ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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ちょっと『鬼太郎』と『ぬら孫』の小説を同じ日に投稿しようとして、間違って鬼太郎の方にぬら孫の最新話を投稿してしまいました!
既に修正済みですが、混乱された方もいたみたいなので、この場を借りて謝罪させていただきます。本当に申し訳ございません!


さて、本編の方ですが読む前に軽く注意点。
FGOで刑部姫の話を見たことがある人なら分かると思いますが、刑部姫の一人称は『姫』と書いて『わたし』と読みます。
全てにルビを振るのがちょっと手間だったので、最初以外は全て『姫』とだけ記載してますので、どうか混乱なさらないようお願いします!


そういえば、活動報告の方で『これまでにコメント欄で呟かれた、クロスして欲しいオススメ作品』をリストアップしておきました。どうか参考にしてみてください。



白鷺城の刑部姫 其の②

 刑部姫という妖怪は——オタクである。

 彼女はアニメやゲーム、ラノベなどのポップカルチャーに明るく、彼女自身も同人活動に勤しんで漫画を執筆している。

 当然ながら、毎年開催される同人界の一大イベント『コミックマーケット』にも欠かさず参加していた。

 

「いや~、今回も大量大量! 売り上げも好調だったし! 次の冬コミまで引きこもってよう、うしし!」

 

 夏コミの帰り道のことである。

 彼女はゲットした戦利品を両手に抱え込み、珍しくウキウキ気分で街中を歩いていた。基本ひきこもりの身ではあるが、コミケだけは別腹と刑部姫は苦しくも楽しかった四日間の余韻に浸っていた。

 

「ああ……楽しかったけど、やっぱ疲れたな……よし、早く帰ってゲームでもしよっと! ……ん?」

 

 しかしその帰り道での道中、彼女の視線がふと道の外れに向けられる。

 

「う、うああ……腹減った……」

 

 彼女がそこで見たもの、それは空腹のあまり道端で転がっているボロの布切れをまとった男——ねずみ男であった。道行く人々はその風体から距離を置き、誰も彼を介抱しようとはしない。

 そう、ねずみ男の浮浪者のような姿を前に、極力関わり合いになりたくないと誰もがそう考えていた。

 勿論、刑部姫も普段なら絶対に近寄ったりしなかっただろう。

 

「……ねぇねぇ、そこのキミ」

「あん……だ、誰だ?」

 

 だが、このときの刑部姫は普段よりテンションがかなり高かった。

 浮かれていた感情の赴くまま、ねずむ男に気まぐれに声を掛ける。

 

 

 

 

「いや~……助かったぜ! 三日ぶりの飯だ!」

「うんうん、じゃんじゃん食べちゃって構わないよ! どうせ食べ放題だから、いくら食べても姫の懐は痛まないからね!」

 

 ねずみ男は刑部姫に礼を述べながら目の前の料理にがっつき、刑部姫も別に構わないとニコニコと笑顔を振りまく。

 現在、刑部姫がねずみ男を連れて来店したのは近くの飲食店、それも激安食べ放題のチェーン店である。この店は最初に人数分の料金を払いさえすれば、いくら食べても値段は一緒。

 太っ腹に奢ったように見えて、きっちり節約するところはしている刑部姫。彼女自身も食事をしながら適当にねずみ男の話を聞いていく。

 

「へぇ~……じゃあ、キミってば半妖なんだ。何だかんだで実物は初めて見たかもしんない」

 

 会話の最中、ねずみ男は自身が半妖であることを何気なく明かし、刑部姫を地味に驚かした。

 半妖——人間と妖怪の種族を越えた、禁断の愛の末に生まれる半端者。もっとも、刑部姫にとってそれは創作物のネタとしての方が馴染み深い。

 二次元の世界では色々と萌えたり、燃えたりするシュチュエーションだが、本物の半妖を前にしたところで特に興奮も嫌悪感も覚えない。

 適当な相槌でねずみ男の話に合わせ、自分も妖怪・刑部姫であることを明かす。

 

「刑部姫……聞いたことねぇな。どこの田舎妖怪だ?」

「はは、予想通りの反応。まあ、別にいいけどさ……はぁ~」

 

 だが、刑部姫の名を聞いたところでねずみ男はピンとこなかったようだ。その反応にがっかりと肩を落とし、彼女は盛大にため息を吐く。

 

 刑部姫は日本が世界に誇る城・姫路城の真の主。しかし、彼女という妖怪が姫路城に棲んでいることを知る現代人は意外と少ない。昔はそれなりに知名度もあった筈だが、妖怪という存在そのものが信じられなくなるにつれ、人々は次第に彼女という存在を忘れさっていくようになった。

 

 そのことに憂鬱な気持ちを感じつつも、それでも刑部姫は日々を過ごすことができていた。

 自由気ままなひきこもり生活、そして我欲に塗れた同人活動によって。

 

 

 

×

 

 

 

「しかし、何だって俺を助けてくれたんだ? 自分で言うのも何だが、一銭の特にもなんねぇだろうに……」

 

 飯もほとんど食い終わり、一息入れるねずみ男。彼は食後の一杯を口にしながら、刑部姫に率直な疑問を投げ掛けていた。

 

 それは刑部姫が何故自分を助けてくれたのかという、素朴な疑問である。

 

 基本的に損得感情で動くねずみ男は、人の善意というものをそこまで信用していない。特に現代人は冷たい傾向があると強く感じており、どことなく現代臭を漂わせている刑部姫のことを理由もなく信用することはできない。

 何か企みがあるのではと、ついつい刑部姫が自分を助けた行動の裏を疑ってしまう。

 

「いやだな~! 困っている人を助けるのは当然じゃん! ははは!!」

 

 だが、ねずみ男の疑惑に刑部姫は裏表のない笑顔を浮かべる。

 実際、刑部姫に魂胆などなく、気まぐれではあるが彼女は純粋な善意からねずみ男に手を差し伸べていた。

 それを言うのも——

 

「いや~! 実はこの間まで連載してたシリーズがようやく完結してさ~! (わたし)ってば、自分でも引くほど機嫌がいいんだよね!!」

 

 そう、刑部姫の機嫌がいい理由——それは彼女の描いていた同人誌。そのシリーズが無事に完結した達成感によるものである。

 刑部姫が同人活動においてずっと続けていた漫画、その最終巻を今回のコミケで無事出版することの出来た喜びに彼女は打ち震えていたのだ。

 彼女なりに自分の描きたいことを全て詰め込んだ自信作の完走に刑部姫はすこぶる機嫌が良く、柄にもなく人助けなどしてしまっていた。

 

「……連載? 何だ、アンタ漫画家か何かか?」

 

 刑部姫の言っていることをねずみ男はいまいち把握しきれず、そんなことを聞いてくる。

 

「漫画家じゃないよ。所詮姫はアマチュアだけど……あっ! 何なら見てみる? 姫の自信作!!」

 

 すると刑部姫は有頂天な気分のまま、自身の描いた同人誌(一般向け)をねずみ男に差し出す。自分のこの幸せな気分を少しでも理解して欲しいという気持ちからの行動である。

 

「ふ~ん……何か薄っぺらい本だな……こんなんで売れんのか? まあ……絵自体はよく描けちゃいるが……内容はさっぱりだぜ」

「む……!」

 

 しかし、刑部姫の自信作に感銘を受けた様子はなく、ねずみ男は無感情にページを捲っていく。

 その態度に、少しカチンと気分を害する刑部姫。

 

「何よ! 素人の遊びだと思ってバカにしないで頂戴よ!!」

 

 ねずみ男の発言を『同人誌のことなど何も知らない無知さ』からくるものであると考え、刑部姫はついつい素人相手に同人誌がどれだけ注目され始めているジャンルなのか、柄にもなく熱く語ってしまっていた。

 

 

 もともと、同人誌というのは文学などで作家が自由に作品を発表するために用いられた手段であり、それをきっかけにデビューする文豪だって沢山いた。その例に漏れず、現代でも漫画やラノベなどの同人誌を発表し、そのままプロの仲間入りを果たす作家だって少なくない。

 さらに言えば、現役のプロとして活躍している作家も、自費で同人誌を出版して収益を得ているものもいるくらいだ。出版社を通さずに作品を売りに出せるため、下手な商業誌で連載するより一冊当たりの利益が大きい。

 さすがに、すべての同人作家が純利益を出せるほど甘い世界ではないが、場合によっては商業的な活躍も見込める。

 既に同人誌の世界は趣味の範囲を越え、商売として成り立たせることも可能なのだ。

 

 

「ほう! そんなに儲かるのかい!?」

 

 刑部姫の説明に、ねずみ男の耳が都合のよい話だけを拾い上げる。金儲けに余念がない彼は、同人誌で一攫千金を狙える可能性があるかもしれないことに、すぐさま反応した。

 

「だったらよ、刑部姫! 俺と組まねぇか!? お前の描く同人誌……俺が高値で売り捌いてやるよ!」

「へっ……?」

 

 さっきとは打って変わり、ノリノリの雰囲気で自分を商売に誘ってくるねずみ男に戸惑う刑部姫。もともと押しの強くない彼女は、男の人に迫られて咄嗟に言葉が出てこなくなってしまう。

 それでも、何とか自分の意思でねずみ男の提案を断ろうとした。

 

「いや、別に姫はそこまでガチで稼ごうとしてるわけじゃないし……あくまで趣味の範囲だし。それに、当分の間は創作活動はしなくてもいいかなって、思ってたとこなんだよね……」

 

 そう、刑部姫自身はあくまで趣味の範囲で同人誌を描いており、利益はまったく追及していない。

 それに——今回のコミケで長い間連載していたシリーズものをひとまず完結させてしまった。その達成感から、暫くの間は創作活動に頭を使いたくないという反動が出てしまっている。

 当分は何も考えずに引きこもりたいと、既に惰性を貪るつもりで頭を切り替えていた。

 

「いやいや、そう言わずによ! 何か描いてみねぇか!? 損はさせねぇからよ!!」

 

 しかし、せっかくの機会、せっかく見つけた金づるを手放したくないと。ねずみ男は刑部姫にしつこく食い下がり、なんとか何か描いてもらえないかと、説得を続けていく。

 

「う~ん……何かって言われてもね……」

 

 ねずみ男に誘われ続け、刑部姫は乗る気ではないものの一応考えてみる。しかし、やはり原時点で彼女の方に『描きたいもの』というものがなかなか思い浮かんでこない。

 

 同人界において、その時々の流行に乗るという流れがある。その時代ごとに流行ったゲームやアニメ、テーマに乗っかった方が多くの人が本を手に取り、売上も上がるからだ。

 しかし、刑部姫は基本そう言った流行には乗らない。同人活動が趣味でしかない彼女は、自分の描きたいものしか描かないのである。

 そして少なくとも、今の段階で刑部姫の中に描きたいと思わせるほどの『何か』は存在しない。

 

「そうだ! ねずみ男。きみスマホで写真とか撮ったりしてない? ちょっと見せてくれると助かるんだけど」

「えっ? ああ、別に構わねぇけど……」

 

 そこで刑部姫が要求したのは、ねずみ男のスマホを見せてもらうことだ。

 自分の中に思い当たるものがなければ、他者の中から何かヒントとなるような題材を見つけ出す。単純な資料探しとして、ねずみ男がこれまでに撮ってきた写真など適当に眺めていく。

 

「ふ~ん……やっぱ半妖ってだけあって、結構妖怪とか写ってるね……あ、人外系とか!? う~ん……けどな……」

 

 予想どおり、写真の中にはねずみ男がそれまでに出会ってきた妖怪たちの姿などが写り込んでいた。その写真から刑部姫は即座に『人外系』『擬人化系』など様々なシュチュエーションを脳内で思い浮かべる。

 だが、いまいちピンとこない。さすがにそう簡単に「これだ!」と思えるアイディアなど浮かび上がってくるものではない。

 やはり断るべきかと刑部姫がそう思い立った——そのときである。

 

 彼女は一枚の写真を前に、スマホを操作する手を止める。

 

「ん? この男の子、誰よ?」

 

 彼女の目に止まったのは、時代錯誤にもちゃんちゃんこを纏い、下駄を履いた男の子だ。

 他に写っている妖怪たちとも毛色の違う、少年の存在感に思わず視線を釘付けにされる。

 

「ああ! そいつはゲゲゲの鬼太郎! このねずみ男様の大親友さ!!」

「へぇ~、この子が噂の……初めて見たかも」

 

 ねずみ男は自慢げに鬼太郎のことを紹介し、調子の良い彼の言葉に刑部姫は感心したかのように息を吐く。

 一応、ひきこもりの刑部姫の耳にも、ゲゲゲの鬼太郎の噂は届いている。

 

「…………BLも悪くないね」

 

 その鬼太郎の写真とねずみ男を見比べ、そんなことを静かに呟くも、やはりまだ決定打にはならない。

 

 引き続きスマホの写真を見ていく刑部姫。

 するとついに——彼女は『例のあの人物』が写り込んでいる画像に辿り着いた。

 

「!! ね、ねずみ男くん……こ、こちらの女性はどこのどなたでしょうか!?」

「あん? ああ! そいつは猫娘っていって、いっつも俺の邪魔ばかりしてくる嫌な女さ!!」

 

 そこに写っていたのはゲゲゲの鬼太郎——の背中を見つめる長身の女性。ねずみ男はすぐにそれが猫娘という妖怪であることを教え、彼女への愚痴を刑部姫に溢す。 

 ねずみ男は自身の天敵である猫娘のことを悪くいうばかり。だが残念ながら、刑部姫の耳に彼の言葉は届いていない。

 

「こ、この子!? ま、間違いないわ!!」

 

 刑部姫が注目したのは猫娘の顔、仕草、その身に纏う空気。鬼太郎の背中を見つめる熱っぽい視線に、ほんのり朱色に染まるその表情である。

 写真越しでも理解できてしまった。彼女、猫娘が——ゲゲゲの鬼太郎に恋をしていることを。

 

 さらに刑部姫ほどの妄想力があれば、彼女が鬼太郎への想いをなかなか告げることができず、いつもつっけんどんな態度しか取れず、そのことを人知れず後悔する日々を送っていることまで、全てお見通しである。

 そのシュチュエーションに、かつてないほどの『萌え』を感じとった刑部姫。

 

「ツンデレ……オネショタ……幼馴染み……届かぬ想い……!!」

「お、おい……どうした急に!?」

 

 妄想の世界にトリップし、突然意味不明なことを呟き出す刑部姫にねずみ男が呼びかける。

 だが、一度火のついた彼女の妄想力を止めることは誰にも叶わない。

 

 

「——こ、これよ!! これだわ!!」

 

 

 その日、刑部姫は運命に出会った。

 

 

 

 

 その後。すぐに姫路城へと帰還した刑部姫は、何かに取り憑かれたように同人活動を開始。

 自身の脳内に浮かび上がった妄想、それを漫画という形に収めるべく一心不乱にタッチペンを動かしていく。

 

「な、なんなんだ、いったい……」

 

 刑部姫の仕事ぶりを見学するため、姫路城にお邪魔していたねずみ男。鬼気迫る表情で同人誌を書き殴っていく刑部姫の姿に人知れず戦慄する。

 

「——で、できた! 出来たわよ……ねずっち!!」

 

 そうして、不眠不休で三日間。ついに記念すべき——『キタネコ本』の一冊目が完成した。

 いかに妖怪といえども、いかに刑部姫がひきこもりのニートといえども、この製作速度は恐るべきスピードである。

 

「な、なんじゃこりゃ!? こんなもん売れるわけねぇだろ!!」

 

 出来上がった原稿にチェックを入れるねずみ男は、その内容にダメ出しする。

 鬼太郎と、よりにもよってあの猫娘がイチャコララブラブしている漫画に需要などあるわけないと。少なくともねずみ男はそう考えていた。

 

「うるさい! つべこべ言わずにちゃっちゃっと印刷所に行ってきなさい!!」

 

 だが刑部姫は取り合わない。ねずみ男に指示を出し、すぐに別の同人誌——新たなキタネコ本の製作に打ち込んでいく。

 

「……くそっ、人選をミスったか? 仕方ねぇな……」

 

 そのときになって、ねずみ男は刑部姫に頼んだのが間違いだったかと後悔する。一応物は試しに印刷所に原稿を持ち込むが、まったく期待していなかった。

 売れ残るのを恐れて発行部数も控え目に注文し、この事業から早々に手を引く準備もしていた。

 

 ところが、ねずみ男の予想とは裏腹に鬼太郎と猫娘の同人誌は売れに売れまくった。

 用意した分などあっさり完売し、増刷を希望する声まで上がる。

 

「んな、アホな……」

 

 何故売れたのか理解できない。しかし儲けになる以上、売らないわけにはいかず、ねずみ男は釈然としない気持ちを抱きながらもこの商売を続行。

 こうして、刑部姫のキタネコ本は、瞬く間に妖怪たちの間で浸透していったのである。

 

 

 

×

 

 

 

 だがその人気が仇となり、ついに刑部姫の描く同人誌の存在が猫娘の耳に入ることになった。

 

「——なるほど。それで……それで! こんなふざけた本を描くつもりになったわけね!」

「は、はい……そのとおりでございます」

 

 刑部姫の部屋まで押しかけてきた猫娘。今まさに刑部姫を床に正座させ、彼女が自分の同人誌を描くまでに至った経緯に耳を傾ける。

 当然その理由に何一つ納得することもなく、猫娘は怒り心頭のまま説教を続けていく。

 

「まったく! 写真一枚見ただけで、どうしてそんな発想になるのよ!? 意味わかんないし!!」

 

 猫娘が特に納得できなかったのが、刑部姫が同人誌を描くきっかけとなった自分の写真とやらである。猫娘も拝見したがなんの変哲もない、ただ自分と鬼太郎が一緒に写っているだけの写真である。

 何故それを見ただけで、自分が鬼太郎に片思いしていることが分かって——もとい、勘違いしてしまうのかと。

 

「いや、でもあれは分かっちゃうでしょ。バレバレでしょ、普通に……」

 

 しかし、そう思っているのは当人だけである。

 その写真の鬼太郎の背中を見つめる猫娘の視線は——どこからどう見ても恋する乙女のそれであると。察しのいい者なら、それだけで猫娘の気持ちに気づくことだろう。(寧ろ、あんな目で見つめられていて、何故気付かないのだ、ゲゲゲの鬼太郎よ!!)

 もっとも、あれだけでそこから先の展開へと想像を膨らませた刑部姫の妄想力もさすがと言うべきか。

 

「と、とにかく!! もうこれ以上、私と鬼太郎をネタにするなんて絶対許さないから!! 今すぐにでも、アンタが描いた同人誌、全部処分してもらうわ、いいわね!?」

 

 刑部姫の指摘に動揺しつつ、猫娘は自分と鬼太郎の同人誌を描くことを辞めるよう迫る。いかに創作活動が自由なものとは言え、自分をモデルにするなど絶対に了承できない。猫娘からすれば当然の要求である。

 

「そ、そんなご無体な!!」

 

 だが、みっともなく抵抗する意思を見せる刑部姫。彼女は自身の創作活動を認めてもらおうと、粘り強く猫娘を説得する。

 

「お願いします! どうか私に貴方の恋路を最後まで描かせてください! 必ず幸せにしてみせますから!!」

「余計なお世話よ!!」

「お願いしますよ~! 寝取られとか、凌辱とかアブノーマルには染まりません! 純愛一本でいかせていただきますから!!」

「そう言う問題じゃない!!」

「そこを何とか! ご要望にはできるだけお答えしますから!! お好きなシュチュエーションはございませんか? 子供は男の子? 女の子? それとも両方? 名前も好きに決めちゃっていいからさ! 予行練習だと思って……ねっ? ねっ!?」

「う、うるさいわね!!」

 

 不覚にもその説得に揺れ動く瞬間こそあれど、結局猫娘が刑部姫の提案を呑むことはなかった。

 

「ねずみ男!!」

「お、おう……」

 

 刑部姫との不毛な問答の最中、猫娘はねずみ男に声を掛ける。猫娘を姫路城まで連れてきた時点で自分の役目は終わったと、完全に他人事のように突っ立ているがそうはいかない。

 彼にも軽率な行動のツケをとってもらわなければならないと、猫娘はねずみ男を睨みつける。

 

「アンタは既に出回った同人誌を自主回収してきなさい! 一冊残らずよ!!」

「は、はぁ~!? じ、自主回収だと!? ふざけんな!!」

 

 これにはねずみ男も当然抗議する。

 今日までねずみ男が売り捌いた同人誌は数知れず。それを客の手に渡った分まで回収して来いという猫娘の要求。膨大な手間と金が掛かることは想像に難くない。

 ねずみ男としては納得できない、どうしてそこまでしなければならないのかと。

 

 だが——

 

「————ねぇ……ねずみ男」

「な、なんだよ?」

 

 自分の要求を一度は断るねずみ男に、猫娘はゆっくりと近づいていく。

 その顔には不自然な笑みが浮かべられ、声音の方も慈悲が感じられるほどに優しげだ。

 

 もっとも、それが見せかけだけのものであることは誰の目にも明らかだっただろう。

 猫娘は、マグマのように煮えたぎる怒りを腹の中で押しとどめ、再度ねずみ男に最後の警告を言い渡す。

 

「もしも……もしもの話よ? もしもあの本が一冊でも鬼太郎の手に渡って、その目に止まるようなことがあれば……」

 

 そんなことがあれば、猫娘は恥ずかしさのあまり二度と鬼太郎の顔を見られなくなってしまう。

 彼のことが好きな猫娘としては、もはや死活問題である。だからこそ——

 

 

 

「生まれてきたことを——後悔させてやるわよ?」

 

 

 

 せめて道連れだと。お前も一緒に地獄に連れていくとねずみ男に告げる。

 

「ひっ、ひぃいい!?」

 

 普段から猫娘に怒られ慣れているねずみ男だからこそ、理解できてしまった。

 

 

 今回はマジだと。ガチで命は無いと。

 

 

 猫娘が自分を殺しかねないと、本当の意味で生命の危機を感じ取る。

 

「か、回収に行ってきます!!」

 

 生存本能に従う形で、ねずみ男は猫娘の指示どおりに動くしかなかった。

 生きるため、自らの命を守るため、その場から逃げるように立ち去り、彼は世に出回った同人誌の回収に奔走することとなる。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 必死な形相で立ち去っていくねずみ男を殺気のこもった視線で見送りながら、猫娘は一息入れる。あれだけ言い含めておけば、ねずみ男とてキチンと仕事をこなすだろう。

 猫娘の尊厳、ねずみ男自身の命のためにも、是非とも彼には頑張ってもらわなければならない。

 

「あの、ご要件が済んだのであれば……そろそろ帰って頂けないでしょうか?」

 

 猫娘とねずみ男のやり取りを見ていた刑部姫。控えめながらも、出て行ってくれないかと懇願する。

 もはや、猫娘の同人誌を描くことはできないと諦めたのか。涙目な戦々恐々とした様子で彼女の機嫌を伺う。

 

「……いえ、まだよ」

 

 しかしまだ終わりではない。

 

「まだ鬼太郎の用事が終わってないわ」

「えっ……? 鬼太郎くんも来てんの?」

 

 猫娘のみならず、鬼太郎まで来ている事実にポカンとなる。呆然としている刑部姫に、鬼太郎が同人誌の一件とは別の用事で来ていることを猫娘が伝える。

 

「いい!? 鬼太郎は同人誌のことなんか何も知らないの! もしも余計なことを喋れば……」

 

 彼は何も知らない無垢な少年のままだ。

 自分と猫娘が——まさか周囲からそんな目で見られているなど、思ってもいない。

 そんな彼がこれ以上、刑部姫の妄想で汚されることがないよう——

 

「分かってるわよね……ん!?」

 

 化け猫の表情となり、爪を突き立てて刑部姫に釘を刺す。

 

「サ、サー! イエッサー!!」

 

 猫娘の脅し付けに、何故か刑部姫は軍隊のような敬礼で応じていた。

 

 

 

×

 

 

 

「君が……刑部姫かい?」

 

 同人誌の一件を取りあえず片付け、猫娘は鬼太郎と刑部姫を引き合わせる。

 ちなみに、彼らが会合している場は刑部姫の私室である天守閣の最上階ではなく、そのすぐ下の一般エリア。刑部姫が「鬼太郎くんに自分の部屋を見られたくない」と彼の入室を拒んだためである。

 

「は、はい。そうです。姫が刑部姫です。こんなダメな女でどうもすいません……」

 

 鬼太郎と顔を合わせた刑部姫はのっけから卑屈なオーラ全開、泣きそうな表情で頭を下げまくっている。

 

「? なんでそんなに下手なんだ……まあ、別にいいけど」

 

 初対面の相手にいきなり謝られ、鬼太郎は困惑する。

 先の猫娘とのやり取りに立ち会っていなかった彼は、何故刑部姫はそんな表情をしているか察することができない。しかし時間ももったいないと、あえて深くは突っ込まない。

 

「聞きたいことがあるんだ。ここ最近、姫路城の周辺で起きている怪奇現象について……」

 

 妖怪ポストの手紙にあった異常事態について、順々に刑部姫へと問いただしていく。

 

 

 

ケースその① 頻繁に届けられる謎の宅配荷物

 

 姫路城には、城の管理や観光案内をする管理事務所が存在するのだが、その事務所宛にたびたび注文者不明の荷物が届けられるらしいとのこと。主に漫画雑誌やパソコン機器などから、ピザなどの飲食物。

 心当たりのない事務所側は当然、受け取りを拒否しようとする。だが、宅配業者側は届け先はここで間違いないと押し問答。

 そうこうしているうちに、いつの間にか荷物が消え去り、受け取り証明の判子まで押されているとのこと。

 代金もしっかりと振り込まれているため、業者としては問題ないらしいが、さすがに不気味だと妖怪ポストに相談事の手紙が届けられた。

 この怪奇現象に対する、刑部姫の解答。

 

「あっ! それ姫だわ!」

 

 刑部姫曰く、届けられる荷物は彼女が利用しているネット通販で注文したものらしい。

 だが受け取る度に顔を出すのも面倒なため、自身の妖術——折紙の式神を使い、荷物を引ったくっているとのこと。代金はしっかりと払っているため、本人に迷惑を掛けているという自覚はない。

 

 

 

ケースその② 天守閣から時々聞こえて来る謎の奇声

 

 姫路城の天守閣。観光客が数多く押し寄せられる中で時おり、謎の奇声や含み笑いが聞こえてくるとのこと。

 最上階から聞こえてくるその不気味な声に、観光客たちは気味悪がり、徐々にだが訪れる参拝客も減ってきているとのこと。 

 この怪奇現象に対する、刑部姫の解答。

 

「あっ! それも姫だわ!!」

 

 刑部姫曰く、その奇声はおそらく自分のものだとのこと。

 同人誌を描いている時など、彼女は知らず知らずの間に妄想の世界にトリップし、気がつけば何かを呟いたり、叫んだりしているらしい。

 そうして漏れ出した笑い声が下の階層まで聞こえ、観光客を震え上がらせていたのだろう。

 

「……同人誌?」

「な、なんでもないわ! 鬼太郎には関係ないから!!」

 

 説明の中に同人誌のワードが出され、鬼太郎が首を傾げる一場面があったものの、それを華麗にスルーし猫娘が話の続きを促していく。

 

 

 

ケースその③ 不自然に減り続ける賽銭箱のお金

 

 刑部姫を祀る社『刑部神社』は姫路城内部、刑部姫の私室に設置されているのだが、姫路城の外側にも同じ役目を帯びた神社が建てられている。ところが、その神社に設置されている賽銭箱の中身が不自然に減っているとの被害報告が寄せられているのだ。

 賽銭泥棒を疑った管理側が監視カメラなどで対策しているが、今のところ不審な人物は見られないとのこと。

 一見すると怪奇現象とは関係ない、人間側のトラブルのように思われるが——。

 

「ごめん! それも姫だわ!!」

 

 案の定、それも刑部姫の仕業らしい。

 彼女は自身を祀る神社の賽銭箱から、式神を使い人知れずこっそりとお金を引き出している。

 引き出されたお金は全て、彼女の自堕落な生活の糧になっているらしいとのことだった。

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 結局、全ての怪奇現象の原因が刑部姫に帰結していた事実に、なんとも言えずに黙り込み一同。

 誰も何も言わないが、刑部姫の行動に皆が呆れ返っていることがその空気から察せられる。

 

「な、何よ! なんか文句あんの!?」

 

 その雰囲気にいたたまれず、刑部姫が咄嗟に声を荒げる。

 

「姫はこの姫路城の主なのよ!? その姫が、姫の祀られている神社からお金を引き出して、いったい何の問題があるっていうのよ!?」

「……開き直ってんじゃないわよ」

 

 刑部姫の言い訳に白い目を向ける猫娘。先の同人誌の件もあり、彼女はもう刑部姫の行動や言動全てに冷たい態度を取るしかなかった。

 

「う、うむ……お前さんの言いたいことも分からんでもないがのう」

 

 一方で、目玉おやじは刑部姫の言い分にある程度の理解を示す。

 刑部姫の歴史を知る彼は、彼女がこの城ができる以前よりこの地に住んでいることを知っている。後から来たのは人間たちの方。

 目玉おやじも刑部姫がこの土地の真の主であることを認めており、多少のわがままは許容範囲と諦めている。

 

「しかし……人間を襲うのはやりすぎじゃろう」

 

 だが、それでもやって良いことと悪いことがある。

 目玉おやじは怪奇現象のケース④を引き合いに、刑部姫の行動を嗜める。

 

 

 

ケースその④ 姫路城内を徘徊する謎の化け物

 

 夜、あるいは夕方ごろ。姫路城の敷地内を徘徊するという謎の怪物の目撃証言が多数寄せられている。目撃者の証言によると、それは熊ほどの大きさを持ったイタチ、あるいはムジナにも見えたとのこと。

 幸い、その怪物に襲われ死傷者が出ているとの報告こそないが、このまま放置しておけばさらに騒ぎが大きくなることだろう。

 さすがにこれは見逃せないと、目玉おやじは刑部姫に苦言を呈する。しかし——

 

 

「……いや、それは姫じゃないよ?」」

「なに?」

 

 先ほどの流れから、鬼太郎もてっきりそれも刑部姫の仕業だと思い込んでいた。だが彼女がそのケースを明確に否定したことで目を丸くする。

 

「だって、そんなことしても姫には何の得もないじゃん? 観光客とか減って賽銭が減ったら、いったい誰が姫の引きこもりライフを支えてくれるのよ!?」

 

 自慢にもならないようなことを自信満々に口にするも、確かに彼女の言うとおり。

 

 城化物である刑部姫にとって、姫路城の発展と繁栄は切っても切り離せない関係にある。そのような騒動が世間に広まり、観光客が訪れなくなり城が廃れれば、立ちどころに刑部姫は力を失ってしまう。

 自称・姫路城の真の主という観点からしても、そのような軽率な行動を取るとも思えない。

 

「じゃあ……いったい誰が?」

 

 これには猫娘も同意し、刑部姫以外の犯人について思案を巡らせる。

 謎の化物の正体、いったいどこの何者なのかと。

 

 

 まさにその時である。

 

 

『——グルァアアアアアアアアアアアアアア!!』

「きゃああああ!?」

 

 

 身の毛もよだつような怪物の雄叫び、それに怯える女性の悲鳴が響き渡る。

 さらに鬼太郎の妖怪アンテナが巨大な妖気を探知した。

 

「父さん!!」

「うむ、出おったな!」

 

 天守閣まで聞こえてきたその叫び声と、邪悪な妖気を感じ取り素早く反応する鬼太郎たち。

 よりにもよって、自分たちが訪れたこんなタイミングで現れるとは思っていなかったが、これは好機でもある。

 

 謎の怪物の正体、襲われているであろう女性を救うべく、急ぎ悲鳴の聞こえてきた場所へと走る。

 

「うん……! いってらっしゃい~」

「アンタも来るのよ!!」

 

 それを他人事と見送ろうとする刑部姫だが、無理やり猫娘が彼女を引っ張って連れて行く。

 結局、既に東京に戻ったねずみ男を除く、その場にいる四人全員で騒ぎの中心点。

 

 

 謎の怪物の元へと——向かうこととなったのである。

 

 




登場人物紹介
 謎の怪物
  今回の話の展開上『姫路城を荒らしまわる妖怪』が必要になり、こちらの方で用意させていただいたキャラであります。
  あくまでビジュアルのイメージですが『ガンバの冒険』で出てくる白いイタチのノロイを想像していただけると助かります。
  鬼太郎にも、FGOにも登場していないキャラですが、実は……刑部姫と因縁のある相手です。
  どういった設定のキャラになるか、予想しながら次話をお待ちください。
 
  とりあえず、次話で完結予定。
  この話の後は——そろそろ勧められた作品に手を出してみようと思います。

次回のクロスオーバーの舞台はどこがいいですか?

  • 夏と言えば……海!!
  • 夏と言えば……山!!
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