次回でキッチリ終わらせると宣言しましたが……申し訳ありません。
尺の都合上や、作者の調子。
あらゆる観点から、今回で終わらないような調整になってしまいました。
三話ではなく、もうあと一話。
全部で四話というダラダラとした構成になってしまいました。
一応、この方が西洋地獄シリーズの最後としてしっくりくると。
色々と悩んだ結果での構成なので……どうかお許しを。
とりあえず、今回は起承転結の『転』といったところ。
次回こそ、次回こそ必ず『結』にしてみせますので、どうかご容赦を……。
始まる前にもう一つ。『時空ゲート』について解説をしておきます。
時空ゲートはディスガイアシリーズに登場する概念であり、ゲーム上、『時空の渡し人』なるキャラがこのゲートであらゆる地域へと移動できる手筈を整えてくれます。
一応、今作においては魔法の一種であると解説させていただきますので、あまり深く考えないで『そういうもの』だという感じでお楽しみ下さい。
座標さえ設定してしまえば地獄どころか現世、月にまで行ける時空ゲート……何気にすごいな。
「——これで……どうだぁああああ!!」
「——霊毛ちゃんちゃんこ!」
迫り来る眼前の敵を風祭フーカがバットのフルスイング、ゲゲゲの鬼太郎がちゃんちゃんこをぶん回して蹴散らしていく。
「ほげぇええ!?」
「だああああ!?」
二人の強烈な一撃に成す術もなく吹き飛んでいくのは、西洋地獄の獄卒たち。
死告族と呼ばれる大鎌を持った妖怪。エミーゼルと同じく、西洋では死神として活躍する一族である。
「ニャアアアア!!」
「ふはははっ! 逃げ惑うがいいデス!!」
また、猫娘が爪で敵を引っ掻き回し、デスコが触手で相手を殴り飛ばしていく。
彼女たちが相手をしている敵も女性。夜魔族と呼ばれるサキュバスに、猫娘と同種と思われる猫娘族のネコマタ。日本の猫娘とは違い『ボンキュッボン』とグラマラスなボディを持つ彼女たちを相手に、心なしか猫娘の爪がいつも以上に鋭く尖っているような気がする。
「これでも……くらえっ!!」
「ぬりかべぇえええ!!」
さらに、エミーゼルが鎌の一撃で珍茸族というキノコ型の妖怪を切り裂き、ぬりかべが屍族のゾンビたちをその巨体で押しつぶしていく。
それぞれ「エリッ!?」や「グルル!?」と断末魔の悲鳴を上げるが、彼らは特に再生力の高い種族なので暫くすれば元通りに復元する。
「それっ、火炎砂じゃ!!」
「おぎゃ!! おぎゃ!!」
「いくば~い!!」
さらにさらに、砂かけババアが砂を振りかけたり、子泣き爺が石となったり、一反木綿が空を飛翔したりと。
粘液族のスライム、魔獣族のガーゴイル、魔翔族のモスマンなどの西洋妖怪たちをそれぞれが打ち負かしていく。
「ふぅ~……とりあえず、片付いたわね……」
「……ああ、そうだな……」
彼ら彼女らの獅子奮迅の活躍もあり、こうして西洋地獄の獄卒たちは悉く退けられていく。
もう何度目になるかも分からないぶつかり合いに汗を流しながらも、今回も危なげなくフーカ&鬼太郎たちの勝利だ。
これでこのエリアも攻略完了。また次のエリアへと歩を進めることが出来る——筈なのだが。
「あの……今更なんですけど……」
「うん? どうかしたかい、まなちゃん」
ふいに、戦いを終えた一行に犬山まながおずおずと声を掛けた。
非戦闘員である彼女はみんなとは少し離れたところから戦いを見守っていた。それに寄り添う形で、目玉おやじも彼女の肩に乗っている。
まなはやや躊躇いながらも、自身の中に浮かんできたその疑問を口にしていく。
「……これって……これでこの地獄を『攻略』したことになってます?」
「…………」
「なんか……ちょっと違うような気がするんですけど……」
そう、彼女が疑問に思ったこと。
それは『このような手段で地獄のモニター』とやらが、きちんと務まっているかということである。
フーカやまなたちは、自分たちの罪の償いのため、ヴァルバトーゼの挑戦を受ける形で新造された西洋地獄を巡っている。
その目的はあくまで『被験者』として地獄を体験することであり、決して敵をぶちのめすことではない筈だ。
しかしいつの間にやら、敵を倒すことに心血を注ぐようになってしまい、肝心な地獄体験を何一つ行っていないことに気づいたのである。
果たしてこれで本当に良いのか、今更ながらに疑問を呈する。
「ふーむ……それは、わしも疑問に思っていたことじゃが……」
「しょ、しょうがないじゃない!! あっちから襲い掛かってくるんだから!! 不可抗力ってもんよ!!」
まなと似たようなことを考えていたのか、目玉おやじも彼女に同意する。一方で、フーカはまなたちの意見に動揺しながらも、弁明のようなものを口にしていた。
フーカはあくまで正当防衛、この戦闘行為が仕方がないものだと主張する。
「いや……どのケースでも、お前から先に手を出してる気がするけど……」
けれども、その言い訳にエミーゼルが冷静にツッコミを入れる。
先に仕掛けているのは、どう考えてもフーカだと。短気な彼女の喧嘩っ早さが戦闘のきっかけになっているパターンがほとんどだと。
実際、西洋地獄の獄卒たちも、最初から戦おうという意識は低い。
彼らはあくまで試練を与える形で立ち塞がり、最終的にフーカの先制パンチに対抗するため、仕方がない形で応戦しているのだ。
「だって仕方ないじゃない! どいつもこいつも、しょうもない試練ばっか押し付けてくるんだから!!」
だがフーカが言うように、西洋地獄側が押し付けてくる『試練』というやつが割としょうもないのもまた事実。
第一の地獄であった『アクターレ地獄』は言わずもがな。それ以降の第二、第三と続く地獄も、結構馬鹿馬鹿しいものが大半であった。
『指導教官の長くてクドイ話を聞き続ける地獄』
『獄卒たちが掘った穴をひたすら埋め続ける地獄』
『胸がペッタンコの少女を「ナイスバディ!!」と崇めなければならない地獄』
などなど。
いったい何の為にこんなことをしなければならないのか、訳が分からない地獄ばかりである。
——あるいは、そういう馬鹿馬鹿しいことに耐えさせることが目的なのかもしれんのう……。
これらの地獄に対し、目玉おやじはそういった『馬鹿馬鹿しい』ことを『我慢』することに意味があるのではないかと。この地獄の発案者の意図をそのように読み取っていく。
ヴァルバトーゼも語っていた。『理不尽に耐えることこそ、罪人の本分』だと。
何が何だか分からない理不尽なことを必死に耐え抜くことで『己の罪と向き合い』、自身の行いを振り返ることを期待してるのかもしれない。
もっとも——
「だいたい、現役の女子中学生に理不尽に耐えろだなんて……そんな無茶を要求する方が無謀なのよ!!」
「えっ……そ、そんなことないと思いますけど……」
一番己の罪を省みなければならない、プリニーもどきのフーカがこれだ。ときより考えるような素振りこそ見せるものの、彼女自身は反省する気などさらさらない様子。
ちなみにフーカの、全国の女子中学生への大変失礼な発言に対しては、同じ中学生のまなからクレームが入る。
そんな堪え性のないフーカによって、問答無用で倒されていく各地獄の指導教官たち。フーカの戦意に引き摺られる形で、鬼太郎たちも戦闘に入らざるを得なかったりする。
「……まっ、いちいち付き合っていてもキリがないのも事実じゃしな……」
「というか……どこまで続くんじゃ? この地獄のモニターとやらは……」
一応、砂かけババアや子泣き爺が言うように、西洋地獄のやり方に合わせていても正直キリがない。
いつまで続くか分からない地獄体験、サクサクっと進めてとっとと終わらせたいというのが本音である。
「あっ!? 見てくださいデス! 次のゲートが開きましたデスよ!!」
実際、この進み方で何も問題ないのか。獄卒たちを倒して数分もすれば、次の時空ゲートが開く仕様になっている。
今度もまた新しいゲートが開いたと、デスコが皆に進むべき道を指し示す。
「……まあ、ここでぐだぐだ考えてても意味ないわよ。気持ちを切り替えて進みましょう、まな」
「は、はい……そうですね、猫姉さん」
道が開いた以上は次に進むしかないと。猫娘が悩めるまなに優しく気遣いの言葉を掛ける。
姉貴分である猫娘の言葉に励まされ、まなも難しいことを考えるのは後回し。
今はとりあえず、この西洋地獄巡りを早急に終わらせようと先を急ぐ。
「……やれやれ、次はどんな地獄が待っていることやら……」
鬼太郎も、ここまでの道中の苦労にため息を吐きながらも時空ゲートを潜る。
そうして、皆で次のエリア——新たな地獄へと移動していく。
×
「さてと、次の地獄は……なんじゃ、これは?」
「これが地獄? けど……これじゃ、まるで……」
時空ゲートを潜って数秒、即座に次のエリアに辿り着いた一行。だが眼前に広がっていたその光景を前に、彼らは目を丸くする。
そこに広がっていた景色は『地獄』などではなかった。
地獄とはその名の通り、『地』の『牢獄』である。生前に罪を犯した罪人を閉じ込めておく場所。彼らに相応しい苦痛を与える場所。
そのため、どうあってもネガティブなイメージを拭いきれない筈の場所だ。
だが、そこにあったのは一面の花畑。
お日様がポカポカと当たるような陽だまり。暖かい広場には木々や花々が生い茂り、そこでぬいぐるみのような動物や、メルヘンチックな妖精たちが愉快にパレードを繰り広げている。
「~~♪」「~~♪」「~~♪」
「……なに、こいつら? ……こいつらも、地獄の獄卒なの?」
「いや……こんな連中、初めて見たけど……」
これに猫娘が疑問を口にするが、エミーゼルは首を傾げる。
西洋地獄の情勢に詳しい彼にも、ここがどこであれらが何なのか把握できない様子。いったいこれはと、誰の頭の上にも疑問符が浮かび上がる。
「——おや? お客さんが来るとは聞いていませんでしたけど……」
そのときだ。途方に暮れる鬼太郎たちに声を掛ける、一人の少女がいた。
彼女は戸惑いながらも、実にのほほんとした口調で。自分の『エリア』に足を踏み入れてきた一行を歓迎する。
「あらまっ!? 誰かと思えばフーカさんにデスコさん! それにエミーゼルさんじゃないですか!」
おまけに彼女は、フーカたちとも知り合いであった。
「あれ? なんだ~……誰かと思えば、天使長じゃない!」
「…………えっ? て、天使……?」
フーカが代表して、その少女がいかなる立場の存在なのかをはっきり明言する。
だが彼女の素性に、鬼太郎たちはさらにキョトンとなった。
「お久しぶりです、皆さん……そちらの方たちとは、初めましてですね?」
そんな日本妖怪たちを前にして、少女はマイペースながらも、礼儀正しいお辞儀で挨拶をしていく。
「——わたしは天使長のフロンと申します。どうかお見知り置きを!」
「て、天使って……あの天使……よね?」
「そ、そう見たいじゃな……わしも、見るのは初めてじゃが……」
猫娘や砂かけババア。彼女たちは妖怪として長い時を過ごしてきた身だが、『天使』とは初めて会合する。
天使——すなわち、天の使い。
そういったものが『いる』というくらいは知っていた。もっとも日本妖怪たちにとって、その存在はほとんど幻と言ってもいい。
それこそ、人間が妖怪の存在を信じていなかったように。彼ら妖怪も、天使の存在を心から信じてはいなかったかもしれない。
しかし、目の前にいるフロンと名乗った少女。
彼女には天使らしい、綺麗で立派な白い翼が生えている。また純白の衣装に、流れるように美しい金髪。頭にはちょこんと青いリボン。顔立ちに純朴な少女としてのあどけなさを残しつつ、神々しいオーラが全身から放たれている。
確かに彼女は『天使長』と呼ぶのに相応しい佇まいをその身に秘めているようだ。
「その天使が、何故地獄に? いや……そもそも、ここは本当に地獄なんですか?」
天使の存在に驚きながらも、鬼太郎はフロンへと尋ねる。
天使である彼女のいる場所が地獄というのもおかしい。もしや、自分たちは彼女たちが住むとされる『天界』或いは『頂の世』とやらに迷い込んでしまったのではないかと。
「ええ、安心してください。ここは確かに地獄です。内装はわたし好みに色々と弄っていますが……」
だがフロンが言うに、ここは地獄で合っているらしい。
「それというのもですね……わたし、地獄の方々にお願いされまして。ここで指導教官なるものをやらせてもらってるんですよ」
「えっ!? 天使が……地獄に協力?」
その言葉に人間のまなが驚く。
天使といえば一般的にも神聖なイメージだ。妖怪や悪魔といったものらと敵対し、彼らと常に争い合っているような解釈がされているもの。
「別にそんなにおかしいことではありませんよ? 地獄も天国も、言うなれば同じあの世。必要であれば協力し合うのが当然のことですから」
だが、フロンはにっこりと微笑みながら答える。
彼女が言うように、天国も地獄も括りとしては同じ『あの世』に該当する。
現世で悪さをする西洋妖怪などであれば、天使たちも厳しい態度を取らざるを得ないが、地獄で働く獄卒たちであれば敵対などもしない。
獄卒と天使は、同じあの世を運営する職員同士。交流もあるし、必要とあれば協力だって惜しまない。
「ヴァルバトーゼさんたちが提唱する新しい地獄の形……そこに天界としても参入してみようかと思いまして、わたしが代表で指導教官を務めさせてもらってるんですよ」
「へぇ~……じゃあ、ここも新しく建造された地獄なのか? 普通に楽園ぽいとこなんだけど……」
フロンの話に納得を示しつつ、エミーゼルが西洋地獄の住人として疑問を呈する。
彼女の支配領域であるこの場所。一見すると地獄とはかけ離れた景観、まるで天国のようなところだ。
このような地獄で、いったいどのように罪人に罰を与えようというのだろう。
「……わたし、ずっと考えていたんです。地獄に落ちた人たちにも、癒しが必要なんじゃないかと……」
するとフロンは唐突に語り出す。彼女がどうして指導教官などを引き受け、このような楽園を地獄に築いたのか、その理由を——。
「罪を犯して地獄へと落とされた罪人の皆さん……ええ、彼らが罰せられるのは仕方がないことです。生前にそれだけのことをしてきたのですから……」
「……」「……」「……」
悲しそうな彼女の呟きに、地獄から罪人認定を受けているフーカやまな、猫娘が押し黙る。彼女たちにとっても他人事ではない話だ。大人しく耳を傾けていく。
「けど!! 罪人だからといって、ただ苦しめるだけではいけません!! わたしは『愛』によって彼らの心を浄化し、真の意味でその魂を救済したいと考えています!!」
「あ、あい!?」
放たれた力強い台詞に、聞き手である猫娘が頬を赤らめる。『愛』などと、普通であれば人前で口にするのも恥ずかしい単語。
だがフロンは全く動じることなく、地獄の中心で愛と叫んでいた。
「そう、愛です!! 見てください!! この愛に満ち溢れた理想郷の姿を!! こんなに素晴らしい景色を前にすれば、どんな悪人さんでも、きっと心が洗われて浄化される筈なのです!!」
フロンは自信満々に、己の持論を展開しながら周囲の景観を指し示す。
木々や花々、愛らしいぬいぐるみの動物、メルヘンな妖精が愉快に闊歩するこの場所こそ、彼女の理想とする楽園だと。
この理想郷を前にすれば、どのような悪人であれ罪を悔い改めるだろうと瞳を輝かせる。ところが——
「——うおおおお~、やめろ!! ここから出してくれぇええ!!」
「——め、目が……目が腐るぅううう!!」
フロンの主張に対し、悲痛な叫び声が周囲に木霊した。
この楽園の中心地には、一際大きな大木があった。
そこでは罪人たちがノミムシのような状態で吊るされている。彼らは身動きが取れないまま、延々と永遠と。お花畑やメルヘンな仲間たちによるパレードを強制的に見せられ続ける。
これが悪人たちの精神には大分堪えるものらしく、ものすごい形相で彼らはもがき苦しんでいた。
過剰な愛の押し付け。それは浄化というより、むしろ洗脳に近いものがある。これはこれで正しく地獄として機能しているようであった。
「…………」
「…………」
そんな地獄の、なんとも言えぬ居心地の悪さを沈黙で表現する一同。
「……ところで、今日はどういったご用件で?」
押し黙る一行を前に、フロンも何となく気まずさを覚えたのか。
話を逸らすかのように、鬼太郎たちがここに訪れている用件を笑顔で尋ねていく。
「——なるほど、そういう理由で地獄巡りを……ちょっと失礼」
全ての話を聞き終え、フロンはおもむろに虚空に向かって手を伸ばす。
すると空中にパネルのようなモニターが投影され、それを彼女が操作していく。何をしているのかと思いきや、エリア権限者として時空ゲートとやらの履歴を調べているらしい。
「これはまた……随分と、ハイテクなもんじゃのう……」
まるで近未来SF映画のような西洋地獄のハイテクぶりに、目玉おやじは唖然となる。
知り合いであるアニエスの魔法にもいつも驚かされてはいるが、西洋地獄や天界が用いる魔法技術とやらは、さらにそれ以上の目覚ましい進化を遂げているようであった。
「ああ、なるほど……分かりました!」
数分ほど時空ゲートを調べた結果、フロンは得心が行ったと叫ぶ。
「ゲートの方に不具合が発生しちゃったみたいですね。本来のコースを大きく逸れてこっちに来ちゃったようです」
「えっ……? ああ、そうだったんだ……ほっ」
一行は予期せぬアクシデントでこんなところまで迷い込んでしまったらしい。とりあえず、ここの地獄を体験しないでいいことに、皆がほっと胸を撫でおろす。
「ちょっと待ってて下さいね。今ゲートを修正して……これで良しと!」
そのまま、フロンはゲートの設定に手早く修正を入れる。そこまで難しい作業は必要ないのか、すぐに新しいゲートがその場に開かれた。
「このゲートを潜れば本来のコースに戻れますから。次で最後みたいですし、頑張って下さいね!」
「あっ、次で最後なんだ! よっしゃー!! みんな、気合い入れていくわよ!!」
ゲートを弄った際に鬼太郎たちが巡るコースの予定を把握したのか。次が最後であるとフロンは教えてくれた。
長かった地獄での試練がようやく終わると分かり、フーカが改めて気合を入れ直していく。
「……あの、フーカさん」
「ん? 何かしら?」
その際、フロンは天使長として風祭フーカに声を掛けた。
「プリニーとしての罪の償い……この地獄での試練を通して、ヴァルバトーゼさんが貴方に伝えようとしていること……それは貴方にもちゃんと伝わっている筈です」
「そ、それは……」
真面目な口調で語るフロンを前に、フーカが神妙な顔つきで黙り込んだ。
馬鹿馬鹿しい試練の数々と力づくで突破してきたものの、どうしてこんなことをしなければならないのか。
何となくだが、フーカの中にも答えらしきものが導き出されようとはしている。
「どうかしっかりと向き合って下さい。それがきっと貴方『たち』のためにもなりますから……ねっ?」
「…………」「…………」
その答えから、現実から目を逸らさないで欲しいと。フロンはフーカのみならず、まなや猫娘にもさりげなくアドバイスを口にする。
天使であるフロンの助言に、二人の少女も自分たちの『罪』を強く意識させられる。
「それじゃあ……頑張って下さいね!!」
だがそれ以上は、フロンも口喧しく説教などはしない。
ただ優しく、彼女たちの旅路に幸あれと。笑顔で手を振りながらその場から去っていった。
「……………」
「お姉様……大丈夫デスか?」
フロンが去っていく背中を、フーカは静かに見つめ何事かを考え始める。いつもと調子の違う彼女を心配し、妹分のデスコが呼び掛けるが反応はない。
さすがのフーカも色々と思うところはあるらしい。そんな彼女へさらにエミーゼルも皮肉まじりに声を掛ける。
「なんだ、柄にもなく大人しくなったな? 今になってヴァルバトーゼの再教育を受ける気にでもなったか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!! わたしは風祭フーカ、プリニーなんかじゃない!! それだけは譲れないわ!」
やはりと言うか、フーカは一向に折れる気配がない。どこまでも意地を張る彼女に死神のエミーゼルも諦めムード。
「やれやれ……さすがのヴァルバトーゼも、あの天使長も……お前を更生させるのは無理だったみたいだな……」
「その通りなのデス!! 再教育なんて絶対……ゼェえええええったいにお断りなのデス!!」
デスコまでも、それが当然だと息巻いていく。
やはり風祭フーカを止めることは誰にも出来ないのだろうか?
その答えは——次のエリア。
最後の試練にて明らかになることだろう。
×
「ここが最後……って、なんね、元の場所に戻っとるやないか~」
「ぬりかべ……」
最後の時空ゲートを潜った先、それは一番最初に西洋地獄を訪れた際に見た景観。グツグツとマグマが燃えたぎる灼熱のエリアだった。
長い試練をようやく乗り越え、彼らはスタート地点へと戻ってきたらしい。
その始まりの場所で一行を待っていたものは——
「——フン……戻ってきたか。さすがにしぶとい。ゴキブリ並みの生命力だな……」
顔を合わせて早々に毒舌を浴びせてくる人狼族の青年・フェンリッヒであった。
「せっかく地獄の最下層まで叩き落としてやったというのに……あの天使長め。指導教官としてこいつらに愛とやらをひたすら説い続けてくれればいいものを……」
「……?」
彼は実に忌々しいという表情で、フーカや鬼太郎たちを見下しながら何やら不穏なことを口にしていた。その言葉の真意が何なのか、鬼太郎が疑問を抱くが——
「まあいい、戻って来たら来たで歓迎してやるまでのこと。とりあえずここまでの道中……ご苦労だったな」
フェンリッヒは柄にもなく、一行の労をねぎらう。これにフーカなどの西洋地獄の面々がキョトンと目を丸くする。
「あらあら? やけに素直じゃない? このアタシを再教育するなんてことがどれだけ無謀か、ようやく実感出来たってところかしら!!」
その表情を明るくし、自慢にもならないことを得意げに語るフーカ。それに対してフェンリッヒも口元を釣り上げていく。
「いや、実際恐れ入ったよ。こちらの用意した関門を全て力づくで突破するお前たちの傍若無人ぶりには……」
「そ、それは……」
「…………」
気にしていたところを突かれ、犬山まなが言い淀む。
彼女が懸念していたとおり、やはりあの突破方法は色々と間違っていたようだ。それを理由に難癖をつけてくるかもしれないと、鬼太郎たちも身構えていく。
「その様子では『自らの罪と向き合え』という、閣下のありがたい御言葉も意味をなさなかったようだな……全く不遜な連中だ」
実際、フェンリッヒは呆れたようにため息を吐く。また主の言葉を蔑ろにされ、怒っているようにも見えた。
しかし、彼の側にその主——ヴァルバトーゼの姿がない。
ヴァルバトーゼが不在という僅かに不自然な状態のまま、フェンリッヒはさらに言葉を投げ掛けていく。
「まあいいさ。お前が何を学ぼうが学ぶまいが、俺にとってはどうでもいいことだからな……」
「ムキ~!? 何よ、ムカつく!! なら、なんでわざわざこんなことさせんのよ!?」
フェンリッヒの言いよう、フーカがムキになって怒りを露わにする。
ヴァルバトーゼはともかく、フェンリッヒ自身はフーカの行く末には何も興味がない様子。ならば何故、彼は主人であるヴァルバトーゼを巻き込み、フーカや鬼太郎たちにわざわざ各地獄を巡るように提案したのだろうか。
「なに、お前らがわざわざ体力を消耗するような方法で地獄を突破してくれて……こちらとしても手間が省けたというもの」
「はぁ!? 何よそれ……どういう意味?」
フェンリッヒの、答えになっていないような答えに訝しがるフーカ。これにはデスコも、エミーゼルも頭に「……?」とクエスチョンを浮かべる。
だが、次の瞬間——
「——……!? 伏せろっ!!」
「——へっ?」
彼が、ゲゲゲの鬼太郎が飛び出す。
突然叫び声を上げたかと思いきや、鬼太郎はフーカへと一直線にダイブ。彼女に抱きつくような形で、その体の位置をずらす。
「ちょっ!? 何すんのよ、アンタ——」
それに当然ながら文句を口にしようとするフーカ。
だが刹那——フーカが立っていた場所を、一発の銃弾が通り過ぎていく。
「へ……?」
位置がズレたことで、その銃弾はフーカの頬を掠めるだけで済んだが——鬼太郎が動いていなければ間違いなく、その弾丸はフーカの脳天を撃ち抜いていたことだろう。
これにはフーカも理解が追いついておらず、ただ呆然と立ち尽くす。
「チッ! 躱したか……」
その奇襲を防がれたことで舌打ちする『仕掛け人』であるフェンリッヒ。
彼は即座に思考を切り替え、軽く手を上げて——合図を送る。
その動きに合わせて、『彼ら』も蠢き出す。
「——ワォオオオオオオオオン!!」
「——ガアアアアア!!」
轟き渡る鳴き声、唸り声。気がつけばそこら中にウヨウヨと敵の影があった。
幻獣族のヘルハウンド、ブラックドックといった凶暴な猛犬たち。
さらに狙撃手である銃魔神族。バキエルと呼ばれる、右手が銃に改造されている西洋地獄でも特に凶悪な魔神の一種。
最初から鬼太郎たちの周囲を取り囲んでいたのか、その包囲を狭めるようににじり寄ってくる血に飢えた魔獣ども。
「な、なんデスか!? これも、地獄の試練というやつなんデスね!?」
「それにしたって、やり過ぎだろ!!」
デスコとエミーゼルは、これも試練の一環なのだと思い込み、フェンリッヒに苦情を吐き捨てる。
だが、日本妖怪たちは違う。彼らはこの西洋地獄に足を踏み入れたときから——こうなることを予め予期していた。
「やっぱり、罠だったってわけね!!」
「ようやく本性を見せよったか!? 西洋妖怪!!」
初めからこうするつもりだったのだろうと、フェンリッヒの『殺意』が本物であると感じ取っていた。
「念のため断っておくが……これは俺の独断だ」
憤る日本妖怪に対し、フェンリッヒは涼しい顔で言ってのける。
これはあくまでも自分の独断、少なくともヴァルバトーゼにこのような『騙し打ち』をする気などなかったと。
だが、主が望まなくとも、主のためになると判断した結果——フェンリッヒはその牙を垣間見せる。
「風祭フーカ、デスコ……お前らとの馴れ合いは、閣下の覇業を妨げる要因の一つでもある」
彼は常日頃から、ヴァルバトーゼの手を煩わせる二人の少女のことを好ましく思っていなかった。プリニー教育係として彼女たちの面倒を見るために奔走する主の姿に、いつも不満を抱いていた。
この二人に関わっている時間も主には惜しい。フェンリッヒはヴァルバトーゼにもう一度『暴君』と呼ばれていた頃に返り咲いて欲しいと。
そのための下準備の一つとして、彼女たちの排除を実行に移す。
「そして……ゲゲゲの鬼太郎。お前の存在は……いずれ閣下の覇道の妨げになるやもしれん」
「——っ!!」
そのついでとばかりに、フェンリッヒはゲゲゲの鬼太郎にもその凶刃を振り下ろしていく。
鬼太郎は現世でバックベアードの企みを阻止した実績がある。
狭い地獄を飛び出し、いずれは現世へと侵攻を果たす予定のフェンリッヒ。暴君としての力を取り戻した主であれば鬼太郎など敵ではないと感じつつ、やはり不確定要素として彼の存在を放置することは出来ない。
「——全ては我が主のため。ヴァル様の妨げとなる可能性の芽は……全てこの俺が摘み取る!!」
この機会を利用し、全てを蹴散らそうと企む。
そう、これが彼のやり方。フェンリッヒという男が信じるものは、いつだって己の才覚と主であるヴァルバトーゼのみ。
それ以外の何にも信じない、頼らない。
それこそ、フェンリッヒという男の生き方である。
人物紹介
天使長フロン
アクターレに続くゲスト参戦。
初代ディスガイアではヒロインを務めたペッタンコ少女一号。
ディスガイアシリーズでは堕天使の姿が印象的かもしれませんが、ディスガイア4の時間軸では天使に復帰しています。
彼女を出演させたかったのもありますが、『天使』や『天界』という概念を出したかったてのが本当のところ。
この天界は『鬼灯の冷徹』風にいうところの桃源郷、白澤なんかがいる場所。
いずれこの天界、あるいは頂の世と呼ばれるその場所から、クロスする作品があるかと。
西洋地獄の獄卒たち
今回登場した西洋地獄の獄卒たち。
○○族とわざわざ表記させていただきましたが、全てゲーム本編に登場する連中がモデルになっています。
サキュバスやスライム、ガーゴイルといった多作品から出てもいいような魔物。
銃魔神族といった、ディスガイアオリジナルの怪物。
ディスガイア4では魔物キャラは魔チェンジ要因としてかなり需要があります。
作者も邪竜族に『真魔剛竜剣』とか名付けて遊んでたな……懐かしい。
次回で確実に終わります。
本当に申し訳ありませんが、あとしばらくお付き合い下さい。