ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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前回の後書きで『次回のクロスオーバーの舞台はどこがいいですか?』というアンケートで『海』か『山』かという選択肢を選んでもらいましたが。
予想通り『海』と答えた方が多かったので、次回のクロス先は海水浴場を舞台にしていきたいと思います。
一応、山でもいいように色々と考えていたのですが、是非もなしか……(ノッブ風)。

さて、魔女と百騎兵の続きです。
一応、全三話で完結させるため、結構色々と詰め込んだのですが、それでも文章量が多くなり、泣く泣く出番を削ったキャラがいます。

登場人物や用語に関して、後書きの方で解説させて頂きます。


魔女と百騎兵 其の②

「ふん~ふふ~ん……猫姉さん、喜んでくれるかな?」

 

 その日、犬山まなは大好きな猫娘へのスイーツを手土産にゲゲゲの森を訪れていた。

 

 それは地獄の一件が無事に片付き、猫娘が完全なる復活を遂げた記念にまなが奮発して用意した祝いの品だ。

 猫娘が幼い姿で戻ってきたときもささやかな御祝いをしたが、このスイーツはそのとき以上。三丁目の安売りモンブランなどとは、比較にならないお値段の高級品だ。

 

「余計な気遣いかもしれないけど、これくらいさせてください……猫姉さん」

 

 これだけの品を用意したのも、まななりに、猫娘の件を気にしていたからでもある。

 まなが消し去ってしまったことで地獄へと送られた猫娘の魂。無事戻ってきたと思っていたが、まなが知らないところで様々な制約を課せられていたらしく、危うく猫娘どころか、鬼太郎まで地獄へと繋がれるところだった。

 本当にヒヤヒヤものだったが、地獄の騒動を解決したことで今度こそ猫娘の魂は条件なしで地上へと帰還した。

 これで、本当にもう心配することは何もなくなった。地獄を救った祝いも兼ねて皆で盛り上がろと、まなはウキウキ気分で森の中をスキップで進む。

 

 ところが——

 

「えっ!? な、なに? 今の爆発!?」

 

 ゲゲゲハウスへ辿り着いたところで誰もおらず、周囲をキョロキョロと見回したところで彼女の耳に激しい爆発音が響いてきた。

 森のさらに奥深く、普段まなが立ち入らないような方向から聞こえてくる何者かが激しく争い合う音。

 

「き、鬼太郎……? 猫姉さん!?」

 

 一瞬の間の後、まなはそこで戦っている誰かが自身の親しい相手である可能性を危惧する。

 少し迷ったが、急いで音が聞こえてくる場所へと彼女が駆け出そうとしたところ——。

 

「——まな!!」

「! あ、アニエス!?」

 

 まなの友達。西洋の魔女・アニエスがホウキに跨って森上空を飛行していた。アニエスはまなの名を呼びながら、彼女の下へと舞い降りる。

 

「どうしたの、アニエス!? 西洋に帰ってたんじゃなかったの?」

 

 友達に会えて喜ぶまなだが、同時にその顔には戸惑いも浮かんでいる。

 アニエスとはつい先日、地獄の騒動のときにも手を貸してもらったばかりだ。あの後、別れを惜しみつつ西洋への帰還を見送っただけに、間を置かずに日本を訪れていることに驚きを隠せない。

 

「そ、そうだったんだけど、ちょっとね……」

 

 まなの問い掛けにアニエスは言葉を濁す。

 彼女が日本を訪れたのは、魔女・メタリカの蛮行を阻止するためだ。

 彼女の暴虐っぷりを同じ魔女としてよく分かっているアニエスからすれば、話し合いでどうにかできるような相手ではないことも熟知している。

 否が応でも戦いになるだろう。というか、どうやら既に戦いが始まっているらしい。

 

「まな。貴方はここにいて。説明は後でするから……」

 

 アニエスは、その戦いにまなを巻き込みたくないと遠ざける選択肢を選ぶ。バックベアードとの決戦のとき、地獄での騒動のときなど、色々と助けられたりしたが、やはりまなはただの人間なのだ。

 

 ここから先は妖怪——いや、魔女同士の戦いだ。

 

「ここで待ってるのよ……いいわね?」

「あっ! アニエス!?」

 

 状況が呑み込めないでいるまなに念を押すように言い聞かせ、アニエスは地面を蹴って飛び立った。

 愛用のホウキを駆り、既に戦いが始まっている場所へと急行する。

 

 

 

×

 

 

 

「——くっ……こいつら!?」

 

 ゲゲゲの森の中でも原っぱが広がる開けた場所。そこで鬼太郎たちは沼の魔女・メタリカ。その使い魔である百騎兵と矛を交えていた。

 メタリカたちは二人。対する鬼太郎たちは鬼太郎に猫娘。砂かけババア、子泣き爺、一反木綿、ぬりかべと、ほとんどフルメンバーによる最大戦力だ。

 普通に考えれば劣勢に立たされることはない戦力差だが、相手は西洋妖怪。以前もこの場所で鬼太郎たちはヴォルフガング一人に痛い目にあった。

 そういった苦い経験もあり、鬼太郎たちもメタリカ相手に油断なく立ち回っている。

 

 だが——メタリカと百騎兵の実力は鬼太郎たちの予想を遥かに超えていた。

 

『もきゅ~!!』

 

 前線で主に鬼太郎たちと刃を交えるのは百騎兵の役割だ。

 最初、拳を巨大化させてねずみ男を一撃で戦闘不能にした、チンチクリンな謎の魔神。パッと見、何も持っていなかったためそのまま素手で戦うのかと思いきや、そうではない。

 百騎兵はどこから取り出しているのか。その手に様々な『武器』を持ち、それを自在に振るって鬼太郎たちを苦しめていく。

 

「このっ!」

『わきゅっ!!』

 

 猫娘が鋭い爪で切り裂こうとすれば、それに対抗するように自身の身の丈ほどの『大剣』を振るい、彼女の爪と鍔迫り合う。

 

「くらえっ! 火炎砂……なんじゃと!?」

『でゅわっ!』

 

 砂かけババアが遠距離から砂を振りかけようとすれば、リーチの長い『槍』で間合いの不利を覆してくる。

 

「おぎゃっ! おぎゃっ!」

「ぬりかべ~!!」

『きゅわ~!』

 

 子泣き爺が自分の体を石にしながら迫り、ぬりかべがその硬い体でとうせんぼしようとする。

 それに対し、百騎兵は『大槌』を思いっきり叩きつけ、石となった子泣き爺を殴り飛ばし、ぬりかべの体を粉々に打ち砕く。

 

「空からの奇襲! これなら対応できなか……って、なんね!?」

『うきゅっ!!』

 

 上空からの攻撃なら対応できまいと一反木綿が空から攻めようとする。

 すると、真っ赤な炎の灯った『燭台』を手にし、それを振るって上空へと火炎弾を飛ばしてくる。苦手な炎を前に一反木綿はたまらず回避に専念するしかない。

 

 さらに、百騎兵は小さな分身のような小人を生産し、爆弾のようなものを投げつけ、ブーメランのように武器を投擲してくる。

 まさに変幻自在。その戦い方は、まさに百人の兵士を相手にしているかのようだ。 

 

 しかし、鬼太郎たちも別に一方的にやられていたわけではない。

 

「体内電気っ!!」

『でゅわわわわわっ!?』

 

 元の大きさが小さいだけにすばしっこく、なかなか上手く捉えることのできない百騎兵の動きでも、なんとか攻撃を命中させる鬼太郎。

 

「もらったわよ!!」

 

 動きの止まったタイミングを見計らい、猫娘が牙剥き出し、爪を最大まで伸ばして切り裂こうと接近戦を仕掛けた。

 

「——キヒヒッ!! 隙だらけだよ!!」

「きゃっ!?」

 

 だが、それを阻止する絶妙なタイミングでメタリカが後方から茶々を入れてくる。

 

 彼女は森の上空、ホウキに乗った状態から戦場を観戦し、そこから魔法で鬼太郎たちの動きを妨害してくる。雷の雨を降らしたり、炎を放ったりと。

 どちらか一方なら、何とか抑え切れたかもしれない。

 だが魔女と百騎兵。その二人のコンビネーションに彼らは完全に劣勢を強いられていた。

 

 そうして——徐々に疲弊し、追い込まれていく鬼太郎たち。

 

「う……うむむ」

「ぬ、ぬりかべ……」

 

 一人、また一人と力尽いて膝をつく。気が付けば、鬼太郎一人が辛うじて立っているような状態だった。

 

「みんなっ!? くっ……!」

「鬼太郎! 気をしっかり持つんじゃ!!」

 

 その鬼太郎もだいぶ疲弊している。目玉おやじが必死に呼び掛けるも、なかなか上手く立ち上がれない状態だ。

 

「キーヒッヒッヒ!! 無様だな、ゲゲゲの鬼太郎!!」

 

 既に勝利を確信したのか。上空から後方支援に徹していたメタリカが地上へと降りてきた。彼女は尊大な態度で鬼太郎へと歩み寄り、その後ろに百騎兵が続く。

 

「……しかし、随分と拍子抜けだな。貴様、本当にあのバックベアードを倒したのか? にわかには信じ難いが……」

『むきゅう!』

 

 メタリカが実際に戦い、鬼太郎のことをそのように評価する。

 西洋の魔女として、曲がりなりにもバックベアードの脅威を知っている彼女からすれば、この程度の相手にあの帝王が遅れをとるなど、とても信じられないのだろう。

 傍らの百騎兵はバックベアードなど面識のない相手だが、とりあえず同意するように頷いている。

 

「キヒヒッ! まあいいさ。貴様を倒したとあれば、西洋におけるワタシのネームバリューも上がるというものだ!!」

「……ぐっ」

「しかし、このままただ殺すのもつまらんな……」

 

 鬼太郎打倒により自身の地位向上を喜びつつも、思ったより戦いが呆気なく終わって物足りなさを感じているのか。腕を組み、鬼太郎の頭を足蹴にしながら彼女は思案にふける。

 

「き、鬼太郎……!」

 

 大切な鬼太郎がそのような目に遭わされ、猫娘が何とか立ち上がる。しかし彼女もだいぶダメージを引きずっており、なかなか思うように体が動かず、悔しさから歯軋りする。

 すると、メタリカは悪戯を閃いた子供のように破顔し、その顔にサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「!! そうだ……いいことを思いついたぞっ!! キーヒッヒッヒ!!」

 

 メタリカはそう叫ぶと同時に鬼太郎を思いっきり蹴り飛ばす。勢いよく蹴り付けられ、彼の体は猫娘のすぐ側まで転がっていく。

 

「がはっ……!!」

「鬼太郎!? アンタ——っ!?」

 

 彼へのぞんざいな扱いに猫娘が抗議の声を上げる。だが猫娘がメタリカの方を睨みつけると、彼女は何かしらの呪文をぶつぶつと呟いていた。

 

「ナブラ……マハトア……ケブラ……」 

「アブラ・アダブラ・カタブラ」

 

 それなりに高度な呪文なのか、長々と詠唱を続けるメタリカ。そして——

 

「キヒヒッ! くらえっ!!」

 

 詠唱が終わるや、メタリカは黒い瘴気の塊のようなものを真っ直ぐ鬼太郎に向かって放つ。

 動けないでいる鬼太郎。そのまま行けば、間違いなく彼の身に直撃していただろう。

 

「——危ない! 鬼太郎っ!!」

 

 だがそこへ、猫娘が咄嗟に体を滑り込ませて鬼太郎を庇う。彼に命中する筈だった魔法を、猫娘がその身を差し出すことで喰い止める。

 

「猫娘っ!?」

「きゃあああああああっ————」

 

 身代わりとなった猫娘の名を叫ぶ鬼太郎。黒い瘴気をまともに喰らい、彼女は悲痛な叫び声を上げていたが、

 

 次の瞬間——彼女の姿が目の前から消える。

 

「なっ!? そ、そんなっ……ね、猫娘?」

 

 消された——と、猫娘が魂ごと消えてしまった以前の情景とを重ねて絶望に表情を歪める鬼太郎。

 だが、彼女の存在は消えてしまったわけではない。

 

「——チュー……? チュー、チュー!?」

 

 彼女が先ほどまでいた場所に、小さな『白いねずみ』がポツンと現れた。そのねずみは今の自分の状態に困惑しながらも、鬼太郎に向かって何かを伝えようとしている。

 

「ま、まさか……猫娘か?」

「っ!!」

 

 それが何なのか、意味を理解して目玉おやじが絶句し、鬼太郎も唖然となる。

 その答え合わせをするかのように、メタリカがそのネズミの尻尾を摘み上げて口元を歪める。

 

「キヒヒッ、馬鹿な女だ。自分から呪いにかかりにきやがった。余計な邪魔をするからそんな目に遭うんだよ!」

 

 そう、それこそメタリカの唱えた魔法——『呪い』の効力だった。

 猫娘はその呪いで、その姿を哀れにも『猫」から『ねずみ』へと変えられてしまったのだ。

 

 

 

×

 

 

 

「そんな……猫娘、ボクのせいで……」

 

 自分を庇ったせいで白いねずみへと姿を変えられてしまった猫娘に、鬼太郎はショックを受ける。猫の妖怪である彼女がねずみの姿に身をやつす。彼女からすれば、かなり屈辱的な姿だろう。

 罪悪感から憔悴する鬼太郎。そこへ、さらに畳み掛けるようにメタリカが嫌味な笑い声を上げる。

 

「キヒヒッ! 本当なら鬼太郎をねずみに変えて、ヴォルフガングたちにでもくれてやろうと思ったんだが……さて、この薄汚いネズミ。どうしてくれようか?」

「チュー! チュー!!」

 

 メタリカに尻尾を掴まれ、宙ぶらりんにされるネズミの猫娘。人語を発することができないのか、ねずみの鳴き声で必死に手足をバタつかせている。

  

「そうだな……薬の材料にでもしてやろうか? それとも……このままイキのいいオスねずみ共の巣穴にでも放り込んで、子作りでもさせてやろうか!? きっと子沢山の大家族になれるぞ、キーヒッヒッヒ!!」

「チュー!? チュー! チュー!!」

 

 猫娘の処遇に関し、ぱっと思いついたアイディアをメタリカは口にする。

 当然、その嫌すぎる対応に先ほどよりも激しくバタつき——猫娘は何とかメタリカの魔の手から逃れて地面へと転がる。

 

「何だ? 気に入らなかったか……だったら——」

 

 しかし、ねずみの体では上手いことメタリカから遠ざかることが逃げ切ることが出来ず。

 

「だったらここで……ヒキガエルみたいに潰れてろ!!」

「猫娘っ、逃げろ!!」

 

 地べたに転がるねずみを踏みつぶそうと、メタリカの足が猫娘へと迫る。このままペチャンコにされてしまうかに思われた、そのとき——

 

「——ダイナガ・ミ・トーチ!!」

 

 魔法の詠唱。上空より飛来した火球がメタリカの体を吹き飛ばし、間一髪で猫娘の危機を救う。

 

「なにっ!? ぐぬ……」

『わきゅっ!?』

 

 突然の奇襲にメタリカの体が大きく後方へと除ける。百騎兵は慌ててメタリカへと駆け寄り、主人に危害を加えた乱入者への敵意を漲らせる。

 

「鬼太郎!! 無事!?」

「アニエス!!」

 

 遅れながらもその場に馳せ参じた乱入者の正体はアニエスだった。彼女の到来に鬼太郎は少し顔色を良くし、ねずみとなってしまった猫娘を急いで保護する。

 

「大丈夫か、猫娘?」

「チュー、チュー……」

 

 鬼太郎の手に包まれ、ひたまず安堵する猫娘だが、元の姿に戻れるわけではない。

 呪いをかけた張本人・メタリカを倒さねば、猫娘は一生このままかもしれない。

 

「下がってて、鬼太郎。ここは……ワタシに任せて頂戴」

 

 とりあえず、疲弊している鬼太郎を下がらせアニエスが前に出る。

 

「アニエス……。百騎兵! 手を出すなよ。こいつはワタシの獲物だ!」

 

 メタリカも、まるでそれに応じるように百騎兵に引っ込んでいるように言い聞かせる。

 魔女と魔女。西洋から来た二人の少女が、異国の地であるこの日本で正面から対峙することと相成った。

 

 

 

 

「……久しぶりだな、アニエス」

 

 睨み合うこと数秒間、最初に口火を開いたのはメタリカの方だった。

 

「貴様とこうして顔を合わせるのは……ヴァルプルギスの夜会で集まったとき以来だな……」

 

 メタリカの言う『ヴァルプルギスの夜会』とは、魔女たちの会合のことだ。

 

 数年に一回、あるいは数十年に一回。有力な魔女たちが一堂に介し『新しい魔女の任命』や『異端魔女の処遇』など。様々な議題を協議し、決定するという魔女たちの意思決定機関である。

 数年前。アニエスとメタリカはその会合の場で同時期に正式な魔女として認められた。言ってみれば同期の間柄。本当であれば、もっと仲良くするのが好ましいのだろうが——

 

「……ええ、そうね。貴方がその夜会で大暴れしたおかげで議会は途中でお開き! ワタシには二つ名も与えられなかったけどね!」

 

 実はその夜会の場で、メタリカは何が気に入らなかったのか大暴れして議会を滅茶苦茶にしている。

 そのせいでアニエスは魔女としての『二つ名』を付けられる機会を流され、未だにこれといった象徴もない、中途半端な魔女としての活動を強いられていた。

 そのことを——アニエスはちょっぴり根に持っていたりする。

 

「キーヒッヒッヒ!! 怒るな、怒るな。古臭い歴史だの、伝統だのに縛られた年寄り共に、ちょっと喝を入れてやったまでのことだ!!」

 

 一方、先に『沼』という二つ名を与えられたメタリカ。

 彼女は夜会での狼藉を大したことと思っていないのか。その議会を仕切る魔女たちを『古臭い』と罵倒し、新しい時代を生きる魔女として堂々と宣言する。

 

「ワタシはバックベアードにとって代わり、西洋妖怪を取り仕切る! 妖怪も、魔女も……そして人間も! 全てを平伏させ、このワタシの偉大なる功績を——全世界に知らしめてやるのだ!!」

 

 それこそが、メタリカの野望。

 そのためにゲゲゲの鬼太郎の首を欲し、それを手土産に西洋妖怪たちを従えようとしている。

 当然、そのような暴挙は同じ魔女として、鬼太郎の友人としてアニエスは見逃すことができない。

 

「させないわよ、メタリカ……ダイナガ・ミ・トーチ!!」

 

 メタリカを止めようと、得意の火炎魔法で再度攻撃を加える。

 

「ハッ!」

 

 しかし、真正面から放たれたその魔法に、メタリカも同種の魔法で迎撃していく。

 威力は——ほぼ互角。だが弾数はメタリカの方が多く、何発かアニエスに命中してしまう。

 

「くっ! だったら、これでどう! ウリュキノ……」

 

 それらの火炎を防御魔法で凌ぐアニエス。次なる一手として、空中に無数の光の粒子を出現させる。

 これらの粒子は炸裂弾となり、アニエスの詠唱タイミングで自由に起爆できるようになっている。彼女はその粒子でメタリカを囲み、彼女の動きを封じる。

 

「なるほど。確かに貴様の魔力は一級品だ。バックベアードに目を付けられるだけのことはある……」

 

 メタリカはアニエスの魔法を鑑賞しながら、彼女の力を推し量る。同じ魔女として、アニエスの魔力のほどが伝わってくるのか感心したように呟く。

 しかし——

 

「だが貴様の戦い方は——単調すぎる」

 

 呆れるように吐き捨てるや、メタリカは雷の魔法を自身の周囲に展開し、光の粒子を全て落雷で消し去ってしまう。

 

「そ、そんなっ……きゃっ!?」

 

 ついでとばかりにアニエスに向かっても雷を放ち、彼女の身を吹き飛ばしていく。

 

「アニエスっ!!」

『もっきゅっ!』

 

 思わず彼女に駆け寄ろうとする鬼太郎だが、それを阻止するかのように百騎兵が眼前に立ち塞がる。

 今の鬼太郎に百騎兵を退ける体力は残っておらず、アニエスの危機に彼も救援を出せずにいた。

 

 

 

 

「ふむ……なあ、アニエス。お前、ワタシに従うつもりはないか?」

「な、何ですって……!?」

 

 アニエスの魔法を魔法で退け、魔女としての力の違いを見せつけたメタリカ。彼女は少し考えるや、アニエスに自身の配下に加わらないかと誘いをかける。

 

「魔法の運用に無駄も多いが、貴様の潜在魔力は目を見張るものがある。このワタシと共に魔女の新たな歴史を紡ごうではないか!」

 

 アニエスもメタリカも、魔女としてはかなり若い部類に入る。

 メタリカは同じ世代を生きる魔女であるアニエスに注目し、共にこの激しい時代に覇を唱えないかと、そう言っているのだ。

 

 他の西洋妖怪たちを力尽くで従えようとした彼女にしては、まだ紳士的な対応だ。

 同じ魔女としての同族意識も働いているのだろう。

 

「……お断りよ!!」

 

 だが、アニエスはメタリカの提案を蹴った。

 

「ワタシはもう、支配されるのもするのも懲り懲り……」

 

 一年前まで、アニエスはバックベアードに仕えることを宿命として強要されきた。と同時に、彼の配下として他の妖怪たちを支配する立ち位置にもいた。バックベアード軍団の中でも、あのヴォルフガングやカミーラに敬意を払われる立場にあった。

 それは『ブリガドーン計画の駒として大事にされてきた』という側面もあったが、それでも立派な『支配階級を統べる』存在でもあった。

 

 だからこそ、彼女はそんなものがロクなものでないと分かっていた。

 

「ワタシはただ家族と……アデルお姉様と静かに暮らせればそれでいいんだから……」

 

 今はただ、一人残された唯一の肉親であるアデル・実の姉と穏やかに暮らせれば満足だと。

 アニエスは自身の幸せがどこにあるかを、既にもう知ってしまっているのだ。

 

「……そうか。結局のところ、貴様も古臭い『魔女会』の連中と同じということだな。『塔』に引きこもって、滅びの運命とやらを受け入れる愚者に過ぎないわけだ……ならば——消えろっ!!」

 

 その返答にがっかりしたとばかりに、メタリカは冷たい視線でアニエスを見下す。

 既にその瞳には同族に対する労りはなく、ただの敵としてアニエスを排除するため、大規模な魔法を行使しようとしていた。

 

「——アニエス!!」

 

 だがそのとき、アニエスの危機を見過ごせずにその場へと駆け付けるものが現れる。

 

「まなっ!?」

「来ちゃダメよ、まな!!」

 

 ゲゲゲの森に訪れていた犬山まなだ。アニエスの警告に一度は大人しくしようかと思った彼女だが、やはり心配で来てしまった。

 鬼太郎の叫びや、アニエスが危惧するのにも構わず、まなは一番近くにいたアニエスへと駆け寄る。

 

「アニエス!? 酷い怪我だよ!」

「だ、ダメよ、まな! 早く逃げて!!」

 

 アニエスの怪我を心配するまなだが、アニエスはアニエスでまなの身を気遣う。彼女のような無力な人間を前にメタリカが何もしないわけがない。猫娘のように、ねずみに変えられてしまうかもしれない。

 アニエスは半ば絶望的な気持ちでメタリカの様子を窺う。

 

「…………おい、アニエス。そのガキは……なんだ?」

 

 すると、メタリカはまなの存在を認識するや、詠唱中の呪文を中断してまで『それ』が何なのか問い掛けてきた。

 

「……ワタシの目に間違いがなければ……そのガキはただの人間の小娘に見えるのだが……そいつは……お前にとって、いったい何なのだ?」

「えっ……?」

 

 メタリカは、随分と戸惑った様子だった。

 心底困惑した様子で——『魔女の隣に並び立つ人間』である、まなという少女の存在に目を見張っている。あの傍若無人なメタリカの戸惑う姿に、アニエスは咄嗟に返事をすることができない。

 すると、それに代わってまなが堂々と答える。

 

「わたしは犬山まな!! アニエスの——友達よ!!」

 

 一変の迷いもない、まならしい清々しい答えだ。

 しかしそれにより、メタリカはますます混乱する。

 

「はっ……? 友達だと? おいおい、アニエスよ……このガキはいったい何を言ってるんだ? ……魔女と人間が友達になどなれる筈はないだろう……馬鹿も休み休み言え、ハハハ……」

 

 いつもの嫌味な笑い方とは違う。まるで力のない、乾いた笑みを浮かべるメタリカ。

 

「…………」

 

 だが、アニエスが何も言わずに黙ることで、まなの主張が決して間違っていないことを理解したのか。

 メタリカは——その顔から一切の表情を消し去ってアニエスに『魔女』としての問いを投げ掛ける。

 

「貴様、正気か……? 本気で魔女と人間が友達になれるとでも思っているのか?」

「…………」

 

 まるでアニエスの常識を疑うような発言だが——メタリカがそう主張する理由もアニエスには分かっていた。

 

 人間と魔女。本来であれば、そこに相容れる要素などないのだと。

 魔女たちはそれを——『歴史』として、知っているからだ。

 

「知らぬわけではあるまい。何も教えられていないわけでもあるまい。いかに貴様が半人前の魔女でも……我ら魔女と人間との間で、幾度となく繰り返された血みどろの歴史を……」

 

 

「そう——『魔女狩りの歴史』をっ!!」

「…………」

 

 

 何も答えはしないが、勿論アニエスは知っている。

 それは魔女として生きる以上、決して蔑ろにしていい出来事ではないのだから。

 

 

「魔女……狩り……?」

 

 

 ただ一人。

 何も知らないまなだけが、その言葉の響きにただただ衝撃を受けていた。

 

 

 

×

 

 

 

「どうだ、アニエス?」

「……やっぱり無理ね。ワタシじゃ、この呪いは解けそうにないわ」

 

 ここはゲゲゲハウス。何とか窮地を脱した鬼太郎たち。鬼太郎は魔女であるアニエスに猫娘にかけられた『ねずみ化』の呪いを解けないかと願い出ていた。

 

「チュー…………」

 

 しかし、アニエスの力量では猫娘を元に戻すことができず、ねずみのまま彼女は悲観に暮れている。

 

「かなり乱雑な魔法式ね、メタリカらしいと言えばらしいけど。これを本人以外で紐解けるのは……かなり高位の魔女だけよ。アデルお姉様でも難しいと思う」

「うむ……ところで、そのアデルはどうしたんじゃ?」

 

 アニエスの姉であるアデルの話題が出たところで、難しそうに腕を組んでいた目玉おやじが話を振る。今も一緒に暮らしている筈の彼女は日本には来ていないのかと。

 

「お姉様は少し遅れるわ。何でも……メタリカに対抗するために色々と準備してくるらしいから」

 

 どうやらアデルは装備を整えてくる気のようだ。そうまでしなければ勝てない相手、ということなのだろう。

 

「いったい、どういう奴なんだ! あの魔女は!?」

 

 猫娘をねずみにされてしまったからか、鬼太郎にしてはやや感情的になりながら、先ほどの行動も含めてメタリカという人物について思い出す。

 

 

 メタリカと百騎兵。二人は暴れるだけ暴れ、ゲゲゲの森に甚大な被害をもたらした。

 

 森を焼き払い、山爺を殺し、そして鬼太郎の仲間たちを傷つけた。

 砂かけババア、子泣き爺、一反木綿、ぬりかべ(ついでにねずみ男)は傷の手当てに今も療養中だ。

 猫娘もねずみに変えられてしまい、鬼太郎もかなりの痛手を負った。

 救援に駆けつけてくれたアニエスもメタリカには敵わず、そのままトドメを刺されるところだった。

 

 だが——まなの登場でその流れが変わった。

 正確に言えば、まなとアニエス——『人間と魔女』が並び立つ姿にメタリカは酷く苛立った様子を見せていた。

 

『——そうか、このワタシを袖にしておきながら……そんな人間なんざの手を取るというのだな!! そういうつもりなら、こっちにも考えがあるぞ!!』

 

 忌々し気にそう叫ぶや、彼女は百騎兵を伴ってホウキで何処ぞへと飛び去って行った。

 逃げたわけではない、きっと——もっとよからぬ何かを企てていることを予感させる動きだ。

 

 

「父さん、早く彼女を見つけ出さないと。猫娘にかけられた呪いも解かないといけません!」

「うむ、そうじゃな……」

 

 当初はメタリカとの戦いに消極的だった鬼太郎も、猫娘がねずみにされたことで戦う理由ができた。すぐにでもメタリカを見つけ、猫娘にかけられた呪いを解呪させなければと。

 

「…………ねぇ、アニエス」

 

 そんな、皆がメタリカに対抗する意思を固める中。

 ただ一人、まなだけが気落ちした様子で弱々しく口を開く。鬼太郎たちを傷つけられたり、猫娘をねずみにされたことでショックを受けているのもあるが、それ以上に——彼女はメタリカの言葉に戸惑っていた。

 

「魔女狩り……って、いったい何なの?」

「——!!」

 

 まなの疑問にアニエスがハッとなる。

 魔女狩り、その言葉の意味するところを魔女であるアニエスは当然理解しているし、魔女でなくても西洋のものなら妖怪でも、人間でも知っている事柄だ。

 だが、まなは西洋の人間ではない。

 日本のものに『魔女狩り』などという言葉自体、あまり馴染みのない響きだろう。

 

「魔女狩りか……確か、中世ヨーロッパで行われていたという、大規模な魔女への弾圧……じゃったか? ワシもそこまで詳しくはないが……」

 

 海の向こうの出来事故か、博識な目玉おやじですらそのくらいのことしか知らないのだ。中学生のまなが何も知らなくても仕方あるまい。

 

「……そんな生易しいもんじゃないわ、アレは…………」

 

 アニエスは、詳しい話をするべきか僅かに躊躇いを見せる。

 しかし、隠したところでどうしようもないと思ったのか、ポツリポツリと語っていく。

 

 魔女狩りの歴史について。

 

 

 そもそも魔女狩りとは——その言葉の響き通り、人間側が魔女たちを弾圧し、迫害した歴史そのものだ。

 古来より、宗教にとって邪悪とされてきた『魔女』という存在。実際、教会側にとっても彼女たちは『余計な知恵で民衆を神の教えから遠ざける』厄介な存在だった。

 だからこそ、教会は常に人々に魔女が敵であると刷り込み、自分たちの教えを広める際の便利な『仮想敵』としての役割を求めてきた。

 

 世が乱れたときなど、教会はいつだって口癖のように叫ぶ。

 飢餓や貧困が終わらないのは、魔女のせいだ。

 自分たちが幸せになれないのも、魔女のせいだ。

 

 そうやって、民衆の不満やストレス——フラストレーションの捌け口として常に魔女という存在を利用してきた。

 

 

「そ、そんな……酷い……」

 

 アニエスの話に、まなが呟く。

 自分たちの都合のため、魔女という存在を利用する教会側のやり方に彼女は憤りを覚えずにはいられなかった。

 

 だが——

 

「……違うのよ、まな」

「えっ……?」

 

 アニエスは、まなが抱いた感想に口出しする。

 

『その程度のこと』で安易に酷いなどと、そのような感想を抱く彼女に苦言を呈したのだ。

 

「魔女狩りの本質はそこじゃないのよ。人間が魔女を弾圧する。そこで終われば……まだいい方だったのよ……」

 

 魔女狩りの全盛期は中世。そのとき、アニエスまだ生まれてもおらず、当事者ではなかった。

 だがそれでも——魔女である彼女の耳に伝わってきた伝承だ。

 

 魔女狩りという事件の本当の悲惨さ。

 

 

 人という生き物のどうしようもない、救いようのなさが——。

 

 

 

×

 

 

 

「……ちっ! 目障りな光だな……ぺっ!」

『もきゅ~?』

 

 鬼太郎たちの前から一度離脱し、メタリカはゲゲゲの森から人間たちの世界。東京の運河にかけられた巨大な橋の上部に腰掛けていた。

 既に時刻は夕方を過ぎており、そこから見える都市部のキラキラした夜景を見下しながら、彼女は不愉快そうに唾を吐く。

 百騎兵は何故主人であるその少女が機嫌を悪くしているのか、全く理解できずとりあえず使い魔として彼女に付き従う。

 

「……おい、百騎兵」

『もきゅ?』

 

 暫くそうしていると、何の脈絡もなくメタリカが百騎兵に話を振ってきた。

 

「ものすごく胸糞悪い気分だ……何か面白い話をしろ」

『わっ、わきゅぅ~!?』

 

 いきなりの無茶振りに、困惑した感情を見せる百騎兵。面白い話をしようにも、彼は人語を発することができない。

 一定の知恵もあり、ある程度の自立意思も持ち合わせてはいるが、言葉で他者に気持ちを伝えることなどはできない。それが、百騎兵というものだった。

 

「ふん、冗談だ。貴様にそこまでのことを求めちゃいないさ……」

 

 メタリカも、百騎兵にそんなことは無理だと初めから分かっている。彼女はさらに気まぐれに、百騎兵相手に愚痴を溢していく。

 

「見ろよ、百騎兵。静寂な夜に人間たちが無遠慮に築いた、あの都市の輝きを……」

 

 メタリカの視線の先にあるのは、人間たちがその科学力で築いた文明の灯火だ。

 あの光景を眺めて人間たちは夜景が綺麗だの、ロマンチックだのほざくようだが、メタリカは全く別の感想を抱く。

 

「綺麗に着飾ってみても、まじかで見ればゴミゴミした人間どもの無秩序の集まりでしかない。いくら文明とやらが発展しようと、やっていることは中世の頃から何一つ変っちゃいない……」

 

 メタリカからすれば滑稽でしかないネオンの輝き。

 あの光輝く街の中で、昔と変わらず人間は他者を傷つけ、貶め、自らの欲望のために同じ人間同士でいがみ合っている。

 

 それこそ——中世の頃の魔女狩りのように。

 

 

 魔女狩りは——教会が魔女たちを政治的に利用するために行っていた行為だ。その魔女狩りの影響で多くの魔女たちが殺され、迫害されてきた。

 わずかに生き残った魔女たちは『魔女会』のような寄り合いを作り、身を寄せ合って互いを守るようになった。

 また、とある一族はその弾圧から身を守るために権力者——バックベアードのような強大な力を持った支配者の庇護下に入るようになった。

 それがメタリカやアニエスたちの先祖であり、彼女たちはその歴史を学んでいるが故に、人間とは相容れないという思想を理解している。

 

 

「——捜しましたよ、リカ」

「っ! ……ちっ!」

 

 ふいに、橋から人間たちの街並みを見下していたメタリカへと何者かが声を掛ける。メタリカはそれが誰なのかを声だけで理解し、そちらを振り返ることなく心底嫌そうにその者の名を呼ぶ。

 

「何をしに来やがった、マーリカ……ゲロ女め!」

「酷い口の聞き方ね……もっとお行儀良くなさい」

 

 メタリカの暴言に小言を口にしながら、その魔女——マーリカはメタリカの後ろに姿を現す。

 メタリカと同じようにとんがり帽子を被った、綺麗な大人の女性。魔女らしい怪しい格好ではあるが、どこか品性を漂わせる口調と立ち姿だ。

 

 彼女は『森』の二つ名を授けられた魔女・マーリカ。

 魔女会でも相当な地位にいる、他の魔女たちからも慕われる優しい女性だ。

 だが、どういうわけかメタリカはマーリカのことを毛嫌いしており、いつも二人は歪み合っている。……というよりも、メタリカが一方的にマーリカのことを嫌っているだけだが。

 

『もっきゅっ~!!』

 

 主人であるメタリカの敵対的な意志に呼応し、側にいた百騎兵が臨戦態勢で構える。

 だが、そんな彼のことを気にした様子もなく、マーリカはメタリカに語り掛けた。

 

「聞きましたよ、リカ。バックベアード城を占拠しようとしたり、日本妖怪に戦いを仕掛けたりと、色々と無茶をしているようですね」

「……ふん! 耳が早いな、得意の千里眼か? まっ、塔に引きこもっているお前たちにとって、娯楽といえばそれくらいだろうしな!」

 

 メタリカが口にした『塔』というのは、魔女会の拠点『幻影の塔』のことである。

 魔女狩りの迫害から逃れるため、魔女たちが逃げ込んだ先。そこは誰が建てたかも分からない天高き場所までそびえ立つ巨大な塔だった。

 魔女会の魔女たちは魔法によってその塔を異世界に隔離し、そこから千里眼で世界を眺めている。

 余計な外界の争い事と距離をとり、全てを諦めたかのように必要最低限の干渉しかしないのが、魔女会の規則だった。

 

「リカ、馬鹿なことを考えるのはやめて、塔に戻ってきなさい。今の貴方に……下界はまだ早すぎるわ」

「黙れ! いつまでも子供扱いするな、この$%&×?女が!!」

 

 メタリカは、とても子供には聞かせられないような台詞でマーリカを罵倒する。

 

「それと……ワタシの名前はメタリカだっ!! いつまでも昔の名前で呼ぶんじゃない!!」

 

 ついでに、自身の呼び方についても訂正を入れながら、リカ——メタリカと名乗るようになった少女はマーリカを突っぱねる。

 

「貴様らのようなババア共の出る幕ではない! ワタシが西洋を支配し、日本を支配し、世界中を支配した暁には魔女会もワタシの膝下に置いてやる。そのときまで、せいぜい塔の中で震えながら待っているがいい、キーヒッヒッヒ!!」

 

 メタリカは、自身の壮大な目的をマーリカに聞かせてやった。

 未だに自分を子供扱いする彼女も、それできっとビビって震え上がるだろうと。

 自分という魔女に恐れ慄くことを期待し、下卑た笑い声を響かせる。

 

 だが——

 

 

「——リカ。そんなに人間が憎いのですか?」

「…………あん?」

 

 

 マーリカの問い掛けに、メタリカの笑みが消える。

 

「ワタシたち魔女を滅びの運命へと追いやった人間が憎いのですか? 彼らに復讐するために、世界を支配しようなどと考えているのなら改めなさい。そんなことをしても……失われた命は戻ってきません」

 

 今や魔女と呼ばれる存在は少なくなり、存亡の危機に立たされている。その原因を作ったのが人間たちの行った魔女狩りだ。

 マーリカはメタリカが人間たちへの復讐のため、今回のような行動を起こしたとそのように考える。しかし——

 

「けっ……勘違いするな」

 

 特に動揺した様子もなく、メタリカは平然と言い返す。

 

「今更復讐なんかしても無駄なことくらい、ワタシにだって分かる。第一、魔女狩り如きで狩られる魔女など、所詮はその程度のヘナチョコだったに過ぎん。それでいちいち人間を憎みもしない」

 

 メタリカにとって、狩られた魔女など淘汰されて当然の弱者に過ぎない。そこに関して、メタリカは特に関心すら抱いていない。

 

 そう、メタリカは人間を憎んでなどいない。

 彼女は、ただ単純に人間という種族を見下し——呆れているだけだ。

 

「そもそも……その魔女狩りで最も被害を受けたのは『人間』たちだろうが。あれだけ自分たちで魔女、魔女と騒ぎ立ておきながら——まったく関係ない人間を魔女として殺してるんだからな……」

 

 そう、彼らが起こした『滑稽な茶番劇』に対して——。

 

 

 魔女狩りは——本来であれば教会による、異端な魔女への迫害が元となっている。教会も、最初の頃は民衆を上手いことコントロールし、正しく魔女たちを弾圧することに成功していた。

 

 だが——やがてその勢いは教会の手を離れ、民衆によるただの『私刑』と化した。

 

 魔女だけを迫害すればいいところを——ただの人間を、隣人である筈の仲間を魔女と密告し、凄惨な拷問にかけた上で自白をとり、そして処刑する。

 その一連の流れが当然なものとなり、いつしか本物の魔女かどうかすらどうでもよくなった。

 

 そう、『魔女狩り』という行為に、魔女など最初から必要なかったのだ。

 

 不安定な情勢に対する不満への捌け口さえあれば、それでよかったのだ。

 そのために——偽物の魔女、偽物の罪状で延々と魔女狩りを繰り返してきた。

 やがて、魔女狩りという言葉自体も廃れていったが、今もこの流れは人々の間で愚かな伝統として受け継がれている。

 

 

 いつだって、人間は迫害する対象を見つけ出し、弾圧することで心の安らぎを得てきたのだから。

 

 

 

「ワタシはな……そんな愚かな連中が我が物顔で世界を支配してる現状が気に入らんだけだ!! 魔女会の連中も、その現状に対して何も行動を起こそうともしない!!」

 

 メタリカはそんな愚かな人間たち、迫害される立場に甘んじて何もしない魔女たち。双方に怒りを抱いていた。

 

「だから……ワタシが変えてやるのさ! この期にワタシが全てを牛耳る! 人間も魔女も……全てワタシが支配下において、全てを正しく統治してやるのさ!!」

 

 そんな現状からの脱却。

 それこそ、全てを支配するというメタリカの野望の根底にあるものだった。

 

「リカ……」

 

 メタリカの考えに、マーリカは何とも言えない表情で押し黙る。

 同じ魔女としてメタリカの嘆きも、不満も、怒りも——マーリカには理解できてしまう。

 魔女として若い彼女なら尚更、自分たちの境遇をただ受け入れることもできないのだろう。

 

「ふん! 何かを変える覚悟もない奴が、いちいちワタシのやることに口を出すんじゃない! 行くぞ、百騎兵!!」

『わっきゅっ!!』

 

 もはや、マーリカと話す意味を見出せなかったのか。

 メタリカは百騎兵を伴い、ホウキで橋から飛び立ってしまった。

 

 目的地は——東京の大都会ど真ん中。

 

 メタリカが『愚か』と罵る民衆たちが密集する都市部で、彼女は何を仕出かすつもりなのか——。

 

 

「キーヒッヒッヒ!! さあっ! 恐れ慄くがいい、人間ども!! メタリカ様の登場だよ!!」

 

 

 笑い声を上げるその顔は——かつて邪悪と多くの人間に忌み嫌われた魔女らしい。

 貪欲で強欲で、残虐で醜悪で淫猥で下劣だったという、魔女というものを意識した。

 

 

 少女らしさを隠し切れていない——無理矢理作ったような『笑顔』によって取り繕われていた。

 

 

 




登場人物紹介
  森の魔女 マーリカ
   メタリカにとって、不倶戴天の天敵。
   原作において、メタリカという人物の人格を決定づけた相手ともいえる。
   メタリカとの関係も色々と複雑。
   今作における関係性についても、色々と含みは持たせますが、はっきりと明言はしません。メタリカとマーリカ……二人の関係に色々と想像を膨らませてみてください。


用語解説
  ヴァルプルギスの夜会
   原作とほぼ同じ、魔女たちの夜会。
   この夜会で魔女たちは色々な揉め事を調停したり、新たな魔女の任命式を行う。
   元ネタはおそらく『ヴァルプルギスの夜』。
   ヨーロッパの催事。ただ非キリストの集まりということもあり、キリスト教にとっては『魔女たちの祝宴』という偏見が強いとのこと。

  魔女会
   魔女たちの集まり。今作における西洋妖怪の勢力の一つという位置づけ。
   
  幻影の塔
   魔女会の魔女たちが拠点にしている塔——というのが、今作における設定。
   原作では『魔女と百騎兵 Revival』の追加要素として搭載されたやり込みダンジョン。
   本編とは別枠でストーリーが用意されており、本作におけるメタリカの台詞なども、そこから一部引用させてもらっています。

  教会
   具体的にどこの何教かは伏せます。色々とややこしい問題になるので……。


 次回で完結させる予定ですが……さて、あと一話で収まるのか……。
   
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