ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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個人的にですが、いいニュースと悪いニュースがあります。

いいニュースはFGOについて。
五周年で実装されたアルトリア・キャスター。プロトマーリンじゃなかったけど回した結果……10連で出てきてくれた!!
福袋も持っていなかったボイジャーと鬼女紅葉が出てきてくれたし、ついでに回したダヴィンチ・ライダーも30連で来てくれた!!
 
悪いニュースは……ジャンプで連載中の人気漫画『アクタージュ』が原作者のやらかしで打ち切りになったことだ……。
なんで……なんで……そんなことした……。これからってときに……。
鬼太郎とのクロスオーバーも考えていただけに、かなりショック。いずれはやりたいと思いますが……今後、生きる上での楽しみが一つなくなり……本当に意気消沈しております。

とりあえず…………気を取り直して、本編をどうぞ!!


侵略! イカ娘 其の②

「——ごめんね。いきなり呼び出しちゃって……」

 

 神奈川県、湘南の海。

 夏休みに訪れていた由比ヶ浜の海岸。そこで犬山まなは呼び出した友人たちに手を合わせ謝っていた。

 

「別に気にしないでいいわよ、まな」

「そうじゃ、困ったときはお互い様じゃろう!」

 

 そんな彼女の謝罪に特に気を悪くした様子もなく。妖怪の友人——猫姉さんこと猫娘。ゲゲゲの鬼太郎の父親である目玉おやじが犬山まなと対面する。

 

 そう、まなが呼び出した友人とは、ゲゲゲの森の妖怪たちのことである。

 スマホのラインで猫娘に連絡を取り、猫娘や『彼』にお願いして、来てもらったのである。突然の呼び出しにもかかわらず彼らは来てくれた。

 勿論、彼も——ゲゲゲの鬼太郎もである。

 

「それで……まな。いったい、何があったんだ?」

 

 鬼太郎はさっそく、まなが自分たちを呼び出した要件——妖怪絡みのトラブルについて尋ねていく。

 

 鬼太郎はスマホを持っていないため、今回の話は猫娘経由で聞いていたが、イマイチ要領を得ていない。

 彼が知らされているのは、犬山まなが打ったラインの文面だけ。

 

 猫娘に見せられたスマホの画面には——以下のような文章が書かれていた。

 

『なんか……侵略者を名乗る妖怪?の女の子が海の家で働いてるんだけど……一度会ってみてくれませんか?』

 

 である。

 それだけで詳細を察しろというのが、無茶というものであろう。

 

「う~ん……わたしもなんて言っていいかわからないんだよね。とりあえず、一度会ってみてくれない?」

 

 実際に言葉にしようと努力しているが、まな自身も何と説明していいかピンときていないようだ。

 困ったような表情で、彼女は鬼太郎たちをその妖怪の少女に合わせようと、彼女が働いているという店。

 

 

 海の家『れもん』へと、連れ立って行くことになる。

 

 

 

 

 

「焼きそば二つ!! カレーライス一つ!!」

「エビチャーハン大盛り!! エビ多めでよろしく!!」 

「生ビールまだ!? 喉乾いてるんだけど!!」

 

 海の家れもん。由比ヶ浜海岸のいたるところに点在する、海の家・飲食店の一つである。

  

 夏といえば海の家。

 真夏の浜辺の風物詩とも呼べる飲食店で食べる定番のメニュー、カレーや焼きそば、かき氷。夏の屋台で食べるたこ焼きやお好み焼きのように、普段であればあまり美味しくない筈なのに妙に旨く感じる。

 まさに真夏のテンションによる、あるあるな不思議体験。

 

 そして、れもんという看板が掲げられたこの店。周囲の他の店舗に比べてもそれなりに繁盛しているようで、お昼時ということもあり、浜辺を訪れている観光客が次から次へと入れ替わり立ち替わりに、店は大忙しだ。

 

 客たちの注文が店内で飛び交う中、数人の従業員に混じって例の少女・イカ娘とやらも忙しなく働いていた。

 

「ええっと……生ビールお待ちでゲソ! 次は……四番テーブルに焼きそば二つとカレーライス一つ。それから……」

「イカ娘! 二番テーブルにイカ墨スパゲッティだ!! 急いで用意しろ!!」

「わ、分かってるでゲソ!!」

「渚ちゃん、エビチャーハン上がったわ!! 持ってって頂戴!!」

「わ、わかりました!!」

「おっ、美味そうでゲソ……じゅるり」

「おら、イカ娘!! 客の料理に手をつけようとしてんじゃねぇ!!」

「い、痛い!! 殴ることないじゃなイカ!!」

 

 

「……なんか、すっごい忙しそう……」

 

 そんな慌ただしい店内の様子を入り口付近から覗き見る、まなと鬼太郎たち。

 何とかイカ娘に接触しようと試みるも、それどころではないほどに店内は目まぐるしく騒がしい。

 

「……あの子がイカ娘か。なるほど、確かにただの人間ではなさそうじゃな……」

 

 それでも、目玉おやじは一人の女の子を注視し、彼女がイカ娘であると当たりをつける。

 

「そうみたいですね……」

「……あれ、髪じゃないのよね?」

 

 鬼太郎と猫娘もだ。れもんとやらで働いている従業員の女の子は複数いるが、それでもどれがイカ娘とやらなのか、誰が見ても一発で分かる。

 

 なにせそのイカ娘は例の髪の毛のような触手。

 溺れそうになった子供たちを助けたというその十本の触手を器用に使い、料理の配膳から食べ終わった食器の後片付け、テーブルの雑巾掛けの全てを見事にこなしている。

 狭い店内で客とも他の従業員とも接触事故を起こすことなく、彼女の触手が縦横無尽に動き回っている。

 

「誰も……何も言わないんだね」

 

 妖怪慣れしているまなでさえ、一瞬は呆気にとられるような光景。だが、レモンを訪れているお客さんたちの大半が、そんなイカ娘の触手に対して何も言わない。

 常連らしき客は勿論、一見さんらしい人々も少しは驚くことこそあれど、誰も何も言わないからかそれをごく当然のように受け入れている。

 

 場の空気というものが、彼女の触手に対して無用なツッコミを入れさせないでいる。

 

「……とりあえず、ここで突っ立っていても他のお客の迷惑になる。テーブルに座るぞ、鬼太郎」

「そうですね、父さん」

 

 そんな状況を前に、目玉おやじは一旦腰を落ち着ける意味も含め、店内に入るよう鬼太郎を促す。

 ちょうどテーブルに空きが出たこともあり、鬼太郎、猫娘、まなの三人が店の中へ客としてテーブルについた。

 

「——ご注文はどうするでゲソか?」

 

 すると、さっそく鬼太郎たちのオーダーを取りに、イカ娘が水を配膳しながら席に近寄ってくる。イカ娘と接触できたこの機会に、鬼太郎はさっそく彼女に話し掛けた。

 

「済まない、ボクたちは客じゃないんだ。君に聞きたいことが——」

「はぁっ!? 客じゃない? だったら何をしに来たでゲソか? 冷やかしなら帰るでゲソよ!」

 

 しかし、鬼太郎たちが何も注文をしないことに、イカ娘が少し怒った声を上げる。

 この忙しい時間帯、ただテーブルを占拠して自分に話しかけてくるものたち。店側からすれば迷惑極まりない冷やかしの客——そのように受け止められてもおかしくはない。

 言葉遣いが悪いかもしれないが、イカ娘の反応も仕方がないものだろう。

 

「済まんの、お嬢さん」

 

 だがそれでも、イカ娘と話をしなければならない。

 彼女への謝罪を口にしながら目玉おやじが鬼太郎の頭からひょっこりと顔を出し、テーブルに飛び乗る。

 

「忙しいのは重々承知、じゃが……ワシらはお前さんと話が——」

 

 誠意を示し、言葉を重ね、自分たちに敵意がないことを身振り手振りで伝えながら、イカ娘のことを知りたいと願い出る目玉のおやじ。

 

 すると——

 

 

「………………………………」

「……?」

 

 

 イカ娘は目玉おやじの姿を見るや、目をぱちくりさせる。

 暫し呆然と固まっていたかと思いきや、次の瞬間——。

 

 

「め、目玉が……喋ってるでゲソ!? ば、化け物でゲソぉおおおおおおおおおお!!」

 

 

 盛大に悲鳴を上げるイカ娘。

 自分自身が人外であることを完全に棚に上げ、目玉おやじの存在に驚き、後方へとひっくり返ってしまった。

 

「えっ……めだま? わっ! ほ、ほんとだ!!」

「何だよ、イカ娘。何馬鹿なこと言って……わっ!? ま、マジだ……目玉が喋ってやがる!?」

 

 イカ娘だけではない。他の店員の女の子たちも驚愕に目を向く。

 

「えっ、う、うそ……!? そ、そんなことがありえるの!?」

「oh my God!!」

「ありえませ~ん!! 非科学的でぇ~す!!」

「ママ~、目玉の小人さんだよ!?」

「シッ!! 見ちゃいけません!!」

 

 その驚きは客たちにも伝播し、店内が軽いパニック状態に陥る。

 イカ娘の存在をこぞってスルーしていた人々が、目玉おやじの登場にこれでもかというほどに騒ぎ出すのである。

 

「うむ……ここまで驚かれると、逆に新鮮味を感じるのう!」

 

 そんな人間たちの様子に、目玉おやじは気分を害した様子もなく、寧ろどこか楽しそうに呟く。

 

 ここ最近は特に悪い妖怪が世間を騒がせており、徐々にではあるが人々が妖怪といった『怪異』の存在に慣れ始めているように思われていた。だからなのか、目玉おやじくらいに小さく、無害な妖怪程度ではなかなか人々も驚かなくなってきている。

 そのためこういった反応は久しぶり。目玉おやじはどこか懐かしさすら感じていた。

 

「わ、笑いごとじゃないよ、おやじさん!!」

 

 目玉おやじの呑気な反応にまなが呆れている。

 もっとも、彼女自身も目玉おやじと初対面のときは似たような反応だった。あまり人のことも言えない。

 

「そうね……こんなの、話し合いどころじゃないわよ」

 

 猫娘は周囲のざわつきに頭を抱える。

 目玉おやじの存在に恐れ慄く人々、肝心のイカ娘も腰が抜けたまま動けないでいる。

 とても話を聞けるような雰囲気ではない。

 

「仕方ない、一旦出直そう」

 

 その状況を重く見た鬼太郎が、一度出直そうと目玉おやじを連れて椅子から立ち上がる。

 ほとぼりが冷め、人々が落ち着くまで待ってまた来ようと、今この場での聞き取りを断念しようとした。

 

 しかし——

 

「——あらあら、どうしたの? いったい何の騒ぎかしら、これは……?」

 

 どこかおっとりとした、優しい声がその場に響き渡ったことでその状況が一変する。

 

 

 

×

 

 

 

「——あ、姉貴!! め、目玉が喋って……」

 

 海の家の従業員・相沢(あいざわ)栄子(えいこ)が姉に目玉おやじの存在を訴え、どう反応すべきか助けを求めていた。

 彼女はイカ娘と共に働く、この海の家『れもん』を経営する相沢家の次女である。

 

 れもんは相沢家が家族で経営する飲食店であり、栄子はそこで給仕を担当していた。彼女はストレートなショートボブ、髪の毛の一部が独特の跳ね方をしているが、どこにでもいるごくありきたりな高校一年生だ。

 

「あらあら……随分と可愛らしいお客様ね」

 

 そんな栄子が助けを求めた相手。彼女こそ海の家れもんを取り仕切る厨房担当。相沢家の長女・相沢(あいざわ)千鶴(ちづる)である。

 ロングヘアの髪の毛の一部が栄子同様に独特な跳ね方をしている女性。細目で穏やかな笑みを浮かべた、おっとりとしたその表情にはまったく動揺が見られない。

 イカ娘を始めとした人々が目玉おやじ相手に騒ぎ立てる中、わざわざ厨房から顔を出し、彼女は小さなお客様である彼に話しかける。

 

「ごめんなさい、騒がしくて。イカ娘ちゃんに用があるみたいですけど……あの子のお友達か何かですか?」

 

 イカ娘に話しかけていたところを見ていたのか。千鶴は彼女に何か用かと平然と尋ねる。

 堂々とした千鶴の態度に感心しながら、目玉おやじも普通に受け答えを行う。

 

「うむ……少し、あの子と話をさせてもらいたいんじゃが……」

「い、いやでゲソ! 目玉のお化けと話すことなんて、何もないでゲソ!!」

「お、おい……イカ娘!」

 

 目玉おやじの要件にイカ娘は栄子の背中に隠れ、全力で首を振って拒否を示す。

 まだ肝心の話の中身も聞いていないのにこの怯えよう。正直いって、ビビり過ぎである。

 

「ごめんなさい。見てのとおり、今はお昼時ということもあって、立て込んでるんです……」

 

 千鶴も目玉おやじの提案を一度は拒否する。 

 もっとも、それは店が忙しいというシンプルな理由からである。

 

「なので、また後で来てくれませんか? もう少しすれば……ピークも過ぎてお客さんも少なくなると思うので」

 

 だから千鶴は心底申し訳なさそうな顔をしながら、また後で来てくれるよう目玉おやじたちにお願いをする。

 一番忙しいピークが過ぎれば、きっと時間も取れるだろうからと。

 

「それもそうじゃな……忙しい時間にわざわざ来てしまって済まんのう、お嬢さん」

 

 当たり前と言えば当たり前。こんな忙しい時間帯に空気も読めずに押しかけた自分たちの無礼を目玉おやじは素直に詫びる。

 

「いえいえ、こちらこそ申し訳ありません、ウチの従業員が失礼なことを。もしよろしければ、何か注文していってください。お詫びにサービスさせていただきますので……」

 

 千鶴は千鶴で、従業員たちが目玉おやじに失礼なことを言ったと頭を下げる。

 互いに互いの非を認めることで、その場を丸く収めようとする両者。

 

 しかし——どうしてもその流れに納得が出来ないのか。千鶴の妹である栄子が姉である彼女にツッコミを入れていた。

 

「いやいやいや!! おかしいだろ、姉貴!! 目玉が喋ってんだぞ! もうちょっと何かあるだろ、もっと驚けよ!!」

「栄子の言うとおりでゲソ!! こんなの、おかしいじゃなイカ!!」

 

 イカ娘も栄子の言い分に便乗するよう、目玉おやじという謎の存在に対して疑問の声を上げる。

 

「……いや、イカの人の言えることじゃないと思うんだけど……」

 

 それに対し、れもんにアルバイトで来ている店員の女の子・齋藤(さいとう)(なぎさ)が小声でボソリと呟く。

 

 彼女はこの近辺でイカ娘の存在を唯一侵略者と恐れる、ショートカットでボーイッシュな高校生だ。

 一般的な感性から、人間でないと一目でわかる目玉おやじに相応の恐れを抱いたが、それはイカ娘の台詞ではないと同じ人外である彼女にも疑問の声を上げている。

 

「あらあら、そんなに驚くことじゃないでしょ? イカの女の子がいるんだから、目玉だけのおじさまがいたって不思議じゃないわよ? それと貴方たち……さっきからお客様に対して失礼じゃないかしら、ねぇ……?」

『ひぃっ!?』

 

 だが、そういった従業員たちのまともの反応を千鶴は笑顔でまとめて封殺し、何故かその穏やかな表情に栄子とイカ娘の二人はビクッと肩を震わせる。

 

「申し訳ありません、従業員がお騒がせしました! お気になさらず、引き続き食事を楽しんでいってください!」

 

 ついでに、千鶴は釣られて騒ぐ周囲の客たちにも頭を下げ、なにも問題ないことを店の責任者として伝えていく。

 

「……た、確かに。言われてみれば……そうなのか?」

「まあ、イカ娘ちゃんだって似たようなもんか……」

「ママ~、あの目玉の小人さん、イカのお姉ちゃんの仲間なの?」

「シッ!! 見ちゃいけません!!」

 

 千鶴のその落ち着きように感化されてか。あるいは彼女の一見すると優しげな微笑みに妙な『圧』を感じてか。

 よくよく考えればイカ娘と同じようなものかと。皆それで納得し、何事もなくいつもの日常へと戻っていく。

 

 

 

 

「……父さん、どうしましょうか?」

 

 再び通常の賑やかさを取り戻した店内。鬼太郎たちは場の空気に取り残され、暫し呆然と固まっていた。

 先ほどまでの自分たちへの奇異な視線が嘘のようになくなり、もはや誰も鬼太郎たちに注意を向けてさえいない。

 肝心のイカ娘でさえも「おかしいでゲソ……こんなの絶対におかしいでゲソ……」などと小声でぶつぶつと呟きながらも、普通に仕事へと戻っている。

 

「う~む……そうじゃな……」

 

 目玉おやじは妖怪である自分を平然と受け入れる人々の寛容さ?にありがたさ、張り合いのなさを感じつつ——

 

「とりあえず……ワシらも昼にするか!」

 

 お言葉に甘え、れもんで昼ご飯を済ますべく再びテーブルへと座り直していた。

 

 

 

×

 

 

 

「——改めまして、先ほどは失礼しました。れもんの店長・千鶴と申します」

 

 あれから、一時間ほどが経過。

 お昼のピークが過ぎ、客の大半もいなくなりガランと静まり返る店内。そのタイミングを見計らい、もう一度訪れてきた目玉おやじたちに対し、店長の相沢千鶴が店員たちの非礼を詫び、今一度頭を下げていた。

 

「ほら、栄子ちゃんもイカ娘ちゃんも。きちんと謝るのよ」

「あ、ああ。その……さっきは、すいませんでした……」

「わ、悪かったでゲソ」

 

 千鶴に倣うよう、栄子やイカ娘もきちんと頭を下げて謝罪する。まだ二人はどこか納得していないようだが、とりあえず先ほどのように騒ぐこともないようだ。

 

「いやいや、ご丁寧にどうも。ワシは目玉おやじ、この鬼太郎の父親じゃよ」

「鬼太郎です、初めまして」

「私は猫娘よ」

 

 千鶴に名乗られたこともあってか、目玉おやじを始めとしたその場に集まっていた妖怪たちが揃って自己紹介をする。

 

 ちなみに、彼らをこの場に呼んだ犬山まなは一緒に海に来ていた友達・蒼馬たちの面倒を見るために一度自分たちのビーチパラソルに戻っている。目を離した隙に裕太や大翔たちが溺れかけたこともあり、そう長くは目を離せない。

 休日返上で仕事をしている父親の代わりに、男たちをしっかりと見張るために保護者として頑張っていた。

 

「め、目玉おやじ? ね、猫娘だぁ? また妙な連中が来たもんだ……」

 

 彼らの名乗りにやはり栄子が眉を顰める。その名前の響き、そして目玉おやじの見た目からもうただの人間でないことは明白である。

 

「イカ娘……お前と似たような感じの名前だけど、ひょっとしてお仲間か何かか?」

 

 どことなく「イカ娘」と似通ったニュアンスも感じ、あれらはお前の同類かと、イカ娘に話を振る。

 

「違うでゲソ!! 一緒にしないで欲しいでゲソ!! このワタシを、あんな変な連中と同列に扱って欲しくないでゲソ!!」

 

 イカ娘はムキになって否定する。

 どういうわけか、彼女は同じ人外である筈の鬼太郎たちと同じカテゴリであることを頑なに認めようとはしない。

 

「……どう、鬼太郎?」

 

 そんなイカ娘に呆れた視線を向けつつ、猫娘は鬼太郎にこっそり耳打ちする。

 先ほどから鬼太郎は『妖怪アンテナ』を立て、イカ娘の妖気の有無を確認している。彼女が妖怪であるならば、彼のそのアンテナがハッキリとイカ娘を指し示すのだが——

 

「う~ん……微かに反応らしきものもあるが……正直、よく分からない……なんだこれ?」

 

 鬼太郎は歯切れ悪く答える。

 妖気を感じるかと言われれば感じるし、感じないかと問われれば感じないかもしれない。妖怪アンテナもなんと反応していいか困っているような微妙な感じだ。

 あるいは妖怪ではなく、本当に新種の『何か』なのではないかと、鬼太郎ですら首を傾げる。

 

 すると——

 

「ん……? ちょっと、待つでゲソ……そこのお前。さっき、きたろうとか名乗ったでゲソね?」

 

 ふいに、イカ娘が何かに気付いたかのように鬼太郎へと視線を向ける。

 

「お前……もしかして、ゲゲゲの鬼太郎じゃないイカ!! 妖怪の……ゲゲゲの森の!?」

「ひっ! よ、妖怪っ!?」

 

 イカ娘の叫びに、彼女たちの対面をこっそりと覗き見している斎藤渚がビクッと怯えて縮こまる。

 バイトが終わったこともあり、彼女はイカ娘や目玉おやじたちのゴタゴタに関わるまいと、少し離れたところで様子を見ている。今すぐ逃げ出しそうな雰囲気ではあるが好奇心もあるのか、一応は話に聞き耳を立てている。

 

「あ、ああ……そうだけど、ボクを知ってるのか?」

 

 イカ娘のリアクションに、鬼太郎は意外そうに聞き返す。

 目玉おやじの存在に驚いていたことから、てっきりそういった事情とは無縁の存在かと思っていた。しかし、彼女の口から『妖怪』という言葉が出たことから分かるように、どうやらそっち方面の知識はあるらしい。

 

「なんだよ、イカ娘。やっぱり知り合いなのか?」

 

 栄子も驚いてイカ娘に質問する。すると、イカ娘の口からは意外な存在の名前が出てきた。

 

「別に知り合いじゃないでゲソよ。ただ、ワタシが海にいた頃、『海坊主』さんに教えてもらったんでゲソ」

「海坊主じゃと!?」

 

 これに誰よりも驚いたのが目玉おやじたちである。

 

 海坊主。その名のとおり、海を住処とする黒い巨大なタコのような妖怪である。鬼太郎たちの知り合いでもあり、海の近くで呼び掛ければたまに顔を出してくれる。

 しかし、親しいというほどの関係ではなく、普段海の中で何をしているかまでは鬼太郎たちも知らない。

 だがイカ娘は彼のことに詳しいらしく、どこか自慢するように海坊主のことを解説してくれる。

 

「海坊主さんはワタシが海にいた頃にお世話になった方でゲソ。右も左も分からなかったワタシに、言葉や地上の知識を教えてくれた恩人でゲソよ。ゲゲゲの鬼太郎の名前も、そのときに聞いた覚えがあるでゲソ!!」

 

 なんと、このイカ娘の知り合いどころか、恩人だという。

 海坊主、彼こそが——イカ娘に様々な知識を授けた張本人だというのだ。

 

「おい……今サラっとすごいこと言わなかったか!?」

「あらあら、そうだったの!」

 

 何気に明かされる衝撃的な事実に栄子も千鶴もびっくり。

 

 最近は疑問にすら思わなくなったことだが、何故イカ娘が人の言葉を喋れるのか? 何故彼女の知識が変に偏っているのか?

 頭の片隅で気になっていた疑問が、氷解するように溶けた瞬間である。

 

「海坊主さんは言っていたでゲソ。『——鬼太郎は良い奴だけど、人間の味方をする困った奴』だって……」

 

 イカ娘は海坊主から聞いていた鬼太郎に関する情報をそのように開示する。

 

「……別に、ボクは人間の味方ってわけじゃ……」

 

 それに困ったような顔をしたのは鬼太郎だ。

 

 よく誤解されがちだが、別に鬼太郎は率先して人間の味方をしているわけではない。最近はまなとも友達になり、よく他の仲間からもそのように見られがちだが、昔から鬼太郎の立ち位置は変わっていない。

 彼はあくまで中立。その立場から鬼太郎はようやくイカ娘へと本題の話を切り出し始める。

 

「ボクは君が……その、侵略者だという話を聞いて……様子を見にきたんだが……」

 

 すっかり忘れそうになっていたが、それこそ鬼太郎がわざわざイカ娘に会いにきた理由だ。

 

 まなから『侵略者を名乗る女の子』の存在を聞き付け、その発言がどういった意図によるものなのか。それをわざわざ本人に確認するために彼女の——イカ娘の元へとやってきたのだ。

 色々と遠回りになったが、ようやっと本題に入れると、鬼太郎は聞き込みを開始していく。

 

「ふっ……そうでゲソね。そんなに聞きたいなら、聞かせてやろうじゃなイカ!!」

 

 鬼太郎の問い掛けに、何故か誇るように答えるイカ娘。

 彼女は自らを侵略者と名乗ったその意味——この地上を侵略しに来たその経緯を堂々と語っていく。

 

 

 

 彼女がこの海の家・れもんに襲来したのは夏の初め。この由比ヶ浜海岸が海開きされた、まさにその初日である。その日——平和だった海の家の日常に彼女は侵略者として現れた。

 

『人類よ、よく聞け!! 今からここを人類侵略の拠点にさせていただくでゲソ!!』

 

 そう、彼女こそが海からの使者・イカ娘!!

 突如出現し、日常を侵食する侵略者を前に人間たちは無力だった。イカ娘の恐ろしい威厳を前に、人々は恐怖に震え上がり、成す術もなく降伏するしかなかったのだ!!

 

『心配しなくても、お主たちを殺したりはしないでゲソ! 雑用係としてこき使ってやるでゲソ!!』

 

 寛大なイカ娘は降伏した人間たちへ命の保障をしてやる!

 その代わり、その場にいた人々を家来としてこき使ってやることにしたのだ!!

 

 こうして、その海の家・れもんを拠点に彼女の侵略者ライフが幕を開けたのであった——

 

 

 

「——って、誰が家来だ!! 嘘を教えるんじゃない!!」

「い、いたた……頬を引っ張るなでゲソ! 痛いじゃなイカ!!」

 

 などと、真実にだいぶホラ話を交えたことで怒った栄子がイカ娘の頬をつねり上げる。

 その絵面から分かるように、イカ娘とれもんの住人である相沢家のパワーバランスはその話とはだいぶ異なる。

 

 イカ娘がその日、侵略者として訪れたのは事実。

 だが、実際にれもんを侵略することなどできず、彼女は間違ってぶっ壊してしまった店の壁の修理代を払うため、アルバイトとしてこき使われている。

 壁の修理代を完済するのに5、6年は掛かるらしい。いったい、どれほどの超低賃金でこき使われているのか。

 通常であれば、労働基準法に引っかかる給料だと思われるが、人外であるイカ娘に人間の法律など適用されない。

 

 そう、これぞまさしく、違法労働!!

 これこそ、人類の闇!! 人類の業!!

 

 イカ娘が地上を侵略しにきた日。

 それ即ち、彼女がアルバイトとしてこき使われる日々が幕を開けた瞬間でもあった。

 

 

 

「ええと…………つまりは、何も問題ないというわけでいいんでしょうか、父さん?」

 

 イカ娘の何とも締まらない現状に、鬼太郎は早々に結論を出す。

 正直なところ、鬼太郎はめんどくさくなって早く帰りたくなったという気持ちが強い。だがそんな彼自身のモチベーションの低さを差し引いても、鬼太郎はイカ娘がここにいることを特に問題とは感じなかった。

 

 見たところ、イカ娘とこの浜辺の人たちとの関係はだいぶ良好に思える。

 侵略、侵略などとイカ娘は口にしているようだが、これといって支配したり、また支配されたりしているような関係性には見えない(働かされてこき使われてはいるようだが……)。

 人と人外。互いに対等な友人として上手く付き合っていけているようだ。

 

「うむ、そうじゃな……これ以上、ワシらが首を突っ込む必要も、心配する必要もないじゃろう」

 

 目玉おやじも鬼太郎に同意見だ。

 これ以上、彼女たちに自分たちが関わる必要もない。わざわざ時間を割いて色々と質問に答えてくれたことを感謝しながら、彼らはゲゲゲの森に帰ろうと、その場を立ち去ろうとした。

 

 ところが——

 

「ま、待つでゲソ!!」

 

 他でもない、イカ娘に呼び止められたことで鬼太郎たちの足が止まる。

 

「ゲゲゲの鬼太郎……ワタシは、お前に————!!」

 

 彼女はそこで、ゲゲゲの鬼太郎に向かって叫んでいた。

 

 

 その内容とは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——イカ墨スパゲッティおいしかったね、まな姉ちゃん!」

「——そうだね、初めて食べたけど……意外と美味しいもんだね」

 

 犬山まなと裕太の二人。お昼ご飯にまなが買ってきた、海の家れもんの名物・イカ墨スパゲッティの感想などを言い合いながら、二人で浜辺を散策している。

 

 ——鬼太郎たち……どうなったかな。あのイカ娘って子、悪い妖怪には見えなかったけど……。

 

 だが、裕太と楽しくお話ししながらも、犬山まなは常に鬼太郎やイカ娘のことを気にしていた。正直、まなも鬼太郎たちとイカ娘の対面に立ち会いたかった。

 だが、彼女は父親不在の中で裕太や蒼馬、大翔の面倒を見なければならない。あれから懲りたのか、裕太たちも大人しく砂浜や浅瀬で遊ぶようになったが、先のような海難事故が起きないとは限らない。

 出来るだけ、彼らから目を離したくはなかった。

 

「ねぇ……まな姉ちゃん。おじさん、まだ仕事終わらないのかな。全然帰ってこないね……」

 

 裕太が心配そうに呟くよう、犬山まなの父である裕一もまだ帰ってこない。

 

「そうだね……まったく、こんなところに来てまで仕事だなんて!」

 

 彼さえ最初からいてくれれば裕太たちの面倒を任せ、自分もあの場に立ち会えたと密かに残念がる。

 しかし、まなは鬼太郎や猫娘、目玉おやじのことを信じているため、あまり深刻には悩んでいなかった。

 

 

 彼らなら——きっと穏便に、平和的に解決してくれるだろうと。

 イカ娘のことも東京に帰ってから聞いておこうと、とりあえず今はこの海を楽しむことに集中しようとしていた。

 

 

「……あれ? ねぇ、まな姉ちゃん? あそこに人がたくさん集まってるよ……いったい何だろう?」

 

 するとその矢先、裕太が前方で人が集まっていることに気づく。

 見れば確かにそこには人だかりが出来ており、まなの意識もそちらへと向けられる。

 

「ほんとだ……いったい何だろう? 喧嘩かな……?」

 

 その人だかりは、何かを囲むように円となって広がっている。

 まなたちも近寄ってその先にあるものを見ようとするが、想像以上に人混みに厚みがあり、簡単に前へ進めそうにない。

 だが、見えないと逆に見たくなってくるのが人の性というもの。

 まなは「いったい何だろう?」と、人だかりの向こうで何が起きているのか、背伸びなどをして覗き見ようと奮闘する。

 

「……ん? きみは、さっきの……」

 

 まながそうしていると、偶然この浜辺で知り合った青年——先ほどお世話になったライフセーバー・嵐山悟朗がやって来た。

 

「あっ、嵐山さん。先ほどはどうも……あの、これはいったい?」

 

 挨拶もそこそこに、まなは悟朗にこの人だかりはいったい何事かと、率直に尋ねていた。

 その問いに、彼は何の気もなく答える。

 

「なんか、イカ娘のやつが騒いでてな。何でも、決闘とやらをやらかすそうだ」

「け、決闘!? だ、誰とですか!?」

 

 おそらく、普通に生きていればまず聞くことのない単語を聞きながら、まなはその決闘とやらの内容を問う。

 驚くまなをよそに、やはり悟朗は取り立てて騒ぐ様子もなく、あるがままの事実だけを伝えていく。

 

 

 その事実により、まながどれだけ驚くことになるかも知らずに——

 

 

「ああ……なんでも、ゲゲゲの鬼太郎……だったか? そいつと決闘するらしいぜ……イカ娘のやつが——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんで?」

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介

 相沢栄子
  イカ娘が居候することになる相沢家の次女。海の家れもんの従業員。
  作中において、ある意味一番の常識人。ツッコミ役。
  彼女が目玉おやじのような存在を目の当たりにすれば、どんな反応をするか?
  想像しながら色々と書いてみました。

 相沢千鶴
  栄子の姉にしてれもんの責任者。相沢家の長女。
  一見するとおしとやかで優しそうな女性ですが……おそらく作中で最強の存在。
  何故彼女が最強なのか? その答えは次回に持ち越しです。

 齋藤渚
  れもんでアルバイトする普通の高校生。  
  作中で唯一イカ娘のことを侵略者として恐れている。
  彼女が繊細過ぎるのか、それとも他の人たちの神経が図太いのか。
  

 次回で『侵略!イカ娘』のクロスは完結します。 
 次のクロスオーバーは……FGOからの水着サーヴァントを想定してますので次回予告をお楽しみに!!



 
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