ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

80 / 150
も、文字数が多い……ッ!!

『戦姫絶唱シンフォギア』とのクロスオーバー。
最初は三話構成で終わらせようと頑張ってみましたが……とても三話では書ききれねぇ!
シンフォギア初心者(シンフォギア知らん人がこの小説を読むのかは謎だが)のために、専門用語やら世界観やら解説しながらだから……余計に文字数が嵩張る!

なので申し訳ありませんが……今回も四話構成でお届けする予定です。
で、でも……シンフォギアだから、許してくれるよね……(震え声)。

それはそうと……『シン・ウルトラマン』観てきました!
色々と迷った上で映画館に足を運びましたが……行ってよかった!
個人的には『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァンゲリオン』よりも面白かった。
メフィラス星人、あれだけ飲み食いしておきながら、ウルトラマンに割り勘を要求するセコさ……。
俳優さんの演技も相まって、作中で一番好きなキャラかもしれん。

今朝、ジャンプ立ち読みしに行ったらしれっと『ルリドラゴン』連載スタートしてて笑った!
読切の頃からクロスできないかなと、結構好きな作品でしたので地味に嬉しい。
けどこれ……ほのぼの路線で行くのか? それとも途中でバトル路線に切り替わるのか?
今後が非常に気になる作品ですね。




戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED 其の②

「——おりゃあああ!!」

 

 立花響のガングニールが開放全開。乾坤一擲の先制攻撃が中学生と思しき少女に触れようとしていたノイズへと叩き込まれる。

 ノイズは景気よく殴り飛ばされ、何とか少女は無事危機から脱する。

 

 さりとて、相手はただのノイズではない——カルマノイズだ。

 

「————」

 

 不意をついたガングニールの一撃にも耐え切り、逆に反撃体勢を整えていく。

 見た目が一般的なヒューマノイドノイズでありながらもこの耐久力、やはりカルマノイズは侮り難い存在である。

 

「——援護するぞ、立花!!」

 

 もっとも、響とて一人ではない。共に戦う仲間である風鳴翼がアームドギア・天羽々斬を展開していた。

 青をメインカラーとしたインナー、各部に装甲を纏った防人の戦装束。

 その手に握られた刀身から放たれる斬撃の衝撃波——『蒼ノ一閃(あおのいっせん)』がカルマノイズを切り裂かんと迫る。

 

「————」

 

 しかし、その鋭い一撃すらもカルマノイズは軽やかに躱す。

 通常のノイズではあり得ない跳躍力を用い、後方へと大きくジャンプしてみせる。

 

「——逃すかよ!!」

 

 だが、それは悪手だ。相手が身動きの取れない空中にいるのであればそこを撃ち落とせばいい。

 赤をメインカラーとしたインナー、全身から各武装・重火器を展開するのは『イチイバル』のアームドギアを纏った雪音クリス。

 ガドリンガンによる集中砲火——『BILLION MAIDEN(ビリオンメイデン)』をカルマノイズへと浴びせていく。

 

「やったよ、クリスちゃん!!」

「バカッ!? フラグを立てるな!」

 

 クリスの銃撃の雨、高火力の攻撃でカルマノイズを「倒した!!」と響が喝采を上げる。しかし、それを迂闊だとクリスが叱りつけた。

 

 事実——カルマノイズは立っていた。

 あれだけの集中攻撃をその身に受けて尚、未だに倒れていないのは恐るべき耐久力。

 

 しかし、無傷というわけでもない。

 動きそのものに明らかな『揺らぎ』が見える。装者たちも自分たちの優勢を、確かな手ごたえとして感じ取っていたことだろう。

 

「好機だ! このまま一気に畳みかけ——」

 

 それでも最後まで油断することなく、一気に攻勢を掛けるべしと翼が号令を掛けようとする

 

 

 すると、まるでそれを阻止せんとばかりのタイミングで——『彼ら』は地響きを起こしながら地上へと姿を現す。

 

 

『キィイイイ!!』

『キィキィキィキィ!!』

 

「なッ!? 先ほどのムカデ!?」

「よりにもよって……このタイミングでかよッ!?」

 

 姿を現したのは、先ほども会敵した——ムカデの妖怪たちだ。

 まさかのタイミングでの乱入、しかも一匹や二匹ではない。少なく見積もっても十匹以上。それほどの数のムカデたちが、響たちがノイズと交戦していた住宅地に出現したのである。

 

「くッ!! カルマノイズだけでもッ!!」

 

 だが、ムカデたちの大群を前に気を取られ、ノイズを逃したとあっては防人の名折れ。

 翼は先にカルマノイズだけでも仕留めておかなければと。目にも止まらぬ電光石火の居合い——『蒼刃罰光斬(そうじんばっこうざん)』の斬撃波にて、ピンポイントにカルマノイズを狙っていく。

 

 ところが——

 

『キィキィ!』

 

 次の瞬間、翼の放った必殺の一撃とカルマノイズとの間に——ムカデの一匹が、自らの胴体を盾として割り込ませた。

 ムカデが——カルマノイズを守ったのである。

 

「なんだとッ!?」

 

 これには風鳴翼も驚愕を禁じ得ない。まさか妖怪がノイズ庇うなどと、いったい誰が予想出来ただろうか。

 ムカデのおかげで致命傷を避けたカルマノイズ。そのまま、装者たちの前からその姿を消してしまう。

 

「くッ!! 逃したか……」

 

 逃げた、というよりも幻のように姿が薄れて消えていった、カルマノイズ。

 通常、ノイズというものは一定時間経過すれば自然と自壊するものだが、カルマノイズの場合は撤退するだけだ。何処ぞへと姿をくらまし、時間が経てばまた現れる。

 確実に倒しておかなければ再び出現して人々に被害をもたらす。出来ることなら、ここで確実に仕留めておきたかったところだが——

 

「翼さん!!」

「今はこのムカデどもを片付けるぞ、先輩!!」

 

 逃してしまった以上、何を言っても栓無きこと。

 今は新たな脅威として出現したムカデたちを倒し、人々への被害を減らすことが何よりも重要だと響とクリスが叫ぶ。

 

「ああ、行くぞ二人ともッ!!」

 

 翼もそれに素早く同意、これ以上の暴虐は許さんとばかりに剣を構え——。

 

 

 少女たちは己の心の赴くままに、その胸の『歌』を響かせていく。

 

 

 

 

 

「…………すごい」

 

 響たちシンフォギア装者に助けられたその中学生は、彼女たちの戦う勇姿に視線を釘付けにされていた。

 

 突然、訳の分からない化け物——カルマノイズが目の前に現れたとき、少女は咄嗟に逃げることが出来た。

 少女自身、それがいったい何だったのかを理解していなかったが、既に妖怪に対して『恐怖心』を抱いていたため、それが危険なものだと判断。

 実際のところ、ノイズはこの世界の妖怪とはその存在理由からして全く違う別物なのだが、それこそ少女には関係のないことだ。

 

 異形の怪物は全て妖怪——怖いものという『刷り込み』が今の少女にはあった。

 

 だが目の前の彼女たちは、その怖い妖怪を難なく倒している。

 その拳が、その剣が、その銃火器が。巨大なムカデのお化けたちを蹴散らし、少女に安心感を与えてくれている。

 

 さらに少女の胸を揺さぶったのが——彼女たちの口から紡がれる『歌』であった。

 

「……これって、歌? 歌いながら……戦ってるの?」

 

 そう、何らかなの装備で武装していた彼女たち——その誰もが歌を歌っているのだ。

 

 

 これこそ、シンフォギアシステムの真骨頂。

 櫻井(さくらい)了子(りょうこ)によって提唱された『櫻井理論』を基に作り上げられた『FG式回天特機装束(えふじーしきかいてんとっきしょうぞく)』。聖遺物の欠片が埋め込まれたペンダントに『聖詠』を口ずさむことでギアは展開される。

 さらに、適合者たる装者たちが歌唱することによって、シンフォギアは稼働するために必要となるエネルギー『フォニックゲイン』を増幅、それがそのまま彼女たちの戦闘力に直結する。

 さらにこの歌だけが、通常の物理法則下に存在しないノイズたちに効果的なダメージを与えることができるのだ。

 

 その反面、交戦中に歌が途切れたりしてしまうと装者たちの戦闘力は大きく低下してしまう。

 ちなみに装者たちが紡いでいる歌の歌詞は、彼女たちの性格や心象がそのまま形になったもの。その時々の精神状態にも大きく作用され、浮かび上がる歌詞はその瞬間によって違う。

 装者たちも、自分がこの瞬間にどんな歌を歌っているのか自覚はないという。

 

 

「……なんだろう……すっごく……安心するていうか……」

 

 戦いながら歌っているせいか、ところどころ叫びながらで音程もおかしくなったりしている、装者たちのその歌。

 しかし彼女たちの歌声は力強く、聞いているものの心までも奮い立たせる。実際、あれだけ怯えていた少女が、その場から逃げることを忘れて聞き入ってしまっている。

 

 しかし、そのせいか——。

 

 

 少女は——すぐ後ろの地面から飛び出してきたムカデの存在に、全く気付くことが出来なかった。

 

 

「ッ!! そこから逃げてッ!!」

「え……?」

 

 少女の間近、地中からいきなり出現したそのムカデには流石の装者たちも救援が間に合わない。

 ムカデの毒牙が、今まさに少女の身を害そうとした——。

 

 

 その直後である。

 

 

『——ギィッ!?』

「……!?」

 

 少女が何をするでもなく、ムカデは何かに弾かれようにその身体を仰け反っていく。まるで見えない壁のようなものが、少女を守ったかのようにも見えた。

 

「はぁあああッ!!」

 

 ムカデが怯んだ隙に、立花響は少女の元へと駆け寄りながら拳を振りかぶる。ムカデを一撃で沈め、すぐさま少女の身を気遣う。

 

「大丈夫!? 怪我はない!?」

「は、はい……わたしは大丈夫ですけど……」

 

 少女が言うように怪我はない。

 響たちがノイズやムカデたちを退けてくれているというのもあるが、少女自身にも『何か』の力が作用し、その身が守られた。

 

 

 いったい、それが何だったのかは少女——。

 

 

「……もしかして、このお守りのおかげ……なのかな?」

 

 

 今現在の『犬山まな』には何も理解することが出来ず、胸元に忍ばせていた『お守り』を握りしめながら、ただただ首を傾げるばかりであった。

 

 

 

×

 

 

 

「とりあえず、片は付いたが……」

 

 出現したムカデたちを倒しきり、危険がなくなったことを確認しながらギアを解除する装者たち。だが肝心の元凶に逃げられてしまったため、彼女たちの表情は若干沈み気味だ。

 

「やはり、あれを倒さない限りはギャラルホルンのアラートも鳴り止むまい……」

「やっぱ出てくるよな……カルマノイズがッ!!」

 

 翼とクリスが互いに顔を見合わせながら、今回の騒動の原因——カルマノイズに付いて話す。

 そう、並行世界の異変を告げるギャラルホルンが警告した通り、やはりこの世界にカルマノイズが出現していた。

 今回も早急にあれを捜し出し、倒す必要があるわけだが。

 

「あの……ありがとうございます! おかげで助かりました……」

「ううん!! 怪我もないみたいで良かったよ!!」

 

 今回は犠牲者も出なかった。

 無事であった少女のお礼の言葉に、響はその事実を笑顔いっぱいで喜ぶ。

 

「……けど、あなたたちは? それに……あの黒いのはいったい?」

 

 しかし、助けられた少女からは疑問が投げ掛けられる。

 この世界の住人にとって妖怪であるムカデの化け物は既知の存在。脅威ではあるが不思議ではない。

 少女の問い掛けは最初に出現したカルマノイズに、そしてそれらを打ち倒して追い払った響たち装者へと向けられている。

 

「ええっと……それはね……」

 

 これに響が困った顔をする。

 基本的に立花響は人助けを優先するため、助けた後のこと——自分たちの素性に関する説明などあまり深くは考えない。

 

 だが当然ながら、自分たちが別の世界——並行世界からやって来たことなどは秘密にしなければならないし、出来ることなら自分たちが『シンフォギア装者』であることも極力明かしてはいけない。

 その世界に余計な混乱を生まないためにも、情報の開示に関してはいつも慎重にならなければならないのだ。

 

 しかし、少女は目の前でギアを纏って戦う響たちを直に目撃してしまった。

 これを誤魔化すというのはなかなかハードルが高く、さてどうしたものかと響は頭を悩ませる。

 

「立花……話は後だ」

「翼さん?」

 

 すると、翼が周囲を見渡しながら声を潜ませて響に耳打ちしていく。

 

「騒ぎを聞きつけた人たちが集まってくる……今はここから離れるのが賢明だ」

 

 装者たちの戦いを直に目撃していたのは少女一人であったが、激しい戦闘音に何事かと住宅地の人々が俄に騒ぎ出す。

 既に通報もされているのか、遠くからサイレンの音も鳴り響いていた。

 警察などの公的機関にでも干渉されれば、さらに話がややこしくなってしまうだろう。

 

「あ、あのッ!!」

 

 それで響たちが困ることを、少女——犬山まなは察したのか。

 

「わ、わたしの家に来ませんか? すぐそこですし……助けていただいたお礼もしたいので……」

 

 思わずそのような提案を口にしていた。それに対して——。

 

 

「そうだな……」

 

 

 風鳴翼はやや思案を巡らし、そして——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ……粗茶ですけど……どうぞ……」

「ありがとう、まなちゃん!! ちょうど喉乾いてたんだ!!」

 

 立花響たち装者は、助けた少女・犬山まなの実家である犬山家のリビングにお邪魔していた。

 父親も母親も留守にしているということで、家にはまな一人。そういう意味で、避難する先としては上々だったかもしれない。

 

「いいのかよ……先輩?」

 

 雪音クリスなどは、一般人であるまなの好意に甘えてしまったこと。迂闊な接触だったのではと、お茶を頂きながらも、風鳴翼にこっそりと尋ねているが。

 

「……ほとぼりが冷めるまでの間だ。暫しの間、ここに留まらせてもらおう」

 

 翼もそれなりに迷った末での選択だった。

 先ほどの戦闘をこの世界の公的機関、政府関係者に説明して協力を仰ぐというのも一つの手だったかもしれないが、今の段階でその判断は早計。この世界の者たちが必ずしも協力的だとも限らない。

 装者たちの力を知ったところで、それを体よく利用しようとする輩とているのだ。

 

 今回の一件、この世界の住人に事情を話してまで協力する必要があるのか。それを判断するためにも、まずはこの世界のことについてもう少し知る必要があるだろう。

 

「犬山さん。済まないが……いくつか質問したいことがあるのだが……」

「は、はい! 何でしょうか?」

 

 情報収集の延長として、翼は一般市民である犬山まなにも詳しいことを尋ねていく。

 

「先ほども説明したとおり。私たちはあの黒い怪物、カルマノイズを追ってこの日本までやって来た……とある国の政府機関のものだ」

 

 翼はまなの家に上がる際、自分たちのことを『外国からノイズを追って来た政府機関の人間』というバックストーリーを語った。『並行世界から来た』ことを除けば本当のことであり、自分たちが変身して戦ったことも内密にして欲しいと頼んだ。

 幸いまなは善良な少女だった。こちら側の意を汲んでくれ、深い追求もしないでくれている。

 

「あのムカデたち……妖怪、というのが出没するのは……この国では一般的なことなのだろうか?」

 

 翼が最初に質問したのは『妖怪』という存在について。

 あの大きなムカデなど、あれが一般的に出現するような世界なのか。妖怪が実在するというのであれば、他にどのような脅威があるのか。

 この世界の常識に関わることだ。この日本に住まうものであれば誰でも答えられることだろう。

 

 しかし、まなから返ってきた答えは意外なものだった。

 

「……ごめんなさい。わたしも……よく分からないんです……」

「分からない……?」

 

 この世界の、この国の人間であるにもかかわらず、まなは妖怪に関して『分からない』という。と言うのも、それには理由があって——。

 

 

「……実はわたし……ここ二年間くらいの記憶が…………ないんです」

 

 

 それは犬山まなという少女が、この二年間の思い出を失っているという個人的な事情である。

 

「ここ二年の間……誰とどう過ごしたのか。その記憶が曖昧でして……はは、はははっ……」

「…………!!」

 

 苦笑しながら話しているが、それが衝撃的な事実であることに変わりはあるまい。あまりの話に装者たちですらショックを受けて言葉を失っている。

 まなのような思春期の少女が、二年間もの思い出を欠落している。これは尋常ならざる事態である。

 

「け、けど! 少なくとも二年前までなら……誰も妖怪なんて信じてなかったと思うんです!! わたしも……正直、未だに信じられなくて……」

 

 だが表向き、まなは響たちに気を遣わせまいと明るく振る舞ってみせる。

 少なくとも記憶を失う二年前は、妖怪など誰も信じていなかったと、自分の知る限りのことを話してくれた。

 

「そ、そうなのか……済まない。踏み込んだことを、話させてしまったな……」

 

 これに翼は沈痛な面持ちで謝罪する。

 そして、これ以上はまなの口から色々と聞き出すわけにはいかないと思い立ち。

 

 ふと、何かを思い付いたように口を開く。

 

「——不躾で申し訳ないが、スマホ……いや、パソコンか何かあれば少し使わせてもらえないだろうか?」

 

 

 

 

 

「……で? どうするつもりだよ、パソコンなんか借りて?」

「翼さん?」

 

 クリスと響が翼に疑問を投げ掛ける。

 リビングから、まなの父親の書斎へと移動した三人。翼は部屋のパソコンを起動、ネットを介して情報収集を行っていくつもりのようだ。

 

「犬山氏の言っていた二年前……そこから遡って、妖怪について検索をかけて見よう」

 

 ネットは真偽に関わらず様々な情報で溢れかえっている。それら全てを鵜呑みにするのは危険だが、この世界の概要、常識的なことを調べる分には問題ないだろう。

 

 ありがたいことに、父親のパソコンであればまなも好きに使ってくれていいと言った。

 パソコンのパスワードが机の横に貼ってあったり、ほとんど初対面の相手に自宅のパソコンを弄らせたりと。

 親子揃って色々とセキュリティが甘いような気もするが、そこは翼たちも悪用するつもりはないので目を瞑ってもらいたい。

 

 

 

× 

 

 

 

「なるほど……」

 

 一時間ほど。妖怪関連を中心に検索した結果、大まかにだが分かったことがいくつかあった。

 

 まず初めに、この世界の西暦が2020年であったことだが、これに関しては大した問題ではない。

 装者たちの世界の西暦2045年とそれなりの差異があるが、世界そのものが違うのだからそういこともあるだろうと軽く流していく。

 

 次いで、重要な事実として——この世界には『ノイズがいない』ということが分かった。ノイズという呼び方がなどという話ではなく、ノイズそのものが存在しないようなのだ。

 

 ノイズらしきものの目撃証言、人的被害。それに対する政府機関の対応など。装者たちの世界に当然のようにあるそれらのものが、検索したところで一件もヒットしなかった。

 どうやら、あのカルマノイズが初めて現れたノイズであり、この世界にとっては異物そのもの。

 ギャラルホルンがアラートを鳴らした原因であることもほぼ間違いない。あれを排除することこそ、装者たちの使命であると確信できる。

 

「肝心の妖怪の被害だが……確かに二年前から頻発するようになってきているな……」

 

 そしてまなの言葉どおり、妖怪関連の事件に関しては二年前——2018年の頃から。

 それ以前は、人々の間で妖怪などという存在を信じる言動などはなかった様子。だが、如何なるきっかけがあったかは不明だが、確かにその頃から不可思議な事件が全国で多発するようになり——徐々にだが、人々の間で妖怪の存在が認知されるようになっていったようだ。

 

「妖怪の事件……具体的にはどんなものが!? どれだけの人が被害に遭ってるんです!?」

 

 これに響が食い気味に質問する。

 人々への被害、彼女としてはそれが真っ先に気になる問題である。

 

「一概にどうとは言えんな……単純に負傷者の数が多いだけが問題ではないようだ……」

 

 妖怪と一口に言っても様々な種類がおり、それによってどんな事件を起こすのかは差異がある。

 あのムカデのように直接的に危害を加えるものもいるようだが、妖怪らしく魂だけを奪っていったり、尻子玉を奪っていったり——。

 

「し、尻子玉ッ!?」

 

 クリスは顔を真っ赤にお尻を守る。

 

「他にも……八百八狸とやらに一時政権を奪われたこともあるらしい……」

 

 さらに有名どころに『八百八狸』。狸妖怪たちに政権を奪取されたことが挙げられる。良くも悪くも、この一件が妖怪の存在を世間へと知らしめる大きな要因となってしまっているようだ。

 

「た、狸にだぁ!? 大丈夫なのかよ、この国の政治家連中は……」

 

 クリスが素っ頓狂な声を上げる。狸などに国の主導権を奪われるなど、装者たちの世界からすれば想像も出来ない失態である。

 この世界の政治がキチンと機能しているのか、やや心配になってくる。

 

「ッ!! これは……二人とも! これを見てみろ!!」

 

 だが、それよりも重要な事件に目を止めた翼が二人に声を掛ける。

 それは、ここ最近の日本情勢を知る上で重要な話題となっていた。

 

 

「バックベアードとぬらりひょんによる……妖怪大同盟? 妖怪たちからの宣戦布告に……人間たちへの先制攻撃だとッ!?」

「……ッ!!」「……ッ!?」

 

 

 西洋妖怪の帝王・バックベアード。

 妖怪の総大将と噂される・ぬらりひょん。

 

 ビッグネームを持つとされる二体の妖怪が手を組み——人間に対して真正面から宣戦布告したというのだ。

 しかも八百八狸のように政権を奪うなどという、生易しいものではない。彼らは人間たちに対し、ただ一つの要求——『滅亡』を突き付けた。

 

 宣戦布告の際、バックベアード・巨大な球体の怪物が、市街地に向けてレーザーのようなものを放っている。

 それにより街は大炎上、直撃を受けた市街地は壊滅し——数万人単位で死者が出たとされている。

 

「……酷い……こんなのッ……」

 

 その際の動画が、未だにネット内に残っていた。

 燃える街、助けを乞う人々の悲鳴。響たちでも思わず目を逸らしたくなるほどの光景——地獄絵図である。

 

「これがきっかけとなり……人々の間で反妖怪運動が活発化。政府は……妖怪による不当な行為の防止等に関する法律……『妖対法』を議会で可決……!」

「よ、妖対法!? なんだよ、そりゃッ!?」

 

 翼やクリスは驚いているが、この世界の人間からすれば当然の判断なのかもしれない。度重なる妖怪による被害、自分たちの生活が人ならざるものたちに侵食されてしまう恐怖。

 国民の反妖怪運動の声も後押しとなり、議会は満場一致で妖対法を——妖怪を正式に取り締まる法律を施行することになった。

 

 これにより、人間と妖怪との間に泥沼の抗争が勃発。

 政府は妖怪をテロリストと呼称し、妖怪側も取り締まりに反発する形で人間への敵意を強めていく。

 

 終わりの見えない憎しみの連鎖、これこそ戦争の始まりだ。

 

「……だけど……違う! こんなのは……違うよッ!!」

 

 立花響は、その対立に心を痛めた。

 妖怪の犠牲になった人たちの気持ちも理解はできる。自分だって大切な人が理不尽に奪われれば、きっと憎しみや悲しみで心が埋め尽くされてしまうだろう。

 だけど、違うと。言葉の通じる相手との話し合いにも応じず、その全てを滅ぼそうとするのは間違っていると。

 

 脳裏に、自分を助けてくれた少年の姿を浮かべながら思った。

 ゲゲゲの鬼太郎——彼のような妖怪がいるのであれば、きっと手を取り合える可能性はあるのだと響は信じたかった。

 

「ああ……違うな。この世界の人々も……それに自力で気付いたようだぞ、立花」

「……え?」

 

 すると翼は口元に笑むを浮かべながら、響の前で別の動画を再生して見せる。

 

 

 

 その動画には、まさに例の少年——ゲゲゲの鬼太郎の姿が映っていた。

 彼が巨大隕石らしき物体を押し返そうと、指から強烈な光を放ちながら踏ん張っている。だが一人きりでは限界があるのか、徐々にだが隕石の勢いに負け、押し潰されそうになっていく。

 このままでは隕石は地表に衝突、彼を含め多くの者たちが犠牲となってしまうことだろう。しかし——。

 

『——鬼太郎』

 

『——鬼太郎ッ!』

 

『——頑張れッ! 鬼太郎!!』

 

 声が聞こえた。それは鬼太郎へ声援を送っている『人間たち』の声だった。

 その動画自体は編集されたものなのだろう。あらゆる場所、あらゆる地域から鬼太郎に向かってエールを送っている人々の姿が移り変わりに映し出されていく。その中には明らかに異形のもの『妖怪』の姿もあった。

 誰もが鬼太郎に『頑張れ!』と叫んでいたのだ。彼らの思いは、やがて白いオーラのようなものとなり、鬼太郎へと集まっていく。

 

 そして、皆から受け取った力で一気に出力を上げた鬼太郎の光線が——巨大隕石を押し返す。

 成層圏まで吹っ飛ばされた黒い塊が、悲鳴のようなものを上げながら木っ端微塵に吹き飛んでいく。

 

『——おおおッ!! ヤッタァッ!!』

 

 人間、妖怪問わずに歓声が上がる。

 鬼太郎がやってくれたと、絶体絶命の危機を乗り越えられた喜びを共に分かち合う。

 

 確かにその瞬間——人と妖の心は一つになったのである。

 

 

 

「……そっか。そうだよね!! やっぱり分かり合うことは出来るんだ……妖怪とだって、きっと!!」

 

 その動画は立花響の心を勇気付けてくれた。

 やはり妖怪とも話し合う余地があると。言葉が通じる相手であれば、彼らと手を繋ぐことも出来るのだと。

 

「けどな……その後も、人間と妖怪の争いは続いてるんだろ?」

 

 しかし現実問題、争いは続いているとクリスは指摘する。

 確かに鬼太郎の活躍により、戦争そのものは収束したらしい。政府も大々的に妖対法を行使することを控え、非公式にだが鬼太郎と面会して和解した、なんて噂まで流れている。

 

 だが未だ小競り合いのようなものが各地で起きており、人々の間でも不安が再熱している。響たちが戦ったあのムカデたちも、そういった不安の種の一つだ。

 

 如何なる理由かは不明だが、数日前からあのムカデたちは街中に出没し、人々を襲うようになったという。

 このままムカデたちを放置すれば、せっかく回避した人間と妖怪の全面戦争が——またも繰り返されてしまうかもしれない。

 

 

「——翼さん!! クリスちゃん!!」

 

 

 響は二人に向かって力強く宣言する。

 

「止めましょう!! 私たちが……戦争なんて起きる前にッ!!」

 

 戦争など未然に防ぎたい。

 それは任務とは関係なく、響自身の心の内側から湧き上がった願いである。

 

「まあ、あのムカデたちにはカルマノイズが関わっている可能性があるからな」

「仕方ねぇが……事のついでだ!」

 

 その願いに、翼やクリスも頷いてくれる。

 表向きは任務のついでという体を装っているが、戦争など起こさせたくないと思う気持ちは彼女たちとて同じ。

 

 

 たとえ、ここが自分たちの世界でなくとも、守りたいと思う心に揺るぎはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、まなちゃん!! おかげで助かったよ!!」

「いえ……わたしの方こそ。今日は助けていただき、本当にありがとうございました!!」

 

 その後、夜遅くまでお邪魔するのは迷惑だろうと、響たちは犬山家からお暇する。まなは最後まで装者たちのことを深く追求せず、礼儀正しく見送ってくれた。

 

「さて……これからどうするよ?」

 

 クリスは今後の方針を仲間たちに尋ねる。

 この世界の事情は大まかにだが理解した。人間が妖怪と一度は戦争にまで発展しながらも、なんとか戦火は収まった日本。

 

 この世界の住人ではない装者たちに、未だに燻っている人と妖の対立を根本的に解決することは、正直難しいだろう。

 彼女たちに出来ることは——『カルマノイズを見つけて倒す』こと。そして、それに関係しているかもしれない、『ムカデたちの調査』だ。

 カルマノイズを庇ったムカデ。ほぼ同時期に両者が姿を現していることも考えれば、そこに何かしらの因果関係があるかもしれない。

 

「一度本部に戻ろう。これまでに調べた情報を司令に報告し……その上で対策を立てるのが賢明だ」

 

 翼はこれらの情報を一度持ち帰ることを提案する。

 カルマノイズへの対処はいつも通りだが、妖怪に対する対策などは彼女たちにとっても未知の領域。弦十郎やエルフナインにも意見を伺うことで、また新しい知恵も浮かび上がってくるかもしれない。

 

「そうですね、一旦戻りましょうか」

 

 これに響も特に反対はしなかった。

 カルマノイズの動向も気にはなるが、姿を見せない以上こちらから打って出ることは出来ない。あのムカデたちも、あれから姿を見せていない。

 

 ここからどうするか、今のうちに考えをまとめる時間が必要かもしれない。

 そのために彼女たちは郊外へ。ギャラルホルンのゲートが開かれている廃れた神社へと向かう。

 

 

 

 

 

 闇夜を歩いていく装者たち。

 既に夜も遅く、向かう場所が場所だけに人とすれ違うこともなく目的地へと到着する。

 

 彼女たちは周囲に人がいないことを確認しつつ、廃社へと入っていく。

 誰にも見られていないと、人影は誰もいないと安堵する。

 

 

「…………」

 

 

 だが、人はいなくとも——カラスたちが見ていた。

 数羽のカラスが、まるで監視するかのように装者たちが建物の中へと入っていく姿を見届け——。

 

 

 すぐにでもその事実を伝えに、何処ぞへと飛び立っていく。

 

 

 

×

 

 

 

「ただいま帰還しました、司令」

「戻ったかッ! 三人とも」

 

 S.O.N.G. の司令室。無事に並行世界から帰還した響、翼、クリスを出迎える風鳴弦十郎。

 三人はさっそく、自分たちがこれまでに得た情報——妖怪とカルマノイズについて報告をしていく。

 

「——なるほど……妖怪か。ノイズがいない代わりに……そのような脅威が……」

 

 妖怪など、こちら側の常識では信じがたい装者たちの話。しかし弦十郎は彼女たちを信頼している。翼たちの報告を全て理解した上で、今後の対応をどうするか方針を固めてくれるだろう。

 

「ところでおっさん、こっちの方はどうなってる? ノイズの被害なんかは……」

 

 あちら側の世界の事情を話し終えるや、今度はクリスが自分たちの世界の無事を尋ねていた。

 

 本来、装者たちの世界に『通常のノイズ』が出現することはない。過去の戦いでノイズが収蔵されていた『バビロニアの宝物庫』。その中身の全てを消滅させることに成功していたからだ。

 彼女たちの世界を脅かしているノイズのほとんどがアルカノイズ。錬金術師の手により、その場で製造されるノイズのみとなっている。

 

 しかし、ここにギャラルホルンが絡んでくると事態がややこしくなってくる。

 

 ギャラルホルンがアラートを鳴らしたままゲートを開いている状態だと、別の世界から通常のノイズが雪崩れ込んでくるようになり、ノイズの出現率自体もかなり高まってしまうのだ。

 そのノイズたちへの対処のためにも、響たち以外のメンバーがこちらに留まり、装者として人々を守らなければならなかった。

 

「ああ……確かにあれから何度かノイズの襲撃があったが……」

「マリアさんや、未来さん。切歌さん、調さんのおかげで問題なく対処出来ています」

 

 弦十郎の言葉を引き継ぐ形で、技術顧問のエルフナインが口を挟む。

 

「また、現時点ではこちら側でのカルマノイズの出現も確認されてはいません」

 

 さらにカルマノイズ。あれは異変のあった世界に現れると別の世界、ギャラルホルンで繋がっている響たちの世界にも流れてくる可能性があった。

 そう、危機に晒されているのはこちらの世界も一緒なのだ。だからこそ、装者たちは一刻も早く異常事態の元凶であるカルマノイズを打ち倒さなければならない。

 

「それと……皆さんのお話を聞いて、ボクなりに気になったことがあるのですが……」

 

 その解決の一歩として、エルフナインは今回の一件の肝——『カルマノイズと妖怪』の関連性について自身の意見を述べていく。

 

 

 

「まず妖怪に関してですが……すみません、ボクにも詳しいことは……」

 

 最初にエルフナインは妖怪に関して何か気の利いたアドバイスはないかと口を開きかけたが、すぐ申し訳なさそうに口を噤んでしまった。

 異端技術に見識が深いエルフナインだが、妖怪に関してはさすがに専門外。

 聖遺物の伝説に妖怪の伝承などが絡んでいればまだ考察しようもあるのだろうが、ムカデの妖怪に関しては思いつく限りの知識を引っ張っては来れなかった。

 

「気にするな、エルフナインくん。我々の世界で妖怪はあくまで想像上の存在。仕方がないさ……」

 

 これにすかさず弦十郎がフォローを入れる。

 少なくとも、こちらの世界に妖怪など実在しない。存在しないものに対する対策など、そう簡単に思いつくものではない。

 

「ただ……カルマノイズとムカデたちの関係性について、気になる事が一つ。あくまで推測になりますが……」

 

 しかし、そこで思考を停止させないのがエルフナイン。

 直接戦闘で役に立てないことを気にし、彼女なりに皆の力になろうと必死に知恵を絞る。ムカデたちが何故——『カルマノイズと共に出現し、庇うような真似までしたのか』その考察を立てる。

 

 

「おそらくですが……ムカデたちはカルマノイズの瘴気……呪いの影響を受けて凶暴化している可能性が考えられます」

「——ッ!!」

 

 

 カルマノイズが纏っている黒い瘴気、あれには生物の負の感情や悪意を増幅させる力がある。

 

 人間がその瘴気に当てられると、他人を襲うような破壊衝動に芽生えてしまう。また人間以外の生物がカルマノイズを取り込んでしまうことで、その個体の凶暴性が増したという例も報告に上がっている。

 カルマノイズの『呪い』は、人間以外の生き物にとっても脅威なのである。

 

「そ、それじゃあ!! あのムカデたちが……本当なら人を襲わないような妖怪ッてことも……!?」

 

 響は愕然となる。

 言葉も通じず、倒すしかないと思っていたムカデの化け物たち。しかし、本当であれば倒す必要もなかった。理解し合える存在なのではないかと、彼女の中の正義が揺らいでいく。

 

「ムカデたちの性質が分からない以上、断定は出来ませんが……可能性としては考えられます」

 

 エルフナインはムカデ妖怪そのものが悪性である可能性を否定しなかったが、内心ではその可能性も低いと思っていた。

 実際、装者たちが調べた情報を信じるのであれば、ムカデたちが人間を襲い始めたのはここ数日内でのこと。元から人を襲うような怪異であれば、もっと早い段階で人々に被害を出していた筈だ。

 ギャラルホルンが異変を察知した時期に暴れ出し、さらにカルマノイズを庇うような行動まで取っている。

 

 最悪、カルマノイズに使役——操られている可能性すら考えられる。

 

「…………」

 

 エルフナインの推測に、響はすっかり意気消沈して黙り込んでしまう。

 出来れば戦いたくないと、常日頃から他者の手を取ろうと奮闘する響だからこそ。ムカデたちがカルマノイズに操られているだけかもしれない可能性にショックを受けていた。

 

 だが——。

 

「立花……顔を上げるんだ!」

「ッ……!!」

 

 しょぼくれる立花響に、風鳴翼が叱りつけるように声を掛ける。

 

「あのムカデたちが、本来であれば人に無害な妖であったとしても……今は人々に危害を為す脅威となっている。私たちは防人として、彼らから人々を護る剣でなくてはならない……分かるな?」

「…………はい」

 

 響の性格や心情は翼も承知済み。しかしそれでも剣を取らなくては、拳を握らなければならないときもある。

 戦うことを躊躇ってしまえば、もしものときに仲間や守るべき人々、自分自身すらも危険に陥れかねない。

 今は躊躇している場合ではないと、翼は響自身のためにも助言する。

 

 

 それでも、立花響の表情から完全に迷いが晴れることはなかったが。

 

 

「いずれにせよ、カルマノイズの撃破が優先事項だ。元凶を倒せば……ムカデたちも大人しくなるかもしれないしな……」

 

 話のまとめ。弦十郎は司令として装者たちに倒すべき敵を明確に示した。

 第一目標はやはりカルマノイズ。あれを倒さないことには、こちら側の世界にも危険が残り続けるばかりだ。

 

 だがカルマノイズさえ倒せば、ムカデたちも大人しくなり、妖怪との無用な争いも回避できるかもしれない。

 希望的な観測ではあるが、その可能性を視野に入れて作戦を立案していく。

 

 

 

×

 

 

 

「ただいま……未来!!」

「お帰りなさい、響」

 

 司令への報告を終えた響たちは、一旦本部で休養を取ることになった。

 当然、響は真っ先に自室へ。きっとそこで自分の帰りを待っているであろう親友——小日向未来の元へと駆け込んでいく。

 

「疲れたよ~、ミクゥ~……ミク成分補給させて~……」

「あッ! もう響ッてば……くすっ」

 

 二人っきりであることをいいことに、響は未来に全力で甘えていく。自分に抱きついてくる響に未来もやれやれと息を吐きつつ、その頭を撫でて上げたりと、優しく受け入れていく。

 

「未来、大丈夫だった? 怪我とか……してないよね?」

 

 そのまま、響は未来に膝枕をしてもらいながら、自分が留守にしていた間の近況を尋ねる。

 ちょっと前までならそこまで心配することもなかったのだが、今は未来も装者としてノイズと戦っているのだ。自分がいない間に怪我でもしていないかと、どんなときでも響はその心配を常に抱いている。

 

「私は大丈夫だよ……響の方こそ、無茶してない? なんだかちょっと……元気がないような気がする」

 

 未来は自分は大丈夫だと笑顔を浮かべる。寧ろ響の方こそ無茶をしていないか、無理をしていないか。親友の心が僅かに沈み気味であることを見抜く。

 

「へへ……やっぱ、未来にはお見通しだね…………実は——」

 

 未来に自分の感情がお見通しであることに照れ笑いを浮かべながら、響はあちらの世界で見聞きしたことをポツリポツリと語っていく。

 

「そっか……人間と妖怪が対立……争い合っている世界……」

「そりゃあ……私たちの世界だって人のこと言えないよ? あれだけの戦いがあった後でも……戦争とか、差別とか。今でも続いてるわけだし……」

 

 複雑な顔色になる未来と響。

 相容れぬもの同士の争い、戦争、迫害、差別。それらは決して彼女たちにとっても他人事ではない。

 

 

 

 立花響は中学時代——『いじめ』にあっていた。

 もっとも、それはいじめなどという言葉で片付けていいほど生温いものではない。

 

『死ね』『人殺し』『なんでお前だけ助かった』。

 

 それが、立花響という少女に投げ掛けられた罵倒の言葉だ。

 ノイズの大量発生、それにより人生を奪われた人々が、同じ事件に立ち会いながらも生き残った彼女に非難の矛先を向けた。

 彼女には何の罪もないのに、まるで自分たちこそが正義だとばかりに、大衆は少女の人生を理不尽に踏みにじっていく。

 

 この世界にも戦争はある。ノイズという脅威に晒されながらも、人類同士が争いを止めることはない。

 軍事国家は己の利益のために自国民を苦しめ、大国は自分たちの権威や正当性を主張する一方、弱者からの搾取を止めようとはしない。諸外国は上手い具合に立ち回り、他国から利益だけを搾り取ろうとする。

 

 これらを全て『バラルの呪詛』によるものだと言うものもいる。

 

 アヌンナキ——神と呼ばれていた者たちにより、バラ撒かれた呪い。人類の相互理解を拒む原罪。

 統一言語は失われ、それにより迫害や差別、戦争といった不和が生まれたとされる。

 

 理解し合えぬと絶望した先史文明期の人類は、惑星環境を損なわず同じ人類を殺戮する自律兵器——ノイズを作り出す。

 

 そう、人類共通の脅威とされているノイズも、元を正せば同じ人間の生み出したもの。

 人間同士の戦争によって誕生した兵器は、人間だけを殺す異形の怪物として、今尚人類を苦しめている。

 

 

 

「……ほんと……人のこと言えないよね……」

「響……」

 

 沈む表情で自分たちの歴史を思い返す響に、未来は少し不安げに声を掛ける。

 

 装者たちはこれまで幾つもの戦いを潜り抜け、幾つもの苦難を乗り越え、幾つもの奇跡を紡いできた。

 それでも、人々が傷つけ合うことがなくなったりはしない。こうしている今も、きっと世界のどこかで誰かが泣いている。

 

 同じ人間同士でこれなのだ。

 人間と人間でないものが互いに理解し合おうなど、さらに途方もない夢物語なのかもしれない。

 

 

 だがそれでも——

 

 

「それでも……響は手を伸ばし続けるんでしょ?」

「うん……勿論!!」

 

 

 立花響という人間が挫けない、諦めないことを小日向未来は知っている。

 弱気になることもあるだろうが、それでも最後には必ず立ち上がり、いつものように『誰か』と掌を繋ごうとその手を伸ばし続ける。

 

 その相手は、たとえ人間でなくとも変わらない。

 分かり合えると感じたのなら、きっと妖怪とだって掌を繋ぐことが出来るだろうと。

 

 小日向未来は立花響を信じて——並行世界への旅立ちを見送っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! では、二人とも準備はいいか?」

 

 本部にて一晩身体を休めた後。再び装者たち三人がギャラルホルンのゲートを潜り、並行世界へと足を踏み入れた。

 

「まずはムカデたちの目撃証言を追おう。彼らが瘴気の影響を受けているのであれば……その近くにカルマノイズが出現する可能性が高いというのが、エルフナインの見解だ」

 

 翼が確認するよう、それが出発前、本部にて弦十郎とエルフナインが打ち出した今後の方針である。

 

 カルマノイズ自体には『人の多い場所』や『フォニックゲインのエネルギーが高いところ』に高い確率で出現するという法則があるが、それだけではより正確な位置を割り出すことは出来ない。

 しかし、今回はその法則以外にも手掛かりがある。例のムカデたちとカルマノイズ。それが互いに何かしらの関係を持っているのであれば、ムカデたちの出現する場所にカルマノイズも姿を現すかもしれない。

 前例のないことなため、確実な手法とは言えない。だがそれでも、何も行動を起こさないよりはマシである。

 

「はいッ!!」

「よし……行くか!!」

 

 響もクリスもその方針に異論はなく、力強い一歩を踏み出そうと——建物の外、寂れた神社から外へと飛び出していく。

 

 

 

 

 

 そのときだった。

 

 

 

 

 

 カランコロン——と。

 どこからともなく、下駄の音が聞こえてきたのは。

 

「……ッ!! 二人とも止まれッ!!」

「へっ?」

「……ッ!?」

 

 その異音と共に感じた『気配』に翼が二人へと警戒を促す。響とクリスは困惑しつつも、その指示に従い立ち止まる。

 

 

 時刻は夜明け頃。人気のない郊外の廃れた神社。

 訪れる人などいないだろうに、確かにその周囲には複数の気配があった。

 

 まるで装者たちがいた廃社を取り囲むような形で——何者かが潜んでいる。

 

「何者だッ!! 姿を見せよ!!」

 

 その姿なき影に向かって翼は声を張り上げる。

 

 

 その声に——

 

 

「…………」

 

 

 下駄を履いた、黄色と黒のちゃんちゃんこ。

 装者たちにとっても見覚えのある——妖怪の少年が姿を見せる。

 

 

「き、キミは……」

「ゲゲゲの鬼太郎!?」

 

 

 予想外の人物の登場に戸惑いを見せる装者たち。

 既に彼のことを調べていた彼女たちにとっても、この来訪は予期せぬ出来事。

 

 

 一方で、ゲゲゲの鬼太郎もどこかピリピリとした空気を纏っていた。

 彼は目に見えるほどの警戒心を滲ませながら、装者たちに向かって油断なく問いを投げ掛ける。

 

 

 

「——キミたちは……いったい、何者だ?」

 

 

 

 まるで装者たちのことを、疑うかのように——。

 

 

 

 




人物紹介

 櫻井了子
  シンフォギアというぶっ飛んだ装備を開発した才女。
  既に故人であり……第一期のラスボス。正体はフィーネという先史文明期の巫女。
  世界を巻き込んでの大騒動を引き起こした人物だが、その実……恋に生きた乙女。
  
 小日向未来
  響の嫁(公式)。旦那への愛が重く、浮気にはすぐに気づく。
  毎日一緒にお風呂に入り、毎晩同じベッドで眠る。
  神獣鏡の装者。アニメだと二期でギアが消失したが、ゲーム版では装者として復活。
  アニメの最終話では、響と結婚式を挙げてハッピーエンド。

 カルマノイズ
  とっても強い真っ黒ノイズ。
  並行世界が危険に晒される大体の原因はコイツ。
  今回は通常のヒューマノイドタイプのノイズが一体、敵として登場します。
  周囲に呪いを振り撒き、人も、今作では妖怪をも狂わせる。

 大百足
  今回の敵妖怪。
  そういえばまだ6期で登場してないな……と今回の話で登場させてみました。
  現時点では『五メートルくらいのムカデたちが無数に出てくる』といった感じ。
  しかして、その真の正体はーー

 犬山まな
  ご存じ、ゲゲゲの鬼太郎6期の人間ヒロイン。
  アニメ最終回で記憶を失い、十年後にその記憶を取り戻す。
  今シリーズにおいては、記憶を失ったままの状態でいくつかの話に登場する予定。
  前回のクロスの際、『高名な陰陽師』から御守りを貰っているので、妖怪が彼女を襲おうとすれば結界によって弾かれるという設定です。
  でもノイズは妖怪ではないので、普通に襲われてました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。