ウマ娘……ハーメルンのランキング内も上位を独占している……恐ろしい子!
『ウマ娘』に関しては全然分からないのでクロスを書くことはないと思いますが……読者を増やすにはこういった波に乗っかることも重要なのか?
『鬼滅』とか『呪術廻戦』とか……けど、にわかだとそれはそれで変なクロスになってしまうし、原作ファンの人をがっかりさせてしまうだろう。
とりあえず、当面は今の路線で続けていきたいと思います。
その『泥』に触れた瞬間。
ゴルゴーンは在りし日、幸福だった時代を思い出す。
女神アテナの怒りを買ったメドゥーサは呪いをかけられ、成長する歪な女神となってしまった。
完全な女神でなくなった彼女を人間たちは疎んじるようになり、その迫害から逃れるためにメドゥーサは『カタチのない島』へと移り住むことになる。
その際、メドゥーサに同行したのが二人の女神、姉のステンノとエウリュアレである。
二人は完全な女神のままだが、不完全な女神となってしまったメドゥーサを見捨てることなく、共にカタチのない島へ移住する。
二人の姉はメドゥーサにはいつも優しく…………いや、優しくはなかった。
『——早くなさい、メドゥーサ。まったく、貴女って、本当にグズでノロマで……』
『——は、はい!! 上姉様!!』
『——ちょっと、メドゥーサ! 洗濯物はまだ乾かないの!?』
『——も、申し訳ありません!! 下姉様!!』
基本、姉二人は妹であるメドゥーサに辛辣だ。成長し、一人大人の容姿へと変貌を遂げていく彼女に対し、昔から何一つ変わらない高圧的な態度で接する。
いつもメドゥーサのことを『奴隷以下』『駄メドゥーサ』と罵り、無茶難題を吹っかけては妹を苛めていた。
『お、お許し下さい!! お許し下さい!! 姉様方!!』
姉二人に毎日のように弄られ、メドゥーサは常に涙目である。
直接の戦闘力はメドゥーサの方が高く、彼女がその気になれば無力な女神でしかない姉二人など一切の抵抗を許さずにバラバラにできてしまう。
だが、メドゥーサの神核には『妹は姉に従うべし』という理論が魂レベルまで染み付いているのだ。逆らうことなどできる筈もなく。
『あ、あ……あ~れ~!!』
結局、何だかんだ抵抗はするのだが最終的には『お仕置き』を受け、いつも色々と悲惨な目に遭うメドゥーサなのであった。
だが、そんな姉二人との暮らしをメドゥーサは本当に大切にしていた。
ステンノとエウリュアレも、心の底では妹を愛していた。一緒にいるのが当たり前と、たとえメドゥーサがどんな姿に変わってしまっていても、いつまでも側に居続けた。
——……こんななんでもない、他愛のない時間が……いつまでも続けばいいのに。
姉妹との生活を永遠に。
それがメドゥーサたちのただ一つの願いであった。
けれども——その願いが叶わないことを、彼女たちは知っていた。
『——殺せ!! メドゥーサを殺せ!!』
『——あの怪物を討ち取って名を上げるのだ!!」
『——美しいあの娘たちは、我らにこそ相応しい』
ゴルゴン三姉妹が暮らすカタチのない島には、毎日のように戦士たちが押し寄せてきた。
誰もがその島に巣食うというメドゥーサを討ち取り、怪物退治の功名を得ようと必死だった。中には美しい女神であるステンノとエウリュアレを手中に収めようと、彼女たちへ下卑た視線を向けるものまでいた。
——私を迫害するだけでは飽き足らず……姉様たちまで私から奪おうというのか!?
——許しません……決して、許さぬ!!
そんな挑戦者ともいうべき戦士たちを、姉たちを汚そうとする男たちをメドゥーサは容赦なく殺していく。この頃から備わっていた『石化の魔眼』でその悉くを石とし、彼らの首を刎ねてその血を啜る。
姉たち以外の者へ彼女が慈悲を抱くことはない。戦士たちは皆、こうしてメドゥーサの餌食となっていく。
そうして一人、また一人殺していくたび、メドゥーサは一歩ずつ『怪物』へと近づいていった。
人間たちの血を浴びれば浴びるほど、殺戮を重ねれば重ねるほど。その身を蝕む呪いは加速し、さらに彼女を成長——堕落させ、体も、心も、その在り方さえも崩壊させていく。
『————————ッ!!』
そしてついに、彼女は理性というものを完全に失う。
成長の果て、正真正銘の怪物となり——メドゥーサは二人の姉ですらも、巣に蔓延る『邪魔者』と認識するようになってしまった
『——愛しているわ、メドゥーサ』
『——愛しているわ、メドゥーサ』
悪神と化したメドゥーサへ、ステンノとエウリュアレは愛を囁いていた。
妹がいずれこうなることを彼女たちは理解していたのか。全てを受け入れる形で最後——
二人は化け物となった妹に『捕食』される。
こうして、姉二人の神性を取り込み『メドゥーサ』は『ゴルゴーン』と呼ばれるようになっていく。
その後、暴走したゴルゴーンはペルセウスによって討伐された。
魔眼の力を跳ね返されて自らが石となったのだ。石像となっている数千年もの間で、彼女はいくらかの理性を取り戻していた。
故に目覚めて直後、彼女は復讐を唆すヴィクターに対し、冷めた視線を向けていた。
今更、そんなものに手を染めたところで自分が元に戻ることはないし、姉二人が戻ってくることはないと。そのように考えることができたからだ。
だが——
『——殺せ、殺せ!!』
『——化け物は殺せ!!』
『——怪物め!! お前のような奴がいるから!!』
精神を汚染させる『泥』に触れたことで思い出す。
自分を排除しようとカタチのない島へ乗り込んでくる、人間どもの醜悪な顔を——。
奴らのせいで、あの人間どものせいで、自分が堕落する羽目になったことを——。
——化け物だと? 怪物だと? ふざけるな!!
——私を怪物にしたのは、私をこのような姿にしたのはお前たち人間だ!!
——お前たちさえ、お前たちさえいなければ……私は、私はっ……。
——姉様たちを、この手にかけることもなかったのに!!
それを思い出した瞬間、どうしようもない情動が彼女を突き動かした。
胸に抱いた復讐心。恨みを晴らすべく、囁かれた言葉に突き動かされるまま。
彼女は人間たちの気配が感じられる方角、『日本』へと進撃を開始していた。
その国に住まう、全ての人々を殺し尽くすために——。
×
「私の……邪魔をするな!!」
日本海。
ゴルゴーンは自衛隊を蹴散らしつつも進撃を続け——そこでゲゲゲの鬼太郎と会敵することになった。彼女の目的は人間への復讐だが、それを阻もうとする輩はたとえ妖怪であろうとも敵である。
自分の邪魔をする鬼太郎を撃ち落とそうと、髪の毛の蛇たちが一斉に熱線のブレスを掃射する。
「ヒラッと!! ヒラっとな!!」
しかし、鬼太郎の乗る一反木綿はゴルゴーンの熱線を華麗に躱し続ける。予想以上の機動力、すばしっこさに翻弄され、ゴルゴーンはなかなか上手い具合に攻撃を命中させることができないでいた。
「髪の毛針!! リモコン下駄!!」
一方の鬼太郎。彼もゴルゴーンを止めようと反撃する。
開幕の指鉄砲を始め、髪の毛針やリモコン下駄と。思いつく限りの方法で攻撃を繰り返す。だが——
「駄目じゃ! まるで効いとらんぞ、鬼太郎!!」
どの攻撃もまるで効果がないと、目玉おやじが焦りを口にする。
ゴルゴーンの巨体に半端な攻撃は通じない。分厚い鱗がその全てを弾いてしまい、本体にまるでダメージを与えられないのだ。
攻撃をなかなか当てられないゴルゴーン。攻撃が当てられてもまるでダメージにできない鬼太郎。
どちらとも、決定打に欠ける状況をもどかしく感じながらも応酬を繰り返していく。
「このままじゃ埒があかないな……一反木綿!! あいつの懐に飛び込む! いけるか!?」
「コットン承知!!」
そういった中、先に鬼太郎側が動きを見せた。
硬直した戦況を動かすため、多少無茶でもこちらから仕掛けようと一反木綿に号令を掛ける。一反木綿も避け続けるだけでは分が悪いと感じていたのか、鬼太郎の意向に同意する。
距離を取りながらの遠距離戦から近接戦闘に切り替え、一気に間合いを詰めていく。
「小癪な!!」
『——キシャアアアアアアアアア!!』
接近してくる鬼太郎たちを退けるべく、ゴルゴーンも動く。
髪の毛の蛇たちを総動員し、その牙で近づいてくる一反木綿を噛みちぎろうと襲い掛かる。
「いくばい~!! と、とっと!? うわっと!?」
距離を詰めれば詰めるほど、避けづらくなるゴルゴーンの攻撃。一反木綿であっても、多方面から襲い掛かる髪の毛の蛇たちに悪戦苦闘していた。
それでも、なんとか鬼太郎の望む間合いまで近づいていく。
「——ここだ!! はぁっ!!」
ギリギリまで接近できたところで、鬼太郎が一反木綿から飛び降りた。
勢いよく跳躍し、ゴルゴーンの胸元へと着地。そこは鱗の覆われていない生身の部分だ。その胸元へ真っ直ぐに針のように細めた霊毛ちゃんちゃんこを突き刺し——さらに追撃を加える。
「体内……電気!!」
「な、なんだと!? グワアアアアアアアアアッ!?」
突き刺した霊毛ちゃんちゃんこを通じ、体内電気で直接ゴルゴーンへと電流を流していく。
これにはさすがのゴルゴーンも無傷とはいかず、その巨体から悲鳴が上がる。
しかし——
「や、やるではないか、小僧……だが!!」
怯みはしたものの、ゴルゴーンは健在だ。
電流に苦痛を感じながらもその眼力をギロリと、鬼太郎へと向けていた。
「不用意に近づき過ぎた……これでも食らうがいい!!」
ゴルゴーンは眼球から——黒い妖気の塊をレーザーのように照射、それを鬼太郎へと浴びせる。
「っ!! れ、霊毛ちゃんちゃんこ!!」
慌てて霊毛ちゃんちゃんこを引き抜き、マントのように広げることで攻撃を防ごうとする鬼太郎。
だが、一歩遅い。直撃こそ免れたものの、鬼太郎はゴルゴーンの攻撃で吹っ飛ばされ、空中へと身を投げ出されてしまった。
「鬼太郎しゃん!?」
吹き飛ばされる鬼太郎の元へ、慌てて飛翔してきた一反木綿が彼をキャッチして拾い上げる。
そのファインプレーで鬼太郎が海面へと叩きつけられるようなことはなくなったが——しかし、ゴルゴーンの攻撃は既に鬼太郎を蝕んでいた。
「ど、どうしたんじゃ、鬼太郎!?」
「と、父さん……? か……体が……うごか…………っ!?」
息子の異変に目玉おやじが呼び掛ける。彼は霊毛ちゃんちゃんと鬼太郎の髪の毛の中に隠れていたため、ゴルゴーンの放った光を浴びることがなく無事だった。
だが、鬼太郎はゴルゴーンの攻撃をその身に受けてしまい——次の瞬間にも、その肉体が石と化していく。
そう、これぞゴルゴーンの切り札——魔眼『キュベレイ』の力である。
英雄、勇者を悉く石としてきた魔獣ゴルゴーンの代名詞とも呼ぶべき能力。
それにより、鬼太郎は抵抗も出来ない。物言わぬ『石像』となってしまったのだ。
×
「き、鬼太郎ぉぉおおおお!!」
目玉おやじの絶叫が虚しく響き渡る。
「そ、そんな……鬼太郎しゃんが……い、石になってしもうたばい!!」
一反木綿も絶望的な表情でしょぼくれている。彼ら日本妖怪の希望とも言うべき鬼太郎が——石となって再起不能にされてしまったのだ。
「ふふ……ふはっははははっ!! 愚かな小僧め。人間なんぞの味方をしなければそのような無様を晒さずに済んだものを!!」
思いの外苦戦させられた鬼太郎を打ち負かしたことで、ゴルゴーンは勝利の笑みに酔いしれる。
これで自分の邪魔をするものはいなくなったと、彼女は改めて日本への進撃を開始しようと蠢き始める。
「この~! よくも鬼太郎しゃんを!!」
「よすんじゃ、一反木綿!!」
鬼太郎がやられたことで、彼の敵討ちだと一反木綿が血気盛んに奮い立つ。だが、息子が石にされても未だに冷静でいられた目玉おやじが彼を静止する。
自分たちだけではゴルゴーンを足止めすることもできないと、己らの力量不足をきちんと理解しているからこその判断だ。
「なんだ……まだうろちょろ飛び回っていたのか……」
ゴルゴーンも一反木綿と目玉おやじのことを『敵』とすら認識していなかった。彼らだけでは自分を止めることなどできないと、魔獣の本能で理解しているのだろう。
しかし、眼前をぶんぶんと飛び回られるのはそれはそれで面倒だ。
「よかろう。そんなに後を追いたければ……貴様らも石となるがいい!!」
「!! ま、不味い!! 避けるんじゃ、一反木綿!!」
ゴルゴーンは目障りな蠅である彼らを排除しようと、再び魔眼に妖力を充填する。一反木綿たちを石にしようと再度キュベレイの力を行使。それを彼らに向かって解き放った。
「あわわわっ!?」
迫り来る魔眼の邪光。タイミング的にも躱すことはできない。
鬼太郎に続く形で、彼らもまた石になってしまうのか——そう思われた刹那である。
「——パ・シモート!!」
何者かが上空より飛来し、魔眼の光と一反木綿たちの間に割り込んだ。
その何者かは結界魔法を張り、魔眼の力を完全にシャットアウト。その脅威から彼らを守る。
それが誰なのか、一瞬遅れて理解した目玉おやじが声を上げる。
箒に乗って現れた、その魔女に向かって——。
「おおっ!? アニエス!!」
「大丈夫!? みんな無事!?」
救援に現れたのは魔女・アニエスだった。
西洋の魔女ではあるが、鬼太郎たちと友情を結んだ彼女もまた彼らの仲間。
思いがけない救援に目玉おやじは目を輝かせ、声を弾ませる。しかし——
「アニエス! 鬼太郎が……鬼太郎が石にされてしもうたんじゃ!!」
「!? くっ……一足遅かった!」
アニエスのおかげで難を逃れたものの、鬼太郎は石にされたままである。
「アニエスしゃん! なんとか、鬼太郎しゃんを元に戻す方法はなかとね!?」
一反木綿はアニエスに石にされた鬼太郎をどうにか戻せないかと尋ねる。
「そ、それは……あのゴルゴーンを倒さない限りは……」
結界魔法で魔眼の光を遮断できるアニエスだが、彼女には石にされてしまった者を元に戻すまでの力はない。
ゴルゴーンの石化を解呪するには、ヴィクターが調合した特別な薬品『石化復活液』。あるいは、ゴルゴーン自身の肉体を消滅させて彼女を魂だけの存在とし、その魔力を直接絶つしかない。
つまり現状——ゴルゴーンを倒すしか、鬼太郎を元に戻す方法はないのである。
「……おやじさん、一反木綿!! ここは……一旦退くわよ!!」
そして今の戦力では、今この場ではゴルゴーンを倒すことはできないと。
アニエスは自分たちの戦力差を分析し、目玉おやじたちに一時撤退を指示する。
「…………仕方あるまい。ここは一度退却じゃ、一反木綿!!」
「こ、コットン承知!!」
苦渋の決断の末、目玉おやじはこの案を承認する。石となってしまった鬼太郎を砕かないよう慎重に、一反木綿もゴルゴーンから背を向けて飛び始める。
「逃がさんぞ!! 貴様らもここでっ——!?」
そんな目障りな蠅たちに向かい、ゴルゴーンは髪の毛の蛇たちを差し向ける。背を向ける彼らの背後から、容赦なく熱線のブレスを浴びせるつもりだったのだろう。
だが——ここへさらに思わぬ形での救援が駆けつけ、ゴルゴーンを足止めする。
『これより攻撃を再開する』
『怪物は手負いだ。全弾撃ち尽くしても構わん! ここで食い止めるぞ!』
『山本の仇だ! 覚悟しろ、化け物!!』
先ほど、ゴルゴーンによって撃ち落とされかけた戦闘機のパイロットたち——自衛隊である。
彼らは『国防』という自らの職務を果たすべく、再び立ち上がってきた。
ゴルゴーンが手負いであることもそうだが、既に相手の攻撃手段などを学習済みなため、開戦時よりも冷静な判断、適切な飛行距離を保ちつつ攻撃を加えていく。
『……鬼太郎くん。さっきの借りは返すぜ!!』
その中のパイロットの一人。彼は鬼太郎に助けられた恩を返すためにも自らの命を賭けていく。
「くっ……! 小賢しい人間どもめ!!」
人類側の思わぬ反撃を前に、ゴルゴーンは苛立ち気味に吐き捨てる。
このタイミングでの自衛隊の逆襲は彼女も予想だにしていなかった。あれだけ力の差を見せつけてやったにも関わらず、尚も食い下がってくる戦闘機の集団。小癪な鉄屑の塊をまとめて撃ち落とそうと、ゴルゴーンはその眼光をギラリと輝かせる。
『——主砲っ!! 撃ち方用意!!』
『——撃てぇえええい!!』
だがそうはさせぬと、今度は海上の護衛艦まで息を吹き返してきた。
畳み掛けるように主砲を斉射し、戦闘機を援護。その連携は先ほどよりも統制が取られているように感じられる。
「チィッ!! 蟻どもが……無駄な足掻きを……痛っ!?」
それでも、ゴルゴーンであれば蹴散らすことも容易であった。彼女の大火力を最大限に発揮すれば最初のように一瞬で護衛艦隊を炎上させ、戦闘機をひとつ残らず叩き落とすこともできただろう。
もっとも、それは彼女が万全な状態であればの話だ。
「ぐっ……さっきの小僧との戦いで負った傷が……!!」
そう、先ほど鬼太郎が負わせた胸の傷。それがゴルゴーンの動きを僅かだが鈍らせ、彼女の暴虐を食い止める役割を果たしていた。
鬼太郎のその身を石にしてまでの捨て身の攻撃は——決して無駄などではなかったのだ。
「……チィッ!! 忌々しいが……ここは一度退くしかあるまい……」
してやられた屈辱に顔を歪めながらも、ゴルゴーンは冷静に撤退を選択する。
このまま傷を負った状態で無理に自衛隊とぶつかり、さらに致命的な傷でも負えば肝心の復讐、人類を皆殺しにするという自身の目的に大きな支障が出かねない。
この胸の猛りを、沸る憎しみを昇華させるためにも、今は大人しく後退するしかない。
「命拾いしたな、人間ども!! だが、貴様らを取り巻く滅びの運命は決して変わらぬ!!」
『——っ!!』
去り際、口惜しいという思いを込めてゴルゴーンは唸り声を上げた。
その憤怒の込められた彼女の叫びには、決死な思いで反撃に転じていた自衛隊ですらも震え上がる。
「せいぜい束の間の安息に身を委ねるがいい!! いずれ来るであろう……破滅の瞬間に怯えながらな!!」
決して負け惜しみなどではない。
絶対に、彼女はまた戻ってくるだろう。
そんな執念が感じられる雄叫びを最後に——ゴルゴーンは海中へと潜り、凄まじい速度でその場から離脱していった。
「ふぅ…………なんとか、退けられたようじゃのう……」
鬼太郎と自衛隊の活躍によって退いていくゴルゴーン。その様子を離れたところから見ていた目玉おやじが胸をホッと撫で下ろす。
とりあえず、当面の危機はこれで回避された。だが——
「……けど、あの程度で復讐を諦めるゴルゴーンではないわ……彼女は絶対にまた戻ってくる」
ゴルゴーンが撤退した先を見つめながらアニエスが呟いた。
彼女はゴルゴーンがまた戻ってくると。傷を癒やして再び日本に攻め入ってくることを予見する。
「このまま彼女を放置しておけば悪戯に被害を広げるだけだわ。彼女がまた攻めてくる前に……今度はこちらから攻めないと!!」
アニエスは強気にも、こちらから仕掛けるべきだと意見を口にした。
確かにそれができればその方がいいのだろう。ただ受け身でいるより、その方が確実に他への被害を防ぐことができる。
勿論、それは有効な攻め手があればの話だ。
「そ、そないなこと言うても……肝心の鬼太郎しゃんが石になってもうては……」
一反木綿が気弱になるよう、ゴルゴーンに唯一手傷を負わせた鬼太郎はその傷の代償として石になってしまっている。
鬼太郎抜きで、果たしてゴルゴーンを倒す術などあるのだろうかと。不安になるのも無理からぬこと。
「——問題ありません。ゴルゴーンは……わたしが殺しますから」
すると、そんな一反木綿に意見するよう『その少女』が口を開いた。
小さな呟きながらも大胆な言葉。『ゴルゴーンを殺す』という、その発言内容に目玉おやじと一反木綿が目を見張る。
「……? 君は……いったい、誰じゃ?」
「殺すって……お前さん、意味分かって言っとるんかい!?」
先ほどのゴルゴーンとの攻防の際は気づかなかったのだが、アニエスの後ろ。箒に相乗りする形でそこに小さな少女がいることに気づいた。
その少女は、ローブのフードで完全に顔を隠していた。しかし、小さな体からそれが年端もいかぬ少女であることだけは理解できる。
そんな少女が、どうやってあの怪物を打ち倒そうというのか。
目玉おやじや一反木綿が首を傾げ、彼女へ疑惑の視線を向けるのも当然である。
「…………」
「彼女は……アナよ」
そんな彼らの視線を受けて少女が気まずそうにそっぽを向き、アニエスが代わりに彼女の素性を答えた。
少女の名はアナ。
ゴルゴーンを『殺す者』である、と。
×
目玉おやじ、一反木綿、アニエス。そしてアナの四人は一度、ゲゲゲの森へと帰還する。
石となってしまった鬼太郎を安全な場所まで連れてくる必要もあり、今後のゴルゴーンへの対策を話し合うためでもあった。
「そ、そんな……鬼太郎!!」
だが鬼太郎の無残な惨状に、彼に好意を抱いている猫娘はそれどころではなくなっている。
「な、何ということじゃ……」
「こ、こりゃいかんぞ!」
「ぬ、ぬりかべ~!!」
他の仲間たち、砂かけババアや子泣き爺。ぬりかべにも動揺が走る。
「あ~あ……こりゃ、もう駄目だね~」
ねずみ男などは頼みの綱である鬼太郎がやられ、さっそく逃げ出す準備を始めていた。
どこかへ身を隠そうというのか。大風呂敷を抱え、脱兎の如くその場から離脱していく。
「……皆、聞いて頂戴……」
そんな意気消沈する一同へ、アニエスは覚悟を決めて声を掛けていた。
皆の気持ちを察しながらも、彼女は現状を打破するために話を先に進めなければならなかった。
鬼太郎を元に戻すためにも、この国を守るためにも——『打倒ゴルゴーン』に向けての作戦会議を始める。
「——ゴルゴーンは現在、日本の領海から離れてどこかへ身を隠したわ」
まず最初、ゲゲゲハウスのテーブルに日本近海の地図を広げてアニエスは現状確認を行う。
鬼太郎と自衛隊の活躍により退けることに成功したゴルゴーン。彼女は傷を癒やすためにどこかへと身を隠した。こちらから仕掛けるためにも、アニエスたちはその詳しい居場所を特定する必要があった。
「……ふむ、自衛隊の追跡調査によると……奴はこの辺りで消息を絶ったということじゃが……」
砂かけババアは手元のパソコンを操作しながら言う。
自衛隊のシステムをハッキングすることで、彼らが掴んでいる内部情報を調べているようだ。その情報を元に、ゴルゴーンが潜んでいる大まかな場所にあたりをつける。
「彼女は……おそらく陸地に上がっている筈です。そこで巣を作って……傷の回復を図っている……でしょう」
そこへ例の謎の少女・アナが意見を口にした。
彼女によるとゴルゴーンは『巣』を、自分の領域である『神殿』を構築する習性があるとのこと。そのために必要なのは陸地だ。ゴルゴーンが消息を絶った場所に近い範囲で陸地を探す。
「……なるほど……となれば……おそらくはこの島じゃ!」
それらの情報を元にゴルゴーンの居場所を総合的に判断、目玉おやじが地図上に浮かぶとある島を指差した。
「……こりゃ、随分と難儀な場所へ逃げ込んだのう……」
ゴルゴーンが上陸したと思われる場所に子泣き爺が顔を顰める。
ニュースで何度か見たことがある場所だ。その島は——日本とK国が長い間、領土問題で揉めているかなり面倒な場所であった。妖怪である彼らには関係ないが、この島に潜んでいるとなれば自衛隊は手出しできない。
必然的に、彼らからの援護は期待できないだろう。
「……で? 場所を特定してどうすんの? 私たちだけで……あのゴルゴーンって女とどう戦おうって言うのよ!!」
ゴルゴーンの居場所の見当はついた。しかし、肝心な部分で問題があると猫娘が苛立ち気味に声を荒げる。
鬼太郎が石像となってしまったことに未だに踏ん切りをつけられないでいる彼女は、そのイライラをぶつけるように素性の知れない少女——アナへ疑惑の眼差しを向ける。
「そもそも、さも当然のようにここにいるけど……アナって言ったかしら? アンタいったい何者よ!! 何であのゴルゴーンが陸地にいるだなんて、証拠もなく断言できる訳!?」
「まあまあ、落ち着かんかい、猫娘~……」
気持ちが昂っている猫娘。そんな彼女を何とか宥めようと一反木綿が声を掛ける。しかし、彼女の言い分も分からなくはないため、説得の言葉にも些か力強さが欠けている。
「……」
「……」
「ぬ、ぬりかべ~……」
他の面子も、口には出さないがアナという少女に対する不信感を拭えないでいた。
素性どころか、顔さえもまともに見せない相手をいったいどう信用しようというのか。
「別に……貴方たちに信用されようだなんて思っていません」
そんな日本妖怪たちに、アナは感情を見せずにあくまで淡々と述べる。
「貴方たちがどうなろうと、この国がどうなろうと、人間たちがどうなろうと……わたしには関わりがないことです」
「!! 何ですって!?」
アナの言い草に、猫娘がさらに表情を険しくして彼女を睨みつける。しかし、アナは怯まずにはっきりと自身の主張を口にした。
「ただ……ゴルゴーンだけは殺します。わたしのこの手で……確実に!」
「……!!」
底冷えするように冷たい、鋭さを帯びた物言い。
純粋な殺意とも違う、何か——並々ならぬ決意が込められた言葉だった。
「…………まあいいわ。それよりも肝心の石化対策だけど——」
秘められたその言葉の力強さから、ゴルゴーンを倒そうとする彼女の意思だけは本物だと。
未だに目的の見えないアナへの警戒心を抱きつつも、猫娘を始めとした日本妖怪たちは話を先へ進めていく。
「………アナ」
一人だけ。
アナの抱えている事情、その『全て』を知るアニエスだけは複雑そうな視線で彼女を見つめていた。
×
その日の夜。
ゴルゴーン討伐に向けて幾つかの『作戦』を話し終えた後、一同は一晩の休息をゲゲゲの森で取ることになった。日本妖怪たちにとっては住処であるゲゲゲの森での一夜だ。自分の住居へと戻り、それぞれの床に就く。
「…………」
だが、アナにとってこの地は心が休まるような場所ではない。
睡魔と戦いながら、周囲を警戒しつつ油断のない一夜を過ごそうとしていた。
「眠らなくていいの……アナ?」
「アニエス……」
そこへ声を掛けたのがアニエスだった。
アニエスに対してはアナも警戒心を緩める。初対面の際、傷を癒してくれたことで多少は心を許すようになっているのかもしれない。アニエスが隣に腰掛けてくるのを、アナも黙って受け入れる。
「……さっき、アデルお姉様から連絡があったわ。例の得物……明日までには必ず確保して届けるって……」
アニエスはとりあえず事務的な報告を済ませる。
それは現在も別行動をとっているアニエスの姉・アデルの動向についてだ。彼女はアナからの要請でとある『聖遺物』を確保しに動いていた。それは対ゴルゴーン戦の際に必ず必要となる必須装備だ。
その武器をアナが所持することで——彼女はその刃をゴルゴーンに届かせることができるようになるとのことだ。
「……ありがとう、アニエス。貴方たちのおかげで……わたしは自身の目的を果たすことができそうです」
「…………」
アニエスの報告にアナは柔らかい口調で礼を言う。反面、アニエスはその表情を曇らせていた。
「……本当に……それでいいの?」
浮かない表情を浮かべながら、アニエスは堪らずアナへと問い掛ける。
「ゴルゴーンを倒す……それが貴方の目的。でも……それは………」
あのカタチのない島でアナを保護したアニエスとアデルは彼女から事情を聞かされていた。
彼女の目的・ゴルゴーンを倒すという意思に偽りはない。だが、ゴルゴーンを殺すということが、アナにとってどういうことになるのか。
アナの素性を知るアニエスからすればかなり複雑な心境だ。
「気にしないで下さい」
だが既に割り切っているアナは表面上は感情を見せないように呟いていた。
「わたしは……本来であればあり得ない、バグのような存在です。そんなわたしに生まれてきた意味があるとすれば……彼女を殺すことだけでしょう。気遣いなど、無用なことです」
「…………アナ」
痛ましいアナの覚悟にますます泣きそうな顔になるアニエス。そんな顔をされてしまっては、寧ろアナの方が居心地の悪い気分になってしまう。
アナはその気まずさを紛らわそうと、今度は彼女からアニエスに声を掛ける。
「寧ろ……貴方こそ、何故ゴルゴーンと戦う必要があるのでしょう?」
「えっ……?」
「貴方は西洋の魔女です。この国のため……人間たちのためにそこまで必死になる必要はないと思いますが……」
アナが疑問を抱いたのはアニエスの戦う動機である。
アニエスは西洋の魔女だ。日本妖怪と友誼を深めていることは先のやり取りで何となく察することができたが、別に彼女も、そして日本妖怪たちも。無理にゴルゴーンとぶつかる必要などない。
ゴルゴーンの目的は人間への復讐であり、妖怪である彼女たちはその復讐の範疇外の存在だ。鬼太郎だって最初からゴルゴーンの邪魔に入らなければ石にされることもなかった。
対岸の火事と、放置しておけばいい事態にどうして鬼太郎たちもアニエスもこんなに必死になっているのだろう。
「……鬼太郎は、約束がどうとか言ってたけど……」
アニエスの知る鬼太郎が人間たちを庇う理由。以前に彼がそれとなく語ってくれたが、それ以上の詳しい事情は彼女も知らない。
他の妖怪たち。大なり小なり人間に思うところはあるだろうが、彼らが戦うのは鬼太郎のためだろう。
では、アニエス自身はどうだろうかと?
そこで改めて理由を考え、パッと思いつく動機を彼女は口にしていた。
「わたしは……やっぱり……あの子が……友達がこの国にいるからかな?」
友達——。
鬼太郎たちとも友人と呼べる関係だし、実際に彼らのことを助けたいとも思う。
けれど、もっと強く心揺さぶられる理由があるとするならば——それはこの国にいる、大切な人間の友達を守るためである。
ゴルゴーンが日本へ上陸すれば、きっと『彼女』にも害が及ぶ。
だからこそ——アニエスはここまで必死になって戦っているのだ。
「と、友達……ですか? 人間と?」
アニエスの動機にアナがキョトンとしている。
人間の友達がいるなどと、アナからしてみれば信じられないことだったかもしれない。
「…………アナは、人間が嫌い?」
その反応にアニエスが『答えの分かっている』質問をする。
アナという存在の経緯を考えれば——『嫌い』とはっきり断言することなど分かり切っていることだ。
しかし、アナはアニエスが思っていたのとは少しだけ違う解答を口にした。
「わたしは……人間が怖いです」
「……!」
嫌いではなく、怖いと口にした。
それが『憎い』と叫ぶだけのゴルゴーンとの違いだろう。
「彼らがわたしを怪物と蔑むから……わたしも……そうなるしかなかった」
本人は、淡々と口にしているつもりだろう。
しかし、アナの体は僅かだが震えていた。
人間に対する恐れ、それが——彼女の根底に根付いているのだ。
「ワタシは……正直、昔は人間にそこまで興味なんかなかったかな……」
そんな恐怖心を押し殺してまで本心を語ってくれたアナに、アニエスも正直な気持ちを聞かせていく。昔は、それこそアニエスは人間に対して嫌悪も興味も抱いていなかった。
彼女自身他に目的があり、そのためであれば人間や日本妖怪など、簡単に見捨てていたかもしれない。
「けど……あの子は、そんなワタシに手を差し伸べてくれた。魔女であるワタシとまっすぐ向き合って……友達だって……言ってくれた……」
日本に来た当初、アニエスは日本妖怪からも疎まれ、一人孤独の中で押しつぶされていた。
今思えばその孤立も自業自得でしかなく、きっとあの当時の自分は誰にも心を開くつもりがなかったのだろう。
それでも——そうやって心を閉ざすアニエスに、『彼女』は手を差し伸べてくれたのだ。
今の自分がここにいられるのも、あの子のおかげだ。
だから——あの子を守るためにも、アニエスはこの国をゴルゴーンから守るのだ。
「……ふ、ふふふ……」
「な、なに? ワタシ、なんかおかしいこと言ったかしら」
アニエスの話を聞き、何故かアナはおかしそうに笑みを溢す。
それは——アニエスがアナと出会って初めて見る、年相応な少女の微笑みだった。
「だって……アニエスがその人間にされたことって、わたしがそのまま貴方にされたことですよ?」
「え、ええ!? そ、そうなるのかな?」
アニエスに自覚はないが、彼女がアナにしたことはまさに自分が過去してもらったことそのものだ。
一人でゴルゴーン復活の跡地で蹲るアナへ手を差し伸べ、彼女と一緒になって目的を果たそうとしている。
きっと知らず知らずのうち、友達である彼女の影響を受けているのだろう。
それが、何だかアナには面白おかしく見えていた。
「あのう……もう少しだけ、付き合ってくれませんか? わたし……もっとアニエスの話を聞いてみたいです」
それがきっかけとなったのか。
アナは途端にアニエスへの興味が広がり、気が付けば色々と質問をしていた。
その人間の友達とやらのこと、アニエス自身のこと、姉であるアデルのこと。
次から次へと、話の種が尽きることはない。
「ええ、いいわ。……どんな質問でも答えてあげる。ワタシも、もっと……貴方と話をしてみたいから……」
アニエスも、アナのどんな問い掛けにも快く答えていく。
まるで十年来の友人のように。
二人は深夜であることも、ゴルゴーンという脅威が眼前に迫っていることも忘れ。
楽しく、それこそ——ただの少女のように互いに語り合っていく。
最後になるであろう、二人だけの夜を過ごしていく——。
キャラ紹介
メドゥーサ
彼女の呼び方には『メデューサ』『メドゥーサ』と細かな違いが作品ごとにあります。実際、自分も前回の話で『メデューサ』って書いてました。
ですが、今作はFateを基準にしていますので『メドゥーサ』で統一します。
ゴルゴン三姉妹の三女の中、唯一怪物になる宿命を帯びた女神。
ステンノ
ゴルゴン三姉妹の長女。永遠の少女、完成した女神。
メドゥーサのことを色々と弄っていますが、根底では妹への愛が深い。
エウリュアレとの違いで、若干言葉遣いが丁寧。
Fgoでのイベント『虚月館殺人事件』ではその圧倒的なヒロイン力を見せつける。
……あの二人のためにも、必ず汎人類史を取り戻さねば。二部の続きはまだか!?
エウリュアレ
ゴルゴン三姉妹の次女。長女同様、妹を愛している。
ステンノとの違いで、少々ツンデレ気質。特に『美しい雷光』に対してはデレる。
Fgoでは男鯖をクラスに関係なく消滅させていく、男性特攻鯖。
今回の『輝け! グレイルライブ!!』の高難易度では大変お世話になりました!
用語解説
アナが持つべき得物
本作において、現在のアナは丸腰です。
ヴィクターが『イージス』を聖遺物として確保したように、アデルが『例の鎌』を聖遺物として手に入れ、それをアナに渡すことで彼女はゴルゴーンを殺す切り札となります。
どっかの島
ゴルゴーンが上陸することになるとある島。
名前は出しませんが、例のあの島と似たような感じの場所です。
「領土問題などない!」「あの島は我が国の領土だ!」と、色々な意見の人がいますが、とりあえずそこはスルーしていただきたい。
次回でゴルゴーンとの戦いは決着です。
次の話は……修学旅行でもしてもらおうかと思ってます。