ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『ロシアによるウクライナ侵攻に関して。
 このような場で語るべきことではないと思いますが、触れないわけにもいかないので一言だけ。
 何故、こんなことをしているという憤りしかない。
 様々な人々がそういった怒りをメッセージとして配信しているだろう。
 自分もこの憤りをさりげなく作品に落とし込む形で発信していきたいと思います』


本作のクロスオーバー、其の①を読んでもらえたのならお分かりかと思いますが。
今作は『鬼太郎』『ブラックジャック』そしてfgoの『望月千代女』のクロスオーバーとなっています。
望月千代女の設定や、彼女に取り憑いている『呪』の正体に関してはfgoの設定を中心に色々と織り交ぜています。
後書きの方で解説しますので、とりあえず続きをお楽しみください。




ブラック・ジャック 其の②

 それはブラックジャックが望月千代女という少女の治療を引き受けることになった、その翌日のことであった。

 

「いや~! まさか、こうした形でブラックジャック先生に力を貸すことになるとは……」

「…………」

 

 ブラックジャックは患者を連れ、街の病院を訪れていた。

 

 そこはまさについ先日、とある患者に大手術を行った大学病院である。

 ブラックジャックに借りを作ってしまった手前、彼の頼みを無下に断ることも出来ず。特に使用予約も入っていなかったため、大学側は最新設備の数々をブラックジャックへと貸し出した。

 大学病院の様々な最新機器を用い、ブラックジャックは望月千代女という少女の身体にどのような異常が起きているのか、多角的に情報を集めていく。

 

「あの……ブラックジャック先生?」

「はい? どうかされましたか、古賀先生」

 

 その検査の最中、同伴していた千代女の主治医である古賀がブラックジャックにお伺いを立ててくる。

 

「ここまでしなくてはならんのものなんでしょうか? いえ……千代ちゃんのためになるのなら必要なのでしょう……ですが……」

 

 古賀はブラックジャックが望月千代女に行なっている検査の数々に、少々疑問を抱いている様子であった。

 大学の最新設備、古賀医院のような小さな病院では見たこともない機器。それらを有効に用いれば確かに病気に関する正確な情報、今まで分からなかった病気の原因なども判明するかもしれない。

 

「はぁはぁ……!」

 

 だがハードな検査を重ねれば重ねるほど、それは千代女の体力を著しく消耗していくことにも繋がる。ただでさえ病気の影響で体力が低下しているのだ。これ以上は彼女の肉体にも掛かる負担が大き過ぎる。

 

「申し訳ない……ですが、今は少しでも多くの情報が必要なんです……」

 

 ブラックジャックもそれは重々承知していた。千代女に負担が掛かっていることを理解し、それを彼女に了承してもらった上で、今回の精密検査をやや強引に進めていく。

 

 ブラックジャックがここまで躍起になっていたのには理由がある。

 

 それは昨夜、古賀医院で遭遇した——ちゃんちゃんこを纏った少年の存在が関係していた。

 

 

 

 

 

「——呪いなどと、何を根拠にそんなことを……」

 

 深夜、突如として姿を現した下駄の少年を前に、ブラックジャックは険しい顔つきになる。

 いきなり病院内に不法侵入してくるや、『呪い』だの『罰』だの『罪』だのと、不吉なことを口にする不気味な少年。

 冷たくぶっきらぼうな彼の言動には、たとえブラックジャックでなくとも不快感を抱いたことだろう。

 

「生憎と私は呪いだの、そんな不確かなものは信じない。そのような迷信やまやかしに振り回されるようでは、医師など務まらないからな」

 

 ブラックジャックは少年の言動に対し、あくまで平静を装って毅然と言い返す。呪いなどは勿論、ブラックジャックはオバケや妖怪といったものの類を信じてはいない。

 そんなものに人間の命を好き勝手にされてたまるかという、彼自身の考えなどが影響している意見である。

 

「そうやって……目を背けているから見えないんですよ」

 

 ブラックジャックの真っ向からの反論に、少年はその答えを分かりきっていたとばかりに微動だにせず。

 まるで感情など感じさせない表情で——

 

 

「——見ようとしない限り、そこから目を逸らし続ける限り……貴方に彼女を救うことは出来ません」

 

 

 次の瞬間にも、ブラックジャックの眼前から姿を消していく。

 

 

 

 

 

 ——私に……この患者が救えないだと!?

 

 少年の発言や、彼が幽霊のように掻き消えた事実を思い出しながら、ブラックジャックは手元のモニターへと視線を移す。

 こうしている間にも千代女の検査は続いていき、その結果がパソコンの中へデータとして蓄積されていく。

 今の時点では病気の要因が何であるかなどを断定することは出来ない。この解析データを持ち帰り、改めてデータの分析を進めていく必要があるだろう。

 

 そうすることで病気の原因を突き止め、患者を救う術が見つかる筈だと。

 医者という存在はそうやって、何度も何度も四苦八苦の末に人間の命を救ってきたのだ。

 

 

 今回だって救える筈だと。ブラックジャックは覚悟と決意をその胸に秘めていく。

 

 

 

 

 

 そうして、大学病院で行える全ての検査が終了。ブラックジャックたちは病院での検査データを持ち帰り、車で古賀医院までの帰り道を走っていく。

 

「…………」

 

 朝方から夕方まで続いた長い検査に最後まで耐え抜いた千代女。彼女自身にも病気を治したいという強い意志があったのだろう。

 だがさすがに疲労も溜まり、車の後部座席でぐったりしている。

 

「もうすぐ着くから、もうちょっと辛抱しててね……千代ちゃん」

「…………」

 

 古賀は車を運転しながら、ブラックジャックは助手席から。それぞれ彼女の容態をバックミラー越しに確認する。

 今のところ、体力を消耗している以外にこれといった異常は見られないが。

 

「……古賀先生……森時くんはどうしてますか?」

 

 ふいに、外の景色を漠然と眺めながら千代女が古賀へと尋ねる。

 検査の間も彼女が気にしていたのは自身の体のことではなく、婚約者である森時のことであった。朝早くに大学病院へと赴いたため、今日はまだ彼とは一度も顔を合わせてはいない。

 

「森時くんなら大学だよ。昼間はちゃんと大学に行くっていう……ご家族との約束だからね」

「そうですか……そう、ですよね」

 

 古賀がそのように答えるや、千代女は寂しそうな、申し訳なさそうな複雑な顔色を浮かべる。

 

 森時は千代女との結婚を家族に反対されており、しかもまだ学生だ。森時の両親は彼が千代女の見舞いに行くことですらもあまりいい顔をしない。

 そんな両親に千代女との仲を認めてもらうため、森時は家族間である約束を交わしているとのこと。

 

 それが——きちんと大学に通い、勉学を疎かにしないということである。

 

 その約束を守ることで森時は千代女との付き合いを黙認してもらっており、彼女の見舞いに行くことを許されているそうだ。

 そういった事情もあり、森時は現在『昼間には街の大学』に通い『夕方には千代女の見舞い』に古賀医院へ通うという、忙しい日々を送っている。

 

「千代ちゃんの実家の方も、今は森時くんが管理してくれてるそうだけど……」

 

 さらに森時は『夜は望月家の実家』で寝泊まりをしているという。

 

 千代女の母親が亡くなり、彼女自身も入院している現在、望月の実家は誰もいない空き家となっている。誰かが管理をしなければ荒れ放題、空き巣も入り放題だ。

 森時はいつでも千代女が帰って来れるよう、彼女の居場所である生家を守ってくれてもいる。

 

「…………」

 

 そんなことまでしてもらっていることを千代女も内心は嬉しく思っているのだろうが、やはり後ろめたさの方が強く感じているのか。彼女はますますその表情を曇らせていく。

 そんな望月千代女に——

 

「千代女くん。キミが難しいことを考える必要はない」

「え……?」

 

 ブラックジャックが声を掛ける。

 

 ブラックジャックは千代女に森時との交際をどうとか。二人の結婚がどうとか。そういった小難しい問い掛けをしたりはしない。

 既にその辺りの問答を森時との間で済ましている以上、ブラックジャックが患者である千代女に求めることは一つである。

 

「キミは病気を治し、全快することだけを考えればいい」

 

 医師であるブラックジャックが彼女を『治そうとする』のは当然だが、患者である千代女にも『治ろうとする』意思がなければ病気は完治などしない。

 医者と患者が互いに闘う決意をすることで、初めて病気という困難に打ち勝つことが出来るのだ。

 

「いいね? キミは病気を治すことを……全快することだけを考えるんだ」

 

 だからこそ、ブラックジャックは千代女に病気の治療に専念するように念押しする。

 森時との結婚をどうするかなどは、それこそ——病気を治してから考えればいいのだけのことだと。

 

「ブラックジャック先生……」

 

 ブラックジャックの言葉に千代女は僅かだが、その顔から憂いを消していく。

 

 

 しっかりと頷き、改めて病気と闘っていく決意を固めていくのであった。

 

 

 

×

 

 

 

「——さあ着いたよ、千代ちゃん」

 

 随分と時間は掛かったが、一行は古賀医院へと戻ってきた。古賀は千代女をエスコートし、彼女を病室へと連れて行こうとする——その直後である。

 

「うっ!? う……ぐっ……っ!!」

「……? どうした、千代女くん!?」

 

 千代女の容態に異変が生じる。それまで何ともなかった彼女が突如として苦しみ出したのだ。

 ブラックジャックは初めて目の当たりにする彼女の『発作』に目を剥くが、ここは古賀が冷静に対処する。

 

「これは……ブラックジャック先生! 彼女を病室までっ!!」

「ええ、わかりました!」

 

 さすが長年、望月家の病と真っ向から向かい合ってきただけのことはある。素早い的確な古賀の指示通り、彼女を病室まで運んでいく。

 

「ぐっ……うぅ……ぐくぅう……!!」

「千代ちゃん!! しっかり、気を確かに持ちなさい!!」

 

 病室まで戻ってくるや、直ぐに千代女を横たわらせ、古賀が彼女に呼びかけを続けていく。発作が一刻も早く収束してくれることを、願うような気持ちで古賀は千代女の手を握っていた。

 

「…………」

 

 だが、ブラックジャックに指を咥えて見ている気はなかった。発作の最中にこそ千代女の容態を逐一チェックし、その体に何が起きているかを調べていく。

 通常時では分からない体の変化というものもある。こういう時にこそ、病魔はその原因の片鱗を覗かせるものだ。

 

 ——心拍数がかなり上がっているな……やはり原因は心臓か?

 

 千代女の胸に聴診器を当てると、すぐに違和感を発見出来た。彼女の心臓がまるで軋むかのように、悲鳴を上げるかのように脈拍数が多くなっているのだ。

 やはり心臓に何かしらの異変があることは確かだと。ブラックジャックは改めて、これが病気であると再確認していく。

 

 ——そうだ……呪いなどではない。確かにこの患者を蝕む病には……こうした原因がある。

 

 昨夜に遭遇したあの少年の言葉を、真っ向から否定するかのように——

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…………」

 

 それから数分後、一旦発作が収まったことで苦しみから解放される千代女。彼女はそのまま、息切れを起こしながら気を失うように眠っていく。

 

「……この時間帯なんですよ。いつも、この時間になるとこうして発作が起きて……」

「…………」

 

 眠る千代女の顔色にとりあえず安堵する古賀が、彼女の体調を診ているブラックジャックに声を掛けた。

 彼の話によると、この発作は特に夕暮れ時に起きることが多いらしい。ブラックジャックが訪問した昨日はたまたま調子が良かったこともあり、発作もほとんどなかった。

 だが、普段であれば日の暮れどきに一回目の発作が起きる。ここからさらに深夜にかけて二度三度と発作が起き、患者を毎日のように苦しめているそうだ。

 逆に言えば、その時間帯以外で発作が起きることは殆どないという。こういった規則性もこの病の特徴である。

 

「ブラックジャック先生もお疲れでしょう……コーヒーでも淹れてきますよ」

 

 容態が落ち着いたこともあってか、古賀がコーヒーを淹れに病室から席を外す。

 

 長い検査は患者の体力は勿論、医師であるブラックジャックたちにもかなりの疲労を蓄積させる。ここからさらに、ブラックジャックはデータの分析作業などもこなさなければならないのだ。

 気を休めるときに肩の力を抜いておく必要があるだろうと、古賀は一服入れることを推奨する。

 

「ええ、お願いします……ふぅ……」

 

 これにはブラックジャックも素直に頷く。

 患者も眠っていることから、誰にも見られるという心配もなかった。彼自身も気を緩めるように一息入れる。

 

 

 その時だ。

 日が沈み、世界に夜の闇が訪れようとした——逢魔ガ時。

 

 ブラックジャックの背筋に、瞬間的な寒気が走る。

 

 

「——!!」

 

 彼が感じた寒気の正体は——何者かの『視線』だった。

 見られている。理屈ではない、直感的な何かに従ってブラックジャックは後ろをゆっくりと振り返る。

 

 

『…………』

 

 

 いた。

 

 そこには——『黒い影』らしきものが静かに佇んでいた。部屋の天井高さにまで長く伸びた、巨大な『何か』が。

 

「……っ!?」

 

 思わず息を呑む、ブラックジャック。

 目に見えないものは信じない主義のブラックジャックだが、今そこにあるのは目に見える形での脅威だ。

 その影は、まるで見下すかのような視線をブラックジャックに、ベッドの上で眠っている望月千代女へと注いでくる。

 

 ——な、なんだこいつは……! う、動けない……!?

 

 理解不能な存在を前にブラックジャックの頬に汗が伝う。

 その影のシルエットはまさに『大蛇』のようであり、彼は睨まれた蛙のように動けなくなってしまっている。

 

 ——……な、なんだ、これは!? ま、まずい!! 呑まれ……っ!?

 

 大蛇は別に何をするでもなく見下ろしてくるだけなのだが、その存在感を前に意識を呑まれかけるブラックジャック。

 悲鳴を上げることも、呼吸すら満足に出来ず。窒息するかのように息苦しさに意識が途切れかけ——

 

 

「——お待たせしました……ブラックジャック先生? どうかされましたか?」

 

 

 そこへ、コーヒーを運んできた古賀が何事もなく部屋の扉を開けた。

 

「はぁはぁ……! ……はっ!?」

 

 その刹那にも、ブラックジャックは息苦しさから解放される。

 先ほどまで見えていた筈の大蛇のシルエットは——もう影も形も見当たらなくなっていた。

 

「古賀先生!! 先ほどまでここに…………いえ、何でもありません」

 

 我に返ったブラックジャック。古賀に先ほどの影について聞こうとするも、寸前で思い留まる。

 古賀相手に「呪いなど……」と彼の言い分を否定していた手前、それを連想させるものの存在を口にするのは抵抗感があったからだ。

 ところが——

 

「……もしかして……ブラックジャック先生も……その、何かを見たのですかな?」

「!! 分かるのですか!? 今の……影のようなものが何か!?」

 

 古賀の方から、ブラックジャックが見たかもしれない『それ』ついての言及があった。

 自分以外にも見たものがいるというのであれば、あれをただの幻覚と決めつけることは出来ない。ブラックジャックは古賀に詳細な説明を求める。

 

「い、いえ。私は一度も……。何と言えばいいのでしょう。どうにも私、そういったものへの才能……霊感?のようなもが、からっきしのようでして……」

 

 だが、古賀はそういったものの存在を一度として認知したことがないらしい。

「呪いから解放……」などと口にした古賀が何も見ることが出来ず、「呪いなど……」とその存在を否定をしているブラックジャックが、逆にそれらの存在を感じ取れるという皮肉。

 

「千代ちゃんもそうなのですが……見舞いに来る森時くんも……何かしらの視線を感じたことがあるそうなんですよ……」

 

 ブラックジャック以外に、先ほどの『蛇』の存在を感知したものは二人だけ。

 

 病に侵されている千代女などは、それこそ「誰かが……暗闇から見つめてくる」などと怯えていた。

 森時も千代女の看病をしているときなど、あの蛇のような影に睨まれ、金縛り状態に遭うことがあるそうだ。

 

 しかし、あの影自体が悪さをしてくることはないという。

 

 

 あの影はただそこに在り、望月家の人間たちをただ責めるように見つめてくるのだという——

 

 

 

×

 

 

 

「…………」

 

 その日の夜。ブラックジャックは徹夜で検査データの精査に入っていた。

 望月千代女に行った数々の精密検査。そこから得られる情報を元に、彼女の病気が何に起因するものなのかを突き止めようとしていた。

 

 ——腫瘍の兆候は皆無、内臓機能にも異常なし……。

 

 ——CTによる脳の断層映像、脳波にも異常は認められない……。

 

 ——薬物経験の痕跡もなし…………幻覚を見ているというわけではない、ということだが……。

 

 だがあらゆる検査結果が、彼女の肉体に致命的な欠陥がないことを示していた。調べれば調べるほどにそれは顕著であり、ブラックジャックを大いに困惑させていく。

 

 ——やはり原因は心臓部……だが、肝心の病巣が全く見えてこない!! どうなっているんだ!?

 

 唯一、問題が認められる箇所は心臓だけだ。それも心音に問題があるという、聴くだけで分かるような異常だけ。

 何故心音にノイズがあるのか? どうして心拍数が不自然に多くなったりするのか?

 

 肝心の理由がサッパリ見えてこない。

 

「…………くそっ!」

 

 いかに天才的な外科手腕を誇るブラックジャックといえども、取り除くべき『何か』が見えてこなければ打つ手はない。

 どうすればいいのか分からず、どうすることもできない。

 

 ここ最近は感じることも薄かった無力感を前に、ブラックジャックは人知れず頭を抱えていた。

 

 

 そんな、一人孤独に苦悩する深夜に——

 

 

「……こんばんは」

 

 またしても例の訪問客が訪れる。

 

「……またキミか……」

 

 何の前触れもなく自室に現れたのは——下駄にちゃんちゃんこの少年だ。

 患者のことで精神的な焦りこそあったものの、二度目の会合ということもあってか。ブラックジャックは唐突に現れたその少年を前に、ある程度落ち着いた対応を取ることが出来た。

 

 ——この感覚……この異質感……。

 

 そうやって少年と真正面から向き合うことで、ブラックジャックはあることに気付く。

 眼前に立つ少年の放つその存在感が、周囲の空気を切り取ったかのような異質感が——あの『大蛇の影』に類似しているということに。

 

「…………キミは何者だ? 何故、私の前に姿を現す?」

 

『そういったもの』の存在を認めることには未だに抵抗感があったが、とりあえず話だけでもと。ブラックジャックはその少年との対話を試みていく。

 

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。初めまして……ゲゲゲの鬼太郎と言います」

 

 自分がまだ名乗っていないことを思い出したのか、一応は礼儀を正して名を名乗る——ゲゲゲの鬼太郎。

 

「ゲゲゲの鬼太郎……どこかで聞いたことがあるな」

 

 その名乗りに、ブラックジャックは微かな記憶を頼りに彼のことを思い出していく。

 

 ゲゲゲの鬼太郎。

 その名前をブラックジャックも聞いたことくらいはある。もう何十年も昔から、人々の間で噂として細々と伝わってきた存在。最近ではネットなどでも、所謂都市伝説の類として、さまざまな説がまことしやかに囁かれている。

 

 曰く、妖怪ポストとやらに手紙を投函するとやって来てくれる——妖怪。 

 曰く、妖怪に困らされている人間たちの味方をしてくれる——怪異。

 曰く、人を助けるのと引き換えに依頼者の魂を奪っていく——オバケ。

 

 話の中には嘘やデタラメなども多分に混じっているが、概ね彼が『人間ではない』というのが確かな事実であるかのように語られている。

 

「妖怪か……ふっ。それで? その妖怪少年がどうして私に声を掛ける? 何が目的だ?」

 

 妖怪などという存在を前に、思わず笑いが込み上げてくるブラックジャック。だが一応話だけは聞いてやるとばかりに、やや喧嘩腰ながらも引き続き鬼太郎と対峙していく。

 

「……貴方にあの患者の治療から手を引いてもらおうかと」

 

 鬼太郎がブラックジャックに望んだのは、望月千代女の治療から手を引けということであった。

 

「これ以上、彼女に関わっても意味はないかと……貴方には、他の患者の治療にでも専念してもらいたいので……」

 

 鬼太郎なりに遠回しな表現を選んでいるようだが、暗に「時間の無駄だと」とその顔が告げているようだ。

 当然、そのような要求にブラックジャックが応じられるわけもなく。

 

「キミは……彼女の、望月家の何を知っている? 呪いとはいったい何を意味している……答えろ!!」

 

 苛立たしさを抑えきれなかったのか。ブラックジャックは問い詰めるように鬼太郎へと叫んでいた。

 

「…………あれは——」

 

 ブラックジャックの問い掛けに暫し考え込みながらも、鬼太郎はそれを口にしようとする。

 望月家の者たちを苦しめてきた、病魔の原因とされるものの名前を——

 

 

「——ぐっ!? ああ、ああああああああああ!!」

「……っ!?」

 

 

 だがそのタイミングで、病室の方から望月千代女の絶叫が響いてくる。

 鬼太郎との問答を一旦中断し、ブラックジャックは急いで駆け出す。

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫かい!? ち、千代ちゃん!?」

「古賀先生! 容態は?」

 

 ブラックジャックが駆けつけると、既にそこには古賀医師の姿があった。誰よりも先に彼女の異変を察知して千代女を診察する古賀だが、その表情は困惑に彩られていた。

 

「い、いつもの発作? いや、違う!! これは……こんなに苦しそうにしているのは……私も初めてです!! ど、どうすれば!?」

 

 千代女と彼女の母親、二代に渡ってこの病気と向き合っていた古賀だが、ここまで患者が苦しそうにしているのは初めてだと狼狽えている。

 

「はぁはぁ……!! ぐっ!? ああああああああ!?」

 

 昼間の発作とはまるで別物。千代女は全身が軋むかのようにベッドの上で痙攣を起こしている。

 気のせいか、彼女の全身に巻き付くかのように浮き出ている例の『痣』が、僅かに発光しているように見えるのだ。

 

「古賀先生、鎮静剤を! このままだとショック状態になりかねません!!」

「わ、分かりました!!」

 

 不足の事態に狼狽する古賀に、今度はブラックジャックの方から適切な指示を出す。

 これは自然に収まるのを待っていていい発作ではない。鎮静剤を打ってでも落ち着かせないと、取り返しのつかないことに成りかねないと。

 

「はぁはぁ……! せ、先生……? ぶ、ブラックジャック先生……」

「無理をするな……今……ん?」

 

 古賀が鎮静剤の準備をしている間、千代女は苦痛に表情を歪めながらもブラックジャックに何かを伝えようと、彼の衣服の袖を引っ張る。

 患者に無理をさせないようにと、ブラックジャックは千代女に大人しくしているように言うのだが——

 

 

「————————」

「……っ!?」

 

 

 千代女は、か細い声ながらも確かにその『言葉』を伝えた。

 彼女に『それ』を伝えられ、目を剥くブラックジャック。だが、すぐにその表情が決意あるものへと変わっていった。

 

「先生!! 準備が出来ました……ブラックジャック先生?」

 

 鎮静剤を用意した古賀は、ブラックジャックのその表情の変化に訝しがる。

 しかし、もはやブラックジャックの目には患者しか見えていない。

 

 的確な手順、適切な処置で手早く千代女の発作を鎮めていく。

 

 

 

 

 

 鎮静剤を打ったことで、とりあえず落ち着きを取り戻した千代女。念のため彼女に付き添うと、今は古賀が彼女の病室に留まってくれている。

 

「これも、キミの言う……呪いというやつの影響なのかな……ゲゲゲの鬼太郎?」

「…………」

 

 その間、病院の待合室でブラックジャックはゲゲゲの鬼太郎と再び向かい合っていた。

 

「古賀先生が仰るには、今までと苦しみ方が違うという話だが……まさか、キミの仕業というわけではないだろうね?」

 

 表向きは驚くほど冷静にブラックジャックが鬼太郎へと探りを入れていく。彼が千代女から手を引けといった瞬間、彼女がこれまでの前例にないほど苦しい発作を起こした。

 そこに何かしらの結びつきを感じ、鬼太郎へと疑いの目を向ける。

 

「いえ……ですが、ボクが思っている以上に……呪いは彼女の身をこれまで以上に蝕んでる……」

 

 だが、鬼太郎もこれは想定外の出来事であると。それまでほとんど感情を見せなかった彼の顔にも戸惑いが浮かんでいた。

 

「最後の一人だからかもしれません。次に続くものがいないと……呪いは本気で彼女を追い詰めていくつもりなのかも……」

 

 鬼太郎曰く、もはや望月家の人間が千代女一人だけだからだろうと。

 次に繋がるものがいないから。未だかつてないほどに『呪い』は彼女を本気で苦しめているのだと予想する。

 

 本来であれば、この病気は何十年と時間を掛けてその対象を苦しめていくものだ。

 もはや母親のケースも当てにはならない。病気は——呪いは新しい形となって、患者の生命を刻一刻と削り取っている。

 

「呪いか……未だに信じ難いが…………」

 

 ブラックジャックはこの『病気』を『呪い』と表現することに、やはり抵抗感を抱いている。だが鬼太郎が言っていたように、目を背けているようでは治せるものも治せない。

 

「何か知っていることがあるのなら教えてくれ……頼む」

 

 いったい、どのような心境の変化か。ブラックジャックは鬼太郎にこの呪いの正体について教えてほしいと頭を下げていた。

 あくまで医師として、この病気と向き合うために——

 

 

「………伊吹大明神」

「…………?」

 

 

 頭を下げるブラックジャックを見つめながら、鬼太郎はその名を口にした。

 

「伊吹大明神……その分霊を祀るとされる神社が、彼女の実家近くにあります……」

「…………」

 

 病気とはまるで関係のない、いったい何の話かも分からない鬼太郎の言葉。

 しかし、彼が出鱈目を口にしているとも思えず、ブラックジャックは静かにその話に聞き耳を立てていく。

 

「そこを訪れて見てください。そこで知ることが出来る筈ですから、彼女の祖先が犯した……罪について」

 

 そう言い残すや、鬼太郎はその場から霞の如く姿を消していく。

 待合室で一人佇む、ブラックジャック。

 

 

「伊吹……伊吹、大明神……」

 

 

 鬼太郎の口にしたその名を——とある『神様』の名前を繰り返し、繰り返し呟いていく。

 

 

 

×

 

 

 

 滋賀県と岐阜県の県境にある、伊吹山地。

 その御山の中でも最高峰の高さを誇るとされる、伊吹山。

 

 その山の麓には『伊夫岐(いぶき)神社』と呼ばれる神社が古き時代より鎮座していた。

 その神社は霊峰と名高い伊吹山におられる神を、御祭神として祀っているとされている。

 

 その名も——『伊吹大明神(いぶきだいみょうじん)』。

 

 地元では山の神、あるいは水の神として崇められ、付近を流れる姉川の水を全て掌握しているともされている。

 

 しかし、その神には荒ぶる別側面。

 それが如何なる存在かを、日本中の人々に理解させる別名が存在していた。荒ぶる神、日本最古の大妖怪としての別名。

 

 

 その名も——『八岐大蛇(やまたのおろち)』。

 

 

 一つの胴に八つの頭、八つの尾を持つとされる、山ほどの大きさを持つとされる大蛇。

 日本神話において、破壊と暴虐の限りを尽くしたとされる大怪物。『一人の英雄と一匹の白い犬』に退治されて尚、『分霊』となってさまざまな形でさらなる厄災を撒き散らしたとされる存在。

 

 

 その八岐大蛇こそが——伊吹大明神。

 

 

 即ち、望月千代女という少女を苦しめている元凶なのだ。

 

 

 

 

 

「……ここが、鬼太郎の言っていた神社か……」

 

 早朝、ブラックジャックは鬼太郎の言っていた通り、千代女の実家近くにある神社を訪れていた。

 

 午前中は千代女の容態も比較的安定していることもあり、ブラックジャックも病院から離れることが出来た。

 やはり朝は、日が差している間はあの『大蛇』も千代女に大した悪さが出来ないらしい。

 

「…………」

 

 ブラックジャックはここへ来ることに複雑な心境を抱きながらも、神社の境内へと足を踏み入れていく。

 

 神社そのものはだいぶ寂れていた。もう人が寄りつくこともないのか、人気もほとんどない。

 

「これはこれは、こんな寂れた場所まで……何の御用でしょうかな?」

 

 だが幸運なことに、その神社にも神主はいた。

 かなりの高齢だが、今は彼が一人でこの神社を管理しているらしい。アポイントもなしに訪れたブラックジャックに物珍しげな視線を向けつつ、怪しい風貌の彼を参拝客として受け入れてくれる。

 

「この神社は……伊吹大明神を祀っていると聞きました。何故、東京の片田舎に……そのような神社が?」

 

 ブラックジャックは神主にその話題を振る。

 鬼太郎はこの神社が伊吹大明神の分霊を祀る、分社であると言っていた。だが何故、こんな伊吹山と関連がなさそうなところに、そのような神社が建てられているのか。

 その理由に合点がいかず、話の取っ掛かりとしてそのことについて尋ねる。

 

「…………なるほど。ではどうぞ……奥の方でお話ししましょう」

 

 すると、その問いに何か勘付いたのか。

 込み入った話になると、神主はブラックジャックを本殿の奥へと招いていく。

 

 

 

 

 

 結論から述べるのであれば——この神社は『伊吹大明神の怒りを鎮める』ため、建立されたものだという。

 

 

 

 

 

 遠い昔、近江(おうみ)甲賀(こうが)の国主に三郎という男がいた。

 三郎はある日、伊吹山の地底へと落ち、そこに広がっていた地底世界を彷徨うことになる。

 

 長い彷徨の果て、何とか地上へと戻ることができた三郎だが、彼はその身に『呪』を帯びていた。神々の領域を犯した罰として、彼は『蛇』と成る呪いを伊吹大明神より授けられてしまったのだ。

 

 三郎自身はそのまま神になったり、あるいは人間に戻るなど。地方によって結末が違う物語が方々で語られているが——その伝説には続きがあった。

 

 三郎の死後、その呪いは姿形を変え——彼の子孫にまで、引き継がれていくようになったというのだ。

 

 三郎の子孫。その家系こそが、望月家——つまり、千代女の一族なのである。

 三郎が亡くなった後も、必ず一世代に一人。この呪いを受け継ぐものが生まれるようになり、血族のものたちを病のような形で苦しめるようになったのだ。

 

「この神社を管理していたのも……元々は望月家の人たちなんですよ……」

「…………」

 

 本殿の奥で、神主はブラックジャック相手にさらに言葉を綴っていく。

 

 この神社はこの地に移り住んだ望月家の人々が、伊吹大明神の呪いを何としてでも鎮めたいと建立したものなのだという。

 遠い先祖の罪を許してくれと神に祈りを捧げ、許しを請い。

 

 いつの日か、呪いから解放されることを願って。

 その身を捧げるように懇願し続ける儀式の場こそが——ブラックジャックたちが今いる、この本殿でもあったのだ。

 

「けれどね……それを覚えている人は……もう、誰もいなくなってしまったよ……」

 

 されども、その罪が許されることはなく。

 あまりに途方もない時代の流れの中、祈ることすらも忘れてしまった望月家の人々。

 

 彼らの身にはただ呪いだけが残ってしまったのだと、神主は悲しむように——

 

 あるいは、諦めるような嘆きを口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 神主の話を聞き終え、ブラックジャックは一人本殿の外へと。

 彼がとぼとぼと歩いていると、その向かい側からゲゲゲの鬼太郎が声を掛けてきた。

 

「何十年も昔のことです。ボクはここであの神主から今の話を聞き……呪いのことを知りました」

 

 鬼太郎は語る。彼自身も過去、この神社に訪れて『呪い』のことを知った身だと。

 

 と言うのも、元々は鬼太郎も『望月家に取り憑いている大蛇の怨念を鎮めて欲しい』と、先ほどの神主からの依頼を受け、この地に足を運んだとか。

 一応は神主の頼みを引き受ける形で、一度はあの大蛇の影と接触した鬼太郎。人知れずあれと交渉し、何とか望月家の人間を許してくれるように口添えしたという。

 

「けれど、大蛇はボクの言葉に聞く耳を持ってくれません……しかもあれは実体のない、所詮は影に過ぎません」

 

 だが、大蛇は鬼太郎の言葉になどまるで聞く耳を持たず。力づくで追い払おうにもあの影は水面に映った月のようなものであり、あれを攻撃したところで全く意味がなかった。

 

「それに……伊吹大明神の言い分を無視するわけにもいきませんから」

 

 さらに言ってしまえば、鬼太郎には大蛇——伊吹大明神側の言い分に頷けてしまう部分があった。

 

 伊吹大明神が三郎へ、その子々孫々にまで呪いという罰を下したこと。

 それは住処を荒らされた大蛇からしてみれば当然の報復であり、三郎は勿論、望月家の人間たちもその咎を背負わなければならないというのだ。

 

「……ふざけたことを言うじゃないか……!!」

 

 しかし、その言い分にブラックジャックが反論する。

 

「もう数百年も昔の話だろう!? そんな遠い先祖の責めを……何故、現代に生きる人間が負わなければならないんだ!?」

 

 数百年も前の先祖など、それこそ赤の他人のようなものだ。 

 親が罪を犯したからといって、子にまでその責任を負わせるのは間違っていると。現代の人間の価値観からすればそれは道理が通らない。

 ブラックジャックは怒りを抑えきれずに叫ぶ。

 

「残念ですが、それは人間の価値観です」

 

 だが、それに鬼太郎は冷静に言い返す。

 

「伊吹大明神からすれば、つい昨日のことも同然なんです。その程度の年月で……到底償い切れるものじゃない」

 

 悠久な時を生きる、神にも近しい魔性からすれば数百年程度は刹那の時間に等しい。その程度の時間で恨みなど晴れるわけもなく、大蛇は未だに怒りの炎でその身を焦がし続けているという。

 

「ふっ……神様ってやつは随分と了見が狭いんだな……」

 

 そういった伊吹大明神の在りようを、ブラックジャックは器が小さいとばかりに鼻で笑った。

 

「悪いが……私はキミのように納得も出来ないし……諦めるつもりもない!」

 

 そんなふざけた言い分など認められるかとばかりに吐き捨て、急ぎ足でその場から立ち去ろうとする。

 逃げるのではない、戦うために。患者が待っている古賀医院へと戻ろうとする。

 

「どうして、そこまでして……これ以上は貴方の身にも危険が及ぶかもしれないんですよ?」

 

 そんなブラックジャックの姿勢に鬼太郎は疑問を投げ掛ける。

 

 何故、この人間はここまで必死になるのだろう。確かに彼の職業は医者だ。病気を治し、人の命を救うことが医師の本文だと言えよう。

 だが、それだって限度というものがある筈。いくらお金を積まれようとも治せない病気というものもある。

 これ以上首を突っ込めば、彼までも伊吹大明神の怒りを買うことになるかもしれないのだ。

 

 ブラックジャックに、そこまでして望月千代女を救う理由などない筈だと。

 少なくとも、そのときの鬼太郎はそのような考えを抱く。

 

 

 しかし——

 

 

「危険がどうした? 患者と向き合うとき、私はいつだって命懸けさ……」

 

 ブラックジャックは毅然と言ってのける。

 

 他の医者がどうかは知らない。だが少なくとも、ブラックジャックという男はいつだって命懸けで患者の治療にあたっている。

 己の命を賭けるからこそ、患者にも同じような『覚悟』を求める。高額な手術代を請求するのもその一環だし、何より——望月千代女には、生きたいと強く願う『意志』があった。

 

「彼女は私に……祈るように懇願していた」

 

 それは昨夜の発作の際、千代女がブラックジャックにだけ聞こえる声で呟いたときだ。

 小さな声であったが、確かにその声はブラックジャックの元へと届いた。

 

 

『——助けて』

 

 

 そう、彼女は助けを求めていた。

 自分をこの苦しみから解放してくれと——『生きたい』と、強く願っていたのだ。

 

「妖怪やら神様なんて存在からすれば……人間の足掻きなど取るに足らない、ちっぽけなものなんだろうさ……」

「…………」

 

 喧嘩を売るように、ブラックジャックは鬼太郎へ鋭い眼光を飛ばす。

 鬼太郎は何も答えない。ただ静かにブラックジャックを見つめ返している。

 

「だがそれでも! 彼女は生きようと……生きたいと強く願っている!!」

「…………」

 

 ブラックジャックの叫びは徐々に熱を帯びていく。

 その間も、鬼太郎は口を挟めずにいる。

 

「私は人間だ……神様なんかのように……人の生き死にを自身の都合で左右できるほど器用じゃない」

 

 神の手などと持て囃されるブラックジャックの外科的手腕。だが、彼は本物の神様じゃない。

 己の意志一つで人の生死を決定できるような神様なんてものに比べれば、その腕ですくいとれる命にも限界がある。

 

 

 だがそれでも——

 

 

「医者である私が真っ先に諦めてどうする? 彼女の覚悟に応えないでどうする!?」

 

 ブラックジャックの瞳の奥には、燃えるような闘志が激っていた。

 目の前で苦しんでいる命を救う、その胸に秘めた情熱が彼を突き動かす。

 

 

「諦めるわけには、いかないんだよ……!」

「………………」

 

 

 最後まで、ブラックジャックの叫びに鬼太郎が何かを言い返すことはなかった。

 しかし、ブラックジャックが鬼太郎の返答を待つ義理などなく。

 

 

 彼は患者の元へ——その命を救うべく向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——そうさ、救ってみせる。

 

 ——たとえ神様なんてものが相手であろうと、屈するわけにはいかない。

 

 

 

 ——負けるわけには……いかないんだ!

 

 

 




伊吹大明神

 伊吹大明神もとい、八岐大蛇。
 原作のfgo。英霊・望月千代女に取り憑いている呪いであり、彼女自身もこの呪を力の一端として行使している。
 今作においても、この伊吹大明神の『分霊』が千代女に取り憑き、彼女を苦しめています。
 ちなみに、今作において八岐大蛇本体は『一人の英雄と一匹の白い犬』によって退治されているという設定。
 いつかは……本当にいつかはこの伏線を回収する日が来るかもしれませんので、まあ気長にお待ちください。
 さらに言ってしまうと、八岐大蛇の『分霊候補』はまだいますので……どうかお楽しみに。

 次回でブラックジャックとのクロスオーバーは完結予定。 
 呪いなんてもの相手にどうやってブラックジャックは立ち向かっていくのか!!
 ……まあ、原作でも宇宙人やら、人面瘡やら、超能力腫瘍やらと向き合ってるし……特に問題にはなるまい。
 
 
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