始まる前は『ぶっちぎり茶の湯バトル』とは何ぞやと、サブタイトルに突っ込みが入りましたが、その言葉に偽りなし……見事な伏線回収!
本編はシリアス、おまけはぐだぐだと。お約束も健在で登場鯖も魅力的。
また実装待機列のNPCが増える。個人的には田中くんと高杉社長を実装して欲しい。
さて今回のクロスオーバーは『ミュータントタートルズ』です!!
原作は『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』と長いタイトルになっていますが、あくまで今作のクロスは『旧亀』——タートルズ初期のアニメ作品をモデルにしています。
おそらく、日本でもっとも有名なタートルズ作品。ついこの間も『ミュータントタートルズ:シュレッダーの復讐』でゲーム化しました……今更!?
作風は、古き良き時代のアメリカアニメって感じ。
自分、洋画とか海外のアニメとか率先して見ないけど、こういう吹き替え版特有の軽快なノリって凄い好きです!
作品自体も、謎の超理論や突っ込みどころ満載の爆速展開。吹き替えの声優陣が好き勝手アドリブ入れていることもあってか、マジで腹筋崩壊する。
今時のアニメのように作画がキレイではないですが、こういう作品の勢いと面白さは……現代でも通じるものがありますね。
まさに頭を空っぽにして見れるアニメ。
流石に今作のクロスではある程度、話の流れなど考えていますが……出来るだけ、原作の雰囲気とノリを大切にしていきたいと思います。
ちなみに、旧亀のアニメにはいくつもの吹き替え版があります。
一般的にはアドリブが多い地上波版が主流かと思われますが、自分はビデオ版で育った世代です。
なので登場キャラのイメージも、そちらのビデオ版を主軸にしていきますので、その点は予めご了承ください。
『——立て続けに起こっていた妖怪に関連した事件でしたが、ここ数日でようやく落ち着きを取り戻し……』
『——被害の大きかった東京都には復興の為のボランティアが県外から……』
『——先ほど、総理代理が記者会見で妖怪との友好関係について改めて……』
『——人気急上昇中の若手女優が、あの妖怪に助けられたと今注目を集めて……』
「やれやれ、相も変わらず人間たちの世界は忙しいようじゃのう……」
東京都の郊外にあるボロアパートの一室。
一匹の妖怪がテレビから流れてくる昨今の社会情勢に耳だけを傾けながら、黄昏ていく空を見つめて物思いに耽っていた。
その妖怪の名は——『いそがし』という。
いそがしはその名のとおり、人を『忙しく』する妖怪である。
いそがしに取り憑かれたものは仕事に没頭し、延々と忙しなく働き続ける。心のゆとりや他者への優しさを忘れ、自分が何の為、誰の為に働いているかも分からなくなってしまう。
人として大事な『何か』を失わさせる——ある意味恐ろしい妖怪であった。
「忙し過ぎて……ワシが取り憑く余地もないわ。全く世知辛い世の中じゃ……」
だが近年、いそがしが人間に取り憑かずとも、人々は仕事に追われる日々を送っている。特に最近は妖怪との戦争。その戦後復興のため、多くの人間たちが労働に従事しているとも聞く。
自分たちの生活を取り戻すため必死に働くのだから、そこにいそがしが横槍を入れる余地などない。
「今は人間たちとの間に、余計なトラブルを生むわけにもいかんしのう……」
さらに言えば、現在は人間と妖怪との関係が非常にデリケートな時期だ。こんなときに妖怪が騒ぎを起こそうものなら、また人間たちが妖怪への反感を強めてしまう。
今の総理代理も妖怪たちとの和解を推進しているため、妖対法を積極的に行使しようとする気配はないが、その状況も何をきっかけに様変わりするか分かったものではない。
「戦争などごめんじゃしのう……けど、寂しいのう……ぐすっ!」
余計な争いの火種を生まないためにも、いそがしも今まで以上に人前に出ることを控えている。
しかしそれでも人肌、人間に取り憑くのが恋しいときがある。その寂しさを何とか酒で紛らわし、涙で枕を濡らすような毎日を送っていた。
ところが——。
——ピンポーン!!
「…………ああ、なんじゃ?」
唐突にインター音が鳴り響いたことに、いそがしが眉を顰める。
彼が住処とするこのアパート、既に人間が寄り付かなくなって久しい空き家である。そのボロい外観からも、普通に人が住んでいそうにないことが分かりそうなものだが。
——ピンポーン!!
——ピンポーン!!
しかし来訪者は、まるでそのアパートに誰かが住んでいることを知っているかのように、二度三度とチャイムを鳴らし続けてきた。
「誰じゃ!? 言っとくが……新聞の勧誘なら間に合っとるぞ!!」
この不可解な訪問者、いそがしは適当にあしらおうとする。
それというのも、いそがしというこの妖怪。それなりに人間離れした見た目をしている。
はだけた着物を纏った、全身の身体が青くてガリガリの人型。長い舌に、大きくて真っ赤な一つ目。妖怪慣れしていない一般人が目撃すれば、悲鳴の一つくらいは上げるだろう。
万が一、その見た目から騒ぎになっても面倒だ。いそがしは無用なトラブルを避けるためにも、玄関先へと顔を出そうとはしなかった。
——ピンポーン!!
——ピンポーン!!
だがそれでも、呼び鈴は鳴り続ける。
「ああん? 宗教の勧誘ならお断りじゃぞ!!」
いそがしは苛立ち気味に返事をする。この時点で、来客が顔馴染みの妖怪という可能性も消えた。
もしも妖怪仲間であれば、普通に声くらい掛けてくるだろう。しかしその訪問者は黙々と、ただ呼び鈴だけを押し続けてくる。
——ピンポーン!!
——ピンポーン!!
——ピンポーン!!
——ピンポーン!!
——ピンポーン!!
「ああ、もう!! うっとしいのう!!」
一定の時間間隔で鳴り続けるチャイム音。これには流石のいそがしも重い腰を上げる。
もうこの際、ちょっとくらい騒ぎになってもいいやと開き直り、ズカズカと苛立った足音を立てながら玄関へと近づいていき——勢いよく扉を開けた。
「言っとくがワシは受信料なんぞ絶対払わんからな!! ……!?」
個人的な怒りと共に、それまでのイライラを吐き捨てるいそがし。
しかし、彼がそのように怒りをぶちまけられたのも一瞬だけ。直ぐにいそがしの方が困惑する事態へと陥ってしまう。
「な……なんじゃ!? お、お前らは!?」
『————』『————』『————』『————』『————』
『————』『————』『————』『————』『————』
『————』『————』『————』『————』『————』
いそがしの目の前。ボロアパートの玄関先には——覆面姿の人間たちが密集していた。
数十人もの同じ格好をした正体不明の覆面たちが、部屋から出てきたいそがしへと無言のまま視線を向けているのだ。
妖怪からしても、それは異様な光景に映ったことだろう。
「なっ!? ど、土足で入ってくるな!! おい!?」
さらに覆面たちは家主の許可もなく、部屋の中へと雪崩れ込んでくる。制止するいそがしの声にも、まるで聞く耳を持たない。
『————』『————』『————』『————』『————』
『————』『————』『————』『————』『————』
『————』『————』『————』『————』『————』
やがて狭い室内に覆面たちがひしめき合い、彼らは全員でいそがし一人を取り囲んでいく。さらに次の瞬間にも、覆面の何人かが
事態を把握しきれずに混乱するいそがしの身体を、それらの拘束具で容赦なく縛っていく。
「なっ!? な、何をするんじゃ!? や、やめろっ!?」
これに抵抗しようとするが、流石に妖怪でも数の暴力の前には屈するしかなかった。いそがしはあっという間に手足を縛られ、身動きを封じられてしまう。
「た、助け——もご!? もごごご!?」
咄嗟に大声で助けを呼ぼうにも、すぐに口も塞がれてしまった。
そのまま、覆面たちは拘束したいそがしを担ぎ上げて外へ移動。ボロアパート前に停車していた大型トラックの荷台へと彼を押し込んでいく。
「もががががが——」
最後まで懸命に足掻くいそがしだが、荷台の奥に押し込まれてしまっては外に声を届けることもできない。
いそがしを荷物のように運び込んだ覆面たちも、そのまま荷台へと乗り込み——その直後、トラックは走り出していく。
何とも手慣れた手口。いそがしの部屋まで侵入し、彼を拉致するまで一分と掛かっていなかった。
×
「——街中に住んでいる妖怪たちと……連絡が取れなくなってる?」
日差し穏やかな日中、ゲゲゲの鬼太郎の困惑した声が森中に響き渡る。
彼が今いる場所はゲゲゲの森の集会場だ。妖怪同士が話し合う際に用いられる広場で、鬼太郎は相談事を持ってきた妖怪たちの話に耳を傾けていた。
「そうなんだよ!! ここ最近、俺たちみたいに街中で暮らしてる連中の消息が次々に途絶えていってんだよ!!」
鬼太郎の元にその訴えを持ち込んできたのは、傘の妖怪——
唐傘は和傘に目玉、逞しい二本の腕と一本の足が生えている傘の付喪神だ。細かいことをあまり気にしない豪快な性格だが、そんな彼からしても『仲間の妖怪たちと連絡が取れない状況』というのはかなり深刻な問題だった。
「骨女やいそがし。他にもいなくなっちまった連中が大勢いてね……」
彼と一緒に来ていた、女妖怪・ろくろ首も困った表情を浮かべている。
ろくろ首は首が伸びることで有名な妖怪だが、通常時の外見はごく普通の和服美女。少し時代がかってこそいるが、人間とそう変わらない見た目をしている。
性格も姉御肌で面倒見の良い女性だ。いなくなった妖怪たちの行方が、杏として知れないことを心配している。
「ほら、こういったご時世だろ? お互いの無事を確認し合うためにも連絡は密に取り合おうって、この間も会合で話し合ったばかりでね……」
「そうだったのか……」
ろくろ首が言うに、ここ最近になって街中で隠れ住んでいる妖怪同士、連絡を取り合うコミュニティを形成し始めたとのこと。最近の情勢、人間と妖怪の関係が以前よりも近くなったことで起きてしまういざこざ、トラブルなどを危惧したためだ。
皆で情報を共有し合い、互いに安否確認ができるようにしようという試みである。
その試みは、決して間違いではなかった。
なにせ互いの無事を確認することが出来ず——『妖怪たちの失踪』という事件にいち早く気付くことができたのだから。
「実はこの子が、あかなめが……いそがしの連れ去られる現場に遭遇したっていうんだよ」
「ハッ!! ハッ!!」
ろくろ首はさらに詳細な情報を鬼太郎に伝えるため、隣に立っていた妖怪あかなめに話を振る。
あかなめは風呂場にこびり付いた垢を、舐めるための舌が異様に発達した妖怪だ。その長い舌を犬のように突き出し、呼吸を荒くしながらも、ろくろ首の言葉を肯定するよう頷いていく。
「この子の話によると……いそがしは、覆面を付けた人間たちの集団に連れ去られちまったらしいんだよ」
あかなめはあまり喋るのが得意ではないのか、ろくろ首がその言葉を通訳していく。
彼がたまたま目撃したという話をまとめると、いそがしを誘拐したのは人間らしきものたちの集団。覆面を被った謎の連中がいそがしの住居に大挙して押しかけ、そのままトラックの荷台へと乗せられ、どこかへと連れ去られてしまったとのこと。
流石にそのトラックがどこへ行ったかまでは、追跡できなかったというが。
「…………あかなめ。人間の集団というのは……確かなのか?」
鬼太郎は深刻な顔色で、あかなめの話に念を押すように問い掛ける。
人間と無用な争いをしたくない鬼太郎は、それが人間たちの仕業でないことを心から祈りたかったが。
「ハッ!! ハッ!!」
鬼太郎の思いとは裏腹に、あかなめは躊躇なく頷いた。
少なくとも、あかなめ自身はその覆面たちが人間だったと認識しているようだ。その点について彼が嘘を付く理由はない。
いそがしを連れ去った相手は妖怪ではなく人間——あるいは、それに類するものである可能性が高い。
「鬼太郎よ。これは放置してよい問題ではないぞ……」
鬼太郎と共に一通りの話を聞き終えた目玉おやじが、神妙な顔つきで腕を組む。
妖怪たちの失踪、それも大勢の人間たちが関わったかなり組織だった犯行だ。これが本当に人間たちの仕業であるのならば、今は大人しくしている妖怪たちも黙ってはいられない。
せっかく小康状態になりつつある人間と妖怪の対立を再び煽りかねない、新たな火種となりかねない由々しき問題である。
何者の仕業であれ、早急に行方不明になっている妖怪たちの居場所を突き止め、この事件を解決に導く必要があるだろう。
「ねぇ、他には何かないの? ほら……手掛かりとか?」
そのための足掛かりとして何かないかと、鬼太郎と一緒に話を聞いていた猫娘も口を開く。
トラックの行き先、誘拐された妖怪たちの共通点、人間と何かトラブルがなかったかなど。何でもいい。手掛かりの一つでもないかと、ろくろ首たちに尋ねていく。
「手掛かりって、言われてもね……」
「う~ん……あっ! そういえば!」
その問いに首を伸ばしながら悩ましげに傾げるろくろ首だが、唐傘の方は心当たりがあったのか。懐から何かを取り出していく。
「いそがしの部屋に、こんなもんが落ちてたんだけどよ……」
「これは……ロープか?」
それは、何の変哲もないただのロープであった。いそがしを拘束する際に用いられたもののあまりなのか。それ単体では、とても手掛かりとはいえない。
しかし一つだけ。手掛かりと言えるかどうかは謎だが、一箇所だけ気になる部分があった。
そのロープの端っこ。ロープがどこで作られたものなのか、ご丁寧に明記されていたのだ。
そう、『MADE IN JAPAN』——つまりそのロープが、日本製であることが英語で書かれている。
「……いや、ここ日本なんだけど……」
もっとも、日本で起きている事件なのだから、それが日本製のものであっても何ら不思議ではない。何故英語なのかという疑問はあるが、今の時点でそれを論じても意味はない。
「と、とにかく……警戒は強めたほうがいいじゃろう! 今夜からはワシらも見回りに入ろう……のう、鬼太郎や!」
「ええ……そうですね、父さん」
少し緩んだ場の空気を締め直すように、目玉おやじが大きな声で当面の対策を練っていく。
鬼太郎たちのようにゲゲゲの森に住んでいるものであれば、夜中に人間たちか襲ってくることを心配する必要はない。
その分、街中で暮らす同胞たちのために戦力を割くことができるというものだ。
「猫娘、みんなにも協力してくれるように声を掛けておいてくれないか?」
さっそく鬼太郎はこの場にいない、いつもの仲間たちにも力を貸してもらえるように猫娘に頼んでいた。
「わかったわ! ……って、鬼太郎はどうするのよ?」
当然、その頼みを快く受け入れる猫娘だが、鬼太郎が自分に仲間たちへの声掛けを一任したことに首を傾げる。
自分が他のみんなに協力を頼む間、彼はいったいどこで何をしようというのか。
猫娘の素朴な疑問に、鬼太郎は彼女に心配を掛けぬようにと——肝心な部分をぼかしながら答えていた。
「——ボクは……ちょっと人と会ってくるよ」
「——それで、ボクのところまで来たのかい~? キミも大変だね~……ゲゲゲの鬼太郎くん」
「——そう言う貴方も……随分とお忙しいようですが?」
数時間後、鬼太郎は都内のとある屋敷内にてその人物と対面する。
仕事中なのか、その老齢の男性は執務室で大量の資料に目を通していた。忙しいときに押しかけてしまったことへの謝罪を口にする鬼太郎だが、そんな中でも、彼がわざわざ自分のために時間を設けてくれたことに少し驚いている。
面会など断られると思っていた。
なにせ相手は、代理とはいえ一国の代表——『内閣総理大臣』その人であったのだから。
そう、鬼太郎の目の前にいるこの男こそが、現政権における最高責任者・総理大臣の代理だ。先の戦争で前総理を含めた主だった政治家たちが亡くなった、その混乱の最中に抜擢された老人。一応は鬼太郎とも面識があり、和解の握手までしている。
年の功とも言うべきか、老人は鬼太郎の突然の訪問にも慌てず騒がずどっしりと腰を据えていた。
鬼太郎が、わざわざ総理代理に直接会ってまで問い掛けていたのは——確認だった。
今回の一件——『妖怪たちが次々と誘拐されている事件』に政府が絡んでいないかどうかの確認だ。
あかなめの話を信じるのならば、いそがしを連れ去っていったものたちは人間。それも一人や二人ではない。数十人以上の人間たちが、いそがしの誘拐に関わっている。
さらに被害はいそがしだけには留まらず、他の妖怪たちにまで及んでいる。ともなれば、より大勢の人間たちが関与している可能性が高い。
それほど大規模な人員を即座に動員できる、組織力のある集団。残念ながら、鬼太郎の脳裏には——警察や自衛隊など。政府の手のものという考えがチラついてしまった。
勿論、積極的に政府関係者を疑いたいわけではないが、それでも無視できる問題ではないと。鬼太郎は現政権の長である総理代理に、事の真偽を確かめようと訪れたわけだ。
「……でっ、キミが話してくれた件についてだけどさ~」
「…………」
鬼太郎が詳細を話し終えるや、総理代理は自分の仕事の手を止める。
総理の返答次第、態度次第では再び大規模な争いに発展することは避けられない問題なのだが、本人は相変わらずのほほんとしている。
これは考え過ぎたかと。政府の関与を勘繰っていた鬼太郎がホッと安堵しかけるが——。
「——実のところ……心当たりがあるっちゃ、あるんだよね~」
「——っ!!」
意外な言葉が総理代理の口から飛び出す。まさか本当に、この事件の裏に政府の人間が絡んでいるのかと鬼太郎は緊張で顔を強張らせる。
「ちょいちょい! そんなに殺気立たないで……言っとくけど、犯人はボクたちじゃないからね~」
しかし総理は素早く自分たちの関与を否定。あくまで心当たりという名の『情報』があるだけだと——そこで隣に立つ秘書の男性へと視線で合図を送る。
「どうぞ、こちらが資料になっております」
「資料じゃと? これはいったい……?」
秘書から鬼太郎へと手渡されたのは数枚の報告書だった。そこに書かれていた内容に息子と一緒に来ていた目玉おやじも目を通す。
資料の内容を補足するよう、秘書の男性が口頭での説明を加えていく。
「実はここ数週間、犯罪件数がさらに増加しておりまして……調べたところ、それらの大多数にその覆面集団が関わっているとのことなのです」
「なんじゃと!?」
秘書の言葉に目玉おやじは目ん玉を見開く。
あかなめが目撃したという覆面たち。彼らは妖怪の誘拐だけではなく、様々な犯罪を方々で起こしているというのだ。
資料には、彼らが関わったとされる事件に関する詳細が記載されていた。
「銀行や宝石店での強盗や窃盗。ハイテク企業に侵入しては貴重な機材を片っ端から奪い取り、化学工場からは危険な薬品を選んで盗んでいってます。しまいには、動物園から動物を丸々一匹盗んだりと。正直、私共も頭を抱えておりまして……」
「すごい数の被害報告ですね……」
一見すると統一性のない事件の数々。しかしどの犯罪にも必ず『覆面姿の集団』が目撃されているという。次から次へと巻き起こる事件の山に、警察機構もほとほと困り果てているとのことだ。
総理代理も口調こそ穏やかながら、苦虫を噛み潰したような顔で愚痴を零していく。
「この覆面集団、本当見境がなくてね……こっちも困ってるんだよ~。けど、これだけのことが出来るんだから……よっぽどデカイ犯罪組織なんでしょう? こっちの対応も慎重にならざるを得なくってね~」
「犯罪組織……」
総理が口にしたその単語に、鬼太郎は目を見開く。
『犯罪組織』——人間社会の裏側に蔓延る、妖怪とはまた違う形の『闇』だ。半端な地上げ屋程度の連中なら、鬼太郎たちも撃退したことはあるが。
「無用な心配かもしれないけど、一応警告はしとくよ。本当の犯罪組織ってのは……そんじょそこらのチンピラとは訳が違うからね」
だが、総理代理はそういった連中への警戒を怠らないように鬼太郎に釘を刺す。
古い時代の政治家として、裏社会を生き抜く人間たちの怖さなど身に染みているのか。いつになく真剣な口調であった。
「……ご忠告痛み入ります、総理代理」
「いいよいいよ! 気にしないでちょうだい!!」
総理からの忠告、そして提供された貴重な情報を手に鬼太郎は頭を下げた。総理代理は気にするなと言ってくれたが、ここはしっかりと礼を述べるべきだと。
「お時間を取っていただき、本当にありがとうございました。このお礼はいずれさせていただきます……」
わざわざ時間を割いてくれた老人に、鬼太郎は一個人として敬意を込めた礼で感謝を伝えていった。
×
「よっしゃっ!! 鬼太郎も来てくれたことだし……来るなら来やがれってんだ!!」
「唐傘、気合いが空回ってるよ。もう少し落ち着きなって……」
午後五時を過ぎた頃。
自分たちの住処に戻ってきた唐傘やろくろ首は、妖怪に危害を加えようとする襲撃者たちの到来を今か今かと待ち構えていた。
彼らが住んでいるその場所の名は——『妖怪アパート』という。
元々は人間たちの集合住宅であったが、あまりにも古く既に人間の借り手など居なくなって久しい。そのため妖怪たち専用のアパートとして、唐傘たちを始めとする大勢の妖怪がここに住みつくようになった。
「よく来てくれたのう、鬼太郎。とりあえず今日一日、よろしく頼むぞ!」
「ああ、任せてくれ……砂かけババア」
ちなみにこの妖怪アパート、砂かけババアが大家となり日頃の管理をしているのだが、建物の持ち主は夏美という人間の成人女性である。
夏美も普段は別のところに住んでおり、たまに妖怪たちの元に遊びに来るほどには良好な関係を築いているが、流石に今回は危険だと。暫くの間、アパートに近づかないよう注意喚起を促しておいた。
彼女や総理代理のように妖怪に友好的なものもいれば。覆面集団のように敵対的なものもいる。
人間との共存も一筋縄ではいかないものだと、鬼太郎は改めて複雑な気持ちを抱いていく。
「鬼太郎! 予定どおり、他のみんなも所定の位置についたわ……準備完了よ!」
「ああ、ありがとう……猫娘」
そこへ猫娘も妖怪アパートに駆け付けてくる。
彼女は鬼太郎に頼まれていたとおり、ゲゲゲの森の仲間たちに声を掛けてくれた。一反木綿や子泣き爺、ぬりかべと。彼らは街中に散らばり、怪しい動きをする集団がいないか目を光らせてくれているとのことだ。
「……ん? そういえば……ねずみ男はどうしてる? 最近、あいつの姿を見かけた覚えがないんだが……」
ふと、そこで鬼太郎はねずみ男の所在を気に掛ける。
正直、鬼太郎もねずみ男が直接的な戦力になってくれると期待しているわけではないが、それ以前に彼の姿を最近になって見ていないことを思い出す。
ねずみ男も、時と場合によっては街中のボロアパートに勝手に住み着いて雨風を凌いでいる身だ。まさか彼も、覆面集団に連れて行かれてしまったのかと。一応はねずみ男の身を案じる。
「ああ……あやつなら、今は日本におらんぞ。海外に高飛びしておる」
「はっ? 海外……? 高飛び……?」
だがそんな心配を吹き飛ばすように、砂かけババアがねずみ男のことを口にする。
誘拐されたわけではないらしいが、海外に高飛びとはどういうことだろうと鬼太郎の目が点になる。
「まとまった金が入ったとかでのう……その金を元手に商売を始めて……夢のアメリカンドリームを掴むとか言っておったぞ? 確か行き先は……ニューヨークだったか?」
どうやらねずむ男、また懲りもせずに何かしらの金儲けを思いついたようだ。
それがどういった商売なのかまでは、砂かけババアも知らないようだが、その行き先がニューヨークであり、そこで一旗揚げるという意気込みだけは聞かされたらしい。
「なんでも、日本の経済は駄目だとか。今はアメリカンな時代とか……わけわからんことぬかしておったが……」
「何やってんのよ、あの馬鹿……」
これには猫娘も頭を抑えながら天を仰ぐ。
日本妖怪が大変なこんなときに、呑気に渡米なんざしているその図太さに心底呆れてそれ以上は言葉も出てこない。
「ま、まあ……それならそれで、今回の件には関わってはおらんじゃろう。そのうち帰ってくるじゃろし……今は放っておこう」
「そうですね、父さん」
しかし、初めからいないならいないで構わないと。寧ろ、余計な心配や勘繰りをせずに済むと目玉おやじはねずみ男の不在を放置する。
いずれは日本に逃げ帰って来るだろうと、鬼太郎もさして心配していない。
当たり前だが——誰もねずみ男がアメリカンドリームを掴めるとは考えていなかった。
そうして、準備を整えること数時間後。
いつもであれば妖怪アパートの住人らも寝静まる頃合いだが、今夜ばかりは目を開き、覆面たちの到来を今か今かと待ち構える。
建物の灯りも消し、異様な静けさの中をただ静かに息を潜めていく。
「………来ねぇな」
「………そうだねぇ」
しかし、なかなか姿を見せようとはしない覆面たち。もしや今夜は現れないのかと、待ち疲れた唐傘やろくろ首たちの気が僅かに緩み始めてくる。
「……! 鬼太郎、一反木綿から連絡よ」
「……!!」
だがその刹那、猫娘の携帯電話に連絡が入った。
上空から夜の街並みを見回っていた一反木綿から——『怪しいトラックが二台、妖怪アパートに接近中』とのことだ。
「みんな! 気を引き締めてくれ!!」
「ええ、分かってるわ!!」
「お、おうっ!!」
「アタシたちもやるよ!!」
鬼太郎が皆に号令を掛け、それにより緊張感を取り戻していく一同。鬼太郎と猫娘、唐傘、ろくろ首。
「ハッ! ハッ!」
「よーし……いつでも来るがいい!!」
さらに、あかなめや砂かけババアも臨戦態勢で身構えていく。
そうして、とうとう妖怪アパートの前に二台の大型トラックが停車する。
『————』『————』『————』『————』『————』
『————』『————』『————』『————』『————』
『————』『————』『————』『————』『————』
あかなめの目撃証言どおり、トラックの荷台からは覆面姿の人間たちが何十人と姿を現した。彼らは統率された軍隊のような動きで、まずは妖怪アパートの周囲を取り囲んでいく。
住人たちの動きを封じ込めてから、仕事に取りかかろうということだろう。包囲が完了するや、正面玄関からアパート内へと押しかけてきた。
「——そこまでだ、髪の毛針!」
だが、既にその動きを予測していた鬼太郎が先制攻撃を仕掛ける。
敵が建物に侵入してきた直後、髪の毛針を連射。並の相手であればそれで十分に怯ませられ、相手の出鼻を挫くことが出来ただろう。
『————』
「なっ! 弾かれた!?」
ところが、覆面たちに髪の毛針は通じなかった。人間が相手だと思い手加減したというのもあるが、それを差し引いても耐えられるような一撃ではなかった筈だが。
「にゃああああ!!」
すかさず鬼太郎の失敗をフォローするよう、今度は猫娘が覆面たちにその鋭い爪を振り下ろしていく。
しかしこちらも大した効果が得られず、逆に猫娘の方が自身の腕を抑える。
「痛っ!! 金属音!? こいつら……服の下に鎧かなんか着込んでるわよ!!」
見れば猫娘の爪が欠けてしまっていた。どうやらこの覆面たち、全身が金属の鎧にでも覆われているのか、多少の衝撃ではビクともしない。
『————』『————』『————』
鬼太郎たちの突然の奇襲に慌てた様子もなく、反撃とばかりに覆面たちが一斉に動き出す。どこからともなくサーベルやら槍などの武器を取り出し、鬼太郎たちへと襲い掛かってきた。
「うわっと!? この野郎、やりやがったな!」
「舐めんじゃないよ!!」
当然ながら、これに妖怪アパートの住人たちも黙ってはいられない。サーベルの斬撃や槍の刺突を華麗に躱し、相手の隙を逃さず反撃に打って出る。
開戦の火蓋は切って落とされ——アパート内が一気に混沌とした戦場へと化していく。
×
「くっ……この!!」
「大丈夫か、猫娘!?」
狭い建物内での混戦、鬼太郎と猫娘は背中合わせに覆面たちを迎え撃つ。
当初こそ、相手が鎧で身を固めている厄介さに眉を顰めたが、覆面たち一人一人の実力はそこまで大したものではなかった。純粋な接近戦であれば十分にいなせると、向かってくる相手から順々に倒していく。
「しぶといわね……鬼太郎!! こいつら……本当に妖怪じゃないのよね!?」
だが時間が経過していくにつれ、徐々に鬼太郎も猫娘も敵の勢いに押されていく。
鎧で身を固めている相手に、鬼太郎たちはそれなりに強い打撃を繰り出していた。その衝撃は内部へと伝わり、いかに鎧で守っていようとそう簡単に起き上がれるようなダメージではない筈。
『————』『————』『————』
ところが覆面たちは一向に怯まない。倒れてもすぐに起き上がり、再び武器を手に襲い掛かってくる。
その不屈さ、もしや彼らも妖怪なのではと。猫娘は加減を忘れそうになってしまう。
「ああ、それは間違いない……間違いないけど……!!」
それでも妖気の類は全く感じ取れない。妖怪アンテナが反応を示さないことからも、それは確かだ。
しかしおかしいと、鬼太郎も訝しがる。確かに妖怪ではないが——そもそも動きそのものに、生き物特有の呼吸や生気を感じ取れない。
まるでロボットのように、与えられた命令だけを実行しようとひたすら向かってくる。このままでは相手の勢いに呑まれ、為す術もなく連中の手に捕まってしまうだろう。
「うぅぅ!? うぅぅ!!」
「あかなめっ!?」
その懸念は、すぐに現実のものとなってしまった。
妖怪の一人、あかなめが覆面たちの手に落ちてしまう。ロープでぐるぐる巻きにされ、そのまま外へと連れて行かれていく。
「行かせない! リモコン下駄!!」
すぐにあかなめを救おうと、鬼太郎はリモコン下駄を全力で放つ。アパート内を埋め尽くすように並んでいた覆面たちが、その一撃でドミノ倒しのように倒れて道は開かれた。
鬼太郎たちは急いであかなめの後を追い、アパートの外へと飛び出していく。
「——うぅうう!! うぅううう!!」
「あかなめ!! やばいぞ、このままじゃ連れて行かれちまう!!」
アパートから出た瞬間、あかなめがトラックの荷台に放り込まれようとしている光景が鬼太郎や唐傘たちの視界に飛び込んくる。なんとか阻止しなければならないのだが、鬼太郎たちのいるところからでは間に合わない。
このままでは、またも罪なき妖怪が一人。彼らの魔の手に落ちてしまう——。
「——わしに任せい!! おんぎゃ!! おんぎゃ!!」
だがそうはさせまいと、そこで助っ人参上。
騒ぎを聞きつけた子泣き爺が現れ、トラックの上から飛び降りて来たのだ。泣き声と同時に石になった彼が、あかなめを連れ去ろうとした覆面たちを全力で押し潰す。
あかなめもロープの束縛から逃れ、間一髪で逃げ出すことに成功した。
『————!』
鎧を着込んでいようとも、子泣き爺の重さには耐えきれないだろう。次の瞬間、押し潰された覆面が——煙を上げながら炎上する。
「なっ!? 爆発した? まさか……霊毛ちゃんちゃんこ!!」
人間ではあり得ない破壊音に目を見開く鬼太郎。試しにすぐ近くにいた覆面の一体に、全力で拳を叩き込んでみる。
『————!!』
加減のない一撃で粉々に吹っ飛ぶ覆面。その服の下から現れたのは——剥き出しの機械ボディだ。
まるでではない、相手は正真正銘——機械仕掛けのロボットだったのである。
「き、機械じゃと!? よーし……みんな、手加減は無用じゃ! 全力でぶっ飛ばしてやれ!!」
相手の正体が判明するや、目玉おやじが皆に向かって叫ぶ。
人間と余計な揉め事を起こさないことを考慮し、ある程度の加減を強いられていた鬼太郎たちだが、相手が機械であれば話は別だ。
心を持たないマシーンに遠慮など不要と。これまでセーブしていた力を、全力で発揮するよう指示を出していく。
「にゃあああ!!」
「それっ! 火炎砂じゃ!!」
遠慮が必要なくなった途端、すぐに猫娘が本気の斬撃で覆面ロボットを真っ二つに切り裂き、砂かけババアが火炎砂でまとめて敵を燃やし尽くしていく。
一気に形成は逆転。謎の覆面集団改め——謎のロボット軍団がみるみるうちにその戦力を減らしていく。
「よーし、これなら……!?」
ロボットの正体に関して新たな疑問が生まれたものの、この場はなんとか乗り切れそうだと鬼太郎は安堵しかける。
だが、ここでさらに予想もつかない襲撃者が姿を現していく。
「——おいおい! 何を手こずってやがる……このロボットポンコッツめ!!」
「——どけっ!! 俺たちがぶっ潰してやらぁ!!」
碌に言葉も話さなかった人型ロボットたちを押し退け、何者かがトラックの荷台から降りてくる。
その影は二つ。一見すると人のようでもあったが——そのシルエットは明らかに普通の人間とは異なるものだった。
闇夜に輝く月明かりの光が、そのものたちの姿を白日の元へと晒していく。
「なっ! 何よ……こいつら!?」
「サイに……!? ぶ、ブタ人間!?」
そいつらの風貌を一言で表すのであれば——まさにその表現こそが相応しかった。
サイのようだとか、ブタのようだとか。そんな比喩表現ではない。まさに『サイとブタが人の形を取ったモンスター』。
そんな正体不明の化け物が、鬼太郎たちの目の前に姿を現したのだ。
「誰がブタだ、コラッ!! 俺はイボイノシシだ、ブヒッ!!」
するとサングラスにモヒカン頭、鼻輪を付けたブタ人間から抗議の声が上がる。自分はイノシシだと、鬼太郎たちに文句を付けてきた。人語を理解し、反論する程度の頭脳は持ち合わせている様子。
「お前ら、大人しくしやがれ!! 怪我をしたくなかったらな!!」
さらに、頭に帽子とゴーグルを付けたサイ人間も唸り声を上げる。
彼らが覆面たちを従えているのなら、当然目的は妖怪たちの身柄だろう。大人しく自分たちに連れ去られろと、乱暴な物言いで鬼太郎たちに降伏を促す。
「お前たち、何者……いったい、どこの妖怪じゃ!?」
そんな彼らに向かい、目玉おやじは困惑しきった表情で声を上げる。
サイ人間とイノシシ人間。妖怪に関する知識が豊富な目玉おやじですら、彼らがどのような妖怪に該当するのか分からない。
もしかしたら海外の、それこそ西洋妖怪や中国妖怪である可能性を考慮し、相手の素性を見定めようとする。
「ようかい……だと? けっ! 俺たちをお前らみたいなバケモンと一緒にすんじゃねぇぜ!!」
するとサイ人間、目玉おやじの問い掛けに逆上するように声を荒げていく。
「俺たちはミュータントだ!! お前らみたいなひ弱な生物なんか、目じゃねぇぜ!!」
続けてイノシシ人間も、自分たちが妖怪などとは違う。全く別種の存在——ミュータントだと口走る。
「みゅ……みゅーたんと……!? こいつら、妖気が……ない?」
実際、人間離れした見た目にも関わらず、彼らからは妖気のよの字も感じられなかった。彼らの口にした『ミュータント』という単語も、鬼太郎は理解できずにいる。
「いくぜ、オラッ!!」
「フガッ!! フガガッ!!」
しかし混乱する鬼太郎たちにもお構いなしに、堪え性のないサイ人間やイノシシ人間は攻撃を仕掛けてくる。
サイ人間はその角で突き上げるような突進攻撃を。イノシシ人間はその剛腕で近くにあった自動車をぶん投げようと持ち上げる。
「くっ……! こいつ、凄い力だ!?」
サイ人間の突進を、鬼太郎はちゃんちゃんこを巻いた腕で受け止めた。まさにサイを思わせるその力強さに、鬼太郎の小さな体が徐々に押されていく。
「けど……これならどうだっ!?」
「な、なに!? うわっと!!」
もっとも、単純な力比べで挑む必要はない。
鬼太郎は角の先端から掛かってくる力を僅かに逸らすことで、サイ人間の攻撃を軽く受け流す。闘牛士が興奮する牛をやり過ごすように、サイ人間はぶつかる対象を失って地べたへと転がっていく。
「それっ、目潰しじゃ!!」
「フガッ!? ま、前が……見えねぇ!!」
イノシシ人間の方も、砂かけババアが目潰しの砂を振りかけてやることで視界を封じられ、自動車をあさっての方角へと投げ飛ばす。
それにより、自動車の下敷きになったのは覆面のロボットたちだった。思いがけない形で味方を潰してしまい、自軍の戦力を減らしていく。
「ふ~ん……力はそれなりにあるみたいだけど……オツムの方は大したことなさそうね、アンタたち!!」
見た目よりも呆気ない敵の醜態に、猫娘は余裕の笑みを浮かべる。確かに腕力などの腕っ節には目を見張るものがあるが、頭を使った戦い方が苦手なのか。搦手で攻めると呆気なく崩れる。
第一印象の外見にインパクトがあっただけに、その落差に肩の力が抜けるというものだ。
「お前たち、何が目的でこんなことをしてるんだ? 洗いざらい吐いてもらうぞ!」
サイ人間たちを負かしたことで、鬼太郎は彼らに問いを投げ掛ける。
何故彼らが妖怪たちを誘拐しているのか。連れ去られたものたちが何処へ行ったのかも、彼らなら知っている筈だ。その目的と正体、全てを話してもらうと詰め寄っていく。
「へっ! もう勝った気になってんのか? 調子に乗んなよ!」
「まだまだ……勝負はこれからだぜぇ!!」
しかし、サイ人間もイノシシ人間もそう簡単に負けを認めない。頑強さも相当なものなのか、平然と立ち上がり——懐から新たな得物を取り出していく。
「——こいつで蜂の巣にしてやるぜ……覚悟しなッ!!」
「——銃っ!?」
彼らが突きつけてきたのは銃。しかも見るからに普通の拳銃などではない。銃口から発射されたものも鉛玉などではなく、赤く輝く光線——所謂レーザーのようなものだった。
「ちょっ!? 危ないわね!!」
「皆、避けるんじゃ!!」
これには猫娘も砂かけババアも面食らう。
あんな頭の悪そうな連中が、いきなりあのようなハイテク装備を持ち出してきたのだ。驚くなという方が無理な話だろう。
「ホレッ、ボサッとすんじゃねぇ!! オメェらも加勢しやがれってんだ!!」
『————』『————』『————』
さらにイノシシ人間が号令を掛けることで、覆面ロボットたちもそれぞれ光線銃を取り出す。
数十もの銃口が一斉に火を噴いた。その銃撃の全てを躱すのは、いかに鬼太郎たちでも至難の業だっただろう。
「——ぬりかべ!!」
だが、ここでぬりかべが地中から姿を現す。その大きな体で仲間たちを銃撃から守ってくれる。
「うおおお!?」
「危ないね、一時退散だよ!!」
「ハッ!! ハッ!?」
ぬりかべが敵の攻撃を防いでくれている間にも、唐傘やろくろ首、あかなめなどの妖怪たちがアパート内へと逃げ込み、戦線を離脱していった。
「本当になんなのよ、あの連中!!」
ぬりかべの影に隠れて銃撃をやり過ごしながら、猫娘は相手の素性の不可解さに頭を混乱させていた。
覆面のロボット軍団に、妖気のない動物人間。さらにはハイテクな光線銃と、自分たちの常識とかけ離れた情報が怒涛の勢いで押し寄せてくる。
相手が何者なのか、彼女では推測することも出来ない。
「どうするんじゃ、鬼太郎?」
「このままじゃ、ジリ貧じゃぞ!」
しかしそういった敵の素性も今は後回しだ。砂かけババアや、合流した子泣き爺がこのままでは反撃もままならない。ぬりかべの耐久力にも限界があると、鬼太郎にここからどうするかを尋ねた。
「……ボクが合図を出す。そしたら……みんなで一斉に飛び掛かってくれ!」
鬼太郎は素早く作戦を立てた。
相手の光線銃に、自身も指鉄砲で対抗しようと指先に妖力を集中。さらに自分の攻撃の後に続くよう、仲間たちに指示を出していく。
「うむ、心得た!」
これに砂かけババアが返事をし、他の仲間たちも黙って頷く。あとはタイミングを計るだけと、チャンスを窺っていく。
「よし……今っ!?」
そして好機が訪れたと、鬼太郎が指鉄砲を放とうとした。その刹那——。
突如——道路上に設置されていたマンホールの蓋が、空気圧に押し出されるように勢いよく噴出した。
「な、なんだぁ!?」
「マンホールが……ああん?」
天高く宙を舞うその蓋に皆の視線が釘付けになった——その隙を突くかのように、下水道から『何者』かが飛び出してくる。
その影の数は——四つ。
彼らは暗闇の中を素早く駆け抜け——覆面のロボット軍団へと奇襲を仕掛ける。
「——そらっ!! これでもくらえっ!!」
影の内の一人が、長い木の棒でロボットのドタマをかち割る。粉砕された頭から煙を噴き上げ、ロボットがその機能を停止していく。
「——いくぜぇ……タートルパワー!!」
もう一人はヌンチャクを器用に操り、相手の足を掬い上げる。転んだロボットに向かって、さらに真上からトドメの一撃を振り下ろす。
「——それっ! 御用だ!!」
次に
「——冷たい刃の味はどうだ!!」
そして最後の一人、二刀流の刀が覆面たちを粉微塵に切り裂く。瞬きする間もない鋭い斬撃に、ロボットたちが為す術もなくスクラップと化していく。
マンホールから現れた謎の四人組の手により、ロボット軍団が悉く叩き潰されていった。
「なんじゃ!? いったい、何が起きてるんじゃ!?」
「わ、分かりません、父さん。敵ではないようですが……緑の人影!?」
何者かの介入に目を丸くする目玉おやじ。妖怪である鬼太郎の夜目でも、素早いその影を捉えることが出来ない。
かろうじて、緑色の何かが動き回っていることだけは視認出来るが——。
「こ、こいつら……ま、まさかッ!?」
味方が次々と倒されていく光景にイノシシ人間が目を見張る。その緑色の影に心当たりでもあるのか、明らかな動揺をその顔に浮かべていた。
「ロックステディ! 一時退却だ!! こいつらのこと……ボスに報告するんだ!!」
「ま、待て……待ってくれよ、ビーバップ!!」
サイ人間・ロックステディと呼ばれた怪物が、イノシシ人間・ビーパップと共に逃げ出す。
残っていた覆面ロボットたちも、次々とトラックの荷台へと乗り込んでいき、修羅場と化した現場から離脱していく。
「——逃げたか……どうする、リーダー? 後を追うか?」
敵集団を撃退した緑色の影たちが仲間同士で話し合う。逃げ去っていくトラックを追いかけるかどうか、相談しているようだが。
「いや……深追いはよしておこう。それよりも……今はこちらさんの被害状況を確認する方が先だ」
リーダーと呼ばれた影は冷静に状況を判断し、トラックを追うよりもまずはこちらに——妖怪アパートに被害がなかったかを気に掛けてくれる。
「ハロー! ジャパニーズの皆さん! 怪我はなかったかい?」
日本妖怪のことを敵とは認識していないのか、実にフレンドリーに声を掛けてきた。
「え、ええ……大丈夫です。あの……あなたたちは、いったい?」
彼らの活躍もあってか、今回は目立った被害もない。アパートに多少の損害こそあれど、連れ去られた妖怪は一人もいなかった。
そのことに安堵しつつも、鬼太郎は近づいてくる緑の影たちへの用心を解いてはいなかった。彼らが何者なのか、その正体が明らかになるまで油断は出来ないと身構える。
「俺たちかい? 俺たちは……こういうものさ!!」
鬼太郎の警戒心を彼らも察したのか。自分たちが敵ではないことを証明するよう、各々の武器を引っ込めながら彼らは近づいてくる。
顕になる四つの影。その正体は——全身が緑色の、甲羅を背負った人型の何かだった。
「アンタたち……もしかして、河童?」
彼らのビジュアルを前に、猫娘は真っ先に河童を連想する。
妖怪である彼女からすれば、そちらの方が馴染みやすい。寧ろ、河童であってくれという願望を込めてその名を呟く。
「かっぱ? かっぱ……ああ、河童ね! 知ってる! 尻子玉を引っこ抜くっていうあれだろ!?」
「おいおい、よしてくれよ! 俺たちのどこが河童だって? 頭に皿なんか乗せてないだろ? 頭の上に皿を乗せたまま一生を送るなんて、そんな人生真っ平ごめんだね!!」
しかし、彼ら自身の口から河童であることは否定された。河童に割と失礼なことを口にしながら、彼らは仲間内で言葉を交わし合う。
「そうかな? 道行く人たちがその皿にピザを乗せてくれるってんなら……へへ! 俺は別に構わないけど!」
「ミケランジェロ、河童になったらキュウリしか食べられないぞ? それでもいいのか?」
「!! 何てこったい……そんなことになったら、何を楽しみに生きていけばいいんだよ、ラファエロ?」
「お前、食べること以外に考えられないのか? 今はそれどころじゃないだろ!」
「…………何なのよ、こいつら……」
あっという間にロボットたちを倒した必殺仕事人のような活躍とは裏腹に、随分とお喋りな緑色の彼ら。軽快なトークに猫娘は口を挟むことができず、ちょっぴりたじろいでいる。
「お前たち、ちょっと静かにしててくれ! このままじゃ話が進まない……済まないね、お喋りな連中で……」
すると、比較的まともそうな一人が仲間たちを黙らせる。どうやら彼がリーダーのようだ。そのリーダーに向かい、鬼太郎は改めて彼らが何者なのか問いを投げ掛ける。
「あなたたちは……妖怪ではないようですが……」
そう、見るからに人間ではない緑のものたちだが、やはり彼らからも妖気を全く感じ取れない。
あのサイやイノシシたち同様。鬼太郎の理解を越える存在であることは確かだろう。
そんな鬼太郎の疑念に、リーダーであるそのものが代表して答えていく。
「その通り! 俺たちは妖怪じゃない。ミュータント……言うなれば、突然変異種ってやつさ!」
「ミュータント……?」
先ほどのサイやイノシシたちも、そのような言葉を口走っていたことを鬼太郎は思い出す。
ミュータント——すなわち、突然変異種。
彼らは自分たちが『何』の突然変異種なのか。
自分たちの『呼び名』を声高らかに叫んでいく。
「——人呼んで……ミュータント・ニンジャ・タートルズさ!!」
人物紹介
謎の覆面ロボット・フットソルジャー
敵組織の量産型人型兵士。仮面ライダーでいう、ショッカーの戦闘員みたいなもん。
彼らが着ている衣装って、一応は忍び装束らしい。
サイ人間・ロックステディ
バカ一号。
元々は人間だったが、二話にしてサイのミュータントになった。
力はそれなりにあるのだが、その力を扱いきれるだけの賢さがない。
文字も満足に読めないらしく、作中でも一番のおバカさん。
イノシシ人間・ビーバップ
バカ二号。
相棒のロックステディと同じ経由でイノシシのミュータントになった。
驚くことに、地上波版の吹き替えが三木さん。
つまり、ロックオン・ストラトスが「ブヒブヒ!」言ってるってこと。
唐傘、ろくろ首、あかなめ
ゲゲゲの鬼太郎6期・23話『妖怪アパート秘話』で登場した妖怪たち。
50年以上もの間、妖怪アパートに住み着いている主なメンバー。
唐傘は初登場の後も、71話『唐傘の傘わずらい』で個別話があった。
ろくろ首が何気に美人。あかなめは……可愛いか、これ?
いそがし
ゲゲゲの鬼太郎6期・9話『河童の働き方改革』にて登場。
最初こいつを知ったとき「鬼太郎のオリジナル妖怪か?」と思ったけど。
実際の絵巻に名前と絵が残されている、歴史ある妖怪。
昔の人、何を思ってこのような妖怪を描いたのだろう?
今回では囚われのヒロイン枠……やめて、乱暴しないで!!
主役の四人と、例の鉄仮面は次回に本格登場。お楽しみに!!