ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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お久しぶりです。今回は色々と言いたことがあるので、前書きに目を通していただきたい。

まずはゲゲゲの鬼太郎『ギャラクシー賞・テレビ部門特別賞』受賞おめでとうございます!
まあ、この賞がどれだけ凄いかとか、自分はイマイチ理解しきれていませんが、アニメでは初めての受賞とのことで『なるほど!』と凄さを何となく実感できる。
しかし、これらは全て六期だけの力ではなく、この五十年間全てのシリーズを通しての受賞だと思いますので、本当にここまで続けて鬼太郎アニメを作り上げてきた全ての人たちに『おめでとう』と『ありがとう』を伝えたいと思います。
重ねてになりますが、本当におめでとうございます!

もう一つはコメント欄の感想について。
活動報告の方でもアップさせてもらいましたが、『鬼太郎とクロスオーバー』をしてもらいたい作品に関して、あまり主張したコメントを書きすぎると運営にコメント自体を消されてしまう可能性があります。
普通に感想やコメントをしてくれるだけで嬉しいので、もしもクロスオーバーして欲しい作品があれば、作者のメッセージボックスに個別で連絡をください。
勿論、全てのリクエストに応えられるわけではないので、そこはご了承を!

さて、ようやく本編に関してです。
今回で『虚構推理』編は完結します。初めて挑戦した推理もの……まあ、虚構推理という作品を真っ当な推理ものと言っていいのかは分かりませんが。
一応、解決パートということで色々と説明させてもらいますが、それが説得力の伴うものなのか。客観的な目線がないため、ちょっと自信が持てない。

この話の流れが良かったどうか。
感想欄のコメントや、お気に入り数の増加、評価ランクなど判断しますので、どうか皆さん、色々と反応をくださると助かります。

前置きが長くなりましたが、虚構推理解決パート……どうか楽しんでください。



虚構推理 其の③

〈この動画は偽物であり、その裏には大きな陰謀の影が蠢いている〉

 

〈ここに——その『陰謀』の危険性について警鐘を鳴らすこととする〉

 

 

「……掴みとしてはこんなところでしょうか?」

 

 犬山まなの能力について考察するまとめサイトに、岩永琴子はそのような書き込みを投稿した。

 

 今現在、彼女がいる場所は東京都内、仮住まいのホテルの一室だ。そこを拠点にして彼女と九郎はここ数日、名無しの起こした騒動の後始末『犬山まなが黄金の光を放って猫娘を消し去る動画』が偽物であるという合理的な虚構を組み上げていた。

 昼間に犬山まなからいくつかの情報を補足した上で、岩永は満を持して仕掛ける。まずは自身の推理とも呼ぶべきその考えを多くの人間の目に止まるよう、少し思わせぶりなコメントを匂わせる。

 

 特に注目させるべきは陰謀というワード、すなわち『陰謀論』である。

 

 様々な現象の裏に、それを仕組んだ何者かが存在しているという考え方。

 陳腐とも思われる一方で、一定数の人間がそれを支持し、耳を傾けたがる。『世界は秘密結社によって支配されている』や『アメリカが既に異星人と接触している』などといった眉唾な話など、どうして人はそれを信じたがるのか。

 

 それはそこにロマンがあり、また自分たちの身にかかる不幸をそんな『見えない何者か』のせいにすることができるからだ。行き場のない不満や憤りをぶつける先として、まさに陰謀論は最適な思考パターンである。

 

 しかし、それだけで人々の注目を集めることはできない。

 ここで少しでも多くの人間の目を止まる可能性を確定させるため、九郎の件の力『未来決定能力』が必要となり、そのために——彼には一度死んでもらう必要があった。

 

 今もホテルの部屋に岩永と九郎は二人っきりだ。しかし色っぽいことが起きる雰囲気はなく、そこには桜川九郎の死体があった。自ら首の頸動脈を掻き切った——自殺した九郎の亡骸。

 

「九郎先輩……大丈夫ですか?」

 

 最愛の恋人の死に、岩永はちょっぴりだけ申し訳なさそうな声音を響かせるが、そこに悲しみに暮れる様子はない。何故ならそこは人魚の肉を食らった男、桜川九郎。

 

「ああ……大丈夫だ」

 

 数秒後、何事もなかったように生き返り、再び手に持った果物ナイフを己の首筋に当てる。

 

「九郎先輩! そう何度も何度も死んでもらう必要はありません。タイミングに関してはこちらで指示しますので、休んでいてください」

 

 またも自害しようとする九郎を止め、岩永は彼の能力発動のタイミングを待つように言う。

 

 死ぬたびに起こりうる未来を確定し、そして生き返る九郎の『件』と『人魚』の能力。この能力を用いて、岩永は自身の作戦を確かなものとしているが、さすがに一回で全てが片付くほど簡単な話ではない。

 前回の鋼人七瀬事件の際も、九郎は鉄骨を持った鋼人七瀬に『殺され続ける』ことで未来を岩永の望むように導き、人々にあれの存在を虚構と認めさせた。

 しかし前回のように、明確な敵がいるわけでもない今回の一件。九郎の能力を発動させるためには、彼自身が自ら命を断つしかない。そのため岩永以外誰もいない密室で、彼は自らの頸動脈を何度も斬り付けるというスプラッターな光景を生み出し続ける必要があった。

 

「……紗季さんがいたら卒倒しそうなシチュエーションですね」

 

 九郎のかつての恋人・弓原紗季。彼女は一般的な感性を持っていたため、九郎の体質に拒否感を示してしまい彼と別れることになった。そんな彼女が『自分から死に続ける』という今の九郎の状況を見ていれば、あまりの光景に目を回して倒れていたかもしれない。

 岩永としても、恋人が死に続けるシチュエーションは、あまりいい気分ではない。

 

 だが、九郎は顔色一つ変えず、何の抵抗感もなく自らの命を断つことができる。

 

 彼は桜川家としての実験が成功してすぐ、祖母から『本当に不死身になったか?』『どこまで予言できるか?』など、実際に体を切り刻まれ、何度も何度も致命傷を負わされた。

 その結果、ほとんど痛みを感じない。死への恐怖も全くない感覚を自然と身につけてしまった。

 もっとも、そんな彼だからこそ件の能力を何度も行使することができると、岩永は申し訳ないと思いながらも九郎の力に頼るしかない。

 

「九郎先輩、お願いしますね。なるべく回数は減らしますので……」

 

 岩永はせめて少しでも彼の負担を減らすため、能力行使のタイミングを見定めようとネット掲示板に意識を集中する。

 

「心配するな。お前の望む未来を——ボクは何度でも死んで掴んできてやる」

 

 そんな岩永の気持ちを理解し、九郎は彼女のために何度でも死に続けることを了承する。

 

 

 ホテルの狭い密室で——人知れず二人の男女の戦いが幕を開ける

 

 

 

×

 

 

 

 九郎の能力の影響もあってか、岩永の書き込みにいくつかの反応があった。

 

 

〈はっ? どゆこと〉

 

〈なんだなんだ?〉

 

〈はい出た! いまどき陰謀論かよ〉

 

〈意味不明、草w〉

 

 

 大半は懐疑的、面白おかしく嘲笑うような反応だが、それでも岩永のコメントに対する興味のようなものが発生する。

 彼女はすかさず、キーボードに続きを打ち込んでいった。

 

〈このサイトでもたびたび騒ぎの中心として話題に上がる『犬山まな』という少女。彼女の曽祖母が拝み屋なる職業をしていたことはマスコミにも取り上げられているし、確かな事実ではある〉

〈しかし、だからといって彼女にも特異な能力が引き継がれていると考えるのは安直であり、偶然にその能力が発揮されたなどと、あまりにも都合が良すぎる展開だ〉

 

 長文になりそうなところは改行など、読みやすいように並べて書き込んでいく。

 

〈寧ろ、今回の事件の犯人はそういった犬山家……実際は沢田家の血筋だが、ここでは犬山家と統一する。犬山家の事情を調べ、理解した上でこのような事件を引き起こし、周囲の目を逸らすために利用したと考えられる〉

〈犬山まなの血筋の特異性に目を引かせ、その裏に隠されている真意を覆い隠すためにあのような動画を作り事実をでっち上げたのだ〉

 

 岩永の主張にさらに反応があった。どうゆうことだ? 何が言いたいの? 意味不明?

 反応は人それぞれだが、概ね彼女の話の続きを促す声。その声に応えるため、岩永も続く『物語』の執筆を続けていく。

 

〈まず、ここで考えていきたいのが『あの夜、何故犬山親子があの場にいたのか?』ということである。それを紐解くことで徐々にこの事件の全貌が見えてくる〉

 

 ここで岩永が提示した疑問は犬山まなと純子が何故あの場所——オメガ本社にいたかということだ。

 人々の視線が動画のインパクトに惹かれている中、冷静にその前後関係について洗い出していく。

 

〈犬山純子がオメガ社にいたのは簡単な理由。彼女があの会社で社長秘書をしていたからだ。オメガの社長であるジョン・童なる人物にヘッドハンティングされ、数週間前からあの会社で働いていた〉

〈ちなみにこのジョン・童なる人物。かなり謎めいた経歴を持っているのだが、それに関しては後の方で解説しよう〉

 

 さり気なく、とある人物に対して疑惑を持たせながらも犬山親子の話を続ける。

 

〈そして、犬山まな。純子の娘だが、まだ中学生でしかない彼女が何故オメガ本社にいたかというと〉

 

 岩永は続きをすぐには投稿せず、一旦間を置いた。

 それにより、人々に一定の緊張感を持たせたところで——とある事実を告げていく。

 

〈それは母親のメールで呼ばれたからだ。『オメガの社長が一度彼女に会ってみたい』という呼び出しのメールに応えた結果である〉

 

 

 

 

「彼女だ……岩永琴子だ」

 

 ゲゲゲハウスでノートパソコンから、犬山まなのまとめサイトを閲覧していた鬼太郎たちはその書き込みをリアルタイムで目撃していた。

 ネットの匿名性から最初は誰のコメントか分からなかったものの、鬼太郎はその書き込みの情報からそれが岩永琴子のものだと察する。

 

「うむ、まなちゃんが呼び出された事実を知っているとなると……十中八九彼女じゃろう」

 

 目玉おやじも鬼太郎に同意する。

 昼間、岩永琴子は犬山まなと面会し、あの動画の瞬間の前後関係についていくつか質問しており、その中の一つに『まながあの夜、母親のメールでオメガ社に呼び出された』という事実があった。

 その事実を知っているのは一緒にその話を聞いていた鬼太郎かそのメールを送るように純子を洗脳したジョン・童に扮した名無し。

 あるいは純子の傷害事件を担当した警察関係者などが知っていたかもしれないが、タイミング的にいって間違いなく岩永のコメントだろう。

 

「いったい、何をするつもりなんじゃ、この娘は?」

 

 ノートパソコンの操作を担当しながら、砂かけババアは未だに岩永の真意が読み取れず困惑する。

 彼女がいったい何を目的とし、こんな書き込みをしているのか。

 

 その真意も分からぬまま、妖怪たちは事の成り行きを見守っていく。

 

 

 

 

〈さてこの話。少し妙だとは思わないだろうか?〉

 

 岩永はここで閲覧者に疑問を投げ掛ける。

 

〈何故? 一企業の社長が自分の秘書とはいえ、ただの中学生でしかない犬山まなに会いたいなどと申し出たのだろう?〉

 

 疑惑というほどではないにせよ、それには確かに疑問の余地があった。確かに? なんで? ちょっと気になるかもと、コメントも同意のものが多い。

 ほんの少しの小さな違和感。だが岩永はそこから一つの物語をねじ込んでいく。

 

〈動画配信サイトの運営という、ある種クリエイティブな仕事をしている社長が若い人の意見を聞きたいと。好奇心が働いた可能性もある。だが、状況から見るにそれも考えづらい。実際に呼び出された先で犬山純子は重傷を負わされており、そこへ犬山まなが駆け寄り、あのような動画が撮影されることになったのだ〉

 

 実際、それは名無しの企みである。

 まなの手で猫娘を消させて人間と妖怪の対立を煽るためにも、あのような動画を撮影したわけだが。

 

 だが岩永は——そこに自分好みの『虚構』を積み上げていく。

 

〈おそらく犯人の目的は犬山親子。この二人を害することに意味があったのではないだろうか? そしてその真意を隠すため、あのような動画をでっち上げて世間の目から自身の犯罪を隠蔽しようとしたのだ〉

 

 彼女はあくまで動画が『でっち上げ』であることを前提に話を進めていく。

 

〈真相はこうだ。あの日、犬山まなは母親からのメールでオメガ本社に向かった。親子仲の良かった彼女は特に抵抗感もなく母親の呼び出しに応じただろう〉

 

 メールは名無しが送ったもの。これは真実である。

 

〈犬山まながオメガ社に到着する頃合いを見計らい、犯人は犬山純子を刃物か何かで傷つける。既に他の社員たちも全員定時退社しているため、目撃者など勿論出ないし、犯行自体は監視カメラの死角で行われたことだろう〉

 

 だが、そこからは偽の真実を打ち込んでいく。

 岩永は猫娘ではなく『悪意のある第三者』が犬山純子を傷つけたと主張。

 

〈そして、本社に到着した犬山まな。犯人は予め決めておいた位置に犬山純子を横たわらせ、母の瀕死の姿を娘である彼女に見せつける。母親の容体を心配し、我を忘れてまなが純子の体に縋り付くことは容易に想像できる。そこへ——犯人は姿を現す〉

 

 倒れている母親の近くに急に現れる人物。もしもそんな人物がいれば、誰であれ驚くだろう。

 

〈身元がバレないよう仮面でもして顔を隠せばいい。不気味さも際立ち、怯えたまなはその人物を全力で突き飛ばそうとするだろう〉

 

 実際『いやぁー! 来ないで!!』と言って、犬山まなは猫娘に向かって手を伸ばしていた。

 その対象を、猫娘から謎の人物——純子を傷つけた犯人象に置き換えるだけでいい。

 

〈それを監視カメラの映像に収め、あとは用意していた動画と差し替えればいい。『犬山まなに突き飛ばされる謎の人物』を『犬山まなに突き飛ばされる妖怪』に変更し、何らかの加工を加え、『まるで犬山まなが手から光を放っている』かのように見せかける〉

〈この動画に登場する女性——猫娘が妖怪であることは、過去にゲゲゲの鬼太郎の活躍を生配信した姑獲鳥の事件で結構な人たちに周知の事実として知れ渡っている。人目を惹く素材としては申し分ない〉

 

 動画をでっち上げた過程を説明し、結論へと話を持っていく。

 

〈この動画を世間に流すことで人々は犬山まなの能力の方に目を惹かれ、肝心の純子が重傷を負ったという事実から目を背けさせる。自身が起こした犯罪を、なし崩し的に妖怪のせいにすることでまんまと難を逃れた〉

〈そして、それが可能な犯人像は一人しか当てはまらない。オメガ社まで犬山まなを呼び出し、立場上犬山純子を一人会社に残すことのできる人物。社内の監視カメラを自由に加工し、それを即座にネットにアップすることができた人物〉

 

 

 

〈犯人は——オメガの社長ジョン・童。彼一人しかいない〉

 

 

 

×

 

 

 

「これは……いくら何でも無理がなかろうか?」

 

 岩永の推理は読み込んで数秒、目玉おやじは頭を悩ませる。

 なるほど、彼女の推理は確かに面白い。犬山親子を害し、その罪を妖怪に押し付ける。そのために動画をでっち上げ、犬山まなという人間の特異性を世間に認知させることで『犬山純子の傷害事件』という案件そのものを有耶無耶にする。

 言いたいことは分かるし、しっかりと架空の犯人も名指しした。可能か不可能かと言われればおそらく可能だろう。

 

 問題は——わざわざそこまでする意味があるのかということだ。

 

 ネットの反応も目玉おやじの抱いた疑問に同意するものが多い。

 

 

〈はっ? 何言ってんだこいつ?〉

 

〈単純に殺せば良くない?〉

 

〈犯人頑張りすぎ!!〉

 

 

 と、語り手である岩永を罵倒、嘲笑する意見が多い。

 乱雑に並ぶコメントが多く掲示板に流れていく中——岩永のように長文で反対意見を述べるものが現れる。

 

〈その推理はなかなか面白いと思う。だがその仮説が正しいのであれば、犯人であるジョン・童氏はかなり前から用意周到に準備を重ねていたことになる。予め動画を用意し、それをすぐにネット上にアップする。犬山家の血筋の秘密を利用したというのなら、純子をヘッドハンティングしたのも意図的なものだろう〉

 

 そのコメントに岩永もすぐに答える。

 

〈そのとおり。犯人は犬山家の血筋の秘密を知っていた。こういった動画を流せば、周囲が勝手に盛り上がってくれることも理解していた。そのために犬山純子を社長秘書としてヘッドハンティングした。会社そのものもこの計画のために立ち上げたものかもしれない〉

 

〈だとすれば——ますます理解できない〉

 

 議論という形で白熱する両者。岩永の意見に反対する側は、多くの人たちが抱くであろう問題点を提示する。

 

 

〈そこまでのことをする犯人の『動機』は何だ? そこまでして、いったい犯人側に何の利益があるというのだ?〉

 

 

「確かにそのとおりじゃ。こやつの推理では犯人側の動機をまったく説明出来ておらん」

「…………」

 

 このコメントには岩永を支持したい砂かけババアや鬼太郎でさえも同意せざるを得ない。岩永は犯人側の動きや動画が偽物であることを説明しているが、肝心な動機の部分が抜け落ちている。

 たとえ犯行が可能であっても、それだけのことを仕出かす理由をしっかりと解説できなければ誰も納得しないだろう。

 

〈単純に犬山家に恨みを抱いていたのなら、犬山純子は傷害などでは済まされず殺されていただろう。娘のまなも同様だ〉

 

 反論側は怨恨という可能性を先回りで潰す。

 

〈また、ただ彼女たちを害したいのであればわざわざこんな回りくどい方法をとる必要はない。他にいくらでも簡単な方法がある。それに犬山まなが無傷で、彼女の口から『自分が突き飛ばした筈の犯人』のことが説明されていないことも不可解だ〉

 

 皆が疑問に思っていることを代表した問い掛け。

 まるで『お前にこの疑問点を解消できるのか?』と、岩永を試しているかのようでもある。

 その挑発に応えるかのように、岩永のコメントが再び息を吹き返す。

 

〈犬山純子が殺されなかったのは単純に警察の介入を最小限にしたかったからだ。いかに妖怪のせいにするとはいえ、傷害と殺人では捜査規模も違う。警察もある程度本腰を入れ、捜査のメスをオメガ社に入れることになる〉

〈犬山まなが無事だったのは、あの映像に信憑性を持たせるためだ。彼女が犯人である妖怪を退治したと仮定するのであれば、彼女は『悪しき妖怪を葬った正義のヒロイン』でなくてはならない。そのために犯人も彼女には手を出せなかった〉

〈犬山まなが頑なに事件の真相を語らないのは、おそらく犯人側から脅されている可能性が考えられる。犯人が立ち去り際『余計なことを喋れば、今度こそお前の家族の命はない』とでも脅せば報復を恐れ、彼女は固く口を閉ざすだろう〉

 

「……よくもまあ、こうまでポンポンポンポンと嘘デタラメを並び立てられるもんじゃ!」

 

 淀みなく書き連ねられる岩永のコメントに、目玉おやじは呆れるのを通り越して感心するしかない。

 彼女の言っていることが真っ赤な嘘であることを彼は知っている。にもかかわらず、ここまで堂々とコメントされれば嘘の事実なのに目を離せず読み込んでしまう。

 それだけ、岩永の話はこじつけながらも整合性が取れているように思えてしまうから不思議である。

 ひょっとしたら——これも未来を望む形に選び取るという、桜川九郎の件の能力なのかもしれない。

 

「じゃが……やはり肝心な部分が説明できておらんぞ」

 

 しかし、一番の問題点が未だに解決できていないことに砂かけババアが頭を抱える。

 反論側もそれを理解してか、的確にそこを突いてくる。

 

〈なるほど、確かにそれならばいくつかの疑問を解決できる。しかし、やはり解せないのが『動機』である〉

〈仮に犯人をジョン・童と仮定するならば何故彼が会社を一から起業してまで、あのような動画を作成するまでして、今回のような騒動を起こしたのか? それを説明できない以上、貴方の意見は全て机上の空論に過ぎない〉

 

 過ぎないも何も、岩永の推理は全て嘘で固めたものなのだから動機などあるわけもない。

 だが、動画が偽物であることを証明するためにも、そこの解説は絶対に必要な工程だ。

 

「いったい、どうするつもりだ? 岩永琴子……」

 

 少なくとも鬼太郎には、そんな動機の解説などまったく思いつかない。

 岩永琴子という少女がどこを『着地点』としているのか。その真意を知るためにも、鬼太郎もネットの書き込みを注意深く追っていく。

 

 

 

 

「——予想通りの流れです」

 

 自身の推論が不利となる流れの中、ノートパソコンの前で岩永琴子はほくそ笑む。

 

 彼女も、いかに九郎の力を借りられるとはいえ、これだけの解説で全ての人間を納得させられる合理的な虚構を組み上げられるとは思っていない。当然、口に出さないだけで多くの人間が『動機』の部分に不可解な疑問を抱くであろうと予想できる。

 

 しかし、最初の方に『動画を偽物として加工することが可能であった』という事実を刷り込むことには成功した。岩永としては、そこさえはっきりと印象付けられればそれで良かったのだ。

 

 あとはそれだけの事を仕出かす犯人側の動機を説明することができれば、そこへすんなりと人々の脳内に『ひょっとしたらあの動画は偽物だったかもしれない』という考えが植え付けられる。

 そしてその動機こそ——岩永が冒頭で『陰謀』という言葉を使った理由に直結している。

 

「さあ、ここからが本当の勝負です! 九郎先輩、お願いします!」

「ああ……分かってるさ」

 

 岩永はここを重要な局面として九郎に声を掛ける。

 彼も岩永の合図ひとつで能力を発動できるよう、首筋に果物ナイフを当てて死ぬ準備をしておく。二人の間に緊張や気負い過ぎる心はない。

 

 

 一人なら無理でも、二人なら出来る。

 この真実を虚構によって成り立たせることができると、お互いの力を信じていた——。

 

 

 

×

 

 

 

〈それを説明するには一つ、例として焦点を当てていきたい事件の存在がある。それは——『姑獲鳥による赤子の誘拐事件』だ〉

 

「なに……?」

 

 岩永の推理が突然方向転換したことに、鬼太郎は呆気に取られる。これからジョン・童の動機を説明するにあたり、何故まったく別の事件である姑獲鳥の件を語ろうというのか。

 その事件に当事者として関わったことのある鬼太郎にも、その他の閲覧者にもその流れは予測できなかったのか。

 

 

〈えっ? なに、うぶめ?〉

 

〈なんだよ、説明できずに逃げる気か!?〉

 

〈ど、どうゆうことだってばよ!〉

 

 

 逃げるように話題転換する岩永の書き込みに、避難の声が殺到する。

 だが、一定数は彼女の推理を望むかのように続きを促してくる。その望みに応えるよう岩永も物語を紡いでいく。

 

〈先日、あの動画が撮影されるよりも前に起こった事件だ。知らないもののため、サラッとだが事件の概要を説明しておこう〉

 

 そう言って、まずは姑獲鳥の事件のおさらいをしていく。

 

 姑獲鳥の赤子誘拐事件とは、姑獲鳥という鳥妖怪が人間の赤ちゃんを何人も連れ去ってしまったという事件だ。

 誘拐と言っても、本人に悪気はなかった。姑獲鳥という妖怪の性質上、泣いている赤子を放っておくことができず、その子たちを保護しようと自分の巣穴に連れ帰ってしまったのだ。

 その一件を鬼太郎が解決した。鬼太郎は姑獲鳥を懲らしめ、二度とこのような軽率な行動を取らないよう言い聞かせ、赤ちゃんたちも無事母親の元に返された。

 その様子はネットの生配信で放送されていたため、それに関して知るものは多い。

 

 当然——そのあとで起きた、赤ちゃんが瀕死の重体で運び込まれた件についてもだ。

 

〈ゲゲゲの鬼太郎に諭されたにも関わらず、あの後も姑獲鳥は再び赤子を連れ去ろうとし、その子は重体で今も病院で治療を受けている〉

 

 懲りずに悪行を繰り返し、それにより赤子を衰弱させてしまった。

 その件をきっかけに、人間の妖怪に対する風当たりが強まったと言えるだろう。だが——

 

「違う。あれは姑獲鳥のせいじゃない!」

 

 後の方の事件は姑獲鳥の仕業ではないと、遊び相手をしていた子泣き爺がアリバイを証明しているのだ。

 しかし、それを言ったところで人間は誰も信じてはくれない。妖怪が妖怪を庇っていると、さらに不信感を煽るだけだ。

 

 

〈そうそう、あれは酷かったな~〉

 

〈所詮は妖怪だったてことだよ〉

 

〈妖怪死ね! 許すまじ!!〉

 

〈ほんと、最低だぜ!!〉

 

 

「くっ!!」

 

 この件に関しては大抵の人間が姑獲鳥を非難していた。姑獲鳥が無実と知っているだけに、鬼太郎はそのコメントに反論したくてキーボードに手を伸ばすも、文字の打ち方さえ分からないためそれすらも出来ない。

 普段はあまり気にしたこともないが、こんなとき、この手の機械に疎い自分を思わず恥じてしまう。ノートパソコンの前で項垂れる鬼太郎。目玉おやじや砂かけババアも、同様に手出しできない。

 

 すると、まるで鬼太郎たちの気持ちを代弁するかのように岩永のコメントが投下される。

 

〈だが実のところ、後半の事件は姑獲鳥の仕業ではない。今になって母親の不注意が原因であることが報じられていると、知っている人間がどれだけいることだろう?〉

 

「な、なんだって?」

 

 妖怪側ではなく、人間側からそれが誤りであると。

 姑獲鳥が無実だと反論したものがいたのだと、岩永は訴えていた。

 

 

 

 

「岩永……ここに書かれている情報は確かなのか?」

 

 自殺するタイミングを待ちながら、九郎は自前のスマホを片手にサイトの流れを追っていた。

 岩永が今説明している姑獲鳥が起こしたとされる赤子の衰弱事件。その事件の犯人が姑獲鳥ではなく、母親であると言い出したところでその情報の真偽を問う。

 基本的に事態を収束させるためなら嘘も辞さない岩永だが、その嘘によって罪もない人間が責められ損害を被ることは避けている。

 赤ん坊の衰弱が母親の責任だと信じさせる、そんな未来を確定させる能力の発動を九郎も躊躇っただろう。

 

 しかし——それが本当のことなら話は別だ。

 

「はい、真実です。一部週刊誌でスキャンダル記事がすっぱ抜かれていました」

 

 サイトにその詳細を書き込むと同時に、岩永は九郎に口頭で説明する。

 

 その赤ちゃんの母親が——不倫していたという事実。

 不倫相手と二人っきりで会うために、邪魔な赤子を車に置き去りにしたこと。

 それが結果として、その子が衰弱させる原因になってしまったこと。

 焦った母親が咄嗟に『鳥の羽ばたく音が聞こえた』と供述したことで、タイミング的にも姑獲鳥の犯行が疑われたのだ。

 

「その後も、母親は不倫相手と密会を繰り返しているとのことです。使いの者に確認させましたし、間違いありません」

 

 岩永は週刊ラストウィークという雑誌でその記事を読み、それが本当か浮遊霊に追跡調査を命じていた。

 

 結果は——黒。

 

 母親は間違いなく浮気をしており、そのせいで赤ちゃんが衰弱。姑獲鳥も怒れる人間たちの手で私刑にあった。

 

「不倫は罪です。有罪です、ギルティです!」

 

 それなのに未だ反省した様子もなく、いけしゃあしゃあと不倫相手と密会を続けている母親。

 彼女自身の責任である以上、その事実を利用することに岩永は遠慮などしない。

 

「何だか私怨が混じっているようにも思えるが、そうか……」

 

 そういうことならと、九郎もそれ以上何も言わなかった。

 岩永の意見を多くの人々に信じさせるため、頸動脈を掻っ切り——自害。

 

『赤子の衰弱が母親の責任である』——その事実を多くの人々が信じる未来を件の力で選択した。

 

 

 

 

 不倫という、いかにもなゴシップネタ。元から真実というだけあってか、多くの人間が岩永の主張を信じ込む。

 

 

〈まじかよ……あの母親最低だな!〉

 

〈クズいw〉

 

〈出たよ、妖怪より人間が恐ろしいパターン〉

 

〈けど週間ラストウィークだろ? たかが週刊誌の情報どこまで信用できる?〉

 

〈けどあそこ、たまに的を得た記事書くんだよな……〉

 

 

 中にはその情報の出所を疑うものもいるが、それでも多数派が手のひらを返し、母親を責めていた。

 

〈さて、少し脱線してしまったがどうだろう? この姑獲鳥の事件、今回の犬山純子がジョン・童によって傷を負わされた事件。どこか似通った部分があるのではないだろうか?〉

 

 あくまで——犬山純子の事件がジョン・童の陰謀であると前提を立てた上で岩永は話を進めた。

 赤子の衰弱と、純子の傷害事件。一見するとまったく関わりのない二つの事件をとある共通点で結びつける。

 

〈それは二つの事件とも、人間の犯した犯罪でありながら『罪を妖怪に押し付けている』という点だ。前者は猫娘に、後者は姑獲鳥に。両者共に人間に冤罪を掛けられ、結果として人間側が罰を受けることなく難を逃れている〉

 

 それこそが岩永琴子の言いたかったことである。

 そしてサイトから余計な質問や疑問が出る前に、一連の騒動の核心部分に触れる。

 

〈つまりこのような状況——『人間が犯罪を犯そうと、全て妖怪のせいになる』そのような風潮を世に浸透させるため、ジョン・童は一から起業し、オメガチャンネルなる動画サイトを開口して妖怪の存在を世間に広く認知させたのだ〉

 

 

 

×

 

 

 

「な、なに……」

「ど、どういうことじゃ?」

「……まさか!?」

 

 岩永の推理がいよいよ佳境を迎えようとしていた。

 鬼太郎や砂かけババアは未だに彼女の意図するところが読めずにいたが、目玉おやじ辺りは岩永が最終的に何を言いたいかを察する。

 

 

〈つまり……どういうことだってばよ?〉

 

〈まさか!?〉

 

〈えっ、なに? なんなん?〉

 

〈あ~……はいはい、なるほどね!〉

 

 

 ネットのコメント欄も岩永の言わんとしていることに気づいたものと、気づかぬもので二分される。

 岩永はそれら全ての人々の意思を統一すべく、コメントを発していく。

 

〈そもそもな話。ここ最近になって世間に妖怪などという存在を大体的に認知させたのは誰の仕業だろう?〉

 

 二十一世紀。ここ最近まで妖怪の存在などほとんど信じていなかった現代人たち。

 だが、八百八狸に政権を奪取されるなどの事件を通し、人々は彼らの存在を認識し始めた。最初は懐疑的ながらも、さらに様々な事件を通して徐々に多くの人が彼らの存在を信じ始め——それは姑獲鳥の事件を通して決定的なものとなった。

 

〈姑獲鳥の事件で鬼太郎の活躍を生放送で届けたのはオメガチャンネル。つまり、オメガの公式コンテンツが最初だった。その後もオメガ社は妖怪を捜そうや、妖怪と遊ぼうなどといくつもの動画で呼びかけておき、後々になって妖怪の危険性を訴えるような方向性にシフトした〉

 

 それは確かに真実だ。名無しが人間と妖怪の対立を煽るために立てた策略なのだから。

 岩永は——その事実を利用する。

 

〈オメガはそのような手法を用いて、人間に妖怪の危険性を刷り込んだ。妖怪は危険な存在——彼らは人間を理由もなく傷つける存在、絶対的な『悪』であると〉

〈もしもそんな『悪』なる存在が事件の発生した現場近くにいれば、人々は容易く、彼らに疑いの目を向けることになるだろう〉

 

 事実、赤子を放置した母親の不注意は『鳥の羽ばたく音が聞こえた』の一言で姑獲鳥のせいにされた。

 

〈世間には今、そういった『何でもかんでも妖怪のせいにする』という流れが実際にあるのだ。その風潮、世の中の流れこそ、オメガ社——ジョン・童が一から会社を起業してまで作りたかった流れなのだ〉

〈赤子の衰弱だろうと、傷害事件だろうと……殺人や窃盗、放火や麻薬の売買。それらの犯罪が都合よく怪異の責任へと転嫁できる社会。もしもそんな世界が実現するのなら——それは犯罪を生業とするものにとって、何と都合の良い世界だろうか〉

 

 

 それは——いったい、どんな世界だろう?

 その恐ろしさに人々がぞくりと背筋を震わせたところで、さらに岩永は畳み掛ける。

 

 

〈ジョン・童。最初の方で述べたが、彼はかなり謎めいた人物だ。会社を起業する際も代理人を立て、社員たちにも素性を明かさず、業務内容の指示も全て音声のみで伝えていた〉

 

 これも紛れもない事実、実際にあの会社で働いた社員の供述した内容である。

 怪異である名無しが自らの素性を隠すために行った方法だが、その事実はジョン・童という架空の人物の不信感を募らせる材料となる。

 

〈今のご時世、そういった働き方も珍しくないのかもしれないが、それでもやはり不自然だ。自身の素性を徹底的に隠すかのような立ち振る舞い。まるでやましいことがあると言わんばかりではないか〉

 

 実際にやましいことがあったのだが、そこに岩永は自身の虚構をねじ込んでいく。

 

〈おそらくジョン・童なる人物は架空のキャラクター。オメガ社という『人々に妖怪の危険性を刷り込むツール』を上手いように操作するために用意した張りぼてだ〉

〈その実態は犯罪組織の一員。ヤクザか、マフィアか。反社会的な勢力が自分たちに都合の良い流れを生み出すため、己の犯罪を全て妖怪の責任と押し付けることのできる社会を実現するために行なった、大いなる野望への第一歩だったのだ〉

 

 ここで冒頭に岩永が呟いた『陰謀』というワードが活かされていく。

 犯罪組織たちによる『犯罪を全て妖怪のせいにできる理想社会の建設』という途方もない陰謀論。

 それだけを聴かされれば一笑に伏すような話だが、岩永の説明を聞いた後だと、もしかしたら実現されるかもと危機感を抱かせられる。

 

 

〈うへぇ~、マジかよ!!〉

 

〈ちょっ、ちょっと怖いかも〉

 

〈そ、そんな世界実現するわけないだろ!〉

 

〈いや、あながちあり得んとも言えん……〉

 

〈この流れだとな……〉

 

 

 まとめサイトの住人たちも揺れている。

 自分たちが今直面しようとしている危機を具体的なビジョンにし、それがどれだけ危険なものか。

 それをじっくりと噛み締めさせ——岩永はトドメの一撃をお見舞いする。

 

〈あの動画も、言うなれば実験的なものだ。本当に自分たちの犯罪を妖怪に押し付けることができるかと、犬山親子を使って自分たちの手で実際に犯罪を起こし、そして悠々と誤魔化して見せた〉

 

 つまり——犬山純子の傷害事件に『動機』など初めからなかったのだ。

 傷つける相手など誰でもよく『犯罪そのものを隠蔽できるか?』を実験することこそ目的だったと岩永は主張。

 一番不可解な動機の部分を説明したことで、もはや彼女の意見に大声で反論できるものなどいなかった。

 

〈そして、彼らはあの動画をネットに拡散した。これには二つの効果が期待できる。一つは自分たちの犯行を妖怪の責任に押し付けること。そしてもう一つは——人間と妖怪を徹底的に対立させることだ〉

 

 ここで動画の存在に触れ、どうしてあんな『偽物の動画』が必要だったのか理由を説明する。

 

〈全ての犯罪を妖怪のせいにしたい彼らからすれば、人間と妖怪は憎しみあっているくらいが丁度良い。徹底的に憎み合わせるため、オメガ公認キャラのオメガくんを通し、さらに世論を徹底的に煽った〉

 

 あの動画が流れてすぐ、オメガ社から『オメガくん』というキャラが公式でコメントを流した。

 

『妖怪たちはこの国に災いをもたらそうとしている!』

『妖怪たちの怨念はもう爆発寸前なんだ!』

『百鬼夜行となって怒りや怨念が溢れ出している!』

 

 あのメッセージもジョン・童に扮した名無しの仕業だ。事実なのだから、岩永の推理を補強する材料として有益なものとなる。

 もっとも、岩永はジョン・童の正体を『名無しという怪異』ではなく、あくまで『犯罪組織』ということにして人々に呼びかける。

 

 このまま犯罪者たちの好きにさせていいのかと、彼らの正義感に訴えかけた。

 

〈このまま私たちが何も行動を起こさなければ、彼らのいいように世界は歪められてしまう。良識ある人たちよ。どうか惑わされないでくれ。彼らのいいように事実を歪めさせず、真実を見極める瞳を持つことこそ、この社会を守ることに繋がるのだから〉

 

 

 

 

「なっ!! 何という娘じゃ!!」

 

 真実を歪めている本人が、人々に向かって真実を見極めよと呼び掛ける。岩永琴子という少女の面の皮の厚さに、目玉おやじは呆れずにはいられない。

 もっとも、それは彼が真実を知っているからだ。岩永の組み上げた『合理的な虚構』を真実と受け取った人々からすれば、岩永のコメントは反社会的な勢力から社会を守ろうとする正義の呼び掛けとして伝わっただろう。

 

 

〈おう、任せろ! この国の正義を俺たちが守る!〉

 

〈ジョン・童め、オメェの好きなようにはさせねぇ! 地球はオラが守る!!〉

 

〈ジョン・童って、確か一度もメディアに顔を出したことないんだろ?〉

 

〈何か今も雲隠れしてるらしいよ、オメガ社ももうすぐ潰れるって話だし〉

 

〈用済みだからか……上手いこと逃げやがったな!!〉

 

 

 途中までは岩永の推理に疑心暗鬼していた流れも一気に覆り、今や彼らの噂の矛先はジョン・童という架空の人物へと向けられている。名無しがジョン・童を演じていたのだから、不自然な点があるのは当然だ。

 その不自然さが、岩永の語った虚構に真実味を持たせることになっていた。

 

「な、何なんだこれは? こんなにも……あっさりと覆るものなのか?」

 

 鬼太郎はその流れの変化に困惑する。

 つい先ほどまで、犬山まなの能力に関してあーでもない、こーでもないと話し合っていた人々が岩永の意見を支持し、今度はジョン・童を責めている。

 件の力の影響もあるのだろうが、それにしても見事な手のひら返しに鬼太郎は開いた口が塞がらなかった。

 

「……これがネットの恐ろしいところじゃよ」

 

 一方の砂かけババア。彼女は鬼太郎たちと違って、ネット社会というものに触れているため、この流れの変化が理解できる。

 

 この掲示板は議論の場ではあるが、発言者に何の責任もなければ、それで誰かの人生を左右しているなどという自覚もない。皆が好き勝手なことを主張し、その結果がどうなるかなど深く考えもせずに誰かの意見を支持したり、罵倒したり。

 

 岩永の主張が支持されたのも、彼女の説明にある程度の合理と、ほどよい愉悦が混じっているからだ。

 

 妖怪などという存在よりも、もっと分かりやすい反社会的勢力という『悪』の象徴が提示された。

 人々は『正義』の大義のもとで彼らを糾弾し、自分たちの愉悦感を十分に満たすことができる。

 

 

〈逃げるな、ジョン・童!〉

 

〈出て来い、犯罪者め! お前らの好きにはさせねぇぞ!!〉

 

〈てめぇの犯罪だろ! てめぇで責任とれや、この野郎!!〉

 

 

 犬山まなという何でもない女の子を弄るよりも、よっぽど楽しいのだろう。最初の頃よりも熱のこもったコメントで我先にとジョン・童を始めとする犯罪者たちを糾弾する人々。

 

「恐ろしいものじゃが、今回はそれで助けられたのう……」

 

 それらのコメントを冷たい目で見ながらも、目玉おやじはホッと胸を撫で下ろす。

 少なくとも、これで当初の目的——『動画が偽物』であることを証明し、犬山まなへの疑惑も晴らすことができた。

 

 

 

 全ては岩永琴子の描いたシナリオ——計画通りと彼女はほくそ笑んでいるだろう。

 

 

 

×

 

 

 

『——奥さん! 不倫してたというのは本当ですか!?』

『——鳥の羽ばたきを聞いたってのも嘘だったんでしょ!!』

『——ち、違います! やめて下さい!!』

 

「…………」

 

 記者に追われる女性のニュース映像をスマホで見ながら、岩永琴子は人気のない公園のベンチに座っていた。

 

 昨夜の岩永のネットの主張が反映され、さっそくマスコミ各社が例の母親の近辺を嗅ぎ回り始めた。母親は不倫の事実を否定するも、いずれは根負けしてボロを出すだろう。

 岩永は特に母親のフォローに回る必要性を感じす、そこは放置することに決めていた。

 

「おっと」

 

 待ち人も来たため、彼女はスマホをしまいベンチから立ち上がる。

 

「お待ちしてましたよ、鬼太郎さん、目玉おやじさん」

「…………」

 

 待ち合わせ相手はゲゲゲの鬼太郎と目玉おやじだ。

 彼らと今回の事件の後処理について話し合うため、こうして会談の場を設けていた。

 

「その後の経過はどうですか? 犬山さんの周囲に何か動きがありましたか?」

「うむ、特に問題はない。嗅ぎ回っていた記者の数も減ったようじゃし、畑怨霊のようにまなちゃんを害そうという輩も今のところはおらん」

 

 岩永の質問に目玉おやじが答える。

 岩永のでっち上げた『ジョン・童とその裏に蠢く犯罪組織の仕業説』が世間に浸透したことで、徐々にだが犬山まなへの世間に対する関心は薄れていった。

 マスコミも興味の対象をジョン・童へと切り替え、彼に対する追跡調査を始めている。

 

 しかし、ジョン・童の正体は既にこの世を去った名無しだ。いくら嗅ぎ回ったところで、マスコミ程度ではその真に迫ることはできない。

 

 いずれ騒ぎも収まり、ジョン・童という存在は多くの謎を残して人々の記憶から忘れ去られるだろう。

 その不気味さが、さらに岩永の主張を強固なものとして後押ししてくれる筈だ。

 

「そうですか、それは良かった。あとはほとぼりが冷める頃を見計らって、ネットに拡散した動画を消していきましょう。知り合いに手練れのハッカーがいます。そちらの方も私に任せてください」

 

 騒ぎの直後に動画を消せば不自然さを拭えないが、騒ぎが一段落した後なら動画を消してもそれほど問題にはならない。

 岩永にはそっち方面の知り合いもいるらしく、アフターケアもバッチリだと彼女は笑みを浮かべて見せる。

 

「う、うむ……そうか」

 

 目玉おやじはその笑顔に気圧される。

 今回の事件解決の手段といい、畑怨霊を相手取ったときの大胆さといい。彼女には驚かされてばかりだ。

 

「……岩永琴子」

 

 すると、それまで無言でいた鬼太郎が彼女に話しかける。

 鬼太郎は——どこか不機嫌な表情で岩永と向き合っていた。

 

「今回の君のやり方……ボクは完全に納得できたわけじゃない」

 

 鬼太郎が気にしていたのは、岩永琴子の事件解決の方法である。

 彼女は今回の事件、動画を偽物と人々に信じ込ませるためにネット上で虚構を組み上げ、それを真実だと大声でぶち上げた。どこかの『嘘を毛嫌いする女妖怪』ほどではないにせよ、鬼太郎自身も嘘というものをあまり好いてはいない。

 確かに岩永の方法で事態は沈静化しつつあるが、それにより多くの人々が翻弄されるというのも、あまりいい気分はしないものだ。

 

「けど、助けられたのは事実だ。ありがとう……」

 

 もっとも、彼女によって友達のまなが助けられたのも事実。

 鬼太郎もそこは素直にお礼を言い、その場を立ち去ろうとした。

 

 

 

「——これから先、人間と妖怪はどうなっていくのでしょうか……」

 

 

 

 立ち去る鬼太郎の背中に、岩永にしては少し不安そうな声音で彼に声を掛けた。

 

「…………」

 

 鬼太郎は彼女の言葉にそこで足を止める。

 

「『人間と妖怪は近づきすぎない方がいい』……昔、貴方に教えられたことです。ですが、今やその均衡も崩れ……人々は妖怪の存在を認めるようになりつつあります」

 

 きっかけは、名無しが妖怪の封印を解いたりして、いくつもの事件を引き起こしたところにあるだろう。

 しかし、それ以外のところでも妖怪たちは騒ぎを起こし、人々の目に触れられるようになってきた。

 

「私は……今の状況を快く思っていません。その火消しのため、『秩序』を維持するためなら……いくらでも嘘を吐き続ける覚悟です」

 

 岩永はそういった不用意な人と妖との交わりをよく思っていない。

 知恵の神という立場で、これからも秩序を守るために嘘を吐き続けることを鬼太郎に宣言する。

 

「それでも……いつかこの嘘もバレてしまうでしょう」

 

 だがそれも時間の問題だ。

 いずれ——今以上に人間たちに妖怪の存在が認知され、もう嘘や狂言では誤魔化しきれないところまで行き着くだろう。

 

「そうなったとき……私たちはどうすべきなのでしょう? どうすればいいのか……鬼太郎さんも、今のうちに考えておいた方がいいと思います」

「…………」

「では、失礼します」

 

 そうなったとき、果たして自分たちはどう行動すべきか。

 

 

 結局、その答えを互いに導き出すことなく——鬼太郎と岩永はそれぞれの居場所へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩永と別れてすぐ、その足で鬼太郎は目玉おやじととある場所へと訪れていた。

 

「この岩をどければ、その向こうに黄泉比良坂……地獄へと繋がる道がある」

 

 そこは人気のない森の中、大岩が何かに蓋をするように鎮座している。

 目玉おやじはそれこそが『黄泉比良坂』——日本神話でイザナギがイザナミを取り戻すべく下ったされる黄泉へと続く道であることを語る。

 

 黄泉——すなわち、地獄だ。

 

 彼らは猫娘の魂を現世に呼び戻すため、閻魔大王に直談判するつもりでここを訪れていた。

 それはずっと鬼太郎なりに色々と考えて出した結論。目玉おやじも今更止めるつもりはない。だが——

 

「秩序か……」

「ん? どうかしたか、鬼太郎」

 

 ここに来て、鬼太郎の胸に迷いのようなものが生まれる。

 

「父さん。ボクのやろうとしていることは岩永琴子の言う、秩序とやらに反しているのかもしれません……」

 

 人間と妖怪が近づきすぎないことを『秩序』とする岩永の考え方。それを子供の頃に彼女に教えたのは、他でもない鬼太郎たちだ。

 その鬼太郎が『死者を呼び戻す』という、この世の理に反することを閻魔大王に頼もうとしている。

 このことを岩永が知れば——ひょっとしたら軽蔑するかも知れない。

 

「それでも……ボクは…………」

 

 だが、誰に何と言われようとやはり諦めることはできない。

 たとえ秩序に反しようとも、誰に責められようとも——猫娘の魂を連れ戻す。

 

 そのためなら、自分に差し出せるものを全て差し出すつもりでいた。

 

「……鬼太郎よ、そう気負うな」

 

 息子の覚悟に目玉おやじは優しく呟く。

 

「お前一人が何もかもを背負う必要はないんじゃ」

「…………」

「閻魔大王にはわしの方からも頼んでみる。だから……一緒に行こう!」

「ありがとうございます、父さん……」

 

 父親の後押しもあり、ゲゲゲの鬼太郎は今度こそ覚悟を決める。

 

 あの日、策略によって奪われたものを取り戻すため——

 犬山まなから失われた笑顔を取り戻すためにも——

 

 

 

 鬼太郎と目玉おやじは黄泉へと繋がる道を道なりへと進んでいった。

 

 

 




人物紹介

 弓原紗季
  桜川九郎の元カノ。九郎の体質とか、妖怪とかが基本NGな人。
  岩永とは対照的に長身で綺麗なお姉さんタイプ。
  こんな綺麗なお姉さんに振られた後に、岩永のようなロリ?と付き合うとは。
  九郎くんもなかなか侮れませんな……。

次回予告

「バックベアード不在の中、揺れる西洋妖怪の勢力図。
 関係ない場所で行われる筈の権力闘争の波が日本にも押し寄せる。
 父さん!? あの不気味な笑い声はいったい!?

 次回——ゲゲゲの鬼太郎『魔女と百騎兵』見えない世界の扉が開く」

 前回の後書きで「季節ものやる」と言いましたが、そういえば「まだアニエスを出していない!」ことに気づいたので予定を変更。
 いつか予告していた『魔女と百騎兵』とのクロスを行う予定です。
 さすがに世界観の共有は難しいので、キャラだけ設定、独自設定で行かせてもらいます。
 テーマはズバリ『魔女』。次回はあの魔女の罵詈雑言の嵐が吹き荒れる……。
 
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