ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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そういえば、FGOの福袋。ユーザーの皆様はどれを回しました?

自分は去年の正月も、六周年の際も。持っているキャラが重なるという悲劇があったため、確実に未所持サーヴァントが当たるような福袋を選びました。
具体的にはアーツのエクストラ枠。唯一持っていたのも北斎と、確立的にはほとんど重ならない。
その中でも狙いは水着カーマ、スペースイシュタルといざ回した結果……!!

出たのは、水着キアラさんでした。

………いや、別にキアラさんが嫌だというわけではありませんが。
未所持鯖で確かに嬉しいのですが……何だろう、この釈然としない気持ちは。

あの魔性菩薩……いずれは、この小説にも出番を与えるべきか否か……


それはさておき、ヴァルバトーゼ編の中盤です。
西洋地獄シリーズと銘打ってきた本シリーズですが、ようやく舞台を西洋地獄へと移すことになりました。
西洋地獄に関しては、神話での伝承とかいろいろありそうですが、今回はディスガイア基準で語らせていただきます。
西洋は広いですから、きっと地獄と一口に言っても様々なものがあるのでしょう。
他作品でのクロスオーバーで、いずれその辺りも深く掘り下げられればと思います。




魔界戦記ディスガイア4 吸血鬼ヴァルバトーゼ 其の②

「……ここが……西洋地獄なのか?」

「なんていうか……日本の地獄とあんま違いはないのね……」

 

 鬼太郎と猫娘が周囲の情景に思ったままの感想を口にする。

 薄暗い洞窟のような暗さの中、グツグツとマグマが燃えたぎる大地。不気味で殺風景な光景だが、日本地獄で見慣れた景色なので特に驚きはない。

 

「でしょ? ほんと何もないところなんだから!! もうちょっと乙女チックな光景にできなかったのかしらね、アタシの想像力ってば……」

 

 その反応にこの地獄の情景すらも、自身の夢だと思い込んでいる風祭フーカ。西洋地獄の罪人である彼女にとってここはホームグラウンド。変わり映えもなければ面白みもないと、ダラダラ不満を口にしていく。

 他のメンバーも——

 

「まったくもってお姉様の言うとおりなのデス!! 地獄には致命的に乙女成分が足りていないのデス!!」

 

 フーカの考えに激しく同意するのが、デスコ。

 

「お前ら、地獄にいったい何を求めてるんだよ……」

 

 彼女たちの妄想力に呆れ返っている、エミーゼル。

 

「お主ら……遠足に来とるわけじゃないんじゃぞ、もっと気を引き締めんか!」

「うむ、それもそうじゃが……むっ、酒が切れてしもうたわ!」

「はぁっ~! 女っ気もなんもない……寂しいとこばいね~……」

「ぬりかべ~」

 

 さらには砂かけババア、子泣き爺、一反木綿、ぬりかべ。彼らも彼らで割と好き勝手にお喋りしている(ちなみにその中にねずみ男の姿はない)。

 意外と心に余裕はあるようだ。しかし油断は禁物。

 

 なにせここは敵地——鬼太郎たちに挑戦状を叩きつけたプリニー教育係。

 

 吸血鬼ヴァルバトーゼがその身を構える本拠地であり、彼らはこれからこの地獄のエリアを一つずつ『攻略』していかなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 事の成り行きは、今から一時間ほど前。

 ヴァルバトーゼの従者・狼男のフェンリッヒ。彼からのとある提案から始まった。

 

「——そうだ、貴様らには新造されたいくつかの地獄……そのモニターを務めてもらう」

 

 ゲゲゲの森。殺気立った面々を前にし、フェンリッヒは平然とそんな提案を口にする。

 その発言に返す言葉を失い、暫し呆然と立ち尽くす鬼太郎。だが、すぐにでも「そんな提案呑む必要などない」と、相手の要求を突っぱねる。

 

「ほう、いいのか? もしもこの提案を断るのであれば……そこの人間の小娘は『罪』を背負うことになる。死後どのような処遇になるか……一切の保証は出来んぞ?」

「——っ!!」

 

 しかし、フェンリッヒもすかさず揺さぶりを掛ける。もしもここでこの提案を断れば彼女に——犬山まなに害が及ぶことになるかもしれないと。

 死んだ後、地獄に落とされたまなの魂が——『西洋地獄に不法入国した罪』を背負うことになると脅しを掛けてきたのだ。

 

 実際のところ、西洋地獄の獄卒であるフェンリッヒたちが、日本で没するであろうまなの処遇を決めることができるとは思えない。だが、彼らは西洋地獄内では結構顔が効く方らしい。

 その気になれば外交手段などを用い、今回の件を国際問題化。日本地獄の上層部に物申し、引き渡し要求などしてくる可能性がある。

 実際に日本地獄がどのような対処に出るかは不明だが——少なくとも、それを実行するだけの行動力、交渉力がヴァルバトーゼやフェンリッヒにはあるそうだ。

 西洋地獄の情勢に詳しいエミーゼルの助言である。

 

「な、なんて陰険なやり口なの……フェンリっちってば!?」

「き、汚い! さすがフェンリっちさん……汚いのデス!!」

 

 これにフーカとデスコの二人が抗議の声を上げる。とても悪どい大人のやり口に、清らかな?子供の立場から意義を唱える。

 

「ふんっ! なんとでもほざくがいい。別に俺はその小娘の処遇などどうなろうと構わんが……さあ、どうする?」

「くっ……!」

 

 もっとも、そんな子供たちの罵りなどでフェンリッヒはビクともしない。彼はどちらでも構わないと、選択権を鬼太郎たちへと委ねた。

 これに苦悶の表情を浮かべる鬼太郎と仲間たち。まなのことを思えば、その要求を受けないわけにはいかない。だが地獄の被験者など、迂闊に引き受けていい案件ではないのも事実。

 どうしたものかと、僅かに返答を詰まらせた。

 

 

「——だったら……だったら勝負よ!!」

 

 

 すると、これに真っ向から喧嘩を売るよう、風祭フーカがバットをぶん回しながら吠える。

 

「その地獄のモニターとやらをアタシたちが最後までやり遂げれば……まなっちと猫ちゃんの罪は帳消し!! アタシも晴れて自由の身!! アタシがプリニーじゃないと認めなさい!!」

「お前……どさくさに紛れてスッゲェ図々しいこと要求してるぞ!?」

 

 まなと猫娘を庇っての発言だが、ちゃっかりと自分自身の要求も盛り込んでいる。フーカの図々しさにエミーゼルが呆れ返る。

 

「ふっ……よかろう! その勝負、受けて立つ!!」

 

 ところがこの要求、ヴァルバトーゼはホイホイと受けてしまった。

 

「もしも、お前たちが地獄の苦行に最後まで耐え切ることが出来れば……その小娘たちの罪を許そう! お前がプリニーではない、風祭フーカ個人であるとも認め、自由に振る舞うことを許可する。現世で野球を楽しもうと、日本旅行を満喫しようとお前の自由だ! 好き放題、勝手放題に過ごすがいい!」

「そ、それはそれで……こっちが困るんだけど……」

 

 寛大にも全てを許すというヴァルバトーゼの御言葉に、日本側を代表して猫娘が渋い顔をする。

 自分たちの罪を許してくれるのはありがたいのだが、フーカに日本での自由を許すのは日本妖怪として困る。また騒動を起こすかもしれないのだから、さっさとお引き取り願いたいのが本音である。

 だが日本妖怪側の都合など完全スルーし、ヴァルバトーゼは力強く宣言してしまった。

 

 

「——このヴァルバトーゼの名に懸けて『約束』しよう!!!」

 

 

 約束——必ず守ると。

 

 

 

×

 

 

 

「みんな、ごめんね。わたしのせいで……こんなことになって……」

 

 今回の一件、当事者として犬山まなも西洋地獄を訪れていた。

 生身の人間なのだから、大人しく森で待っているべきだと皆で止めたのだが、原因は自分にあると。まなは心苦しそうに、自分のしでかしてしまった『不法入国』の罪を悔いていた。

 こんなことになるのなら、安易な思い付きなど実行に移すべきではなかったと後悔している。

 

「そう落ち込むでないぞ! まなちゃんは何も悪くないんじゃから!」

「そーよ、まなが気に病む必要なんてないんだから……」

 

 それを目玉おやじが元気づけ、また猫娘が優しく慰めていく。

 実際、まなの思い付きによって日本地獄が救われたのも事実。あの時はああする他になかったと、同じ罪を犯した猫娘は何も後悔をしていない。

 

「そうよ! そうよ! まなっちは何も悪くないんだから!!」

「気にしちゃダメなのデス!! ヴァルっちさんたちは頭が固すぎると思うのデス!!」

 

 フーカとデスコもまなは悪くないと元気な声で励ます。ヴァルバトーゼたちの方が聞き分けがないと、寧ろ相手方を責めていく姿勢だ。

 

「頼むから……お前らはもう少し反省する心を持ってくれ……」

 

 もっとも、フーカたちの場合は完全に彼女たちに非があるのではないだろうか。エミーゼルはフーカらにもっと自分たちの行いを反省するように促していく。まあ……馬の耳に念仏だろうが。

 

 

 

「——よく来たな、待っていたぞ」

 

 そうして、西洋地獄内を道なりに進んでいく鬼太郎たちの前に、一人の男性が立ち塞がる。

 その男は覆面にマント、謎のヒーロー風な格好をした成人男性だった。どことなくプリニーに似ているような雰囲気がある。

 

「ええっと……どっかで見た顔ね、誰だっけ?」

「確か……指導教官のニーノさんデス! ヴァルっちさんと同じ職場で働いている、プリニー教育係の人デス!!」

 

 その男と顔見知りなのか。フーカとデスコは彼のことを思い出しながらその名を呼ぶ。

 

「その通り。俺はプリニー教育係のニーノ。プリニーたちの指導教官を務めている。ヴァルバトーゼ様の部下さ、よろしくな」

 

 ニーノと名乗った男は物腰が柔らかく、ヴァルバトーゼのような覇気も、フェンリッヒのような容赦のなさもなかった。

 本当に一般人の男性といった感じだ。一応、彼も西洋地獄の獄卒の筈なのだが。

 

「キミらのことはフェンリッヒ様から説明を受けている。例の地獄に挑戦するんだって? 物好きだね……本当に大丈夫かい? 怪我だけはしないよう、しっかりここで準備していくんだぞ。ほらっ、そこの人間のキミはこの防護服を着て。地獄は色々と物騒なんだから。死んじゃったら元も子もないからね?」

「あっ、どうも……わざわざすいません……」

 

 彼は鬼太郎たちに気遣いの言葉を掛け、特に生身の人間であるまなに対して世話を焼く。その親切にはまなも恐縮して頭を下げ、一行の緊張感もやや薄れていく。

 

「ごほん……では改めて説明しよう!!」

 

 だが、すぐにでも気を引き締めるように咳払い。彼は道案内役として、鬼太郎たちに今回の『地獄攻略』そのルール説明を行なっていく。

 

「これからキミたちにはいくつもの地獄を巡ってもらう! それらは現在新しく建造中の地獄だ。何が起こるかは保証できないから、そのつもりでいろよ?」

「…………」

 

 脅しではなく単純な事実として注意事項を述べていく。その説明に鬼太郎たちは改めて自分たちが危険な敵地の真っ只中にいるという現実を自覚させられる。

 

「はっ、上等じゃない!! どんな地獄だろうと全部薙ぎ倒してやるわ!!」

「お姉様のため、デスコも本気でいくデスよ! 邪魔する奴はみんな灰にしてやるデス!!」

 

 一方で、フーカやデスコはプレッシャーなど微塵も感じていない。立ち塞がるもの全てを灰燼と帰す勢いで殺気を撒き散らしていく。

 

「おいおい、物騒だな……まあ、それはそれとして……」

 

 彼女たちの迫力に押されて及び腰になるニーノ。だがナビゲーター役として最後まで説明責任は果たしていく。

 

「移動にはこの『ゲート』を用いる。自動で設定された座標に転移される手筈になっているから、その都度利用するように」

「ゲート?」

 

 ニーノが合図すると同時に、何もない空間にぽっかりと『穴』が開いた。

 

 これぞ——『時空の渡し人』が用いるとされるゲートである。

 

 広大な地獄内を移動するためのものらしく、西洋地獄ではこれが一般的な移動手段になっているとのこと。これは現世でもバックベアード軍団が用いていた、魔法石による空間転移と同じ魔法技術である。

 

「では、健闘を祈る! さらばだ!!」

 

 全ての説明を終え、ニーノは役目を果たしたとばかりに鬼太郎たちに背を向ける。

 そして、まるで怪獣をやっつけてその場から飛び去っていく、ヒーローのよう「シュワッチ!」と空の彼方へと立ち去っていった。

 

 

 

「……よーし!! みんな、準備はいいわね!?」

 

 ニーノの説明から数分ほどで準備を終え、フーカが鬼太郎たちに号令を掛ける。これから始まるかもしれない激しい戦いの前に、皆の戦意を高めようと激励の挨拶をかましていく。

 

「ここから先は何があるか、アタシたちにも予想がつかないわ。フェンリっちのことだから、きっと恐ろしい地獄をいくつも用意しているに違いないけど!」

 

 フェンリッヒの容赦のなさ、性格の悪さはフーカたちがよく分かっている。

 彼とは仲間として共に戦った経験があるため、敵に対する苛烈さ、手段を選ばない容赦のなさなど間近で見てきている。決して一筋縄でどうにかなる相手ではないと。

 だが、それでも——

 

「それでも! それでもアタシたちはやり遂げなければならないの!! まなっちと猫ちゃんの罪を帳消しにするために……何より!! アタシ自身の自由のために!!」

「……お前、さてはそれが目的だな?」

 

 本人はいいことを言っているつもりのようだが、明らかの自分のために叫んでいるところの熱量が半端ない。

 さてはまなと猫娘はついでだなと、エミーゼルはフーカの心情を的確に読み取っていく。

 

「ふぅ~……まあいいさ。ここまで来た以上は最後まで付き合ってやるよ」

 

 しかしため息を吐きながらも、ここまで中立を貫いてきたエミーゼルがフーカたちに力を貸すと重い腰を上げる。西洋死神である彼がフーカや鬼太郎たちを手助けするのは色々と問題がありそうだが、彼にだって人並みの情がある。

 同年代の友人と呼べなくもないフーカやデスコ。そして——何故か犬山まなにも肩入れする。

 

「ありがとう、エミーゼルくん……」

 

 まなもエミーゼルの助太刀には素直に礼を言った。淑子の件は既に彼女の中で折り合いがついているため、彼に対するわだかまりもない。

 すると、そんなまなのお礼に——

 

「べ、別に……お前のためじゃねーし! 礼を言われるようなことじゃないからなっ!!」

 

 と、エミーゼルは顔を真っ赤に叫んでいた。彼のそんな態度にフーカとデスコが目敏く反応する。

 

「あれれ~? エミーゼルってば、頬なんか染めて何をムキになっているのかしら~?」

「怪しいのデス、エミーゼルさん。なんだかとっても……甘酸っぱい気配がするのデス! これはもしや……っ!?」

「へ、変な勘ぐりするなよ!! ボクは別に……!」

 

 少年の純情ぶりを弄くり回す少女たち。

 少年はからかってくる彼女たちに余計な言葉を言わせまいと全力で抵抗する。

 

「……?」

 

 彼らのやりとりが何であるか。いまいち理解しきれず、犬山まなは頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

 

「なんとまあ……マイペースな子たちじゃのう……」

 

 子供たちのやりとりに目玉おやじが脱力する。

 これから激しい戦いがあるかもしれないと言うのに、何やら青春的な話でじゃれあっている。緊張感も何もあったものではない。

 

「ですが、父さん。おかげで変に緊張せずに済みます」

 

 しかし、それを鬼太郎は好ましいものとして微笑みを浮かべる。

 負ければどうなるか分からない。まなや猫娘のためにも絶対に敗北は許されない戦いだが、気負いすぎても本末転倒。適度に肩の力を抜くことで、寧ろいつもよりコンディションが整えられた気がする。

 

「さあ、そろそろ行こうか……」

「ええ、そうね!!」

 

 それは鬼太郎だけではなかったようで、猫娘の返事にも快活なものが感じられる。

 他のメンバーの顔色もいたって良好。西洋地獄の只中に立たされていながらも、彼らの表情に絶望的なものなど何一つなかったのである。

 そう、たとえこの先にどんな地獄が待っていようとも、みんなが一緒ならきっと乗り越えられると。

 

 

 希望を胸に、一行は勢いよくゲートへと飛び込んで行った。

 

 

 

×

 

 

 

『——きゃああああ! 素敵ぃいいい!』

『——カッコいい、痺れるッス!』

『——もっと! もっと激しくメチャクチャにしてェエエエ!』

 

「えっ……な、なにこれ!?」

「……なんだ? この歓声は?」

 

 ところがゲートを潜って数秒ほど。移動先として辿り着いたエリアで鬼太郎たちを待っていたもの。それは燃え盛るような炎でもなければ、凍えるような吹雪でもなかった。

 

 彼らを出迎えたもの——それは、割れんばかりの大歓声である。

 

 そこは遊園地のようなアトラクションが数多く設置されたエリア。

 それらの遊具は獄卒たちが自身を鍛え上げるためのトレーニングマシンだったり、亡者たちを苦しめるための拷問用具だったりと。それだけでもある意味で斬新な地獄なのだが。

 

「……なにこれ……? ライブかなんか?」

 

 それ以上に意味不明だったのが、そこに集まっている獄卒やプリニーたち。その全てが熱狂、あるいは発狂していたということである。

 そこに集まっていた、ざっと数百人はいそうな群衆が——特設ステージらしきものに向かって黄色い声援を送っていたのだ。

 

 ステージ上に立っているのは一人の男。先ほどからその男の歌声と、観客たちの声援によってエリア全体が地響きのような揺れを起こしている。

 

「こ、この歌声……まさか!?」

「う、嘘だろ……っ?」

 

 鬼太郎たちには何が何やら、皆目検討も付かない。一方でフーカやエミーゼルたちはその表情を強張らせていく。

 

 彼らには分かってしまっていた。その男が何者であるか、彼が如何なる人物なのか。

 

 だからこそ、信じられない。彼が賞賛を受けているという状況が——。

 脳みそが、それが現実のものであると認識することを拒んでいた——。

 

『——待っていたぜ、お前たち!! ようこそ……俺様の特設ステージへ!!』

 

 しかし、これは夢でも幻でもないと。

 鬼太郎たちの到来を待ち構えていたその男が、ステージ上から彼らに向かってマイク越しにシャウトする。

 

『お前たちの前に立ち塞がる第一の地獄!! このエリアを統括するのはこの俺様……』

 

 

 自身の誇り高きその名を声高らかに、震え上がる魂と共に歌い上げるように叫んでいた。

 

 

 

『——監獄長、ダークヒーローの……アクターレ様だぁぁああああああああ!!』

 

 

 

 

 

「……なに? この……見るからに頭の悪そうな奴は……」

「随分とチャラい格好の若造じゃのう……」

 

 監獄長を名乗ったその男の登場に、猫娘や砂かけババアが即座にパカっぽいと辛辣な言葉を吐き捨てる。

 実際、彼女たちが見抜いた通りだ。彼は——アホである。

 

「——出たわね! アホターレ!!」

「——バカターレさん!! どうしてここにいるデスか!?」

「——何しに来やがった! ハナターレ!!!」

 

 フーカ、デスコ、エミーゼルの三人からも総スカンを食らう。顔見知りである彼らの表情からも『極力関わり合いになりたくない』というオーラが包み隠さずに溢れ出していた。

 

「アクターレだ!! キミたち、人の名前を間違えるなんて失礼じゃないか!!」

 

 馬鹿っぽい男——もとい、アクターレ。 

 意外にもまともなことを指摘しながら、彼はその肉声を鬼太郎たち一行に聞かせていく。

 

 アクターレは地獄の監獄長にして、超人気のダークヒーロー(と、本人は思い込んでいる)。

 金髪に褐色肌、半裸姿に白いコートを纏い、その手にはエレキギターを携えていた。見るからにチャラついたロックバンドのボーカルといった感じの青年である。

 

「……あなたがこのエリアの……責任者、なんですか?」

 

 アクターレ相手に一応鬼太郎は敬語で尋ねた。彼の主観からでもとてもまともな人物には見えないが、それでも初対面の相手として最低限の礼儀は尽くす。

  

「その通りさ! ヴァルバトーゼに命令されてな!! ここでお前たちを迎え撃つように言われているんだ!!」

「お前……監獄長のくせにプリニー教育係に従ってるんじゃないよ……」

 

 鬼太郎の問いにアクターレは胸を張って答える。だが彼は監獄長という、一応は責任のある立場。それなのに、プリニー教育係であるヴァルバトーゼの指示でここにいるという。

 部下的な立場の相手にこき使われているアクターレの情けなさに、エミーゼルが呆れ果てる。

 

「だって、近頃のあいつちょっと怖いんだもん!! 口答えしたらしたらで、再教育とか物騒なこと言ってくるし!! 従うしかないだろ!!」

「アンタ……上司としてそれでいいの?」

「もん……て、いい歳した大人が何を言っとるばい……」

「ぬ、ぬりかべ~……」

 

 アクターレは泣く泣くヴァルバトーゼに従っているという現状を堂々と訴える。ますます持って情けない彼にフーカが憐れみの目を向け、その感情は日本妖怪たちにまで伝播する。

 出会って数分だが、もはや初対面である鬼太郎たちの中でも、アクターレの存在が『アホ』で定着しつつあった。

 

 

 

「——だが安心しろ!! ここは地獄とは名ばかり、天国のような場所さ! 見ろ!!」

 

 気を取り直し、アクターレはこのエリアの番人として鬼太郎たちと対峙する。

 ここは彼が支配する領域であり、鬼太郎たち同様、ここにはこの地獄を体験する『被験者』たちが集められていた。

 

 そう、先ほどからアクターレに黄色い声援を送っているものたちは——サクラだ。

 西洋地獄中から集められた罪人、プリニー。ヘマをやらかした獄卒たちなどである。

 

『すご~い……さすがアクターレ様だぁあ』

『アクターレ様の美声が聴けるだなんて……なんて幸福なんだぁああ』

『素敵~……アクターレ様、ばんざぁああああああいッス』

 

 一見すると口々にアクターレを称賛しているように見えるが、よくよく聞けばそれらの歓声には何一つ心がこもっていない。

 彼らは自らの意思とは関係なく、アクターレを崇め奉り続けることを——強いられているのだ!!

 

 見よ!! 彼らの死んだ魚のような目を!!

 浜辺に打ち上げられ、座礁したイルカやクジラのように死にそうな顔色を!!

 鯉のように口をパクパクさせながら、泡まで吹いているその疲弊ぶりを!!

 

 彼らは24時間、365日。

 ここで永遠にアクターレを称賛し続けなければならない。

 

 

 これこそ新しい地獄の形——名付けて『アクターレ地獄』である!!

 

 

「ふっふっふ……そうか、そうか!! そんなに嬉しいか、お前たち!!」

 

 だが、当のアクターレ本人はこの地獄を素晴らしいものであると心から信じていた。

 自分という偉大な存在を永遠に崇め続ける彼らを真の幸せ者だと。ここが極楽だと本気で、いやマジで思ってる。

 

「よーし!! そんなお前たちのために、今日は新作のダークポエムを披露してやるぜ!!」

 

 彼らのためにも、アクターレはご褒美と称し、新作のダークポエムを披露する。

 ダークポエムとは、アクターレからファンたちに贈られるありがたい『詩』である。

 

 さあ、耳穴かっぱじって聞き惚れるがいい!! 

 アクターレ様の口から綴られる、美しい言葉の羅列を!!

 

 

 

 ああ 俺様よ 俺様よ どこまで輝けば気が済むんだい 俺様よ

 

 誰もが羨み嫉妬する 熱いダークなヒーローの俺様

 

 今日も俺様は輝いている 太陽が焦がれるほどに

 

 世界よ 今日も俺様色に染め上がるがいい

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 

 そんな、ありがたくもない寝言を聞かされ——

 

 

 

「「「——ふざけんなっ!!!!!」」」

 

 

 

 もはや我慢の限界だと、フーカやエミーゼルたちが暴動を起こす。

 地獄のモニターなど知ったことかと、アクターレを容赦なくしばき倒していった。

 

 

 

※ここから先はあまりにも一方的な戦いのため、戦闘描写は省略させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——ふっ、まったく……照れ屋な奴らだぜ……ぎゃわん!!」

 

 

 そうして、フーカたちの手でボコボコにされたアクターレ。

 彼は最後の最後まで、自分が人気者だと錯覚したまま——逝った。

 

 

 

×

 

 

 

「はぁはぁ……お、恐ろしい地獄だったわね、アクターレ地獄」

「ボクたちの精神を斜め上に抉ってくる。さすがだよ、アクターレ……」

「こ、怖かったのデス、お姉様。デスコ……今になっても鳥肌が止まらないのデス……」

 

 アクターレを圧倒的戦力差で叩き潰したフーカたちだが、想像以上にダメージを食らってしまった。無論、肉体的なものではない、精神的なものだ。

 特に彼のダークポエムが効いた。そのあまりの意味のなさ、くだらなさに戦いが終わった今になっても震えが止まらない。

 ある意味強敵だったと、フーカたちはその場で膝を突いてしまう。

 

「こ、これが……西洋地獄のやり方、なのか?」

「な、なんていうか……どっと疲れたわね……」

 

 鬼太郎や猫娘たちも、今のでかなり疲労を溜め込んだ。彼らもまさかあのような相手が立ち塞がってくるとは、予想することも出来なかった。

 まったく違う意味での難敵を前に、物凄い肩透かしを食らった気分である。

 

「——やはりアクターレでは足止めにもならんか……だが、そうでなくてはつまらん」

「——問題ありません、閣下。奴には最初からあまり期待していませんでしたから」

 

 すると、疲弊している一同を前に、この地獄の仕掛け人である二人が音もなく姿を現す。

 

「!! ヴァルバトーゼ……」

「フェンリッヒ……」

 

 ヴァルバトーゼとフェンリッヒ。

 未だにその実力の片鱗すら見せない相手を前に、鬼太郎や猫娘を始めとした日本妖怪たちが油断なく身構える。ゲゲゲの森とは違いここは敵地でもあるため、さらに警戒心が高まっていく。

 

「ちょっと、ヴァルっち!! 初っ端からなんてもんぶち込んでくんのよ!! 危うく発狂するところだったじゃない!!」

 

 一方で風祭フーカは至って平常運転。第一の刺客にアクターレなんぞを差し向けてきたヴァルバトーゼの人選に物申す。もっともそんな不満すら、ヴァルバトーゼは涼しい顔で受け流す。

 

「ふっふっふ、どうであった? あのアクターレを延々と応援し続けなければならないという拷問にも等しい苦行! プリニーもどきのお前にはちょうどいい地獄であろう?」

「そ、そんなに理不尽なことなんですか?」

 

 アクターレ地獄の恐ろしさを自信満々に告げるヴァルバトーゼだが、それがどれだけ恐ろしいか日本から来たまなにはしっくり来ない。

 一応は一人の青年をただ応援し続けるだけの地獄。そこまで言うほどの苦行なのだろうか。

 

「ひぃ……た、助かったッス~……」

「も、もう……勘弁してくれ……」

 

 だが、アクターレが気を失ったことでアクターレ地獄から解放されたプリニーや獄卒たちが安堵しきった表情でその場に倒れ込んでいく。彼らの顔色を見るに、相当に苦しかったようである。

 この苦しみは、アクターレの人物像を知る西洋地獄の住人であればこそであろう。

 

「だからって……こんなの理不尽にもほどがあるでしょうが!!」

 

 アクターレという存在がある意味で驚異的だと、フーカですらも戦慄している

 こんな地獄やってられるかとばかりに、彼女は不平不満をぶちまけていく。

 

 だが——

 

「もとより……地獄とは理不尽なもの。プリニーとは、理不尽を押し付けられる存在。どんな命令だろうと実行に移さなければならない」

 

 ヴァルバトーゼは語る。

 地獄の意味を。この地獄でプリニーが為すべきことを——。

 

「主人に雨を降らせろと言われれば降らせる……」

 

「鼻でスパゲティを喰えと言われれば喰う……」

 

「読み逃した先週の超撃大魔王を買ってこいと言われた、何としてでも買ってくる! それがプリニーの役目だ!!」

 

 それは本当にくだらない。理不尽でどうにもならない注文ばかりだろう。だがそれでも、プリニーである以上はその命に従わなければならない。

 

 何故なら——彼らは『罪人』だから。

 

 罪を犯して地獄へと送られてきたのだから、その汚れた魂を浄化するためにも、プリニーたちは贖罪のため働き続けなければならない。

 

「そう、理不尽に耐えること!! それがプリニーの……即ち、罪人である『お前たち』の本分なのだからなっ!!」

「ざ、罪人……」

「…………」

 

 彼の言葉はフーカだけではない。西洋地獄への不法入国という『罪』を犯したまなや猫娘たちにも向けられていた。彼の気迫がこもった説法に、彼女たちも神妙な顔つきになる。

 そうして、ヴァルバトーゼの言葉は続く。

 

「ここから先の地獄も……お前たちに我慢や忍耐を要求する理不尽なものになっているだろう」

 

 まだまだ地獄のモニタリングは終わらない。ここからさらに鬼太郎たちはさまざまな地獄を巡り、それに耐えなけれなならない。

 

「その理不尽に耐えることで、お前たちは否が応でも己の犯した罪と向き合うこととなる……」

 

 だがそれも必要なことだ。ここが地獄でフーカたちが罪人である以上、避けては通れない道。

 もとより地獄とは罪を償う場所、苦しみに耐えることで己の罪と向き合い、自身の汚れた魂を浄化する。

 

 そのための修行の場こそが、地獄。

 苦痛に耐え続けることで魂は再生され、罪人たちの罪は償われるのである。

 

「せいぜい抗ってみせるがいい! ここまできた以上、お前たちに引き返すなどという選択肢はないのだからな……」

「連中がどこまで耐え切れるか。見ものですね、閣下」

 

 言いたいことを言い終えるや、ヴァルバトーゼはマントを翻し、フェンリッヒを伴ってその場から立ち去っていく。

 

 その後ろ姿を、鬼太郎たちは黙って見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 

「罪……罪人……」

 

 ヴァルバトーゼが嵐のように立ち去った後、犬山まながボソッと口にする。

 彼に言われた『罪』という言葉が誰よりも彼女の中に響いてきた。自分の犯してしまった罪、勝手に他国へと侵入してしまったという『罪状』をより深く意識する。

 

「まなちゃん、キミが罪悪感を覚える必要はない……と、言うわけにもいかんようじゃのう、その顔を見るに……」

 

 そんなまなに、目玉おやじを始めとした日本妖怪たちは気にしないようにと何度も声を掛けてきた。だが、周囲がどれだけ言い聞かせたところで、彼女自身が既に罪の意識を持ち始めている。

 もはや言葉だけで、まなの罪悪感を拭うことは出来ない。

 

「……プリニー……理不尽に耐えることで、罪と向き合う……」

 

 まなの影響か、あの風祭フーカですらも難しい顔で悩み始める。彼女の場合はまなたちよりもっと深刻。なにせプリニーとして罪を償わなければ、彼女はいつまでも地獄に囚われたまま。

 

 永遠に、自身が夢だと思い込んでいるこの悪夢から醒めることなど出来ないのだから——。

 

 

 

「そ、それにしても、あのヴァルバトーゼとやら。何というか……随分と律儀なやつじゃのう……」

「そうじゃな。わざわざ足を運んで……色々と説明してくれとる。西洋地獄ではあれが普通なんかのう?」

 

 少女たちの重苦しい空気を感じてか、砂かけババアと子泣き爺がそれとなく話題を変える。二人が気になったのは、ヴァルバトーゼという西洋妖怪の生真面目さである。

 

 西洋地獄を巡ることになった鬼太郎たち。ヴァルバトーゼはそんな彼らの前にわざわざ姿を現し、挑発じみた言葉を投げつつも、フーカやまなに罪と向き合うこと、地獄の存在意義などを講釈してくれた。

 あれが一般的な西洋地獄の獄卒なのかと。日本妖怪たちはその生真面目さに感心するなり、呆れるなりしている。

 

「そんなわけないだろ」

 

 だが日本妖怪たちの考えを、エミーゼルはため息を吐きながら否定する。

 

「あいつの馬鹿正直さは、西洋妖怪でも珍しい方だよ。妖怪なのに曲がったことが大っ嫌い。他人を騙すことも、嘘をつくこともしない。そもそも……プリニー教育係なんて閑職、あいつ以外の誰があんなに熱心にこなすっていうんだよ」

 

 エミーゼル自身も、西洋死神としては仕事熱心な方なのだが。そんな彼の目から見てもヴァルバトーゼの勤勉ぶりは呆れるほど異常なものだという。

 

 彼はどんなときでも、決して自分自身を曲げることがない。

 有言実行で嘘も吐かない。誰かを疑うこともしないし、仲間と認めた相手を絶対に裏切らない。

 

 いついかなるときでも、『誇り高い妖怪』でありたいと自分自身を戒めているという。

 

「特にあいつは約束を守ることに関しちゃ筋金入りだ。一度交わした約束は誰が相手だろうと絶対に守り通す。たとえ何があってもな……」

「約束……」

 

 ヴァルバトーゼが信条としている『約束を守る』という信念。それに珍しく鬼太郎が興味を示す。

 彼自身も昔、人間の男性と交わした『約束』を大事にしている。彼との約束を守るためにも、鬼太郎は妖怪ポストで人間からの手紙を受け付け、妖怪に困らされている人々からの相談に乗るなどしている。

 約束を守ることに関しては、鬼太郎も一家言ある身の上だ。

 だが、ヴァルバトーゼの約束に関する信念は鬼太郎以上に頑固で融通が効かない。

 

「……なるほど。道理で私たちに対する当たりが……あんなにも強くなるわけだわ……」

「…………」

 

 ヴァルバトーゼは猫娘やまな。彼女たちが領域侵犯、国家間で交わされている決め事を——約束を破ったことにも怒りを露わにしていた。

 自分のみならず、他者に関しても約束を守らせることに固執するらしい。その律儀さも、ここまでくると本当に筋金入りだ。

 

「まったく……こっちはそんなこと知りもしなかったのに……少しは融通を効かして欲しいもんだわ」

 

 猫娘からすれば、地獄同士の決め事などそれこそ知ったことではないのだが、あの様子を見るに知らなかったでは済ませてくれないだろう。

 やはり彼女たちの罪を許してもらうためにも、西洋地獄の攻略は必須のようである。

 

「まあ、無理だろうな。あいつは約束を守る為なら何でもする。それこそ……自分自身がどうなろうともな……」

 

 エミーゼルも、あのヴァルバトーゼの約束事に関するスタンスだけはどうやっても変えることができないという。

 なにせ彼は約束を守り続けるため、今も自分自身を縛り続けている。

 

 

 数百年も昔、『人間の女性』と交わした、とある約束事を守り続けるために——

 

 

 

×

 

 

 

 吸血鬼・ヴァルバトーゼ。

 今でこそプリニー教育係などという立場に収まっている身だが、かつての彼はそのような身分に甘んじる器ではなかった。

 

 数百年前の彼は現世において『暴君』と呼ばれるほどに恐れられる、吸血鬼族の若き帝王としてその名を轟かせていた。

 その力は凄まじく、人間は勿論、西洋妖怪たちの間でも彼の名は恐怖と畏怖の象徴として語られていた。

 その強さはあのバックベアード軍団ですら迂闊には手が出せないほど。彼が今も暴君として君臨を続けていれば、間違いなく西洋妖怪の勢力図は塗り変わっていたであろう。

 

 だが、今の彼に暴君と恐れられていた時代ほどの力はない。

 それはヴァルバトーゼが吸血鬼として人の血を——『吸血行為』の一切を禁じてしまったからだ。

 

 吸血鬼にとって、人間の血を吸うことにはいくつもの理由がある。眷属を増やしたり、妖力を高めたり、単純に快楽のためだったり。だが大半の吸血鬼にとって、吸血行為は純粋に食事としての意味合いが大きい。

 人間の血を吸うことは彼らにとって生命線。人間が食べ物や水を飲まないと生きていけないように、彼らも人間の血を吸い続けなければ生きていくことが困難になる。

 

 

『——人間の血を吸わないと生きられないなんて、可哀想ですわね』

 

 

 そんな吸血鬼の在り方を同情し、憐れんだ一人の女がいた。

 彼女はシスターだった。戦火に喘ぐ西洋の地で、懸命にも看護師として人々を救い続ける、ただの修道女。

 そんな彼女と、暴君と恐れられていたヴァルバトーゼは出会った。

 

『女……お前は俺が恐ろしくないのか? 俺を恐れぬとは……何者だ?』

 

 ヴァルバトーゼにとって女の存在はひどく不可解なものだった。

 普通の人間であれば、ヴァルバトーゼの姿を見るだけでも恐れて逃げ惑うもの。彼を前にすればどんな屈強な兵士も赤子同然、虚勢を張ることすら困難であった筈だ。

 なのに、女は微塵もヴァルバトーゼを恐れなかった。それどころか他の人間たちを守るため、自分の血を吸えと。己の命を差し出すような真似までしてきたのである。

 これに、ヴァルバトーゼは誇りを大きく傷つけられた。

 

『吸血鬼を恐れぬ人間から血を吸うなど、俺のプライドが許さん!!』

 

 ヴァルバトーゼの手にかかれば、女の命など簡単に奪えた。しかし、ただ殺してしまっては彼の誇りが損なわれたままだ。

 そこでヴァルバトーゼは女に対し、一つの提案を持ち掛ける。

 

『俺は貴様を恐怖のドン底に陥れてからその血を吸う。お前が俺を恐れたとき……そのときこそ、俺の誇りは保たれ、お前はその命を無様に散らせることとなるのだ!!』

 

 自信満々に告げたその言葉に、女は笑顔でこう返した。

 

『ふ~ん……じゃあ、約束です。私を怖がらせるまで、誰の血も吸わないでくださいね?』

『約束だと?』

 

 当時から、ヴァルバトーゼは約束にこだわる吸血鬼であった。だが自分であれば、その約束を容易く果たせるという自信があったのか。

 

『良かろう!! 約束してやるとも!! 貴様を恐怖に陥れるなど、容易いことなのだから、フフフハハハハハッ!!』

『フフッ、約束ですからね。言っときますけど、私を怖がらせるのはとっても……難しいですわよ?』

 

 こうして、二人は互いに笑い合いながら約束を交わした。

 決して破ることは許されない、二人だけの約束を——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして——その約束が果たされることはなかった。

 

 

 

 女は死んだ。ヴァルバトーゼとの約束を果たす前に。戦火の最中、彼女は同じ人間の手によって殺されたのだ。

 

 彼女の敵味方問わない救命行為を『スパイ』だと決めつけた、同郷の者の凶刃によって殺された。

 不幸中の幸いか。絶命するその間際、ヴァルバトーゼと女は言葉を交わすことができた。

 

『……吸血鬼……さん』

『死ぬな!! 目を開けろ!! お前が死んだら……俺は、俺は……!』

 

 自分が彼女を怖がらせねば、ヴァルバトーゼは二度と人間から血を吸えなくなる。吸血鬼としてそれは致命的。だからこそ、彼女には是が非でも生きてもらわねば困るとヴァルバトーゼは叫ぶ。

 だが、彼の思いとは裏腹に冷たくなっていく女の体。彼女の華奢な肉体から熱が失われていくにつれ、ヴァルバトーゼの胸の中にもポッカリと穴が空いていく感覚があった。

 

『ごめんなさい……変な約束で……貴方を困らせて……』

 

 女は自分の命ではなく、ヴァルバトーゼの身を案じていた。

 

『貴方に、血を吸わせて……あげられなかったのが……唯一の……心……残り……』

 

 自分が死んでしまったせいで、ヴァルバトーゼが血を吸えなくなってしまうのではないかと。

 彼のこの先の生き方を縛り付けてしまったのではないかと悔いていた。

 

『お……おい!! 死ぬな!! 俺に約束を守らせぬまま、勝手に死ぬことは許さんぞ!!』

『————』

 

 ヴァルバトーゼの慟哭も虚しく、女は静かに息を引き取る。

 

 

『————!!!』

 

 

 言葉にならない胸の痛みがヴァルバトーゼを苦しめる。

 彼は彼女の亡骸を抱き抱えながら、その女の名を叫び続けていた。

 

 

 その日を境に、暴君の名は廃れていく。

 血を吸わなくなったことで急激に力を弱めたヴァルバトーゼ。彼はそのまま現世での勢力争いからも自然淘汰されていき、西洋地獄へと落とされることとなる。

 弱体化した彼に、もはや暴君など務まらず。

 そのまま地獄の最下層にて『プリニー教育係』などという閑職へと追いやられ——今に至る。

 

 

 もっとも——

 

 

「——クックック、さすがに一筋縄ではいかぬか。さすがは風祭フーカ、そうでなくては面白くない!」

 

 悲しい過去もそれはそれとして。現在の苦境を、彼はまったく苦とも思っていなかった。

 たとえどのような立場にいようとも、自分は職務を全うするだけだと。プリニー教育係という仕事すらも全力でやり通していくヴァルバトーゼ。

 今はとりわけ、風祭フーカというプリニーもどきを再教育することに集中している。

 

 現在、ヴァルバトーゼとフェンリッヒは自分たちの屋敷へと戻っていた。

 彼らはそこから、フーカたちがどのようにしてこの地獄の数々を踏破していくのか。それを注意深くモニターするつもりでいる。

 彼女たちは新造された地獄を巡っている。その動き次第では、試験運転中の地獄にいくつかの改修案を盛り込む必要がある。

 彼女たちが地獄を突破しようと、屈しようと。ヴァルバトーゼたちにとっては益しかない。

 

「全てはヴァル様の掌の上、ということですね。さすがは我が主」

 

 主の余裕な態度に感服したとばかりにフェンリッヒは背筋を正す。しかし、彼は表情をやや曇らせながら眉を顰める。

 

「ですが日本妖怪ども、あのゲゲゲの鬼太郎とやらがどう出るかが不透明ですね……」

 

 風祭フーカやデスコ、エミーゼルといった面子の行動パターンであればフェンリッヒも熟知している。実力ならともかく、精神面だけならまだまだ子供。彼女たちを手玉に取るなど容易いと胸を張る。

 だが、ゲゲゲの鬼太郎を始めとする日本妖怪たちに関してはデータ不足だ。実力で自分ら西洋地獄の猛者たちに勝てるとは思っていないが、予測不能な行動には注意すべきだと進言する。

 

「ふむ、そうだな。あの小僧はあのバックベアードを退けたとも聞く。なかなかに油断できない相手のようだ」

 

 従者の言葉にヴァルバトーゼも頷く。

 彼の耳にも、ゲゲゲの鬼太郎が現世でバックベアードを打ち負かしたという話は届いている。ヴァルバトーゼはその話を事実として受け入れ、ゲゲゲの鬼太郎を一人の敵として認めているようであった。

 

「さすがにそれは買い被りだと思いますが……ヴァルバトーゼ様の御意のままに」

 

 ヴァルバトーゼの評価にフェンリッヒは過大評価ではないかと疑問を口にしつつ、彼に従う姿勢を崩さない。

 あくまで執事として、どこまでもヴァルバトーゼに追従するフェンリッヒ——

 

「——ヴァ、ヴァルバトーゼ様!! 大変ッス!! 一大事ッス!!」

 

 するとそのときだ。一匹のプリニーがヴァルバトーゼたちの元へと駆け込んで来た。慌てふためくその様子から、何やら只事ではない様子が伝わってくるが。

 

「プリニーの加工工場でトラブルッス!! このままだと、プリニーの皮の生産に支障をきたす恐れがあるッス!!」

「なんだとっ!? 確かにそれは一大事っ!!」

 

 プリニーの報告にはヴァルバトーゼも目を見張る。プリニーの皮が生産出来なくなる。それは地獄へと送られてきた罪人の魂を、プリニーに加工出来なくなることを意味する。

 即ち、応急処置としてプリニーの帽子だけを被せるという、風祭フーカにした処置と同じ方法をとらざるを得ないということだ。

 下手をすれば第二、第三の風祭フーカが誕生してしまうきっかけになるやも知れない。そう考えれば、早急に対処する必要がある案件であった。

 

「フェンリッヒよ! 俺は今からプリニーの加工工場へと向かう! お前は小娘どものモニターを続けよ!! 何か動きがあればすぐに俺に報告するのだ、良いな!?」

「はっ……承知致しました」

 

 慌ただしくも的確な指示を飛ばし、ヴァルバトーゼは早急にプリニーの加工工場へと足を運ぶ。

 留守の間は全てをフェンリッヒに任せるつもりのようだ。その采配にフェンリッヒも不満を漏らすことがなく、唯々諾々と従っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やはり……この機会を利用すべきか……」

 

 ヴァルバトーゼのいなくなった部屋の中。フェンリッヒは一人、モニターに映る風祭フーカやゲゲゲの鬼太郎へと視線を移す。

 一行はちょうど次の地獄へと移るため、時空ゲートを潜ろうとするところであった。

 彼らが次なる試練に立ち向かっていく光景を見つめながら、フェンリッヒは思案は巡らせていく。

 

「あの小娘どもは当然……あの鬼太郎とかいう小僧も、いずれは我が主の障害になるやもしれん……」

 

 フェンリッヒは、暴君時代からヴァルバトーゼに仕えている忠臣である。

 主であるヴァルバトーゼが今の待遇に何一つ不満を抱かぬ中、彼自身は主がプリニー教育係などやらねばならない現状に不満を抱いていた。

 

「いずれヴァル様にはこの世界の覇者となっていただく。どんな小石であろうとも、片付けておく必要があるな……」

 

 フェンリッヒはヴァルバトーゼを世界の覇者とすべく、今でも暗躍を続けている。

 いずれはヴァルバトーゼが再び人間の血を吸うことを期待し、暴君としての力を取り戻し、この世を支配することを望んでいる。

 そのためにも様々な策謀を数多く張り巡らせており、このときも、彼は未来への布石のために裏で糸を引いていく。

 

「あの『女』が地獄を留守にしている今が好機だ。このチャンス……逃す手はない!」

 

 幸い自分を邪魔するものはいないと。

 その瞳は獲物を狙い澄ました狩人のように、妖しい色を宿していた。

 

 

「——全ては我が主のため。災いは全て消え去るがいい……クックック!」

 

 

 フェンリッヒにとって災いとは、主の台頭を脅かす全ての存在。

 風祭フーカもゲゲゲの鬼太郎も、彼からすれば等しく邪魔者でしかない。

 

 

 主の為にも、自分自身の目的の為にも。

 彼は今日も、主の意思とは関係ない場所で謀略を巡らせていく——

 

 




人物紹介

 ニーノ
  原作をプレイしたことのある人でも「誰?」と思うかもしれません。
  拠点にいる覆面ヒーロー。『強欲の天使』に給料をつぎ込み続ける『漢』。
  彼の存在がストーリーと絡むのは『フーカ&デスコ編』くらいなもの。
  今回の話の流れも、その辺りを参考に書かせてもらっています。
  ちなみにこの男が、フーカをプリニーもどきにした張本人。
  つまり、今のフーカがらみの争乱。その全ての元凶がコイツ。

 アクターレ  
 『ディスガイア2』がデビュー作。番外の主人公も務めた開発陣のお気に入り。
  ディスガイア4では地獄の監獄長を務め、ゆくゆくは地獄のトップ魔界大統領にドサクサに紛れて就任する。
  基本的にアホだが、やるときはしっかりとやる男。
  書いててとても楽しいキャラ。コイツの描写部分、一番筆が乗ったかもしれん。開発陣が何度も何度もゲスト参戦したがる気持ちがよく分かってしまう。

 シスター 
  数百年前、ヴァルバトーゼと約束を交わした人間の女性。
  彼女との約束がきっかけでヴァルバトーゼは魔力を失い、プリニー教育係へと落ちぶれる。
  一応、原作のネタバレになるので名前は記しませんでした。
  まあ、普通にバレバレだと思いますが、とりあえず何もツッコまないでください。
  今作において、彼女の出番は……さて、どうなるでしょうか?


 次回で『ディスガイア4』もようやく完結予定!!
 長かったですが、ここまで来ればあともう一息。


  
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