ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『ゲゲゲの謎』……とうとう地上波で放送されましたね。
本当にこれをノーカットで放送したフジテレビ……ついに腹を括ったか?
新たに入村した方々、本小説でもゲゲゲの謎要素を取り入れた、続編的なお話を書いておりますので、よかった探してみてください。

『私の愛した歴代ゲゲゲ』において、7月27日放送分で『泥田坊と命と大地』が放送されることが決定しました。
今回のお話は、そのお話の続編的な意味合いも含まれていますので、是非ともアニメの方も視聴してもらえればと思います。

今回で『天穂のサクナヒメ』とのクロスは堂々完結です!!
途中、色々と苦戦したところもありましたが、概ね予定通りに進められて良かったです。
サクナヒメは続編のアニメやゲームが制作発表されています。今から楽しみですね!!


天穂のサクナヒメ 其の③

「……虫が多いのう……」

「……えっ……虫が、なんですか?」

 

 すっかり身に染み付き始めた田んぼ仕事に精を出していた鬼太郎は、サクナヒメが唐突に何事かを呟いたために作業の手を止めた。

 現在時刻は真昼間。燦々と太陽が照りつけている炎天下でなら、泥田坊が出現してくる心配はなかったが、それ以上に深刻な問題があるとサクナヒメが難しい顔になる。

 

「虫の被害が多すぎると言っておるのだ。まだ出穂して間もないのに、こんなにも坪枯れの被害が多くては……この調子では最悪全滅もあり得るぞ……」

 

 サクナヒメの懸念。それは害虫による被害——『坪枯れ』が多いということであった。

 

 稲作における、最大の天敵は『虫』だと言っても過言ではない。その中でも特にウンカによる坪枯れは、いつの時代も米農家を悩ませてきた。

 それ故、防虫効果のある農薬などで対処するようになったわけだが、ウンカの中にはその手の殺虫剤にも抵抗性を持つ個体がいるため、それで一安心というわけにはいかない。

 

 どれだけ文明が進歩しようと終わらない、農家と害虫との戦い。

 それは既にサクナヒメにも分かりきっていたことではあるが、今回に限ってはそれ以上に気掛かりな点があるという。

 

「本来、坪枯れの被害が多くなるのはもう一、二ヶ月ほど先の話じゃ……今の時点でこれほど被害があって、それがさらに増えると考えると……」

「被害はより一層、夥しい数になるやもしれませんな……」

 

 そう、坪枯れの被害が多くなるのは収穫期の手前が常であるが、今はまだ穂が出始めてから間もなく、収穫などまだまだ先の話。

 にもかかわらず、現時点でそれなりの被害が発生してしまっているということは、今年はそれだけ虫の数が多いということ。

 もしもこのペースのままさらに虫が増殖し、坪枯れが増えるようなことになれば——考えるだけでも身の毛がよだつ被害になると、サクナヒメとタマ爺は今から不安を募らせているのだ。

 

「なんか、今年は例年に比べて虫の被害が多いって……ネットで騒がれてるみたいよ?」

「ほらなっ!! やっぱ薬だよ!! もっと強力な農薬を使うしかねぇって!!」

 

 これに猫娘がこの田んぼに限った話ではない、今年はどこも虫の被害が酷いらしいと、ネットからそのような情報を漁ってくる。

 ねずみ男などは、もはや品質にこだわってはいられない。虫など薬で根こそぎ駆除してしまおうと、農薬の使用を強く推奨する。

 

「それも一つの手かもしれんが……う〜む……」

 

 二人の話にサクナヒメも頭を悩ませる。

 どうやら今年は虫の被害がどこも酷いらしい。ならばその被害を出来るだけ抑えるためにも、農薬の使用に踏み切るのも一つの手なのかもしれない。

 しかし、副作用がキツめの農薬は出来るだけ使用したくないのか。薬品に頼る以外に方法はないものかと、暫し考え込むサクナヒメ。

 

「おおっ!! そうだ、あれがあったではないか!!」

 

 すると、なにか良いアイディアが思い浮かんだのだろう。

 サクナヒメは表情を綻ばせ、今し方思いついたそのアイディアを皆にも手伝ってもらおうと、鬼太郎たちへと声を掛けていくのであった。

 

「今宵、虫追いを行うぞ!! 準備してくるから、暫し田んぼの方は任せたぞ!!」

「……虫追い?」

 

 

 

 

 

 日が傾き、周囲一帯が薄暗い闇に包まれていく中。

 普段であれば仕事が終わり、皆が帰り支度を始める頃合いであったが、その日は大勢の人間、妖怪たちで夜の田んぼが賑わっていた。

 彼らの手には提灯や松明などが握られており、暗い田んぼが煌々とした明かりでぼんやりと照らされていく。

 

「これより虫追いを行う!! 手順は先ほど教えた通りじゃ!!」

「は、はぁ……ですが、本当にこれで?」

 

 彼らの先頭に立って指揮を取るのは、当然サクナヒメだ。

 彼女は田んぼに害を成す虫を追い払うため、今から『虫追い』なるものを行なっていくと宣言する。

 皆、それがどのようなものか簡単に教えられていたが、実際にどのような効果を発揮するのか。具体的なイメージが浮かばず、どこか戸惑い気味であった。

 

「それっ!! 太鼓を鳴らせ!! やるからには盛大に盛り上げてやらんとなっ!!」

「ぬりかべっ!!」

 

 だがそのような人々の困惑も気にせず、サクナヒメはさっそく虫追いを行おうと、開始の合図代わりだと太鼓を打ち鳴らすように指示を出していく。

 太鼓役に任命されたのはぬりかべ。彼はサクナヒメの指示通り、張り切って太鼓を打ち鳴らして音頭を取っていく。

 虫追いには五穀豊穣を願う『祭り』としての側面もある。一同はその太鼓のリズムに乗りながら行列を作っていき、田んぼの周囲を回っていく。

 

「全体〜、止まれ!!」

 

 暫くの間行進は続いたが、田んぼの水口に来たあたりでサクナヒメが止まれの合図を送る。

 そこでサクナヒメは自身が抱え込んでいた大きな壺を傾け、水田にその中身を少しづつ流し込んでいく。

 彼女が田んぼに流した黄色い粘液の正体——それは『油』だ。勿論、田んぼにも優しい植物性である。

 それを水の流れと共に田んぼへと浸透させていくことで、田の表面に油の膜が張られていく。

 

「よし!! これで準備は整った……行進再開じゃ!!」

 

 これでよしと、サクナヒメは再び行進を再開させ、田んぼの畦道を皆と回っていく。その際、松明を持ったものたちにはそれを稲の上で振り回すようにと指示を出していた。

 

 この松明は竹で作られており、先端には竹脂が詰められているため火を付けることで竹の燻られた匂いが煙と共に周囲へと充満していく。

 すると稲に取り付いていた害虫——ウンカが煙に燻し出されて稲から飛び出し、水田へと落ちていく。

 ウンカの体は水を弾くため、通常であればすぐにでも戻ってこれる。しかし今回は田面に油の膜が張っており、それが付着することで二度と飛び上がってこれないようになっていたのだ。

 

 これが『虫追い』だ。

 原始的な方法かもしれないが、確かに理に適っている。農薬などがなかった時代、米農家はこうした手法で害虫から稲を守ってきたのである。

 

「虫追い……なるほど、内容的には虫送りと似たようなもんじゃのう……」

「虫送りですか? それは、虫追いとは違うんでしょうか、父さん?」

 

 当初、サクナヒメの言う『虫追い』がどのようなものか分からなかった目玉おやじだが、実際に行われているのを目の当たりにすることで、それが自分の知識にもある『虫送り』であることを理解する。

 鬼太郎は虫追いと虫送り、この二つに違いがあるのかと尋ねた。

 

「虫送り、虫追いと呼ばれる行事は日本各地で昔から行われておったが……どちらとも、虫を追い払うということに変わりはなかろうて……」

 

 その質問には砂かけババアが答える。

 

 虫追い・虫送り。

 呼ばれ方、祭りとしての規模、やり方に細かい違いこそあれど、それが害虫を追い払うために行われる伝統的行事であることに変わりないとのことだ。

 

「確か、虫送りの始まりは……非業の死を遂げて怨霊となった武将の霊を鎮めるために行われるようになったという話じゃったが……」

 

 その際、目玉おやじは虫送りがとある武将——怨霊となった人間の霊を鎮めるために始まった、呪術的な側面がある儀式であることについても言及した。

 そのため、虫送りを行う際にはその人物に見立てた藁人形を担ぎ歩き、最後にはそれを燃やして炎や煙と共に災いを払う。そのような方法で豊作を願う地域もあるとのこと。

 

「なんという武将じゃったかのう……」

 

 しかしその人間が何という名で、どういう怨霊になったかという部分について思い出せないでいた。

 目玉おやじも歳ということだ。ド忘れしてしまうこともあるだろうと、そのときはより詳しく思い出そうとはしなかったが。

 

 

 まさかその怨霊が、今この瞬間にも近づいて来ているなどと夢にも思わなかったのだから——。

 

 

 

×

 

 

 

「ふぁあああ〜……今日もめんどくせぇ一日が始まるのか……はぁ……」

 

 虫追いを終えた、数日後の朝。

 田んぼの敷地内にひっそりと建てられたボロ小屋の中から、大きな欠伸をしながらねずみ男が顔を出した。

 米泥棒を働いたことで強制労働を強いられるようになった彼は、サクナヒメから提供されたそのボロ小屋を拠点に、毎日の田んぼ仕事に精を出すよう言いつけられていた。

 性に合わない野良仕事などさせられることに、ねずみ男自身は憂鬱な気分を隠そうともしない。

 

「おっと、こんなところに雑草が……」

 

 だが、体のほうはすっかりこの生活に慣れてしまったのか。雑草などを見つけるや、条件反射でそれを引っこ抜くのが癖になってしまっている。

 口ではなんだかんだ言いつつも、ねずみ男の体は健全な農家に生まれ変わろうとしていた。寧ろ、世間様に迷惑を掛けないためにもそうなってしまったほうが良いのだろう。

 

「さてと、とりあえず稲の様子を……ん?」

 

 健康的に早起きまでしたねずみ男は、もはや習慣のように稲の様子を見に行こうとする。

 だが、そのときに気付いてしまった。澄み渡った空、清々しいほどに晴れ渡った青空の向こう側から——あからさまに異常な『何か』がこちらへと近づいてくる光景に。

 

「なんだありゃ? 雨……いや、砂嵐か?」

 

 最初、ねずみ男はそれが気象現象の類かと思った。しかし自然的なものにしては、明らかに動きがおかしい。

 空一面を覆い尽くすように広がる黒い砂嵐のようなそれらは、確かに生物のような意思を持って蠢いていることが感じ取れたのだ。

 しかしそれが具体的になんであるか、遠目からではその詳細を確認することが出来ない。

 

「嫌な予感がするぜ……逃げるか? いや……とりあえず、鬼太郎の奴に……」

 

 ねずみ男の脳裏に逃げ出すという選択肢が浮かび上がるも、ここまで苦労して稲を育てて来たという自負もあってか。

 ただ無策に田んぼを放り出すことも出来ず、とりあえず鬼太郎に声を掛けることとなった。

 

 

 

「一反木綿……もう少し近づいてみてくれるか?」

「コットン承知!!」

 

 ねずみ男から伝えられた異変を確かめようと、鬼太郎は一反木綿に乗って空へと向かう。

 青空を覆い尽くす黒い砂嵐の正体が何か。まずはそれがなんであるか、確かめた上で適切に対処しようと考えたわけだが——。

 

「うわっ……! こ、これは虫?」

「こ、これは……ウンカの群れじゃ!!」

 

 砂嵐のような何かに到達するや、豪雨のように鬼太郎たちの体に当たってくるのは虫——ウンカの群れであった。目玉おやじがそれをウンカだとすぐに分かったのは、稲作仕事ですっかり見慣れたからだろう。

 

 だが、普段田んぼで見かけるのとは比較にならないほどの規模。何千、何万という途方もない数のウンカが一塊に群がっており、それが遠目からは砂嵐のように見えていたわけだ。

 

「い、一反木綿……一度距離を取ってくれ!!」

「こ、コットン承知!!」

 

 砂嵐のように視界を覆い尽くす虫たちの群れの中では呼吸すらも困難だ。鬼太郎は体勢を整えるためにも、ウンカの群れから距離を置くよう指示を出す。

 

「こいつら……真っ直ぐ田んぼの方に向かっとるばい!!」

「こんなものが到達したら……どんな被害になるか想像もつかんぞ!!」

 

 ウンカたちから距離を追いたが、鬼太郎たちを追いかけてくる様子はなく。虫の群れはただひたすら、真っ直ぐ田んぼを目指して飛んでいた。

 このウンカたちによって被るであろう田んぼへの被害を想像し——目玉おやじたちの顔面が蒼白になる。

 彼らも素人ながらに田んぼ仕事を頑張ってきた。それが台無しになりかねない危機を前にしては、とてもではないが心穏やかにはいられないだろう。

 

「サクナヒメに知らせましょう。少し、気になることもありますし……」

 

 鬼太郎も、とりあえずこの危機を彼女に——豊穣神たるサクナヒメに伝えようと。

 急ぎ田んぼへと引き返していく。

 

 

 

「——ウンカの群れじゃと!? 地上ではそんなものが出るのか!?」

 

 鬼太郎たちの報告を聞くや、サクナヒメが驚いたように声を上げる。

 天界でも稲作仕事をしている彼女も、そのような事態に直面することがほとんどないのだろう。降って湧いたような危機を前に、どうしてそのようなことが起きたのかと首を傾げる。

 

「それが……ただの虫の群れ、というわけでもないようです」

 

 ところが、ここで鬼太郎は自分が感じた違和感。あのウンカの群れと接触したことで分かった、とある事実をサクナヒメへと伝えていく。

 

「あの群れから……少なからず妖気を感じました。もしかしたら、あのウンカたちの動きには妖怪が関わっているのかもしれません」

 

 そう、ウンカの群れに接触したとき、鬼太郎の妖怪アンテナが僅かに反応を示したのだ。ウンカそのものにではなく、群全体に漂う残り香のような妖気。

 もとより稲に害を及ぼす害虫ではあるが、それ以上にあのウンカたちは何者かの意思によって蠢いている可能性があると。

 

「今年は虫の被害が多いって話……もしかしたら、それが原因かもしれないわね……」

「いずれにせよ、このまま指を咥えて見ているわけにもいくまいて……」

「せっかくここまで育てて来たんじゃ!! 虫なんぞに食い荒らされてたまるか!!」

「やったるばいよ!!」

「ぬりかべ!!」

 

 妖怪が絡んでいるともなれば、鬼太郎たちが出ないわけにはいかない。

 いや、たとえ妖怪の仕業でなかったとしても、大事に育ててきた稲を食い荒らされるのを黙って見ているわけにはいかないと。

 猫娘を始めとした妖怪たちも、あのウンカの群れを撃退しようと声を上げる。

 

「サ、サクナさん!! いったいどうすれば……」

「わ、私たちにも出来ることがあるなら言ってください!!」

 

 一度は泥田坊の出現で尻尾を巻いて逃げ出した人間たちも、ここまで稲を育ててきたことで責任感が芽生えたのか。

 ただの人間でしかない自分たちにも出来ることがあればと、田んぼの責任者たるサクナヒメにお伺いを立てていく。

 

「おひいさま……」

「うむ……皆、力を貸してくれるか?」

 

 妖怪と人間、そしてタマ爺が神であるサクナヒメに指示を求めていた。しかしそれは神様に全てを委ねようという甘えではない。

 神であるサクナヒメも、自分一人で全てを解決出来るなどと傲慢なことを口にはせず、皆の力を借りたいと願い出ていたのであった。

 

 

「皆で田を……米を守るのじゃ!!」

 

 

 

×

 

 

 

「それじゃ……いくばい〜!!」

「髪の毛針!!」

 

 一反木綿に乗った鬼太郎が、再びウンカの群れへと突っ込んでいく。

 今度は偵察などではない。ウンカたちをこれ以上田んぼへは近づけまいと、鬼太郎も闘志を激らせていた。

 弾丸のように飛ばされる髪の毛針は、何十という数のウンカたちを悉く撃ち落とす。

 

 だが——。

 

「むうぅ……やはりこの程度では焼け石に水か……」

 

 目玉おやじが小さく唸ったように、髪の毛針はウンカたちの一部を撃ち落としたが、群れの規模そのものにさしたる影響は与えなかった。

 ウンカたちは変わらず空を覆い尽くしており、心なしかさらにその数が増しているようにも感じられた。

 

「これならどうだ!? 体内電気!!」

 

 しかし鬼太郎は諦めず、今度は体内電気を広範囲に向かって放っていく。

 

「むむむ……先ほどよりは効果がありそうじゃが……」

 

 だがそれも、髪の毛針よりはマシというだけで群れそのものを蹴散らすにはいたらない。

 鬼太郎の多彩な能力を持ってしても、砂嵐のように空一面を覆い尽くす虫の群れを相手に効果的な手を打てないでいる。

 

「まだだ! もう一度……っ!?」

「わわっ!? こっち来おったばい!!」

 

 それでもなんとか食い止めなければと、鬼太郎は攻撃を続けようとしたのだが——次の瞬間、それまで田んぼを目指して飛んでいただけのウンカたちの一部が方向転換。ぶぅううんという耳障りな羽音を鳴らしながら、勢いよく鬼太郎や一反木綿へと群がってくる。

 どうやら、続け様の攻撃で鬼太郎たちを『外敵』と判断したようだ。ウンカたちそのものに戦闘力こそないが、無数の虫たちが体中に纏わりついてくる感覚は、鬼太郎ですらも怖気を感じずにはいられない。

 

「くっ……もう一度、体内電気でっ!!」

 

 鬼太郎は群がってくるウンカたちを、再び体内電気を放って追い払おうとした。

 

 ところが、鬼太郎が『雷』でウンカたちを迎撃しようとしたその矢先——ふいに『風』が巻き起こり、虫の大群が吹き飛ばされていく。

 

「なんじゃ!? 何が起きとるんじゃ!?」

「この竜巻……いったい……!?」

 

 巻き起こる旋風の正体は、突如として発生した小規模な竜巻であった。

 その発生源——地上へと鬼太郎たちが目を向けると、そこには一人の少女が立っていた。

 

「サクナヒメっ!?」

 

 そう、ウンカの群れを撃退すべく先行していた豊穣神・サクナヒメ。

 鬼太郎とは別行動を取っていた彼女は、地上からウンカの群れを迎撃すべくその力を振るっていく。

 

 

 

「——わしらが育てた稲を……米をお前たちに明け渡すわけにはいかぬのじゃ!!」

 

 サクナヒメは豊穣神として、五穀豊穣の実りを守るためその力を振るう。

 たとえそれで、ウンカという小さな命を殺生することになるとしても。そうしなければ人々が生きていけないというのであれば、そうすることに迷いなどない。

 そして彼女は『豊穣神』であると同時に、『武神』としての側面を実の父親から受け継いだ神でもある。

 

「受けてみよ!!」

 

 気合いを込めて叫ぶや、サクナヒメは青銅色の鍬——犬の姿から、星魂の農具へと戻ったタマ爺を頭上にて回転させ、その風圧を持って竜巻を作り上げた。

 

 これぞ——『旋風圏(せんぷうけん)』。

 小規模ながらも竜巻を発生させるそれは、広範囲に広がる敵を打ち払うのに最適な技であろう。

 

「そこじゃ!!」

 

 しかもそれだけには留まらず、サクナヒメは自らが起こした風の勢いに身を任せ、そのまま自分自身を遥か上空へと飛翔させた。

 そして懐に忍ばせていた稲刈り用の鎌を抜き放ち、一閃。目にも止まらぬ速度でウンカの群れに向かって高速移動、すれ違いざまに虫たちを切り捨てていく。

 

 これが——『飛燕(ひえん)』。

 燕のように飛翔し、すれ違いざまに敵を切り裂く。旋風圏のように広範囲ではないが、移動しながら攻撃できるのは大きな強みだろう。

 

 すると、そうした苛烈な攻撃にぶぅうううんと、ウンカたちが反撃の意思を示す。

 飛燕を放って隙だらけとなったサクナヒメに向かって、その動きを封じ込めようと一斉に群がってきたのだ。

 流石のサクナヒメも、無数のウンカたちに纏わりつかれては思うように動けないだろう——。

 

「雷よ!!」

 

 などと、そんな虫たちの妨害をものともしないサクナヒメ。

 自らの言の葉を具現化するよう、彼女は自身の体に雷を纏わせながら鍬を地面に向け、一気に急降下。地上に激突した衝撃波も加わり、彼女に群がっていたウンカたちが根こそぎ爆散していく。

 

 これこそ——『雷霆万鈞(らいていばんきん)』。

 サクナヒメが用いる技の中でも高威力を誇る一撃。まさに天から降り注ぐ雷そのものを想起させる迫力だった。

 

 

 これらの技こそが、『稲作殺法』と呼ばれるサクナヒメ独自の闘法である。

 サクナヒメは豊穣神として『稲を収穫するたびにその神力が増す』という特性があるのだが、それを『武力へと変換する』という武神としての側面も持ち合わせていた。

 

 これは豊穣神を母に持ち、武神を父に持ったサクナヒメだからこその特異性と言えるだろう。

 その力を惜しみなく発揮することで、サクナヒメはあらゆる災害から稲を——米を守ってくれるのである。

 

 

「すごい……」

「まさか、これほどとは……」

 

 そんなサクナヒメの実力を目の当たりにしたことで、鬼太郎や目玉おやじの口からも感嘆の声が溢れる。

 見た目が子供である鬼太郎にも言えることではあるが、童女姿のサクナヒメも外見通りではない強さを誇っていた。

 伊達に『神』を名乗ってはいない、改めてサクナヒメという存在に驚嘆する。

 

「まずい……突破されるぞ、鬼太郎!!」

「っ!? くっ……!!」

 

 しかし、そうした鬼太郎やサクナヒメの活躍を以ってしても、空を覆い尽くすウンカたちの群れ、その全てを撃退することは叶わず。

 なんとか維持していた防衛戦を突破され——とうとう虫の大群、その一部が田んぼへと到達する。

 

 

 

 田んぼへと到着した途端、ウンカたちは一斉に稲へと群がっていく。ウンカたちに殺到された稲は、瞬く間に全ての養分を吸われ枯れ果ててしまう。

 このままでは、数時間ともたず全ての稲が坪枯れで台無しにされてしまうだろう。当然、それを黙って見ていられないのは——人間も妖怪も同じ想いである。

 

「来たぞい!! 松明を掲げよ!!」

「よ、よ〜し……やってやるぞ!!」

「虫なんか、あっちいけ!!」

 

 子泣き爺が号令を掛けるや、人々が一斉に松明を掲げた。

 先日、虫追いを行った際にも使用した竹で出来たものだ。先端には竹脂が詰められており、火を付けることで辺り一体に煙が充満する。

 その煙に燻られて水田へと落ちていくウンカたち。当然、虫追いのときもそうだったように田面には油で膜を張っておいた。

 これで何割かのウンカを退治することが出来るだろう——それでも、群がる虫の勢いは止まらない。

 

「ちょっ……なんで俺んところばっかり来んだよ!?」

 

 ウンカたちの反撃。自分たちを害そうとするものへと群がっていくのだが、どういうわけかウンカの群れは、ねずみ男に集中的に狙いを定めてくる。

 彼が放つ独特の匂いにでも釣られたか。いずれにせよ、囮役として見事な働きぶりであった。

 

「それ、痺れ砂じゃ!!」

「いけぇえええ!!」

「え、えいっ!!」

 

 今度は砂かけババア指揮のもと、人々が砂を田んぼへと撒いていく。

 その砂は、砂かけババアが防虫対策で用意しておいた特製の痺れ砂だ。虫追いを行った後、それでも虫の被害が収まらなければ撒こうと思って用意していたもの。

 勿論、稲への健康被害がないことはあらかじめ確認済みである。

 

「お〜い!! こっちだ!! こっちにもっと人手をっ!!」

「急げっ!! あっちの方で坪枯れが……」

「ここは大丈夫だ!! 早く向こうの方に手を貸してやれ!!」

 

 鬼太郎やサクナヒメに比べれば力も弱い人間たちだが、皆で団結し、知恵を振り絞ることで田んぼを守り抜こうと奮闘していた。

 

「おい!! 俺にもその砂を寄越せ!!」

「黒須さん!? あんた、仕事はどうしたんだよ!?」

 

 その中には、この地と縁深い男——黒須の姿もあった。

 本当なら本業の建設業で忙しい彼がいることに、顔見知りから疑問の声が上がるが。

 

「サボった!! クビになっちまうかもしれねぇが……仕方ねぇよな!!」

 

 既に社長ではなく、ただの雇われの身であるというのに。仕事をすっぽかしてまでこの地の危機に駆けつけてくれたのである。

 かつては、この地から稲作の可能性を奪おうとしていた彼が、今度は豊作の実りを守るために戦っている。

 

 

『————』

 

 

 そんな黒須の、人々の戦う姿に未だに顔を出すたびに恨み言吐き続ける泥田坊が何を思うか。

 それはきっと、当人にしか預かり知らぬことだろう。

 

 

 

 

 

「鬼太郎!!」

「猫娘!! 田んぼの方は!?」

「なんとか守りきれてるわ!! この調子なら……!!」

 

 ウンカたちを最前線で撃退し続ける鬼太郎たちの下に、猫娘が駆けつけてくる。

 彼女は田んぼで人々が懸命に抗い、ウンカたちの被害をなんとか抑え込んでいる戦況を伝えに来たようだ。

 

「そうか!! なかなか手こずらされたが、ようやくウンカどもが目に見えて減り始めたぞ!!」

 

 その吉報にサクナヒメも表情を明るくする。

 彼女たちの方も、ひたすらにウンカの撃退を続けていたことで空一面を覆い尽くしていた虫たちの大群がようやく減り始めたと。

 この調子でいけば、いずれはウンカたちを追い払うことが出来る。この危機を乗り越えられるだろうという、希望の兆しが見え始めていた。

 

 

 まさに、その刹那。

 それは、絶望と共に鬼太郎たちの元へと飛来する。

 

 

『——キシャアアアアアアアアアアア!!』

「——な、なんねぇええ!? こんバケモンは!?」

 

 獣のような唸り声と共に彼方の空から飛翔してきたのは——巨大な怪虫。

 ウンカをそのまま大きくしたような、明らかに常軌を逸した怪物の登場に一反木綿から何事かと悲鳴が上がる。

 

「!? これは……この妖気はっ!!」

 

 そのとき、鬼太郎の妖怪アンテナにも激しく反応があった。

 先ほどもウンカの群れから多少の妖気を感じられたが、それと同種の妖気が——その巨大な怪虫から放たれていたのである。

 

「そうかこいつが……ウンカを操って……!!」

 

 そのことから、鬼太郎は事態を察した。

 

 目の前に立ち塞がるこの巨大な怪虫こそが、今回異常に大量発生したウンカたちの親玉。

 日本全国で急速に拡大する害虫による稲の被害、その全ての元凶に違いないと。

 

 

 

×

 

 

 

『——キシャアアアアアアアア!!』

 

 鬼太郎たちの前に姿を現した巨大な妖虫。

 この脅威を退けなければ、いくらウンカたちを倒し続けても意味はないと。それを証明するかのよう、その唸り声に呼応してウンカの群れがその勢いを増していく。

 

「こやつ……もしや実盛虫では!?」

 

 眼前の怪虫に対し、もしやと目玉おやじがその名を叫ぶ。

 

 

 実盛虫。非業の死を遂げたとされる武将——斎藤実盛の怨霊。

 稲の切り株に足元を掬われたせいで死んだとされる将は、その経緯から稲そのものを憎むようになり、ついには稲の天敵たる害虫となって全ての米農家の脅威と成り果てたのである。

 虫追いや虫送りといった行事は、その実盛の霊を鎮める。あるいは追い払うために始まったとされると。

 本物の実盛虫を目の当たりにすることで、目玉おやじはそのことを思い出していた。

 

 

「そうか、こやつが……なんとも不憫な死に方をしたものじゃが……それはそれ!!」

 

 斎藤実盛の逸話を聞かされ、サクナヒメも僅かだが実盛虫に同情を抱く。しかし、だからといって稲を害することが許されるわけもなく。

 

「お主の無念は理解したが……それでも、この場は退いてもらうぞ!!」

 

 自分たちの育てた稲を守るため、サクナヒメは実盛虫を撃退しようと全力で鍬を振り下ろしていく。

 

『キシャアアアアア!!」

「な、なんじゃと……うおおっ!?」

 

 だが、サクナヒメの一撃は虚しく空を切った。

 実盛虫はその巨体に似合わぬ速度でサクナヒメの一撃を回避し、隙だらけとなった彼女に向かって体当たりをかましてきた。

 実盛虫の巨大な質量から繰り出されるぶちかましに、小さな体のサクナヒメが遥か後方へと吹っ飛ばされてしまった。

 

「サクナヒメっ!?」

「私に任せて!! 鬼太郎はあいつを止めてっ!!」

 

 吹っ飛ばされたサクナヒメの安否を気遣う鬼太郎。しかし彼女のことは猫娘が面倒を見ると、鬼太郎に実盛虫に集中するように言う。

 

「……っ!! 一反木綿、頼む!!」

「任せんしゃい!! スピード勝負なら負けんばい!!」

 

 猫娘の言葉に鬼太郎も今は実盛虫を阻止するのが先決だと。一反木綿に乗り込み、急ぎ実盛虫の後を追いかけていく。

 

 

 

『ブシャアアアアアアアア!!』

 

 サクナヒメを吹き飛ばしたすぐ後にも、実盛虫は大空へと飛翔し、真っ直ぐ田んぼへと突き進んでいった。

 するとそれに付き従うよう、周囲にウンカの群れが展開し始める。先ほどかなりの数が鬼太郎たちによって減らされたが、いつの間にか減った分を補うよう、どこからともなくウンカたちが湧いて出てくる。

 

「やっぱり……倒すしかないのか!!」

 

 その光景を前に、やはりあの怪虫を倒さぬ限りこの騒動に終わりはないと。一反木綿と共に実盛虫を追いかけながら、鬼太郎は改めて覚悟を決める。

 

「指鉄砲!!」

 

 その指先に妖気を集中し、その巨体を撃ち抜こうと指鉄砲で後方から実盛虫を狙い撃つ。

 

『シャアアアアア!!』

 

 ところが、まるで後ろに目でも付いているかのよう、実盛虫は指鉄砲を悠々と回避した。それどころか瞬時に反転し、一気に鬼太郎との距離を詰めて襲い掛かってくる。

 

「うわっと!! あ、危なか……って、わぷ!?」

 

 実盛虫の急接近をなんとか寸前のところで避けた一反木綿だったが、間髪入れずにウンカの群れが鬼太郎たちへと纏わりつき、その動きを妨害してくる。

 

「っ……体内電気!!」 

 

 纏わりついてくるウンカを体内電気で追い払う鬼太郎であったが、電撃を放ち終えたタイミングを見計らうよう、再び実盛虫が突撃してくる。

 

『ブシュウウウウウウウウ!!』

「……こ、これは……!?」

「ちょっ……ちょっと待たんとね!?」

 

 巨体で力任せに攻めてくる実盛虫に、払っても払ってもわらわらと群がってくるウンカの群れ。まるで攻め方の違う両者が、連携するかのような波状攻撃で鬼太郎を翻弄していく。 

 とてもではないが逆転の一手など打てる暇もなく、荒れ狂う猛攻を耐え忍ぶので精一杯な鬼太郎たち。

 

「いかん!! 鬼太郎、田んぼがすぐ近くまで……!!」

 

 そんなギリギリの空中戦を繰り広げている間にも、実盛虫は目的地を目指していたのだろう。

 気が付けば田んぼが目と鼻の先、すぐ眼下にまで迫っていた。

 

『キシャアアアアアアアア!!』

 

 田んぼを視界に捉えた瞬間、恨みがこもったような唸り声を上げながら、実盛虫は鬼太郎そっちのけで稲に向かって突撃していく。

 

「ま、待てっ……うわあ!?」

「もう〜!! いい加減しつこかねぇええ!?」

 

 慌てて追いかけようとする鬼太郎たちであったが、ウンカの群れがかつてない規模で彼らへと群がり、その進路を塞いでしまう。

 

『フシュウウウウウウウ!!』

 

 ウンカたちが鬼太郎たちの動きを封じている間にも、ついに実盛虫本体が稲が青々と生い茂る田んぼへと降り立ってしまった。

 

 

 

「よし!! この調子ならなんとか……って、なんじゃありゃ!?」

「で、デカすぎんだろ!?」

 

 そのとき、田んぼでは稲を守ろうとするものたちと、ウンカたちとの攻防が続いていた。

 人と妖。一致団結することで虫たちの猛攻を凌いでいた彼らはあと少し、もう少し耐え抜けばきっとこの地を守り抜けると、そのように信じて疑わなかった。

 

 しかし、そこへ巨大な怪虫——実盛虫が降り立ったことで状況が一変する。

 

『キシャアアアアアアアアアア!!』

「うわあああああ!? も、もう……だ、だめだ……!!」

「ひえぇえええええ……お助けぇええええ!!」

 

 常軌を逸した化け物の、獣の如き咆哮。

 これには、田んぼを守ろうと張り切っていた人々も逃げるしかない。いくらなんでも、普通の人間にあんな巨大なもの相手に立ち向かえというのが無茶な話である。

 

「おのれぇええ!! 痺れ砂!!」

「おぎゃ!! おぎゃ!!」

「ぬりかべ!!」

 

 それでも田んぼに残っていた妖怪たち、砂かけババアや子泣き爺、ぬりかべといった面々が最後の防波堤として実盛虫へと立ち向かっていく。

 

『ブシャアアアアアアアアアア!!』

「ぬおおっ!?」

「ふぎゃっ!?」

「ぬ、ぬりかべ~……」

 

 だが、砂かけババアたちの猛攻は実盛虫と、その取り巻きであるウンカの群れによって悉く蹴散らされてしまう。

 

『フシュウウウウウウウウ……』

 

 そうして、全ての邪魔者を排除し終えるや、実盛虫はストローのような針を口から伸ばし、それを地面に向かって突き刺した。

 

 通常のウンカも稲に口針を突き刺してその養分を吸い上げるが、実盛虫は土地そのものから

養分を吸い上げるつもりなのか。

 大地が乾き、あれだけ青々と生い茂っていた稲らが立ちどころに枯れ始めていく。

 

 そのままの勢いで養分を吸い上げられてしまえば、きっと三十分と経たないうちに稲はおろか、大地がそのものが死滅し、二度と稲作など出来ない土地になってしまうだろう。

 

「ちくしょう……!! ここまで来て……!!」

 

 そんな大地が死に瀕する光景を、人間たちの中で最後まで逃げずにその場で踏み止まっていた男——黒須が、もどかしいと思いながらも見ているしか出来ないでいる。

 

 頼みの綱の鬼太郎やサクナヒメもやられてしまったのか、戻って来る様子はない。

 もはや誰一人、実盛虫の凶行を止められるものなど、この地に残っては——。

 

 

『——田を返せぇ……』

 

 

 いや、残っていた。

 この地を守らんとする意思が、最後の砦となって実盛虫の前に立ち塞がる。

 

『——田を……返せぇええええええ!!」

「——泥田坊っ!?」

 

 それこそ泥の巨人・泥田坊だ。

 まさかのタイミングで姿を現した、父の仇に黒須の顔が驚愕に包まれる。

 

 相変わらずその口から吐かれるのは恨み言ばかり。外敵を力づくで排除しようとする、そのやり方も何一つ変わってはいない。

 

『——田を……田を返せぇえええええええええ!!』

『——キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 しかし今回、泥田坊が『敵』と認識した実盛虫は、まさに全ての米農家の怨敵と言っても過言ではない、凶悪な妖虫である。

 であるならば、泥田坊がこの地を守るために姿を現すのは当然であり、実盛虫とぶつかり合うことになったのは必然の流れであった。

 

『田を……田を返せぇ……田を……』

 

 だがその巨体で実盛虫に組み付く泥田坊だったが、すぐにでもその体に異変が起きる。

 本来、泥田坊が地上に出てこれるのは雨などが降っている湿気の多いときだけだ。そうでないと泥の体を維持することが出来ず、最悪消滅してしまうからだ。

 にもかかわらず、泥田坊は雲一つない晴れ空の下にその姿を現した。

 

「よ、よせ!! 泥田坊!! こんな炎天下の中じゃ……オメェの体がモタねぇぞ!?」

『田を……返せぇえ……』

 

 黒須がその身を案じて叫ぶように、泥田坊の体が見る見るうちに乾燥していき、ボロボロと崩れ始めていく。湿気もないのに無理をして出てきた反動だろう。

 実際、去年に泥田坊と敵対した黒須も、似たような方法で泥田坊を撃退したことがある。

 あのときは四方から強烈なライトを浴びせ、擬似的に炎天下のような状況を作り出していたが、今回は本物の太陽が照り付けている中なのだから、過酷さはあのときの比ではない。

 

『田を返せぇええ……』

 

 その口から吐き出される恨み言も、段々と弱々しいものになっていく。

 

『シャアアアアアアアアア!!』

 

 急速に力を失っていく泥田坊の隙を、実盛虫が見逃す筈もなく。

 当初は拮抗していた力比べを、あっという間に覆して泥田坊を劣勢へと追い込んでいく。

 

 もはや、泥田坊が敗北するのは時間の問題だ。

 またもそのような形で倒されるようなことになれば、泥田坊がその憎しみをさらに増大させることになっても仕方がないと、そう思われた。

 

 

『——田を……田を……守る……』

「——!?」

 

 

 瞬間、今にも消え入りそうな声で確かに聞こえてきたのは、田んぼを『返せ』ではなく『守る』という言葉だった。

 今際の際、泥田坊はついに自分以外のものが育て上げた『田んぼ』の存在を認め、それを守ろうとする憎しみ以外の意思で力を振り絞ったのである。

 

「泥田坊……お前……」

 

 泥田坊の内なる変化に、かの妖怪を一時は憎んでいた黒須の心にも熱いものが宿る。

 

『——キシャアアアアアアアアアア!!』

 

 だが、そんな泥田坊や黒須の思いなど、実盛虫という稲への憎悪に燃えたぎる怪物には何ら関係がない。

 次の瞬間にも、憎しみのままに暴れ狂う実盛虫の手によって、憎しみを捨て去ろうとした泥田坊の体が——無惨にも粉々に打ち砕かれてしまった。

 

『田を……田を……』

「泥田坊!!」

 

 その光景に一度は泥田坊を倒し、してやったりと笑みを浮かべたこともあった黒須の目頭にさえ、熱いものが込み上げてくる。

 

 そんな、泥田坊が自らの身を盾に稼いだ瞬きの間。

 それは、ほんの僅かな時間稼ぎに過ぎなかったが——決して無駄ではなかった。

 

 

「——霊毛ちゃんちゃんこぉおおおおおおお!!」

 

 

 ウンカの群れを振り払ってようやく救援へと駆けつけてきた、ゲゲゲの鬼太郎。

 一反木綿の最高速の勢いに全体重を乗せ、霊毛ちゃんちゃんこを腕に巻き付けた怒りの鉄拳にて実盛虫を思いっきりぶん殴る。

 

『ブシャアアアアアアアア!?』

 

 鬼太郎の完全に意表を突いた一撃が、実盛虫の巨体を殴り飛ばしていく。しかしまだまだ肉体の方は無事であり、このくらいのダメージであればすぐにでも起き上がってしまうだろう。

 

「——ニャアアアアアア!!」

 

 すると、そこへ猫娘が化け猫としての闘争本能を剥き出しに、爪を伸ばして参上する。

 ただし、彼女がその爪で切り裂いたのは実盛虫ではなく——その手に持っていた『大きな壺』であった。彼女は実盛虫の頭上へと壺を放り投げ、それを真っ二つに引き裂く。

 

 すると壺の中からその中身が溢れ出し、実盛虫の全身に『黄色い液体』が纏わりつく。

 その液体の正体は——虫追いでサクナヒメが使用していた『油』である。

 

 羽を広げて飛びあがろうとした実盛虫は、ベタベタと纏わりつくその油のせいで思うように体を動かすことが出来ないでいた。

 

「——サクナヒメ!!」

 

 そうして、一時的に動きを封じこめることに成功した実盛虫にトドメを刺すべく、猫娘はその策を授けてくれた相手——サクナヒメの名を呼ぶ。

 

「猫娘とやら、礼を言うぞ……!!」

 

 猫娘の活躍、自分を助け起こしてくれたことも含め、手短に礼を述べるサクナヒメ。

 一時は実盛虫にしてやられた彼女だが、体の方はピンピンしており、寧ろより神としての輝きを増大させるかのよう——その身に力を溜め込んでいた。

 

「実盛虫、無念の死を遂げし武者の亡霊よ!! 今一度、深き眠りにつくがよい!!」

 

 サクナヒメは実盛虫への手向けの言葉を送り、その憎しみの生を終わらせるべく必殺の一撃を解き放つ。

 

 その技の名こそ——『登鯉(のぼりごい)』。

 立ち昇る力の奔流を一気に解き放つ大技。神気が込められた青き砲弾の如き塊が、まるで滝を登らんと水中を跳ね回る鯉たちのよう、勢いよく実盛虫へと向かっていく。

 

『——キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?』

 

 そうして放たれた力の奔流が、実盛虫への致命的な一撃となった。

 怪虫は断末魔の悲鳴を上げながら、その巨体を大地へと横たわらせる。死に瀕した今も、視線の先には憎んで止まない稲穂が実っており、その眼に憎悪を激らせていたように思える。

 

『————』

 

 やがて肉体が消滅し、魂だけの存在となって実盛虫が長き眠りについていく。

 きっと再び肉体を取り戻すことになっても、実盛虫は変わらず稲を憎み続けるだろう。

 

 しかし今だけは、傷を癒さんとする間だけでも、全ての憎しみを忘れて穏やかに眠りにつけるよう、ただただ祈るばかりであった。

 

 

 

「何とか倒したな……」

「ええ……ですが、泥田坊が……」

 

 実盛虫を撃退したことで、かの妖怪の意思で操られたウンカたちも通常の状態へと戻り、逃げるようにどこぞへと飛び去っていく。

 

 だがサクナヒメも鬼太郎も、それを手放しで喜べるような心情ではなく。

 田んぼを守るためにその身を犠牲にした妖怪——泥田坊への申し訳なさで胸がいっぱいだった。

 

「…………雨、降ってくれねぇか……」

 

 もしかしたら、雨さえ降ってくれればまたひょっこり顔を出すのではと。一度それで痛い目に合ったこともある黒須が、複雑な表情で空を仰ぎ見る。

 

 残念ながら、空は憎らしいほどに晴れ渡っており。

 数日後になって、この地に豪雨が降りしきることになるのだが——それでも、泥田坊が姿を現すことはなかったのである。

 

 

 

×

 

 

 

 実盛虫との戦いを終えて、数ヶ月ほどの時間が流れた。

 あれからもウンカの被害があったり、激しい気象の変化に翻弄されたりと、様々な問題に直面しつつも、何とか稲を守り抜いていった。

 

 そうして、この地でもついに待ちに待ったそのとき——収穫のときを迎えることとなる。

 

「こうして見ると、やっぱ壮観だな!!」

「なぜだか分からないけど……涙が出てきそう……!!」

「実るほど、頭を垂れる稲穂かな……ってか!!」

 

 収穫期を迎えた田んぼを前に、人々は喜びを隠しきれない。

 彼らの眼前に広がるそれは、まさに黄金色に輝く大地。豊かな実りに育まれた田んぼ、風が吹くたびに稲穂が嬉しそうに揺れている。

 

 これほど美しい景色を作り上げたのが、自分たちだという達成感もあってか。

 多くの人間たちが歓喜の声を上げ、その豊作の実りに心からの感謝を抱く。

 

「…………」

「鬼太郎よ、そう気を落とすな……」

 

 一方で、人間たちと共に農業に従事してきた筈の鬼太郎の表情は暗く、落ち込む息子を励ます目玉おやじの言葉にもどこか翳りがあった。

 

「父さん、ボクはこの景色を……泥田坊にも見せてあげたかった……」

 

 目の前に広がる黄金原。それを鬼太郎は一度見たことがあった。

 夢か幻か、泥田坊と対峙したときに見せられたものだ。おそらくは泥田坊の心象風景、彼が農家としてこの地を苦労して開拓し、築き上げた光景だったのだろう。

 

 もしも泥田坊が今もここにいて、この景色を見れば——地縛霊の如くこの地に執着していた彼も、もしかしたら満足して成仏していたかもしれない。

 それが一番、誰にとっても納得のいく解決策だと、そう信じてここまでやってきたのだ。

 

「——見せてやれば良かろう」

 

 だが落ち込む鬼太郎とは対照的に、サクナヒメはケロリとしていた。

 彼女も泥田坊にこの光景を見せつけるため、彼の望みを叶えてやろうと豪語していた筈だ。それなのにどうしてこうも簡単に気持ちを切り替え、立ち直っているのだろうかと。

 鬼太郎としては、疑問を抱かざるを得なかったが——。

 

「あやつがいつ戻って来てもいいよう、これからも稲作は続けていけば良いのじゃ……」

「っ!!」

 

 サクナヒメが言わんとしていることを察し、鬼太郎が顔を上げる。

 

「左様。季節が巡ればまた一から稲を育てていかなければなりませぬ。稲作仕事に終わりなどないのですから……」

 

 タマ爺も言ってくれたように、この地での稲作仕事がこれで終わったわけではない。

 今年の収穫はこれで終わりかもしれないが、来年になれば再び田んぼを耕し、苗を植え、一から稲を育てていかなければならない。

 

 稲作は今年一回きりではない、これからも続いていく——続けていかなければならない。

 何度も、何度でも。米という糧を作り続けていく、それこそが『人が生きる』ということに繋がっていくのだろうと。

 

「そうか……そうでしたね……」

 

 サクナヒメたちの言葉に鬼太郎の表情も柔らかくなる。

 何十年後になるかも分からないが、泥田坊もいつかは肉体を取り戻してまた復活するだろう。そのときにでも、彼にこの景色を見せてやればいいのだ。

 

 ならばその日が来るまで、この地を田んぼとして存続させていく。

 それがこの地を所有すると主張し始めた人間たちの役割であり、それを見守っていくのが妖怪である鬼太郎の役目なのだろう。

 

 

 

 それから人員を総動員し、数日ほどの時間を掛けて田んぼの稲を全て収穫。刈り取った稲は稲架掛けをすることで乾かし、十分に干した後で脱穀作業へと。

 そういう様々な工程を経て——ようやく『米』として人々の食卓へと並んでいくのである。

 

「さあ!! 炊けたぞ!! 皆、食ってみるがよい!!」

 

 そうした稲作仕事に一通りの区切りを迎えたところ。サクナヒメの提案でちょっとした食事会が開かれることになった。

 時間的にも夕餉になるその席にて振る舞われることになったもの。それは当然——この地で取れた『新米』である。

 精米されたばかりのピカピカの新米を、釜戸でじっくりと炊き上げた。茶碗いっぱいに盛られた白米が、眩いほど艶やかな輝きを放っている。

 

「……て、そのまま食べるの?」

「味気ねぇな……せめて漬物くらい……」

 

 とはいえ、現代人にとって白米などそう珍しいものではない。自分たちが育てた米という感慨こそあれど、それで大きく味が違うなどとはとてもではないが思えない。

 

「良いから食べてみよ! まずは、米そのものの旨みを味わってみるが良い!!」

 

 しかしサクナヒメはつべこべ言わずに食ってみろと、まずは米だけを食べるように勧めてくる。

 

「それじゃあ……いただきます」

 

 正直、何かおかずが欲しいとも思ったが、言われたとおりに食べてみようと。鬼太郎は椀に盛られたお米へと箸を伸ばし、ゆっくりとそれを口の中へと運んでいく。

 

 

「…………!?」

「!! うっ……うっめけええええええ!?」

「美味しい……えっ? 美味しい!?」

「こ、これは……本当に……白米なのか?」

「いつも食べてるもんと、全然違うぞい!?」

 

 

 瞬間——鬼太郎を含め、その米を口にした全てのものが驚愕する。

 おかずもなしに食べるお米など、普段であれば物足りなさを感じるだろう。だがその新米は口に入れた瞬間にじんわりとした旨味と、甘味が口いっぱいに広がった。

 その味の広がりと、奥深さ。これが本当に『米』という食物なのかと、そのような疑問を抱いてしまうほどに美味なるものであったのだ。

 

「そうじゃろう!! そうじゃろう!!」

 

 そんな一同の反応を見たサクナヒメは、とても満足げな表情で頷いた。

 

「こいつは天穂といって、天界でも評判な銘柄でのう!! まあ、美味いのは当然のことよ!!」

 

 この米の銘柄は『天穂(あまほほ)』というらしい。

 サクナヒメが天界でも育てている名産米であり、今回はその種籾を分けてくれたということだ。

 

「じゃが、わしらが天界でも作っとる天穂はもっと美味いぞ!! まあ、一年目の田んぼということを考えれば、上出来の方じゃがな……」

 

 もっとも、サクナヒメは自分たちが普段作っている天穂に比べればまだまだ劣ると。この地の米作りに改善の余地があることを厳しく指摘する。

 

「来年は、さらに良い米が出来るよう精進せよ……わしの手を借りずともな……」

「さ、サクナさん……行ってしまうんですか!?」

 

 その際、サクナヒメの口から何気なく呟かれた言葉に、天穂の味わいに感動していた人間たちの間で動揺が走る。

 

 そう、サクナヒメが主神たるカムヒツキから受けた勅命は——『この国の人々に米作りの何たるかを教え広める』こと。

 その教えを広めるためにも、いつまでも一つの土地に留まっているわけにはいかない。

 

「この地でわしに出来ることは全てやり終えた……あとはお主たち人の子の手で、ここをより良き田へと成長させていけば良い……」

 

 米作りのノウハウは一通り伝え終えた今、サクナヒメはこの地での使命を終えたと——次なる地へと旅立つことを決めたのである。

 

「サクナヒメ……色々とお世話になりました……」

 

 鬼太郎も、サクナヒメを引き留めようなどとは思わなかった。

 これまで世話になったことへの礼を述べ、彼女の旅立ちを静かに見送ると決めた。

 

「うむ、わしのほうこそ世話になった……またいずれ会うことになるかもしれんが……」

 

 サクナヒメの方も、鬼太郎たちには世話になったと。

 天界に帰るわけではないため、もしかしたらひょんなことで顔を合わせるかもしれないと。再会の予感を匂わせつつも、とりあえず今回はこれでお別れだと。

 

「では、またのう……!!」

 

 名残惜しさなど感じさせない、太陽のように眩い笑顔でその地を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……父さん? いったい何を探しているんでしょうか?」

「確か……この辺りにあった筈なんじゃがのう……」

 

 それから数日後。

 サクナヒメが立ち去り、鬼太郎たちも稲作仕事を手伝う必要がなくなったと、あの地を人間たちへと託した。

 そうして、ゲゲゲの森でいつもの日常を過ごしていた鬼太郎だったが——ふと、目玉おやじが何事を思い出し、彼らはゲゲゲの森の図書館へとやって来ていた。

 

 この図書館には、妖怪の歴史や伝承などに関する書物や資料が数多く保管されており、目玉おやじはその中の『とある一冊』に用があるようだった。

 

「目玉おやじよ!! もしかして、これじゃないか?」

 

 すると一緒に図書館内を捜索してくれていた砂かけババアが、目玉おやじが求めていたものを見つけてきたようだ。

 その手には一冊の本が握られており、それを目玉おやじが見やすいようにと広げていく。

 

「おおっ、これじゃ!! これじゃ!!」

 

 どうやらそれが目的のもので合っていたらしく、目玉おやじは本の中身をパラパラと捲っていく。

 

「これは……いったい何の本なんでしょうか?」

「随分と古い本だけど……」

 

 鬼太郎と猫娘はそれが何の本なのかと疑問を挟んだ。

 かなり埃を被っており、年代的にもそれなりに古い書物であることが窺い知れるが。

 

「これは、ある宣教師がこの国で過ごした日々を記録した本じゃ……」

 

 目玉おやじ曰く、その本はとある旅の『宣教師』が日本で過ごした日々を拙いながらも日本語で書き記した、所謂『旅行記』の類であるとのこと。

 無論、ただの旅行記であるのなら、わざわざこの図書館に納められる必要などなかっただろう。

 しかしその本は通常の旅行記とは異なり、その宣教師の『女性』が迷い込んだとされる不思議な世界について書かれた『幻想記』——物語としての側面が強いとされる不思議な本なのだ。

 

 

 書物の内容を簡潔にまとめると、以下のような内容になる。

 その本の著者とされる宣教師の女性は、ある日不思議な『橋』を渡ったことで、こことは違う不可思議な世界へと足を踏む入れることになった。

 そこは頂の世と呼ばれる、日の本の神々が住まう世界——つまりは『天界』だったというのだ。

 偶然、天上へと迷い込んだ人間が再び人界へ帰るには時間が掛かるとのことで、戻れる日が来るまでの間、彼女は自分と同様に迷い込んでしまった他の人間たちと共に、天界での日々を過ごすことになったというが。

 

「その宣教師たちと共に日々を過ごした神様の名が……サクナヒメというらしい」

「——!!」

 

 目玉おやじはその書物の登場人物として、サクナヒメという童女姿の神様が出てくるのを思い出し、それを確認するためにこの本を探していた。

 それを聞き、鬼太郎はその人物こそが——まさに自分たちと一緒に稲作をしたサクナヒメ本人だと思った。

 彼女自身、その昔人間たちと一緒に稲作をしていたようなことをそれとなく呟いていた。

 

「この本によれば、サクナヒメは主神であるカムヒツキを怒らせたことで……神々の都を追放されたとあるんじゃ……」

 

 サクナヒメが人間たちと共に稲作をすることになったきっかけは、彼女がカムヒツキの逆鱗に触れたことで都から追放されたからだという。

 そうして、追放された先——ヒノエ島という場所で、彼女は人間たちと共に米作りをすることになったわけだが。

 

「このヒノエ島というのがまた厄介な場所だったようでのう……随分と苦労してきたようじゃぞ?」

 

 そのヒノエ島は、別名『鬼島』と呼ばれていた。

 その名のとおり、獣鬼たちが頻繁に出現する危険な場所であり、そんなところで米作りなどしなければならないことに、サクナヒメ自身はかなり不平不満を溢していたという。

 

 だが、それでもサクナヒメは決して諦めず。

 幾度となく挫折しそうになりながらも、人の子らと手を取り合い、ヒノエの島を実り豊かな地へと盛り立てていったという。

 

「サクナヒメにも、色々あったんですね……」

 

 書物に書かれていること故、真偽のほどは確かではない。

 しかし本人と思しきサクナヒメと交流した後だからこそ、彼女がそれだけのことを成し遂げてきた神であるという説得力があった。

 寧ろ、追放処分を受けるような失態を仕出かしたことの方が想像できず、サクナヒメにもそういう駄目な部分があったんだなと、妙な親しみすら覚えた。

 

 

 

 さらにその書物によると、サクナヒメはヒノエ島の地下深くに巣くっていた八岐大蛇の分霊——『大禍(オオマガツ)大龍(オオミズチ)』という悪神を打ち倒したされている。

 

 この大龍という巨大な龍は、人々の怨嗟によって何度でも蘇るものとされており、当人も自身を『全ての人と神に仇を成すもの』と称し、怒りと憎しみのままこの世の全てを滅ぼそうと企んだという。

 

 しかし、サクナヒメは武神として真っ向から大龍を打ち倒した。

 さらには豊穣神としての力を以て、ヒノエ島を中心に天上の世界に豊穣の実りをもたらした。

 頂の世たる天界が豊かになることは、麓の世たる人界にもその豊が伝わり、人々が豊かになることに繋がる。

 

 サクナヒメがもたらした五穀豊穣の実りによって、人間たちの世界において長らく続いていた『戦国の時代』が終わりを迎えたというのだ。

 もしそれが本当なら、彼女は人知れずこの国を救っていたといっても過言ではないだろう。

 

 その功績は、敵として対峙した悪神・大禍大龍からも称賛されたという。

 かの龍は人間たちの恨みが集まって蘇る悪神だったが、サクナヒメのおかげでもう蘇るだけの恨みが集まることはないだろうと。

 

 静かに眠りにつけることを感謝するよう。

 悪神は最後、サクナヒメを以下のように讃えたという。

 

 

 

『この大龍の恨み雪ぎし、偉大なる人の神』と——。

 

 

 




人物紹介

 宣教師の女性
  数百年前、サクナヒメと共にヒノエ島で暮らしていた人間の一人。
  あえて名前は記しませんが、原作知ってる人なら誰だか丸分かり。
  人間の世界に戻った彼女は、多くの書物を執筆・出版したとされています。
  その中に、きっとサクナヒメのことを記した本もあったと思い、このようなラストにさせていただきました。

 大禍大龍
  原作ゲームにおけるラスボス。
  アニメだと幻覚を見せて騙し討ちをしようとしたりと、ちょっと姑息な感じがした。
  ゲーム版だと最後の最後にサクナヒメに色々と忠告していたりと、悪神だけどちゃんと神様してた。
  本小説では既に倒された存在ですが……わざわざ名前を出したのには一応の理由があります。


サクナヒメの必殺技
  ゲーム内で使用されるサクナヒメの技。
  個人間で好みなど分かれると思いますが、作者的にお気に入りの技をチョイスさせていただきました。


次回予告

「降り止まない雨……父さん、人間社会もそうですが、妖怪たちの間でも混乱が続いてます。
 この雨を晴らすために、ボクたちは何を……誰を犠牲にすべきなのでしょうか? 

 次回ーーゲゲゲの鬼太郎 『天気の子と天上の神々』 見えない世界の扉が開く」

次回のクロスオーバーは『天気の子』です。
ただしサブタイトルが付いているのは、単体のクロスではないということです。
詳しくは次回の前書きにも記しますが……これまでにはない感じで話を構築しようと思っています。

  
  
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