クロスオーバー企画第四弾は『デュラララ!!』。
作者の小説の師匠(勝手にそう崇めているだけ)、成田良吾先生原作のライトノベルです。
この作品はとにかくキャラが多い!!
後書きの方で出てきたキャラに関しては順次紹介を入れていきますが、詳しく知りたい方は個別の記事をネットで調べた方が早いですね!!
「――ねぇ! 次どこ行こっか?」
「う~ん……サンシャインシティにはもう行ったし……」
「あっ! わたし、執事喫茶ってとこに行ってみたいかも!!」
休日、賑やかに人々が行き交う街中。きゃっきゃと騒ぎながら四人の女子中学生が次に向かう目的地を皆で話し合っていた。
彼女たちがいる街の名は――『池袋』。渋谷や新宿と並び、東京でも代表的な繁華街の一つである。
渋谷が若者の街、新宿が大人の街とするなら――この街はさしずめ、その中間といったところ。
年齢層を問わず、外国人なども多数行き交っており、それらを顧客とした商業施設やアミューズメント施設が数多く建ち並んでいる。
「はははっ、来てよかったね! 池袋!!」
それらの施設をひととおり楽しみ、笑顔を浮かべる少女たちの一人に彼女――犬山まなの姿があった。
彼女たちは東京都調布市のとある中学校に通う、ごく普通の中学生の少女たちである。
髪を二つ縛りにした眼鏡をかけた――綾。
どこか上品な雰囲気を纏う、後ろ髪を一箇所に束ねている――姫香。
少し背が低めのセミロングヘアの――雅。
そして、犬の尻尾のようなおさげ髪――犬山まな。
学校でも特に仲の良い四人組で、学外でもよく一緒に街にお出かけしたりと休日を楽しんでいる。
「そうだね。カラーギャングがいるとかでちょっと不安だったけど……普通に遊びやすいじゃん!!」
来てよかったと言うまなの言葉に同意するよう、彼女と親友の雅が楽しそうに頷いている。前もってインターネットで調べた情報では、この町には未だにカラーギャングといった怖い集団が少数ながらに存在しているとのこと。
だが、そんな危なっかしい輩が絡んでくることもなく、まなたちは平和な休日を謳歌していた。
「そろそろお昼だし、どっかお店に入ろっか? どこがいいかな……」
スマホで現時刻を確認しながら、綾がそのように提案する。
時刻はもうすぐお昼時。スイーツなどの買い食いをしていた少女たちも、どこかで腰を据えて食事を取りたい。自分たちのような中学生でも入れる手頃な店がないかどうか。雅が辺りを見渡し、姫香がネットなどで食べログをチェックしていた。
せっかくだから『池袋らしい』お店にでもと、まなもそう思っていた。そんな彼女たちに――
「――こんちわ!」
と、オーバーなほどに明るい声が掛けられる。
「へっ?」
唐突な呼びかけにそちらの方を振り返りまな。すると、そこには髪を茶髪に染めた青年が立っていた。
耳にはピアスを、腕には派手なブレスレットをつけてはいるものの、まだどこか幼さを残した印象。おそらくは高校生くらいだろう。青年は輝くばかりの笑顔をまなたちに向け、楽しそうに話しかけてくる。
「君たち可愛いね! 池袋は初めてかい? よかったら、俺たちで色々と案内しちゃうけど、どう!?」
そう言って軽口を流しながらも、青年はまなたちに対し恭しい態度で手を差し出す。そんな彼の言葉と態度にキョトンと少女たちは互いの顔を見合わせる。
――ひょ、ひょっとして……私たちナンパされてる!?
つい最近になって中学二年生に進級したばかりのまな。彼女は女子の中でもお堅く、未だに男性とお付き合いなるものをしたことがない。
同年代の男の子からも「デカまな」やら「ブス」などと悪口でからかわれることの方が多い。可愛いねなどと、真正面から言われることの方が珍しく、初対面の男性からこのように声を掛けられる経験など全くなかった。
「…………えっ?」
「……わ、わたしたち!?」
雅たちもまなと同じらしく。ナンパされているという事実に不快感よりも困惑がまさり、咄嗟に返事をすることができなかった。
「そうそう、きみたち!! 四人ともスッゲェ可愛いよ!! こんなに可愛い子たちがズラリと揃うなんて、これはもう奇跡としか言いようがないね!! この奇跡の出会いを祝し、俺たちとめくるめく池袋の街を堪能しようじゃありませんか! ……いかがですか、お嬢様方?」
言葉だけ聞くと軽薄そうに聞こえるが、不思議とこの青年から言われるとそこまで不快ではない。誘い文句の最後にキチンとまなたちに確認を取るところなど礼儀正しく、そういったことに免疫のない彼女たちにすら「ちょっとくらいいいかな?」と、思わせるような不思議な魅力が感じられる。
しかし、これがナンパだというのなら、少しばかりおかしいところが見受けられる。
「――ちょ、ちょっと、正臣!」
先ほどから茶髪の青年が「俺たち」と繰り返しているように、彼には数人の連れがいた。
そのうちの一人。髪も染めず、ピアスもブレスレットもつけていない。茶髪の彼――正臣とは対照的な真面目一辺倒という感じの、黒髪の青年が慌てた様子で正臣に待ったをかける。
「やばいって! この子たち、どう見ても中学生じゃん! ロリコンだよ、犯罪だよ!!」
その青年はそう言って、正臣がまなたちに声を掛けるのを静止しようとする。おそらく、彼も高校生なのだろう。その立場から中学生であるまなたちにナンパすること――というより、ナンパという行為そのものに抵抗感を抱いているような空気だった。
「何を言ってやがる、帝人!!」
そんな真面目そうな彼――帝人の言葉にわざとらしいまでに声を張り上げ、正臣は反論する。
「こんなに可愛い子たちを前に声を掛けないなんて、それこそ男として犯罪だぞ!! 帝人よ! お前には男としての誇りと尊厳がないのか!?」
「えっ、何その理屈? ちょっと意味不明なんだけど……」
正臣の謎の理屈に友人の筈であろう帝人がオロオロと取り乱す。その取り乱しようは、見ているまなたちの方が思わず心配してしまいそうなほど、純朴な反応であった。
帝人はさらに正臣にツッコミを入れる。
「だいたい、なんで園原さんもいるのにナンパなんかしてんの?」
「あっ、いえ……わたしのことは気にしないでください……」
正臣と帝人。二人の少年の後ろで、何故か申し訳なさそうに眼鏡をかけた女子が頭を下げている。彼女も高校生だろう。服装も地味で髪も染めていない。雰囲気としては正臣よりは帝人に近い、優等生といった空気を漂わせている。
明らかにナンパという行為に不釣り合い――いや、そもそも何故女子同伴でナンパなどしているのだろう?
帝人同様、まなたちも不思議そうに首を傾げる。
すると、正臣はまなたちにも聞こえるような大きな声で力説する。
「大丈夫、大丈夫! 杏里は言わば罠なんだよ! 『こんな可愛い女の子が一緒ならついて行っても大丈夫』って思わせるトラップだから! きっと安心して、この子たちも俺の誘いに乗ってくる筈さ!! ワハハ!!」
「それ、声を大にして叫んでる時点で全部筒抜けなんだけど……」
「そ、そうですよね……」
わざとらしく悪役のような笑い声を上げる正臣に、帝人は冷静な指摘を加える。眼鏡の女性——杏里と名前を呼ばれた彼女も、どう反応していいものか困ったように苦笑いを浮かべている。
正臣と帝人と杏里。見た目や口調といった、第一印象だけでもかなり性格にばらつきのありそうな男女三人組。
「…………」
そんな彼らの漫才のようなやりとりを見せられ、雅や姫香、綾はどのようなリアクションを取るべきか。咄嗟に判断ができず固まっていた。
「……ふふ、仲が良いんですね。三人とも」
しかし皆が戸惑っている中、まなだけはそのやり取りに微笑ましい笑みを浮かべる。
パッと見、共通点らしきものがない三人組ではあるものの、互いに向ける笑顔や掛け合いから、気の許せる友人同士であることが容易に想像できる。
三人の間に流れる空気も程よく温かく、その雰囲気に釣られるようにまなの心にも明るいものが込み上げてくる。
「おうよ! 俺たちは校内でも有名な三角関係だぜ! どっちが先に杏里と付き合うか競争している間柄なのさ!!」
まなの言葉にナンパで声を掛けた正臣の方が少し意外そうな表情を浮かべるも、すぐに気を取り直し、自分たちの仲の良さをアピールするようにドヤ顔で語る。
「ちょっ、正臣……」
「…………」
高校生らしい甘酸っぱい青春、男女の好意に関する話題。それをおおっぴらに語る正臣に、帝人と杏里は恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めている。
「へぇ~、そうなんですか!? それは……是非とも詳しく聞いてみたいですな~!」
「ちょっ、ちょっとまな!?」
正臣の振った話題にまなは口元をにやけさせ、グイグイと乗っかっていく。そんなまなの食いつき具合に、未だに警戒心が解けていない雅たちが驚いていた。
勿論、まなは正臣のナンパに応えたわけではない。
だが、まだ男の人を好きになったことのないまなは、少女漫画で恋のお勉強をする『恋に恋する乙女』である。
そのようにお手本のような恋愛話の話題を振られ、黙っていられるお年頃ではなかった。
「おお、気になるかい? それじゃ……その辺で飯でも食いながら話そうぜ! 何なら君たちみんなの分は俺が奢っちゃうよ!!」
正臣はまなの反応から「これはいける!」と踏んだのだろう。実に陳腐ではあるものの手堅い手段、最初の一歩としてまなたちをお昼へと誘う。
「えっ、奢り?」
「やった! お小遣いが浮く!」
その提案に今まで乗る気でなかったまなの友達、雅と綾の二人の表情が明るくなる。少ないお小遣いをやり繰りする女子中学生にとって、お昼代が浮くだけでもかなりの利点だ。
「……もう、仕方ないですね」
友達皆が乗る気になったことで、姫香も仕方なく付き合うことになる。
「よし、決まりだ!! あっ、杏里の分は帝人が奢るんだぞ?」
「えっ、なんでさ?」
「……えっ、わ、わたしも!?」
最終的に女子たち全員の同意を得た正臣。しれっと帝人と杏里の二人もカウントに入れ、彼は次なる問題――『どのお店に入る』か、暫し思案を巡らせる。
ここで下手なお店を選び、まなたちの機嫌を損ねてしまえば全てが台無しになることを正臣は経験上知っている。
「そうだな、せっかく池袋に来たんだし……」
せっかくだから池袋らしい店と、奇しくもまなと同じようなことを考え、正臣は熟考を重ねる。
「よっしゃー!! せっかくだから、あそこにしようぜ!!」
そして、結論が出たのか。彼は自信満々にその店の名を声高に叫ぶ。
その店の聞き慣れぬ『店名』に――まなたちが目を丸くするであろうことを予想しながら。
「池袋って言ったらやっぱ『露西亜寿司』だろ!!」
×
「ヘイ。キダ、ミカド、アンリ、イラしゃーい!!」
「――――!?」
入口のカラフルな暖簾をくぐったまなたち。彼女たちは客である自分たちに、外国語訛りの日本語を浴びせた『黒人男性店員』の存在に思わずビクリと肩を震わせる。
東京に住んでいる彼女たちにとって、外国人などさして珍しいものでもないし、それだけで驚いたりはしない。
だが、目の前に現れた黒人は体長二メートル、プロレスラーのような筋肉をガッチリと身にまとう巨漢だった。
柔和な微笑みこそ浮かべているものの、その体格と纏う雰囲気でその黒人が絶対に只者ではないことが理解できる。板前のような恰好がさらにアンバランスで、まなたちでなくても初めて訪れた客はそれだけでこの店に入ることを尻込みするだろう。
「よお! サイモン、久しぶり!! 座敷の奥、空いてる?」
しかし、正臣は眼前の大男の存在に全く動じる様子もなく、笑顔で話しかける。見れば帝人も杏里も、黒人――サイモンと呼ばれた彼に軽く会釈し、自然な流れで店の奥へと歩いて行く。
「……どうも」
まなも彼らに習うように会釈する。
「オウ! カワイらしい、オジョウさんたち。イラしゃいませ!」
サイモンは初対面のまなたちにも笑顔で手を振ってくれた。強面な見た目とは裏腹な陽気で優しげな微笑みだ。その笑顔に少しだけ安堵したまなたちは店の奥、座敷の席に腰掛ける。
「びっくりしったかい? なかなか面白い店だろ?」
まなたちの戸惑いを予想していたのか、正臣はイタズラを成功させた子どものような笑顔で呟き、この店の解説をしてくれる。
池袋繁華街、居酒屋や飲食店が多く立ち並ぶその中にその奇妙なネーミングの店――露西亜寿司は居を構えていた。
内装はまるでロシア王朝の宮殿をそのまま縮小したかのような飾り付け。そこに無理やり和風の寿司カウンターをくくりつけた感じの、間違ったロシア感。
ロシア系の黒人であるサイモンが客引きやウェイトレスを務め、もう一人の白人男性が寿司を握っているとのこと。カウンター奥に立つ板前外国人。いくつもの包丁を器用に使い分けて刺身を切り分ける姿は、日本人の板前にも負けない貫禄のようなものを感じさせる。
「大丈夫でしょうか……ここ、なんか高そうですよ?」
テーブルに座ったまな。正臣の説明を聞きつつも、彼女は真っ先にこの店のお値段に関しての不安を口にする。
廻らない寿司屋というだけでも中学生であるまなたちにはかなりハードルが高い。その上、店の垂れ幕には『安心料金! オール時価!!』と堂々と書かれている。
奢ってもらうとはいえ、あまりに高すぎるようなら流石に気も引けると心配になるまなに、正臣は気にした風もなく答える。
「大丈夫、大丈夫!! 確か学割やってた筈だから! ええと……安い握りのコース十カンで580円だったかな?」
「安っ!?」
驚愕のお手頃価格にビックリする雅。綾も姫香も、その驚きの安さに目を剥いている。
「うん、だから取り敢えずはその握りコースでいいかな? あっ、足りなかったら遠慮無く追加頼んでいいから!」
そう言いながら、正臣はちゃっかり自分のお財布にも優しいメニューを七人前注文する。あまりの安さに変なものが混じっていないかと、逆に心配になってくるまなたちであったが、ここまで来て帰るわけにもいかず。
店員のサイモンによって運ばれた湯飲みを口にしながら、寿司が握られてくるのを待つことにした。
料理を待つまでの間、テーブルを挟んで向かい合う正臣たちとまなたちは一通りの自己紹介を済ませる。
最初にまなたちには声を掛けた、茶髪の高校生――
そんな正臣と幼馴染みだという、黒髪の青年――
正臣と帝人とは高校で知り合ったという、眼鏡の女性――
彼らは池袋にある『来良学園』という高校に通う一年生とのこと。
相手のフルネームや経歴を知ったところで、まなたちもそれぞれ名前を名乗る。そして、自分たちが調布市からやって来た中学二年生であることを明かした。
「へぇ~調布から……ところで、今日はどうして池袋に?」
積極的に話題を振り、話の中心になっていたのはやはり正臣だった。彼はまなたちが何故池袋に遊びに来たのか、そのきっかけを尋ねる。
彼の質問に、既にいくらか警戒心を緩めていた雅と綾が答える。
「私たち、この間まで放送してた池袋が舞台のドラマを観たんですよ!」
「それで一度池袋に行ってみたいなって話になって!」
ドラマや映画に限らず、ニュースやバラエティ番組など。池袋という街は様々なメディアの舞台として頻繁に使われている場所でもある。池袋が舞台のドラマだけでも結構な種類の作品が存在するが――。
「あっ、ひょっとしてあれかな? ついこの間までやってた連続テレビドラマの……羽島幽平が主演やってるやつでしょ!?」
「あっ、それです、それ!!」
正臣は最初の話を聞いただけで、それがどの作品か見当がついたらしい。作品自体の名前を思い出せなかったようだが、そのドラマの主演を演じた俳優の名前だけはすぐに浮かび上がった。
「ああ、それならボクも見たよ。凄かったよね、羽島幽平の演技!」
「わ、わたしも見ました……凄かったです。あの俳優さんの演技」
この話題には帝人と杏里の二人も食いつく。彼らもそのドラマを視聴していたようだが、内容よりも真っ先に主演俳優の演技力を絶賛する。
「ですよね!? やっぱりそう思いますよね!? 羽島幽平、最高に格好いいですよね!!」
一同の称賛に対し、まなたちの中でも姫香が一際大きな反応を示す。うっとりとした表情になり、素晴らしい演技を披露した押し俳優の活躍を思い出している。
「なるほど、姫香ちゃんは羽島幽平のファンか~」
「……あっ、い、いえ……すみません。少し興奮してしまいました……」
四人の中学生の中で、特に姫香が羽島幽平の熱心なファンであることをその反応で察する正臣。彼の指摘に姫香は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めていた。
ドラマの内容よりも先ほどから話題になっている俳優――
彼は現在、特に女性たちの間で話題となっているイケメン俳優である。本業はモデルらしいのだが、『吸血忍者カーミラ才蔵』というVシネマで主演のカーミラ才蔵を演じ、それをきっかけに俳優としてもデビュー。
その美麗な顔立ちから繰り広げられる、素人上りとは思えない怪演に人気が爆発。どのような役柄でも見事にこなす演技力が高く評価され、今ではハリウッドにお声が掛かるほどの超売れっ子役者となっていた。
「そうなんですよ~。姫香が羽島幽平の大ファンで……だから、今日は撮影で使われた場所を中心に回ってたんです!!」
そんな彼が主演を務めたテレビドラマの撮影に池袋が使われていた。だから、まなたちはその聖地巡礼のため、こうして池袋を訪れてたとのことだ。
「なるほどね……で、どうだった? 実際に池袋を廻って見た感想は!?」
彼女たちが池袋にやって来た理由を知り、正臣はまなたちに池袋という街の感想を聞いていた。既に池袋が地元といっても過言ではない正臣たちにとって、初めて池袋を訪れたまなたちの評価は大いに気になるところである。
「う~ん、そうですね……。思ってたよりは、ずっと安全で遊びやすかったです!」
正臣の質問にまなが笑顔で答える。実際池袋の街は遊びやすく、彼女たちは楽しい休日を過ごすことができていた。
「ホント、ホント! カラーギャングがいるとか、もっと物騒なところとか思ってたけど、そんなこともなかったよね!!」
まなの意見に同意し、雅も浮かれたように声を上げる。
すると――
「カラーギャングか……」
一瞬、正臣の目が細められ、彼から剣呑な空気が発せられる。
しかし、それもほんの一瞬。直ぐにへらッとした人好きのする笑みを浮かべ直す。
「まっ、ああいった連中は基本こっちから近づかなきゃ、ちょっかいかけてくることもねぇから! 君たちみたいに可愛くていい子たちには手を出さないだろうし……。俺がいる限り、君たちを危険に晒すような真似はさせねぇぜ!!」
「……さらっと自分を売り出すアピールしてない?」
カラーギャングに対しての注意点を口にしながら、正臣は『俺と一緒にいれば安全!』と、懲りずにナンパを繰り返す。そんな友人に突っ込みを入れ、帝人は溜息を溢す。
「ははは……本当に、仲が良いんですね」
そんな彼らの掛け合いに笑みを溢すまな。
そんな調子で――彼女たち調布からやってきた中学生は、池袋で出会った高校生たちと楽しい昼食を過ごした。
×
「あー! 美味しかった!!」
「ほんとっ!! とても580円の握り寿司とは思えないよ!!」
その後、ドラマや映画、正臣と帝人と杏里たちの三角関係についての話題で会話に華を咲かせつつ、露西亜寿司を堪能したまなたち。最初に来店したときの不安は何処へやら、彼女たちは大満足で店を後にする。
「紀田さん、ありがとうございました! 美味しいお店を紹介して、その上奢ってもらうなんて……」
まなは露西亜寿司という、彼女たちだけなら絶対に入らなかったであろう優良店を紹介してくれた正臣に改めて礼を述べる。
「いいって! いいって! 俺も君たちとお喋りできて楽しかったから!!」
正臣は宣言通り、まなたちの分までしっかり会計をこなし、気にした風もなく笑顔で彼女の礼に応える。
「あの……竜ヶ峰君……すみませんでした……私も奢ってもらって……」
「いや……園原さんは気にしなくていいから……悪いのは全部正臣だから……うん」
ついでの流れで、杏里に食事を奢る羽目になった帝人。昼食で自分たちの恋愛話が話題になったこともあり、両者はどこかぎこちなく言葉を交わす。
「さて……これからどうするよ? まだ見て廻るつもりなら、俺たちで色々と案内するけど?」
そんな友人二人を尻目に、正臣はまなたちにこの後どうするか声を掛けていた。先ほどのナンパの続きという空気ではなく、純粋な親切心からまなたちの池袋観光を心配しているような言葉遣いである。
「そうだね……どうしよっか?」
「せっかくだし……案内してもらう?」
「うん! それがいいかも!!」
一緒に昼食をとって親交を深めたこともあってか、雅たちから反対の意見は出なかった。まなもこの人たちとならもっと池袋の街を楽しめると思い、正臣の提案に好意的に頷く。
「よし、決まりだっ!! じゃあ、さっそく……」
まなたちが乗る気になったところで、一気にテンションを上げる正臣。さっそく彼女たちがどんな場所へ行きたいのかを聞き、それに沿ったデートコースを決めようと思案しようとした――まさに、そのときであった。
不意に――まなたちの耳に奇妙な『音』が聞こえてきた。
「えっ?」
まなは最初、その音を猛獣の嘶きか何かと思った。しかし、よくよく聞いていて見ればそれはバイクの排気音のようにも聞こえてくる。
動物の唸り声と、機械的なエンジン音。相反する二つの『音』が同居した不思議な音響。
「なに……今の音?」
「馬? いや……暴走族?」
雅たちも、その異質な音に思わず立ち止まって互いの顔を見合わせる。両方とも、どことなく聞いたことのある音なのに、二つが同時に合わさることで全く聞いたことのない異常な音質へと形を変える。
その不気味さに不安そうな表情を浮かべる少女たち。しかし、それと同じ音を聞いた筈の正臣はどこか期待に溢れるような笑顔でまなたちに告げる。
「君たち、運がいいよ。初めて池袋に来たその日に――都市伝説を目の当たりに出来るなんて」
「都市、伝説……? あの、それって、どういう――」
まなは正臣の言葉に理解が追い付かず首を傾げる。見れば帝人と杏里の顔にも不安な表情はなく、逆にまなたちのリアクションを見守るような微笑ましい笑顔を浮かべている。
わけが分からず不安から足を止める少女たち。彼女たちが横断歩道を渡るのを躊躇っていると――
彼女たちの前に――その『存在』は突如として現れる。
「――――――――」
それはヘッドライトの無い、漆黒のバイクに跨った人の形をした『影』。
それは並走する車の間を縫い、まなたちの目の前を音もなく走り去っていく。
「…………!」
その黒バイクが放つ『異質感』に息を呑むまなたち。
彼女たちの目の前を通り過ぎるとき、そのバイクからは完全にエンジン音というものが消失していた。時々、気まぐれで鳴き声のような嘶きを響かせるだけで、あとは無音の中で道路を疾走する。
まるでそのバイクの周囲だけ、現実から切り離されたかのような違和感に戸惑うまなたち。しかし、困惑する彼女たちのことなど脇目も振らず、漆黒のバイクは当たり前のように池袋の街中を走り去っていく。
「……な、なに、今のっ!!」
「なんか……凄っ!!」
「…………」
黒バイクの姿が見えなくなり、一気に現実感を取り戻す一同。雅や綾、姫香は見たこともない異質な存在感に言葉を失っている。
「今の……も、もしかして、妖怪!!」
そんな彼女たちの中、犬山まなは真っ先に我を取り戻し、その黒バイクが異形な存在――妖怪ではないかと疑問の声を上げる。
すると、そんな彼女の発想に正臣と帝人が顔を見合わせ――快活に笑い声を上げる。
「はははっ! 妖怪か……その発想はなかったな!!」
「うん! まあ、多分間違ってはないと思うけど……」
「……ふふ」
杏里ですら口元を緩め、まなの発想に笑みを溢す。
「わ、笑わないで下さいよ!」
まなは自分の考えが笑われ、少し不満そうに拗ねた表情で頬を膨らませる。
「いや~ごめんごめん。……君たちも噂くらい聞いたことないかな? 『池袋の首無しライダー』って?」
正臣はまなを笑ってしまったことを直ぐに謝り、先ほどの黒バイクに関する噂を耳にしたことがないか聞いてくる。すると彼の問い掛けに、雅が何かを思い出すようにスマホを弄り始める。
「あっ、わたし聞いたことあるかも! 池袋の噂の中にあったやつだ!!」
彼女はまなたちと池袋に遊びに来る前、事前にこの街に関する情報をネットを介して調べていた。訪れるべき観光スポット、美味しいお店、治安状況など。池袋の街をより楽しむために必要な予習をこなしてきた。
その中から、好奇心旺盛な思春期の彼女は、池袋に関する『噂話』についてもいくつか情報収集をしていた。
カラーギャング、ダラーズ、謎のバーテンダー、切り裂き魔――。
深く調べれば調べるほど、非現実的なワードの類が山のように浮かび上がる。所詮は只の噂話と、ある程度は流し読みしていた雅だったが――その噂話の中から、取り分け目立った都市伝説の存在を思い出す。
「池袋の首無しライダー……あった、これだ!!」
その噂に関して書かれている掲示板を見つけ、雅はそれをまなたちに見せる。
そこに、映像ではっきりと写し出されていた。
大勢の群衆に囲まれる中、漆黒のライダースーツが黒服の男たちと大立ち回りを演じる姿が――。
戦いの最中、男の一人に警棒でヘルメットを殴られ、黒バイクの素顔が露になる。
映像に映し出されるライダーに――表情など存在しない。
首から上が――綺麗に無くなっているにもかかわらず、それは動いていた。
「……首無し、ライダー……」
その映像を脳裏に焼き付けながら、まなが呟く。
その映像だけを見るのであれば、質の悪いトリック映像か何かだと思い込むことができるだろう。
だが、実際に黒バイクを目撃し、その異質感を肌で感じ取ったものならば信じることができる。
その映像が何の加工も施していない、トリックでも、ドッキリでもないことを――。
あのライダーには、本当に首から上が存在していないのだということを、直感として思い知ることが――。
×
「――鬼太郎、親父さん!! あっ、猫姉さんも。ねぇ、聞いてよ! 今日、池袋に友達と遊びに行ったんだけどね!!」
日暮れ時、池袋の街から調布に帰還したまな。彼女はそのまま家には帰らず、ゲゲゲの森にある鬼太郎の家――ゲゲゲハウスへと訪れていた。彼女が家の中に上がり込むと、鬼太郎と目玉親父、そしてまなが『猫姉さん』と慕う猫娘が寛いでいた。
「どうしたのよ、まな? そんなに慌てて……また何か事件にでも巻き込まれたの?」
まなの興奮気味な様子に猫娘が呆れながらも、心配して声を掛ける。まなが猫娘を慕うように、猫娘もまなのことを友人、あるいは妹のように大事に思っている。
妖怪と人間――種族の異なるもの同士であるにもかかわらず、二人の仲はかなり良好だ。
そう、鬼太郎たちは妖怪。彼らが住まうこの場所は妖怪のみが踏み入れることを許された領域、ゲゲゲの森である。本来であれば、人間である犬山まながこんなにも気軽に立ち入れる場所ではない。
だが去年の春から、まなは妖怪たちと関わりを持つようになり、鬼太郎たちと友達になった。その影響からか、彼女は人間の身でありながらも、ゲゲゲの森に入ることが許されるようになり、今ではちょくちょく鬼太郎の下に遊びにくるようになっていた。
「はぁ~……キミはいつも何かに巻き込まれてるんだね。それで? 今日はどんなトラブルを持ってきたんだい?」
まなの尋常ならざる様子に、また事件かと鬼太郎が脱力気味に溜息を吐く。
もともと、鬼太郎は人間と妖怪が過度に接触することを好ましく思ってはいない。手紙の依頼などで人間の手助けをするときでさえ、必要最低限な接触でことを終わらせるつもりでいる。
しかし、今の鬼太郎にとって犬山まなという少女は必要以上に関わりを持っている、数少ない人間の友人だ。
彼女の自ら厄介ごとに首を突っ込んでいくような、そのお節介な性格から巻き込まれる妖怪絡みの事件も数多い。今回もそんな感じで事件に巻き込まれるのかと、鬼太郎はやれやれと肩をすくめながら重い腰を上げる。
「もう! 人をトラブルメーカーみたいに言わないでよ! 別に事件ってほどのことじゃないんだから……」
鬼太郎の決めつけたような言動に、まなはムッと口を尖らせる。
確かに自分が鬼太郎たちに助けを求めることは多々あるが、まるで自分が騒ぎの元凶かのような言い方は心外である。まなとて、事件にならなければそれに越したことはない。
そう思いながらも彼女は今日、池袋の街中で見かけた黒バイク――首無しライダーのことを鬼太郎たちに語って聞かせていく。
「ふむ、首無しライダーか……。似たような話なら。他の地方の噂も耳にしたことがあるがのう……」
まなが目撃した池袋の首無しライダーの話を聞き終え、目玉親父が自身の意見を口にする。
『首無しライダー』という怪談事態、それほど珍しいものではない。それこそ『口裂け女』やら『人面犬』のように、割とありふれた都市伝説の一つとして長年人々の間で語り継がれてきた。
もっとも、そういったものの大半がデマであり、実際に幽霊として人々に害を与えるわけでもない。少なくとも、鬼太郎たちが関わってきた事件の中に、首無しライダーが暗躍していたというものは一つもなかった。
「違うって! あの黒バイクはデマなんかじゃない。本物だよ!!」
しかし、まなはムキになって反論する。あれはその辺に転がっている噂話の類ではない、本物の怪異――本物の首無しライダーであると。
「どう思いますか、父さん?」
まなの熱弁に父親の意見を聞く鬼太郎。息子の問い掛けに少し考えてから目玉親父は答えた。
「うむ、普段からわしら妖怪と接しているまなちゃんがそこまで言うのだ。おそらく、その黒バイクとやらは本物の妖怪なのかもしれん」
まなが鬼太郎たち妖怪と接するようになって、だいぶ長い時間が経過している。本物の妖怪の騒動に何度も巻き込まれてきたのだ。眼前の怪異が偽物か本物か。それを正確に見分ける感覚は、他の人間よりは確かなものだろう。
「でも、その黒バイク、結構昔から噂されてるみたいよ? ネットの書き込みからすると、それこそ20年くらい前から……」
まなの話を聞きながら、猫娘はネット上に転がる池袋の首無しライダーに関して調べていた。
どうやら、あの首無しライダーはかなり昔から池袋という土地に根付いているらしい。ネット社会の普及から噂が他所に広まり始めたのは、ここ10年くらい前のようだが、少なくとも池袋の住人にとっては馴染み深いものらしい。
「……特に重要な悪さをしてるって感じでもないわね。どうするの、鬼太郎?」
軽く調べた限りでは、その首無しライダーによって何か被害を受けたという報告もない。
黒服の男たちと揉めている映像で、何かしらの危害を加えているように見えるが、傍から見るとただの喧嘩のようにも見える。
「う~ん……特に酷い被害があるわけでもないなら、ほっといてもいいんじゃないかな?」
猫娘からの情報に、一度は腰を上げた鬼太郎が再びその場にてぐうたらに座り込む。
もともと、めんどくさがり屋な側面が強い鬼太郎は自発的に行動することの方が少ない。依頼以外で面倒ごとに関わろうとするほど、積極的な性格でもなかったりする。
「20年、そんな昔から……」
一方のまな。彼女は猫娘の調べた話を聞き、興味深く思案に耽っている。20年――自分が生まれる前から池袋の街中を疾走している、首無しライダーという存在に何かしらの興味を抱いたであろうことが、その表情から察することができる。
「……一応、言っておくけど」
そんなまなに釘を刺す意味を込め、鬼太郎は彼女へと一言物申す。
「自分から厄介ごとに首を突っ込むような真似は控えてくれよ。ただでさえ、キミは向こう見ずなところがあるんだから」
「わ、わかってるよ! わたしだって、ちゃんと考えて行動してるんだから、ふんだ!」
鬼太郎の辛辣な小言に、まなはそっぽを向く。
彼の言葉が自分を心配してくれての発言であることを、彼女も頭では理解している。
しかし、まるで自分が考えなしであるかのような言い方には、流石にカチンと頭にきてしまう。
自分だって、好き好んで事件に巻き込まれているわけではないのだと。
鬼太郎の忠告を胸にしっかりと刻みつける
だが――翌週の休日。
「――ごめんね、猫姉さん。付き合ってもらって……」
「――別にいいわよ。何となく、予想してたから」
犬山まなは猫娘と共に池袋の街を訪れていた。
あの都市伝説、池袋の首無しライダーにもう一度出会うために――。
登場人物紹介
紀田正臣
ナンパ少年、けど意外と漢気もある好青年。
竜ヶ峰帝人
『ザ・普通』って感じの子ですが……実は作中で一番危ないかもしれない人物。
園原杏里
眼鏡巨乳。意見すると文学少女のようにも思える彼女ですが……。
サイモン
露西亜寿司の店員。強面な外見とは裏腹に池袋の良心と呼べる人。けど恐ロシア。
羽島幽平
何でもできるイケメン俳優。話題のネタとして名前だけ登場。本名は平和島幽。
次回登場するとある登場人物の弟。
今作において、クロス先の登場人物はホントに顔見せ程度。本格的にクロスさせるのは『デュラララ!!』という作品の主人公『首無しライダー』くらいです。
一応、今はぬら孫を優先させるつもりなので、こちらの更新はスローペースになると思います。
鬼太郎……三月には終わるそうですが、それでも本作は細々と続けて行きたいと思います。今後とも、よろしくお願いします。