この度、活動報告の方で正式な形で『鬼太郎のクロスオーバー候補の募集』を行うことにしました。提案方法など、そちらの方に掲示しておきますので、詳しくはそちらを参照していただきたい。
さて、今回は魔女と百騎兵とのクロスオーバー。
ですがコメント欄を見ると、わりかし知らない人も多いようなので軽く概要に関して説明させて頂きます。
『魔女と百騎兵』は『深夜廻』と同じ日本一ソフトウェアという会社が出しているゲームタイトル。同社初のフルポリゴンによる3Dアクションゲームです。
原作はイデアという異世界を舞台にしていますが、本作とクロスオーバーさせるため、原作とは違う形でキャラクターの設定を鬼太郎の世界観に合わせています。
所謂、ひとつのパラレルワールドのようなもの。
そのため、原作を知らない人でも十分に楽しめると思います。
原作を知ってる人なら、メタリカの言動や行動に既視感を感じてもらえると思います。
後書きの方でキャラ設定についても解説しますので、よろしくお願いします。
西洋——大陸のどこかにある巨大な城。
常に暗雲が立ち込め、決して日の昇ることのない永遠の夜に包まれた空。
人間はおろか、動物でさえ決して近寄らない。足を踏み入れることのできない怪異たちの支配領域。怪物たちの巣窟、悪鬼羅刹が蠢く伏魔殿。
その城の名は——バックベアード城。
西洋妖怪の一大勢力、バックベアード軍団の根城であるそこは難攻不落の要塞。
千年前、西洋妖怪の帝王を決める戦争でバックベアードが勝利して以降、かの者はこの場所に君臨し続けていた。
内部の反乱による脱走騒動こそあったものの、少なくとも外部からの侵略を受けたことなど、ここ数百年では記憶にない。
そんな、名実ともに西洋妖怪の帝王の名を冠する城砦が——
今まさに——襲撃を受けていた。
「——何事だ!?」
唐突に起こった爆発音。
悲鳴のようなサイレンに、壁一面に広がる目玉の監視カメラが一斉にその目を見開く。
雑兵である首無しの騎士たちが右往左往する中、バックベアード軍団・三幹部の一人ヴォルフガングの叱責の声が飛ぶ。
ヴォルフガングは一見するとスーツ姿のただの人間のようにも思えるが、バックベアード軍団きっての武闘派でその正体は狼男である。
一度変化すれば手が付けられず、彼の機嫌を損ねまいと、首無し騎士の一人が膝をついて今の状況を報告する。
「て、敵襲です、ヴォルフガング様!! 城が……敵の攻撃を受けています!!」
「敵襲だと!? 馬鹿なことを言うな!!」
もっとも、どれだけ礼儀正しく報告しようと、内容が内容だけにヴォルフガングは激怒する。
「ここをどこだと思っている!? バックベアード城だぞ! 我らが主……西洋妖怪の帝王、バックベアード様の居城だぞ!! 我らが帝王の本拠地が敵の襲撃を許すなど……」
バックベアードに忠誠を捧げる彼にとってその存在は絶対だ。その絶対の主の名を冠する城が敵襲などという事態に慌てふためくなど、決してあってはならない醜態だった。
だが——
「——キヒーヒッヒッヒ!! な~にが、西洋妖怪の帝王だ! 帝王の治世は既に終わったのだ!!」
そんなヴォルフガングの忠誠を嘲笑う、甲高い笑い声が城の上空より響き渡る。
「!? この笑い声は……」
どこか聞き覚えのある笑い声に、ヴォルフガングは暗雲立ち込める空を見上げる。
すると、そこには一人の少女。長い金髪にとんがり帽子を被った『魔女』が城全体を見下すようにホウキの上に佇んでいた。
「キヒヒッ!! 久しぶりだな、ヴォルフガング」
「貴様は——沼の魔女・メタリカ!!」
その魔女と面識のあるヴォルフガングは叫ぶ。その少女の名前と、魔女としての二つ名を——。
魔女とは、西洋における代表的な妖怪の一種族だ。
既に離反しているがバックベアードの配下にも、アニエスやアデルといった魔女が仕えていた。そして、魔女には彼女たちの他にも様々な勢力が存在し、元よりその全てをバックベアードが支配下に置いていたわけではない。
このメタリカという魔女もその一人。
バックベアードが飼い慣らそうとし、最後まで思い通りに従わなかった尊大な魔女の一人である。
「貴様っ! バックベアード様の要請にも従わず、今更になって何のようだ!!」
「何のようだとはご挨拶だな~、狼男! 主を失い、しょぼくれた貴様らの情けない面をわざわざ拝みにきてやったんだ。もっと喜べよ、キヒヒ!!」
「な、なんだと!?」
怒れるヴォルフガングの叱責にメタリカは挑発的な言葉を返す。ヴォルフガングはその挑発に何とか言葉を返そうとするも、それが事実なだけあって上手く反論することもできない。
そう、メタリカの言ったとおり。ヴォルフガングたちの主であるバックベアードは今現在動けない状態にある。
日本でゲゲゲの鬼太郎に敗北し、そのダメージから彼を深い眠りについているのだ。
その話が周辺諸国の西洋妖怪たちに知れ渡り、今や西洋は群雄割拠の時代に突入した。
いくつもの有力な勢力がバックベアードの居座っていた『帝王』という座を狙い、虎視淡々とチャンスを窺っているような情勢なのだ。
「ふん! それで……? 貴様も……バックベアード様の後釜を狙っている身の程知らずというわけか?」
おそらく、このメタリカもその一人だろう。ヴォルフガングは一旦冷静さを取り戻す。
正直なところ、彼女のような手合い相手にもはやヴォルフガングたちに驚きはない。主の不在を見計らい不穏な動きを取る連中など、これまでどおり始末するだけだと、いつでも飛び掛かれるよう身構える。
「キヒヒッ! そのとおりよ!! これからはワタシたち、魔女の時代だ!!」
案の定、不遜にもメタリカはバックベアードに取って代わることを宣言する。
「何なら貴様もワタシの配下に加わるか? 貴様らのような負け犬でも、雑用程度には役に立つだろうさ!!」
あまつさえ、彼女はヴォルフガングに向かって自分の配下に加われと大言を吐き捨てる。メタリカのそんな戯言に、もはや我慢の限界を超える。
「自惚れるなよ……小娘が!!」
ヴォルフガングは怒りに吠え猛り、全身が真っ赤な毛で覆われた狼男へと変身する。
さらにそのタイミングで女吸血鬼のカミーラ、フランケンシュタインのヴィクターも姿を現す。
「沼の魔女……メタリカ」
「これはこれは……随分と珍しいお客さんだぁ~」
ヴォルフガングと同じ、バックベアード配下の三人衆。軍団最強戦力揃い踏みだ。
その三人でメタリカを囲みながら、ヴォルフガングは語る。
「確かに貴様は優秀な魔女だ。その潜在魔力はあのアニエスにすら匹敵するだろうよ……」
彼らはメタリカという魔女の力を決して侮ってはいない。
彼女の潜在的な魔力はバックベアードのお気に入りだった魔女アニエスに匹敵し、彼らが世界侵略のために重要視していた計画『ブリガドーン計画』のコアになれるほどの素質を秘めていると、むしろ高評価していた。
「あん? 匹敵だと……ふざけたことを吐かすな、この×&%&野郎!!」
「なっ!? なんて品のない女……」
しかし、たとえが悪かったのか。ヴォルフガングの評価にメタリカは放送コードに引っかかるレベルの発言で憤り、同じ女性であるカミーラを引かせる。
「ワタシに匹敵する魔女などいるものか!! ワタシこそ唯一にして無二の本物の魔女! 生まれついての大魔女! 最強の魔女、メタリカ様だ!! このワタシに並び立つものなど、この世のどこにも存在せんのだ!!」
「ほざけ!! どれだけ貴様が強かろうとも所詮は『魔女』に過ぎんわ!!」
自身のことを最強と自称するメタリカだが、ヴォルフガングはそれがあくまで魔女としての範疇だと鼻を鳴らす。魔女の魔法は確かに便利な能力ではあるが、その反面——彼女たちは直接的な戦闘力が低い傾向にある。
「我ら三人を同時に相手取って、勝てるとでも思っているのか!?」
だからこそ、軍団最強戦力が揃ったこの状況でメタリカに勝ち目などないと。
ヴォルフガングたちは微塵も自分たちの優位を疑ってはいなかった。
「キーヒッヒッヒ!! ワンワン吠えるな、○%&♯×♯の三下共が!! 貴様らなんかにワタシの相手がつとまるもんかよ!!」
ところが、メタリカは余裕の笑みを浮かべながら倫理コード限界の言葉で三人を罵倒し、決して城上空から降りて来ようとはしない。
まるでそこから見下ろすのが当然とばかりに、彼女は自らの手足になる——『使い魔』へと命令を下した。
「貴様らの相手はコイツがしてくれるよ! ワタシが長きにわたる大帝召喚の儀でようやく呼び出した——この『百騎兵』がな!!」
「ば、馬鹿な!? 百騎兵だと? あの伝説の魔神を呼び出したとでも言うのか!?」
メタリカの呼び出そうとしているものの名に、ヴォルフガングを始めとする西洋妖怪たちが戦慄する。
百騎兵——その恐ろしい魔神の名は、西洋世界で伝説として知れ渡っていたからだ。
古の大魔女ウルカの著書『ドクトリン』曰く、
『その風貌、怪鳥の如き。身の丈、山の如し。
禍々しい13の眼に、大地を引き裂く4本の剛腕。
颯爽と天翔ける大翼は大気を震わせ。
その唸り声は大地を揺るがす。
口と股間から火を噴く。その数、百体からなる魔人軍団』
色々と誇張のある伝承だが、それが『恐ろしいもの』であるというのが、その伝説を知るもの全てに通じる認識だ。メタリカはその伝説の魔神を呼び出し、ヴォルフガングたちと戦わせようというのだ。
「さあ! 暗闇の淵より現れ出でるがいい、百騎兵! その醜悪なる姿をコイツらに見せつけてやれ!!」
彼女が号令を掛けるや、ヴォルフガングたちの眼前に黒い穴のようなものが出現。
その奥から——何かが這い上がってくる気配を感じる。
「くっ!?」
「っ……!」
「むむむ……?」
バックベアード軍団三人衆も、そのプレッシャーの前に固唾を呑む。
今まさに、この場に出現しようとする伝説の魔神相手に彼らも厳戒態勢で身構える。
そんな——いつ破裂してもおかしくない緊張感の中、ついに満を持して百騎兵がその姿を現世へと現した。
『——わきゅ!!』
なんとも間の抜けた、愛らしい?とも呼べる鳴き声と共に——。
×
「……平和ですね、父さん」
「ああ、そうじゃな……」
ゲゲゲの森の昼下がり。特に事件もなく、平和な日常を謳歌していた鬼太郎親子はすっかりダラけきっていた。鬼太郎は眠そうな目で机に突っ伏し、目玉おやじが茶碗風呂に浸っている。
「ちょっとアンタたち、もっとシャキッとしなさいよ……」
その様子を、いつものようにゲゲゲハウスを訪れていた猫娘が呆れ気味に見ている。怠け者の男たちをしっかり者の女性として説教していた。
「いいじゃないか。ついこの間まで、ずっと気を張り詰めていたんだから……」
しかし、猫娘の小言に鬼太郎はダラけたまま笑みを浮かべる。
例の騒動——地獄の一件がようやく片付いた彼としては、久しぶりに穏やかな時間を迎えられ、心の底から安堵していた。
そう、つい先日まで鬼太郎には常に『地獄の四将の魂を回収しなければならない』というプレッシャーが付きまとっていた。
全ては閻魔大王との約束。猫娘の魂を取り戻すため、自分が地獄に繋がれるかもしれないのに交わした密約によるもの。
結局、一人で全てを抱え込もうとしたことが猫娘にバレて平手打ちを食らうことになったが、なんとか最後の四将である九尾の狐を倒し、閻魔大王との契約を全て完了することができた。
「君が戻ってきて、本当に良かったよ……猫娘」
以前のような平和な日常を取り戻し、鬼太郎は本当にホッとしていた。
「!! べ、別に……そんなの、今更言葉にするようなことでもないでしょ!」
そんなことを鬼太郎に言われたもんだから、猫娘はニヤケそうになるの必死に堪える。色々あったが猫娘自身も今回の一件、鬼太郎がそうまでして自分を取り戻そうとしてくれたことが、本当に嬉しかった。
「あ、あのね……鬼太郎! これから私と……!!」
その嬉しさから、勢いのまま鬼太郎をデートにでも誘おうと、猫娘が珍しく前のめりに声を掛ける。
いつもなら恥ずかしさから伝えられない気持ちを、ひょっとしたら打ち明けることができるかと勇気を振り絞る。
「——鬼太郎よ、ちょっといいかのう?」
「うっ……」
だがそんな猫娘の淡い期待を、砂かけババアの来客が封じ込める。さすがに人目が複数あるところで、彼をデートには誘いにくい。
こうして、猫娘の恋路はまたも進展しないまま、話は別の方向へとシフトすることとなった。
「アニエスから緊急連絡じゃ。鬼太郎に伝えたいことがあるとか……」
「——沼の魔女……メタリカ?」
『ええ、そうよ』
ゲゲゲハウスを出た鬼太郎たち。彼らは砂かけババアの砂通信で西洋の友人・アニエスと連絡を取っていた。
この砂通信——言ってみれば、ビデオ通話アプリのようなものだ。
砂かけババアの砂が遠方にいる人物の映像を実体化させ、あたかも目の前にいるかのような臨場感で会話することができる。ホログラム映像のようでもあるが、効果時間が短いのが欠点。
アニエスはその短い通信時間で伝えるべき情報を伝えようと、要点を掻い摘んで話を進めていく。
『メタリカ……ワタシと同年代の魔女なんだけど、そいつが貴方の首を狙ってるの。だから気を付けてって伝えなきゃと思って……』
「どうして、その魔女がボクを?」
鬼太郎はそのメタリカという魔女に全く心当たりがない。だからアニエスの話にもピンと来ず、どうして自分が狙われているのかと首を傾げる。
『どうしてって……貴方はあのバックベアードを倒したのよ!? 西洋妖怪の連中にとって貴方は忌々しい敵であると同時に、自身の力と権威を知らしめる打ってつけの『材料』なのよ!」
アニエスが言うには鬼太郎、彼がバックベアードを倒した影響により、西洋では現在『熾烈な勢力争い』が行われているとのこと。
バックベアードという、強大な影響力持っていた権力者の不在により、次なる『帝王』の座を狙って多くの有力妖怪たちが水面下で動いているというのだ。
アニエスはそんな地位になど興味がないため、姉であるアデルと権力闘争とは離れた平穏な日々を過ごしている。だが、血気盛んな西洋妖怪の中にはその地位を得ようと暗躍し『自分がバックベアードよりも強い』ことを知らしめるため、その帝王を退けた鬼太郎を倒してやろうと画策しているものもいるというのだ。
以前も、それで吸血鬼エリートや吸血鬼ラ・セーヌが日本を訪れ、それぞれ鬼太郎を苦しめた。
辛くも彼らを撃退したことで、鬼太郎を狙おうという輩もなりを潜めたのだが——
そんな中、堂々と名乗りを上げたのがメタリカという魔女であった。
『アイツはバックベアード城を急襲してヴォルフガングたちと交戦したらしいわ。その時は……どうやら決着がつかずに、メタリカの方から手を引いたらしいけど……』
「あの狼男と…… !」
ヴォルフガングと戦ったことのある猫娘が顔を顰める。
彼に散々苦しめられた苦い記憶がある彼女としては、少なくともアレと互角に戦えるメタリカという魔女の実力に渋い顔をするしかない。
『直接バックベアード城を占拠することに失敗したメタリカだけど、今度はアナタを狙って日本に向かったらしいの。ワタシも今からそっちに行くから、あまり無茶はしないで、鬼太郎……』
そう言い残すと砂通信の時間切れか、アニエスの映像が途切れて彼女はただの砂へと戻っていく。
「……どう思いますか、父さん?」
アニエスとの通信を終え、鬼太郎は先ほどの話の内容に関して目玉おやじの意見を尋ねる。
「う~む、沼の魔女メタリカか……地獄の一件が片付いたと思ったら、今度はまたも西洋妖怪……前途多難じゃな」
地獄の騒動がようやく収まったところでの西洋妖怪の再びの襲来。いざこざの絶えない昨今の情勢に、さすがの目玉おやじも困惑を隠しきれない。
「ほんと……迷惑な話よね」
猫娘もウンザリした溜息を吐いていた。西洋の権力抗争など、正直勝手にやってくれと思わずにはいられない。
「とりあえず、皆に声を掛けておこうかのう」
砂かけババアはゲゲゲの森の住人たちに呼びかけを行うことにした。
メタリカという魔女がいつやってきても対抗できるよう、皆に警戒を促そうとしていた。
だが、そんなことを考えている間にも——既に侵略者の魔の手はすぐそこまで迫る。
突然の雷鳴が森中に響いたことで、それを実感として彼らは思い知ることとなる。
「! なんて強い妖気だ……父さん!?」
「まさか、もう来おったのか!?」
鬼太郎の妖怪アンテナにも反応があった。
強い妖気、タイミング的にも彼女——沼の魔女・メタリカだと予測し、鬼太郎たちは急いで騒ぎのあった方向へと駆け出していく。
×
「——キヒーヒッヒッヒ!! 踊れ踊れ! 死ぬまで踊り続けろ! カスどもがっ!!」
嫌な予感は的中した。そこには高笑いしながら森を焼き払う邪悪な魔女・メタリカの姿があった。そして煌々と燃え盛る炎を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う日本妖怪たち。
「うグァああ……おのれぇぇぇぇ!!」
大事な森を傷つけられたことで、そこを住処とする山爺が巨大化して襲い掛かる。
彼は以前も森で禁忌を犯した子供相手に怒り狂い、鬼太郎たちを大分苦戦させていた。その時はなんとか怒りを鎮めてもらい事なきを得たが、今度は森を直接焼き払われている。
去年もバックベアード軍団に森を汚された。彼の堪忍袋の緒が切れるのも当然だろう、だが——
「——消えろ、木偶の坊」
メタリカはあっさりと言い放ち、その強大な魔力の炎で山爺を燃やし尽くす。
「ぐわぁぁっつ!? こ、小娘がぁぁぁあああ!?」
彼の力を持ってしてもメタリカに一矢報いることができず、その肉体は抹殺されてしまう。
「や、山爺!?」
「なんということじゃ!!」
山爺の魂が何処ぞへと飛び去ってしまう光景を見送りながら、その場に遅れてやってきた鬼太郎、目玉おやじ、猫娘、砂かけババア。
「あん? キヒヒッ! 来たか!」
ようやく現れたお目当の相手を前に、メタリカが不気味な笑い声を森中に響かせる。その笑い声と騒動を聞きつけ、他の仲間たちも現場へと駆けつけてくる。
「な、なんじゃ、なんじゃ!?」
「何事とね~?」
「ぬりかべ……」
子泣き爺、一反木綿、ぬりかべ。
「ああん? うるせぇな~何の騒ぎだよ、こりゃ?」
ついでにねずみ男も顔を出す。その辺で昼寝でもしていたのか、状況がさっぱり呑みこめずに眠気眼を擦っていた。
「お前が、沼の魔女メタリカか!」
長い金髪に見るからに魔女といわんばかりのとんがり帽子。鬼太郎は彼女がアニエスの言っていたメタリカであると察して声を掛ける。
初対面の鬼太郎に自身の名前を呼ばれ、一瞬不思議そうな顔を浮かべるメタリカだったが、すぐにそれが誰の仕業か理解して不敵な笑みを浮かべる。
「キーヒッヒッヒ!! 何だ、アニエスにでも聞いたのか!? そうさ! ワタシこそが偉大なる最強の魔女! メタリカ様だ!! ソイソース臭い島国の田舎妖怪どもがっ!! 頭を垂れて感涙に咽び泣け! このワタシの威光を前に跪くがいい!!」
「な、何なのよ……こいつ!!」
いきなり現れては森を焼き払い、山爺を殺した。鬼太郎たちに頭を下げろと、厚顔不遜に吐き捨てるメタリカの尊大さに呆れる猫娘。
こいつ相手に話し合いは無理だろうと、爪を伸ばして先手必勝で飛び掛かろうとする彼女だが、それを鬼太郎が制して彼はメタリカの説得を試みる。
「メタリカ……ボクの首が欲しいという話だが、そんなものに大した価値があるとも思えない。この場は……大人しく引く気はないか?」
自分の活躍に自覚のない鬼太郎は『自分を倒して実績にする』という、西洋妖怪たちの考えを理解できない。出来れば無用な争いもしたくないと、あくまでメタリカに戦いを止めるように提案する。
森や山爺を焼き払われたことは悔しいが、それでも彼の魂は無事だった。
今ならまだ引き返せると、メタリカに忠告を入れる。
「ほざけっ!! ゲゲゲの鬼太郎!!」
しかし、メタリカはその提案を突っぱねる。
「西洋世界にワタシの名を轟かせるのには、やはり貴様の首を持ち帰るのが一番効果的なんだよ。未だにバックベアードに尻尾を振る連中も、そうすれば認めざるを得まいよ。このワタシの実力を! 偉大さをなっ!!」
「……どうしてもやるつもりか?」
「くどいぞ、チビガキ!! これ以上ぐだぐだ文句を垂れるなら、切り落とした生首を塩漬けにするだけではない! お前の貧弱な『アレ』の皮ひん剥いて、ネズミの帽子にでもしてしまうぞ!!」
「なっ!? な、な、な、な、何言ってんのよ、この馬鹿!!」
メタリカの罵詈雑言、鬼太郎の『アレ』とやらを想像して真っ赤になる猫娘。
彼女以外の仲間たちも鬼太郎の『アレ』……もとい鬼太郎の身を守ろうと、メタリカの前に立ち塞がる。
「はっ! ようやくその気になったか!! いいだろう、貴様らまとめて相手をしてやる!」
自分に楯突こうとする日本妖怪にメタリカは好戦的な笑みを浮かべた。
鬼太郎のみならず、立ち塞がる全てをなぎ払おうと——彼女は自身の使い魔に呼び掛ける。
「来い、百騎兵!! バックベアード城のときのような無様は許さんぞ!! お前の力……お前が真に伝説の魔神であることを、コイツらの屍を築くことで証明してみせろ!!」
「百騎兵……?」
ヴォルフガングたちとは違い、百騎兵の伝説を知らない鬼太郎たちは首を傾げる。
いったいメタリカが何を呼び出そうとしているのか、何一つ検討も付かない。
だが——彼女の言葉と共に出現した黒い穴。そこから這い出そうとしているものの気配に鬼太郎の背筋が凍る。
「鬼太郎っ!?」
「っ……何か、いる!?」
彼以外も、その場にいる全てのものが底知れぬプレッシャーを感じとった。
穴の中から顔を出そうとしている、その百騎兵なるものに——。
「——っ指鉄砲!!」
そのプレッシャーを理屈抜きで不味いと感じ取った鬼太郎。咄嗟に指鉄砲を放ち、先制攻撃を喰らわす。穴に向かって放たれる鬼太郎の妖気弾。
しかし、モクモクと煙が上がるだけで鬼太郎の指鉄砲は不発に終わる。
「キッーヒッヒッヒ!! 不意打ちとはやるじゃないか……だが、その程度でワタシの百騎兵はやられはせん!!」
「……くっ!!」
「さあ、百騎兵よ! そいつの首をはねて、臓物をぶち撒いてやれ!!」
メタリカの号令に、ついに煙が晴れて百騎兵が姿を現す。
その威圧感に相応しい、悍ましくも恐ろしい姿を想像する一同。
しかし——
『わきゅっ!!』
「…………はっ?」
小動物のような鳴き声を上げながら登場した『それ』に、思わず呆気にとられて硬直する鬼太郎たち。
想像していたのとは大分違う、その百騎兵の姿は——随分と可愛らしい?見た目をしていた。
まず身長が低い。人間の子供ほどの鬼太郎の背丈よりもさらに低い、チンチクリな黒い塊らしきもの。
一応人型っぽいが、その体型もアンバランスだ。胴体を中心に腕が太くて短く、足も小さく短い。兜を被った頭でっかちの頭部には、トーチのように青い炎が灯っている。
目力もなく、キョトンと鬼太郎たちを見つめる瞳には今ひとつ迫力が感じられない。
『もきゅ~……?』
「……なに、これ?」
そんなヘンテコの謎生物が勿体ぶって現れたもんだから、一同は拍子抜けして肩の力を抜いてしまう。
「……ケッ! なんでぇい、なんでぇい!? ビビらせやがって!!」
特にねずみ男がそんな百騎兵を舐めくさり、無用心に近づいては汚らしい足でその兜を踏みつける。とてつもなく横柄な態度で、百騎兵などという大仰な名前のそれをイジリ倒す。
「ほれほれ! なにが百騎だよ。一匹しか出てこねえじゃなぇか、ほれほれ!!」
『……ぐルゥぅ~!!』
そんなねずみ男に、明らかに『怒る』というリアクションを見せる百騎兵。
『うキャァッ!!』
次の瞬間にも、犬のような唸り声を上げてねずみ男に襲い掛かっていた。
そして————
ところ変わり、ここはバックベアード城。
メタリカの襲撃から一夜明けてなお、城の中では兵士たちが慌ただしく走り回り、未だに緊張感を漂わせていた。
「急げっ!! またいつあの女の襲撃があるかも分からんのだぞ!!」
そのメタリカが、今は日本へ向かったことをまだ知らないのか。ヴォルガングは再度の敵襲に備えて部下たちに指示を飛ばしていた。壊れた城壁の修復、警備兵の配置など、やることは山積みだった。
「ヴォルフガング、あの百騎兵についてアンタどう思う?」
兵士たちを監督しているヴォルフガングに同僚であるカミーラが声を掛ける。
先の戦い、あの忌まわしい魔女メタリカと——伝説の魔神の名を冠する、あの不思議な生物に対する意見を求めていた。
「そうだな……最初、奴が百騎兵と名乗ったときは何の冗談かと思ったが……」
ヴォルフガングたちもあの不思議な生物が登場した際はその見た目から侮り、メタリカの言葉を全く真に受けなかった。あんな、チンチクリンな怪生物が伝説の魔神などと、どうして信じることが出来ようか。
「だが……認めざるを得んだろうさ」
だが、実際に戦ったことでその考えが甘かったことを実感させられてる。ヴォルフガングは周囲の景観、城の被害を見渡しながら呟く。
バックベアード城の被害は甚大だった。
メタリカと百騎兵の戦いの余波で城壁がところどころ破壊され、巻き添えをくらった首なし騎士たちの残骸がいたるところに転がっている。最終的に追い払えたからこそ良かったものの、果たしてこれを勝利と呼べるのであろうか。
なにせ——転がっている重傷者の中には、あのフランケンシュタインとしての本性を発揮したヴィクターの姿もあったのだから。
『う、うぐぁぁぁ……』
辛うじて息はあるものの、起き上がる気配もなく呻き声を上げる図体がデカイままのヴィクター・フランケンシュタイン。
同じ幹部として、それを無様などと——ヴォルフガングたちは笑うこともできない。
「それにして恐るべき奴だ、百騎兵。途中からメタリカの援護があったとはいえ……」
三人の幹部がアレと戦い、その力の程を——嫌というほど思い知らされることになったのだから。
「まさか我ら三人を、同時に相手取るとは……」
再びゲゲゲの森。
「——へっ?」
百騎兵相手に、ねずみ男は完全に油断していた。
こんなチビ助に自分を害することができるわけないと、まったく予想していなかったのだ。
その百騎兵が、自分の腕を巨大化させて殴り掛かってくるなどと——。
自身の身長に匹敵するその拳をハンマーのように叩きつけられるなど、微塵も考えていなかった。
「おわぁぁぁぁぁっ!?」
結果、ねずみ男は無防備のまま殴り飛ばされ、そのまま岩盤に叩きつけられる。
「ね、ねずみ男!? 大丈夫か!!」
「は、はひぃ~ほれほれ……」
景気よく吹っ飛んだねずみ男に鬼太郎が叫ぶ。
彼の体は半身が岩盤に埋まるような状態だが、生きてはいるのか返事はする。さすがにしぶとい。
『う~、うきゃぁぁぁぁっ!!』
しかし今の一撃を皮切りに、いよいよ百騎兵が本格的にその牙を剥く。
威嚇するような唸り声を上げ、とぼけた瞳がギラリと吊り上がる。頭部の青い炎が激しく燃え上がり、その身に溜め込まれた妖力が爆発的に高まっていくのが誰の目から見ても明らかだった。
「キーヒッヒッヒ!! 馬鹿めっ! 百騎兵をただの使い魔だと思うなよ! それを使役するこのワタシをただの魔女だと思うなよ!!」
メタリカは無様を晒したねずみ男を嘲笑いながら、彼女自身も魔力を漲らせて戦闘態勢に移行し始める。
「さあ! いくぞ、百騎兵!! 今度は最初からワタシが手を貸してやる。ワタシとお前との共同作業だ!」
『わきゅっ!!』
メタリカとその使い魔——魔女と百騎兵の二人、ついに鬼太郎たち全員を相手取るべく動き出す。
「!! みんな、気を付けろ! こいつはっ!?」
「————!!」
メタリカたちの圧力を前に、鬼太郎も仲間たちと共に迎え撃つ態勢を整えた。
奇しくも、彼らが激突した場所は過去にバックベアード軍団の先兵として、ヴォルフガングが上陸した場所だった。
一年前と同じその場所で——鬼太郎は再び西洋妖怪と矛を交えることとなる。
人物紹介
沼の魔女・メタリカ
見るからに魔女という恰好。傍若無人な言動や行動で周囲を引かせる。
彼女の台詞がちょくちょく「ピー」という効果音で打ち消されるのは原作通りです。
沼の魔女と名乗っていますが、優秀なので炎や雷、剣をぶん回したりなど様々な戦い方で敵を駆逐できます。
原作では……彼女の正体そのものがネタバレのようなものなのですが、今作では……とある人物の娘という『別の可能性』——マゴリアという『IF』の世界観設定でのキャラ付けを考えています。次回以降……その母親も出てくる予定です。
百騎兵
メタリカが呼び出した使い魔。一応、プレイヤーが操作する原作の主人公。
ちっこい見た目に反して、かなりの戦闘力を誇る。
コイツの正体も……原作の完全なネタバレになるので、本作では一切説明はせず、あくまで『謎の魔神』という設定で進めていきたい。
山爺
鬼太郎側からのゲストキャラ。まあ、一瞬でやられちゃったけど。
原作でバックベアード軍団に森を焼かれたときなど、感想の掲示板や放送時のコメントで「山爺はどうした?」「山爺参戦しないの?」的なコメントが印象に残っていたので、登場させてみました。
一応、魂は無事なのでいずれは復活できます。安心してください。