ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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WBC準決勝、逆転勝ちおめでとう日本〜!!
…………などと、流行りに乗った挨拶をしつつ、申し訳ございません!!

次回で完結などと言いながらも、やはり今回も三話構成で終わらせることが出来ませんでした!
今回は文字数の都合というよりは、作者のメンタル的な問題でして……。
やはり暗い話を書いていると、気分が沈み気味になって……。

とりあえず、しっかりと書けたところまでは投稿。
ちゃんと読み応えはあると思いますので……次話まで完結は持ち越しに……。

お詫びというわけではありませんが、本来であれば『人魚の森』の話を完結させてから書くべき——次回予告。
それを今回の後書きに載せようと思います。

その予告を見てもらえば、次回のクロスオーバーが明るいものになると分かって頂けるかと……。


人魚の森 其の③

「今の銃声は……!」

「どうされましたか、先生!?」

 

 教団の聖地・教祖の武家屋敷。敷地内に響き渡った銃声を聞きつけ、二人の黒服たちが土蔵へと駆け付けてきた。

 土蔵の入り口には銃を握りしめた教祖が立っており、彼が銃口を向ける先。土蔵の中にはボロい布切れを纏った男・ねずみ男がへたり込んでいた。

 

「————」

 

 そして、ねずみ男の横では一人の青年・湧太の身体が横たわっている。ピクリとも動かないことから、既に息絶えていることが見て取れる。

 

「侵入者ですよ。威嚇射撃のつもりだったのですが、不運な方です……」

 

 教祖は黒服の呼び掛けに平静な声音で応じる。

 人をその手にかけておきながら、それを『不運』の一言で片付け、その顔には平然と笑みすら浮かべられている。

 

「も、申し訳ありません! こちらの不手際です!!」

 

 教祖の底知れぬ笑みに、荒事に慣れているであろう黒服ですらも若干引き気味だ。侵入者の存在を許してしまった自分たちの失敗もあってか、萎縮したように頭を下げていく。

 

「もう片方のねずみは? もしよろしければ、私どもの方で処理を……」

 

 名誉挽回とばかりに、黒服の一人がもう片方の侵入者——まだ生きているねずみ男へと冷酷な視線を向ける。

 その処遇をどうするか一応のお伺いを立ててはいるが、その懐からは黒光りする拳銃を取り出そうとしていた。

 それで何をどうするか、説明するのも野暮というもの。

 

「——お、お待ちください!! 教祖様!!」

 

 瞬間、その凶器の矛先が向けられるよりも早くに、命の危険を察知したねずみ男が声を上げた。

 

「私めは教団の信者でございます!! この男! この男に脅されて仕方なくこのような真似をしでかしてしまいました!! どうか、どうか私の罪をお許し下さい! 教祖様!!」

 

 彼は低頭平身、涙や鼻水を流しながら必死に命乞いをする。

 自身の欲望から教団の金を狙っておきながら、その責任を全て死んだ湧太へと押し付けたのだ。

 

「…………」

「…………」

 

 プライドもクソもない、その平伏ぶりには黒服たちもポカンと口が開いてしまうほどだった。

 

「なるほど、そういうことでしたら仕方がないでしょう」

 

 すると、教祖はねずみ男の言い分に理解を示し、手にしていた拳銃を下げる。

 

「さぞ怖かったでしょう。もう大丈夫、誰も貴方を責めたりなどしませんよ」

「へっ……よ、よろしいのですか?」

「せ、先生!?」

 

 まさか許されるとは思っていなかったのか。ねずみ男の方が目を丸くし、黒服たちも教祖の判断に驚いてしまっている。

 だが彼らの困惑などお構いなしに、教祖はねずみ男に向かって優しく微笑みかけていく。

 

「貴方は確かに間違いを犯してしまった。けれど人は過ちを正すことができる生き物です。神もきっと、貴方を許してくれることでしょう」

「あ……ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

 

 教祖の寛大な措置にねずみ男は感涙に咽び泣く。勿論それは嘘泣きではあるのだが、とりあえずその場を乗り切れたことにホッと胸を撫で下ろす。

 

「さて……」

 

 そうして、何でもないことのようにねずみ男に許しを与えた後、教祖はその視線を死体となった湧太へと向ける。

 

「こちらの方のご遺体は『巣穴』へ。彼らの食糧として、十分に有効活用させてもらいましょう」

 

 ねずみ男を『許す』と言ったその口で、教祖は『死体を利用』などと残酷なことを平然と言ってのける。しかも、そこには何の感情の揺らぎもない。

 全ての台詞が同じトーン。顔の笑みも崩すことなく紡がれていた。

 

「は……はい! しょ、承知致しました!!」

 

 その笑顔を前に、黒服たちも口を挟めなかった。教祖の言葉に逆らうことを本能的に恐れ、ただ彼の言葉に従うしかなく。

 

 

 湧太の遺体を——『なりそこないの巣穴』へと運び込んでいく。

 

 

 

 

 

「あの……どこまで運べばよろしいんでしょうか?」

「黙って付いてこい。お前も……そうはなりたくないだろう?」

 

 月明かりの下、男たちが湧太の死体は何処かへと運び込む。

 とはいえ、実際に遺体を背負っているのはねずみ男一人だ。黒服の男たち二人は、ねずみ男が逃げられないように彼を監視。一方で、教祖は身体を休めると屋敷の奥へと引っ込んでいた。

 教祖の犯した殺人を隠蔽すべく、ねずみ男と黒服たちが死体を投棄する場所を目指して黙々と歩いていく。

 

「ほら、着いたぞ」

「はぁはぁ! ふぃ~……つ、疲れた……」

 

 数十分ほど歩いたところで、黒服はぶっきらぼうな口調で目的地に辿り着いたことを告げる。ずっと湧太の遺体を担いで歩いてきたため、ねずみ男は疲労困憊。心なしか、汗をかいた背中から妙な暖かさを感じる。

 地面に遺体を横たわらせ、ねずみ男は周囲を見渡す。

 

「夜の海ってのは……どうしてこう不気味なのかねぇ……」

 

 そこは教祖が住まう屋敷の裏手、海岸線にそり立つ断崖絶壁にあった。そこから眺めることができる夜の海は不気味なほど静まり返り、引き込まれそうなほどに暗い世界が広がっている。

 暗がりの中、足元を注視しながら崖を降りていった先で、一行はその場所——『巣穴』へと辿り着いていたのだ。

 

「あの、先輩……ここはいったい?」

 

 ふと、黒服の一人が困惑気味にもう片方の黒服に『巣穴』とは何なのかを尋ねる。

 その黒服は新人らしく『そこ』がどういった場所なのか、詳しくは聞かされていないようであった。

 

「なんだ、お前……ここに来るのは始めてか?」

 

 先輩の黒服は、後輩の黒服の質問に——その『穴』を指し示しながら答える。

 

「ほれそこだよ。その穴の中が……連中の住処になってやがるのさ」

 

 それは切り立った崖の斜面、岩場に自然発生した洞窟の穴だった。落ちたら自力では這い上がってこれない深さのその穴の中を、ねずみ男と後輩が覗き込んでいく。

 夜ということもあり、穴の中はひたすら真っ暗だった。黒服は何も見えない穴の内部を懐中電灯の光で照らし、そこに何があるかを確認しようとする。

 

 

『——オォオオオオオ』

 

 

 そのときだ。照らされた光に反応するかのよう、内部に潜んでいた『なにか』が唸り声を上げる。

 ヒタヒタと洞窟内で足音を鳴らすそれが、光を求めるようにその姿をねずみ男たちの視界へと晒していく。

 

「な、な、な……なんだありゃ!?」

『オ、ウォオオオオ』

 

 それはねずみ男ですら、思わずたじろぐほどに悍ましい姿をした『化け物』だった。

 

 全身が緑色の皮膚。疲れ切った老婆のような長い白髪、魚のような唇から剥き出しの牙が露出している。ギョロッと飛び出た目玉からは涙が溢れ出し、その口からは悲鳴のような絶叫が漏れ出していた。

 その佇まいからも、とても理性があるようには見えない。そんな悍ましい化け物が穴の奥で蠢いているのだ。

 しかも、一匹ではない——。

 

『——ガァアアア』

『——アォォアア』

 

 目視で確認できるだけでも二、三匹。鳴き声などから、さらに多くの化け物が穴の中に潜んでいることが窺い知れる。

 

「あ、あれが……なりそこない。け、結局のところ……なりそこないってなんなんですか!?」

 

 後輩の黒服も、それが『なりそこない』と呼ばれる存在であることは既知らしい。だが具体的に何がどうなってあれが生まれたのか、その詳細までは知らないでいた。

 

「何って……人間だよ。人間がなりそこなって、ああなったんだよ。人魚の肉を食ってな……」

 

 先輩の黒服は、なんでもないことのように事実のみを口にしていく。

 

 

 人魚の肉。

 伝承にもあるよう、それは食べたものに『不老不死』を与えてくれる。眉唾物の伝説だが、それ自体は偽りのない真実であるという。

 だが全ての人間が、人魚を口にして無事に不老不死を得られるわけではない。人魚の肉を食べた途端、大抵の人間は体調に不調をきたし——そのまま息絶えるという。

 不老不死になろうとする肉体の変化に、身体が耐え切れずに起こる拒絶反応。ほとんどの人間はこの段階で死んでしまうのが普通らしい。

 

 しかし幸運にも、いや不幸なことに。それでも生き残ってしまうものが一定数いる。

 その場合、彼らは人間ではない——別の生物へと自身の肉体を変化させてしまう。

 

 それこそが、あの半魚人のような姿——『不老不死になりそこねた』人間だったものの成れの果て。

 

 ああなってしまっては最後、もう元の姿に戻ることはない。化け物のまま永遠に、この現世を彷徨い生きるしかないというのだ。

 

 

「先生……教祖は儀式と称して、定期的に信者たちに人魚を食わせてる。不老不死の人間を生み出そうとしてるんだよ」

『オ、オオオオオオ!!』

 

 穴の奥からこちらを仰ぎ見る犠牲者たちに対し、先輩黒服は冷ややかな視線を向けつつ教祖の目的を語った。

 

「その目論見が上手くいったことなんざ、一度としてないがな……その度に、なりそこなった連中は俺らがここに投げ込んでるんだ」

 

 だがその目的の全てが失敗に終わっており、その都度、この巣穴になりそこないを投げ込むのが黒服たちの通常業務になっているとのこと。

 

「まっ……俺らも死体の処理なんかに困ったときは、この穴を使ってる。ここに入れときゃ、連中が勝手に骨も残さずに食ってくれるからな」

「————!」

 

 付け加えるよう、先輩黒服は身の毛もよだつようなことを平然と言ってのける。教祖は化け物となった人間を捨てる場所に、黒服たちもここを死体処理場として利用しているという。

 どちらも人間としての倫理観を捨てた行為だ。ねずみ男も、後輩の黒服ですらも絶句するしかないでいた。

 

 

 

「さあ……お喋りはここまでだ」

 

 そうして一通り語り終えるや、先輩黒服は懐から拳銃を取り出し、それをねずみ男へと突き付ける。

 

「さっさと死体を担いだまま……その穴ん中に飛び込めや!」

「へっ……? ご、ご冗談を……」

 

 ねずみ男も、話の流れからここに湧太の死体を遺棄することくらいは察せられたが、まさかの言葉に思わず苦笑いを浮かべる。

 自分もその巣穴に飛び込むなど、まるで——ここで始末されるような響きではないかと。

 

「冗談じゃねぇよ……お前も、死体と一緒にここで朽ちるんだ」

「……ひ、ひぃっ!?」

 

 しかし先輩黒服はニヤリともせず、真顔でねずみ男に死刑宣告を下す。ねずみ男も相手が本気だと分かり、その顔面が真っ青になっていく。

 

「先輩? こいつは生かしておくと、先生が仰って……」

 

 これに後輩が口を挟んだ。

 教祖はねずみ男を許すと言った。それを自分たちの判断で勝手に覆していいのか、慎重になっているようだ。

 

「けっ! なに甘いこと抜かしてやがる!! ここまで知られて、生きて返すわけにはいかねぇだろが!!」

 

 しかし後輩の懸念を先輩である黒服は一蹴した。最初からそのつもりだったのか、全く迷いのない判断で吐き捨てる。

 

「安心しろって、教祖にはこいつが『うっかり足を滑らせて巣穴に落っこちた』とでも報告しとくからよ。それなら『不運』の一言で片付けられるだろう?」

「…………」

 

 確かにあの教祖であればそれで納得しそうだと。後輩もそれ以上は何も言えない。

 

「か、勘弁して下さい!! 命ばかりはお助けをっ!!」

 

 ここでねずみ男はすかさず土下座。先ほども土蔵でしたような、見事なまでの平謝りでその場を切り抜けようとする。

 もっとも、その手はもう通じない。

 

「おいおい、あんまり手間かけさせんな。お前も男なら覚悟決めろや、なっ?」

 

 既に彼の中でねずみ男を始末するのは決定事項となっていた。拳銃をねずみ男の眼前でちらつかせ、あくまで彼自身の意思で穴の中に飛び込むように迫っていく。

 

「…………」

 

 先輩の悪趣味な行いに後輩の黒服が顔を顰めるが、彼にはそれを止める権限がない。

 また一人、誰かが命を散らせていく光景を黙って見届けるしかないでいる。

 

 

 

 

 

「——せ、先輩っ!?」

 

 

 だが、その刹那——後輩が声を上げる。

 彼は『信じられない』という気持ちで、その口から悲鳴のような叫び声を上げていた。

 

「ああん……? なんだよ、まだ何か……」

 

 後輩の悲鳴に先輩は気怠げに振り返る。まだ何か文句があるのかと、眼光を鋭く睨みを効かせようとするのだが——。

 

 振り返った直後、彼の思考はそこで停止した。

 そこに——『絶対に存在してはいけない人間』が立っていたのだ。

 

「——おらっ!!」

 

 その人物は戸惑う先輩黒服の腹へと拳を突き出し、続け様顎下に掌底をお見舞いする。

 

「がっ!? う……嘘だろ……な、なんで……?」

 

 完全に不意を突いた一撃をまともに喰らい、黒服は悶絶し倒れていく。だが気を失う直前まで、彼も『信じられない』という気持ちで呻き声を上げていた。

 

 

「な、なんで……お前……生きて……?」

「…………」

 

 

 そう、自分を殴り付けてきたその人物、その男は——死んだ筈の『湧太』だったのだ。

 

 確かに彼は死んでいた。それはこの場にいる全員で確認した事実だ。万が一、生きているなんてことがあってはならないよう、心音も呼吸も全てが止まっていることを念入りに確認した。

 

 その上で彼は生きていた。その事実を受け入れることができず、全員が唖然と立ち尽くす。

 

「痛てて……ぺっ!!」

 

 だが、湧太は自身の生死など気にした様子もなく、身体の痛みに顔を顰めながらその場で唾を吐く。吐き出された唾の中には——彼の体内で留まっていた筈の『弾丸』が混じっていた。

 彼の命を奪った凶弾。血に染まっていることから、それが本物であることは確かだ。

 

「……なんなんだ……なんなんだよ、お前さんは!?」

「…………」

 

 湧太が黒服を殴り倒してくれたおかげで助かったねずみ男だが、彼も混乱していた。黒服後輩も、倒された先輩に駆け寄る余裕もなく、その場に立ち尽くしている。

 そんな彼らの『何故?』という視線にも慣れたものだと。湧太はため息を吐きながら愚痴を溢していく。

 

 

 

「——生憎、この程度で死ねれば……こっちも苦労はしねぇんだよ」

 

 

 

×

 

 

 

「結構歩いたと思うけど、まだ奥があるな……」

「どこまで続いてるのかしら、この洞窟……」

 

 その頃、鬼太郎たちは教団の信者たちに追われる形で逃げ込んだ洞窟を奥へ奥へと進んでいた。

 ほとぼりが冷めるまで動かずに待機することも考えたが、今も鬼太郎たちを探し回っている信者たちが、いつ洞窟の存在に気付くとも限らない。

 彼らが自分たちの後を追って来てもすぐに逃げられるよう、別の出入り口がないか洞窟内を探索していたのだ。

 だがその洞窟が思いの外深く、どこまでも奥へと続いていた。幸い一本道であったため迷うことはなかったが、一向に地上へと出れる気配がない。

 

 いったい、この洞窟はどこまで続いているのだろう。

 

「……ん? なあ……何か、聞こえてこないか?」

 

 ふいに、鬼太郎たちにこの洞窟の存在を教えてくれた真魚が、何かしらの『音』を聞き取る。

 彼女の言葉に鬼太郎たちも耳を澄ませると、確かに洞窟の奥から『波の音』らしきものが聞こえてくる。さらには嗅覚をツンと刺激する潮の香りも。おそらく海辺が近いのだろう。

 

「……なんだ? 誰か……いるのか?」

 

 だが、それと同じタイミングで——『人の声』のようなものも聞こえてくる。それも複数人。

 まさかこんな洞窟に人が集まっているわけがないと。そう思いながらも奥へ進めば進むほど、聞こえてくる声は大きくなってくる一方だ。

 

「鬼太郎……」

「ああ、行ってみよう……」

 

 いったい、この洞窟の最深部に何があるというのか。

 猫娘や鬼太郎は覚悟を決め——そこに広がっていた光景を目の当たりにする。

 

 

 

 

 

「——な、なんじゃ、これは!?」

 

 その光景を視界に収めた瞬間、目玉おやじですらも思わず目を見開く。長い洞窟の一本道を道を抜けた先——そこには広々とした空洞が広がっていた。

 

 それは、俗に『海蝕洞』と呼ばれる海に面した洞窟だ。

 イタリアのカプリ島に『青の洞窟』と呼ばれるものがある。洞窟内部に太陽光が差し込み、反射することで水面を美しく幻想的に輝かせる現象。日本国内にも数カ所、そういったスポットは存在する。鬼太郎たちが今いるこの場所も、地形的にはそれと似通ったものだろう。

 無論、今は夜なのでそのような神秘的な光景を拝むことはできない。それに、たとえ日中であったとしても、そこが幻想的な雰囲気に包まれることはないだろう。

 

 

 何故なら、その洞窟内は——人間の手によって、本来あるべき姿から乖離されていたからだ。

 自然の恩恵によって生まれた天然の洞窟。そのあちこちに、無粋な『人工物』が散らばっていた。

 

 

「——おっと……危ねぇ!?」

「——気を付けろ! もっと慎重に運び込め!!」

 

 陸地部分の建物——倉庫と思しき場所から、黒服の男たちが『積荷』を運び込んでいる。先ほどから聞こえてくる人の声は彼らのものだ。

 積荷は『現金』や『金塊』、『拳銃』といった違法な武器から、『白い粉』といった違法なクスリまで。まさに密輸品の見本市。

 そういった危険な代物の数々が——船舶へと運び込まれていた。

 

 そう、海面には数隻の船が停泊している。そこは『港』として機能していたのだ。

 

 それこそが、この地における最大の秘密。

 教祖の屋敷の地下。教団の聖地を隠れ蓑に秘密裏に建造された、黒服たち——犯罪組織の地下交易港だった。

 

 信者たちの布教活動によって集められた現金や金塊を保存しておく倉庫もここにあり、銃などの非合法な武器もここで扱っている。さらには信者たちが何も知らずに丹精込めて育てた畑の植物から作られる・白い粉の生産地もここだ。

 完全なるアンダーグラウンドの裏世界は当然、教団の信者たちにも秘匿されていた。その存在を知ったものを、黒服たちは決して許しはしないだろう。

 

 

 

「——!! いたぞ、侵入者だ!!」

「——っ!?」

 

 洞窟内を見廻っていた黒服の一人が、非正規のルートから侵入した鬼太郎たちを見つけ、仲間たちに大声で知らせる。

 地上での信者たちの騒ぎを聞き、念の為にと地下の警備を増やしていたため、迅速に対処出来たのだろう。

 

「——生かして返すな!!」

「——撃て、撃て!!」

 

 そして、侵入者への対応も前もって決められていたことなのか。集まってきた黒服たちは躊躇うことなく懐から拳銃を抜き、警告もなしに発砲する。

 迷いのない動作、銃の扱いもそれを人に向ける術も心掛けているようだ。

 

「い、いかん!! 避けろ、鬼太郎!!」

「っ!?」

 

 これに目玉おやじが素早く叫ぶも、鬼太郎の反応はワンテンポ遅れた。

 いかに妖怪の彼らでも、この状況で冷静に行動するなど無理があった。思いがけず見てしまった教団の秘密、それを理解して飲み込むだけでもそれなりに時間が必要だ。

 

 もっとも、ただの銃弾で妖怪に致命傷を負わせることは難しい。鬼太郎への銃撃は先祖の霊毛で編まれたちゃんちゃんこが全て弾き、猫娘もその類稀なる反射神経でなんとか銃弾を躱していく。

 黒服たちも、侵入者が妖怪などとは思いもよらない。あくまで人間を相手にする布陣で対応するしかなく、それでは十全に鬼太郎たちを迎え撃つことなど出来ないだろう。

 

 だが、鬼太郎たちに混じって——そこに『一般人』がいたことを失念してはいけない。黒服たちの放つ銃弾の雨は、たった一発でも人間に致命傷を与える。

 

 

「——あ……はっ……あ……?」

 

 

 そう、鬼太郎たちと一緒だった彼女が——真魚が撃たれたのだ。

 銃弾を受けた腹部が鮮血に染まり、彼女の華奢な身体がその場に崩れ落ちていく。

 

「ま、真魚……さん!?」

「ま……真魚!!」

 

『大切な友人の少女』と同じ響きの名前を持った、真魚の名を叫ぶ鬼太郎たち。すぐ側にいながらも守れなかった。ただの一般人を巻き込んでしまったと、鬼太郎たちの顔が罪悪感に歪んでいく。

 

「こ、こいつら……妖怪だぞ!?」

「もっと手勢を集めろ!! 絶対に逃すなよ!!」

 

 一方で、黒服たちは一向に手を緩めない。

 それどころか鬼太郎たちが妖怪だと察するや、さらに攻勢を強めてくる。たとえ罪なき少女が血に染まろうとも、彼らが罪の意識を抱くことなどない。

 

「お前たち……!!」

 

 これに鬼太郎が怒りを見せ、反撃に転ずる。

 リモコン下駄で黒服たちの拳銃を弾き飛ばし、銃弾代わりに髪の毛針を撃ち込んでいく。命まで奪うつもりはないが、それ相応の痛みは受けてもらわねばと。

 

 黒服たち一人一人の意識を、妖怪らしく無慈悲に容赦なく刈り取っていった。

 

 

 

「ちょっと!? しっかりしなさい!?」

「猫娘!! すぐに止血じゃ!!」

 

 鬼太郎が黒服たちの相手をしている間に、猫娘と目玉おやじが倒れた真魚へと駆け寄る。

 

「はぁ、はぁ…………かっ……!」

 

 かなりの深傷ではあったが、そのときの真魚にはまだ息があった。猫娘はそれを希望とし、傷口を塞いで応急処置を試みる。

 だが流れ出る血の量が、息絶え絶えといった真魚の容体が彼女の命がもう長くないことを告げていた。

 

 真魚は死ぬ。

 それは避けようのない現実である。

 

「だ……だい、じょうぶさ……こんなんで私は、死なない……死ねないんだ……」

 

 しかし意識が朦朧としながらも、真魚は自分が死ぬなどと微塵も思っていない。自分を心配してくれる猫娘を安心させるよう、微笑みすら浮かべていた。

 それでも、どれだけ強気に振る舞おうと真魚の運命が覆るわけではない。

 

「————」

 

 程なくして、真魚は息を引き取った。

 死ぬときはあっさり死ぬ。それが人間という命の脆く儚いところである。

 

 

 

 

 

「ま、真魚? ねぇっ!! しっかりしなさいよ!?」

「駄目じゃ。彼女は……もう……」

 

 真魚に向かって必死に呼び掛ける猫娘だが、死んだものがその叫びに答えることはない。

 救えなかった、助けられなかったと。猫娘も目玉おやじも、己の非力さに力なく項垂れるしかない。

 

 ところが——。

 

「…………ん? ま、待て!!」

 

 目玉おやじが気付いたように、変化はすぐに起きた。

 事切れていた筈の真魚の傷口から、流れ出る血と共に弾丸が抜け落ちた。直後、出血はピタリと止まり、その傷口が巻き戻しのように塞がっていくではないか。

 

 

「——かはっ!? ゲホッ、ゲホッ!! はぁはぁ……はぁ……」

 

 

 刹那、真魚が息を吹き返した。

 苦しそうに咳き込み、血を吐きながらも彼女はゆっくりと身体を起こしていく。

 

「う、嘘でしょ?」

「こ……これはいったい!?」

 

 猫娘や目玉おやじも、喜びよりも困惑が勝る。

 真魚は確かに『死んでいた』。彼女が死ぬその瞬間を、妖怪たちは確かに見届けた筈だ。

 

 なのに、彼女は息を吹き返した。一度完全に死んでおきながらも、すぐに『生き返って』しまったのだ。

 いったい何が起きているのか、妖怪たちにも全く状況が飲み込めないでいる。

 

「……なっ? 死ななかっただろ?」

 

 当の本人、真魚は無事に自分が生き返ったことをさも当然のように、少し寂しそうに呟いていた。

 

 

「——このくらいじゃ死ねないんだよ。私も……湧太も……」

 

 

 

 

 

「——せ、先生……先生!!」

「何事です、騒々しいですね……!?」

 

 武家屋敷。一人自室で読書に耽っていた教祖の元に、黒服たちが切羽詰まったように駆け込んできた。いきなり部屋に入ってくるという無作法に笑顔のまま眉を顰める教祖だったが——。

 

「——よお……さっきはよくもやってくれたな、教祖さんよ!!」

「——!!」

 

 そこにいた人物を前に流石に言葉を失う。そこには死んでいた筈の青年——湧太が立っていたのだ。

 彼は黒服の一人を羽交締めにし、それを盾に殴り込みに来ていた。仲間が人質になっていたため、他の黒服たちも手が出せずにいる。

 もっとも、黒服たちがその気になれば湧太など人質ごと亡き者にしていたことだろう。だが——。

 

「せ、先生……こいつ、生き返ったんです!! 死んでいたのに、息を吹き返して……」

 

 人質の黒服が叫ぶ。

 彼は湧太の死体を処分するように言われていた後輩の黒服だ。彼の口から『湧太は死んでも生き返る』という事実が叫ばれていた。

 

 そう、殺したところで湧太は何度でも蘇る。その事実が黒服たちに動揺を与える。

 教祖が信者たちを使って生み出そうとしている——『不老不死』の人間。なりそこないではない、その本物が目の前にいるという事実。

 

「まさか……そんなことが……」

 

 教祖の顔にも初めて動揺らしきものが浮かぶ。彼は湧太を見つめ、その腹部に血の跡があることを確認。目の前にいる青年が、自分が撃ち殺した湧太本人であることを見定める。

 そう、湧太が間違いなく不老不死の人間だと、それを理解した瞬間——。

 

 

「——お、おおっ!! やっと……やっと見つけましたよ!!」

 

 

 その顔に満面の笑み、涙すら浮かべ——歓喜の声を上げていた。

 

 




人物紹介
 湧太
  改めて、原作の主人公。その正体は人魚の肉を食べた元漁師の青年。
  見た目は普通の青年ですが、実年齢は五百歳とかなりの年長者。 
  その割には性格も普通の兄ちゃんといった感じ。精神年齢が肉体に引っ張られるということでしょうか。
  
 真魚
  原作のヒロイン。湧太と同じく、人魚の肉を食べて不老不死になった少女。
  肉体年齢は十五歳、原作の時代設定が昭和なのでまだ百歳にも満たない(昭和なんて最近だし)。
  初登場時は結構苛烈な感じですが、普段は割とすっとぼけた感じの普通の女の子。
  
 なりそこない
  人魚の肉を食べながらも不老不死になれなかった怪物。
  凄まじい膂力と生命力を持つ反面、知能はほぼ皆無。
  並大抵のことでは殺すことができない筈ですが、割と原作では普通に倒されています。
  こうなってしまったら最後……死ぬ以外の救いがないという、悲運な存在。
  
 黒服・先輩後輩
  ねずみ男を始末しようとしたのが、先輩黒服。
  ちょっと穏便な感じに見えるのが、後輩黒服。
  先輩の方は湧太にぶん殴られてフェードアウトしてますが……後輩の方にはこの後にも役割があります。





次回予告

「父さん、自分の『容姿』に悩みを持った人間がいましたが、
 それと同じくらい、自分の『性格』に悩みを持った人間がいると聞きます。
 けど、何かの力を借りてその性格を直したとして、それはその人自身と言えるのでしょうか?

 次回——ゲゲゲの鬼太郎 『ぼっち・ざ・ろっく!』 見えない世界の扉が開く」

 今尚ムーブメントを巻き起こしている作品。鉄は熱いうちに打てとばかりに話題に乗っかる形になりますが。
 しっかりと妖怪も登場。鬼太郎らしい話を展開していくつもりですので、そこはご安心ください。

 勿論、まずは『人魚の森』をしっかりと完結させた後に話を書いていきます。
 
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