……カノウさん、新鯖は『曲亭馬琴』だけじゃ、なかったんですか……。
トラオムの時から狙っていたサーヴァントなだけに、久しぶりに全力出しました!
性能なんか二の次! とりあえず宝具2にして、聖杯で100レベにしたぜよ!
使った人はみんな共通で思っただろうけど……これ、完全にロボットや!!
駆動音が完全にモビルスーツ!! 宝具がもはやサテライトキャノン!!
毎回、宝具使うたびに爆笑してしまう……!
武者がロボとか、オーバーな表現のように思えても、為朝の逸話を調べれば調べるほど納得してしまう謎の説得力。
平家にあらずんば人にあらず=源氏はバケモン。
余談ですが、作者が為朝の名を始めて創作物で目にしたの『屍姫』。
そこでは為朝が大怨霊に、主である『崇徳天皇』と一緒になって日本をめちゃくちゃにしてたわ。
さて、だいぶ間が空いてしまいましたが。ようやく『シンフォギア』の続きが書けました。
今回は繋ぎとしての意味合いが強い回ですので、説明などが多くなっているかもしれません。
とりあえず、次回の其の④の完結に向かって必要な情報を整理する感じで読み進めていただければと。
「——二人とも、下手に動くな。彼を……ゲゲゲの鬼太郎を刺激しないようにな……」
「……ッ!!」「…………」
人間と妖怪の戦争の残り火が未だ燻っている世界。そんな並行世界に足を踏み入れた二度目の訪問にて——さっそく装者たちに緊張の瞬間が訪れる。
「——答えてくれ。キミたちは……いったい何者だ?」
そこは郊外にある寂れた神社。偶然で誰かと出くわすような場所では決してない。
にもかかわらず、まるで装者たちの来訪を待ち構えていたかのように、その少年——ゲゲゲの鬼太郎は姿を現したのである。
「……ッ! 周囲を見ろ……他にも、何人か……ところどころに潜んでいるぞ」
さらに風鳴翼が立花響と雪音クリスに警戒を促すよう、そこにいたのは鬼太郎だけではない。
「…………」
鬼太郎のすぐ後方、腕を組みながらも装者たちに油断ならない視線を向けている女性が一人。
響たちにも見覚えがある。ムカデをその爪で切り裂いていた、猫娘という鬼太郎の相棒とも名高い妖怪だ。
「やれやれ、ようやく出てきたか……」
「いったいこんな廃れた神社で、何をやっておったんじゃろうな……?」
茂みの中から出てきたのは、二人の老人。
砂かけババアと小泣き爺。見た目は人間の年寄りだが、彼らもれっきとした妖怪。落ち着いた佇まいだが、やはり装者たちに向ける眼差しには用心深いものがあった。
「はぁ~!! 三人とも可愛い女子ばいね~! お近づきになりたいとよ~!」
「ぬりかべ……」
そして、明らかに人間離れした外見のものも。
ヒラヒラとした白い布切れ・一反木綿が装者たちにいやらしい目を向けており、巨大な壁の怪異・ぬりかべが読めない表情で佇んでいる。
概ね、鬼太郎の仲間と一般的にも認知されている仲間たちがほぼ全員。装者たちのいる廃社を取り囲む形で集合していた。
程度の差こそあれ、その誰もが懐疑的な視線を少女たちへと向けている。
——……いったい、何故彼らが!?
眼前の妖怪たちを前に、翼は思考を巡らす。
どうして妖怪たちがこんなところへ、それも自分たちがこの建物から出てくるのを知っていたかのように待ち構えていたのか。
まさか、自分たちが並行世界からやって来た装者だと知られているわけではないだろう。
とりあえず、相手の出方を窺う意味でも翼は慎重に言葉を選んでいく。
「何者とは……いったいどういうことでしょうか? 見ての通り……私たちはただの一般人で——」
今の自分たちは見た目、ただの女子供でしかない筈。まずは自分たちがただの人間であることをアピールし、どうにかこの場を乗り切れないかと試みる。
だが、そんな翼の考えを鬼太郎は一言で一蹴する。
「キミたちが大百足と戦っていたところを……カラスたちが見ていた」
「ッ!?」
鬼太郎の言葉を肯定するよう、彼の肩にピタリと一羽のカラスが止まり、「カァッ!」と鳴いて返事をする。他にも何十羽というカラスたちが木の枝に止まり、装者たちに感情がこもったような視線を向けてくる。
どうやら、鬼太郎はカラスたちと意思疎通が出来るらしい。あの住宅地での戦いを目撃していた彼らが、鬼太郎に報告したということだろう。
戦っていたところを犬山まな以外の人間に見られていないと、油断していた装者たちのミスである。
「キミたちは……妙な格好に変身して、あの大百足たちを倒していた。ただの一般人にそんなことは出来ない」
「…………」
鬼太郎たちが露骨に警戒していた理由もそれで頷ける。
人間の少女が大仰な装甲を身に纏い、妖怪であるムカデたちを打ち倒していく。シンフォギアという装備を知らない鬼太郎たちからすれば驚くべき事実だろう。
彼女たちがいったい何者なのか、その正体を知るためにこうして接触してきたのも当然のこと。
「キミたちがどこから来た何者なのか……何故『あの子』に近づいたのか。この場で洗いざらい……喋ってもらう!!」
最初に誤魔化そうとしたことが裏目に出たのか。鬼太郎は羽織っていたちゃんちゃんこを腕に巻きつけ戦闘態勢に移行しようとし、彼の仲間たちも同様に身構えている。
——あの子? いったい誰のことを……。
——いや、それよりも……これは話し合いという空気ではッ!?
鬼太郎の言動に少々の疑問を抱く翼だったが、今はそれどころではなかった。彼らの高まっていく戦意に触発される形で、彼女も反射的に胸のペンダントを握りしめる。
このまま彼らの戦意に応じる形で、ギアを展開するしかないのかと。
「チィッ!!」
後ろで待機していたクリスも、舌打ちしながらペンダントを手にしていく。
もはや開戦まで待ったなしといった、緊迫した空気。
だが、翼とクリスの二人が聖詠を唱えて戦装束を身に纏うよりも先に——。
「——ハイッ!!」
片手を上げながら姿勢を正した、立花響が声を張り上げていた。
「——私は立花響、十七歳!! 誕生日は九月の十三日で、血液型はO型!! 身長は158cmで、体重は男の子には秘密ですッ!! 趣味は人助けで、好きなものはごはん&ごはんッ!! それと……彼氏いない歴は……年齢とおんなじですッ!!」
彼女はつらつらと、自身のプロフィールを述べる。
いったい何者だと聞かれたことに対する、立花響なりの返答なのだろう。
「…………」
「…………」
「…………」
無論、そういうことを聞きたいのではない妖怪たち。そんな答えが返ってくるとは思ってもおらず、呆気に取られている。
ピリピリとした緊張感が一転、場の空気がシーンと静まり返る。
「…………ん? お前……身長ちょっと伸びたんじゃねぇか?」
「へへッ……分かっちゃった? この間の身体測定で1センチだけ伸びてたんだよ~!」
クリスなどは、響の自己紹介に細かくツッコミを入れる余裕があった。長い付き合いである彼女には、響のこういうちょっとズレた部分も慣れたものである。
「……っ!」
しかし、そんなことではぐらかされないと。気を取り直し、改めて身構える鬼太郎たち。
「——こらこらっ! 落ち着かんか……鬼太郎! お前たちも!!」
だが、殺気立つ面々を叱りつけるように。鬼太郎の頭からひょっこり顔を出した目玉の小人が皆を静止する。
「そんな喧嘩腰で迫ってどうするんじゃ!! まずは落ち着いて、話し合いをじゃな……」
「……め、目玉が喋ってる!?」
その目玉の登場には響もびっくり。もっとも、既にある程度この世界のことについて調べていた装者たちなら、それがどのような存在なのか予想が付く筈である。
「あれが目玉おやじ。ゲゲゲの鬼太郎の……父親だったか?」
「本当にあんなのがいるんだな……」
翼やクリスはそれが鬼太郎の父親・目玉おやじだと察する。それでも驚きを隠し切れてはいないが。
「ふむ、わしらのことは知っているようじゃが……こちらも自己紹介といこうか」
自分たちのことを知られていると理解しながらも、目玉おやじは響に合わせる形で自己紹介をしていく。
「わしは目玉おやじ、鬼太郎の父親じゃ。そしてこっちが、わしの息子の鬼太郎じゃよ。ほれ、鬼太郎……ご挨拶なさい!」
「どうも……ゲゲゲの鬼太郎です」
父親に促されることで鬼太郎は渋々と頭を下げる。すると、それに便乗するように名乗りを上げるものがいた。
「あ~ん、ご丁寧にどうもね! わしは一反木綿言います!」
ヒラヒラと薄っぺらい一反木綿である。相手が可愛い女の子であればと、神速の速さで響へと近づきその手を取る。
「ハイッ!! よろしくお願いします!!」
「握手! 握手! あ~……響ちゃん言うたか? あんた手がすべすべしとるね~!」
響は妖怪と握手、手を取り合えることを純粋に喜びながらその掌を握るが、一反木綿の手つきは明らかにいやらしい。これが人間の男性とかであれば、流石の響も尻込みしていたことだろう。
「こらっ!! この色ボケふんどし!!」
「いやらしい手つきで撫で回してんじゃないわよ!!」
「あ~、ちょいちょい!! 引っぱんといてな~!!」
幸い、一反木綿がさらなるセクハラ行為に及ぶ前に、砂かけババアや猫娘がそれを阻止せんと彼を問答無用で引っ張っていく。
色ボケふんどしが何やら抗議の声を上げているが、同じ女性としてそれ以上はNGである。
「は、ははは!」
「なんつか……ナンパな奴だな、あの布キレ……」
そのやり取りに響が笑みを浮かべ、クリスが呆れた視線を向けていく。だが襲い掛かってくるだけのムカデたちと違い、しっかりと言葉が通じる妖怪たちの受け答え。
当初のピリピリとした空気感は拭われ、その場の雰囲気もほどよく和やかになっていく。
「さて、先ほども話した通りじゃが……わしらはキミたちが大百足たちと戦ったという事実を、カラスたちを通して知ってしまった」
その空気を維持しつつ、目玉おやじが先ほども鬼太郎がした質問を繰り返す。
「じゃが……キミたちが何者なのかまでは知らん。そのせいで、キミたちと向き合うのに少々物々しくなっていたかもしれん。まずはそれを謝らせてくれ……」
それは一方的な問い掛けではなく、自分たちの態度を詫びた上での大人の対応だった。言葉遣いからも話し合おうという誠意がしっかりと伝わってくる。
「いえ……私たちこそ。あなた方のことを……見くびっていたやもしれません」
これに翼も真摯に応じる。目の前でシンフォギアさえ纏わなければ誤魔化せると、安易に考えていた己の浅薄さを恥じた。
彼らに自分たちの『力』について断片でも知られているのであれば、下手にはぐらかしても不信感を募らせるだけだ。
ここは自分たちの『事情』をあるがまま話し、彼らに協力を仰ぐのが最良と判断する。
「いいのかよ、先輩?」
その判断にクリスが渋い顔をするが、なにも翼の独断というわけではない。
「ああ、司令からも……状況によっては彼らに協力を仰ぐように言われているからな」
そうなのだ。
既に司令である風鳴弦十郎の判断の下。現地の住人——特にゲゲゲの鬼太郎たちと、問題がなければ協力を要請しても構わないと言質を貰っている。
それは立花響が——『ゲゲゲの鬼太郎が自分を助けてくれた』ことを事実として報告し、その上で『彼らと共闘できないか』と直談判したことに起因している。
たとえ妖怪だろうとも、彼らと分り合いたいという響の真っ直ぐな思いだ。
弦十郎はそんな響の気持ちを尊重し、そうなった場合の裁量を彼女たちに一任した。
装者たちが鬼太郎たちを信用できると判断したのなら、その決断を信頼する。彼自身現地に赴くことが出来ないからこそ、現場の柔軟な対応を優先したのであった。
「では、お話しましょう。少し、長くなると思いますが……」
そうして、叔父である司令の後押しもあり、風鳴翼は自分たちの素性を嘘偽りなく鬼太郎たちへと話していった。
×
「——ふむ……並行世界にシンフォギア。S.O.N.G.に……人類の敵、ノイズか。ふむ……」
「——信じ難いことだというのは承知の上です。ですが……」
長い時間を掛けることで、翼は自分たちの抱えている事情を話した。
まなのときのように、並行世界の存在だけでも上手く隠せないかと迷いはしたものの、それは不誠実であると思い直す。
彼らに協力を求める以上、隠し事は禁物。人間と妖怪という種族の違いがあるからこそ、下手な誤魔化しは不協和音の原因になりかねない。
勿論、翼たちの話を彼らが信じてくれるかどうかという心配はあったが——。
「いや、信じよう」
目玉おやじはキッパリと、装者たちの不安を払拭してくれた。
「嘘だとしてもあまりに途方もない話じゃ。キミたちがそんな作り話を語るような子たちとも思えん」
装者たちが鬼太郎たちを信じたいと思ったように、目玉おやじも彼女たちを信じようと感じてくれていた。
彼女たちがそんな壮大なほら話を、意味もなく吹聴するような輩だとは最初から考えてもいない。
なにより——。
「それに……こんなものを見せられれば、信じざるを得まい……のう、鬼太郎や?」
「ええ……そうですね、父さん」
父親の同意を求める問いに、鬼太郎ですらも素直に頷く。
彼らの眼前には、並行世界への出入り口とも呼ぶべきもの——『ゲート』が存在していた。
そう、今現在。装者たちと鬼太郎たちは廃棄された神社の中。少女たちがこの地に足を踏み入れた、スタート地点にて言葉を交わしていた。
自分たちの話を信じてもらうためには論より証拠と。実際にゲートを目の前にしながら、装者たちは自分たちの素性や目的を語ったのである。
その甲斐もあり、鬼太郎の仲間たちからも彼女たちの話を疑うような意見は出てこなかった。
「それにしても……カルマノイズと言ったか? そやつの放つ瘴気のせいで、大百足たちが暴れ回っておるということじゃが?」
「ええ、エルフナイン……私たちの技術顧問の推測になりますが……」
そうして、互いに腹を割って話し合うことになった装者たちと妖怪たち。さっそく今回の騒動の元凶——カルマノイズについての情報共有を行なっていく。
装者側の代表として、風鳴翼が『カルマノイズの影響でムカデたちが凶暴化しているかもしれない』というエルフナインの見解を伝え、その話に妖怪側の代表として目玉おやじが暫し考え込む。
「ふむ……確かにわしの知る限り。ここ百年……大百足が暴れ回ったという話は聞いたことがないな……」
妖怪たちの中で、誰よりも物知りで長生きの目玉おやじ。彼は自分の記憶を思い返し、装者たちの考えを裏付けるような証言をする。
少なくとも目玉おやじが見聞きした限りで、ムカデの妖怪たちが人を襲ったという事件は起きてはいなかった。
「大百足といえば、ときには水神たる龍神すらも喰い殺すとされた。強大な妖怪としても語られておるが……」
目玉おやじは知識として一つの例を語る。
大百足という妖怪の伝承は数あれど、その中でも有名なのが『三上山の大百足』だろう。
その昔、巨大な大百足が水神たる龍の一族を付け狙ったとされた。伝承によるとその百足は『三上山を七巻半』するとされ、全長は数kmをゆうに越えていたと伝えられている。
たとえ龍といえども、まともに相手をすることが出来ない。まさに——怪物である。
「だが百足は神使としても祀られておる。一概に……悪しき存在とも言い切れん」
しかしムカデには神使、神様の使いという側面もあった。
有名どころで言えば——毘沙門天。かの越後の軍神・上杉謙信が崇拝したとされる戦神の眷属が百足であるとされているのだ。
また、百足の特徴でもあるあのおびただしい足の数。あの無数の足から『客足が伸びる、増える』という意味合いが取られ、商売人たちからも商売繁盛のご利益があると多大な信仰を集めてきた。
龍すら脅かす邪悪な存在として恐れられる一方、縁起の良い神様としても慕われる。
それが『百足』という存在である。
「じゃあ、やっぱり……あのムカデさんたちも……」
その話に立花響が複雑そうな顔になる。
言葉が通じないからこそ、仕方なしに人間を襲うムカデたちを倒した装者たち。だが本来のムカデの性質が邪悪なものではなく、人々に敬われるような善良なものであったのなら。
いくら彼らを倒しても、それは無益な犠牲だ。早急に彼らを凶行に走らせている元凶——カルマノイズを倒さねばと、改めて決意を固めていく。
「カルマノイズの出現パターンに関しましては、私たちの方でデータが揃っています」
そのための前提条件として、まずはカルマノイズを見つけ出さなければならない。装者たちはこれまでも何度かカルマノイズを見つけ出し、倒してきた。
その経験からカルマノイズの行動分析であれば、ある程度の範囲まで絞り込むことが出来ると翼は言ってのける。
「ですが、ムカデたち……妖怪に関しましては、まだ未知の部分が多く……」
しかし、カルマノイズと共に現れるであろう大百足たちに関しては知識が足りないままだ。
「彼らの足取りを掴むためにも、人々を守り抜くためにも、どうか貴方たちの力を貸していただけないでしょうか?」
ムカデたちの動きを捉えるためにも、これ以上の被害拡大を抑えるためにも。翼は鬼太郎たち妖怪に事件解決の協力を要請していく。
「うむ! 大百足たちの動きであれば任せてくれ!」
翼の頼みに目玉おやじは快く応じる。元より大百足の動向なら彼らも追っていたところ、今更頼まれるまでもない。
装者と妖怪の共同戦線。お互い協力することに何の異存もないと力強く頷いていく。
×
「——よ~し! それじゃあ、張り切って行きましょう!!」
話し合いを終えた一行はそのまま廃社を出る。暗い建物から陽の光が当たる場所へ出るや、立花響は意気込むように大きな声を上げていく。
鬼太郎たちと共に戦えることがよっぽど嬉しかったのか、彼女の表情はどこか晴れ晴れとしていた。しかし、そのテンションに周囲はちょっと驚いている。
「立花、少しは落ち着け……」
「ああ……妖怪連中、びっくりしてるぞ……」
翼とクリスの二人は慣れたものではあるが——。
「いや……まあ、はい……」
「元気な子ね……」
鬼太郎や猫娘など、他の妖怪たちも目を丸くしている。
協力することにこそ納得はしているが、やはりまだコミュニケーション不足なのは否めない。もっともそんなことは関係なく、響はぐいぐいと率先して妖怪たちに話しかけていく。
「あッ、そうだ! 私、鬼太郎くんにお礼を言わなきゃと思ってたんだ!!」
「…………お礼?」
響が真っ先に声を掛けたのは、ゲゲゲの鬼太郎だった。彼女は鬼太郎にお礼を言わなければならないことを、遅ればせながらも思い出した。
「そッ! お礼!! 私、鬼太郎くんに助けてもらったから!!」
「ボクが……キミを助けた?」
鬼太郎は立花響を助けてくれた恩人でもある。
響がこの世界で初めてムカデたちと遭遇したあのとき。ギアを纏う暇もなかった響は、危うくムカデの牙を無防備な姿のまま受けるところであった。
装者といえども、あれは危なかっただろう。鬼太郎が助けてくれていなければ、きっと大怪我を負っていた筈だとその感謝を伝える。
「ああ……あそこにいたのか。いや……別に礼なんて……」
もっとも、鬼太郎自身は響個人のことを覚えていない。
あのときは、大百足に襲われていた人間たちをまとめて助けただけ。わざわざ礼を言われるほどのことでもないと、謙虚な姿勢で響の感謝を軽く受け流す。
「そんなわけにはいかないよッ!! キミのおかげで助かったのは確かなんだから!!」
だが、鬼太郎がどれだけ謙遜しようが、響が彼に助けられた事実に変わりはない。
自分がどれだけ感謝を抱いているか。その気持ちを表現すべく、響は懐からあるものを取り出す。
「私……鬼太郎くんにお手紙書いたんです!! これッ!! よかったら、受け取ってください!!」
「……手紙?」
響が鬼太郎に差し出したのはラブレター……などでは当然ない。響が鬼太郎宛てに書いた、お礼の手紙である。
それは、装者たちがS.O.N.G.本部に戻った際のこと。
響が親友の小日向未来と共に過ごした休憩時間の最中。妖怪たちの話題を話したときに、ふと思いついたことでもある。
鬼太郎に手紙を書いて、彼に感謝を伝えようと。
本当なら直接会ってお礼を言うのが一番なのだが、そのときはそこまで都合よく遭遇できるとは思ってもいなかった。
だが手紙にしたためておけば、任務の最中だろうが——『妖怪ポスト』に手紙を入れることができると考えたのだ。
そう、鬼太郎とコンタクトを取るには、どうやら妖怪ポストとやらに手紙を投函すればいいとのこと。
これはこちらの世界ならネットでも広く知られている内容であり、響がそう思いついたのもある意味自然な流れであっただろう。
「手紙か……久しぶりに受け取った気がするのう、鬼太郎」
「……ええ。そうですね、父さん」
しかし鬼太郎も目玉おやじも、響から受け取ったその手紙を『久しぶり』と。どこか感慨深げに見つめている。
「久しぶり……って? 鬼太郎くんは手紙で人間とやり取りするんじゃないの?」
響は何の気もなく質問する。
ネットの情報を信じるのであれば、鬼太郎にとって手紙を受け取ることはさして珍しいことではない筈。すると目玉おやじは意外な答えを返し、響を軽く驚かせてしまう。
「それがのう、妖怪ポストは壊されたままになって……今は人間からの依頼も受け付けておらんのじゃよ」
「えっ……」
確かに、少し前までなら結構な頻度で送られてきた人間たちからの依頼の手紙。
だがここ最近は、それも全く届かなくなっている。
その理由は——妖怪ポストが人間たちの手によって壊されてしまったせいだ。
鬼太郎の手を借りることを拒絶した人間自らの手で、鬼太郎宛ての手紙が届かない状態となってしまっている。
鬼太郎自身も、妖怪ポストを修理するかどうか未だに決めあぐねていた。
「……そ、そうだったんですか…………」
響の表情が曇る。
せっかく鬼太郎たちと協力体制を敷けたと喜んでいたのだが、その鬼太郎たちが今は人間とそれなりの距離を保っている様子。
人間と妖怪の共存が、やはりそう簡単には上手くいかないことを実感させられる話だ。
「まあ、せっかくだし……」
「それで……? 手紙には何て書いてあるのよ?」
しかし、せっかく貰った手紙だ。本人が目の前にいるが、そこにどんなことが書かれているのか。鬼太郎はその中身を読ませてもらう。
猫娘も、横からチラリと手紙の内容を覗き込んで確認する。
『ゲゲゲの鬼太郎さん 貴方のおかげで助かりました! ありがとうございます!!
何か困ったことがあれば、私も力になりたいです!! よろしくお願いします!! 立花響』
手紙は女の子らしくオシャレな封筒、可愛い便箋に手書きで書かれていた。しかしその中身は……何というか、実に簡潔な内容に収められている。
「…………」
「…………」
これには鬼太郎や猫娘など、どう反応していいか分からず押し黙る。
「立花……もう少し他に書きようがあったのではないか?」
「ほんとだな……小学生でも、ちっとはマシな文章書くと思うぞ?」
ついでとばかりに手紙に目を通した翼とクリスからも、あまりに単純な内容だと呆れた意見が上がってしまう。
「いや~……手紙って、普段はあんまり書かないし……何て書いていいか分からなくて……」
皆の反応に、響は照れくさそうに頭をかく。
いざ手紙を書いてみた響だが、普段はメールなどで済ますため、何をどう書くべきなのかいまいち分からないでいたのだ。
彼女くらいの年頃、世代であればそれも仕方がないことだろうが、さすがに文章力が拙すぎると。
やれやれと、周囲から世代なため息がこぼれ落ちる。
「——いや、気持ちは十分伝わったよ」
しかし、手紙を受け取った当人であるゲゲゲの鬼太郎は少し遅れて口元を綻ばせる。単純な内容ではあるものの、その分気持ちは伝わったと。
ここまで響たち相手にほとんど感情らしきものを見せなかった少年が、初めて見た目相応の少年らしさを垣間見せる。
「おおっ! 鬼太郎しゃん!」
「……鬼太郎……笑顔、久しぶり……」
彼の微笑みに、一反木綿やぬりかべなどもその表情を緩ませていく。
ここ最近は様々な事件が重なって起きたせいか、知らず知らずのうちに笑顔も少なくなっていた妖怪たち。初対面の響たち相手に、妙に殺気立って対応してしまったのもそのせいだ。
「そうだった。これが……手紙というものだった……」
しかし鬼太郎は『手紙』というものの温かさを、自分がどうして人間たちからそのような形で依頼を受けたのか、少し思い出したような気がした。
もしもこの騒動が終わったら、時間があれば妖怪ポストを直してみるかと。
響から受け取ったその手紙が、そう思えるきっかけの一つとなる。
『——ヤッホッー!! ヤッホーッ!!』
「——!!」
ところが、そうして一行が和むのも束の間。
街全体に響き渡るように聞こえてきたその『声』に、鬼太郎たちの表情が一瞬で険しくなる。
「……? 何だ今の……?」
「……山彦のようなものが響いてきたが……?」
装者たちには、それが何なのか分からなかった。彼女たちには、それが
だが、鬼太郎たちには『それ』の意味するところが瞬時に理解でき、彼らはすぐにでも仲間たちと駆け出していく。
「——鬼太郎……今のは、呼子の!?」
「——ああ、出たぞ……大百足だ!!」
×
『——ヤッホー!! ヤッホー!!』
街中に妖怪・
呼子とは笠を被った、一本足で立つ案山子のような妖怪だ。これといって戦う術を持たない大人しい気質だが、彼には『自身の声を遠くにいる人に届ける』という特技があった。
その特徴的なおらび声で、彼はこの街のどこかにいる鬼太郎たちに向かって——大百足の出現を伝える。
そう、鬼太郎たちは街中に大百足が出現した際。すぐに現場に駆けつけられるようにと、ゲゲゲの森の妖怪たちに声を掛けていたのだ。
カラスたちが街中を飛び回り、シンフォギア装者たちの戦いを目撃したように。他の妖怪たちにも街中を巡回し、神出鬼没な大百足たちの動向を探ってもらっていた。
そのうちの一体がこの呼子であり、彼の叫び声の上がったところで——既に大百足が暴れ出していた。
『キィキィ!!』
「きゃああああ!?」
「で、出たぁああああ!?」
街中の、それも人の密集している地点に姿を現した大百足を前に、人々の顔が恐怖に引きつっていく。
もはや日常と化してきたムカデたちの襲来だが、被害に遭う当人たちは『まさか自分が襲われる』などとは夢にも思ってはいない。
なんで自分たちが、こんな理不尽な化け物に襲われなければならないのか。そんなことを考えながら、ただ逃げ惑うしかないでいる。
「——はぁああああッ!!」
だが、そんな助けを求める人々の元へ、超特急に救援が駆けつける。既にシンフォギアを纏った立花響のガングニールの一撃が、ムカデたちをまとめて殴り飛ばしていく。
「髪の毛針!! リモコン下駄!!」
勿論、響だけではない。
装者たちと共同戦線を張ると約束した鬼太郎も、彼女と肩を並べて大百足たちを退けていく。響の力強い拳や、鬼太郎の多彩な攻撃をもってすれば、大百足など物の数ではない。
「こちらです!! 慌てず……落ち着いて!」
「これこれ! 他の人を押し退けるんじゃない……」
「そう慌てんでも、大丈夫じゃぞ!」
そして、互いに協力体制を組んだおかげか。戦うだけでなく、避難誘導にも人手を割くことができている。
翼がムカデたちの注意を引きながら人々に避難を呼び掛け、砂かけババアや子泣き爺も率先してそれを手伝っていく。
「まとめて……吹っ飛びやがれ!!」
人々の避難が完了したところを見計らい、クリスが一気に高火力でかたを付ける。大型ミサイルの一斉発射——『
『キィイイイイイイイイ!?』
「…………」
悲鳴のような鳴き声を上げながら消滅していくムカデたち。その断末魔の叫びに——立花響は複雑な表情で立ち尽くす。
カルマノイズのせいで凶暴化しているかもしれない、大百足たち。
彼らが自分の意思で人々を襲っているのではないと思うと、それを倒してしまうのは忍びない。
ムカデたちは言葉は話せない妖怪のようだが、それでも彼らと分かり合えることも出来たのではないかと。その後悔が、少女の胸を痛めていく。
だが、そうやって彼女が落ち込んでいる暇もなく——。
「——立花、雪音!! 出たぞ!! カルマノイズだ!!」
「——ッ!!」
翼の叫び声に装者たちの間に緊張が走った。
「————」
ムカデたちの群れのすぐ後方。そこに全ての元凶——カルマノイズがいた。奴は何をするでもなく、ムカデたちを従えるかのよう、静かに佇んでいる。
『ギィィイイ!!』
『ギィギィッ!!』
カルマノイズの登場に、生き残っていた大百足たちがより一層激しく暴れ出し、さらに何匹か地中から増援まで現れた。
「あれが……ノイズ……」
「なるほど……確かに見たこともない……妖怪とも違うようじゃな……」
大百足のさらなる出現に警戒しなければならない。だが、鬼太郎たちは初めて目の当たりにする脅威——カルマノイズとやらに視線を釘付けにされていた。
真っ黒い人型の『なにか』。一目見ただけでもそれが妖怪でないと、これまで遭遇したこともない未知の物体であることを強制的に理解させられる。
確かに、あれは放置していいものではないと。妖怪である彼らの背筋にもゾクリとくるものがあった。
「けど、この距離なら……指鉄砲!!」
だが、それでも倒してしまえば関係ない。
カルマノイズのいる場所は、ちょうど鬼太郎の指鉄砲の間合いだ。今ここで元凶を打ち倒せばこの騒動も丸く収まるかもしれないと、鬼太郎は渾身の一射を放つ。
ところが——。
「————」
「なっ!? すり抜けた!?」
鬼太郎の指鉄砲は何者にも阻止されることなく、カルマノイズ本体に直撃した——かに思われた。だが彼の攻撃はカルマノイズの体を通り過ぎ、何らダメージを与えることができなかった。
「鬼太郎くん!! カルマノイズに通常攻撃は通じないよ!!」
「ここはあたしたちに任せろ!!」
やはり、妖怪の攻撃もノイズには通じないようだ。ここは自分たちが対処すべきと、素早く装者たちが駆け出していく。
響が拳を握りしめて突撃。
クリスがミサイルを雨のように降らせる——『
だが——。
『——キィ!』
装者たちの攻撃を阻止すべく、またもや大百足たちがその身を盾としてきた。
「ッ!! そこを……退いてッ!!」
響がムカデたちに向かって叫ぶも、彼らは彼女の進路を妨害し、クリスのミサイル攻撃からもカルマノイズを守っていく。
そうして、響たちがもたついている間にも——。
「————」
カルマノイズの姿は蜃気楼のように薄れ——そのまま、その場から姿を消していく。
「くそッ!! また逃げられちまった……」
「だが、これではっきりした。やはりあのムカデたちは、カルマノイズに傀儡とされているようだと……」
クリスはカルマノイズを取り逃したことに舌打ちするが、翼は今ので確信する。
こちらの予想通り、大百足たちはカルマノイズの影響を受け——おそらくは、その支配下に陥っている可能性が高い。
最初の交戦時も、ムカデはカルマノイズを庇った。一度だけなら偶々とも取れたが、二度目ともなればもはやただの偶然では片付けられない。
カルマノイズと大百足。この二つの問題を紐解くことこそ、この異変の原因を究明する一筋の光明かもしれないと。
解決の糸口が僅かにだが、垣間見えた瞬間でもあった。
「ニャアアア!!」
「これで……最後ばい!!」
猫娘の爪が一閃、一反木綿が大百足の巨体をキツく締め上げる。カルマノイズが立ち去った後も、数匹の大百足が最後まで暴れ続けていたが、何とかそれも撃退。
これで当面の脅威は去ったと、人々の避難も完了していたその場で——ふと、目玉おやじが何かを考え込む。
「ふーむ……やはり、妙じゃな……」
「どうかしましたか、父さん?」
父親が何に頭を悩ませているのか鬼太郎には分からない。
目玉おやじは大百足たちの遺体——それが『霞のように消え去っていく光景』を眺めながら呟く。
「前々からおかしいと思っていたが……やはり『魂』が出てくる様子がないのう」
「た、魂……ですか?」
妙なことを口にするなと翼が困惑する。しかし、それはこの世界の妖怪からすれば確かに違和感を感じる話であった。
「そうじゃ。わしら妖怪は、基本的に死ぬことがない。肉体が消滅しても、魂さえ無事なら長い年月を掛け、復活することが出来るんじゃよ」
「!! そ、それ、ほんとですか!?」
目玉おやじの説明に、響が食い入るように身を乗り出してくる。
操られているムカデを倒すしかないと思っていた響にとって、妖怪は倒されてもいずれは復活するというその話は、ある意味救いのようにも思えたからだ。
しかし——。
「う、うむ……普通はそうなんじゃが……こやつらはその『魂』が出てくる気配がない。ただ肉体だけが消滅しているようなんじゃよ」
響の疑問を肯定しながらも、やはりおかしいと目玉おやじは首を傾げる。
魂さえ無事なら確かに復活は出来る。だがそもそも、この大百足たちにはその『魂』そのものが存在していないようなのだ。倒されても、ただ霞のように肉体だけが消失しているのがその証拠。
通常であれば、消え去った肉体の中から魂が飛び出し、何処へと飛んでいく筈なのだが。
「それって……魂ごと消滅させてるってわけじゃないのか?」
「いや、それならそれで……魂は地獄へと送られる筈じゃ」
その謎の解答としてクリスが思い付いた答えを提示するが、それは砂かけババアが否定する。
現世で魂が消滅するのであれば、その魂は地獄へと送られる。だが大百足たちには、地獄に送られる魂すらない。
本当に——空っぽの中身しかないのだ。
「ふーむ、こやつらは……本当に大百足という妖怪なのかのう……」
ここに来て、新たな疑惑が浮上する。
自分たちが相手をしている『大百足』とはいったい何なのだろうという、素朴な疑問が——。
「……む、どうやらこれ以上は、ここに留まっとる訳にも行かなくなったぞい!」
だが、それをここで考えている余裕はないと、小泣き爺が警告を促す。
既にムカデたちの撃退は済んでいたが、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。誰かが警察にでも通報したのだろう、数台のパトカーがこちらまで向かってきていたのだ。
「一旦、ここから離れましょう。また後で合流を……!」
「ああ……分かった」
この場に残っていては、警察に事情聴取を求められる。それは装者たちにとっても、鬼太郎たちにとってもあまりよろしくない事態だ。
無用な混乱を避けるためにも、翼はこの場からの離脱を提案し、それに鬼太郎も理解を示した。
これだけの人数がまとまって行動すると目立つこともあり、散り散りになって街中へと撤退していく。
×
「……なあ、先輩? 連中……どこまで信用できると思う?」
人気のない裏路地。
鬼太郎たちと別行動を取っているということもあり、雪音クリスがズバリ風鳴翼に疑問を投げ掛けていた。協力体制を取ることになった鬼太郎たち妖怪を、どこまで信用すべきかという疑問だ。
「クリスちゃん……鬼太郎くんたちのこと疑ってるの?」
これに表情を曇らせるのが立花響。
もはや完全に鬼太郎たちのことを信じて疑わない彼女からすれば、大切な友達であるクリスが未だに妖怪たちに対し猜疑心を抱いていることがただただ悲しかった。
「べ、別に……信用してない訳じゃない。連中の手を借りられるなら、それに越したことはねぇと思ってる!」
そんな響に気を遣ってか、自身の言葉を一部否定するクリス。
彼女とて、妖怪との共闘に今更になって反対するわけではない。実力も申し分なかったし、人手が多ければ多い分、大百足の捜索も掃討も楽になるのは事実だ。
「けど相手は妖怪だ。あたしたち人間の価値観がどこまで通じるか……分かったもんじゃねぇぞ?」
だが、どれだけ信用に足ると感じても相手は——妖怪。装者たちにとって全く未知の存在であることに変わりはない。
表面上の彼らがどれだけ信用できるように見えていても、どこかでズレた考え方を持つかもしれない。
人と妖の価値観の違い。それが決定的な場面で、致命的なすれ違いを起こさないかどうかをクリスは危惧していた。
立花響という少女が全く他人を疑わない分、クリスが余計に警戒心を絶やさないようにしている。
「……私は信用しても良いとは思っている。だからこそ……彼らに全てを話した」
翼は、少し考え込みながらそのように答える。それは響のように『助けられたから』という感情だけの判断ではない。
彼らが自分たちを騙してまで、こちらに協力して人間を守る理由はない。きっと彼らも人間たちとの無益な争いを避けるため、この状況を何とかしたいと切実に思っている筈だと。
鬼太郎たちの考えを読み解き、その上で下した合理的な判断である。
「いずれにせよ、彼らの助けは心強い。それでもし何かあれば……その時は私が責任を持つ!」
その上で翼は年長者として、万が一のときは自分が責任を持つと腹を切る覚悟を示す。
それは、もしかしたら何かあるかもしれないと。彼女も鬼太郎たちのことを、無条件には信用しきれていない証明でもあった。
「……ところで、先ほどから妙に騒がしいような気がするのだが?」
「ああ……あたしも気になってた。喧嘩かなんかか?」
ふいに話は変わり、装者たちは先ほどから聞こえてくる喧騒に耳を傾ける。
それは装者たちのいる裏路地に響いてきた、何者かが言い争うような声だった。
このような裏路地だ。不良たちの揉め事の一つや二つくらいは普通にあっても不思議ではないだろう。
そういった個人のトラブルに、自分たちのような余所者がいちいち首を突っ込むべきではないかもしれない。かといって、放置するわけにもいかない。
まずはそこに何があるのか。少女たちはヒョイっと裏路地の奥を覗き込んでいく。
「——おい!! テメェだろ……さっきのムカデの化け物ども呼んだのは!?」
「——お前ら妖怪どものせいで街は滅茶苦茶だ! どうケジメつもりだ、ああん!?」
予想通り、そこには明らかに強面の男たちが何人もいた。見ればその男たち、ひ弱そうな『妖怪』を複数人で取り囲んでいるではないか。
「うぅ~……お、オラ……オラはそんなこと……ヒィッ!?」
その妖怪はたった一人。鬼太郎たちのように戦える様子もなく、ただただ人間たち相手に怯えている。
「ちょっ!? ちょっと待って下さい!!」
これに立花響が当然のように物申す。
ただの喧嘩であれば、口を挟む道理はなかっただろう。だが強者が弱者を虐げるような恫喝であれば、相手が人間だろうと、妖怪だろうと見過ごすことはできない。
「やめてください! この子、怯えてるじゃないですか!!」
響は人間の男たちから、その妖怪を庇うために前へと進み出ていた。
「何があったかは知りませんが、大の男が寄ってたかって……あまり誉められた行動ではありませんね」
「まっ、みっともないことは否定できねぇな……」
「いや……こ、これは……」
勿論、響の後には翼やクリスも続く。三人の女子から非難され、流石に男たちも決まりが悪そうだ。
「あ、ああん!? なんだてめぇら! 人間のくせに妖怪の味方する気か!?」
しかし引っ込みが付かないのか。男たちのうちの一人が、割り込んできた響たちに語気を強めて叫ぶ。
彼はその妖怪には責められるだけの理由があるのだと。何も知らない少女たちに教えてやる。
「そいつがあの化け物を……ムカデどもを呼び寄せてるんだよ!! そいつが『ヤッホー』なんて叫びやがった直後に、あのムカデたちが現れやがったんだからな!!」
「!?」
その話に思わず目を見開く装者たち、だがそれは誤解である。
「ち、違うよ……オイラは、大百足が出てきたから……助けを呼ぼうとして……」
小声ながらも、そう言い返す妖怪——呼子。
そう、彼はあくまで大百足がその場に現れたから叫んだだけだ。鬼太郎に助けを求めようと『ヤッホー』と、自身の能力を行使したに過ぎない。
だが、その事実を知らない人間からすれば、『呼子がムカデを呼び寄せている』と見ようによっては勘違いしてもおかしくはない。おそらく、目撃されたタイミングが悪かったのだろう。
呼子こそが全ての元凶だと思い込んだ男たちが、彼一人に責任を押し付けていたのだ。
「そっか……キミが呼子くん。あの声の主なんだね?」
その話に、響は呼子へと向き直る。
既に鬼太郎から呼子のことを聞かされていた響たちは、彼が悪い妖怪でないことを知っている。それどころか、彼が大百足の出現を知らせてくれたからこそ、助けを求める人々に手を差し伸べることができたのだ。
彼を責めるなど筋違い。寧ろ感謝するべく、響は呼子へのお礼を口にする。
「キミのおかげで駆けつけることができたよ……ありがとう!!」
「へっ?」
響が何者かを知らないためか、呼子は呆気に取られている。だが今はそれでも良い。
呼子に責任などないと分かれば、響は迷いなく彼を——妖怪を庇うことができる。
「それは誤解です! この子は……助けを呼ぶために叫んでくれてたんです!! この子がムカデを呼んでいたわけじゃありません!!」
「んなこと……信じられるかよ!!」
それでも、響の言葉すら否定して呼子を責める男。
興奮気味に叫ぶ彼の全身からは——何やら『黒い靄』のようなものが見えていた。
「なあ、先輩。連中のあの感じ……?」
「ああ、正気ではないな。先日の避難所で襲われた人々も、ちょうどあのような様子だったが……」
響とその男のやり取りを、翼とクリスはいつでもフォローできる位置に立ちながら、俯瞰的な視点で男の様子を観察する。
彼女たちにはその男の苛立ちようが、やや過剰なものに思えた。
それこそ、避難所で暴動を起こしかけていた人々のように、何かしらの影響を受けているという印象を肌で感じている。
「カルマノイズの瘴気に当てられた人々に近いものはあるな……」
翼は直感的に、男の様子を『カルマノイズの瘴気の影響を受けた人々』。それに似通ったものがあると感じる。
実際——風鳴翼の読みは的中していた。
大百足たちは、カルマノイズの影響によって人々を襲っている。そして、ムカデらの体内にはカルマノイズの瘴気が『蓄積』していたのだ。
ムカデを倒せば、体内に溜まっていたその瘴気が空気中に拡散され、人々に影響を与える。
それは、直に瘴気を浴びるのと比べれば効果も薄いが、元から芽生え始めていた妖怪への敵対心を煽るという意味では十分だった。
ムカデたちが倒されれば倒されるほど、人々はカルマノイズの瘴気を吸ってしまい。
知らず知らずにうちに、その意識を侵食されていくのだ。
「立花、ここは一旦……」
その事実に翼は気づき始めていた。故にここで正気を失っているかもしれない相手と、これ以上押し問答をするのは不毛だと。
呼子を連れ、急ぎこの場から立ち去ることを提案しようとする。
「……ん?」
だが、ここで不意に地面が揺れる。
ムカデたちが現れる前兆かのように、響たちのいる裏路地に地震が響き渡ったのだ。
「!! で、出るぞ! ムカデどもだ!!」
「う、うわあああ!? 逃げろ! 逃げろ!!」
これに大慌ての男たち。呼子や響などそっちのけで、その場から一目散に逃げ出していく。
「来るか!!」
「呼子くん……下がってて!」
響たちもこれには臨戦態勢で身構える。呼子を後ろに庇いながら、大百足の出現に備える。
だが、地中から飛び出してきたのはムカデなどではなかった。
「ぬりかべ~!」
「ぬ、ぬりかべさん?」
地中から顔を出したのは、鬼太郎の仲間であるぬりかべだった。ムカデたちと同じような出現方法だったため、てっきり敵襲かと勘違いしてしまったようだ。
「……呼子……見つけた」
ぬりかべは呼子を捜していたらしい。その姿を見つけるや、どこか安堵したような声を漏らす。
「呼子!」
「あっ……鬼太郎!!」
するとそこへ鬼太郎も駆け付けてきた。呼子は鬼太郎の顔を見るや、安心しきった表情で彼の側までピョンピョン一本足で飛び跳ねていく。
「無事だったか。姿を見かけんから心配したぞ……」
目玉おやじも顔を出し、呼子の無事な姿にホッと一息つく。
大百足の出現を知らせてくれたのは呼子なのに、その姿がどこにもなかったと。それを鬼太郎たちは『大百足に襲われてしまったのか』と、心配していたようだ。
「お、オラ、大百足からは逃げられたんだけど……その後に人間たちに捕まっちまって……」
呼子は大百足の脅威からは逃れていた。鬼太郎たちを呼んで、すぐに現場を離れていたため無事だった。
だがその逃げた先で、彼は人間に捕まってしまったという。
捕まった彼はそのまま裏路地に連れ込まれ、男たちから身に覚えもない罪を責め立てられていた。
さぞ怖かったのだろう、今も小さな子供のように震えている。
「けど、その子らに助けてもらったんだ!! ありがとな……姉ちゃんたち!!」
しかし、そんな呼子を彼女——響たちが庇ってくれたと。呼子は嬉しそうな笑顔で礼を言う。
「ううん! 気にしないで!! 全部、キミが勇気を振り絞ってくれたおかげなんだから!!」
それに響も笑顔で応える。
寧ろ礼を言うのは自分の方だとばかりに、彼女は呼子の頑張りこそを称賛する。
そうやって笑い合う響と呼子、そんな人間と妖怪の光景を——。
「……そうか。彼女たちに……」
鬼太郎は、どこか眩しそうな目で見つめる。
既に過ぎ去った『掛け替えのない日々』でも思い返していたのだろう——。
「……っ!」
だがすぐにでも、そんな感傷的な感情を打ち払うように首を振った。
そしてとりあえず、鬼太郎も今は眼前の少女たちに向き直り、改めて礼を述べていく。
「ボクからも礼を言わせてくれ。呼子を……仲間を助けてくれてありがとう」
それまで、鬼太郎はどことなく響たちに対して『壁』を作っていた。
父親の目玉おやじの勧めもあったからこそ、とりあえず協力していた。そういった部分をやはり否定はできなかった。
だがその瞬間は、確かに自分自身の意思で鬼太郎は響に礼を言う。
そして自然な動作で、彼女に向かって手を指し出すことができていた。
「改めて……よろしく頼む。あのカルマノイズとやらを倒すためにも……力を貸してくれ」
「そんなこと言われるまでもないよ!!」
こうして、改めて固く握手を交わす鬼太郎と立花響。
その光景を前にしては、翼もクリスも口元に笑みを浮かべるしかない。
人と妖。先ほどの懸念のとおり、種族の違いがある限り、どうあっても完全にはお互いを理解しきれない部分はあるだろう。
しかしその瞬間。固く握手を交わしたその瞬間は、二人の気持ちが一つになっていた。
絶対にこの事件を解決する。もうこれ以上、苦しむ人間も妖怪も出したくないと。
その思いだけは同じだと、熱く握った掌から確信することができたのだから。
人物紹介
呼子
ゲゲゲの鬼太郎では毎度お馴染みの妖怪。
6期の73話『欲望のヤマタノオロチ』に呼子の一体が出てきますが、あれとは当然別個体。
ゲゲゲの森に住む方の呼子。42話『百々爺の姦計 妖怪大裁判』の証言台に立たされていた呼子です。
話の流れ上『鬼太郎たちに助けを呼ぶ』『人間たちに虐げられる』この二つの要素が欲しくて、今回は呼子をチョイスしました。
能力に関しては、5期の方で披露した『ヤッホー』というあれを思い浮かべてもらえると助かります。
次回で今度こそ『シンフォギア』とのクロスは完結です。
その次は……FGOの鯖を出す話を、考えていますのでそちらもお楽しみに!