ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『劇場版Fgoキャメロット後編』割と好評らしい。
前編の前評判があまり宜しくなかったから観に行かなかったけど……後編は観に行ってみようかなと興味を注がれる。けど……ちょっと情勢が不安定かな。
もう少し落ち着いたころ、まだ映画がやってたら行ってみようと思う。

それはそれとして『終局特異点 冠位時間神殿ソロモン』は絶対に観に行く!
あの感動が……皆で素材を取り合ったあの感動がスクリーンで蘇る!!
……これが、人類悪か。


今回でゴルゴーンとの最終決戦です。
どのような結末か……最後までお楽しみください。


進撃! 魔獣ゴルゴーン 其の③

「…………ん。あれ……もう、朝?」

 

 早朝。ゲゲゲの森の穏やかな日差しの中、魔女アニエスは目を覚ました。

 昨日の夜からずっとアナと語り合っている最中、どうやら彼女は眠ってしまったらしい。

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、アニエスは自身の隣に視線を向ける。

 

「……すぅ~……ううん……姉様……」

 

 そこには自分と同じよう、いつの間にか寝入っていたアナの姿があった。

 あどけない表情、穏やかな寝息だ。それだけ見れば本当にただの少女にしか見えない。

 

「アナ……」

 

 そんな少女の寝顔にアニエスは微笑ましい笑みを浮かべながらも、これから戦わなければならない相手・ゴルゴーンのことを考え、その表情を険しいものへと変える。

 

 ゴルゴーンを殺す。

 その目的を果たせば、アナは——

 

「ワタシは……この子を……」

 

 目的を達せればこの国を守ることができる。石となった鬼太郎を助けることもできる。

 けれどその果てに待つ、アナの結末を思うと——アニエスは胸が締め付けられる思いでいっぱいだった。

 

「…………もう少し、寝かせてあげなきゃ……」

 

 せめて少しでも、少しでも平穏な時間を作ってあげたいと。

 アニエスはアナを無理に起こすことなく、その寝顔をもう少しだけ見守るつもりでいた。

 

 

 しかし——運命は彼女たちに穏やかな時間すら許さない。

 

 

「っ!! な、なに!?」

「——っ!! ……アニエス!? 敵襲ですか?」

 

 不意を打つように、轟音が森中に響き渡る。

 その音にアニエスがビクッと反応し、眠っていたアナも素早く身を起こす。二人の穏やかな時間はこうして過ぎ去り、すぐに戦いの空気へと変わっていく。

 

「行きましょう、アニエス!」

「……っ! ええ……アナ!」

 

 アナはあっさりと切り替えを済ませていたが、アニエスは未だに平和な時に未練を感じていた。

 歯痒い気持ちを抱きながらも仕方がなく、彼女たちは音の聞こえてきた方角。

 

 

 ゲゲゲハウスへと、慌てて駆けつけることとなる。

 

 

 

 

 

「——ふっははは!! 鬼太郎がいなければこの程度か! 日本妖怪!!」

「くっ……!」「ぐぬぬ……」「ぬ、ぬりかべ~……」

 

「なっ!? あれは……?」

 

 ゲゲゲハウスに辿り着いたアニエスたちの目に飛び込んできたのは——西洋妖怪に苦戦する日本妖怪たちの姿であった。

 既に人狼状態となっているヴォルフガングと、猫娘を始めとする日本妖怪たちが戦っている。しかし鬼太郎が石化して戦えないため、かなり苦戦気味の様子だ。

 

「ヴォルフガング!!」

「ん……? なんだ、誰かと思えば裏切り者のアニエスか!」

 

 アニエスは急いでその戦線へと割り込み、日本妖怪たちを援護する。だがアニエスの乱入など意にも介さず、ヴォルフガングはその牙を剥き出しにし、その爪で近づくもの全てを薙ぎ払っていく。

 

「くっくっく!! ゴルゴーンのおかげで鬼太郎は石となった! このまま奴の石像を粉々に砕けば……今度こそ我らの勝利だ!!」

 

 ヴォルフガングは石になった鬼太郎にトドメを刺しに来たようだ。ここで彼の石像を砕かれてしまえば、たとえゴルゴーンを倒せたとしても鬼太郎はその肉体を失ってしまう。

 彼を完全な状態で元に戻すためにも、ここでヴォルフガングを食い止めなければならない。だが——

 

「このっ!! アンタなんかの相手をしてる場合じゃないってのに!!」

 

 猫娘が苛立っているように、こんなところでヴォルフガングの相手をしているわけにはいかない。予定ではゴルゴーン討伐のため、仲間たち全員でゲゲゲの森を出発する筈だったのだ。

 ここで時間を割いていては、いずれゴルゴーンの方から動き出してしまう。時間を掛ければ掛けるほど、いたずらに被害を広げることになってしまう。

 

「さあ……観念するんだなっ!!」

 

 こちらの焦りを嘲笑うように、ヴォルフガングが一気に勝負を決めようと襲い掛かる。その猛攻に身構える一同。

 

「——っ!? な、なんだと!?」

 

 だがその直後、虚空より弾丸が飛来し、ヴォルフガングを狙い撃つ。

 弾道の色は銀——『銀の弾丸』だ。西洋の魔物にとって『銀』は聖なる属性を帯びた素材。ヴォルフガングは大慌てで弾丸を回避し、何とか事なきを得る。

 

「——貴様の相手はこの私だ!!」

「あ、アデルお姉様!?」

 

 弾丸の射手はアニエスの姉・アデルであった。彼女は魔法の翼を生やしながら上空より馳せ参じる。

 

「チッ!! 裏切り者が次から次へと!!」

 

 アニエスに続き、アデルまで現れたことでヴォルフガングは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「アニエス! ここは私に任せてお前たちはゴルゴーンを……アナ!!」

 

 そんなヴォルフガングに銃口を向けたまま、アデルはアニエスへゴルゴーン討伐に行くように指示し——

 そしてアナに向かい、自身が持参してきた『それ』を投げ渡す。

 

「!! これは……」

「お前が欲しがっていた品だ! 生憎とレプリカだが……効力はオリジナルとそう変わらん!!」

 

 アナは渡された物の包みを取る。

 中身は少女の身の丈には過ぎた大きさの『鎖の付いた大鎌』であった。アナはその大鎌を——覚悟を決めた顔でグッと握り込む。

 

「それでお前の目的を果たせ……行け!!」

「あの鎌は……ま、まさか!! おのれぇえええええええ!!」

 

 アデルはアナにさらに覚悟を促し、ヴォルフガングがその大鎌を前に表情を強張らせる。

 ゴルゴーンの神話を知るものであれば、その『鎌』がなんであるか察しがついたことだろう。ヴォルフガングはその鎌を持つアナを行かせまいと、彼女へと飛び掛かった。

 

「はっ!! させると思う!?」

「それっ! 痺れ砂じゃ!!」

 

 しかしそれを制止するべく。猫娘がヴォルフガングの爪を弾き、砂かけババアが砂をばら撒いて相手の視界を封じる。二人もヴォルフガングの足止めに入り、猫娘が残りの面子に叫んだ。

 

「子泣き爺! 一反木綿! ぬりかべ! アンタたちはアニエスたちと行きなさい!!」

「——!!」

「鬼太郎は……私たちで守るから!!」

 

 鬼太郎を守るべく猫娘と砂かけババア、アデルの三人がその場に、残りの面子でゴルゴーンを倒しにいく。

 それが、今できる自分たちの最善だと猫娘は判断した。

 

「よ~し、任せておけ!! いくぞ、皆の衆!!」

 

 猫娘の期待に子泣き爺が奮い立ち、彼を先頭にそれぞれがゲゲゲの森を出発していく。

 目指す場所は——ゴルゴーンが待ち構えている島。彼女を倒し、鬼太郎を救おうと皆が意気込んでいた。

 

「アナ! ……って言ったわよね」

「…………」

 

 その際、猫娘は改めてアナへ声を掛けた。

 

「正直、まだアンタのこと信じていいか分からないけど……」

 

 猫娘は未だにこのアナという少女を信用しきれないでいる。

 アニエスの話によれば、アデルが彼女に渡したその『鎌』がゴルゴーン攻略の鍵になるという。そんな大事な武器をアナに任せていいものか。猫娘の正直な不安である。けれど——

 

「……ゴルゴーンの相手は任せるわ……鬼太郎のこと……お願いよ!!」

 

 ゴルゴーンを倒すためにも、鬼太郎を救うためにも今はアナを信じるしかない。

 猫娘は自分が出来ることとして、今はヴォルフガングを食い止めることに集中していく。

 

「ええ……任せてください。行きましょう、アニエス!」

 

 猫娘の思いに応える形でアナも決意を固め、アニエスと共に駆け出していく。

 

 

 

 

「…………」

 

 だがそのアニエスは——未だに躊躇いを、心に迷いを抱えたままであった。

 

 

 

×

 

 

 

 ゲゲゲの森を出発した一同が海上の空を駆ける。一反木綿は自分で空を飛び、子泣き爺とぬりかべはカラスたちに運んでもらう。

 アニエスも箒にアナを乗せ、共に目的地である島まで向かうが到着までもう少し時間が掛かりそうだった。

 

「——アニエス、アニエスよ……」

「なっ! おやじさん? 付いてきてたの?」

 

 その間、いつの間にかアニエスの肩にちょこんと乗っかっていた目玉おやじが彼女に声を掛けた。てっきり鬼太郎を心配して残っていると思っていただけに、アニエスは彼の同行に目を丸くする。

 

「アニエスよ……そろそろ話してくれてもいいのではないかのう」

「えっ……?」

「あのアナという子の素性……何やらのっぴきならない事情があるようじゃが?」

 

 目玉おやじが問い掛けたのは、アナの正体についてだ。

 ここに来て、今更目玉おやじがアナへ懐疑的な視線を向けることはない。だが、何やら並々ならぬ事情があることは彼にも察することができた。

 アナのゴルゴーンに対する敵意。何より——アニエスがアナへと向ける、何とも言えない寂しさのような視線。

 

 いったい、アナもアニエスも——何を隠しているのか? 

 それが目玉おやじには気掛かりだった。

 

「そ、それは……」

 

 目玉おやじの質問に言い淀むアニエス。

 彼女は彼ら日本妖怪にもアナの『正体』について今ここで話すべきか、真剣に頭を悩ませる。

 

「……アニエス、余計なことを話す必要はありませんよ」

 

 しかし本人が、その話を後ろで聞いていたアナ自身がアニエスを口止めする。

 

「どうせ……ゴルゴーンと対峙すれば分かることです。今この場で話しても……意味はありません」

「そ、それは……そうなのかもしれないけど……」

「……?」

 

 意味はないと言い一方で、いずれは分かると投げやりに吐き捨てるアナ。その発言にどこか達観した、諦めの様なものが込められているように感じられ、ますます疑問が深まる。

 結局——島に着くまでの間、それ以上の話を聞き出せるような雰囲気でもなかった。

 

 

 

 

「——おおっ!? 見えてきたばい!!」

 

 そうこうしているうち。ついに目的の島が見えてきたと、先行して飛ぶ一反木綿が声を上げた。ゴルゴーンが神殿を構築して傷を癒しているであろう、彼女の住処となった島。

 

 その島は——日本とk国の双方が権利を主張する、領土問題で度々騒がれている島だ。

 

 現在はk国の警備隊が常駐しており、許可もなく部外者が近づけば治安維持の名目のもと、威嚇射撃くらいはしてくるかもしれない。

 だが、島へと近づいていくアニエスたち一行に、島にいる筈のk国の人間からは何のリアクションもない。

 

「これは……」

 

 何があったかは、一目瞭然だった。

 島へ上陸したアニエスたちが目にしたのは——恐怖の表情を浮かべながら石となっている兵士たちの姿。そう、島の守り手であるk国の人間たちは、一人残らず石と化していた。

 やはりゴルゴーンはこの島にいる。その石像たちこそ、その証拠である。

 

「この者たちは……」

 

 目玉おやじは人間たちの石像を見つめながら呟く。息子同様石にされた人々、ゴルゴーンを倒せば彼らも元に戻るだろう。しかし——

 

「こりゃ酷い……これじゃ、ゴルゴーンを倒したところで……」

 

 子泣き爺がその惨状に顔を顰める。

 石になった人間たちだが、その大半は首がもがれていたり、粉々に砕かれていたりと原型をほとんど残していない。これでは、たとえ元に戻ったところでただの死体だ。

 彼らは——もう、死んでいるも同然だった。

 

「……行きましょう、ゴルゴーンはもう目と鼻の先です……」

 

 そんな石ころたちを前に、あくまでクールに徹するアナ。この人間たちに構ったところで仕方ないと割り切り、ゴルゴーンの元へと急ごうとする。

 

「待ってちょうだい、アナ! ……フェカ・ト・ナヲ・イノカ・イガ!!」

 

 だがアニエスはそう簡単には割り切れなかった。

 彼女はその場で修復の呪文を唱え、何体かの石像を元に戻していく。

 

「……これで……何とか元に戻れればいいのだけど……」

「おお!! 相変わらず大した魔力じゃ!!」

 

 砕かれた破片が繋がっていき、とりあえず原型は取り戻せた石像たち。相変わらずの魔力に驚く目玉おやじではあるが、アニエスに出来るのはここまでだ。

 ここから元に戻ったとき、ちゃんと動くことができるかどうか。

 そもそも、石から生身へと戻ることができるかも、全てはゴルゴーンを倒せるか次第。

 

 全ては——アニエスやアナたちの手に委ねられる。

 

「行きましょう……今度こそ……」

 

 アニエスが石像たちを直す光景に、アナは少し複雑そうな空気を漂わせつつ。

 ゴルゴーンがいると思われる、島の中央。『神殿』の中へと飛び込んでいく。

 

 

 

 

 ゴルゴーンの神殿——といっても、そこはただの大きな洞穴だった。

 

 彼女がこの島を住処としてまだ一晩しか立っていないのだ。内装の方にも神殿らしい装飾などない。

 しかし、漂う不気味さが普通とは明らかに違う。一同は重苦しく、息苦しいその穴の中を慎重に進んでいき——そして、たどり着く。

 

 

 洞窟内の巨大な空洞、ゴルゴーンが潜んでいるであろう神殿の最奥に——。

 

 

「こりゃ!! 出てこんかい、ゴルゴーン!! 昨日の借り、きっちり利子つけて返してやるばい!!」

 

 そこへ辿り着くや、一反木綿が血気盛んに叫んでゴルゴーンを呼びつける。前回の戦いのリベンジをしようというのか、かなりやる気満々な態度である。

 

 

「…………なんだ、誰かと思えば、いつぞや見逃してやった虫ではないか……」

「で、でおったな……って、やっぱ怖か!!」

 

 

 もっともどれだけ強気になろうとも、実際のゴルゴーンの登場には肝を冷やすしかない。

 彼女は地面の巨大な亀裂から、地の底から這い出てくるかのようにその姿を現した。

 

「こりゃ……想像以上にとんでもない奴が出てきたもんじゃい!」

「ぬ、ぬりかべ~……!」

 

 ゴルゴーンと間近で対面する子泣き爺とぬりかべも恐れ慄いている。体長百メートルを越える女怪だ。話に聞いてはいたが、想像以上にデカく、そして恐ろしい形相でこちらを睨みつけてくる。

 いかに妖怪といえども、その神話の怪物を前にして平然とできる筈もないのだ。

 

「——ゴルゴーンよ!! お主、何故人間に復讐しようなどと……大人しく引き下がることは出来ぬのか!?」

 

 そんな誰もが恐怖と畏怖で萎縮する中、誰よりも小さな目玉おやじが声を張り上げてゴルゴーンに問いを投げ掛ける。

 彼は、ゴルゴーンに復讐の虚しさを説き、どうにかして彼女を鎮められないかと試みる。いきなり争い合うのではなく、まずは言葉で。年の功とも言うべき、彼らしい優しさではある。

 

 しかし——そんな生易しい思いやりなど、ゴルゴーンには届かない。

 

 

「あっはははははっ!! 何を言いだすかと思えば……何故? 私に何故と問うか!?」

 

 

 目玉おやじの言葉を、嘲笑するように笑い声を上げる怪物。

 彼女は冷酷な笑みをたたえ、その瞳の奥に燃え上がるような復讐心を滾らせて叫んでいた。

 

 

「見ろ!! この禍々しい我が姿を!! 私をこんな化け物に変えたのは他の何者でない……奴ら人間どもだ!!」

 

 

 ゴルゴーンとて、望んで今のような姿になったわけではない。

 彼女はあくまで一柱の女神に過ぎず、アテナに呪いをかけられたとはいえ、普通に過ごしていればただの『メドゥーサ』として最後まで理性を保てていたかもしれないのだ。

 

 彼女が恐ろしい怪物になってしまった最大の要因は——『人間たちへの殺戮』が原因だ。

 怪物と蔑み、襲い掛かってくる彼らの返り血を浴び続けることで——彼女は『魔性』へと身をやつすことになったのだ。

 

 

「私を化け物と呼んだのは人間だ!! 人間が、私が醜い怪物であることを望んだのだ!!」

 

 

 人々が怪物、化け物と呼ぶならそれで構わない。ならば、そのとおりに振る舞ってやるだけだと。

 ゴルゴーンは人間たちが望むように怪物としての力を発揮しているだけに過ぎない。全ては——人間たちの自業自得なのだと。

 

 

「だから私は人間どもを滅ぼす!! その全てを根絶やしにする!! そうする他に……望むことなど何もないのだから!!」

 

 

 その『復讐心』こそが、自分を突き動かす原動力だと。

 ゴルゴーンは、そうするしかない自分自身を自嘲するように高笑いを上げる。

 

 

 

 だが——

 

 

 

「——違います」

「…………なに?」

 

 そんなゴルゴーンの主張を、正面からキッパリ切り捨てるものがいた。

 フードで顔を隠した少女・アナだ。

 

「貴方は復讐など、心の底から望んでいない。その姿も……貴方自身の愚かさが招いた結果でしかありません」

 

 彼女はゴルゴーンに向かって、誰よりも辛辣な言葉を浴びせる。

 

「貴方が怪物となってしまったのは避けようのない運命だった。それを人間のせいにして、自身を正当化するのは止めなさい」

 

 

 

「貴方のそれは……ただの八つ当たりです」

「き、きさまぁあああ!!」

 

 

 

 当然だが、そんな彼女の言い分にゴルゴーンは激怒する。

 

 

「何者かは知らぬが、知ったような口を!! 貴様に私のなにが…………」

 

 

 激情したまま、ゴルゴーンはアナに噛みつこうと顔を近づけ——そこで彼女の動きが止まった。

 

 

「なっ!? なんだ、お、お前は……何故、お前は……そんな、ば、馬鹿なっ!?」

「……!?」

 

 

 彼女の態度の変化に日本妖怪たちは驚愕していた。

 あのゴルゴーンが、神話の怪物が。鬼太郎をも打ち負かしたあの魔獣が——怯えている。

 

 アナを恐れ、彼女から少しでも距離を取ろうと、その巨体を後退させていく。

 いったい、これはどういうことだと——皆がアナに注目する。

 

 

「——っ!? お、お主! その顔はっ!?」

 

 

 そこで彼らは目にすることになった。アナの正体、その素顔を——。

 

 

「今の貴方より……わたしは貴方のことを分かっているつもりです」

 

 周囲の視線を気にしつつも、アナはゴルゴーンへの語りを止めようとはしない。

 彼女は自分を見て怯えるゴルゴーンを追い詰めるように、憐れむように、悲しむように——

 

 

「——わたしは……貴方なのですから」

 

 

 見た目がそっくりなその『顔』を、ゴルゴーンへと向ける。

 

 

 そう、アナの素顔。

 大人と子供の違いこそあれども、それはどこからどう見ても全く同じ。

 

 

 あの魔獣と、瓜二つの顔をしていた。

 

 

 

×

 

 

 

 アナが何故、ゴルゴーンと『分離』したのか?

 それは、アナ自身もはっきりと理解はしていない。

 

 しかし、気がつけばアナの意識はそこにあった。『泥』の影響で暴走を始めたゴルゴーン、彼女が飛び出していったカタチのない島の跡地で。

 まるで先走った感情に取り残されるように、アナは小さな少女の肉体で目覚めていた。

 

『……止めなければ、私が、彼女を殺さなければ……』

 

 アナは目覚めて直ぐ、ゴルゴーンを殺すという目的を胸に抱いていた。

 

『……けど……わたし一人では……』

 

 だが自分一人では何も出来ない。まずはゴルゴーンを殺すための武器が必要だと。

 彼女はとりあえず、そのために活動を始めようとし——。

 

『——何者だ!? 貴様……バックベアード軍団の手の者か!!』

『……っ!?』

 

 そこで遭遇したのが、アデルとアニエス。二人の魔女の姉妹だった。

 姉の方であるアデルは敵意を剥き出しに自分に銃口を突き付けてきた。正直、今でも苦手意識がある。

 

『——待って、お姉様!! ……その子、怪我をしています』

 

 しかし妹の方であるアニエスは、アナの傷を気遣い治療までしてくれた。

 明らかに怪しいであろう自分に、労りを持って接してくれた。

 

 ——……彼女たちに事情を話せば、協力してくれるかもしれない。

 

 他に頼るものもなかったアナは、初めて出くわしたその姉妹に自身の目的、そして正体を正直に話した。

 アナという後から付けた偽名ではない、自分という『怪物』の本当の名を——。

 

 

『——私はメドゥーサ。遠くない未来……ゴルゴーンと呼ばれるようになる怪物……』

 

 

 メドゥーサ、それが自身の真名だと。

 彼女が怪物となる前、姉妹たちと楽しく笑い合って暮らしていた。

 

 

 一番最初の姿こそが——アナだったのだ。

 

 

 

 

 

「や、止めろ!! 見るな……! その目で……その顔で私を見るな!!」

 

 

 そんなアナを目の前にし、ゴルゴーンは震えていた。

 彼女にとって、アナの存在は目に入れるだけで『猛毒』だ。自分の幼い頃の姿、幸せだった日々を思い出させるアナこそ、まさにゴルゴーンにとって『劇薬』と呼ぶべき存在。

 彼女を前にゴルゴーンは明らかに怯み、弱体化していることが目に見えて確認できる。

 

 だが、それでも彼女は魔獣ゴルゴーン。ギリシャ神話最大の怪物だ。

 

 

「うぅうっ!! し、死ね!! 死ね死ね死ねぇえええええ!!」

 

 

 大きく弱体化しながらも、アナを排除しようと熱線を浴びせてくる。

 強烈な熱量だ。まともに食らえば、アナの小さな体など簡単に吹き飛んでしまうだろう。

 

「——ぬりかべェ~!!」

 

 それを——ぬりかべが阻止する。

 アナを庇うべく、その大きな体を盾に真正面からゴルゴーンの攻撃を受け止めた。

 

 

「おのれぇえええ、邪魔をするな!!」

 

 

 苛立ちを吐き捨てながら、今度は魔眼・キュベレイに妖力をかき集めるゴルゴーン。

 魔眼の力で邪魔するものを片っ端から石にしてやろうという魂胆なのだろう。彼女の瞳から石化の邪光が放たれる。

 

 

「——食らえ!!」

「——なんの!!」

 

 

 その光を——子泣き爺が一人で受け止める。

 彼は「おぎゃ、おぎゃ!!」と泣きながら、そのままゴルゴーンへと突っ込んでタックルをぶちかます。

 

 

「がはっ!? ば、馬鹿な……貴様、何故我が魔眼を受けても石にならぬ……! いや、石になっていながらどうして動けるのだ!?」

 

 

 タックルの直撃を受けたゴルゴーンは悶絶していた。

 だが物理的な痛み以上に、彼女を驚愕させたのが子泣き爺の無事な姿だ。彼はゴルゴーンの魔眼を受けていながらも、石となっていながらも平然と動き、自分に一撃を見舞ったのだ。

 その事実に驚くゴルゴーンだが、子泣き爺からしてみれば大したことではない。

 

「わしはもともと石になる妖怪じゃ! 自分から石になってしまえば……お主の魔眼など恐るるに足らんわい!」

 

 子泣き爺は泣くことでその体を石にできる妖怪だ。故に最初から全身を石化して戦えば魔眼など彼には通用しない。

 

「ぬりかべ~!!」

 

 同様の理由でぬりかべにも魔眼は効かない。彼の体もその大半が石で出来ているため、最初から石化などしよう筈がないのだ。

 この二人であれば、ゴルゴーン相手にも決して引けを取らない戦いができる。

 

 

「ほ~れ!! こっち、こっちばいよ~!!」

「チィッ! ちょこまかと!!」

 

 

 さらに——その二人をサポートする形で一反木綿がゴルゴーンの注意を引きつける。

 空を自由自在に飛び回れる彼であれば、ゴルゴーンの攻撃を避け続けることができる。石化の光も、髪の毛の蛇たちが放つブレスも、ヒラリヒラリと器用に躱していく。

 

 

「おのれ!! おのれ!! おのれェエエエエエエエエエ!!」

 

 

 だが、そこまで有利な状況に持ち込んでいても、やはり相手は神話の魔獣。その巨体のタフさ、繰り出される一撃一撃の重みに子泣き爺もぬりかべも苦戦させられる。

 

「ぐぬぬぬ、しぶといやつじゃ!!」

「ぬ、ぬりかべ~!!」

 

 二人の火力では、互角に戦うことができても決定打を与えることができない。このままでは、いずれこちら側の体力の方が先に尽きてしまうだろう。

 

 

 だからこそ——アナが必要だった。

 

 

「行きます……アニエス、援護してください!!」

 

 アナはゴルゴーンを殺す武器として、手にした『鎌』を構えた。

 その鎌であれば、ゴルゴーンに致命傷を与えることができる。

 

 そのために、ゴルゴーンの懐に飛び込むためにも——アナはアニエスに力を貸してくれと叫んでいた。

 

 

 

 

 

 ——ワタシは、ワタシは……!

 

 しかし、ここに来てアニエスの苦悩は続いていた。

 この勢いであればゴルゴーンを倒すことができるかもしれない。アナの望みを叶えることができるかもしれない。

 

 しかし、その果てに待つものは——アナの消滅だ。

 ゴルゴーンを殺せば——その分離体である彼女も諸共に消滅する。

 

 ——……ワタシは……彼女を……!

 

 その事実をアナから直接語られていたアニエスは、その手伝いをすることに躊躇いを抱いていた。

 せっかく仲良くなれたのに。友達と思えるようになった彼女を『殺す』手助けをしなければならない。

 

 ゴルゴーンから日本を守るためとはいえ、それはあまりにも酷ではないかとアニエスの心が悲鳴を上げていた。

 

 

「——アニエス!!」

 

 

 そんなアニエスへ、アナは呼びかけを続けた。

 

「……お願いします。力を貸してください……」

 

 切実な願いが、その言葉には込められていた。

 アナは誰よりもゴルゴーンを、自分自身を殺すことを望んでいる。

 

「彼女の中には……かつて取り込んだ姉様たちの魂が、今も囚われています……」

「っ!!」

 

 姉たちの魂——ステンノとエウリュアレのことだ。

 神話において、『メドゥーサ』は二人の神性を取り込むことで『ゴルゴーン』へと成り果てた。

 

 だから今も、その姉たちの魂がゴルゴーンの中で苦しんでいると。

 そこに、アナがゴルゴーンを殺す理由があった。

 

 

「眠らせてください。わたしを……姉様たちと一緒に……」

 

 

 姉二人の魂を解放し、自分自身も魂となって彼女たちの側に寄り添っていたい。

 それこそがアナの真の望みであり、そのためならば——彼女は全てを投げ打つ覚悟があった。

 

 

「姉…………」

 

 

 アナのその願いに、アニエスの心が揺れ動く。

 

 アニエス自身も、昔は姉のアデルとすれ違いの日々を送っていた。

 その苦悩の時間から解放され、今ようやく彼女は大切な家族であるアデルと共に歩んでいる。

 

 それと同じことを、アナは望んでいるのだ。

 

 

「——乗って、アナ!!」

 

 

 そう思えた瞬間——アニエスは箒を駆り、アナを後ろに乗せていた。

 目標はゴルゴーンの懐。もはや、迷うことなく一直線に突っ込んでいく。

 

「みんなっ!! アニエスとアナを援護するんじゃ!!」

 

 アニエスの肩に乗った目玉おやじが皆に号令を掛ける。

 ゴルゴーンを倒すためにも、アナの願いを叶えるためにも。今こそ一丸となって力を合わせるべきだと。

 

「よし……行くぞい!!」

「ぬりかべっ!!」

「任せんしゃい!!」

 

 少女たちの覚悟に漢たちが奮い立つ。

 

 子泣き爺が、全身を石化させ髪の毛の蛇たちを蹴散らしていく。

 ぬりかべが、その頑丈な体で強烈な熱線を防いでいく。

 一反木綿が、自慢の機動力で敵の狙いを翻弄していく。

 

 それぞれが持ち得る能力を最大限に発揮し、彼女たちのために道を開いていく。

 

 

「や、止めろ!? 来るなっ! 来るな! 来るなぁああああ!!」

 

 

 日本妖怪たちの勇猛果敢な戦いぶりに押され、ゴルゴーンはアニエスとアナの接近を食い止めることができなかった。

 アナの『顔』に怯えるゴルゴーン。彼女たちの接近を許せば許すほど、その表情が恐怖で引きつっていく。

 

 

「——ゴルゴーンォオオオオオオオオン!!」

 

 

 そんなゴルゴーンへ、ついのアナが射程距離まで辿り着く。

 彼女はアニエスの箒から飛び降り、ゴルゴーンの胸元へと大鎌の刃を振り下ろしていく。

 

 

 

 だが——

 

 

 

「あっ……」

「!? アナっ!」

 

 アナの鎌が振り下ろされる直前——放たれた熱線が彼女の小さな体を貫く。

 それは不意を突いたゴルゴーンの一撃だった。よろめくアナにアニエスが悲鳴を上げるが、無情にも髪の毛の蛇たちはアナを飲み込もうと彼女へと喰らいつく。

 

 

「は、ははっ……やった、やったぞ!」

 

 

 自身の最大の敵とも言うべきアナを排除できたと確信し、ゴルゴーンは安堵の笑い声を上げる。

 

 

「貴様にも……誰にも私の復讐の邪魔はさせぬ……そうとも! 私の復讐は終わらぬ! この地上から……人間どもを一人残らず駆逐するまで!!」

 

 

 あくまでも復讐に固執し、ゴルゴーンは叫び続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——いいえ、貴方の復讐は……ここで終わりです」

「————っ!!!?」

 

 

 けれど、そんな妄執にしがみつくゴルゴーンを。

 やはりもう一人の彼女——『メドゥーサ』であるアナが否定する。

 

 

「貴方の復讐が……『島』の外に出ることは……決してありません」

 

 

 髪の蛇に体を喰われ、満身創痍に血を吐きながらもアナは動く。

 蛇を退け、呆気に取られているゴルゴーンの一瞬の隙を突き——

 

 

「はぁあああああ!!」

 

 

 その胸元に——大鎌の刃を突き立てた。

 

 

「き、貴様……この、鎌は……!?」

 

 

 胸元に刃が喰いこんだ瞬間、その傷口から亀裂が入りその体が崩れ落ちていく。

 

 

 ゴルゴーンのあの巨体が——沈んでいく。

 

 

 それこそアナの手にした大鎌『ハルペー』の特性だった。

 かつて、石像となったゴルゴーンの首を刈り取った不死殺しの鎌。レプリカではあるものの、その特性を前にゴルゴーンのタフさも、不死性も。その全てが無力と化す。

 

 この一撃で、今度こそゴルゴーンは滅びる。

 その運命から、もはや逃れる術はない。

 

「さようなら……もう一人のわたし……」

 

 ゴルゴーンの命脈を絶ったアナは、そのまま崩れ落ちていく彼女と運命を共にする。

 

「わたしたちの悲しみは……捨てることが出来なくとも……叶えてはならないものでした」

 

 彼女の復讐は間違っていたとはっきりと断言しながらも、ゴルゴーンの感情には当然ながら理解を示す。

 

 

「せめて共に消えましょう……それが……わたしが貴方の元から分かれた理由なのですから……」

 

 

 だってゴルゴーンはアナ自身だから。その悲しみを誰よりも理解できたから。

 

 

 だからこそ——どんな手を使ってでも、アナは彼女を殺さなければならなかったのだ。

 

 

 

×

 

 

 

 ——……終わった……これで、わたしの役目は終わりました……。

 

 ゴルゴーンの巨体は、彼女が這い出てきた洞窟の亀裂の中へと吸い込まれるように落ちていく。

 アナもゴルゴーンと共に、そのまま奈落の底へと落ちていく。

 

 どのみち、大元であるゴルゴーンを殺した時点でアナに先はない。

 

 実際、ゴルゴーンの肉体が崩れ落ちていくと同時に、アナ自身の体も崩壊を見せ始めている。

 自分も死ぬ。そのことに恐怖はない。こうなることは既に分かっていたことなのだから。

 

 ——これで……やっと静かに眠ることができます……。

 

 寧ろ、アナは穏やかな笑みを浮かべていた。

 これで解放される。これで、これ以上自分が誰かを苦しめることも、苦しむこともない。

 

 やっと、楽になれると。

 

「……あっ」

 

 そう安堵したアナは、さらにそこであるものを見た。

 それは崩壊するゴルゴーンの体から解き放たれる——二つの魂。一見すると誰のものか分からないだろうが、アナにはそれが誰の魂なのか理解できた。

 

「上姉様……下姉様……」

 

 ステンノとエウリュアレ。ゴルゴーンに取り込まれ、ずっと彼女の中で閉じ込められていた姉たちの魂だ。

 不思議と、魂だけだが自分に向かって笑みを浮かべているように見える。

 

 

『お疲れ様』と、自分に労いの言葉を掛けてくれているような気がした。

 

 

「姉様方……だいぶ時間が掛かってしまいましたが……もう大丈夫です」

 

 彼女たちの魂とも再会できたアナに、もはや思い残すことはない。

 

「このメドゥーサも……すぐに姉様たちの元へ参ります」

 

 二人の魂は、そのまま何処ぞへと旅立っていく。

 

 アナはすぐにでもその後を追おうと、自身の魂が肉体という檻から解放される瞬間を待つ。

 それは『アナ』という存在の死を意味するところだったが、それは問題ではなかった。

 

 

 もはやこの肉体に、この現代に何の未練など——

 

 

 

「——アナっ!!」

 

 

 

 未練などないと、そう結論づけようとした——そのときである。

 後ろから、自分を呼び止める声が聞こえて思わずアナは振り返った。

 

「アナっ!! 手をっ!!」

「……アニエス」

 

 そこには魔女の少女・アニエスがいた。

 彼女はアナの命が残り短いことを知っていながらも、それでもアナを救おうと手を差し出していた。

 

 今にも泣き出しそうな表情で——手を伸ばしていた。

 

「…………アニエス……っ」

 

 思えばメドゥーサであった頃も、ゴルゴーンであった頃も。自分には彼女のような『関係』を築いたものはいなかった。

 姉たちとは大切な姉妹だが、『友人』と呼べるような関係は——アニエスが初めてだったかもしれない。

 

 

 ——そんな貴方と……こんなにも早くお別れをしなければならない……。

 

 

 ——それだけは……少し残念です。

 

 

 未練はないが、ほんの少しの心残りとしてアニエスの存在がアナの胸をグッと締め付ける。

 せめてもう少しくらい、彼女と語り合ってみたかった。それだけは残念だったかもしれない。

 

 

「……ありがとう……さようなら……アニエス……」

 

 

 せめて最後は笑顔で。

 そう思い、アナはアニエスに向かって笑って手を振った。

 

 

 刹那——彼女の肉体はゴルゴーン共々崩壊し、その魂が姉たちの元へと飛び去っていく。

 

 

 

 

「アナ……!」

 

 アニエスの手は、結局何も掴むことなく虚しく空を切った。

 彼女が救おうとしたアナはゴルゴーンと共に亀裂へと落ちていき、その魂は何処ぞへと飛び去っていく。

 

「……」「……」「……」「……」

 

 目玉おやじを始めとした日本妖怪たちにも、笑顔はなかった。

 

 ゴルゴーンを倒したことで、きっと鬼太郎も今頃は元に戻っているだろう。

 ゴルゴーンの脅威が去ったことで、きっと日本——大げさな言い方かもしれないが、世界が救われただろう。

 

 けれど、そのために一人の少女の犠牲が、悲しみがあったことを彼らは忘れない。

 アナという、そのためだけに生まれてきた、彼女という存在の犠牲を——。

 

 

「アナァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 アナの死を誰よりも悼み、アニエスは大粒の涙を流す。

 

 洞窟の中で彼女の慟哭がいつまでも、いつまで鳴り響いていた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——はぁはぁ……し、しぶとい奴らだ……」

「——はぁはぁ……アンタこそ、いい加減諦めなさいよね……!」

 

 ゲゲゲの森では戦いが続いていた。

 鬼太郎の石像を砕こうとするヴォルフガングと、それを守ろうとする猫娘たちの戦い。

 

 どちらも満身創痍になりながらも、目的のために必死に喰らいつく。

 戦いに決着が見えない——そう思われたときだ。

 

「——リモコン下駄!!」

「な……なにっ!?」

 

 どこからともなく放たれたリモコン下駄、鬼太郎の得意技がヴォルフガングに襲い掛かる。

 その攻撃は何とかいなすヴォルフガングだが、『攻撃された』という事実がここでは重要だ。

 

「おおっ!! 鬼太郎!!」

「鬼太郎!!」

 

 そう、リモコン下駄は持ち主である彼の元へ——ゲゲゲハウスから出てきた鬼太郎の下へと戻っていく。それの意味するところは即ち、鬼太郎の復活、そして、ゴルゴーンの敗北である。

 砂かけババアと猫娘は歓喜の声を上げ、対照的にヴォルフガングは表情を歪める。

 

「き、貴様が元に戻っているということは……ゴルゴーンが……敗北したというのか……く、くそっ!!」

 

 作戦が失敗したことを理解した彼は転移の魔法石を握り込む、すぐにその場から撤退していく。

 

 

 

 

「そうか……ゴルゴーンを倒せたか……」

 

 アデルもまた、鬼太郎の復活にアニエスたちの勝利を知った。

 しかしその顔に笑顔はなく、彼女はアニエスたちが向かったであろう島の方角へと目を向ける。

 

 

「見事だ……アナ」

 

 

 そしてアナの健闘ぶりを称えつつも、その死を悼むように静かに瞳を閉じていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——アナ……もっと貴方のために……出来ることがあったのかな……。

 

 ゴルゴーン討伐から半日後、アニエスは日本の街中を歩いていた。

 今頃は、アデルが鬼太郎たちにアナの素性などを説明している頃だろうが——アニエスはその場に居合わせたくなかった。

 涙が枯れ果てるまで泣き続け、すっかり泣き腫らした顔を誰に見られたくなかった。

 だから今は一人でアナが、彼女が守ったこの国の風景を漠然とした気持ちで眺めていた。

 

『——次のニュースです。日本海に出現した巨大生物の続報ですが、領海に再び侵入してくる様子はなく……』

 

『——k国の報道によれば、巨大生物は彼らの手によって討伐されたと……』

 

『——情報が錯綜しているためまだ詳しいことは分かっていませんが、巨大生物が駆除されたということは確実らしく……』

 

 すると街頭のテレビ、モニターからゴルゴーン進撃に関してのニュース映像が流れてくる。

 既にゴルゴーンの脅威が去ったということもあり、ニュースを伝える側も、それを聞く側にもその表情に笑顔があった。笑い合い「よかったね!」などと喜び合う人間たち。

 

 

 だが——その中の誰も、アナのことなど知らない。

 真実など知る由もなく、ニュースでも彼女の活躍が取り上げられることはなかった。

 

 

 ——……アナが命を張って守った国なのに……誰も、誰も彼女のことなんか……目にも留めない!!

 

 

 アニエスはそんな人間たちを見ていて、心の内側から何か、どす黒いものが溢れてくるような気がしてきた。

 アナが命を懸けて守った平和なのに、世界なのに。誰も、彼女のことなど何も知らず能天気に笑っている。

 

 そのことが癪に障るアニエス。

 いっそ何もかも吹き飛ばしてやろうかと、そんな不穏な想像が頭に浮かんでしまう。

 

 

「——あれ? アニエスっ!?」

 

 

 だが、自分を呼び掛ける少女の言葉に引き留められ、アニエスは正気に戻る。

 

 

「……あっ……ま、まな……」

 

 

 アニエスが街中で出会ったのは——彼女の友達・犬山まなだった。

 学校帰りなのか制服を着た彼女が、目を丸くしてそこに立っている。

 

「久しぶりっ!! どうしたの、日本に来てたのなら言ってくれれば…………何かあったの、アニエス?」

 

 まなはアニエスの再会を無邪気に喜び、側に駆け寄ってきてくれた。

 しかし、すぐにアニエスの異変に気付き——優し気な言葉遣いで彼女への気遣いを見せる。

 

 

「なんだか……とても辛そうだよ……大丈夫?」

「……っ!!」

 

 

 まなは、アニエスが苦しんでいることに気付いてくれた。

 アニエスが、何かを悲しんでいることを察してくれた。

 

 

 それが——今のアニエスには嬉しかった。

 

 

「ねぇ……まな。今夜……貴方の家に泊めてくれないかしら……?」

 

 気が付けば、アニエスは縋るようにまなに願い出ていた。

 今夜だけ、今夜だけは——誰かと側にいたかった。まなと一緒にいたかった。

 

「うん……いいよ。お父さんもお母さんも……きっと喜んでくれるし……」

 

 まなは理由など何も聞かず、微笑みでアニエスを受け入れてくれる。きっとお人よしである彼女の両親も、アニエスとの久しぶりの再会を喜び、歓迎してくれることだろう。

 

 

「ねぇ……まな。ワタシ……友達が出来たの……」

 

 

 まなと共に家へと向かう道中、アニエスはまなに『友達』のことを話していた。

 短い時間しか一緒にいられなかった。彼女が自分のことを友達と思ってくれていたかは分からない。

 

 けれど、アニエスにとって彼女は——アナは間違いなく友達と言える存在だった。

 それだけは、確かだと思いたかった。

 

「……友達か……その友達って……どんな子だったの?」

「……とってもお姉さん想いの子よ。ちょっと冷たい雰囲気があるけど……本当はただ怖がりなだけで……でも、とてもやさしい子だったの……」

 

 その友達の、アナのことを聞いてくるまな。アニエスは色々と思い出しながら答えていく。 

 するとその答えに、まなはさらに笑みを溢していく。

 

「ふふふっ……なんだか、アニエスそっくりだね?」

「わ、ワタシと……そっくり?」

「うん!! お姉さんが大好きなところなんて特に!!」

「そっ……! そんなこと……ないとは言い切れないけど……っ!」

 

 そんな感想を抱かれ、何だかちょっと恥ずかしい思いに顔を真っ赤にするアニエス。

 自然と、彼女の口元にも笑みが零れる。

 

 

 

「ねぇ、アニエス。もっと聞かせてよ……その友達のこと。アニエスが好きになった……その子のこと……」

 

 

 まなはさらに、アニエスにアナのことを話してくれとせがむ。

 

 

「ええ……ワタシも聞いて欲しい……あの子のこと、もっとまなに知って欲しい……」

 

 

 アニエスも、まなにアナという少女のことを知って貰いたくて話していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人はその晩も夜通し、アナのことで言葉を交わし合い。

 

 

 彼女という存在をその記憶に、心に刻み込んでいった。

 

 

 

 




補足説明

 アナの正体について
  原作知っている人には説明不要だと思いますが、アナの正体は『メドゥーサ』。
  彼女が一番幸せだった時期。姉たちと同じ可愛らしい少女であった頃。
  成長したメドゥーサにとって、この少女の姿が理想形らしい。
  今作において、彼女は暴走するゴルゴーンから分離し、本体である彼女を殺すために奔走します。
  何故この姿で分離したかについては……『何らかの要因』としか言いようがない。
  便利な説明だと思いますが……。

 子泣き爺とぬりかべについて
  感想の返信欄でも書きましたが、この二人を活躍させるのって割と難しい。
  アニメ放送がやってた頃、なかなか出てこない彼らに「もっと活躍の場を!」ってコメントをよく見かけましたが、なかなか出したくても出せない脚本家の気持ちがなんとなく分かる。
  他の面子に比べて、この二人って活躍の場が結構限定されてるし。



次回予告

「父さん……最近、何故か人間たちの間で狸虐めなるものが流行っているそうです。
 狸と言えば……八百八狸の政権奪取などが思い出されます。
 でも、あれはもう一年以上前のことですよね? どうして、今になって……。

 次回——ゲゲゲの鬼太郎 『有頂天家族』 見えない世界の扉が開く」

 次回は京都が舞台!!
「面白きことは良きことなり!」阿呆たちのバカ騒ぎが鬼太郎たちを巻き込んでいく!


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