『ぼのぼの』に登場した『しまっちゃうおじさん』を主役にしたクロスオーバー。
MYさんからリクエストを頂いたぼのぼの。ぼのぼのの世界観をそのまま持ってくることは困難だったので、一番強烈なキャラを鬼太郎世界に召喚します。
このしまっちゃうおじさん、原作の絵本だと数えるくらいしか登場してないらしいのですが、1995年のアニメ版だとそこそこの出番があり、それによりカルト的な人気を得るようになりました。
完全にカオスです。与太話として楽しんでもらいたいと思います。
「——最近、子供たちの行方不明事件が多発してるみたいだけど……どう思う、鬼太郎?」
ゲゲゲの森のゲゲゲハウス。鬼太郎を含めいつもの面子が集まる中、猫娘がスマホのネット記事を検索しながらおもむろに呟く。
平和な昼下がりの午後、ゲゲゲの森では嘘のように穏やかな時間が流れていたが、こうしている間にも人間たちの世界ではまた新たな事件が発生し続けている。
窃盗やら、傷害やら、殺人やらと。その数が変動することはあっても、決してなくなることはない。
そんな数多くの事件が発生しては解決、発生しては未解決と繰り返されている中。
現在、とある事件が立て続けに起こっており、巷を騒がせていた。
それこそが——子供たちの誘拐、行方不明事件である。
行方不明になっているものは皆子供。下は小学生。上は高校生までと、その全てが未成年である。
「うむ、新聞でも大きく取り上げられておるようじゃのう……」
「ああ……妖怪ポストにも、そういった手紙の相談がたくさん来てる……」
「…………」
猫娘のスマホ以外でも、砂かけババアが読んでいる新聞、妖怪ポストから送られてきた手紙など。人間たちの社会情勢をあらゆる手段で知ることができる妖怪たち。
「鬼太郎よ、さすがにこれだけ連続で起きているのには……何かしらの裏があるに違いない」
「ええ、ボクもそう思います、父さん」
目玉おやじの指摘に鬼太郎も同意する。
一件や二件ならば、あくまで偶然が重なっただけ。人間同士の揉め事と彼らは気に留めなかったであろう。しかし、事件はここ数ヶ月で数十件、このままの勢いでいけば三桁に登る勢いだ。
さすがに、これだけ子供たちの誘拐事件が立て続けに起こっているのはおかしい。
鬼太郎はこの事件の裏に『妖怪』が関わっているかもしれないと、既に調査を進めていた。
「とりあえず……カラスたちからの報告を待ちましょう」
今は鬼太郎の頼みでゲゲゲの森のカラスたちが動いている。
彼らはこの森に住まう特殊なカラスであり、野生のカラスたちなどに指令を発することができる。関東中のカラスが街中に監視網を敷けば、必ず何かしらの動きを察知することができる筈だ。
鬼太郎たちは事態が動くことを期待し、カラスたちの報告を静かに待っていた。
「……ここか? 本当に……ここに連れ去られた子供たちがいるのか?」
「カァッ!!」
それから、数時間後。すっかり日が暮れ始めた頃に数羽のカラスたちが有力な情報を持ってきた。
なんでも新たな誘拐事件が発生し、何者かが子供を拉致。この山中にある洞窟へとその子を連れ去っていったという。
カラスたちの目ではその『何者か』が何であるかははっきりと視認できなかったらしいが——明らかに人間ではなかったという。
妖怪の仕業の線がさらに濃厚となっていき、鬼太郎たちはこの事件を解決すべく重い腰を上げる。
「みんな……準備はいいか?」
何者かが潜んでいるかもしれない洞窟の前で、鬼太郎が仲間たちに呼び掛ける。
「いつでもいいわよ!!」「うむ、任せておけ!!」
「まかせんしゃい!!」「ぬりかべ!!」
そこにはいつものメンバー。
猫娘に砂かけババア、一反木綿にぬりかべと頼もしい仲間達たちが揃っている。鬼太郎の号令に彼らは快く返事をしてくれる。
「…………」
ただ子泣き爺。彼だけが何故か何も喋ってはくれなかったが。
「……どこまで続くんでしょう、この洞窟は……」
「油断するでないぞ、鬼太郎よ」
そうして、いざ洞窟内部へと突入することになった一行。鬼太郎は松明の火で内部を照らし、目玉おやじが用心深く進んでいくよう息子に忠告を入れる。
今のところ、洞窟内にこれといっておかしなところはない。
しかし、油断は禁物。ここに何者かが潜んでいることは確実なのだ。鬼太郎たちは警戒を強めながら、一本道となっている洞窟の通路内を黙々と突き進んでいく。
「……! 鬼太郎、見て!」
どれくらいの時間、歩き続けていただろう。いい加減外の空気が恋しくなり始めた頃、猫娘が声を上げる。
前方、狭い通路しかなかった視界の先に僅かに灯が見えたのだ。そこは洞窟の最深部、大きく開けた場所になっていた。
その開けた場所の中心部に——ポツンと何者かが立っている。
「——ふっふっふ……待っていたよ、鬼太郎くん」
「っ!?」
相手が鬼太郎の名前を呼んだことから、既に自分たちがここに来ることを予想していたことが分かる。
油断ならない相手だ。鬼太郎たちは警戒心を最大レベルまで上げ…………何だかよく分からない眼前の生物と向き合う。
そこに立っていたのは当然人間ではない。
そこに二足歩行で立っていたのは、スラリと頭身の高い……虎? いや……豹? もしかしたら……スナドリネコ?
何だかよくわからないが、ピンク色の皮膚に黒いぶち模様が特徴的な、ネコ科の動物っぽい何かが目を細めた笑顔で立っていた。
「お、お前は……何者だ!?」
いったい何と呼んでいいかも分からないため、とりあえず何者なのだとシリアスに問いかける鬼太郎。その問い掛けに、謎の生物は自信たっぷりに答える。
「私は……しまっちゃうおじさんだよ」
「しまっちゃうおじさん!!」
「しまっちゃうおじさん!?」
「しまっちゃうおじさん……?」
「しまっちゃうおじさん……だと!?」
背筋が凍るほどに恐ろしいその名前に震え上がる鬼太郎たち。
しかし、ここで怯むわけにはいかない。相手が何者であれ、まずは問わなくてはならないことがある。
「お前が子供たちを連れ去ったんだな? 誘拐した子たちをどこへやった?」
そう、ここがしまっちゃうおじさんのアジトであるのならば、今回の事件の被害者——誘拐された子供たちがいる筈なのだ。
彼らは無事なのか? 今どこにいるのか?
「ふっふっふ……ふっ!!」
鬼太郎の質問に不敵な笑みを浮かべながら、しまっちゃうおじさんは——パッと片手を上げる。
「うっ、眩しっ!?」
瞬間、僅かな光しかなかった薄暗い洞窟内部がまるで昼間のように明るくなる。鬼太郎たちとしまっちゃうおじさんが対峙していた洞窟中心部の様子が——克明に照らされていく。
「こ、これはっ!?」
「な、なんなの……これ!?」
鬼太郎と猫娘が周囲を見渡すと、広い洞窟の至る所に——石で積み上げた祠のようなものが無数に設置されていた。
まるで石を積み木のように積み上げた、ちょうど子供が一人分入るか入らないかくらいの大きさの石倉だ。
その石の祠の中から——子供たちのすすり泣く声が聞こえて来る。
「——う、うう……暗いよ、誰か出して~」
「——助けて……助けてよ、ママ~」
「——ひっく……家に、おうちに帰りたいよ~」
「ま、まさかっ!? この中にっ!?」
攫われた子供たちの現状を理解し、戦慄する鬼太郎。
どうやら連れ去られてしまった子供たちは、誰一人の例外なく、それら石倉の中に閉じ込められているようだ。あまりに残酷な仕打ちを前に、憤りを露わにする鬼太郎が叫んだ。
「お前っ!! 何故こんなことを……この子たちをどうするつもりだ!?」
何故こんなことをするのか。鬼太郎にはしまっちゃうおじさんの目的が理解出来なかった。
「私はしまっちゃうおじさん。悪い子をどんどんしまってしまうのさ……ふっふっふ」
しかし、しまっちゃうおじさんはスラスラと答える。
自身の目的。この行為にはこの子供たち——『悪いことをした子たちをお仕置きする』という、正当な理由があるのだと堂々と語っていく。
「——そこにいるタケルくん。彼はお婆さんが一人で経営している駄菓子屋に、繰り返し繰り返し万引きに入ったのだ。悪い子だ、だからしまっちゃうんだよ」
「——あちらのヒメノちゃん。彼女はクラスメイトの女の子にヒドイ嫌がらせをしていたんだ。そのせいでその子は不登校になってしまった。悪い子だ、だからしまっちゃうんだよ」
「——ヤマトくんとキョウスケくん、そしてダイキくん。彼らは寄ってたかって一人の同級生を虐め、自殺にまで追い込んだんだ。決して許されることじゃない、だからしまっちゃうんだよ」
「…………」
次々に語られていくのは子供たちの『罪状』だ。これには鬼太郎たちも黙って耳を傾ける。
そう、ここにいる子供らは、しまっちゃうおじさんが『悪い子』と認定したものたちだ。彼らにはしまわれるだけの相応の理由があるのだと、しまっちゃうおじさんは力説する。
「程度の差こそあれ、彼らは悪いことをした。悪いことをしたら罰を受けなければならない。だが……大人たちは誰も彼らを罰しようとはしなかった。理由は彼らがまだ子供だから。たったそれだけの理由で、人間たちは彼らの悪事に目を瞑ったのだ」
そこからも、しまっちゃうおじさんの言葉は止まらなかった。
「アライグマくんはいつも友達のシマリスくんを殴ってばかり。シマリスくんはシマリスくんで、いつも嫌味なことを言う」
「えっ? アライグマ……シマリス?」
見れば人間の子供だけでなく、何故か動物の子供たちまでしまわれている。
なんでアライグマとシマリスなのかは知らないが、とりあえず今はスルー。
「ラッコのぼのぼのくんはいつもメソメソと泣いてばかりだ……泣き虫で悪い子だ、だからしまっちゃうんだよ」
「うぅう……もうダメだぁああああああああ~!」
ついでにラッコの子供が絶望的な表情で項垂れているが……とりあえずそっちもスルー。
とにかく、今はしまっちゃうおじさんの言い分に対して何か返答をすべきだ。鬼太郎は僅かに思案した後、自分なりの意見を口にする。
「確かにお前の言うとおり……その子たちは悪いことをしたんだろう。それに対する罰は必要なのかもしれない」
鬼太郎はしまっちゃうおじさんの言い分を一部認める。悪いことをすれば罰を受ける、それに関しては同意できることだ。
「だけど……その判断をするのはお前じゃない! お前に……彼らの自由を奪う権利はないぞ、しまっちゃうおじさん!!」
だがしまっちゃうおじさんのやり方は間違っている。人間の罪を彼が一方的に判断し、裁く権利などないのだと。
鬼太郎は威勢よく啖呵を切り、これ以上は問答の余地もないと戦闘態勢に移行する。
「ならば仕方がない、鬼太郎くん。私の邪魔をするキミも……悪い子だ」
そんな鬼太郎に対し、しまっちゃうおじさんは笑顔のまま言い放つ。
「悪い子はどんどん……しまっちゃおうね~」
鬼太郎を悪い子に認定し、その身をしまってしまおうと迫る。
×
「——鬼太郎に手出しはさせないわ!」
しまっちゃうおじさんの言葉に、猫娘が鬼太郎を守る立ち位置から爪を伸ばし、化け猫の表情となって威嚇する。
彼女だけではない。砂かけババアや一反木綿。ぬりかべに子泣き爺も。しまっちゃうおじさんの魔の手から鬼太郎を守るため、それぞれが身構えていく。
「たった一人でわしらと戦うつもりか? 悪いことは言わん、降参しろ……しまっちゃうおじさん!」
戦いが始まる前に、砂かけババアはしまっちゃうおじさんに声をかけた。しまっちゃうおじさんは一人だ。いくら何でも、たった一人で自分たちの相手などできる筈がない。
無益な争いを避けるためにも、彼女はしまっちゃうおじさんに降伏を促す。
「キミたちこそ、それだけの人数で……『私たち』と戦うつもりかい?」
「私たち……じゃと!?」
しかし、しまっちゃうおじさんは動じない。彼は不敵な笑みを浮かべ、浮かべ——
「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」
「っ!?」
次の瞬間、その笑みが二重に重なる。
一人と思われていたしまっちゃうおじさんの背後から——もう一人、別のしまっちゃうおじさんが現れたのだ。
「ふ、増えたっ!?」
これに驚く鬼太郎だが——甘い。
「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」
しまっちゃうおじさんの笑い声が、さらに重なっていく。
二人いたかと思われたしまっちゃうおじさんが、さらにもう一人、二人、三人と姿を見せ——その勢いは留まるところを知らない。
「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」「ふっふっふ……」
「——な、なななななっ!?」
無限に増えていくしまっちゃうおじさんたち。これにはさすがの鬼太郎も青い顔になる。
気がつけば——しまっちゃうおじさんが視界いっぱいに広がっており、その数は洞窟内を埋め尽くすほどに増殖していた。
「くっ!!」
「か、囲まれたっ!?」
そうして、鬼太郎たちはしまっちゃうおじさんたちに包囲され、迂闊に動けない状態まで追いやられる。そのまま一斉にしまっちゃうおじさんたちに襲われては、さすがに鬼太郎たちもタダでは済まない。
しかし、しまっちゃうおじさんたちはその場で静止したまま。いきなり襲いかかってくるようなことはなく、暫しの間、洞窟内が静寂によって支配されていく。
「…………」
ややあって、しまっちゃうおじさんたちの中心に立っていた、一人のしまっちゃうおじさんが手をそっと掲げる。
まるで指揮棒を振るうかのように、周囲のしまっちゃうおじさんたちへと合図を送る。
「しまっちゃうよ〜♪」「しまっちゃうよ〜♪」「しまっちゃうよ〜♪」「しまっちゃうよ〜♪」
するとその合図に合わせ、何人かのしまっちゃうおじさんが歌い出す。意外にも美しい歌声でハーモニーを醸し出していく、しまっちゃうおじさんたち。
「「「「「「でゅ~わ~♪」」」」」」
刹那、動かないままだったしまっちゃうおじさんたちが、歌声に合わせて一斉に行進を始めていく。鬼太郎たちの周囲を、合唱しながら廻り始めたのだ。
「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーアー♪」
「な……なんなんだ、いったい、これはなんなんだ!?」
状況に困惑する鬼太郎。
しまっちゃうおじさんたちが歌い始めた時点で、既に彼の脳はパンク寸前だった。
いったいこれは何なんだ? 自分は今、何と戦っているのか? それすらも分からなくなってくる。
「う……鬼太郎、ごめんなさい……」
「ね、猫娘っ!?」
そのパニックの最中、猫娘が鬼太郎への謝罪と共に倒れていく。
彼女だけではない。砂かけババアに一反木綿、ぬりかべや子泣き爺も無念に崩れ落ちていく。
誰もが皆、しまっちゃうおじさんたちの合唱を前に成す術もなく倒されてしまったのだ。
「き、鬼太郎……済まん。わしも……ここまでじゃ」
「と、父さん!?」
最後の頼みの綱とも言える目玉おやじまでも力尽きてしまう。
もはや、その場に立っていられたのは鬼太郎一人だけ。その鬼太郎の意識も——徐々に、徐々に薄れていく。
——くっ、意識が……遠のいていく!
自分の意識が途切れかけていることを朧げながらも認識し、何とか耐えようと踏ん張っていく。
だが鬼太郎の努力も虚しく、しまっちゃうおじさんたちの合唱は佳境を迎える。
「ランラン♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「ランラン♪」「アーアー♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アーラン♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」「アラアラ♪」
そして——
「——さあ、捕まえた♪」
いつの間にか、鬼太郎の背後に回り込んでいたしまっちゃうおじさんの肉球によって——鬼太郎の両目が覆われる。
鬼太郎の視界は完全に塞がれ——彼は、真っ暗な闇の中へと落ちていく。
「——さあ、どんどんしまっちゃおうね~」
抵抗することも出来ずに石倉の中にしまわれてしまう、ゲゲゲの鬼太郎。
しまわれてしまった鬼太郎は、もう二度と——朝日の光さえ崇めないのであった。
「——うわああああああああああ!?」
その瞬間、鬼太郎は目を覚ます。
「——ちょっ!? 鬼太郎!? どうしたのよ、いきなり……大丈夫?」
「——しっかりせんか、鬼太郎! ……何があったんじゃ?」
目を覚ました鬼太郎の眼前には、自分を心配そうに見つめる猫娘と目玉おやじの顔があった。
そこはいつものゲゲゲハウス。鬼太郎は——どうやら、布団に包まって眠っていたらしい。
「はぁはぁ……ゆ、夢……? 夢……だったのか?」
うなされて飛び起きた鬼太郎。彼は乱れる呼吸を少しずつ整え——どうやら自分が夢を見ていたことを理解する。
得体の知れない悪夢だった。それが夢であったことにホッと胸を撫で下ろす。
「……父さん、どうやらボクは……夢を見ていたようです」
「ほう……どんな夢だったんじゃ?」
鬼太郎は自分を心配してくれる父親や猫娘を安心させようと、まずは笑みを浮かべる。だが目玉おやじから「どんな夢を見ていたのか?」と問われ——言葉に詰まってしまう。
「それが……何も覚えていないんです……」
先ほどまで、確かに悪夢は見ていた筈なのだが、その内容が全く思い出せない。
いったい、自分は『どんな』夢を見ていたのだろうと自問自答する。
「でも……とてつもない悪夢であったことは間違いありません。もう二度と……あんな夢は見たくないです」
しかし深く掘り起こすのは危険と判断。大抵のことでは動じない鬼太郎にしては珍しく、体を震わせながら、夢の内容を絶対に思い出すまいと首をぶんぶんと振り払う。
「むむ……鬼太郎にそこまで言わせるか……」
その拒絶反応に目玉おやじが考え込む。
鬼太郎をここまで怯えさせる夢に出てきた『何者』か。気にはなるが、息子のためにも深く追及はしないでおこう。とりあえず、鬼太郎を安心させようと優しく声を掛ける。
「きっと、とてつもない大妖怪にでも追い詰められていたんじゃろう……な~に、気にするでないぞ、鬼太郎よ!」
「はははっ……」
目玉おやじの慰めに、鬼太郎は自然と笑みを溢していた。
父親の言うとおり、あまり気にしないように努める。いずれにせよもう思い出せないのだから、時間が経てば悪夢を見たという事実も忘れることができるだろう。そう思えば心も軽くなるものだ。
だがふと、自分でも分からないが鬼太郎は自然と疑問を口にしていた。
「——あれは……妖怪、だったのか?」
しまっちゃうおじさんが、鬼太郎の妄想によって生み出されたものなのか?
それとも、別の誰かによって想像された妄想なのか?
あれが動物なのか、妖怪なのか?
結局のところ、それは誰にも分からない。
だが、あれが最後のしまっちゃうおじさんとも思えない。
きっと子供たちが『悪い子』である限り、しまっちゃうおじさんはいなくはならない。
もしかしたらいつの世も、彼らは人間たちの動向を監視し、介入するチャンスを窺っているかも知れない。
きっと、こうしている間にも——
「——ほ~ら、キミの後ろの暗闇に……ふっふっふ」
しまっちゃうおじさんは、いつも貴方の背後に——
人物紹介
しまっちゃうおじさん
今回の主役。ぼのぼのの妄想が生み出した狂気の産物。
当時、このアニメを視聴していた子供たちに強烈なトラウマを与えた元凶。
かくいう作者も、子供の頃は伝説の回『洞窟の恐怖』をまともに見ることができなかった。
今では笑いながら関連動画を視聴できますが……昔はほんとうに恐ろしかった。
一応、タイトルはしまっちゃうおじさんが主役のスピンオフ絵本『しまっちゃうおじさんのこと』となっていますが、作者はその絵本は未読です。
今作のしまっちゃうおじさんは、あくまで1995年版のアニメをモデルにしていますので、よろしくお願いします。
ぼのぼの
原作の主人公。
今回は軽い友情出演としてチラッとだけ登場。
しまっちゃうおじさんのような怪物を何体も生み出す妄想力。
いったい、この子の思考回路はどうなっているのでしょうか?
シマリスくん
友情出演、ぼのぼの友達。
シマリスくんは基本的にしまっちゃうおじさんの存在に関しては何も言いません。無視です。
アライグマくん
ぼのぼのとシマリスくんの友達。イジメっ子大将。
作中でも数少ない、しまっちゃうおじさんの存在を否定してくれる子。
1995年版の担当声優さんが好きでした。心よりお悔み申し上げます。