ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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今期のアニメ……ダントツで『メダリスト』が面白かった!!
面白過ぎて、一気に単行本全巻即買いしてしまったわ!!
アニメと漫画だと表現方法が違うのでどちらも楽しめる。アニメ面白いと感じた方、是非とも漫画原作も読んでみるといい!!

今回のクロスオーバーは、去年公開した映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』のオマージュとなっております。
原作の方はAI技術で偉人たちを復活させていますが、今作は鬼太郎とのクロスらしく『地獄から彼らが復活した』といった感じで、話を構成しています。
そして、ぐだぐだというサブタイトルから分かる通り……fgoキャラの参戦企画となっております。

だからこそ、主役の方も織田信長。さらに他のぐだぐだキャラも多数出演する予定です。
彼らが地獄から蘇った理由などもきちんと物語上で明かしていくので、どうか最後までお楽しみください。




ぐだぐだ内閣・もしも織田信長が総理大臣になったら 其の①

「はぁ〜、やっぱそう簡単にはいかないね〜……」

 

 一人の老齢の男性が、どこかくたびれた様子でぐったりしている。元から結構な年齢だろうが、仕事疲れでさらに老け込んでいるようにも見えた。

 

 彼のいる部屋は、この日本という国の政治の中核を担うべき場所。

 その部屋の最奥で鎮座する椅子に深々と座り込みながら——総理大臣の肩書を持つ老人が不景気な顔でため息を溢していた。

 

 そう、この男性こそ現職の内閣総理大臣。事実上、この国の行政を担う最高責任者。

 もっとも彼の場合、そこに『代理』の二文字が付く。

 

 彼は正式な形で総理に選ばれたわけではない。

 先の妖怪との大戦において、前総理を含めて主だった閣僚が死亡し、他に適任者がいなかったこともあり、半ば押し付けられるような形で総理に就任したのだ。

 これは戦後処理が収まるまでの緊急的な処置であり、情勢が一段落すればすぐに内閣そのものを解散、そのまま自身もお役御免となる立場にあった。

 

 しかし不本意な流れとはいえ、総理になった以上は出来る限りのことはしたい。

 どうせ責任を押し付けられて引退する身ならと、老人は自分なりにこの国のため、国民のためにと粉骨砕身、身を粉にして働いてきたつもりだった。

 

「ままならないもんだよ、ほんと〜……」

 

 だが、総理大臣だからといって何もかも好き勝手に出来るわけではない。

 

 この機会になんとか政治改革に乗り出そうとしても、外からは野党からの批判が矢のように降り注ぎ、与党内部からも余計なことをするなとばかりに突き上げを食らう。

 さらには裏社会に君臨する大物フィクサーやら、経済界を掌握しようと企む政商やら、政界に食い込もうとするカルト教団やらまでもが、このドサクサ期に乗じて利権を貪ろうと様々な手を打ってくるのだ。

 そのような輩から自身の身を守るので精一杯、それが今の総理代理の現状だった。

 

「これ以上は解散を引き延ばすのも限界だけど〜、そうなると次の総理候補は獅童(しどう)くんか……」

 

 そういった様々な妨害もあり、これ以上は現政権を維持するのも限界だと悟る。一応、自身の後釜に座るような人間がいないわけではないようだが——。

 

「けど彼、色々と後ろ暗い噂が絶えないからな〜……国民には人気あるみたいだけど……正直、総理の座に就かせたくないんだよね〜……」

 

 その人物、どうにもきな臭い。

 表向きは立派で善良な政治家を装っているようだが、三十年以上はこの世界で生き抜いてきた総理代理の目から見れば、そんなもの見せかけであることが丸わかりだ。

 

「まっ……ボク一人が反対したところで、しょうがないんだけどね〜……はぁ……」

 

 そんな輩を総理大臣になどしたくない。

 だが自分が戦後処理などで手が塞がっていた間にも、彼は各界の有識者を味方に付けることに成功したようで、党内にもすっかり彼を推す流れが浸透してしまっている。

 

「…………潮時だね……政権も、ボク自身も…………」

 

 そのような輩の台頭を許してしまったことで、すっかり自信をなくしてしまったのか。この一時凌ぎの暫定政権も、自分自身の政治家人生もここが退き時だと。

 

 

 

 老人は自らの政治生命に幕を下ろすべく、引退と共に解散を誓言することを決意する。

 

 

 

「——総理!! 大変です、総理代理!!」

 

 筈だったのだが、ここで思わぬアクシデントが発生する。ノックもなしに総理の執務室に飛び込んできたのは、眼鏡を掛けた秘書の男性だった。

 

「やれやれ、いったいどうしたっていうんだい〜、少しは落ち着いて〜……」

 

 秘書の尋常ならざる様子にも総理代理は慌てない。既に引退すると決心したためか、もう何が起きようと自分には関係ないとさえ思っていたかもしれない。

 

 

「よ、妖怪です!! 妖怪と思しき連中が……政権を明け渡せと押し寄せてきました!!」

「…………」

 

 

 しかし、秘書の口から叫ばれたその言葉には流石に眉を顰める。妖怪、それがよりにもよってこの国の政権を寄こせと言ってきていると。

 

「既に各省庁は制圧されてしまいました!! 残っているのはここだけです!! すぐに退避をっ!!」

 

 しかも、ここ以外の主だった政府機関が既に制圧されてしまったというのだ。

 相手側の手際の良さを褒めるべきなのか、それとも容易く制圧されてしまったこちら側の不手際を呆れるべきなのか。

 

 

「………………はぁ〜……またかね?」

 

 

 いずれにせよ、総理代理はこれといって動揺することなく、やれやれと肩をすくめる。

 

 この国の政権が妖怪の手によって奪われるのは、残念ながらこれが初めてではない。

 二年前にも、日本政府は隠神刑部狸という妖怪が率いる八百八狸軍団の手によって政権を奪取されてしまっているのだ。

 

「それで〜? また狸かい? それとも……今度は狐かね?」

 

 そのときの経験を含め、妖怪に世情をかき乱されることにすっかり慣れてしまったのか。総理代理は呑気にも政権奪取を狙う輩がどんな相手なのかと、秘書に尋ねるほどの余裕さえあった。

 すると、そんな総理の問い掛けに——。

 

「ええっと…………よ、よく分からない生物です……」

「はぁ……?」

 

 随分と曖昧な返事を返してきた。

 そのあまりに漠然とした言い回しに、流石に総理代理も素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「キミね、子供じゃないんだから〜、もうちょっと具体的に……」

 

 いくら冷静さを欠いているとはいえ、もう少し言いようがあるだろうと。呆れながらも秘書により具体的な説明を求めようとした。

 

 ところがだ——。

 

「ノッブ!! ノッブ!!」

「ノブノブー!!」

「ノッブ〜!!」

 

 秘書の口から詳しく語られる前に政権を狙うその襲撃者たちが、珍妙な鳴き声を上げながら執務室にまで雪崩れ込んでくる。

 

「……………………なるほどね〜…………確かにこれは、よくわからない生き物だ〜」

 

 自分たちを取り囲むように群れる『それら』を目にしたことで、秘書がどうして具体的な説明が出来なかったのか、その意味を理解した。

 

「……いや、ほんと……なんだろう、このナマモノは……?」

 

 そこにいる生き物をなんと説明すればいいのか、総理代理も暫し考え込む。

 

 まず、大きさは児童くらい。人型で何を考えているのか分からないキョトンとした顔が見るものの緊張感を削ぎ落とす。

 それから、長い黒髪がどこか女性を思わせる。しかしその寸銅ボディには起伏というものが全くなく、当たり前だが色気なんてものも皆無であり、服装も何故か黒い軍服・軍帽らしきものを着用している。

 

「——ノブノブ!!」

 

 そして鳴き声。先ほどから『ノブノブ』と無駄に可愛らしい声を上げながら、こちらに何かを訴えかけている。勿論、何が言いたいかは皆無である。

 仮に、その生き物を無理やり簡潔に説明するのなら——『特定の人物をゆるキャラ化しようとして生まれた、出来の悪いマスコット人形』だいたいそんな感じだろうか。

 

「見た目は間抜けだけど……随分と物騒なものを持ってるね〜」

 

 と、それだけならただのほんわかした謎生物の集団で済んだだろうし、秘書がここまで慌てる必要もなかった。

 しかし、その謎の生物たちの手には——『火縄銃』らしきものが握りしめられていた。

 

「ノブッ!!」

「ノブノノブ!!」

 

 威嚇射撃のつもりなのか、何体かの個体が銃口を頭上に向けて発砲。弾丸が天井を破砕したことから、実弾が装填されているのは明白だ。

 各省庁が既に制圧されていることからも、見かけによらず確かな戦闘能力を保有しているようだが。

 

 

「——貴様がこの国のトップ……総理大臣とやらだな?」

「——!?」

 

 

 その謎生物たちと似通った声音が響いてくる。どうやらその生物たちを率いる『何者か』が他にいたようだ。

 その人物だけでも、どうかまともであってくれと。どこか祈るような気持ちで声がした方に目を向ける総理代理だったが——瞬間、息を呑む。

 

 

 そこには、美しい少女がいた。

 長い黒髪の美しい女の子が、一糸纏わぬ姿でそこに立っていたのだ。

 

 

「————————」

 

 

 あまりにもあんまりな姿、普通であれば目のやり場に困るだろう。だがその少女を前にして、そんな不埒なことを考える輩などいない。

 

 

 彼女の瞳には『業火』が激っていた。

 

 

 地獄の炎すら生温く思えるほどの灼熱。

 いったいどれだけの業を積み重ね、どれだけの地獄を潜り抜ければ、そのような業火をその瞳に宿すことが出来るというのだろう。

 きっとその業火は少女が生きている限り燻ることなく燃え続け、少女の周囲を、少女自身を燃やし尽くすことだろう。

 

「ひ、ひぃっ……!?」

 

 その少女の業火に当てられてか、秘書などすっかり腰を抜かして動けなくなってしまう。

 きっとそれが普通の人間の反応だ。彼女の業火を前にすれば、並の人間など呼吸すら忘れるほどに恐怖してしまう。

 

「…………とりあえず、服でも着たらどうだい? 目のやり場に困っちゃうよ……」

 

 しかし総理代理は平静を装い、なんとか言葉を絞り出す。

 茶化すような物言いだが、内心ではかなり冷や汗をかいている。その焦りをポーカーフェイスで覆い隠すことが出来たのは年の功、ドロドロと陰湿な政界の闇と向き合い続けた老人の胆力がなせるわざか。

 

「ほう、このわしを前にしながらもその態度、代理とはいえ一国の主を任せられただけのことはある……」

 

 総理代理の度胸ある態度に少女は関心を示したのか。その瞳に宿した業火を僅かに緩め、感心したような呟きを溢す。

 

「じゃが!! 今の混沌と化す世界情勢を生き抜くのに、貴様のような只人には荷が重かろう!! わしにこの国の政権を委ねよ!! さすればこの国をより強く、より豊かな国家へと立ち直らせてやろうではないか!!」

「随分と大層な自信だね〜……」

 

 彼女は今の日本政府がどのような状況にあるかを把握しているようだ。その上で、政権を明け渡せと迫ってくる。

 山のように問題を抱えるこの国を、自分なら立ち直らせることが出来ると。古風な口調から発せられるその言葉には、確かな自信が満ち溢れていた。

 

「断る……なんて言えるような状況でもないしね……」

 

 その要求を突っぱねる、という選択肢を総理代理は持ち合わせていない。

 相手から武力で脅され、それに対抗する手段を持ち合わせていない以上、ここは素直に政権を明け渡すしかなさそうだ。

 

「……せめてキミが何者なのかくらい、教えてくれないかな?」

 

 ならばせめてと、少女に何者なのか名乗るよう誘導する。

 もしも彼女が妖怪であれば、その正体を知ることでその筋の『専門家』が対策を立ててくれるかもしれない。

 こういうただで転ばないところは、代理とはいえ総理にまで登り詰めた男だ。

 

「ふっ……そうか、そうか!! 聞きたいか、このわしの名を!!」

 

 すると何が嬉しいのか、浮ついたように声を弾ませる少女。彼女は自らの名を自信満々に、堂々と謳い上げるように声高らかに叫んでいく。

 

 

「——遠からんものは音に聞け!! 近くば寄ってわしを見よっ!!」

 

 

「——我こそは、神仏衆生の敵!! この混迷する世に覇を唱えんと立ち上がりし者!!」

 

 

「——第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)織田信長(おだのぶなが)とはわしのことである!!」

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 そう名乗りを終えるや、少女は「うはははっ!!」と愉快そうに笑い声を上げていたが、総理代理と秘書の二人は揃ってポカンとなった。

 総理は二度三度少女を見て、周囲の謎生物たちを見て、再び少女を見て——頭を抱えながら盛大にため息を吐くのであった。

 

 

 

「そ、そう来たか〜……」

 

 

 

×

 

 

 

「…………えっ? なにこれ……どういうこと?」

 

 その日、塾の夏期講習に向かうため、朝から出掛けようとしていた犬山まなだったが、リビングのテレビから流れてくる臨時ニュースに足を止めて見入っていた。

 ニュース内容を読み上げるキャスターも、非常に動揺しながら原稿を読み上げていることがその様子から見て取れる。

 

『——く、繰り返します。先ほど政府は総理代理の辞任を表明しました』

 

『——それに伴い新しい総理大臣として……お、織田信長と名乗る人物を任命』

 

『——今後、政府は織田信長総理大臣を中心に新たな内閣・偉人内閣を発足すると……』

 

 

「お、織田信長……? それがなんで総理大臣? い、偉人内閣って……なにっ!?」

 

 まだ選挙権を持たず、政治にあまり関心のない彼女でもそのような疑問を抱かずにはいられなかった。きっとまな以外も、このニュースを視聴した全日本国民が思ったことだろう。

 

 

 織田信長。

 日本人であれば誰もが知るであろう戦国武将の名だ。天下統一を成し遂げた戦国武将、豊臣秀吉や徳川家康の二人と共に『戦国三英傑』と並び称されるほどの大英雄である。

『第六天魔王』などという大仰な呼び名があるよう、三人の中でも特に過激で苛烈な人物という印象が強い。

『鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス』という句を詠んだこともあり、自分に逆らうものを容赦なく殺すという残忍さでも有名だ。

 特に知られているエピソード『比叡山の焼き討ち』。比叡山に居を構える延暦寺の僧侶やそこに住まう女子供、数千人もの人間を皆殺しにした。

 現代では当然だが、当時の価値観してもこれは凄まじい暴挙であり、近隣諸国の大名たちを震え上がらせたという。

 

 

「ど、どうなっちゃうの……これっ!?」

 

 そういった織田信長の経歴は、中学生のまなが授業で習うような歴史の断片だ。

 経緯や真偽はどうあれ、そんな人物がこの国の首相として権力を握ろうというのだから、彼女の心中が穏やかでいられないのは当然だろう。

 

『——なお、政府は近日中に会見を開き、偉人内閣の今後の方針を伝えるとのことです』

 

『——国民は決してパニックにならず、今までと変わらぬ生活を送るようにとのことで……』

 

 そんな、まなを始めとする国民たちの混乱を政府側も承知しているのか。

 近いうちに会見を開くと明言し、人々に普段と変わらぬ生活をするよう言い聞かせていく。

 

 

 それから数日後。

 

 

「……なあ、本当に本物の織田信長が総理大臣になったと思うか?」

「まさか!! どっかの誰かが、信長公の名前を語ってるだけだろ!?」

「けど妖怪がいるんだから……死んだ人間が化けて出てきたっておかしくないんじゃないか?」

 

 政府が開いた会見の場に集ったのは、各メディアの記者たちだ。

 事前に通達していた通り、今日この場で現政権——偉人内閣とやらが、今後の方針を発表するとのこと。

 会見が開かれる待ち時間、記者たちは一様に突如として現れた『織田信長を名乗る者』に関する憶測などを互いに議論しあっていた。

 

 というのも、彼らは未だに新たに総理大臣の座についた織田信長とやらの姿を見ていない。

 信長を含めた偉人内閣とやらがどのようなものなのか、詳しいことは何一つ知らされていないのである。

 

「また狸のときみたいにならなきゃいいけどな……」

「けどわざわざ会見を開くってことは……少なくとも、あの連中よりはマシなんじゃないですかね?」

 

 ふと記者たちの脳裏に、二年前に政権を乗っ取った八百八狸たちのことが思い出される。妖怪・隠神刑部狸率いる狸たちの妖怪政権は、まさに独裁政権の一言であった。

 国民の選挙もなく政権を握り、自分たち狸を無理矢理にでも敬うような法律を国会の議論もなく押し通す。

 そういった狸政権のときにも見られた暴挙のほどが、どことなく今の状況に似通っているように感じられる。反面、わざわざ会見を開くところにある種の律儀さを感じられるが。

 

 いずれにせよ、織田信長と偉人内閣とやらがどのようにこの国の舵取りを担っていくのか。

 記者たちは困惑や不安、そして僅かな期待を秘めながら会見が開かれるのを待ち侘びていた。

 

 

 

「——どうも、どうも!! お待たせしたみたいで……すみませんね、みなさん」

 

 そうして、時間が訪れたのとほぼ同時に、記者会見の場に一人の男性がやって来る。

 飄々とした笑顔を浮かべた、二十代ほどの青年だ。白い帽子、白い軍服らしきものを纏ったその格好が映画などで登場する旧日本海軍を連想させる。

 

「若い……あ、貴方が……お、織田信長公ですか?」

 

 このような場には不釣り合いな、あまりにも若すぎる青年の登場に呆気に取られる報道陣。しかしすぐにでも気を取り直し、まさかこの人物が織田信長なのかと問いを投げ掛ける。

 

「ははは……違います、違います。ボクは信長公ではありませんよ」

 

 すると、青年はその問い掛けをあっさりと否定した。

 どうやら彼は織田信長ではないようだが、報道陣に囲まれながらもやんわりとしたその落ち着きようから、只者ではないことは伝わってくる。

 明らかに普通の国会議員ではない、いったい彼は何者なのか。

 

「初めまして、この度発足した偉人内閣で官房長官を務めさせていただくことになりました」

 

 その疑問に応えるよう、青年は帽子を脱ぎながら礼儀正しく頭を下げて自己紹介を始めた。

 官房長官という役職と共に、自身が何者なのかを堂々と告げていく。

 

「——坂本龍馬(さかもとりょうま)と申します。以後お見知り置きを」

 

 

 

 

 

「…………坂本? 坂本龍馬って……あの!?」

「幕末の風雲児……!! 薩長同盟の立役者、大政奉還を成し遂げた……あの!?」

 

 一瞬、報道陣の間に沈黙が漂ったが、すぐにどよめきへと変わる。眼前の人物が名乗ったその名は、日本人であれば誰もが聞いたことのある偉人の名前であったからだ。

 

 

 坂本龍馬。

 幕末、江戸時代の末期に活躍した志士の一人である。

 日本初と言われる株式会社『海援隊』の結成。

 犬猿の間柄であった薩摩藩と長州藩の仲を取りもち、軍事同盟を締結させた『薩長同盟』。

 幕府から政権を朝廷へと返還する『大政奉還』により、260年と続いた江戸幕府を終わらせた。

 最後は暗殺という無惨な最後を迎えるものの、一介の脱藩浪士でありながら数々の偉業を成し遂げた幕末の風雲児。

 時代の荒波にただ流されることなく、最後まで日本の夜明けを信じて駆け抜けた、まごうことなき英雄であろう。

 

 

「…………」

「…………」

 

 ところが、そんな坂本龍馬という著名人を前にしながら、報道陣の反応はどことなく冷たいものであった。

 

「あれ……? どうかされましたか、皆さん?」

 

 シーンと静まり返る記者会見の場で、坂本龍馬を自称する青年もキョトンとなってしまう。そんな普通の反応が、記者たちの懐疑的な視線をさらに強めていく。

 

「貴方は……本当にあの坂本龍馬なんですか!?」

 

 そう、きっと誰もが最初に思ったことだろう。目の前にいる人物が——本当にあの坂本龍馬なのかと。

 

「なんか……全然イメージと違うんですけど……」

「坂本龍馬って言ったら……もっと汚い着物で……フケをボリボリ掻いてて……」

「語尾にぜよって、付けてないじゃないですか!!」

 

 坂本龍馬といえば、真っ先に頭に思い浮かばれるのが『例の写真』のイメージだろう。その写真の立ち姿と、顔立ちの方は似ていなくないかもしれない。

 しかし写真での坂本龍馬は、お世辞にも綺麗とは言えないヨレヨレの袴姿で、もっと髪もボサボサであった。それなのに清潔な白い軍服で綺麗に身なりを整えているのは、どこか違和感を覚える。

 それに話し方、土佐藩出身である彼はバリバリの土佐弁で喋る筈。語尾にぜよを付けるのも当然——などというイメージがドラマなどの影響から広く知れ渡っている。

 そういう一般的なイメージから、眼前の坂本龍馬はかけ離れていたのだ。皆が疑いを持つのは当然のことだったかもしれない。

 

「ええ……ボクって、そういうイメージなんですか?」

 

 そんな自分の世間のイメージにちょっと間の抜けた反応をする自称・坂本龍馬。

 

「ええっと……この服装はボクなりに海援隊のイメージを現代風に合わせたものです。ボクだって、公の場で身なりくらい整えたりしますよ」

「土佐弁は勿論話せますけど……それだと皆さんが聞き取りにくいと思いましたので、普通に喋らせてもらっているだけなのですが……」

 

 それでも決して怒ることはなく、記者たちの疑問に一つ一つ丁寧に答えてくれる。

 

「な、なるほど……そういうことでしたら……」

「へぇ……結構礼儀正しいな……」

 

 すると彼の諭すような話し方、柔和な微笑みが人々の緊張や不信感を薄れさせたのか。徐々にだが記者たちの態度が軟化し、場の空気が和み始めていく。

 彼が『本物』か『偽物』かは別として、記者たちは自然と眼前の人物にある種の好感を抱くようになっていたのだ。

 

「ですが……!! それで貴方が坂本龍馬だと納得するわけには……」

「何か証拠でもあるんですか!?」

 

 それでも、納得出来ないと叫ぶ記者もいる。

 そもそもな話、織田信長もそうだが、過去の偉人が現代に蘇るなんて世迷言。妖怪が蔓延る今の世の中でも、到底受け入れられる話ではないのだ。

 

「しょ、証拠って言われても……こ、困ったな、ボクも呼び出されたばかりで詳しいことは……」

「…………呼び出された?」

 

 坂本龍馬を名乗る彼も、自身が本物であると証明する手立てがないのか困ったように頬を掻いている。その際、何気なく呟かれた発言に疑問を抱く記者もいたが——。

 

 

「——お〜い! 龍馬ー!!」

 

 

 突然、その場に響き渡った間延びする女性の声に記者たちが揃って振り返る。

 

「えっ……な、なんだ……あの人?」

 

 その際、記者たちの口から驚きの声が上がる。

 振り返った先で、艶やかな長い黒髪の美女が『宙に浮いていた』のだ。

 彼女はまるで幽霊のようにフワフワと、長袖の黒いセーラー服にマフラーという季節外れの格好をしていた。どこか浮世離れしており、明らかに常人ではない空気感を漂わせている。

 

「退屈だ、龍馬ー……カエルでも取りに行こう、カエルー」

「ごめんね、お竜さん。今大事な話してるから……」

 

 女性は周囲の視線などお構いなしに、坂本龍馬のすぐ側へと背後霊のように寄り添う。

 龍馬はその人物の発言や行動自体に特に驚きを見せず、その一方で今は取り込み中だと困ったように女性に下がるようお願いしている。

 その光景だけ切り抜くと『仕事中に奥さんが職場までやってきたのを、慌てて帰らせようとする夫』の図に見えなくもない。

 

「お竜……お竜さんって……まさか……!?」

「ああ、坂本龍馬の奥さんじゃないか……?」

 

 二人のやり取り、お(りょう)と呼ばれる女性に記者たちは一つの心当たりを思い出す。

 

 それは坂本龍馬の妻だとされていた人物。

 常に彼の側に寄り添い、方々を駆けずり回る龍馬を献身的に支え続けたとされる女性だ。

 

「そんなん後でもいいだろうー、お竜さんは腹が減ったぞー」

「いやいや、そういうわけにはいかないから……ほら、会見が終わったら一緒に行ってあげるから……ね?」

 

 だが目の前にいる彼女は妻というより、子供のようなことを言って龍馬を困らせている。彼女の奔放な言動に振り回される龍馬も、どこかくたびれたように肩を落としていた。

 

「…………」

「…………」

 

 そんな龍馬の悲哀すら感じられる姿に一同、それ以上何も言えなくなった。

 少なくともこれ以上、会見の前に彼の心労を増やしたくないという、気遣いが皆の中で芽生えたのだ。

 

「コホン……それじゃあ、さっそく会見の方を始めさせていただきます」

「ちぇー」

 

 その気遣いに気まずそうに咳払いをしながら、つまらなそうにいじけるお竜さんをなんとか下がらせ、坂本龍馬を名乗る青年が会見を始めていく。

 

 

 

×

 

 

 

「まずはこの度発足した、偉人内閣の方針について国民の皆様にご報告させていただきたいと思います」

 

 坂本龍馬が就任した『官房長官』という役職は、閣議などの重要会議で決まったことを会見を通して国民に伝える役目を負っている。

 新内閣が発足したのだから、その方針を明確に伝えるのは当然のことであり、この会見もそのための場ということだろう。

 

「ボクたち偉人内閣は『戦災復興』と『経済対策』……基本的にこの二つを柱に今後の政策を進めていく方針です」

「はぁ……戦災復興と……経済対策ですか?」

 

 坂本龍馬の宣言に、記者たちの口から間の抜けた声が溢れる。

 偉人内閣というトンデモ内閣でありながらも、龍馬の口から語られた政府の基本方針とやらは至極真っ当で、当たり前のことであったからだ。

 

「この国は数ヶ月前に未曾有の危機を迎えました……それはボクたちも承知しています。そして、復興が思うように進んでおらず、今なお戦災で苦しむ人々がいることも……」

 

 しかし、今の日本において戦災復興という言葉には特別な意味合いが含まれている。

 妖怪たちの間で起こった先の大戦、特にその爪痕が未だに強く残る地域の住人にとってまさに死活問題だ。

 

「都市部の再建などは順調に進んでいるようですが……地方にまで復興の手が回っていないのが現状です。そのような地方格差を是正し、一刻も早く国民全員が元の生活に戻れるよう、ボクたち偉人内閣は力を尽くしていく所存です」

 

 妖怪たちとの戦争の被害は、渋谷などの東京都心だけに留まらず全国各地に広がっていた。

 各地方で同時多発的に発生した妖怪たちのクーデターに加え、謎の隕石ことバックベアード爆弾が流星の如く撒き散らした体液による被害など。

 きっとこうしている今も、多くの国民が戦後の苦境に喘いでいるのだ。

 

「……すみません、質問宜しいでしょうか?」

 

 一旦、龍馬がそのあたりまで話し終えたところで、即座に記者からの質問が飛ぶ。

 

「仰ることはもっともですが……そのためにいったいどのような活動をすべきか、具体案を提示してただけませんか?」

 

 そう、ここまでなら前政権も、それどころかどんな政党が政権を握っても口にする事柄だろう。もっとも、口にしたところでそれを忠実に守り、実行に移してくれるかは別問題だ。

 選挙のときなど都合の良いことを公約に掲げても、いざ政権を握れば何事もなかったように日和見に走り、何一つ具体的な行動を取らないのが大半の政治家だと国民は思い知っている。

 坂本龍馬だの、偉人内閣だのと。大仰なことを言ったところで、結局は今までの口だけ政治と何も変わらないのかと、記者たちの間に冷め切った空気が漂い始める。

 

「それに関しましては……」

 

 だが切り込むような記者の質問に、龍馬は動じることなく答えようとした。

 

 

「——それについてはわしが答えてやろうぞ!!」

 

 

 ところが、ここで龍馬の台詞を掻っ攫うように割り込む——威勢のいい女性の声が響き渡る。

 

「…………ぐ、軍服の……女の子?」

 

 会見の場に現れたのは——赤い外套に軍服という、その小さな体にあまりにも不釣り合いな格好をした少女であった。

 その美しい黒髪、爛々と輝く瞳、自信に満ち溢れた表情は自然と人々の目を惹きつける魅力があったが、何故このような場に少女がという疑問が当然のように浮かび上がる。

 

「あっ、信長公」

「………………はぁああ!? 信長!?」

「えっ……あの女の子が……織田信長!?」

 

 しかし坂本龍馬が何気なくその少女の名を呟くや、一寸遅れて記者たちの間に衝撃が走る。

 

 戦国時代を代表する武将。

 自身の意に沿わないものは家臣であろうと容赦なく断罪し、信仰の対象である寺に火まで放ち、女子供も躊躇なく皆殺しにしたという、あの魔王とまで呼ばれた織田信長だ。

 

 まさかその織田信長が女性。しかも、こんな小さな女の子だと、いったい誰が予想しただろう。

 記者たちの間に、当然のようにざわめきが広がっていく。

 

 ところが——。

 

「織田信長が女性……いや、まあ……そういう説もあるにはあるか……」

「いやいや……!! これはちょっと……狙いすぎでしょ」

「ロリババア属性……なるほど、こういうパターンで来たか……」

 

 最初に大きな衝撃こそあれど、記者たちは段々と平静さを取り戻す。

 

「おい、貴様ら……なんじゃ、その反応の薄さは?」

 

 すると、そんな記者たちの反応に織田信長を名乗る少女が不満そうに食ってかかる。

 

「こう……もっとあるじゃろう? 『あの織田信長がこんな可愛い美少女なわけなかろう!!』的なツッコミがっ!!」

「可愛いって……自分で言うんだ……」

 

 自称信長の少女は、わざとらしく可愛い声を出しながら誰もが当たり前のように抱くべき疑問点を追求してくる。

 

「いえ……十分驚いているのですが……」

「信長公はいろんな創作物で様々な形で描かれてますから……」

「寧ろ、普通に人間であったことにホッとしてます」

 

 しかし、記者たちは織田信長が女の子でも驚かない理由を口々に呟いていく。

 

 

 例えば、坂本龍馬であれば。先ほど記者たちが騒いでいたように『汚らしい着物に、バリバリの土佐弁』というイメージで一本化されているのがほとんどだ。

 それ以外の坂本龍馬像を想像しろ、という方がなかなかに難しいだろう。

 その一方で織田信長という存在は、その人気と知名度から様々な創作物で無数の『織田信長』として描かれてきた。

 

 映画、ドラマ、小説、漫画、アニメ。

 男性としては勿論だが、女性として描かれたりするパターンが何通りもある。というか、空を飛んだり、怪光線を出したり、巨大化したり。

 亡者として地獄から蘇って日本を魔界に変えたりと、本当に魔王のようなことをしていたりもする。

 そのようなトンデモ設定が多いからか『織田信長が女の子』『現代に復活する』という今の状況も、そこまで驚愕すべきではないのかなと、逆に冷静になっていく一同。

 

 

「貴様ら……わしの肖像権を好き勝手に侵害し過ぎじゃろ!! 使用料払わんか!!」

 

 そういった織田信長像を勝手に広げていく現代の風潮に、女の子の信長は本人としてプンスカと怒りを露わにする。

 

「ははは……」

「す、すみません」

 

 そんな、どこかわざとらしく大仰に感情を剥き出しにして怒る姿は、女の子な見た目もあってかどこか愛らしさを感じさせ、記者たちからも朗らかな笑みが溢れていく。

 

 その一方で——。

 

「——おいおい、あんなガキが織田信長だなんて……冗談きついぜ」

「——あんなのに政権を奪われるとは、いよいよこの国もおしまいだな……」

 

 会見場の一番後ろの壁際から、あからさまに眼前の織田信長を嘲笑する声も聞こえてくる。

 そんな無礼な記者に対し——。

 

「————」

 

 信長はどこからか『火縄銃』を取り出し、躊躇なく銃口を向ける。

 

 

「…………は?」

 

 

 誰かがそれに気づいた瞬間にも、既に引き金が引かれていた。

 ズドン!! っと、火薬の炸裂音と共に——その記者たちのすぐ真横を鉛の弾丸が通り過ぎ、彼らが寄りかかっていた壁に風穴を開ける。

 

「あ……ああ……!?」

 

 数秒間、何があったのか理解できずに呆然とする記者。だが自分が撃たれた、弾丸があと数センチ横にずれていたら、死んでいたと。

 ようやくそれを理解するや、その記者は腰を抜かし、壁を背にへたり込んでしまう。

 

「————」

「————」

「————」

 

 他の記者たちも絶句するしかなかった。

 カメラもあり、中継を通じて国民が見ているであろうその場で、この少女は何の躊躇もなく火縄銃などぶっ放したのだ。

 失言がどうとか、放送倫理規定がどうとか、そういう問題ですらない。明らかに常軌を逸した行動、政権など一発で吹っ飛んでしまうであろう問題行為である。

 

 

「——わしは戯れは許す」

 

 

 だが、当の本人は全く悪びれた様子もなく、無礼な口を叩いた記者に向かって冷淡に吐き捨てる。

 

 

「——だが侮は許さん」

「「「————!!」」」

 

 

 刹那、少女の瞳に『業火』が宿る。

 先ほどまでの陽気な雰囲気、自分から冗談まで口にして場を和ませていた少女が、一瞬にして冷酷な支配者へと様変わりする。

 その変貌ぶりを前に、政治家の揚げ足取りが得意な記者たちですら何も言えなくなる、言えるわけもないのだ。

 

 

 この場にいる全てのものが悟っただろう。

 彼女は紛れもなく『魔王』だ。第六天魔王と恐れられた織田信長、その人だと。理屈ではなく、本能でそれを理解したのである。

 

 

「ああ、信長公!! 銃は駄目ですよ、銃は!!」

 

 そんな第六天魔王に誰もが恐れ多くて意見など出来ない中、坂本龍馬だけが平然と彼女の『粗相』を注意する。もっともそこまで深刻そうではなく、信長の容姿もあってか、まるでイタズラをしでかした女子を大人が咎めるような構図だ。

 あの織田信長に堂々と物申す胆力。彼もまた、歴史に名を残すような偉人であることを認めざるを得ない勇ましい姿である。

 

「ふん……」

 

 龍馬の進言に信長は気に入らなさそうに鼻を鳴らすも、特にこれといって怒ることもなく、手にしていた火縄銃を文字通り消す。

 出たり消えたりする火縄銃。それがどのような仕掛けになっているのかとか、そんな疑問すらどうでもいいほど、会場の記者たちは信長の放つ覇気に当てられ、声を上げられないでいる。

 

「さて、改めて……ここからはこのわし、第六天魔王自らが今後の政策について語ってやろうぞ!! そこを退くがいい、坂本何某!!」

「ああ、はいはい……」

 

 だが途端、信長の瞳の奥から業火が薄れ、再び話しやすそうな空気へと変わる。彼女は坂本龍馬を下がらせ、快活な笑みを浮かべながら自らが壇上へと上がっていく。

 

 

 

×

 

 

 

「さて、とりあえずこれは見せた方が早いじゃろう……おいっ!!」

 

 壇上に上がった織田信長は指を鳴らして合図を送った。

 先ほどの話の続き『戦災復興』をどのような形で進めていくか、その具体案を示そうというのだろう。

 

「ノブノブ!!」

「ノブッ!!」

 

 すると、信長の合図に突如として小さな謎の生き物が大量にやってきて、何かしらの機材を運んでくる。

 

「……なにこれ……よ、妖怪?」

「なんとなく……総理に似てる?」

 

 いきなり何の説明もなく現れた謎生物に呆気に取られる記者たち。なんとなく、その生物の姿形が織田信長を模したものであることは察したようだが。

 

「準備出来たノブ!!」

「喋った!?」

 

 その謎生物たちは、ノブノブという鳴き声しか出さないのかと思いや、普通に言葉を話した。もうツッコミも追いつかない。

 

 謎生物たちが用意していたのは『投影機』と『巨大なスクリーン』であった。次の瞬間にも会場の明かりが消され、スクリーンにとある映像が映し出される。

 

「これは……!?」

「こりゃ、ひでぇ……」

 

 その映像を見るや、記者たちの口から悲痛な呟きが漏れる。

 その映像の右上に『Live』の文字があることから、それがリアルタイムの映像であることが窺い知れた。

 そう、それらの映像は今この瞬間——『戦災の被害によって苦しんでいる日本国内の状況』を端的に物語るものであった。

 

 

 山間部。

 土砂崩れにのみこまれた建物。土砂の撤去も不十分な中、さらに大雨洪水によって地すべりの被害が拡大。トンネルや山道が崩れているため、支援物資を送ることすら困難といった状況だ。

 

 沿岸部。

 津波で壊滅的な被害を受けた町。人が住んでいた痕跡など全て流され、水浸しの更地に山のように溢れる瓦礫。再建しようにもどこから手を付けていいか、それすらも分からず呆然と立ち尽くしてしまいそうだ。

 

 都市部。

 優先的に復興が進められている都市部とて、決して順調とは言えない。ようやく再建出来たかと思えば、また新たな怪異・妖怪が暴れだし、破壊と混乱をもたらしていく。

 全ての妖怪が悪いわけではないが、これでは再び妖怪たちに対する風当たりも強くなり——最悪、再び彼らとの戦争が勃発してしまうかもしれない。

 

 

 こうした被害が、今も日本全国に点在しているのだ。

 ここにいる記者たちにとってそれは周知の事実であったが、実際に映像で見せられるとやはり違うものだと、憂鬱な気分にさせられてしまう。

 

「これが今の我が国の現状じゃ!! 土台がこうもガタガタのままでは、経済対策も何もあったものではないわ!!」

 

 織田信長と偉人内閣も、こうした日本の被害状況を深刻に受け止めていた。政権のもう一つの柱となる『経済対策』も『戦災復興』から立ち直ってこそ初めて意味を成すと。

 まずはこの現状を打破するため、手を打っていくと宣言する。

 

「そこでじゃ……こやつらの出番となる!!」

「…………?」

 

 瞬間、信長は不敵な笑みを浮かべてみせた。

 するとリアルタイムの映像中継から、何やら地響きらしき音が聞こえてくる。何か巨大な物体が動いているような音だ。

 それがなんなのか記者たちが注視する中——『それ』は画面の中に姿を現した。

 

「!! なんじゃ、ありゃああああ!!」

 

 それを目撃した瞬間、記者たちの間から素っ頓狂な悲鳴が響き渡る。

 彼らが目にしたもの——それは会場にもいる謎生物の『別バージョン』とでも呼ぶべきナマモノたちだった。

 

 

『ノッブ!! 瓦礫撤去するノッブ!! 道を作るノッブ!!』

『復興!! 日本を再建するノッブ!!』

 

 全身を機械化されたロボットの謎生物。

 金色や銀色、小型から大型と同じバージョンでもバリエーションが豊富。ロボットアームのような腕で次から次へと瓦礫を撤去していき、廃墟と化した街や土砂に埋もれて通れなくなった山道などを綺麗に整えていく。

 

 

『ノノノ、ブブブ……コレゾ、キャトルミューティレーションノブ……』

『ガレキ、アブダクションスルノブ……スベテサラッテイクノブブ……』

 

 次に登場したのは、小さな円盤と合体したことでさらに謎めいたものに変化した謎生物だ。

 空中を自在に浮遊するフライングオブジェクトが、小さな瓦礫を一つ一つ円盤の中に取り込む——所謂『キャトルミューティレーション』と呼ばれるような光景が展開されている。

 謎生物たちも他の個体に比べて何故か片言で、まるで宇宙人のような話し方である。

 

 

『ノブ!! 尾張最速は譲れないノブ!!』

『桶狭間ドリフト!! 曲がるノブ!!』

 

 そんな中、瓦礫が撤去されて通過できるようになった道を高速で何かが走り抜けていく。よくよく見ればそれがオープンカーのハンドルを握った、あの謎生物たちであることが分かる。

 彼らは赤色や青色、緑色のオープンカーを器用に操縦し、支援物資を運んだり、撤去された瓦礫を他所へと運んでいく。

 小さいながらも凄まじい馬力を誇る彼らが、その見事なドライビングテクでトラックなどが通れない細い道を自由自在に駆け抜けていく。

 

 

「見ての通りじゃ!! こやつらを各地に派遣して日本全国の復興を進めていく……それがわしの戦災復興である!!」

 

 その映像と信長の自信満々な御言葉から、偉人内閣が掲げる戦災復興がどのようなものか分かっただろう。

 確かに彼らの——あの謎生物たちの活躍ぶりなら、戦災を被った地域は着実に復興が進む。これは彼ら偉人内閣にしかできない政策、胸を張ってもいい功績だ。

 

「…………………」

「…………………」

「…………………」

 

 しかし、その場にいる記者たちはそれを素直に感心したり、喜ぶことが出来ない。

 胸の中につっかえるモヤモヤ感、果たしてそれをどのように言葉に出すべきかと皆が悩んでいる。

 

「あの……つかぬことお伺いしますが……」

 

 そんな中、一人の記者が勇気を振り絞り、この場にいる全員の気持ちを代弁して口火を切った。

 

「か、彼らはいったいなんなんでしょうか? 見たところ……総理に似ているような気もするのですが……」

「ノブ?」

 

 そう、他でもないこの謎生物たち——今も記者からの疑問に呑気に首を傾げている、このナマモノたちが何者であるかということだ。

 おそらく基本形なのだろうが、会場にいるバージョンですらも意味不明なのに。映像の中はさらにバリエーション豊かなナマモノたちで溢れかえっていた。

 記者たちの疑問は当然であり、信長は総理としてその質問に答える義務がある。

 

 しかし織田信長はその顔から表情を消し、そっぽを向きながら答えた。

 

 

「——知らん……そんなもん、わしの管轄外じゃ」

「「「——ええええええええええええ!?」」」

 

 

 まるで人ごと、投げやりな総理の言葉に怒号のような悲鳴が木霊する。

 

「管轄外って!! どう見ても総理が元になってますよね、あの生物たち!?」

「なんでそこが曖昧なんですか!? 生みの親としてちゃんと把握しておいてくださいよ!!」

「総理!! お答えてください、総理!!」

 

 もはや我慢の限界だとばかりに、勢いのまま怒涛の質問攻めを繰り出す記者たち。

 今の彼らに支配者に抑圧される恐怖心などは微塵もない。ただただ、あの謎生物たちがなんなのか、その疑問を解消したい欲求で頭がいっぱいになっていた。

 

「ええい!! 知らんもんは知らんのじゃ!! だいたいなんじゃあいつら!? なんでどいつもこいつも、わしの肖像権を侵害しまくるんじゃ!? わしはフリー素材か!?」

 

 記者たちの質問責めに信長は逆ギレ気味に叫ぶ。しかし、先ほどのような冷徹な支配者に切り替わらないところを見るに、そこまで本気で怒ってはいないのだろう。

 いずれにせよ、あの謎生物たちがなんなのかは信長自身にも説明は出来ないようだ。

 

 

 ちなみに、その謎生物たちの正体こそ最後まで解明されることはないが、彼らが織田信長を模した何かであることは明白。

 そのことから、謎生物たちは自然と『ちびノブ』という呼称で呼ばれ、世間にも定着することになっていく。

 

 

「とはいえ、こやつらも無尽蔵に湧いて出てくる訳ではないからのう……というか、労働環境が悪いとストおこすからのう、こやつら……」

 

 記者たちと言い合った末、信長はちびノブたちの扱いについて愚痴を溢す。このちびノブという生物、基本的に信長の言うことを聞くが、絶対服従というわけでもないらしい。

 

「二十四時間も働けないノブ!! 有給消化させるノブ!!」

「賃上げするノブ!! 減税して手取りを増やすノブ!!」

 

 実際、こうしている今もちびノブたちは自分たちの労働環境、政権に対する不満を叫んでいる。意味を理解しているかどうかは定かではないが。

 

「よってこやつら以外にも人員を導入する必要がある。そこで我が国のぐ——」

「総理、そこは自衛隊でお願いします……」

 

 そこで信長は他にも人員が必要だと、思わず軍という言葉を使い掛けたが——そこを坂本龍馬が自衛隊と訂正を入れさせる。

 日本は憲法で軍隊を持たないことになっている。たとえ同じ内容でも、言葉の表現一つで揚げ足を取られる可能性があるのだ。

 

「まどろっこしいのう……まあいい。その自衛隊とやらを総動員して復興活動にあたらせる」

「自衛隊を……総動員!?」

 

 これに意外にも素直に訂正を入れる信長。だが続く彼女の言葉に記者たちがざわめく。

 

 自衛隊の派遣。

 確かに自国で災害など起こりようものなら、真っ先に自衛隊に声を掛けるべきだ。もっとも要請やら条件やら、何かと理由を付けて自衛隊の派遣を渋り、結果として初動が遅れたり、逐次投入を繰り返したりと。

 さらには復興の目処も立っていないのに被災地から撤退させたりと、何かと対応が後手後手になりがちな印象である。

 

「戦力の逐次投入など愚策も愚策!! 面倒な手続きも、要請も一切必要ない!! 既に防衛大臣である権六にも言いつけておいたわ!!」

「仕事早っ……って、権六って誰?」

 

 しかし、信長は自衛隊の派遣を自身の判断のみで決断。防衛大臣——『権六(ごんろく)』なる人物にも指示を出したとのこと。

 それは独裁的な判断ではあるものの、その即断即決こそが今の混迷する時代に求められるリーダー像なのかもしれない。

 

「ですが……それだと我が国の安全保障に空白が生まれるのではないでしょうか?」

 

 ところが、一人の記者から信長の決断に対する問題点を指摘される。

 一刻も早い戦災復興に、自衛隊の動員は必要不可欠な判断かもしれない。しかし人員を総動員などすればその分、日本の防衛にあたっている戦力が手薄になってしまう。

 

 その隙を、海を経て日本と接している緊張関係にある隣国などが狙ってくる可能性も0ではない。

 それに加えて妖怪という、いつどこで暴れ出してもおかしくない連中が潜んでいるのだ。流石に自衛隊を総動員するのはやり過ぎではないかと不安が過る。

 

「それについても問題ない。もし敵が攻めて来ようものなら、権六と勝蔵(かつぞう)に——」

「——失礼します、総理」

 

 しかしそれは杞憂であると、記者からの問い掛けに信長は堂々と答えようとする。ところがそのタイミングで、一人の男性が恭しい姿勢で総理である彼女へと声を掛ける。

 

「おや? どうかされましたか、奄美幹事長」

 

 その人物を坂本龍馬は『幹事長』と呼んだ。

 

 奄美(あまみ)——少なくとも歴史に名を刻むような偉人で、そのような人物はいなかった筈だ。

 黒いスーツに黒いコート。ストライプのワイシャツにネクタイと、現代風の衣装を紳士に着こなしたその出立からも、彼が現代に生きる人間なのだろうという感想が自然と出てくる。

 

 そういえば、奄美という代議士の名前も聞き覚えがあったかなと。

 記者たちは偉人内閣の全てが偉人だけで構成されている訳ではないと知り、少し安堵しかけたのだが——。

 

「たった今……防衛省から報告がございました」

 

 幹事長は一見すると冷静に、というか何故かサングラスをかけているためその表情を窺い知ることは出来ないが。

 彼は防衛省から届いたという重大な報せを総理である織田信長に——そして、記者や中継を通して見ているであろう全国民に向け、淡々と告げていく。

 

 

 

「——妖怪です。妖怪たちが大軍でこの場所へと迫って来ているとのことです……いかがなさいますか?」

 

 

 




人物紹介

 織田信長
  fgo出身の大人気サーヴァント(実家から逃げるな)!!
  魔王信長や織田吉法師、本物信長と。
  fgoにも色んな信長がいますが、今回はアーチャー版の織田信長となっております。
  性格はfgo版が基本になっていますが、ときより『Redline』版になったりします。
  役職は総理大臣。ノッブ……日本の政治に革命を起こしてくれ。

 坂本竜馬
  幕末を代表する偉人の一人。今回はライダー版での登場になります。
  fgoの坂本さんは礼儀正しく、身なりを整えて、土佐弁も意図的に封じている。
  そのため、皆が想像する坂本龍馬とだいぶかけ離れたイメージが……ぜよを付けろ!
  役職は官房長官。今作においても主役の一人になりますので、彼の行動にご注目を。

 お竜さん
  龍馬の側に寄り添う謎の美女。 
  マイペースで何を考えているか分からず、龍馬を始め周囲の人間を振り回していく。
  現時点で正体は不明にしておきますが……彼女の存在が物語の鍵を握る、かもね。

 ちびノブ
  信長の潜在意識的なものから生まれた謎のナマモノ。
  雰囲気で自己増殖、自己再生、自己進化するらしい……どこのデ〇ルガ〇ダム?
  ぐだぐだイベントを重ねていくごとにバリエーションが豊かになっていく。
  今回登場したのもまだ一部……次回からさらに大量のノッブたちが……。

 総理代理
  みんな忘れてると思うので改めて。
 『日本復興編』から登場した、前総理に代わって臨時で政権を握った総理代理。
  一応、鬼太郎と非公式ながらも仲直りの握手を交わしています。
  今作では彼もそれとなく活躍します。

 奄美
  ただの幹事長。現時点ではそれ以上でもそれ以下でもない。

 次回以降も、fgoから様々なキャラクターが偉人として登場します。
 ただ、今作では基本『戦国』と『幕末』、この二つの時代からしか出て来ない予定。
 何故この二つなのか、作中においてもちゃんとした理由がありますので、どうかご了承ください。

 
  
 
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