ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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……ま、間に合った!!

宣言通り、今年中に『夜廻』のクロスが完結しました!!

本当に……本当に今年の年末もキツかった。

ここ一週間はマジで、小説を描いている暇もなかった。

昨日、急ピッチで今作を書き上げ、何とか予告投稿しております。

細かいところで描写不足もあるかなと思いましたが……一応、想定していた通りの話にはなりましたので、これでなんとか。

とりあえず、今年もお疲れ様でした!!

来年も、本小説をよろしくお願いします!!



夜廻 其の③

「コトモ!! どこにいるの!?」

「コトモちゃん!! 聞こえたら、返事をして!!」

 

 真っ暗な夜道。周囲を家々に囲まれた住宅地で近所迷惑かもしれないが、夜野田トモコや猫娘は家からいなくなった少女の名前を叫び続ける。

 彼女が——夜野田コトモが自らの意志で夜の街へと飛び出してから、それほど時間は経過していない。まだ遠くまでは行っていないだろうと、夜野田家周辺を中心に捜索していく一行。

 

「見当たりませんね……どこへ行ってしまったんでしょう、父さん?」

「う〜む、早く見つけなければ。ぐずぐずしていては……よまわりさんに連れ去られてしまうやもしれん」

 

 鬼太郎と目玉おやじも焦りを見せ始める。彼女を見張っている存在、よまわりさんがまだこの街に潜んでいるかもしれないのだ。コトモも他の少年少女たちのように連れて行かれてしまうと、時間が経てば経つほど危機感が募っていく。

 

 と、皆が真剣な思いで捜索を続けていたところ——。

 

「——おっ!? お〜い、鬼太郎!!」

 

 どこか聞き覚えのある男の声が、場違いにも明るく響き渡る。ボロい布切れを纏ったその男性は、真っ先に鬼太郎の元へと駆け込んできた。

 

「ねずみ男? お前……こんなところで何をやってるんだ?」

「どうせ、残飯でも漁ってたんでしょ?」

 

 男の正体はねずみ男であった。

 鬼太郎は何故彼がここにいるのかと疑問を抱くが、猫娘はねずみ男の行動を予想して冷たい視線を向ける。それは適当な予想であったがズバリ的中していた。

 

「う、うるせぇ! そ、そんなんじゃねぇよ!!」

 

 しかし、ねずみ男は自身の行動が見透かされることを嫌ってか、嘘を付いてでも猫娘の言葉を否定する。変なところで見栄っ張りな男。

 

「あ、あの!! 妹を……私の妹を見ませんでしたか!? 中学生くらいの女の子です!!」

 

 だがどんな見栄っ張りだろうが、小汚くとも構わないと。トモコはねずみ男のような不審者にさえ、コトモを見ていないかを尋ねていた。

 正直、藁にもすがる思いであったが——。

 

「あん? あんたの妹って……ひょっとして左目に眼帯を付けてる?」

「!! 見たのか、ねずみ男!?」

 

 意外なことに、ねずみ男はコトモを目撃していた。本人のことを知らなければ分からないような身体的特徴をすぐに述べる。少なくとも眼帯を付けている女子中学生など、この近辺ではコトモくらいのものだろう。

 

「ど、どこで……!? どこで見たんですか!? 教えてください!!」

「ちょっ……落ち着きなさいよ!!」

 

 思いがけず得られた目撃証言にトモコはねずみ男へと詰め寄る。その勢いは、猫娘が思わず止めに入るほどに鬼気迫るものであった。

 

「そ、その子なら向こうの方で……妙な影みたいなのに追われてて……」

 

 トモコのあまりに必死な勢いに気圧されてか、ねずみ男にしては珍しく見返りを求めず答える。コトモを目撃した場所と、彼女を追いかけている『闇』があったと、その事実を鬼太郎たちに伝えたのだ。

 

「ま、まさか……よまわりさん!? ……っ!!」

「トモコさん!? 一人じゃダメよ!!」

 

 その話を聞くや、居ても立っても居られないとばかりにトモコが真っ先に駆け出す。しかし彼女一人で出来ることなどそう多くない。彼女に無茶はさせられないと、すぐにでも猫娘が後を追っていく。

 

「わしらも行くぞ、鬼太郎!!」

「はい、父さん!!」

 

 コトモの元へと走り出した二人の後に、当然ながら目玉おやじや鬼太郎も続こうとした。急いで向かわなければ、よまわりさんの犠牲者をさらに増やしてしまうかもしれないという焦りもあった。

 

「おい! 待てよ、鬼太郎!!」

 

 だが、ここでねずみ男が鬼太郎の肩を掴んでまで彼を呼び止めた。

 

「ねずみ男……今は急いでるんだ。話なら後にしてくれないか?」

 

 ねずみ男の意外な強引さに目を丸くしつつ、鬼太郎は時間がないことを手短に伝えて相手の手を振りほどこうとした。

 

「だから待てって!! いいから俺の話を聞きやがれってんだ!!」

「!!」

 

 しかしねずみ男も簡単には引かない。よっぽど伝えたいことがあるのだろう、その真剣な表情には鬼太郎も足を止めて彼の言葉に耳を傾けていく。

 

「確かにその女の子は黒い影みたいなもんに追われてた……けどな、それだけじゃねぇんだよ!!」

 

 ねずみ男は少女が黒い影に追われている現場を目撃した。その闇の正体はねずみ男にも分からない。

 

 だが——。

 

「あいつだよ! あいつも一緒だったんだ!! あの野郎……まだ諦めてなかったんだ!!」

「……!?」

 

 彼は『真っ暗な闇』と一緒になって、その少女を追いかけていた『人物』を目撃していた。

 

 目撃したそのシルエット——その妖怪の名前が、ねずみ男の口からゲゲゲの鬼太郎へと告げられた。

 

 

 

×

 

 

 

「はぁはぁ……!!」

『しぶといお嬢さんだ……そろそろ諦めたらどうですかい!?』

 

 夜野田コトモは、未だにその『闇』から逃げ回り続けていた。

 地面を這うように追いかけてくる闇の奥からは、しわがれた声の主が苦々しい口ぶりで吐き捨てている。コトモの逃げ足の巧みさに追いかけている側も舌を巻いているようだが、それもその筈。

 

 コトモは幼い頃からあの町——夜になる度、怪異が蔓延るような町で生まれ育った身だ。姉や愛犬を探し求めて歩き続けたあの夜を体験して以降も、彼女は何かに魅入られるように頻繁に夜の探索を続けてきた。

 

 その経験が、さらには失明した筈の左目が見せる『真夜中の世界』が。闇夜の中でどのように逃げればいいかを彼女に教えてくれるのだ。

 

 姉に止められていることもあってか、ここ最近はあまり夜道を歩かなくなったが、それでも身体は覚えているもの。あの頃に比べれば体力だってだいぶ付いた。もう暫くの間なら、あの闇から逃げ続けることもできるだろう。

 

「犬山さん……ちゃんとお家まで帰れたかな?」

 

 今のコトモには犬山まなの身を案じる心の余裕もあった。途中で別れた彼女が無事に自宅まで駆け込むことができたか、今もそれが気がかりだ。

 

「それにしても、しつこいな……ここからどうしよう?」

 

 とはいえ、そろそろ現状の問題に意識を集中しなくてはなるまい。先ほどからずっと続いている闇との追いかけっこに、なにかしら打開策を打たなくては。

 コトモとて、ずっと走り続けることはできない。いつかは体力の限界が来る以上、どこかであれを撒かなければならないのだが。

 

「! あの公園……あそこで一気に!!」

 

 そう考えたときだ。前方に広々とした公園を見つけた。

 敷地内には遊具なども数多く設置されている筈だ。それらを上手く活用すれば、ここで怪異を撒くこともできるかもしれないと。コトモは一気に勝負を仕掛けるべく、公園へと足を踏み入れていく。

 

『むっ……小癪な!?』

 

 コトモの意図に気付いたのか、闇の奥から焦ったような声が滲み出る。このままでは逃げられてしまうと、向こうも本気で焦燥感を抱いたのかもしれない。

 一方で、コトモはこれで切り抜けられるかもしれないと、確かな安堵感を抱き始めていた。

 

 ところが——。

 

「——逃がさねぇぞ、小娘!!」

「——!?」

 

 全く予想だにしていなかったところから、声が降ってきた。

 闇が這っていた地面からではない。コトモの真上——上空から大きな影が舞い降りてきたのだ。突然姿を現したそいつは、コトモの行き先を封じるようにその進路上に立ち塞がる。

 

「えっ!? 別の……お化け!?」

 

 これにはコトモも驚愕を隠せなかった。

 自分を追いかけていたお化けは、あの真っ暗な闇だけではない。もう一匹——彼女が気付かないところで蠢いていたのだ。

 

 完全な油断。予想だにしなかった場所からの襲撃に、コトモも足を止めるしかなかった。

 

「そら……捕まえたぞ!!」

 

 そうして動きの止まったコトモの腕が、そのお化けの腕によって掴まれる。

 そのお化けは——怒ったような赤い顔をしていた。鬼のように大きな体に一本の角。そのぶっとい腕に掴まれたら最後、華奢な少女では逃げる術もないだろう。

 

「い、痛っ……!!」

 

 コトモの乱暴に掴まれた腕に激痛が走る。下手に抵抗しようものならへし折れてしまいそうな、尋常ではない負荷がその腕に掛かっていた。コトモはお化けに捕まってしまって『怖い』と感じるより、率直に『痛い』という苦痛を強く感じてしまう。

 

「さあ、観念しな!! お前も……こんな小娘一人に何を手こずってやがる!!」

『いやはや……お手を煩わせてしまったようで……』

 

 コトモを捕まえた大きなお化けが、後から追いついてきた闇に向かって叫んだ。闇の方は、大きなお化けの助勢に申し訳なさそうな謝罪を口にしている。

 そのやり取りから、両者が協力関係であることが察せられる。互いに力を合わせることで、コトモを追い詰めた怪異ども。

 

「やっぱり……あなたたちが、香凛ちゃんやみんなを!?」

 

 絶体絶命の窮地にありながらも、コトモは毅然とした態度で大きなお化けと闇——その両方を睨み付ける。

 今回の事件は、よまわりさんの仕業ではなかった。このお化けたちが自分のような子供を連れ去り、街中に不安の種をばら撒いていた元凶なのだと。

 

「はっはっは!! その通りだ!! お前も他のガキどもと同じよう……あの暗闇の中に放り込んでやるぜ!!」

 

 コトモの責めるような視線に、大きなお化けは悪びれもせずに高笑いを上げる。とても得意げな顔で自らの悪行を誇り、彼女も連れ去ってやろうと掴んだ腕を引っ張る。

 後ろを振り返れば『闇』が、コトモを呑み込まんと大きく広がっていた。その闇に呑まれれば最後、誰であろうと自力では戻ってこられないだろう。

 

「!!」

 

 流石のコトモも思わず目を瞑った。これから闇に呑み込まれることを前に、平静でいられる人間などいはしない。彼女とて闇は怖い。人間である以上、その根源的な恐怖心から目を背けることはできないのだ。

 

 だが——コトモが闇に呑み込まれようとした寸前。

 

「——リモコン下駄!!」

 

 どこからともなく、下駄が高速で飛来してきた。

 

「あいたっ!?」

 

 下駄は砲弾のような勢いで大きなお化けの額に直撃。その衝撃でお化けはコトモから手を離し、堪らず両腕で被弾した箇所を抑える。

 

「——ニャアアアア!!」

 

 さらに、そこへ唸り声を上げながら女性・猫娘が飛び掛かった。化け猫の表情を剥き出しに、大きな鉤爪を武器にさらなる追撃を仕掛けていく。

 

「くそっ……!?」

「なっ……避けた!?」

 

 しかし、その攻撃を大きなお化けは巨体に似合わぬ華麗なバックステップで回避した。避けられるとは思っていなかったのか、爪が空振りしたことで攻撃を仕掛けた側の猫娘が大きく体勢を崩してしまう。

 

『むん!!』

 

 するとその隙を突くよう、今度は地面の『闇』が大きな広がりを見せた。闇が猫娘やコトモを呑み込まんと、彼女たちへと襲い掛かる。

 

「髪の毛針!!」

 

 だがその企みも、牽制として放たれた髪の毛針——ゲゲゲの鬼太郎によって阻まれる。闇は髪の毛針を避けるように縮小。獲物を害することができず、一時的な後退を余儀なくされる。

 

 

 

「コトモ!? よかった……無事で……!!」

「あ……お姉ちゃん……」

 

 そうした攻防の最中に、夜野田トモコが妹であるコトモの元へと駆け付ける。トモコは勝手に出歩いたコトモを叱るでもなく、真っ先に彼女の無事を喜び、涙を流しながらその体を抱きしめた。

 姉に抱きしめられ、少しだけ恥ずかしそうに頬を赤く染めるコトモ。だがその温もりに、彼女は年相応の笑みを浮かべる。

 

「ごめんね、迷惑かけて。ありがとう、お姉ちゃん……」

 

 コトモは迷惑をかけてしまったことへの謝罪を、そして心配してくれたことへの感謝を口にしていた。自分を心配してくれる人、自分の無事をここまで喜んでくれる人がいて嬉しくない人間などいはしない。

 

 こんなときでありながらも、コトモの胸は姉が側にいてくれることへの安心感でいっぱいになっていった。

 

 

 

「まさか……お前が今回の事件の首謀者だったとは……」

 

 姉妹の感動の再会。しかしそんな心温まる光景に意識を向ける余裕が、今の鬼太郎にはなかった。

 

「あやつがいなくなったことで、大人しくなったと思っておったが……今になって出てくるとはな……」

 

 目玉おやじもだ。彼は鬼太郎と共に、対峙することになったその妖怪へと厳しい視線を向ける。

 その妖怪に——『赤い顔』をしたその男に向かって、何故こんな真似をしているのかを問い詰めていた。

 

 

 

「——のう、朱の盆?」

「……ちぃっ!!」

 

 

 

×

 

 

 

 妖怪・(しゅ)(ぼん)

 彼は妖怪の復権を掲げていた日本妖怪・ぬらりひょんの部下として知られる妖怪だ。

 

 ぬらりひょんは、この地上での支配権を人間の手から取り戻そうと『妖怪の復権』という理想を語り、多くの妖怪たちを同志として集めてきた。

 だが、用心深く策謀家でもあったぬらりひょんにとって、そうした目的のために集まった同志ですらもただの手駒に過ぎない。手段を選ばないその手法も相まって、多くの妖怪たちが大義名分の元に使い潰されてきた。

 仲間といっても所詮は赤の他人。力を合わせることはあっても、その関係は一時的なもの。用済みとなれば呆気なく見捨てられて終わる。

 

 そんなぬらりひょんが。誰一人信用などしていないであろう彼が、唯一傍にいることを許し続けたものがいた。

 

 それが——この朱の盆なのである。

 

 

 

「……けっ! 久しぶりだな……ゲゲゲの鬼太郎!!」

「朱の盆……」

 

 月と街灯の明かりによって照らされる公園内にて、朱の盆は対峙するゲゲゲの鬼太郎に悪態混じりの挨拶を投げた。鬼太郎はその挨拶に返答こそしなかったが、相手の名前を呟きながら油断なく身構える。

 朱の盆はぬらりひょんの忠実な配下として数多くの悪行に加担し、人間たちを苦しめてきた。だが今現在、その大きな赤い顔の隣にぬらりひょんの姿は見受けられない。

 

 ぬらりひょんは数ヶ月前の戦争の直後、自らの意思で『死』を選んだからだ。

 同志たちの命を無駄に散らせた責めは負うと、懐に抱えていた爆弾を使って自滅した。

 

『——私が去っても、志を継ぐ者はきっと現れますよ』

 

 それは責任を取るという形ではあったものの、彼が最後まで自らの考えを改めることはなかった。あくまで妖怪という種のために戦ったのだと、逆に人間に味方をする鬼太郎を責め、最後まで勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

 

 そのぬらりひょん亡き後、戦後のどさくさで朱の盆は忽然とその姿を眩ました。鬼太郎たちも、あえて彼を探そうなどとは思わなかった。

 朱の盆は高い戦闘能力を持った妖怪だが、彼自身は特に策略に長けているわけでもない。それどころか、ちょっと抜けているところすらある。これまでの悪行もぬらりひょんの使い走りとして、彼の指示通りに動いていただけ。

 命令してくれる相手さえいなくなれば大人しくなるだろうと、鬼太郎たちも朱の盆の処遇に関してそこまで深刻に考えていなかったのだ。

 

「朱の盆よ、何故今更になって出てきた? ぬらりひょんはもうおらん……こんなことをしたところで奴は……」

 

 ところが、朱の盆は再び姿を現した。コトモを連れ去ろうとしていたところを見るに、彼こそが今回の事件の首謀者だろう。ならばよまわりさんは?という疑問は残るが、とりあえずそこは後回しだ。

 まずは朱の盆が何を目的とし、子供の誘拐などという悪事に手を染めているのか。その真意を探ろうと、目玉おやじは問いを投げ掛ける。

 

「そ、それがどうしたってんだ!!」

 

 朱の盆は『ぬらりひょんはいない』という言葉に分かりやすく動揺しつつ、それでもと声を荒げる。

 

「俺様が……この朱の盆様が! ぬらりひょん様の意志を継ぐ!! 今一度人間どもに……俺たち妖怪の意地を見せつけてやるんだ!!」

「…………」

 

 隠し立てすることなく叫ばれた、朱の盆の目的と覚悟に鬼太郎は目を見張る。

 ぬらりひょんが散り際に言っていた——『志を継ぐ者』が現れるという言葉。その言葉は、まさにぬらりひょんにもっとも近かった男を突き動かした。

 たとえぬらりひょんがいなくとも、妖怪の復権という理想を叶えて見せる。人間たちを恐怖に陥れるにはどうすればいいかなど。朱の盆なりに考えて行動し、今回のような事件を引き起こしたようだ。

 

「それに俺は一人じゃねぇ! 心強い同志だっているんだ……なあ!!」

「!!」

 

 そして、そんな自分の意志に呼応するものもいるんだと。朱の盆は、未だ鬼太郎たちの後方で蠢いている『闇』に呼び掛けた。鬼太郎たちは慌てて振り返り、闇の——その奥から姿を現す『本体』へと目を向ける。

 

 

「——お初にお目にかかります……ゲゲゲの鬼太郎さん」

 

 

 地面を蠢く闇の底から、せりあがるように姿を見せたのは一人の僧侶であった。

 

 編笠を被り、袈裟を纏った法師。その手に握られた錫杖の輪から、シャランシャランと鈴のような音を鳴り響かせる。一見するとただの旅の僧の出立ち、だが編笠の隙間から見える素顔は——人間ではあり得ない、薄紅色をしている。

 若干腰が曲がっていたり、顔面も皺だらけと、人間でいえば老人といったような風体。浮かべられた笑み自体もどこか穏やか、好々爺のように見えなくもない。

 老人は表面上、人の良さそうな笑みを浮かべながら自らの名を名乗っていく。

 

「あっし……名を夜道怪と申しやす。以後、お見知り置きを……」

「夜道怪!? なるほど……そういうことじゃったか」

 

 相手の名前を聞いたことで目玉おやじは驚きつつも、得心を得たとばかりに頷いてみせる。

 

 夜道怪——大きな荷物を抱えて各地を放浪するとされる、旅の僧形の姿をした妖怪だ。旅の僧が訪れた村々の住人に「宿を貸して欲しい」と頼んだ声が「ヤドカウ」と聞こえたことから「夜道怪(やどうかい)」なる名で呼ばれるようになった。

 一説によると、その正体はただの人間であるともされているが、一方で『子供を攫う妖怪』としても広く認知されている。夜道怪の伝承が伝わる埼玉県の秩父地方などでは、子供が行方不明になると「夜道怪に連れて行かれた」と騒がれたりした。

 

 今回のような、子供を誘拐する悪事にはまさにうってつけの人材と言えるだろう。

 

「子を攫うのは……あっしの業のようなものですから……」

 

 自身の悪名がそのような伝承で伝わっていることを、夜道怪は言い訳するでもなく認める。そしてその視線をチラリと、夜野田姉妹へと向けてほくそ笑む。

 

「……っ!!」

「…………」

 

 夜道怪の怪しげな笑みに、トモコはコトモを守るように抱き寄せた。子供を攫う、まさによまわりさんのような妖怪を相手にコトモも身を固くする。

 

「それに……あっし自身、ぬらりひょん先生には一宿一飯の恩義がある身ですから……」

 

 朱の盆同様、夜道怪の口からもぬらりひょんの名前が出る。

 夜道怪という妖怪は子供を攫うものとして忌み嫌われる一方、宿を貸してくれたものへの恩義を決して忘れない。彼は過去、ぬらりひょんに宿を貸してもらったことがあるという。

 

「鬼太郎さん。あなた個人への恨みはありやせんが……これも先生の志を継ぎたいと仰った、朱の盆くんのため……」

「!!」

 

 その義理堅い性格から、ぬらりひょんにもっとも近しいところにいた朱の盆に協力しているようだ。妖怪の復権のために集った同志というよりは、単純に恩を返そうとしているだけなのかもしれない。

 

「邪魔立てするようであれば……手加減はしませんぜ!!」

 

 しかしだからこそ、その恩返しを邪魔するものを許さない。夜道怪は手にした錫杖を構え——邪魔者たる鬼太郎を排除しようと襲い掛かっていく。

 

 

 

「……っ! 霊毛ちゃんちゃんこ!!」

 

 錫杖で殴り掛かってきた夜道怪に、鬼太郎も霊毛ちゃんちゃんを腕に巻いて応戦する。鬼太郎と夜道怪の一撃が真っ向からぶつかり合う。両者の力は互角、ほぼ拮抗していた。

 

「くっ……夜道怪!! 攫った子供たちはどこだ!? 今すぐにでも彼らを解放するんだ!!」

 

 鬼太郎は夜道怪と交戦しつつ、その悪行を止めるように静止の言葉を掛ける。ぬらりひょんの意志を継ぎ、人間たちに目にも見せてやろうとする彼らの妖怪としての意地は分かった。

 しかし、そのための手段が子供たちの誘拐など、到底見過ごせるものではない。いなくなった子供たちの安否がどうなっているかも含め、相手に問いを投げ掛ける。

 

「子供たちなら、この闇の中です。まあ……素直に返すつもりはありませんがね!!」

 

 夜道怪は鬼太郎の説得には耳を傾けなかったが、連れ去った子供たちの行方に関しては答えた。

 彼らは皆、夜道怪の操る『闇』の中に閉じ込められた。先ほどもその闇がコトモを呑み込もうとしていたように、それは夜道怪の意思で自由自在な広がりを見せている。

 鬼太郎とぶつかり合っているこの瞬間でさえも、夜道怪は隙あらばその闇で相手を呑み込もうと足元から奇襲を掛けてくる。

 

「鬼太郎、距離を取るんじゃ!! 迂闊に踏み込めば、お前もあの闇の中に引き摺り込まれてしまうぞ!!」

「はい、父さん!!」

 

 目玉おやじが足元の闇の動きを警戒するよう息子へと注意を促す。如何に鬼太郎といえども、あんな底なし沼のようなものに呑み込まれれば無事では済まない。

 夜道怪本体と戦いながらも、足元も常に意識しなければならないという、なかなかにシビアな戦況だ。

 

「猫娘!! 今のうちに……夜野田さんたちを安全なところまで!!」

「ええ……分かったわ。二人ともこっちに……!!」

 

 だからこそ、他のことに目を向けている余裕がないと。鬼太郎は非戦闘員である夜野田姉妹をこの場から避難させる役割を猫娘に任せる。猫娘も鬼太郎の邪魔にならないよう、まずは二人の少女の避難を優先すべく彼女たちの手を取って走り出していた。

 

「そうはさせるか!! お前の相手は……この朱の盆様がしてやるぜ!!」

 

 だがそうはさせまいと、ここで朱の盆が参戦してくる。逃げようとする彼女たちをいかせまいと、真正面から突撃してきたのだ。

 

「この……!!」

 

 襲い掛かってくる朱の盆に猫娘も応戦せざるを得なかった。力自慢である朱の盆の拳をなんとか回避しつつ、研ぎ澄ました爪で反撃していく。

 

「なんのっ! 痛いけど……効かねぇぞ!!」

 

 猫娘の爪に引っ掻かれながらも、朱の盆は一向に怯まない。ダメージがないわけではないが、それを根性で耐える脅威的なタフネス。

 

「逃げなさい!! アンタたちだけでも!!」

 

 朱の盆の相手をするべく、猫娘はその場に留まることを余儀なくされる。やむを得ないが、夜野田姉妹は二人だけでこの危険地帯から退避しなければならなくなった。

 

「は、はい! コトモ、急いで!!」

「けど……」

 

 トモコは必死にコトモの手を引き、彼女を安全な場所まで誘導しようとする。姉としての責任感が彼女を突き動かしているのだろう、その動きに迷いはない。

 しかしコトモは、鬼太郎たちを置いて逃げることに抵抗感を抱いてしまったのか。躊躇うようにその足を止めてしまう。

 

「逃しは……しやせんよ!!」

 

 そうして彼女たちがもたついていると、夜道怪が姉妹に向かって眼光を光らせた。夜道怪と姉妹との間にはだいぶ距離があったのだが——そんな物理的な距離など関係ないとばかりに、夜道怪は手にしていた錫杖を投擲したのだ。

 

 投げられた錫杖は、槍投げのような勢いで——真っ直ぐコトモに向かって飛んでくる。

 

「——えっ?」

 

 これにコトモは反応できない。お化けたちが蔓延る夜の町を果敢に歩き回るとはいえ、彼女の身体能力は一般人の域を出てはいない。

 呆気に取られたままのコトモの額に、杖の先端があわや突き刺さろうと——。

 

「っ……指鉄砲!!」

「……き、鬼太郎さん!!」

 

 間一髪、指先から発射された鬼太郎の指鉄砲が飛来する錫杖を撃ち落とす。鬼太郎のおかげで、コトモはなんとか事なきを得る。

 

「ふっ……隙ありですよ!!」

 

 しかし、それが鬼太郎にとって致命傷となった。咄嗟にコトモを守ることに意識を割いてしまったため、自身の防御が疎かになってしまったのだ。

 武器である錫杖を手放したとはいえ、夜道怪には自在に操る闇があった。その闇が鬼太郎を足から絡め取り、彼を暗黒の中へと引き摺り込んでいく。

 

「しまっ……うわっ!?」

「き、鬼太郎!? のわっ!?」

 

 一度呑み込まれれば、自力で抜け出すことなど不可能だ。鬼太郎も必死に抗うのだが、その足掻きも虚しく。あっという間に闇の中へと呑み込まれてしまう。

 全身が呑まれる寸前、目玉おやじを巻き込みまいと彼を放り投げたのはせめてもの抵抗だった。目玉おやじは地面へと体を打ち付けられるが、なんとかそれで彼だけは闇から逃れられた。

 

 

 

「そ、そんな……鬼太郎!?」

「や、ヤッタァああ!! 鬼太郎を倒したぞ!!」

 

 闇へと呑み込まれていく鬼太郎の姿に猫娘がその表情を絶望に、朱の盆が歓喜へと染める。特に朱の盆のはしゃぎようはまさに子供のようである。

 

「ふっふっふ……さてと、あとは……あんた方だけですぜ?」

 

 夜道怪も、一番の難敵を始末できたことに喜びを噛み締めるような笑みを零す。だがすぐにでも仕事人のような冷静さで、彼は次なる標的へと狙いを定めていく。

 鬼太郎の仲間である猫娘や、本来の狙いである子供たち——夜野田姉妹へと。

 

「猫娘……ここは一旦引くんじゃ」

「おやじさん!? けど……鬼太郎が!?」

 

 敵の次なる目標を悟ったのか、目玉おやじが猫娘の元まで駆け寄って彼女に撤退を促す。その言葉に鬼太郎が倒されたのにと、猫娘は真っ向から反発するのだが。

 

「冷静になれ! このまま闇雲に戦っても、わしらに勝ち目はない。それに……これ以上、あの子たちを巻き込むわけにもいかんじゃろう?」

「……っ!!」

 

 息子が闇に呑み込まれて尚、目玉おやじは冷静に戦況を見極めていた。

 夜道怪と朱の盆、その両方を猫娘単騎で相手にするのは無理がある。ここは一旦退き、応援を呼んで改めて彼らとの戦いに挑むべきだと。

 何より、トモコとコトモ。彼女たちを安全な場所まで避難させなければならないという、もっともな意見には猫娘も同意せざるを得ない。

 

「おっと! 逃がすわけねぇだろ!!」

「あんた方もここで……あっしが仕留めさせて頂きやす!!」

 

 しかしやはりそうはさせないと、朱の盆と夜道怪が猫娘の眼前に立ち塞がる。

 鬼太郎を倒しても油断はない。寧ろここで鬼太郎の仲間も倒し、より自分たちの勝利を盤石なものにしておきたいというのが彼らの心情であった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 三名の妖怪たちが、互いの出方を伺って睨み合う。

 まさに決闘で誰が先に銃を抜くのかというせめぎ合い。息苦しい静けさが、夜の公園内を包み込んでいき——。

 

 

「あっ……!?」

 

 

 そんな緊張感溢れる現場で、戦列に加わることが出来ない夜野田コトモが唐突に口を開く。

 

「コ、コトモ……!?」

 

 トモコはこのような状況下で妹が何を見つけたのか——その理由をすぐに察し、彼女自身も息を呑む。

 妖怪たちは互いに牽制し合うばかりで、周りに目を向ける余裕がなかった。

 

 

 だからこそ——そこにいる『ソレ』に気付きもしない。

 

 

 故にコトモが教えるしかなかった。

 彼らのすぐ側、朱の盆と夜道怪のすぐ後方——『ソレ』が人知れず佇んでいたことを。

 

 

「よまわりさん……」

『————』

 

 

 すぐ側で——『夜』が彼らを見つめていたことを。

 

 

 

×

 

 

 

「あん? 何を……って、うおっ!?」

 

 コトモの発言に訝しがる朱の盆だったが、振り返ったすぐ後ろに謎の存在・よまわりさんは見つけたことで驚きのあまり飛び跳ねた。

 いつの間にか背後霊のように佇んていたそれを前に、流石の朱の盆も思わず後退る。

 

「!! これはこれは……またしてもあんたですかい……」

 

 一方で、よまわりさんの存在に夜道怪は驚きつつも、油断なく身構えた。その口ぶりから、既によまわりさんのことを把握していることが伺える。

 

「よ、よまわりさんを……知ってるの?」

 

 その事実にコトモは堪らず質問を口にした。自分ですらも未だ正体を知らないよまわりさんについて、その老人が何かしらの答えを持っているのだろうか、それが気になってしまう。

 

「……よまわりさん、って言うんですかい?」

 

 だがコトモの期待とも不安とも取れる問い掛けに、生憎と夜道怪は明確な答えを持ち合わせてはいなかった。

 

「こちらの方には、今回の仕事を何度も邪魔されましてね。そのせいで……取り逃がしてしまった子らもそれなりにおりまして……」

「!!」

 

 夜道怪が言うに、よまわりさんは子供を連れ去ろうと暗躍する自分の元へ、頻繁にその姿を現しては邪魔をしに来るというのだ。邪魔といっても、何かしらの攻撃を受けたわけではない。後を付けてきたり、その異様な異形で子供たちを怖がらせ、無理矢理危険な場所から立ち退かせたりと。

 夜道怪の仕事を間接的に妨害してくるという。正直実害はそこまでではないが、目障りなことに変わりはない。

 

「ふ、ふんっ!! なにもんだかしらねぇが……俺たちの邪魔しよってんなら容赦しねぇぞ、あん!?」

 

 そんな妨害ばかりしてくるよまわりさんを相手に、朱の盆が顔を至近距離まで近づけて睨みを効かせる。せっかく鬼太郎を倒して上機嫌だったところに水を差され、不機嫌さが混ざっていただろう。

 たとえ同胞・妖怪であろうとも、邪魔をするなら遠慮なくはっ倒すとばかりに脅しつける。

 

 だが——。

 

『————』

「こ、この野郎……聞いてんのか!?」

 

 朱の盆の眼飛ばしにまるで無反応なよまわりさん。何を考えているのか分からない無表情な仮面の沈黙に、朱の盆が逆に気圧されてしまう。

 

「てめぇ……!!」

 

 その異様な雰囲気や沈黙に耐え切れず、短気にも朱の盆の手が出てしまった。力尽くでよまわりさんを排除しようと、思いっきり拳骨をお見舞いする。

 その強烈な一撃に、無抵抗に殴り飛ばされるよまわりさん。その身体がゴムボールのように地面を跳ねていく。

 

『————』

 

 ところがまるで何事もなかったよう、殴り飛ばされてもよまわりさんは朱の盆の眼前へと戻ってくる。

 

「な、なにぃ!? こ、この!?」

 

 もう一度、殴り付けてみるが結果は同じだ。払っても払っても纏わりついてくる虫のように、ふわふわとクラゲのように無言で朱の盆の周囲をよまわりさんは浮遊し続けている。

 

「朱の盆くん、お下がりなさい!!」

 

 その異様な雰囲気を感じ取ってか、夜道怪は朱の盆に一旦下がるように言い、自身の足元から『闇』を伸ばしていく。

 その闇でよまわりさんを呑み込み、問答無用で排除しようという魂胆だったのだろう。

 

「な……にぃ!?」

『————』

 

 だが無駄だ。

 多くの子供たち、鬼太郎すらも呑み込んだ闇でもよまわりさんを捉えることは出来ない。まるで闇と同化でもしているかのよう、よまわりさんはその闇の中を平然と佇んでいた。

 

「この野郎……! なんなんだ、おめぇは!?」

「ちぃ……!!」

 

 自分たちの攻撃が悉く効いていないという事実が、朱の盆や夜道怪に焦りを生ませる。それでも、どうにかしてこの得体の知れない『何か』を排除しなければならないと。

 

 一人ずつで駄目なら二人掛かりでと、よまわりさんへの攻勢を強めていく妖怪たち。

 

 

 

 

 

「よ、よく分からないけど……今なら、あいつらに気付かれないんじゃない?」

「う、うむ……トモコくん、今のうちに……」

 

 よまわりさんを排除しようと四苦八苦する、朱の盆や夜道怪。よまわりさんを相手取るのに躍起になり過ぎているためか、既に猫娘たちのことなど視界にも入っていない。

 今ならば、朱の盆たちに気付かれることなく、この場から退散できるのではないかと。目玉おやじはトモコに声を掛け、妹と一緒に安全圏への離脱を促そうとする。

 

 ところが——。

 

「……だ、ダメ。それ以上は……ダメだよ!」

「こ、コトモ!?」

 

 よまわりさんを排除しようとする朱の盆たちの動きに、夜野田コトモはその顔を恐怖にひきつらせていた。さらには震えながら自らの身体を抱き締める、そんな妹の姿にトモコが駆け寄っていく。

 

「それ以上……よまわりさんを怒らせないで!!」

 

 コトモは、攻撃されているよまわりさんの身を案じていたわけではない。朱の盆たちの行動が、よまわりさんの逆鱗に触れることを恐怖していたのだ。

 

 それ以上、よまわりさんを刺激すればどうなるか——。

 それを、この場で誰よりも知っているのがコトモだっただろう——。

 

 だが、時既に遅し。

 自分を排除しようとする動きに対し、ついによまわりさんは明確な変化を持って応えていく。

 

『————————』

 

 それは、何の前触れもなく起きた。

 朱の盆たちの目の前で唐突に——よまわりさんが『裏返った』のだ。

 

 

「…………はっ?」

 

 

 夢中で拳を繰り出していた朱の盆の動きが止まる。彼の眼前に聳え立つもの——それは『肉の塊』だった。

 先ほどまで、確かにそこに存在していた『黒いミミズのような胴体を持った物体』が、一瞬にして肉の塊——全く別の存在へと変貌を遂げたのだ。

 

 ぶよぶよの肉に、青い血管のようなものが浮き出ている。ずんぐりむっくりな図体には大小様々な瘤や、触手のような尻尾。赤ん坊の腕のようなものがあちこちに生えている。

 さらにはその肉の中心。体を真っ二つに割くように、異常なまでに歯並びの良い口がパックリと開いていた。

 

 その口の中から——よまわりさんの顔、あの仮面のようなものがこちらを覗き込んでいる。

 

 これこそ、コトモが危惧していたことだ。よまわりさんが裏返り——『本気』で怒らせ、この姿になられることを彼女はひどく恐れていたのだ。

 

「な……なんだ……いったい、なんなんですかい、お前さんは!?」

 

 その変わり様には夜道怪も狼狽するしかない。

 

 さっきまでのよまわりさんには、良くも悪くも『感情』というものが一切感じられなかった。何度も何度も邪魔をするように姿を現しながらも、そこに意志のようなものは感じられず、ただ静かに佇んでいるだけ。

 その沈黙が、よりよまわりさんという存在の不気味さを際立たせていたわけだが。

 

『————!!』

 

 だが、今のよまわりさんは、誰の目から見ても『怒っている』ことが分かる。大気そのものを震わすほど、その全身が怒りに満ちていた。

 その怒りを昇華せんとばかりに、巨大な歯をガチガチと噛み合わせながら——その大きな口をあんぐりと広げて襲い掛かる。

 

 

「へっ……?」

 

 

 真っ先に狙われたのは——朱の盆だった。

 呆然と突っ立っている彼に対し、よまわりさんは容赦なくその牙を剥いた。

 

「——朱の盆くん!!」

 

 これに慌てて夜道怪が助け舟を出した。

 恩人であるぬらりひょん、その側近でもあった朱の盆を庇おうと咄嗟に彼を突き飛ばし、自身が身代わりになるよう、よまわりさんの攻撃に割って入る。

 先ほど回収しておいた錫杖で、なんとかよまわりさんの口を閉じる形で食い止めてみせる。

 

『————!!』

「くっ……!! こ……この力は!?」

 

 もっとも、止められたのは一瞬だけ。

 数秒も経たず、よまわりさんの噛みつき、凄まじい圧力に押し負け——錫杖は、真ん中から『ボキン』とへし折られてしまった。

 

「……なっ!?」

『————!!』

 

 身を守る術を失った夜道怪だが、よまわりさんは躊躇などしない。そのまま折れた錫杖ごと——夜道怪へと頭から食らい付いていき。

 

 

 ぐちゃりと、嫌な咀嚼音がした。

 

 

「ひぃっ!?」

「……っ!!」

 

 あまりにも生々しいその響きに夜野田姉妹は当然、猫娘や目玉おやじですらも言葉を失う。

 血の気が引く周囲の反応などお構いなしに、よまわりさんは齧り付いた夜道怪の頭部を、一気にその胴体から引きちぎっていく。

 

 

「——ぎゃあああああああああああああああああ!?」

 

 

 断末魔の絶叫が夜道怪の口から迸った。頭を噛み潰され、首を引っこ抜かれ——夜道怪は絶命した。

 

 

 その最後はあまりにも呆気なく、無慈悲なまでに残酷なものであった。

 

 

 

×

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 夜道怪の最後には、誰も何も言えなかった。

 彼の味方である朱の盆はおろか、敵である目玉おやじたち、夜道怪の手によって被害者になっていたかも知れない夜野田姉妹でさえも。その最後には掛ける言葉もない。

 恐ろしいまでの沈黙が、闇夜の公園に吹き抜ける寒気と共に通り過ぎて行く。

 

「……むっ?」

 

 だが、年の功とも言うべきか。真っ先に意識を現実へと引き戻した目玉おやじが、暗闇でぼんやりと光る青白い『魂』の存在に気付いた。それは肉体が消滅したことで浮き彫りになった夜道怪の魂だ。

 どうやら彼の魂は無事だったようで、その魂が逃げるように何処へと飛び去っていく。

 

 すると、立ち去っていく魂と入れ替わる形で、夜道怪が使役していた『闇』が地面いっぱいに広がる。

 思わず身構える一同だったが、闇はその場にいるものたちに危害は加えない。寧ろ、その奥から多くの人間——子供たちを吐き出すように放り投げた。

 

「うぅ……あ、あれ?」

「私たち……なんでこんなところに……?」

 

 何が何だか分からないとばかりに、地面に横たわる少年少女たち。

 

「あれ……僕は……?」

 

 その中に、つい先ほど闇に呑み込まれたゲゲゲの鬼太郎の姿もあった。

 

「おお、鬼太郎!!」

「鬼太郎!?」

 

 五体満足で帰還した鬼太郎に、目玉おやじと猫娘が駆け寄っていく。

 きっと夜道怪が倒されたことで、闇から解放されたのだろう。ならば周囲の子供たちは、夜道怪と朱の盆の企みによって連れ去られた子供たちということになる。

 見たところ多少は衰弱しているようだが、深刻な重傷を負っているようなものはいない。

 

「あれ……? ここ……どこよ……?」

「あっ……! 香凛ちゃん!?」

 

 解放された子供の中には、コトモやまなと同じ学校の制服を着ているものもいた。その少女と顔見知りなのだろう、コトモがその名前を呼びながら安堵の表情を浮かべる。

 

「く、くそっ!! 覚えてろよ、お前ら!!」

 

 このような結果を前に、なんとか一命を取り留めた朱の盆が悔しそうに地団駄を踏む。

 自分たちの企みを阻止され、同志を一人失ったことにショックを受けつつ、脱兎の勢いでその場から逃げ出していった。

 

 

 これで朱の盆たちの今回の企みは頓挫され、子供たちも無事戻ってきた。

 とりあえず、これで一件落着だと——安心してばかりはいられない。

 

 

『————!!』

 

 夜道怪が倒れようと、朱の盆が逃げ出そうとも。その場には——未だ『裏返ったままのよまわりさん』がいた。

 夜道怪一人を喰い殺したところで、その怒りが収まる様子はなく。それどころかさらに荒ぶるように唸り声を上げ、新しい獲物を求めていく。

 蠢く肉の塊のよまわりさん。その口の奥から覗き込む仮面の視線が——不運にも一番近くにいた少女・山根香凛を捉えたのだ。

 

「……えっ? え、え……うぇええ!?」

 

 未だ何が起きたかも理解していない香凛が、その襲撃から逃げられるわけもなく。自身の命の危機を感じたときには、既によまわりさんが彼女の目前まで迫っていた。

 

「い、いかん!? 鬼太郎!!」

「——!?」

 

 少女の危機に目玉おやじが咄嗟に鬼太郎へと呼び掛けるが、彼も闇から解放されたばかりで即座に動くことが出来ないでいた。

 このままでは香凛までもが、夜道怪のように喰い殺されてしまうだろう。

 

「う、うわあああ!?」

「な、な、な……なによあれ!?」

 

 その光景を、闇から助けられた筈の多くの未成年が目撃していた。彼らは訳も分からぬ状況のまま、とても子供には見せられないような大惨事を目の当たりにすることとなる。

 

 まさに、あわやというところ——。

 

 

「——よまわりさん!!」

 

 

 寸前、よまわりさんの名前を呼び止めながら、その凶行から香凛を守ろうと躍り出るものがいた。

 その少女は香凛を庇うように堂々と両手を広げ、恐ろしい怪物となったよまわりさんの眼前に立ち塞がる。

 

 

「えっ…………よ、夜野田……?」

 

 

 それが誰なのかなど、つい先ほどまで闇の中にいた子供たちでは分からなかっただろう。

 ただ彼女だけ、庇われた本人である香凛だけは、それが自分の知っている少女・夜野田コトモだと少し遅れて気が付いた。

 

 よまわりさんを、その存在を誰よりも恐れていた彼女が、クラスメイトを守るため必死にその勇気を振り絞っていく。

 

 

 

「こ……コトモ!!」

「待って、トモコさん! 動きが……止まった?」

 

 自分の元から離れて無謀な行為へと走る妹のコトモに、姉であるトモコは血相を変えて駆け寄ろうとする。

 しかし、彼女の動きを猫娘が静止した。それは彼女まで危険に晒すことはできないという判断でもあったが、それ以上に——。

 

『————』

 

 コトモの行動に、よまわりさんが反応を示したからでもある。彼女の誰の目から見ても無謀な行動に、あの肉塊の怪物がその動きを止めたのだ。

 肌に突き刺さるような荒ぶる怒気こそそのままだが、よまわりさんは確かに、コトモの言葉に耳を傾けるような『意志』を垣間見せた。

 

 それが何故だったのか、それは誰にも理解できないだろう。しかしこれをチャンスと、決意を固めたコトモがゆっくりと口を開いていく。

 

「その姿で会うのも久しぶりだね……よまわりさん」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 まずは軽い挨拶。一呼吸入れることで込み上げてくる自身の恐怖心、周囲の緊張感を和らげていく。

 その間で、周りのものたちもなんとなく空気を察したのだろう。目の前の怪物を刺激してはならない、二人の対面を邪魔してはならないという思いから、皆が固唾を呑んで黙り込んでいく。

 

「もう何年になるだろうね。あなたに追いかけ回された、あの日の夜から……」

『————』

 

 コトモが思い出を語るように話しかける一方で、よまわりさんは何も答えない。

 その挙動から、全くの無反応でないことは伺えるが、肉塊のお化けがただ佇んでいるだけというのは、それだけで押し潰されるような圧迫感があった。

 

 普通なら口など開くのも恐ろしいところだろうが、コトモはめげずによまわりさんへの語り掛けを続けていく。

 

「あの頃に比べて、わたしずっと大人になったよ? 背だって伸びたし、足だって速くなった。今ならあの頃よりもずっと……ずっと上手にお化けたちから逃げられると思う……」

『————!!』

 

 コトモは自身の成長を示す。

 

 何一つ変わっていないよまわりさんとは違い、人間である彼女は一回りも二回りも大きくなった。訳も分からず泣きじゃくりながら、ただ逃げ回っていただけのあの頃とは違うと。

 それは、聞くものが聞けば驕りに聞こえたかもしれない。現によまわりさんはコトモの言動を軽々しいと感じ取ったのか。その空気が一瞬、重く冷たく張り詰めかけていく。

 

 

「——でもね……それでもやっぱり、夜は怖いよ?」

 

 

 だが、コトモは決して増長などしていない。彼女は『夜』が恐ろしいものだと正しく理解していた。

 夜は怖いものだ。人間が安易に触れてはならないものだと。今でもしっかりと夜を恐れ、そこに潜むものたちに畏れを抱いている。

 

「夜は怖い……死ぬのは怖い。それも全部……あの町の夜が教えてくれたんだよ? あの町のお化けたちが……よまわりさんが怖いから……わたしは今でも、夜を怖いと思うことができるんだ……」

「コトモ……」

 

 コトモの吐露される胸の内に、トモコは感じ入るように妹の名を呟く。彼女も一緒にあの町で生まれ育ったからこそ、妹の想いに深く共感できる。

 

 あの町に住むもので、夜を軽んじるものなどいはしない。それは頻繁に夜を探索し続けてきたコトモも同じだ。寧ろ深く知れば知るほど、恐怖の色は濃く増していくというもの。

 あの夜が、あの町で過ごした日々が姉妹たちを『正しく恐怖』させ、軽々しく一線を越えるような真似がないようにと踏み留まらせてくれている。

 

「この怖いって気持ちは……きっと大人になっても変わらないと思う。わたしは……私はこの気持ちを抱いたまま、それでも一生懸命生きていける!!」

 

 子供の頃の記憶など薄れていくのが大人というものだが、あれだけ恐ろしい目に遭ってきたコトモがこの恐怖心から解き放たれることはない。

 失われた筈の左目も、変わらず『真夜中の世界』を映し続けている。

 

 彼女が『夜』から逃れることは生涯無理だろう。いや、生きている限り、人は常に夜と向き合って生きていかなければならない。

 けれど自分は大丈夫だと。コトモはしっかりと地に足を付け、その夜と共に生きていくことを宣言するように叫んでいく。

 

「だから……もう大丈夫だよ? よまわりさんは……私を心配して見守ってくれてたみたいだけど……もう、そんなことをする必要もないんだから……」

「えっ……? み、見守る?」

 

 だからもういいと。わざわざこの東京まで自分を追ってきたよまわりさんに、もう自分の見張りなどする必要がないことを告げた。

 トモコはよまわりさんが妹を『見張っている』と感じ取っていたが、コトモ自身はよまわりさんに『見守られている』と思っていたようだ。

 けど、そんな心遣いも今の自分には必要ない。コトモはよまわりさんという存在に、別れの挨拶を切り出した。

 

「今度は私じゃない……他の誰かを気に掛けてあげて。この街で……あなたが守ろうとしてくれた子供たちみたいに……」

 

 よまわりさんは、夜道怪の仕事を妨害していたという。都合の良い解釈かも知れないが、コトモにはその事実が『子供らを守ろうとしていた』とも感じられた。

 

 勿論、よまわりさんは子供を誘拐するもの。

 よまわりさんに連れ去られたことで、行方不明のまま消えた子供が実際にいるのもまた事実だろう。

 

 だけど、それだけじゃない。子供を連れ去るだけがよまわりさんの全てではないと。コトモは『彼』を信じて送り出していく。

 

『————』

 

 コトモの思いに、よまわりさんがどんな気持ちを抱いたか。余人にそれを推し量ることは不可能だっただろう。

 

「あっ……戻った」

 

 だが、コトモの言葉によまわりさんは矛を治めたようだ。その証拠に裏返っていたその存在がぐるりと反転し、元の状態へと戻っていく。

 元の不気味に佇む、黒いミミズのような胴体。何を考えているか分からない白いのっぺりとした仮面。無数に生えた触手には、子供たちを捕まえる袋が握られている。

 

 

『————————』

 

 

 しかしよまわりさんはそれ以上、何もしなかった。

 周囲に多くの子供たちがいたが、その誰を連れ去ることもなく——闇に溶け込むように消えていく。

 

 

 以後。

 よまわりさんが夜野田コトモの前に姿を見せることは、終ぞなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ~……ああ、怖かった!!」

「コトモ!! もう、あんな無茶をして……何かあったらどうするつもりだったの!?」

 

 よまわりさんが立ち去ってくれたことで、空気が弛緩していく中。極度の緊張状態から一転、コトモは公園の地べたに尻餅を付いた。

 張り詰めていたものをそこで一気に解いたのだろう。反動のように一歩も動けなくなる彼女に、怒った顔でトモコが駆け寄っていく。

 コトモの無茶を叱りつける彼女だが、やはりそこには妹が無事だったという安心感があった。今度こそ、今日も夜を乗り越えられたと喜びの抱擁でコトモを迎え入れる。

 

「ごめんね、お姉ちゃん。けど大丈夫。きっと……よまわりさんも……分かってくれたと思うから……」

 

 姉に素直な謝罪を口にしつつも、コトモはよまわりさんが消えていった場所を見つめていた。

 結局、よまわりさんが何者なのかなどはコトモにも分からない。分からないが——今のできっと自分の伝えたいことは伝わっただろう。

 

 きっと分かってくれると、その存在が自分以外の誰かにとっても『教訓』になるようにと、心の底から祈るしかない。

 

「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが……」

「ええ、僕も……連れ去られた子供たちも……みんな無事のようですね……」

 

 これで今度こそ一件落着と、目玉おやじや鬼太郎も周囲に気を配る余裕が生まれた。

 事件の本来の黒幕・朱の盆にこそ逃げられたものの、夜道怪が倒されたことで子供たちも皆戻ってきた。あとは彼らにそれとなく声を掛け、なんとかそれぞれの自宅へと返せばこの件も片が付くだろう。

 

 

「——なんでよ?」

「……ん? どうしたの、香凛ちゃん?」

 

 

 そんな中、助けられた子供の一人——山根香凛が戸惑い気味に問いを投げ掛ける。

 その問い掛けは、コトモへと向けられていた。だが香凛が何を不思議がっているのか分からず、コトモは彼女に聞き返していく。

 

「……なんで……あたしなんか庇ったのよ。……あたしたち、そんな仲よくないでしょ? ただのクラスメイトってだけなのに……なんで……」

 

 未だ完全に状況を把握しきれていない香凛だが、自分がコトモに助けられたということは察したらしい。

 だからこそ——何故コトモが自分を助けようとしたのか、それ自体が理解できていない。

 

 クラスメイトとはいえ、所詮は見ず知らずの他人である自分を、どうしてコトモがあんな命懸けで庇ってくれたのだろうと。きっと自分が逆の立場ならとっとと逃げていたと、心底から疑問が尽きない様子だった。

 

「だって……怖かったから。香凛ちゃんが……いなくなっちゃうのが……」

「……え?」

 

 だが、そういった香凛の疑問とは裏腹に、コトモは至極単純な思いから彼女を助けなければとその身体を突き動かしていた。

 

「もう……誰かがいなくなっちゃうのが嫌だった。身近な人がいなくなっちゃうのは……もうたくさんだったから……」

「!!」

 

 苦しそうに呟かれたコトモの言葉には、痛みを堪えるような響きが感じ取れた。

 きっと近しい誰か、大切なものを失った経験がコトモにはあるのだろう。そういった喪失感を未だ経験したことのない香凛にも、それが耐え難い苦痛であることを想像させる。

 

「そっか……コトモは、この子を心配していたのね? この子を探すために……家を飛び出しちゃったのか……」

 

 その痛みを共有する姉妹としてか。トモコはそこで『今宵、コトモが一人で出歩いていた』その理由を察した。

 本来なら大人しくしていなければならない立場であったコトモが、危険を冒してまでどうして家の外へと飛び出したのか。

 

 それは偏に——香凛のためだった。

 身近なクラスメイトであった彼女が目の前から消えた。このまま彼女がどこかに行ってしまうのではないかと、それが不安だった。

 

 だからそれを取り戻そうと、コトモは夜の街へと繰り出したのだ。自分の身の安全すらも顧みず、ただ山根香凛という少女を求めて——。

 

「わ……わたしのため? わたしなんかのために……アンタはそんな……必死になって?」

 

 庇うだけではなかった。あれほど暗くなる前に帰らなければと、口うるさく注意していたコトモが自分を探して夜の街を出歩いていたという。

 ただのクラスメイトのためにそこまでする行動力。それは香凛が嫌いな『良い子ちゃん』に通ずるものがあったが、不思議と嫌な気分にはなれなかった。

 

「なんにせよ、無事で良かったよ……」

「あっ……」

 

 寧ろ自分の無事を涙ぐみながら喜び、優しくその身体を抱きしめてくるコトモの暖かさに嬉しさが込み上げてくる。

 どうして、なんで。そんな疑問が吹き飛ぶほどに、香凛の心が穏やかな気持ちで満たされていく。

 

「…………あ、ありがとう…………本当に…………!」

 

 香凛は込み上げてくるものを堪えながら、照れくさそうにお礼を口にした。

 自分の無事をここまで喜んでくれる人が、求めてくれる人がいる。それがこんなにも嬉しいものだと、彼女は生まれて初めて実感していた。

 

 よまわりさんとの別れという、一大決心を決意させた夜野田コトモもそうだが。

 

 山根香凛という少女にとっても、その夜は決して忘れることのできない記憶として刻まれていくこととなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、長い夜が終わった。

 

 どれだけ深い闇であろうとも必ず晴れるよう、少女たちはそれぞれの日常へと帰還していく。

 

 日常に戻れば何事もなかったように、今夜の出来事を心の奥底にしまい込んで笑顔で笑い合うのだろう。

 

 

 だが——忘れてはならない。

 

 たとえ、夜道怪が倒されようとも。

 

 たとえ、よまわりさんが立ち去ろうとも。

 

 この世界から『夜』が消え去ることはない。

 

 明けない夜がないように、沈まぬ太陽も存在しない。

 

 どれだけ拒絶しようとも、夜は必ず訪れる。

 

 その度に思い出してほしい、夜の怖さを。

 

 決して忘れずにその胸に刻みつけてほしい、夜の恐怖を。

 

 たとえどれだけ大人になろうとも、夜はいつもそこにあるから。

 

 

 

 いつだって、夜はあなたたちを見ていますから——。

 

 

 




人物紹介

 朱の盆
  ご存じぬらりひょんの配下。
  6期での戦闘力はシリーズ屈指。けどやっぱりどこか抜けていて憎めない一面も。
  本小説内では、『ぬらりひょんという頭を失いながらも、自分なりに考えて悪事を働く』という朱の盆を描いていました。
  今後も、話の流れによっては色々と動きを見せるかもしれません。その活躍に乞うご期待。
  ちなみに……朱の盆は本気でぬらりひょんが死んだと『思い込んで』おります……。

 夜道怪
  今回のゲスト妖怪。旅の僧侶の格好をした老人妖怪。
 『子供を攫う』というワードから、よまわりさんとの共演を実現させてみました。
  ビジュアルのモデルは5期に登場した、夜道怪そのもの。
  闇を操るといった能力や、口調なども意識して5期に寄せています。
  ちなみに、5期におけるcvは中田譲治さんです。……外道神父、正月のピックアップに来るかな?


次回予告

「……過ぎ去った過去……助けられなかった人々。
 犠牲は傷跡となり、既に覆せないものとして大地に刻まれる。
 それでも……それでも少年は、少女の名前を求め続ける。
 父さん……彼の覚悟に、ボクたちは応えるべきなのでしょうか? それとも……。

 次回ーーゲゲゲの鬼太郎 『君の名は。』 見えない世界の扉が開く」

 すずめの戸締まり公開記念!!
 新年一発目は新海誠の災害三部作、その第一作目をクロスオーバー!!

 ちなみに……作者は既にすずめを二回観に行きました。もう一回行ってもいいかなとか思ってます。
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