なんやかんやで丸一か月経ちましたが、ようやく更新の目途が立ちました。
今月は仕事が忙しかったこともありましたが、だいたい『スパロボ30』や『遊戯王ラッシュデュエル最強バトルロイヤル』。
そして、FGO最新イベント『ぐだぐだ龍馬危機一髪 消えたノッブヘッドの謎』の影響で執筆が遅れていました。
特に今回のぐだぐだイベントは実に良かった! もしかしたら過去最高のぐだぐだイベントだったのではないでしょうか?
高杉も、武市先生も、新兵衛も。全員が欲しくなるような大活躍。
……でも、みんな揃ってNPCなんですよ……。
運営さん、せめてバトルモーションがある田中くんだけでも、実装してくれんでしょうか? 彼らと人理を救えないのが、とっても辛いです……。
それはさておき。
今回は前回と同じ『ディスガイア4』シリーズから、フーカとデスコの二人が参戦します。
前回の話の続きではありますが、この話だけでも楽しめるような構成にはなっています。
ここ最近、ずっとシリアスな話が続いていたようなので、今回はギャグ全開!!
彼女たちの破天荒な活躍をお楽しみください!
「…………はぁ~…………」
「……まなってば、最近ずっとあの調子なのよね……」
調布市にある中学校、とある二年生のクラス。
そのクラスの女子生徒・犬山まなが窓際の席でため息を吐いており、その様子を彼女の親友である桃山雅が心配そうに見つめていた。
「そうだね……確か、親戚の人が死んじゃったんだっけ?」
「ええ、お婆さん……いえ、大伯母様が亡くなられたとか……」
雅だけではない。まなと仲の良い他の女子——石橋綾や辰神姫香も、ずっとまなのことを心配していた。
まなに元気がない理由なら彼女たちにも分かっている。先日、まなが数日ほど学校を休んだ際、彼女が親戚の葬式に出席しているのだと担任の先生から聞かされた。
親しい人の死——それ自体は既に過ぎ去ってしまった過去であり、その事実を覆すことは誰にも出来ない。
生きている人間に出来るのは亡くなってしまった人の分まで生きていくことだけ。悲しみに折り合いを付けながら、少しずつでもいつも通りの生活に戻っていくしかないのだ。
「…………」
だが、まなは未だに悲しみから立ち直れないでいる。ため息の数も多く、いつもの快活さも失われたまま。これでも大分マシになった方なのだが、周囲の人々はそんな彼女の落ち込みようを案じていた。
どうすれば以前のように笑顔が溢れる彼女に戻るのかと、色々と知恵を巡らせる友人たち。
悩んだ末の結論として——
「ねぇ!! 今日の放課後……わたしたちでまなを元気づけて上げない!? こう……パアッっと、盛り上げてさ!!」
親友である雅がまなを励まそうと、みんなと一緒に騒ぐことを——パーティを催すことを提案する。
「そうだね……」
「ええ、私もそれがいいと思います!!」
安易な思いつきだったが、綾も姫香もこれに賛同した。難しいことを何も考えずに楽しめれば、きっとまなも笑顔になってくれるだろうと期待する。
「じゃあ……どこで集まろっか? カラオケ? ファミレス? わたしはどこでも構わないけど!」
そうと決まれば次は会場の確保だ。とはいえ、そこはやはり中学生。パーティといってもそこまで大規模なものではない。
いつも行っているような場所でどのように遊ぼうか、とりあえず候補を述べていく。
「——それなら、わたしの家に来なよ!」
すると、これに石橋綾が声を上げる。
「ちょうど新しいスイーツを考案しようと思っててさ。みんなに試食して貰いたいんだけど……どう?」
石橋綾の実家は『モモ』という喫茶店をやっている。彼女はその店で自作スイーツを提供しており、それがニュースなどで取り上げられたりもした。
将来の夢は天才パティシエール、日々のスイーツ開発に余念がないのである。
「そうね……わたしも、一度綾ん家の喫茶店には行ってみたいと思ってたとこだし!」
「私もそれで構いません!」
これに雅と姫香が二つ返事で了承する。
こうして放課後、雅たちはまなを喫茶店『モモ』へと連れて行くことになった。
×
調布市の商店街。様々な店が立ち並ぶ中、喫茶店モモは隅っこの方にポツンと建っていた。
店の隣には広い空き地が広がっており、少し前まではそこに巨大デパートやら、巨大ランドなどが建造されていた。それらの商業施設も石橋家が経営するお店で、周囲の商店街の客層を丸ごと奪っていたのだが、今はそれらの支店も潰れて元の空き地へと戻っている。
石橋家の本店であるモモも、以前よりは多少見栄えが良くなったくらい。相変わらず小さな喫茶店として営業を続けている。
「ただいま~!!」
「ああ、おかえり……綾」
「綾、お帰りなさい」
その喫茶店兼実家でもあるモモに帰宅した綾。店の主人でもある両親に元気よく帰宅を告げれば、父である
「お父さん、お母さん! 今日は友達が来てくれたんだけど……」
「こんにちは……」
「初めまして……」
綾は両親に友達——雅と姫香の二人を紹介する。
彼女たちがこの喫茶店に来るのは何気に今日が初めてだったりする。初訪問で店の内装へとチラチラ視線を向けながら、おっかなびっくりと挨拶をしながらモモへ足を踏み入れる。
「……お邪魔します」
「やあ! ええっと……犬山まなちゃんだったかな? よく来てくれたね」
二人の後に続き、犬山まなも喫茶店の扉を潜った。
彼女の方はこの店を何度か訪れているため、綾の両親とも顔見知りだ。久しぶりに訪れてくれたまなに智也たちも快い笑顔で彼女を迎え入れる。だが——
「……あれ? なあ、綾……あの子、大分元気がないようだけど、何かあったのかい?」
「あ……それはね……なんて言うか……」
面識があるからこそ、まなの顔色が優れないことに気づいてしまう。心配する両親が娘の綾に何かあったのかと尋ねるも、彼女も返答に窮してしまう。
『まなの親戚が亡くなって元気がない』と、そういうことを大っぴらに言うべきではないと迷ったためだ。
「まあ、色々あってね。今日はまなのためにみんなで軽くパーティーでもしようかと思って……ちょっと騒がしくなるけど、大丈夫だよね?」
とりあえず、まなに元気がないことを伝え、彼女を励ますために友達とこの店に集まった趣旨を綾は両親に説明する。
「ええ、私たちは構わないわよ。お客さんも……今はいないみたいだしね」
店主として、綾の両親は娘の提案を受け入れる。
店内を見渡せば他に客もおらず閑古鳥が鳴いていた。店側としては悲しいことだが、他にお客さんがいないともなれば好都合。
綾は友人たちを店の奥の席まで連れて行き、そこで腰を落ち着かせる。
「さてと……それじゃあ——」
皆が席に座ったことを確認し、綾はさっそくキッチンへと向かう。考案していた新作スイーツをまなたちに披露しようと、気合を入れて調理に取り掛かろうとした。
「——すいませ~ん!!」
「あ……お客さん?」
だが間が悪いことに、そのタイミングで他のお客さんが来店。綾の両親もそちらの対応を優先することになってしまう。
「いらっしゃ……!?」
「ませ……っ!?」
しかし、来店したお客と思われる二人組。
その『少女』たちの姿を目に留めた瞬間、店内にいた全てのものが言葉を失うこととなる。
「——ん……ちょっと、レトロな感じだけど……まあいいわ! ここで少し休憩しましょう!!」
客の一人——先頭に立っていったのは見た感じ、学生といった年頃の少女だ。ジャージを羽織り、その下に制服らしきセーラー服を纏っている。少々幼い顔つきから高校生というよりは中学生と呼んだ方がしっくりくるだろう、ちょうどまなたちと同じような年代の少女である。
髪型は長めのツインテール、背中にバッグを背負い、何故かペンギンっぽい帽子を被っている。もっともそれ以外でおかしな違和感はなく、あくまでただの女子中学生として受け入れることができる出立ちだった。
「——はいデス!! お姉様!!」
問題なのはもう一人、もう片方の少女だ。
その少女の背丈は小学生くらい。ペンギン帽子の女の子を『お姉様』と呼んでいることから、もしかしたら彼女の妹分なのかもしれない。
だが、実の姉妹ではないと思われる。似ている似ていない以前に——彼女は明らかに人間ではなかった。
「デスコもここでお休みしたいデス! お腹がとっても空いたのデス!!」
呑気に空腹を訴える、自身のことを『デスコ』と自称する少女。
彼女の本体と思しき『人間体部分』。それ自体、一応は少女と言えなくもないシルエットであった。小さな角や、尻尾が生えていたり。額に巨大な目玉のようなものがあったりと、ところどころおかしなパーツ構成ではあるものの、一応は人の形?を保っている。
しかし、その背中に装備されている別パーツの『ユニット』。それが彼女という存在を、もはや人間ではないことを明確に表現している。
まるでイカやタコのような触手を伸ばした謎の浮遊物体。所々に目玉のようなものがついており、それ自体がまるで生き物のように蠢いている。ぶっちゃけ、ちょっぴりグロテスク。
「…………」
「…………なに、あれ?」
そんなものを背中に取り付けている謎の少女に、誰もが唖然と放心状態に陥っている。
だが当人らは周囲の視線などお構いなし。何事もなく店内へと足を踏み入れていく。
「い、いらっしゃいませ……」
「ええっと……二名様でよろしいでしょうか?」
動揺しながらも、店員として綾の両親は彼女たちに声を掛けた。あまりにも異形な客ではあるが——『こういったもの』の相手をするのは初めてではない。
そのため、ある程度冷静に対処が出来てしまう石橋家の人々。
「えっ……二人?」
すると、それにペンギン帽子の女の子が驚いていた。彼女はデスコという少女の方を振り返りながら、少し不思議そうに口を開く。
「……デスコ、ちゃんと気配消してる? この人たち……アンタのこと認識してるみたいだけど?」
ペンギン帽子の彼女はデスコが他人にも見えている事実に驚いていた。普通に考えればこんな外見の少女、視線を集めてもおかしくはないのだが。
「ちゃんと言われた通り消してるデス!! けど、それでも見えちゃうってことは……この人たちはそういう、見えてしまう人たちなのデス!」
デスコはちょっぴりむくれながらそんなことを呟く。その呟きに真っ先に反応したのが犬山まなであった。
「あのっ!!」
二人のやりとりからもしやと、ある種の確信を持って——まなは彼女たちに問い掛けた。
「——アナタたち……もしかして、妖怪ですか?」
×
「——へぇ~!! そうなの!? わたしが留守にしている間に、日本も随分とファンタジーな国になったもんね……」
「——ビックリなのです!! まさかデスコの存在を認識できる人間が、こんなにも沢山いるなんて!!」
数分後。例の少女たちはまなたちと同じテーブルに座り、親しげに話しかけていた。
「え、ええ……そうなんです、はははっ……」
「まあ、もう慣れたもんよね……はぁ~」
まなたちの方も、自然な調子で少女たちのことを受け入れていく。
なにせ、彼女たちのような『妖怪』の存在。それはまなにとっても、その友人たちにとっても、もはや当たり前のものとなりつつあるからだ。
本来、『妖怪』といった人ならざる存在を、現代人たちはそう簡単に認識できない。科学の発展と共に信心深さを失い、闇への恐怖や畏怖を忘れた人間たち。彼らは妖怪を『いない』ものとして認識し、妖怪たちも安易に人前では姿を晒さないようにしていた。
だが昨今の妖怪騒動により、大衆の間で彼らの存在は一般化。妖怪の存在を信じるのものも多くなり、霊感が高くないような人間でも、ちょっとしたきっかけで彼らを認識できるようになっていた。
喫茶店モモにいたメンバーも。鬼太郎と友達であるまなを含め、その全員が何かしらの形で既に妖怪と関わりを持っている。
だからこそ彼女——デスコという妖怪少女の姿を、ここにいる人々は明確に視認することが出来ていたのだ。
「じゃあ、改めて自己紹介するわ! アタシはフーカ……風祭フーカよ!
まなたちがデスコを認識したことをきっかけに親近感を抱いたのか。まずはペンギン帽子の女の子、見た目は完全に人間な
「言っとくけど……アタシはただの人間だから! そこんとこ、勘違いしないでね?」
「えっ!? ああ、そうだったんですね、わたしはてっきり……」
人ならざる異形と一緒にいたフーカだが、自分はあくまでただの人間だと自称する。鬼太郎や猫娘のように、一見すると人間に見える妖怪もいるため、まなはうっかりフーカも妖怪だと思い込んでいた。
彼女は帰国子女とのことで、今回久しぶりに日本を訪れたという。一応は一歳年上の彼女へと敬意を払いつつ、続くその言葉に耳を傾けていく。
「そんで、この子がデスコ!! アタシの……可愛い妹よ!!」
「初めまして!! お姉さまの妹……デスコなのデス!!」
一人称から既に名前らしきものを何度も叫んでいたが、改めて異形の女の子が自身の名前を名乗る。
「……い、妹……ですか?」
「…………妹?」
デスコという少女。フーカの妹だと言うが、こちらはどう見ても人間ではない。人間の少女が妖怪の少女を妹として連れ回っている。そこに何らかの事情を感じ取り、あえてまなたちからは何も聞かないでいる。
すると、フーカの方からデスコとの関係。彼女がどういった存在なのかを説明してくれた。
「デスコはね……科学者であるアタシのパパが造った、アタシ専用の妹なのよ!!」
「つ、造られたって……え? 造ったて……デスコちゃんを!?」
これには、まなたちも驚きを隠せない。
妖怪であるというだけならまだ納得も出来るのだが、さすがに『造られた』というのはあまりにも予想外だ。
人間の科学技術によって造られた妖怪——そこに禁忌的なものを感じずにはいられない。
「そうなのデスよ!! お姉様とデスコのパパは世界でも指折りの頭脳を持つマッドサイエンティストなのデス!!」
しかし、デスコからはこれといった悲壮感は感じられない。彼女は自分を造ってくれた父親のことを誇るかのように語り、自らが造られたその存在理由を元気よく叫んでいた。
「——デスコはお姉様の世界征服の夢を叶えるために造られたのデス!! お姉様のために、デスコはこの世界を支配するラスボスを目指しているのデス!!」
「…………」
「…………」
「…………」
幼い子供が無邪気に夢を語っている。その輝かしい顔だけを見るならば微笑ましい気持ちになれるのだが——語られた内容が内容だけに皆が黙り込む。
それだけ『世界征服』という響きには強烈なインパクトがあり、実現するにはちょっとばかしハードルが高過ぎる気がするのだ。
「ああ……今の話はなし! 聞かなかったことにしといて……」
実際、姉であるフーカもその夢を実現するのには色々と障害が多すぎると分かっているのか。少し気まずげにデスコの言葉を聞き流してくれるようお願いする。
「そ、そうだ!! せっかくだし……さっき話してた新作スイーツってやつ、アタシたちも食べてみたいわ! ねぇ、デスコ!?」
そして、露骨に話題をまなたちが試食しようとしているという新作スイーツへと持っていく。それは話を逸らしたいというのもあったが、女子として甘いお菓子に興味があるというのもまた事実。
「おお! 新作のスイーツ!! デスコも食べてみたいデス!!」
これにはデスコも勢いよく食いついた。
世界征服の野望よりも、今は目の前の甘いスイーツだと。ちょっぴり意地汚くも、涎が口元からこぼれ落ちる。
「えっ……? ああ、そうですね。急いで用意します!」
その要望にハッと目を覚ましたかのように、将来の夢がパティシエールである石橋綾が慌てて席を立つ。
当初の目的であった試作スイーツをみんなに楽しんで貰おうと、厨房へと駆け出していった。
「——お待たせ!!」
そうして、待つこと三十分。綾が試作スイーツをテーブルへと運んでくる。
運ばれた時点でそれは銀のトレーに乗せられ、銀の蓋によって覆われていた。
その蓋を目の前でオープンし、皆を驚かせようという趣向なのか。作り手である綾が不敵な笑みを浮かべていることから、相当自信のある一品であることが窺い知れる。
「それじゃあ……オープン!!」
『——おおっ!?』
綾は意気揚々と覆われていた蓋を外し、秘されていた中身は皆に開示する。まなたちはその新作スイーツを目の当たりにし、歓声を上げた。
「——これが、喫茶店モモの新しい看板商品……マリトッツォよ!!」
「……なにこれ!!」
「す、すごい……クリームが溢れんばかりに……」
綾の新作スイーツは——マリトッツォ。イタリア発祥のお菓子であった。
これはブリオッシュ生地に、たっぷりの生クリームを挟んだ一品である。本場ローマでは朝食として、カプチーノと一緒に楽しむんだとか。
特徴的なのは、なんといってもそのビジュアル。パンの間にクリームを、これでもかと溢れんばかりに盛り込んだ一品。正直、胸焼けしそうなほどの量である。
「凄いバズりそう! ……ねぇ、これ、インスタに上げていい?」
その見た目から、食べるよりも先にスマホで写真を撮る桃山雅。フォロワー数爆上がり間違いなしと、さっそく自身のSNSで拡散していく。
「全然いいよ、寧ろどんどん広げちゃって! 今年は絶対これが流行ると思うから!!」
それを快くOKする綾。彼女にとってもそれが狙いで、今年はこのマリトッツォを流行らせていきたいとのこと。
ちなみに、このSNSへの投稿をきっかけにマリトッツォは瞬く間に日本での知名度がアップ。そのビジュアルを活かし、各種メーカーが様々なアイディア商品を開発。
来年の暮れには、流行語大賞にノミネートされるほどの話題スイーツになるのだが——それはまた別の話。
「これは……凄いわね、想像以上だわ!」
「クリームがこんなにたっぷり!! 夢のようデス、お姉様!!」
今はただ眼前のスイーツを全力で楽しむばかりと、フーカやデスコも幸せそうにマリトッツオを口いっぱいに頬張っていく。
「ふふふっ……ほんと、美味しそうだね」
友達や今日知り合ったばかりの子たちが嬉しそうにスイーツを頬張っていく光景を前に、まなの口元からも笑みが溢れていく。
それは意識することなく、自然と溢れ出た笑みだったからこそ、犬山まなという少女の心情を如実に表していた。
「——元気になれましたか、まなさん」
「……えっ?」
そんなまなの微笑みに、辰神姫香が安心したように笑いかける。
「雅さんも、綾さんも。私も……とても心配してたんですよ……まなさんのこと」
「あっ……」
姫香の言葉にまなはハッと気づかされる。
ここ数日。大伯母である淑子の件をずっと引きずっており、まなは自分でも落ち込んでいることは自覚していた。しかし、それを心配してくれる皆のことまでは考えていなかった。そのせいで周囲に迷惑を掛けていたと、今更ながらに気づいたのだ。
「ご、ごめんね……なんだか、心配掛けちゃってたみたいで……」
友人に心配を掛け、色々気を遣わせてしまったことをまなは謝罪する。きっと今日の唐突に開かれたこのお茶会のようなパーティーも、自分のために催してくれたものなのだろう。
そのことに申し訳なさを感じつつ、胸の内からは嬉しさが込み上げてくる。
「けど、もう大丈夫だから……励ましてくれてありがとう!!」
色々と悲しいこともあったが、皆のおかげで今度こそ完全に吹っ切れた。
いつまでもくよくよしてはいられないと。まなはいつもの調子を取り戻し、心の底からの笑顔を浮かべる。
「……どうやら、そのようですね。安心しましたわ!」
まなが空元気でないことを察し、姫香も安堵したようにホッと息を吐く。
「さあ! 私たちも食べましょう!! 面白い見た目かもしれませんが、見ているだけでは勿体ないです!!」
「うん!! そうだね!!」
気分を取り戻したのなら、後はこのパーティーを楽しむだけだ。
まなや姫香も遅れてマリトッツォを口にしていき、その美味しさに舌鼓を打っていく。
「……なんだか知らないが、良かった良かった」
「……子供って、本当に強いのね」
まなが立ち直っていく様子を含め、子供たちがはしゃぐ光景を店のオーナーである石橋夫婦が見守っていた。
何があったかは知らないが、大人である自分たちが手を差し伸べる必要もなく、子供たちは自分らの力で抱えていた問題を解決してしまった。子供というものは本当に強いものだと『改めて』感心する。
自分たちもあの子たちを見習い、とりあえず仕事に精を出すかと。お客様の来店に備えてキッチンで作業を進めていく。
「おっ? ああ、いらっしゃいませ——」
すると、そのタイミングで入り口の扉が開く鈴の音が鳴り響く。
店のものとして新たなお客様に対応しようと、石橋夫婦がそちらの方を振り返るが。
「——おやおや、すっかりしょぼくれたお店に戻っちゃってまあ……」
「っ!! あんた……いつぞやの!」
店の入り口に立っていた人物を前に、彼らは顔を顰める。
その男は、まさにうそん臭さの権化。
ボロ布を纏った、あからさまに怪しい出立ちの男であった。
「……ん? って、臭っ!?」
「は、鼻が曲がりそうなのデス!!」
その男の放つ悪臭を前に、フーカやデスコが思わず鼻を摘む。嗅ぎ慣れていないものにこの匂いはかなりキツイものがあるのだろう。
「うわ~……」
しかし悲しいかな。彼女——まなにとっては、ある意味嗅ぎ慣れた匂いだ。
顔を見るまでもなくそこにいる男が誰なのかを理解し、のっけから呆れた顔つきで仕方なく彼に声を掛けていく。
「何しに来たんですか……ねずみ男さん?」
そう、そこに立っていたのはねずみ男。
知り合いながらもどこか——というか、だいぶ信用の置けない相手である。
「おう、まなちゃん、久しぶりだな!」
ねずみ男の方からも顔見知りであるまなへと挨拶をしつつ、彼女に用はないと雑に言い放っていく。
「悪いが、今日はそちらのご夫婦と『大人』の話をしに来たんだ。お子様は大人しく引っ込んどいてくれよ?」
×
「——あんたと話すことなんかない。とっとと帰ってくれ!」
対話を望むねずみ男の登場に、石橋智也が問答無用で彼を追い返そうと声を荒げる。その反応から察せられるように両者は面識があり、その仲は決して良好とは言えない。
それは以前、石橋家の商売が大成功した際、ねずみ男がその儲けを上手いこと騙し取ろうとしたことから端を発する。
詐欺や強請りに恐喝と、あらゆる手段でねずみ男は一家から金を毟り取ろうとしたのだ。歓迎できる訳もないだろう。
「そう邪険にするなよ、石橋さん。俺は客だぜ? まずは水の一杯でも出すのが礼儀ってもんじゃないかな?」
にもかかわらず、ねずみ男は自分を客として扱うよう、カウンター席にドカッとふんぞり返り。
厚顔無恥とはまさにこのこと。相変わらず面の皮が分厚い男である。
「生憎……分不相応な財産は全て処分した。あんたに金を渡すような余裕、今のうちにはないぞ」
そんな横柄な態度のねずみ男に、彼の目的を先読みして智也がはっきりと言い切る。狙いが『金』を自分たちからふんだくることにあるのであれば、残念だがその目論見は破綻することになる。
確かに石橋家には無限に湧き上がるほどの、それこそ山のような『財』が築かれていた。デパートやアトラクションに加え、自分たちの御殿まで建設し、それでも尚余りあるほどの金だ。
しかし、彼らはその財産をほとんど処分した。自分たちのような人間が大金を持つと碌でもないことになると骨身に染みたからである。
今の彼らはこの小さな喫茶店を経営するだけが精一杯の経済力しかなく、誰かに施しを与える余裕などない。
だが——
「そんなこと言って……どうせいくらかは残してんだろう?」
その言い分をねずみ男は全く信用していなかった。どうせどこかに金を隠しているのだろうと、いやらしい笑みを浮かべながら彼らにそっと耳打ちする。
「あんたたちみたいな人間が、そう簡単に手にした金を手放す筈がねぇんだ。あんたたちみたいな……欲深い人間がな」
「……っ!!」
「あ、あなた……」
ねずみ男の言葉に石橋夫婦は何も言い返せなかった。実際に彼ら自身、自分たちが欲深い人間である事を『前回の事件』で思い知ったからだ。
今年の初め、石橋家は商売が大繁盛することで信じられないほどの大金持ちとなった。だが、それは彼ら自身の努力による成果ではない。
自分たちの家に住み着いた妖怪・
だというのに、彼らはすっかりセレブ気取り。夫婦揃って座敷童子の恩恵に胡座をかき、目の前の金にだけ執着するような、浅ましい人間へと成り果ててしまった。
そんな彼らの目を覚まさせたのが——娘の綾である。
お金のせいで人が変わってしまった両親に、彼女は訴えたのだ。『お金なんか要らない!!』『自分の作った料理を美味しいと言って欲しいだけなんだ!!』と。
娘の涙ながらの説得に、彼らは自身の過ちに気づいた。子供のおかげで親として、人として本当に大事なものを悟ったのだ。
そうして反省した夫婦は心を入れ替え、一からやり直すために分不相応な財産を全て処分したのである。
「俺には分かるぜ……あんたたちは俺と同類だ。どうあったって、自身の欲望に抗うことなんか出来ねぇんだよ」
「……」
「同類は同類同士、仲良くやろうじゃねぇか……なぁ?」
しかし、ねずみ男は夫婦のそういった感情を一時の気まぐれ程度にしか思っていない。彼らからは自分と同類——お金に汚い匂いがすると、馴れ馴れしくもすり寄っていく。
「あんたたちも俺も、脛に傷のある身だ……過去の醜聞が明るみに出るのは、色々と不味いだろ?」
「っ……!」
「昔は随分と荒稼ぎしたそうじゃないの……被害を受けた人間も結構いるって話だし……なあ?」
その際、ねずみ男はチラリと脅し的な言葉も付け加えていく。夫婦が過去にしでかした悪行——詐欺紛いな会社を作り多くの人々を苦しめていたことに言及した。
そう、座敷童子の件で金に目が眩んだのも、もともと彼らにそういった側面があったからだ。お金のためならば他者の幸せを踏み躙る、人間として欲深い一面。
その弱みにつけ込み、ねずみ男は上手いこと夫婦から金を引き出そうと試みていた。
「——ちょっと、いい加減にしてください、ねずみ男さん!!」
しかしその企みもここまで。
その場にまながいた時点で、ねずみ男の計画は既に破綻していた。
「それ以上酷いこと言うようなら、わたし怒りますから!!」
「まなだけじゃないよ、おっさん!」
「そうです、私たちも許しません!」」
まなだけではなく、雅や姫香も。彼らの会話に聞き耳を立てていた彼女たちが、揃ってねずみ男へと棘のある視線を向けていく。
「……まなちゃん、話を聞いてたんなら分かるだろ? こいつらは悪いことして儲けてたんだ人間なんだよ。そんな連中をお前さんたちは……」
それに対し、ねずみ男は彼らが悪人であったという事実を強調していく。こんな悪人、わざわざ庇ってやる必要はないと。その事実を盾に無知な子供たちを黙らせようとする。
「そんなこと——ねずみ男さんに言われるまでもありませんから!!」
もっとも、その程度のことで黙る犬山まなでも、その友人たちでもない。
「綾の両親が悪いことをしていたのは聞いてます。でもそんなの関係ありません!! 綾は私たちの大切な友達で、その人たちはその家族ですから!!」
まなは既に知っていた。
例の座敷童子の騒動で明るみになった、綾の両親の秘密を。他でもない、綾自身の口から聞かされたのだ。
『——わたしの両親……実はさ……』
それは、後ろめたさから思わず溢してしまった綾自身の罪の告白だ。
自分の両親が悪いことをして生きてきた人間だと。それを友達に不意打ちで知られてしまうより、自分から話して楽になってしまおうと。綾はまなたちに口を滑らせていたのだ。
その事実を話した際は、それこそ軽蔑されてしまうのではと、覚悟はしていたようだが——
『——そんなの関係ないよ!』
綾の不安をまなたちは一蹴した。両親の過去の罪状など関係ないと。
魔が差してしまうことは誰にでもある、大事なのは——そこから立ち直れるかどうかだと。
結果として、綾の両親はそこから這い上がってきた。ならばそれ以上、まなたちが四の五の言う必要など何処にもない。
「それ以上しつこいようなら、鬼太郎や猫姉さんに言いつけますからね!!」
半端な揺さぶりなど、彼女たちには効果がなかった。
まなはねずみ男を退散させようと、鬼太郎たちの名前を出して逆に揺さぶりをかける。
「むむむ……」
鬼太郎、おまけに猫娘にまで首を突っ込まれては、さすがにねずみ男も黙るしかない。
そのまま尻尾を巻いておめおめと逃げ出すかと——そう思われたときであった。
「——どけ、ねずみ男! 貴様のやり方は、まどろっこしいわ!!」
ねずみ男ではない、何者かの大きな声が店内中に響き渡る。
「誰よ!? ……って、デカッ!!」
「っ!? な、なんですか、貴方は!?」
その声の主の登場に、雅と姫香の二人が思わず息を呑む。
その男は、店の出入り口を塞ぐかのように扉の前に仁王立ちしていた。筋骨隆々の大男。見かけから威圧感がたっぷりであり、並の人間の胆力では一瞥しただけでたじろいでしまうほどの迫力がその男にはあった。
口元は鬼めいたマスクによって覆われており、よく見れば額に二本の小さな角が生えている。
体格も相まって人間離れ。いや、明らかに人間ではないオーラを全身から放っている。
「——き、金鬼の旦那!? も、もうちょっと待ってくれ! 今話をつけるところだから!!」
その男と顔見知りなのだろうが、何故かねずみ男もビビりまくっている。
「この店の店主は……貴様か?」
「な、なんだお前は……ぐっ!?」
金鬼の恫喝混じりの問い掛けに対抗し、店の責任者として智也も強気に睨み返す。
だがそんな彼の虚勢を、金鬼は無慈悲な暴力で黙らせる。その首元を問答無用で掴み上げ——片手の腕力だけで彼の体を持ち上げていく。
「あなたっ!?」
「お父さん!?」
一家の大黒柱の危機に妻の睦子と娘の綾が悲鳴を上げる。だが家族の悲痛な叫びも虚しく、一切の抵抗が無意味。「ぐ……っ!?」と苦しむ智也の首をさらに締め上げながら、金鬼とやらがドスの効いた声で自身の要求を突きつける。
「——今日よりこの土地は我ら『
この男の狙いも『金』であった。しかもねずみ男のように回りくどい手段はとらない。単純な暴力、恐喝によって無理矢理にでも人様の財産を奪っていく腹づもりだ。
そのやりようは、『ヤクザ』というより『半グレ』そのもの。
あまりに直接的な手段を前に、彼の共犯者らしきねずみ男も冷や汗をかいている。
「よ、よしてくれ、金鬼!! ここはあんたたちが幅を利かせてる伊勢や伊賀とは違うんだ! 下手な真似しようもんなら、すぐにでも鬼太郎が駆けつけて、全部台無しにしちまうぞ!!」
「そ、そうよ!! こんなことして、鬼太郎が黙ってないんだからね!」
ねずみ男は鬼太郎に首を突っ込まれたくないらしく、まなも彼の名前を出して大男を下がらせようとする。
だが、泣く子も黙る鬼太郎の名前を出したところで、金鬼の暴挙が止まることはなく。
「——笑止!! 鬼太郎が怖くて妖怪ヤクザが務まるものか!!」
怖いもの知らずの妖怪ヤクザ——極道者として、彼は声高らかに叫ぶ。
妖怪ヤクザ。
妖怪のことを知って二年になる犬山まなですら聞いたことのない用語だが、妖怪はいつの時代も人の歴史の影。社会の裏側を隠れ蓑にするものだ。
そして、人間社会にもはみ出し者——ヤクザや極道と呼ばれる集団がいる。妖怪の中にはそういった組織の中に紛れ、そこに生きる人間たちを模倣する形で独自の生態系を維持するものもいる。
それこそが、妖怪ヤクザ——所謂『妖怪任侠』と呼ばれる集団である。
彼らは他の妖怪たちよりも、さらに陽が届かない裏社会を住処としている。そのため滅多なことでは人前に出ることもなく、鬼太郎と揉め事を起こすこともほとんどなかった筈であった。
「呼びたければ呼ぶがいい!! あんな噂だけの小僧、この金鬼が返り討ちにしてくれる!! ガハッハハハ!!」
しかし、この金鬼という極道妖怪。いかなる理由かは知らないが、こうして表舞台に堂々と姿を晒している。
それなりに腕っぷしにも自信があるのか。鬼太郎の存在を必要以上に恐れてもいない。自信満々に高笑いを上げ、さらに調子に乗って石橋家の人間を締め上げていく。
「——っ!! 鬼太郎、猫姉さん!!」
これに危険な気配を感じ取ったまながすぐにでも鬼太郎に連絡を入れようと携帯を取り出す。
鬼太郎への直通ラインは猫娘への電話だ。猫娘にSOSを伝えれば、すぐに鬼太郎も駆けつけてくれるだろう。
「——おいコラ、デカブツ……」
だが、まなが猫娘に連絡を取るよりも先に彼女が——風祭フーカが動いていた。
「ああん? なんだ小娘、邪魔をするなら貴様も容赦は——」
彼女は金鬼に罵声を浴びせ、金鬼もそれに反応してフーカを睨みつける。自分の邪魔をすれば女子供でもタダでは済まさないと、威嚇的な眼光で彼女を黙らせようとしていた。
しかし金鬼が威嚇するよりも先に、フーカはどこからともなく取り出していた木製バットを構える。
そしてそのバットを——思いっきりフルスイング。
「——チョコレート!!」
謎の掛け声と共に放たれた全力の一撃が、見事に金鬼の顔面にクリーンヒット。
「ガハッ!?」
野太い悲鳴を上げながら、金鬼は吹っ飛ばされていき。
その巨体が——喫茶店の壁に大穴を開けながらぶっ飛んでいった。
×
「……ゴホッ! ゴホッ!」
「あなたっ!?」
「お、お父さん、大丈夫っ!?」
金鬼が吹っ飛ばされたことにより、首を絞められていた智也が解放された。咳き込む彼に睦子と綾が慌てて駆け寄っていく。
「あ、ああ……大丈夫だ。……け、けど……み、店が……」
智也は苦しみから脱したことに安堵しつつ、店の損害に目を丸くする。
助けられたとはいえ、さすがにこれは被害がデカすぎる。風穴が開いてしまった店の壁面を前に智也は顔面蒼白になっている。
「…………ちょっ!? ふ、フーカさん!?」
これには、まなも唖然となった。
人を助けるためとはいえ、いきなり相手の顔面に問答無用でバットを叩きつけたフーカの凶行に驚き、さらにその結果もたらされた破壊の爪痕に言葉を失う。
店の壁に大穴を開けるほどの勢いで金鬼なる妖怪を吹っ飛ばした少女——風祭フーカ。人間を自称しているが、その怪力は明らかに人間の域を逸脱している。
いったい、彼女は何者だというのか。
「よーし!! いい感じにかっ飛んだわね!」
「素晴らしいスイングデス、お姉様! これが野球の試合なら、場外ホームラン間違いなしなのデス!!」
一方で、金鬼をぶっ飛ばしたフーカは満足気に汗を拭う。デスコも喝采を上げ、姉であるフーカのバッティングセンスをよいしょよいしょと持ち上げる。
まさにスポーツ感覚、バッティングセンターでのワンゲームを終えた高校球児のように盛り上がっていた。
ところが、その一撃で終わりはしなかった。
「——こ、小娘ェエエエエエエエエエ!!」
バットでおもくそぶん殴られた金鬼だが、肉体そのものは無事。彼は小娘にしてやられた屈辱に顔を歪めつつ、瓦礫を押しのけながら体を起こす。
今一度、フーカたちの眼前へと立ち塞がる。
「へぇ~……今のくらって立てるんだ。結構ガッツあるじゃない……チンピラにしては!」
すぐにでも復活した金鬼にフーカは感心したように呟きつつ、少々皮肉っぽく吐き捨てる。
いくら頑丈であろうと、所詮は一般人から金を巻き上げるようなチンピラに過ぎないと。彼の存在そのものを格下と見下した発言だ。
「ほざけ!! その程度で倒される私ではない。私は金鬼!
だが金鬼も負かされてばかりではない。転んでもタダでは起きないとばかりに、彼は自分を殴ったフーカの獲物——木製バットを指差す。
見れば彼女のバット——中の方からポッキリと、芯が完全に折れてしまっている。
「ありゃりゃ? これじゃ、もう使いもんにならないわね、このバット……」
「ハッ!! そんな得物で私を殴るからだ!! この金鬼の堅固さ、甘く見てもらっては困る!!」
フーカの無茶な怪力と、金鬼の驚くべき堅固さ。その二つが衝突を起こしたことでバットの方が耐えられなくなってしまったのだ。
フーカは武器を失い、無防備となってしまう。
「さて……これだけのことをしたんだ。覚悟は出来ているのだろう?」
しかし、無抵抗になったからといって容赦はしない。
ヤクザに逆らえばどうなるか、金鬼はフーカを徹底的に痛めつけようと彼女へとにじり寄っていく。
「に、逃げてください、フーカさん!! デスコちゃん!!」
これに悲鳴を上げるよう、まなは二人の避難を促す。
いくらなんでも素手で妖怪の相手などできない。フーカが本当に人間であれば尚のこと、これ以上は逃げるしかないと。
「ふん……いきがってくれるじゃない、三下!!」
しかし、フーカは退かなかった。
彼女はニヤリと口元を歪めつつ、デスコへと。これまた謎の号令を掛け——空高く大ジャンプ(その際、店の天井を躊躇なく破壊していく)。
「——やるわよ、デスコ!! フォーメーション……アルティマウェポン!!」
すると、その号令に合わせるよう、デスコもジャンプして叫んだ(勿論、店の天井は木っ端微塵)。
「——ラジャーなのデス、お姉様!! チェンジ・デスコ……スイッチ・オン!!」
「???」
「???」
唐突に始まってしまった何かに、クエスチョンマークを無数に浮かび上がらせる一同。
だが次の瞬間——それらが全てビックリマークへと置き換わる。
『——魔チェェエエエエエエエエエエエエエンジ!!』
『——な、なにぃいいいいいいいいいいいい!!!』
ありのまま起こったことを説明しよう!!
空高くまで舞いあがったフーカとデスコ。両者の影と声は空中で重なり合い——刹那、デスコが『剣』へとフォームチェンジ!
禍々しい姿の魔剣となったデスコをフーカが握り締め、美少女剣士・風祭フーカがここに降臨したのである!!
「…………いやいや!! 待て待て!? なんなんだそれは!?」
よくよく考えれば意味不明な仕組みだが、こういうのは突っ込んだ方が負けである。
フーカたちも、戸惑う金鬼の問い掛けになどいちいち答えない(というか、本人たちも理解していない)。
「さあ、いくわよ……覚悟しなさい!!」
そのまま問答無用、風祭フーカは勢いに任せて戦いのゴングを鳴り響かせる。
「——ドリームファイト……レディィイイイイイイイ……ゴ————ッ!!!!」
そして、戦いは呆気なく終わりを告げる。
「う……ば、バカな。こんな訳もわからん連中に……この金鬼が……」
最強の魔剣を手にしたフーカが、金鬼という名の鬼をボッコボッコに叩きのめす。金鬼も金鬼で頑張ったのだがいかんせん、フーカたちの攻撃が苛烈すぎた。
途中までは自慢の堅固さで何とか耐え忍んでいた金鬼も、彼女たちの武装合体したコンビネーションアタックは最後まで受け切れず。
最終的には根負けし、店の隣に広がっていた空き地へと、その身を沈めることとなる。
「ふぅ~……やれやれ、ようやく倒れやがったわね、しぶとい奴だったわ……」
「ですが、お姉様……これでこの商店街の平和は保たれたのデスね……」
金鬼を倒したことで達成感に満たされるフーカと、いつの間にか元の姿に戻っているデスコ。
喫茶店モモを含め、この商店街一帯から甘い汁を吸おうとしたならず者・金鬼はぶちのめした。これでこの地域は平和になるだろう。
彼女たちは大袈裟にも世界を救ったような気分に浸り、その場からクールに立ち去ろうとする。
「——あの……」
しかし、それで一件落着とはいかない。喫茶店モモの店長である智也がフーカたちを呼び止め。
「……うちのお店の被害は……どなた様に請求すれば……」
「ギクッ!?」
彼女たちがノリと勢いでぶっ壊した店の賠償金、それを遠回しに請求してきたのだ。
「…………ええっとね……ちょっと、ちょっと待っててちょうだいね……ほほ、ほほほっ!!」
これに困り顔になるフーカ。すぐさまデスコとヒソヒソ話を始めていく。
『……どうすんのよ! お店を修理する修繕費なんて、そんな大金持ち合わせてないわよ!』
『ですが、お姉様。これは不可抗力なのデス! 勝利のためのやむを得ない犠牲なのデス。ここはあの人たちに諦めてもらうしかないデス!』
『んなこと言ったって……ここで何もしないで去ったら後味悪すぎでしょ! お菓子だってご馳走してもらったんだから!』
『じゃあどうするデス? あっ? なんなら、プリニーさんたちに来てもらって直してもらいますデスか?』
『そ、それよ!! グッドアイディアよ、デスコ!! じゃあ、さっそく……』
話し合いの末、一応は何らかの解決策を得られたのか、少女たちの顔が明るくなる。
フーカは懐からスマホ端末を取り出し、どこかしらへと連絡を取ろうとする。
「——き、貴様ら!! こんなことして、タダでは済むと思うなよ!!」
すると、倒れていた金鬼が瀕死な体で地面を這いずりながら、フーカやデスコへと恨み節を炸裂させる。
「我々の崇高な志を邪魔したこと……必ず後悔させてやるぞ!!」
我々という言葉から、金鬼が決して一人ではないことが分かる。
先ほども『四鬼組』と、自らが所属する組織の名を口にしていた。もしかしたら、すぐにでも彼の仲間が報復にやってくるかもしれない。そのことに石橋家の面々が「ビクッ!」と肩を震わせてしまう。
「はぁ!? な~にが、志よ! 普通に生きてる人たちからお金巻き上げようとするチンピラが、偉そうに吠えるんじゃないわよ!!」
だが、風祭フーカにそのような恫喝通じない。彼女は電話を掛けようとした手を止め、這いつくばる金鬼を見下ろしながら堂々と物申していた。
「その通りなのデス! カタギの皆さんからお金を巻き上げるだなんて……そんなせこい金の集め方、ラスボスのすることではないのデス!!」
これにデスコも賛同の意を示す。もっとも彼女の場合、お金を奪い取る相手を選べと言っているように聞こえてしまうが。
いずれにせよ、彼女たちは金鬼の野蛮な行為を責めていた。だがそれで反省するようなら、最初からこんなことをしてはいないだろう。
「黙れ!! その金は全て、妖怪の復権のため、『先生』の活動資金として使われるものだ!! 断じて私利私欲で使われるものではない!」
金鬼には金鬼なりの大義あると、奪い取る金が如何なる目的で使われるかを力説する。
「妖怪の……復権? 先生? それってどういう……ねずみ男さん、何か知りません?」
金鬼の言葉に妖怪との繋がりが深いまながハッと目を見開く。金鬼の言葉の真意を尋ねようと、共犯者としてこの店に来ていたねずみ男に質問を投げかける。
だが——既にそこに彼の姿はない。
「あの人ならとっくにどっか行ったけど……」
「…………」
どうやら、フーカたちと金鬼の戦闘が始まった時点でそそくさと立ち去ったらしい。さすがの逃げ足の早さである。
「——ふん、くだらないわね!」
一方、金鬼が口にした大仰な目的を、フーカは鼻で笑い飛ばしていた。
「どんなご大層な理想を掲げようと、アンタたちが善良な人々を困らせた事実に変わりはない!! そんな連中のやろうとしていることに、意義なんてあるわけがないわ!!」
フーカは人としての正論をぶつけ、妖怪である金鬼の大義を真っ向から否定する。
「そんなくだらない目的のために、お店にこんな風穴まで開けちゃって……いったい、どう落とし前をつけるつもりよ!」
「……いや、それはお前がやったんだろ……」
しかし、どうにも話がおかしな方向へと転がり込む。
フーカは自分たちのやってしまったことまでも、どさくさに紛れて金鬼のせいにしようとしたのだ。これには、さすがの金鬼も呆れたように言い返すのだが。
「シャ————ラ————ップ!!」
「あでっ!?」
と、叫びながら金鬼の頭をぶん殴り、彼を強制的に黙らせるフーカ。
「いずれにせよ、アンタたちが碌でもない集団であることに変わりはないわ!! そんな連中を放置しておくわけにも行かないし……何より、そんな目的のために人々のお金が使われるなんて耐えられない!!」
そのまま、彼女は怒りと勢いに任せるまま——力強く宣言する。
「——これはもう徴収ね!! 徴収するしかないわ!!」
「…………」
「…………」
「……えっ? はっ? ……徴収、だと?」
フーカの宣言に目を丸くする一同。
いったい何をするつもりだこの女はと。デスコ以外の誰もがフーカの次なる発言を待つしかない。
「おお!! お姉様!! もしかして……アレをやるつもりデスか!?」
妹分であるデスコにはフーカのやろうとしていることが分かっているのか。何故か嬉しそうに両手を万歳させる。
「ええ、やるわよデスコ!! 悪の組織の元に集められた悪銭なんか、根こそぎ徴収してやるんだから!!」
デスコの期待に応えるように、フーカは立ち上がった。
この金鬼の所属する『四鬼組』なるものたちへと天誅を下すため——いざ、闇夜を切り裂く美しい天使たち。
「——さあ!! 美少女怪盗団トライエンジェル出動よ!!」
美少女だらけの怪盗団!! 『トライエンジェル』の出動をここに宣言したのである!!
ちなみに——エンジェルと銘打っているが、フーカもデスコも天使ではない。
唯一の天使である『彼女』も今回は欠席。トライですらないのであしからず。
人物紹介
風祭フーカ
ディスガイア4に登場する主要キャラの一人。
プリニー帽子を被った女子中学生。本人はあくまで人間と言い張っていますが……勿論、ただの人間ではありません。
その独特のテンション、最初のころはちょっと「うざいかな~」と感じた人もいたと思いますが、慣れてしまえばこれが結構癖になる。
原作ゲームでは追加シナリオで主人公を務めたほど。
今作でも原作通りのポジティブパワー、存分に発揮してもらいます。
デスコ
同じくメインキャラの一人。
風祭フーカの父親、風祭源十郎によって造られた人工悪魔。今作では人工妖怪とさせてもらっています。
妹として、フーカのためならば世界征服もなんのその!
彼女のために立派なラスボスとなるべく修行中。
フーカに比べると、割と常識的?
ですが今回はストッパ―役がいないので、二人揃って大暴走しちゃいます。
石橋智也、睦子
まなの友達、石橋綾の両親。
作中で名前を呼ばれることはありませんでしたが、一応EDに名前の表記があったので。
原作87話『貧乏神と座敷童子』の話で登場。過去に詐欺会社を運営していたという、友達の両親にしては珍しい元悪人ポジション。
一応は改心したということですが……人間の欲望は留まることを知りませんので。
金鬼
今作のゲスト妖怪……というか、やられ役。
元ネタは『藤原千方の四鬼』という、何気に鬼太郎シリーズでは初登場かもしれない。
今回は話の都合上、『妖怪ヤクザ』なるものを出したかったため、何か適当な妖怪はいないかなと。迷っていたところ、それとなくいい感じだったので出演してもらいました。
見た目のビジュアルは筋肉ムキムキの大男。ぐだぐだイベントの田中くんをちょっと意識してます。
金鬼の出番は今回限りですが、次回は他の鬼たちも登場します。
ですが、彼らのポジションも……
風鬼「金鬼がやられたようだな……」
水鬼「フフフ……奴は四鬼の中でも最弱」
隠形鬼「小娘ごときに負けるとは、妖怪の面汚しよ……」
てな感じです。
次回でフーカとデスコの話は完結させる予定。
なんとか、今年中には仕上げたいと思っています。