ですが今回から一気に回すことが可能、これはだいぶ効率化が図れる!
今年は何箱まで行けるか、林檎をガッツリと齧りたい……
などと思っていましたが、次回のイベントでついにあのコヤンスカヤが登場!
『非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ』。
レイドイベントの噂も流れていますし、そちらのために林檎を温存しておきたい気持ちも……。
いずれにせよ、FGOユーザーにとって熱い年末になることは間違いないでしょう!
今回でフーカ&デスコが主役の物語は完結です。
彼女たちの破天荒な暴れっぷり、どうぞ最後までお楽しみに!
妖怪ヤクザ・四鬼組。彼らは伊勢や伊賀、三重県を縄張りとする地方妖怪である。
構成メンバーの大多数が『鬼』であり、その中でも幹部として実権を握っているのが——『藤原千方の四鬼』と呼ばれる四体の鬼である。
彼らは飛鳥時代、藤原千方という豪族の人間に仕えていた過去を持つ、歴史に名を残すほどの鬼たちだ。
金鬼は、矢に射られても傷一つ付かない堅固さを誇る。
風鬼は、強風を起こして敵陣を破壊する。
水鬼は、水を自在に操り洪水や大雨を起こす。
隠形鬼は、気配を断ち、姿を晦まし奇襲をかける。
それぞれが得意とする『業』をもって、彼らは多くの人間たちを薙ぎ倒してきた。藤原千方の元を離れた後も、独自の勢力として四鬼組を結成。今日に至るまで妖怪ヤクザとして権勢をふるってきた。
そんな彼らの組が、妖怪ヤクザ四鬼組が——
今まさに、壊滅の危機に瀕していた。
「——ひ、怯むな!! 撃て撃て!!」
「——ここから先に通すんじゃない!!」
港の倉庫街、黒服姿の鬼たちが怒号を上げながら拳銃を乱射している。
ここは東京湾沿岸の倉庫街。東京進出を果たしていた四鬼組はこの倉庫周辺をアジトとし、ここからさらに勢力を拡大させるつもりでいた。
元々は地方ヤクザでしかなかった四鬼組だが、昨今の妖怪情勢。妖怪の存在が半ば世間から認められようとしている波に便乗し、さらなるシノギに手を伸ばそうとしていた。
そのための関東進出、彼らも今回の遠征には相当に気合を入れていた。
だが、その関東で大した活躍をする間もなく、四鬼組は謎の勢力からの襲撃を受ける。
「——おりゃッス!!」
「——特攻っッス!!」
「——プリニーッス!!」
それはペンギンのようなマスコットキャラに蝙蝠のような翼を生やした妖怪。
自分で自分たちのことを『プリニー』と叫ぶ、謎の生物たちの群れであった。
数十匹というプリニーたちが懐のカバンから短刀やら爆弾やらを取り出し、それを四鬼組に向かって一斉に投擲してくる。
「クソッ!! 何なんだこいつら!?」
「ボサッとするな!! こちらからもやり返せ!」
怒涛の攻撃にやや押され気味な鬼たち。しかし、それだけでやられるほど四鬼組もぬるくはない。
プリニーというペンギンたち。数こそは多いものの、一匹一匹の実力はそれほどではなかった。奇襲を受ける形で劣勢に立たされてはいるが、ここを耐え抜けば彼らにも立て直しを図ることが可能。
実際、プリニーたちだけであれば鬼たちも、ここまでの苦戦を強いられることはなかっただろう。
そう、敵がプリニーたちだけならば——
「——チョコレートっ!!」
「——おもちっ!!」
プリニーの群れの中に異物として紛れている少女たち。好物である食べ物の名前を叫びながら、敵対する鬼たちを容赦なく叩き潰していく。
プリニーという生物と似たような帽子を被った中学生ほどの少女。
背中に異形な生物らしきものを背負った小学生ほどの少女。
「ほらほら!! ボサッとすんじゃないわよ!!」
「プリニーさんたち、もっと頑張るデス!!」
その二人が明らかに戦力としてずば抜けて強く、彼女たちの指揮を受けてプリニーたちの勢いも苛烈さを増していく。
「りょ、了解ッス!!」
「フーカさんとデスコさんに続くッスよ!!」
「これも特別ボーナスのため……気合を入れてくッス!!」
プリニーたちにとって彼女たち——フーカとデスコという少女たちは逆らえない存在なのか。
もしくは、特別ボーナスという響きに釣られているだけなのか。
いずれにせよ、彼らは益々調子に乗って敵勢力である鬼たちを蹴散らしていく。
「な、なんなんだ、あいつら……」
「ヤベ……ヤベェよ、あの女ども!?」
この時点で、既に多くの鬼たちが戦意を喪失し始めていた。このまま成す術もなく訳も分からない連中に蹂躙されてしまうのかと。下っ端構成員はただただ震え上がるしかないでいる。
そんな中——
「——やれやれ、この程度の敵にビビりおって……それでも鬼か、情けない!」
「——どけ、若造ども! 此奴らの相手は我らが務める!」
自信に満ち溢れた声が一帯に響き渡り、突如巻き起こる『風』が戦況を覆していく。
「ん……? う、うわああああ!! と、突風ッス!!」
行進していたプリニー軍団を一陣の風が吹き飛ばす。それは唐突に巻き起こった突風であり、小さなプリニーたちをすぐ隣の海面へと容赦なく叩き落としていく。
「えええええ!? う、渦がっ……め、目が回るッス!?」
さらに追い討ちとばかりに、落ちていった海上にいきなり『渦潮』が発生。海流に飲まれていくプリニーたちが目を回しながらガボガボと溺れていく。
「ちょっと、どうしたってのよ! しっかりしなさい!?」
「プリニーさんたちが……流されてしまったのデス!?」
大多数のプリニーが戦線を離脱させられ、フーカとデスコが面食らった表情になっていく。彼女たちは突風を平然とやり過ごしていたようだが、プリニーたちの被害は甚大だった。
かろうじて残ったプリニーの戦力を数えながら、少女たちは——『突風や渦潮を起こした敵主戦力』と正面から対峙することとなる。
「ふん! この程度か……他愛もない!」
「雑兵など、いくら束になろうと我らの敵ではないわ!」
そこに仁王立ちしていたのは、筋骨隆々の大男。鬼めいたマスクで口元を覆い隠し、額に小さな二本角を生やした——言ってみれば、喫茶店モモに現れた『金鬼』の色違いのような鬼たちである。
片方が緑っぽい、もう片方が青っぽい色彩をしている。
「我は
「我は
二人の大男は特に聞いてもいないがわざわざ自己紹介をしてくれる。
そう、彼らも金鬼と同じく四鬼組の幹部。藤原千方の四鬼に名を連ねる二体の由緒正しき鬼である。
「貴様らだな? 金鬼を倒したという、小娘どもは?」
風鬼は威圧感たっぷりにフーカたちを睨みつける。
既に彼女たちが金鬼を打ち負かし、その勢いに乗じて自分たちを潰そうとやってきた襲撃犯であることは把握している。しかし、風鬼に焦燥感のようなものはなく、あくまでどっしりと構える。
「金鬼を倒した程度で調子に乗るでない! 所詮奴は硬いだけが取り柄……我らには遠く及ばぬ存在よ!」
水鬼も嘲るように吐き捨てる。
同じ幹部の四鬼であろうと、自分たちと金鬼では格も実力も段違いであると。お前たちなど物の数ではないと偉そうに踏ん反り返っている。
「ぷぷぷっ! なにそれ? いかにも雑魚キャラが言いそうな台詞じゃない?」
「その通りデス、お姉様! よくて中ボス……ラスボスが口にするような台詞でないことは確かなのデス!!」
それと対峙するフーカたちも堂々としていた。
プリニーたちを蹴散らしながら登場した風鬼と水鬼に怯むどころか、彼らの名乗りを陳腐なものであると揶揄うだけの精神的な余裕を見せつけていく。
「ふっ、愚かな小娘どもめ……せいぜい今のうちに調子に乗っているがいい。やるぞ、水鬼!!」
「おうよ、風鬼!! 我らに牙を剥けたこと……地獄で後悔させてくれようぞ!!」
余裕綽々なフーカとデスコの態度に気を悪くしながらも、風鬼と水鬼は互いに呼びかけて攻勢に出る。自分たちに逆らった愚か者に天誅を下すべく、大技を繰り出そうと自身の妖気を高めていった。
「はああああっ!!」
風を操る風鬼が天に向かって手を翳すと、上空の大気が風鬼の手のひらへと集まっていく。
「こおおおおおっ!!」
水を操る水鬼は地に向かって手を突き出すと、海の水が水鬼の手のひらへと集まっていく。
お互いに司る能力を最大限に高め——次の瞬間、かき集めたその力を二つに合わせる。
「で、出るぞ! 風鬼さんと水鬼さんの必殺奥義!!」
これに周囲で待機していた四鬼組の妖怪たちが色めき立つ
まさにこれこそ、風鬼と水鬼の必勝パターン。二人の力が合わさることで生まれる究極の奥義。その名も——
『——食らえ!!
水流を旋風に乗せて放つ波動攻撃、風と水の力を合わせた合体技。海流の渦が、まるで滝の如き勢いでフーカたちに向かって一直線に放たれる。
「すげぇ!! 水と風が一つになって、あの小娘共に迫っていく!!」
「これを破った妖怪は一人としていねぇ! 攻守共に完璧な技だ!!」
下っ端の鬼たちが技の解説をしながら、勝利を確信して喝采を上げる。事実、この技を破ったものは未だかつておらず、風鬼と水鬼たちですらもその顔に勝利のニヤケ顔を浮かべている。
しかし——
「ふん……デスコ!!」
「了解なのデス、お姉様!!」
鬼たちの必殺奥義を前にしながらも平然とするフーカ。彼女は妹分であるデスコを信頼し、その技の迎撃を彼女に任せる。
フーカの期待を一心に背負いながらデスコが一歩、その技の前に躍り出た。
「その程度の攻撃……デスコに通じると思ったデスか?」
デスコは背中のユニット、触手部分に妖気を集中。次の瞬間、その触手の先っぽ二つの口がぱっくりと開き——それぞれの口から『灼熱』と『氷結』、二つの異なるエネルギーがブレスとして放たれる。
二つの相反するブレスが、風鬼と水鬼の奥義と正面衝突。
そしてあっさりと、あまりにもあっさりと。彼らの必殺技を『相殺』してしまった。
「な、なにぃいいいい!? 我らの奥義が……!」
「や、破られただと……!? ば、バカな!?」
驚愕に目を見開く風鬼と水鬼。自分たちの奥義が破られるなどと、夢にも思っていなかったのか。彼らは呆然と立ち尽くすしかないでいる。
「ふはははっ!! ぼさっとしている暇はないデスよ!!」
だがその間にも、デスコは次の攻撃準備に入っていた。立て続けに触手の口から灼熱と氷結のブレスを吐き出していく。
「だ、第二撃っ!? い、いかん!!」
「こ、こちらの準備がまだ……っ」
慌てて風鬼と水鬼が応戦しようとするが、彼らが奥義を放つには数秒の『溜め時間』を必要とし、迎撃も間に合わない。
結果、無防備な鬼二体のところへ、デスコのブレス攻撃が容赦なく叩き込まれていく。
「ぐぉおおおおおお!?」
「ぎゃああああああ!?」
灼熱のブレスを浴びた風鬼が、全身を火だるまにしながら慌てて海へと飛び込んでいく。
氷結のブレスを浴びた水鬼が、その場でカチンコチンになって身動きを封じられる。
四鬼組が誇る幹部二人が、デスコの手によって易々と戦闘不能に陥ってしまう。
「ふっ、他愛もないデス。
「が、がいしゅう? む、難しい言葉知ってるのね、デスコ……まあ、それはさておき!」
デスコが難しい四字熟語で敵を容易く蹴散らしてしまった虚しさを表現するが、フーカにはその言葉の意味自体が伝わっていない。
フーカよりも、デスコの方が博識であることが判明する。まあ、それはそれとして。
「よーし! これで邪魔者は消えたし……じゃんじゃん進むわよ、プリニー隊!!」
「りょ、了解ッス!!」
敵の主戦力を薙ぎ倒したフーカたちは、プリニーの残存勢力をまとめ上げて再び進軍を開始する。
「——さあ、徴収よ! 徴収!! 悪の妖怪組織の溜め込んだ悪銭……たっぷり徴収してやるんだから!!」
彼女たちの狙いはこの倉庫街にあるという、四鬼組のアジト。そこに保管されている金庫である。
フーカはそこに納められている『金』を徴収しなければならなかった。
全ては正義のために、信念のため。
壊されてしまった(フーカたちが壊した)喫茶店モモを修繕するため。
決して日本旅行を楽しもうだとか、スイーツ食べ歩きの費用に充てようとか。
そんな邪なこと、考えてもいないので予めご了承ください。
×
「——な、なんだと!? 風鬼と水鬼の二人が……敗れたというのか!?」
倉庫街の最奥にある四鬼組のアジト事務所。部下の報告に驚きを隠せないでいるのは最後の幹部・
彼は四鬼組の中でもリーダー格にあたり、四鬼たちを含めた全ての構成員を統べる立場にある。
黒っぽい衣装に筋骨隆々の肉体。鬼めいたマスクに小さな二本角。やはり彼の容貌も他の四鬼たちと似通ったものになっている。
だが、隠形鬼は他の四鬼よりも直接的な戦闘力に乏しく、どちらかといえば頭脳派担当。特に近年は裏方業務に回ることが多い。
無論、下っ端妖怪たちよりは高い戦闘力があるのだが、風鬼と水鬼のゴールデンコンビには隠形鬼とて敵わない。
風鬼と水鬼が倒された時点で、既に四鬼組に勝ち目などなかった。
「て、敵はすぐそこまで迫っております!!」
「お、お逃げください、隠形鬼様!!」
「ここは我らが時間を稼ぎます!! その隙に……」
報告に来た側近の鬼たちもそれを理解しているのか、組のトップである隠形鬼に一時撤退を進言する。既に組織は壊滅寸前だが、組を指揮する隠形鬼が無事であれば立て直しを図ることも出来るだろう。
そのためであれば自分たちは捨て駒になると、組織への献身を示す健気な手下たち。
「に、逃げろだと!? ふざけるな!! そんな恥知らずな真似が出来るか!!」
しかし、これに簡単には頷けないのがリーダーの辛いところ。
どこの馬の骨とも分からぬ連中に好き放題にやられ、その果てに逃げ出した。そのような醜聞が外部に知れ渡れば面子丸潰れ。舐められたら終わりのこの稼業、たとえ生き残っても妖怪ヤクザとしての再起は絶望的だ。
だがそれでも、それでも部下たちは訴える。
「隠形鬼様、貴方は生き延びねばなりません!!」
「生きて……妖怪の復権のために……『先生』のために力を尽くさねばなりません!!」
「……っ!!」
妖怪の復権。それこそ、この四鬼組が最大の目的として掲げている理想の到達点。
彼らはそのために妖怪ヤクザなどに身をやつし、アコギな商売をしてまで『先生』のため、金を掻き集めてきたのだ。
その理想のためであれば、不名誉の一つや二つは致し方なし。たとえ泥水をすすってでも生き延びねばならないのだと。部下たちの必死な訴えが隠形鬼の心を動かす。
「…………分かった。お前たちの言う通りだ。恥辱ではあるが……ここは引こう」
屈辱にその身を震わせながらも、隠形鬼は生き残るために逃げる道を選んだ。
活動資金である金が詰まったジュラルミンケースを大事に抱え込み、修羅場と化していく戦場からの離脱を試みる。
だが、一歩遅かった。
「……っ!? 伏せっ——!!」
手下の一人が『何か』に気づき、仲間たちに警告を促そうとする。
しかし、彼の声が発せられるよりも先に——
突如、事務所内が閃光によって包まれていく。
「——よし!! 命中♪」
「——おおっ! これはまた、派手に爆発したのデス!!」
フーカとデスコ。そしてプリニーたちが爆発する建物を遠巻きに眺めている。
あの建物こそ敵アジトの事務所。それをプリニー隊からの報告で知ったフーカ。彼女はその手に握り締めた木製バットを用い、躊躇なく爆弾をあの建物へと打ち込んだのだ。
爆発によって真っ黒な煙が上がる事務所。果たして中にいるものたちの運命は如何に!?
まあ、無事に済んでいないことは誰の目にも明らかだが、そこで終わらせるほどフーカもデスコも慈悲深くはない。
「さあ、プリニー隊! さっさとお金を徴収してくるのよ!!」
『アイアイサーッス!!』
フーカは黒煙が上がる事務所への突入をプリニー隊に指示する。
プリニーたちもその命令を忠実に実行すべく、敵の屍が転がっているであろう建物へと殺到していく。
だが——
「——髪の毛針!!」
「いたっ!? いたたたたッス!!」
「——リモコン下駄!!」
「ぎゃん!?」
上空より銃弾のように飛来した針、そしてライフル弾のように飛んできた下駄によってプリニーたちが吹っ飛ばされる。
思わぬ形で突入を阻止され、彼らは建物に近づけない。
「むっ! 何者デスか!?」
この後に及んで誰が自分たちの邪魔をするのかと、針や下駄が飛んできた方角へと目を向けるデスコ。
するとそこには——
「……そこまでだ、キミたち」
暗闇の中から、一人の男の子が姿を現す。
下駄にちゃんちゃんこという、時代錯誤な格好をした少年。何者だという少女たちの疑問に、彼は静かな声で答えていく。
「ボクは……ゲゲゲの鬼太郎だ」
ゲゲゲの鬼太郎がこの場に駆けつけてくるまでには、ちょっと複雑な経緯が語られる。
まず最初、彼は犬山まなから『友達の家が妖怪ヤクザなるものたちから理不尽な脅迫を受けた』という連絡を猫娘を通して知らされた。詳しく話を聞くに、そのヤクザたちにはねずみ男が一枚噛んでいるというではないか。
激昂した猫娘がねずみ男をとっちめ、彼から詳しく事情を聞きだしていく。
ねずみ男の話によると、彼は妖怪ヤクザ・四鬼組の関東進出に協力してやっていたという。
藤原千方の四鬼が率いる四鬼組。地元では結構有名な鬼たちだが、所詮彼らは田舎者。何の後ろ盾もない状態で関東進出など容易く出来るわけもなく、地盤固めの段階から相当に苦労していたとのこと。
そこで名乗り出た、ねずみ男。彼は困窮している四鬼組に言葉巧みに取り入り、関東での口利きを引き換えに金銭を要求したのだ。実際、ねずみ男の仲介によって様々なシノギに手を伸ばすことに成功した四鬼組。
徐々にだが確実に、関東での地盤を確立していった。
しかし、その四鬼組の順風満帆なヤクザ道に暗雲が立ち込めることとなった。
謎の少女たち、フーカとデスコの登場である。
まなの話によると、彼女たちは四鬼組が溜め込んだお金を徴収すべく、彼らに喧嘩を売りにいったとのこと。
フーカたちの身を心配したまなが、鬼太郎に彼女たちの様子を見てきて欲しいとお願いしたため、彼は四鬼組のアジトへと単身で乗り込んだのだが——
「これは……ひどいな……」
現場へ駆けつけた鬼太郎。彼は死屍累々と横たわる(一応、息はある)四鬼組の面子を目の当たりにし、自身の考えを改める。
ここに来るまで、鬼太郎は四鬼組の鬼たちを止めるため。その活動を自粛させ、人間社会への手出しを控えさせるために彼らを説得しようと決意を固めていた。
フーカやデスコという少女たちのことは二の次、あくまで四鬼組を止めることを目的としていた。
だが、鬼太郎が説得する相手は四鬼組ではなかった。彼らを瀕死に追いやったあの少女たちこそ、鬼太郎が止めるべき相手だったのだ。
こうして、鬼太郎は暴走するフーカとデスコの前に立ち塞がっていた。
「何よ、アンタ。いきなり出てきて……アタシらになんか用?」
プリニー隊を蹴散らした鬼太郎に、フーカは気を悪くしたように突っかかる。
相手が誰かも分からないフーカにとって、鬼太郎の存在は邪魔者以外の何者でもない。自分たちの『正当』な徴収を邪魔するイレギュラー。イケメンだからといって、決して許されることではないのだ。
すると一匹のプリニーがフーカへと歩み寄り、鬼太郎が何者なのか説明を入れてくれる。
「フーカさん、フーカさん……ありゃ、ゲゲゲの鬼太郎ッスよ」
「ゲゲゲの……鬼太郎? ゲゲゲって……なに、それ苗字?」
「日本じゃ割と有名な妖怪らしいッスよ? なんでも……困っている人間の相談に乗って、悪い妖怪を退治してくれるとかなんとか……」
そのプリニーが語った内容もあくまで聞き齧ったレベルの噂話だ。鬼太郎自身は決して人間の味方というつもりはない。
「まなからキミたちのことは聞いてる。風祭フーカと……デスコというのはキミたちのことか?」
鬼太郎は相手を落ち着かせるため、自分が犬山まなの知り合いであること、彼女の頼みを受けてここまで来たことを話す
「あら? なんだ~! まなっちの知り合い? それならそうと言いなさいよね!!」
「おおっ!! まなっちさんの友達デスか!!」
すると、険しかったフーカとデスコの表情が途端に柔らかくなる。
まなっちと。喫茶店モモで知り合ったまなのことをニックネームで呼んでいることから、彼女や他の同級生たちには既に親しみを抱いているのだろう。
その知り合いということから、鬼太郎にもフレンドリーに接するフーカたち。だが——
「色々と言いたいことはあるが……とりあえず、今日はもう帰るんだ。これ以上、彼らを追い詰める必要はない」
鬼太郎はフーカたちに矛を納め、そのまま家に帰るように促す。公平な目線から見て、これ以上はただの一方的な暴力だと。四鬼組への執拗な攻撃を止めさせようとする。
「はぁっ!? 帰る? バカ言わないでよ! 肝心の獲物をまだ頂戴してないのに、帰るなんて出来るわけないじゃない!!」
しかし、その説得を素直に聞き入れる訳もなく。フーカはまだ目的を果たしていないと鬼太郎の要求を突っぱねる。
「アタシたちは怪盗……美少女怪盗団トライエンジェルなのよ!? 怪盗が獲物を前にみすみす引き下がるなんて、怪盗の名折れ……ここまで来た以上、きっちりお金は徴収して帰らないと!!」
「そ、その通りなのデス! デスコたちは怪盗としてのお仕事でここまで来たデス! タダ働きのままでは引き下がれないのデス!」
そう、本人たちも忘れていたが、彼女たちは正義の怪盗——『美少女怪盗団トライエンジェル』としてここまで来たのだ。
やり口が思いっきり強盗だとか、予告状はどうしたとか、トライなのに二人しかいないとか。
色々なところからツッコミやクレームが来そうなフーカたちの行動だが、それを指摘するほど鬼太郎は怪盗とやらのお約束に通じてはいない。
「…………どうしても、引く気はないのか?」
心中であまりこの子たちに関わりたくないと思いながらも、説得は不可能と判断。
多少なりとも力を行使する必要があると、気乗りはしないが戦闘態勢に構える。
「あら、やる気? 何よ、上等じゃない!!」
「お姉様の邪魔するもの……誰であろうと『死』あるのみデス!!」
鬼太郎の戦意を読み取り、フーカとデスコもすかさず身構える。
港の倉庫街で——少年と少女たちが臨戦態勢で対峙する。
「…………」
「……ゴクリッス」
その光景を固唾を呑んで見守るプリニーたち。彼らはあくまで傍観者に徹するようだ。
このままなし崩し的に戦闘に入るのかと。
そう思われたときである。
「——お前ら……何をやってるんだ!!」
鬼太郎とは別の少年の怒号が響き渡り、その場にいた誰もがその声がした方を見上げる。
そこに立っていた人物も少年だった。
黒煙が上がる四鬼組の事務所。その建物の上から、月を背にして現れた——フードを被った男の子。
その背には身の丈ほどの『
大鎌——それは魂の収穫者『死神』の得物であり象徴。
死神——それは彷徨える霊を刈り、その魂を正しい道筋へと導く死の使い。
日本の死神族は骸骨のような顔つきにしゃくれた顎が特徴的だが、少年はその特徴には該当していない。
そう、死神は死神でも、彼は日本死神ではない。
「これ以上の勝手は……このボクが許さないからな、フーカ、デスコ!!」
彼は西洋死神——死神エミーゼル。
それがその少年死神の、個人としての名前である。
×
「キミは……!?」
死神エミーゼルの登場に鬼太郎はやや緊張に身を強張らせる。
彼は先日、犬山まなの大伯母の魂を刈り取り、その命を終わらせた死神だ。それは死神としての正当な業務ではあったが、まなを大いに悲しませる原因にもなっている。
それ故に鬼太郎の心中は複雑。敵対心というほどではないが、エミーゼルに対してどこかしら警戒心を抱いてしまう。
「あら……誰かと思えばエミーゼルじゃない。こんなところで何してるのよ?」
「久しぶりデスね、エミーゼルさん!!」
だが鬼太郎とは正反対に、フーカとデスコの二人がエミーゼルに平然と声を掛ける。その反応を前に鬼太郎もエミーゼルに話しかける。
「彼女たちと知り合いなのか……死神エミーゼル?」
やや張り詰めた鬼太郎のその問いに——
「……知り合いといえば知り合いだけど……正直、知り合いたくなかった……」
エミーゼルは何とも複雑そうな顔で渋々と頷く。その表情は真面目な死神としてのそれではなかった。年相応に少年らしい感情を昂らせ、彼は声高々に叫ぶ。
「お前たち、いったいどういうつもりだ!? プリニーたちまで巻き込んで……こんな大それた真似しやがって!!」
「ひぃっ!? も、申し訳ありませんッス!! エミーゼル坊ちゃん!!」
彼の激昂する様子にプリニーたちが揃って平伏する。
エミーゼルは西洋地獄においてかなり重鎮の死神王、その息子である。権力者の怒りを買いたくないという一心で、フーカたちに従っていたプリニーたちが一斉に武装放棄していく。
「何って……決まってるでしょ? 徴収よ、徴収!!」
もっとも、フーカやデスコたちにその権威が通じない。全く悪びれもせず、恥ずかしげもなくフーカは言い放つ。
「この国に蔓延る悪の組織を懲らしめて、ついでに連中の溜め込んだ汚いお金を綺麗さっぱり徴収するのよ!! そうすることでこの国は救われ、ついでにアタシたちの懐は潤う……まさに一石二鳥!! それがアタシたちの正義! 信念なのよ!!」
「…………せ、正義? し、信念……?」
あまりにも滅茶苦茶な言い分に鬼太郎は眩暈がしてきた。そう思ったのはエミーゼルも同じだ。
「正義? 信念? お前たちの行動のどこにそんなものがあるんだ!? お前らのやっていることは強盗だ!! ただの犯罪だ!!」
鬼太郎の言いたいことを代弁するかのように、全くの正論を説くエミーゼル。
さらに彼は死神として、フーカという存在の根幹にまで切り込んでいく。
「——だいたい、フーカ! お前はプリニーの……死人の分際でそんな勝手が許されると思ってんのか!!」
「!! し、死人……?」
聞き捨てならない単語に思わずギョッとする鬼太郎。その反応に答えるよう、エミーゼルはさらに声を荒げる。
「そうだ!! こいつはこれでも一応はプリニーなんだ!! そこにずらっと並んでいる連中と同じ……亡者の一員なんだよ!!」
プリニー。
ペンギンのマスコットキャラのようなふざけた見た目の謎生物だが、彼らにも『正体』がある。
それはその皮の中身に、死んだ人間の魂が封じ込められているということ。彼らは妖怪であると同時に人間——『亡者』でもあるのだ。
西洋において、死した人間の魂は西洋地獄へと送られ、罪深い人間はそのままプリニーとして加工される。
プリニーとなった彼らは生前の罪を償うため、最下層の身分として地獄での過酷な労働を強いられる。
そして労働の対価として支払われる金銭、それを貯蓄することで『転生』する権利を得ることができるのである。
何故プリニーなのか? どうしてお金を貯める必要があるのか? 大昔に偉い誰かが決めたことであり、その起源を知るものは現在では誰もいない。
とにかく、プリニーとは働かされるもの。ただひたすら贖罪のため、労働に勤しむ者たちなのである。
しかし、何事にも例外は存在する。
「——違~う!! アタシはプリニーでもなければ死んでもない!! これは夢なの! タチの悪い悪夢なのよ!!」
この風祭フーカという少女。本来であれば他の罪人たち同様、プリニーとして加工される筈だった。
だがちょっとした手違いにより、彼女は人間ボディを保ったまま、『プリニーの帽子を被せられる』という、中途半端な処置で落ち着いてしまったのだ。
もっとも、それだけならば大した戦闘力もないただの亡者だ。地獄の住人として普通にこき使われるだけの日々を送っていただろう。
ところが——
「ここはアタシの夢の中!! やってやれないことなんて……ないんだから!!!!」
「な、なんだ!? なんだかよく分からないけど……ものすごいプレッシャーを感じる!?」
フーカの全身から、鬼太郎ですらもたじろぐほどの、凄まじい威圧感が放たれる。
それは妖気でもなければ、霊気でもない。強いて言うならば『気合』。まさに火事場の馬鹿力ならぬ、乙女の思い込み!!
この風祭フーカという少女。自分が死んだという現実を受け入れることが出来ず、眼前の出来事を全てを夢だと思い込んでいる。
そして『夢の中なら何でも出来る!!』という思い込みから、『自身の潜在能力を限界以上まで引き出す』という、割ととんでもないことを平然と行なっている。
ただの亡者の枠組みを越えた、規格外の存在なのである。
「お姉様……デスコもお姉様と共に戦うデス!! はぁああああああ!!」
そして、それに付き従う妹のデスコも人工妖怪として規格外の存在。
規格外の暴走姉妹の心が一つになるとき、彼女たちの織りなす世界観は混沌と化す。
「行くわよ、デスコ!! フォーメーション!! ウィー・アー・トライエンジェル!!」
「フォーメーション・ラジャー!! 準備オーケーなのデス、お姉様!!」
互いに謎の号令を掛け合い、空高くまで舞い上がるフーカとデスコ。
彼女たちは何故いちいち飛ぶのか? 何のフォーメーションなのか? 結局のところそれは誰にも分からない。
いずれにせよ、彼女たちは引かない! 媚びない!! 省みない!!!
たとえ誰が相手であろうとも、立ち塞がる全てを薙ぎ払い、必ずやお金を徴収してみせる。
「——エンジェルファイト……レディィイイイイイイイ……ゴ————ッ!!!!」
それこそ『美少女怪盗団』トライエンジェル。
美しすぎる天使たちに課せられた使命なのだから——
「……つまり……どういうことなんだ?」
「……いや、ボクに聞かれても分からないからな?」
×
と、いうわけで。
なんやかんやで始まってしまった、フーカ&デスコとゲゲゲの鬼太郎&エミーゼルのタッグマッチ。
何故かエミーゼルと組むことになり、フーカたちと戦うことになった鬼太郎は「……あれ、何でボクここにいるんだっけ?」などと、当初の目的を忘れるほどに困惑していた。それくらい色々と思考が追いつかない。
だが、そんな風に途方に暮れていられるのも束の間——
「くっ!! この子たち……!?」
鬼太郎は予想以上の苦戦を強いられ、目の前の戦闘に集中することを余儀なくされる。それほどまでに、フーカとデスコの二人は冗談抜きで強かった。
「それっ!!」
風祭フーカが手にした木製バットを振り下ろせば、その度に大地を揺るがすような一撃が襲いかかってくる。とても少女の華奢な身体から繰り出されるとは思えない。まさにゴリラ! ミスゴリラのようなパワー!!
「ふはははっ!! トラウマになるがいいデス!!」
さらにデスコが高笑いを上げながら、背中の触手を縦横無尽にぶん回してくる。無邪気ながらも触手の一本一本に明確な殺意が込められており、鬼太郎も避けるのが精一杯。
反撃の隙間など与えない怒涛の連続攻撃。姉妹を名乗るだけあって見事なコンビネーションアタック。さすがの鬼太郎でも、一人っきりであったのならやられていただろう。
「——このっ!! いつまでも調子に乗るなよ!!」
だが今はエミーゼルという相方がいる。
先日は敵として鬼太郎の前に立ち塞がった彼だが、今回は味方として援護をしてくれている。これが意外と頼もしく、知り合いというだけあってフーカとデスコの動きをある程度予測して動いている。
「今だ!! 合わせろ、ゲゲゲの鬼太郎!!」
「指鉄砲!!」
彼女たちの隙を突く形で、ところどころ鬼太郎へと的確な指示を出す。
二人の連携は即席ながらも悪くない。鬼太郎の多彩な技もあって、彼らはこの戦いを五分五分の状況へと持ち込んでいく。
「……ふん、案外やるじゃない……エミーゼルのくせに!」
「むむむ……なかなかやるじゃないデスか!! エミーゼルさんにしては!!」
何合かの打ち合いの後、フーカとデスコが不満げに口を尖らせる。
エミーゼルとの戦いなど楽勝とでも思っていたのだろう。なかなか決着を付けられない現状に不満タラタラな様子で顔を顰める。
「ボクだって成長してるんだよ!! いつまでもやられっぱなしのままで終わると思うなよ!!」
エミーゼルはそんなフーカたちに「ざまあみろ!」とばかりに強気に叫ぶ。
知り合いとしていつも苦労を背負わされている立場上、彼女たちの思い通りにならないのはこの上ない意趣返しとなる。いつもの仕返しとばかりに、エミーゼルはかなり生き生きと大鎌を振るっていく。
「ふふふ……甘いわね。この程度で喜んでるようじゃ……まだまだお子ちゃまよ!!」
だが、フーカもデスコもまだまだ元気だ。そしてフーカはこの戦いに終止符を打つべく、懐から『切り札』を取り出す。
「覚悟しなさい!! アンタたちまとめて踏み潰してやるんだから!! この『プリニカイザーXX』の力でね!!」
「げっ!? お、お前……あんなもんを現世に呼び出す気か!? ば、馬鹿なことはやめろ!!」
「……プリニ、カイザー……なんだって?」
フーカが見せつけたのは何かを呼び出すためのスイッチ——リモコンだ。それが何を呼び出すものなのかを察し、エミーゼルが慌てふためいている。だが鬼太郎には何のこっちゃ分からない。
プリニカイザーXXとはいったい、なんぞや?
説明しよう!!
プリニカイザーXXとは——科学者であるフーカの父親・風祭源十郎が娘のために建造した、巨大プリニー型ロボっトである。
黒鉄の怪鳥とも称されるそいつは目から怪光線を照射し、立ち塞がる全てを焦土と帰する。
フーカの世界征服の野望を叶える、まさに夢のスーパーロボットなのだ!!
「おっほっほっほ!! 今更慌てふためいても、もう遅いわ!! さあ……覚悟なさい!!」
自身の絶対的優位を確信するフーカの高笑いは、まさに世界征服の野望を抱く悪の組織の女幹部のようだ。
テンションMAX、優越感たっぷりにプリニカイザーXXを召喚するスイッチのボタンへと手を伸ばしていく。
「——はぁあああ!!」
「へっ?」
だが、フーカがボタンが押そうとした刹那——いきなり現れた大男が、決死の気合とともに彼女の手に握られていたリモコンを蹴り砕く。それにより、プリニカイザーXXが呼び出されることは何とか阻止する。
その男の気配にはフーカを含め、その場にいた全員が現れる直前まで気付くことすら出来ないでいた。
「なっ!? いつの間に……誰よ、アンタ!!」
「俺は四鬼。藤原千方の四鬼……隠形鬼だ!!」
その大男は四鬼組の幹部——隠形鬼であると、自身の立場と名前を堂々と告げる。
そう、事務所と共に吹っ飛んでいたと思われていた四鬼の最後の一人だ。あの爆発の直後、彼は何とか建物の外へと命からがら脱出していたのだ。
そのまま遠くへと逃げ出すことも出来たのだが、彼はそうしなかった。
「妖怪ヤクザを……舐めるなよ、小娘ぇええええ!!」
自らの面子のため、犠牲になった仲間のためにも。自分たちを甘く見た小娘たちにせめて一矢報いるべく、得意の隠形で姿を眩まし、ずっと反撃の機会を窺っていた。
その甲斐もあり、これぞというタイミングでフーカたちの意表を突くことに成功。隠形鬼は、妖怪ヤクザのプライドを見事に見せつけたのである。
「おのれぇ、死に損ないめ!! お姉様から離れるデス!!」
しかし肝心要の隠形の技も、攻撃に転じてしまえばその姿も露見してしまう。姿が露わになった隠形鬼へ、デスコは姉の邪魔をされた怒りと共に襲いかかる。
「ぐっ…………ふん!!」
デスコの攻撃、触手によってぶっ叩かれる隠形鬼。だが、彼はそこでも意地を見せるべく奮闘する。デスコの触手を捨て身の覚悟で掴み取る。
「なっ!? こ、このっ、離れるデス!! 離せデス!!」
「今だ……俺ごとやれ!! ゲゲゲの鬼太郎!!」
そのままデスコの動きを封じ込め、本来ならば敵対していたかもしれない相手——鬼太郎に向かって自分ごと攻撃しろと叫んでいた。
その決死な想いに、鬼太郎も応える。
「……っ! 体内……電気!!」
遠距離から放たれる体内電気。雷が矢の如き勢いで注ぎ込まれ、デスコと隠形鬼の両者を諸共に感電させる。
「あべべべべべべ!?」
「ぬうううう!!」
高圧電流の直撃を受けたデスコは黒焦げ。隠形鬼は余波だけで済んだが、それでも結構なダメージを受けて倒れていく。
「デスコ!?」
「! 今だ……これでも食らえ!!」
妹が倒されたことに狼狽するフーカ。その隙を突く形でエミーゼルは大鎌の一撃を振るう。
死神の大鎌はフーカの肉体ではなく、魂そのものにダメージを与える。
「…………あれ、力が……入らな……」
その効果により、フーカは肉体が無傷ながらもその意識を失っていく。
コロンと、力なく横たわる二人の少女。
二人の暴走姉妹を何とか打ち負かし、この馬鹿騒ぎがようやく収束したのであった。
×
「ふぅ~……全く、手こずらせやがって……プリニー隊!! 今のうちにこいつらをふんじばれ!!」
『あ、アイアイサーッス!!』
フーカとデスコを無力化してすぐに、エミーゼルは周囲のプリニーたちに彼女たちを縛り上げるように命令を下す。
今は気を失っているが、タフな彼女らのことだ。いつ起き上がっても不思議ではない。
今のうちに動きを封じ込め、そのまま彼女たちを連行するようプリニーたちに指示を出していく。
「……なんか、迷惑をかけたな……とりあえず、礼は言っておくよ……」
「……いや、キミが謝ることじゃない……」
プリニーたちの監督をしながらも、エミーゼルは鬼太郎へと声を掛けた。一時的にとはいえ共闘を組んだ相手への礼儀であり、鬼太郎もその礼に応える。
「死神も……いや、キミも色々と大変なんだな……」
その際、鬼太郎はチラリと気絶しているフーカやデスコたちを一瞥し、エミーゼルの苦労を偲ぶ。今宵、彼女たちと多少相手をしてやっただけでも、相当に疲れた鬼太郎。
こんな相手が知り合いにいて、このような騒ぎを定期的に起こしているなどと、想像するだけでも胃が痛くなるというもの。
「分かるか? 分かってくれるか、ゲゲゲの鬼太郎。まあ、もう慣れたもんさ……はは、ははは……」
同情してくれる鬼太郎に対し、エミーゼルは乾いた笑みで応える。
強がってはいるが、その顔には疲労の色が濃く出ている。死神としての仕事のときは決して見せなかった表情だ。
その顔色を見れば死神としての本分を果たすよりも、フーカたちの相手をする方がよほど疲れるであろうことは明白。
「じゃあな……」
それでも、エミーゼルははっきりと弱みを口にすることはなく、しっかりとした足取りでその場を去っていった。
「大丈夫か、隠形鬼……?」
「はぁはぁ……気遣いなど不要だ。ゲゲゲの鬼太郎」
エミーゼルたちが去ったことで、寂れた倉庫街には鬼太郎と隠形鬼だけがとり残される。鬼太郎は息も絶え絶えといった様子の隠形鬼を心配するが、それを余計だと彼は突っぱねる。
妖怪ヤクザとして、妖怪の復権のために活動して人間を苦しめる四鬼組。
人間の相談を受け、人助けのためなら場合によっては妖怪と敵対する鬼太郎。
同じ妖怪でも両者の在り方は全くの正反対。一時的な共闘をしたが、それで彼らが仲良しこよしになれるわけではない。
「ふん……我らを討伐しなくていいのか? そのために、ここまで来たのだろう?」
それどころか、隠形鬼は鬼太郎に挑発気味に吐き捨てる。自分たちを抹殺するなら今がチャンスだと、勝ち目などないだろうに相手の戦意を煽っていく。
「そんなつもりはない。今のキミらを、これ以上追い詰めるつもりは……」
「……」
だが鬼太郎は妖怪だが、鬼ではない。いくら人間を苦しめる相手であろうとも、死人に鞭を打つような真似はしない。
既に彼らの組は壊滅状態なのだ、これ以上何をどうしようというのか。
「それよりも、聞きたいことがある。キミたちが『先生』と呼んでいる妖怪、それはもしや……」
その代わりに鬼太郎が尋ねたのは——四鬼組が先生と呼ぶ人物。
彼らがその先生とやらを慕い、彼のために資金を集めていることは聞いている。
その人物はもしや——あの妖怪なのではと、鬼太郎の脳裏に『とある老人』の顔が浮かび上がる。
「……その質問には答えられん。恩師を売るような真似、妖怪ヤクザのすることではない」
「…………」
鬼太郎の問いに隠形鬼は何も答えなかった。妖怪ヤクザとして、あくまで仁義を貫く。
「どの道、この被害では組運営もままならん。暫くは活動自粛だ。地元に戻って一からやり直すしかない。先生に合わせる顔もない……」
彼らは自分たちの未熟を恥じ、一からやり直す決意を固める。
残った四鬼組の構成員たちをまとめ上げ、関東から姿を消していった。
此度の騒動に関して。
妖怪ヤクザ・四鬼組は風祭フーカとデスコの手によってほぼ壊滅。
彼女たちもエミーゼルと鬼太郎、隠形鬼の活躍で捕縛。
一連の騒動は痛み分けで幕を閉じ、日本に束の間の平和が訪れる。
だが、騒動の数日後。
「——綾ちゃん!! ギモーブとクリームソーダ! それから、シュークリーム追加でお願い!!」
「——デスコはマリトッツォってやつをまた食べたいデス!! 早く正式なメニューに加えて欲しいのデス!!」
「は、はい!! た、ただいまお持ちします!!」
喫茶店モモには、何事もなかったかのように二人の少女——フーカとデスコが来店していた。
自分たちが壊してしまった壁や天井の修理はプリニーたちに任せ、呑気にスイーツなどを注文。日本での観光を満喫している。
「お前ら……!! いい加減、西洋地獄に帰れ!! いつまで日本にいる気なんだ!?」
そんな彼女たちの元へ、げっそりした様子のエミーゼルが駆け込んでくる。
フーカとデスコを捕まえ、西洋地獄へと送り返してホッとしたのも束の間。彼女たちはそこから脱獄し、またも日本へと遊びに来ていたのだ。
これにエミーゼルが何度も帰れと叫ぶも、彼女たちは頑なに首を縦に振らない。
「いや~よ!! アンタだけ楽しい思いをしよたって、そうはいかないんだから!!」
「そうデス、エミーゼルさんだけズルいのデス!! デスコたちもまだまだ遊び足りないのデス!!」
「ボクは留学生として死神の勉強のために来日してるんだ!! 遊び気分のお前らと一緒にすんな!!」
あーでもない、こーでもないと騒ぐ少年少女。
ワイワイガヤガヤと、騒ぐ少年少女。
西洋地獄の住人である彼らを巡る物語は、もう少しばかり続きそうである。
人物紹介
風鬼&水鬼
藤原千方の四鬼の二体。それぞれ風と水を操る能力を持っている。
中ボス。厨二っぽい必殺奥義を放つもあっさりと退場。咬ませ犬的な存在。
決して弱くはないのですが……今回は相手が悪すぎたということで。
隠形鬼
藤原千方の最後の一体。一応、四鬼組を纏め上げる司令塔。
姿を隠す『隠形術』を得意とする。
予定ではこいつもあっさりと退場する筈でしたが、最後の最後で妖怪ヤクザとしての意地を見せてもらうことに。
ちなみに、彼らが慕う『先生』は……本編でも暗躍するあの老人。
先生の下に集う妖怪は、四鬼組の他にもたくさんいる。やはり油断できない、妖怪の総大将は……。
次回予告
「未だ日本に留まり、遊び惚けるフーカとデスコ。
そんな彼女たちを連れ帰ろうと、西洋地獄からまたも来訪者が。
しかも今度は……吸血鬼に狼男!?
父さん、彼らは一筋縄ではいかない相手のようです!!
次回――ゲゲゲの鬼太郎『吸血鬼ヴァルバトーゼ』見えない世界の扉が開く」
というわけで、次回で『西洋地獄編』は完結。
満を持して、あの方が登場します。
お楽しみに……と言いたいところですが、残念ながら続きは来月。年を跨いでからになります。
今年もあと数週間。少し早いですが……皆さん、よいお年を!