ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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今回も、だいぶ時間が掛かってしまいましたが……なんとか三話構成で納めることができました。『ミュータントタートルズ』今回で完結です!!

結構ギリギリまで加筆修正とかしてましたもんで……誤字とかあるかもと不安です。
何か不備があればすぐに報告を。すぐに修正しますので、よろしくお願いします!!



ミュータントタートルズ 其の③

 山の中枢、秘密裏に建設されたフット団・日本支部。

 フット団の親玉・シュレッダーの野望を阻止するためにも、連れ去られた仲間の日本妖怪たちを救出するためにも。

 ミュータントタートルズとゲゲゲの鬼太郎たちがアジト内部へと突入する。

 

『————』『————』『————』

『————』『————』『————』

 

 広々とした入り口スペースから一転、高度に機械化された狭い通路へと足を踏み入れてすぐ、まずは覆面の忍び集団——フットソルジャーが鬼太郎たちを出迎えた。

 彼らは全てロボット、与えられた命令を実行するだけの冷徹なカラクリマシーン。話し合いや説得の類は一切通用しない。

 

「——体内電気!!」

「——カワバンガ!!」

 

 そんな相手に手加減など不要と。鬼太郎は電撃でロボットの回路をショート、タートルズたちも各々が得意とする武器で敵を蹴散らしていく。

 特にタートルズたちにとっては戦い慣れた相手、別段苦戦する理由もなかった。

 

「……とりあえず、こんなところかしら?」

「やれやれ、ようやくひと段落といったところか……」

 

 そうして、何度かぶつかり合ったところでソルジャーの襲撃がピタリと止んだ。

 敵がいなくなり、猫娘や子泣き爺といった妖怪たちは安堵するが、一方でタートルズのリーダー・レオナルドがどこか納得がいかないと首を傾げる。

 

「妙だな……ここは連中の本拠地だろ? もう少し抵抗があってもいいような気がするんだけど……」

「お前……その性格直した方がいいよ?」

 

 リーダーの言葉にラファエロはすかさずツッコミを入れる。そんなことを言って、本当に敵が出てきたらどうするんだと。

 

「でも、確かに戦力が少ないようにも感じるな」

「ああ! ロックステディたちの姿も見えない……もしかして、逃げたのか?」

 

 しかし、敵が少ないと感じたのはドナテロも一緒。ミケランジェロも顔馴染みの面子が姿を見せないことを不思議がっている。

 

「……考えていても仕方ありません。今はとりあえず……先に進みましょう」

 

 だが、勘ぐってばかりもいられない。鬼太郎たちには仲間の妖怪を救出するという、何よりも優先しなければならない目的もある。

 たとえ何かしらの罠が待っていようとも、ここで歩みを止めるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 警戒するタートルズの心配とは裏腹に、一行は何事もなく基地の奥へと突き進んでいく。基地内部は進めば進むほど機械化が進み、道順も複雑になっていく。

 周囲を警戒しながら部屋の一つ一つ、その隅々までチェックしていく。

 

「ここは……コンピュータールームみたいだが……」

 

 その道中、彼らは巨大なコンピュータールームへと辿り着く。シュレッダーの姿こそなかったが、いくつものハイテクコンピューターがズラリと並ぶ光景は圧巻である。

 

「ドナテロ! ここから何か有益な情報を取り出せないか?」

 

 そんなハイテクな機器を前に、レオナルドはチームのブレーンであるドナテロへと声を掛ける。

 タートルズの中でも彼は機械の扱いに長けた技術派。タートルズの愛車・タートルワゴンだって彼の発明だし、パソコンの操作もお手のもの。

 困ったとき、とりあえずドナテロに頼れば大抵のことは何とかなる。

 

「そりゃ、やれと言われればやるけどさ……僕一人じゃ手が足りないよ」

 

 しかし、リーダーからの頼みにドナテロは自分だけでは手が足りないと愚痴を零す。これだけの巨大コンピューターを操作するのに、一人では時間が掛かり過ぎるというのだ。

 

「どれ……それなら、わしも手伝おうかのう」

 

 ならばと、ここで砂かけババアが重い腰を上げる。

 妖怪たちの中では、彼女が一番パソコンの扱いを熟知している。二人掛かりで手元のコンソールを操作していき、何とか情報を引き出そうと試みる。

 

「敵の気配なか……けど、油断は禁物ばいね!」

「ぬりかべ!」

 

 その間、一反木綿やぬりかべといった他の妖怪たちが周囲に気を配る。

 彼らもスマホ程度の扱いなら容易だが、ここまで複雑な機械を扱うのは流石に無理だ。ここは大人しく二人の護衛に徹していく。

 

「亀と妖怪のおばあさんの共同作業……う~ん、撮れ高としてはイマイチね……」

 

 ちなみに、二人の作業風景はエイプリル・オニールによって撮影されている。

 基地内部に突入してからというもの、彼女はずっとタートルズや妖怪たちの活躍をカメラに収めていた。

 

 

 

「——それにしても、随分とハイテクな機械よね……」

 

 待ち時間中、ふいに猫娘が周囲の機器を見渡しながら呟く。

 

「忍者って言うから……てっきり、武家屋敷みたいなところをアジトにしてるイメージがあったんだけど……」

 

 彼女はシュレッダー率いるフット団が、このような機械化されたアジトに身を潜めていたことに違和感を覚えていた。

 曲がりなりにも、彼らはフット流という忍者が源流にある組織の筈。それなのに忍術のようなものを行使することもなく、戦闘にもロボットや光線銃などの科学の力を用いてきた。

 勿論、猫娘も忍者に詳しいわけではない。イメージに合わない近代的なその有り様を、ちょっぴり意外に思ったくらいだ。

 

「いや、他の流派の忍者がどうかは知らないけど……シュレッダーはちょっと特殊なんだよ」

 

 すると、その疑問にレオナルドが答える。

 長年シュレッダーと戦い続けている彼らは、何故フット団がこのような最新テクノロジーを手にしているのか、その理由を知っていたのだ。

 

「さっきも話したけど、シュレッダーはスプリンター先生を追ってアメリカに渡ってきた。その際、奴はクランゲから最新テクノロジーの数々を提供されたんだ」

「……クランゲ?」

 

 ここでまたも初めて聞く名前。

 クランゲ——控えめに言っても、一般的な人間の名前には聞こえない。実際、シュレッダーのような悪党に手を貸す輩がマトモな奴であるわけがない。

 

「クランゲってのは、シュレッダーの同盟者……いや、一応は上司なのか?」

「あの脳みそダコ……あんまりシュレッダーから敬われてないから、判断に困っちゃうよ」

「……の、脳みそダコ?」

 

 ラファエロとミケランジェロがそのクランゲなる人物のことを説明しようとし、脳みそダコなる渾名で呼んだことが鬼太郎を困惑させる。

 だが、そうとしか説明しようがないのだ。

 

 

 クランゲは——まさに『脳みそに手足が生えた、タコのような物体』なのである。

 

 

 元々はちゃんとした肉体があったという話なのだが、少なくともタートルズたちは見たことがない。彼らが対峙するようになったときから、クランゲは脳みそだけの本体に『シュレッダーが作ったロボットに乗り込む』という形で行動するようになっていた。

 

 彼本来の肉体は——『ディメンションX』から追放される際に失われてしまったという。

 

「でぃ、でぃめんしょん……えっくす? なにそれ?」

「…………うん? それはもしや……並行世界というやつかのう?」

 

 またも新しい単語に目を回しそうになる猫娘だが、目玉おやじはすぐに理解を示した。

 

 こことは異なる次元、『並行世界』という概念。それ自体は妖怪たちにとっても既知のもの。少し前も、別の世界からやってきたという『少女』たちと共に戦った記憶が新しい。

 ディメンションXとやらも、その並行世界にあたるのかもしれない。目玉おやじの解答に、ドナテロが忙しなく機械の操作をしながら答えてくれる。

 

「並行世界……いや、どっちかっていうと別の惑星の住人、宇宙人って言った方が正しい。スペーストンネルを通ってこの地球にやってきた侵略者さ!」

「う、宇宙人……」

「スペーストンネルって……」

 

 次から次へと怒涛の勢いで流れ込んでくる情報量に、妖怪たちの脳みそはパンク寸前だ。

 既にミュータントという存在を呑み込むだけでも割と一杯一杯なのだ。これ以上新たな情報を聞かされたところで、それを処理し切ることができない。

 

 今のところ、クランゲという奴まで日本に来ている気配はない。

 今は当面の敵であるシュレッダー、奴が支配するこの日本支部をどう攻略するかに意識を切り替えていく。

 

 

 

「よし、これだ!! みんな注目!!」

 

 そうこうしているうちに作業が終わったのか。ドナテロは声を上げ、眼前の巨大モニターに画像を映し出していた。

 

「これがこの基地の大まかな全体像だ。山の中をくり抜いて建造されてる、かなり大規模だな要塞だねこりゃ……」

 

 ドナテロの説明通り、モニターには山のシルエット、その内部に造られた基地の全体像がマップで表示されていた。パッと見ただけでは細かな詳細まで把握しきれないが、どこに何があるかくらいは読み取れる。

 

「ここが今ボクたちがいる現在地……ちょうど山の中腹あたりだ」

 

 ドナテロはモニター内のカーソルを動かしながら解説、まずは自分たちが今いる場所を指し示し。

 

「でもって……こっちの下層の方にメインコンピュータールームがある。シュレッダーも恐らくはここにいる筈だ」

 

 次に基地の下層部。

 山の麓あたり、地面の近い部分にメインコンピューターが集中しているとのこと。シュレッダーがいるとすればそこだと当たりを付ける。

 

「捕まっている妖怪たちの居場所は分かりますか?」

 

 しかしそれ以上に知りたいこと、囚われている妖怪たちがどこにいるかを鬼太郎が尋ねた。その問いにドナテロは素早くコンピューターを操作していく。

 

「ちょっと待ってね……ここだな。基地の上層部に牢屋らしきものが設置されてる。妖怪たちが捕まっているとすればここしかないだろう」

「敵の親玉がいる場所とは完全に逆方向じゃな。さてどうしたもんか……」

 

 その答えに目玉おやじが頭を悩ませる。

 シュレッダーがいる場所と、仲間が捕まっている場所はまるで正反対の方向。どちらか一方に行くかそれとも——。

 

「仕方ない、戦力を二手に分けよう! 俺たちがシュレッダーをとっちめにいく!! その間に、君らで仲間を助けにいくんだ!!」

 

 ここでリーダーらしくレオナルドが率先して意見を口にする。シュレッダーの相手はタートルズが、妖怪の救出は鬼太郎たちが担当するべきだと提案する。

 実際その案は理に適ったもの、特に反対する理由もないのだが。

 

「……いえ、ボクもあなたたちと一緒に行きますよ」

「鬼太郎!?」

 

 だが鬼太郎は、自分だけでもタートルズたちに同行すると言い出した。これに驚く猫娘だが——。

 

「ここまで協力してもらって……僕たちだけ目的を果たしてサヨナラというわけにもいきませんから」

 

 鬼太郎たちにとって、シュレッダーとの戦いはあくまで二の次。極論だが、仲間の救出さえ済ませてしまえば、この基地の攻略にそこまで固執する理由もない。

 しかし、タートルズはシュレッダーの企みを挫くため、わざわざアメリカからこの国までやって来た。シュレッダーと決着を付けるまでは退くわけにもいかないし、そんな彼らにだけ全てを押し付けるわけにもいかないと。

 タートルズへの義理を果たすためにも、鬼太郎は最後まで彼らに力を貸すつもりでいた。

 

「……そういうことならお言葉に甘えよう! エイプリル! キミは妖怪たちと一緒に行ってくれ!」

「ええ!? 私だけ仲間外れ!?」

 

 それならばと、レオナルドは鬼太郎の代わりにエイプリルを妖怪たちに同行させる。エイプリル本人はタートルズと一緒に行けず不満そうではあったが。

 

「そう言わないでよ! 妖怪の人質救出ってのも……なかなかスリリングな体験だと思うよ?」

「それに、エイプリルが一緒ならタートルフォンで連絡を取り合うことも出来るからさ!」

 

 彼女の不満を、ミケランジェロやラファエロがメリットを提示することで抑えようとする。

 決してエイプリルが足手まといというわけではない。寧ろ彼女のタートルフォン、タートルズたちが常用している特殊な通信機があれば、互いの連絡もスムーズに済むと利点を上げていく。

 

「う~ん……しょうがないわね、オッケー!! こっちは任せてちょうだい!!」

 

 悩んだ末、エイプリルも納得する。

 流石に敵地で駄々をこねるほど彼女も子供ではない。信頼するタートルズがそのように判断したのなら、それがベストなのだと指示に従っていく。

 

 

 

「鬼太郎……」

「大丈夫だ、猫娘……みんなを頼んだ」

 

 一方で、猫娘などは鬼太郎と別行動を取ることに不安を抱いていたが、これも必要なことだと彼女を納得させる。

 

「さあ、行きましょう……タートルズ!!」

「オッケー、ブラザー!! レッツロックンロール!!」

 

 仲間のことを猫娘たちに任せ、タートルズと鬼太郎は共に——敵の本丸へと駆け出していく。

 

 

 

×

 

 

 

「——よう! よく来やがったな、亀ども!!」

「——わざわざやられにくるとは……亀スープにして食ってやるぜ!!」

 

 そうして、シュレッダーが待ち構えていると思われた区画——メインコンピュータールームへと辿り着く一行。

 もっとも、真っ先に出会したのはいつもの二人組・ロックステディとビーバップ。何の捻りも代わり映えもない彼らの台詞に、タートルズたちが脱力気味に肩を落とす。

 

「なんだ、またお前らかよ……」

「お前たち……よっぽど暇なんだな……」

 

 ミケランジェロやラファエロなど、露骨にため息まで吐いている。

 無論、連中も決して弱いわけではない。サイとイノシシから得たミュータントとしての力は本物であり、油断すればタートルズといえども足元を掬われかねない。

 だがいかんせん、頭が悪すぎる。力だけでは勝てないのが勝負の世界、残念だがこの二人では逆立ちしてもタートルズには敵わないだろう。

 

「お前たち、痛い目に合う前に降参するんだな!」

 

 もはや戦う前から結果は目に見えていると。レオナルドもさっさと降伏を促していく。ところが——。

 

「へへッ!! バカなやつらめ……調子に乗っていられるのも今のうちさ!!」

「お前らなんざ、わざわざ俺たちが相手をしてやるまでもねえ……来やがれ!!」

 

 ロックステディもビーバップも、妙に自信たっぷりの笑みを浮かべる。彼らは自分から戦おうという気配を見せず、誰かに向かって合図をするよう手を上げた——次の瞬間である。

 

 

 

『——ウォオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 

「なっ! なんだぁ!? 今の雄叫び!?」

 

 まるで地の底から轟いてくるような、悍ましい叫び声が通路の奥から聞こえきた。

 この世のものとも思えない、得体の知れない『何か』の遠吠えが、怖いもの知らずなタートルズたちの背筋すらも凍らせていく。

 

「鬼太郎!?」

「はい、父さん! これは……妖気!?」

 

 これに一緒に付いてきていた目玉おやじが叫び、鬼太郎も油断なく身構える。というのも、鬼太郎の頭部『妖怪アンテナ』が強い反応を示したのだ。

 タートルズやロックステディたちのようなミュータントであれば、妖気など感じない筈。だがその雄叫びが聞こえてくる通路の奥からは、確かに強烈な妖気が迸ってくる。

 

 妖怪に類する何かが潜んでいるのはもはや確定。問題は——どのような妖怪であるかということだが。

 

 

「……っ!? 来るぞ!!」

『——キュアアアアアアアアアア!!』

 

 

 刹那、荒々しい奇声を上げながらまず一匹。高速で飛び掛かってくる影があった。その影に対し、咄嗟に武器を構えてドナテロが応戦する。

 

「こ、こいつは……と、鳥!?」

 

 高速で飛来した影の正体は——怪鳥と呼ぶほどに巨大な鳥だった。

 人間一人を鷲掴みに出来そうなほどに巨大な鉤爪が、ドナテロの武器である木の棒をガッチリと掴んで離さない。

 その膂力は恐るべきものだが、それ以上に特筆すべきはその外見である。

 

「なんだ、こいつ!?」

「ほ、骨? 骸骨の……鳥!?」

 

 その鳥には——肉が付いていなかった。余計な肉片が全て削ぎ落とされた、全身が白骨化した姿はまさに骸骨の怪鳥。

 全身が骨だけでありながらも凄まじい速度で飛翔し、猛禽類を思わせるその鋭い鉤爪は一度掴んだ獲物を決して離そうとしない。

 

「こ、こいつ!? 離れろよ!!」

「大丈夫か、ドナテロ!?」

 

 これに必死に抵抗するドナテロ。仲間の危機にタートルズたちが慌てて助け舟を出そうとする。

 

「気を付けい、まだ来るぞ!?」

 

 だが続け様、さらに通路の奥から飛び出してくる影があると目玉おやじが警告を飛ばす。またも怪鳥の骸でも飛び出してくるのかと、身構える一同だったが。

 

 

『——ウォオオオ……ウホッホッホ!!』

「な……ご、ゴリラ!?」

 

 

 次に通路の奥から顔を出したのは——世界最大の霊長類・マウンテンゴリラの骸骨だ。

 習性なのかドラミング、自身の胸を叩きながら突撃してくる姿はさながらキングコングのよう。その巨体から繰り出される剛腕の一撃に、ラファエロとミケランジェロの二人が理不尽に殴り飛ばされていく。

 

「ゴリラって……心優しい生き物じゃなかったけ!?」

「おいおい、そりゃないよ!?」

 

 強烈な一撃に吹っ飛ばされながらも、何とか受け身を取った二人が口々に叫ぶ。

 いつものように軽口を叩いているようにも見えるが、余裕はない。いきなりの強襲、しかも理解不能な存在を前に、彼らも困惑を隠し切れていなかった。

 

 

『——グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

『——ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

 さらに駄目押しとばかりに、またも骸骨のモンスターが姿を現す。しかも今度は——ライオンにゾウという組み合わせだ。

 

 白骨化して尚、百獣の王者としての威厳を纏った、恐ろしい骸骨の風貌となった獅子が吠え猛りながら駆け出してくる。

 マンモスが墓場から蘇ったかのような威風、重量感たっぷりに巨象が迫ってくる。

 

「おお!? こ、この野郎!!」

「くっ!? 霊毛……ちゃんちゃんこ!!」

 

 それらの怪物たち、レオナルドが剣戟でライオンの爪と鍔迫り合い、鬼太郎が霊毛ちゃんちゃんこを広げて巨像の押し潰し攻撃を真っ向から押し返そうとする。

 だがどちらの攻撃も鋭く、重たい。レオナルドは獅子の猛攻に一方的に押され、鬼太郎は巨像に踏む潰される直前、何とか退避して攻撃を躱すしかなかった。

 

「こりゃ……旗色が悪いぜ!?」

「一旦体勢を立て直すんだ! みんな、集まれ!!」

 

 他の面子も、それぞれ怪鳥やゴリラの怪物を相手に防戦一方となっている。少なくとも個々の戦闘力は向こうが上回っていると、レオナルドが皆に号令を掛ける。

 何とか合流し、互いをフォロー出来るよう、背中合わせに円陣を組むタートルズと鬼太郎。すると、それを取り囲むような形で展開される骸骨の獣たち。

 

 怪鳥、ゴリラ、ライオン、ゾウ。なかなかにレパートリー豊富な面子である。

 

「おいおい……フット団はいつから動物園になったんだよ!?」

「割と前からじゃないの? サイにイノシシだっていたんだから!?」

 

 そんな動物もどきたちを前に、タートルズらは疑問を呈する。

 ロックステディやビーバップのような、ただのミュータントであれば彼らもここまで驚きはしない。だが眼前のこいつらは肉体が完全に骨と化しており、明らかに通常の生物の枠組みを越えている。 

 

「鬼太郎くん、こいつら……妖怪なんだろ!? なんて連中なんだ!?」

 

 理解の及ばない存在を前に、レオナルドは鬼太郎へと話を振る。

 先ほど、鬼太郎は彼らから妖気を感じると口走った。であるならば、これは鬼太郎の領分。連中がいったいどんな妖怪なのか彼に問い掛けるしかない。

 

「父さん!?」

「……わ、分からん。こんな妖怪……少なくとも、わしの知っている中にはおらんぞ!?」

 

 ところが妖怪に詳しい目玉おやじでさえも、彼らがどのような妖怪に該当するか皆目見当も付かないという。

 骸骨の妖怪というのであれば、『がしゃどくろ』や『骨女』。あるいは『化け鯨』など、それとなく思い浮かぶものはいるだろう。

 だがこんな動物の、しかも統一性のない個体ばかり並べられては予想することすらままならない。

 

 いったい、この骨の怪物たちは何だというのか?

 

 すると、戸惑うタートルズや鬼太郎たちの姿に優越感を抑えきれなかったのか。高みの見物を決め込んでいた、ロックステディたちが調子良く声を張り上げていく。

 

「いいぞ!! そのままカメどもをぶっ倒せ!!」

「いけ!! 一気に畳みかけちまえ……キョウコツ!!」

 

 その際、ビーバップの口からその妖怪の名前と思しき言葉が叫ばれる。

 

「なに、きょうこつ……狂骨じゃと!?」

 

 これに目玉おやじが目を丸くする。そういった名前の妖怪であれば、鬼太郎にも聞き覚えはあった。

 

「狂骨……父さん、それって確か?」

「うむ、井戸に打ち捨てられた人間の死体……その骨に宿った幽霊。それが狂骨という妖怪じゃ!!」

 

『狂骨』——井戸に放置された死体が白骨化し、それに怨念が宿った妖怪とされている。

 自ら井戸に身を投げたのか、あるいは誰かに殺されて捨てられたのか。それは定かではないが、常に強い怨念を抱いて井戸から出てくるというのが通例だ。

 

「じゃ、じゃが!! 狂骨は人間の死体から生まれる亡霊の筈じゃ! 奴らが動物の死体に宿るなど……聞いたこともないぞ!?」

 

 しかし狂骨はその誕生の経緯から、人間の白骨がベースとなっている妖怪だ。

 基本的には骸骨で幽霊のような姿。稀に実体を持つものもいるというが、それでも人間の姿形から大きく一脱することはないという。

 あのように鳥や獅子といった動物たちが狂骨になるなど、前例が存在しない。

 

「んなこと言われたって……実際に目の前で暴れてるでしょうが!!」

「ゴリラちゃん! お腹空いてるならバナナ食うかい!?」

 

 だが実際、狂骨は動物の白骨となって暴れ回っており、苦戦しながらも何とか応戦するしかないタートルズたち。

 

『——し……もしもし? タートルズ? 応答してちょうだい!!』

 

 と、このタイミングでエイプリルの声が聞こえてきた。

 彼女の呼び掛けに答えるべく、レオナルドは懐から通信機・タートルフォンを素早く取り出して返事をする。

 

「なんだい、エイプリル!? 今取り込み中なんだ! 悪いけど手短に話してくれ!!」

 

 しかし今は狂骨と交戦中。彼らの苛烈な攻撃を凌ぎながら、呑気に世間話に花を咲かせるわけにはいかない。手短に要件だけを伝えるように叫ぶ。

 

『もしもし! 鬼太郎、聞こえてる!? 私……猫娘よ!!』

「猫娘、そっちの首尾は!?」

 

 すると今度は通信越しに猫娘の声が聞こえ、これに鬼太郎が大声で返事をする。仲間の救出を第一に動いていた彼女たちだが、果たして肝心の目的は果たせたのだろうか。

 

『大丈夫!! 捕まっていた妖怪たち……いそがしや、骨女! 連れ去られていた連中はみんな無事だったわ!!』

「!! そうか……それはよかった!」

 

 狂骨たちの猛攻に苦しめられながらも、鬼太郎は笑みを浮かべる。一番の懸念だった仲間の安全が無事確保できたと、その朗報だけでも肩の荷が下りる気持ちであった。

 

『ただ……』

「ただ……? どうかしたのか!?」

 

 だが、そこで猫娘の報告は終わらない。彼女は少し困ったように、自分たちが直面している現状を口にしていく。

 

『その……妖怪以外にも捕まっている子たちがいるんだけど、それが……動物なのよ』

「……動物?」

 

 猫娘によると、妖怪たちが捕らえられていた牢のすぐ側、別の牢屋に動物たちが閉じ込められていたというのだ。

 

「そういえばフット団の奴ら……動物園からも動物を盗んでいると、総理が言っておったのう」

 

 ここで目玉おやじが、総理代理から聞いた話を思い返していた。

 妖怪の誘拐以外にも、フット団は数多くの犯罪に手を染めており、その中に動物の窃盗も含まれていると。十中八九、その動物たちは動物園から盗まれたものだろう。

 しかし動物は勿論、妖怪を誘拐して何をするつもりだったのか。その目的を鬼太郎たちは未だに理解しきれていなかった。

 

「ちょっといいかな!?」

 

 すると、ここでドナテロがタートルフォンに向かって叫ぶ。

 

「その動物ってのはどういう種類? 具体的に言ってもらえる!?」

『どういうって……ええと……』

 

 捲し立てるように問いただすドナテロの言葉に、猫娘も空気を読んで簡潔に答えていく。

 

『大鷲に、ライオン。それからゾウに……ゴリラなんかもいるんだけど……』

「!! その組み合わせって……」

 

 その言葉に鬼太郎は目を見開く。

 猫娘が口にしたその動物たちは、まさに眼前にいる狂骨たちと同じ種類だったのだ。この一致は偶然ではないだろう、タートルズのブレーンであるドナテロは、その理由までも瞬時に把握する。

 

「そうか……分かったぞ!! シュレッダーの奴、妖怪にミュータンジェンを使ったんだ!!」

「ミュータンジェン!?」

 

 ミュータンジェン——生物を歪な形で変化させる危険な薬品。

 ただの亀を人間に。人間をねずみやサイ、イノシシへと変えてしまう代物。ドナテロが推測するに、シュレッダーはそれを『妖怪』に使用したというのだ。

 

「おそらく、狂骨とそれぞれの動物たちを一緒に配置してミュータンジェンを使ったんだろう。その結果が……あの姿ってわけだ!」

 

 それこそ、連中が『狂骨』という同じ妖怪でありながらも、全く別の姿をしている理由だ。ミュータンジェンの効力には『対象を身近に接していた生物へと変える』というものがある。

 大鷲の近くにいたものは怪鳥に、ライオンの近くにいたものは獅子に。ゾウやゴリラといった動物の姿や能力も、そのようにして獲得したものだという。

 

 

「——その通りだ!!」

 

 

 するとドナテロの推測に答えるよう、メインコンピュータールームに堂々と男が一人姿を現す。

 鉄の兜に鉄仮面、鉄の小手に具足、鉤爪まで装備したマントを羽織ったその姿は、タートルズにとってはあまりにも見慣れた宿敵。

 

 

「出たな、鉄仮面! 相変わらず、無愛想なツラだぜ!!」

「あいつがシュレッダー……!」

 

 

 鬼太郎にとっては初対面であるフット団の親玉・シュレッダーの登場に、その表情が自然と険しくなっていった。

 

 

 

×

 

 

 

「フッフッフ……驚いたようだな、タートルズの諸君!!」

 

 勿体ぶって姿を見せたシュレッダー。僅かに見える鉄仮面の隙間から得意げな笑みを浮かべ、彼は意気揚々と語っていく。

 

「我輩は忍びの修行時代から、お前たち妖怪に強い関心を抱いていたのだ。この国に来たのは別件だが……この機会に奴らにミュータンジェンを使ったらどうなるか、色々と試させてもらったのよ」

「そのために、妖怪たちを誘拐していたのか!!」

 

 その言葉で、鬼太郎もシュレッダーが妖怪を連れ去るなんて真似をしていた理由を悟る。彼は自らの知識欲を満たすため、妖怪を実験材料に強いミュータントを生み出そうとしていたのだ。

 そんな彼の我欲のせいで仲間たちを危機に晒され、鬼太郎の握り拳にも自然と力が入る。

 

「結果はご覧の通りだ! この狂骨どもは新たな肉体を得て、大幅にパワーアップした!!」

 

 しかし鬼太郎の怒りに気付いた様子もなく、シュレッダーは科学者として研究成果を得意げにお披露目していく。

 

「元々こいつらには肉体がなかった。その分、元となった動物たちの特性を強く引き継いだようでな……最初のテストケースとしては、申し分ない成果だったぞ!!」

『——オオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 シュレッダーの解説に応えるよう、動物の形へと変化した狂骨どもが唸り声を上げる。既に狂骨としての性質は『体が骨であること』それから『強い恨みを抱いている』ということくらい。

 もはや彼らは、完全に獣としての獣性に自らの意思を支配されている。

 

「あとは実戦でその性能を試すだけだ……さあ行け、狂骨ども!! 奴らを叩きのめせ!!」

 

 そんな獣たちに向かい、シュレッダーは命令を飛ばす。

 狂骨たちも自らの破壊欲、憎しみという名の復讐心を満たすため。敵であるタートルズや鬼太郎へと群がっていく。

 

 

 

「おいおい……どうすんだよ、こいつら!?」

「この狂骨って奴ら、何か弱点とかないわけ!?」

 

 狂骨の激しい猛攻に晒されながらも、タートルズたちは不利な戦況を何とかしようと、連中に付け入る隙がないか妖怪である鬼太郎たちに問いを投げ掛ける。

 

「う~む……狂骨は元々文献も少ない妖怪じゃからな。人間に強い恨みを抱いているという以外、あまり知られておらんのだ」

 

 だが、目玉おやじの知識にも狂骨に弱点などない。

 そもそも資料自体が少ない妖怪であり、特徴らしい特徴も『人間相手に強い怨念を抱いている』ということくらいだろう。

 

「人間に強い恨みって……だったらシュレッダーに襲い掛かってほしいもんだよ!!」

「ああ、この中で一番人間なのは奴だからな!!」

 

 人間に強い恨みと聞き、ミケランジェロやラファエロの視線がシュレッダーへと向けられる。

 皮肉だが、この場で一番人間なのはシュレッダーだ。ミュータントでも妖怪でもない、純粋に人間という種族。

 

『ニンゲン?』

『に、にんげん!?』

 

 タートルズの指摘が狂骨たちにも聞こえたのか、そこで彼らは一斉にシュレッダーを振り返る。

 

「ば、バカモン!! 誰のおかげでその力が手に入ったと思っておるのだ!!」

 

 意外にも焦りを見せるシュレッダー。だがすぐに気を取り直し、次のように言い返す。

 

「我輩は極悪人だ! 人間社会に仇を成す存在である! そんな我輩よりも……そこにいるゲゲゲの鬼太郎の方が、よっぽど人間の味方をしておるぞ!!」

「えっ!?」

 

 まさかのご指名に鬼太郎が目を見開く。しかし彼の言い分や戸惑いなど関係なく、狂骨たちも鬼太郎をそのようなものであると認識しているのか。

 

『鬼太郎……人間の味方!?』

『妖怪の裏切り者……許さないィイイいいい!!』

 

 鬼太郎への憎悪を剥き出しにしながら襲い掛かってきた。

 

「くっ……髪の毛針!!」

 

 その勢いの前では反論をする余地もなく、鬼太郎も必死に応戦するしかなかった。

 

 

 

「やばいぜ……鬼太郎が劣勢だ!?」

「待ってろ、今援護してやるからな!!」

 

 敵の戦力が鬼太郎へと集中していく戦況に、ラファエロとミケランジェロがすかさず援護へと走る。

 短い付き合いとはいえ、このまま彼が倒されてしまうのを黙って見過ごすわけにはいかない。鬼太郎と一緒に狂骨と戦い、その勢いを食い止めていく。

 

「…………」

「どうした、ドナテロ? 何か気になることでもあるのか?」

 

 そうして仲間たちが戦線を維持している間、ドナテロは少し離れたところからその戦いを観察していた。ドナテロの思案顔に何かしら策でも浮かんだかと、レオナルドが声を掛ける。

 

「なるほどね……妖怪については分からないが、ミュータンジェンで動物の特性を引き継いでいるのなら……何とかなるかもしれないぞ!!」

「本当か、ドナテロ? どうすればいい!?」

 

 どうやら、本当にあの凶暴な狂骨への対抗策が思い浮かんだようだ。

 

「つまりだな……ゴニョゴニョ……」

「……なるほど。よし……やってみるか!」

 

 ドナテロは敵さんに聞かれないよう、レオナルドにこっそりと耳打ちし『どう攻めればいいのか』を説明する。

 彼の作戦に十分な勝算を見出したのか。反撃のきっかけを作ろうと、レオナルドが動き出す。

 

 

 

「——ミケランジェロ! ラファエロ! 二人で何とかゴリラもどきを抑えといていてくれ!!」

 

 レオナルドは最初、ミケランジェロとラファエロに向かって叫んだ。

 

「よっしゃ、任せとけ!!」

「ゴリラさん、ここまでおいで!!」

 

 その言葉には細かい説明が何も含まれていなかったが、二人は何の迷いもなくその指示に従う。リーダーであるレオナルドへの熱い信頼が、その短いやり取りから垣間見えた。

 

『ウォオオオ……ウホッホッホッ!!』

 

 ミケランジェロの挑発もあり、まんまと集団から引き離されていくゴリラタイプの狂骨。

 残る敵戦力は怪鳥、獅子、巨象タイプの狂骨たち。果たしてこの連中を相手に、どのような戦術で立ち回ろうというのか。

 

「鬼太郎くんはこっちだ! 俺に付いてきてくれ!」

「は……はい!!」

 

 次にレオナルドは鬼太郎へと声を掛ける。いきなりのことで流石に戸惑っていたが、鬼太郎もレオナルドを信じてその指示に従う。

 二人は互いの動きをフォローしながら、敵の懐へと突っ込んでいった。

 

『——キュアアアアアアアアア!!』

 

 そのとき、上空から怪鳥タイプの狂骨が襲い掛かってくる。鬼太郎たちの無防備な背中をその鉤爪で引き裂こうというのか、上空から一気に降下してきた。

 

「——おっと、お前さんの相手はこっちだよ!!」

『キュア!?』

 

 だが、その動きを待っていたとばかりに、ドナテロは怪鳥を『上空』から強襲。

 彼は自身の得物である木の棒を用い、棒高跳びの要領でジャンプしていたのだ。そのまま怪鳥の背中へと組み付き、亀が鳥の制空権を奪っていく。

 

「今のうちに……ほれこっちだ! こっちに来な!!」

「リモコン下駄!!」

 

 ドナテロが怪鳥の動きを封じている間、レオナルドと鬼太郎が同時に仕掛ける。それぞれが獅子と巨象へと適度な攻撃を加え、その注意を引きつける。

 

『ガァアアアアアアアアアア!!』

『オオオオオオオオオオオン!!』

 

 半端な攻撃で傷付けられ、ムキになった狂骨たち。反撃しようと獅子は前足でひっかきを繰り出そうと身を乗り出し、巨象はその巨体から体当たりをぶちかましてくる。

 どちらも強烈な一撃だ、まともに受ければ致命傷は避けられないだろう。

 

「——よーし……今だ!!」

 

 だが、その反撃こそレオナルドが待ち兼ねていたものだった。相手の攻撃をギリギリのタイミングまで引きつけ——直撃の寸前で躱す。

 鬼太郎も、レオナルド同様に狂骨たちの攻撃を回避する。

 

 それにより標的を見失った獅子と巨象、それぞれの攻撃が——対角線上に立っていた両者に直撃した。

 獅子には巨象の体当たりが、巨象の足を獅子の爪が切り裂いたのだ。

 

『グルッ!? グアアアアアアッ!!』

『パッ!? オオオオオオオオオオ!?』

 

 これに怒った狂骨同士、まるで互いを責め合うように唸り声を上げ——両者はそのまま同士討ちを始めてしまう。

 

「ば、バカモン!! 何をやっているのだお前たちは!?」

 

 思わぬ光景に、戦況が有利だとほくそ笑んでいたシュレッダーが慌てて口を挟む。だが彼の言葉になど狂骨たちは耳を傾けない。

 まるでそうするのが当然とばかりに、狂骨たちは激しく争い合う。

 

「——しくじったな、シュレッダー!!」

 

 ここで、レオナルドがシュレッダーのミスを指摘した。

 これは狂骨たちをミュータンジェンで『別々の動物』へと変えてしまった、シュレッダーの過失によって生まれた結果だと。

 

「狂骨たちを全て別の動物に変えたのが失敗だったのさ! 違う動物同士……こいつら、連携がまるで取れていないんだよ!!」

「——っ!!」

 

 それこそ、ドナテロが気付いた狂骨たちの欠点だ。

 

 ミュータンジェンにより、肉体を得た彼らは確かに強力な怪物となった。

 しかしそこに理性はなく、その様はまさに本能のままに暴れる獣でしかない。このように、きっかけ一つあれば簡単に反目し合う。

 しかも、それがライオンとゾウ——肉食動物と草食動物であれば尚のこと。反発し合うのが自然界の掟というものだ。

 もしも同じ動物同士。例えば全ての狂骨たちをゾウなどで統一していれば、逆に仲間意識を持って一致団結していたかもしれず、タートルズはさらに苦戦を強いられていたことだろう。

 

「——指鉄砲!!」

 

 だが、今の狂骨たちにチームワークなど存在せず。彼らが仲間割れしている間にも、鬼太郎は妖気をチャージ、必殺の指鉄砲が炸裂する。

 

『——グアアアアアアアア!?』

『——ゴアアアアアアアア!?』

 

 放たれた青白い妖気弾が、争い合うのに夢中になっていた獅子と巨象を同時に貫く。

 二体の狂骨は仮初の肉体を消滅させ、魂は何処ぞへと飛び去っていく。

 

 

 

 鬼太郎がまずは二体、敵を打ち倒している間にもさらに戦況は進んでいく。

 

「ほれこっち! こっち飛んで!!」

『キュア!? キュアアアアアアアアア!!』

 

 怪鳥の背中に乗ってその自由を奪っていたドナテロ。そのままその身体を操縦し、その行き先を誘導する。

 

「ラファエロ! ミケランジェロ! そこどいてちょうだい!!」

「!!」

 

 ドナテロが向かったのは、作戦通りゴリラの足止めをしていたラファエロとミケランジェロの元であった。ドナテロの叫びに呼応し、彼らもすぐにそこから飛び退いていく。

 

「亀さんからのプレゼントだ! ありがたく受け取りな!!」

 

 仲間が退避したことを確認したドナテロは、そのまま怪鳥をゴリラに向かって墜落させる。当然、落ちる寸前に自分は離脱する抜け目のなさ。

 

『キュアアア!?』

『ホッ!? ウッホッホ!!』

 

 自由を奪われて落下する怪鳥がゴリラへとぶち当たる。これにゴリラは顔を真っ赤に怒り狂い、ぶつかってきた怪鳥に対して本能的に反撃する。

 ここでもやはり同士討ちを始めてしまう狂骨たち。

 

「こらこら……地獄に落ちるときくらい、仲良く逝きな!!」

「ゲッツファンキー!!」

 

 タートルズにその内輪揉めが終わるのを待ってやる義理などない。

 ラファエロが釵を怪鳥の脳天目掛けて投擲。ミケランジェロが最大威力でヌンチャクをぶん回し、ゴリラの頭蓋骨を粉砕する。

 

『——オオオオオオォォォォォォ!!』

 

 最後の断末魔だけは、息が合うようにどちらも怨嗟の叫び声だった。彼らもまた仮初の肉体を失い、その魂が何処ぞへと飛び去っていく。

 

 

 

「へへッ! ざっとこんなもんよ!!」

「見たか、俺たちのチームワーク!!」

 

 見事な連携で狂骨どもを倒したタートルズが、ハイタッチで戦果を喜び合う。

 個々の力では狂骨が勝っていただろうが、連中には団結力が皆無であった。兄弟のように共に育ち、数々の戦いを一蓮托生で乗り越えてきたタートルズたちの敵ではなかったのだ。

 

「ナイスショットだったよ、鬼太郎くん!!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 さらに鬼太郎との連携も即興の割には悪くなかったと、レオナルドが鬼太郎にもハイタッチを求める。

 少し照れくさそうにしながら、鬼太郎も満更でもない様子でタートルズたちと勝利を分かち合っていった。

 

 

 

×

 

 

 

「おのれぇえええええ、亀ども!! どこまでも我輩の邪魔をしおってからに!!」

 

 シュレッダーは屈辱に震える拳を固く握りしめていた。

 せっかく新たに加えた戦力、妖怪ミュータントをあっさりと倒されてしまった。正直タートルズに負けなどいつものことだが、今回こそはと自信を持って挑んだだけあって、してやられた怒りを抑えきることができない。

 

「あ、あいつら……一匹残らずやられちまったよ!!」

「に、逃げようぜ、ボス!!」

 

 戦況が不利になるや、ロックステディとビーバップは慌ててメインコンピュータールームから別室へと退避していく。このまま、おめおめと尻尾を巻いて逃げ出す算段なのだろう。

 しかしプライドがあるのか、シュレッダーはただでは引き下がらない。

 

「貴様ら……許さん!!」

 

 怒り心頭といった様子で懐から小銃を取り出し、その銃口をタートルズへと向けていく。

 

「なんだよ、今更そんな銃一丁でどうにかなるとでも……」

 

 これにタートルズは余裕の表情を浮かべる。

 彼らにとって銃など見慣れたもの。ましてや、そんな小さな拳銃如きで何ができるのかと、完全にシュレッダーを甘くみている。

 

 ところが——。

 

「その銃は……!?」

「な、なぜ……どうして、お前さんがその銃を!?」

 

 その銃のフォルムを目撃した刹那、鬼太郎の目の色が変わる。目玉おやじですらも、冷静さを失って叫び声を上げていく。

 

「おいおい、何をそんなに慌ててるんだよ?」

「シュレッダーのあの銃が……どうかしたのか?」

 

 どうして鬼太郎親子がそこまで狼狽しているのか、いまいち状況を呑み込めていないタートルズ。

 しかし鬼太郎にとって、日本妖怪たちにとって。シュレッダーの所持している『銃』は重要な意味合いを秘めていた。

 

 

 

「——どうして、お前が……対妖怪銃を!?」

 

 

 

 そう、シュレッダーが取り出したそれは——『対妖怪銃』。

 

 日本政府が妖対法の下に開発した特殊拳銃。妖怪の魂にさえダメージを与えてしまう代物で、かくいう鬼太郎自身も、その銃で一度はその肉体を滅ぼされてしまっているのだ。

 銃は現在、日本政府の管理下で使用用途について厳格な基準が設けられていると聞いた。

 政府が管理している筈のその武器を、どうして犯罪組織の親玉が所持しているのか。それが信じられないと鬼太郎は目を見張っていた。

 

 

「……フンッ! 何故も何も……この銃は元々我輩が日本政府の依頼で制作し、提供した武器だぞ?」

「なっ……!?」

 

 

 シュレッダーの口から紡がれたその言葉は、鬼太郎たちを絶句させるほどの衝撃を含んでいた。

 もっとも、シュレッダー本人は何でもないことのように続きを淡々と話していく。

 

「この銃には、我輩がクランゲから得たディメンションXの技術が使われておる。この国の総理……いや、前総理だったか? あの女は妖怪がよっぽど憎かったらしくてな……我がフット団にまで技術提供を求めてきたのだ!!」

 

 前総理大臣。彼女は妖対法を施行し、妖怪をこの国から消し去るためにその政治生命を費やした。

 その妖怪を滅さんとする執念が、犯してはならない一線を越えさせてしまっていたのだ。

 

「多額の謝礼金と……我々の活動を黙認するという条件と引き換えにな……フッフッ。おかげで、この国での仕事もだいぶやりやすくなったぞ、ハッハッハ!!」

 

 技術を提供することで得た見返りのことを思い出しながら、シュレッダーは高笑いを上げていく。

 

「……おいおい、マジかよ……」

「……フット団と日本政府の癒着……大スクープだよ、こりゃ……」

 

 流石のタートルズたちも、これには開いた口が塞がらない。

 一国の総理大臣が犯罪組織と手を結ぶなど、国家の根幹を揺るがす大事件だ。ここにエイプリル・オニールがいれば、このスクープに嬉々として飛び付いたことだろう。

 

「総理……そこまでして、ワシらを……くっ!」

 

 今は亡き前総理の妄執に、目玉おやじですらも憂いの表情を浮かべている。

 

「まあ……それも奴が総理でいられたまでの間よ。あの女が死んで今の総理に代替わりしてからというもの、我らの活動も縮小せざるを得ないまでに追い込まれてしまったわ!」

 

 もっとも、それも前総理が秘密裏の結んだ協定に過ぎない。

 今の総理代理にまでその繋がりは続いておらず、寧ろ現政権は前政権の膿を出そうと躍起になってフット団のことを嗅ぎ回っているとのことだ。

 

「我輩が日本に赴いたのも、元はと言えばその後始末のためだ。この国での活動規模を大幅に縮小……証拠は全て抹消するつもりでおったのよ」

 

 そもそもな話、シュレッダーが日本に出張に訪れたのもこの国から手を引くためだったという。

 撤退の準備を進め、組織の身辺整理を終わらせたら、すぐにでもアメリカに帰るつもりでいたのだが——。

 

「だが、片手間に始めた妖怪どものミュータント実験が思いの外上手く進んでな! 気がつけば本来の目的も忘れ、すっかり研究に没頭していたというわけよ!!」

「いや、忘れちゃダメだろ……」

 

 しかし日本を訪れ、兼ねてより気になっていた妖怪への生体実験に手を出してからというもの、シュレッダーはすっかり研究にのめり込むこんでしまった。

 当初の目的は何処へやら、人目もはばからずにこの国での活動を活発化させてしまっていたのだ。

 

 だがその活動も——タートルズと鬼太郎たちの手により、破綻寸前へと追い込まれた。

 

「こうなってしまった以上、当初の目的通りこの国より撤収するしかあるまい……最後にこの銃の威力を貴様らで試してなっ!!」

「くっ!?」

 

 だが追い込まれながらも、シュレッダーは対妖怪銃の銃口をタートルズ——そして鬼太郎へと向ける。

 タートルズはともかく、鬼太郎にとってその銃はまさに『拒絶の証』。人間が妖怪を否定する象徴のようなものだ。

 

『——この国に妖怪はいらない』

「くっ!?」

 

 それを突きつけられたことで一瞬、前総理の言葉が彼の脳裏を過ぎる。そのせいか反応がタートルズよりも僅かばかり遅れてしまう。

 

 

「——くたばれ!!」

 

 

 一人隙を見せる鬼太郎へと、シュレッダーはその凶弾をお見舞いしようと引き金に指を掛ける。

 

 

 

 

 

「——な……なにぃいいい!?」

 

 だが、その銃口から弾丸が発射されることはなかった。弾が発射される寸前、どこからともなく飛来してきた『杖』が、シュレッダーの手から拳銃を叩き落としたのだ。

 ダメージを受けて手を抑えるシュレッダーが、憎しみのこもった声音で叫ぶ。

 

「おのれぇえええ!! 誰だ! 我輩の邪魔をするのは!?」

「こ、この杖は……!?」

 

 シュレッダーの凶行を阻止したのは、タートルズではなかった。彼らが鬼太郎を守ろうと動くよりも迅速に、その杖は彼らの後方から飛んできたのだ。

 

 そして、その杖の形状に——タートルズはこれでもかと見覚えがあった。

 

 

「——その歪んだ性根……何も変わっておらんようだな、沢木小禄よ」

「——!!」

 

 

 杖が投げ込まれた後方から、そのものが姿を現す。シュレッダーを本名・沢木と呼ぶ人物——その正体は一匹のねずみであった。

 勿論ただのねずみではない。人間の大きさ、人の言葉を介する道着を纏ったねずみのミュータント。

 

「き、貴様はっ!? よ、吉浜武!!」

「す、スプリンター先生!?」

 

 そう、タートルズの——そしてシュレッダーのかつての師匠でもある男・吉浜武こと、スプリンターその人の登場である。

 

 予想外の援軍を前にシュレッダーの顔が激情に歪み、タートルズが喝采の声を上げていた。

 

 

 

×

 

 

 

「薄汚いドブネズミが!! どの面下げてこの国に戻ってきやがった! 貴様は追放された身の上だろうが!!」

 

 開口一番、シュレッダーはスプリンターに何故この国にいると文句を口にする。彼は人間時代、シュレッダーの策略によって忍びの里を追放され、日本からも追い出されている。

 既にこの国に居場所などないものが今更戻って来るなと、元師匠を責め立てるシュレッダー。

 

「おかしなことを言う……私を追放したフット流は、お前の手によって悪の巣窟と化した。そんな組織との約定など律儀に守る必要はあるまい……まっ、これは弟子たちの受け売りだがな」

「スプリンター先生……!」

 

 もっとも、元弟子の言い分をスプリンターは切って捨てた。

 スプリンターがその教えを守るべき組織は既にこの地上に存在しないと。ならばそんな決め事、わざわざ聞いてやる義理もないのだと。

 弟子であるタートルズの意見を認めるよう言い返したのだ。これに言い出しっぺのラファエロの表情が明るくなる。

 

「ほ、ほざきおって~!! ノコノコ戻ってきたこと、後悔させてやるぞ!!」

 

 これにシュレッダーは大激怒。

 もはや冷静な判断力もなく、スプリンターに掴みかかろうと拳を振り上げる。

 

 

『——シュレッダー……応答せよ!! シュレッダー!!』

 

 

 そのときだ。暴走するシュレッダーに水を差すよう、奇妙な声が響き渡った。その声は通信機器を通し、基地内にいた全てのものの鼓膜を震わせた。

 そして、鬼太郎たちがいるメインコンピュータールームの巨大モニターに——その声の主の姿が映し出されていく。

 

「なんじゃあれは!? の、脳みそ!?」

 

 画面にアップで映し出されたそれは、『脳みそ』としか表現しようのない物体であった。

 脳みそに、目や口が付いて喋っている。さらに腕のようなものがタコの触手のように伸びており、目玉おやじですらも初見では驚かざるを得ない見た目をしている。

 

「出たな、あいつがクランゲだよ!!」

「あれが……宇宙人の……」

 

 馴染みの顔だったのか、モニター内の脳みそタコに向かってタートルズが叫ぶ。

 あれこそ、先ほども説明があったクランゲ。シュレッダーの同盟者である宇宙人の登場に鬼太郎も息を呑む。

 

「何の用だ、クランゲ!! 今いいところなのだ……邪魔をするでないわ!!」

 

 一応は上司であるクランゲ相手に、シュレッダーは乱暴に叫ぶ。イライラが最高潮に達している中でのお小言が、彼をさらに不機嫌にさせていく。

 

『シュレッダー……いつまで遊んでいるつもりだ? その国でお前がすべきことはくだらないバイオ実験ではない筈だ』

 

 しかしクランゲは冷静に、ネチネチと嫌味ったらしくシュレッダーの行動に口を出していく。

 

『もうその国に用はない……とっととニューヨークに戻って来い!!』

「!!」

 

 と、クランゲがそう怒鳴るや——地響きが鳴る。

 何事かと身構える一同。次の瞬間、巨大なドリルを先端に付けたマシーンがメインコンピュータールームへと突っ込んできた。

 その先端のドリルは基地の中枢であるメインコンピューターを粉砕し、シュレッダーの目の前で停車した。

 

「ボス!! クランゲの奴がこの基地を放棄しろって……!」

「急いで脱出しましょうぜ、ボス!!」

 

 そのマシーンに乗っていたロックステディとビーバップがハッチを開けてシュレッダーを招き入れる。

 既にクランゲから命じられていたのか、メインコンピューターを粉々に破壊することで情報という名の証拠を隠滅、撤退の準備を完了させた。

 

「ぐぬぬぬ……あのタコめが!!」

 

 シュレッダーはクランゲへの不満を抱きつつも、流石にこれでは撤退するしかないと悟ったのか。早急に脱出すべくマシーンへと乗り込んでいく。

 

「実家に逃げる気かシュレッダー!?」

 

 これにレオナルドが声を張り上げる。実家というのは、シュレッダーたちの本拠地・テクノドロームと呼ばれる要塞のことだ。

 彼らはいつも、そのマシーンに乗ってモグラのように地中深くへと逃げてしまう。

 

「逃げる? とんでもない!! 寧ろ今回のことで身に染みたわ!!」

 

 だが立ち去る間際、シュレッダーは捨て台詞を吐いていく。

 

「やはり貴様らは我輩にとって目の上のたんこぶ!! 貴様らを始末しない限り我輩は……枕を高くして眠ることもできないのだ!!」

 

 わざわざ日本にまで現れ、自分の邪魔をしにきた宿敵・タートルズ。

 彼らが存在している以上、シュレッダーはたとえ地球の裏側だろうと安心して悪巧みもできない。

 

「貴様らとの決着はいずれ付けてやる!! 首を洗って待っているがいい……フッフッフ、フハッハッハッハ!!」

 

 やはりまずは彼らタートルズを始末するべきと、シュレッダーは声高らかに宣言。

 

 高笑いを上げながらその場から——日本という国から立ち去ることとなる。

 

 

 

「なんだよ、偉そうに!!」

「全く! 最後まで嫌な笑い方だぜ!!」

 

 シュレッダーが威張りながら逃げ出すその姿に、ムカッ腹を立てるミケランジェロとラファエロ。毎度のことではあるが、逃げ足が早くて追いかける暇もなかった。

 またしてもシュレッダーとの決着は先送り、次の機会へと持ち越しである。

 

 それに——今は逃げたシュレッダーのことなど気に掛けている場合ではなかったりする。

 

「まずいよ、基地全体が崩れかけてる! このままじゃ生き埋めだ!?」

 

 メインコンピューターを破壊された影響か、基地全体が崩れかけているとドナテロが指摘。このままでは遠からずこの基地は崩落、内部に取り残されれば全滅は必死だ。

 

「エイプリル、こちらレオナルド!! そっちの状況はどうなってる!?」

 

 レオナルドはタートルフォンを通じ、エイプリルたちと連絡を取った。人質救出を終えた彼女たちが今どうしているか、あちらの状況を把握しておかなくてはと思ったのだろう。

 

『こちらエイプリル! 今は基地の出入り口のタートルワゴン!! いつでも脱出できるわ、急いで戻って来て!!』

 

 するとエイプリルたちは既に人質の救出を終え、いつでも脱出できる体勢に移行しているとのこと。

 とりあえず、彼女たちの方は心配いらないと安堵するのも束の間。すぐに自分たちの危機的状況に頭を抱えるタートルズ。

 

「戻れって言われても……今から駆け込んでも間に合わないよ!!」

 

 ミケランジェロが言うように、彼らの今いるところからでは戻るまでに時間が掛かり過ぎる。既に崩落まで秒読み段階、生き埋めになるのももはや時間の問題である。

 

「皆の衆、私について来なさい!!」

「スプリンター先生!!」

 

 だがここで、救援に駆け付けてくれていたスプリンターがタートルズたちを導いていく。

 

「私が侵入に使った通路がある……そこから脱出するぞ!!」

 

 どうやら、スプリンターは別ルートからこの基地へと侵入してきたらしい。ここから近いのか、慌てる様子もなくタートルズたちを案内していく。

 

「鬼太郎、ワシらも行くぞ!!」

「……分かりました、父さん」

 

 当然、鬼太郎も目玉おやじもすぐにその後へと続く。

 敵の親玉も逃げたし、仲間の救出も完了した。これ以上、崩壊する基地に留まっている理由などありはしなかった。

 

 

 

 

 

 そうして、一行はスプリンターが先導するまま、メインコンピュータールームよりさらに下層——地下へと降りていく。

 そこは基地が建設された山中の地下に存在する、地下洞窟だった。作りからして自然に出来たものだろう、フット団ですらもこの場所を把握していなかったようだ。

 

「ここまで来ればいいだろう……安心してよいぞ、タートルズ」

 

 そしてそこは基地の外であり、崩落の影響もないと。スプリンターが皆を安心させるように安全を告げる。

 

「ふぅ~……助かりましたよ、スプリンター先生。けど、どうして日本に? ニューヨークに残っていた筈じゃ?」

 

 間一髪のところで危機を乗り越えたタートルズ。レオナルドが代表して師匠であるスプリンターに礼を述べるが、そもそも彼はニューヨークでタートルズたちの帰還を待っていた筈だ。

 いつの間に日本に来ていたのだろうと、タートルズたちが揃って首を傾げる。

 

「お前たちの危機を感じ取ったのだ。私が行かねばお前たちが危ないと……どうやら間に合ったようだな」

 

 虫の知らせというやつか、スプリンターはタートルズの危機を感じ取ったという。師弟の結びつき、タートルズとの絆が成せる業とのことだ(尚、理屈は不明)。

 

「なんにせよ、来てくれて助かったぜ!! 先生が来てくれなきゃ、俺たちみんな化石になっちまってたところだよ!!」

 

 まあ理屈はどうであれ、師匠のおかげで助かったことには変わらぬと。ミケランジェロはスプリンターを褒め称える。

 

「なに……私一人では日本に渡ることも出来なかったさ。少し友人の手を貸してもらった……ちょうど良い、お前たちにも紹介しよう」

 

 だが、スプリンターは謙虚にこれが自分だけの手柄ではないと。

 ミュータントである自分に手を貸し、日本に渡るために力を貸してくれた御仁がいると教えてくれた。

 

「——スプリンター先生!! ご無事でしたか!?」

 

 ちょうどその人物と合流する手筈だったのか、向こう側から何者かが駆け寄ってくる。

 スプリンターはその人物を手招きし——彼こそが自分たちの恩人であるとタートルズへと紹介した。

 

 

 

「——紹介しよう……ニューヨークで知り合ったねずみ男くんだ」

「——ど~も!! ねずみ男でございます!!」

 

 

 

「……ね、ねずみ男? お前、どうしてこんなところに……」

 

 これに鬼太郎は驚きを隠せず、少し脱力気味に肩を落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——スプリンター先生は、ニューヨークの下水道に流れ着いた俺に手を差し伸べてくれたんだ。異国での人情……身に染みたぜ!!」

 

 地下洞窟から抜ける道すがら、ねずみ男はスプリンターとの出会いの経緯を語っていく。

 

 アメリカンドリームを掴むと豪語し、ニューヨークへと渡ったねずむ男。だが大方の予想通り、夢を掴むどころか素寒貧となり、あっという間に無一文で路上へと投げ出されることになる。

 まあ、いつも通りと言ってしまえばいつも通りだが、そこは日本から遠く離れた異国の地——アメリカだ。

 文化の違い、人種の違い、種族の違いによる偏見と悪意が容赦なくねずみ男へと降り掛かり、彼は日本で借金取りに追われる以上に酷い目にあったという。

 

 そんな、ほうほうのていとなったねずみ男だが、彼はニューヨークの下水道へと逃げ込み——そこでスプリンターに助けられた。

 

「スプリンター先生がいなきゃ、俺は今頃生きてちゃいねぇ!! 本当に……本当に感謝してるぜ!! ううっ……!」

 

 相当やばい目にあってきたのだろう。その苦境から救い出してくれたスプリンターに、強い恩義を感じているようだ。ねずみ男にしては珍しく、何の下心もなくスプリンターを先生と呼び慕っている。

 

「気にするな、ねずみ男くん。同じねずみ同士だ……私も君と出会えて嬉しかったよ」

 

 一方のスプリンターもねずみ男に笑顔を向ける。

 元は人間だが、今やねずみのミュータントとして生きている身の上。ねずみの妖怪であるねずみ男に対し、並々ならぬ同族意識を抱いてる様子。

 

「それに……君のおかげで私は日本に渡ることができた。タートルズの危機に間に合うことが出来たのだ……こちらこそ礼を言わせてくれ!」

 

 ついでに言えば、パスポートすら持てないスプリンターが日本に来れたのも、ねずみ男の手引きによるものだったりする。

 スプリンターに世話になった数日後、ねずみ男は裏ルートを通じて日本へと帰ることになった。金もなかったため、訳ありのものたちが利用する日本への不法入国ルートを通じての帰国。

 

 実はそのときから、スプリンターにはタートルズに危機が迫っているという予感があった。いけないことだと分かってはいたものの、弟子たちの危機を救うためだと。

 その裏ルートに便乗する形で、スプリンターはねずみ男に日本に連れて行ってくれと頼んだのだ。

 

 

 そう、二人のねずみ人間の出会いが——タートルズや鬼太郎たちを危機から救ったのである。

 

 

「ふむ、なるほど……色々と言いたいこともあるが……まあ、今回は良しとするか」

 

 この話に、目玉おやじは腕を組みながらも考え込む。

 

 一人でニューヨークに行ったり、そこでタートルズの師匠に出会ったり、密入国ルートで帰国したりと。色々と突っ込みどころ満載の話ではあるが、結果としてそのおかげで自分たちは救われたと。

 

 終わりよければ全て良しの精神で、ねずみ男の珍道中に納得を示していく。

 

 

 

「よっと……ようやく外だ!!」

「太陽が眩しいぜ!! イヤッホー!!」

 

 そうして、互いの事情を話し込んでいる間にも地下から地上へと出ることができた一行。

 基地突入時は夜中だったが、既に外では朝日が昇っている。太陽の光を浴び、はしゃぎながら外へと駆け出していくラファエロとミケランジェロ。

 

「もしもし、こちらレオナルド。応答お願いします、どうぞ!」

『ええ、聞こえてるわ! こっちはみんな無事脱出できたわ!!』

 

 レオナルドはタートルフォンを通じ、エイプリルたちと連絡を取っていた。彼女たちからも誰一人犠牲もなく脱出できたと、吉報がもたらされる。

 

「みんな、見てくれ! 奴らの基地が……!」

 

 ここでドナテロ、皆の視線をとある場所へと向けさせる。

 

 彼らの出たところは、基地があった場所から少し離れた小高い丘だった。その場所からフット団日本支部のあったアジト、山中から煙が上がっている光景が見えた。

 あの様子では基地は完全に壊滅した。この地でのフット団の再起はもはや不可能だろう。とりあえずの脅威は去ったことに、タートルズはホッと胸を撫で下ろす。

 

「シュレッダー。奴があの銃を……この国にもたらした元凶……」

 

 しかし、鬼太郎の表情には未だに憂いが残っていた。

 

 妖怪にとって忌むべき兵器である、対妖怪銃。よりにもよってあの銃の技術が、シュレッダーによってもたらされたことが判明してしまったのだ。

 鬼太郎にしては珍しく、シュレッダーという人間個人に対し怒りを募らせていくが。

 

「……鬼太郎くん、あとのことは俺たちに任せといてくれないか?」

「えっ……?」

 

 そんな鬼太郎の心情を察したのか、レオナルドがやんわりと彼に声を掛ける。

 

「シュレッダーはニューヨークに戻った筈だ……奴とはいずれ俺たちが決着を付ける! そのときに今回の件、一緒にのし付けて返してやるからさ!!」

 

 鬼太郎の怒りに理解を示しつつも、あの宿敵との決着は自分たちが付けるべきものだと語る。

 その上で、この国で迷惑を被った妖怪たちの分まで、その怒りを叩きつけてやると誓ってもくれた。

 

「鬼太郎……奴のことは彼らに任せよう」

「……そうですね、父さん」

 

 レオナルドの言葉に目玉おやじは理解を示し、鬼太郎も納得する。

 確かにシュレッダー、奴一人のために鬼太郎がニューヨークにまで追いかけていくわけにもいかない。

 

 餅は餅屋。

 シュレッダーとの戦いは彼らタートルズの使命であり、そこに鬼太郎がこれ以上割って入るのも無粋というもの。

 

「任せましたよ、タートルズ! 貴方たちに……」

「オッケー、ブラザー!! 任された!!」

 

 鬼太郎は自分たちの思いをタートルズに託し、彼らもそれに気持ちよく応じてくれる。

 

 

 

「うむ、ではタートルズ。我らもニューヨークへ帰還するとしよう!」

「ええ!? 帰っちまうんですか、スプリンター先生!?」

 

 最後、スプリンターがそのように号令を掛け、彼らは日本を後にしていくこととなった。

 これにねずみ男が非常に残念がっていたが、それでも彼らには帰る理由がある。

 

「うむ……日本の空気も悪くなかったが……私たちにとっては、ニューヨークこそが故郷だ」

 

 吉浜武という日本人だったスプリンターだが、今の彼にそこまで日本に留まっていたいという気持ちはなかった。

 今の彼にとって、ニューヨークの下水道こそが故郷だ。

 懐かしの我が家に、息子たち——タートルズと共に帰還するのに何の迷いも躊躇いもない。

 

 

「さあ帰ろう、私たちの家に……」

「「「「ハイ、先生!!」」」」

 

 

 四匹のタートルズも、元気よく返事をしていく。

 

 既にその目には『明日』を見据えている。

 どこまでも前向きに、次なる戦えに備えるためにも——彼らはニューヨークへと帰っていった。

 

 

 

 




人物紹介

 狂骨
  前回も紹介させてもらいましたが改めて。
  今作ではミュータンジェンの力で『動物の姿へと変化した』という設定。
  姿形を白骨化した骸骨姿をベースに、それぞれの動物。
  大鷲、ゴリラ、ライオン、ゾウとそれとなく個性を付けさせていただきました。
  
 クランゲ
  今回は出番が少なかったですが、旧亀においてはレギュラーな悪役。
  シュレッダーの同盟者、ディメンションxからやって来たユートロム星人。
  一応はシュレッダーにとって上司の筈ですが、いまいち敬われておらず。
  地上波版での呼び名は『タコ』と散々な言われよう。
  今回はビデオ版を元にしていますので、オカマ口調ではありません。


次回予告

「父さん! 夜遅くまで遊んでいる子供たちを何者かが誘拐していると聞きます。
 まなは……彼女はお守りがあるから大丈夫だと思いますが……。

 次回——ゲゲゲの鬼太郎『夜廻』 見えない世界の扉が開く」

 次回のクロスは、ちょっぴり原点に返って真っ当な妖怪ものをシンプルに書きたいと思います。何とか今年中には書き切りたいですが……どうなることやら。


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