最終回の作者の感想に関してましては、コメントへの返信欄をご覧ください。
さて、クロスオーバー第五弾『犬夜叉』です。
この企画を始めようとした際、真っ先にクロス候補として頭の中に浮かんだ、王道作品。両作品を好きな方なら、一度くらい考えたことのある組み合わせでしょう。
ですが、小説を読む際にいくつか注意事項。
まず、作者は正直そこまで犬夜叉に詳しくありません。劇場版四作品は全部観て、昔放送されていたアニメの方もリアルタイムで視聴していました。
ですが、原作漫画の方は読んでおらず、細かい設定などに関しましてはうろ覚えです。一応、今作を書くにあたりいくらか予習してきましたが、どこまで正しいか……正直自信がありません。
また、ゲゲゲの鬼太郎とクロスする関係上、話の内容は現代を中心に展開されます。
そのため、クロスさせる犬夜叉側の登場人物がある程度限定されます。
また、アニメオリジナルエピソードを参考にしていますので、原作派の人では分からない話の内容が出てくるかと思いますので、ご了承ください。
三話構成で話を進めていきます。どうかよろしくお願いします。
「——あなたが……ゲゲゲの鬼太郎さんですか?」
都内のとある公園。クマのぬいぐるみを抱きかかえた少女がゲゲゲの鬼太郎と向き合っている。
あどけない表情の女の子。どこか緊張した様子で小首を傾げる小さな依頼主に、鬼太郎の付き添いでやって来た猫娘が優しく語りかける。
「ええ、そうよ。私は猫娘。鬼太郎の仲間なの」
彼女は自身も名乗りながら、鬼太郎のことを紹介する。
「君が……ボクに手紙をくれたアミだね?」
鬼太郎は妖怪ポストを通じて送られてきた手紙を片手に彼女——アミと名乗った少女に会いにやってきた。手紙の字の拙さから差出人が子供であることは察していたが、思った以上に幼い依頼主に若干戸惑い気味の鬼太郎。
だが、すぐに気を取り直しアミからの依頼内容——『犬耳のお兄ちゃん』を捜して欲しいという話の詳細を尋ねる。
数ヶ月ほど前のことだ。
アミの住んでいるマンションで火災があり、彼女は運悪く火の手の上がる部屋の中に一人取り残されてしまった。消防隊が必死に救助活動を試みるも、火の勢いが激しすぎて近づくことも叶わなかった。
このまま自分は死んでしまうのではと、アミは炎に巻かれ絶望に泣き崩れた。
そんなときだった——彼が『犬耳の青年』が颯爽とその場に現れたのは。
消防隊員が怯み腰になる中、彼はたった一人でアミを炎の中から連れ出してくれたのだ。
「それでね! そのお兄ちゃん、頭に犬みたいな耳が生えてたの! 可愛かったな!!」
アミの話によれば、その青年には犬のような耳が生えていたとのこと。
しかし、少女がその耳に気づくと、青年は逃げるように立ち去ってしまったという。
「わたしね、そのお兄ちゃんにもう一度会ってお礼が言いたいの……助けてくれてありがとうって! この花飾りをプレゼントするんだ!!」
そのときにもキチンとお礼を言ったらしいが、今度はちゃんと向かい合って感謝を伝えたいと、少女は犬耳のお兄ちゃんを捜すことを決意した。
そしてあの犬耳から、ひょっとしたらあの人は妖怪さんだったんじゃないかと、アミは子供ながらに考え、噂を頼りに妖怪ポストに手紙を送ったという。
ゲゲゲの鬼太郎に、犬耳のお兄ちゃんを捜して欲しいとお願いするために。
「ああ、分かった。なんとか捜してみよう」
あどけない少女の願いに、鬼太郎は笑顔で頷く。
人間と妖怪の共存を密かに夢見る鬼太郎からすれば、今回のような依頼は寧ろ大歓迎だ。
純粋に感謝を伝えたいというアミの望むに応えるべく、鬼太郎はその依頼を引き受けていた。
「ケッ、相変わらず金にもならねぇ仕事ばっか引き受けてきやがって!」
ゲゲゲハウスに戻ってきた鬼太郎は、さっそくねずみ男からお小言を食らっていた。いつもいつも、報酬も受け取らずに人間たちからの依頼に応えているのが気に食わないのだろう。
ましてや、今回の依頼主はアミのような小さな女の子。報酬を騙くらかそうとも、払える金額などたかが知れている。ねずみ男は明らかにやる気なさそうに寝っ転がっている。
「別に手伝わなくてもいいわよ。誰もアンタに期待してないから」
ねずみ男と犬猿の中である猫娘は彼をつっけんどんに突き放す。ねずみ男の手など借りなくても困らないと、彼を無視して話を進めていく。
「それで……この絵が『犬耳のお兄ちゃん』ってやつの唯一の手掛かりってわけね」
「うむ、どうやらそうみたいじゃな……」
猫娘の疑問に茶碗風呂に浸かりながら目玉おやじが頷く。
実際にいざ犬耳の青年を捜すにあたり、鬼太郎たちはアミからその青年の『絵』を貰ってきた。それを卓の上に置き、一同が眺めて捜索対象を確認する。
しかし、この『絵』というのがまた癖ものだった。
「まあ、よく描けてるとは思うけど……」
「そうじゃな……しかし、クレヨンで描いたイラストでは限界があろう」
猫娘の懸念に酒を煽っていた子泣き爺が同意する。
そう、アミから貰ってきた犬耳の青年の絵とは——彼女がクレヨンで描いた似顔絵だった。
写真などなかったため、アミは記憶を頼りに手書きでイラストを描いた。これで捜せというのだから猫娘たちが不安になるのも無理はないだろう。
「いや、これはこれで特徴をしっかりと捉えておる。何も問題はなかろう」
しかし一同が不安になる中、砂かけババアは何も問題ないとアミの描いたイラストを手に取る。
子供の描いた絵ということもあり、ところどころ拙さが目立つイラスト。しかし、尋ね人の特徴はキチンと捉えている。
犬耳は勿論、長い髪の毛は銀色に塗りたくられ、服装も赤い着物と古風で目立つ格好だ。
「よし、手分けして捜そう。皆、すまないが手伝ってくれ」
鬼太郎も大丈夫と判断したのだろう。その絵を頼りに仲間たちにも協力してくれるように願い出る。
「ぬりかべ~!!」
鬼太郎の号令に、その場を代表するようにぬりかべが元気よく返事をした。
そうして、ゲゲゲの森の仲間たちにより、犬耳の青年の大捜索が始められた。
似顔絵を頼りに他の妖怪たちに聞き込みをしたり、ラインなどでイラストの写真を送ったり、カラスたちに頼んで東京中を隈なく捜索してもらったりと。
鬼太郎たちは思いつく限りの手段を用いて、青年の行方を捜した。だが——
「——ああ、もう! 全然見つからないじゃない!!」
猫娘がじれったい思いを込めて叫ぶ。捜せど捜せど影も形も見当たらない。手がかりの一つも掴めない状況にさすがの鬼太郎たちも困惑する。
「うーむ……これだけ特徴的な妖怪が近くに住んでおれば、誰かしら知る者がいると思ったんじゃがのう」
目玉おやじが困ったように腕を組んで考え込む。
鬼太郎はゲゲゲの森でも顔が利く方だし、その父である目玉おやじも妖怪に関する相当な知識量を保有している。しかし、そんな鬼太郎たちの人脈を持ってしても犬耳の青年の名前すら分からず、目玉おやじも彼のような妖怪に心当たりがない。
そのことに違和感を覚えた鬼太郎は、その場に集まった仲間たちに自身の考えを聞かせる。
「ひょっとしたら……この辺りに住んでいる妖怪じゃないのかもしれないな」
彼はこの犬耳の青年が近場に住んでいない、よそ者である可能性を指摘する。
たまたま近くを通りかかり、気まぐれで女の子を助けた。それならば、此処まで捜しても見つからない理由に合点がいく。
「少し捜索範囲を広げてみよう。皆に迷惑をかけるが、協力してくれないか?」
鬼太郎は捜す範囲を広げ、もう一度仲間たちに手伝ってもらえるように頭を下げる。
「しょ、しょうがないわね。ここまで来たら、最後まで付き合ってあげるわよ!」
猫娘は鬼太郎のお願いに頬をほんのり赤く染め、やれやれといった空気を出しつつも彼の力になることを了承。その他の面子も「何を今更と……」と、誰一人として途中で投げ出す者はいなかった。
砂かけババアも、子泣き爺も、ぬりかべも。カラスたちでさえ「カー!」と鳴き声で返事をする(ねずみ男は最初から金にならないと、参加していない)。
その場に集った皆が鬼太郎のため、アミのために犬耳の青年を見つけようと——。
「………あれ? そういえば、一反木綿はどこに行ったのよ?」
だが不意に猫娘が気付く。いつもの面子の中に色ボケふんどしこと、一反木綿がいないことに。
女好きの彼が、子供とはいえアミのような少女の依頼に応えないわけがないと疑問を抱く。
「なんじゃ、猫娘。気づいとらんかったのか?」
すると、猫娘の疑問に砂かけババアはあっさりと答える。
「一反木綿なら里帰りじゃ。一週間くらい前から鹿児島の方に行っとるぞ?」
「……全然気付かなかった」
特に一反木綿を目で追っていたわけでない猫娘は彼の不在を知らなかった。
一方で、空を自由自在に浮遊できる一反木綿がいれば、もう少し捜索も楽になっていただろうと残念がる。
彼の不在に「はぁ~」とため息を吐き、猫娘は鬼太郎たちと共に再び犬耳の青年を捜しにゲゲゲの森を後にしていた。
このとき、鬼太郎の『犬耳の青年は近くに住んでいない』という考えは、ある意味的を射ていた。
しかし、捜索範囲を広げたところで見つからない、見つかるわけもなかった。
何故なら『犬耳の青年』は現在、この国にはいない。
それどころか世界中のどこにも——この時代のどこにも、現時点において『彼』は存在していなかったのだから。
×
現代より、時代を五百年ほど遡る。
時は戦国——群雄割拠の乱世。
名だたる大名たちが覇を唱え、血生臭い戦を日常として繰り返す日々。世の中が暗い空気に満たされていた時代。
そういった時代の転換期は、特に妖たちの動きが活発になっていく。平然と人里を襲い、自由気ままに勝手気ままに人々を喰らい、苦しめていた。
「シャァー!!」
「ひ、ひぃええ! お、お助けぇえええええ!?」
とある農村。
この村にも怪異たちが早朝から姿を現しては、人間たちを喰らおうと徒党を組んで雪崩れ込んでくる。
兵士が守りを固める城や城下町ならいざ知らず、日々の暮らしを終えるのに精一杯の農民たちでは決して抗えるわけもなく、成す術もなく皆殺しの憂き目に合っていたことだろう。
だが、人間側も決してやられっぱなしでは終わらない。
彼らは妖怪の存在を脅威と認め、様々な方法、手段で妖怪たちから身を守っていた。
「——飛来骨!!」
男勝りの掛け声を上げながら、ポニーテールの少女が巨大なブーメランのようなものを妖たちに向かって投擲する。重量50kgほどの塊が矢のような勢いで飛んでくれば、いかに妖怪たちといえども簡単に防げる筈もなく、数体の化け物がその飛来骨によってまとめて薙ぎ払われる。
「おいで、雲母!!」
「ガウ!!」
少女はブーメランとして戻ってきた飛来骨を易々とキャッチし、側にいた子猫の名を叫ぶ。
少女の名は
「ちっ、何体か討ち漏らした……法師様! そっち行ったよ!!」
珊瑚は飛来骨で仕留めきれなかった数体の妖怪を雲母と共に追いかけながら、彼らが逃げた先に待ち構えているであろう仲間に向かって叫ぶ。
「任せなさい、珊瑚!」
法師と呼ばれた僧の男・
「——風穴!!」
弥勒の言葉のまま、彼の右手の平には『風穴』が空いていた。解放されたその穴はまさにブラックホールのようにあらゆるものを吸い込む。弥勒に襲い掛かろうとした怪異たちですら、抗う暇もなく全て飲み込まれていく。
「ふぅ、これで終わりですか?」
妖怪を吸い込み終えると、弥勒は素早くその穴を塞ぐ。風穴は強力な技だが、弥勒にも制御しきれない呪いでもある。使い過ぎれば敵はおろか、自分自身ですらいずれ呑み込んでしまう。
敵を全て倒し終えたと思い、弥勒はほっと安堵の息を溢す。
「いや、まだだよ。法師様!!」
しかし、警戒を緩める弥勒に珊瑚が呼び掛ける。彼女は弥勒を雲母の上に相乗りさせ、共に上空へと飛翔する。
「おっと、まだこんなにもいたのですか。まったく、どこから湧いてくるのか」
空からだとよく分かる。妖怪たちがまだまだ大量にひしめき合っているのが。
村の外から、さらに多くの妖たちがすぐ側まで押し寄せている光景がそこにはあった。
「まずいですね。あれが押し寄せてくれば村は壊滅ですよ」
焦りを口にしながらも、冷静に分析する弥勒。
あの妖怪の群れが押し寄せてくれば、彼らが守ろうとしている村が滅んでしまう。人の避難はほとんど済んでいるが、農作物に被害が出ればそれで全て台無しだ。
何とかあの群れを阻止しなければと、そう考えていたところで珊瑚があることに気付く。
「!? 法師様、あんなところに子供たちが!!」
「逃げ遅れがいましたか!!」
村の中に逃げ遅れていた子供たちを見つけたのだ。姉妹なのだろうか、二人の女子が体を震わせながら身を寄せ合っている。
珊瑚と弥勒は慌てた様子で彼女たちの元へ駆け寄ろうとした。
「——おらに任せろ! 変化!!」
だが彼らが駆けつけるより先に、幼い少女たちに駆け寄る男の子がいた。
一見すると人間の子に見えるが、お尻に狐の尻尾を生やしており、変化の一言で子供は一瞬で巨大なピンク色の風船に化ける。
そのまま、風船は女の子たちを乗せて上空へと避難する。
「でかしましたよ、七宝!」
女の子たち助けた手際に、弥勒がその男の子を褒める。
その子供の名は
狐妖怪はあらゆるものに化けることができ、化けた姿である程度の力を行使できる。風船に化ければふわりと中に浮かべるし、鳥に化ければ翼を使って空を羽ばたくこともできる。
「ひぃっ!! き、きた!?」
しかし、七宝はまだまだ子供。化けれる範囲も、化けて出来ることにも限界があり、押し寄せてくる妖怪の群れ相手に大慌てで戦線を離脱していく。
「さて、あとはあの群れをどうにか出来れば……」
避難していく七宝たちを見送りながら、弥勒がシリアスな顔で残党をどう片付けるか思案にふける。しかしその台詞には今ひとつ締まりがない。
「そうだね……って、どこ触ってんのよ!!」
真面目なことを考えつつ、弥勒の手が珊瑚の尻をいやらしく撫でていたからだ。
隙あればスケベなことをしてくる彼に、珊瑚はいつものように容赦のない平手打ちをお見舞いする。
二人が極めて個人的なことで揉めている間にも、怪異たちは村のすぐ側まで押し寄せている。
あと数歩で村の敷地内に侵入してくる。その事実に弥勒たちが肝を冷やしかけた——その直後。
妖怪たちの横合いから放たれた矢が、今まさに村に入り込もうとした妖たちに突き刺さる。
「があああああ——!?」
その矢の威力に、苦しみに悶える邪悪なものたち。放たれたのが通常の弓矢であれば、彼らもここまで苦しむことはない。しかしその矢は退魔の力が込められた『破魔の矢』だ。邪気を祓う強力な力が彼ら悪鬼の瘴気を払う。
「かごめ様!」
「かごめちゃん!」
「かごめ!!」
待ちかねた援軍に弥勒、珊瑚、七宝が一斉に矢の放たれた方角を振り返る。
彼らの視線の先には、明らかに戦国時代に似つかわしくない格好——セーラー服を着た少女が立っていた。
彼女の名は日暮かごめ。
現代からこの五百年前の戦国時代へとタイムスリップしてきた、中学三年生の少女である。
「いっけぇええ!!」
神秘が薄れた現代人でありながらも、高い霊力を宿した彼女は凛とした構えでさらに弓矢を放ち、妖怪の群れを突き崩す。
「ぐぁあああああ!!」
破魔の矢の威力にたまらず除ける妖怪たち。彼らはかごめの存在を脅威と認識したのか。標的を無人の村から彼女一人に変更し、まっすぐと突き進んでくる。
土砂崩れの如く押し寄せてくる妖の群れを相手に、さすがに矢の数が不足している。かごめ一人ではどうやっても、あの妖怪たち全てを相手取ることはできない。
だが、押し寄せてくる妖怪の群れ相手に、かごめはまったく怯まない。
その光景を見届ける仲間たちも、一切心配する様子を見せない。
「——来たわよ、犬夜叉!!」
何故なら、彼女は信じてるから。
自身の隣に立つ仲間を。犬夜叉のことを——。
「おう! 待ってたぜ!!」
かごめの信頼に応えるように、犬夜叉と呼ばれた青年が妖怪たちの前に立ち塞がる。
銀色の髪が腰まで伸び、赤い着物『火鼠の衣』を纏っている。そして、頭には犬のような耳——その耳は彼が人間でも、妖怪でもない『半妖』であることを示す証だ。
犬夜叉は不敵な笑みを浮かべながら、懐に差していた妖刀『
「——風の傷!!」
鉄砕牙から放たれる衝撃波——風の傷。
その一撃は『一振りで百の妖怪をなぎ倒す』強烈なもの。
「ぐわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
犬夜叉の放った衝撃波により、何十体と残っていた妖怪たち、その全てが粉々に吹き飛ばされる。
「やったわ、犬夜叉!」
「けっ、これで終わりかよ。大したことねぇな」
全ての脅威を完全に退け、かごめと犬夜叉は互いに笑みを浮かべあっていた。
犬夜叉、かごめ、七宝、弥勒、珊瑚、雲母。
半妖に人間、妖怪と種族の違いがこそ目立つ一行だが、彼らはこの戦国の世を共に旅をする仲間だ。
彼らは共通の宿敵である半妖・奈落を打ち倒すため。そして『四魂の玉』と呼ばれる宝珠。ひょんなことから各地に散らばってしまった、その欠けらを全て回収するために日本中を巡っている。
その旅の道中、彼らは妖怪に狙われているという農村を訪れ、村人のために妖たちを退治していた。
これまで多くの強豪妖怪を打ち倒してきただけあって、そこいらの妖など彼らの敵ではない。
易々と退治し、村人から気持ちばかりの謝礼を頂く。それで終わる話だった。
だが、問題は——妖怪たちを退治したその後に起こったのである。
×
「——帰れ!!」
「……!!」
無事に妖怪たちから、村を守り抜いた犬夜叉たち一行。
しかし、そんな彼らに村人たちが浴びせたのは称賛でも、お礼でもなく、拒絶の言葉だった。
村人たちを代表し、村長が激しく犬夜叉たちを罵倒する。
「まさか半妖連れだったとはな! そんな汚らわしい奴を平然と連れ回すとは……恥を知れ!」
村長が何より問題視していたのは、半妖である犬夜叉の存在である。
戦国の世は人と魔の距離が近しい時代だ。妖怪の存在を人間たちは当たり前のように認知していた。それ故、かごめたち人間が、純粋な妖怪である七宝や雲母を仲間として連れていること自体はある程度許容されていた。
だが、そんな時代の中でも半妖である犬夜叉は稀有な存在である。
人と妖怪との間に生まれた彼らは、どっちつかずの半端者として、人間からも妖怪からも忌み嫌われている。特にこの村の住人はその傾向が強かったらしく。犬夜叉が純粋な妖怪でないと知った途端、手の平を返すように態度を豹変させる。
「犬夜叉……抑えてよ」
「わってるよ。もうガキじゃねぇんだ。今更だぜ、この程度……」
村人たちの心ない言葉に、かごめは犬夜叉のことを気遣いつつ、怒りを抑えるように言い聞かせている。喧嘩っ早い犬夜叉ではあるが、彼にとって半妖であることを蔑まされるなど、もはや日常茶飯事。
いい加減飽きた。というより、相手にしたくないという気持ちが強く、村人たちの批判を無視して聞き流す。しかし——。
「まったく! 何故お前らのような半妖が生まれてくる? 母親は人間か? 妖と交わるなど……汚らわしい女じゃ!!」
「!! んだと!? テメェ、もっぺん言ってみやがれ!!」
自身の母親・十六夜への侮辱の言葉には、犬夜叉も我慢できなくなってしまう。怒りに身を任せ、鉄砕牙を抜いては威嚇するように村長に刀の切っ先を突きつける。
「ひっ!? な、なんだ! わしは間違ったことは言っておらんぞ!?」
犬夜叉の憤慨するさまに怯えつつも、自分は間違っていないとさらに吐き捨てる。そんな村長の態度に犬夜叉はおろか、かごめや他の仲間たちですら怒りを隠しきれない様子で彼を睨み付ける。
しかし、余計な揉め事を起こしたくはなく、かごめたちはなんとか犬夜叉を宥め、早々にその村を後にしていた。
「なんなんじゃ、あいつらの態度は! おらは久しぶりに腹が立ったぞ!!」
村を立ち去ってすぐ。道中を歩きながら狐妖怪の七宝が、先ほどの村人の態度に地団駄を踏む。
普段から犬夜叉と子供の喧嘩を繰り返しては泣かされることの多い七宝だが、それでも犬夜叉は大切な仲間だ。仲間をああまで侮辱され、愚痴を溢さずにいられるほど大人ではない彼は、誰よりも感情を露わにして怒りを口にする。
「そうだね。いくらなんでも、あそこまで偏屈な連中はかえって珍しいよ」
妖怪退治屋の珊瑚。小さくなった雲母を優しく撫でながら、彼女も村人への嫌悪を隠しきれない。
仕事柄、妖怪に困らされている人々と接する機会が多い彼女は人間が妖怪を恐れ、彼らを遠ざけようとする考えにはある程度の理解もある。
しかし、純粋な妖怪にではなく、半妖にだけあそこまで拒絶の意思を抱く相手にあまり出会ったことがなく、やや困惑している。
「……半妖に対する偏見や差別は国や地域によって違いもありますからね。ああいった者たちがいるのも、仕方がないことかもしれません」
一方の弥勒は、村人たちの思考に一定の理解を示す。
法師として各地を巡ってきた経験の多い彼は、様々な考えを持つ人々と交流し、その土地ごとによって差別や偏見を持つ者がいる現実を思い知っている。
一行の中でも、いくらか冷静に今回の一件を捉えていた。
「昔から根深いところで続いている問題ですからね。我々個人で出来ることには限界がありますよ」
こういった問題は数百年と続いている。いかに犬夜叉たち一行が強かろうとも、そう簡単に解決できるようなことではない。
それこそ国単位、歴史単位で人々の意識を変えていく流れを作らなければ、いつまで経ってもなくならない。
「…………」
弥勒は少し先を歩く犬夜叉、その隣を寄り添うように続くかごめの方に目を向ける。
「あの二人のように、互いに理解し合う関係になるには……相当の年月がいるでしょう」
犬夜叉と日暮かごめ。半妖と人間。まだまだ互いの気持ちに揺れる想いもあるが、仲間である彼らから見て二人は『良い関係』を気づいているように見える。
しかし、そういった理解の深さを他の人間に同じように求めるのは無理がある。所詮個人の感情など、社会の大勢の前ではただの少数派として黙殺されてしまう。
「せめてこれから先、犬夜叉のような半妖が大手を振って歩けるような未来がくればよいのですが……」
自身でそのような意見を口にしつつ、それが途方もない理想であることを弥勒は自覚する。
人と妖怪が手を取り合い、半妖の存在が認められて受け入れられるようになるには、途方もない月日が必要になるだろう。
あるいは、そんな日は永遠に訪れないかもしれない。
先ほどの騒動の後では、尚更そう思ってしまうのが現実だ。
「あんまり気にしちゃ駄目よ、犬夜叉」
「………」
かごめは現代から持ち込んできた自転車を引きながら、犬夜叉の隣を一緒に歩く。先ほどの村長の言葉に傷ついているであろう、犬夜叉に彼女は優しく声を掛ける。
「お母さんを侮辱されて怒る犬夜叉の気持ちはわかる。けど、そのたびに刀を振り回してたら、それこそ逆効果よ」
彼女は全面的に犬夜叉の味方をしつつも、すぐに怒って刀を振り回す彼の短気さを嗜める。あんなことを続けていては、それこそ誰も犬夜叉を信じなくなってしまう。
犬夜叉自身のためにも、かごめは彼にもっと堪えることを覚えて欲しかった。
「うるせぇな……おめえには関係ねぇことだろう。ちょっと黙ってろ!」
機嫌の悪さを隠しきれない犬夜叉はかごめの言葉に聞く耳を持たず、その態度にかごめも思わずムッとなってしまう。
「な、なによ! 人が心配してあげてるのに!!」
かごめは、あくまで犬夜叉のことを想って忠告を口にしていた。それなのに彼はそんなかごめの気持ちを察せず、自身のイライラを彼女へとぶつける。
「余計なお世話だ!! 人間のお前に何が分かるってんだ!!」
「——!!」
犬夜叉の叫びにかごめは息を呑む。
いつもであれば、そこで彼女もすかさず言い返していただろう。売り言葉には買い言葉と、もう何度目か数えるのも馬鹿らしいほどの口喧嘩に発展していたことだろう。
だが今回、犬夜叉の抱いた怒りには彼自身の立場——半妖であることが直結している。
犬夜叉は幼少期の頃から半妖であることを理由に辛い経験をしてきた。その苦しみはたとえ彼と通じ合っているかごめですら、正しく理解することはできない。
そこに思わず疎外感を感じ、彼女は暗い気持ちから思わず立ち止まる。
「犬夜叉……」
先を歩く犬夜叉の背中。
それがどこか遠いものに見え、かごめの胸の奥は締め付けられる想いだった
×
時代を再び、現代に戻す。
半妖はおろか、純粋な妖怪の存在すら大きく減少した二十一世紀。
常に妖怪に襲われる恐怖に怯えていた戦国時代の常識が過去のものとなり、人間たちは我が物顔で世界を支配していた。人口を爆発的に増やし、山野を切り崩し、自分たちの住みやすいように周囲の環境を作り替えていく。
大都会・東京。この国の中枢であるこの街も、昔と比べてだいぶ様変わりした。戦国時代の面影など微塵もなく、巨大な建物がズラリと居並ぶ光景。
もしも過去の時代の人間がタイムスリップしてこようものなら、どこか異国の地と誤解することだろう。
「……たく、何度来ても目眩がするような光景だぜ」
実際に戦国時代から現代にやってきた彼・犬夜叉もその一人だ。街中を堂々と歩きながらも、ここが本当に未来の日本の姿なのか、いまいち信じきれない気持ちで周囲を警戒する。
「………何で学校までついて来ようとするのよ、はぁ~」
隣を歩くそんな犬夜叉の様子に、元々この時代の人間である日暮かごめはため息を吐く。
犬夜叉は帽子を被って犬耳を隠してはいるものの、服装はいつも通りの真っ赤な着物だ。銀髪のうえ、さらに裸足で道を歩くその姿は警官に不審者として職質されても文句は言えない立場である。
かごめと犬夜叉。共に戦国を旅する仲間たちの中で、唯一二人だけが現代と戦国。二つの時代を往来することが出来ていた。
かごめの実家の神社にある『骨喰いの井戸』と呼ばれる古びた枯れ井戸。そこが犬夜叉のいる戦国と、かごめの住む現代を繋ぐ、タイムマシーンのような役割を果たしている。
何故、時代を行き来できるのか? どうしてかごめと犬夜叉の二人だけなのか?
色々と疑問は尽きないが、そこを深く考えることはせず、かごめは現代と戦国——二つの時代の二重生活を送っている。
「いい、犬夜叉!? 今日は大事なテストがあるんだから、アンタは大人しく家で待ってなさいよ!」
そして、ここ数日はかごめの通う中学校で大事な学力テストが実施されていた。
一応、今年が受験生のかごめはこのテストを受けるために現代に帰還中。少なくとも、今日一日はこちらにいるつもりだった。
「ちっ、わったよ。終わったらすぐに戻ってくんだぞ、かごめ!!」
しかし、それにどこか不満げな犬夜叉。彼はかごめが現代に戻ることを嫌がっており、少しでも我慢できなければ彼女を追いかけて戦国時代からすぐにこっちにやってくる
早くかごめを自分の時代に連れ帰ろうと必死だが、彼女にだってこちらの生活があるのだ。
「もう、無茶言わないで! 私だって、こっちでやらなきゃならないことがいっぱいあるんだから!」
テストもそうだが、学校を休み過ぎたせいで出席日数がかなり危ない。仮病を使っているため、周囲からも何やら訳の分からない奇病にかかっていることにされ、その誤解を解くのにも一苦労だ。
旅に必要な食料品、医療用具もこっちで買い揃える必要がある。犬夜叉の要求においそれと応えることはできない。
「犬夜叉こそ、街中をフラフラと歩き廻んないでよ!?」
逆にかごめの方が犬夜叉に迂闊にうろつくなと、きつく言い聞かせる。
「それと……草太から聞いたわよ! この間、うちの庭で刀振り回してたんですってね!?」
さらに彼女は、家での犬夜叉の問題行動についても言及していく。
草太というのは、かごめの実の弟だ。彼曰く、犬夜叉はかごめの実家の庭先で鉄砕牙を振り回し、危うく飛行機に風の傷を命中させかけたことがあるらしい。
彼女の実家の神社には幸い隣接する民家がないため、多少の騒ぎならどうにか誤魔化せるが、さすがに飛行機なんて墜落させた日には——犬夜叉は凶悪犯扱い、現代にいられなくなってしまう。
「ここは戦国時代とは違うの。むやみやたらに刀なんて振り回さないで!! いいわね!?」
「お、おう……」
かなり強めに叱り付けたおかげか、犬夜叉は大人しく頷く。
相手が自分の言ったことをキチンと理解したか不安なかごめだが、これ以上は学校に遅刻してしまう。
「それじゃ、行ってくるから!」
とりあえず犬夜叉のことを信用し、実力テストという現役の中学生としては決して避けては通れぬ難敵に挑む。
彼女は急ぎ、学校へと駆け出していった。
「……ちっ、かごめの野郎。俺だって、少しは学んでんだよ」
かごめの立ち去る背中を見送りながら、犬夜叉は不満そうに愚痴を溢す。
こっち側に来るたび、なんだかんだで犬夜叉は常にかごめから説教を食らってきた。
やれ、あれは危険なものじゃない。やれ、犬耳を隠せだのと。こちらの時代の常識を持たぬ犬夜叉に何度も何度も。しつこいようにかごめは言い聞かせてきた。
その甲斐もあり、犬夜叉はこちら側での常識をしっかりと身に付けた(と本人は思っている)。
いつまでも右も左も分からぬガキではないと、彼はかごめの実家へと引き返す。
これ以上、かごめから口煩く説教されぬため、彼女の帰りを大人しく待つことにしたのである。
そう、戦国時代から現代にやって来た犬耳の青年『犬夜叉』。本来であれば、彼はこの時代にはいない異物だ。
普段は戦国時代にいる彼を、現代の妖怪である『ゲゲゲの鬼太郎』たちが捜そうとしたところで、見つかる筈もないのが道理である。
しかし、何の因果か。この日一日、犬夜叉はこちらの時代に留まることになった。
それにより、本来は起こり得ぬ会合が両者の間で交わされることと相成ったのである。
犬夜叉側の登場人物。
犬夜叉一行
弥勒
右手にブラックホール『風穴』を持つ法師。
彼に限らず、犬夜叉一行の出番はこの一話目の部分が最初で最後。
劇場版でいつも珊瑚の尻を撫でるのがお約束となっているエロ坊主。
珊瑚
妖怪退治屋の衣装がボディスーツで中々エロいお姉さん。
愛用の武器である『飛来骨』が50㎏はあると今回調べて初めて知った。
どんな怪力やねん……。
七宝
狐妖怪の子供。様々なものに変化し犬夜叉たちをサポートする。
ただ化けるだけじゃなくて、化けた先の能力が使えるって地味に凄い気がする。
雲母
猫又の妖怪。猫娘と出会えば猫語で会話できそうですが、話の都合上実現はしません。
ほんと……出番が少なくて済みません。
現代の人々
草太
かごめの弟。小学三年生。犬夜叉を犬の兄ちゃんと慕っている。
アミちゃん
名前はこちらで考えました。
アニメのエピソード82話『現代と戦国のはざま』で登場した女の子がモデル。
今回のクロスを考えるにあたり、どのような話にするか現代の話を検索。
彼女の存在が目に入り、それを元にしてクロスを考えることにしました。
今回のクロスでは彼女がキーパーソンになります。
一話目はクロスが控えめですが、二話以降からちゃんと両作品のキャラを絡めていきますので、続きをお楽しみに。