで光の差す方へと駆け足で向かっていく。
「そ、外じゃ……ようやく……ここまで来たのか……」
瞬間、目玉おやじの視界に飛び込んできたのは——どこまでも雄大に広がる海の景色。
大海原にポツンと浮かぶ、巨大船舶——モウの姿であった。
そう、上へ上へと昇り続けた結果、彼らはついにモウが浮上した海面へと辿り着いたのだ。
水平線の方に目を向ければ夕日が沈みかけており、夕刻から夜への景色の変わり目が、世界を幻想的に映し出していた。
「いや……ここからじゃ!! ここから……ようやく始まるのじゃ!!」
久しぶりの外ということもあり、その景色に思わず見惚れそうになった目玉おやじであったが、そこが自分の目的地——ゴール地点ではないということを思い出す。
目玉おやじにとって、モウを脱出することが目的ではない。
鬼太郎を取り戻し、このモウで行われている悪行を止める。今の彼にとって、それこそが真の到達点と言えよう。
「お嬢ちゃんは、ここで待っていてくれ。これ以上はわしに付き合う必要もないじゃろう?」
しかし、それは目玉おやじの目的であって、彼女——レインコートの女の子には関わり合いのないことだ。
こうしてモウからの脱出が叶った今、彼女がこれ以上危険を冒してまで目玉おやじに付き合う義理はない筈だ。
「…………」
「まだついてきてくれるのか? それは、心強いが……」
ところが、目玉おやじの「付き合う必要はない」という言葉にも、女の子は動こうとしない。
もしかしたら、彼女にも脱出以外の目的があるのかもしれない。目玉おやじとしても、彼女がいてくれるのは心強い。
道中、彼女のおかげで突破口を開けたところもあったため、もはや足手纏いなどとも言うまい。
「その辺りにわしらの乗ってきたボートがある筈じゃ。そこで待っていて…………なんじゃ、あれは!?」
だがそれでも、女の子のことを考えて目玉おやじは彼女を安全な場所へと避難させようとしたのだが。
そんな目玉おやじの瞳に、異様な光景が飛び込んでくる。
彼らのいる場所はモウの外壁部分だ。そこから広大な海と共にモウの入り口、あんぐりと大口を開けているような正面玄関が見えていた。
その正面の入り口付近に、鬼太郎と目玉おやじがこのモウにまで来るのに乗ってきたボートが繋ぎ止めてあったわけなのだが。
そのボートの隣に——さらに巨大な『船』が停泊していたのだ。
その船からモウの入り口に向かって橋が架けられており、その橋を通って——『巨大な人影』が次から次へと渡っていくのが見えた。
「いったい誰が……ここからでは見えん、もっと近くで!!」
「……」
目玉おやじはその人影の集団がなんなのか、それを確認しようとその船に近づいていく。そのすぐ後を、レインコートの女の子も黙ってついてくる。
「——なんと……もしや、あれがゲストとやらか?」
そうして、近づいていくことで見えてきた人影の正体に目玉おやじが唖然となる。
船から桟橋を渡ってモウへと訪れたその集団は、おそらく『ゲスト』と呼ばれるものたちだろう。
鬼太郎たちがここに来るきっかけになった手紙にも書かれていた、このモウに呑み込まれていくというゲストたち。
モウに呑み込まれたゲストは二度と戻って来ないとか。そう考えれば、彼らもモウの犠牲者ということになるのだが——。
「あれが……あんなものが、ゲストだというのか!?」
もっとも、彼らを被害者。その存在をゲスト——『来賓』に喩えるには、彼らの有り様はあまりにも悍ましく、醜いものだった。
『——オォオオオオオ』
『——グォオオオオオ』
『——アアアアアアア』
『——フシュウウウウ』
モウの渡り廊下を、規則正しく並んでいる彼らは——まさに『肉の塊』だった。
着ている洋服から『富裕層』なのだということは察せられるが、どんなに立派な衣服を着ようと、はちきれんばかりに膨張しただらしない体が、高価で丈夫な衣服を悉く台無しにしていく。
床を軋ませながら歩いていく彼らは、みっともなくたるみきった顔を揺らしながら、どこを見ているのかも分からない生気のない目を虚空へと向け、口から汚らしい涎を垂らしながらモウの内部へと呑み込まれていく。
「こやつら……いったい、ここで何をする気じゃ?」
目玉おやじは、彼らゲストがなんのためにこのモウを訪れているのか。それを確かめるべく、気付かれないようにこっそりとその後をつけていく。
×
ゲストたちは誰の案内もなく、『食堂』のような場所へと通されていく。
そのエリア全体が木造建築になっており、各部屋が障子戸によって仕切られていたりと。所々に『和』の要素が盛り込まれているのは、今年のモウの浮上先が日本だからか。あるいは和服を纏っていた魔女レディの趣味か。
ゲストがたどり着いた先のテーブルには、肉や酒が山と盛られていた。
そして各々が席につくや、ゲストたちは一斉に理性を失った獣のように目の前の肉へとがっついていく。
『——アア、アアアアアアアア!!』
『——ブモモモモモモモモモモ!!』
素手で肉を鷲掴みにし、我先にとひたすら肉を口の中へと放り込んでいき、喉が詰まればそれを酒で流し込んでいく。
当然、テーブルマナーなんてものはカケラもない。それどころか料理そのものを味わっている素振りすらない。
肉肉肉肉肉肉肉肉酒肉肉肉肉肉肉肉肉肉酒肉肉肉肉、と。
彼らはただ己の食欲を満たすだけ、そのためだけに肉に喰らいついていく。
『——オェエエエエエエエエエエ』
やがて食べきれずに今し方口に入れたものを吐き出してしまうが、それでも食べることをやめようとはしない。全身から汗を吹き出しながら、喰っては吐き、喰っては吐きを繰り返すゲストたち。
醜く肥え太った彼らの酒池肉林の宴は、言葉にしようがない嫌悪感、この世のものとは思えない悍ましさを孕んでいた。
「うっ……な、なんと汚らわしい……こやつらは、本当に人間なのか?」
そんな地獄絵図に、目玉おやじも思わずそのような言葉を口にしてしまう。
ゲストたちがいったいどうしてこのモウを訪れることとなったのか、その経緯は目玉おやじも知らない。
だが彼らは仮には人間である筈。身なりのいい格好をしていることからも、一応は人間社会である程度の地位や財産を築いている権力者だと推察出来る。
しかし、今の彼らの在り様からは人間性など全く感じられない。もはや人とのして知能や理性など持ち合わせていないだろう。
まさに『食欲』だけに支配される、畜生以下のケダモノたちである。
「と、とりあえず……彼らのことは後回しじゃ……早くここを通り抜けよう……」
「…………」
そんな人間だったものの成れの果てをどのように扱うべきかと、その判断を一旦保留にし、目玉おやじはゲストたちで埋め尽くされた食堂を通り過ぎようとした。
レインコートの女の子も、静かに目玉おやじの後へと続いていく。
『————!!』
ところが、目玉おやじの姿を視界に捉えたゲストの一人が、次の瞬間にもテーブルの料理を跳ね除け——目玉おやじたちに向かい、猛然と突っ込んできた。
四つん這いになってこちらへと迫ってくるその姿は、もはや完全に獣のそれである。
「ま、まさか……わしらを食べようというのか!?」
ゲストのまさかの行動に、目玉おやじが総毛立つような戦慄を覚えた。
正常な判断能力を失ったゲストは、目の前にあるそれが食べ物かどうかの判断も出来ないらしい。
食欲に突き動かされるまま、小さく動き回る目玉おやじたちを『獲物』と認識し、捕食しようと追いかけてくるようだ。
『——アアアアアアアアア!!』
『——ウェエエエエエエエ!!』
『——フシュウウウウウウ!!』
そのような、とち狂った行動に走るゲストは一人ではなかった。目玉おやじたちの姿を認識するや、ほとんどのゲストたちが彼らを食べようと追いかけてくるのである。
しかし、肥満体質で満足に走ることもできない彼らでは、地面を這いずり回るのが精一杯。
中にはテーブルから満足に動くこともままならず、馬鹿の一つ覚えに必死に手だけを伸ばしてくるものもいるくらいだ。
「くおおおお!! ま、不味い……一度身を隠すぞ!?」
とはいえ、食堂で無数に蠢くゲストたちに一斉に襲われては堪らんと。態勢を整えるためにも、目玉おやじはここを一旦退くことにした。
ゲストたちの大きな体では入って来れないような小さな抜け道を通り、なんとか食堂から脱出していく。
「ふぅ~……ここまで来れば大丈夫じゃろう……」
ゲストたちがひしめき合う食堂を抜け、目玉おやじたちはとりあえずの安全地帯へと避難する。
そこはゲストたちが騒がしく肉を貪り喰らう食堂とは打って変わって、静寂が支配する場所だった。
木造建築的な作りなどは食堂と似通っていたが、テーブルなどは置いておらず、部屋ごとを区切った障子戸も全て閉ざされていた。
『————』
障子越しに見える部屋の向こう側に、丸々と太ったゲストが横たわっている影が見えていた。
食事を終えたものもいるのだろう。食べるだけ食べて眠りにつくという、あからさまに不健康な生活スタイルだが、静かにしてくれているというのならわざわざ起こす必要もない。
寝ているゲストが目を覚まして余計な騒ぎを起こされないようにと、こっそりと先を急いでいく目玉おやじたち。
「……ん? なんじゃ……エレベーターが……っ!!」
だが、何事もなくそこを通り抜けようとする目玉おやじをよそに、そのエリアに備え付けられていた廊下の『エレベーター』が動いていた。
何者かが下層からやって来たのだろう、扉を開いた瞬間に姿を現したのは——コックコートにコック帽を被った男。
『——プギィイ……』
双子のシェフだ。
先のエリアで完全に撒いたと思っていた追跡者の片割れが、こんなところまで追いかけてきたということか。
「な、なんとも……しつこいやつじゃ!」
「…………」
完全に油断していた目玉おやじだったが、すぐにでもレインコートの女の子の手を引き、慌てて物陰へと隠れる。
幸い、勘付かれる前に身を隠すことが出来たようだ。シェフはキョロキョロと周囲を見渡しながらも、目玉おやじたちが潜んでいる場所を素通りしていく。
「奴は……いったい何をしに……?」
そのシェフの落ち着きようから、目玉おやじは相手が『自分たちを追いかけてきたわけではない』と感じた。
もとより別の目的があってこのエリアに来たのだろう。その手には、大きな『包丁』が握りしめられており、シェフはそれを持ったままゲストが寝ている部屋へと無遠慮に上がり込んでいく。
「…………おい、まさか……!?」
その行動から、目玉おやじは一拍遅れでシェフの行動の真意を悟る。
だがまさか、そんなこと有り得る筈がないと。脳裏に過ったその可能性を必死に否定したい衝動へと駆られる。
だが目玉おやじの否定も虚しく、次の瞬間にも障子越しに映し出される。
シェフの影が寝ているゲストの影に向かって、包丁を振り下ろすという光景が——。
『——っ!?』
ゲストが、声にならない短い悲鳴を上げる。
体が反射的に抵抗しようとしているようだったが、それを無理やり押さえ付けるようにシェフが無慈悲に包丁を振り下ろし続ける。
何度も何度も。
それはゲストが動かなくなるまで続けられ——やがて静寂が訪れた。
「や……やりおった……まさか……こんなことが…………」
その光景を前に、目玉おやじはこのモウに呑み込まれたゲストがどのような最後を迎えるかを悟る。
つい先ほどまで、間違いなくゲストたちに不快感を抱いていたが、これは流石に憐れみを覚えずにはいられない。
ふと、そのタイミングで目玉おやじが思い出すのは——最下層で目撃した『靴が廃棄された』部屋のことだ。
部屋一面が、海が広がるように靴でいっぱいになっていた。あの大量の靴がどこからくるものかと疑問を抱いたものだが、その答えが今ので分かったような気がする。
靴はゲストたちのもの。ここで『処理』されたゲストたちの無用となった履物が、ダストシュートを通じてあの部屋へと捨てられたのだろう。
さらに思い返したのが——厨房エリアの冷凍庫に保管されていた『肉の大きさ』だ。
当初、あそこに保管されていた肉の全てが下層から出荷されてくる子供たちのものかと思ったが、大きさからして明らかに違うものが紛れていたのでホッと安堵したものだ。
あのとき、あの肉は『豚』か『牛』のものかと普通に考えていた。だが違うのだ。あの肉は、あの丸々と肥え太った肉の正体は——。
「うっ……かはっ……!?」
その先を思い浮かべようとした瞬間、吐き気を堪え切れなくなった目玉おやじが腹を抑えたまま床に突っ伏す。
このモウ内で行われていた想像を越えた悍ましい所業に、彼のメンタルがついに限界値を迎えた。
ここまで体を行使し続けてきた疲労感も加わり、もはや顔を上げる気力すら湧いて来ない。
もはやこれまでかと、目玉おやじの足が、心すらもその場で立ち止まってしまいそうになって——。
「…………」
「お、お嬢ちゃん……」
だが挫け掛けた目玉おやじの肩を、黄色いレインコートの女の子がポンと叩いた。
彼女は言葉こそ掛けてはくれなかったが、その優しい手つきから目玉おやじのことを慰め、鼓舞してくれていることが伝わってくるような気がした。
「…………ありがとう……お嬢ちゃん……」
小さな女の子のその気遣いに、目玉おやじは絶望に沈みかけた心を何とか繋ぎとめる。
「……先を急ごう…………そして、終わらせねばなるまい……この悪夢をっ!!」
まだだ、まだ諦めるわけにはいかないと。
鬼太郎のためにも、ここまで一緒についてきてくれた女の子のためにも。
倒れそうになる体に鞭を打ち、目玉おやじは最後までこの悪夢の中を走り続けることを決意していく。
人物紹介
双子のシェフ
中盤のステージで立ちはだかる料理と暴力をこよなく愛する双子。
一見すると同じ顔の双子に見えるが、その素顔はマスク。
本当の顔は全くの別人である可能性もある。設定だと三人目がいるとか?
ゲスト
モウを訪れるゲスト。
目の前に並べられた肉をひたすらに貪り喰らう、見た目が完全に化け物。
男女問わず醜く肥え太っているが、着ている衣服が綺麗なことから富裕層の成れの果てとか言われている。
奇妙な小人・ノーム
モウの中に隠れ潜んでいる謎の小人。
その大半が何かに怯えるよう暮らしているが、一部友好的なものがシックスに親切をしてくれようとする。
尚、そんな優しいノームにシックスが行った仕打ちが……。
次回で『リトルナイトメア』のクロスは完結します。
その次のお話は……日本人なら誰もが知るであろう、とある推理作品を扱ってみたいと思っています。
まだ推理パートが未定なので、絶対とは言えませんが……。