ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『スパロボ30』の参戦作品が発表されました。
個人的には『ナイツ&マジック』や『グリッドマン』の参戦が嬉しい。

しかし何故でしょうか?
何故、参戦作品の中に『サイボーグクロちゃん』の名前がない!?

そう、作者的に今一番スパロボに参戦してほしい作品が……クロちゃんなのです!!

いや、ちょっと無理があるというのは分かるけど……サイボーグ枠での参戦は決して不可能ではない筈。

いつかクロちゃんがスパロボで参戦する夢を見ながら……とりあえず、今は鬼太郎とのクロスを書いています。


さて、今回でクロちゃんとのクロスオーバーは最終回です。
久しぶりに二話での完結。ちょっとスピーディーな展開ですが、これもクロちゃんらしいかなと。
駆け足気味で至らぬ部分もありますが、どうか最後までお楽しみください。



サイボーグクロちゃん 其の②

「…………なんだ、あれ?」

 

 その日、東京在住の青年は不思議な光景を目の当たりにする。

 

 彼が訪れていたのは秋葉原だ。秋葉原の中でも特にディープなスポット『ジャンク通り』。

 中央通りから外れた裏路地、ユニークな雑貨屋や一風変わったお土産屋。普通の家電量販店では手に入りにくいジャンク品を扱うPCショップなど、マニアックな店が立ち並ぶ通り。

 

 その通りのPCショップ——その店から、妙な集団が出てくるところだった。

 

「——いや~……さすが秋葉原! ゴミ山にもないようなレアパーツも揃っているとは、わざわざ足を運んだ甲斐があったというものだ!」

 

 ちんちくりの、寸足らずな男性。人として明らかに何かがおかしい卵型の体型をしたその男は大量のジャンクパーツを腕の中に抱えていた。頭の毛もかなり薄く、相当に歳をとっている。

 そんな彼の横に、小学生らしい少年が一緒だった。

 

「——ほんとうに素晴らしい品揃えでしたね、博士!」

 

 その少年は寸足らずな男性を『博士』と呼んでいた。そして少年自身——何故か黒猫の着ぐるみのようなものを着ている。

 ここが秋葉原であることを考えればコスプレも珍しいことではないが、どうして猫なのだろう?

 

「これで……コマネチ装置を作ることができそうだよ! 帰ったらさっそく取り付けてあげるからね、ダンク!!」

「アオ~ン!!」

 

 その少年は何の役に立つのかも分からないような装置のことを口にしながら——隣を歩いている『大型犬』に向かって話しかけていた。

 

 ——犬……犬? いや……犬だよな?

 

 青年はその大型犬を二度、三度と見直しながら自分の目を擦る。

 その犬は確かに犬ではあるのだが、サイズが微妙におかしい。犬と言われれば犬なのだが、大きさでいえばライオンくらいはありそうだ。

 見た目もどことなくぬいぐるみっぽい。ちょっぴり間抜けそう面をした、シャイなワンちゃんであった。

 

「——剛くん!! コタローくん!! ダンク!!」

 

 そして、これが一番おかしいのだが。

 寸足らずな男性、黒猫のコスプレをした小学生、大型犬。それぞれをキチンと名前で呼びながら——『猫』が声を上げる。

 その猫は当たり前のように人語を話しており、これまた当たり前のように二本の足で歩いている。

 そう、全身が『メタルボディの猫』……いや、ホントに何なんだろうと、青年は自身の正気を疑う。

  

「そろそろお昼ご飯にしようよ!! お弁当にサンドイッチ、作ってきたんだ!」

 

 その猫はさらに当然のようにお腹を「パカリ」と開け、その中から弁当の入ったバスケットを取り出した。いったい……どういう構造になっているんだろう?

 

「さすがミーくん! 用意がいいな!! よーし……せっかくミーくんがお弁当を作ってきてくれたんだ!! どこか景色のいい場所で食べよう!」

「賛成!!」

「アオッ! アオオッ!!」

 

 周りにも飲食店はあるが、それよりもこのメカのような猫・ミーくんとやらが作ってきたというお弁当の方が嬉しいのか。

 そのお弁当が美味しく食べられる景色の良いスポットを探しに、その集団はその場から立ち去っていく。

 

 

 

 

「…………きっと疲れてるんだ。だから幻覚を見るんだな……」

 

 彼らの背中を黙って見送りながら、青年は自分が見た光景が幻覚だったと結論付ける。

 きっと疲労が溜まっているんだろうと、そのまま真っ直ぐ自宅へと帰宅する道を選んだ。

 

 

 

 

 青年がお家に帰る一方で、その一団はお弁当を食べる場所を探して周囲を見渡していた。

 だがその道中、フルメタルボディの猫であるミーくんがその『異変』に足を止める。

 

「……? ねぇ……剛くん? なんか……変な声が聞こえてこないかい?」

 

 彼が感じた異変は『声』だった。

 何か普通ではない不思議な声が耳元に聞こえてくると。同じような声を他にも誰か聞いていないかと、彼は剛へと不安げに話しかける。

 

「声? いや……わしには何も聞こえないが?」

「空耳じゃないの? ボクにも聞こえないよ」

 

 しかし剛とコタロー。二人の人間には何も聞こえていないらしい。彼らの反応に自分の耳がおかしいのかと不安げな表情になるミーくん。

 

「アオッ!」

 

 だがダンクと呼ばれていた大型犬。彼は着込んでいたシャイなワンちゃんの『着ぐるみ』を脱ぎ、ミーくんの肩に前足を置いた。

 ダンクは『聞こえてるよ、その変な声』と書かれたカンペを額から展開し、自分にもその声が聞こえていることをアピールする。

 

「あっ、コラ!? 駄目じゃないか、ダンク。ちゃんと着ぐるみ着てないと!! ここはライオンに免疫がある地区じゃないんだからね!」

 

 そんなダンクをコタローが叱った。ダンクの本来の姿が——犬の着ぐるみを被った『ライオン』だったからだ。

 ミーくんと同じメタリックボディのライオン。それがダンクの正体であり、それを周囲に知られないように彼はシャイなワンちゃんの変装をしていたのだ。

 もしもライオンが街中を歩いているともなれば、きっと大騒ぎになってしまう。ここが彼らの地元であれば、ライオンが歩いている程度では何も騒がれないのだが。

 

「ふむ、ダンクにも聞こえているのか……ネコ科の動物だからか?」

 

 ダンクとミーくんの証言を元に、剛は博士らしくその異変の正体を分析する。人間ではない、おそらくネコ科の動物にだけ聞こえる声なのかもしれないと。

 

 

 当てずっぽうな推論ではあったものの、それは間違いではなかった。

 

 

 

 

「——クックック! さあ、目覚めよ同胞たち! 今こそ立ち上がるのだ!!」

 

 その『声』は都内中の猫へと、とある『妖怪』が発信しているメッセージだった。

 その声を聞き届け、多くの猫たちがその意思の元に活動を始めていく。

 

 そう、妖怪・猫ショウによる——人間たちへの大粛清だ。

 その目的のために——彼は猫たちへと『人間をやっつけろ!!』というメッセージを電波のようなもので発信していた。

 

 

「——全ての人間どもに制裁を!! 思い知るがいい、これぞ猫たちの怒りだ!!」

 

 

 その発信力は徐々に高まっていき、やがて都内中の猫たちが人間を襲うようになっていく。

 

 

 

「——ニャアアアアアアアアア!!」と暴れ回る猫たちに、やがて人間社会は大混乱に陥っていく。

 

 

 

×

 

 

 

 猫ショウのメッセージが発信される——少し前のことである。

 秋葉原の公園のベンチで藤井老夫婦。彼らは膝に乗った黒猫、飼い猫であるクロの頭を撫でていた。

 

「そうか~、クロがのう……相変わらず喧嘩っ早い奴じゃな~……」

「けど……お手柄だったぞ、クロっ!」

「ニヤァ~ゴ」

 

 彼らはクロが行った行為——悪徳ブリーダーを懲らしめたという話を、まなや猫娘から聞かされた。

 クロの行為は人様に迷惑を掛けるものではあったが、結果的には多くの動物たちを救った行動でもある。その行為を老人たちは肯定し、クロを素直に褒めている。

 

「ほんとうに凄かった! 凄かった……ですけど……?」

 

 一方でその現場を目撃していたまなはどこか納得しきれない、腑に落ちない気持ちに首を傾げる。

 

 クロが猫たちを救ったのは彼女だって嬉しい。嬉しいのだが——そもそもクロが猫たちを『助けられたこと』に違和感を抱く。

 

 クロは猫だ。少なくとも、表面上はただの猫だ。

 普通の猫はケージの檻を鍵で開けたり、屈強な成人男性を猫パンチで殴り倒したりできない筈。藤井夫婦はそう言った行動に全く違和感を抱いていないようだが、少なくともまなにはそれがおかしいことだと認識するだけの常識があった。

 

「猫姉さん。もしかして……クロちゃんって、妖怪なんでしょうか?」

 

 その常識から判断し、クロがただの猫ではない。もしかしたら『妖怪』なのではないかと猫娘にこっそりと尋ねていく。

 

「……いえ、それはないわね。こいつは妖怪じゃない……それだけは断言できるけど……」

 

 しかし、そんなまなの考えを猫娘は明確に否定する。

 猫娘とて妖怪だ。鬼太郎のように『妖怪アンテナ』で妖気を探知することこそ出来ないが、これだけ間近まで接近すれば、相手が妖怪かどうか雰囲気で察することくらいできる。

 そして、このクロという黒猫にはそういった、妖怪特有の気配のようなものがほとんど感じられない。

 

 少なくとも、クロは『妖怪』ではない。それだけは断言できる。

 

「まあ、確かにおかしいっちゃ、おかしいのよね……ねぇ、ちょっとアンタ。ニャニャッ——」

 

 勿論、それでもクロがただの猫ではないという違和感は猫娘も抱いていた。

 彼女はこっそりと猫語でクロへと話しかけ、彼の口からその疑問の答えを問いただそうとする。

 

 

 その間際——例の猫ショウの発信した『メッセージ』を、猫の妖怪である猫娘も受信することになる。

 

 

『——人間を倒せ』

「……えっ?」

 

 最初は囁きかけるかのように小さな声。それが徐々に大きな鐘が鳴り響くように——猫娘の脳内にガンガンと響き渡る。

 

『人間をやっつけろ! 人間許すまじ! 今こそ奴らに制裁を下すべし!!! 人間を——』

「ちょっ……な、何よ……これ!?」

「ね、猫姉さん!? どうしたんですか!?」

 

 突然、頭を押さえて苦しみ出す猫娘にまなが慌てて駆け寄る。

 それはネコ科の動物にしか聞こえない声なため、まなには猫娘の身に何が起きているか分からない。今この瞬間、この場で彼女の苦しみを理解できるのは同じ猫であるクロだけだ。

 

「ニャニャニャ~? ……ニャァン?(おいおい、大丈夫か? ……何だってんだ、この声は?)」

 

 だが、クロの方は猫娘ほどしんどくはないのか。声そのものは聞こえているが特に苦しむ様子を見せず、猫語で猫娘を気遣う余裕さえ見せている。

 同じ猫なのに、いったいこの違いは何なのだろうと。

 

 

 しかし猫娘がそんな疑問を抱く暇もなく——

 

 

「——きゃあああああああ!!」

「っ!! 今の悲鳴はっ!?」

 

 

 人々の悲鳴が、街中を木霊していく。

 

 

 

 

 

 その日、東京の街は大混乱に陥っていた。

 

「ブミャアアアア!!」「ニャアア! ニャアア!!」「ニャニャ!! ニャアアア!」

「う、うわああ!?」「な、何だってんだ……や、やめろ!」「ちょっ! ひっかかないでよ!?」

 

 野良猫、飼い猫といった区別なく、街中の猫たちが一斉に人間を襲い始める。

 尋常ならざる鳴き声を上げながら、猫は道を歩く通行人に噛み付いたり、ひっかいたり。老若男女、誰これ構わず無差別に被害を広げていく。

 

「こ、このっ! クソ猫がっ!!」

「ブミャアア!?」

 

 だが相手は猫だ。いきなりで驚きこそすれど、それだけで人間を一方的に倒すことはできない。

 たかが動物風情がと、手にしていた荷物や、その辺に落ちていた棒切れなどで猫に向かって反撃に打って出るような、血気盛んな人間もいる。

 

 そうして、猫と人間が互いに争う。

 争いが激しくなればなるほどに、猫も人間も傷ついていく者が増えていくばかりだ。

 

 

「——止めなさい!! アンタたち!!」

 

 

 そんな中、猫にも人間にも縁深い妖怪である猫娘がその場へと駆けつけた。

 彼女は両者の争いを止めようとその間に割って入る。猫には猫語で、人間にはしっかりとした言葉で争うことの愚かさを説く。

 

「猫姉さん! わたしも!!」

 

 猫娘の後を追って犬山まなもその場へと現れる。猫娘と一緒になって、目の前の争いを止めさせようと声を上げた。

 

 だが——

 

 

「や、やめろっ!」「フシュウウ!!」「この野郎、よくもやりやがったな!!」「ニャアアア!!」「ニャニャ、ブニァア!」「ヒィッ!? こ、こっち来ないで! 触んないでよ!」「こいつ……離れろ!!」「ブミャア! ブミャアア!!」「に、人間様を舐めんなよ……猫如きが!!」「ママ!! ママ!!」「ね、猫が……猫が!?」「シャアアアア!!」

 

 

 人間も猫も、猫娘やまなの言葉など聞く耳を持ってはくれない。皆、争うことに夢中でそれどころではないのだ。

 言葉だけでは決して止まらない。やむを得ず、強硬手段に出るしかなかった。

 

「このっ、やめろっての!! フシュウウ!!」

 

 猫娘は表情を化け猫の形相へと変化させ、唸り声を上げながら爪を伸ばして威嚇する。

 

「ヒィっ、化け猫!?」

「ニャニャ!?」

 

 それが功を奏したのか。猫娘の表情を見た人間が恐れ慄き逃げ出していき、猫たちが彼女の威嚇に本能で立ち去っていく。

 だが、それで争いを阻止できるのもごく一部。猫娘の表情など見えていない、鳴き声など聞こえていない人間や猫たちが何十人、あるいは何百人という規模で街中へと戦火を広げている。

 

 もはや猫娘だけでは収拾がつかない。

 そのうえ、彼女も猫たちを狂わせている謎の怪電波——『声』の影響を受けつつある。

 

「ぐっ!? な、何だってのよ……さっきから!!」

 

 今この瞬間にも『人間をやっつけろ』といった声が猫娘の脳内を揺らしてくる。妖怪であるため抵抗はできるが、気を抜けばすぐにでも我を忘れて暴れ出してしまいそうだ。

 

 いったい、この声はどこから聞こえてくるのかと。

 

 

「——貴様……猫の妖怪か? 何故我々の邪魔をする?」

 

 

 彼女がそう考えたまさにそのとき。

 この騒ぎの元凶——猫たちに争うように指示を出している『声の主』がそこへ姿を現した。

 

 

 

×

 

 

 

「アンタ、いったい、何者よ……」

「お、大きい……ね、猫?」

 

 姿を見せた『巨大な猫』を前に、猫娘とまなは緊張気味にその身を強張らせる。

 その猫はライオン並みの大きさを有し、三叉の尾を生やしていた。猫と人が入り乱れる混乱の最中、猫たちが苦戦している人間等を適当にしばき倒しながら、猫娘へと人語を介して話しかけてくる。

 

「私の名は猫ショウ!! 革命のために立ち上がった……猫たちの先導者である!!」

「……革命? 先導者? アンタ何を言って……」

 

 いきなり現れて気取った言葉を吐く猫ショウに猫娘は眉を顰めた。

 しかし、続く彼の言葉に猫娘は目を見開く。

 

「貴様も猫であれば知っている筈だぞ! 人間が我々に何をしてきたのか!」

「!! どこかで聞いたような台詞を……っ!」

 

 人間の猫に対する仕打ち。つい先日の猫仙人との遭遇の際にも言われたことだ。この猫ショウとかいう妖怪も、あの仙人と同じような不満をぶちまけていく。

 

 

「人間は我々猫を好き勝手に飼い潰し……用済みだからと捨てていく!!」

 

「今この瞬間にも、猫たちは人間どもの身勝手な理屈で苦しめられているのだ!!」

 

「私はそんな猫たちの自由と権利を獲得するために立ち上がった勇士である!!」

 

「貴様も猫なら……私に賛同せよ!! そして、共に人間どもの社会を叩き壊すのだ!!」

 

 

 自分の主張を一方的に捲し立て、猫ショウは同じ猫の妖怪である猫娘にも自分に付き従うように要求してきた。

 

「ふざけないで!! 誰がアンタなんかとっ!!」

 

 猫ショウの要求に、猫娘は考える間もなく即答する。

 似たような問答であれば、既に猫仙人との間で済ましている。確かに人間に猫たちを含めて多くの動物たちが苦しめられているだろう。それは覆すことのできない事実だ。

 

 しかし、そんな人間が全てではない。猫に優しい、猫と絆を深めている人間だっているのだと。

 先日の騒動で関わった老婆と猫のような。さきほど出会った藤井家やクロのような。

 

 そういった人々がいると分かっているからこそ、猫ショウの放つ言葉くらいで猫娘も揺るぎはしない。

 

「おのれぇ!! ならば……無理にでも従わせてやるぞ!!」

 

 猫娘が従わないと分かるや、猫ショウはすぐにでも強硬手段に打って出た。

 さっきから発しているであろう謎のメッセージ。そう、猫たちを扇動するために猫ショウが発している怪電波だ。

 

 猫ショウその力を——猫娘一人を操るために彼女へと集中し始めたのだ。

 

「ぐっ!? この声……アンタの仕業だったのね……っ!」

 

 囁かれていた声の主が猫ショウだと知り、猫娘が焦りを見せるも既に遅かった。一点に集中して放たれた怪電波に、猫娘の精神は大きく掻き乱されていく。

 

 

『人間は悪、人間は滅ぼすべき。人間を倒せ倒せ倒せ倒せ——』

「ぐぅう、う、うるさいっ! だ、誰が……そんなこと考えて……ぐぅっ!?」

 

 

 その『声』は最初よりも大きく強まっていく。人間への憎悪を、無理矢理にでも猫娘の脳内へと刷り込もうとする。

 何とか必死に抵抗するがとても耐え切ることができず、猫娘は苦痛から膝を折ってその場に蹲ってしまう。

 

「猫姉さん!? だ、大丈夫——」

「ま、まな……来ちゃダメ……!」

 

 その異変に慌てて駆け寄るまなだったが、猫娘はそれを静止する。

 

「近づいちゃダメ、何がきっかけで……アンタに襲い掛かるか分かったもんじゃないから……離れてなさい!!」

「!!」

 

 自分の理性を保っているのも限界と感じたのか。何とかまなにだけは被害が及ばないよう、猫娘は大事な妹分を遠ざけようとする。

 このままでは本当にまなや他の人間たちに危害を加えかねない。まさに——理性を保っていられるかどうかの瀬戸際だった。

 

 

「——リモコン下駄!!」

「あでっ!?」

 

 

 そのとき、猫娘に怪電波を送っていた猫ショウの顔面に、高速で下駄が激突する。

 その威力にひっくり返る猫ショウ。その瞬間、猫娘を苦しめていた『声』が勢いを失い、彼女の苦しみが和らいでいく。

 

「大丈夫か!? 猫娘!!」

「はぁはぁ……き、鬼太郎? た、助けに来てくれたの……ありがとう」

 

 苦しんでいたところを救われ、いつもと違い素直に礼を言う猫娘。 

 だが、猫ショウの発する怪電波はまだ途絶えておらず、周囲では未だに猫と人間たちが争い合っている。

 

 猫ショウを何とかしない限り、この騒動は収まりそうになかった。

 

「もう止すんじゃ、猫ショウ!! これ以上は猫たちを無駄に傷つけるだけじゃぞ!!」

 

 猫ショウの蛮行をやめさせようと、鬼太郎と一緒だった目玉おやじが叫ぶ。

 

 

 彼らは妖怪ポストの依頼——『猫が不自然に人間を襲っている』という相談を受けて事件を調査していた。そして、その事件の黒幕が猫ショウという妖怪にあると突き止め、この場へと駆けつけてきたのだ。

 本来なら猫娘が関わる前に解決したかったと、鬼太郎は彼女を巻き込んでしまったことを後悔している。

 

 

「ふ、ふん! 誰が止めるものか!!」

 

 猫ショウは鬼太郎の登場に怯みながらも、決して退こうとはせず激しく息巻く。

 

「元より革命に犠牲はつきものなのだ!! これしきのことで、我々猫の積年の恨み、止められると思うなよ!!」

 

 猫のためと言いつつ、その猫たちが傷つく手段も辞さない猫ショウ。

 結局のところ、猫ショウ自身も『革命』という響きに酔いしれている。己のエゴで動いているに過ぎないのかもしれない。

 

「邪魔をするなら、貴様から片付けてやる!!」

「くっ……」

 

 猫ショウは邪魔者である鬼太郎を排除しようと妖力を高めていく。

 それに応じる形で、鬼太郎と猫娘も身構えた。

 

 一触即発、まさに両者がぶつかり合おうとした——その刹那だ。

 

 

 

『パーン』と、一発の乾いた銃声が街中に響き渡る。

 

 

 

「い、今の……銃声!?」

 

 物騒な筒音にまながビクッと肩を振るわせる。

 今の音。乱戦の末、ついに人間側が猫に対して『銃』を使い始めたということだ。警察か、あるいは非社会的な勢力か。

 いずれにせよ——銃を相手にしては猫たちもそう長くは耐えられない。

 

「ちぃっ、人間どもめ! しかし、その程度で我らの戦意を挫くことは……」

 

 人間側が銃で反撃をし始めたことを察し、猫ショウは憤慨する。

 それでも、彼はこれも革命のための犠牲だと。全てを割り切って進軍を続けようとしていた。

 

「挫く……こと……はっ?」

 

 続けようと、したのだが。

 

「えっ、……何この音? 本当のただの銃?」

 

 絶え間なく響いてくる銃声——否、『爆音』を耳にしてその表情を困惑に歪める。

 

 そう、聞こえてくる銃声は所謂『拳銃』といった類のものと違う。

 明らかに、それよりも物騒な『兵器』による発砲音。まるで鉄の獣が吠え猛るような『バルルル!!』という射撃音だった。

 

 そして、その音は——徐々にだが確実に、猫ショウや鬼太郎たちのいる方へと近づいてくる。

 

「きゃああああ!?」「た、助けてくれぇええ!!」

「ニャニャニャッツ!?」「ブミャアアアア!?」

 

 音が聞こえてくる方角から、人間と猫たちが悲鳴を上げてすっ飛んできた。

 互いに争い合う余裕すらなく、誰もが銃声を響かせながら近づいてくる『そいつ』から必死に距離を置くため、全速力で逃げ出していく。

 

「な、なんだ!? いったいなんだというのだ!!」

「何か……来る!?」

 

 猫ショウの仕業でも、鬼太郎の仲間でもない。

 何か、得体の知れないものの襲来に顔を強張らせる一同。

 

 

 そして——銃撃によって崩れ落ちていくビルを背に、その『悪魔』は姿を現した。

 

 

「——イーヤッハー!! この騒ぎの元凶はどこのどいつだ!?」

 

 

 今まさに、自分自身が騒ぎの中心になっているであろうに。

 銃声を鳴り響かせながら——その『黒猫』は叫び声を上げていた。

 

 

 

「…………………えっ? クロちゃん……?」

 

 

 

 その猫の見知った姿に、犬山まなは目を丸くするしかないでいる。

 

 

 

 

 

「な、何だ、貴様……猫か!? …………いや、ね、猫だよな?」

 

 猫ショウですらも、咄嗟に相手が猫なのか疑ってしまう。それほどまでに衝撃的な光景だった。

 

 猫が二本足で立っているのは別にいい。立つだけならレッサーパンダにだって出来る。

 その猫が人語を話しているのも別にいい。声真似ならインコにだって出来る。

 

 

 しかし、猫が『ガトリングガン』を連射しているのがもうおかしい。

 

 

 そう、その猫は腕に機関銃の先端のようなものを取り付けており、そこから弾丸を無差別に乱射していた。建物を破壊し、猫と人間たちの争いを仲裁——というか、蹂躙していく。

 心なしか己の破壊活動そのものに酔いしれているような、どこか楽しそうな顔をしている。

 

「えっ……アンタ、クロ……クロ、よね?」

「し、知り合いなのか……猫娘?」

 

 猫娘はその黒猫が藤井家の飼い猫、クロだと気づいた。

 さきほどまで一緒にいた猫。少しおかしい猫だとは思っていたが、これはあまりにも予想外すぎると彼女も呆気に取られている。クロのことを知らない鬼太郎も、当然だが唖然としている。

 

「!! っと、嬢ちゃんたちか……今日はじいさん、ばあさんが世話になったな」

 

 クロは猫娘やまなの存在に気づくや、手にしていたガトリングガンの銃口を下げる。意外にも冷静に、律儀に飼い主たちが世話になったことを感謝していた。

 

「礼と言っちゃなんだが、ここはオイラに任せときな! そこのワルモノ~、オイラが懲らしめてやるぞ~」

 

 それが礼だと言わんばかりに、クロは猫ショウへギロリと視線を向ける。

 

 

 どっちが悪者か。ちょっと分からなくなるようなニヤついた表情を浮かべながら——。

 

 

 

 

 

「お、おのれぇえ……! 貴様……何故私の声に従わぬ!?」

 

 クロと対峙する猫ショウは狼狽しながらも、両手をチョキにして(猫でもチョキが出せるのか!?)額に手を当てた。

 

「貴様がどんな妖怪であれ! 猫であれば私に従うしかない筈なのに!?」

 

 そのような問い掛けを投げかけながら、彼は額から謎の『怪光線』を発射してクロを攻撃する。

 

 銃を乱射するという眼前の黒猫は確かに不合理な存在。

 しかし、仮にもネコ科の動物であれば猫ショウの怪電波の影響を受けない筈がないのだ。現に猫娘ですら強く影響を受け、精神を侵食されかけている。

 どんな妖怪でも猫である以上、猫ショウの『声』から逃れる術はない。

 

 

 そう、妖怪であれば——

 

 

「ああん? んな、細かい理屈なんか知るかよ? ……確かに変な声は聞こえてっけど……オイラにとっちゃ、うるさいだけの声だぜ?」

 

 クロは猫ショウの声は聞こえているが、特に問題ではないと。

 迫り来る怪光線を前にしながらも全く慌てる様子を見せず——。

 

「それと、オイラは妖怪なんて……そんなファンタジーな生き物じゃねぇ!」

 

 そう叫びながら、クロはお腹を「パカリ」と開いた。

 

「……えっ?」

 

 生物として何かがおかしい謎のギミックにぽかんとする猫娘。しかし、その腹の中から出てきた——『巨大な剣』を前にさらに度肝を抜かれる。

 

「デカッ!?」

「って、剣!?」

 

 クロがお腹から取り出したその剣は、彼の図体を軽々と超えていた。

 どう見ても腹に収まる筈のないサイズ。人間の身長くらいはありそうなそれを、彼は軽々と片手で振り回し——猫ショウの放った謎の怪光線を切り裂いていく。

 

「ば、バカなぁあああ!!」

 

 光線が切り払われる光景に猫ショウは絶叫。

 怪電波も怪光線も通用しない。完全に自分の理解を越えた存在に恐れ慄く。

 

 そんな猫ショウへ、クロは堂々と叫ぶ。

 自分が妖怪などという不思議生物などではない——

 

 

 

「——オイラは……サイボーグだ!!」

 

 

 

 単なる『戦闘型サイボーグ』に過ぎないと。

 

 

「さ、さ、さ、さ、さいぼおぐ……? な、なんじゃそりゃ!?」

 

 

 猫ショウにはその言葉の意味が理解できない。サイボーグとはなんぞやと。鬼太郎も猫娘も、目玉おやじですらも呆然としている。

 

 

「え、サイボーグって…………えっ、ほんとに……?」

 

 

 一同の中ではただ一人。犬山まなだけが、その存在についてある程度の知識を持ち合わせていた。

 

 

 

×

 

 

 

 サイボーグ——サイバネティック・オーガニズムの略称。

 

 元々は人間の各部分を人工機器に置き換えることで、過酷な環境でも活動ができるようにしようという考え方。これにより、人類は宇宙や深海といった極限地帯へと行動範囲を広げることができるという。

 

 しかし、現代のサイボーグ技術というのは、もっぱら医学的な面での発展が目覚ましい。

 病気や事故、年齢などで衰えた臓器などを人工的なものに取り替え、機械による制御システムでそれを運用する。義手や義足などを脳の信号でコントロールするなど。

 一昔前まではフィクションの産物と思われていた技術だが、それは確実に現実のものとなりつつある。ニュースなどでも取り上げられる話題だ。

 

 そう、少し前までサイボーグ技術というやつはフィクションの産物だった。

 SF小説などで題材にされるサイボーグ。機械技術で改造され、超人的な活躍で戦うヒーロー。どちらかと言えば、まなの中にあるイメージはそっちの方で固まっている。

 そういったヒーローたちの多くは『自分は人間なのか? それともただの機械なのか?』といった命題に頭を悩ませるものなのだが——。

 

「——ギャハハハハ!! いくぜッ!!」

 

 このクロというサイボーグキャットからは、そんな悲壮感は微塵も伝わってこない。

 なにせ、元から『人』ではないのだから。なにせ彼は『猫』なのだから。

 

 自分がサイボーグであることに、何の後ろめたさを抱く様子もなく。

 クロは、猫ショウ相手に派手に暴れ回る。

 

 

 

 

「くらいなっ!!」

 

 クロの右手に装着されたガトリングガンが再び火を吹いた。

 さきほど、人や猫たちを追い払うために使っていたクロの主武装。とても嬉しそうに乱射していることから、彼にとってもそれがお気に入りの装備であることが伺える。

 

「ブキィッ!?」

 

 そのガトリングの一撃をモロに受けた猫ショウの巨体がふらつき、後ろへと仰け反っていく。

 

「そらよっ!!」

「もげっァ!?」

 

 そこへすかさず、クロは左手に構えていた巨大剣のハラで猫ショウの頭部をぶっ叩いた。間髪入れずの追撃に、猫ショウの口からは生物としてやばい感じの呻き声が上がる。

 

「よっと……こいつも持っていきな!」

 

 ついでとばかりに、クロはさらなる一撃を叩き込む。

 くるりと猫ショウに背中を向けたかと思いきや、尻尾の先端が「パカリ」と開いた。その尻尾から——小型のミサイルを発射したのだ。

 

「ぐぎゃあああ!!」

 

 ミサイルは「チュドーン」いう爆発音で着弾。猫ショウの体から「プスプス」と焦げた臭いが漂うことになる。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 流れるような一連の動作を唖然と見送る鬼太郎と猫娘。本来ならば、彼らも猫ショウの暴虐を止めなければならないポジションなのだが——これではどちらを止めればいいのか分からない。

 少なくとも、今の流れを見るだけならクロの方が暴走気味。猫ショウが被害者の立場にいるような気さえしてくるのだ。

 

「く、くそぅ……かくなるうえはっ!!」

 

 だが、クロの怒涛の連撃に猫ショウは怯まなかった。

 ちょっぴり黒焦げになった体を労わりながらも、最後の手段とばかりに彼は自身の能力を最大限に発揮する。

 

「集えっ! 猫たちよ!! 我が声に応じ……この悪魔を皆で八つ裂きにしてやるのだ!!」

 

 再び発せられたのは猫ショウの怪電波だ。

 猫たちを操るその『声』で、彼らの無意識へと呼び掛ける。

 

「ぐっ!? ま、また……この声なの!!」

 

 何故だかサイボーグであるクロには通じないが、猫娘などの妖怪には効力を発揮できる。この力で街中の、東京中の猫たちをかき集めれば流石のクロでも——多分どうにかできる筈と。

 少なくとも猫ショウはそう確信し、猫たちの兵力を総動員しようと試みる。ところが——

 

 

「——あうっち!!?」

「……?」

 

 

 怪電波を強めようとした瞬間、猫ショウの体がひとりでに跳ねた。勝手にぶっ倒れる猫ショウにクロも鬼太郎も疑問符を浮かべる。

 

「あれ……? 声が……消えた?」

「ん……あれま、ほんとだわ……なんでだ?」

 

 それと同時に、猫ショウがそれまで発信していた怪電波の『声』も綺麗さっぱり消え失せる。その声に苦しめられていた猫娘や、それをうざったく思っていたクロたちの表情が明るくなった。

 

「ば、馬鹿なっ!? わ、わたしの力が……かき消されている!! い、いったい、何故!?」

 

 猫ショウ自身は、それを『自分の能力がかき消された』ことだと察する。何者かが自分の怪電波を無効化し、それを打ち消しているのだ。

 いったい何者がと。動揺する猫ショウの前にその人物たちは駆けつけてくる。

 

 

「——おーい、クロ!!」

「——クロちゃん!!」

 

 

 クロの名を呼びながらやって来たのは——寸足らずな男性と猫の着ぐるみを着た少年だった。彼らはそれぞれ両手に謎の機械を抱えている。

 

「げっ……剛にコタロー……なんでお前らがここにいるんだ?」

 

 その人物たちと知り合いだったのか。クロはその表情を若干嫌そうに歪めて問い掛ける。

 

「それはこっちの台詞だ! まさか東京に来てまでお前の顔を見ることになるとはな……」

「クロちゃんってば、東京でも何も変わらないんだね!」

 

 彼らもクロとの遭遇は予期していなかったらしい。クロの破壊活動に呆れた表情をしつつ、自分たちの『発明』を見せびらかしていく。

 

「これを見るがいい! 猫たちを操る謎の怪電波の周波数を解析する装置だ!!」

「そんで……こっちがその解析した電波を吸収して、打ち消すための装置だよ! これで街中の猫たちを操っている怪電波は全部無効化されるんだ!」

「なっ! なんだとっ!?」

 

 これに誰よりも驚いていたのが猫ショウだ。

 自分の能力を打ち消す装置。そんなものを人間が発明し、あまつさえ実戦で即座に投入してくるなど、でたらめにもほどがある。

 いったい、彼らは何者なのか。

 

 

 寸足らずな男性——彼こそ、クロをサイボーグに改造した男・(ごう)万太郎(まんたろう)博士だ。クロの他にも、ミーくんやダンクといった猫やライオンたちもサイボーグへと変えた、世紀のマッドサイエンティストである。

 彼がクロをサイボーグに改造したのは——ひとえに世界征服のためであった。猫のサイボーグ軍団『ニャンニャンアーミー』を率い、世界征服を企む危ない科学者であった。

 しかし、その野望を幾度となくクロによって阻止され、その過程ですっかり世界を支配する気勢もそがれてしまった。

 今ではゴミ山に小さな小屋を作り、相方のミーくんと静かに暮らしている。

 

 そしてコタローという少年は、剛博士の助手をしている小学生だ。クロちゃんに強い憧れを抱いている彼は、日頃からクロの格好を模した『クロちゃんスーツ』を着込んでいる。

 コタローは剛博士のサイボーグ技術に感銘を受け、彼に弟子入りしたが——ぶっちゃけ、科学者としては剛以上のマッドぶりを発揮している。

 アメリカの原子力空母をパソコン一台で乗っ取ったり、東京に核ミサイルを撃ち込もうとしたりと。若さ故の問題行動も多かったりする。

 

 そんなマッドで困った二人だが、その科学力は本物だった。

 彼らの手にかかれば、猫ショウの怪電波を解析し、それを無効化する装置を作るなど造作もない。

 実際、彼らはものの三十分でそれらの装置を作り、猫ショウの能力を無効化してしまった。

 

 猫を操る術を失った猫ショウなど、孤立無援——まさに裸の王様に過ぎなかった。

 

 

「——ミーくんとダンクが残った猫たちを説得してくれている! この騒ぎも時期に収まるだろう!」

 

 それでも、僅かだが猫ショウを支持する猫たちが未だに人間と争っていた。怪電波の影響とは関係なく、人間に恨みを抱いている猫たちだ。

 しかし、それらの猫たちを同じ猫であるミーくん、そしてライオンのダンクが説得してくれている。

 穏やかな性格の二人であれば、彼らを宥めることができるだろう。騒動は既に沈静化しつつある。

 

「そうかい……そんじゃ、あとはこいつをぶっ倒せばマルっと解決……ってわけだな!」

 

 剛たちの話にクロは「ニヤリ」と口の端を釣り上げる。

 

「邪魔者はいなくなった」「あとはお前だけだ」と。その表情が雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 

「——ヒィっ、ヒィいいいい!? ま、待て!! 待ってくれ!!」

 

 自身の能力を全て無力化され、すっかり腰が抜けてしまった猫ショウ。

 彼は命乞いするかのように、クロを説得しようと声を荒げていた。

 

「わ、私は悪者ではない! 猫たちのために立ち上がった、革命の勇士だ! お前も曲がりなりにも猫ならば知っているだろう!? 人間が猫たちに何をしてきたかを!!」

「——っ!!」

 

 猫ショウの言葉に誰よりも反応していたのは、やはり猫娘だった。

 

「保健所の手によって殺処分される動物たちは年間、四万匹を超えている!! 多頭飼育問題で部屋の中に閉じ込められ、空腹に飢えた親猫が子猫を喰い殺すということもあるのだぞ! 悪質なブリーダーは、子猫を売り捌くためだけに親猫を飼育する! そんな現状が……当たり前のように蔓延っているのが人間社会なのだぞ!?」

 

 彼の言っていることに嘘偽りはない。それ事態は事実であり、猫娘もクロもついさきほど、そういった悪質なブリーダーを目の当たりにしたばかりである。

 

「私は、その現状を変えるために立ち上がったのだ!! さいぼおぐ……だかなんだか知らんが、お前も猫の端くれなら……」

「…………」

 

 猫ショウの言葉に猫娘は何も言い返せない。猫ショウのやり方こそ間違ってはいるものの、その言葉には頷ける部分も多くあったからだ。

 

 しかし——

 

 

 

「——……いや、よく知らんけど?」

 

 

 

 猫の困窮する現状を力説する猫ショウに対し、クロは素っ気ない言葉で返す。

 

 

「…………えっ?」

「…………はっ?」

 

 

 これには猫娘も猫ショウも目を丸くする。

 猫たちが抱える社会問題。それを——クロは全く関心がないようにボソリと呟いていく。

 

「いやいや……そんな、知ってて当たり前みたいなノリで話してっけどよ……普通の猫はそんなこと、いちいち気にして生きてねぇから。保健所の殺処分数とか……多頭、飼育問題? そんな難しい言葉、何が何だかサッパリだぜ?」

 

 クロはサイボーグだが、あくまで一匹の猫に過ぎない。

 彼の立場からすれば人間の算出した統計データやら、人間が新しく作った造語など。口にされても頭に入ってこない。

 これはクロが特別なのではない。実際、そういった問題に「あーだこーだ」と頭を悩ませているのは人間側だけだ。

 

 猫たちに多頭飼育やら、飼育環境がどうなどと。問いを投げ掛けたところでどうなるという?

 彼らはただ——その日その日を懸命に生きていくだけなのだから。

 

「オイラたちは猫さ。猫なら猫らしく自由に生きりゃいい! それがたとえ……飼い猫でもだ!」

 

 クロもそういった問題を細かく考えたことはない。

 ムカつく奴がいればぶん殴るし、困っている奴がいれば助けもする。その時々の感情に任せ、彼はいつも生きるのに全力だ。

 

 

 それが『猫』というものではないだろうか?

 

 

「自由に……」

 

 クロの言葉に猫娘がハッと顔を上げる。

 彼女自身、人間たちが口にする『社会問題』などといった言葉に振り回され、知らず知らずのうちに囚われていたのかもしれない。

 

 猫娘だって猫なのだから、もっと自由に生きてもいい。そう言われているような気がした。

 様々な問題で心を病みかけていた彼女にとって、その言葉はある意味『救い』でもあった。

 

 もっとも——

 

「とりあえず、今はテメェをぶちのめすぜ!! 難しいことをペラペラほざいて、猫たちを大勢巻き込みやがって。その曲がりに曲がった性根……オイラがボッコボコにしてやっからな!!」

「ヒィッ……ひえぇええええええええ!?」

 

 クロは少しばかり自由過ぎるかもしれない。そんな自由なクロの鉄拳制裁によって——

 

 

 猫ショウは文字通り——『ボッコボコ』に叩きのめされることとなった。

 

 

 

×

 

 

 

 それから、一時間後。

 暮れる夕日が一部瓦礫と化した街を燃やすように照らす中——

 

 

「——この度は……この度は本当にご迷惑をお掛けしました!!」

 

 

 今回の騒動の中心地でライオンほどの大きさの猫が、一匹の黒猫に平身低頭。勢いよく土下座をして許しを乞うていた。

 言うまでもなく頭を下げているのが猫ショウ。相手の黒猫はクロちゃんである。

 

「この通り!! 谷よりも、海よりもふか~く、反省しております!! だからどうか、どうかこの辺りで勘弁してもらいたい!!」

 

 宣言通り、クロによってボッコボコに叩きのめれた猫ショウ。いったいどれだけぶん殴られたのか、顔はパンパンに腫れ上がり、元の原型をほとんど留めていなかった。

 鼻血を垂れ流し、歯も何本か欠けている。ボロ雑巾のようなそのナリは、見るもの全ての同情を誘う実に哀れな姿であった。

 

「まっ、そういうわけだ。こいつも反省してるみたいだし……今日はこの辺で勘弁してやっちゃくれねぇか?」

 

 猫ショウをそこまでギタギタにした張本人のクロ。

 ひと暴れして色々と気が済んだ彼は鬼太郎や猫娘たちに、今回の騒ぎでの猫ショウを許してやれと声を掛ける。

 

「……それは勿論……ボクたちは構わない……」

「というか……それは私たちの台詞でしょ!?」

 

 鬼太郎も猫娘も異存はない。というか、ここまでボロボロにされた猫ショウをこれ以上どうしろというのか。

 これ以上の追い討ちは死者に鞭を打つようなもの。そんなひどいことを彼らができる筈もない。

 

「いや~……ほんとうに申し訳ありません! これからは人間様に迷惑をかけないよう、静かに暮らしていきますので……」

 

 すっかり弱気になってしまった猫ショウは今後の生活。自分の猫生においても人様に迷惑を掛けないと誓いを立てようとする。

 きっとそれでクロも満足してくれると、彼の機嫌を伺いながら。

 

「——いや? 別にそんなこと、約束する必要はねぇだろ? 人間に復讐したけりゃ、好きにすればいいさ」

「えっ……?」

 

 しかし、クロはそんな猫ショウの考えを即座に否定する。別に人間に迷惑を掛けたって構わないと。

 

「言っただろ? 自由に生きりゃいいって。人間がムカつくってんなら、それをぶちのめすのもお前さんの自由だ。オイラは別に止めたりしねぇぜ?」

「ちょっ、ちょっと、クロ!?」

 

 これにはさすがに猫娘も口を挟んだ。人間への復讐など、それこそ真っ先に止めなければならないことではないだろうかと。

 けれど、クロは特に気負うことなく気怠げに答えていく。

 

「オイラだって今日、ムカつく人間を一人ぶちのめしたところだ……おめぇだって、嫌味な人間がいれば一発でも十発でもぶん殴ってやればいい。そのくらいでオイラがしゃしゃり出ることはねぇ、安心しろ」

 

 クロだって今日、悪徳ブリーダーを一人ぶちのめしたところだ。

 それに彼は過去に人間を殺傷したことだってある。自らの命を守るため、仲間を守るため。ときにはその手を血を染めることも必要になると。野生の世界、弱肉強食の理で生きたことのあるクロはそれを実感として理解している。

 

 猫ショウの行動、その全てを彼は否定しているわけではないのだ。

 

「だが今日みたいないらん騒動は起こすなよ? 関係ねぇ猫たちを大勢巻き込むなんざ……あまり褒められたやり方じゃねぇからな」

「はっ、はい!! 肝に銘じて!!」

 

 クロが怒っていたのは——関係ないものを猫ショウがたくさん巻き込み、いらぬ騒動を起こしたからだ。

 やるなら自分が責任を取れる形でやれ、ということだろう。猫ショウはクロの言葉に感銘を受けたように再び頭を下げていく。

 

「よく言う、いつもわしらを巻き込んどるくせに……」

「ほんとほんと……誰よりも自分勝手なのはクロの方だろうに……」

 

 しかしいい感じで話が纏まろうとしたところを、剛と猫たちの説得を終えて戻ってきたミーくんがボソボソと愚痴を溢す。

 彼らも彼らでクロの起こす騒動に巻き込まれることが多々あるのだ。猫ショウに偉そうに説教できる立場ではないだろうと、割と正論を口にする。

 

 

「——そこっ!! 何か言ったか!?」

 

 

 そんな彼らに——クロはガトリングガンを突きつけて文句があるのかと尋ねた。

 

 

『——いえっ!! 何でもありません!!』

 

 

 クロの脅しに屈するかのように、彼らは敬礼して何も問題ないと襟を正すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——いや~……なんだか色々と世話になって……あんがとのう、お嬢ちゃんたち」

「——迷惑かけたべ……ほんとうに!」

 

 猫ショウの騒動の翌日。

 藤井夫婦は羽田空港を訪れており、今まさに新千歳空港行き、北海道へと向かう飛行機の搭乗ゲートを潜ろうとしていた。

 

「いえ……私たちも、色々とお世話になって……」

「…………」

 

 犬山まな、猫娘の二人は夫婦を見送る形でその場に来ていた。

 方向音痴である藤井家の二人がここまで来れたのも、ひとえに彼女たちの案内があったおかげだ。あとは飛行機に乗り、藤井家がある北海道・桜町という場所に帰るだけである。

 

「それじゃあ……クロちゃん! 後のことはお願いね!」

「ニャッ!(任せときな!)」

 

 まなは北海道に着いた後、藤井夫婦を家まで送り届ける最後の役目をクロへと託す。まなの言葉に対し、クロはあくまでただの猫を装い、猫語で返事をする。

 

 クロがサイボーグである事実を、彼は飼い主であるじいさん、ばあさんには秘密にしているとのこと。

 あの騒動があった日も、クロは二人を安全な場所へと避難させてから猫ショウへと喧嘩を売りに来たのだ。

 彼にとって、それだけこの二人が大切な存在ということなのだろう。

 

『まったく……アンタには、なんていうか色々と言いたいことがあるけど……』

 

 飼い主の前で大人しくしているクロに対し、猫娘は今回の騒動での愚痴を猫語で零す。

 

 クロのおかげで猫ショウを懲らしめることができ、あの妖怪を改心させることができた。

 しかし、彼が暴れたおかげで街は結構な損害を被った。

 幸い死者こそいなかったものの、これではどっちが妖怪かわかったものではない。

 

 割と無茶苦茶なクロの行動、しかし猫娘も言うほどそこまでは怒ってはいない。

 

『けど……今だけは礼を言っておくわ……ありがとう』

 

 猫娘がクロに礼を言ったのは——彼に『猫』である自分が自由であると諭されたからだ。

 彼の言葉を参考に、もう少し気ままに生きてみることにすると。猫娘は少しだけ前向きな気分にしてもらえた気がする。

 

『? ……どういたしまして?』

 

 一方のクロは、猫娘に何故礼を言われたかあまり分かっていない様子であった。

 今回の騒動。彼にとってはいつものことだ。いつも通り、遊んで、暴れて——そして助ける。

 

 

 彼にとってはこれこそがいつもの日常。サイボーグキャットとして、今日もクロちゃんは自分の心の赴くままに生きていくだけだった。

 

 

 

 

「行ったかい、猫娘?」

「まったく……嵐のような連中じゃったわい……」

 

 空港の外、滑走路から飛び立っていく飛行機を見送っていく鬼太郎と目玉おやじ。

 彼らはどこか疲れたよう、やれやれとため息を吐いていた。

 

「それにしても……結局連中は何者じゃったんじゃ?」

 

 目玉おやじは最後までクロの正体・サイボーグとかいう奴がどんなものか完全に理解することができずにいた。

 詳しい説明を受ける間もなく、クロもクロを改造したという剛博士たちもさっさと北海道へと帰ってしまったからだ。

 

「……北海道が彼らの本拠地ということでしたが……あちらは大丈夫なんでしょうか、父さん……」

 

 鬼太郎も、あのクロとかいうサイボーグが住処とする北海道の情勢をなんとなく気にしていた。

 あんな、あのような破壊活動を平然とこなす黒猫がいて、あの地は果たして平気なのだろうかと。

 

 北海道など鬼太郎にとっては行ったこともないような未開の土地だが、彼の地の心配を何故だが抱いてしまう。

 

「大丈夫なんじゃないの? 私たちが気を揉んだってしょうがないわよ! 依頼があれば、助けに行けばいいだけなんだし」

 

 一方で、猫娘はまったく気にしていなかった。

 同じ『猫』としての直感か。あのクロに任せておけば「まあ、大抵のことは何とかなるんじゃない?」と、何故か気軽に考えることができてしまう。

 

「それよりも……鬼太郎! ちょっと付き合ってくれないかしら?」

「えっ……?」

 

 そんなことよりと、猫娘は鬼太郎の手を引き——彼を『デート』へと誘っていく。

 

「さっき空港のロビーで美味しそうなスイーツショップ見つけたのよ! せっかくだから付き合いなさい!」

「いや……ボクはその手の店はあんまり……」

 

 鬼太郎は猫娘のその誘いをやんわり断ろうとする。

 その手の店に自分は詳しくないし、それならまなを誘ったほうがいいのではと。これまた変な気遣いを見せようとする、鈍感な鬼太郎。

 

 

 けど——

 

 

「いいから……私が、鬼太郎と一緒に行きたいんだから!!」

「——!?」

 

 

 猫らしい気まぐれで、猫娘は鬼太郎を強引に誘っていく。

 この瞬間だけは、彼女もどことなく大胆に、勝手気ままに鬼太郎を誘うことができていた。

 

 既にその表情に翳りはなく、彼女は猫たちの社会問題やら、彼らの未来やら。そんな難しいことで頭を悩ませることもなく。

 

 

 

 ちょっとばかし気楽に、前向きに——彼女は今、この瞬間を楽しんでいく。

 

 

 




人物紹介

 剛万太郎
  作中での呼び名は剛くん。万太郎とフルネームで呼ばれることはあまりない。
  クロをサイボーグにした張本人。世紀のマッドサイエンティスト。
  体型とか色々とおかしいがその化学力は本物。
  三日三晩徹夜しただけで『魂を吸引する装置』とか作ってしまう。

 ミーくん
  剛くんの相方。というより、もはや嫁のサイボーグキャット。
  連載当初はかっこいいライバルポジだったけど、中盤辺りではただの良い猫。
  剛くんのことを誰よりも大切に想っており、彼の敵となるものに容赦しない。

 コタロー
  剛を超える天才科学者。作中でだいぶ時間が経過しているが、たぶん小学生。
  登場当初は子供としての未熟さから、かなりやばい思想、思考をしていた。
  しかし作中内で失恋や、憎んでいた父親との和解など。
  色んな経験をして人間的にもいくらか成長していく。
  
 ダンク
  コタローの友達。瀕死のところ、剛の手によってサイボーグとして蘇る。
  額からカンペのようなものを展開し、その都度意思表示をする。
  コマネチ装置がなければコマネチができないライオン。


 本当はもっとクロちゃん側から登場人物を出してもっと活躍させたかったのですが、作者の発想ではこれが限界でした。どうかご容赦を。


次回予告

「父さん、最近……ねずみ男のやつ、随分と羽振りがいいようです。
 本人は真っ当な金儲けで儲かっているなどと言っていますが。
 本当に信用していいんでしょう? 嫌な予感がしますが……。

 次回——ゲゲゲの鬼太郎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 見えない世界の扉が開く」

 次回は、もはや説明不要なあの作品とのクロス。 
 久しぶりにねずみ男が……活躍しますよ?


  
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