今年も本小説をどうかよろしくお願いいたします。
さて、去年にも書きました通り。新年最初のクロスオーバーは『ディスガイア4』の最終章。
西洋地獄シリーズと長く続きましたが、これにて完結でございます。
最後の章タイトル『吸血鬼ヴァルバトーゼ』となっていますが、彼以外のキャラクターも当然たくさん登場します。
また今回が話の総決算ということもあり、おそらく全三話構成くらいにはなると思います。
最後まで、どうかお付き合いいただければと……。
西洋地獄。西洋地域に広範囲で広がっている、あの世。
西洋で死んだ人間や妖怪はこの地獄へと送られ、それぞれの身の丈にあった『役割』が与えられる。
人間の罪人がこの地獄へと送られる場合、特に例外がなければ『プリニー』に加工されることになっていた。
プリニーは西洋地獄では最下層の身分にあたる。
ペンギンのマスコットキャラのようなふざけた見た目の彼らだが、中に詰まっているのは罪人の魂だ。加工工場から出荷されたばかりのプリニーは、その大半が反抗的で刹那的。罪を償うために働くなど、とてもではないがそんな殊勝なことを素直に行う訳がない。
そういった彼らの腐った根性を叩き直し、一人前のプリニーに教育するためにも。地獄には『プリニー教育係』なる役職が存在している。
彼らの手で教育されることによって、初めてプリニーとして働く心構えが身に付き、語尾に『ッス』をつけられるようにもなる。
だがこのプリニー教育係も、言ってしまえば閑職だ。誰も好き好んでこの職に就きたくなどなく、地獄の獄卒の中でも相当にやらかしたものがこの役職を押し付けられる。
地獄でなりたくない職業、ぶっちぎりNo. 1。この役職に真面目に取り組むものなどいるわけもなく、適当な教育者のもとで育ったプリニーたちは適当な性格のまま、地獄各地へと派遣され、適当な仕事をしながら地獄での日々を適当に過ごしていくこととなる。
そんな適当な流れが当然なものとして定着していた。だが——
広大な西洋地獄、その中でもグツグツとマグマが煮えたぎる灼熱のエリア。そのエリアの一角に小さな屋敷があった。
お世辞にも立派とは呼べない屋敷だが、五、六人くらいであれば何不自由なく生活ができそうな邸宅。
その邸宅の門の前。
その屋敷で働くプリニーたち全員が、数十匹はいそうなプリニー共が——
「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」
一糸乱れぬ姿勢のまま、敬礼をしていた。
誰一人ピクリとも動かない。その直立不動の姿が表すものは——忠誠。
圧倒的忠誠である!!
本来、プリニーとは自堕落なもの。表面上、主人に従っているように見えていても、心の奥底では舌を出しているもの。少しでも自分たちが優位に立てると感じれば簡単に裏切る、寝返る。
そのため、弱肉強食の地獄においては彼らを力尽くで従えるのが基本。決して心からの信頼など期待できない筈である。
だがこのプリニーたちは違った。確かな忠誠心の下で眼前の主人への敬意を最大限の姿勢で示している。
それほどまでに——プリニーたちにとって『彼』は敬意に値する人物だということだ。
「——閣下!! おでかけッスか!?」
プリニーの一匹が恐れ多くも『閣下』へと尋ねる。これから出掛けようとする主人の予定を予め聞いておけば、それに合わせて最適な行動が取れる。この屋敷で働くものとしては当然の心構えである。
「うむ、少し出掛けてくる。留守は任せたぞ、プリニーども」
プリニーの問いに閣下と呼ばれた主人は簡潔に答えた。それ以上の言の葉は必要ないと、彼はプリニーたちに留守番を任せる。
すると閣下の言葉を補足するよう、『執事』であるもう一人の男が口を開く。
「お前たち……閣下はお前たちの日頃の働きを信用し、留守を任せるのだ。その信用……決して裏切るような真似はするなよ?」
念を押すかのような執事の脅し。もしも留守中、何かしらの粗相があればタダでは済まされないであろうことが、その言葉の威圧感からも察せられる。
「ご安心くださいッス!! 閣下の教育を受けたプリニーとして、しっかりと務めを果たすッス!!」
『——お任せくださいッス!!』
しかしそんな脅しにもへこたれず、とても良い返事で一斉に敬礼するプリニーたち。やはりこの屋敷に勤めるプリニーたちは練度が違う。
適当な教育で育った自堕落なプリニーではない。本気で更生しようという、罪を償おうという強い意思がその働きぶりから伝わってくる。
そんな勤勉なプリニーたちに見送られ——閣下と執事が西洋地獄を出立する。
「さあ、行くぞ!!」
「はっ! 全ては我が主のために……」
西洋地獄の住人である彼らの向かう場所。
目的地は——日本だ。
「——あの愚か者を……あのプリニーもどきを連れ帰るのだ!!」
それこそが彼の——プリニー教育係の使命であった。
×
「——カッキーン!!」
現世の日本、ゲゲゲの森。
晴れ晴れとした青空の下、少女の振るう木製バッドが快音を鳴り響かせる。彼女の打った球は高速でグングン飛距離を伸ばしていき、超速で森の中へと消えていく。
「ほ、ホームランデス!? またしても場外ホームランなのデス!!」」
ベンチに座っていた異形の女の子が喝采を上げる。
文句なしの場外ホームランに、またもチームに得点が入る。これでまた一歩、自分たちの勝利が近づいたのだ。
ちなみに、ホームランを打たれたピッチャーは彼——ゲゲゲの鬼太郎だ。
「また打たれた……」
やや気怠げながらも、球が打たれたこと自体はしっかりと悔しがっている。
彼だって男の子だ。二打席連続で女子から場外ホームランを打たれれば、それはそれで悔しいと思うのが当然の感情であった。
「……ええっと、これ……何してるの?」
そんな眼前の光景に犬山まなが首を傾げる。
彼女はつい先ほど、このゲゲゲの森に遊びに来たばかりだった。森に来てすぐ、いつものようにゲゲゲハウスに顔を出したのだが、そこには誰もおらず。
森の主要な面子は全員、広い原っぱに集まり——そこで『野球』をやっていた。
別に妖怪が野球をやっていてもおかしくはない。いや、ビジュアル的に色々と言いたいことはある。
鬼太郎がピッチャーをやっていたり、猫娘がセカンドを守っていたり、ねずみ男がファーストを務めていたり。人間的な見た目の彼らが野球をする分には何も違和感などない。だがぬりかべや一反木綿がライトやレフトの守備につくのはいかがなものだろう。
ぬりかべは体の大きさを変えられるし、一反木綿に限っては空も飛べる。ただの人間では届かない球でも、彼らなら捕球出来てしまう。ちょっと不公平ではなかろうかと。
もっとも、鬼太郎たちの対戦相手もただの人間ではない。
試合自体も、その対戦相手がリードしており、鬼太郎たちは思いの外苦戦していた。
「へへ……どう? ざっとこんなもんよ!! アタシの夢の中でアタシに勝てるわけないじゃない!!」
鬼太郎率いる日本妖怪チームと野球で勝負していた相手は——西洋地獄妖怪チーム。
自称人間である彼女——風祭フーカが率いる球団であった。
彼女は胸を張りながら、ちょっとよく分からないことを自慢げに語る。それに対し——
「さすがなのデス、お姉さま!! これは現実ですが……だからこそ、お姉さまの格好良さが際立つのデス!!」
「あ~、はいはい……お前は生きてる、これは夢の中の出来事だよ~。はぁ~……なんでボクがこんなことを……」
人工的に造られた妖怪女子、デスコ。
西洋の死神である、エミーゼル。
その二人が同じチームとしてベンチに腰掛けている。
「いや~、ほんと……さすがッスよ、フーカさん」
「実質、フーカさん一人で戦ってるもんスからね~……俺たちはただ立ってるだけッスから」
さらにその周囲にはペンギンもどき、プリニーたちがワラワラと群がっていた。
西洋地獄妖怪チームといっても、メンバーはこれだけ。フーカとデスコ、そしてエミーゼル以外はその全てがプリニーたちによる人数合わせだ。
そんな急造チームなのに、鬼太郎たち日本妖怪チームに勝ってしまっている。
恐るべし、西洋妖怪!! 恐るべし、風祭フーカ!!
彼女こそがこの試合のMVP!! 打ってよし!! 投げてよし!!
西洋地獄リーグの二刀流とはまさに彼女のこと!! 今日も彼女が、妖怪野球史に新たな歴史を刻んでいく!!
「……結局さ……なんでこんなことになってるわけ?」
攻守交代となったことで守備についていた日本妖怪チームが、鬼太郎たちがベンチへと戻ってくる。そのタイミングでようやく犬山まなが彼らに『どうしてフーカたちと野球などやっているのか?』その理由を問いただす。
「いや、なんでって言われても……ボクたちも困るんだが……」
「こっちが聞きたいくらいよ。……いつに間にかグラウンドに立たされてたし……」
「たく……こんなの一銭の特にもなんねぇのによ……」
しかし問われた鬼太郎たちも首を傾げており、猫娘もねずみ男も揃って愚痴を溢している。彼らにとってもこの試合は不本意な流れによるものらしい。
「まあまあ、良いではないか! これであの子らの気が紛れるなら。また街中で暴れられても厄介じゃしのう!」
「父さん……それはそうなんですが……」
そんな中、不満を抱える一同を宥めるように目玉おやじが口を開く。その言い分に息子の鬼太郎が渋々と同意する。
そもそもの発端は彼女——風祭フーカがゲゲゲの森へと乗り込んできたことから始まった。
『——リベンジよ、ゲゲゲの鬼太郎!! もう一回、アタシと戦いなさい!!』
『——勝負するデス!! 鬼太郎さん!』
『…………』
そう、風祭フーカとデスコ。彼女たち二人がゲゲゲの鬼太郎を相手にリベンジマッチを申し込んできたのだ。
それは先日、自分たちの『徴収』を邪魔されたことへの腹いせ。負けっぱなしのままだとなんか気に食わないという、ふわっとした理由からの申し出だったりする。当然、そんな理由で鬼太郎が彼女たちとの戦いに応じるわけもなく。
鬼太郎も『自分の負けでいいから……』と大人な対応でフーカたちにお引き取り願った。
『いやよ! 早く構えなさい!! でないと、ここから動かないんだから!!』
しかし、しつこく引き下がるフーカ。そのまま頑とその場から動こうとはしなかった。
これに困った鬼太郎。さてどうしたものかと頭を悩ませていたところ——
『それじゃ……野球で勝負ッス!!』
と、何故かフーカたちの付き添いでやって来ていたプリニーの一匹がそんなことを口走る。
何故いきなり野球なのかと疑問を抱くかもしれないが、プリニーたちの間では『実力で敵わない相手にスポーツ勝負をふっかける』ということが割と一般的らしい。
野球のみならず、サッカーやらボーリングなど。これも彼らなりに生き残るための処世術とのこと。
『おお! 野球か……随分と久しぶりかもしれん……なあ、鬼太郎よ?』
すると、この提案に目玉おやじが頷いた。
野球ほどにメジャーなスポーツであれば、妖怪たちもルールくらい知っている。というか、過去に何度か人間たち相手に野球で試合をした経験もある。
物騒に殴り合うよりずっと平和的な、それでいて健全な勝負方法だ。
『どれ……さっそくメンバーを集めてくるとするか。鬼太郎、みんなに声を掛けてくるのじゃ!!」
すっかりやる気になった目玉おやじの一声によって慌ただしく動き出す妖怪たち。
息子である鬼太郎も、父親の意見であれば大人しく受け入れるしかない。
こうして、日本妖怪チームと西洋地獄妖怪チームの野球試合が実現する運びとなったのであった。
「——よーし、いいぞ!! ぬりかべよ! かっ飛ばすのじゃ!!」
「——ぬりかべ~!」
そういこともあってか、あまり乗る気でない日本妖怪たちの中、唯一目玉おやじだけがこの試合に全力で望んでいる。彼自身は選手として参加出来ないため、監督役として。ユニホームまでしっかり着込んで選手たちに指示を飛ばしていく。
日本妖怪たちも、やる以上は勝つつもりでプレイに望んでいる。だがいかんせん、相手チームの投手であるフーカの豪速球が凄まじい。
「ぬ、ぬりかべ~!?」
「三振!! ストライク!! バッターアウトッス!!」
審判役を務めているプリニーが声高らかに叫ぶよう、強打者であるぬりかべですらも容易く三振を取られてしまう。ここまで驚くべきことに、誰一人彼女からヒットすらも打てていないのである。
「ふんふふーん♪ どんなもんよ!? これがアタシの本当の実力よ!!」
これにすっかり調子に乗った風祭フーカが得意げに鼻歌など歌っている。
どうやら、鬼太郎にしてやられた雪辱は果たせたようだ。このまま試合が終われば、きっと彼女も満足してこの森から立ち去ってくれるだろう。
「ふぅ~……やれやれ……」
そのことにひとまずはホッとする鬼太郎であった。
×
「あれ? そういえばフーカさん、なんでゲゲゲの森に入れるの? あの人…………一様、人間……なんだよね?」
何事もなく試合が進む中、ちょっとした疑問がまなの脳裏を過った。
風祭フーカとは、とあることがきっかけで友人関係になったまなだが、そのフーカが当然のようにゲゲゲの森に足を踏み入れていることには首を傾げる。
ゲゲゲの森は基本的に妖怪しか入ることが出来ず、まなのように『妖怪に近しいもの』として森が認めてくれなければ、人間はその森の存在を認識することも出来ない筈だ。
なのにフーカはゲゲゲの森で妖怪相手に野球などやっており、しかも圧倒している。いったい全体、これはどういうことだろうか。
「ああ……あいつは曲がりなりにもプリニーだからな。もう完全に人間辞めちゃってるところあるし……」
「エミーゼルくん?」
すると、その謎に西洋死神であるエミーゼルが答えを口にする。
今は西洋妖怪地獄チームが守備についているのだが、誰もフーカの球を打てないために暇なのか。彼は守備をサボり、日本妖怪チームのベンチで休憩していた。鬼太郎たち同様、フーカに振り回されて心なしか疲れている様子である。
「プリニー? ああ、あのペンギンさんたちですか……」
「……前から気になってたんだけど、あのプリニーって……結局なんなわけ?」
エミーゼルの発言に、まなと猫娘がそれぞれ疑問を口にする。さも当たり前のように「プリニーだから……」と言うが、そもそも日本の住人である彼女たちには『プリニー』という存在が何なのかが分からない。
これには博識の目玉おやじや砂かけババア。日本妖怪が揃って首を傾げる。
「プリニー……確かあの中には……罪を犯した人間の魂が入ってるとか……」
ただ一人、前回の騒動でプリニーが『死人』であるという事実を聞かされていた鬼太郎だけが神妙な顔つきになる。
そう、プリニーとは死んだ罪人の魂が詰まった妖怪。
彼らは罪の贖罪のため、黙々と働き続けなければならないもの。本当ならこんなところで油を売っている暇などないのだが、フーカは自分の罪など知ったことかとばかりに遊び呆けている。
「罪を? ……フーカさんは、いったい何の罪で……」
その話を聞き、まなは少しショックを受けたように顔を曇らせ、フーカへと目を向ける。
「ははは!! そーれー!!」
マウンド上でピッチャーを務める彼女は実に楽しそうに、生き生きと無邪気に野球を楽しんでいる。
少し強引なところもある彼女だが、その性根には嘘のない真っ直ぐさがある。短い付き合いだが、まなはフーカの人となりに素直に好感を抱いていた。
あの笑顔の裏に——地獄に突き落とされるだけの罪を抱えている。まなにはそれが信じられなかった。
そんなまなの憂う横顔をチラッと盗み見ながら、エミーゼルはフーカの罪状をボソッと呟く。
「……世界征服を企んだ罪だ」
「…………えっ?」
一瞬、エミーゼルが何を言っているのか分からず聞き返す。しかしまなが何度聞き返そうとも、風祭フーカの罪状は変わらない。
「『身の程知らずにも世界征服を企んだ罪』。それが風祭フーカが地獄に落とされた理由だ」
「……えっ?」「……はっ?」「……あん?」
これにはまなだけでなく、妖怪たちもポカンとするしかない。
そう、何を隠そう——風祭フーカは子供の頃、『世界征服』を夢見たことがあった。
世界征服。その言葉通り、世界を意のままにしてしまうこと。とっても悪いことである。
本人は覚えていないと主張しているが、しっかりとした証拠映像も残っており、言い逃れなどできない。
もはや待ったなし、問答無用で
「いやいや!! それ、子供の頃の話でしょ!? それで地獄行きって……ちょっと厳し過ぎない!?」
これにまなが咄嗟に反論する。所詮は子供の戯言。実際に世界征服のために何かしらの活動をしたわけでもないのに、それで地獄送りにされるのはあまりに理不尽ではないかと。
これにはまな以外のものたちも「うんうん」と同意するように頷いている。
「うーん……でもあいつの場合、そうとも言い切れないんだよな……」
しかし、その弁護も風祭フーカに対しては通じないと。事情を知るエミーゼルは難しそうな顔で彼女の罪の形を語る。
「その発言のせいで、あいつの父親は道を踏み外してマッドサイエンティストになって……西洋妖怪は結構な被害を被ることになったからな……」
「えっ……」
エミーゼルの話によると、フーカは五歳の頃に父親に願ったという。
『——妹が欲しいの……アタシの世界征服を手伝ってくれる、超高性能な妹が!!』
その願いを聞き届けたことにより彼女の父・風祭源十郎は一念発起。愛娘のため、世界征服を実行するのに相応しい最終兵器——『人工妖怪』の研究に手を出した。
研究のため、源十郎は西洋妖怪たちを実験台として捕獲。公にできないような恐ろしい実験に手を染めていく。
さらには研究資金のため、世界滅亡を望むようなかなりヤバい悪党とも手を組んだ。見返りに研究成果の一部を提供し、文字通り世界を混沌へと陥れたのだ。
既にフーカの母親・源十郎の妻が亡くなっていたこともあり、その暴挙を止められるものなど誰もおらず。
研究の末、世界征服を可能とする高性能な妹。人工妖怪である彼女——デスコも誕生したのである。
「そ、そうなんだ……それでデスコちゃん……ラスボスになるのが夢だなんて……」
まなはデスコの話していた夢の内容を思い返す。
彼女はフーカのためにラスボスになると豪語し、姉の世界征服を手助けすると嬉しそうに語っていた。幼い彼女がそのような考えに至ったのは当然のこと。それこそが彼女自身の造られた理由であり、存在意義なのだから。
「そんなわけでだ……あいつはプリニーになって罪を償うことになったんだ。本人は絶対に認めたがらないけどな……」
それらの事情を総合的に鑑みた判決として、風祭フーカはプリニーになることが決定されたのだと、エミーゼルは話を締め括る。
だが、プリニーを加工する工場の不手際により、フーカは人間姿にプリニー帽子だけを被せてそのまま出荷。
プリニーもどき、中途半端に力を持った存在として、好き放題に過ごすようになってしまった。
彼女自身も自らの罪を受け入れることが出来ず、今起きている出来事を全て夢と認識している。
「——夢の中なら……アタシは、大リーガーにもなれるんだから!!」
お聞きのとおりだ。罪の自覚がない以上、それを償うつもりなど微塵もなく。
彼女はプリニーとしての大前提を失い、いつまでも風祭フーカとして西洋地獄に居座り続けている。
「まっ、あの様子じゃ、罪を償うなんざ百年かかっても無理だろうな~。さすがにボクも諦めてるし……」
本来、死神であるエミーゼルには『罪を償い終えたプリニーたちの魂を刈りとる』という仕事が残っている。
贖罪を終えた彼らの魂を『転生』へと導くのも死神の仕事の一環なのだ。
しかしフーカに関しては……なんかもう、色々と諦めている。
彼女を矯正するなど、誰にも不可能だろうと。プリニーもどきである彼女を放置するしかないのが現状であった。
そんな、死神として弱気な彼のその発言に対し——
『——たわけ!!!! だからといって……このまま放置していいわけがなかろう!!!!』
叱りつけるような檄が飛ぶ。
「——っ!?」
「えっ? ちょっと、何?」
その声は、その場にいた全ての者の耳に響き渡る。
怒鳴り声と言うほどではないものの、威厳に満ちた、覇気の感じられるよく通る声だ。
その声がどこから発せられたものなのか、それを探ろうとキョロキョロと周囲を見渡す一同。
「……? なに、あれ?」
するとそのとき、皆の視界に黒い『何か』が横切っていく。
それは小さな真っ黒い飛翔物体——コウモリであった。
闇夜のような漆黒のコウモリが一匹、二匹と。
その数は瞬きの間に増えていき——気が付けば、何十匹というコウモリの群が周辺一帯を埋め尽くす。
「これは……妖気!?」
そのコウモリたちを前に鬼太郎の妖怪アンテナが反応を示す。彼らは自然動物の類ではない。妖気を纏った存在——妖怪の一部であった。
やがて、グラウンドの中心地に妖気を纏ったコウモリたちが集い、寄り固まって人の形を成していく。
次の瞬間、そうして人型となった『何者』かがマントを翻し——
「——見つけたぞ、小娘。こんなところで遊び呆けているとは……」
風祭フーカに対して厳しい言葉を投げかけるとともに、その姿を現した。
×
「……何者じゃ? あやつは?」
「見ない顔じゃのう……どこの妖怪じゃ?」
突然現れたその人物——少し細身の青年を前に、砂かけババアや子泣き爺などは戸惑いを隠せないでいる。ただでさえ野球試合になど巻き込まれている中、さらに見たこともない謎の来訪者。
他のゲゲゲの森の面子も、そこに立っている青年が何者なのか理解が追いつかずに困惑していた。
だが——フーカやデスコ、エミーゼルたちは別だ。
西洋地獄からやって来た面々はその青年と顔見知りなのか、その表情をハッとさせる。
特に劇的だったのが、プリニーたちのリアクションである。
「ヴァ……!!」
「ヴァ……!?」
彼らはまるで息を詰まらせるように硬直した直後、眼前の人物の名前を一斉に叫んでいた。
『——ヴァルバトーゼ閣下!!!?』
ヴァルバトーゼ。それが目の前に立っている青年の名前らしい。
体格はやや小柄、スラッとした細身で肌も青白い。男性としては全体的に線が細く、体つきという観点だけ見れば少し頼りないようにも感じられる。
だがその眼光は鋭く、立ち振る舞いも堂々としていた。
多くの視線に晒される中においても、まるで揺らぐことのない絶対的に強靭な意思をその瞳に宿している。その鋭い眼光で彼は周囲一帯を見渡していく。
「……ふむ、ここまで澄んだ現世の空気は久しぶりだな。ゲゲゲの森か……事前に聞いていた通り、良いところのようだ……なあ、フェンリッヒよ?」
「……?」
第一印象としてゲゲゲの森の感想を述べ、それを別の人物に話題として振っていく。だが見たところ、青年の側に他に人影らしきものはない。
いったい誰に話しかけているのかと、鬼太郎が首を傾げたところ——
「——左様でございますか」
「——っ!?」
ヴァルバトーゼの問いに当たり前のように答えるものが——鬼太郎たちのすぐ側、日本妖怪チームのベンチから現れた。
「い、いつの間に……!?」
「フェ……フェンリッヒ!!」
声を発するまで、気配すら感じられなかった相手の出現に日本妖怪たちはギョッとなる。またその男とも顔見知りなのか、ベンチで寛いでいたエミーゼルが彼の名を口にした。
フェンリッヒ。それがこの男の名前なのだろう。
ヴァルバトーゼとは対照的に高身長。長い銀髪をなびかせ、明らかに尻尾のようなものが生えている。素肌の上に赤いジャケット、下はレザーパンツと。服装やその風貌はかなりワイルドなのだが、見た目の印象とは裏腹に姿勢そのものは執事的。
フェンリッヒは鬼太郎たちのすぐ側に現れながらも、彼らのことなど一瞥もせず、ゆっくりとヴァルバトーゼの元へと歩み寄っていく。
「森周辺を一通り調べて来ましたが……これといって脅威になりそうなものはございませんでした、ヴァル様」
彼はヴァルバトーゼの危険を極力排除するため、ゲゲゲの森一帯を偵察して来たらしい。これも主人に仕える執事としての気配り。
もっともそこまで警戒する必要もなく、この森に自分たちの脅威になるものなどなかったと。
完全に日本妖怪たちを侮った発言。それだけ、自身や主人の実力に絶対の自信を持っている証拠だ。フェンリッヒの佇まいからも、強者特有の余裕を感じられる。
「そうか、ご苦労だった」
フェンリッヒの報告をただの事実として受け入れ、ヴァルバトーゼは部下である彼の仕事を労う。
そうして、ようやく本題だとばかりに——さらに目尻を釣り上げ、その視線を一人の少女へと集中させた。
「小娘……風祭フーカよ」
「ヤッホー、ヴァルっち!! ヴァルっちも日本に遊びに来たのかしら? 一緒に野球する? 楽しいわよ!!」
ヴァルバトーゼの厳しい視線も、鋭い言葉も。名前を呼ばれた当の本人、風祭フーカには暖簾に腕押し。彼女自身は何ら気負うこともなくヴァルバトーゼと向き合っている。まるで友達感覚。
「…………」
「…………」
しかし、周囲のものたちはヴァルバトーゼが纏う剣呑な空気を感じ取っていた。
明らかに不機嫌というか、怒っている様子の彼を前に口を挟むこともできず、とりあえず事の成り行きを見守っていく。
「……遊ぶだと? ふざけるな!! 貴様に遊んでいる暇などあるわけがなかろう!!」
案の定、フーカの能天気な反応にヴァルバトーゼはストレートな怒りを露わにしていく。
「小娘……お前は生前に罪を犯し、プリニーとして地獄へと送られて来た! その貴様が罪を償うのを疎かにするどころか……現世の、しかも他国で遊び呆けるとはどういう了見だ!?」
ヴァルバトーゼはフーカがプリニーとしての責務を放棄し、現世の日本で遊び歩いていることが許せないと叫ぶ。それも当然のこと、基本的に地獄の住人が現世に干渉するのはどこの国においてもタブーだ。
死神の仕事などの、特殊な事情がない限り許されることではない。
「これ以上の狼藉はプリニー教育係として見過ごすことは出来ん!! 早急に西洋地獄へと戻り、プリニーとして馬車馬のように働くのだ!!」
さらに、ヴァルバトーゼには『プリニー教育係』としての責務がある。
そう、彼はプリニー教育係。誰もやりたがらない閑職を誇りと使命感を持って勤め上げている強者だ。そんな彼の教育を受けたプリニーたちも、並のプリニーではない。
『…………』
ヴァルバトーゼが顔を出してからというもの、グラウンド内に散らばっていたプリニーたちが一斉に整列し、ざわつき声一つ上げることなく黙り込んでいる。
野球をしていたときは落ち着きもなく、割と好き勝手に振る舞っていたが、ヴァルバトーゼという真の主人を前にした途端にこの変わりよう。
それだけプリニーたちがヴァルバトーゼを畏怖し、心底から彼のことを慕っているということ。
もっともそのカリスマも、やはり風祭フーカには通じていない。
「嫌よ!! アタシ、プリニーなんかじゃないもん!! 罪の償いだかなんだか知んないけど、身に覚えのないことのために働くなんて冗談じゃないわ!!」
現実を夢と認識し、プリニーであることを否定し、自分の罪から目を逸らしているフーカからすれば、ヴァルバトーゼの言葉は暴論である。
自分の自由を束縛されてたまるか。働きたくないとばかりに反抗的な態度で真っ向から立ち向かっていく。
「あくまで逆らうか……ならば再教育だ!! この機会に貴様のその言動、その態度!! 力づくにでも矯正してくれる!!」
フーカの反抗心を前に、遂にヴァルバトーゼも直接的な手段へと打って出る。彼女をプリニーとしての正道へと叩き戻そうと、握る拳に力が入る。
「それはいいお考えです、閣下」
これにフェンリッヒも素早く同意した。
「語尾に『ッス』をつける件すらウヤムヤのまま、ここまできてしまっていますからね。この機会に再教育し、プリニーの立場というものをこの小娘に分からせてやりましょう。骨の髄まで、徹底的に……」
「うむ、その通りだ!!」
ヴァルバトーゼはあくまで教育係としての使命感から頷いているが、フェンリッヒの顔には含みのある笑みが浮かんでいる。風祭フーカという存在を彼自身は快く思っていないのか。フェンリッヒが口にする『再教育』という台詞の響きにも不穏な気配が感じられる。
「ちょ、ちょっと待つデス!!」
その不穏な香りに、それまで黙っていたデスコも立ち上がる。
「お姉様の自由を奪おうだなんて、たとえヴァルっちさんたちでもそんな暴挙は許さないデスよ!!」
「いや……暴挙っていうか……正論なんだが……」
お姉様が絶対であるデスコはフーカを全力で庇うべく彼らの前に出る。それに対し、死神であるエミーゼルはため息を吐いている。
ヴァルバトーゼたちの言っていることは、西洋地獄の観点からすれば思いっきり正論である。プリニーであるフーカに初めから自由などない。これまで好き勝手に振る舞っていたこと自体が異常なことなのだから。
「…………」
「…………」
そうして、言葉を出し尽くした両者は静かに睨み合っていく。もはや言葉は不要とばかりに、いつでも戦闘に入れるよう臨戦態勢で身構えていく。
先ほどまで、のほほんと野球を楽しんでいたグラウンドの中心点で、ヴァルバトーゼとフーカが。フェンリッヒとデスコがそれぞれ視線をバチバチと散らしていく。
「——ああ……お主ら、もう少し落ち着かぬか?」
そんな一触即発の中、一人の人物が彼らに声を掛けた。
「事情はよう分からんが……もっとお互い、冷静になって話し合うべきではないかのう?」
目玉おやじである。
未だにユニホーム姿のままだが、思考は真面目な方向へと切り替えている。鬼太郎の肩に乗り、彼らと同じ目線から年長者としてその状況に意見していく。
「そ、そうですよ!! 喧嘩する前に、もっとちゃんと話し合いましょう!!」
「……ていうか、アンタたち。こんなところでおっ始めるつもり? 迷惑だから……せめで余所でやってくれないかしら?」
これに犬山まな、猫娘の二人も同意する。
まなは平和的な解決を訴え、猫娘はせめて場所を選べと。意見そのものは別ものだが、それぞれがこの不毛そうな争いを仲裁しようとあえて首を突っ込んでいく。
「……口を挟むな、女ども。これは我々西洋地獄の問題だ。部外者が首を突っ込む話ではない」
これにフェンリッヒが不機嫌に顔を歪める。ここまでまるで日本妖怪側の存在を無視してきたフェンリッヒだが、さすがにすぐ側に彼らがいることは認識していたようだ。
フェンリッヒはその視線を不愉快そうにまなや猫娘へと向け、明らかに見下した発言で険を強めていく。しかし、彼の主人であるヴァルバトーゼは違っていた。
「まあ待て、こやつらの言うことにも一理ある。ここは一度西洋地獄へと戻り、そこで改めてこの話に決着を……」
寛容にも彼女たちの意見を聞き届け、一度西洋地獄へ戻ることを考える。確かにこれが西洋地獄の問題であれば、西洋地獄内で片付けるべき案件である。
この場で揉めるのは筋違い。当然の礼儀としてヴァルバトーゼはその場での矛を納めようとする。
「……ん?」
だがここでヴァルバトーゼにとっても、そして鬼太郎たちにとっても不測の事態が発生してしまう。
「……な、なんですか?」
「な、なによ……私たちの顔に、何かついてる?」
意を決してヴァルバトーゼたちに声を掛けた二人の少女、まなと猫娘。彼女たちの顔を一瞥した瞬間、ヴァルバトーゼの視線がそこで停止する。何か引っかかるものでもあるのか、彼女たちの顔をジッと見つめる。
「……フェンリッヒ!」
「はっ!」
「例のリストを持ってこい」
「はっ、こちらに……」
そして、すぐにフェンリッヒに声を掛け、彼に『リスト』なるものを持ってくるように指示する。
主の要望に即座に答えるフェンリッヒ。彼はどこからともなく紙の束を取り出し、それをヴァルバトーゼへと差し出した。
「…………」
「何してんだ、あれ?」
「さあ……?」
ヴァルバトーゼは黙々とその紙の束をめくり始めた。いったい何を見ているのかとねずみ男が疑問を抱くが、これにはエミーゼルも答えることができない。
何かの資料をチェックしているようだが、果たしてそれが何なのかは当人たちにしか理解できない。
ややあって——
「ん! やはりそうか……」
ヴァルバトーゼの手が止まる。彼はその眉間に皺を寄せながら、手を止めたページを隅々までチェックしていく。
そして顔を上げた次の瞬間、フーカに向けていた厳しい視線を——まなと猫娘の二人へと注ぎ、力強く叫んでいた。
「——プリニー隊!! その小娘二名を拘束せよ!!」
「えっ……え、ええ!?」
「ちょっ……!?」
いきなりのことで唖然となるまなと猫娘。だが戸惑う彼女たちなどお構いなしに、ヴァルバトーゼの指示を受けたプリニーが一斉に彼女たちを取り囲んでいく。
『アイアイサーッス!!』
懐の鞄からナイフを取り出し、一気に殺気立つプリニーの群れ。ヴァルバトーゼの指示を彼らは何ら疑問を抱くことなく実行しようとする。
「待て!! いきなり何の真似だ!?」
「ちょっと、ヴァルっち!? いったいどうしちゃったのよ!? 何でまなっちたちを!?」
これに対抗し、鬼太郎とフーカが抗議の声を上げながら前に出た。
二人がプリニーたちの前に立ち塞がることで彼らも動きを止めざるを得ない。彼らと鬼太郎たちとでは戦闘力に絶対的な差がある。
プリニーたちはどうすべきかと、命令を下した主人の顔色にお伺いを立てる。
「どうもこうもないわ。その二人は罪人……西洋地獄へと連行し、早急に処罰を下す必要があるのだ!」
ヴァルバトーゼの方は一歩も引く気はない。誰が邪魔をしようとも、罪人である彼女たちを必ずやひっ捕らえようと目がマジになっている。
「ざ、罪人……って、わたしと猫姉さんが?」
「いったい何のことよ!? こっちは西洋地獄とは関わりすらないんだから!!」
身に覚えがない罪にまながビックリしている。勿論、猫娘もだ。
彼女たちには、ヴァルバトーゼが口にする『罪』というやつに全く心当たりがない。それどころか、西洋地獄自体とほとんど関わり合いがない。
いったい、彼女たちの罪とは何なのか?
すると、ヴァルバトーゼは一旦気持ちを落ち着かせるように息を吐く。彼は冷静に、言い聞かせるようにしてまなたちにとある事実を告げた。
「……覚えていないか? 貴様ら、以前西洋地獄に無断で入国してきたことがあっただろう?」
「…………あっ」
問われたことで思い出す。
まなと猫娘の二人は——確かに一度だけ、西洋地獄の地に足を踏み入れていたことがあった。
それは去年の秋頃のこと。
例の地獄での騒動。四将の一人・玉藻の前が地獄を乗っ取った事件の際、その企てを阻止しようとまなと猫娘は日本地獄の中枢へと侵入することになった。
その際、通常のルートでは地獄に侵入したことが感知されてしまうと。彼女たちは裏道的なルートとして『国境を跨ぐ』という道順を選択したのだ。魔女の友人であるアニエスたちの力を借り、西洋地獄から日本地獄へと突入することになった。
これはまなの思いつきによるもの。おかげで彼女たちは日本地獄へ無事潜入、微力ながらも鬼太郎の手助けをすることが出来た。
しかし——
「本来……互いの地獄を行き来するには厳重な審査が必要になってくる。だが貴様らは……その手順をすっ飛ばした!!」
この世であろうと、あの世であろうと。国境を越えるにはちゃんとした手続きを踏む必要がある。出入国管理施設でパスポートの有無や犯罪歴、不当なものを持ち込んでいないか、不穏な企みを抱いていないかなど。事細かにチェックする必要があるからだ。
その手順を踏むことなく他国に侵入することは当然犯罪であり、まなと猫娘は——意図せずして、その禁止規定に抵触してしまっていたのだ。
ヴァルバトーゼは、そのことを怒っているのである。
「貴様らは!! 国家間で定められている条約を……『約束』を破ったのだ!! これを罪と呼ばずに何と言うか!?」
「え、ええ~、そんな……」
「あ、あれは不可抗力で……」
まなと猫娘はヴァルバトーゼの言い分に釈然としないものを感じ、何とか反論しようと試みる。だがそんな彼女たちの言い分を、ヴァルバトーゼは怒りのままに封殺する。
「言い訳を聞くつもりはない!! 『約束』を破ることの重み……貴様らの魂に直接刻み付けてくれる!!」
「っ……!!」
すっかりお冠な彼の怒号に、少女たちは迂闊な言い訳を口にすることが出来ない。そしてヴァルバトーゼの怒りに呼応するかのように、プリニーたちもさらに殺気立っていく。
このままでは問答無用、少女たちを容赦なく拘束するべく、プリニーたちが一斉に襲いかかってくることになったであろう。
「——ちょっと待った!!」
しかしそうはさせまいと。当然ながら多くの仲間たちが異議を唱えていた。
「それ以上は……いくらヴァルっちでも許さないんだから!!」
「そうデス!! まなっちさんはデスコにとっても大切な友達なのデス!!」
風祭フーカとデスコ。
友人であるまなを守ろうと、プンスカと怒りを露わにする。
「……貴方の言い分は理解した。けど、だからって……はいそうですかと納得することは出来ない!」
「そうじゃ、鬼太郎! お前の思うようにすればよい!」
鬼太郎と目玉おやじ。
鬼太郎は大切な彼女たちを守ろうと奮起し、目玉おやじが息子の意思を尊重して彼の背中を押す。
「やれやれ……人様の森に土足で踏み込んでおいて、随分な言い草じゃのう?」
「まったくじゃ……西洋妖怪はどうにも喧嘩っ早い奴が多くて敵わんわい」
砂かけババアや子泣き爺。
野球の後で体力的に疲れている二人だが、それでも重い腰を上げていく。
「まなちゃんには指一本触れさせんばい!! どうしてもっていうんなら、わしらが相手になったるけんね!!」
「ぬりかべ~!!」
一反木綿とぬりかべ。
レディの危機に女好きな一反木綿がやる気を漲らせ、ぬりかべもその巨体を静かに揺り動かす。
「俺には関係ねぇこった、今のうちに……」
「う~ん……どうしたもんかねぇ……」
皆が立ち上がる中で、ねずみ男は素知らぬ顔でそろりそろりと逃げ出そうとする。
エミーゼルは死神として、あくまで中立的な立場で様子を見るつもりのようだ。
「鬼太郎、みんな……っ!」
「べ、別に、鬼太郎がそこまで必死になる必要は……でも、ありがと……」
妖怪たちに全力で庇われ、まなは感激に笑顔を浮かべる。
猫娘は特に鬼太郎の反応に対し、照れ臭そうに頬を赤く染めて礼を述べていた。
「ふっ……仲間のためにこの俺に立ち向かうか。その蛮勇だけは認めてやろう……」
そんなゲゲゲの森の妖怪たちの全力なる抵抗に、ヴァルバトーゼは愉快そうに口元を綻ばせる。彼は仲間のために自分に歯向かってくる相手の精神性を心地よいものとして受け取り——
「だが、俺に抗おうとするその根性は却下だ!! 邪魔をするというのであれば……貴様らもまとめて再教育してくれる!!」
その上で、それを真っ向から叩き潰すべく戦意を高揚させていく。
ここが敵地であろうと、多勢に無勢であろうと、相手が何者であろうと関係ない。
ヴァルバトーゼは自らの職務を全力で全うするのみ。
その使命を邪魔するものは、全て再教育の対象だ。いついかなる場所、状況であろうとも彼は己の意志をただ貫き通すのみ。
「——お待ち下さい、閣下」
と、まさに全面衝突待ったなしというそのタイミング、ヴァルバトーゼの執事としてフェンリッヒが口を挟む。
「この程度の俗事……閣下が直接手を下す必要はございません。このフェンリッヒめに妙案がございます」
「ほう、妙案だと?」
「…………」
フェンリッヒの進言に耳を傾ける形でヴァルバトーゼの動きが止まる。鬼太郎たちも、相手の出方を窺う姿勢でひとまずは矛を収めた。
「はい。あの小娘ども……プリニーもどき・風祭フーカ。そして西洋地獄への領域侵犯を犯した二人の小娘。此奴らの罪を断じるのに、わざわざ閣下が労力を費やす必要はないかと。ここは一つ、小娘どもに例の建造中の地獄——その被験者になって貰いましょう」
「地獄の……被験者だって!?」
「……?」
物騒な響きに眉を顰める鬼太郎たち。しかし、フェンリッヒはお構いなしに自身の考えを一方的に告げていく。
「そうだ。西洋地獄では現在、地獄の新しい形を模索中であり、いくつかの新造地獄が試験運転中……」
「貴様らにはその『モニター』を務めてもらう。そうすれば、そこの小娘たちの罪状……いくばくか減刑するよう、俺の方から上層部へと取り計らってやろう……クックック」
提案という形でフェンリッヒは鬼太郎たちにそのような要求を突きつけた。
だが、その口元には明らかに邪悪な笑みが浮かんでいる。
控えめに言っても——何事かを企んでいるのは明らかである。
人物紹介
ヴァルバトーゼ
ディスガイア4の主人公。章タイトルにもある通り、吸血鬼。
歴代シリーズの中で、もっとも大人な主人公。たいていの無礼を「まあ、よいではないか」で許してくれる寛大なお方。ですが今作の彼は『とある理由』からちょっと不機嫌です。
『約束』を守ることに異常な拘りを持ち、それが原因でプリニー教育係という地獄でも底辺の仕事を押し付けられています。
彼の掘り下げに関しましては次回のお話で。とりあえず、今回は顔見せです。
フェンリッヒ
ヴァルバトーゼの忠実な僕。執事として仕える狼男。
「全ては我が主のために……」が口癖であり、常に主のため先回りで策謀を巡らせている。主のためならば、主すらも騙す。
基本的にヴァルバトーゼ以外のものに心は許さず、フーカたちのことを仲間と認識しているかも怪しい。
今回はそのフェンリッヒの企みという形で……鬼太郎たちが西洋地獄で『地獄体験』をすることになるでしょう。
野球シーンについて
今回入れたかったシーン。
鬼太郎でも人気のエピソード『おばけナイター』。
風祭フーカというキャラの戦闘スタイルにも野球が取り入れられており、両者の共通点を活かす形で今回は書かせてもらいました。
いずれはきちんとした野球作品とクロスオーバーし、妖怪バットの話など書いてみたいですが、今回はその予行練習。
ちなみに日本妖怪チームのメンバーに関して——
日本妖怪チーム
1番 サード 〇〇
2番 セカンド 猫娘
3番 ファースト ねずみ男
4番 ピッチャー 鬼太郎
5番 ライト ぬりかべ
6番 キャッチャー 子泣き爺
7番 レフト 一反木綿
8番 ショート 〇〇
9番 センター 砂かけババア
監督 目玉おやじ
応援団員 犬山まな
ってな感じのチームメンバーを即興で思いつきました。
〇〇に入る妖怪は……読者の皆様でそれぞれ想像してみてください。