ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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年末、年始と体調を崩していたこともあったんですが……今年はまだ一度も映画館行ってないんすよ。

とりあえず今観たい映画の候補としては『野生の島のロズ』『ショウタイムセブン』などがあります。
本当は『怪獣ヤロウ』とか観たいと思ったんですけど……近場でやってるとこがない!!
『ガンダムジークアクス』に関しては、大人しくテレビ放送を待ちます。

今回のぐだぐだ内閣ですが、とりあえず四話構成になりそうです。
前回出てきた総理代理とかもそうですが、今回の話から過去のクロスに出てきたキャラたちの名前とかが普通に出てきます。
一応、人物紹介のところでそのキャラがどの作品の人物とか、ちょこっと紹介は入れますが……その人物の今作における立ち位置なんかを知りたい方は、改めて過去のクロスを読み返していただけたらと、思います。


ぐだぐだ内閣・もしも織田信長が総理大臣になったら 其の②

「——久しぶりの娑婆の空気じゃ……やっぱり、青空の下は気持ちがええもんや」

「——あっ、東京土産買うてってもええか? 嫁さんにせっつかれとるねん」

「——あとにせいや!! さっさと仕事済まさんと、自由時間もクソもないで!!」

 

 地上を跋扈する妖怪の大軍——その正体は『鬼』であった。

 大きな体に頭部の角、虎柄模様のパンツに金棒を担いだ、いかにも鬼といった連中が東京という大都市のど真ん中を集団で跋扈している。

 

「ひぃっ!? ま、また妖怪だ……逃げろ!!」

「ママ……怖いよう……」

「しっ!! 見ちゃいけません!!」

 

 まるで百鬼夜行を思わせる、鬼たちの大行進に人々から悲鳴が上がる。彼らの暴力が自分たちに向くようなことがあればひとたまりもないと、戦々恐々と一般人が逃げ惑う。

 だが人々の不安とは裏腹に、鬼たちが人間に危害を加えることは一切なかった。何故か関西弁でお喋りこそすれど、決して隊列を乱すことなくひたすら前に向かって進んでいくだけ。

 

「赤信号や!! 止まれ!!」

「横断歩道を渡るときは手を上げるんや!!」

 

 それどころか信号で止まるなどの交通ルールをきちんと守ったりと、まるで小学生の集団登校のようなお利口さすら見せてくれる。

 強面な外見とのギャップに、遠巻きに鬼らを見ている人間たちも戸惑っていた。いったい彼らはどこから来た何者で、何を目的にこんなことをしているのだろうか。

 

「——そこの鬼たち!! 止まれっ!!」

 

 そのとき、その鬼たちの進行方向の上空から、カランという下駄の音と共に舞い降りる影があった。

 

「あっ!! 鬼太郎だ!!」

 

 その少年の登場に、鬼の存在に怯えていた人間の男の子から安堵の声が上がる。

 ゲゲゲの鬼太郎、先の大戦でも人々を救った幽霊族の少年だ。彼が鬼たちにたった一人で立ち向かっていく姿に、人々の表情も明るくなる。

 

「鬼太郎……鬼太郎や!!」

「おお、おお……マジもんの鬼太郎やんけ、どないしたらええんや?」

 

 一方で、鬼たちの方も鬼太郎の存在を認識するや、その歩みを止めた。

 戦力差だけを見れば圧倒的に鬼たちの方が有利だ。しかしそのまま数の暴力で襲い掛かることもなく、彼らは一斉に行進を止めて鬼太郎と正面から対峙していく。

 

「ゴクリ……」

 

 大都市のど真ん中、鬼たちと鬼太郎が互いに視線を交差させるその光景を、人々は固唾を飲んで見守っていく。

 

 

 

「お主ら……もしや地獄の獄卒たちか? どうしてこんなところにおるんじゃ?」

 

 静かな緊張感に包まれる中、鬼太郎の髪の毛を掻き分けてひょっこり顔を出した目玉おやじが、彼らが何者なのかを察して驚いたように声を上げる。

 

 そう、眼前の鬼たちは地上で人間たちを苦しめるような、悪鬼の類などではなかった。

 彼らは地獄で亡者たちを苦しめる役目を負った鬼——『地獄の獄卒』たちだ。近年、何度も地獄を訪れる機会があったからか、なんとなく見たことのある顔触れであることに目玉おやじが気付いた。

 

「地獄のものが地上に干渉することは、原則禁止されておる筈じゃぞ?」

 

 だからこそ、彼ら獄卒たちがどうして大軍を率いて現世に来たのかという疑問が浮かび上がる。

 地獄にも法はある。あの世とこの世のバランスを保つためにも、地獄の住人が地上に直接関与することは禁止されている筈なのだが。

 

「——それは、わしの方から説明したるわ」

 

 すると目玉おやじの疑問に答えるためか、集団の統率者と思しきものが姿を現した。

 それは他の鬼たちよりも小柄ながら、どこか威厳に満ちた顔をした人物。服装も立派な道衣を纏っており、他の鬼たちからも敬われていることが、その場の雰囲気から察せられる。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてやな、ゲゲゲの鬼太郎。わしは十王の一人……秦広王や」

「十王じゃと? 閻魔大王と共に死後の裁判を担当する、裁判官の一人か!?」

 

 その人物、秦広王と名乗った相手の言葉に目玉おやじがさらに目を見開かせる。

 

 仏教において人間は死後に裁判を受け、地獄へ行くか天国へ行くかなどの判決を受けると言われているが、その裁判は閻魔大王一人の手によって行われているわけではない。

 閻魔大王を含めた十人の裁判官——『十王(じゅうおう)』と呼ばれるものたちが、そのものにどのような罰を下すべきか、長い期間を掛けて審理するのである。

 現世で亡くなった人の法要として一周忌や三回忌などを行うが、これも十王の裁判の期間中、遺族が死者たちの罪が少しでも軽くなるよう、減刑を請願する目的で行うとも言われている。

 

 秦広王(しんこうおう)は、十王たちの長い裁判の中でも一番最初。死後七日後の『初七日』を担当する裁判官とされている。

 死者たちの裁判で忙しいであろう、そんな十王の一人が地獄の獄卒たちを率いて地上に侵攻してくるなど、いったい何があったというのか。

 

「おどれも、もう知っとると思うが……地獄を脱走しおった不届きな連中が、現世で幅を利かせて調子付いとるみたいでのう……」

「ああ……偉人内閣とかいう、あれか……」

 

 秦広王も何故か関西弁で事情を語り始め、その話に鬼太郎も素直に耳を傾ける。

 

 偉人内閣——妖怪である鬼太郎たちにもその話題は伝わっている。鬼太郎は総理代理と握手を交わし、妖怪の失踪事件のときにも情報提供を受けたりと、戦後の日本政府とはそれなりに良好な関係を築いていた。

 だがそれでも、鬼太郎は妖怪として人間の政治に深く関わるつもりはなく、内閣が変わったからといって改めて交流を持とうとは思わなかったが。

 

「連中、どういう手を使ったかはしらんが……わしらの目を盗んで、地獄の警備を潜り抜けおった!! このまま奴らを放置することは、地獄の面子にも関わる問題や!!」

「なんと!! では、彼らは本物の死者……過去の偉人じゃというのか?」

 

 しかしその政権の担い手は『本物』の偉人、地獄から脱獄した亡者たちだというのだ。

 新しい総理大臣が織田信長と聞いたとき、てっきりその名前を語る何者かと思っていただけに、目玉おやじも驚きを隠せないでいる。

 

「鬼太郎、おどれには大逆の四将のときに世話になったが……今回はわしらが奴らを地獄に連れ戻すよう、閻魔大王様からの勅令が下ったんや」

 

 以前、大逆の四将という地獄から大罪人が脱獄した事件で、鬼太郎は閻魔大王との取引で彼らの魂を地獄へ送り還すべく奮闘した。

 だがそれが褒められたことでないと、後々になってやって来た閻魔大王の補佐官のお小言から察せられる。

 地獄の問題は地獄で解決する。そのためにも、今回は秦広王を含めた地獄の獄卒たちが地上まで出張って来たということだ。

 

「鬼灯さんが出張でなければ、あの人がなんとかしてくれるんやけどな……とにかく!! ここはわしらに任せて、おんどれは引っ込んどれ。用事を済ませたらすぐに帰るさかい、邪魔せんでくれや!!」

「ま、待てっ……!?」

 

 そのように秦広王は自分たちの都合や愚痴を一方的に告げるや、そこで話は終わりだと鬼太郎を無視して再び進行を開始する。

 鬼太郎は秦広王や獄卒たちの大行進を呼び止めようとするのだが——。

 

「鬼太郎、ここは大人しく通すしかあるまい……」

 

 その鬼太郎を目玉おやじが制止する。

 少なくとも秦広王の言い分には頷ける部分もあり、それが閻魔大王の命令というのなら尚更止める理由もないのである。

 

「ですが、父さん……このままで人間たちにあらぬ誤解が……」

 

 しかし鬼太郎は彼らが大軍を率いて、仮にも人間たちの代表が集まる『政府中枢』に殴り込みを掛けるという行為、それ自体を危惧した。

 

 確かに、彼らは地獄の住人として役目を全うしているだけで地上に害を及ぼす存在ではないかもしれないが、それをどうやって人々に理解してもらえるというのだろう。

 事情を知らない人間たちからすれば『地獄の獄卒』も『地上に蔓延る悪鬼』も同じようなものであり、見分けなど付くわけがないのだ。

 

 彼らの大行進、その光景を見ただけでは——『妖怪の人間に対する敵対行為』だと誤解されかねない。再び人間と妖怪たちとの間に摩擦が生じかねないのである。

 鬼太郎としてはそれだけは阻止したい、なんとか獄卒たちを止める方法はないかと知恵を振り絞る。

 

 

 

「もうすぐや……お前ら!! 地獄を舐めくさった罪人共に、目にもの見せたらんかい!!」

「「「おおっーー!!」」」

 

 だがそうして鬼太郎が悩んでいる間にも、秦広王と彼に率いられた獄卒たちが目的地間近まで迫っていた。

 当然、彼らが向かって来ているのは人間側も既に把握していることだろう。

 鬼の大軍団を迎え撃つため、人間側もそれ相応の軍備を整えている筈だと。秦広王は部下たちを鼓舞し、警戒心を強めながらも突き進んでいく。

 

「……ん? なんやあれは……?」

 

 故に、秦広王は自分たちの進行方向で待ち構えていた『それ』を前に怪訝そうに眉を顰める。

 そこにいたのは『偉人内閣』が、自分たちに対抗するために用意した戦力の筈。

 

 しかし、それは日本の国防を担う自衛隊でなければ。

 あの奇妙な謎生物『ちびノブ』の集団でもなかった。

 

 地獄の獄卒たちを迎え撃つため、偉人内閣が用意した戦力——。

 

 

 

 それは、たった二人の『鎧武者』であった。

 

 

 

×

 

 

 

「——来た来た!! 鬼が一匹、二匹……たくさんいやがるぜ、ひぃゃあははははは!!」

 

 全身を妙に機械的な大鎧で固めた、身長190cmほどの大男が愉快そうな笑い声を上げる。

 声音からして比較的若い青年だということは察せられるが、頭部がフルフェイスで覆われているため、その表情を窺い知ることはできない。

 

「——カカレェ、カカレェ……!!」

 

 そしてその青年と同じくらい屈強な鎧武者が『カカレ、カカレ……』とうわ言のように呟く。

 こちらも兜をがっちり被っているためその顔色を知ることはできないが、ボサボサに伸びた白髪がどこか老体であることを匂わせる。

 しかし、老いによる衰えなど微塵も感じさせない風格を漂わせながら、向かってくる鬼たちを迎撃せんと力強い一歩を踏み出していく。

 

「なんじゃ、おどれはぁあああ!?」

「さては脱獄した亡者やな!? 今すぐ殺して地獄に送り還したらぁああ!!」

 

 先行する老齢の鎧武者に対し、一番先頭を進軍していた獄卒たちの先鋒が一気に襲い掛かる。

 鎧武者にも負けない体躯、金棒を軽々と振り回す膂力からも見ても、その獄卒たちが豪傑であることは疑いようがない。

 彼らの手に掛かれば只の人間など一捻りだと、老齢な鎧武者が吹き飛ばされる光景が予想されただろう。

 

 

「——カカレェィイイイイイイイイッ!!」

 

 

 ところが鎧武者は鬼の大軍を前にしながら一切揺らぐことなく、咆哮を上げながら手にしていた大太刀を振り下ろした。

 

「ぎぇぇえええええ!?」

「な、なんじゃあああああああ!?」

 

 その一振、たった一振りで群がる獄卒共をまとめて蹴散らしてしまう。数十匹もの鬼たちが情けない悲鳴を上げながら、四方八方へと吹き飛ばされていく。

 

「ゴアアアアアアアア!!」

 

 さらに追撃とばかりに、鎧武者が再び咆哮を上げる。とても年老いた人間のものとは思えぬ、まるで怪獣の吐くブレスのような咆哮だ。

 それは物理的な破壊力さえ伴い、先の剣戟にも辛うじて耐えていた鬼どもを軒並み消し飛ばしていく。

 

 

 

「相変わらず気合が入ってやがんな、柴田のおっさんは!! 俺も負けてらんねぇぜ!!」

 

 その老齢な鎧武者の武者働きに触発されるかのように、もう片方の若い鎧武者も動き始めた。

 全身鎧で身を固めた彼は、その手に一振りの槍を携えて密集する敵陣——鬼たちへの只中へと単身飛び込んでいく。

 

「ぐげっ!?」

「ぎゃっ!?」

 

 その剛腕から繰り出される鋭い槍の一閃が、怒涛の勢いで地獄の鬼どもを串刺しに、そして八つ裂きにしていく。

 

「一点!! 一点!! 一点!! なんだぁあ!? どいつもこいつも雑魚ばっかじゃねぇかよ!!」

 

 敵を一人、また一人と惨殺するたび、鎧武者の青年は嬉々として点数のようなものを数える。

 どうやら獄卒たちの強さや大きさから、得点を付けているようだ。まるでゲーム感覚で地獄の鬼どもを次々と蹴散らしていく。

 

「オラオラどしたぁあ!! もっと根性入れて掛かって来いや!!」

「ちぃっ……人間風情が調子こいてんじゃねぇぞ!!」

 

 鎧武者の青年は獄卒たち相手にまるで歯応えがないとばかりに、不満を叫びながらさらに奮戦していく。とはいえ、鬼たちもただやられているわけではない。

 鬼たちの一人が青年の隙を付き、背後から金棒の一撃をその頭部へと振り下ろす。

 周りが敵だらけなこともあって、注意力が散漫になっていたのだろう。鎧武者はその一撃をまともに食らってしまう。

 

「がぁっ……!?」

 

 不意を突かれた強烈な一撃により、鎧武者の顔を覆っていたフルフェイスが粉々に砕け散る。頭がカチ割れたのか、素顔を晒した青年の顔面が鮮血に染まっていく。

 

「どや!? 思い知ったか!!」

「よっしゃ!! 一気に畳み掛けろや!!」

 

 そこへさらなる追い討ちを掛けようと他の鬼たちも殺到。調子に乗った亡者に制裁を加えてやろうと、獄卒たちが怒涛の勢いで迫ってくる。

 

 

「——嗤え、人間(にんげん)無骨(むこつ)

 

 

 だが自身へと突っ込んでくる獄卒たちに向け、青年は血だらけの顔のまま、歯を剥き出しに笑みを浮かべる。

 

 刹那、彼の手にしていた槍の穂先がパカリと開き——長槍が『十字槍』へと変化する。

 さらに十字槍の刃はチェンソーのように高速で振動、獣のような唸り声を上げる。

 

 

「へっ……? ふぎゃあああああああああああああ!?」

 

 

 その十字槍を、先ほど自分の頭部をぶん殴った鬼に仕返しとばかりに突き刺す。体を貫いた刃がさらに内部から肉を削り取り、鬼の肉体から血飛沫を舞わせる。

 

「うげぇ……」

「あ、あああ……」

 

 その痛みは筆舌に尽くしがたい。亡者たちを苦しめることを仕事としている筈の獄卒が、地獄の苦しみにのたうち回って絶叫する姿は他の鬼たちをドン引きさせ、その戦意を削ぎ落としていく。

 

「——ひゃっはっはっは!! 十点!! ハイスコアゲットだぜぇええ!!」

 

 一方で鎧武者の青年は大物を一匹仕留めたと、顔面から流血しながら嬉しそうに嗤い声を上げていた。

 その姿に、獄卒たちは尋常ならざる『狂気』をその青年から感じ取ったことだろう。

 

 

 

「くそっ……!! なんなんだコイツは!?」

「なんで……なんでまだ動けるんだよぉお!?」

 

 狂気という点で言えば、もう一方の鎧武者も負けてはいなかった。

 

「カカレェ! カカレェ!!」

 

 先ほどから『カカレ、カカレ』と叫び続けながら、老齢の鎧武者がひたすら大太刀を振り続ける。太刀が振るわれる度に空気が震え、大地が割れ、鬼たちが吹き飛ばされていく。

 

「このジジイ……とっととくたばらんかい!!」

「亡者のくせにしつこいわ!!」

 

 勿論、こちらの鬼たちもされるがままに蹴散らされているだけではない。鎧武者の隙を伺いながら、その腕や足に剣や槍を突き刺し、少しづつでもダメージを与え続けている。

 

「カカレェ……カカレェイ……カカレェイイイイイイイイイイイイッ!!」

 

 しかしどれだけ傷だらけになろうと、鎧武者は決してその歩みを止めなかった。

 それどころか、その巨体が膨れ上がるように大きくなり、纏う鎧が禍々しいものに変貌を遂げていき、その威圧感を高めていく。

 

 そんな二人の鎧武者の暴虐を前に——。

 

「お、鬼だ……」

 

 一匹の鬼が震えながら呟く。まさに鬼である彼らの台詞ではないが、その感想もあながち的外れでもなかった。

 彼らは確かに人間だが、それとは別に『鬼』と呼ばれるに相応しい存在だったからだ。

 

 

「カカレェ!! カカレェ!!」

 

 先ほどから『カカレ、カカレ』と呟く、老齢な鎧武者——その名を柴田(しばた)勝家(かついえ)という。

 織田信長配下の武将であり、敵陣へと勇猛果敢に突き進むその突進力から『かかれ柴田』の異名を持つ。

 彼は、過去に一度だけ織田信長を裏切ったことがあった。織田信長の弟・織田信勝(のぶかつ)の味方となり骨肉の姉弟争いに加担し、織田家の内部分裂を招いてしまった。

 信長から許しを得て再び仕えることになったが、その一度の裏切りを死後になっても引きずっている。だからこそ、今度こそはその忠義を貫かんと、信長のために戦い続けることで贖罪を果たそうとしている。

 故に彼に後退の二文字はない。どんな傷を負おうと、たとえ向かう先が地獄であろうと決して進軍を止めはしない。

 その苛烈な闘いぶりは、柴田勝家が持つもう一つの異名『鬼柴田』を想起させるものであった。

 

 

「ひゃあっはっはっはっは!!」

 

 血だらけで嗤い声を上げながら、情け容赦なく鬼どもを蹂躙する若武者——名を(もり)長可(ながよし)という。

 彼は信長を支えた古参の武将・森可成(よしなり)の息子であり、信長の小姓としても有名な森蘭丸(らんまる)の兄でもある。彼の父親も弟も、信長には文字通り命懸けで仕え、彼自身も絶対に信長を裏切ることなく支え続けたという。

 その一方で軍規違反や命令無視など、何かと問題行動が多い。味方の静止を振り切って敵陣に突っ込んでは首級を上げ、敵兵を的に見立てて射撃を楽しんだり、人質を首だけにして帰したりと、血生臭い逸話に事欠かない。

 その傍若無人にはあの信長ですら頭を抱えたが、森家の忠誠心からあまり強く注意することも出来なかった。

 信長は長可が『関所で下馬を命じられたことに激怒して役人を殺した』ときも叱らず、そこが橋であったこともあって、かの有名な武蔵坊弁慶の故事になぞらえ、彼に『鬼武蔵』という異名を授けている。

 

 鬼柴田、鬼武蔵。

 まさに鬼の異名を持つ戦国武将二人が、地獄の獄卒たちを鬼神の如き勢いで蹴散らしていく。

 

 

 

「な、何をやっとる!? 亡者相手に……それでもお前ら獄卒かい、もっとシャキッとせんか!!」

 

 そうして獄卒たちが亡者相手に情けない醜態を晒す姿に、彼らを指揮する立場の秦広王が叱りつけるように叫ぶ。

 亡者など、彼らにとって罰を与える罪人にしか過ぎない筈だ。なのに何故、その罪人相手にこうまでやられっぱなしなのかと、その不甲斐なさを嘆く。

 

「し、秦広王様……こいつら、ただの亡者じゃありまへんで!!」

 

 だが、その亡者にいいようにされている事実に、誰よりも困惑しているのは獄卒たちだ。

 ここが自分たちのホームグラウンドである『地獄』であれば、こんな事態にはならないだろうという自信があった。地獄であれば、亡者たちの力も制限される。人間如きに反抗されるなど、間違っても起こり得る筈もないのだ。

 

 だがここは『地上』であり、彼らももただの亡者ではなかった。彼らは乱世という激動の時代を駆け抜けた『戦国武将』である。

 群雄割拠の戦乱が育んだ戦闘力。国や民を守るために常に命懸けの選択を迫られ、それを選び続けた精神力。

 どれを取っても、現代人のそれとは比較にならないものを秘めた——まさに『偉人』である。

 

 

「——権六!! 勝蔵(かつぞう)!! そこを退けい!!」

 

 

 そして、そんな偉人たちの中でも桁外れの知名度、偉業を成したとされる『魔王』がこの国の頂点に君臨している。

 

「お館様……!!」

「おおっ! 大殿っ!!」

 

 自分たちの幼名を呼び付ける声に、柴田勝家と森長可の二人が即座にその場を退いた。

 たった二人で鬼たちの進行を食い止めていた彼らが退けば、当然獄卒たちがその勢いを取り戻してしまうだろう。

 

「な、なんじゃ! ありゃああああ!?」

 

 しかし、獄卒たちが体勢を整えるよりも先に魔王——軍服を纏い、その瞳に業火を宿した少女・織田信長自らが『軍』を率いて最前線へと姿を現す。

 

 

「ノブ!!」「ノブブ、ノブ!!」「ノッブ!!」「ノブノノブ!!」

「ノブア!!」「ノッブノッブ!!」「ノノッブ!!」「ノッブ!!」

「ノッブ!!」「ノブブ、ノブ!!」「ノブアァア!!」「ノブノッブ!!」

 

 

 その率いる軍というのが、実にとぼけた面構えの謎生物・ちびノブの集団というのが少しばかり滑稽ではある。

 だが彼らの手には火縄銃が握られており、それが隊列を組んで構えるその様相は、まさに信長が得意とした戦術——『三段撃ち』を想起させる。

 

 三段撃ちは『長篠(ながしの)の戦い』で織田信長が武田の騎馬隊を打ち破った際に使われたとされる戦術である。

 火縄銃は強力な武器であったが、再装填に時間が掛かるという弱点があった。その弱点を克服するため、信長は大量の火縄銃を用意して隊列を組ませ、順々に撃たせたという。

 

 

「——構えい」

 

 

 まるでその戦術の再現でもするかのよう、織田信長はちびノブたちに号令を掛ける。

 

 

「「「ノブッ!!!」」」

 

 

 信長の命を受け、隊列を組んだちびノブたちが一斉に火縄銃を構えていく。その銃口は地獄からやってきた鬼の群れ、獄卒たちへと向けられている。

 

「…………っ!?」

 

 一糸乱れぬ火縄銃の隊列に獄卒たちが息を呑む。いかに地獄の鬼たちとて、あんなものが一斉に火を吹いたらどうなるか——想像するだけでも身震いがするというものだ。

 

「お、おどれら……こないなことして、ただで済むと思うとんのか!?」

 

 するとその火縄銃が火を吹くより前に、秦広王が叫び声を上げる。彼は地獄を脱走した亡者たちに対し、その行いがどれだけ罪深いかを叫んでいく。

 

「どんな手段で地獄から抜け出したか知らんが……いずれお前たちも地獄に戻るときが来るんや!! そうなればこの狼藉の分、地獄での刑罰がより重いものになるんやで!!」

 

 地獄とは生前に犯した罪を精算するべく、その罪状に相応しい苦痛を受ける場所である。

 

 仮に蘇った偉人内閣の面々がここで地獄の軍勢を退けようと、彼らが亡者——既に死した人間である以上、いつかは必ず地獄へ還らなければならないときが来る筈だ。

 そのときは脱獄という罪を償うために、偉人たちにはより重い実刑が下されるだろう。その罪を少しでも軽くしたいのなら、ここは素直に獄卒たちに連行されて然るべきだったのだ。

 

 だが——。

 

 

「——是非もなし!!」

「——な、なんやて……?」

 

 

 そんな秦広王の脅し文句を、信長は『是非もなし』——『仕方がないこと』と一言で切り捨てる。

 

「この織田信長、元より神仏衆生を敵に回した身。今更罪状の一つや二つ、増えたところで是非もなしである……」

 

 信長はその瞳に『業火』を激らせながら、自らの罪業について語る。

 生きながらにして数多の地獄を潜り抜け、この現世に数多の地獄を創り出してきた苛烈な戦国武将・織田信長。

 自他共に魔王と呼ばれた彼女は、自身が煉獄の炎に焼かれてもまだ足りない身だということをとっくの昔に悟っている。

 

「その程度の脅しで、今更わしらが怖気付くとでも思ったか……片腹痛いわ!」

「ぐっ……ぐぐぐ…………」

 

 故に、今更そんな脅し文句で自分たちの戦意を削ごうとする秦広王の浅はかさを吐き捨てるように啖呵を切る。

 元より、獄卒たちの報復が怖ければ最初からこんな大それたことを仕出かしてはいないと——。

 

 

「——放てぇえええええ!!」

 

 

 信長は地獄の使者たちへの反抗の意思を、火縄銃の一斉射撃によって堂々と示して見せた。

 

 

「「「ノッブ!!」」」

 

 

 ちびノブたちは、きっと何も理解していないだろうが、惚けた顔つきのまま無慈悲に弾丸の雨を獄卒たちへと浴びせていく。

 

「ほげぇえええ!?」

「だああぁああああ!?」

 

 鬼柴田と鬼武蔵の武力によって既に瓦解状態だった鬼の軍勢に、その銃撃の嵐を防ぐ手立てなどあるわけもなく。

 

 

「——た、退却や!! 退却!!」

 

 

 自分たちの敗北を悟った秦広王によって退却命令が出される。

 偉人内閣の予想外の戦力を前に、ただただ地獄へ逃げ帰るしかなかった獄卒たちであった。

 

 

 

 

 

「——聞けっ!! この光景を見ている、全てのものたちよ!!」

 

 そうして、地獄の軍勢を撃退したことでその場に静寂が訪れたと思いきや、突如として織田信長が声高らかに叫び始める。

 

「お、おいカメラだ!! 早く信長公の……総理の姿を映せ!!」

 

 そんな彼女の勇姿を映像に収めようと、各テレビ局の記者たちが一斉にカメラを向ける。

 

 

『妖怪の大軍が押し寄せている』と聞かされた際、記者会見の場に集まっていた記者たちは騒然となったものだ。

 妖怪絡みの事件は大小とあるが、日本政府そのものを攻撃しようとするような相手は、それこそ先の大戦以来である。またあのときのような戦争が起きてしまうのかと、人々の脳裏に不安が過った——まさにそのときだ。

 

『——静まれぇええええええ!!』

 

 信長の怒声が響き渡った。

 とても少女の口から発せられたは思えぬ声量に、パニックになりかけていた人々が一斉に黙り込んだ。

 見れば、先ほど無礼を働いた記者に火縄銃を向けたときのよう、再び少女の瞳に『業火』が宿っているではないか。

 

『——ちょうど良い機会だ。わしら偉人内閣の力……その目にしかと焼き付けるがよい!!』

 

 彼女は国家の危機が迫っていると思えぬほど、嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべた。

 すぐさま自分と同じように地獄から蘇ったと思われる家臣——柴田勝家や森長可を招集。自らも最前線に立ち、見事に地獄からの追手を撃退してのけたのだ。

 

 

 その戦いの光景を記者たちはカメラに収め、大多数の日本国民もテレビ越しにそれを見ていた。

 その戦いぶりを見れば、偉人内閣が正真正銘の本物——彼らが比類なき英雄であることを疑うものはいないだろう。

 

「——我れこそは神仏衆生の敵、第六天魔王・織田信長!! 混迷する社会情勢に揺らぐこの国を立ち直らせ……より強く!! より豊かな国へと生まれ変わらせるため、地獄の底より舞い戻ってきた!!」

 

 そしてその直後に、国民に向けて織田信長のメッセージが放たれる。

 

「——わしらはこれまでの惰弱な内閣とは違う!! 目的のためなら手段を選ばず!! やると言ったら最後までやりきる!! それが偉人内閣である!!」

 

 彼女は自分たち偉人内閣が、これまでの日本政府とは全くの別物だと力強く宣言する。

 事実、地獄の獄卒たちを何の躊躇もなく撃退したことから、彼女からやると言ったらやる『スゴ味』を感じ取った国民も多かっただろう。

 

 その強さを、その覚悟の程を見せられた後だからこそ、その言葉には確かな説得力が宿る。

 

 

「わしらに不満があるのなら、堂々と挑みにくるがいい!! この織田信長……決して逃げも隠れもせん!! 向かってくるものは誰であれ、容赦なく叩き潰してくれようぞ!!」

 

 

 

×

 

 

 

「不味いことになりましたね……父さん」

「うむ……偉人内閣か……こりゃ、思っていたより大事かもしれんぞ……」

 

 偉人内閣が地獄の獄卒たちを退けた、その日の夜。

 ゲゲゲの森のゲゲゲハウスにて、鬼太郎と目玉おやじが事の重大さに頭を悩ませていた。

 

「何が問題なんじゃ? 人間たちがどんな内閣を作ろうが、わしらには関係ないんじゃないか?」

「バカたれ!! さっきの総理……あの娘っ子の宣言を聞いとらんかったんか!!」

 

 他にもゲゲゲハウスに集っていた面々。子泣き爺などは何が大事なのか察せられず、呑気に酒を飲みながら頭に疑問符を浮かべている。

 そんな彼の発言に、砂かけババアが何も分かっていないとため息を溢す。

 

「織田信長を自称するあの娘が、わしら妖怪を目障りに感じれば……すぐにでも排除にかかろう」

 

 先ほどの宣言にて、彼女は自分たちに逆らうものに容赦しないという独裁的な発言を残した。その中に人間は勿論、自分たち妖怪の存在も含まれているだろう。

 ただでさえ、今の日本には妖対法——『妖怪と真っ向から敵対するための法律』が残っているのだ。いや、あの総理なら法律など関係なしに、自分に逆らうものを容赦なく血祭りにあげることくらい平気でしそうだが。

 

「わしらに敵意がないことを伝えればよかとね。結構可愛い子やったし、話せばきっと分かってもらえるばい!!」

「可愛いって……あんな光景を見せられて、よくそんなこと言えるわね……」

 

 それでもまずは対話が重要と、一反木綿が総理への面会を下心ありきで希望する。あの総理相手にスケベ心を抱ける彼に呆れるやら、感心するやら猫娘が頭を抑える。

 

「アポもなしに行って、蜂の巣にされても知らないわよ……」

 

 一応、猫娘は一反木綿が変な行動を取らないように釘を刺しておく。実際問題、自分たちがいきなり話をしようなどと行ったところで、まともに取り合ってもらえるとは思えない。

 

 下手に刺激して、そのまま戦争——なんて事態に発展しては目も当てられないのだ。

 

「鬼太郎よ、総理代理……もう総理ではないが、あやつに連絡を取ってみたらどうじゃ?」

「ですが父さん……彼が今どこにいるか、無事かどうかもボクには……」

 

 色々と悩んだ末、目玉おやじは前総理——総理代理の老人と会って話をしてみないかと提案する。

 彼がどのような経緯で総理を辞任したかは知らないが、少なくとも偉人内閣という存在との接触はあった筈だ。偉人内閣の思惑など、少しくらい何かを知っているかもと期待する。

 とはいえ、鬼太郎も総理代理と特別に親しいというわけでもない。総理を辞め、ただの一個人となった彼の動向を把握するのは流石に難しいだろう。

 

「ねずみ男なら、もしかしたら連絡先くらい知ってるかもしれませんが……」

「ほんとっ!! こういうときに限って雲隠れしてるんだからっ!! あのバカ!!」

 

 人間の政治にもある程度明るく、総理代理とも面識のあるねずみ男ならあるいはと、鬼太郎が淡い期待を寄せた相手も今は不在である。

 いつも呼んでもないのに首を突っ込み、いざ必要となったときに姿を見せない、ねずみ男の放蕩ぶりに猫娘が悪態をつく。

 

 

 はてさて、どうしたものかと妙案も浮かばぬまま時間だけが過ぎ去る中——。

 

 

「……鬼太郎……」

「ぬりかべ? どうかしたのかい?」

 

 体が大きくゲゲゲハウスにて入ることの出来ないぬりかべが、窓から家の中を覗き込みながら鬼太郎に声を掛けてきた。

 

「……手紙、届いてる……」

 

 彼は言葉短く、妖怪ポストに鬼太郎宛の手紙が届いていることを伝えに来てくれた。

 

「ああ、ありがとう……」

 

 鬼太郎はぬりかべに礼を言いながら、彼から手紙を受け取る。

 こんなときに依頼かと、ほとんど意識せず手紙の中身に目を通そうとしたのだが——。

 

「っ……!!」

 

 その手紙の内容に思わず目を見開く鬼太郎。

 

「ど、どうしたのよ……鬼太郎?」

「何と書かれていたんじゃ?」

 

 その反応に猫娘や目玉おやじが何事かと彼に問い掛ける。

 鬼太郎は驚きを隠せないまま、その手紙に書かれていた『差出人』のことを皆に伝えていた。

 

「総理代理からだ……今夜会えないかって……」

「——!?」

 

 

 

 

 

「——やあやあ!! よく来てくれたね、鬼太郎くん!! ああ、何か飲む? これ美味しいから食べてみなよ〜」

 

 鬼太郎たちが手紙に書かれていた待ち合わせ場所に着くや、そこには陽気に酔っ払いながら豪華な懐石料理に舌鼓を打つ、総理代理——今となっては頭に『元』がつく老人の姿があった。

 

「お、お元気そうで何よりです……」

「何か……前に会ったときより、陽気になってない?」

 

 鬼太郎はとりあえず元総理代理が無事であったことに安堵するが、猫娘などは彼の明るい様子、以前に比べて少しばかり能天気にも見えるその態度に呆れたため息を吐く。

 偉人内閣とやらに政権を奪われて意気消沈しているのかと思いきや、表面上これといって落ち込んでいるふうには見えない。

 

「まあ、肩の荷が降りたっていうか〜……慣れない重責から解放されて、晴れやかな気分になったていうか〜」

 

 彼自身、自分の身が軽くなったことを自覚して羽目を外しているようだ。

 総理大臣。一国の宰相という肩書は決してお飾りではない。きっと鬼太郎たちでは想像も付かないような重責、責任感から相当なストレスを溜め込んでいたのだろう。

 そのストレスの原因であった総理という立場から解任された。こうしてはっちゃけたくなる気持ちも、まあ分からなくもないと。

 

「うむ……それで、どうしてこんな場所に呼び出したのか……用件を聞こうではないか」

 

 目玉おやじなどは総理代理の苦労を偲びながらも、自分たちをこんなところに呼び出した理由を単刀直入に問う。

 

 鬼太郎たちが呼び出された場所は、とある料亭であった。

 そこは政治家たちがよくお忍びで訪れる、かなり歴史のある料亭らしい。マスコミも入れないような密室内できっと政治的な交渉やら、表に出来ない密約などが幾度と行われてきたのだろう。

 

「それなんだけどね〜……実は、キミたちに話しがあるのはボクじゃないんだよね〜」

「……なんじゃと?」

 

 その料亭の一席で鬼太郎たちに何か話しがあると思いきや、元総理代理からは何もないとの発言に目玉おやじがポカンとなる。

 

「彼の方からキミたちと連絡を取れないかって聞かれてね〜……とりあえず、こういう形で一席設けさせてもらったんだよ〜」

「……彼?」

 

 元総理代理はあくまで橋渡し役、鬼太郎たちとコンタクトを取るための繋ぎだという。ではいったい、鬼太郎たちに用がある『彼』とは誰のことなのだろうかと。

 

「おーい!! 入ってきてくれ!!」

 

 その答え合わせをするよう、元総理代理が隣の部屋へと呼びかける。

 

「——初めまして、ゲゲゲの鬼太郎くん」

「——!? あ、あなたは……」

 

 ずっと隣の部屋で待機していたのか、襖を開けて鬼太郎たちの前に姿を現したのは——白い軍服を纏った一人の青年だった。

 青年は礼儀正しく帽子を脱ぎ捨てながら、戸惑う鬼太郎たちに自身が何者なのかを名乗っていく。

 

 

「——偉人内閣で官房長官を務めることになりました、坂本龍馬です。以後お見知りおきを……」

 

 

 

×

 

 

 

「わざわざ足を運んでくれて感謝するよ、ゲゲゲの鬼太郎くん」

「いえ、こちらこそ……あなた方とは話しをしたいと思っていましたが……」

 

 偉人内閣で官房長官を務める坂本龍馬との会合は、鬼太郎にとって予想外のことであった。

 確かに彼らとは一度話し合う場を設けたいと考えていたが、まさかこんなにも早くそれが実現できるとは思ってもみなかった。

 

「やあ〜、驚いてくれたようだね〜……ボクも坂本くんから鬼太郎くんに会いたいと頼まれたときは驚いたものだよ……はっはっは!!」

 

 その会合の場を仕掛けた張本人である元総理代理が、ドッキリ成功と言わんばかりに快活な笑みを浮かべる。

 聞くところによれば、坂本龍馬の方から『鬼太郎に会いたい』という申し出があったらしい。その要望を叶える形で、元総理代理が色々と手を回してくれたという。

 

「ほらほら!! そんなに緊張しないで〜、どうだい坂本くん、キミも一献……あっ、目玉おやじさんもどうかな〜?」

「ああ、どうも……いただきます」

「う、うむ……せっかくだからいただいておこうかのう……」

 

 さらに、役目を終えたにも関わらず元総理代理は立会人として同席を続けるつもりのようで、龍馬と目玉おやじの二人にそれとなく酒を勧めていく。

 一応の礼儀として、そのお酌を受ける男性二人。お酒による飲みニケーションは親交を深める文化の一つとして、古くから日本でも親しまれている。

 

「それで……? 早いとこ本題に入ってくれないかしら……」

 

 もっとも、お酒を嗜まない猫娘にとって飲み会なんて余計な行事。飲みニケーションなど時代遅れの文化、何が悲しくて酔っ払いの相手などしなくてはならないのだろうかと、非常に冷めた視線で話の先を促す。

 

「そうだね、時間も限られてることだし……」

 

 猫娘の冷たい視線に彼女の意見を肯定するよう、龍馬は柔和な笑みを浮かべる。

 とりあえずはお酒を一口、唇を湿らせてから——彼は鬼太郎たちとの対話を始めていく。

 

「まずは一つ……ボクたち偉人内閣にキミたち妖怪と敵対する意思はない……そのことははっきりさせておきたいんだ」

「……っ!!」

 

 開口一番、坂本龍馬は鬼太郎たちが一番気に掛けていた問題に切り込んだ。

 妖怪と敵対する意思はない、それが本当なら鬼太郎にとっては願ってもない話ではあるが。

 

「……それは偉人内閣としての意見ですか? それとも……貴方個人としての、意見ですか?」

 

 ここで素直には喜ばない。鬼太郎はそれが『誰』の考えに基づいた発言なのか慎重に探っていく。

 

「これは偉人内閣の総意だよ。正直なところ……キミたちと争い合っている暇もないっていうのが本音だけどね」

 

 鬼太郎の問い掛けに坂本龍馬は迷うことなく即答した。

 

「勿論、直接的な被害を被るようなら、こちらとしても対処せざるを得ないだろう。先の放送を見てもらえたなら分かると思うけど……来るものは拒まず叩きのめす、っていうのが信長公の方針だからね」

 

 当然、妖怪側から何かしらの攻撃を仕掛けてきた場合、その不当な暴力から国民を守るため『妖対法』を行使することに躊躇いはないとのこと。

 それは地獄の獄卒たちを撃退した、信長たちの活躍を見れば語らずとも分かることであろう。

 

「だけど、少なくともボクらの方から率先して妖怪退治なんてするつもりはない……そのことだけは分かってもらいたいんだ」

 

 しかし、偉人内閣の方から戦争を仕掛けるなんて真似はしないと、坂本龍馬は力強い言葉で断言してくれた。

 

「……分かりました。ボクの方からも、他の妖怪たちに下手なことをしないよう伝えておきますので」

 

 鬼太郎は坂本龍馬の言葉に嘘はないと感じた。とりあえず彼の話を信用することに決め、妖怪側から戦いを仕掛けたりしないと約束する。

 鬼太郎自身、決して妖怪たちの代表なんて立場ではないが、それなりに顔が広いのは事実。彼や、彼の仲間たちが声を掛けるだけで大人しくなる妖怪もいるだろう。

 

「ありがとう! そう言ってもらえると、ボクとしてもありがたいよ!!」

「い、いえ……こちらこそ……」

 

 鬼太郎の言葉を坂本龍馬も信じてくれたようで、にっこりと屈託のない笑顔を浮かべてくれる。

 その人好きのする龍馬の笑顔に、鬼太郎は不思議と彼に対する親近感を覚え始めていた。

 

 

 坂本龍馬という偉人の傑出していた点は、武力でもなければ知力でもない。

 彼という人間のもっとも特出していた魅力は——どんな人間ともすぐに打ち解けることの出来る、その『人柄』だと言われている。

 

 龍馬が結成した海援隊には、彼の人柄を慕う多くの同志が集まった。

 険悪な間柄であった薩摩と長州の同盟を締結させることが出来たのも、その人柄で培った人脈を用い、抜群の交渉力で両者の仲を取り持ったからだ。

 また土佐藩を脱藩したことで、故郷の者たちから『裏切り者』と罵られる立場にあったが、それでも同郷の古馴染みと変わらぬ交流を持ち続け、最終的には脱藩の罪も許された。

 

 かの初代内閣総理大臣・伊藤(いとう)博文(ひろぶみ)曰く——坂本龍馬には『どこへ行っても受け入れられる』人間的な魅力があったという。

 そんな彼の魅力に、鬼太郎も少しづつだが惹かれ始めていたのかもしれない。

 

 

「これで……ようやく本題に入ることが出来るね」

「……!!」

 

 ところが、坂本龍馬という人間に心を許しかけていた鬼太郎に冷水を浴びせるよう、彼の口から油断ない言葉が吐き出される。

 ここまでの話題、鬼太郎にとってもっとも重要だと思っていた案件だったが、龍馬にとっては『前振り』でしかなかったようだ。

 

 坂本龍馬が鬼太郎を呼び出してまで伝えたい『本題』とは何なのか。

 それがいかなる内容であれ、平常心を崩さないよう意を決して相手の言葉を待つ鬼太郎。

 

 だが、どれだけ身構えていようと——。

 

 

「——偉人内閣倒閣のため、鬼太郎くんの力を貸して欲しいんだ」

「————!?」

 

 

 流石に予想外過ぎるその言葉には思考が止まるしかなかった。

 

 

 

 

 

「…………それは、いったいどういう意味でしょうか?」

 

 思考停止状態から何とか復帰した鬼太郎は、相手の発言の意味を問いかける。

 

「倒閣って……アンタたちの内閣を潰すってことでしょう!? なんでそんなこと!?」

「何か理由があるんじゃろうが……」

 

 猫娘も、龍馬の言葉がまるで理解できないと声を荒げる。目玉おやじはなんとか平静さを保ち、その真意を推し量ろうとしているが。

 

「さて、どこから話せばいいかな……」

 

 龍馬自身も、自分が無茶なことを口にしている自覚があるのか。どこか悩みながらも、なんとか自分の考えを鬼太郎たちに伝えようと慎重に言葉を選んでいく。

 

「知っての通り、ボクや信長公……そして偉人内閣の面々も、みんな過去に死んだ人間だ。ボクたちは先の大戦で疲弊したこの国を復興するため、地獄からこの現世に呼び戻されたんだ」

「……? 呼び戻されたって……いったい、誰に?」

 

 龍馬の言葉に、鬼太郎は一瞬遅れて疑問符を浮かべる。

 獄卒たちがわざわざ地上までやって来たところを考えるに、偉人内閣の面々が地獄からの脱走者であることはもはや疑いようはない。

 どのような手段かはさておき、鬼太郎は彼らが自らの意思で地獄を抜け出して来たと思っていたのだが。

 

「分からない……ボクも他のみんなも、気がついたらこの現世にいたんだ」

 

 そうではなかった。

 彼らは自分たちではない何者か『第三者』によって、現世に強制的に呼び戻されたというのだ。それがどこの何者なのか、偉人内閣でも知るものはいないという。

 

「——実は、そのことについてボクの方から伝えておくべきことがあるんだ」

「…………!!」

 

 するとその会話に、それまで静かに酒を飲んでいただけの元総理代理が割り込んでくる。彼は珍しく真面目な口調で、自分が知る限りの情報を公開する。

 

「晴明さんによると……彼らを現世に蘇らせたのは……反魂の術じゃないかって話なんだよ」

「晴明!! 安倍晴明さんが……そんなことをっ!?」

 

 その名前を持つ人物からの助言に、思わず鬼太郎が聞き返す。

 

 ここでいう安倍晴明とは、千年前に実在した伝説的陰陽師・安倍晴明のこと——ではない。

 安倍晴明の子孫、今の時代でも陰陽師として活躍している『安倍家』に所属する、同姓同名の別人のことを指す。

 鬼太郎たちはとある騒動の際に、その安倍晴明や彼の『孫』と共闘したことがあった。そして晴明と元総理代理は旧知の間柄でもあるという。

 もっとも、安倍晴明という人間は結構な年齢な上に現役を退いて隠居している身だ。少なくとも、表立って妖怪退治などに乗り出すような立場ではないとのこと。

 

「反魂の術じゃと!? 死んだものを復活させるという……伝説の禁術ではないか!?」

 

 そんな高名な陰陽師からもたらされた情報に、目玉おやじが驚愕に声を上げる。

 

反魂(はんごん)の術』——それは死んだ人間の魂を呼び戻し、新たな器に定着させることでこの世に蘇らせるという秘術中の秘術である。

 当然だが死んだ人間を蘇らせるなどという蛮行、この世の摂理に反する禁忌でもある。だがそれ以上に、それを実際に行えるほどの力量を持った術者が存在する方が驚きだと。

 

「けど、これほどの規模の反魂の術は……それこそ伝説級の術者でないと不可能だって言うんだよ。準備段階でも何百年も掛かるらしいとか……」

 

 実際、晴明も過去の偉人が数多く蘇るという今回の事態に驚きを隠せていない。

 かの偉大な陰陽師と別人である安倍晴明とて、術者としてかなりの実力を秘めている。そんな彼が驚愕するというのだから、それを成すのにどれだけの労力を必要とするか想像も出来ない。

 

「そんなの、人間の手によるものとは思えないよね〜……もしかしたら、もしかしたらなんだけどね〜……」

「妖怪が関わっているかもしれない……と? それでボクたちにこんな話を……」

 

 それが人間業ではないこともあってか、晴明の助言を受けた元総理代理は意味ありげな視線を鬼太郎に向け、何が言いたいかを察した鬼太郎がその可能性を口にする。

 もし仮に、今回の事態に妖怪が関わり人の世の理を見出しているというのなら、それは鬼太郎が動く理由にもなる。

 

「けど、アンタたちはそれでいいの? だって、それは……」

 

 しかしここで、猫娘が鬼太郎にまでこの話を持って来た坂本龍馬——反魂の術で蘇った彼の思惑について言及する。

 今回の事態を解決する、あるいは正常に戻すということは——即ち、偉人内閣の『消滅』。彼らが再び地獄へ落ちることを意味している。

 せっかく現世を謳歌できる自由を得たというのに、それを自分で台無しにする坂本龍馬の考えが読めず、猫娘が彼に怪しむような視線を送る。

 

「ボクたちは……この国を救済するために現世に蘇った、そういうふうに刷り込みを受けているようなんだ」

「刷り込み……?」

 

 だがそんな疑惑の視線にも構わず、坂本龍馬は自身の考えを率直に伝える。

 

 龍馬を含めた偉人内閣の面々は、『日本復興』という一つの意思のもとに統一されているらしいが——それは、正確には彼ら自身の意思ではない。

 というのも、龍馬は自分が無意識下で『何者』かの影響を受けている、という自覚があるらしい。その何者かとは、おそらく反魂の術の術者のことであろう。

 日本の復興も、偉人内閣で自分が官房長官を務めるという現状を受け入れることが出来ているのも、全てはその術者の思惑通りということだ。

 

「勿論、ボク自身にも人々を助けたいという気持ちはある。けれど、ボクたちは過去の人間だ。たとえどんなに苦しくても、この国の未来は今という時代を生きる人間たちの手で担われるべきだと……少なくともボクは思ってる」

 

 無論、人々の窮地を救いたいと願う心は龍馬にだってある。

 しかし彼は自分が既に過去の人間だと割り切った考えを持ち、日本の復興にそこまで積極的な気持ちにはなれないという。

 

「呼ばれた以上、仕事はきっちりこなすつもりだ。だけど最終的には、この国の政権は今の時代の人間たちに返さなくちゃいけない……」

 

 故に、偉人内閣がどれだけ権勢を誇ろうと、最後には政権をこの時代の人間に明け渡す——大政奉還しなければならないと。

 

 

「そのために、キミたちの力を貸してほしいんだ……頼む」

 

 

 そのために出来ることとして、ゲゲゲの鬼太郎にも協力を要請していたのであった。

 

 

 

×

 

 

 

「ふ〜む……なんだかややこしいことになって来たのう……」

「どうするつもりなのよ、鬼太郎……」

 

 その後、坂本龍馬との会合を終えた鬼太郎たちはゲゲゲの森に戻るべく、人気のない夜道を歩いていた。

 目玉おやじと猫娘は先の話——坂本龍馬の『偉人内閣を終わらせる』という提案に自分たちはどう動くべきかと、鬼太郎の意見を伺う。

 

「…………とりあえず、みんなには人間たちを刺激しないように言っておこう」

 

 まずは当面の方針として、偉人内閣と敵対しない旨を皆に伝えることにした。

 それで鬼太郎がもっとも恐れていた事態、人間と妖怪との間で大々的な戦争が起こるのは避けることが出来よう。

 

「だけど……それ以上の協力が出来るかどうかは……」

 

 だが偉人内閣を終わらせるために自分たちに出来ることがあるのだろうかと、そこで頭を悩ませる。

 

 今回の異常事態に元総理代理などは妖怪の関与を匂わせていたが、それもあくまで予想の範疇に過ぎない。

 そもそも、反魂の術とは人間の術者が行使するもの。肉体が滅んでも魂さえ無事ならいずれは復活できる妖怪に、反魂という奇跡はあまり意味を成さないものだ。

 

 妖怪が関わってさえいないのなら、それは人間同士のいざこざである。

 ならば下手に首を突っ込むわけにもいかないと、鬼太郎は己の心情から今回の件に手は貸せないかもしれないと考えていた。

 

「——大変じゃぞ、鬼太郎っ!!」

 

 と、悶々とした気持ちを抱えながら、帰宅の途に付いていた鬼太郎であったのだが、そこに切羽詰まった馴染みの声が響いてくる。

 

「どうしたんじゃ、砂かけババア?」

「何よ、そんなに血相変えて……」

 

 鬼太郎たちに駆け寄ってきたのは、ゲゲゲの森に残っていた筈の砂かけババアであった。目玉おやじも猫娘も、彼女の尋常ではない様子に何事かと首を傾げる。

 

 砂かけババアは息を切らせながら、まさに今起きている一大事を叫んでいた。

 

「——ゲゲゲの森で、見たこともない妖怪が暴れ回っておるんじゃ!!」

 

 

 

 

 

「これ以上はやらせんぞ、おぎゃおぎゃ!!」

「ぬりかべ〜!!」

 

 ゲゲゲの森にて、子泣き爺が自らの能力で石化した腕を振りかぶり、それに合わせるような形でぬりかべがその巨体を『敵』に向かって突っ込ませる。

 二人がかりでの連携攻撃は、即席でありながらもなかなかのものであり、並の妖怪なら十分に打ち倒せるほどに強烈なものであった。

 

 

『——グォオオオオオオオオ!!』

 

 

 だが、そんな二人のコンビネーションに全く怯むことなく、『巨大な怪物』が凄まじい唸り声を上げる。怪物はその長い尻尾で子泣き爺をはたき落とし、迫り来るぬりかべを真っ向から力任せにねじ伏せてしまう。

 

「ふぎゃっ!?」

「ぬ、ぬりかべ〜……!!」

 

 怪物の反撃に子泣き爺の体が激しく吹っ飛ばされ、ぬりかべもその巨体を地に沈ませる。

 妖怪としてかなりの修羅場を潜り抜けてきた二人を、こうも容易くねじ伏せてしまう。その怪物の強靭さは本物であった。

 

「大丈夫か!? 子泣き爺!! ぬりかべ!!」

 

 ちょうど二人が叩きのめされたそのタイミングで、慌てて帰還してきた鬼太郎がその場に飛び込んでくる。彼は真っ先に仲間たちの安否を気遣いながらも、目の前の怪物へと油断ない視線を向ける。

 

「な、何よ、こいつ……!?」

「黒い……大蛇じゃと……!?」

 

 鬼太郎のあとに猫娘、その肩に乗った目玉おやじも緊迫するその現場へと駆けつけて来た。

 

『————』

 

 日が沈みきったゲゲゲの森、真っ暗な夜の闇に同化するようその場に悠然と佇んでいたのは——巨大な『黒い大蛇』であった。

 大蛇は立ち塞がるように正面に立った鬼太郎に、警戒心を滲ませるように舌をチロチロと出し入れ、無機質とも取れる爬虫類の瞳でじっと見つめてくる。

 

「お前は何者だ? どうしてこの森で暴れている? いったい、何が目的なんだ?」

『————』

 

 鬼太郎はその大蛇と会話が出来ないかと、いくつか質問を投げ掛けるが——返答はない。

 話し合いに応じるつもりなどないのか、はたまた言葉そのものを理解していないのか。どちらにせよ、このままでは戦うしかないと鬼太郎も覚悟を決め、静かに妖力を高めていく。

 

「——退いてろ、鬼太郎!!」

「——余所者が……これでも食いやがれ!!」

 

 ところが鬼太郎が動くよりも先に、血気盛んにその大蛇へと攻撃を仕掛けるものたちがいた。

 

「——岸涯小僧!?」

 

 彼らは岸涯(がんぎ)小僧(こぞう)という、ゲゲゲの森を住処にする妖怪グループの一種族だ。

 ゲゲゲの森の水辺付近を生息地とする彼らは、毛むくじゃらな河童といった風体の妖怪である。二年前の西洋妖怪との戦争でその個体数を大きく減らしたが、それでも結構な数が群れを成して暮らしている。

 一体一体が特別強い個体というわけでもないが、妖怪の中では珍しく近代的な武器を好んで使用する傾向があった。

 

「撃て!! 撃て!!」

「銀の弾丸がなくたって……!!」

 

 彼らが手にしていたのは『火縄銃』——妖怪からすれば十分に近代的と言える武装を構え、大蛇に向かって一斉射撃を敢行する。

 

 岸涯小僧たちの奮闘ぶり。もしかしたら偉人内閣の鉄砲隊——ちびノブたちが地獄の鬼たちを蹴散らす、あの光景を見ていたのかもしれない。

 彼らに負けじ対抗心を燃やすかのよう、隊列を組んで火縄銃を一斉掃射するその姿、なかなかに堂に入ったものであった。

 

 

『——ハアアアアアアアアアア!!』

 

 

 もっとも、たかが火縄銃程度で止まるような大蛇ではない。

 その強靭な皮膚が弾丸をものともせず弾いてしまい、その横槍が逆鱗に触れてしまったのか。大蛇は怒り狂うような咆哮を上げ、岸涯小僧の群れに向かって突っ込んでいく。

 

「に、逃げろっ!?」

「は、はわわわわっ……!!」

 

 突撃してくる大蛇に隊列を呆気なく乱され、岸涯小僧たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 

『——ウォオオオオオオオオオオ!!』

「う、うわああああああああ!?」

 

 そのうちの一体、逃げ遅れた岸涯小僧に迫る大蛇が大きく口を開き、そのまま——バクンと、丸呑みにしてしまう。

 

「いぃっ!? た、食べた!?」

「くっ……指鉄砲!!」

 

 大蛇の捕食行動、妖怪を一口で呑みこんでしまうという衝撃的な光景に猫娘の口から変な声が漏れ出る。

 鬼太郎は仲間の妖怪が犠牲となってしまったことに苦悶の表情を浮かべながらも、これ以上の暴虐を阻止しようと大蛇に向かって指鉄砲を放つ。

 

『————』

 

 すると、大蛇はその大きな身を翻しながら指鉄砲を回避。そのまま振り返ることなく、素早く速地面を這いずりながらゲゲゲの森から立ち去ってしまった。

 

 

 

「……みんな、無事か!?」

 

 大蛇の後を追いかけるべきかと一瞬迷った鬼太郎だったが、まずは森の被害を把握するのが先と、その場に残り仲間たちに大声で呼び掛けていく。

 

「あ、ああ……わしらはなんとか……」

「ぬりかべ……平気……」

 

 子泣き爺とぬりかべからは返事があった。二人とも疲労困憊といった感じだが、そこまで大きな怪我は負っていない。

 

「うぅうう……ちくしょう、ちくしょう……!!」

「痛い……痛いよう……!!」

 

 しかし、彼ら以外の被害が酷いものだった。

 喰われてしまった岸涯小僧の仲間たちを始め、多くの妖怪たちが傷だらけの姿で森中に横たわっている。

 どうやら鬼太郎たちが駆けつける間にも、何匹かの妖怪が倒され、傷付けられ——食料として餌食になってしまったようだ。

 

「いったい……あの大蛇は……」

「見たこともない妖怪じゃったが……」

 

 鬼太郎は大蛇が立ち去っていった方角を見つめがら、アレが何だったのかを思案する。

 蛇、大蛇の妖怪ともなれば色々な種類がいそうだが、目玉おやじの知識からもその正体が何だったのか、即座に答えが出ることはなかった。

 

「また来るでしょうか、父さん……」

「ふむ……だとすれば、偉人内閣に関わっている暇もないかもしれんな……」

 

 鬼太郎はあの大蛇がもう一度、ゲゲゲの森を襲撃する可能性を考える。

 そしてその考えが否定できない以上、仲間たちを守るためにも迎え撃つ準備をしなければならないと。

 

 

 目玉おやじも人間たちの問題——偉人内閣の件に積極的には関われないかもと、申し訳なさそうに呟くしかなかった。

 

 




人物紹介

 柴田勝家
 織田家家臣筆頭。fgoだと基本クラスがバーサーカーなので戦闘中はほとんど会話が成立しない。
 ただ過去の回想や、茶々や信勝との会話の際には人間らしい愛情や後悔を見せてくれる。
 偉人内閣における役職は防衛大臣。国土防衛の際、自分から最前線に立って戦う、まさに大臣の鏡!!

 森長可
 信長に仕えた戦国武将の一人。あまり一般的ではないが蘭丸の兄といえば、どんな立ち位置かある程度察せられる。
 血生臭い逸話に事欠かない問題児だが、その一方で茶道など文化人としての教養もある。
 斬◯刀は人間無骨。この槍の前では人間など骨などないかのよう容易く両断出来るとか。
 役職は……経済産業大臣。何故こいつがこの役職になってるかは、次回で明らかにします。

 織田信勝
 織田信長の弟。fgoでの愛称カッツ。
 初登場のNPC枠から実装されたシンデレラボーイ。ぐだぐだは実装待ち待機列をなんとかして欲しい。
 尺の都合上、今回は名前だけの登場です。
 
 秦広王
 今回のゲスト妖怪枠にして、やれら役その1。
 地獄の裁判官。十王っぽいキャラはゲゲゲの鬼太郎、五期で何人か登場していました。
 キャラ設定などはオリジナルですが、キャラ造形はとある作品のとあるキャラをモチーフにしています。
 獄卒共々、何故か関西弁で喋る。自分の中で地獄の鬼って関西弁で喋るイメージがあるんですよ。
 天下の十王をこんなキャラにしていいのかなと思いましたが、閻魔大王がアレなので大丈夫でしょう。

 岸涯小僧
 やられ役その2。ゲゲゲの森に住んでいるモブ妖怪。
 西洋妖怪との戦争の際、鉄砲隊でヴォルフガング相手に銀弾を放っていましたが……やっぱりやられてた。
 あの後も何匹か出てくる描写があったので、きっとまだ何十匹もいるんだろうなと今回もかませ。
 伏線の描写として『大蛇に丸呑みにされる妖怪』というシーンを書きたく、登場させました。

 大蛇
 ゲゲゲの森に突如として現れた謎の妖怪。
 限りなく竜に近い、竜になりきれていない蛇。
 偉人内閣と同時期に現れた……何か関係があるのだろうか?
 
 鬼灯様
 過去にクロスした作品、『鬼灯の冷徹』の主人公。
 今後も名前だけは偶に出てくるかもしれない予定。
 地獄で何かあるときは、だいたい彼が出張してます。

 安倍晴明
 過去の偉人ではなく『少年陰陽師』現代版で登場した、同姓同名の別人。
 こちらもとりあえず名前だけの登場。基本的に引退した身なので、鬼太郎たちと共闘することはないかと。
 孫の方も、多分学業とかが忙しいと思うので……鬼太郎たちとバッティングすることはないでしょう。


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