ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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既に九月と、夏も過ぎ去ろうとしていますが、とりあえず夏シリーズ第二弾。
そして、FGO系列第三弾。前回の次回予告では伏せていた参戦鯖をサブタイトルで公開!

清姫と刑部姫の二人が水着バージョンで同時参戦します!

彼女たちと鬼太郎との関係は以前の話。

『道成寺の清姫』『白鷺城の刑部姫』

この二つと繋がっていますので、そちらの方も是非読んで見てください!

ちなみに、サラッと鬼太郎世界の黒幕が一人登場してますが、現時点で鬼太郎たちと顔合わせをさせるつもりはないのでご注意を……。 


清姫&刑部姫 プリンセス・サマーバケーション 其の①

 ——……ち、畜生。

 ——……なんで?

 ——どうして……こんなことになっちまったんだよ……。

 

 一人の男がいた。男は追い詰められていたが、それも全て自業自得の結末。

 彼は会社の金を横領し、それを全てギャンブルにつぎ込んでいた。そのことが会社にバレ、当然仕事をクビ。そのことを逆恨みし、男は自分の悪事を告げ口した同僚を殺害する。

 そうして、現在は警察に追われる身となった犯罪者である。 

 

 ——くそっ!! 俺が何をしたってんだよ!?

 ——なんだって……俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ!!

 

 だが己の行動を鑑みることもなく、自分に不都合な周囲の人間たちだけをひたすら憎む男。

 全くもってお門違いな憎しみ。しかし、男の中ではそれが絶対の事実。

 

 反省などこの男は死んでもしないだろう。そんな男に対し——

 

「——随分と、お困りのようですね」

 

 しわがれた老人の声が掛けられる。

 

「なっ!? だ、誰だ!?」

 

 その声に男はビクッと肩を震わせる。

 男は警察に追われる身であり、このときも彼は小汚い格好で裏路地を這いずり回っていた。当然人の気配には敏感になっていた筈だが、男の警戒網を嘲笑うように、気が付けばその老人は彼のすぐ側に姿を現していた。

 

 ぬらり、くらりと。

 

「——ただの通りすがりの好々爺ですよ」

 

 政治家ともヤクザとも取れるような貫禄を纏った背の低い老人だった。

 後頭部が妙に長いようなその老人の言葉に、男は胡散臭い視線を向けるも——老人は不敵に笑う。

 

「どうでしょう? いい逃走先を知っているのですが……よければご案内しますよ?」

「なにっ!? 本当か!?」

 

 老人の思わぬ言葉に、男はカッと目を見開く。

 普通に考えれば怪しすぎる、都合の良すぎる老人の提案。だが世界が自分を中心に回っていると本気で思っている男にとって、それは当然の流れ。自分がこんなところで警察に捕まるなど、苦境に立たされるなどあってはならないと。

 そんな思想が、男にとって都合の良い展開をあっさりと信じ込ませる。

 

「ふふ……こちらですよ。ついてきなさい」

 

 そんな男の心情を把握してか。老人は一瞬、口元に嫌らしい笑みを浮かべながら男を案内する。

 

 

 老人が逃走先として名指しする——とある南方の島へ。

 

 

 

×

 

 

 

「——あっ! 見えてきたよ!!」

 

 真夏の太陽が照りつける大海原。定期船に乗り、観光客一行が南方のその島へと訪れようとしていた。

 甲板から近づいてくる島の様相を興奮気味に伝える、白いワンピース姿の人間の女の子——犬山まな。

 

「ええ、見えてるわよ……」

 

 まなの言葉に表面上は落ち着いた様子の猫娘。

 

「まさか、こういう形でまたあの島に来ることになるとはのう……」

「そうですね……父さん」

 

 目玉おやじとゲゲゲの鬼太郎といった妖怪たちも一緒に甲板から顔を出す。彼らは感慨深げにその船上から見える島の景色に見入っている。

 それだけ、彼らにとってこの島は特別な意味合いを持つ。何故ならこの島で——鬼太郎たちは一度、絶対絶命の危機に陥ったことがあったからだ。

 

 

 あれは今から丁度一年前。

 偶然商店街の福引で観光旅行を引き当てた一行はこの島へバカンスに訪れていた。本来なら、ただの楽しい観光で終わる筈だった南の島での一時。

 だが——楽しい筈の時間は、とある『妖怪』との遭遇で悪夢へと変貌を遂げる。

 

 その妖怪の名は——牛鬼(ぎゅうき)

 

 この島に古くから伝わる妖怪であり、『牛鬼岩』という場所に封じられていた怪物だ。この島の住人たちは密かにその牛鬼という存在を畏怖し、牛鬼岩に近づかぬよう細心の注意を払っていた。

 だがその日、牛鬼岩の封印は解かれ、あろうことか牛鬼は復活してしまった。

 その原因となったのが——島の外からの来客。島の伝説を嗅ぎつけ、それを面白おかしく報道してやろうというテレビ局の人間たちであった。

 よそ者である彼らは、牛鬼の伝説を全く信じていなかった。そのため安易に牛鬼岩に近づき、その封印を解いてしまったのだ。

 

 それが自分たちを窮地に追いやる、悪夢の始まりとも知らずに——。

 

 復活した牛鬼は島の市街地にまで乗り込み派手に暴れ回った。

 その後、紆余曲折ありながらも、最終的には再び牛鬼を牛鬼岩へと封じ込めることに成功し、なんとか事なきを得たが——。

 

 

「……っ!」

 

 そのときの苦い記憶を思い出してか、猫娘は鬼太郎の方をチラリと盗み見ながら全身を震わせる。

 

 あの当時の記憶は特に猫娘にとっては思い出したくもない、最悪の出来事だ。正直なところ、それを振り返ってしまうこの島の訪問を、出来ることなら彼女は避けたかった。

 だが一行は丁度一年後の今日、この島を訪問していた。その理由というのも——

 

「——鬼太郎さん! 皆さん!! お待ちしていました!!」

「あっ、恭輔くんだ!!」

 

 港に到着した定期船。それを出迎える島の住人たちの中に一人の少年がいた。その少年が手を振ってきたため、まなも彼に手を振って応える。

 この恭輔少年こそ、鬼太郎たちを再びこの島へと招待した相手でもある。

 

「すみません、遠路はるばる……」

「ううん! 恭輔くんこそ、今日は招待してくれてありがとう!!」

 

 定期船を降りてすぐ、真っ先に犬山まなが恭輔少年へと駆け寄る。恭輔は小学生という難しい年頃にもかかわらず、畏った態度でまなや鬼太郎たちを歓迎してくれた。

 彼は——かつての恩人でもあり、迷惑を掛けた鬼太郎たちに笑顔で挨拶をし、やや申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「わざわざご足労いただいて……あの、お手紙は読んでいただけたでしょうか?」

 

 恭輔が言う手紙とは、彼が鬼太郎宛に書いたものだ。鬼太郎が妖怪に困っている人間の依頼に応えるために用意した妖怪ポスト。そのポストに投函した手紙が、今回鬼太郎たちをこの島へと呼び寄せることとなった。

 しかし、別に恭輔は鬼太郎たちに助けてもらおうと手紙を出したわけではない。

  

「ああ、読ませてもらったよ……復興、進んでるんだって?」

 

 鬼太郎が受け取った手紙を取り出しながら、恭輔に尋ねる。恭輔は鬼太郎の問い掛けに満面の笑みを溢していた。

 

「はい! おかげさまで! まだまだ課題も残ってますが、何とか以前のように観光客の人たちも戻ってくるようになりました!!」

 

 

 牛鬼が暴れたことでこの島は壊滅的な打撃を受けていた。

 特に観光業。この島は観光で経済が成り立っていることもあり、牛鬼によって様々な施設が破壊され甚大な被害を被った。さらに化け物が暴れたという噂が広がったことでの風評被害。

 二重の意味でも、この島は牛鬼によって苦境のどん底に立たされていた。

 

 だがそこで島の住民たちは諦めず、なんとか元のリゾート地としての環境を取り戻そうと奮起した。牛鬼の危機を皆で乗り切ったということもあり、住人たちの結束力もだいぶ高くなっていた。

 それぞれの成せることを成し、互いに助け合って頑張った結果——何とか人を呼べるような状態まで復興が進んだという。

 

 

「迷惑かとは思ったんですけど、その復興ぶりを皆さんに見て欲しくて。あの……もしかして、お忙しかったりしましたか?」

 

 恭輔はその復興ぶりを鬼太郎たちに見てもらいたく、手紙を出して彼らを招待したのだ。一年前も「島が落ち着いたら、きっとまだ遊びに来てください!」と恭輔自身が言っていたことでもある。

 

「いや、ボクたちは平気さ。……けど、本当に大丈夫だったのかい? まだ復興の途中なのに……」

 

 正直なところ、鬼太郎は今回の訪問を断ろうと考えていた。

 

 鬼太郎自身が『大逆の四将』探しで影ながら動いているということもあったが、それ以上に復興途中なのにお邪魔をしたら、迷惑じゃないかと島のことを気遣っていたからだ。

 だが、他の皆に手紙が来たことを伝えたところ、まなが「行きたい!」と言い出した。

 彼女が言うには「ここで遠慮なんてしちゃダメだよ! わたしたちみたいな観光客がお金を落とすことで、それが復興支援に繋がるんだから!」と、テレビで聞きかじった知識を披露したこともあり、鬼太郎たちもやれやれといった調子で今回この島を訪れていた。

 

「勿論です!! ぜひ楽しんでって下さい!!」

 

 実際、まなの言うとおり、この島の住人たちにとって観光業は大事な復興支援となる。

 鬼太郎たちの訪問を経済的な意味でも、心情的な意味でも彼らは歓迎していた。

 

 

 

×

 

 

 

「ふむ、なるほど……確かに復興の方もだいぶ進んでおるようじゃ……」

 

 恭輔に案内され、一同は島の市街地へと足を踏み入れる。目玉おやじは鬼太郎の頭の上から町の景観を眺め、その復興具合を確認していく。

 住人の表情は明るく、これといった悲壮感はない。お土産屋や飲食店も開いており、観光客もそれなりの人で賑わっている。

 恭輔が自信満々に鬼太郎たちを招待しただけあって、確かに復旧の方はかなり進んでいる様子だった。

 

「じゃが……まだ爪痕も残っとるな……」

 

 しかし、その一方で牛鬼が暴れた痕跡も確実に残っている。

 瓦礫の撤去は粗方終わっているようだったが、幾つかの建物は崩壊したまま放置されている。

 住人の数も、騒動の以前よりも心なしか少なくなっているように見受けられる。きっと困難な復興作業に先が見えず、諦めて島を出て行ってしまった人たちも大勢いるのだろう。

 

 どれだけ人々が『理想』に燃えても、常に『現実』という壁が無情に立ち塞がる。

 

「……そう、ですね…………父さん」

 

 父の言葉と島の現状に鬼太郎は苦々しい口調で答えていた。彼にしては弱々しく、どこか申し訳なさそうな呟き。

 

「鬼太郎……」

 

 そんな彼に寄り添いながら、猫娘が堪らず声を掛ける。

 出来るだけ優しく、彼の心を傷つけぬように。

 

「これは鬼太郎のせいじゃない。だから……貴方がそうやって落ち込む必要はないのよ」

「…………いや、ボクのせいだよ」

 

 だが猫娘の慰めの言葉にも鬼太郎の心が癒えることはなく、彼は暗い表情で落ち込んでいた。

 

 

「ボクが……牛鬼になってこの島をメチャクチャにしたんだから……」

 

 

 鬼太郎の言う——牛鬼になったとはどういうことなのか?

 

 そもそも、牛鬼という妖怪には『肉体』というものが存在しない。この妖怪、見た目が牛の顔に胴体が巨大な蜘蛛という恐ろしい容貌をしているが、それはあくまで仮の姿。

 牛鬼の正体は目には見えない生きた『気体』であり、他の生物に寄生することで、その生物の細胞を無理やり変化させ『牛鬼』という怪物にしてしまう。

 妖怪という概念にさえ当て嵌めることができないかもしれない、謎の生命体なのである。

 

 そして——鬼太郎はその牛鬼に寄生され、牛鬼となってこの島で暴れたのだ。

 つまり、この島に被害をもたらした牛鬼とは——鬼太郎のことなのである。

 

 幸い、牛鬼となった鬼太郎はこの島に祀られていた迦楼羅(かるら)様のおかげで撃退され、彼も元の姿に戻ることができた。

 牛鬼として暴れていた間の記憶が、サッパリ抜け落ちているため鬼太郎自身は何も覚えていない。けれども、その被害の破壊跡を見ることで、自分がとんでもないことをしてしまったと思い知らされてしまう。

 

 

「鬼太郎……」

 

 その事実に人知れず苦しむ鬼太郎。猫娘も悲しい表情になってしまう。

 猫娘がこの島に来たくなかったのは、鬼太郎が牛鬼となってしまったときの絶望感を思い出したくなかったから。だが、それ以上に彼が自身のしでかしてしまったことに罪悪感を抱かないかと心配していたからだ。

 案の定、街の被害に鬼太郎は申し訳なさそうに俯いている。

 

「……ねぇ、鬼太郎——」

 

 そんな彼に少しでも何かしてあげたいと思い、猫娘が何かしら声を掛けようとするのだが——

 

「——おっ!? おー!! そこにいるのは鬼太郎さんたちでは!?」

 

 何者かが大きく手を振って駆け寄ってきたことで、一同の意識がそちらの方へと向けられる。

 

 

 

 

「……ん? お主……確か、あのときの……ええっと……」

 

 駆け寄ってきた人物に目玉おやじが首を傾げる。見覚えはあるのだが、その人物をどのように呼べばいいのか分からないでいる。

 それもその筈で、目玉おやじも鬼太郎も彼の名前など知らない。だが、彼がどういった『役職』の人間かはしっかりと覚えているため、猫娘が彼のことを役職名で呼んでいた。

 

「あのときのディレクターじゃない!」

「いやぁ~! どうもどうも、お久しぶりです!!」

 

 ディレクターと呼ばれたその男は、小太りで髭モジャが特徴の中年男性だった。年の割には少年のような綺麗な瞳。腰の低い姿勢で、彼は鬼太郎たちにツルツルな頭をひたすらに下げる。

 

「その節は……本当にご迷惑をお掛けしました!!」

 

 彼は牛鬼騒動の発端——その原因を作ったテレビ局の人間だ。

 彼と神宮寺という傲慢な俳優、そしてねずみ男の三人がこの島を訪れ、オカルト番組の取材と称して牛鬼岩の封印を解いてしまった。

 神宮寺はその傲慢がたたり、彼自身が牛鬼となり死んでしまった。ねずみ男は……いつものようにしれっと生き残り、特に悪びれた様子もなく平然としていた。

 

 だがこのディレクターは己の所業を心底反省し、その場で島の住人たちに土下座して謝罪した。

 

 当然、島の住人たちの怒りも予想できただろうに。軽はずみな行動の責任を取らされ、ふくろだたきにされても文句を言えなかっただろう。それでも彼はねずみ男のように逃げず、怯えながらもしっかりと己の行動の責任を取ることができた。

 

「どうしてこの島に……また何か取材ですか?」

 

 そのときのディレクターが何故この島にいるのかと、鬼太郎が訪ねる。

 よそ者である彼がこの島に用事というのであれば、また何かの取材かもしれない。もしや、またあのときのように、懲りもせずにこの島で何かやろうとしているのかと、一瞬だが疑った目で見てしまう鬼太郎たち。

 しかし、そんな心配も杞憂で終わる。

 

「いえ……実は私、もうディレクターじゃないんですよ」

「えっ?」

「あの後……色々と考えたんですが、この島に移住させてもらおうと思って……テレビ局、辞めて来たんです」

 

 なんと話を聞くに彼は既にテレビ局を辞め、この島に移住して来たのだ。

 わざわざ仕事を辞めてまでこの島に移り住んだのは——ひとえに贖罪のためだという。

 

「皆さんに迷惑を掛けた償い……私にも何かできることがないかと。今はこの島でお世話になっています」

「す、すごいですね。それは……」

 

 そのディレクター、いや元ディレクターの言葉にまなが呆気に取られる。

 子供の彼女からすれば、わざわざ住むところを変えてまで復興に協力しようなどと、まずその発想に至らない。それだけ、この元ディレクターの男性が本気で先の騒動を反省し、島のためにできることを模索していることがよく分かる話である。

 

「あっ、申し遅れました。私、熊谷(くまがい)と言います。改めてお見知り置きを……」

 

 もうディレクターではないため、そう呼ばれるのがこそばゆいのか。彼は今更ながらに自身の名前を名乗る。

 そして自分の髭を撫でながらふと、何かを思いついたように声を上げていた。

 

「いや~! それにしても、また鬼太郎さんたちに来てもらえるとは……どうでしょう? せっかくなので皆さんも『イベント』の方に参加してみませんか?」

『……イベント?』

 

 彼の提案に、鬼太郎たちは揃って目を丸く聞き返していた。

 

 

 

×

 

 

 

「ヒャッハー!! 汚物は消毒だ!!」

「Go! Go! Go!」 

「くらいやがれぇ!!」

 

 市街地、住宅地から少し離れたエリア。区切られたフィールド内を縦横無尽に駆け回る人々の姿があった。

 彼らの手には一様に『銃』が握られており、誰もがテンション高め。とち狂ったように引き金を引きまくり互いの体を的に撃ち合っている。

 勿論、そこに血生臭い景色などはない。あくまでそれは遊びである。彼らの手に握られている銃の正体は『水鉄砲』だ。

 発射される弾丸は『水』であり、全身がびしょびしょに濡れることはあっても、それで致命傷になることはあり得ない。

 

 そう、これぞ『ウォーターサバゲー』と呼ばれる、サバイバルゲーム。

 特別な資格は要らない、誰もが楽しむことができる夏のマリンスポーツの一種である。

 

 

 

「ほう! これは……なかなか楽しそうなゲームじゃな!!」

「本当だ!! ちょっと、やってみたいかも!!」

 

 熊谷に連れてこられた鬼太郎たち一行は、そのフィールドの観客席へと来ていた。

 水鉄砲を楽しそうに撃ち合う参加者たちの笑顔に、目玉おやじと犬山まなの二人が食い入るように見つめている。好奇心旺盛な二人は眼前で繰り広げられるイベントを、割と本気で体験したいとそのゲームの参加を希望する。

 

「ははは!! そうでしょ、そうでしょ!! 受付はあちらですが……よろしければ、私の方でルールを説明させて下さい」

 

 興味を持ってくれた二人のため、熊谷はウォーターサバゲーのルールを簡易的に説明してくれた。

 

 

 ウォーターサバゲーとは——その言葉通りウォーターガン、つまりは水鉄砲で撃ち合うサバイバルゲームのことである。

 通常のサバイバルゲームはエアガンという、それなりに危険性の高い武器で撃ち合う関係上、事故などが頻繁に起こりうる。また必要な道具が多く、エアガンの他にゴーグルやヘルメットを装着して安全性を確保しなければならないため、どうしても重装備になりがちだ。出費がかさみ、敷居が高く、素人では中々入りづらい環境にある。

 その反面、ウォーターサバゲーは実に身軽だ。得物は水鉄砲一つあれば十分。濡れる格好であれば飛び入り参加も全然OK!

 ゲーム性を高めるために必要な道具も、イベントを企画した熊谷たちの方で全て準備してくれていた。

 

 

「ルールは単純! このポイを頭に取り付けて下さい! このポイが破れたらそこで失格です、速やかにフィールド内から退場して下さい!」

「ポイって……これ金魚すくいのあれですか?」

 

 ゲームに必要な水鉄砲を手に取った犬山まなに、熊谷は祭りの屋台などでお馴染みな金魚すくいのポイを手渡してきた。まなは指示されたとおり、そのポイを頭に取り付ける。どうやらこのポイが破れたかどうかで、生き残りを判定するらしい。

 

「はい! OKです!! それでは……参加者の列に並んで、後は係員の指示に従って下さいね!」

 

 準備を整えたまなは熊谷の誘導に従って参加者の列に並んでいく。盛況らしく、結構な人数が順番待ちをしている。

 

「は~い!! じゃあ、ちょっと行ってくるね。鬼太郎、猫姉さん!!」

「ああ、楽しんできなよ」

「頑張んなさいよ、まな」

 

 ワクワクを抑えきれない様子でまなは鬼太郎たちに手を振る。

 鬼太郎と猫娘の二人は、そんな無邪気にはしゃぐまなを微笑ましい気持ちで見送っていく。

 

 

 

 

「ええのう、まなちゃん。わしも参加したかったぞ……」

「残念でしたね、父さん」

 

 まなが楽しそうにゲームに参加する一方、目玉おやじはガックリと肩を落とす。彼もこのウォーターサバゲーの参加を希望していたのだが、さすがにサイズ差がありすぎるということで大会の係員に止められてしまった。 

 

「すいません……さすがに、目玉おやじさんサイズの水鉄砲の用意が出来ず……」

「いえ、気にしないでください」

 

 これに熊谷も申し訳なさそうに頭を下げるが、まあ仕方ないと鬼太郎は納得する。

 水鉄砲がないというのもそうだが、それ以上に小さな目玉おやじをあんなに人々でごった返すゲームフィールドに放り込むのは、息子として抵抗があった。

 

「それにしても……すごい盛り上がりようですね」

 

 しかしと、そこで鬼太郎は改めてゲームフィールドの方へと目を向ける。

 

「そら、いくぞ!!」

「キャッ! ちょっと冷たいわよ!!」

「やったなー! 倍返しだ!!」

 

 このウォーターサバゲーとやらが年代を問わず、楽しめるゲームであることは鬼太郎にも何となく察せられる。だが、それにしたってこの賑わい、盛り上がりようは大したものだと感心してしまう。

 それほどまでに、ゲームフィールドは多くの観光客で賑わっている。イベントは大盛況のようだ。

 

「でしょ!? すごいですよね!! 今回のイベント、企画からお客さんの呼び込みも、全部熊谷さんのおかげなんですよ!!」

 

 鬼太郎の感想に恭輔少年が嬉しそうに語る。

 どうやら、今回のこの企画。全てよそ者であった熊谷が発起人であるらしい。恭輔は島の住人として、彼の功績を純粋に褒め称える。

 

「いやいや、このくらい! ディレクター時代のコネと経験をちょっと活かさせてもらっただけです!」

 

 だが、称賛された当の熊谷本人は、首をブンブンと振って謙遜する。

 周囲から見れば、これだけでも十分島に貢献できていると思われるが、本人的にはまだまだ満足ではないらしい。

 

「……この程度で罪滅ぼしができるとは思っていません。こういったイベントをきっかけに、もっとこの島の観光業を盛り上げていきたいと思っています!」

 

 いずれは、もっと多くの人たちを呼び込んでみせる。再びこの島にかつてのような活気を——いや、それ以上のものをもたらしてみせると。そこに熊谷の意気込みが感じられる。

 

「熊谷さん……ええ、頑張って下さい」

 

 鬼太郎は彼に強い敬意を感じた。

 鬼太郎と同じく、この島に厄災をもたらしものでありながらも、自分とは違い彼はキチンと己の罪と向き合い、この島の復興に尽力している。

 

「ボクにも……何か手伝えることはありませんか? なんでも言って下さい」

 

 これには鬼太郎もじっとしてはいられず、珍しく自分から手を貸せないかと申し出ていた。その申し出に熊谷は大いに喜ぶ。

 

「本当ですか!? じゃあ、イベントを盛り上げてくれると助かるのですが!!」

「ええっと……なるべく、目立たない形でなら……」

 

 彼はイベントの成功のため、鬼太郎に飛び入り参加を要請。あまり目立ちたくない鬼太郎は若干及び腰になるも、これも島への罪滅ぼしだと、割と本気でイベントへの参加を考える。

 

 

 

 

「? ねぇ、それにしても……以前と客層がちょっと違わない?」

 

 そんな中、ふいに猫娘が素朴な疑問を抱く。

 

「……? どういうことじゃ、猫娘」

 

 彼女の言葉の意味が分からず、聞き返す目玉おやじ。猫娘も何と表現していいか分からず、迷いながらも自分の感じた違和感を口にしていく。

 

「何ていうか……前はもっと派手な連中が多かった気がするんだけど……」

 

 猫娘の記憶に間違いなければ、去年この島に訪れていた客層は——もっと若い、キャピキャピした連中が多かった気がする。

 そう、例えるのならば——猫娘の大っ嫌いなハロウィンを全力で楽しんでそうな、今どきの若者といったカップルや大学の飲み会サークルといった連中が多かった気がするのだ。

 しかし、去年と違って家族、子連れなどが観光客の大多数を占めている。勿論、それは悪いことではない。今回のイベントの関係上、子どもの数が増えるのは当たり前で全然構わないのだが——

 

「…………なんか、あそこにいる連中……妙な熱気帯びてない?」

 

 その客層の一角に、猫娘は訝し気な視線を向ける。

 

 そこは——周囲とは全く別種の熱気に包まれていた。

 そこにいたのは二十代から五十代くらいの男性陣。服装は似通ったものとなっており、それぞれがアイドル、アニメのキャラなどをプリントしたTシャツを着用し、下はほぼジーンズで揃っている。機能性を重視したリュックサックを背負い、頭にハチマキやバンダナなどを巻いている。

 一目見て、誰もが彼らを『オタク』という名称で呼ぶことになるような格好だ。

 猫娘以外の一般客も、そんな彼らの装いに引いているが、そんな視線など全く気にせず——

 

『おっきー!! おっきー!! おっきー!!』

 

 彼らはゲームフィールドを駆け回る、一人の『女性』に熱いコールを送っていた。

 

 

  

×

 

 

 

「へぇ~……思ったよりも楽しいかも! サバゲーって!!」 

 

 その頃、犬山まなはウォーターサバゲーをこれでもかというほど楽しんでいた。

 今回のイベントは明確なルールを採用しており、1ゲーム・15対15のチーム戦となっていた。参加者はランダムにチーム分けされており、これといった面識のない人たちと共に戦うことになるわけだが。

 

「お嬢ちゃん! しっかりな!!」

「あんま張り切って怪我すんなよ!!」

 

 和やかなイベントということもあり、チームメンバーになった人たちがまなに気軽に声を掛けてくれる。中学生の女の子ということで気に掛けてくれる大人たちに感謝しながら、まなはゲームを進めていく。

 

「やった! 命中!!」

「ちくしょう~、やられちまったか!!」

 

 まなは相手選手のポイを撃ちぬき、敵チームの一人を脱落させる。だが、楽しいイベントということもあり、やられた相手は悔しがりながらも笑顔で退場していく。遺恨など残らない。銃の撃ち合いとはいえ、これがあくまでも『ゲーム』だということを実感させてくれる、穏やかな空気。

 

 だが、そんな楽しくも緩い空気を吹き飛ばすかのように。

 その嵐は——戦場を駆け抜ける。

 

「————!!」

「へっ?」

 

 唐突だった、唐突にまなの視界を横切る黒い影。

 まながほんの一瞬、瞬きをしたその刹那にも——その黒い影に生命線であるポイが撃ち抜かれていた。

 

「ピィィー!! 失格!!」

「……えっ、もう終わり!?」

 

 レフェリーに言われ、初めて自分が脱落させられたことを理解する。

 あまりにも実感がなさすぎて多少の不満が残るも、ルールはルール。大人しくゲームエリアから退場しようとするまなであったが——

 

「————!!」

「えっ、ちょ、ちょっと、何よこれ!?」

「し、神速!?」

 

 まなが退場するよりも早くに、そいつは次のターゲットを仕留めて脱落者を量産していく。

 明らかに遊び半分ではない。マジも大マジ、まるで本物の兵士のように次々と敵を葬っていく黒い影。

 

「くそっ! これ以上はやらせるな!!」

「弾幕張れ! 弾幕!!」

 

 あまりの本物ぶりに、危機感を抱いた味方チームも本気になる。

 生き残った七人ほどの面子が一か所に集まり、黒い影に向かって水の弾幕を張る。これには黒い影も迂闊には近寄れず、一旦はエアバンカーと呼ばれる障害物の影に隠れる。

 

「ふぅ~……これでとりあえずっ!?」

 

 なんとか黒い影を退けたと思い、彼らが息を吐くのも束の間。

 

「——狙い撃ちですわ!」

「——隙だらけでござるよ、はいズキュ~ん!!」

 

 全く別の方向から敵チームの他選手たちが攻撃を仕掛け、あっという間に脱落者の数を増やしていく。

 明らかに黒い影と動きを合わせた見事な連携。その立ち振る舞いは——明らかに素人ではなかった。

 

「ち、ちくしょう!! こいつら、いったい!?」

「や、やばいって! こんなん無理ゲーだよ!!」

「く、くそっ! なんて、大人気ない連中だ!!」

 

 もはや残り三人、愚痴を溢す生き残りが絶望する暇もなく、再び黒い影が動き出す。

 

 

 そいつは、上から姿を現した。

 

 

 二メートルはある障害物のエアバンカーを踏み台に、選手たちの頭上を飛び越えてきたのだ。

 

「——は~い! 残り三名さま、ごあんな~い!!」

 

 黒い影——その女は勝ち誇った笑顔で、生き残った三名の頭のポイを一瞬にして撃ち抜いていく。

 

「えっ?」「へっ?」「ぎゃっ!?」

 

 呻き声を上げながらバタバタと倒れていくものたち(雰囲気で)。

 彼らが地面に倒れ伏すとほぼ同時に、女は地面へと華麗に着地する。

 

「ふっ……(わたし)の勝ちね!!」

 

 彼女がそう宣言すると同時に、試合終了のホイッスルが高々と鳴り響く。

 そして彼女の活躍を追っていた観客のオタクたちが、一斉に歓声を上げるのであった。

 

 

『イェぃいいいい!! おっきー!! おっきー!! おっきー!!』 

 

 

 

 

「あ~あ、なんか知らない間に負けちゃったよ……でも、楽しかった!!」

 

 一部の熱狂的なものたちが騒ぐ一方で、犬山まなは笑顔で鬼太郎たちの元へと戻る。訳もわからずやられてしまった彼女だが、それでも十分に楽しめた。

 

「ねぇ! 今度は鬼太郎と猫姉さんも一緒に参加しようよ!!」

 

 また、もう一回。今度は鬼太郎と猫娘も一緒にと、二人を遊びへと誘う。

 しかし——まなの誘いに彼らからの返事はなかった。

 

「……………………………」

「…………あいつ、あんなところで何やってんのよ」

 

 鬼太郎は目を丸くし、猫娘が呆れた様子で熱狂の渦——その中心点へと目を向けているのだ。

 

「? どうしたの二人とも? ……あの人たちがどうかした?」

 

 まなは二人の様子を不思議に思い、その視線の先を目で追っていく。

 

 まなの目から見ても、ちょっと特殊な格好をした人の集団。彼らは先ほどのまなの対戦相手、数々のスーパープレイを披露した女性を称賛するよう『おっきー! おっきー!』と声を上げている。

 そんな彼らのエールに、満更でもない様子でその女性も応えていた。

 

「イェーイ!! みんな~、応援ありがとう!! アイアム、チャンピオン!!」

 

 おっきーと呼ばれているのは、水着姿の女性だった。

 大胆な水着はどことなく和服を思わせ、透けた袖付きに高級感を感じる装い。長い髪をポニーテールでまとめ、髪飾りのセンスなども割と洒落ている。

 黙っていれば令嬢にも見えるような雰囲気。だが、テンションマックスに水鉄砲を掲げる姿が全てを台無しにしている。

 

「みんな!! 今日も応援ありがとう!! 姫は誰の挑戦も遠慮なく受けるから、じゃんじゃんチャレンジしてね!!」

 

 どこから取り出したのか、彼女はマイクを片手に演説するように群衆に向かってシャウト。

 そして変に顔を崩し、ちょっぴり泣きそうな表情を作りながらも堂々と宣言していた。

 

 

「だたし、原稿の催促だけは勘弁な!! この刑部姫(おさかべひめ)……それ以外なら逃げも隠れもしないよ~!!」

 

 

 

×

 

 

 

 時を同じくして。

 二組の招かねざる客がこの島に上陸を果たしていた。

 

「ほ、本当に……ここなら警察も追ってはこないんだろうな!?」

「ええ、すぐには駆けつけてこないでしょう……」

 

 一組は若い男と年老いた老人の二人組。

 若い男の方は本土で犯罪を起こし、老人に言われるがまま、逃走先にこの島へと密航してきた。

 

 老人はそんな男を大丈夫と安心させながらも、いずれはここも安全ではなくなるだろうと唆す。

 その上で、とある提案を男に持ち掛ける。

 

「どうでしょう? ここから海外へ逃げるというのは……なに、心配はいりません。軍資金の方ならば、少し心当たりがありますよ」

「ほ、本当だな……か、海外で貧乏生活なんて、真っ平御免だからな!」

 

 人一人殺しておいて、自己中にもまだそんなことを宣う男。

 そんなどうしようもない男に、老人は口元を吊り上げながらそっと囁く。

 

「ええ……この島には金銀財宝が眠ってるとの噂があります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地元の住人はその場所を——牛鬼岩、と呼んでいるそうですよ?」

 

 ありもしない財宝伝説を語り、男に地獄の窯の蓋を開けさせるために——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、もう一人の来客だが——。

 

「ふふふ……この私から逃げられると思っているのでしょうか、おっきー?」

 

 華奢の少女が一人、にこやかな笑みを浮かべていた。

 少女もまた夏の装い、ビキニの水着の上から着物を着崩した和装。緑色の長髪を黄色のリボンで結び、頭には白い角のような髪飾りを付けている。もっとも——その角は飾りではなく、本物の角であるのだが。

 

「まったく、原稿に詰まったからといって逃げ出すなんて……これは『オシオキ』が必要ですね、うふふふ……」

 

 彼女は、表面上は笑っていた。だがその笑みの奥に——炎のような怒りを隠しているのは誰の目にも明らか。

 可愛らしい容姿でありながらも、その辺のナンパ男が自然と距離を置いていく。

 

 誰も虎の——いや『蛇』の尻尾など好き好んで踏みたくはない。そう、本能で危険だと理解できるのだ。

 

 

 今の彼女に迂闊に近づけば、命はないと。

 

 

「さて……今からそちらに行きますよ、おっきー。せいぜい……今のうちに楽しんでおきなさい」

 

 背筋の凍るような、ゾクリとする声音で少女は呟いていた。

 

 

 

 

「この清姫(きよひめ)のストーキング技術を甘く見た……貴方の負けですよ? ふ、ふふふふふ……」

 

 

 

 

 自分の元から逃げ出した愚者を、焼き殺すようなトーンで——。

 

 

 

 

 




人物紹介
 FGOからの参戦キャラ
  水着刑部姫
   作者お気に入りのフレンド弓枠のサーヴァント。聖杯でレベル90。
   星が一つ下がっていますが、使い勝手は水着の方がいいという謎使用。
   普段よりもテンションが高めですが、本質は変わってはいないとのこと。
   ちなみに、本作では第三再臨での恰好を採用しています。
 
  水着清姫
   残念ながら、作者は未所持の初期水着サーヴァント。
   いつもよりテンションが高めなようで、いつもどおりテンションがおかしい。
   さっそく刑部姫へ死亡フラグを立てる狂気のヤンデレ。
   ちなみに、本作では第一再臨での恰好を採用しています。

 ゲゲゲの鬼太郎・6期からの登場人物
  恭輔
   牛鬼が封印されていた島の子ども。
   今回、鬼太郎たちを島へと呼び寄せるキーパーソン。
   「牛鬼を殺したものは、牛鬼になってしまう!!」の解説役だった子。
   いや、もっと早く言えよ!!

  ディレクター
   神宮寺と一緒に島を訪れていた髭モジャの男。
   サングラスをかけていると高圧的でしたが、その下はつぶらな瞳のチワワ。
   モブですが、結構好きなキャラ。
   熊谷というオリジナルな名前を付けさせてもらいました。

  謎の老人 
   もう何者なのか、丸わかりな黒幕のお爺さん。
   無知な男を唆し、いったい何をさせるつもりなんだ!?(壮大な振り)
   

  
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