……これだよ!! これが見たかったんだよ!!
これぞまさにデジモン!! 『アドコロ』とはいったいなんだったんだろう?
特に二話は序盤としては完ぺきな流れだった。
終盤の挿入歌が入るシーン! これだけで一週間は過ごせそう!
だけど、一週お休みで次話は二週間後。
早く見たいと、これだけアニメの放送が待ち遠しくなるのはすごい久しぶりだ!
これからも、自分はデジモンゴーストゲームを追いかけていきます。
さて今回の話は前回予告したとおり。『西洋地獄』シリーズとして複数の話を繋げてお送りします。
話の軸になるクロスオーバーは『魔界戦記ディスガイア4』。
日本一ソフトウェアの看板タイトル。その中でも屈指の人気を誇る『4』からキャラたちを順々に登場させていきます。
最初は死神エミーゼル。
テーマも死神らしく『生と死』を題材にしていきます。
尚、今回の話で……6期アニメのとあるキャラが……。
この話自体は前後二話でお送りしますので、よろしくお願いします。
ちなみ今回の話の時間軸ですが、原作アニメの94話と95話の間ーーちょうど三週間、鬼太郎の放送がお休みだった時間軸で起きた話として認識していただければ。
このシリーズのあと、こちらも時間軸を進めていきますので。
地獄——死した者が魂となって行き着く場所、奈落の底。
現世で命を落とした者の全てがこの地獄へと送られ、閻魔大王による裁判を受ける。その裁判の判決次第では天国行きや、転生を選ぶ権利などが与えられるが、大半の亡者はそのまま地獄の刑場へと送られ、生前に犯した罪状に等しいだけの責め苦を受けることとなる。
亡者たちを苦しめる役割を持った『獄卒』たちの手によって——。
「ふぅ~……今日も疲れたぜ。最近は亡者たちの数が増えるばかりだ……」
「今のご時世、刑罰もなしで転生できるやつなんか少ねぇからな……俺たちの仕事も忙しくなる一方だぜ」
亡者たちには情け容赦のない獄卒たち。しかし、彼らにも地獄での日常生活がある。
亡者たちを痛めつけるのも交代制。二十四時間働き続けるのはブラック労働だと推奨はされていない。獄卒たちにも労働基準があり、それによる休日があり、仕事帰りに同僚と一杯やる楽しみがある。
今日も地獄の飲み屋街には多くの獄卒たちが集まっていた。今日の仕事内容を愚痴ったり、昨今の社会情勢を話し合ったり、適当な雑談で会話に華を咲かせたり。わいわいと賑やかに酒を酌み交わしていく。
そんな獄卒たちが集まる居酒屋、バーカウンターの一角にて——。
「はぁ~……退屈だな……いつになったら俺は現場に復帰できるんだよ……ヒック!!」
仕事もせずに酒に溺れた、一人の『死神』が酔っ払いながら管を巻いていた。
死神——死んだ人間の魂を地獄へと送り届ける役目を帯びた妖怪。
彼らは『お迎え課』という部署に所属し、亡くなった人間の魂を速やかに肉体から切り離し、確保することを職務としている。
死亡した人間の中には未練から『地縛霊』となったり、『浮遊霊』となったりして生者に迷惑をかけるものもいる。妖怪なんかに転生し、人間という枠組みから外れるものまで現れる。
そのような事態にならないためにも、常に地獄は人々の死期を監視し、それに応じて死神を派遣する。
日本の死神たちは常に忙しなく、営業サラリーマンのようにあちこちを走り回っているのが普通……の筈であった。
「……お客さん、飲み過ぎでは? それ以上はお体に触りますよ?」
「うるへ~! これが飲まずにいられるかってんだ!」
しかし、彼は違っていた。
酒場のマスターである鬼がそれとなく控えるように言うも、その助言を突っぱね、死神は昼間からずっと酒を飲み続けていた。
その死神は——職務ナンバー106号。
死神は国によって容姿が異なるのだが、日本の死神は皆——骸骨のような顔つきに、しゃくれた顎を持った種族となっている。
彼らは子供の時からその姿であり、生まれたときから『死神』とされている。
そのため名前で区別はされるのだが、仕事上においては全員が番号によって統一されている。
番号も交代制で、世代によって変わるが——この時代の106号。
彼は死神として起こしてはならない『タブー』を起こし、謹慎処分を食らっていた。
「ヒック! ちくしょう~……このままじゃ家のローンも払えねぇ……どうしろってんだよ!」
謹慎処分中も一応給料は出るのだが、それもスズメの涙ほど。もともとエリート街道を真っしぐらに突き進んでいた106号に、そんな端金は何の気休めにもならない。
「このままじゃ、家族も養えねぇ~……どうすりゃいんだよ!」
彼にだって養う家族がいる。嫁と子供、二人の食い扶持を稼ぐためにも、大黒柱の彼がしっかりと働かなければならないというのに。
106号は思い通りにならない現状に、手にしたグラスをバーカウンターに叩きつけながら——自分がこうなってしまった元凶へと怒りをぶちまけていた。
「それもこれも……全部鬼太郎のせいで!! あいつらが俺のことを閻魔大王にチクらなければ……こんなことにはならなかったんだよ!!」
死神106号。
日本の死神は全員が似たような容姿をしているため、傍から見ても分からないだろうが——彼は境港という場所で、あのゲゲゲの鬼太郎と揉め事を起こした死神である。
境港の隠れ里。
彼はそこに囚われていた魂を回収しようとしたのだが、それを鬼太郎によって阻止された。
人間の魂を回収するのは死神の役目。本来であれば鬼太郎が首を突っ込む問題でもなければ、それで謹慎処分を食らう謂れもない。
しかし不味かったのは——106号が曲がりなりにも『生きている人間』に手を出そうとしたことだ。
まだ寿命が残っている人間に直接手をかけるのは死神業界にとって、完全なる『禁忌』とされている。
それを未遂とはいえ行おうとしたことを——あろうことか、閻魔大王に告げ口されてしまったのだ。
その当時、鬼太郎たちは閻魔大王から地獄の四将の魂を確保するよう密命を帯びていた。その報告の最中に『境港にこういう死神がいたんだが……』と呟きを口にしたらしい。
それに激怒した閻魔大王はすぐに死神たちの内部捜査を始め——結果、106号の問題行為が明るみになり、彼は降格と謹慎処分を受けることになった。
年を跨いだ今になってもその処分は続いており、いつまで経っても仕事に復帰できないもどかしさに106号は焦りを口にする。
「くそう~……このままじゃ飼い殺しだ! 何とかして……何とかして金を稼がなければっ!!」
地獄の沙汰も金次第という言葉があるように、地獄の住人にとっても先立つものは必要だ。
このままでは妻子共々路頭に迷ってしまうと、彼が何かしら非合法な手段でもいいから金を稼ぐことを考え始める。
『——死神106号!! 死神106号!! すぐに閻魔庁に出頭せよ! すぐに閻魔庁お迎え課に出頭せよ!!』
「——!!」
まさにそんな、魔が差した考えが浮かんだときである。
酒に溺れていた彼の元に呼び出しの着信メールが鳴り響く。今や地獄もスマホやタブレットを導入する時代である。仕事用に配給されている携帯電話の呼び出しに、106号はすぐさま反応する
「ちっ! 今からかよ!! ……まっ、ここでぐだぐだしてるよかはマシか!」
こんな時間での呼び出しに苛立ちを覚える106号。しかし、それと同じくらい淡い期待が胸に宿る。
もしかしたら、もしかしたら『職場復帰』のお達しであるかもしれないと。
酒代の勘定をバーカウンターに叩きつけながら、急いで閻魔庁お迎え課へと走り出していた。
×
「——やぁ~、久しぶりだね……106号! なんだか随分と酒臭い。平日にもお酒が飲めるなんて羨ましい限りだ! まったくいいご身分なことで!」
「……すみませんね、係長。他にやることがないもんで……」
閻魔庁のお迎え課に到着して早々、死神の上司から嫌味を言われる106号。
直属の上司である死神42号。彼はデスクにふんぞり返り、あからさまな態度で106号への小言を口にする。
——くそっ! 偉そうにしやがって……俺が降格される前は、階級が下だったくせに!!
106号が謹慎処分を食らう前まで、二人の関係は逆の立場であった。
106号の方が階級が高く、42号にふんぞり返る立場だった。しかし今やその力関係も逆転。42号の顔には愉悦の表情が浮かんでおり、出世競争に躓いた106号を露骨に見下してくる。
「まったく……キミは自分の立場を理解しているのかね? キミの穴埋めのために、どれだけ私たちが忙しい日々を送っているのか……それなのにキミときたら——」
42号はお前のせいで自分たちは忙しいと、お前の不祥事のせいでこっちは迷惑をしとるんだと。もう何度目かになるのも分からない文句を口にし、106号をねちねちといびり倒していく。
「ええ……それは勿論。大変反省しておりますので……はい」
その小言を前に、表面上は「はい、はい……」しか言えないでいる106号。
——けっ! せいぜい今のうちに調子に乗ってやがれ!
その一方で、心中では悪態を付いてどうにか自身の中の憤りを処理していく。
——すぐに手柄でもなんでも上げて……お前なんざ追い越してやるからな!
復帰したらさっさと実績でも上げてお前を追い抜いてやると。106号は嫌味を言う上司、その他大勢の同僚たちへの対抗心で己の心を奮い立たせていく。
「——まあ、それはさておきだ」
それから三十分ほど。長々と説教を終えたところで42号は口調を改める。
「本日を持ってキミの謹慎処分を解けという上からのお達しだ。……精々業務に励み、これ以上の失態を重ねないように努力したまえ」
「は、はい! 承知しております!」
42号はようやく106号へ『現場復帰』の指示を言い渡した。これにより、106号は以前のように人間の魂を回収するという仕事に明け暮れることが出来るようになった。
——よーし、これでまた仕事が出来る! あんな虚しい日々とはもうおさらばだ!!
106号はさっそく労働意欲を湧かせた。仕事というやつはずっと続くと嫌になってくるものだが、働けない期間が長すぎると逆に体を動かしたくなるものだ。
数ヶ月間、ずっと飲んだくれるしかできなかった彼にとって、また働けるという事実は実に心躍るものであった。
ところが——
「……そこでだ! 復帰にあたり……キミにやってもらいたい仕事がある」
「や、やってもらいたい……ですか?」
106号の喜びに水を差すよう、42号はニヤリと口元を歪める。
その表情から何かよからぬことを企んでいるのが明白であり、106号は身構えながらも上司から直接押し付けられる『大事な仕事』とやらに耳を傾けていく。
「——キミも知ってのとおり。我々日本地獄は今後、各国の地獄と繋がりを深めていく方針で話を進めている」
この世界にはその国に応じた地獄が存在し、それぞれ独自の法によって死者たちを裁いている。
日本地獄では閻魔大王を始めとした十王が死者たちの裁判を担っているが、その他の地域では全く別の支配者たちが亡者たちを裁いている。
基本的にその裁判によその地獄が口を出すことはない。たとえ何者であろうとも、その地域で死んだ者はその地域の地獄で裁くのが基本原則。だが——
「は、はい……確か、閻魔大王様の第一補佐官殿が各国を飛び回って話をつけてきたとか……」
「そうだ。現世でグローバル化が進む昨今、日本国籍を持つ者が海外の事故や事件に巻き込まれて死亡してしまうケースが後を経たない。だがその場合、正しい形でその者の罪を裁くことができないのだ」
例えば——西洋などで日本人が死亡した場合、その人間は西洋地獄の、西洋での法で裁かれることになる。しかし、それでその者の罪を正しく裁くことができるかと問われれば『否』である
日本生まれの者の生前の記録は、当然日本地獄で管理されている。『閻魔帳』の記録や『浄玻璃の鏡』での証拠映像など。これらを用いることで、初めてその亡者に正しい判決を下せるのだ。
逆もまた然り。西洋で生まれ育った者の記録は西洋地獄で管理している。西洋人に日本で死なれたところで、記録などが不足しているためにきちんとした裁判ができないでいた。
「こういった事態を防ぐためにも、我々地獄の住人は各国と連携し、亡者の引き渡し条約などを強化してきた。これも……第一補佐官殿が長年海外を飛び回った成果だよ」
これらは長年問題視されてきた課題であり、各国がそれぞれ頭を悩ませていた。より公平に、より正しく亡者たちの罪を裁くにはどうすべきかと。
そんな問題に一石を投じたのが——仕事中毒……もとい、有能と名高い閻魔大王の第一補佐官である。
彼を中心とした各国の地獄の管理者たちが、何度も何度も顔を突き合わせ、協議を重ね続けた結果——国境を越えた亡者たちの引き渡し、裁判記録の貸し出しなど。必要とあらばその都度要請に応じる体制へと移行し始めているのだ。
勿論、まだまだ問題は山積み。完全な形で実現するには、いくつもの課題をクリアしていかなければならない。
しかし、各国で手を取り合い始めた事実こそが何よりも重要なのだと。死神42号は地獄の明るい未来に感慨深げにうんうんと頷いていく。
「はあ~……すいません、係長。それで自分にやってもらいたいという仕事の方は……?」
しかし、一介の死神でしかない106号はその話に何かを感じ入る様子もなく。その話と自分に任せる仕事とやらになんの関係があるのかと首を傾げる。
「おっと、少し脱線しすぎたやもしれん……話を戻そう」
42号は少し話が逸れたと、そこからようやく本題に入っていく。
「まあ……そういうわけでだ。各国との友好をさらに深めるという意味合いも兼ね、この度……日本地獄は他国からの留学生を数人受け入れることとなった」
「留学生……ですか?」
「そうだ。その内の一人を……我らお迎え課でも引き受けることになった」
現世でいうところの交換留学生というやつだろう。外部の妖怪を暫し客人として預かるということだ。
「ついてはその留学生を……君に任せたいのだよ、106号!!」
「なっ!! じ、自分にですか!?」
そしてその客人を——よりにもよって106号に任せると、42号が彼の肩を叩いた。
客人を任せると言えば聞こえはいいかもしれないが、これは体のいい厄介払いでもある。もしも、その留学生とやらに何かあるようなら、真っ先に106号の監督責任が問われる。
あるいはその責任を取らせるのが目的なのか。42号の顔には明らかに「してやったり」といった笑顔が浮かんでいる。
「言うまでもないと思うが拒否権はない。これも先に起こした不祥事のペナルティだと思ってくれたまえ」
「くっ……」
ここで先の問題行動の罰であると、理由を添えて逃げ道を塞ぐ。用意周到に準備を進めていたのだろう。106号は言い訳も許されず、面倒な仕事を押し付けられてしまった。
「ではさっそくだが当人と引き合わせよう……申し訳ありません! 話が付きましたので……どうぞお入りください!!」
そうして42号は畏まった口調で、既に隣の部屋で待機していた——その留学生とやらを呼び出していた。
「——お前か……ボクの研修に付き合うことになった、死神は……」
日本死神たちの前に姿を現したのは——彼らと同じ『死神』だった。国外からやって来たという西洋の死神。その容姿は日本の死神とは違い、見た目は完全に人間の子供。
緑のフードを目深く被った少年。どこか生意気そうな顔立ちだが、意外にも冷静な雰囲気を保っている。
背中には死神の象徴でもある武器——
「……係長、留学生ってのはこのガキですか?」
未だに幼さを残したその少年を前に、106号は怪訝そうな顔つきになった。元より留学生の面倒など見たくもなかったが、その相手がこんな子供であれば尚更である。
自分にこんな子供のお守りを押し付ける気かと、ますます上司への反感を強めていく。
「ば、馬鹿!! 何という口の利き方だ!!」
「痛っ!! 何すんだ!! ……じゃない、何するんですか!?」
すると、42号は焦ったように106号の頭を無理やり押さえつけ、その少年死神相手に土下座を強要する。自分自身も平身低頭しながら、少年がどのような相手なのかを声高らかに告げる。
「この方をどなたと心得ている!! 西洋地獄の重鎮……死神王ハゴス様の御子息にあらせられるのだぞ!?」
「し、死神王……!?」
死神王——日本地獄には存在しない階級だが、上司の狼狽ぶり。そして地獄の重鎮ということからその権威の高さを察することができる。
きっと係長など吹けば飛ばされてしまう。それほどまでに雲の上の存在、特権階級に君臨する血筋なのだろう。
「……そういうのいいから、とりあえず自己紹介させてくれよ……」
しかし表面上、少年の方にそういった特権意識に縛られる様子はなかった。
彼はへり下る日本死神たちの態度にうんざりとしながら、自分から名前を名乗っていく。
「——ボクはエミーゼル……死神エミーゼルだ。今回の留学で日本の死神たちのやり方……色々と学ばせてもらうからな」
×
「——……で? これからどうする? この国の死神のやり方はよく分からないからな。とりあえず、お前の方針に従うぞ……106号」
「——そ、そうですかい…………くそっ、なんだってこんなことに……」
職場復帰して早々、死神106号は西洋死神エミーゼルとバディを組むことになったのだが、106号はその現状に小言で悪態を付く。
本当なら自分一人でとっとと人間の魂をかき集め、さっさと点数を稼ぎたいところ。死神が出世するためにはより多くの、それでいて質の良い魂を回収するのが一番の早道なのだ。
だが、足手まとい——もとい、留学生のエミーゼルの面倒を見なければならなくなった都合上、そう簡単にはいかない。
彼に日本死神の職務を指導しながら、通常の業務もこなさなければならない。間違いなく自分一人でやるよりも仕事の効率は落ちるだろう。
——ちくしょう……あのクソ上司! まんまとやってくれやがったな!!
106号は自分にエミーゼルの世話を押し付けた係長を心中で罵倒する。
ただの留学生であれば、最悪適当に扱っても問題はなかっただろう。しかし相手は他国の重鎮の御子息。もしも下手に放置すれば、上にどんなお叱りを受けるか分からない。
実際上司からは——
『——言うまでもないと思うが……彼にもしものことがあった場合、キミの首が飛ぶことになるから……物理的にね』
と、脅し文句で念押しまでされてしまった。
上からの不況を買わないためにも、この坊っちゃんの機嫌を取りながら仕事をこなさなければならないのだ。
「……はぁ~」
憂鬱な気分に106号の口から自然とため息がこぼれ落ちていた。
「——お前さ……ボクのこと、厄介者だと思ってるだろ?」
するとそのため息に反応し、エミーゼルが106号をジト目で睨みつける。
「えっ!? い、いや……そんなこと、思ってないですぜ!」
いきなり確信をついた問い掛けにギクりとなりながら、106号は相手の機嫌を損ねまいと慌ててゴマをすろうとした。
「別に隠す必要はないさ……留学生なんて、いきなり押し付けられればボクだって困るだろうし……ボクがお前たちにとって、扱いにくい人材だってことくらい分かってる」
しかし、エミーゼルが特に不快感を示すことはなかった。それどころか彼自身、自分がどこか腫れ物のように扱われていることを理解しているようだ。
権力者である『死神王の息子』という立場で周囲を恐縮させていることを——。
「けど……ボクにはボクの目的がある。ボクはこの留学で……立派に死神としての務めを果たすんだ!」
「し、死神としての務め……ですかい?」
「そうさ!! それで父上の力がなくてもやっていけると、ボク自身の力を西洋地獄の皆に分からせてやるんだ!!」
エミーゼルは『死神王の息子』という事実にコンプレックスを抱いているようだ。何となく生意気そうな印象から、父親の権力で好き勝手をやるイメージを抱いていただけに、エミーゼルの言葉には106号も僅かだが感嘆の声を漏らす。
——ほう~……親の権威に胡座をかいただけのボンボン……ってわけでもなさそうだな……。
多少は彼のことをただの『甘やかされた坊ちゃん』ではないと見直す。しかし、扱いにくい客人であることに変わりはない。
「ええっと……それじゃ、さっそくですが仕事に入りましょうか……」
「……ああ、よろしく頼む」
ある程度、下手な態度でエミーゼルと接していく106号。エミーゼルは一歩下がった相手の態度に何か言いたげだったが、とりあえずそのままのスタンスで二人は死神としての仕事を始めていく。
「ところで——」
ふと、エミーゼルは周囲を見渡しながら106号に尋ねていた。
「さっそく現世に出てきたけど……ここはいったいどの辺りなんだ?」
そう、既に地獄を出立して現世へと降り立っていた死神二人。だが日本の地理に詳しくないエミーゼルには、自分たちが今どこにいるのかが分からない。
彼らが立っていたのは、まさに田舎といった感じの土地。周囲に広がるのは畑や小さな森など。その風景の中に昔ながらの一軒家がまばらに建っている。ビルなども全く見えず、人の気配すらほとんど感じられない。
今時珍しいくらいに穏やかなド田舎。果たしてここはどこなのだろう。
「ええっと、現在地は……ああ、千葉ですね。千葉県……関東の……一応は東京の隣の県です」
エミーゼルの質問に106号は手元のスマホを使用し、現在地を確認する。西洋の死神であるエミーゼルにも分かりやすいよう、ここがどこだか噛み砕いて説明するのだが。
「チバ? 千葉って、あれか? イワシで有名なあの千葉か?」
「えっ? い、イワシですかい? いや、それは知りませんけど……好きなんですか、イワシ?」
「いや、ボクは魚が苦手だけど……そうか、ここが千葉なのか……」
何故か千葉と聞いてエミーゼルはイワシの名産地だと即答する。その豆知識にイワシが好きなのかと106号が問い掛けるも、エミーゼルは首を振り——どこか遠くを見つめる。
「千葉産のイワシ……土産にでも買ってってやろうかな……」
「???」
誰に聞かせるわけでもないエミーゼルの呟きに106号は疑問符を浮かべるが、とりあえずスルー。
「けど、ボクたちがここに出たってことは……」
「ええ、そうっすね……」
二人の死神は、改めて自分たちがこの場所へと出てきた『その意味』を確認し合う。
「——もうすぐ、この辺りで寿命を迎えるやつがいる……ってことだからな」
本来、地獄である『あの世』と現世である『この世』を行き来するには、特別な出入り口を通る必要がある。
日本であれば黄泉比良坂、幽霊電車。あるいは閻魔の権限で地獄の門を開くこともできるが、一般の獄卒がそれを利用するには面倒な手続きが必要になってくる。地獄の住人とはいえ、そう簡単にあの世とこの世を頻繁に出入りすることはできないのである。
しかし——死神という『種族』は別だ。
神話の時代。死者の世界が一つの『国』として認識され、地続きだった頃から。死神たちは『二つの世界』を自らの意思で瞬時に移動できる存在であった。だからこそ、彼らには魂を運ぶ役割が与えられている。
これは現代でも、国が違えども『死神』であれば同じこと。国ごとに死神と呼ばれる種族は全くの別物だが——死神である以上、この能力は誰もが等しく所持している。
この能力を行使し、エミーゼルと106号は揃って現世へと移動した。しかし移動先を——彼らは選ぶことができない。
死神が地獄から現世へと飛び出す際、その出現先は——必ず死期が訪れようとしている人間のすぐ側。
死神はその性質上、『死人』が出るであろう現場へと、引き寄せられるように現れるのである。
「ここでもうすぐ……よし、さっそく探しに行くぞ」
その理屈を、死神たちは自分でも理解はしていない。
そういうものなんだと。それを己の性質として受け入れ、導かれるよう——『死』を迎えようとしている人間の元へと歩き始めていく。
×
「——いましたぜ、坊ちゃん……この家だ」
対象はすぐに見つかった。
ポツンと佇む一軒家。年老いた老婆が一人、何をするでもなく縁側に腰掛けていた。
「ゴホッ! ゴホッ! …………ふん」
明らかに体調が悪く、ときより咳き込みながら庭や空を漠然と見つめている。その家に一人で暮らしているのか、他に人間の気配はない。
結構な歳であり、おそらく本人も——そろそろ『お迎え』が来る頃だと自覚しているのだろう。
その瞳には死に対する恐怖よりも、どこか達観した諦めのようなものが浮かんでいる。
「沢田……」
家の表札に書かれている唯一の人名には『沢田
「ああ、あの感じなら今夜にでもくたばりそうっすね。とりあえず、待機しておきましょうか?」
106号はもうすぐ死ぬかもしれない人間を前に淡白な言葉を口にする。死神としてエリートコースを歩んできた彼だ。人間の死など見飽きるほど見届けてきた。
もはや人間個人の死に何かを感じることはない。ただの流れ作業として、沢田という老婆が力尽きる瞬間を今か今かと待ち構える。
「……ああ、そうだな」
それは、少年死神であるエミーゼルでも変わらない。
僅かに感傷的な視線で独りぼっちの老婆を見つめるも、そこに個人的な感情を持ち込むことはなく。
死神たちは人間が死ぬ瞬間——魂を回収するタイミングを見計らい待機していく。
「——淑子伯母さん!!」
「……ん? 来客か……」
そうして待機していること数時間。夕日が落ちるその時刻に——少女が一人、淑子の家に足を踏み入れた。
エネルギッシュに満ちた制服姿の中学生。彼女は元気いっぱいな笑顔を老婆へと向ける。
「なんだい……まな。今日も来たのかい」
その少女の訪問に、淑子は眉間に皺を寄せて渋い顔をする。表面上は少女を歓迎していない風だが、一人寂しく佇んでいたときよりは明らかに顔に生気が宿っている。
その表情から、少女の訪問を嬉しく思っているのは明白であった。
「……あの婆さんの孫か? ……でも、伯母さんとか言ってたな……」
老婆と少女の会話を物陰から覗き込みながら、彼女たちの様子を伺い続けるエミーゼル。二人の関係がどのようなものか何気なく考察するが、自分の仕事とは関係ないと頭は冷静である。
たとえ孫がいようと関係ない。その時がくれば魂を刈り取るだけだと大鎌の手入れをしていく。
ところが——
「あ、あのガキは?」
その少女の来訪に、誰よりも死神106号が驚いていた。
ベテラン死神である彼にとって、本来なら人間の顔など記憶するに値しない情報だ。今までに何百人という人間の死を目撃し、その魂を回収してきたのだ。それら一人一人の顔など、覚えていてもキリがない。
だが、あの少女のことは106号もはっきりと記憶していた。
なにせあの少女・犬山まなとゲゲゲの鬼太郎。彼らと関わってしまったがために、106号は謹慎やら降格処分などを受ける羽目になったのだから——。
「淑子伯母さん! また薬持ってきたんだ、これ飲んで元気になってよ!」
「またかい……あんたが持ってくる薬を飲んでから、こちとら体が良くなってしょうがないよ。いったい、なんの薬だってんだい?」
「いいから、いいから! 大丈夫!! 変なものは入ってない……筈だから!」
死神たちが潜んでいるともつゆ知らず、まなは淑子へと駆け寄る。カバンから包みに入った粉薬のようなものを取り出し、それを水の入ったペットボトルと一緒に淑子へと勧める。
既に何度か飲んでいるのか、淑子は軽く愚痴を溢しながらもまなから受け取ったその薬を服用する。
次の瞬間——明らかに淑子の体に幾らかの活力が戻っていく。
それは、生命の灯火が見える死神だからこそ察するくらいの誤差に過ぎないが——老婆は命を長らえたのである。
「——っ! 今の薬は……!?」
その薬の効力にエミーゼルが目を見張る。人間の死する運命を僅かだが引き伸ばした——寿命を伸ばしたと言っても過言ではない薬の効果に驚きを禁じ得ない。
「ふぅ……相変わらず苦いね。飲むのが億劫だよ、まったく……」
「そう言わないで……良薬口に苦しって言うんでしょ?」
相当苦い薬なのだろう、淑子は渋面仕切った顔で不満を口にするが、その分効果は確かだろうとまなは胸を張る。
「——この薬を飲んでいれば、いつまでも元気でいられるから! だから……もっと頑張ってよ!」
それは、少女の心からの願いだ。
淑子伯母さんにもっと生きていて欲しいという、犬山まなの切実な願いだったのだろう。
「ふん……私はいつでもくたばる覚悟は出来てるけどね……とりあえず、礼だけは言っておくよ」
そんな少女の願いに対し、老婆の方はいつでも『覚悟』は出来てると。
薬を持ってきてくれたまなにお礼の言葉を述べつつ、どこか——どこか疲れたようにため息を吐いていた。
「あ、あのガキ! いったい、何を飲ませやがった!?」
まなが淑子に飲ませた薬の効果に106号が憤慨する。せっかく今夜あたりにでも魂を回収できると思っていたのに、老婆は命を持ち直してしまった。死神の規定上、肉体が生命活動を停止しなければ魂を刈り取ることは許されない。
もしもこんなことが繰り返されれば、彼らの仕事はいつまで経っても終わらない。死神の立場からすれば無為に残業時間を増やすようなもの、たまったものではない。
「——それじゃ、明日も来るから……またね、淑子伯母さん!」
その後、淑子と色々なことを話し込んでからまなは帰路へ着く。既に日が沈みきって辺りが完全に暗くなっていることもあり、彼女は慌てて駆け出して行った。
「——おい、106号。あの女の跡をつけろ」
「へっ? あ、あのガキのですかい!?」
するとまなの背中を見送りながら、エミーゼルが106号へと指示を飛ばす。まなを尾行しろという彼の指示に、106号は目を丸くするが。
「あの薬の出所が知りたい、尾行して突き止めてくるんだ。ボクはあの老婆の方を見張っておく……早くしろ!!」
「わ、分かりました……行けばいいんでしょ、行けば……」
少女の持ってきたあの薬が何なのかを知りたいようだ。それなら自分で行けばいいだろうと思った106号だが、逆らうわけにもいかず。
とりあえず——帰宅する犬山まなの跡をこっそりとついて行くことになった。
×
「……長いこと電車に乗ったが……あいつ、東京からあんな辺鄙な田舎まで一人で来てんのか?」
犬山まなを尾行する106号は想像以上の道のりに少々うんざりしていた。
まなは淑子の家に行くまでに、電車で一時間以上の時間を掛けていた。乗り継ぎも含めるとかなり面倒な道順。それでもまなは嫌な顔一つすることなく、淡々と帰路についていくが。
「今日のうちにお礼言っておこうかな……」
彼女の住まいかと思われる住宅地にたどり着いたものの、まなは家には戻らずとある場所へと向かう。その跡を尾行してついていく106号。ふいに——周囲の景観が瞬く間に『森』へと変貌を遂げる。
「おっと……!? こいつは……噂に聞くゲゲゲの森か。こんなところにあったとはな……」
まなの尾行に気を取られて気がつかなかったが、いつのまにか妖怪たちの聖域・ゲゲゲの森へと足を踏み入れていたようだ。彼自身この場所へ来るのは初めてだが、ここが日本妖怪たちの主要な住処の一つであることは知っていた。
そしてこの場所に奴が——ゲゲゲの鬼太郎が住んでいることも。
「っ、鬼太郎……!」
106号が慌てて木々の隙間に身を隠す。まなが入っていく小屋・ゲゲゲハウスに鬼太郎の姿を見かけたからだ。106号は咄嗟に大鎌を構えるが、ここで襲い掛かったところで自分に確実な勝ち目があるわけではない。
はやる気持ちを抑えつつ、気付かれないようゆっくりとゲゲゲハウスへと近づいていく。壁に耳を当て、中から聞こえてくる彼らの会話に耳を傾ける。
「——まな……淑子さんの様子はどうだった?」
「——うん、元気だったよ! 砂かけババアさんが調合してくれた薬のおかげで!」
「——そうか……まあ、力になれたのなら何よりじゃよ」
ハウスの中からは鬼太郎と犬山まな。そして106号の知らない妖怪・砂かけババアとやらの声が聞こえてくる。彼らはまなから淑子の容態を聞かされていた。会話内容から察するに、あの薬は砂かけババアが調合したもののようだ。
「そうか……! 妖怪の調合した薬だったか……どうりで」
薬の出所が分かったことで106号は得心を得る。
妖怪の知識で精製した霊薬の類であれば、あれだけの効き目も納得だ。さすがにあんな薬が人間社会に出回り、日常レベルで使用されていれば色々と問題である。
人間の寿命を伸ばすほどの効能がある薬など、それこそ『生と死の理』に反するというもの。
人間の『死』を生業とする死神としては、決して看過できない事態である。
「それで……明日もこの薬を持って淑子さんのところに行くのかのう?」
死神が思案を巡らせている間も、ゲゲゲハウス内の会話は漏れ聞こえてくる。
砂かけババアがまなに明日の分の薬を手渡しながら、本当にその薬を持参して行くのかと、何故か不安そうに問い掛けていた。
「勿論だよ! 明日は学校もお休みだし……朝から顔を出そうと思ってるの!」
砂かけババアの問いにまなは元気な声で返事をした。しかし声のトーンを一段下げ、少しばかり暗い表情で心配な本音を語る。
「淑子伯母さん……先週から容態が良くないって……」
「……」
「お医者さんからも、本当は入院しなきゃいけないくらいだって言われてるんだけど……」
沢田淑子という人間の不調は今に始まったことではない。彼女は以前も一度倒れたことがあり、そのときから徐々に体が悪くなっていく一方だったという。
それでも、何とか今日まで持ち直してきたのだが、一週間くらい前からさらに体調が悪くなったらしい。
医者から入院を勧められたのだが、それを拒否してでもあの家に独りぼっちで居座っている。
「——どうせ死ぬなら……自分の家で死にたいって……」
まるで自身の死期を悟るかのように——。
まなはその報せを受けたことで、どうにかできないだろうかと鬼太郎たちに相談していたのだ。
「けど、大丈夫だよね! 砂かけババアさんの薬のおかげで元気になれたみたいだし!」
その相談の末、砂かけババアが処方したのがあの薬だ。特別な霊草を練り込んでいるらしく、その薬のおかげで淑子は生きる力をその身に取り戻していった。
「——このまま、前みたいに元気になってくれるよ、きっと!!」
このまま薬を飲み続けていれば、もっと体も良くなっていくだろうと。
いつまでも元気でいられると、まなは眩いほどの笑顔を鬼太郎たちに向けていた——。
「——砂かけババア……やっぱり不味かったんじゃないか?」
まながゲゲゲハウスから立ち去るのを確認してから、鬼太郎は砂かけババアに声を掛ける。
「いや、わしもどうかとは思ったんじゃが……あんな顔であの子に泣きつかれてはのう……」
砂かけババアも迂闊なことをしたという自覚はあるらしく、決まり悪げに頭を抱える。
そう、彼女は例の薬をまなに渡したこと。沢田淑子の寿命を伸ばすような薬を処方してしまったことを——少しばかり後悔していた。
「人の生き死にというものは、本来であればどうにもできない。どうにかしていい問題ではないと……頭では分かっておるんじゃが……」
何故ならそれは『正と死の理』に反すること。死神が問題としていた点を、鬼太郎たちもしっかりと理解していた。
だが、砂かけババアは犬山まなへの情が勝ってしまった。彼女に悲しい思いをさせまいと、自分ができる最善としてあの薬を調合し、処方し続けている。
けれども——それも長くは持たないだろうと踏んでいる。
「あの薬も……所詮はその場凌ぎにしかならん。いずれは効果も薄まり……淑子さんは……」
「…………」
妖怪たちは既に覚悟を決めている。あの薬の効き目がなくなり始めた頃、それで淑子が『どうなって』しまうのか。
だが、犬山まなは覚悟など何も定まっていない。
このまま、淑子の容態が安定すると無邪気に信じ込んでいる。
そんな彼女に——いかにして『現実』を理解させるか?
そんな問題に、鬼太郎たちはいつまでも頭を悩ませていた。
「……ちっ、余計なことしやがって……」
鬼太郎たちの会話を聞き終え、106号は心底面倒そうに舌打ちをする。
彼らがあのような薬を老婆に処方した経緯などは興味がなく、死神として老婆が鬼太郎たちの影響で命を長らえているという事実に忌々しいと顔を歪めた。
「まあいい……とりあえず、あの坊ちゃんに報告だ」
しかし、今は先に報告を済ませようと。
ここで聞いた話をエミーゼルにも伝えるべく、106号はその場から静かに立ち去っていく。
×
「ただいま戻りました、坊ちゃん!!」
「おう……で、どうだった?」
千葉県の沢田淑子の家の門まで戻ってきた106号をエミーゼルが出迎える。暇つぶしのためか、エミーゼルは何やら分厚い本に目を通していたが顔を上げ、106号の報告に耳を傾けていく。
「——そうか……まさか、あのゲゲゲの鬼太郎が絡んでくるとはな……」
話を聞き終えたエミーゼルが嘆息する。
西洋の死神である彼の耳にも、ゲゲゲの鬼太郎の噂は届いていた。なにせあの西洋妖怪の大御所——バックベアードを打ち倒したほどの相手だ。
西洋地獄の住人である死神は、直接バックベアードやその軍団と関わり合いになるようなことはないが、それでも彼らを倒したという鬼太郎の武勇がどれほどのものかは理解できる。
そんな相手が今回の案件に首を突っ込んでいると、エミーゼルはやや緊張気味に表情を固める。
「それでどうします? あのババアの魂を諦めて、さっさと他のとこ行っちゃいますか?」
鬼太郎と関わりたくない106号はそのように進言した。
死せる人間の魂など、他の場所にいくらでもゴロゴロ転がっている。彼個人としても、あの老婆の魂に執着する理由がない。薬の効力とやらが切れるのを待つのも億劫だ。どこか別の場所へ向かった方が遥かに効率がいいだろう。
「いや、問題ない……」
だがエミーゼルは首を横に振った。
「一応マニュアルを確認したが……今回のケースならあの婆さんの魂、今から刈り取っても問題にはならない」
「マニュアル……? ああ、何を読んでるかと思ってましたが……あんな分厚い規則書読んでたんすね……」
エミーゼルが先ほどまで読んでいた本——それは死神たちの『就業規則』が書かれていた本だった。
日本死神の仕事内容におけるルールが膨大に記載されているマニュアル本。しかしそんなもの、いちいち事細かに読んでおく真面目な死神などほとんどいない。
所詮は筆記試験などの際に一夜漬けで詰め込んでおく知識。現場主義者の死神たちはそういったルールに関してアバウトであり、割と好き勝手に自身の裁量で仕事をしている。
そんな不真面目な日本死神相手に、西洋死神であるエミーゼルはそこに記載されていた就業規則の一文を読み上げる。
『——魂を回収する際、その人間の生命反応が完全に停止していることを確認した上で、肉体から魂を切り離さなければならない』
死神としての基本原則だ。それを破ってしまったからこそ、106号は謹慎処分などを受ける羽目になった。
だが——何事にも例外というものは存在する。その例外的な措置が書かれている一文を、エミーゼルはさらに読み上げていく。
『——万が一、肉体が何らかの理由で定められた寿命を越えてしまった場合、その人間の肉体的な死を待つことなく、その者の魂を肉体から切り離すことが許可される』
「……それって……!」
読み上げられた内容に106号の顔が明るくなる。それはまさに今回のケース——薬で寿命を伸ばしている沢田淑子に当て嵌まるものだ。
死神のルールそのものが、今からあの老婆の魂を回収しても問題ないと保証したのである。
「それなら何も問題ないっすね!! さっさと収穫しちゃいましょう!!」
先ほどまでの渋い態度とは正反対に、死神106号が意気揚々と大鎌を取り出す。
「へっへっへ! 鬼太郎のやつ、悔しがるだろうぜ!!」
今のうちに淑子の魂を回収してしまえば、いかに鬼太郎とて何も出来まいと。境港での一件の趣向返しになると106号は今から愉快な気持ちであった。
「——待て」
ところが、106号の行動にエミーゼルが待ったをかける。
彼は何事かを思案した上で——106号にこれからの方針について話していく。
「ふん、ふふ~ん♪ 淑子伯母さん……喜んでくれるかな?」
休日の朝。既に沢田淑子の家近くまで来ていた犬山まなはご機嫌に鼻歌など唄っていた。
彼女の手には砂かけババアから受け取った薬の他に、色々なお菓子の袋が握られている。苦い薬の口直しのため、まなが取り揃えたものだ。
ここ連日、まなはこのように淑子の家を訪れては彼女を見舞っている。
「明日にはお母さんが出張から帰ってくるし! きっと淑子伯母さん、会いたがってるよね!」
今現在、まなの母親である犬山純子は仕事で家を留守にしていた。淑子の具合が悪くなったという報せから、突然仕事が忙しくなってしまっていたのだ。そのため、純子は未だに淑子のところへお見舞いに来れないでいた。
しかし、明日になれば仕事もひと段落片付き、純子も淑子の見舞いに来れるようになる。
純子と淑子——彼女たちはお互いに似たような境遇、沢田家の実家から飛び出してきた間柄だという。
そのため、淑子は若いころから純子の面倒を見てきており、純子の方も世話をしてくれた淑子にこの上ない感謝を抱いている。
そんな純子が見舞いに来れば、さらに淑子の容態は良くなるだろうと。
まなは淑子を『生かせる』という希望を無念に抱いていた。
「——おい、そこの人間」
「えっ!? わ、わたし……?」
だが、そんなまなの希望を根底から覆す存在が姿を現す。
人間たちを『死せる』運命へと導く——死神という存在である。
「ええっと……キミは……どこの子かな? お姉ちゃん、ちょっと寄るところがあるんだけど……」
フードを被った男の子・西洋死神エミーゼルから声を掛けられた当初。まなは彼をただの子供だと思い、やんわりとその呼びかけに断りを入れる。
小学生くらいの彼と今は遊んではあげられないよと、言い聞かせるような口調で。
「——おい小娘!! 坊ちゃんに舐めた口きいてんじゃねぇぞ!!」
すると、そんな無礼に彼の横に立った死神106号が苛立ち気味に吐き捨てていく。
「あ、あなた……境港のときの!?」
日本死神の特徴的な顔を見た瞬間、彼女は境港での一連の出来事を思い出して身構える。
境港の隠れ里。
子供たちが閉じ込められていた異界。その異界から子供たちを連れ出し——その魂を無理やりにでも奪おうとした『悪い』妖怪だ。
少なくとも、それが犬山まなという少女の死神に対する印象であり、今この瞬間もその感情は変わらない。
「な、何しに来たの!! わ、わたしを……こ、殺しにっ!?」
そのときの印象から、まなは死神が自分の命を奪いに来たと思い込んで身構える。
しかし、それは大きな勘違いである。
「へっ! 残念だが……お前さんの魂に用はないさ。用があるのは……あの沢田とかいうババアの魂だ!!」
「ああ、ボクたちは今宵、あの老婆の魂を刈り取る」
「——そ、そんな!?」
死神たちが狙っているのは寿命を迎える沢田淑子の魂であり、それをわざわざ犬山まなへと告げていた。彼らの言葉にショックを受けるまな。
そうやって現実を分からせたところで——死神たちはまなに背を向ける。
「——これは決定事項だ。せいぜい今日のうちに、別れを済ませておけ……」
まるでそのくらいの猶予時間はくれてやるとばかりに、死神エミーゼルが素っ気ない言葉を残していく。
そうして彼らは音もなく、その場から一時消え去っていく。
「……淑子伯母さんが……死ぬ? 死神に……こ、殺されちゃう?」
まなは暫くの間、動揺で身動きが取れないでいた。
淑子が死ぬ、魂が奪われる。
死神たちのその言葉に——まなは境港での一件を思い返す。
隠れ里の異界で出会った子供たち。
短い間だが友好を深め、友達になった子供たち。
鬼太郎のおかげで彼らの魂があの死神に奪われることはなかったが——それでも彼らに待っていたのは『死』だった。
二百年と異界に閉じ込められていた彼らの肉体は、現実世界に戻った瞬間、その時間の揺れ幅に耐えることが出来ずに崩壊した。
まなは彼らが死ぬ瞬間を——彼らが骨となり、その痕跡すら跡形もなく風化する瞬間を目撃した。
まなにとって——死ぬとは『ああなる』ということである。
「い、いやだ……そんなの嫌だよ!!」
もうあんな悲しい気持ちにはなりたくない、誰にも死んでほしくない。
そんな思いに駆られ、まなはすぐにでもスマホで助けを呼んでいた。
「——お願い、助けて!! 猫姉さん……鬼太郎!!」
ラインで連絡が取れる猫娘へ。
そして——誰よりも強く、頼れるゲゲゲの鬼太郎へと。
それで淑子は助かると、心からそう信じて——。
人物紹介
死神エミーゼル
ディスガイア4に登場する主要キャラの一人。
原作では最初、魔界大統領ハゴスの息子として傲慢で我儘なクソガキとして登場しました。
物語が進むごとに成長していくのですが、今作では既に成長している状態。
そのため、ある程度冷静なエミーゼルくん。真面目な死神としての一面を描いていきます。
でも彼らしいツッコミ役、苦労人な面もいずれは描写していきたいとは思います。
沢田淑子
前回のハベトロットの回にもちょっと話に出てきた、沢田家の親族。
九十歳にしてかなり気の強い、まなの大伯母。
きっと純子にとって、唯一頼りになる親族だった。それが本作の設定です。
アニメ20話『妖花の記憶』でのゲスト。
今回の話で……彼女はーー
死神たち
死神のクロスオーバーと言えば『BLEACH』を思い浮かべる人が多いでしょう。
ですがあの作品は世界観が特殊すぎて、鬼太郎との兼ね合いがちょっと……。
なので今作の死神は鬼太郎の世界観を優先した容姿になっています。あくまで日本の死神はですが。
彼らの地獄での生活感は『サラリーマン死神』、そして『鬼灯の冷徹』の獄卒たちの暮らしをそれとなくイメージしてミックスしてます。
彼らにも、養うべく妻や子供がいるのです。
106号
鬼太郎アニメでも死神は番号で呼ばれることがあります。
本作では106号をアニメ66話『死神と境港の隠れ里』で登場した死神としています。
42号
お迎え課の係長。106号にとって嫌味な上司。
ちなみに割り振っている番号はアニメや漫画に出てきた死神の実際の番号。
ただ番号は同じでも完全に別人なのでご注意ください。
今回の話は死神や地獄の設定など。色々と作者独自の解釈を交えて描写しています。
何か不明な点や不可解な点があれば感想欄でどうぞ。必要に応じそれとなく解釈を足してみたりしますので。