ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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鬼灯の冷徹は、やっぱ人気があるんだなぁ~と、お気に入り数が徐々に増えていったことでそれを実感しています。
ですが……自分の書くクロスオーバーは、何というか二話目以降から色々と評価が分かれるようで。
今回も、この展開に色々と賛否があるかと……。
てか……『連中』が参戦すると、本当に世界観が変わるな~……と思いながらも、どうか続きをどうぞ。

ちなみに、前回のアンケート結果を参考に次回は『FGO系列』の話を書くことにしました。誰が主役になるかは……次話の次回予告で答え合わせします。


鬼灯の冷徹 其の②

 現世のとある山の頂。

 天高くに暗雲が立ち込め、その雲の隙間から——どデカい一本足が飛び出ていた。

 

『——人臭い、人臭いぞ!』

 

 その足の『主』と思しき恐ろしい声が、雲の上から聞こえてくる。

 それは山すらも踏み越えていけそうな巨人。足だけで十分に建物を踏む潰し、人間をぺちゃんこにしてしまうだろう巨躯。

 

『愚かな人間め!! 踏み潰してくれるわ!!』

 

 その怪物の足の裏が——今まさに地上にいた一人の人間へと向けられる。

 ただの人間であればその巨大な足に蟻のように踏み潰され、何も出来ずに絶命していたことだろう。

 

 ところが——

 

 

「——鬼神招来!!」

 

 

 その青年が掛け声を上げるや、彼の腕が人間のものから怪物の——『鬼神』のそれへと変貌を遂げる。

 そして、青年はその腕で巨人の足を受け止め——拮抗の末、弾き飛ばす。

 

『ぐむぅっ!? お、おのれぇええええ!!』

 

 まさかの抵抗に巨人は一本足を雲の上へと引っ込めた。あんなちっぽけな人間如きに、己の足を受け止められるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「ふん、随分と見掛け倒しの図体だな……」

 

 巨人が怯んでいる合間に青年——鬼道衆・石動零は大勢を立て直していく。見かけほど大した怪力ではないと、相手の能力を冷静に見極めてその動向を観察していく。

 

『——零よ……気づいておるだろうな?』

 

 すると、石動零の背後に一人の『鬼人』が現れる。

 その存在感は極めて希薄であり、体そのものも透けているように見えた。その鬼はまさに守護霊のように石動の背後に佇み、彼に助言を与える。

 

『あの巨人の姿……あれは幻、本体は何処ぞ別の場所に身を潜めておるぞ』

「けっ! んなこと、お前に言われなくても分かってる……黙ってろ、伊吹丸!!」

 

 鬼人——鬼童(きどう)伊吹丸(いぶきまる)の助言に反発する石動。言われなくてもそれくらい分かっていると——彼は眼前の巨人のそのほとんどが仮初の姿であることを見抜いていた。

 

 そう、あの巨人は見掛け倒しの幻影。先ほどから、足だけでしか攻撃してこないのがいい証拠だろう。

 きっと本体はあの雲の向こう側のどこか、自分たちの視界に入らないところに隠れていると。

 

「だったら……これでどうだ!!」

 

 石動はまずその本体がどこにいるか探りを入れようと集中する。精神を研ぎ澄ませることで、敵の妖気の出どころを探知。それにより彼は敵の本体、そのおおよその位置を把握する。

 

「来い! 雷上動!」

 

 その上で、石動は懐の護符から弓——『雷上動(らいじょうどう)』の写しを顕現する。この雷上動は源頼政が鵺を退治する際に用いたとされる弓、その模倣品だ。オリジナルに比べれば随分と威力が劣るものの、今はこれで十分だとばかりに。

 彼はその弓に『山鳥(やまどり)矢羽根(やばね)を付けし尖矢(とがりや)』をつがえ、狙いを定める。

 

「…………そこだ!!」

 

 妖気の出どころを見定め、矢を放った。雷上動の弓の弦は通常よりも硬く、鬼神の腕でもなければ矢を放つことすらできない。

 しかしその分、威力は絶大だった。

 

『——ぎぇああああああああああああああ!?』

 

 雲を突き抜けて飛んだいった矢が敵の本体に命中したのか。

 おぞましい断末魔を上げ、巨人の幻が消え去っていく。

 

 そうして、巨人の姿がいなくなるのと同時に——立ち込めていた暗雲が晴れ渡っていく。

 冴え渡った夜空が、美しい星空が石動たちの視界いっぱいに広がっていく。

 

『ふむ、どうやら仕留めたようだが……』

 

 周囲の景観の変化に敵を討ち取ったことを悟る伊吹丸。しかし、彼は石動によって討ち取られた敵の本体——空の上から転がり落ちてきたそれに首を傾げた。

 

『あれが、あの魔性の本体か……?』

「ぐ……ぐぬぬ……おのれぇ……人間め……」

 

 そこに倒れていたのは——巨大な猪だった。

 背中に熊笹を生やした尋常ではない大きさの猪。尖矢が急所に突き刺さって既に事切れる寸前だったが、猪は最後まで人間である石動零へと血走った目を向ける。

 

「よくも我の塚を……我の眠りを……許さぬ……許さぬぞ……!!」

 

 猪は人間への恨みつらみを吐き捨てながら、そのまま肉体は消滅——魂だけの存在へと成り果てていく。

 

『さて……どうする、零よ?』

 

 伊吹丸はその魂を前にし、石動零へと問い掛ける。

 その妖怪の魂、その処遇をどうするか彼に判断を委ねているのだ。

 

「そうだな……」

 

 伊吹丸の問いに、石動零は決断する——。

 

 

 

 

 

「い、猪笹王……? そ、それがこの山々で暴れ回っていたという、巨人の正体なのですか?」

「そうだ……」

 

 巨人が出没していた近辺。山の麓にある村々の代表である村長が石動零から今回の騒動の顛末を聞かされていた。

 この村長は今回、石動零に妖怪退治を依頼した本人だ。彼はここ最近『山道を通る人間を襲う巨人』の出没に頭を悩ませていたところ、古い伝手を頼って鬼道衆・石動零にコンタクトを取ることに成功。

 そのまま、彼に巨人の討伐を頼み込んだのである。

 

 石動零は鬼道衆の生き残りとして、妖怪に困らされている人間がいれば助けることを惜しみはしない。しかし、仕事の完了を報告する石動零の態度はどこか淡々としていた。

 

「猪笹王は猟師に鉄砲で撃ち殺された猪の亡霊が、一本足の鬼となって旅人を襲うようになったとされる妖怪だ」

 

 猪笹王(いのささおう)——熊笹を背中に生やした猪の化け物。それが殺された怨念により、一本足の鬼神となったとされる怪異。

 地方によって伝承内容は異なるが、『一本だたら』という妖怪と同一視されることもある。巨人に化けても一本足だけでしか戦えなかったのは、その伝承が起因するのだろう。

 

「本当なら、十二月二十日……果ての二十日にしか出没しない筈の妖怪なんだが……」

 

 過去にも暴れまわった猪笹王は、猟師への怒りから山道を通る人々を襲い、食い殺していたという。そんな中、丹誠上人という高僧が猪笹王を鎮め、彼を弔う塚を建てたことで大人しくさせることに成功したという。

 しかし、この塚の封印には条件があった。一年の内、十二月二十日だけは封印が緩み、猪笹王が『山道を通った人間を喰らうこと』を黙認するという決まりだ。

 

 それが俗に言われる——『果ての二十日』である。

 

 人間にとって、身を慎み災いを避ける忌み日。決して山道など通ってはいけないとされる日だ。

 本来であればその日以外、猪笹王が人間に悪さを働くことはないのだが——。

 

「誰かが塚の封印を壊しちまったようだな。そのせいで奴は怒り狂ってやがった……何か心当たりはあるか?」

「そ、それは……村の若い連中が、その……」

 

 石動零は封印が人為的に壊され、その報復のために猪笹王が人を襲うようになったと告げる。

 石動の報告に村長は、後ろめたそうに心当たりを口にする。話の詳細を聞くに村の若い連中、妖怪など信じていないような血気盛んな若者たちが猪笹王が眠る塚を壊してしまったという。

 

「そうかよ……はぁ~」

 

 石動は村人たちのせいで起きてしまった今回の不始末に大きくため息を吐く。

 

「……とにかく、再度封印は施した。少なくとも、これ以上猪笹王が人を襲うことはないだろう」

 

 石動は猪笹王の魂を再度塚に封じ込めた。またどこかの誰かが封印を破壊しない限り、猪笹王が人を襲うことはない。

 

「だが、果ての二十日だけは今まで通りだ。一年に一回なんだ……それくらいは我慢して家で大人しくしているよう、村の連中に言い聞かせておけ……」

 

 しかし、十二月二十日だけは妖怪が復活する日だと。そのルールをしっかりと順守しろと、近隣住人への呼び掛けを徹底するように村長を指導していく。

 

「これからもこの近辺で暮らすなら、それくらいの折り合いをつけておけ……」

 

 人間側である石動が——妖怪側の事情を考慮するように要請していたのだ。

 

 

 

×

 

 

 

『変わったな、零よ』

「ああん?」

 

 退治の仕事を終えた石動零は夜の山道を降りていく。村長からは一泊するように勧められたのだが——色々と事情もあって断った。若い男が山道を一人。危険は伴うだろうが、石動零に限って言えば特に問題はない。

 何故なら今の彼は一人ではない。石動の背後には常に守護霊のように伊吹丸の『半身』がつきまとっているからだ。

 

『以前までのうぬならば、問答無用で猪笹王の魂を奪い取っていたのではないか?』

「……うるせぇ。そう大した付き合いでもねぇくせに、随分とわかったような口を聞くじゃねぇか……」

 

 伊吹丸の言葉にうざったそうに反論する石動零。実際、彼らの付き合いはそこまで長いものではない。

 

 地獄の四将・玉藻前が引き起こした地獄の騒動の際。その混乱を収めるべく、同じ四将であった鬼童・伊吹丸は石動に力を貸してくれた。

 その甲斐もあり、石動は鬼太郎と協力して地獄の崩壊を食い止めることができた。鬼道衆の仇でもあった玉藻前に一矢報いて、仲間の無念も晴らことができた。

 

 その縁からか——その後も、伊吹丸は石動零と行動を共にすることになったのだ。彼自身は罪人なため、半身は地獄へと繋がれたまま。もう半身、魂だけで石動の修行を面倒見ると。

 しかし、二人が行動を共にするようになってから、まだ一ヶ月ほどしか経過していない。石動としては、そんな浅い付き合いの伊吹丸に以前の自分を今の自分などと、比べられる筋合いはなかったりする。

 

『ふっ……うぬが妖怪に対して相当に当たりがきつかったであろうことは想像に難くない。我と対峙したときも、問答無用で襲い掛かってきたであろうに』

「ちっ! いちいち掘り返すんじゃねぇよ……」

 

 だが伊吹丸は余裕の態度で石動零との初対面時、彼が問答無用で自分に襲い掛かってきたことを話題にする。

 あのときの石動の態度を考えれば、彼が妖怪に対して厳しい見方を持っていたことは予想できると。

 

 事実、以前までの石動であれば猪笹王の魂を再封印など、そんな生易しい処置では済まさなかっただろう。

 自分が強くなるためにと、躊躇なくその魂を呪装術で回収し、己の糧にしていた筈だ。

 

「……別に、猪笹王の力なんざ……取り込んだところで使い道がないと思っただけだ……」

 

 そうしなかった理由に、石動は猪笹王の力など必要なかったとそっけなく口にする。

 

 石動の『呪装術』は妖怪の魂を取り込み、自らに憑依させることで力を発揮できる。しかし、どのような力が発現するかは完全にその妖怪ごとに異なり、あまりにも多くの魂を取り込み過ぎれば、その分術者に負荷が掛かってしまう。

 そういった理由もあってか。石動は今回、猪笹王の魂を取り込むことを見送った。

 

 しかし——それ以外の部分。

 単純な戦力的な理由以外のところでも、彼が猪笹王の魂を封印するに留めたのも事実だった。

 

「今回の件は……村の連中にも非がある。塚を壊さず、ルールさえ守ればそれで済む話だしな……」

 

 少し前の石動であれば『妖怪は人間の敵、全ての妖怪を殲滅してみせる』と、一切の躊躇なく妖怪を殺し尽くしていただろう。

 

 それが鬼道衆の里を妖怪によって皆殺しにされた彼の信念であり——憎悪であった。

 

 だが、今回の件を石動は『人間側の自業自得』『人間が妖怪側の決め事を守ればいい』と公平な目線から判断を下した。

 

 それこそ、以前までの石動零では決して出来なかった決断だ。

 伊吹丸の言う通り——彼自身が変わろうとしている何よりの証拠であった。

 

『……ふっ』

 

 伊吹丸は口元に笑みを浮かべる。

 石動の師匠的な立場として、弟子のような青年が成長している姿に感慨に耽っていた。

 

 その感情は、まさに人間のよう。

 彼がかつて愛した女性——ちはやがもしもここにいれば、きっと似たような感情を抱いていただろう。

 

 

 

 

『——ときに……気づいておるか、零よ?』

 

 と、柄にもなく感慨に浸る伊吹丸であったが。

 次の瞬間にも——その目つきを鋭いものに変え、石動零に警戒を促す。

 

「ああ……わかってる。だから、わざわざこんなところまで来たんだろうが……」

 

 石動も、それが何に対する警告なのかしっかりと理解していた。

 彼はその場で——人気のない森の中で立ち止まり、後ろを振り返りながら声を張り上げる。

 

 

「そろそろ出てきたらどうだ! さっきから妖気がダダ漏れだぜ?」

 

 

 闇の向こう——そこに隠れているであろう、『誰か』に向かって出てくるように叫んでいた。

 

 そう、彼らは先ほどから——『自分たちを見ている何者かの気配』に気づいていた。

 

 猪笹王を退治した直後からか、ずっと視線を感じていたのだ。

 その視線の相手を誘き寄せるため、こうして人気のないところまでやって来たのだ。

 

 

 ややあって——

 

 

「——申し訳ありません。わざわざ気を遣わせてしまったようですね……」

 

 

 石動の言葉に、暗闇の向こうから『鬼』が一匹やってきた。

 伊吹丸と同じ、『鬼人』タイプの妖怪だ。

 

「てめぇ……一体何者だ?」

 

 見覚えのないその妖怪を前に、石動は警戒心を抱きながら何者か問う。

 

「初めまして、石動零さん」

 

 彼の問い掛けに鬼はペコリと頭を下げつつ、まずは丁寧に自己紹介をしていた。

 

 

「私、地獄で獄卒をしている——鬼灯というものです」

 

 

 

 

『鬼灯……その名、聞き覚えがある』

 

 姿を現した鬼灯という鬼を前に、まずは伊吹丸が反応する。

 

『閻魔大王の側近、他の獄卒たちからも随分と慕われ、恐れられておる鬼神……』

 

 罪人として牢の中から出ることのなかった伊吹丸だが、噂話の類は聞いていたらしい。鬼灯は地獄の獄卒。閻魔大王の側近として、実質的に地獄のNo.2の地位に収まっているとか。

 

「地獄の……けっ! それで? その地獄の鬼が俺に何のようだ……」

 

 伊吹丸の話に石動零は眉間に皺を寄せ、鬼灯を睨みつける。

 

 地獄の『鬼』は現世で人間に危害を加える『鬼』とは別種の存在だ。ただ厄災の類を撒き散らす現世の連中とは違い、地獄の鬼たちは身を粉にし『罪を冒した人間を呵責する』という役割のために仕事をしている。

 石動もそのことは理解している。しかし、彼にとって地獄の連中は『大逆の四将の脱獄を許した』不甲斐ないものたちである。

 彼らがもっとしっかりしていれば、玉藻前の脱獄を防げていたら、里の仲間たちも死ななかったのではと。そういった感情があるため、地獄の使者である鬼灯を前に彼は不機嫌を隠しきれていなかった。

 鬼灯の方も、そんな石動の感情を読み取ったのだろう。

 

「まずは謝罪を。この度はこちらの不手際のせいで、貴方たち鬼道衆の方々にご迷惑をお掛けしました」

 

 鬼太郎たちにもそうしたように、石動零に対しても謝罪の意思を表明する。

 

「今後はこういったことがないよう、誠心誠意努めてまいりますので、ご容赦のほどお願い申し上げます」

 

 丁寧な言葉遣いでの謝罪。だが表情に一切の変化がないため、本当に反省しているのか分からない態度である。

 それが癪にさわったのか、石動はより鬼灯への当たりを強くしていく。

 

「ご容赦だと!? 今更……てめぇが謝ったところで、里の皆や……サヤが戻ってくるわけでもねぇだろうが!!」

 

 石動が妹のように可愛がっていたサヤという少女を含め、多くの仲間が殺されてしまった。どれだけ鬼灯が謝罪しようとも、彼女たちはもう戻ってはこない。

 あるいは、閻魔大王の権限を持ってすれば死者の蘇生も可能かもしれなかったが。

 

「そうですね。死後の裁判においては我々の不手際、貴方の供養なども含めて減刑は考慮しますのでご安心を……」

 

 現時点で鬼灯にそのつもりはないようだ。地獄側の失態、供養による減刑こそ考慮するものの、魂を戻すといった特別な措置は取らないとはっきり明言する。

 猫娘の件とは違い、石動とは何の取引もしていないのだ。鬼灯のこの判断は世の理を保つものとして当然のものだった。

 

「…………で、要件はそれだけか? だったらとっとと地獄へ帰りな……」

 

 石動はそんな鬼灯に何かを言いたげな様子だったが、それ以上は言葉も交わしたくなかったのか。

 つっけんどんな態度でシッシと、鬼灯を追い返そうとする。

 

 だが——

 

「——生憎ですが……そういうわけにもいきません」

 

 鬼灯は、姿勢こそ礼儀正しいままでありながら、僅かに声のトーンを低くする。

 元から悪い目つきをさらに鋭く細めて石動零を——正確には、その後方に佇む伊吹丸を見据えて冷たく言い放つ。

 

 

「鬼童・伊吹丸さん」

『……っ!』

 

 

 敬語ではあるがピシリと、空気が張り詰める。

 鬼灯の言葉と視線に、伊吹丸がピクリと反応した。

 

「地獄の四将、初代酒呑童子の息子。大江山の鬼として多くの人間たちを襲い、平安の京を恐怖と畏怖の下に支配——」

「だが攫ってきた人間たちと共に大江山を逃げ出し改心。彼らと小さな集落を形成、慎ましい日々を送る——」

「しかし、隣国の強襲で村は滅ぼされ、報復として敵対国を一夜で滅ぼし、その国の住人を皆殺しにする……と」

 

 鬼灯が淡々と口にしたのは——『伊吹丸の罪状』だ。

 彼が地獄の四将と呼ばれるようになった原因、経緯を語りながら鬼灯は伊吹丸へと近づいていく。

 

『…………』

 

 鬼灯の言葉に伊吹丸は弁解しない。

 全てが事実であり、彼は既にその罪を認め、千年もの間ずっと牢獄に繋がれていたのだから。

 

「おい……それ以上近づくな!」

 

 だが、石動零は身構える。

 事務的に罪状を語る鬼灯が、さりげなく一歩ずつ近づいてくる。そこに石動は不気味さと警戒心を抱き、間合いを図りながらそれ以上近づかないよう鬼灯に警告する。

 その警告にとりあえず、その場にて静止する鬼灯。彼は大きくため息を吐きながら——口調を厳しくし始めた。

 

「はぁ~……困るんですよね、仮にも貴方はその罪の重さから地獄の四将に抜擢された器だ。そんな貴方が半身とはいえ、地獄を留守にして現世を彷徨っているのは……」

『……閻魔大王からの許可は得た筈だが?』

 

 鬼灯は伊吹丸が半身とはいえ、地獄を留守にしていることを問題視しているようだ。その懸念に対し、伊吹丸は閻魔大王から許可が下りていることを主張する。

 そう、伊吹丸が石動零と共にいることに、他でもない閻魔大王が許可を出しているのだ。

 地獄の代表である彼の言葉は何よりも尊重される筈。

 

 しかし——

 

 

「——申し訳ありませんが……その話、なかったことにして下さい」

「なんだと!?」

 

 

 あっけらかんと口にする鬼灯に石動が目を見張る。

 閻魔大王の言葉をなかったことにする。つまりそれは——

 

「あのアホが何故にそのような許可を出したかは存じませんが……半身とはいえ、貴方を自由にするのはいただけない」

「今のところは安定していますが……魂の重さが足りなくなれば、いずれ地獄のバランスが崩れてしまう可能性がある」

「それでなくても、貴方は伊吹大明神に連なるもの。野放しにしておくにはあまりにも危険すぎます」

 

 伊吹丸を自由にしておく場合の懸念をいくつか口にしながら——鬼灯は金棒を構える。

 

「っ、鬼神招来!!」

 

 鬼灯のその行動を前に、石動は呪装術を行使する。

 鬼神である鬼灯を相手取るため、鬼神の腕をその身に宿らせる。

 

 そして、互いに戦闘態勢に入ったことで——戦いの火蓋は切られた。

 

 

「——四将・伊吹丸の魂……回収させて貰います!」

 

 

 地獄の獄卒である鬼灯が、伊吹丸の半身を回収するため——石動零へと襲い掛かったのである。

 

 

 

×

 

 

 

「ぐっ……!?」

 

 鬼灯の初手、金棒の一撃を石動零は鬼神の腕を交差することで受け止めた。

 石動が呪装術の中でも多用するのがこの『鬼神』の力だ。汎用性が高く、いかなる状況にも対応できるため、石動もこの能力を特に信用しているのだが。

 

 ——なっ、なんだ? こいつの一撃は……お、重い!?

 

 鬼神の腕を持ってしても、鬼灯の一撃を支えるのがやっとだった。

 金棒が重いのか、鬼灯が怪力すぎるのか。金棒を押し返すこともできず、徐々に押し込まれていく。

 

「ほう、鬼神の腕ですか。なるほど、術者としての力は本物のようですね……」

 

 一方の鬼灯は余裕の態度。

 石動の力量を冷静に分析し、彼の術者としての力が確かなものであると認める。このご時世、紛い物やインチキ霊媒師が多い中、石動のような本物の術者は貴重な存在だ。

 鬼灯の目から見ても、石動は有望株な能力者に見えていた。だが——

 

「ですが、貴方もその鬼神の腕も……若すぎですね」

「なん…だと……ぐっ!?」

 

 ボソッと呟きながら、さらに鬼灯は金棒へと力を込めていく。それにより、さらに苦境へと立たされる石動零。

 このままではいずれ力尽くで押し切られ、鬼灯の一撃をまともに食らうことになるだろう。

 

『——零よ! 受け流せ!!』

「——っ!!」

 

 そんな彼の危機を前に伊吹丸が叫ぶ。その指示を的確に読み取り石動は——踏ん張らず、逆に腕の力をほんの少し緩めた。

 

「むっ……」

 

 急激に石動の抵抗が緩んだことで、鬼灯の金棒の重心がブレる。

 そのブレを利用して、器用にも相手の一撃を受け流す石動。上手い具合に鬼灯の一撃を躱し、素早く距離を置いていく。

 

「良い動きです。それに……良い助言ですよ。伊吹丸さん」

 

 鬼灯は自分の一撃から逃れた石動、的確な指示を出した伊吹丸に感心する。だが彼自身はまだまだ余裕があり、反面、石動は今の攻防だけでもかなり消耗していた。

 

「はぁはぁ!!」

 

 激しく息を切らせる石動。そんな彼に対し、平静さを保ったままに鬼灯は告げる。

 

「ですが、まだまだ青二才だ。その鬼神の腕も……私から言わせれば若造もいいところです。こちとら……伊達に千年以上は鬼神をやってませんよ?」

 

 鬼灯が鬼として誕生したのは——神代。人類の歴史でいうところの、縄文から弥生時代の辺りにまで遡る。

 さすがに誕生してすぐに鬼神となったわけではないがこの男——千年どころか、紀元前以上昔から鬼をやっているのだ。

 そんな彼からすれば石動は勿論。石動の宿した鬼神の腕や、伊吹丸ですら若造に過ぎない。

 妖怪は年月を経れば必ずしも強いというわけではないが、少なくとも鬼灯はその年月に見合った強さをその身に秘めている。

 

「ふっ!」

 

 鬼灯は続けざまに金棒を無造作にぶん回してくる。それは技術もクソもない、単純な力任せな攻撃でしかない。

 

「なっ!? ぐぅっ! くそったれ……!!」

 

 だがそれだけでも十分だとばかりに、石動の体力と精神力をごっそりと疲弊させていく。

 そうして、力量の差を見せつけるように暴れるだけ暴れ——不意に、鬼灯は攻撃の手を緩めて石動に提案する。

 

「さて、大人しく伊吹丸さんの魂を引き渡せば……これ以上、貴方に危害を加えるつもりはありませんが?」

 

 地獄の住人として鬼灯がこれ以上、生者である石動を傷つけるのは『地獄法』に引っかかってしまう。

 あくまで鬼灯は交渉や譲渡によって、伊吹丸の魂を回収しようと石動へ迫る。

 

『零、我は別に構わんぞ……』

 

 鬼灯との力の差を前に、伊吹丸はその提案を承知するように石動に助言する。

 口惜しい思いはあるかもしれないが、彼は自身が罪人であることを自覚している。牢に戻されようと、それはそれで仕方ないとある程度割り切った考え方ができていた。

 

「はぁはぁ……生憎と、俺は地獄の連中をそこまで信用しちゃいねぇよ!」

 

 だが石動は伊吹丸の助言を拒否する。息を切らせながらも、力強い視線で鬼灯を睨み付ける。

 

「てめぇらのせいで……サヤが……皆が……!!」

 

 地獄の怠慢によって犠牲になったものたちがいる。そのことを石動は未だに根に持ち、彼に反発心を抱かせていた。その反発心から、彼は鬼灯の要求には応えられないと拒否感を示していく。

 

「それを言われると、私としては返す言葉もありませんが……それそれ、これはこれです」

 

 鬼灯も自分たちの悪いところはきちんと認めていた。

 しかし認めた上で、彼は容赦なく伊吹丸の魂を回収しようと試みる。

 

「仕方ありません、ではもう少しだけ……」

 

 金棒を構え、さらなる追撃で石動を心身共に弱らせようと襲い掛かろうとした。

 

 

 

 

 だが——そのときだ。

 

 

 

 

「……ん?」

「なんだっ!?」

 

 二人が戦っている森の中——そこへ、何者かが乱入してくる。

 ガチャガチャと甲冑音を響かせながら、その集団は石動と鬼灯を瞬く間に囲い込んでいく。

 

「…………」

「…………」

 

 殺気だった鎧の集団。そいつらには全員——首がなかった。

 

「首無しの……騎士だと!?」

 

 纏っている鎧も日本の鎧武者が着込むような甲冑ではない。大陸の、西洋の者が装備するプレートアーマー。そんな集団が突如として押し寄せ、石動を困惑させる。

 

「どうやら、西洋の方々のようですが……お友達ですか?」

 

 鬼灯は冷静に彼らの素性を推察し、石動に知り合いかどうか尋ねる。少し前まで海外で働いていた鬼灯だったが、少なくとも彼自身はこのような輩にまったく心当たりがないようだ。

 

「知るかよ! 俺だって……いや、待てよ?」

 

 石動の方も、心当たりがないと言い返そうとしたのだが。

 

 ——西洋妖怪だと……まさか?

 

 出掛かった否定の言葉を石動は吞み込んだ。

 ひとつだけ——彼にはひとつだけ、西洋妖怪に狙われる心当たりがあったからだ。

 

 

「くっくっ……ようやく見つけたぞ——石動零!!」

 

 

 案の定、首無しの騎士たちの集団に混じり——どこか見覚えのある大男が姿を現した。

 その男は人間でありながらも鎧たちより大きな巨体を持ち、憎しみの籠った目で石動零を見据える。

 

 

 その形相は——かつて復讐に燃えていた石動自身を想起させるものであった。

 

 

「お前は……」

 

 過去の自分のように憎しみに滾るその大男。石動にとっても見覚えのある顔だった。

 

 しかし名前が出てこない。

 思い出せないのではなく、そもそも名乗り合いすらしていなかった。

 

「石動ぃいい……貴様を倒すため、こうして手勢まで連れてきたのだ!」

 

 だが大男は石動の名を、怨敵の名をその心にしかと刻みつけていた。

 自らの目的を成就するための戦力を引っ下げ——彼は『復讐者』として宣戦布告する。

 

「——貴様が殺した俺の主人、吸血鬼ラ・セーヌ様の魂……返してもらう」

 

 

 

「——このマンモスが……貴様の命ごと貰い受けてやるぞ!!」

 

 

 

×

 

 

 

 ラ・セーヌ——今から数ヶ月ほど前、日本へと訪れていた西洋妖怪である。

 

 人間の貴族のような装いの美少年だが、その正体は吸血鬼。彼はバックベアード復活のため、人間の生き血を集めるために世界中で暗躍していた。世界中で大勢の人間を殺害し、その矛先をとうとう日本へと向けたのだ。

 来日早々、彼は七人もの日本人女性を犠牲者とした。さらにもののついでとばかりに鬼太郎へと戦いを挑み、彼を存分に苦しめた。

 

 しかし、最後は鬼太郎に形勢を逆転され——その魂を、突如として乱入したきた石動零によって刈り取られたのだ。

 地獄の四将とはまったく関係のない妖怪だったが、罪のない女性たちを何人も殺してきたラ・セーヌを石動零が見逃す筈もなかった。

 

 そして、マンモスは——そんなラ・セーヌに仕えていた人間である。

 

 彼は代々ラ・セーヌに仕える人間の一族出身であり、彼の身の回りの世話をしたり、その人間離れした怪力と身軽さで戦闘をサポートしていたりした。

 主の命令にも忠実で召使いとしてかなり有能な男だったが——彼は主人を守ることができず、石動によって無様に生かされてしまった。

 

『——これからお前は、主人を見殺しにした苦しみの中でのたうち、一生を過ごすがいい』

 

 ラ・セーヌを討伐した直後に石動が言い放った台詞である。その言葉どおり、石動はマンモスには手を下さなかった。

 彼の方針として人間は殺さない。たとえ妖怪に加担したとしても、石動は人間であれば誰であろうと生かすのである。

 

 だが、見逃されたマンモスは——石動零に復讐する機会をずっと待っていた。

 力を蓄え、手勢を集め。再び日本へと訪れて石動の前に姿を現した。

 

 全ては主であるラ・セーヌの魂を取り戻すため。マンモスは石動零へと戦いを挑むのである。

 

 

 

 

「いけぇええ! 首無しの騎士たちよ!!」

 

 マンモスはバックベアード軍団の兵士・首無し騎士たちを石動へとけしかけた。

 彼らはマンモスがラ・セーヌの魂奪還のため、西洋妖怪の幹部たちから特別に借り受けた一般兵である。本来であれば、人間の召使いでしかないマンモスの指示など受ける立場ではないが、彼らも上からの命令で此度の戦いに参戦している。

 

「うぉおおおおおお!」

「串刺しにしてくれる!!」

 

 そのため、マンモスの掛け声を合図に血気盛んに石動と——とばっちりにも鬼灯へと剣を突き刺していく。

 

「ちぃっ……!」

 

 石動はそれらの剣戟を躱しつつ、鬼神の腕で反撃する。かなりの数だが所詮は雑兵と、首無し騎士たちを一体一体殴り倒していく。

 

「……やれやれ」

 

 鬼灯も、降りかかる火の粉を払うべく金棒を無造作に振り回した。

 鬼灯の凄まじい膂力によって金棒から衝撃波が繰り出され、容赦なく兵士たちをまとめて吹き飛ばす。

 

「……っ!」

 

 その一撃を前に首無し騎士たちがピタリと進軍を止めた。彼らは石動以上に鬼灯の存在を脅威と判断、直感で彼への攻撃を躊躇ってしまっていた。

 

 

「——ご心配なく。あなた方の争いに首を突っ込むつもりはありませんので……よっと!」

 

 

 しかし、鬼灯は何事もなかったように言い放ち、周囲の木々の上へと飛び上がる。

 そのままその現場から背を向け、戦線を離脱しようとしていたのだ。

 

「お、おい、待てよ!」

 

 これに声を荒げたのが石動だった。

 

「こいつら、西洋妖怪だぞ! お前、仮にも日本妖怪だろ!? 放っておいていいのかよ!?」

 

 西洋妖怪が日本を侵略しようとし、幾度となく戦争を仕掛けてきたことは石動も知っている。日本の妖怪である鬼灯にとっても、彼ら西洋のものは敵の筈だ。

 彼らを一人で相手にするのは分が悪いと感じた石動が、そう叫んで鬼灯もこの戦いに巻き込もうとした。

 

「ああ、すいません。私地獄の妖怪なんで、現世に干渉するのは原則禁止されてるんですよ」

 

 ところが、鬼灯は特に動じた様子もなく平然と自らの意思を告げた。

 地獄の妖怪である彼にとって、現世の争いに介入すること自体がタブーなのだ。西洋だとか、日本だとかは関係ない。彼が現世で力を行使できるとすれば、それはあくまで『罪人の魂を回収する』などの地獄絡みの案件での場合のみだ。

 それ以外の目的で、いたずらにその力を振るうことは許されていない。

 

「ご心配なく。終わる頃になったらまた戻ってきますので。飯でも腹に入れてきますかね……」

 

 鬼灯は彼らの争いに心底興味がなさそうだった。

 とりあえず「何か食べてくるか……」と、あっという間にその場から立ち去っていく。

 

 

 

 

「あ、あの野郎……マジで逃げやがった!」

 

 本当に、躊躇なくその場から離脱していく鬼灯に石動が唖然となる。

 

『零、今は眼前の敵に集中せよ」

「! わ、わかってる!?」

 

 しかし、伊吹丸の叱責が飛んだことで、慌てて西洋妖怪たちへと向き直る。

 次から次へと、怒涛の勢いで襲い掛かってくる兵士たちを相手に——石動零は一人で奮闘していくこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「——おのれぇえ……やはり、こいつらだけでは分が悪いか……」

 

 石動と首無し騎士たちの戦闘を、マンモスは一人離れたところから注意深く観戦していた。

 本当であればマンモスも真っ先に石動零に飛び掛かりたいところだったが、それをグッと堪えて彼は戦況の把握に努める。

 

 戦況は——西洋妖怪たちがやや押され気味だった。

 

 数が多いとはいえ、一体一体の力は決して大きくない首無し騎士。彼らだけで石動零の相手をするには、少々力不足だったようだ。

 かなりの総数だった手勢が、徐々にだが確実に減らされていく。

 

「くそぉ、あの鬼のせいで……計算が狂ってしまった!」

 

 それは石動の実力が予想以上だったこともあるが、原因の一旦にはあの鬼——鬼灯の存在があった。

 最初の第一陣、鬼灯が金棒の衝撃波で返り討ちにした騎士たちだが——何とあれで兵力のおよそ三割が削られてしまったのだ。

 干渉する気はないと吐き捨てて立ち去っていったが、鬼灯の何気ない反撃が西洋妖怪側に結構な痛手を与えていた。

 

「…………やむを得ん……『これ』を使うしかないのか……」

 

 マンモスが悩んでいる間にも兵士たちの数は確実に減っていく。

 このままではそう時間が掛からないうちに、首無し騎士たちは全滅だ。

 

 そうなる前に何とかしなければと、マンモスはとある決断を迫られていた。

 

「出陣前に渡されたこれを……」

 

 自身の右手に握られている、いかにも怪しい装置を見つめながら彼は呟く。

 

 

「ヴィクター・フランケンシュタイン博士に渡されたこれを、使うしかないのか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——ヒッヒッヒッ!! そうだぁ~、使ぇええ~!! 躊躇っている場合じゃないだろう~!?」

 

 同時刻。日本から遠く離れたバックベアード城。

 城内部に設けられている研究施設にて。軍団一のマッドサイエンティストであるヴィクター・フランケンシュタイン博士が監視映像越しのマンモスに向かって叫ぶ。

 白衣を纏ったヴィクターはメガネをクイっと押し上げ、ツギハギだらけの顔を狂気的に歪めている。彼は大泣きすると『怪物』としてのフランケンシュタインの本性を露わにする妖怪だが、今現在は『科学者』としての側面が強く出ている。

 映像に映し出されているマンモスの手によって、己の授けてやった『研究成果』が使用される瞬間を今か今かと待ちかねていた。

 

「……おい、ヴィクター。そろそろ種明かししたらどうなんだ?」

 

 愉快そうな笑顔を浮かべるヴィクターの後ろに、つまらなそうな顔をした狼男のヴォルフガングが立っている。

 彼は同僚のヴィクターが何をしようとしているのか何もわかっていない。そもそも、彼はあのマンモスとかいう人間に兵を貸し与えてやることさえ反対していた立場だった。

 

 

 数日ほど前のことだ。あのマンモスという男、バックベアード城へ訪れるや「兵を貸してほしい」と土下座して頼み込んできたのだ。

 本来、人間如きはバックベアード城へ足を踏み入れることすら許されない。幹部であったラ・セーヌの召使いだからと特別に話だけでも聞いてやったヴォルフガングたちだったが、人間なんぞに兵を貸し与えるなどとんでもない提案だ。

 たとえその目的がラ・セーヌの魂を奪還するためだろうともだ。そもそもな話、鬼太郎ならまだしも石動とかいう、どこの馬の骨とも分からぬ輩にやられた時点で彼らの中でのラ・セーヌの評価は最悪だった。

 所詮はその程度だったと、とっくに見切りをつけていた筈だったのだ。

 

 ところが——

 

『いいよ~、兵を貸してあげようじゃないか~!」

 

 ヴォルフガングとカミーラが反対する中、ヴィクターだけがその提案に賛同してしまったのだ。

 彼は幹部の権限でマンモスに幾ばくかの兵と——彼自身の研究成果を貸し与えてしまった。

 

 そして、窮地に陥った際はその『研究成果』を使うよう、マンモスに強く勧めていたのである。

 

 

 

 

「——あれは心臓だよ~、ヴォルフガング!」

「……心臓?」

 

 ヴォルフガングの質問に、ヴィクターは嬉々として語る。

 心臓——確かに映像の中でマンモスは人口臓器のようなものを手にしていた。ドクンドクンと脈打つ様はまさに心臓のようである。

 

『……くっ! このぉっ!!』

 

 映像の中で、覚悟を決めたらしいマンモスがその心臓を胸に押し当てた。

 するとどうだろう。心臓は——瞬く間にマンモスの体内へと吸い込まれていき、彼の肉体の一部と化した。

 

 

 次の瞬間——映像の中のマンモスがもがき苦しみ、その肉体に変調をもたらす。

 

 

『ぐぐぐぐぐ……ぐがああああああああああ!?』

 

 その肌が青白く染まっていく。

 大きな肉体が収縮と膨張を交互に繰り返していく。

 目からは血涙が流れ、体中からは——眩いばかりの稲妻が迸っていた。 

 

「ああ!! 始まる……ついに始まるぞぉおおおお!!」

「……いったい、何が起きるんだ?」

 

 マンモスの変化にテンションマックスに叫ぶヴィクター。一方でヴォルフガングの方はまったくついていけていない。

 彼はあの人間の身に何が起きているのか、再度ヴィクターに問い掛ける。

 

「あの心臓を核とすることで人間の肉体は全く別のものへと生まれ変わる!! 再構築された肉体と筋肉は収縮と膨張を繰り返す!! 周囲から微弱な妖気を取り込み、血液の流れに乗せて全身へと運び続ける!! さらに心臓自体が発電することで内部の体内温度はっ——!!」

「ええい、講釈はいい!! 結論を言え、結論を!!」

 

 しかし、興奮するヴィクターが話を専門的な分野へ広げようとしたところでそれを押しとどめる。

 学のないヴォルフガングは手っ取り早く、結論を述べるように求めた。

 

「……やれやれ、これだから下等モンスターは……」

 

 途端に醒めた目で同僚を見下すヴィクターだったが、彼も自分が興奮していたことに気付いたのか。一旦正気を取り戻し、改めて映像越しのマンモスへと目を向けていく。

 

「あれはボクが開発した半永久機関さ。あれを取り付けた人間は妖怪に……いや……」

 

 ヴィクターは語る。

 あれこそが——あの心臓こそが彼の悲願。

 自身の目的を達成させるための試作品、その実験作第一号であると。

 

 あの心臓を取り付けたことで変貌を遂げる怪物こそ、自分と同じ。

 自分と同じ、『造られた人間』となることだと。ヴィクターは狂気の笑みを浮かべて叫んだ。

 

 

 

「第二のフランケンシュタインの創造……あの心臓こそ、いずれボクの願いを叶える礎となるものさ!!」

 

 

 

 その欲望の実験のため、彼はマンモスという人間を使い捨てるのである。

 

 

 

 




人物紹介

 伊吹丸
  地獄の四将。酒呑童子の息子。
  おそらくモデルとなった妖怪は『鬼童丸』かと思われます。
  大逆の四将編以降は石動の師匠的ポジションに収まってます。
  声が『アムロ』もしく『安室』か。どっちを思い浮かべるかで世代が分かる。

 猪笹王
  熊笹を背中に生やした巨大な猪。
  伝承では一本だたらと同一視されることもある山の神。
  こいつとの戦いや後処理の仕方で石動くんの成長ぶりを表現したかった。
  ちなみに、猪笹王の戦闘描写は『朧村正』の一本だたら戦を意識してます。
  
 マンモス
  吸血鬼ラ・セーヌに仕える人間の一族出身。
  本名はザ・マンモスだと思いますが、とりあえずマンモスで統一。象じゃないよ。
  石動零に討ち取られた主人の復讐のため、魂奪還のため参戦。
  本編で描かれなかった彼の結末にも……ご注目を。

 首無しの騎士
  バックベアード軍団のモブ兵士。
  結局、本編では一度も戦う描写がなかったのでこの機会に参戦。

 ヴィクター・フランケンシュタイン
  六期のフランケンシュタイン枠。博士と怪物が融合した設定が面白い。
  原典ではヴィクター・フランケンシュタイン博士は人間。博士が作った怪物に名前はない。
  彼が怪物なら彼の悲願は『自身の伴侶を得ること』。今回の話はそのための実験。
  人間をフランケンシュタインに変えてしまう研究成果のアイディアはFGOにおけるフランちゃんの宝具を参考にしてみました。


 次話で『鬼灯の冷徹』は完結です。
 最後はキッチリ、鬼灯様で〆ますのでよろしくお願いします。
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