ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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長らくお待たせしました……そして、マジで申し訳ありません。

今回のお話……最初は四話構成でいくつもりだったのですが……どうあがいても、四話では収まらず。
本小説始まって初のこととなりましたが、全部で『五話構成』ということになりました。
まあ、今回のお話は今作における『日本復興編』という流れの中でも、重要なターニングポイントになっており。
実際この話の後……五、六作品ほどクロスをやったら、次の『中国妖怪編』に話の大筋をシフトする予定ですので……何卒ご容赦ください。

そして、このタイミングで始まったfgoの復刻が『ぐだぐだ龍馬危機一髪』だったこともあり、改めてシナリオを見返し、今作の展開についてもかなり盛っていく感じです。
まさかここでぐだぐだ復刻とは……新たなぐだぐだの予兆かしら?

さらに、四月から始まった『私の愛した歴代ゲゲゲ』!! 
一話目に五期『男! 一反もめん』をチョイスしてくれたAdoさんのセンスに感服!!
いずれ活動報告の方で、自分のセレクトして欲しい歴代鬼太郎話について語り、皆さんからもアンケートしようかと思ってますので、そのときはよろしくお願いします。




ぐだぐだ内閣・もしも織田信長が総理大臣になったら 其の④

「待ち合わせ場所は、ここで合ってるわよね?」

「坂本くんは……まだ来ておらんようじゃが……」

 

 まるで人気のない夜の公園にて。猫娘がスマホで位置情報を確認し、目玉おやじが周囲を見渡して目当ての人物を探す。

 だが、彼らをここへ呼んだ人物——坂本龍馬の姿は未だに見えず。

 

「父さん、大事な用件とはいったい何でしょうか? こうしている間にも大蛇が……」

 

 鬼太郎も、龍馬がまだ来ていないことに焦燥感を抱く。

 正直、龍馬がどのような用事で自分たちを呼び出したかは知らないが、彼としては大蛇の捜索——妖怪たちの間で問題となっている事件を優先的に解決したいというのが本音であった。

 

「じゃが、あやつの……元総理の話では……偉人内閣の件にも、妖怪が関与しておるという話じゃからのう……放置するわけにもいくまいて」

 

 しかし、偉人内閣の件にも妖怪が関わっている可能性があると。偉人たちを現世に留めている『反魂の術』の力の源が『妖力』であるという事実を、元総理代理から伝えられたのだ。

 大蛇の件が片付いたなら偉人内閣に関しても調べなくてはと、目玉おやじは今からそのことに関して思案を巡らせていた。

 

「鬼太郎くん!!」

「おっと、来おったか……」

 

 そのためにも、坂本龍馬から話を聞くことは決して無駄にはなるまいと。一行は数分遅れでやってきた龍馬へと視線を向ける。

 

「待たせちゃってごめんね!! 色々と前準備に手間取って……」

「…………前準備?」

 

 龍馬は鬼太郎を待たせてしまったことを謝罪しながら、こちらへと早足で駆け寄ってくる。何やら準備がどうと言っているが、それが遅れてきたことと何か関係しているのか。

 とりあえず龍馬からの話を聞こうと、鬼太郎の方からも歩み寄ろうしたのだが——。

 

 

「——っ!?」

 

 

 刹那、鬼太郎は龍馬の背後で蠢く——『人影』を見た。

 

「————」

 

 夜の闇と同化するよう龍馬の背後から忍び寄るその人影の手には、暗闇の中でも輝く刀身——日本刀が握られている。

 

「——坂本さん、後ろ!!」

「——っ!?」

 

 咄嗟に叫ぶ鬼太郎の声に、坂本龍馬も瞬時に反応して振り返る。

 

 

「——キェエエエエエエエエエエエ!!」

 

 

 だが遅い。

 龍馬がその人影——襲撃者の存在を認識した瞬間にも、甲高い奇声と共に凶刃が振り下ろされる。

 

「なっ……!?」

「なんということじゃ!?」

 

 猫娘も目玉おやじも、いきなりのことで対応が出来ず救援も間に合わない。

 坂本龍馬が生前のように『暗殺』されるという光景を、黙ってその目に焼き付けるしかないでいた。

 

 

「——龍馬っ!!」

 

 

 しかし、刃が振り下ろされんとした瞬間、その凶刃と龍馬との間に一人の女性が割り込んできた。

 

「お竜さんっ!? ついてきてたのか……」

 

 その女性の正体は、常に坂本龍馬の側に寄り添っていた女性・お竜だ。しかし鬼太郎と秘密裏に会うからと留守を任せていたためか、彼女がその場にいたことに純粋に驚く龍馬。

 そしてそのお竜だが、なんと暗殺者が放った渾身の一撃を『片手一本』で受け止めてしまっている。

 

「このっ!!」

「ちぃっ!?」

 

 間一髪で龍馬を救ったお竜は、受け止めた刀ごと暗殺者を力任せに突き飛ばす。

 お竜の人間とは思えぬ怪力に後方へと弾き飛ばされ、暗殺者が舌打ちを鳴らす。

 

「坂本さん!! 大丈夫でしたか!?」

「ちょっと、なんなのよ……こいつら……」

 

 龍馬が無事だったことに安堵しながら、すぐさま鬼太郎たちも彼らの元に駆けつける。

 そして猫娘の困惑の声は襲撃者してきた謎の人物は勿論だが、お竜という謎の美女に対しても向けられていた。

 

 ふわふわと空中を浮遊し、刀での一撃を素手で受け止める怪力。

 明らかにただの人間とは思えぬ力に、こんなときでありながらも彼女が何者なのかという疑問を抱いてしまう。

 

「お前……よくも龍馬にっ!!」

 

 しかし、肝心のお竜は鬼太郎たちへの関心などまるでなく、龍馬の命を狙った不届な暗殺者への怒りにその身を震わせており——その体から『黒いオーラ』を迸らせる。

 

「……!? これは……この妖気は……?」

 

 瞬間、鬼太郎の妖怪アンテナが反応を示す。

 お竜の身から放たれるそれは、紛れもない『妖気』であった。その時点で彼女が人間でないことは明白。

 だが以上に、その妖気から感じ取れる波長の『既視感』から鬼太郎がもしやと眉を顰める。

 

「待ってくれ、お竜さん!!」

 

 だが鬼太郎がその違和感を言葉にするよりも早く、龍馬がお竜に向かって静止するように呼びかける。

 

 

「その姿……今の剣筋……もしかして、以蔵さん?」

 

 

 龍馬の視線は眼前の人物——怪しげな格好をした暗殺者へと向けられていた。

 

 古くさい着物に、ボロボロの外套を羽織った謎の人物。立ち振る舞いや、声音から男と判断できるがその素性は編笠によって隠されてしまっている。

 その編笠の隙間から垣間見える眼光が真っ赤な血のような輝きを放ち、掌や刀身、着物にも返り血らしきものが染み付いている。

 現代人ではあり得ない異質感。彼も偉人内閣同様、地獄から蘇った過去の人間なのだろう。

 

「龍馬ぁ……!!」

 

 実際、龍馬の言葉にその人物——以蔵と呼ばれた男が忌々しげに龍馬の名を吐き捨てる。

 

「知り合いなのか、坂本くん?」

 

 互いに互いの名を呼び合う関係性に目玉おやじが問いを投げ掛ける。

 

「ああ、以蔵さんだよ。ボクの幼馴染……人斬り以蔵の名で京の都を震え上がらせた、凄腕の剣客さ……」

 

 すると龍馬は友達を自慢するような、後ろ暗い彼の武勇伝に心痛めるような、微妙な感情でそのものの正体を告げる。

 

 

 岡田(おかだ)以蔵(いぞう)——またの名を『人斬り以蔵』。

 幕末の世において、自らの政治思想を押し通すため、敵対勢力を暗殺するといった手段は半ば日常的に行われていた。

 その暗殺において、特にその名を歴史に刻みつけたのが、岡田以蔵という男である。

 彼は坂本龍馬と同郷、土佐藩の人間だ。様々な主義思想が入り乱れる幕末において、以蔵は尊皇攘夷(そんのうじょうい)(天皇を尊び、外国勢力を斥けようという思想)を掲げた団体『土佐(とさ)勤王党(きんのうとう)』に所属していた。

 その勤王党の盟主である武市(たけち)瑞山(ずいざん)に命じられるまま、以蔵は数多くの暗殺事件に関わったとされ、その鮮やかな手並みから『天誅の名人』と恐れられていた。

 

 

「まっこと……久しぶりじゃのう。以蔵さんも、現世に呼び出されておったがか?」

 

 親しい間柄だったのだろう。今し方自分の命を狙ってきた相手にも関わらず、龍馬は感極まったように以蔵との再会に頬を綻ばせている。

 

「——じゃかしいわ!!」

 

 一方で、以蔵の方は幼馴染である筈の龍馬相手にひどくご立腹といった様子だ。立ち上る殺気を一切隠す気もなく、彼は龍馬に向かって声を荒げる。

 

「聞いちょるぞ……龍馬ぁ!! おまん……官房長官ちゅう、ご立派な仕事を任されて……随分調子乗っ取るらしいのう、ああん!?」

 

 以蔵はバリバリの土佐弁で、龍馬が官房長官に就任している事実に物申してきた。

 

「えっ……? いや、別に調子乗ってるわけじゃ……」

 

 以蔵の言葉に龍馬は呆気に取られながらも否定する。

 彼の立場からすれば、別にやりたくて官房長官などという仕事を務めている訳ではないのだが。

 

「このわしを差し置いて……なんでおまんのような裏切りもんが、そんな大層な仕事を任せられとるんじゃ!?」

 

 しかし以蔵は聞く耳を持たない。彼は龍馬という『裏切り者』が偉人内閣で、重要な立ち位置を任されていることが許せないようだ。

 

 以蔵が龍馬を裏切り者と罵る訳。おそらく、彼が土佐藩を『脱藩』したことが要因だろう。

 龍馬は藩という狭い枠組みで生きることを嫌い、世界の広さを知るため土佐藩を抜けた。

 脱藩後も、龍馬は以蔵に師と仰いだ(かつ)海舟(かいしゅう)の護衛を頼んだりと、彼と一定の交流はあったようだが——結局、以蔵や武市たちの土佐勤王党へと戻ってくることはなかった。

 

 龍馬のいなくなった土佐勤王党は、一時は土佐藩での実権を握るなど権勢を誇るものの。

 政変により立場は一変。以蔵は凶悪な人斬りとして打ち首、武市も暗殺の指示役として切腹。多くの土佐勤王党の同志たちが無念な死を迎えることとなる。

 そんな中、土佐勤王党に所属していた過去がありながら、都合よく生き残った龍馬を以蔵は裏切り者と逆恨みしているのだ。

 

 そう、これは逆恨みだ。

 龍馬は以蔵に人斬りなどやめるべきだと忠告したこともあった。にもかかわらず、以蔵は武市に命じられるがまま、多くの人々をその手に掛けてきたのだ。

 

「おまんに変わって、わしが官房長官とやらになっちょるわ!! そうすれば……機密費とやらで毎日豪遊できるぜよ!!」

 

 そんな過去の人斬りの罪を悔いる様子もなく、以蔵は坂本龍馬の立場に成り代わろうと安易に闇討ちなど企む。

 おまけに、なんだか官房長官になったら駄目そうな発言を平然としている。

 

「以蔵さん、それは流石に……」

「こいつ、絶対権力持たせちゃ駄目なやつでしょ……」

 

 これには昔馴染みの坂本龍馬ですら擁護の言葉が見つからず、初対面である猫娘からも完全に呆れられている。

 

「くそ雑魚以蔵、お前なんかに龍馬の代わりが務まるもんかよ」

 

 以蔵の太刀筋を受け止めた彼女——お竜からも厳しいお言葉が送られる。

 

「そもそもお前、偉人なんて胸を張って言えるような立場じゃないだろ。弱いものイジメのクソ雑魚ナメクジが……なんでお前なんかが龍馬と同じように呼び出されてるんだよ……とっとと地獄に還れよ」

 

 そもそも岡田以蔵という『たかだか人斬り風情』が、他の偉人たちと同列な扱いで地獄から蘇っていることが烏滸がましいのだと、お竜はさらに痛烈に駄目出しをしていく。

 

「じゃかしいわ!! そういうおまんこそ…………ん?」

 

 お竜の容赦ない言葉に、生前からの知り合いなのか以蔵は彼女に向かって反射的に何かを言い返そうとした。

 だがすぐに——お竜という女性がここにいる違和感に気づいたのか、編笠越しからでも分かるほどにその表情を顰めていく。

 

「そうじゃ、お竜……ないでおまんがここにおる? おまんこそ、偉人がどうと偉そうなこと言える立場じゃなかろうが!!」

 

 龍馬の妻と思われるお竜という女性、きっと彼女も地獄から蘇ったものの一人なのだろうが、考えてみれば妙なことだ。

 信長や、龍馬——その他の偉人たちは、真偽はともあれ歴史に名を残すような偉人であることは間違いない。

 

 だがお竜は、彼女は果たして『偉人』という枠組みに入るのだろうか。

『龍馬の妻』というだけの理由で呼ばれるのなら、他の偉人たちの伴侶だって呼び出されていい筈である。

 どうして彼女がここにいるのかという以蔵の疑問も当然のもの。

 

「それ以前に……おまんは人間かどうかも怪しかろうが!!」

「——っ!!」

 

 もっとも、それ以前の問題——彼女という存在が『人かどうかも怪しい』と、以蔵はズバリ核心を突いた。

 以蔵の指摘に彼女から妖気を感じ取っていた鬼太郎も、彼女の動向に強く意識を向けていく。

 

 

 

「…………黙れよ、クソ雑魚以蔵が……」

 

 皆の疑惑の視線が注がれていく中、お竜はその身からさらにドス黒い妖気を立ち上らせる。

 

「お前が人斬り仕事で調子こいてたことは知ってたが……よりにもよって、龍馬の命を狙おうとするなんてな……」

 

 その声音からも以蔵に対する怒り、殺意が漏れ出していることが分かる。

 

「よりにもよって!! 龍馬の命を……この私の前で!!」

 

 最初は冷静なようにも見えたが、徐々にだが感情がヒートアップしていることが伺える。

 

「お、落ち着いて……お竜さん。ボクは大丈夫だから……ねっ?」

 

 怒りに震えるお竜を、自分は無事だったからと龍馬がなんとか宥めようとするが、もはや彼の声すら届いていない。

 

「私は……もう二度と龍馬を殺させない。そのために……」

 

 坂本龍馬は『暗殺』によって最後を迎えた人間だ。その最後を想起させるような暗殺未遂の現場に立ち会ったことで、その当時の記憶が思い返されてしまったのか。

 残されたものとしての無念、後悔、憤怒が——お竜という女性を『人の姿も保てないほど』の憎悪へと駆り立てる。

 

 

『——ハアアアアアアアアアアアアア!!』

「——っ!?」

 

 

 彼女の口から放たれた、人外の叫び。先ほどまで保たれていた人の肉体が理性と共に崩れ落ち、その身が地面の影に溶け落ちるかのように吸い込まれていく。

 いったい何事かと一同が目を剥く中、次の瞬間にも影の中から飛び出したのは——『巨大な蛇』の化け物であった。

 

「なんと……こやつはもしや!!」

「大蛇!?」

 

 見覚えのある異形を前に、目玉おやじと猫娘が驚愕する。

 そう、そこにいたのはあの夜——ゲゲゲの森にて遭遇した、漆黒の大蛇。

 

 ここ数日間、絶対的な捕食者として妖怪たちを恐れ慄かせていた怪物。

 その正体が——龍馬のすぐ側にいた彼女・お竜であったのだ。

 

 

 

×

 

 

 

「やっぱり……この妖気……!!」

 

 鬼太郎は意外にも冷静だった。彼は妖怪アンテナのおかげでお竜が妖怪であること。それが大蛇と同一のものであることから、薄々だがその正体に勘付いていた。

 それでも、大蛇の姿を見るまでは確信しきれなかったが、目の前で変貌する光景を見せられればもはや疑いようもない。

 

 大蛇の正体はお竜——彼女こそが、鬼太郎の仲間たちを苦しめていた元凶であるのだと。

 

「駄目だ、お竜さん!! 今ここで暴れるのは……!!」

 

 その大蛇に向かって坂本龍馬が必死に叫び声を上げる。しかしお竜の変わり果てた姿自体に、そこまで困惑している様子はなかった。

 彼は最初から知っていたのだ、お竜が『大蛇』であるという事実を——。

 

「どういうことよ……あの大蛇は……アンタの差し金だったってわけ!?」

 

 これに猫娘が、坂本龍馬という人間に対する疑いの目を強める。

 お竜は龍馬の妻ともされる女性。もしや彼が妖怪たちへの攻撃手段として、あの大蛇をけしかけていたのではと。

 

「それは……そう思われても仕方ないだろうね……けど今は……お竜さん!!」

 

 それに関して、龍馬は何一つ言い訳をしなかった。お竜の正体が知られれば自分に疑いの目が向くと最初から分かっていたのだろう、そこに動揺は見られない。 

 もっとも、お竜の暴走は想定外だったのか。暴れる彼女を宥めようと、さらに呼び掛けを続けていく。

 

「な、なんじゃあああ!?」

 

 一方で、お竜のまさかの正体に以蔵は分かりやすく混乱していた。

 彼女が人間でないことを疑っていた彼も、まさかこれほどの怪物へと姿を変えるとは思っていなかったらしい。

 

「わ、わしは……剣の天才じゃ!! か、かかって来んかい!!」

 

 それでも、以蔵は名うての剣客としての意地から逃げることなく大蛇へと戦いを挑んでいく。

 しかし相手は人ではない。岡田以蔵という人斬りが生前にどれほどの修羅場を潜り抜けてこようと、流石にこのような怪物を相手にしたことはなく。

 

『——ウォオオオオオオオオオオオオオ!!』

「——なんじゃああああああああああ!!?」

 

 大蛇から放たれた強烈な尻尾の一撃で一蹴されてしまう以蔵。その身を遥か遠くに吹っ飛ばれ——哀れ夜空の星となる。

 

「以蔵さん!?」

 

 自分の命を狙った相手が吹っ飛ばれていく光景に、お人好しにもその身を心配する龍馬。出来ることなら、以蔵が無事かどうか確かめたいところだろうが——。

 

『グゥッ!! グゥウウウウゥウウウ……』

「お、お竜さん……?」

 

 怒りの原因であった以蔵を吹き飛ばした後も、大蛇は落ち着きない様子で唸り声を上げる。お竜のただならぬ異変に龍馬が声を掛けようとするが——。

 

『腹が……腹が減った……!!』

 

 不意に、お竜は人語を介して空腹であることを訴えかけてくる。

 

『カエル……カエルを……』

 

 カエルという、自らの好物の名を口にするが、その瞳には——鬼太郎の姿が映り込んでいた。

 

 

『——カエルを……食わせろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 空腹が限界に達したのか——次の瞬間にも、カエルと認識した眼前の妖怪・ゲゲゲの鬼太郎へと大蛇がその牙を向ける。

 

「くっ……!? 髪の毛針!!」

 

 降りかかる火の粉を払う形で応戦する鬼太郎、牽制代わりに髪の毛針を放つ。

 

『ハァアアアアアアアアアア!!』

「れ、霊毛ちゃんちゃん……うわあああ!?」

 

 しかしその程度で追い払えるような相手ではない。弾丸のように放たれる毛針などものともせず、大蛇は鬼太郎に向かって大口を開けながら急接近。

 それに対抗して鬼太郎も霊毛ちゃんちゃんこを腕に巻いて応戦しようとするのだが——刹那、大蛇の巨大な口がバクンと、鬼太郎の小さな体を丸呑みにしてしまう。

 

「う、嘘でしょ……鬼太郎っ!!」

 

 鬼太郎が捕食されてしまうという、まさかの事態に猫娘の口から悲鳴が上がる。

 

 

 

「ぐっ……ぐぐぐぐ………!」

『——オオオオオ!?』

 

 だが、鬼太郎を無事であった。

 彼は両手両足で自分を呑み込もうとする大蛇の大口を受け止め、なんとか踏み止まっていた。小癪な抵抗に大蛇は苛立ちながら、鬼太郎を噛み砕こうと顎に力を込めようとする。

 

「つっ……体内……電気っ!!」

 

 このままでは押し負けると判断した鬼太郎、やむを得ずそのままの姿勢で体内電気——体中から電気を発していく。

 

『——アアアアアアアアアアアアアア!?』

 

 流石の大蛇も、密着状態から繰り出される電撃が効かないわけがない。全身を巡る苦痛から逃れようと、その身を大きく揺り動かす。

 

「う、うわああああ!?」

 

 大蛇の激しい抵抗に、鬼太郎は体勢を維持するのがやっとであった。すると次の瞬間にも大蛇は鬼太郎を大口で挟み込んだまま、凄まじい速度で地を這う。

 そのまま大蛇は勢いよく、公園内に悠然と広がっていた大きな池の中へと鬼太郎と共に突っ込んでしまう。

 

「き、鬼太郎っ!!」

 

 大きな水飛沫を上げ、大蛇と共に池へと落ちていく鬼太郎の身を案じ、猫娘が急いで彼の元へ駆け寄ろうとする。

 

 

「——御用改めである!!」

 

 

 まさにそのときであった。人気がまるでなかった公園内に、突如として何者かの気配がわらわらと群がって来る。

 

「——御用ノッブ!!」

「——新選組ノッブ!!」

 

 それは『誠』と書かれた提灯を持った、浅葱色にダンダラ模様の羽織を纏ったちびノブたちの集団であった。

 

「こいつら……新選組のっ!?」

 

 猫娘は、それらが偉人内閣で使役されるちびノブたち、その中でも何故か新選組の隊士として活動する連中であることを、ニュースなどを通じて知っていた。

 何やらねずみ男が不正受給の罪で取り締まられてもいたが、正直自分には関係ないと思っていた。

 

 しかしそのちびノブたちが、殺気だった様子で自分たち——正確には、坂本龍馬を取り囲んでいる。

 

「…………」

 

 それに対し、龍馬は何かを悟ったように押し黙りながらも、池の中へと突っ込んでいった大蛇——お竜の心配をするよう、視線をそちらへ向けているが。

 

「——坂本龍馬!!」

 

 そんな坂本龍馬を、強面の男が眼光鋭く睨みつけている。

 

「俺は新選組二番隊隊長……永倉新八!!」

 

 その人物は、新選組の二番隊隊長・永倉新八だと堂々と名乗りを上げた。

 永倉は坂本龍馬の——彼にかけられた『嫌疑』について声高々に言及していく。

 

 

「——偉人内閣を崩壊させようと企んだ、国家反逆罪の容疑で拘束する!! 神妙にお縄に付きやがれ!!」

 

 

 

 

 

「——ぷはっ!! はぁはぁ……」

 

 大蛇と共に池の中へと突っ込むことになってしまった鬼太郎だったが、なんとかその大口から逃れ、溺れることなく陸地へと這い上がってきた。

 

「大丈夫ですか、父さん……」

「う、うむ……わしはなんとか……鬼太郎よ、あの大蛇はどうなった?」

 

 鬼太郎はすぐに父親の安否を確認。ずっと鬼太郎の髪の毛に隠れていた目玉おやじも事なきを得たようだが、彼は大蛇がなかなか池から上がってこないことに不安を抱いている。

 

「魂が飛んでくる様子もありませんから……無事だとは思いますが……」

 

 鬼太郎も無我夢中だったためはっきりとは言えないが、肉体が消滅して魂が出てきた感じはなかったので、おそらく無事なのだろう。

 だがなかなか上がってこないところを見るに、かなりのダメージを負っている筈だ。

 

「そうだ、猫娘!! それに……坂本さんからも話を聞かないと……」

 

 鬼太郎は大蛇への追撃は考えず、すぐに仲間である猫娘の身を心配し、さらに坂本龍馬から改めて話を聞かねばと思い立つ。

 大蛇の正体がお竜であったこと、その事実に龍馬がそこまで戸惑っている様子がなかったことから、彼は全てを知っていた筈だ。

 

 万が一、大蛇が妖怪たちを襲っていたことに龍馬や偉人内閣の意思が反映されていたとしたら。

 事態はさらにややこしくなるだろうと、鬼太郎は内心で頭を抱え始める。

 

「——鬼太郎っ!!」

 

 すると、そんな鬼太郎の元へ猫娘が慌てて駆けつけてくる。

 

「猫娘、怪我はないか?」

「アンタこそ!! あの大蛇は……もしかして、倒したの?」

 

 鬼太郎は猫娘に怪我がないことにホッとし、猫娘も彼が大蛇を退治してくれたのかとその顔に安堵の色を浮かべている。

  

「そ、それより……鬼太郎!! さっき新選組の奴らがやってきて、坂本龍馬が……」

「——!?」

 

 だが猫娘はすぐにでも表情を険しくし、坂本龍馬が新選組の手によって連行されてしまった事実を鬼太郎へと伝える。

 その現場に居合わせていたにも関わらず彼女が無事だったのは、あくまで新選組が坂本龍馬だけを拘束するに留めたからだ。

 

『——ああ……すまねぇが姉ちゃん、ここで見聞きしたことは……新聞記者とかには黙っといてくれねぇか?』

 

 龍馬捕縛の責任者である永倉新八は、猫娘のことをただの一般人だと思い込んでいたようで、女性である彼女に手荒い真似などせず見逃していたのだ。

 

『…………』

 

 龍馬も特に抵抗することなく、大人しくお縄についたという。

 

 

 

「……どうしましょう、父さん?」

「う〜む……偉人内閣も一筋縄ではないのじゃろうが……」

 

 おそらく龍馬の倒閣計画が漏れてしまったのだろう。内閣に対する反逆行為を危険視した何者かが、新選組に命じて彼の身柄を押さえにきたといったところか。

 

 正直なところ、その件に関して鬼太郎たちに龍馬を手助けする義理はない。

 まだ龍馬の協力要請にも応じていないし、それどころか彼は大蛇を操って自分たちを苦しめていた犯人だったかもしれないのだ。

 

「坂本さんにも……何か事情があるのかもしれません……」

 

 しかし龍馬という個人に対し、鬼太郎はそこまで悪感情を抱けていない。少し会話しただけだが、彼の妖怪との争いを避けたいとする気持ちは本物だと感じた。

 ここは龍馬を助けた上で、彼の口から大蛇の件についての真相を聞き出すのも一つの手かもしれない。

 

 

「——失礼、ゲゲゲの鬼太郎くんとお見受けしますが……」

 

 

 などと、鬼太郎が龍馬を助けるという選択肢を考えていたときだ。暗闇の中から、鬼太郎に向かって何者かが声を掛けてきた。

 

「誰っ!?」

 

 音もなく忍び寄ってきたその人物に、猫娘が警戒心を剥き出しに爪を伸ばす。

 

「初めまして……新選組総長、山南敬助と申します」

 

 しかし猫娘の威嚇にも怯えることなく、暗闇から黒い装束を纏った男性がゆっくりと姿を現す。穏やかな声音、落ち着いた雰囲気を纏ったその男性は——新選組の山南敬助を名乗った。

 龍馬を捕縛した永倉と同じ新選組の彼が、わざわざ鬼太郎を名指し——自身の要求を伝えていく。

 

 

「——坂本くん捕縛の件で、キミにも話があるのです……お付き合いいただけないでしょうか?」

 

 

 

×

 

 

 

「まさか、こういう形であんたを……坂本龍馬を捕縛することになるとはな……」

「…………」

 

 手錠を掛けられた坂本龍馬と、彼の護送を務める永倉新八が狭い車内にて肩を並べている。

 

「ノッブ!! 警察署までドライブノブ!!」

 

 ちなみに、そこはちびノブがハンドルを握る警察車両内だ。そして、その後部座席に座る永倉の顔には、分かりやすく戸惑いの色が浮かび上がっていた。

 

 生前、幕府に仇なすものとして新選組は坂本龍馬を捕えようとしていた筈だ。

 しかし龍馬は新選組の手から何度も逃れ、薩長同盟や大政奉還といった偉業を成し遂げ——それをきっかけに幕府は終わり、新選組も崩壊への道を突き進んでいくこととなる。

 あれから百年以上のときが過ぎ去った今になって、雪辱を果たすような形で新選組は坂本龍馬を捕えることとなった訳だが。

 

「なんで倒閣なんざ企んだ? 官房長官なんて大層なもん任されて……何が不満だってんだよ……」

 

 だが、永倉に念願叶ったと喜んでいる様子はない。

 それどころか、偉人内閣のお偉いさんである坂本龍馬を逮捕しなければならない現状に、残念がっているようにさえ見える。

 

「永倉さんはどう思ってるんだい? ボクたちのような過去の人間が、今という時代に関わることについて……」

 

 そんな永倉に龍馬は率直に尋ねた。

 龍馬自身は、自分たちのような過去の存在が今という時代に関わるべきではないと。そのために偉人内閣を終わらせ、政権を今を生きる人々へ返したいだけなのだが。

 

「それは……確かに、あんまり褒められたことじゃねぇだろうよ……」

 

 龍馬の問い掛けに彼の言わんとしていることを察し、永倉も表情を曇らせる。

 どうやら彼自身にも『迷い』はあるようだ。自分たちのようなものが、この国の治安を担うような状況が本当にこの国のためになるのかと。

 

「だが、俺は新選組として……最後までやるべきことをやり通す、今度こそな!!」

 

 しかし永倉は自らの迷いを振り払うよう、力強く己の意志を言の葉に乗せる。

 

 生前、永倉新八は最後まで新選組として戦い抜くことが出来ず、仲間とも袂を分かつことになってしまった。そのことを人知れず後悔していたのか、今度こそ新選組としての務めを最後まで果たしたいとのことだ。

 

「そっか……永倉さんは素直な人なんだね……」

「ああん!? 喧嘩売ってんのか、テメェは!?」

 

 永倉の裏表のない言葉に龍馬は笑顔を浮かべるが、曲がりなりにも敵対関係にある相手からの、皮肉とも取れる発言に永倉は顔を真っ赤に唸り声を上げていた。

 

 

 

「ん……? 急にどうした……なんで止まるんだ?」

 

 そんなこんなで、龍馬の護送を続けていた永倉だったが——道中、信号でもないのに何故か車が急停止する。

 

「ノ、ノブ……」

 

 車両を運転するちびノブも、困ったような表情で永倉に助けを求めるよう振り返る。それというのも——。

 

「ノブノブ、ご苦労だったノッブ……」

「あとは我々に任せるノブ……」

 

 永倉たちの前を通せんぼするよう佇んでいたのは、他のちびノブ。

 体中が金色、あるいは銀色で統一された無駄にピカピカしたちびノブたちであった。

 

「あ、あれはノッブたちの中でも、最上位のノッブ!! ゴールデンで、シルバーなエリートノッブだノブ!!」

「なんだそりゃ……エリートとかあんのか、お前ら……」

 

 金色と銀色のちびノブたちは、謎多いちびノブたちの中でも、特にエリートなちびノブであるとノーマルなノッブが恐れ慄くように萎縮してしまっている。

 もっとも、永倉からすれば色が異なるだけの珍生物。何がどうエリートなのかよく分からず首を傾げるしかないのだが。

 

「官房長官の処分は内閣府で下すノブ!! 弱小人斬りサークルは引っ込んでいるノブよ!!」

 

 金色銀色のちびノブたちは、坂本龍馬の引き渡しを一方的に要求してきた。彼らは確かにエリート意識丸出しで、新選組を明らかに見下しているのがよくよく伝わってくる。

 

「ああん!? 誰が弱小だ!! こいつの取り調べは俺たち新選組がやんだよ、邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 永倉は新選組を馬鹿にするような発言もあったことから、激怒しながら刀にまで手をかける。

 

「これは偉人内閣からの正式な通達ノッブよ!! 偉人内閣に逆らうつもりかノブ?」

「ぐっ……そ、それは……」

 

 しかし、金色銀色のちびノブたちは自分たちは偉人内閣の直属だと、その権力を笠に永倉を退けようとする。

 これに刀を抜こうとした永倉の手が止まる。いかに新選組が恐るべき剣客集団だろうと、所詮はお上に仕える組織の一員に過ぎない。

 上からの命令に逆らえないというのが、いつの時代も変わらない彼らの宿命なのかもしれない。

 

「いいよ、永倉さん。大人しく彼らについていくさ……」

 

 ここで揉め事を起こしても誰も得をしないと、坂本龍馬も大人しく彼らについていくことにする。

 

 

 

 

 

「……内閣府から遠ざかってるようだけど……ボクはどこに連れて行かれるのかな?」

 

 そうして、車を乗り換えて引き続き護送されていく坂本龍馬だったが、彼を乗せた車は内閣府の施設とは全く逆方向。

 それどころか、都市部からもどんどん離れていき——やがて、まったく人気のない山道まで来てしまった。

 

「無駄口を叩くなノブ!!」

「国家反逆の罪は重いノッブよ!!」

 

 龍馬の疑問に対し、金色銀色のちびノブたちは余計なことを喋るなの一点張りだ。ほんわかな見た目に反し、だいぶ殺気立っている。新選組と一緒だった車内の方がまだ穏便な空気感が漂っていた気さえする。

 果たして龍馬はどこに連れて行かれるのか。その先でどのような処分が下されるのか。

 

「——到着ノブ、早く降りるノブ!!」

 

 その答えはすぐにでも明らかとなる。

 都市部からも離れた、人気のない山中。開けた広場のような場所へと降り立つ一同。

 

「大罪人!! 坂本龍馬を連れてきたノッブ!!」

 

 そこで待っていた自分たちの上役に、エリート志向なちびノブたちが恭しく敬礼する。

 

 

「——ご苦労だった、指示があるまで下がっていろ」

 

 

 その人物は、ちびノブたちの労をねぎらいつつも、彼らに下がるように指示を出す。その命令に素直に従い、ちびノブたちが周囲一帯へと散っていく。

 

「…………ああ、やはり貴方でしたか」

 

 ちびノブたちの姿が視界から見えなくなったことで、龍馬はその人物——自分をここまで連れてくるよう、ちびノブたちに命を下したであろう相手へと視線を向ける。

 龍馬はまるで最初から犯人が——今回の騒動の『黒幕』が誰なのか。あらかじめ予想していたかのよう、その人物の名を澱みなく口にしていた。

 

 

「——奄美幹事長」

 

 

 

×

 

 

 

「何故、私が怪しいと……?」

 

 夜がさらに深まっていく中、月夜の輝きに照らされる夜空の下で二人の男が向かい合う。

 

 未だに手錠で拘束されている坂本龍馬と、サングラスの男性は——奄美幹事長だ。

 奄美は龍馬のやはりという台詞から、彼が自分という人間に疑いを持っていたことを察し、その理由を尋ねていく。

 

「そうですね……正直予想の内の一つというか……貴方が怪しいとは睨んでいましたが……」

「ほう、理由を聞いてもいいかな?」

 

 奄美は罪人として捕らえた龍馬の話に耳を傾ける。

 後方に下がっているとはいえ、呼べばすぐにちびノブたちが駆けつけてくるからか、奄美には心情的な余裕があった。

 

「ボクたち偉人内閣に、現代の政治家たちはお世辞にも好意的ではありません。まあ……信長公が強引に奪い取った政権ですから……当然といえば当然でしょう」

 

 龍馬は奄美という人間に疑いを持った経緯を語っていく。

 言葉を慎重に選ぶその口ぶりには、『時間稼ぎ』といった意味合いも多分に含まれていたわけだが——。

 

「…………」

 

 龍馬の意図に気づいているかどうかは分からないが、彼の言葉の『何か』が気に食わなかったのか、僅かに眉を顰めて不快感を示す。

 

「……ですが、そんな政治家たちの中で、貴方だけはボクたちの存在をすんなりと受け入れ……幹事長にまで抜擢されています。それを偶然と片付けるのは……流石に都合が良すぎるでしょう」

 

 龍馬は奄美の表情の変化などを注意深く観察しながら、彼という人間が偉人内閣に紛れ込んでいた不自然さについて言及する。

 偉人だけで構成されている偉人内閣において、彼だけが現代人として紛れ込んでおり、それを誰一人反対することなく受け入れていたという事実こそ、彼が怪しいと考えた最初のきっかけだ。

 

「そこで、貴方のことを調べさせてもらったのですが……」

 

 そのため、龍馬は奄美という人間の身辺調査を秘密裏に進めた。

 

「奄美さん……貴方は確かにレイミ政権の時代から与党に所属していました。ですが特に目立つような功績もなく、ごく平凡な代議士の一人に過ぎなかった……」

 

 奄美という人物自体、レイミ総理——前々政権から与党に所属していたとされている。

 だが幹事長などいった重要な役職を任されるような人材ではなく、平凡でどこにでもいるような陣笠議員の一人に過ぎなかった筈だった。

 

「ですがレイミ政権が崩壊し、総理代理の下で臨時政権が発足してからというもの、貴方は突如として頭角を現した……」

 

 だが前政権——元総理代理が臨時で内閣を立ち上げた頃から、奄美は徐々にその実力を示し始めた。

 それまでのパッとしない印象が嘘のように、日本の復興政策を率先して行い、その功績から臨時内閣でも重要な役職を任されるようになっていった。

 その人が変わったような活躍に、母国の危機に政治家としての才覚に目覚めたのかと、与党内でも噂されていたという。

 

「けどね、おかしいんですよ……」

 

 それらは全て好意的な意見であり、それだけなら奄美を優秀な政治家だと評価するだけで済んだことだろう。ところが——。

 

 

「ちゃんと調べれば分かることなんですが——奄美という議員は記録上、既に『死亡』している筈なんです」

「…………」

 

 

 龍馬からのまさかの調査報告に、奄美はサングラスを掛け直す仕草をする。

 そう、奄美という議員は先の妖怪との大戦時——流星群のように降り注いだバックベアードの体液によって吹き飛ばされた、死亡した議員たちの中に含まれていたのだ。

 

 つまり、奄美という政治家はこの世にいない——いてはならない筈なのだ。

 

「貴方は奄美さんではなく……奄美という人間に成り代わった……全くの別人、といったところでしょうか……」

 

 故に龍馬は彼は奄美でなく、彼という人間の立場を利用して政界に紛れ込んだ『別人』であると判断した。

 突拍子もない発想かもしれないが、こうして捕まっている現状からその考えは間違っていなかったのだろう。

 

「ふっ……たった一人で、よくもそこまで調べたものだ……」

 

 奄美——そう名乗っていた男は龍馬の話を否定することなく、口元を釣り上げながらおもむろにサングラスを外した。

 素顔を晒した奄美の目元には、高齢による深い皺が刻まれていた。しかしその眼光にはいささかの衰えもなく、龍馬を睨め付ける瞳には確固たる意志が宿っている。

 

「……!! ああ、やはり……写真で見るのとはまるで別人ですね……」

 

 サングラスを外した瞬間、龍馬も彼が奄美ではないと改めて実感する。

 

「このサングラスには認識を誤認する呪術を施してある……普通なら違和感すら覚えないものなのだが……」

 

 というのも、そのサングラスこそが、彼を『奄美』であると周囲の人々に誤認させていた要因。

 その黒眼鏡にかけられた呪術により、本物の奄美のことを知っていたであろう、他の代議士たちですら、彼が『偽物』である事実に気付かなかったという。

 

「呪術……ということは、やはり貴方が……ボクたちを地獄から呼び戻した……反魂の術の術者ということでしょうか?」

 

 奄美は呪術——そういった類の力を扱う術者であると、自らの手の内を晒した。

 ならば彼こそが、全ての黒幕。反魂の術を使って信長や龍馬たちを地獄から蘇らせ、偉人内閣を立ち上げた張本人であったということだ。

 

 

 

「それで……これからボクはどうなるんでしょう? 秘密を知ってしまった以上、やはり消されてしまうのかな?」

 

 ここで正体を明かした以上、それを知ってしまった自分は『処分』されてしまうだろうと。龍馬は自身の窮地を理解している割に、随分と落ち着いた態度で相手方の言葉を待つ。

 

「キミを地獄に送り還すことは簡単だよ。だが……そうなるとあの大蛇を制御するのが難しくなってしまうのでね。出来ることなら、キミには今まで通り偉人内閣で……信長公の下で働いてもらいたいのだ」

 

 だが意外にも奄美は龍馬を処分することなく、彼に偉人内閣に残ることを提案した。

 全てはあの大蛇を——お竜を制御するために必要なことだからと。

 

「貴方は、お竜さんをどうするつもりですか?」

 

 お竜の話題が出たことで、龍馬の瞳に鋭さが宿る。

 どうして彼はお竜の正体が大蛇だと知っているのか。いったい、彼女に何をさせようというのだろう。

 

「キミも知ってのとおり、あの女は人間ではない。まつろわぬ神……神代よりこの国に息づいてきた国喰いの異形……正真正銘の怪物だよ」

「…………」

 

 お竜が人間ではないことは、彼女の正体を垣間見たなら一目瞭然だろう。

 しかし奄美は、彼女がそんじょそこらの妖怪などとは一線を画する存在であることまで見抜いていた。

 

「反魂の術の維持には膨大なエネルギーが必要でね……あれの身に内包されている妖気が、キミたちの存在を現世へと繋ぎ止める『要石』の役割を果たしているのだよ」

 

 曰く、お竜は神々の時代からこの日の本に存在していた怪異であり、他の妖怪たちとは比較にならないほど桁外れの神秘を纏っているという。

 その神秘なる大蛇がその身に宿している『妖気』を利用することによって、数十人もの偉人たちを蘇らせるという規格外な反魂を成立させているとのことだ。

 

「まあ、流石に数十人もの英雄豪傑を蘇らせているからか、妖力の消費も激しいようでな……ときより、他の妖怪を捕食することで足りなくなった妖気を補充していたようだが……」

「それでか!! お竜さんが妖怪たちを襲っていたのは……」

 

 もっともそんな強大な怪異であるお竜にも、反魂の術は相当の負担が掛かっていたらしく。妖力の不足が空腹感、飢餓感となって彼女を苦しめていた。

 その苦しめから逃れるため、足りなくなった妖気を補充しなければと、お竜は他の妖怪たち——つまりは鬼太郎の仲間を襲っていたのである。

 

「まあ、それも身から出た錆というやつだがね」

「どういう意味ですか? 貴方がお竜さんを苦しめているんじゃないのか……!」

 

 しかしそんなお竜の苦しみ、その全てを奄美は自業自得だと無慈悲に言い放つ。

 その物言いに龍馬は込み上げる怒りをなんとか抑えつつ、それがどういう意味かと問い詰めた。

 

「私が地獄から蘇らせようとしていたのは、信長公と……あの方を補佐する武将に限定したつもりだった」

 

 というのも、奄美が地獄から呼び出したかったのは——織田信長を始めとした戦国武将のみ。

 奄美としては、それだけでも十分に偉人内閣を運営出来ると判断したし、要石たるお竜への負担もそこまで過度なものにならないと考えていた。

 

「だが、私があれを起点に反魂の術を行使した際、あれは私の術式の一部を乗っ取ってしまった!! 暴走した反魂の術は、奴自身が望む対象と……それに関わるものたちを連鎖的に蘇らせてしまったのだ!!」

 

 ところが、いざ偉人たちを蘇らせようとした段階になって、予想外のトラブルが起こってしまった。

 ただの要石に過ぎなかったお竜が、自らの意思で『蘇らせる予定になかった』偉人たちを地獄から呼び出してしまったというのだ。

 

 

「そう、キミのことだよ……坂本龍馬」

 

「あの大蛇が、キミを地獄から蘇らせることを願った結果として……キミやキミと同じ時代を生きた人間たちまでもが、この現世へと呼び出されてしまったのだ」

 

 

 それこそ、坂本龍馬や彼の時代に生きた偉人たちが今ここにいる理由だ。

 

「……そうか……お竜さんがボクを…………」

 

 龍馬は自身の復活を、他の誰でもないお竜が願ったのだと知った。

 自分が死んだ後、お竜がどんな気持ちで今日までの日々を過ごしてきたのだろうかと、ここにいない彼女の胸中に思いを馳せていく。

 

 

 

×

 

 

 

 ——ここは暗くて……とても冷たいな……。

 

 鬼太郎との戦いにて疲弊した大蛇——お竜は池の底にて、眠るように倒れ伏していた。

 反魂の術の要石たる彼女は、ただでさえ妖気の消耗を常に強いられている。そこへさらに鬼太郎から激しい攻撃を受けたのだから、いかに彼女が強大な怪異といえども、倒れるのは無理からぬこと。

 

 ——吾は……どうして、こんなところにいるんだったか……?

 

 そして極度の疲労からか、考えがまとまらない頭でボーッと微睡むお竜は、自分が何故ここにいるのか——全ての始まりから思い返していく。

 

 

 

 今でこそ『お竜』と名乗っている彼女だが、その大蛇に名など存在しなかった。本当はあったのかもしれないが、真名など誰も呼ばなくなって久しいため、本人もすっかり忘れてしまっている。

 お竜という名は、彼女が坂本龍馬の側にいるようになってから呼ばれるようになった名前であり、彼と出会う以前——彼女には『高千穂(たかちほ)の大蛇』という呼び名が付けられていた。

 

 ここでいう高千穂とは、宮崎県と鹿児島県の県境に存在する高千穂峰(たかちほのみね)のことを指す。

 日本神話でも天孫降臨(てんそんこうりん)——神々が地上を治めるべく、天より舞い降りてきたという伝説の舞台として有名な霊峰である。

 

 大蛇は遥か昔、この国が産まれ出づる神代に生まれた、まつろわぬ神の一柱であった。

 その醜き異形から地上へと追放された大蛇は、天の神々への復讐心から力を蓄え、天へと昇る通り道として高千穂の地へとやって来たのだ。

 

 そしていざ、天に昇ろうとしたまさにそのとき——天より一振りの『鉾』が降ってきた。

 

 それこそ——『天逆鉾(あまのさかほこ)』。

『国産み神話』にて、イザナギとイザナミの二神が天地を想像する際に使ったとされる神器。

 その鉾のレプリカは、現代においても高千穂峰の山頂に突き刺さっているが——神聖なる力を秘めた本来の天逆鉾は、不敬にも天へと昇ろうとした大蛇へと突き刺さり、その地にかの異形を縫い付けてしまったのだ。

 突き刺さった鉾のせいで身動き一つ取れなくなった大蛇は、天の神々への恨み辛みをますます募らせる日々を過ごすこととなる。

 

 

 そんな、空虚なる日々を終わらせた者——それこそが坂本龍馬という男であった。

 

 

 ある日、龍馬は高千穂の山へと登り、偶然にも鉾の突き刺さった大蛇と遭遇した。

 

『——吾をこの地に流され……この地に縛り付けられたのだ……』

 

『——人間よ、吾をこの鉾から解放してくれればどんな望みも……』

 

 大蛇は龍馬へと語り掛けた。

 自身の境遇、それを出来るだけ悲観的に語りながら相手の同情を誘い、その上でどんな望みでも叶えてやると人間の欲深さに目を付けたのだ。

 

 大蛇は人間など矮小な存在、利をチラつかせれば簡単に言うことを聞くだろうと安易に考えていた。鉾から解放されればもはやそいつも用済み。腹の足しにでも喰ってやろうと、完全に龍馬という存在を見下していたのだ。

 

 

『——そいつは大変だったろうに』

 

 

 ところが龍馬はその大蛇を恐れることも、望みとやらに欲深く瞳をギラつかせることもなく。

 ただただ、大蛇の境遇に同情し——なんの躊躇いもなく、大蛇を縛るその鉾を引っこ抜いてしまった。

 

『……………………はっ? ………………え?』

 

 これに大蛇の方が驚く。

 もっと葛藤があると思っていた。自分のような存在を自由にすることに、多少なりとも抵抗があると思っていた。

 しかし龍馬に迷いなど欠片もなく、本当に『ただ気の毒そうだった』と。それだけの理由で、彼は大蛇の戒めを解いてしまったのだ。

 

 

『——それじゃ、わしは帰るきに』

 

 

 大蛇が唖然としている中、龍馬は何事もなかったように引っこ抜いた鉾をその辺に投げ捨て、そのまま山を降りて行った。

 

『…………なんだあの人間は…………』

 

 龍馬の姿が見えなくなった頃になって、大蛇はようやく状況を呑み込み始めた。

 どうやら自分はあの人間に助けられたようだと、その事実をまるで他人事のように感じる自身の心境の変化に驚いていた。

 もっと怒りが、恨みが、憎悪があった筈なのだが——そういったものが全て、なんかどうでも良くなるほど、その人間のことが気になってしょうがなかった。

 

『…………おい人間……待て……待ってくれ……』

 

 大蛇はその人間を追いかけるべく、山を降りることにした。

 

 

 

 ——本当に……最初に会ったときから惚けたやつだったな……龍馬は……。

 

 龍馬との出会いを思い返す、お竜の口元には笑みが浮かんでいた。

 その後、なし崩し的に龍馬に引っ付いていくことになった大蛇は、流石にそのままでは目立ち過ぎだと。龍馬からお願いされたこともあり、人間の女性に化けた姿——お竜として過ごすこととなった。

 

 龍馬の隣を引っ付くようになった彼女を、何も知らない人々は押しかけ女房などと揶揄いもした。しかし悪い気もせず、お竜は龍馬を特別な存在と慕い始め、龍馬も人ならざる彼女を平然と受け入れた。

 

 二人で過ごすなんでもない日々が、天上の神々への復讐心だけを糧に生きていたお竜の心を解きほぐし、彼女に地上で生きる意味を与えていたのかもしれない。

 

 ——だけど龍馬は……そんな龍馬を……吾は守れなかった……。

 

 だがそんな龍馬との掛け替えのない日々も、唐突に終わりを告げる。

 

 

 坂本龍馬の『暗殺』——近江屋事件によって。

 

 

 お竜と出会う以前から、坂本龍馬には敵が多かった。

 彼の目指した日本の夜明けは、それまでの国家の体制——徳川の支配を終わらせるものであり、それを良しとしない勢力から、彼は常に命を狙われていた。

 次々と送られてくる刺客たち。そういったものたちの手から、龍馬を守っていたのがお竜だ。

 

 お竜は人の形を保ったままでも十分に強く、龍馬を狙う曲者を全て返り討ちにしていた。

 彼女がいる限り誰も龍馬を暗殺など出来ないだろうと、高杉晋作など笑い話にしていたほどだ。

 

 ところが近江屋事件の日、彼女はたまたま龍馬の側を離れていた。

 ただ軍鶏(しゃも)が食べたいなどと、彼女が狩りに出掛けていた。そのほんの僅かな時間に——坂本龍馬は暗殺され、その命を散らせてしまう。

 

『龍馬……?』

 

 血溜まりに沈む龍馬を前に、お竜はただ茫然と立ち尽くしかなかった。それまで感じたことのない虚無感、埋めようのない喪失感。

 

 

 彼女は生まれて初めて——大切な人を失う悲しみを知ったのである。

 

 

 その後、龍馬を失ったお竜は失意のままに海底へと沈んでいった。

 龍馬との思い出、夢の中で彼との楽しかった日々を思い返す。そんな静かな時間を誰にも邪魔されないよう、自ら暗い海底の深淵にて眠りについたのであった。

 

 

 それから、百年以上の年月が経った頃——何者かの声が響いてきた。

 

 

『——やっと見つけた……これが……国喰い……』

 

『——素晴らしい!! これに蓄えられた妖気を用いれば……反魂の術を……』

 

 その者が口にする言葉の意味を、最初はまるで理解できなかったし、理解する気もなかった。

 どうやら自分の妖気を利用して何かを企んでいるようだったが、正直抵抗する気も起きない。

 

 相手が何者であろうと、何をしようと関係ない。

 何も聞かなかったことにし、龍馬との思い出に浸ろうと再び夢の中へと——。

 

 

『——これでようやく、信長様を地獄から蘇らせることが出来る……』

 

 

 ——…………蘇る? 

 

 ——……死んだ人間が……生き返るってことか……?

 

 だが、その者が口にした言葉——その意味を頭の中で反芻することで、お竜の意識が現実へと引き戻される。

 

 人間は脆弱だ。妖怪のように魂だけとなって生き延びることも出来ない。

 肉体が滅べば魂も死に絶える。人間でないお竜とて、それが当たり前だと思っていた。

 

 だがもし、もしも死んだ人間を蘇らせることが出来るなら。

 そんな、世の理を捻じ曲げることが本当に可能だというのならば——。

 

 ——吾は……私は!! 龍馬に……龍馬に会いたい!! 

 

 ——もう一度……あいつと……!!

 

 お竜は反射的にそう願った。

 次の瞬間——彼女の意思が、彼女を利用して発動しようとしてた『反魂の術』にバグを引き起こす。

 

 

『な、なんだこれは……!? ま、まさか……私の術式に干渉を……!!』

 

 

 これに術者の——偉人内閣で『奄美』を名乗ることになる男の困惑する声が響き渡る。

 お竜の予想だにしない抵抗、術式への干渉が反魂という奇跡をより強大な規模で展開させてしまった。

 

 

 結果、偉人内閣は当初の予定よりも大きなものとなり、その中に坂本龍馬を含めた幕末の偉人たちもが加わることとなったのである。

 

 

 

 

 

 ——そうだ……私は願ったんだ!! 龍馬ともう一度……一緒に……!!

 

 そこまで思い出したところで、お竜の意識が完全に覚醒する。

 自分がどうしてここにいるのか、誰のために今という瞬間を生きているのかを思い出したのだ。

 

『——龍馬っ!!』

 

 目覚めた大蛇は凄まじい速度で、池の底から地上へと盛大な水飛沫を上げながら浮上した。

 周囲には人の気配も、妖怪の気配もない。誰一人いない孤独な月夜の下。

 

『——今度こそ、お前を守る!! 絶対に……死なせはしないぞ!!』

 

 だが、向かうべき場所は分かっていた。

 たとえどこへいようと、生きているというなら龍馬の元へ。

 

 

 もうあのときのようなヘマはしない。今度こそ彼を守り抜くと——そう決意するのであった。

 

 

 

×

 

 

 

「さて……そろそろ返答を聞こうか、坂本龍馬くん?」

 

 奄美を名乗っていた、偉人内閣設立の黒幕が坂本龍馬に返答を迫る。

 彼はこれ以上余計なことを語ることはなく、龍馬に偉人内閣のために働く意思があるかどうかを再度問い掛けていた。

 

 もしもこの問いに首を横に振ろうものなら、たとえ大蛇の制御が困難になろうとも龍馬という存在を消しにかかるかも知れない。

 元より彼という存在がイレギュラーである以上、奄美にはそこまで龍馬にこだわる理由もないのだから。

 

「幹事長……貴方はどうしてボクが、偉人内閣に仇なす存在だと知ったんでしょうか?」

 

 すると龍馬は奄美の問いに答えず、偉人内閣に対する反逆——龍馬が倒閣を企んでいるという事実をどのように知ったのかを、何故か不敵に尋ねていく。

 

「……? それは新選組から報告があったからだ……キミが偉人内閣への反逆を企てているという密告があったと……」

 

 何故今それを気にかけるのかと、不思議に思いながらも奄美は龍馬の問いに答えてやった。

 奄美が龍馬の不穏な動きを知ったのは、新選組の報告が最初だ。その新選組も何者か——『密告者』から、龍馬の偉人内閣への裏切りを知らされたらしい。

 

「私の方でも詳しく調査をしようと思ったんだが……新選組が独断でキミを拘束しようと動きがあったのでね……仕方なく、このような形でキミの身柄を抑えるしかなかった」

 

 その際、新選組は『坂本龍馬を自分たちの手で逮捕する』と、偉人内閣の命令を待たずして動き始めていた。

 しかし、仮にも坂本龍馬は官房長官を任されている、偉人内閣の一員だ。新選組が大々的に動けば龍馬の内閣への背信が表沙汰になり、世間を大いに騒がせてしまう。

 流石にそれは不味いと。少し不本意であったが、奄美は新選組から龍馬を横取りするような形で彼の身柄を抑えることになったのだ。

 

「まあ、キミと新選組は敵対関係にあったからね……彼らがキミを敵視するのも、無理からぬことだろうさ……」

 

 奄美は新選組が龍馬に対する敵愾心から、そういった行動に出たのだろうと。

 龍馬暗殺の犯人は新選組だったという説もあるくらいなのだから、両者が互いに歪み合う関係であっても不思議ではないと考えた。

 

「いえ、ボクは彼らを……新選組の人たちを敵だなんて思ったことはありませんよ……」

「…………?」

 

 だがそんな奄美の考えを、龍馬は真っ向から否定した。

 

「幕府の打倒を目指したボクと、幕府を守る新選組の人たちは……敵対関係にあった……だけどそれは、あくまで立場の違いがそうさせたというだけの話です」

 

 龍馬と新選組が敵対関係にあったことは確かだろう。

 

「あの時代、ボクたちはこの国が良くなると信じて自分の信じる道を歩んできた……そこに立場の違いこそあれど……善悪の区別なんてなかった筈なんだ……」

 

 しかし龍馬も新撰組も、自分たちの手で窮地に立たされたこの国をどうにかして救いたいと、そう思って自らの道を突き進んで来ただけなのだと。

 

 結果として敵対し、殺し合うことになったとしても——龍馬は彼らを恨みはしなかった。

 その気持ちは、自分が何者かの手によって暗殺された今でも変わることはない。

 

「だから、ボクは彼らを信じて託したんだ……今回の作戦をね……」

「作戦? 貴様……いったい、何の話を……」

 

 故に、今の龍馬は何の不安も抱かずに『今回の作戦』に身を委ねられたと。彼の言葉の真意を図りかねた奄美が顔を顰めた。

 

 まさに、そのときだ——。

 

 

「——っ!?」

 

 

 二人だけで向かい合っていた真っ暗な広場に——突如、いくつもの光源が現れた。

 それと同時に、わらわらと群がってくる何者かの気配。

 

「た、大変ノブ!! 一大事ノブ!!」

「何事だっ!!」

 

 突然の事態に後方に下がっていた、金色銀色のちびノブたちが駆けつけてくる。

 エリートであることを鼻に掛けていた彼らだが、その異常事態にもはやエリートとしての体裁を保っている余裕もなかった。

 

「し、新選組が……周囲一帯を包囲してるノッブ!!」

「なんだと……!?」

 

 金色銀色ノッブたちからの報告に、奄美ですらも驚愕に目を見開く。

 

「——御用改め……新選組ノッブ!!」

「——国家の中枢に巣食う巨悪を……取り押さえるノブ!!」

 

 新選組の隊士に扮したちびノブたちは、自らの職務を果たすためにこの場所へ訪れたようだ。

 その口ぶり、果たして誰を『巨悪』と称して捕まえに来たのか。

 

「貴方の仰るとおりですよ……確かに新選組は密告者の通報を受けたことで、ボクを捕まえに来ました……」

 

 その答えを知っているとでもいうのか、坂本龍馬はまるで揺らぐことなく『とある事実』を語っていく。

 

「でも、実は言うとですね、その密告者というのが——ボクなんですよ」

「……な、なにっ……?」

 

 それは新選組に『坂本龍馬』の怪しい動きを密告した何者かの正体が——『坂本龍馬』であるという事実だ。

 

 それだけ聞くと意味が分からないだろう。

 しかしそれこそ、坂本龍馬が彼ら——新選組と共に立てた『作戦』なのである。

 

 

 

「…………なあ、これってどういう状況なんだ?」

 

 隊士であるちびノブたちに混じって、奄美たちを包囲する新選組の中に困惑する永倉新八の姿があった。

 

「あれ? 永倉さん、斉藤さんから何も聞いてないんですか?」

「き、聞くって……なんのことだよ?」

 

 すると、そんな同僚の様子に沖田総司が目を瞬かせる。

 彼女は今この場で何が行われているのかをしっかりと把握しているらしく、寧ろ何も知らないままここにいる永倉に不思議そうに首を傾げる。

 

「いや、ほら……新八ってばお馬鹿さんだから……先に教えとくと、ボロが出ると思ってさ」

「だからいったいなんの……って、誰が馬鹿だっ!!」

 

 本来であれば、二番隊の隊長である永倉にも知らせておくべきことだったのだが、三番隊の隊長である斎藤一が作戦に支障をきたす恐れがあるからと、彼には何も教えなかったらしく。

 自分が何も知らされなかったことや、さりげなく馬鹿呼ばわりされたことに永倉は激昂する。

 

 そんな訳も分からずに怒り狂う永倉に、斎藤はこれまで隠していたことを簡潔に伝えていく。

 

 

「——つまり、新選組が坂本龍馬と手を組んで……今回の件の黒幕を炙り出そうって話さ」

 

 

 

 

 

 それは坂本龍馬が偉人内閣への反逆を、自分自身で伝えに来たところから始まった。

 

『——実はね……坂本龍馬が偉人内閣を裏切ろうとしているみたいなんだよ……』

 

 初めてその話を聞かされた、斎藤一と山南敬助は面食らっただろう。なんせ他でもない坂本龍馬本人の口から、現政権を裏切るなどという話をされたのだから。

 だが、それがどういう意味での発言だったのか。龍馬の思惑を聞かされたことで、とりあえず彼の意思は理解出来た。

 

 龍馬は、過去の人間である偉人内閣が日本を治めることを良しとしていない。

 自分たちが地獄に還ることになっても、政権を現代人に返すべきだと考えていた。

 

『どうかそのために協力してくれないかな? キミたち新選組の力を貸して欲しいんだ……』

 

 この時点で、龍馬は奄美幹事長が怪しいと睨んでいたようだが、確証がなかったため表立って動く訳にはいかなかった。

 また、他の偉人内閣の面子——主に戦国武将たちの考えが読めなかったこともあり、彼らに協力を求めることにも躊躇してしまった。

 

 そんな中、坂本龍馬が頼ったのは敵対しながらも同じ時代を生きた相手——新選組だった。

 下手な味方より、敵でありながらも自分と同じように国のために立ち上がった、彼らの思いを信頼したということだ。

 

『どうする、斉藤くん? 我々だけで判断出来る話ではないと思うんだが……』

『副長には話を通しておきましょう……今の副長に、話が通じるかは疑問ですけど……』

 

 山南と斎藤は龍馬からの協力要請に、とりあえず自分たちの上役である新選組副長・土方歳三の意思を確認しようと彼と龍馬を引き合わせることにした。

 彼ら自身、坂本龍馬の話に頷ける部分はあったのだろうが、独断で事を進めるにはあまりにも大きすぎる話だった。

 

『——こうして顔を合わせるのは初めてですね……土方歳三さん』

『——坂本龍馬……お前が俺たち新選組に助けを求めるとはな……』

 

 そうして、新選組の屯所として使われている建物にて、今現在の新選組の頭である土方歳三が坂本龍馬と顔を突き合わせることになった

 生前、敵対しながら一度も正面切って相対したことのない両者が、面と向かって話し合うことになった歴史的瞬間だ。

 

『どうします、土方さん? 今ここで斬っちゃいますか?』

『いやいや、沖田ちゃん……とりあえず、相手の話を聞こう……ね?』

 

 その会合の席に立ち会うことになった沖田総司などは、特に考え込むことなく龍馬を斬ろうかと刀を抜いていたが、それを龍馬をここまで連れてきた斎藤が押し留める。

 龍馬の話に道理が通ってなければ、最悪、彼を斬ることになるかもしれないが、今はまだそのときではない。

 

 とりあえず龍馬の話——彼が実行しようとしている作戦について詳しく聞くことになった。

 

『——なるほど、自分を囮にな……それで幹事長とやらが乗ってくると思うのか?』

 

 龍馬の話を聞き終えた土方は、その策の成否について率直に疑問符を浮かべる。

 

 龍馬の作戦——それは自分が偉人内閣を裏切ろうとしている事実をわざと流し、新選組に自分を捕まえてもらおうというものだった。

 龍馬は官房長官という地位についている。そんな重要な役職を占める人間が捕まるようなことがあれば、それは偉人内閣にとっても大きな痛手となる。

 

 そのような事態を、幹事長として奄美が黙認する訳がない。何かしらの動きがあると考えたのだ。勿論、確実性がある訳ではないため、土方の上手くいくのかという疑問ももっともだ。

 

『わからないけど……お竜さん、彼女が何かしらの形で関与している以上……ボクの存在は無視できない筈だ……』

 

 だが、龍馬はお竜の正体が大蛇——妖怪であることを知っており、反魂の術に妖気が用いられているという話から、今回の件に少なからずお竜が関わっていると予想した。

 お竜が龍馬に執心していることは、誰よりも龍馬が一番理解している。奄美がお竜を利用している以上、自分という存在を無視することは出来ない。

 

 きっと、必ず動きがある——そのためにも、自分自身が囮にならねばと考えたのだろう。

 

『それで、どうします? 坂本龍馬の話に乗るか……それとも……』

 

 龍馬から詳しい話を聞き終え、改めて新選組としてどうするか斎藤が土方の顔色を伺う。

 正直なところ、現代に蘇った土方歳三がどのよう考えを持っているか、斎藤ですらも予想が出来ない。

 相手があの坂本龍馬ということもあり、今この瞬間にも刀を抜いて——彼を斬り捨てやしないかと、内心かなりヒヤヒヤしている。

 

『…………』

『土方さん? 聞いてますか!? もしもーし!!』

 

 土方もすぐには返答せず、目を閉じて考え込んでいる。そんな彼の頭をペチペチと叩きながら、話を聞いているのかと沖田が耳元で呼び掛ける。

 鬼の副長と呼ばれた土方にそんな恐れ知らずの態度を取れるのも、幼少期の頃から家族同然に過ごしてきた沖田くらいだろう。

 

 沖田にせっつかれながらも、微動だにせず熟考を重ねていく新選組副長。

 

『……俺が新選組だ』

『…………はい?』

 

 やがて、長い沈黙から唐突に口を開く土方だったが——。

 

『いつの時代、どこにいようと……俺は俺の新選組を貫く……それだけだ!!』

 

 まるで答えになっていない返答をするや、そのまま部屋から退出し、奥の方に引っ込んでいってしまう。

 

『……ええっと……』

『つまり……どういうこと……?』

 

 これに龍馬も、斎藤ですらも土方の意思が読めずに困惑している。

 協力するのかしないのか、せめてはっきりと返事をして欲しいのだが——。

 

『はぁ……分かりました。土方さんがそう仰るのなら……坂本さんに手を貸しましょう!!』

『えっ……今のって、そういう意味なの!?』

 

 どうやら沖田には伝わったらしく、彼女は先ほどの発言を『坂本龍馬に協力する』という方向で話が進んだのだと解釈する。

 

『沖田!! 斎藤!! 何をぼさっとしてやがる!? さっさと準備しやがらねぇか!!』

 

 その証拠に、何もせずに突っ立っている沖田と斎藤を土方は叱りつける。

 彼が一度奥の部屋へと引っ込んだのは、装備を整えるためだ。坂本龍馬の計画に乗る気があったからこそ、万全を期すための準備を怠るまいと。

 

『多少、手荒になるだろうが……覚悟はしとけよ?」

『ええ、お手柔らかに頼みますよ……』

 

 そうして、龍馬と新選組は正式に手を組むこととなり、そのための準備を秘密裏に進めていくこととなったのだ。

 

 

 

×

 

 

 

「——と、言うわけですよ……」

 

 龍馬は新選組と手を結んだ経緯、彼らとのやり取りを奄美に聞かせる。

 

「まさか、キミと新選組が組むことになるとはなっ!!」

 

 犬猿の仲だと思っていた両者が協力し合い、自分を炙り出す算段を立てていたことが予想外だったのだろう。一杯食わされた屈辱から、奄美はその表情を歪ませている。

 

「何をしている! 裏切り者の狂犬どもなど、すぐにでも黙らせろ!!」

「ノ、ノブッ!!」

 

 しかし予想外の襲撃を受けながらも、奄美はすぐに新選組を制圧するようちびノブたちに号令を掛ける。

 奄美の命令に金色銀色のエリートなちびノブたちが、新選組に扮したちびノブたちへと反撃を開始していく。

 

「小癪な反逆者ノブ!! 許さないノッブ!!」

「御用ノッブ!! これは正義の戦いノブ!!」

 

 ちびノブ同士が争う姿は、一見すると緊張感が欠けるシュールな光景なのだが、実際に実弾が飛び交い、真剣で斬り合うそれはまさに『合戦』そのものであった。

 互いの力量や物量は、ほぼ互角だ。ちびノブ同士での戦いだけなら、どちらかに優劣が傾くことはなかっただろう。

 

 

 だが新選組には——その均衡を崩す『戦力』があった。

 

 

「——くそったれ!! あとできっちり説明してもらうからな!!」

 

 自分が何も知らされていなかった不満を、眼前のちびノブたちへとぶつけるように刀を振り下ろすのは、二番隊隊長・永倉新八。

 気合一閃、渾身の一撃にて振り下ろされた剣戟が炸裂し、ちびノブたちが爆発するよう吹き飛ばされていく。

 

「——はいはい、仕事が終わった後なら……いくらでも聞かせてやるよ!!」

 

 永倉の怒りにヘラヘラと生返事しながら、独特の歩法でちびノブたちの間をすり抜け、刀を振うのは、三番隊隊長・斎藤一。

 これといった流派もなく、型にも囚われない自由な剣。ちびノブ程度では到底見切れるものではない。

 

「——二人とも真面目にやってください。ここはもう……殺し合いの場ですよ」

 

 同僚二人に小言を漏らしながら、可愛らしい?ちびノブたちを躊躇なく斬り捨てていくのは、一番隊隊長・沖田総司。

 目にも止まらぬ速度、気づいたときには既にその剣が突き刺さっている。その技巧はまさに超人的、もはや剣術という枠組みからも外れた、剣の形をした『何か』である。

 

 

 腕の立つ剣客が揃った新選組においても、最強と謳われた三人の剣士たちだ。

 エリートだろうがなんだろうが、ちびノブたちでどうにか出来るような相手ではない。

 

 

「や、やばいノブ!! 増援を呼ぶノブ!!」

「グレートメカノッブ、出動ノブよ!!」

 

 これに危機感を抱いたちびノブたち。突出した戦力である隊長たちを抑えようと増援を呼ぶ。

 彼らの増援要請に応えるよう、今までどこに隠れていたのか、山中の森から巨大なノッブたちが姿を現す。

 

「——ノッブ!! 偉人内閣に反逆する愚か者どもめ、踏み潰してやるノッブ!!」

 

 それは全身を機械化され、ちびノブの中でもさらに巨大で、その上で金色に輝いているゴージャスでグレートなノッブであった。

 いかに新選組といえども、所詮はただの人間。その巨体を前にすれば踏み潰されて終わりだろうと、勝利を確信するちびノブたち。

 

「——邪魔だ!!」

「——ノ、ノッブ?」

 

 しかし、そんなちびノブたちの慢心も一瞬で終わる。

 一発の弾丸がグレートなメカノッブの脳天を撃ち貫く。撃たれたメカノッブは何が起きたか理解できないまま、仰向けに倒れ掛け——そこへさらに男が突撃して来る。

 

「死ねぇええええええええええ!!」

 

 彼の左手には火を吹いたばかりの火縄銃が、右手には一振りの日本刀。手にしたその日本刀をメカノッブへと突き刺し、引き抜いては袈裟斬りにて斬り捨てる。

 

「や、やられたぁあああああ……ノブ〜……」

 

 断末魔の悲鳴を上げながら、その巨体を沈めていくグレートメッカノッブ。

 その屍を踏むつけるよう——新選組副長・土方歳三が仁王立ちする。

 

「さあ……次はどいつだ!?」

 

 大物を仕留めたという余韻に浸る暇もなく、土方は次なる獲物を求めて視線を彷徨わせた。

 その様、まさに地獄の悪鬼の如く。

 

「も、もう駄目ノブ〜!!」

「これ以上は、手に負えないノブよ〜!!」

 

 その恐ろしげな形相、戦いの形勢が完全に不利と判断したのもあってか、金色銀色のエリートノッブたちは完全に戦意を喪失。

 蜘蛛の子を散らすよう、その場から逃げ出していくのであった。

 

 

 

「これで……あらかた片付いたかな……」

「任務完了ノブ!!」

 

 そうして邪魔なちびノブたちを全て退け、その場には新選組の主だった面々と、新選組に扮したちびノブたち。

 今回の作戦で囮の役割を果たした坂本龍馬と——彼という釣り餌に釣られ、まんまと誘き出された奄美幹事長だけが残された。

 

「ありがとう、土方さん……さてと、これでゆっくり話が出来ますね……奄美幹事長」

「…………」

 

 龍馬は作戦どおりに駆けつけてくれた土方率いる新選組に礼を述べつつ、そのまま奄美へと向き直る。

 誰一人味方がいなくなって完全に包囲される形となった奄美は、その顔から一才の表情が消えていた。焦りも憤りも感じられない、不気味なほど冷静である。

 

「土方歳三、鬼の副長か……その荒々しい戦いぶり、名のある戦国武将たちにも引けを取らぬが……解せんな……」

 

 奄美は土方たちの戦いぶりを称賛しつつ、彼らの行動が理解できないと頭を振るう。

 

「何故、キミたちが坂本龍馬に与する? 偉人内閣の下、その力をお国のために振るうことの何が不満だというのかね?」

 

 奄美は、新選組という組織を特に冷遇した覚えはない。寧ろイレギュラーで呼び出された彼らに警察的な役目を与えたりと、それなりに手厚く扱って来たつもりである。

 生前も、彼らはお上に命じられるまま、京都での治安活動などに従事していた筈。にもかかわらず、彼らは坂本龍馬の口車に乗って偉人内閣と敵対する道を選んだ。

 

 彼らがいったい何を考えているのか、奄美の脳裏には疑問しかない。

 

「勘違いするんじゃねぇ!! 俺に命令出来るのは、俺だけだ……!!」

 

 奄美の疑問に対し、土方歳三は堂々と答える。

 

「幕府だろうが、偉人内閣だろうが関係あるかよ!! そこが戦場であれ、地獄であれ……俺のやることに変わりはねぇ!! 俺は俺の『誠』を貫く!! 俺が新選組だ!! 俺がいる限り、新選組は終わらねぇ!!」

 

 別に土方は偉人内閣の命令だからといって新選組を率いて、役目を果たしていたわけではない。

 彼は自分が『新選組』だから、自分が正しいとする新選組の『誠』を貫くため、そのためだけにひたすら戦い続ける男なのである。

 果たして生前からそうだったのか、一度死んだことでそのような狂気染みた思考を抱くようになったのか、それはきっと誰にも理解出来ないことだろう。

 

「……森家の小僧並に話の通じない奴だな。所詮は血に飢えた、ただの人斬り集団か……」

 

 実際、土方の狂気染みた思考を意味不明だと、奄美はあからさまな侮蔑を吐き捨てる。

 

「ああん!? 何も知らねぇ野郎が、新選組を馬鹿にするんじゃねぇよ!!」

「まっ……そもそも、偉人内閣ってのが発足から怪しい組織だからね……」

 

 そんな奄美の発言に対し、永倉は新選組を悪く言われたことに腹を立て、斎藤などは偉人内閣という組織そのものの信憑性を疑うような言葉を返す。

 確かに現状、偉人内閣は国民にも広く受け入れられているが——その根底が『独裁政権』である限り、いつ何時どのような形で暴走するかは誰にも予想出来ない。

 彼らが土方に黙って従うのも、偉人内閣が本当に信の置ける相手かどうか、図りかねているからというのもあるだろう。

 

「まあ、私は別に主義主張とかないんですけどね。ただ……あの信長、彼女が総理大臣なのがちょっと納得いかないと言うか……」

 

 これといって政治的な主張を持たないという、沖田総司からも批判的な言葉が飛び出る。

 彼女の場合、この国のトップとなる相手が『織田信長』であることが、何故か気に入らないという極めて個人的な意見であったが——。

 

 

「——信長公を批判するか!! 小間使いの人斬り風情が……!!」

 

 

 瞬間、明らかに奄美の纏う空気が変わった。

 沖田が織田信長に対して否定的な発言をした、ただそれだけで奄美は感情を爆発させ——強硬手段へと打って出る。

 

「ああん……なんだっ!? っ……!?」

「か、からだが……重っ!?」

  

 刹那、奄美を取り囲んでいた新選組の隊長たち——永倉や斉藤たちの体が、突如として地に沈む。

 

「な、何が……こふっ!?」

「ぬううううう!?」

 

 沖田や土方にも同じような異変が起きる。

 沖田など口から吐血したりと、生前病弱だったことを思い出させる被害を受けている。

 その一方で、土方などは持ち前の気合いでなんとか踏みとどまっているようだ、その場から動けないのは他と変わらない様子だ。

 

「みんな、どうし……っ!!」

「ノブッ!! みんなどうしたノブ!?」

 

 当然のように、坂本龍馬にも『体が重くなる』という異変が襲いかかる。

 ちびノブたちは例外のようだが、隊長たちが全員動けなくなってしまう光景に、成す術もなく狼狽てしまう。

 

「いったい誰のおかげで、地獄から蘇ることが出来たのか、まさか失念していたわけではあるまい?」

 

 異変の正体は、奄美幹事長であった。

 彼が龍馬たちに向かって手を翳しながら、呪文を唱える。それだけで、彼らは見えない何かに押し潰されるよう、動けなくなってしまったのだ。

 

「あの大蛇に反魂の術の制御を一部乗っ取られたとはいえ、主導権は未だに私が握っている。その気になればキミたちの動きを封じることも、地獄に送り還すことも出来るのだよ……このようになっ!!」

 

 奄美は——反魂の術の術者であり、偉人内閣を立ち上げた張本人だ。

 ならばこそ、地獄から蘇らせた偉人たちなどどのようにでも扱うことができると、その事実を見せつけるかのように力を行使した。

 彼がより一層、手のひらに力を込めて何かしらの呪文を唱えるや——。

 

「——ぐあああああ!?」

 

 その力の矛先を向けられた相手——永倉新八。

 彼の肉体が光を帯びながら、一瞬でその場から掻き消されてしまったのだ。

 

「永倉さんっ!?」

「……っ、馬鹿新八っ!?」

 

 新選組の仲間が消されるその光景に、その身を地に伏せながらも沖田や斎藤が声を上げる。

 彼らの叫びも虚しく、永倉新八が現世へと戻ってくることは二度となかったのである。

 

 

 

「さあ……次は誰が地獄へ還る? やはりキミかな……坂本龍馬!!」

 

 術者としての、自身の揺るぎない優位性を再確認したのか。地にひれ伏す一同を見下しながら、奄美は次なる標的として坂本龍馬に向かって手を翳そうとする。

 もはや大蛇の制御のために必要とか、偉人内閣において貴重な人材であるとか関係ない。逆上した奄美は、坂本龍馬をこの現世から消し去ってしまおうと力を行使しようとする。

 

「……っ!! ええ……当然、貴方が術者である以上……こういうことも出来るだろうと予想していましたよ……」

 

 龍馬は動きを封じられて苦悶に表情を歪めながらも、反魂の術の術者である彼がその気になれば自分たちを消し去ってしまえることすらも、考慮に入れていたと呟きを溢す。

 

「強がりを言うな、この状況で貴様らに出来ることなど……」

 

 それを単なる強がりと受け取り、奄美はいよいよ龍馬をこの世から退去させるために呪文を唱えようとする。

 

「ええ、口惜しいですが、ボクらには何も出来ません……だからこそ、是が非でも彼の協力が必要だった!」

「…………?」

 

 しかし、龍馬の目には強がりではない、何かを待つような期待が込められていた。

 この期に及んでどうしてそんな目が出来るのかと、疑問を抱く奄美だったが——。

 

 

「——リモコン下駄っ!!」

「——なんだとっ……!?」

 

 

 瞬間、まるで龍馬の期待に応えるかのよう——空中を自由自在に舞う、一組の下駄が奄美の身を弾き飛ばす。高速で飛来する下駄に大きく体勢を崩され、唱えられようとしていた呪文も中断を余儀なくされる。

 

「おっと……!! 沖田ちゃん、大丈夫?」

「ええ、なんとか……」

 

 それにより、術者の権限によって動きを封じ込められていた、新選組の面々も重圧感から解放されて自由を取り戻す。体が動くようになってすぐ、斎藤は沖田の体調を気遣ったりしている。

 

「おせぇぞ、山南……」

 

 土方歳三も、束縛から解放されてすぐ——そこにいるであろう人物へと愚痴を溢す。

 

「——済まない、土方くん……彼に事情を説明するのに少々手間取ってしまってね……」

 

 遅れてその場へと駆けつけてきたのは——新選組総長の山南敬助だ。

 生前、山南は新選組から無断で脱走したことを罪に問われ、土方たちから切腹を申し渡された。しかし二人の間にそのこと蒸し返すようなわだかまりはない。

 山南は新選組として自身の役目を果たすべく、別行動を取っていたのか——心強い援軍として『彼』を連れてきてくれたのだ。

 

 

「まさか……ゲゲゲの鬼太郎だと!?」

 

 

 その援軍の到来を予想していなかったのだろう、自身の邪魔をした相手が何者かを知ったことで奄美から困惑の声が響き渡る。

 

「…………」

 

 そう、奄美が術を行使しようとしたのを妨害したのは——鬼太郎が放ったリモコン下駄だ。

 偉人内閣に協力するかどうか迷っていた彼が、龍馬たちの窮地を救うべく駆け付けてくれたのである。

 

 

 

 

 

「まさか……坂本くんがここまで読んでいたとはのう……」

 

 鬼太郎と共にその場に来ることになった目玉おやじは、ここに自分たちがいる今の状況、その全てが——坂本龍馬の描いたシナリオ通りであることに戦慄していた。

 

 あの後、暴走するお竜を退けたところへ、突如として姿を現した新選組・山南敬助を前に鬼太郎たちの間に緊張感が走った。

 

『——坂本くん捕縛の件で、キミにも話があるのです……お付き合いいただけないでしょうか?』

 

 山南の言葉、聞きようによっては偉人内閣への反逆を企てた龍馬の協力者として、鬼太郎たちも一緒に取り締まる——そのように聞こえただろう。

 

『坂本くんに頼まれましてね、是が非でも……キミの協力を仰ぎたいのですが……』

『……!? それは、いったい……どういう意味でしょうか?』

 

 ところが続く言葉を聞くことで、新選組が鬼太郎を捕まえにきた訳ではないことが分かる。

 警戒心こそ緩めはしなかったが、鬼太郎は大人しく山南の話を聞くことにする。

 

 そうして、鬼太郎たちは龍馬と新選組が裏では手を組んでいたこと。

 龍馬が自分自身は捕まえさせることで黒幕——反魂の術を用い、偉人内閣を立ち上げたと思しき相手を誘き寄せるつもりであることを知らされる。

 

『私たち新選組は、万全を期してことに挑むつもりですが……万が一ということもあり得ます』

 

 そして、その作戦に鬼太郎も加わってくれればと、山南は彼に声を掛けたのだ。

 

『この国の行く末など、本来ならキミには関わり合いのないことでしょうが……どうか力を貸して頂けませんか?』

 

 しかしこれは人間たちの、今後の政権運営に関わるような話でもある。

 妖怪である鬼太郎がわざわざ首を突っ込みたがるようなことではないだろうと、鬼太郎の心情を汲み取って彼の自由意志を尊重する。

 

『どうする、鬼太郎よ?』

『鬼太郎……』

 

 一緒に話を聞かされていた目玉おやじと猫娘も、彼らに協力すべきか迷っている。

 鬼太郎もすぐには返事が出来ず、苦悶の表情で思案に耽ることとなった。

 

『…………協力しましょう。内閣が掲げる方針次第では、人間と妖怪との間でまた争いが起きるかもしれません……決して無関係ではいられない筈ですから……』

 

 散々迷った末、鬼太郎は彼らと——龍馬や新選組と協力することに決めた。

 

 確かに人間たちの政治問題など、鬼太郎が口を出すようなことではない。しかし鬼太郎も、他の妖怪たちも、この国の住人であることに変わりはない。

 この国で生きていく以上、決して無関係ではいられない。これはそういう問題なのだと——鬼太郎も覚悟を決めていくのであった。

 

 

 

「私たちがここに来ることも、全部アンタの思惑通りってわけか……」

 

 とはいえ、ここまでの流れが全て坂本龍馬のシナリオ通り。自分たちが彼の手のひらで踊らされていると知って面白い気はしないと。

 一応は坂本龍馬の援護に入った猫娘だが、彼へと向ける視線は決して好意的なものではない。

 

「いや、キミたちが来てくれるかどうかは本当に賭けだったさ……」

 

 しかし、坂本龍馬といえども鬼太郎たちが絶対に来てくれる確証があったわけではない。

 

「それに、あそこで以蔵さんが出てくるとは思わなかったし……正直、あのときは本当に驚いたよ」

 

 実際、龍馬の命を狙いに来た——岡田以蔵。

 幼馴染でもある彼の出現だけは龍馬にも読めなかったと、内心かなり困惑していたという。

 

「お竜さんの暴走も……出来れば止めてあげたかったしね……」

「!!」

 

 さらには大蛇——お竜があの場で暴れ出したことも、龍馬にとっては想定外の事態だった。

 

「お竜さんは……」

「無事、だとは思いますが…………」

「そうか……」

 

 当然、お竜が暴走の末にどうなったか、鬼太郎に尋ねる龍馬の顔には翳りがあった。

 鬼太郎も彼女の安否に関しては曖昧な言葉でしか答えられず、龍馬も今は深く追求しなかった。

 

 

 

「なるほど……流石は坂本龍馬。歪み合うもの同士を結束させるのは、お手のものといったところか……」

 

 龍馬と鬼太郎たちが言葉を交わしている光景、彼が妖怪とも協力関係を結んだという事実に、奄美は改めて坂本龍馬という人間の強みを理解する。

 薩摩と長州という犬猿の仲であった両者を引き合わせたように、人間と妖怪という種族の壁すらも取っ払い、皆をこの場に集結させた龍馬の手腕には感心するしかなかった。

 

「いやぁ、昔からこういった段取りは得意でしてね……さしずめ薩長同盟ならぬ、妖怪新選組土佐同盟といったところでしょうか……」

 

 龍馬自身も、それが自分の長所だと理解しているのか。

 少しばかり得意げな笑みを浮かべるが——すぐに表情を引き締め直し、改めて奄美に向かって問いを投げ掛ける。

 

「奄美幹事長……そろそろ聞かせてもらえますか? 貴方がいったい何者で、何を目的としてこんなことをしでかしたのか……」

「…………」

 

 奄美のことを怪しいと睨んでいた龍馬ではあったが、結局のところ彼が本当は『何者』で、いったい『何を目的』に偉人内閣などというもの立ち上げるため、信長たちを地獄から蘇らせたのか。

 そればかりは、何も分からないままなのだ。

 

「今更、だんまり決め込む理由もないっしょ? さっさと白状しなさいって」

「別に喋りたくなければそれでも構いませんよ? どうせ斬ることに変わりありませんし」

 

 斎藤などもそれが気にはなるようだが、沖田などは別にどちらでも構わないと。

 新選組でも意見は割れるようだが、とりあえず奄美の口から真相が語られることを期待する。

 

 

 

 

 

「——南光坊天海……そう呼ばれていた頃もあったか……」

「「「——!?」」」

 

 暫しの沈黙の後、奄美が遠い昔を懐かしむよう口にしたその名に何人かが目を見開く。

 

「南光坊じゃと? 確かその名は……」

 

 目玉おやじですらも聞き覚えのある名前に、その人物がどういった者だったのか記憶の糸を手繰り寄せる。

 

 

 南光坊(なんこうぼう)天海(てんかい)——天海僧正とも呼ばれる、天台宗(てんだいしゅう)の僧侶である。

 僧の身でありながら徳川家康に仕えていた彼は、江戸幕府の成立にも深く関わっているとされており、家康亡き後も、息子の秀忠、その息子の家光と。三代に渡って徳川家を支え、幕府の支配を磐石なものにしたという。

 

「なるほど……天海ほどの僧であれば、反魂の術……延命の術といったものを修めていても、それほど不思議ではないか……」

 

 天海という人物の逸話を思い返すことで、目玉おやじは奄美と名乗っていた男が今回の事件の首謀者であることに納得する。

 

 記録によれば、天海という男は齢百歳を越えて尚、宰相として権力の座に居座っていたとされる怪僧だ。

 僧として宗教政策に関わっていたことも当然だが、その裏では術者——『陰陽師』として怪しげな知識や術を用い、幕府を裏で支配していた、なんていう話まである。

 それほどの人物であれば現代まで生き永らえるようなことも、反魂の術で偉人たちを蘇らせるような芸当も可能だったのではないかと、確かな説得力が生まれる。

 

 

「なるほどね……江戸幕府を影から支配していたときのよう、今度は偉人内閣を裏から操って……この国の実権を握ろうって魂胆か……」

 

 そういった天海という偉人の人物像から、斎藤は彼が偉人内閣を設立した理由を——『自分が権力を握り、思い通りに政権を動かすため』だと予想する。

 反魂の術で偉人たちの生殺与奪を握れる彼であれば、偉人内閣の意向など思いのままに出来るだろうと考えたのだ。

 

「……影から操る? 私が? 信長公を? まさか……!!」

 

 ところが、斎藤のこの予想を奄美——南光坊天海は一笑に伏す。

 

「信長公こそ!! この国を滅亡の危機から立ち直らせることが出来る唯一無二の存在!! あのお方に仕える立場の私が、あの方を操るなど……そのようなこと、ある筈がないだろう!!」  

「何故……そこまで信長公にこだわるのですか? 貴方が天台宗の僧なら……寧ろ、信長公には恨みがあるのでは?」

 

 興奮した様子で織田信長を褒めたたえる天海に、龍馬は違和感を覚える。

 

 徳川家康に仕える以前、天海という人物がどこで何をしていたかについてはあまり知られていない。だが、彼が天台宗の僧であったのならば——『比叡山延暦寺の焼き討ち』で信長のことを憎んでいてもおかしくはない。

 なにせ、延暦寺は天台宗の総本山だ。実際、家康の下で天海は比叡山の復興に努め、見事にそれを成し遂げた。そもそも天海が家康に近づいたのも、比叡山延暦寺を再興するためだったと言われているくらいだ。

 

「恨みなどあろう筈があるまい!! 私の人生は全て……あの方のために捧げられたもの!! あの方を蘇らせ、再びあの方の治世を!! そのために私は徳川に取り入り、何百年と雌伏の時を過ごし続けたのだからなっ!!」

 

 だが天海はそれを否定する。

 彼が真に仕えたのは家康ではなく、信長だと。何百年と過ごして来た自身の生、その全てが織田信長のためにあったなどと、狂気的な笑みを浮かべている。

 

「な、なんなの……こいつ……」

「いやはや……これはなんとも……」

「…………」

 

 そんな天海の思惑をまるで理解出来ないと、龍馬以外のものたちからも困惑の声しか上がらない。

 

「いったい……貴方は……」

 

 龍馬は天海がどうしてそこまで織田信長にご執心なのか、いったい彼が本当は何者なのか——最後まで自力で辿り着くことは叶わなかった。

 

 未だに自分という存在を理解出来ない愚かなものたちに、天海——そう名乗っていた男が、自身の『真の名』を、その場にいる全員に堂々と告げていくこととなる。

 

 

 

「——天海という名も仮のもの!! 我が真名は……明智(あけち)光秀(みつひで)!!」

 

 

「——信長公のただ一人の理解者!! あの方に全てを捧げた……真の忠臣である!!」

 

 

 




人物紹介

 岡田以蔵
  坂本龍馬を出した以上、この人も出さなきゃと思い出演。
  幕末四大人斬りの一人、あの『るろ剣』の剣心のモデルともされる。
  ……というのは、作者の勘違い!! 正しくは河上彦斎だと、コメントがありましたので修正しておきます!!
  なんだか扱いがあれで退場しましたが……この後も出番があるのでご安心を。

 武市瑞山
  名前だけ登場、以蔵に暗殺の指示を出していた人。
  ぐだぐだ龍馬危機一髪において、最初は敵役だったけど、最後は立派な武士だった。
  実装されたら……切腹が宝具になるのだろうか?

 高千穂の大蛇
  お竜の正体、高千穂峰に縫い付けられていたまつろわぬ神の一柱。
  彼女の正体に関して、公式で明確な答えが提示されたわけではないです。
  本作でも肝心なところをぼかしつつ、それとなく活躍させていきたいと思います。

 南光坊天海
  奄美幹事長の正体? 
  その怪し過ぎる経歴から、色んな作品で様々なアレンジがされる偉人。
  『ぬら孫』でも現代まで延命してたし……反魂くらいできるっしょ!!
  尚、その真の正体に関しては次回で解説します!!
 
  
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