シングルバトルでは、リザードンをXにメガシンカさせてガチでバトったり。
ダブルバトルでは、ブイズパーティを作って遊んだりしてます。
今後のアップデートでどうなるかが楽しみです。
今回のクロスオーバーは『夏目友人帳』です。
妖怪ものといったらの定番で、リクエストしてくれた方も結構いたと思う。
2003年から読み切り版が掲載され、その後連載された原作漫画の方は、今現在も続いています。
アニメ版の一期が2008年に放送されて以降、定期的に何度かアニメ化がされ、今現在で七期まで放送されました。
単純に妖怪を倒す、という話ではなく。
妖怪たちとの出会いと別れを、切なくも温かく描いた作品です。
今回のお話では夏目友人帳側のキャラをメインに、鬼太郎側のゲストキャラがクロスしていくのでお楽しみに。
このゲストキャラに関しましては……人物紹介の方で詳しく紹介いたします。
「ちっきしょう〜!! なんだって上手くいかねぇんだろな……」
月明かりも乏しい夜、古びた小屋の中で真っ赤な顔をした妖怪——朱の盆が苛立たしそうに声を上げていた。
第二次妖怪大戦争以降、朱の盆は自決したぬらりひょんの意思を継ごうと、彼なりに出来ることをしてきたつもりである。
妖怪の復権という大義のため、同志となり得る妖怪たちを集めようとあちこちを駆けずり回り、人間たちに被害を与えようと様々な作戦を実行に移してきた。
しかし、朱の盆の立てた作戦はゲゲゲの鬼太郎という大きな壁に立ち塞がれて悉く失敗。それどころか、命令自体を効かない妖怪も多く、朱の盆は思うような立ち回りが出来ないでいた。
「——まあ、仕方なかろう。お前さんのやりようではな……」
そんな苛立ちを募らせる朱の盆に対し、囲炉裏を挟んで彼と対峙している老婆が苦言を呈する。
一見すると人間のように見えるが、その老婆の首と胴体にはそれぞれ『蛇』が巻き付いていた。
「なんだと、蛇骨婆!! この朱の盆様のやり方に、何か不満でもあるってのかよ!?」
朱の盆はその老婆・
蛇骨婆は、蛇を祀った場所『蛇塚』を守る番人として知られる妖怪だ。彼女が守る蛇塚には
「お前さんがどれだけ奴の……ぬらりひょんのやり方を真似たところで、所詮は猿真似に過ぎんということじゃよ」
蛇骨婆はぬらりひょんとも旧知の仲だ。
蛇塚を守るという使命があるため表舞台にこそ上がらなかったが、蛇骨婆はぬらりひょんの活動を陰ながらサポートしてきた同志の一人であった。
その縁もあってか、ぬらりひょんの意思を継ごうとする朱の盆の面倒を見てきたが——彼女から見ても、朱の盆が失敗続きなのは当然の帰結である。
「奴ならもっと上手く立ち回るじゃろうし……それ以前の問題として、お前さんからはぬらりひょんのようなカリスマも感じられんのじゃ」
朱の盆はぬらりひょんのやり方を見様見真似でやっているが、策謀家のぬらりひょんであれば、もっと上手く立ち回れていたであろうことは明白。
何より、ぬらりひょんには他の妖怪にはない——『カリスマ』があった。
あの不気味で得体の知れない、それでいて不思議と惹きつけられてしまう、怪しい魅力。
そのカリスマ性こそ、ぬらりひょんが『妖怪の総大将』などと呼ばれる所以でもある。
「お前さん、腕っぷしは強い方じゃがな……それだけでは妖怪を率いることなど出来んさ」
朱の盆は妖怪としての力ならそれなりだが、それだけでは誰も付いて来ないと。
ぬらりひょんのようには上手くいかないことは、初めから分かりきっていたことなのだ。
「だったら……だったらどうしろってんだよ!! ぬらりひょん様はもういないんだ……俺がやらずに、誰がやるってんだよ!!」
蛇骨婆から突きつけられる現実。自分ではぬらりひょんのようにはいかないという指摘に対し、朱の盆は声を荒げる。
ぬらりひょんの意思を継げるのは、誰よりもすぐ側で彼のやり方を見てきた自分だけ。その自負があるからこそ、諦めるわけにはいかないのだと。
「ふむ……妖怪どもを従えたいだけなら、やりようがないわけではないんじゃがのう……」
「ほ、ほんとか!? どうすりゃいいんだ!?」
朱の盆の必死な姿に感じ入るものがあったのか。少し思案した後、蛇骨婆はカリスマ性がなくとも『妖怪を従える術』ならあると口にした。
それがいかなる方法なのかと、朱の盆が食い気味に問い掛けていく。
「お前さん、友人帳……というものを知っとるか?」
「ゆう、じんちょう……? なんだそりゃ?」
開口一番、蛇骨婆は朱の盆に『友人帳』という言葉に聞き覚えはないかと問う。
その問いに首を傾げる朱の盆。何も知らない彼にも分かるようにと、蛇骨婆は友人帳について説明を始めていく。
「何十年か前の話じゃ……夏目レイコという人間の小娘がおってな。そやつは出逢う妖怪に片っ端から勝負を挑み、負かした妖怪に子分となる証として紙に名前を書かせたという」
「人間だと? 人間如きに妖怪が負けるわけがあるかよ!!」
蛇骨婆の話に、朱の盆は真っ先に人間相手に妖怪が負けるわけないと反論する。
少なくとも、朱の盆にとって人間など脆弱な生き物だ。夏目レイコという人間が何者であれ、妖怪がそのような小娘相手に敗北を重ねるわけがないと思いたいのだろう。
「夏目レイコは相当な力を持った人間だったらしい。その悪評はわしの耳にも届いてきたわ」
だが事実として、夏目レイコにはそれを可能とする『力』があったことは認めなければならない。
彼女のような力——妖怪を自然と見ることができ、尚且つ打ち負かせるほどの力。
そういう力を持った人間というのが往々にして出てくるものだということを、蛇骨婆は経験として知っていたのでそれ自体に驚きはない。
「そうして集めた妖怪たちの名前が書かれた紙を一綴りにした契約書……それこそが友人帳じゃ」
しかし、彼女が集めた妖怪たちの名前。それが『契約書』としての力を持ってしまったことは予想外のことであった。
妖を名前で縛り、名前を呼ばれたものは決して逆らえなくなる契約。
それを可能とする契約書の束が、いつしか『友人帳』と呼ばれるようになったのだ。
「…………ん、待てよ? つまり、その友人帳ってやつがあれば……妖怪を従わせることが出来るってことか……!?」
「ああ、そうじゃ……少なくとも、そこに名前が載っている妖怪たちは決して逆らうことは出来んさ」
そこまでの話を聞き終え、朱の盆はそれこそが『妖怪を従える術』だと察し、蛇骨婆もその通りだと頷く。
確かにそれならばカリスマ性など必要ない。その友人帳さえ手に入れてしまえば、誰であれ妖怪たちを統べる『魑魅魍魎の主』となれるだろう。
「それで!? その友人帳ってのはどこにあるんだ? 今もそのレイコって人間が持ってるのか!?」
そうと分かればさっそくと、朱の盆はその友人帳のありかを尋ねていく。仮にレイコとやらがそれを持っているなら、力ずくで奪えばいいと思っているのだろう。
「夏目レイコは随分と前に死んだらしく、友人帳の行方もずっと分からずじまいであったが……最近になって、レイコの孫とやらが友人帳を引き継いだと風の噂で聞いたことがある」
だが夏目レイコという人間はもうこの世におらず、遺品でもある友人帳は彼女の『孫』が引き継いだという話だ。
「その孫も、レイコのように力を持った人間らしい。おまけに、友人帳で数多の妖怪を従えているという話じゃ。いくらお前さんでも、力ずくで奪うのは難しいじゃろうて……」
その孫もまた、祖母であるレイコに負けず劣らず強い力を秘めているらしい。おまけに友人帳を所持しているため、妖怪たちは孫の命令に逆らうことが出来ないと——聞き齧った話を朱の盆に語っていく。
「なんだと!? そんなの、やってみなきゃわかんねぇだろうがよ!!」
蛇骨婆の言葉に、朱の盆が反発するように声を荒げる。
既に友人帳を利用するということは確定事項のようで、朱の盆はそれを力ずくで奪うことで頭の中が一杯になっていた。
「バカモン、だからお前さんは駄目なんじゃ!! 力ずくで奪うのが難しければ、知恵を回すだけよ……ちょっと、耳を貸してみい……」
そんな血気盛んな朱の盆を制止し、蛇骨婆は彼に作戦があると告げる。
周囲に自分たち以外誰もいないのにさらに用心深く、朱の盆の耳元でこそこそと内緒話を始めていく。
「——と、いうわけじゃ……内容は理解出来たか?」
「お、おう……!! 正直、よくわかんねぇけど、面白そうな話じゃねぇか!!」
暫くして、蛇骨婆は友人帳を奪うための作戦を語り終えた。
その内容の全てを朱の盆が理解しているかは怪しいところであったが、概要くらいは把握出来たのか口元に愉快そうな笑みが浮かぶ。
「じゃろう? 言い出しっぺはわしじゃからな、今回は特別に力を貸してやろう……ふっふっふ」
蛇骨婆もニヤリと口元をいやらしく吊り上げる。
普段であればサポートに徹するところであったが、これは自分が主導すべき作戦だと蛇骨婆が重い腰を上げていく。
朱の盆と蛇骨婆、二人で協力して行われる友人帳強奪作戦。
「よ〜し……今に見てろ、鬼太郎め!! これでお前もおしまいだ、ぐっふっふっふ!!」
これは、あの憎き鬼太郎をギャフンと言わせてやるための策でもあると。
暗闇に蠢く妖たちの、妖しい笑い声が小屋の中で響き渡る。
その話に——聞き耳を立てている者がいるとも露知らず。
「…………友人帳……まさか、彼女の孫が所持していたとは……」
その男は、朱の盆と蛇骨婆がいる古びた小屋——それよりもさらに闇が深まった屋敷の中、一人で彼らの話に聞き耳を立てていた。
男の手の中には『人型の護符』が握られており、全く同じ形の護符が朱の盆の背中に貼り付けられている。
護符は、男が朱の盆を監視するために付けた盗聴器のようなものだ。
あの大戦以降、朱の盆はずっとこの男によって監視されていたのである。
「奴が尻尾を出すまで泳がせておくつもりだったが……友人帳を狙っている以上、捨ておく訳にもいくまい……」
どうやら男の目的は別にあったようだが、友人帳という単語を聞いたことで重い腰を上げる。
その口ぶりから、男は友人帳が妖怪たちの手に渡る危険性を十分に理解しているようであった。
「夏目レイコの孫か……いったい、どのような人物なのか……」
さらには今現在、その友人帳を所有する『夏目レイコの孫』の人物像に想像を巡らせ——。
「場合によっては、友人帳を取り上げることも考えねばなるまい……」
事と次第によっては、その孫から友人帳を没収する必要があるかもと、思案を巡らせていく。
×
「お〜い、鬼太郎ちゃん!! お手紙届いてるぜっと!!」
昼下がりの穏やかな時間。
ゲゲゲの森にあるゲゲゲハウスに向かい、ねずみ男が陽気な声を響かせた。
「ああ、ねずみ男か……」
「騒がしい奴じゃのう、まったく……」
ゲゲゲハウスにいたのは、鬼太郎と茶碗風呂に浸かっていた目玉おやじだけである。
せっかくの親子水入らずの時間を邪魔するねずみ男に二人ともため息が出たが、手紙を受け取るためにもとりあえず彼を家の中へと招き入れる。
「……あれ?」
「どうした、鬼太郎?」
ふと、ねずみ男から手紙を受け取ってすぐに鬼太郎は違和感を抱いた。
「父さん、この手紙……差出人の名前が書いていません……」
妖怪ポストから鬼太郎宛にと届けられた手紙だが、そこには差出人の名前など、送り主の素性を示す事柄が一切記載されていなかった。
「ふ〜ん……何やらきな臭い匂いがぷんぷんするぜ。関わらない方がいいんじゃねぇか?」
これにねずみ男が厄介ごとの気配がすると鬼太郎に忠告する。
「とりあえず、読んでみないことにはなんとも……」
とはいえ、鬼太郎はまだ手紙の内容にも目を通していない。不自然さは残るが、まずは中身を確認すべく手紙を開封していく。
手紙はとても達筆で、場所や時刻といった依頼内容が詳細に書かれていた。
丁寧な言葉選びや文脈などからも、書き手の謙虚さや誠実さが滲み出ていると——少なくとも鬼太郎はそのように感じた。
現時点において、依頼主の名前がないこと以外にこれといって不審な点は見られない。
そして、肝心の依頼内容だが。
要約すると『友人帳という道具を利用することで妖怪たちを従え、人々に悪さを働いている夏目という人間がいるため、それをやめさせて欲しい』——そういった内容であった。
「友人帳じゃと? どこかで聞いた覚えがあるが……う〜む……」
目玉おやじは手紙に書かれた、友人帳というワードに何かを思い出そうと頭を捻るが、すぐには出てこない。
「九州ですか……あちらから手紙が来るのは、なかなかに珍しいですね」
それも仕方がないことだとフォローを入れる鬼太郎。
実際、その手紙が送られてきたとされる九州地方から、鬼太郎に依頼が来ることはかなり珍しいことであった。
「あの辺りは……祓い人たちが寄り合いを作って妖に対抗していると聞きますから……」
「あん? なんだその……はらいにんってのは? 忍者か何かか?」
ふと、鬼太郎が口にした『はらいにん』なる言葉に今度はねずみ男が傾げる。言葉の響きからどことなく、忍者的なものを連想したようだが。
「祓忍ではなく、祓い人じゃ!! 妖怪退治を生業とする者たちの総称を、あの地域ではそう呼ぶらしい……祓忍では別の意味合いになってしまうからな……」
目玉おやじがねずみ男の間違いを訂正する。
ここでいう祓い『にん』は『忍』ではなく『人』という漢字が用いられる。祓忍となるとまた別の意味合いになってしまうので、ここでは触れないでおく。
祓い人、祓い屋と呼び方が独特に感じるが、要は陰陽師や拝み屋といったものたちのことだ。どうやら、九州地方周辺では妖退治に関わる人間たちをそう呼ぶことで定着しているらしい。
全国的には減ってきている妖怪退治の専門家だが、九州地方ではそれなりの数の人間たちが、ある程度組織立って活動しているとのこと。
そのため、妖怪に関する悩み事がある場合は真っ先に祓い人たちのところに話が行き、わざわざ東京に居を構える鬼太郎の元にまで、手紙を送るものなど滅多にいないのであった。
「ますますきなくせぇ……だったらなんでその祓い人とやらじゃなく、鬼太郎のところに話を持ってくるんだよ?」
その話にねずみ男がさらに懐疑心を強める。
そのような事情があるのなら、それこそ鬼太郎のところにまで依頼を持ってくる理由など見当たらないが——。
「手紙には……友人帳の存在を祓い人たちに知られたくないと書いてありますが……」
鬼太郎は『友人帳のことを知られたくない』という依頼主の意図が手紙に書かれていたことに気付く。
「友人帳は、そこに名前が書かれている妖怪たちを従えることの出来る、とても危険なものだからと……」
「友人帳……おおっ!! そうか、思い出したぞ!!」
そこで目玉おやじは何かを思い出したのか、声を張り上げる。
「何十年か前に夏目レイコという人間の娘がおってな!! その娘が妖怪に勝負を持ち掛け……勝った証明として、負けた相手の名前を紙に書かせていたとか!!」
夏目レイコの噂は目玉おやじの耳にまで届いていたが、直接的な関わりがなかったために思い出すのに時間が掛かったようだ。
「手紙にもそのように書かれてますね……友人帳には、契約書としての力もあると……」
レイコが勝負して負かした妖怪の名前を集めた、契約書の束——それこそが『友人帳』と呼ばれるものだと、手紙にもそのような解説が書かれていた。
「その友人帳を悪用しているともなれば……確かに放っておくことは出来ませんね、父さん」
父親が友人帳のことを思い出したこともあり、手紙の内容に信憑性が増したと鬼太郎の顔に真剣味が帯びていく。
今もそのレイコという人物が友人帳を手にしているのか、それともまったく別の人間がそれを利用しているのか。
「とりあえず、指定の場所にまで行ってみましょう……話はそれからです」
未だ不明瞭な部分も多いが、まずは依頼主に合ってみようと。
鬼太郎は手紙にも書かれている場所——九州地方のとある田舎町にまで行ってみることにした。
「やめといた方がいいと思うがね……まあ、頑張ってこいよ〜」
特に金の匂いもせず、嫌な予感がするからとねずみ男は留守番を選んだ。
ゲゲゲハウスにやる気のない態度で寝っ転がりながら、鬼太郎の出発を見送っていく。
×
「ねぇ!! 帰りに喫茶店でも寄ってかない!? 新しいメニューが出てて——」
「マジで!? あのゲーム買ったん!? じゃあ、帰ったらさっそくお前ん家で——」
「今日の練習メニューだけど、大会に向けて——」
「この間のテストやばくてさ……親が勉強しろってうるさいんだよね——」
どこにでもあるような高校の日常風景。
もうすぐ下校時刻ということもあり、多くの生徒たちが放課後の予定に付いて和気藹々と話し込んでいた。
学校帰りに遊びに行くもの、部活動に精を出すもの、大人しく家に帰って勉学に勤しむもの。
予定は人それぞれだが彼、彼女らは今をときめく高校生。今この瞬間の出来事の全てが、忘れられない青春時代の思い出として心に深く刻まれていくことになるだろう。
「だからさ、本当だって!! チラッとだけど見えたんだよ、妖怪がさ!!」
「どうせ見間違いだろ……お前、霊感とかなさそうだし……」
ただ、その会話の中に少し前までなら考えられないような話題が混じっていた。
クラスの男子の一人が『妖怪を見た』などと口にする。もう片方の男子がそれを見間違いだろうと言うが、彼も妖怪の存在そのものは疑っていない。
もはや、この日本社会に当然のように溶け込んでいる妖怪というワード。
「…………」
「夏目くん? どうかしたの?」
そんな同級生たちの会話に、どこか表情を曇らせる一人の男子生徒がいた。その表情の変化を察し、眼鏡を掛けた女子生徒が心配そうに声を掛けてくれる。
「な、なんでもないよ……ありがとう、笹田」
その少年——夏目と呼ばれた彼は口元に笑みを浮かべ、大丈夫だと心配してくれた女子に向かって笑いかける。
「そう? ならいいんだけど……なんだか、不安そうな顔してたから……」
夏目の返事に一応は納得を示した
——不安そうか……確かに不安だな……。
クラスメイトからの言葉になんでもないと答えつつも、夏目という少年の心中は複雑な思いで彩られていた。
——最近は本当に、妖怪が見えるって人も多くなったけど……。
本来、妖怪というのはある種の霊感、才能がないと視認どころかその存在を感知することすら出来ない。目に見えるものだけを信じ、見えないものは見ようともしない現代人たちに妖怪の姿など捉えられる筈もないのだ。
ところが、社会全体が妖怪の存在を認識し始めたことで状況は一変。全ての人間がというわけではないが、妖怪が見えるようになったと自称する人が増え始めてきた。
——俺が見てる世界は……何も変わってない……。
もっとも、世情がどのように変化しようと夏目の生活に特別な変化はない。
何故なら彼——
そんな彼だからこそ、妖怪が見えることが必ずしも良いことばかりでないと。
それを実感として理解しているからこそ、今の情勢に危機感を抱いていた。
「そうか……やっぱり夏目のクラスでも……」
「私のクラスでもそうなの。妖怪が見えるって友達が結構いて……」
放課後の帰り道。夏目貴志は二人の同級生と最近の妖怪事情について意見を交わしていた。
片方は、落ち着いた雰囲気の男子生徒——
もう片方は、素直そうな女子生徒——
二人とも違うクラスだが、夏目にとって掛け替えない友人である。
他にも親しい友達がいないわけではないのだが、特に二人は夏目が『見える人間』だということを知っている数少ない相手である。
基本、夏目は自分に妖怪が見えることを人には話さない。
幼少期など素直に話していた時期もあったが、当時は妖怪など誰も信じておらず。夏目は周囲の人々から『嘘吐き』『気味が悪い』などと言われ続けた。
自分は正直に話しているのに、それを嘘だと決めつけられて糾弾される。そんな周囲の心無い声から自身の心を守るため、いつしか妖怪が見えることを誰にも話さなくなった。
今でもその方針は変わらず、夏目は他のクラスメイトたちの前では率先して妖怪の話を振ったりしないよう心掛けている。
「田沼と多軌はどうなんだ? やっぱり、見えるようになったりするものなのか?」
そんな夏目が田沼や多軌に妖怪の話を振っているのは、このような情勢になる前から二人とも妖怪との関わりを少なからず持っていたからである。
「そうだな……俺の場合は、以前に比べてだいぶ感覚が鋭くなったというか……」
田沼は、夏目同様以前から妖ものの存在を意識していた。
ただ夏目と違ってはっきりと見えるわけではなく、あくまで気配を感じる程度であり、強い妖気にあてられると体調を崩してしまったりする。
そんな田沼が以前よりも色濃く、妖怪の存在を肌で感じ取っているというのは、彼の体調のことを考えるとあまりよろしくない変化であろう。
「私も……陣を介さないと影も形も見えなかった妖怪が……時々だけど、見えたりするの……」
一方で多軌は夏目や田沼のように妖怪を見たり、気配を感じていたわけではない。ただ彼女の場合、『姿映しの陣』というものを介すことで、妖怪の姿を視認することが出来ていた。
この陣は彼女の亡くなった祖父が残した資料から描いたもの。多軌の祖父はほとんど霊感のない人だったそうだが、妖怪に会うことが夢で彼らに関する資料や文献を数多く集めていたという。
「正直、あのときみたいに怖い妖怪から目を付けられるかもって……ちょっと不安になったりもするんだ……」
多軌は過去にその姿映しの陣を用いて妖怪の姿を目撃したことがあるのだが、そのせいで悪い妖怪に目を付けられ、一年近く不安な日々を過ごしていた時期があった。
「そうだな。こっちが見えてると分かると、異様に絡んで来たりするからな……」
多軌が不安になる気持ちは、夏目自身痛いほど理解できた。
妖怪が『見える』ということは、妖怪もこちらを『見ている』ということ。それだけ彼らから目を付けられやすくなり、無用なトラブルに巻き込まれる頻度が上がるということだ。
実際、夏目も妖怪が見えるせいで幾度となく彼らから絡まれ、時には命すら危うい事態にまで発展した。
「二人とも、とにかく危ないと思ったらすぐにでも逃げて……俺か、先生に相談してくれ。きっと力になれると思うから……」
そうした経験則もあるため、夏目はもしものときは自分や『先生』なる人物に頼るよう言っておく。
「ああ、わかった……夏目も気を付けろよ」
「ありがとう、夏目くん……ニャンコ先生によろしくね!!」
田沼も多軌も、夏目の言葉に深く頷いた。
大切な友人からの気遣いに礼を言いつつ、彼らも夏目のことを心配している。
そこには確かな信頼。互いに思い合う心があった。
——これからどうなるんだろうか……。
その後、二人とも別れた夏目は帰路の道を一人歩きながら、悶々とこれからの日々について思案を巡らせる。
妖怪の存在が公式にも認められる世の中。少し前までなら思ってもいなかった事態に、夏目としても正直困惑を隠しきれないでいる。
仮にこのまま、この国に住まう全ての人間が妖怪を見るようになれば、自分という人間が特別ではなくなるかもしれない。
とはいえ、妖怪を直接見えるようになる人間などまだまだ少数派だ。
テレビやネットなどでは大々的に騒がれているが、実際に妖怪を目撃し、何らかのトラブルに巻き込まれたという事例、少なくとも夏目の周囲でそこまで極端に増えたという印象はない。
理由として基本的に妖怪は人間を毛嫌いし、下に見ているため、わざわざ人に関わろうというものが少ないというのがあるが。
「夏目様!! 夏目様!!」
「たいへん!! たいへん!!」
と、そこへ帰り道を歩く夏目に騒がしい声が降り注いでくる。
「中級たち……? どうしたんだ、そんなに血相を変えて……」
夏目が声のした方を振り返ると『一つ目』に『牛の顔』と、あからさまに妖怪だと分かるような外見をしたものたちが立っていた。
彼らのことを、夏目は中級と呼んでいる。
妖気の小さな小物妖怪ではなく、かといって妖気が大きい大物妖怪というわけでもない。言葉通り妖怪として中級の存在。特に捻りもなく自然とそのような呼び方になっていた。
「前にも言ったと思うけど、人目がありそうなところでは大人しくしてろって言ったろ?」
中級たちが何かを言う前に、夏目は周囲に人がいないかを慌てて確認する。
夏目の暮らしている村は、良く言えば自然豊か。悪く言えば自然以外何もないような田舎である。電車で隣町などに行けば商店街くらいはあるが、近場にこれといって人の集まるような場所はない。
そうした田舎で人とすれ違うことなど稀で、その人間が妖怪を見ることの出来る人かどうかも分からないが、今の環境ではいつ誰が妖怪を見るようになっても不思議ではない。
そのため、夏目は中級たちを始めとする知り合いの妖怪たちに、極力人里に近づかないようにと注意を促していたのだ。
「夏目様!! そのように悠長なことを言っている場合ではありませんぞ!!」
「ばあいじゃない!! ばあいじゃない!!」
ところが今はそんなことを気にしている場合ではないと、中級たちは他の人間に聞かれるかもしれない可能性など考慮にも入れずに声を上げ続ける。
「……いったい、何があったんだ?」
その並々ならぬ様子に夏目も只事ではないと、彼らの話に耳を傾けることにした。
自分たちの話を聞いてくれることになった夏目に向かい、中級たちは声高らかに叫んでいく。
「ゲゲゲの鬼太郎が……!! あの妖怪の裏切り者が、夏目様の友人帳を奪い取ろうと画策しておるのですよ!!」
×
「鬼太郎って……あの、鬼太郎くんだろ? 裏切り者って……そんな言い方……」
夏目は妖怪たちが棲み家としている八ツ原へと赴いた。
民家からも離れた草木が生い茂る草原だ。ここなら人目を気にする必要もないと、改めて鬼太郎について話を振っていく。
「ゲゲゲの鬼太郎って、妖怪なんだろ? だったら、お前たちの仲間じゃないのか?」
まず最初に、夏目はゲゲゲの鬼太郎のことを『裏切り者』と呼んだ中級たちにそれがどういう意味かと問い掛けた。
鬼太郎のことなら夏目も知っている。昨今の妖怪が台頭する情勢の中、人間社会に被害をもたらさんとする妖怪を幾度となく退けたことでその知名度を上げた、ゲゲゲの鬼太郎。
夏目はその活躍を聞くたびに『そんな妖怪もいるのか……』といった感想をどこか他人事のように浮かべていたのだが、どうやら妖怪たちは全く別の感想を抱いているようだった。
「そりゃそうだろう。鬼太郎といえば人間の味方……妖怪の立場からすれば、裏切り者と扱われても仕方がないことさね」
「ヒノエ……」
中級たちの気持ちを代弁するかのよう、夏目の疑問に答えたのはヒノエという妖怪であった。
見た目は着物を纏った妙齢の女性。煙管を噴かせる姿に貫禄を感じるが、外見は人間そのもので人里にも違和感なく紛れ込めそうだ。
「私も、あんまり好きにはなれないんだよね、あの小僧のことは……」
「ヒノエ様は、単純に男の子が嫌いなだけなのでは?」
ヒノエは妖怪の仲間内でも女好き・男嫌いで知られており、彼女が鬼太郎を快く思わないのは彼女自身の趣味嗜好が混じっているというのもあるが、決してそれだけが理由ではない。
「まあ……アタシもだけど、この辺の連中は鬼太郎との面識がほとんどないんだよ。人伝でしか知らないから、どうにも悪い噂の方が目立っちまうのさ……」
中級やヒノエたちが暮らす地域にまで鬼太郎が出張ってくることはほとんどなく、彼女たちは鬼太郎のことを噂話程度でしか知らないのである。
故に、世間から流れてくるような情報でしか鬼太郎の人柄を判断する術がなく、どうしても『人間の味方』という妖怪の立場からすれば悪い印象の方が先行してしまうのだ。
「しっかし……ゲゲゲの鬼太郎が友人帳を狙ってるだなんてね……そんな話どこで聞いていたんだい、アンタたち?」
ふと、ヒノエは中級たちに『ゲゲゲの鬼太郎が友人帳を狙っている』などという話をどこで聞きつけたのか問い尋ねた。
今までこちらに来ることのなかった鬼太郎が、いきなり友人帳を狙ってると聞かされればそのような疑問を持つのも当然だろうが。
「それはもう!! 仲間たちの間ではその噂で持ちきり!! 皆が言っております!!」
「みんないってる!! さわいでる!!」
鬼太郎のことは中級たち以外の妖怪にも知れ渡っているらしく。皆が皆、鬼太郎が友人帳を狙っていると噂しており、その話の出所などは誰にも分からないとのこと。
「何だかきな臭い話だね……まあ、用心するに越したことはないさ。気を付けるんだよ、夏目」
ヒノエはそのような噂話が出回っていること自体に懐疑的であったが、用心しておいても損はないだろうと、夏目のことを心配してくれる。
本来は男嫌いであるヒノエだが、夏目には面倒見の良い一面を見せてくれる。それは夏目貴志という少年が、祖母である夏目レイコと瓜二つだからだろう。
友人帳の元々の持ち主である、夏目レイコ。
彼女も貴志と同じくらいの年頃を、この辺りで過ごしていたらしい。ヒノエのようにレイコと面識のある妖怪が、夏目貴志という少年に彼女の面影を見ることがある。
「ああ、ありがとう……気を付けるよ」
祖母がきっかけで繋がることになった人ならざる友人の気遣いに、夏目も微笑みで応えるのだった。
「ゲゲゲの鬼太郎か……いったい、どんな子なんだろうな?」
妖怪たちとも別れ、再び一人家路を歩いていく夏目。
彼の脳裏には先ほども話題に出てきた、ゲゲゲの鬼太郎のことが思い浮かばれていた。
それは友人帳が狙われているかもしれないという危機感よりは、鬼太郎という人物への興味の方が大きかった。
人間の依頼に応える彼を妖怪たちは裏切り者と罵っていたが、人間である夏目からすれば寧ろ好感や関心を抱くような話しである。
「噂話なんて当てにならないしな……会ってみないことにはなんとも……」
それに、実際にどんな人物かなど噂話だけで判断は出来ないと。夏目は鬼太郎に直接会って話がしてみたいとも感じていた。
「……っと、もうこんな時間か……」
ふと、そんなことを考えている間にも周囲が暗くなり始めていく。
人間や妖怪の友人たちと色々と話し込んでいたため、すっかり遅くなってしまったと。夏目は自身が帰るべき場所への家路を急いでいく。
夏目貴志は現在、遠い親戚筋である藤原家で暮らしている。
夏目の祖母であるレイコ、そして夏目の両親。そのどちらとも、夏目が物心がつくよりも早くに亡くなってしまっており、幼い夏目はずっと親戚中をたらいまわしにされてきた。
妖怪が見える夏目は、他の親戚たちから『情緒不安定な子』というレッテルを貼られ、ずっと厄介者として扱われてきたのである。
そんな彼に手を差し伸べてくれたのが——藤原
二人はずっと厄介者として扱われてきた夏目を、率先して引き取りたいと申し出てくれた。
夫婦の間に子供が出来なかったということもあってか、彼らは夏目を実の息子のように扱ってくれている。
「早く帰らないと……塔子さんが心配するだろうからな……」
特に奥さんである藤原塔子は夏目に優しいのは勿論、それでいて無茶をすればしっかりと叱ってくれる厳しい人だ。彼女に心配を掛けないためにも、早足で歩を進めようとする。
「夏目様、夏目様……」
「ん?」
ふと、帰り道を急ごうとした夏目を呼び止める声がした。
夏目がその場を振り返れば、一目見て妖怪だと分かる異形が静かに佇んでいた。初めて見る顔に訝しがるよう、その妖怪と半歩距離を取る夏目であったが。
「名前を返して頂けると伺いましたもので……」
「ああ、そっちか……分かった、ちょっと待っててくれ……」
相手の用件が分かったところで夏目は警戒心を解き、カバンから一綴りになった紙の束を取り出す。
それこそが『友人帳』だ。
夏目貴志という少年が祖母であるレイコから引き継いだ、妖を従えることの出来る契約書。
もっとも、夏目は妖怪を使役するために友人帳を率先して利用するつもりはない。非常時に限り、友人帳の使い方は基本的に一つと決まっていた。
「——我を護りしものよ。その名を示せ」
友人帳を手に取った夏目がそのような言葉を紡ぐ。
途端、友人帳がひとりでにパラパラとめくられていき、やがてとあるページでピタリと止まる。
「これか……」
夏目は示されたそのページの部分だけ破り、口に加えた。
続けて両手を強く打ち合わせ、意識を集中すべく目を閉じる。
「名を返そう……」
そのまま目の前にいる相手の姿形、友人帳に書かれたその妖怪の名前を頭の中でイメージする。
そして、「ふっ……」と息を吐いた。
瞬間、そのページに書かれていた妖怪の名前——その文字が実体となって飛び出し、妖怪に向かって吸い込まれるように流れ込んでいく。
「ああ、ありがとう……」
自身のところに在るべきものが戻ってきたと、そのことを感謝しながら妖怪は一陣の風と共に去っていった。
名を返す。
言葉通り、友人帳に書かれている名前を持ち主に返還するための儀式だ。
過去にレイコが集めた妖たちは友人帳の契約によって縛られている。万が一にでも、妖怪の名前を傷つけたりしようものなら、その痛みは名前の持ち主にも反映されてしまう。妖怪たちに取って命を握られている状態なのだ。
そのため、夏目は妖たちが望むようなら彼らに名前を返すことにしていた。これは直接の契約者である夏目レイコ、あるいはその血族である夏目貴志にしか出来ないことだ。
「ふぅ……疲れた……」
名前を返し終えるや、その場にへたり込んでしまいそうな疲労感が襲い掛かってくる。
名前を返す儀式には相当な体力、精神力を消費する。当然ながら契約が解除された妖は自由となり、使役するために呼ぶ出すことも出来なくなってしまう。
どう考えても、契約者である夏目にメリットなどないように思えるが、彼はこれこそが自分のやるべきことだと信じていた。
「いつか……全ての妖怪に名前を返すことが出来るのだろうか……」
レイコが集めた名前を、孫である自分が一つ残らず返していく。
途方もない難題かもしれないが、いつかはそんな日が来るかもしれないと。その日が来るか、あるいは自分が一人の人間としての生を全うし終えるか。
そのときが来るまで、この友人帳を手放すわけにはいかない。たとえ鬼太郎が相手であろうと渡すわけにはいかないと。
その手に持った友人帳、その重みを改めて考えていく夏目であった。
×
夜な夜な、人里離れたとある森の中。
そこにひっそりと建てられた洋館の大広間に、様々なものたちが集まっていた。
「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞごゆるりとご歓談ください……」
「おや、見ない顔ですね……新しい式神ですかな?」
「ええ、使えるかどうかお試し中でして……ほら、挨拶しておけ!!」
「ハジメマシテ、ヨロシクオネガイシマス……」
人間は当然のことながら、明らかに妖怪と思しきものたちが当たり前のように人と言葉を交わしている。
集まっているものの中にはお面や目隠しなどで、顔色や表情、素性を覆い隠している怪しいものたちも含まれていたが、それに関しては誰も何も言わない。
人と妖が入り乱れる光景は一見すると混沌とした様相だが、そこには確かな秩序が存在していた。
「最近どうですかな? 妖怪どもの動きが活発化して、なかなか手が回らないでしょう?」
「いやいや、この程度……なんてことはありませんよ」
「人手が足りないなら、いつでもお声掛け下さい。手をお貸ししますとも……」
「ご心配痛み入りますが、それには及びませんとも……ええ……」
決してその場を乱すことなく、かといって仲良しこよしというわけでもなく。表面上和やかに言葉を交わしつつ、出来るだけ相手から多くの情報を引き出そうと水面下で互いの腹を探り合う。
どこかドロドロした、人間の意地汚さを体現したような光景である。
彼らはこの地方一帯を活動拠点とする祓い人たちや、その祓い人に使役されている妖、式神の類である。
古くよりこの地には多くの退魔師が存在しており、それぞれが独自に活動をしつつ、時にはこうした集まりを通じ、同業者間での情報交換に努めていた。
もっとも、互いに牽制し合う光景を見れば分かるよう、決して善意だけで成り立つ会合ではない。
思惑はそれぞれだが、彼らの心中には少しでも相手より優位に立ちたい、利用してやりたいという後ろ暗い感情が見え隠れしている。
「おっと……見てみろ、主賓の登場だぞ……」
「的場め。相も変わらず涼しい顔で……」
そんな中、二階に続く階段から降りてくる、とある祓い屋たちの集団に皆の意識が向けられていく。
彼らの視線からはその一団の対する妬み、やっかみという感情が見て取れた。
ここに集まっている大多数のものたちにとって、彼らは自分たちよりも『優位的な立ち位置』にいるもの。全くもっていけすかない相手なのである。
「やれやれ、いつものことながらやっかみが多いことだな、ボス」
「本当に今更ですよ、七瀬。あの程度の連中のために時間を割いてやる必要もありません、放っておきましょう」
見られている側も、周囲からのそうした悪感情を理解しているようだが、そんなものどこ吹く風と涼しい顔をしている。
集団の先頭に立つのは黒いスーツ姿に長い黒髪を後ろに結んだ、ボスと呼ばれた青年——
右目の文様の入った異様な眼帯が人目を引く。若いながらも落ち着いた雰囲気を纏っており、その口元には常に不敵な笑みが浮かべられている。
もう一方、的場よりも半歩後ろを立つ、
一見すると温和で優しそうだが、その視線は鋭く。その立ち姿にも一切無駄がなく、一つ一つの所作に洗礼したものを感じさせる。
彼らは『的場一門』と呼ばれる、とある祓い屋の一派である。
本来、祓い屋というのはそれぞれ個々に独立しており、多少の交流こそあれど、そこまで他家と深い繋がりを持たないもの。
しかし彼らは他の家々の流派を取り込み、組織的な活動を行っている。そのおかげで大きな仕事を取り扱うことが多く、他の同業者からやっかみの的となってしまっているのだ。
彼らに積極的に声を掛けるようなものがいるなら、それは的場一門の庇護下に入ろうとするものか、あるいは何かしらの工作を仕掛けようとする政敵か。
それを理解しているからこそ、彼らも自分たちから安易に他者に歩み寄るような真似はしない。
「おや? 名取の若様がいるじゃないか……」
「本当だ。やあ、名取……元気にしていましたか?」
そんな的場一門が、会合の場にいた一人の青年に対してわざわざ声を掛けに歩み寄る。
「どうも……七瀬さん、的場さん」
「…………」
的場一門からの接触に、眼鏡を掛けた端正な顔の青年・名取と呼ばれた男性が挨拶を返すが、その顔に笑みはなく。
また青年の隣に立つ、刀を背負った一つ目に角が生えたお面を被った着物の女性も、警戒するように的場一門を見据えていく。
両者の間にある距離感は——決して敵対するわけではないが、だからといって無条件に相手を信用するというものでもない。
「おやおや、この間の一件……彼を巻き込んだことをまだ怒っているのですか、周一さん?」
名取の態度に的場一門の若き頭首でもある的場静司が、どこか芝居掛かった動作で肩を竦めた。
わざとらしく名取という青年の下の名前を、学生時代のときのように親しげに呼んでみせる。
「そういえば……あの坊やの姿が見えないが、今日は一緒じゃないみたいだね?」
七瀬の方も、名取がいつも一緒に連れている例の少年がいないことに探りを入れてくる。
「別に……夏目はただの友人ですから。必要以上にこちら側の事情に巻き込むつもりはありませんよ」
そうした的場一門の疑問に対する明確な返答として、名取は彼を——夏目貴志を祓い屋の都合に巻き込むつもりはないと、ここにいない友人を庇うよう発言していく。
その名は、一般的には売り出し中の人気俳優として知られている。街中などで彼の姿を見かけたファンの女性たちはこぞって黄色い声を上げ、彼もその声援に応えようと爽やかな笑顔を見せてくれるだろう。
そんな彼の裏稼業が祓い屋であることは、妖怪の存在が公になりつつある現在においてもあまり知られてはいない。
だが名取家といえば、祓い屋業界ではそれなりに名の通った名家だ。最近は才能を持った跡取りが生まれず、一度は廃業まで追いやられ業界でも落ちぶれたお家として嘲笑の的となっていた。
そんな中、名取周一という才能を持った男子が名取家に誕生。
とある事情から彼自身、妖や祓い屋に関する知識を調べようと業界に深入りした結果——今では実力者として一目置かれるようになった。
「しかし夏目くんには才能がある。その力を活かさないのはもったいない、そうは思いませんか?」
名取と顔を合わせた際、的場が話題として上げたのは夏目貴志についてである。
的場と名取、両名共に夏目とは交流があり、祓い屋としての仕事を何度か手伝ってもらったこともあった。
夏目の才能はその道のプロから見ても破格なもののようで、的場一門としては彼を門下に引き込みたいと考えているようだ。
「それに……妖怪どもが活発化している今の世の中、彼のような人間を野放しにしておくほうが心配じゃありません? 危険な妖から守って上げるためにも、今のうちに囲い込んでおく必要があるでしょう?」
おまけに昨今の不安定な情勢のことを踏まえれば、ますます夏目という人材を放っておく理由が的場にはないのである。
「仮にそうだとしても、それは夏目自身が決めることです……部外者である私たちがとやかく言うことではありませんよ」
一方で名取の方はというと、あくまで夏目貴志という少年の意思を優先すべきだと。彼が自分から望まない限りは、業界の事情に巻き込むべきではないと主張する。
的馬静司と名取周一は同年代であり、学生時代の頃からお互いを意識し、切磋琢磨しながら祓い人としての腕を磨いてきた。
もっとも、仕事のやり方や妖怪に対する価値観などに齟齬があり、大人になった今でもそうした意見の違いから対立することもままあったりするのだ。
「やれやれ、あの坊やも人気者だね……」
そんな若者二人の言い合いを、七瀬は年長者らしく一歩引いた視線から眺めていた。
七瀬は的馬一門で秘書役を務めている。そんな彼女の立場からすれば、当然的場の味方をすべきなのだろうが、本人としてはどちらでもいいのか静観を決め込んでいた。
夏目貴志という少年が将来、どのような道筋を辿るのか。
少なからず、こうしたものたちの思惑が絡んでくることになるのかもしれない。
「……ん?」
そんな名取と的場の静かな対立の中、にわかに大広間が騒がしくなる。何事かと七瀬が出入り口の方に目を向けると、大広間に一人の男が姿を現していた。
「……おい? 誰だあれ?」
「さ、さあ……見ない顔だな?」
「あいつは、まさか……!?」
その人物に対する周囲の反応は主に二通りに分けられた。
片方は誰だという疑問。その人物がいったいどこの誰なのか、皆目検討も付かない。
片方はまさかという驚愕。何故このような場所にその男がいるのかという、戸惑いである。
「…………」
もっとも、誰がどのような反応をしようとまるで気にも留めず、男はカランカランと下駄の音を踏み鳴らしながらこちら——名取や的場たちの方へと歩み寄ってくる。
「……主様」
「どうした、柊……?」
名取の隣に控えていたお面の女性——
柊の呼び掛けに名取も近づいてくる男の存在に気づいたが、やはり誰なのか分からず不思議そうに疑問符を浮かべている。
「……?」
的場一門の頭首である的場静司ですらも、その人物か何者なのか分からずにキョトンとしている。
そうして戸惑っている彼らの前までやって来るや、そこで男の足がピタリと止まる。
「久しぶりだな、七瀬。しばらく見ないうちに、だいぶ老け込んだようだが……」
「随分なご挨拶じゃないか。アンタが会合の場に顔を出すなんて……どういう風の吹きまわしだい?」
口を開くや、その男は七瀬への憎まれ口を叩き、それに対して七瀬も皮肉げに口元を緩めながら言い返した。
「七瀬のお知り合いでしたか。あまり見かけない顔ですが?」
どうやら知り合いらしい七瀬に、的場はその男が何者なのかそれとなく問い掛ける。
黒い着流しを纏ったその男は、どこか不機嫌そうな表情を浮かべている。
その顔には年相応の皺が刻まれており、頭髪にも白髪が混じっていたりと。七瀬とタメ口をきいていることからも、彼女と同年代なのだろうと予想出来る。
「ああ、名前くらいは聞いたことがあるだろう。こいつが、あの一刻堂さ……」
的場の問い掛けに、七瀬はその人物の名前を告げていく。
「一刻堂!? 陰陽道斑鳩流の……あの一刻堂ですか!?」
「!! これはまた、たいへんな大物が……」
すると名前を聞いただけでその人物がどれほどの相手か理解したのか、名取と的場の二人が揃って驚愕する。
「斑鳩流はただでさえ秘匿主義、おまけにこいつ自身も人付き合いが悪いもんだから、会合の場にもなかなか顔を出さないんだよ」
「悪いが、馴れ合いは好きじゃなくてねぇ……」
斑鳩流は外に出せない門外不出の秘術を数多く抱えているため、基本的に他の流派の人間と組むことがない。
おまけに、一刻堂自身も人付き合いが得意ではなく、こうした集まりにも来ないため同業者からもほとんど顔を知られていないとのこと。
しかし、一刻堂という名前だけは世代を越えて知られており。
その名が確かな実力者のものだと、多くのものたちから畏怖とともに語られているとのことだ。
「それで、いったい何の用だい? わざわざアンタが足を運んだってことは、よっぽどのことなんだろうが……」
七瀬はそんな一刻堂が、わざわざ会合の場まで顔を出した理由を改めて問い掛ける。
この男のことだから何かしらの意味はあるのだろうと、それが自分たちの不利益にならないかどうかを慎重に見定めようとする。
「なに、大したことではないんだがね……」
警戒する七瀬の問い掛けに大したことではないと前置きも入れながら、一刻堂はゆっくりと口を開いた。
「随分昔、夏目レイコという人物が話題になっただろう? かなりの力の持ち主だったらしいが……その孫なる人物が最近になってこっちに越して来たという話を聞いたんだ。何か知らないか?」
『——!?』
一刻堂の口から出てきたらまさかの名に、一同は驚きで目をしばたかせる。
夏目レイコ。まさに先ほどまで話題にしていた、夏目貴志の祖母のことで間違いない。
「なんだ、アンタもあの坊やが目当てかい!! まさにさっきまで、その子のことを話していたところさ」
「ほう……?」
まさかの展開に七瀬が面白そうに声を上げ、それに一刻堂も興味深そうに眉を顰める。
「夏目貴志というんだが……確かにあの頃に伝え聞いた夏目レイコの武勇伝を思わせるような、力を感じさせる子だね……」
的場や名取といった若い世代はピンと来ないだろうが、七瀬や一刻堂といった世代の人間たちの間で夏目レイコの名はそれなりに知られていた。
妖怪たちに喧嘩を吹っかけ、それに勝ってしまうという彼女の力は本職も顔負けのものだったと。その力を引き継いだ孫ともなれば、確かに興味を引かれるだろう。
「まさか、一刻堂さんが夏目くんに興味を持つとは……ですが、彼に目を付けたのは的場が先です。ちょっかいをかけるのであれば、まずはこちらに話を通していただかないと……」
的場は一刻堂が夏目に関心を持っていることに愉快そうに笑みを浮かべるも、それと同時に彼に目を付けたのは自分が先だと。夏目が一刻堂に引き抜かれないよう牽制を入れていく。
「的場!! 夏目はキミのものじゃないだろう!!」
そんな、夏目が既に的場一門にいるような言いように、名取が反発するよう声を荒げた。
現時点において、夏目という少年は的場はおろか誰の傘下にも属していないのだから、そんな言い方はやめて欲しいということだろう。
「なるほど……キミたちの反応を見るに、確かに力は持っているようだな」
そうしたやり取り、二人の反応から一刻堂は夏目貴志という少年の力が本物であることを察したようだ。
「それさえ分かれば十分だ、邪魔をしたな……」
「おや、もう帰るのかい? 久しぶりだってのに、せっかちなやつだね……」
聞きたいことを聞き終え、踵を返していく一刻堂に七瀬が呆れてため息を吐く。本当にそれだけが目的だったのか、何の未練もさっさと立ち去ろうとする。
「そういえば……」
ところが、何かを思い出したようにふと足を止め、ついでとばかりに問いを投げ掛けてくる。
「友人帳について、彼から何か聞かされていないか?」
これに内心驚いたのが、名取周一であった。
——何故、この人が友人帳のことを……!?
夏目が所持している、友人帳。
祖母の形見であり、妖を従えることの出来る契約書でもあるそれの存在を、夏目はひた隠しにしている。
妖の真名を縛って従わせる。それは祓い屋業界でも禁忌とされるものであり、その力を悪用しようとするものの手に渡れば大変なことになることは容易に想像出来た。
夏目と親しくしている名取とて、長い交流を経てようやく友人帳のことを教えて貰えるだけの信頼を得たのである。
それをどうして、夏目と面識がない筈の一刻堂が知っているのだろう。
「友人帳……なんだいそれは?」
「なんだか、面白そうな響きですね……」
祓い屋としての権勢を誇る的場ですらも、友人帳については何も知らないというのに。
——まずいな……的場の前で友人帳について言及されたら……!!
名取は的場に友人帳の存在を知られるわけにはいかないと、表情を取り繕いながらどうにか出来ないかと思案する。
しかし露骨に話題を逸らそうにも、そんなすぐに気の利いた話など出来るわけもなく傍観するしかないでいる。
「……知らんのならいい。キミたちが興味を持つようなものでもないしな……」
ただ一刻堂は的場が友人帳について何も知らないと見るや、素っ気なく会話を打ち切ってしまった。
「…………」
友人帳の存在を知れば当然、的場も興味を持つ筈だ。
どうやら一刻堂も、的場に友人帳の詳細を迂闊に語るつもりはないようだと。その用心深さに内心で安堵の息を吐きつつ、名取の厳しい視線が一刻堂の背中へと注がれていく。
「…………」
大広間から退出した一刻堂。
そのまま他のものには目もくれず、会合の場である洋館から立ち去ろうとしていた。
「——私に何か御用かね、若き祓い人よ?」
だが、誰もいない渡り廊下に差し掛かったところで、一刻堂は足を止め虚空に向かって呼び掛ける。
「…………」
物陰から姿を現したのは——あの後、すぐに一刻堂追いかけて来た、名取周一であった。
「一刻堂さんは……どうして夏目のことを? 目的は……彼が持つ友人帳ですか……?」
名取は逸る気持ちで一刻堂の真意を伺おうとする。
目的は夏目自身か、それとも彼の持つ友人帳か。どちらにせよ、碌なことではないだろうと警戒心を滾らせていく。
「それを問うということは、キミは彼から友人帳のことを聞かされているのだね……」
名取の問いに、一刻堂は彼が友人帳の詳細を知っていることを察した。だからこそ、自身の目的を包み隠さずに話すことにする。
「ならば分かるだろう? あれがどれだけ危険なものか……あれを持つものがどれほどの災いを呼び込むことになるのか……」
一刻堂は友人帳は持っているだけで、それを狙うものたちを引き寄せる災いの元だと語る。
「故に、それを持つものにはその厄災を退けるだけの力と自制心が求められる。夏目貴志という少年にそれがないようなら……残念ながら友人帳はこちらで管理するしかあるまい」
そのため、持ち主にはその力を正しく制御するだけの力が必要——というのが一刻堂の言い分であった。
「貴方が友人帳の力を利用したいだけではありませんか?」
しかし、その言い分を名取はただの方便だと。彼が友人帳を手にする口実に過ぎないのではと疑いを抱く。
「貴方の勝手な言い分で、夏目から友人帳を取り上げないでください。あれは彼にとって今は亡き祖母との繋がり、ただの道具じゃないんですよ……」
それに友人帳とは、他人からすれば便利な道具でしかないかもしれないが、夏目貴志という人間にとっては会ったこともない祖母との繋がりという意味合いがある。
仮に真剣に夏目の身を心配していようと。それが本人のためだからといって、友人帳を取り上げるなど決して許されることではない。
それが許されるというなら——既に名取が取り上げ、そのような重荷になるようなもの、さっさと燃やしていることだろう。
「それでも彼に何かするというのであれば、まずはこの名取が相手になります……」
名取は言葉を尽くし、一刻堂に夏目貴志から手を引くよう呼び掛けた。
それでも、彼が夏目にちょっかいをかける気ならば、自分は相手になるという意思を示す。
そんな敵対することも厭わない、名取周一に対し——。
「その刺青……キミもキミで、ずいぶんと難儀なものを抱えているようだね……」
「……!!」
一刻堂は名取の顔を横切った刺青——正確には刺青のように、名取の表皮を動き回る『ヤモリの痣』に眉を顰める。
その痣こそ、名取周一が祓い屋の世界に飛び込むきっかけになった出発点。
祓い人として様々な経験、知識を持つようになった今でもその痣については何も分かっていない。
この痣が、いつか自分に災いをもたらすのではないかという不安が、名取という人間には常に付き纏っているのだ。
そういった事情があるからか、自分と似たように友人帳という悩みの種を抱え込んでいる夏目に、名取は力になってやりたいと思っているのかもしれない。
「キミの言い分は理解出来る。だが、私は自分の目と耳で判断したことしか信じない性分でね……」
だがそうした名取の事情、心情を考慮しても尚。一刻堂は自分の目で夏目という少年のことを判断したいと。
「全ては彼という人間を見てからだ。それを邪魔するというのであれば、悪いが容赦は出来ない」
一刻堂は袂から
「主様、お下がりを……!!」
主人に対する明確な敵対行動に対し、名取の式神である柊が姿を現し、背中の刀に手を掛ける。
「主様に手出しはさせぬ!!」
「それが主様のご意向であるのなら……!!」
柊だけではない。
一刻堂の背後からさらにもう二人、名取を主人と仰ぐ式神が姿を現していた。
額の文字が特徴的な、どこまでも伸びる長い黒髪で敵を縛り上げる——
羊のような角に目隠し、チリチリパーマ……もとい、ウェービーヘアが特徴的な——
三体の女妖が、主である名取と共に一刻堂を取り囲んでいく。
名取自身も、懐から一枚の護符を取り出し、それをいつでも投擲できるよう身構える。名取家は代々『紙』を使った呪術を得意としており、名取周一もその秘術を用いて幾度となく妖たちを退けてきた実績がある。
「ほう、式神が三体も……キミ自身も、なかなか優秀な祓い人のようだね……」
一刻堂は式神たちや名取の立ち振る舞いから、彼が優秀な祓い人であることを認めた。しかし複数人で囲まれている状況にもかかわらず、全く動揺した様子を見せない。
「キミのような若く、優秀な人材を傷つけるのは忍びない……」
それどころか、名取の身を案じるような言葉を呟く。
一刻堂は年長者として、祓い人の先輩として。名取という人間に極力怪我を負わせないよう、穏便な手段で彼を退けようと——。
「——代わりに周りのお嬢さんたちに消えてもらうとしよう」
名取を取り巻く式神たち・三人の女妖を消し去るべく——言の葉を紡いでいく。
「ああ……戻ってきましたか、名取」
「一刻堂の奴に何か用事があったんだろう?」
大広間。
会合の主催者としての役割を果たしていた的場一門・的場静司と七瀬の二人は名取周一が会場に戻ってくるや、すぐに声を掛けた。
状況からして、名取が一刻堂に何かしらの用事があったのだろうと、いったいどのような話をしたのか探りを入れる。
「一刻堂さんと……ですか? 別に何もありませんでしたよ?」
ところが、名取は一刻堂との間には何の話もトラブルもなかったと答えた。
特にこれといった表情や声音に変化はない。嘘を付いているようにも見えなかったが——。
「……ところで名取、その手に持っているものは何です?」
名取の態度に違和感を覚えた的場は、ふと彼が手に持っていたものに視線を向けながら問う。
名取が手にしていたのは——『一つ目に角が生えたお面』であった。
どこか見覚えのあるお面。しかし名取は指摘されて初めて気付いたとばかりに、首を傾げながら答える。
「……? あれ、なんでしょう……どうして私は、こんなものを持って……?」
名取自身、何故自分がそんなものを所持しているのか本当に分かっていない様子である。
「……そういえば、先ほどの連れ……キミの式神がどこへ行きましたか?」
名取の返答に的場は真顔になり、ふと先ほどまで彼の隣にいたであろう式神の存在について触れる。
「? 何を言ってるんですか、的場さん?」
すると、名取は心底から不思議そうにこう答えた。
「——私に式神なんていませんよ?」
「…………」
「さっきからどうしたんだい、的場?」
名取の答えに思わず絶句する的場であったが、それに七瀬が怪訝そうに口を挟んでくる。
「名取に式神なんていな…………いや、待て……」
七瀬も、名取周一という男に式神などいない筈だと、そのような答えを口にしようとしたところで不意にこめかみを抑える。
「なんだい、この……頭に靄がかかったような感覚は……?」
そこにきて七瀬は何かしら違和感を抱いたようだが、それが具体的に何であるかまでは分からない様子だ。
「なるほど……噂通り、恐ろしい方のようですね、一刻堂さんは……」
だが的場は何が起きているかを把握したのか、その口元に笑みを浮かべ。この状況を作り出したであろう一刻堂への賞賛、彼に対する畏怖の念を口にしていく。
「そうか、一刻堂の仕業かい……!! 奴め……いったいどういうつもりで……」
的場の口から一刻堂の名前が出たことで、七瀬もこれが彼の仕業だと理解したようだ。
久しぶりに顔を出したかと思えばすぐに立ち去り、このような面倒を残していった同期に七瀬は苦虫を噛む潰した顔になる。
「……いったい、どういうことですか?」
だが名取の方は、未だに何が起きているのか分からず戸惑うしかないでいる。
そんな名取に、的場は不敵な笑みを崩さずに答えてやった。
「貴方……いえ、私たちが既に彼の術中に嵌っているということですよ」
「——!?」
これに名取は目を丸くするしかない。
名取としては、自分が何かしらの術に掛かっているという認識はなく。それどころか、一刻堂とどういったやり取りをしたか全く記憶にすらないのである。
「しかし、直接対峙した名取だけならいざ知らず、その場に居合わせていなかった私たちにまで影響を及ぼすとはね……」
的場は一刻堂の力のほど、彼が行使したであろう術の効力に戦慄。
「ただの催眠術とも違う……これが斑鳩流の……いや……」
彼が妖怪や同じ祓い人たちから何と言われ畏れられているのか、その『異名』を口にしていた。
「——
人物紹介
夏目貴志
『夏目友人帳』の主人公。
幼い頃から妖怪が見えていたため、見えない人々から気味が悪いと疎まれてきた。
それでも性格がひん曲がることはなく、やや内向的ながらも善良な性格に育つ。
相当な力の持ち主らしく、いざというときは拳一つで妖怪を退けることが出来る。
夏目レイコ
夏目貴志の祖母。既に故人のため、基本的に回想にだけ出番がある。
友人帳の製作者。友人帳を巡る物語は全てこの人から始まった。
温厚な貴志と違い、売られた喧嘩は全て買う、売られてなくても喧嘩を吹っかける。
若い頃に亡くなったらしいが、何故亡くなったかなどは未だに語られてない。
藤原夫妻
夏目がお世話になっている方々。
夫である滋は寡黙ながらも頼りになる。妻である塔子は優しくおっとりとした性格。
田沼要
夏目が見えることを知っている友人、其の①。
多少の霊感があるが、妖気に当てられて体調を崩してしまう、ちょっと病弱キャラ。
多軌透
夏目が見えることを知っている友人、其の②
男の子みたいな名前。ニャンコ先生にゾッコンでよく抱きつく。
笹田純
夏目のクラスメイトの眼鏡女子委員長。
原作では一話限りのゲストキャラだったが、アニメで準レギュラー枠になってた。
中級
夏目を慕う妖怪たちの集まり、夏目組・犬の会の代表格。
一つ目と牛顔の二人組。二人まとめて中級と呼ばれている。
ヒノエ
いつも煙管を吹かせている、呪詛使いの女妖怪。
面倒見は良いが、基本的に男嫌いで女好き。
レイコにガチで惚れていたらしく、レイコに似ているために貴志にも優しく接してくれる。
名取周一
夏目の友人の祓い人。
表向きは芸能活動をしている、キラキラとした笑顔が胡散臭い。
ヤモリの痣が表皮を動き回っており、それがどのようなものか本人も分からない。
夏目の友人として、同じ悩みを抱える先輩として彼の力になりたいと思っている。
柊
名取と式神として契約を結んだ女妖怪。常にお面を被っている。
他にも瓜姫、笹後と二人の式神が名取と契約している。
的場静司
祓い人の大家、的場一門の若き頭首。
常に不敵な笑みを崩さない、柔らかく穏やかな口調で喋る。
妖怪に容赦がなく、式神を餌に使ったりと冷酷な性格。
同年代の名取相手には、それとなく気を遣ったりしている感じがある。
七瀬
的場一門で秘書役を務める、初老の女性。
夏目レイコと直接の面識はないが、同時期に祓い人として活動しており、噂などでは聞いていたようだ。
蛇骨婆
今回のゲスト妖怪枠。ぬらりひょん一味といえばお馴染みの妖怪。
アニメ6期では未登場だったのでこの機会に出演。
今まで表立って出てこなかったのは、裏方としてぬらりひょんの活動をサポートしていたから、という設定。
一刻堂
満を持して登場、今回の特別ゲスト。
鬼太郎の4期『言霊使いの罠』で登場、その圧倒的な実力で鬼太郎ファミリーを追い詰めた。
6期での彼は、4期よりもだいぶ年上として設定。
物語の都合上、四十代後半から五十代前半を想定しています。