ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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……衝撃!! 

今日の朝、いつものように『FGO』を起動させたら、いきなり新OPが流れてマジでビビった……。
もう情報量が多すぎて、全てを語ることが出来ないが……個人的に一番気になったことを言わせてくれ。

来た!! プロトマーリン!! これで勝てる!!


さて、肝心の本編の方ですが。
今回の『魔女と百騎兵』のクロスは個人的に色々と挑戦した回でした。

元々の世界観が別世界、ファンタジーが舞台の作品。
それをゲゲゲの鬼太郎の現代的な舞台に落とし込むという展開。
原作である魔女と百騎兵に独自設定を加えたり、鬼太郎世界の『魔女』に関して掘り下げたりと、色々と大変でした。

ですが……今回、この作品をクロスできたということで、他のファンタジー作品もやりようによっては参戦可能ということを証明できたと思っています。

勿論、全てを実現させられるとは思っていませんが、引き続き募集の方も続けますので、アイディアの提供よろしくお願いします!!

それでは……魔女と百騎兵、最終回をどうぞ!!




魔女と百騎兵 其の④

「……うっ、く、くるしい……」

「た、たすけて……」

 

 沼の魔女・メタリカが毒沼・ニブルヘンネを東京のど真ん中に呼び出したことで街中は大混乱。道端のいたるところに、沼の瘴気に苦しむ人々が横たわっている。

 この瘴気の中では、まともな生物など一時間と持たない。まさに彼らの命は風前の灯火、絶対絶命の危機に瀕していた。

 

「——大丈夫か、お主ら!?」

「——しっかりせい! 今安全な場所まで運んでやるからな!!」

 

 そんな中、街中を駆けずり回り、倒れる人々を助け起こすものたちがいた。

 

 ゲゲゲの森の住人——砂かけババアや子泣き爺たちである。

 彼らはアニエスから渡されて防毒マスクを装着しており、ある程度ならこの瘴気の中で活動することができていた。

 そのマスクで瘴気を防ぎながら、倒れた人間を少しでも毒沼の匂いの届かないところへ避難させようと、救出活動に従事していた。

 

「よし、いいぞ! 運んでやれ、ぬりかべ!!」

「ぬりかべ~!!」

 

 細かい作業は砂かけと子泣きが担当し、大勢の人たちを乗せて運ぶのは体の大きいぬりかべの役目だった。

 

 先の戦いで負わされた傷がまだ完治していなかったが、この際四の五の言ってはいられない。妖怪同士のゴタゴタに人間を巻き込むわけにはいかないと。

 少しでも被害を喰い止めようと、皆が必死だった。

 

「——砂かけババアさん!!」

「ん……? おおー、まな!!」

 

 するとそこへ、一人の人間の少女——犬山まながやって来る。

 彼女もマスクをしっかりと付けており、息を切らせながらも砂かけババアの下まで駆け寄っていた。

 

「はぁはぁ……わたしにも、何か手伝わせてください!!」

「……大丈夫なのか、まな? その……お前さんは……」

 

 先ほどまで、彼女はゲゲゲの森で酷く落ち込んでいた。

 魔女狩りの話に一人の人間としてショックを受けていたことは、砂かけババアも承知の上である。

 

「大丈夫です!! わたしも……役に立って見せますから!!」

 

 しかし、今のまなからは悲壮感は欠片も感じられない。

 どうやら彼女なりに悩みを打ち払ったらしく、元気な声で自分にも何かできないかと、積極的な手伝いを申し出る。

 

「わしからも頼む……砂かけババア!!」

「チュー!!」

 

 目玉おやじや、呪いでねずみにされてしまった猫娘も、まなに引っ付いてこちらにやってきている。

 まなはもう大丈夫だと。彼女がすっかり調子を取り戻したことを伝えていた。

 

「わかった……ちょうど人手が欲しかったところじゃ! 手伝ってくれ!!」

「はい!!」

 

 ならばこれ以上は何も言わないと。

 砂かけババアはまなにも救助活動を手伝って貰うため、彼女に指示を出し始める。

 

 

 

 

「アニエス……鬼太郎……」

 

 砂かけババアの指示のもと、倒れている人々を救おうと犬山まなも動き始める。

 だが、その口からは今もこの街のどこかで戦っている大切な友達・アニエスや鬼太郎の名が呟かれていた。

 

 本当なら、本当ならまなはアニエスの下へ、鬼太郎の下へと駆け付けたかった。

 だが、今も戦っているであろう彼女たちのところに行ったところで、足手まといになるのが関の山だ。

 

 断腸の思いながらも、まなは自分にできること。

 今もこの街で苦しんでいる人々へ、手を差し伸べることにしたのだ。

 

「アニエス、鬼太郎、頑張って! わたしも……今は自分にできることをするから!!」

 

 聞こえはしないだろうが、友達に向けて放たれるまなの決意。

 その決意を有言実行のものとすべく、彼女は目の前の困難へと立ち向かっていく。

 

 

 

×

 

 

 

 東京都庁屋上での、メタリカとの頂上決戦。アニエスはメタリカと、鬼太郎は百騎兵と。それぞれ別々に戦っていた。

 アニエスはメタリカの大出力の魔法に遅れを取り、一度はビルの上から身を投げ出され、絶体絶命の危機に陥っていたところだ。

 

「アデルお姉様!!」

「いくぞ、アニエス……反撃開始だ!!」

 

 しかし、間一髪のところでアニエスは姉であるアデルに助けられた。

 アニエスは救援に駆けつけてくれたアデルと共に、再びメタリカに挑むためにビルの屋上へと向かう。

 

「メタリカ!!」

「……あん?」

 

 頂上へと戻ってきたアニエスは叫ぶ。それにより、既に勝負がついたと思い込み、背中を向けていたメタリカが気怠げに振り返った。

 メタリカはそこで初めてアニエスが戻ってきたこと、その傍らに彼女の姉・アデルがいることに気づく。

 しかし——

 

「……なんだ。誰かと思えば、出来損ないの姉の方じゃないか。今更そんな奴を戦列に加えたところで、このワタシに敵うとでも思っているのか?」

 

 アデルの存在を認識したところで、メタリカは特に取り乱す様子もない。それどころか自分やアニエスよりも、少し年代が上の魔女であるアデルに向かい『出来損ない』と暴言を放つ。

 

「何ですって!?」

「…………」

 

 アデルが侮辱されたことに妹のアニエスが怒りを露わにする。だがアデルの方は特に気にした様子も、否定する様子も見せず。

 彼女は——メタリカの侮蔑を甘んじて受け入れる。

 

 

 魔女・アデル。

 かつてはバックベアード軍団の最高幹部、女将軍としてその名を西洋世界に轟かせた魔女。

 だが実のところ——魔女としての潜在魔力はそれほど高くなく、彼女自身も己の才能の低さを自覚している。

 アデルが魔女として高い戦闘力を維持できているのは、ひとえに彼女自身の努力の賜物。『魔法石』や『魔法銃』といった、魔法アイテムの作成に常に心血を注いでいるからだ。

 戦いの場で優雅に魔法を行使しているように見えてその実、裏側では相当真面目な努力を積み重ね、道具に頼っている。

 そんなアデルの在り方が——才覚溢れるメタリカからすれば、実に滑稽に見えるのか。

 

 

「ふん……! 貴様なんぞ、端からお呼びじゃないぞ! 馬鹿な妹共々、消えてしまえ!!」

 

 元から眼中にないとばかりに、メタリカは再び大出力の魔力を練り上げる。

 全てを終わらせようと、先ほど以上の大規模魔法を行使しようとしていた。

 

「何て魔力!? こんなの、どうやって!?」

 

 メタリカが放とうとしている魔法の規模に、アニエスは恐れ慄く。

 まるで限界などないとばかりに、際限なく膨れ上がるメタリカの魔力は、あのバックベアードの妖力にすら匹敵する勢いだ。

 ただの自惚れや、考えなしで帝王の後釜につこうとしているわけではない。メタリカという魔女の恐ろしさを改めて実感として思い知るアニエス。

 

 

「……確かに大した魔力だ。しかし——」

 

 だが、他でもないアデルが。

 魔女としての才覚に、メタリカやアニエスに二歩も三歩も劣ると、自他共に認める彼女が不敵な笑みを浮かべる。

 

「潜在魔力の高さだけが……魔女同士の優劣を決めるものではない」

 

 アデルは懐から、毒々しい緑色の魔法石を取り出しながらそのようなことを呟く。

 

「アニエス、よく見ておけ。これが魔女同士の戦いというものだ!!」

 

 彼女はまるで、妹に手本を見せてやるとばかりに一歩前に出る。

 そして——その魔法石に込められた魔法式を発動させるため、拳の中でそれをギュッと握り込んでいた。

 

 

 魔法石とは、魔女が作る魔法道具の一つ。

 予めその石に魔法式、つまりは『魔法を構築する式』を刻み込んでおくことで、その石に刻み込まれた魔法を『拳を握り込む』という、簡単な動作一つで起動させることができる。

 元々は『戦闘中に呪文を唱える必要をなくす』という考えのもとに開発されたものだったが、最大の利点は『魔法の使えないものにも魔法を行使させることができる』ということである。

 

 この魔法石の作成において、アデルはかなりの熟練度に達している。

 バックベアードに仕えていた時代も、その魔法石を軍団に提供し続けることで将軍の地位を保ち続けてきた。彼女の作った魔法石は未だに軍団内に大量に貯蔵されており、ヴォルフガングたちによって利用されている。

 

 

 しかし——メタリカからすれば、それも全て弱者の『小細工』でしかない。

 

「キッヒッヒッヒ!! 何の魔法を込めているかは知らんが、無駄なことよ!!」

 

 アデルが魔法石を起動させたところで、メタリカはそれを無意味と断じる。

 相手が何をしようとも、自分の魔法の方が威力が高いと。たとえ相手がどんな魔法で抵抗してこようとも、自分の魔法ならその全てを力付くで打ち払えると信じていた。 

 それはメタリカという魔女が——魔法を威力でしか測っていないが故の慢心だった。

 

 しかし、彼女が高笑いを上げながら己の魔法を解放しようとした、その刹那——

 

「……あん? な、なんだ……ワタシの……魔法が……?」

 

 メタリカの身に異変が起こる。

 今まさに解き放たれようとしていた魔法が、せっかく構築した魔法式が崩れたのだ。かき集めた魔力が彼女の掌から霧散し、メタリカの魔法が不発に終わる。

 

 しかも——異変はそれだけに留まらない。

 

「がっ……なっ……なんだ……? こ、これはいったい!?」

 

 魔法を無力化されたメタリカが突如として表情を苦痛に歪め、叫び声を上げ始めたのだ。

 

「ぐっ、がああああああああっつ……ま、まさか……こ、これはっ!?」

「まさか……アデルお姉様!?」

 

 傍から見ているだけなら、いったい何が起きているのか理解できないだろう。

 だが、魔女であるメタリカとアニエスにはこれがどういったものか。誰の仕業なのか瞬時に察することができた。

 

「……ふっ、どうだ? 内側から自らの魔力に身を焦がされる気分は?」

 

 そうこれこそ、この異変こそアデルの魔法の効力だ。

 先ほど彼女が繰り出した魔法石に込められた魔法式が発動した影響で——メタリカの魔力が『暴走』しているのだ。

 

「貴様……!? まさか……ワタシの魔法を解析して、魔法式を暴走させる逆算式を組み上げたというのか!? そ、そんなことがっ!?」

 

 過去にもアデルはアニエスの魔法の展開パターンを解析し、それを自動迎撃するという防衛魔法を組み上げたことがあった。

 これは要するにその応用だ。メタリカの魔法の展開パターンをトレースし、そこからさらに一歩踏み込んだ形で、彼女の魔力が暴走するような逆算式を組み上げたのだ。

 

「馬鹿なっ……そんなこと、できる筈が……ない! お前には、ワタシの魔法など数えるほどしか見せていない筈だぞ!! しかも、こんな短時間にっ……そんな繊細な魔法式を組み上げるなど……そんなことがっ!?」

 

 しかし、同じ魔女のメタリカには分かる。それが、どれだけ困難なことか——。

 

 他者の魔法を解析し、あまつさえ逆算する式を組み上げるなど。極めて高度に繊細、それでいて地道な作業を何度も繰り返さなければならないような根気との戦いだ。

 それでも、肉親であるアニエスの魔法式を解析するなら、まだ納得もできよう。だが、赤の他人であるメタリカの魔法を迎撃する逆算式を組み上げるなど。

 

 

 少なくともメタリカには絶対にできない。そんな気の遠くなるような作業を繰り返すなど。

 

 

「ふっ……お前の魔法式は大雑把だからな」

 

 だがメタリカの指摘に、アデルは不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「それに……バックベアードの下にいた頃から、お前を無力化するための魔法式は組み上げていた。今回はその最終調整に手間取ったが、時間を掛けた甲斐はあったようだ」

 

 アデルはずっと以前から、メタリカに対抗する術を用意していたらしい。

 その手段を今この機会に披露したに過ぎないと、彼女は何でもないことのように言ってのける。

 

 その裏側ではきっと途方もない苦労を伴っているだろうに、それをおくびにも出さずに——。

 

「お姉様、さすがです!!」

 

 アニエスはそんなアデルへ喝采を上げる。

 魔法は威力ではない。魔女の才能とは潜在魔力の高さではないと。

 

 それを実戦で示して見せたアデルの背中に、妹として誇らしいと心から姉に敬意を抱くのである。

 

 

 

×

 

 

 

「くぬぬ……お、おのれぇえええ、小細工をっ!!」

 

 メタリカの苦痛は続く。

 魔法式の逆算で魔力を暴走させられる。それは途方もない魔力を持つメタリカだからこそ、最大限の効果を発揮する。

 強大な魔力を持つが故に、その魔力が大きく逆流して彼女の身を蝕んでいくのだ。

 

「ぐっ、ぐぐぐ……」

 

 その場に倒れ込み、目に見えた変化がメタリカの体に起こる。

 

「!? メタリカの髪の色が……黒に……?」

 

 アニエスが気付いたのはメタリカの髪の毛だった。倒れた拍子にとんがり帽子が脱げてしまって見えたのだが、彼女の長い輝かしい金髪が、どういうわけか真っ黒に変色している。

 色だけではない。長い髪が徐々に短くなっていき、艶やかさも失われていく。

 

「これは、なるほど……」

 

 この変化は予想外だったのかアデルも目を見張るが、博識な彼女はすぐに理解した。

 

「魔法で己の肉体の一部を変化させていたようだな。その姿……それがお前の本来の姿というわけか、メタリカ!!」

「くっ……!」

 

 メタリカは魔法で自身の容姿を変化させていたようだ。体内の魔力が暴走したことで、偽りの姿を維持できなくなってしまったらしい。

 髪の毛は黒く短く、よくよく見れば瞳の色も翆色から金色に変わっている。それが彼女の正体というわけだろう。

 

「おのれぇええええ! よくも……ワタシをこんな惨めな姿に!!」

 

 顔立ちそのものは変わっていないし、普通に考えればその姿は特に恥じるものでもない。

 だが、メタリカはその姿を晒すことにコンプレックスを感じているのか。屈辱だとばかりにアデルとアニエスへ怒りと憎悪の視線を向ける。

 

「っ! アニエス、ここで決着を付けるぞ!!」

「は、はい!!」

 

 その眼光に気圧されながらも、このチャンスを逃さまいと魔女の姉妹が動く。

 体内の魔力が暴走している間は、メタリカとて簡単には魔法を行使することはできないだろう。その隙にこの戦いに決着を付けようと、二人がかりで瀕死のメタリカに飛びかかる。

 

 しかし——

 

 

「——舐めるなぁぁああああああああ!!」

 

 

 メタリカはありったけの力を腹に込め、唸り声を上げながら立ち上がる。

 そして、虚空より『何か』を取り出し、それを横薙ぎに思いっきり振り抜いた。

 

「な、なんだとっ!?」

「……け、剣?」

 

 アデルとアニエスが、後方に吹き飛ばされながら驚愕する。

 メタリカが握り締めていたもの。それは——巨大な黒い大剣だった。

 

「ワタシは……沼の魔女、この世で最も偉大な魔女、メタリカ様だぞ! この程度でワタシを無力化できると思うなよ、三流魔女が!!」

 

 メタリカは魔女でありながらも、まるでその大剣を騎士が振るうかのように高々と掲げ、叫んだ。

 

「魔法が使えない? 魔力が暴走する? それがどうした!? 魔法を行使できないのなら、この身で暴れ狂う魔力を、この剣に込めて貴様らに叩きつけてやる!!」

「なんてやつだ。これが……沼の魔女、メタリカ!!」

 

 他でもない、メタリカの魔法を封じたアデルが驚愕する。

 

 普通の魔女であれば、魔法を封じられた時点で既に詰みだ。だが、メタリカは魔女として一番大事なものを奪われてなお、堂々と立ち上がってきた。

 体内の魔力を暴走させられ、相当に苦しいだろうに。立っているのも辛いだろうに。

 魔女としての才能だけではこうもいかない。そこに、彼女自身の精神力の強さが垣間見える。

 

「覚悟しろ、アデル……アニエス!!」

「くっ……ダイナガ——!?」

 

 そうして、メタリカはその大剣に魔力を込め、アデルとアニエスの二人へ斬り掛かる。その動きを魔法で迎撃しようとするアニエスだが、それよりも先にメタリカが間合いを詰めてきた。

 接近戦においては魔法よりも剣の方が早い。アニエスの詠唱も間に合わず、メタリカの大剣の一撃が彼女たちの身を引き裂こうとする——

 

 

「——霊毛ちゃんちゃんこぉおおおおおおおおお!!」

 

 

 だがそのときだ。上空から急降下してきた少年が——ゲゲゲの鬼太郎がメタリカに向かって拳を振りかぶる。

 

「ちぃっ!?」

 

 咄嗟の判断で大剣の剣筋を方向転換し、メタリカは鬼太郎に剣先を向ける。

 鬼太郎の拳と、メタリカの大剣がぶつかり合い、二人の体はその衝撃で大きく後方へと仰け反っていく。

 

 

 

 

「鬼太郎!? 百騎兵はどうしたの!?」

 

 鬼太郎の救援にアニエスが驚く。

 彼は百騎兵の相手をしていた筈。あの伝説の魔神を相手に、自分たちに助け舟を出す余裕があるとは思えなかった。

 

「それが……」

 

 しかしこの場に駆け付けた鬼太郎。彼自身も不思議に首を傾げながら、彼と共にその場に降り立った一反木綿が百騎兵の行方を説明してくれた。

 

「あの百騎兵! なんぞ、いきなり目を回したかと思うたら、そのまま力を失ったみたいに落っこちていったんよ~」

 

 ついさっきまで、鬼太郎と一反木綿は空中で怪鳥へと変貌を遂げた百騎兵と戦っていた。怪鳥に姿を変えた百騎兵はさらに手強く、かなり苦戦を強いられていた。

 だが突然、本当に唐突に百騎兵が動きを止めたかと思えば——彼は元のチンチクリンな姿へと戻り、そのまま地面へと落っこちていったという。

 

「……そうか!! 百騎兵はメタリカの使い魔だから、メタリカの弱体化の影響をまともに受けたのね!!」

 

 その話にアニエスが納得する。

 百騎兵はメタリカの使い魔だった。魔女と使い魔の関係性によくあることなのだが、使い魔は——主人である魔女の魔力を糧に行動していることがほとんどだ。

 おそらく、かの魔神もメタリカから魔力を貰って活動していたのだろう。

 だが、主人である彼女の魔力をアデルが暴走させた影響で百騎兵への魔力供給が滞り、魔神はそのまま戦闘不能となってしまったわけだ。

 

「ならば……あとはメタリカさえ叩けば」

「この戦いも……終わる!!」

 

 意図せずして百騎兵を無力化した。これで残る敵はメタリカのみだと。アデルとアニエスが改めて彼女へと視線を向ける。

 

「チッ! 役立たずのポンコツめ!!」

 

 メタリカは百騎兵が退場してしまったことに苛立ち気に舌打ちしながらも、再び大剣を構える。

 百騎兵の手助けがなくても戦い続けるつもりなのか。その戦意には一切の揺らぎがない。

 

「みんな……下がっててくれ」

 

 その戦意に応えるよう、鬼太郎も構える。

 彼はこの機会にメタリカを倒すべく、残った自身の妖力の全てを総動員する。

 

 

「——指鉄砲ぉおおおおおおおお!!」

 

 

 鬼太郎の指先から放たれた最大火力の指鉄砲。それが光の奔流となり、メタリカを呑み込まんと迫る。

 

 

「——舐めるなと……いった筈だぁぁ!!」

 

 

 しかしメタリカは屈しない。

 彼女は鬼太郎の放たれ続ける指鉄砲をその大剣で切り裂き、両断しながら一歩、さらに一歩と近づき、間合いを詰めようと進軍を続ける。

 

「ぐっ……なんてやつだ! ここにきて、まだこれだけの底力が!?」

 

 ここにきてこの粘り、メタリカという魔女の底力にもはやアデルは唖然とするしかない。

 

「くっ……これ以上は、ボクも……」

「くっ、くくく……どうした? ご自慢の技の威力も……だんだんと下がってきているぞ?」

 

 拮抗する鬼太郎の指鉄砲とメタリカの大剣。だがその拮抗も、鬼太郎の劣勢で徐々に崩れようとしている。百騎兵との戦いでも既にいくらか消耗していた鬼太郎の妖力が、もう底を尽きかけているのだ。

 反面、まだ体内の魔力には余裕があるのか、メタリカはニヤリと笑みを深める。

 

 このままではいずれ、メタリカが鬼太郎の指鉄砲を耐え切り、その大剣で彼の身を切り捨ててしまうだろう。

 

「……鬼太郎」

「アニエス!?」

 

 するとこの危機に、アニエスが鬼太郎の背中にそっと手を置いた。

 彼女は真っすぐ鬼太郎を見つめながら、彼へこのピンチを乗り切る打開策を申し出る。

 

「ワタシの魔力で貴方の妖力を強化するわ」

「!? それは……」

 

 アニエスのその提案に、鬼太郎の目が見開かれる。

 過去にも一度、アニエスは魔法で鬼太郎の妖力を無理に高めたことがある。そのときは器を越える魔力量を注がれ、彼の体に大きな負担を掛けることとなった。

 しかし——

 

「大丈夫、あのときのように無茶はしない。ほんの少し、ワタシの魔力で貴方の背中を押すだけだから」

 

 アニエスは、あのときの失敗は繰り返さない。

 鬼太郎の体に無茶のない範囲で彼の妖力を強化するだけだと、真摯な瞳で語り掛ける。

 

 

「信じて、鬼太郎……」

「……分かった。君を信じる。やってくれ!!」

 

 

 鬼太郎も、今更アニエスがそんな身勝手なことをするとは思っていない。既にアニエスのことを信じている彼がその提案を断る訳もなく。

 アニエスの魔力により、鬼太郎の妖力が瞬間的に高まっていく。

 

「——なっ!? ば、ばかな……この力は!?」

 

 向上する指鉄砲の威力に、余裕の笑みを浮かべていたメタリカが驚愕する。

 

 ほんの少し、ほんの少しアニエスの魔法で後押しされただけの指鉄砲なのに、威力はそれまでとは別物になっていた。着実に前へと進んでいたメタリカの進軍も止まり、ぐんぐんとその身が押し返されていく

 

 

「これが……バックベアードを倒した鬼太郎の……力だと言うのか!?」

 

 

 ついには踏ん張りも効かなくなった。

 メタリカは鬼太郎の、鬼太郎たちの力に戦慄し、その身も限界を迎える。

 

 

 そしてとうとう、指鉄砲の光に呑み込まれ——彼女は巨大な爆発に巻き込まれていく。

 

 

 

×

 

 

 

「この辺りには……うん! もう逃げ遅れた人たちはいないみたい、親父さん!」

「うむ……どうやら、そのようじゃな」

「チュー!」

 

 その頃、街中ではまなが毒沼の瘴気で苦しんでいる人たちの救援活動を続けていた。常に付き添いには目玉おやじと呪いでねずみになってしまっている猫娘がおり、まなの行動をナビゲーションしてくれている。

 

 そして肝心の救助活動の方だが。まな以外にも砂かけババアたちの活躍もあり、あらかた完了しようとしていた。少なくともまなの視界に入る範囲に苦しんでいる人はおらず、彼女は別の場所へと移動しようとする。

 

「……のう、気付いておるか、まなちゃん?」

 

 しかし、まなが次なる行動を起こそうとする前に、目玉おやじがあることに気付く。

 

「瘴気の濃度が薄れてきておる……匂いもだいぶ和らいでおるぞ」

「えっ? ……あれ、ほんとだ。臭くない……」

 

 それは毒沼の匂いが徐々に薄れてきているという事実だ。防毒マスクを付けていてもそれなりに臭ってきた異臭が、今はほとんど感じない。マスクを脱ぎ捨てても問題ないレベルにまで瘴気が薄れている。

 

 これは、アデルがメタリカの魔法を封じた影響によるもの。

 彼女の魔力が暴走していることで、毒沼の召喚術を維持できなくなっているのだ。

 結果——人々を蝕んでいたニブルヘンネの毒沼が枯れ、街が正常な状態へと戻ろうとしていた。

 

「どうやら、鬼太郎たちがあの魔女の暴虐を喰い止めてくれたようじゃ! これで騒ぎも収まるじゃろう!!」

 

 細かい事情までは知らないが、きっとこれも鬼太郎やアニエスのおかげだろうと。目玉おやじは純粋に喜びの声を上げていた。

 

「そっか……鬼太郎が、あの魔女の人を……」

 

 反面、まなはどこか複雑そうな顔をしている。

 

 街が元に戻り人々が苦しまなくて済むのは無論嬉しい。だが『魔女狩り』の話を聞いた後ということもあり、あのメタリカという魔女をただの悪者として退治することに、彼女は抵抗感を覚えてしまっている。

 戦う以外に道はなかったのかと。ついつい、そんなことを考えてしまう。

 

 

 するとそのときだ。東京の上空で爆発が発生。

 その轟音に、まなたちが空を見上げる。

 

 

「な、なに? なんの音!?」

「あれは……鬼太郎の指鉄砲じゃ!!」

 

 空を見上げれば、そこには見慣れた鬼太郎の指鉄砲の青い光が見えた。

 その一撃が決め手となったのだろう。残り香のように漂っていた瘴気も完全に消え去っていく。

 

「……これで……えっ……あれって……?」

 

 これで今度こそ終わったのかと、まなが気落ち気味に呟いたところだった。

 

 雲を突き抜ける勢いの指鉄砲の光の中から、何かが飛び出してくる。

 その何かは重力のままに地上へ。そのまま、まなたちのいた場所の近くの池へと落下した。

 

「なっ、なに!? 今の……!?」

 

 落下の衝撃で水柱が立ち、水飛沫に濡らされるまな。

 彼女は戸惑いつつも、何が池に落ちてきたのか。それを確認しに走っていた。

 

 

 

 

「——はぁはぁ……ぺっぺっ!!」

 

 池の中から地上へと這い上がってきたのは他でもない、沼の魔女メタリカだった。

 彼女は鬼太郎の指鉄砲を受けて吹き飛ばされながらも、池をクッションに地上へと降り立ち、無事生還していた。

 

「くそっ!! ワタシが……こんな醜態を晒すことになるとは……」

 

 しかし、さすがにダメージが大きすぎたのか。まともに立ち上がることもできない。

 彼女は、まさか自分がこんな惨めな目に遭うとは思っていなかったのか。屈辱に身を震わせながらも、何とか起き上がろうと身をよじっている。

 

「——ふ、ふははっ、無様なものだな、メタリカ!!」

 

 すると、そんなメタリカを嘲笑う男の声がその場に響き渡る。 

 

「貴様っ! ヴォルフガング!!」

 

 地に這いつくばったまま顔だけを上げ、メタリカはその男を睨め上げる。

 そこに立っていたのは、バックベアード軍団の幹部・ヴォルフガング。メタリカが鬼太郎たちよりも前に、喧嘩を売っていた相手である。

 

「ふっ、我らにあれだけ大口を叩いておきながらこの様とは……所詮、貴様などその程度の器よ!」

「や、やかましい!! 貴様……何でこんなところにっ!?」

 

 ヴォルフガングの嘲笑にメタリカは強気に返すも、今の態勢ではまったく様になっていない。

 彼女は自分がコケにしていた相手に見下ろされる屈辱に歯軋りしながら、何故彼がここにいるのかと問い質していた。

 

「知れたこと、貴様を始末しに来たのよ!! 我らバックベアード軍団に逆らった者に与える末路は……絶望のみ!!」

 

 それがバックベアード軍団の鉄の掟。

 一度歯向かったものに、彼らは恩恵も慈悲もくれてやらない。

 

「本当なら、貴様が鬼太郎を倒した後にでも始末を付ける予定だったが、まさか貴様の方が鬼太郎に敗れるとはな……」

 

 どうやら、彼はメタリカと鬼太郎たちとの戦いを観戦していたらしい。

 全てが終わったところで隙を突いて殺すつもりだったようだが、メタリカが鬼太郎たちに負けるのは予想外だったと意外そうに呟く。

 

「まあ、おかげで手間も省けたというもの……このまま、恥辱に塗れたまま死ぬがいい!!」

 

 だがそのおかげで、こうして何の苦労もなくメタリカを始末できると。ヴォルフガングは先に受けた屈辱を返すべく、彼女にトドメを刺そうと腕を振りかぶる。

 

「くそっ!! このっ×◇%〇野郎がっ!!」

 

 メタリカは最後まで、人に聞かせるのも失礼なほどの暴言を吐きながら、己の惨めな最後が悔しくて叫んでいた。

 

 

 

「——やめてっ!!」

 

 

 

 ところが——。

 今まさに振り下ろされようとしたヴォルフガングの凶刃。それを防ごうと彼とメタリカ、二人の間に割って入る少女の姿があった。

 

 そう、犬山まなだ。

 空から落ちてきた何かを確かめに池まで駆けつけてきた彼女がその現場を目撃し、咄嗟にメタリカを庇ったのだ。

 

「き、貴様っ、人間の小娘!?」

「あん? ……お前は、確か指輪のときの……」

 

 メタリカは憎らしい人間の少女の登場に目を見開き、ヴォルフガングがトドメを刺す手を止め、一応は面識のある少女へ怪訝そうな顔つきを向ける。

 

「何故庇う? そいつはお前たち人間の街を滅茶苦茶にした張本人だろうに?」

 

 心底、理解できないという顔で問いかけるヴォルフガング。

 

「まなちゃん! よすんじゃ!」

「チュー! チュー!!」

 

 まなと一緒にいる目玉おやじと未だねずみのままの猫娘も、彼女の無謀を止めようと説得している。

 

「…………」

 

 だが、その誰の言葉にもまなは何も答えない。

 彼女はただ毅然と、堂々とした態度でメタリカを庇うべくそこに立っていた。

 

「お、おまえ……」

「ふん、まあいいさ」

 

 まなの行動に戸惑うメタリカ。

 もっとも、ヴォルフガングの方は特に興味も無さそうに鼻を鳴らす。

 

「そんなに死にたければ……諸共にくたばるがいい!!」

 

 彼にとって、まなの存在など障害にもならない。

 立ち塞がるまなの体ごとメタリカを貫こうと狼男の本性を現し、その爪をまなたちに突き立てようとする。

 

 

 だがその直後——見えない障壁がまなとメタリカを包み込み、ヴォルフガングの獣の爪を弾く。

 

 

「何っ!? これは……結界!?」

 

 ヴォルフガングは自分の爪を弾いたものが魔法。魔女による結界魔法であることを見抜き、反射的にまなたちから距離をとる。

 

「——そこまでです。ヴォルフガング」

 

 彼の予想通り、そこにはいつの間にかもう一人の魔女が立っていた。

 今のメタリカと同じ黒い髪の、とんがり帽子を被った大人の女性が——。

 

「貴様は!? 森の魔女・マーリカ!!」

「えっ、だ……誰?」

 

 ヴォルフガングがその魔女の二つ名と名前を叫ぶも、まなはそれが何者なのか知らないため混乱している。

 

「どういうつもりだ! 魔女会は我らと敵対することも辞さないというのか!?」

 

 自分の邪魔をしたマーリカ——『魔女会の重鎮』である彼女にヴォルフガングが怒気を孕んで吠える。

 

 

 バックベアード軍団と魔女会は基本、互いに不干渉を条件に和平が保たれている。魔女会の中でも若いメタリカが粗相を働くならまだ言い訳も付くが、魔女会の中でも相当な地位を持つマーリカがヴォルフガングの邪魔をすれば、互いの関係に亀裂が入りかねないと。

 

 

「リカを……その子たちを傷つけさせはしません」

 

 しかし、マーリカは一歩も引かない。

 彼女はメタリカを、彼女を庇ってくれたまなを守ろうと、結界をさらに強める。

 

「貴方もこれ以上は諦めなさい。ワタシと……彼らを同時には敵に回したくないでしょう?」

 

 マーリカがそのように忠告を入れるや。

 

「——まなっ!!」

「鬼太郎! アニエス! ……それに、アデルさんも!?」

 

 一反木綿に乗った鬼太郎とアニエス、そしてアデルがメタリカを追ってその場に舞い降りてくる。頼もしい救援にまなの表情も明るくなった。

 

「ちっ……」

「さあ、どうしますか?」

 

 状況の不利に舌打ちするヴォルフガングに、念を押すように問い掛けるマーリカ。

 

「ふん! いいだろう、この場は退いてやる!!」

 

 さすがに、ここでこの場の全員を相手にする気にはならなかったのか。ヴォルフガングは敵意を引っ込め、魔法石を握り締めながら最後に吐き捨てる。

 

「だが覚悟しておけ!! バックベアード様復活の準備は着々と進んでいる!! あのお方が復活したときこそ、貴様らの最後だ!! ふふふ、ふはははっ!!」

 

 憎っくき怨敵、裏切り者、敵対組織。

 それら全てに向けて高笑いを上げながら、ヴォルフガングは転移の魔法でその場から立ち去っていった。

 

 

 

×

 

 

 

「あ、貴方は……」

「マーリカ様!?」

 

 ヴォルフガングが立ち去った後、その場に残ったマーリカに対し、アニエスとアデルが跪いて最大限の礼を示す。

 どうやら、魔女として二人よりも格上の相手らしい。そして若い魔女である彼女たちに対し、マーリカは優しく微笑む。

 

「久しぶりですね、二人とも……この度は、リカが本当に迷惑をかけました」

 

 挨拶もそこそこに、マーリカは今回の一件——メタリカの起こした騒動に関して謝罪する。

 本来ならば彼女が謝る必要のないことだが、まるで子供の尻拭いをするかのように頭を下げていた。

 

「ゲロ女っ……余計なことをっ!!」

 

 これに反抗心丸出しのメタリカ。余計なお世話とマーリカに噛みつく。

 

「リカ……今は大人しくしていなさい」

 

 しかし、その駄々を宥めるよう、マーリカはメタリカに大人しするように言い聞かせる。

 そして魔法でメタリカの傷を癒しながら、マーリカは鬼太郎たちに願い出る。

 

「本当に……勝手なお願いなのは分かっています。ですが、どうか……この子を許してやってはくれないでしょうか? ワタシにできる償いなら、何でもします……だから!!」

 

 懇願するような申し出だ。口先だけではなく、マーリカが本当にメタリカのためにあらゆる贖罪を辞さないことがその言葉から伝わってくる。

 

「…………猫娘を、元に戻してくれないか?」

「チュ、チュー……」

 

 その申し出に対し、鬼太郎が真っ先に頼んだのが『猫娘の呪い』を解いてもらうことだった。

 

 メタリカのねずみ化の呪いが未だに効力を発揮し、白いねずみのままで困っている猫娘。

 メタリカのことを許すにせよ、許さないにせよ。まずはそこが最優先だとばかりに、鬼太郎は前のめりに要求する。

 

「わかりました。それでは——」

 

 その要求を迷いなく受け入れ、マーリカは猫娘へと手を伸ばす。

 そして一息、何かしらの呪文を呟いた途端——ねずみだった猫娘が、あっという間に元の姿へと戻っていく。

 

「猫娘っ!? 大丈夫か!?」

「猫姉さん!! よかった……」

 

 猫娘の無事な姿に、鬼太郎とまながホッと胸を撫で下ろす。

 

「鬼太郎、まな。あ、ありがとう……」

 

 自分の復帰を喜んでくれる二人に、照れ臭そうに感謝を告げる猫娘。

 

「あの呪いを、いとも簡単に……!」

「さすがは、森の魔女……」

  

 アニエスとアデルは魔女として、呪いを一瞬で解いてしまったマーリカの魔力に驚嘆と敬意の目を向けていた。

 

 

 

 

「他に……ワタシにできることはないでしょうか?」

 

 猫娘の呪いを解いたことを何でもないことのように告げ、マーリカは鬼太郎たちのさらなる要求に応える準備する。しかし、鬼太郎としてはそれ以上何かをして欲しいと思ってはいなかった。

 

「ボクは別に構わない。けど……」

 

 彼自身はメタリカを見逃すことに特に抵抗感がない様子。しかし、今回の一件で一番被害を受けたのは、人間たちだろう。

 メタリカの呼び出した毒沼の瘴気のせいで都市機能は麻痺し、多くの人間たちが苦しんだ。だからこそ、妖怪である彼が勝手な立場で安易に許すなどと口にはできない。

 彼はその場にいる唯一の人間——まなに視線を向ける。

 

「わたしは……」

 

 まなは、自分が何かしらの答えを口にすることを求められていることを空気で察する。

 自分がメタリカの所業を許すか、許さないか。

 

「…………わたしも、構いません」

 

 まなは熟考の末、メタリカを見逃すことにした。

 彼女は街の被害を直に見てきたが、少なくともまなの見える範囲で取り返しのつかないような被害や死者はいなかった。砂かけババアたちの、先だった救助活動のおかげだろう。

 自分が代表者のように答えるのも身勝手かと思ったが、少なくともまなはこれ以上の断罪をメタリカに求めはしなかった。

 

「い、いいのですか……?」

 

 これにはさすがのマーリカも驚いたのか。少し戸惑ったような反応を見せる。だがすぐに笑顔を見せ、許してくれたまなに感謝を述べようとした——

 

「ま、待て——!!」

 

 だがまなの許しに対し、他でもないメタリカが声を荒げる。

 彼女は怒りと困惑、その両方を瞳に宿してまなに問う。

 

「人間……なぜ、ワタシを庇った? 憐みのつもりか!!」

 

 プライドの高いメタリカは、自分が情けを掛けられたと屈辱に身を震わせながら立ち上がる。マーリカに傷を癒してもらい、多少は余裕ができたが、先ほどまで彼女は本当に虫の息だった。

 ヴォルフガングから自分を庇ったのも、そんな自分への憐みからかと、怒りを露にするメタリカ。

 

「そんなんじゃないよ!!」

「!!」

 

 すると、メタリカの怒りに負けじと、まなは言い返す。

 

「そんなんじゃない……確かにわたしは……貴方たち魔女の歴史を『魔女狩り』のことをアニエスから聞かされたよ? けど、それとこれとは別だから……」

 

 まなは、確かに魔女狩りの話で魔女であるアニエスやメタリカたちに同情、憐みのようなものを抱くようになったかもしれない。

 けれど、メタリカを助けたのはそんなことじゃない。

 

 

 そんな——何か理由があって助けたわけじゃない。

 ただ単純に、困っているメタリカを見過ごせなかった、ただそれだけだった。

 

 

「……はぁ、まならしいわね」

 

 お節介な、実にまならしい理由にため息をつくアニエス。

 彼女自身もそのお節介で助けられたため、彼女としても苦笑いするしかない。 

 

「けど……やっぱり、言いたいことは言わせてもらうよ! わたしだって、何も思うことがないわけじゃないんだから!」

「はっ!? なんだ! 恨み言の一つや二つくらいなら聞いてやるぞ!!」

 

 しかし、まなとて聖人君主ではない。彼女はメタリカに言いたいことがあると、ムキになったように頬を膨らませる。

 メタリカは、それが自分に対する批判か何かと思い、まなの言葉に喧嘩腰に応じていた。

 だが——まなが言いたいことは、メタリカの予想の斜め上をいく。

 

「わたし……アニエスから魔女狩りのことを聞いて、ずっと昔に人間が貴方たち魔女にしたことを聞いて……ずっと引っ掛かってたことがあるの」

「……あん?」

 

 それは、メタリカに対する批判でも愚痴でもない。

 アニエスから魔女狩りの話を聞いてから、ずっとまなの中で燻っていた感情だ。

 

「自分の中でずっと溜め込んでたら、きっとモヤモヤして気持ちが悪いままだから。だから……この際、はっきりと言わせてもらうね!!」

「……いったい、何のことだ? 何が言いたいんだ、人間!!」

 

 まなはその感情を、困惑するメタリカにも構わずにぶつける。

 こんなことを今更言ったところで、どうにもならないことを自覚しながらも。

 

 まなは——勢いよくメタリカに頭を下げながら、叫んでいた。

 

 

 

「本当に……ごめんなさい!!」

 

 

 

 それは謝罪だった。

 魔女狩りで魔女を虐げてきた人間として、その歴史について知ろうともしなかった一人の人間として。まなはメタリカに謝りたかった。

 それこそが——まながメタリカに、魔女に対して言いたかったことである。

 

「は、はぁああ!? お、おまえ……ご、ごめんなさいって!? そんな……貴様如きの謝罪ひとつで、許されるとか思っているのか!?」

 

 当然ながらも、このタイミングでの謝罪にメタリカは思いっきり困惑し、激昂する。

 そんな「ごめんなさい」の一言で許されるほど、お前たち人間の罪は、歴史は軽くはないと。

 

「それでも……謝りたいと、思ってたから……」

 

 まなだって、こんな自分如きの謝罪で許してもらえるとは思っていなかった。

 こんなものただの自己満足だと。それを理解していながらも、言わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

「——顔を上げなさい、人の子よ」

 

 

 

 するとまなの謝罪に、森の魔女・マーリカが魔女として応えていた。

 

「人の子よ……ワタシは魔女狩りの歴史を、あの当時の出来事を……当事者として体験しています」

「!!」

 

 そう、マーリカはアニエスやメタリカ、アデルといった若い世代の魔女とは違い、実際に中世のヨーロッパで起きた魔女狩りを直に体験している世代だ。

 

「あれはまさに『人災』。魔女のみならず、人間も……多くの生命が理不尽なままに奪われていきました」

「はい……」

 

 マーリカの言葉に、まなが暗い面持ちになる。

 それは歴史だけを知っているアニエスやメタリカでは決して伝えることのできない、当事者だからこその言葉の重みだった。

 

「ワタシたち魔女は……あの愚行を、人間たちの行った残虐な行いを……決して忘れはしないでしょう」

「……っ!」

 

 そんな相手からの厳しい言葉に、まなは顔を伏せながら、泣きそうな表情になっていた。けれど——

 

 

「ですが……許します」

「えっ……?」

 

 

 自らの思いを優しい言の葉に乗せ、マーリカは言ってくれた。

 

「ワタシは貴方を、貴方たち人間を許します。人の子よ、貴方がリカのことを許してくれたように……」

「——!!」

 

 彼女のその言葉にまなだけでなく、その場にいた全てのものが目を丸くする。

 

 

 魔女狩りでマーリカ自身、酷い目にあってきただろうに。

 人々から疎まれ、ひょっとしたら身近な人を、大切な人をその人災で失っているかもしれないだろうに。

 

 それでも、それでも彼女は『許す』と言ってくれた。

 マーリカのその言葉は本当に優しく——まるで、母のような包み込む慈愛に満ちている。

 

 

「だから顔を上げてください。そして、改めて礼を言わせてください。リカを庇ってくれて、ありがとう……」

「マーリカさん……」

 

 出会ったばかりでありながらも、まなもそんなマーリカに母性のようなものを感じ始めていた。

 彼女の許しに、救われる思いで顔を上げる。

 

「ふ、ふざけるな——!!」

 

 しかし、やはりそれに納得できない。メタリカのような魔女だって当然のようにいる。

 

「許す? 許すというのか!? こんな小娘の戯言一つで、お前は奴らの愚行を、その間違った歴史を許せるというのか、マーリカ!?」

 

 悪口でなく、マーリカのことを名前で読んでしまうほどに動揺する。

 そんなメタリカに、マーリカはあくまで冷静に語りかける。

 

「リカ、ワタシが許すと言っているのです」

「!! くそ……」

 

 それは他でもない、当事者であるマーリカの言葉だ。

 歴史だけでしか知らないメタリカでは、どうやっても彼女に言葉では敵わない。

 

「ワタシは……納得せんぞ!!」

 

 それでも、あくまでも人と敵対する道を選ぶメタリカ。

 すると、そんな彼女の反抗心に応えるように——

 

 

『キュワワワッ!!』

 

 

 かの魔神が、再びその姿を現す。

 

 

 

 

「なっ! 百騎兵!?」

「あっちゃ~……戻ってきおったばい!!」

 

 怪鳥となってその場に姿を現した魔神に、鬼太郎と一反木綿が頭を抱える。彼らは結局あの魔神を倒すことができず、メタリカの魔力供給が途絶えた影響で決着もお流れになっていた。

  

 あの魔神自体の力の底を、未だに鬼太郎たちは見ていない。

 鬼太郎自身も大きく妖力を消耗している今の時点で、あの魔神と戦うことは避けたいと思っていた。

 

 もっとも、そう思っていたのは鬼太郎たちだけではなかったようだ。

 

「百騎兵……ここは退くぞ!!」

 

 意外にも、メタリカはその場から撤退する道を選んだ。

 冷静に戦況を判断し、今の傷付いた自分では敵わないと感じたのだろう。その背中に飛び乗り、百騎兵にその場から離れるように指示を出す。

 

「覚えておけ、次はこうもいかん! 必ず、必ずや貴様らを叩きのめし、魔女の偉大さを全てのものに思い知らせてやる!!」

 

 逃げながらも、強気な言葉を捨て台詞で残していく。

 

 まだまだ、メタリカは諦めていない。

 自身の野望を、夢を——。

 

「そのときまで、せいぜい首を洗って待っているがいい!! キッヒッヒッヒー!!」

 

 最後の最後まで彼女らしい、彼女が理想とする『意地悪な魔女』の笑い声を響かせながら、百騎兵とともに空に向かって飛び去っていく。

 

 

 

 

「本当に……よかったのかしら……」

 

 懲りた様子もなく立ち去っていくメタリカに、猫娘が心配そうに呟く。

 

 本当に彼女を逃してよかったのかと。

 また同じようなことを繰り返すのではと、その後の彼女の行動に疑問を抱かずにはいられないようだ。

 

「今は……難しいかもしれませんね」

 

 猫娘の心配を、マーリカは頭ごなしには否定しなかった。

 

 若さゆえの未熟か。同胞たる魔女への思いか。

 メタリカが人間を許すことができるようになるには、まだまだ時間が必要だろう。

 

「ですが、いつかあの子にもわかる日が来ます。きっと……」

 

 それでも、いつかメタリカにもわかる日が来るとマーリカは信じる。

 信じて、遠ざかっていく彼女の背中を静かに見送る。

 

 

 まるで子供の成長を見守る、母親のような瞳で——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!! どいつもこいつも悟ったような、わかったようなことをほざきやがって!!」

 

 百騎兵に乗って空を飛びながら、その背中で不満をぶちまけるメタリカ。

 大っ嫌いな母親譲りの黒髪を掻き毟りながら、彼女は何もかもが気に入らないと声を荒げる。

 

 

 見逃されたことも、庇われたことも。

 憐まれたことも、優しくされたことも。

 

 あんな甘い連中に遅れをとった自分にも。

 大っ嫌いなあの女に傷を癒されたことも。

 

 ごめんなさいと、素直に自分たちの非を認めて謝ったあの人間に——。

 そんな謝罪に、何もかも悟ったように全てを許すといったあの魔女に——

 

 

 ありとあらゆることが気に入らないと、メタリカは憤っていた。

 

「…………キッヒッヒッヒ! まあいいさ。このワタシを見逃したこと、いつか後悔させてやるぞ!」

 

 だが、復帰した自分が再び彼らを苦しめることになるだろう情景を思い浮かべることで、メタリカは何とか溜飲を下げる。

 

「もう一度魔力を整え、今以上の力を身につけ……必ずやワタシは、もう一度奴らを叩きのめしてやる!!」

 

 そのためにも、今は時間が必要だと。

 メタリカも今は、この屈辱を甘んじて受け入れる。

 

 いずれ、必ず自分は戻ってくる。

 そのときこそ——

 

「そのときは百騎兵! お前にもしっかりと働いてもらうからな!!」

『キュワッ!!』

 

 自分と百騎兵が全てを手に入れると。

 メタリカは使い魔たる彼に声を掛け、百騎兵も主人であるメタリカの命令に当然とばかりに返す。

 

 

 

 魔女と百騎兵。二人の戦いはこれからも続いていく。

 

 

 

 そして——その戦いの中で、メタリカは出会うことになるだろう。

 

 一人の人間の、騎士の少女に——。

 犬化の呪いをかけられた半人半獣の少女に——。

 

 彼女との口喧嘩や衝突、すれ違いを経てメタリカは『人間』について、『世界』について学んでいく。

 

 そして、その少女のために己の命すらも賭けることになるわけだが——。

 

 

 

 それはまた、別の物語としていずれ誰かに語られるだろう。

 

 

 




次回予告

「父さん、まなが友達と夏休みに海に行くそうです。
 ですが、その浜の海の家で変な女の子が働いているとか。
 イカ……? 娘……? 彼女は妖怪なんでしょうか? それとも……。

 次回——ゲゲゲの鬼太郎 『侵略! イカ娘』 見えない世界の扉が開く」

 というわけで。
 次回こそ季節もの、夏休みシリーズ第一弾『侵略! イカ娘』のクロスオーバーをやります。
 真面目な話が続きましたが、次回は今までで一番のほんわかストーリーにするつもりです。息抜きのつもりでお楽しみに!!

 

  
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