ネットや公式の雑誌でもネタバレが解禁されていますが、まだ行ってない人はネタバレなしで行くと衝撃、楽しさも倍増する作品です!
そして、これもぬら孫のほうで述べましたがずっと視聴を続けていた『デジモンゴーストゲーム』が終わってしまいました。
後番組で始まった『逃走中グレートミッション』も一話を見てみましたが……今のところは何とも。
なんだか、主人公の弟が可愛すぎなところが印象に残ってる。
この間アニメ化が発表された『逃げ上手の若君』も可愛いショタだし。
久しぶりに見た最新作の『プリキュア』でも、男の子がプリキュアになってたし。
……大丈夫なのか、これ? キッズの性癖が歪むぞ……。
というわけで、ようやく『人魚の森』のクロスオーバーが今回で完結です。
色々と苦労しましたが、なんとかいい感じに話をまとめることが出来ました。
最後は結構詰め込んでいますので、どうかじっくり読み進めて楽しんでください。
「——他のものには席を外してもらったよ。キミとは……どうしても、二人だけで話がしたかったからね」
「…………」
月明かりの下、武家屋敷の庭先で教祖と湧太の両者が二人っきりで向かい合っていた。
教祖は湧太が人魚の肉を食べて無事に生き残った人間——『不老不死』だと分かるや、すぐに『話し合い』の場を設けるように提案してきた。教祖の申し出に湧太は面食らったが、彼としてもそれを受け入れるしかない。
確かに湧太は不老不死ではあるものの、それ以外は多少喧嘩慣れした青年でしかなく。教祖の取り巻き、黒服たちに本気で武力介入されれば成す術もなく無力化されてしまうだろう。
教祖の油断を誘うためにもその提案に乗り、そこからどうするか話の流れで考えていくしかないと。
とりあえず、湧太は相手の出方を伺うのに注視していく。
「……っと、その前に……」
すると湧太の懐疑的な視線に何かを察したのか、教祖が動く。
彼が徐ろに懐から取り出したものは『ナイフ』だった。鋭利な凶器を前に身構える湧太だったが、教祖はそのナイフを——躊躇うことなく自身の胸元へと突き立てた。
「なっ!?」
「ぐっ……ぐふっ……」
突然の凶行に目を剥く湧太。当然、教祖は血を吐き苦悶の表情を浮かべる。
なんとか力を振り絞って突き立てたナイフを引っこ抜くも、すぐにその瞳からは光が失われ、身体が膝から崩れ落ちていく。
内臓への深傷に出血多量。教祖はその瞬間——確かに死んでいた。
「——かはっ!!」
だが、数秒後にはビクンと、教祖の肉体が動き出す。
傷口も塞がり、止めどなく流れていた血もすぐに止まった。湧太と同じだ。死んでもすぐに——教祖は生き返っていく。
「ご覧の通りさ。私も人魚の肉を口にし、不老不死になった身だ……キミと同じようにね」
教祖は自分が湧太と同じ、人魚の肉を食べた不老不死の存在であることを死んで見せることで証明したのだ。
そのためだけに自分で自分の命を躊躇なく絶って見せる教祖の行動力に、湧太は空恐ろしいものを感じる。
「別に……わざわざ証明して貰わなくても疑いはしねぇよ……」
もっとも証明などされなくとも、今更教祖が不老不死であることを湧太は疑っていない。
土蔵で人魚のミイラを見つけたときから、相手が自分と同じ存在であろうという確信があった。問題は、彼がどのようにして今のような身体になったということだが——。
「私がこの身体になったのは……今から二百年ほど前のことだったかな?」
湧太の聞きたいことを見透かすかのよう、教祖は自身の身の上を語っていく。
二百年前。
教祖は『仲間たち』と共にこの島に漂着したという。そのときの教祖はただの船乗りだった。彼の乗る船が不幸な事故により、当時はまだ無人島だったこの島に流れ着いてしまったのだ。
最初に結果だけを語るのであれば——彼はたまたま近くを通りかかった漁師の船により、島から脱出することが出来た。
だが救助される際、彼は一人だった。他の乗組員、教祖の仲間たちは皆——人魚の肉を食べた副作用によって死んでしまったのだ。
「……俺も、俺以外のやつはみんな死んじまったよ。誰も……人魚の肉に身体が適応出来なくてな……」
教祖の話に、昔を懐かしむように湧太も自らの過去を語った。
湧太が人魚の肉を食べたのは、教祖よりもさらに昔——五百年も前のことだ。当時の湧太は漁師をしており、同じ漁師仲間が見つけてきたという人魚の肉を面白半分で口にしてしまったのだ。
結果、湧太以外のものは皆死んだ。
あるものは、人魚の肉を食べた直後に——。
あるものは、その翌日に血を吐いて息絶えた——。
「私の仲間たちも似たような末路でしたよ……誰一人として、二日と生きることが出来なかった……」
教祖も神妙な顔つきで仲間たちの最後を語る。
教祖やその仲間たちが人魚の肉を食べたのは、必要に迫られたからだ。島に流れ着いて数日が経ったある日、彼らは島の奥で『人魚』を発見したとのこと。他に空腹を満たすものもなく、このまま誰も助けに来ずに死んでしまうのかという恐怖もあってか。
それが人魚の肉だと認識した上で、教祖たちは自らの命を繋ぐためにそれを喰らったのだ。
当然、人魚の副作用は彼らにも『死』をもたらした。
あるものは、人魚を食べてすぐに倒れ——。
あるものは、その翌日に前触れもなくショック死し——。
あるものは、なりそこないの化け物となりながら醜く死んでいった——。
そうやって、湧太も教祖も——仲間たちの死をすぐ側で見届けたのである。
「……キミはどう感じた? 仲間たちが次々と死んでいくのを見て……何を思った?」
自分と似たような境遇を持った湧太に、教祖はより一層シンパシーを感じたのか。隣人が次々と死んでいくことに対し、どのような感情を抱いたのか感想を求める。
「怖かったさ。自分もいつか死んじまうんじゃねぇかと、一ヶ月はまともに眠れなかった……」
当時の感情を思い出しながら、湧太は正直に吐露する。
食べた直後に生き残ったからといって油断は出来ない。人魚の肉は遅効性の猛毒のように、遅れながらも人間の肉体に悪影響を及ぼすこともあるのだ。
自分も仲間たちのようにいずれは死んでしまうのではないかと、怯えるような日々を過ごしたものだ。
「そうだね……それは私も同じだ。彼らのように死んでしまうのではないかと……震える夜を何度繰り返したことか……」
その点は教祖も同じだった。
どんな人間であれ、いつ死ぬかも分からない恐怖に打ち勝つことはできない。今日を乗り越えられたからといって、明日が無事だとも限らない。
常に死を意識した日々、きっと生きた心地がしなかっただろう。
だからこそ——いつまで経っても訪れない『死』に、最初はかなり戸惑ったという。
十年、二十年と。それだけの時間をかけることで、ようやく彼らは悟ることが出来たのだ。
何十年と何も変わることなく生き続けられる自分たちが、もはや只の人間ではなくなったということに。
自分が——『不老不死』と呼ばれる存在になったのだと。
「——私は……何故自分一人だけ生き残ったのか。その理由をずっと考えたよ……」
「なんだと?」
しかし、似たような境遇でありながらも自らの不死性を『自覚』したところから、湧太と教祖の二人に明確な差異が発生する。
湧太は自分が『どうして生き残った』かなど考えたこともなかったが、教祖は自分の不老不死に『意味』を見出そうとした。
死んでしまった仲間たちの死を無駄にしないためか。永遠に等しい時間の中を生きる理由が欲しかったのか。
いずれにせよ教祖は考えた。考えて考えて、考え抜いた末に——彼は一つの『結論』に達した。
「私は……生き残るべくして生き残った。こうして不老不死を得られたのも……きっと神が私をお選びになったからだ! なればこそ、私には神のご意志を人々に伝えなければならない義務があるのだとね!」
そう、それこそが教祖——ただの船乗りだった男が『神』の教えに目覚めた瞬間だった。彼は自分が生き残ったことを『神に選ばれた』からだという天啓を得たのだ。
「だから私は教団を設立した! より大勢の人々に神のご意志を伝えるため! 使命に賛同してくれる同志たちも私のサポートをしてくれている! きっとこれも神の導きによるものだ!!」
「…………」
段々と熱を帯びてくる教祖の言葉に、湧太の背筋に寒気が走る。
——こいつ……本気だ! 本気で……神様なんてものを信じてやがる!?
妖怪が蔓延るこの世界、実際に神様がいるかどうかはさておいて。少なくとも、教祖は神の存在を強く意識していた。
それまで、湧太はずっと教団なんてものは全て『インチキ』だと思っていた。神の教えなんてものは建前だと。自分たちの利益を追求するためだけに信者を勧誘し、騙し、金を巻き上げていると。
現に教祖の活動を支援している同志——黒服たちは神など信じてはいないだろう。彼らは教団を隠れ蓑に自分たちの悪事を隠蔽し、甘い汁を吸っているだけの犯罪組織に過ぎないのだ。
——自分のやってることが……本気で人のためだなんて思い込んでやがる!
だが教祖に、彼自身に人々を騙しているという意識はない。
彼は教団の活動が人類のためになると、自分が神の教えを広めることでこそ、世界は救われると——心の底から信じているのだ。
教えを守るためであれば、きっと人殺しも辞さない。事実、教祖は湧太の命を一度は奪っておきながら何の呵責も抱いていない。
教団の教えを信じて集まってきた信者たちにも『人魚の肉』を食わせ、適合できなかった『なりそこない』をゴミのように捨てている。
そこに悪意がない分、ただの悪人なんかよりよっぽどタチが悪い。
まさに『狂信者』というべき、歪な男。
「キミもだよ! キミが私と同じ不老不死だと言うのであれば、それこそが神に選ばれた証だ!!」
「!!」
さらに教祖は自分が信じる教えを、神の意思を伝えるという役目を湧太にも押し付けようとする。
「いくら同志たちの助けがあるとはいえ、私一人では色々と限界があってね。せめてあと一人、私と同じもの……『同胞』の手を借りたかったんだ」
どうやら信者たちに人魚の肉を食わせていたのも、自分と同じ存在を——不老不死の同胞を欲していたからのようだ。
いかに黒服たちと利益で結びつこうと、信者たちから敬意を抱かれていようと。彼らでは永遠の命を持った自分と同じ目線に立つことはできないと。
本当の意味で同じ時間を共有出来る同胞——『真の仲間』がいてくれればと思ったのだろう。
「…………」
不覚にも、湧太は教祖の気持ちを理解出来てしまった。
湧太もずっと一人だった。ずっと一人で流浪の旅を続け、気が付けば五百年。長い時間の中で他者との交流はあったが、普通の人間には当然のように寿命がある。
たとえどんなに親しくなろうと、互いに想い合うことがあろうと——最後は必ず悲しい別れで終わる。
その離別の苦しみを何十回、何百回、何千回繰り返すのが湧太の人生だった。
「……ふざけんな」
しかし、今の湧太は『一人』ではない。
それに気持ちを理解出来るからといって、その考えに同意できるわけでもない。教祖の歪んだ考えを否定するため、湧太は腹の底から拒絶の意思を込めて叫んだ。
「なにが……なにが神に選ばれた証だ!! こんなもんが……こんなもんが神様の都合であってたまるかよ!!」
「…………なんですと?」
まさか断られると思っていなかったのか、教祖の顔が目に見えて分かるほど動揺に揺れている。
「俺たちが今も生きてるのに理由なんかあるかよ! 神なんざ関係ねぇ! 選ばれたなんざ……とんだ思い上がりだ!!」
湧太は人魚の肉を食べて生き残れたことを『幸運』などと思ったことはない。寧ろ、下手に不老不死なんてものになってしまったことで、まともな人間としての生を奪われたのだ。
もしも神様なんてものが本当にいるのならば、恨み言の一つや二つ吐き捨てたい気分だが——湧太自身、元より神など信じていない。
人の生き死になど、所詮は運の良し悪しに過ぎない。
そこに神様なんてものが介在する余地などない、少なくともそれが湧太の答えである。
「……では、キミは否定するというのか? 神に選ばれたことを、神から託された私たちの使命を……」
湧太の返答に、教祖は動揺しながらも聞き返す。それが本当に湧太の心からの答えなのかと、認め難いことであるかのように。
「…………」
教祖の問い掛けに湧太はもはや返事すらしなかったが、何も言わずともその表情が雄弁に語っている。
決して教祖の考えになど賛同しない。同じ不老不死でも、互いの道は決して交わらないのだと。
「そうですか……それは残念です」
教祖も、ようやく湧太の考えが分かったのか。僅かに寂しさを感じさせる呟きを溢しながら——。
「——本当に、残念ですよ」
その手に再び拳銃を握りしめ——湧太に向かい躊躇なく発砲する。
×
「……がはっ!? て、てめぇ……!!」
いきなりの発砲。もっとも、警戒はしていたことから何とか急所への直撃は避けることが出来た。銃弾は湧太の肩を貫通、その程度の怪我であればすぐに傷口など塞がるだろう。
「…………」
だが教祖は無言のまま、さらに数発と銃弾を撃ち込んでくる。
銃の腕そのものは素人のため、それらの銃撃も致命傷にはならない。どうやら一番最初、彼が土蔵で湧太を撃ち殺せてしまったのはただの偶然であったようだ。
「ぐっ……っ!?」
しかし数発の銃弾で身体を撃ち抜かれ、湧太は堪らず倒れ伏す。湧太が倒れても尚、教祖は手持ちの弾が尽きるまでがむしゃらに発砲を続けた。
そして弾を撃ち尽くすや——彼は吐き捨てるように言い放つ。
「——貴方には失望しました」
「……っ!!」
撃たれた痛みに身悶えしながらも、湧太は顔を上げた。
そこには冷酷な瞳で湧太を見下ろす、教祖の冷め切った表情があった。同胞を見つけたと喜んでいた先ほどまでの歓喜とは一変、まるで虫ケラでも見下すような冷たい眼差しをしている。
「神に選ばれておきながら……神から与えられた役目を放棄するとは!!」
教祖は湧太に怒りを抱いていた。
自分の誘いを断ったこと——神から託された義務を放棄するなどという愚行に、心底から激怒しているようだ。
無論、神様がどうだの——そんなものは教祖の思い込みに過ぎない。
誰も彼に人々を導くよう使命など与えていない。しかし、教祖にとっては『神に託された使命』こそが絶対の正義。
不老不死でありながらもその正義を拒む湧太の存在は、この世の何よりも許し難い存在なのだ。
勝手に期待しておきながら、勝手に失望する。
自身の信仰の中でしか生きられない、実に視野の狭い男である。
「——せ、先生!!」
「——いかがされましたか!?」
ここで庭先に黒服たちが駆けつけてくる。続け様の銃声で何事かと様子を見にきたのだろう。
「ちょうど良かった。もう一度、これを巣穴に捨ててきてください」
「……!!」
そんな黒服たちに、教祖はもう一度湧太を『なりそこないが蔓延る巣穴』へと捨ててくるように命じた。度重なる銃撃で負傷している今の湧太では、それに抗うことは出来ない。
もはや教祖にとって湧太は存在すら許されない相手なのだろう、視線すら向けずにその場から立ち去ろうとする。
「せ、先生……その、ご報告が遅れてしまいましたが……」
「……?」
ところが、黒服たちは即座に教祖の命令を実行するでもなく。その報告を——現在進行形で起きている問題を教祖の耳に入れていく。
「——ち、地下に侵入者です! その……妖怪らしき連中が暴れていると……」
湧太と教祖が対面していた頃から、屋敷の地下洞窟に建造された秘密の地下交易港では黒服たちが侵入者の対応に追われていた。
「——おい、もっと人数集めろ!!」
「——商品に手を付けても構わん! 絶対に連中を生かして帰すな!!」
最初は拳銃で侵入者と交戦していた彼らだが、それでは埒が明かないと悟ったのか。大事な密輸品——『機関銃』で応戦するようになっていた。
洞窟内で反響する銃声、乱射されるマシンガンの弾雨を前にまともな人間なら碌な抵抗も出来なかっただろう。
「また、危ないものを持ち出して来たな……」
「ちょっと厄介ね、どうしたもんかしら?」
だが、黒服たちが相手をしているのは妖怪——それも、ゲゲゲの鬼太郎と猫娘である。
流石に機関銃の登場には驚いたものの、それで何も出来なくなるほど柔な存在ではない。相手がそのような銃火器を持ち出してくるのであれば、それに対応した戦術を取るだけだ。
「指鉄砲!!」
「ニャアアア!!」
鬼太郎が指鉄砲などの飛び道具で黒服たちの手から機関銃を弾き飛ばしていき、猫娘が俊敏な動きで銃弾の雨を搔い潜り、鋭い爪で敵を引っ掻いていく。
黒服たちが荒事に慣れているとはいえ、あくまで対人間を想定している布陣だ。人間を超えた妖怪たちの動きに翻弄され、一人、また一人と無力化されていく。
「おお!? なんだかよく分かんないけど、すごいな……」
「これ真魚ちゃん!! 危ないから下がっていなさい!!」
そんな妖怪たちの獅子奮迅の活躍に、岩の後ろに隠れながら人間の少女である真魚が感嘆の声を上げていた。彼女が無茶をしないようにと、その肩には目玉おやじが付き添っている。
一度は死んだ身の真魚だが——彼女も湧太同様、人魚の肉を食べて『不老不死』となった人間だった。
湧太が旅の途中で出会った真魚は『人魚の里』において、人魚たち自身の手で不老不死の人間となるべく育てられた。
人魚という妖怪は、不老不死の人間を『喰う』ことで、その人間の容姿と若さを得ることが出来るというのだ。真魚はその若さと美しさを目的に『食糧』として、丁重に飼育されていたのである。
その人魚の里から、真魚を解放したのが湧太だった。以来、真魚と湧太はずっと二人で当てのない旅を続けて来た。その道中で立ち寄った場所こそが、この島の漁師町なのだが——。
まさか、その島の裏側でこのような事態に遭遇するとは、真魚本人も思ってもいなかったことだろう。
「……湧太、大丈夫かな?」
とはいえ、彼女も不老不死であること以外はただの人間に過ぎない。
鬼太郎と黒服との戦いに巻き込まれないよう、後方で待機しながらも——ここにはいない、誰よりも大切な『男性』の身を案じていた。
「なるほど、それはまた……」
一方で、黒服から侵入者である鬼太郎たちのことを聞かされていた教祖だが、特に取り乱している様子はない。やはり並大抵のことでは動じない精神性の持ち主なのだろう。
「お手数をおかけしますが、脱出の準備を。まだ船の方は使えますので……」
しかし黒服たちにとっては一大事。万が一にでも侵入者を討ち漏らし、教祖に何かあっては——『教団を利用した資金集め』に支障をきたしてしまうと。
あくまで自分たちの利益のため、教祖に避難を促していく。
「……仕方ありませんね、分かりました」
黒服の言葉に教祖も素直に頷く。
協力者、共犯者である黒服たちの顔を立てるように、大人しく彼らの指示に従ってこの島から逃げ出すつもりのようだ。
「ま、待ちやがれ……!!」
だが教祖を行かすまいと、湧太は地べたに這いつくばりながらも教祖の足首を掴んでいた。しかし銃で撃たれた傷がまだ癒えていないのか、握る手の力もどこか弱々しい。
「……ふんっ」
「ぐあっ!?」
そんな湧太の掴んできた手を教祖は力付くで振り払い、さらにその顎先に蹴りをお見舞いする。湧太に対するぞんざいな対応、珍しく苛立ちを露わにする教祖の態度に黒服たちが冷や汗をかく。
「早く片付けておきなさい……『それ』は、もう私には必要ありません」
やはり湧太に掛ける時間など惜しいとばかりに。
教祖は黒服たちを護衛として伴い、その場から足早に立ち去っていく。
「ちくしょう……ま、待て……」
教祖が立ち去る後ろ姿に、湧太は手を伸ばしていた。
教祖が口にした『神から託された使命』を否定した湧太ではあったが、彼もある種の『使命感』に駆られていた。自分と同じ人魚を喰ったあの男を、教祖を放置することは出来ないという使命感。
自分たちのような不老不死の存在が、他の人間を不幸にしてはならないという思いから、死に物狂いで教祖を止めようとしていた。
「おい、大人しくしてろ!」
「どうせ死なねぇんなら……頭でも吹っ飛ばしておくか?」
だがそんな湧太を嘲笑うかのように、教祖から彼の『処理』を任された黒服たちが近づいてくる。もう一度、湧太を巣穴へと運ぼうというのだ。
それに抗おうとする湧太だったが、まだ身体が回復しきっておらず、碌な抵抗も出来ない。
それでも足掻こうとする湧太に、黒服たちは拳銃を構える。
頭など撃ち抜かれれば当然死んでしまう。生き返ることは出来るだろうが、それまでの間に巣穴へと放り込まれれば終わりだ。
ここまで来て何も出来ずに終わるのかと、絶望感を味わいながら目を閉じる湧太——。
「——なっ!?」
「——お、お前……何をっ!?」
ところが、ここで予期せぬ援軍が湧太を助けた。
「……!? あ、あんたは……」
男たちの呻き声に閉じていた目を開くと、湧太を処理しようとしていた黒服二人に向かい——別の黒服が毅然と殴り掛かっていたのだ。
「——シッ!!」
その黒服は二人の同僚の顎目掛けて、ボクサーと見まごうほどの神速のジャブを放つ。
「がはっ!?」
「ぎゃっ!!」
的確に急所へと打ち込まれたキレのある拳に、黒服の二人が短く悲鳴を上げて倒れ伏していく。
無力化された男たちを見下ろしながら、周囲に人気がないことを確認し——『裏切り者の黒服』がホッと安堵の息を溢していく。
「ふぅ~、大丈夫か? 傷は……もう治りかけているな……」
「あんた……確か、あんときのっ!!」
その黒服は倒れる湧太に駆け寄って来た。相手方のまさかの行動に驚きを露わにする湧太だが、その黒服の顔に見覚えがあったことでさらに驚愕する。
その黒服は、最初に湧太の死体をねずみ男と共に巣穴へと運び込もうとした——二人組の片割れ・『後輩』の黒服だったのだ。
湧太が人質としていた黒服でもあり、教祖との話し合いの際に解放した筈の彼が、何故か湧太の窮地を救ってくれた。
「な、なんで……俺を助ける? お前、連中の仲間じゃ……?」
当たり前の疑問として、湧太はその黒服にどうして自分に手を貸すのかと疑問を呈する。
彼が湧太を助ける理由などどこにもない。こんなことをすれば、組織内で立場がなくなり——最悪、彼も処分されるだろうに。
「こちらにも、色々と事情があってな……」
だが黒服に動揺するような素振りは全くなく。
後輩として先輩相手に一歩引いた態度を取っていたときとは、まるで別人のように堂々と。湧太に肩を貸しながら、彼に言葉を掛けた。
「キミの登場で予定は狂ったが……この際だ、手を貸してもらうぞ」
自身の目的を明確に言葉とすることで、湧太にも協力を仰いでいくのだった。
「——奴を追い込む算段は整った。あの男を……教祖なんて高みの席から引きずり降ろすぞ」
×
「くそっ! この化け物どもが!!」
地下交易港での鬼太郎たちと黒服との戦いは、それなりの長丁場となった。黒服たちは大規模な犯罪組織だったのか、かなりの人員を動員した人海戦術で襲撃を仕掛けていた。
いかに鬼太郎と猫娘といえども、一息で倒し尽くすには至らない物量の差がそこにあった。
「ちくしょう!! もう後がねぇぞ!?」
「おい!! 誰かあいつらを止められる奴はいねぇのか!?」
だがそろそろ人員にも、武器弾薬の貯蔵にも限界が見え始めた。戦える者もあと僅か、機関銃の弾も底を突き掛け、黒服たちの勢いが目に見えて衰えていく。
「もう降伏しろ。これ以上は……」
このタイミングで鬼太郎は黒服たちに降伏を促していく。
真魚を殺された、死なせてしまった自身の不甲斐なさからつい熱くなってしまった鬼太郎だが、その真魚も何事もなく生き返った。
それに、たとえ相手が犯罪組織であろうと、彼らが妖怪に関わりを持たないようであれば、鬼太郎から戦いを仕掛ける理由もない。
鬼太郎に彼らを一方的に断罪する資格などないのだから、この辺りで互いに矛を収めるのが懸命な判断だろう。
「舐めるなよ、小僧!!」
しかし、鬼太郎たちが良くとも黒服たちはそうもいかない。目撃者の存在を生かして置けないというのもあるが、妖怪に成す術もなく敗北したとあっては『組織内』での彼らの立場がなくなってしまう。
使えないと判断されれば、自分たちが『粛清』の対象になるかもしれない。己の立場と命を守るためにも、それだけは絶対に避けなくてはならなかった。
「——どけっ!! こいつで吹き飛ばしてやる!!」
そういった焦りからか、黒服の一人が密輸品の中から——機関銃よりも、さらに凶悪な武装を持ち出してくる。
巨大な鉄の砲身。先端に炸薬が詰まった弾頭が鬼太郎たちへと向けられる。
「あれは……?」
「なっ!?」
その武器が何なのか、瞬時に判断が付かず鬼太郎などは首を傾げる。しかし、彼より多少は世俗に通じた猫娘が唖然と口を開く。
黒服が持ち出してきたそれは『携帯型対戦車ロケット発射機』——戦争映画などでそれが発射される際、よく『RPG!?』と叫ばれる兵器である。
名称のとおり、歩兵でも戦車に対抗できるように開発された武器だ。その威力に反した単純な構造、安価な値段設定から悲しいことに多くの戦場で普及している兵器の一つである。
たとえ鬼太郎たちでも、直撃を喰らえばただでは済まないだろう。
「ば、バカ!! そんなもの、こんなところで撃ったら——」
だが同じ仲間内で、そのような兵器を『こんな場所』で持ち出す危険性を訴えるものがいた。
しかし、制止の言葉が聞き入れられるよりも先に——使用者によって、そのトリガーが引かれてしまう。
「——っ!」
「ちょっと!?」
高速で飛来するロケット弾頭。
鬼太郎と猫娘は驚異的な反射神経でそれを躱し、目標を失ったロケット弾は強力な推進力のまま真っ直ぐに突き進んでいき——。
「うわっ!?」
「い、いかん!?」
真魚や目玉おやじのいるところまで飛んでいくが、間一髪彼らのすぐ横を通り過ぎ——。
「船がっ!?」
地下交易港に停泊していた船にぶつかるかと思いきや、なんとか直撃を免れて黒服たちがホッと胸を撫で下ろすのも束の間——。
放たれたロケット弾は『壁』に、海に面した洞窟の壁面へと命中し——炸裂した。
そう、うっかりRPGを使用してしまった男は、ここが洞窟内であることを失念してしまっていたのだ。
「うおおおっ!?」
「危ねっ!!」
地下空間で爆発物など扱おうものなら、下手をすれば生き埋めになってしまう。実際、爆発の衝撃で天井からは岩なだれが降り注ぎ、激しい振動が洞窟全体を震わせていく。
黒服たちも慌てふためいており、もはや戦闘どころではない。
「みんなこっちへ!!」
鬼太郎も頭上から降り注いでくる岩の破片から仲間たちを守ろうと、咄嗟に霊毛ちゃんちゃんこを広げていく。
「あ、危なかった……!」
「た、助かった? ありがとな、鬼太郎……」
鬼太郎の機転もあり、猫娘や真魚もなんとか無傷でこの危機をやり過ごした。洞窟に響き渡る鳴動もすぐに収まり、どうにか崩落の危機は逃れられたようだ。
しかし次の瞬間にも、ロケット弾の直撃を受けた洞窟の壁面が音を立てて崩れ落ちていく。そこはちょうど空洞になっていたのだろう。
刹那、その『巣穴』から——閉じ込められていたものたちが、溢れ出すように飛び出しくる。
『——オオオォオオオオオオオ!!』
「あ、あれは……もしや、優斗くんの言っていた!?」
崩れた穴の奥から姿を現したそれは、まさに半魚人のような化け物だった。
目玉おやじはそれがすぐに優斗——教団から逃げ出してきた少年が目撃した『かつて人間だったものの成れの果て』であることを察する。
実際にその目で見るのは初めてだが、確かに悍ましい姿。怖気が震うような唸り声を上げている。
「——なりそこない!!」
だが真魚は臆することなく、彼らの呼称を叫ぶ。
人魚の肉で不老不死となった彼女にとって、『なりそこない』は見知った存在だ。自分と同じように人魚を口にしていながらも適合できず、醜い化け物となってしまった犠牲者たち。
真魚や湧太の運命が呼び寄せているのか、これまでの旅の道中でも幾度となく彼らに出会した。今回の遭遇も、必然という名の運命に過ぎないのかもしれない。
『オオオォオオオオオオ!』
『アアアアアアアアアア!』
巣穴から飛び出して来たなりそこないたちは、空腹を満たす獣のように動く獲物に群がっていく。連中の最初の標的となったのは——黒服たちだ。
これまで利用された報復とばかりに、容赦なく牙を剥いていく。
「ひっ、ひぇえええ!?」
「こ、こっちくんじゃねぇよ、化け物が!!」
なりそこないを相手に、黒服たちも銃で応戦した。だが鬼太郎たちとの戦いで疲弊している今の武装では、不死身に近い生命力を持つ彼らを撃退することは不可能だ。
『——グガアアアアアアアア!!』
「——ギャアアアアア!?」
何人かの黒服がその牙の餌食となり——生きたまま、貪り食われていく。
「っ……鬼太郎!!」
「わかりました、父さん……体内電気!!」
それは自業自得とはいえ、あまりにも残酷な末路だ。故に目玉おやじは鬼太郎に、まだ生き残っている黒服たちに助け舟を出すように指示を飛ばす。
鬼太郎も父親の言葉に頷き、なりそこないが密集している地点へ体内電気を放出する。
『グゴアアアアアアアアア!?』
『オオアアアアアアアアア!!』
「うわあああっ!?」
「しびれぇええ!!」
鬼太郎の放った電撃になりそこないが、ついでに黒服たちも感電していく。どちらにとっても致命傷になるような一撃ではないが、とりあえずその動きを封じることは出来た。
なりそこないによる殺戮を、なんとか防ぐことに成功したのだ。
『アアアアアア』
『オオオォオオ』
もっとも、腹を空かしたなりそこないはまだまだいる。ぽっかりと空いた巣穴の奥から——さらに数匹ほど飛び出して来た。
いったいどれだけの信者が、その巣穴に捨てられていたのか。
それだけ、多くの人々が教祖の歪んだ信仰の犠牲となったということだ。
「これはこれは、随分と面倒なことになっていますね」
なりそこないの出現により混沌と化す地下交易港だが、そもそもの元凶である教祖は涼しい顔でその光景を眺めていた。
「先生、こちらへ……」
「急いでください。今なら連中に気付かれる前に……」
護衛で付き添っている黒服が二名、脱出用のクルージングボートへと教祖を誘導している。彼らは喧騒とは少し離れたところから、秘密裏にこの島から抜け出そうとしていた。
「そうですか。苦労をおかけします」
黒服に誘導されるまま、襲われている同志たちなどには目も暮れず、教祖はボートへと乗り込んでいく。逃げ出そうとする彼の腕の中には、干からびた半身半魚の骸——『人魚のミイラ』が後生大事に抱えられている。
湧太を神の意にそぐわないものとして排除した教祖だったが、未だ同胞を求める気持ちはあるのだろう。着の身着のままで逃亡しなければならない中、これだけはと持ち出して来たのだ。
その人魚と教祖自身の身さえ安泰なら、また教団を一から立ち上げることが出来る。
何度でも、何度でも。何も知らない信者たちを糧に、教祖も黒服たちも私腹を肥やしていくことだろう。
「——待てよ!! 信者を見捨てて自分だけ逃げよってか? それもあんたの言う、神の教えってやつなのかよ!」
「むっ……!」
だが、そんなコソコソと逃げ出そうとする教祖に皮肉げな言葉を投げるものがいた。
教祖の跡を追ってきたのは——今頃は始末されている筈の湧太であった。
「何故、ここに……いや、そんなことはどうでもよろしい」
教祖は湧太が無事であったことに戸惑いを露わにするが、すぐに彼の存在など無視するに努める。
「先生、出ます!!」
既に教祖はボートに乗り込んでおり、護衛の黒服が操縦席に着いて船艇を走らせていた。今更湧太が来たところで教祖の逃亡劇を阻止できるわけもなく、ボートは水上を猛スピードで駆け抜けていく。
『——グォオオオ!!』
「なっ! こ、こいつっ!? う、うわああああっ!?」
だが彼らも気付かないうちに、そのボートにも数匹のなりそこないが取り付いていた。なりそこないは運転手である黒服に喰らい付き、その命を容赦なく奪い取る。
操縦桿を握るものがいなくなったことで制御不能となったボートは、スピードを維持したままふらふらと蛇行運転で水上を走っていく。
「わわわっ! あああああっ!?」
暴走するボートに振り回される搭乗者たち。まだ護衛に残っていた黒服が一名、激しい揺れに堪えきれずに身体が海面へと投げ出されてしまう。
「くっ……! この程度のことで……私の使命はっ!!」
これにより取り巻きを全て失った形だが、教祖は一人でも最後まで船体にしがみついていた。
自分の使命がこんなところで終わるわけがないという信仰心が、彼に力を与えていたのか。大切な人魚のミイラも大事に抱え込んだまま必死に耐え忍ぶ。
だが、暴走したボート自体が——道筋を誤り、陸地へと突っ込んでいく。
「な、なんだ!?」
「ふ、船が……ぶつかる!?」
『グゴ、ゴアアアアアアアアア』
そこは——鬼太郎や黒服たち、なりそこないの群れが争い合っている現場であった。
まさにその混乱の真っ只中へと、教祖を乗せたボートが突撃していく。
×
ここで状況を一旦整理しよう。
教団の闇、島の地下洞穴に秘密裏に建造された交易港。そこにはさまざまな立場から、多くのものたちが集っていた。
「い、いったい……なにが!?」
「もう何なのよ! 次から次へと!?」
まずは鬼太郎や猫娘、妖怪たち。
鬼太郎の本来の目的は、教祖本人から『信者を化け物へと変貌させる』儀式の詳細を聞き、それが妖怪に関わるようなことであれば、辞めるように話を付けることにあった。
仮に教団や黒服たちが人間社会でどのような悪事を働いていようと、それ自体を咎める気など鬼太郎にはない。
「くそっ……化け物どもが……」
一方の黒服たち。
彼らは教団を隠れ蓑にし、この地で表沙汰に出来ないような悪事を重ねてきた。彼らの立場からすれば、鬼太郎たちの存在は許容できないイレギュラーだ。
鬼太郎にその気がなくとも、自分たちの悪事が密告されるかもしれないと。必然的に彼らを排除しようとし——返り討ちとなり、今はほぼ全員が倒れて地に伏している。
『オオオオ、オアアアアア……』
そして、なりそこない。
人魚の肉を喰いながらも不老不死になれず、哀れ化け物となってしまった元信者たち。彼らにものを思考するような知性はない。ただ本能のままに暴れ、空腹を満たすために獲物を喰らうだけだ。
出現と同時に黒服を何人もその手に掛けた怪物たちであったが、今は鬼太郎の手によってそのほとんどが戦闘不能へと追いやられている。
脅威的な生命力で時期に復活するだろうが、とりあえず今は放置しても問題はないだろう。
「あっ……湧太!!」
「真魚!? お前、何でこんなところに……!」
さらには、そこへ遅ればせながらも湧太が駆け付けてきた。
ボートで逃げた教祖を陸地から追ってきた彼だが、まさかこんなところで真魚と遭遇するとは思っていなかった。
呆気に取られながらも——その鋭い視線を、この騒動の中心人物へと向けていく。
「っ……!」
陸に乗り上げたボートから、傷を負った教祖が姿を見せる。
ボートの事故で負った怪我が相当に重傷のように見えるが、不老不死の彼であればその傷も時期に治ることだろう。
「——おおい! こちらですよ、皆さん!!」
そして、ここでさらなる別の一団が皆が集まる地下へと突入してくる。どこからともなく姿を現したのは——数十人の教団の信者たちであった。
「おいおい……なんなんだ、ここは?」
「教祖様!? 大丈夫ですか……しっかりして下さい!!」
地下施設について何も知らなかった彼らは困惑していたが、傷だらけの教祖を見つけるや血相を変えて彼に駆け寄る。
教団の教えを信仰する彼らにとって、教祖は何があっても守らなければならない存在だ。
「面倒なことになったわね!」
「ああ……って、あれは……?」
信者たちの登場に猫娘や鬼太郎が眉を顰める。
鬼太郎たちは、彼らに『異教徒』として追われていた。見つかれば再び鬼の形相で追いかけ回してくることが予想されるが。
「ほらほら! こっち、こっちですよ!!」
「ねずみ男? あいつ、何をやって……?」
その信者たちをここまで案内してきたのは——あのねずみ男であった。
「へっへっへ……」
何かしらの企みあってのことなのか、その顔にはいやらしいニヤケ面が浮かべられている。
正直言って嫌な予感しかしなかったが、ここで鬼太郎たちがでしゃばっても余計に場を混乱させるだけだ。
とりあえず信者たちを刺激しないようにと、身を隠しながら事の成り行きを見守っていく。
「教祖様っ! お怪我は大丈夫なのですか!?」
「何があったのです!? この施設はいったい……?」
教団の信者たちは、負傷した教祖を取り囲むように集まってきた。純粋に教祖を心配してのことなのだが、その身を気遣われている教祖の方が少し困惑気味だ。
「こ、この程度……何ともありません。それより……あなたたち、どうしてここに?」
彼の顔には『何故信者たちがこの地下施設にやってきたのか?』という疑問があった。
ここは教祖と黒服しか知らない秘密の交易港。ここの存在が信者たちに露呈するのは不味いと、流石の教祖も分かっていた。
「それは、ねずみ男さんが……!!」
「教祖様がここで、異教徒の手先に襲われていると知らせてくれたのですよ!!」
信者たちにこの場所を教えたのは——彼らから絶大な信頼を得ているねずみ男だった。
彼の言葉だからこそ、信者たちも慌てて教祖の屋敷へと乗り込み、地下までの隠し通路を駆け降りてきたのだという。
「いえいえ、全ては神のお導きによるものですとも……へっへっ!」
しかし、白々しい態度で謙虚に首を振っているねずみ男も、屋敷の地下にこのような空間が広がっていることを知らなかった筈である。
『何者』かがねずみ男にこの場所のことを教え、ここへ信者たちを誘導するように吹き込んだのだ。
「…………」
いったい誰の謀かと、疑心暗鬼に教祖は黙り込んでしまう。
「それにしても……この惨状は?」
「このものたちは……それに、この化け物どもは何なのですか!?」
だが、信者たちは次から次へと疑問を投げ掛けてくる。この場所は何なのか。ここにいる人間、黒服の男たちは何者なのか。
そして、半魚人のような怪物——なりそこないのこと。
特になりそこないなど、信者の立場からすれば見たことも聞いたこともない化け物だ。戸惑うのは当然であり、醜い怪物たちへと恐怖と嫌悪の視線を向けていく。
「やめろ……化け物だなんて言うな! あんたらが……こいつらを化け物なんて呼んじゃならねぇ!!」
「湧太……?」
すると信者たちに向かい、湧太が込み上げてくるものを抑えきれずに声を荒げた。怒気を露わにする湧太の元へ真魚が寄り添っていくが、それでも彼の怒りは収まらない。
湧太はなりそこないの正体、彼らがいかにして生まれたのか——声高々に叫んだ。
「こいつらはあんたらの仲間だったんだぞ!! 信者の連中が人魚の肉を喰わされたことで生まれた……その成れの果てなんだよ!!」
「な、なにを……言っているんだ?」
いきなりの話に困惑する信者たちだったが、それでも湧太は構わずに叫び続けた。
彼らなりそこないが、人魚の肉を食べたことで変質してしまった、元人間であること。
儀式と称して、その肉を食べさせられた教団の信者たちであること。
彼らをそうなるように仕向けた張本人こそが、教祖その人なのだと。
「な、何をバカな……」
「き、教祖様がそのようなことをなさる筈が……!」
しかし、信者たちにとっては寝耳に水。
それに初対面である湧太の言葉だけで、その事実を飲み込めという方が難しいだろう。教祖への信頼感もあってか、湧太が口にする言葉を最初は誰も信じようとしなかった。
「……!? 見ろ……こいつを見ろ!!」
だがふいに、湧太は倒れているなりそこないの一匹に近づき、その個体が首に掛けていたものを拾い上げた。
さらに怒りを募らせるように、拾い上げた『それ』を信者たちへと見せつける。
「誰か、この御守りに見覚えのあるやつはいねぇか!? こいつは……優斗って小僧が、唯って嬢ちゃんに贈った御守りだ!!」
「——!?」
優斗、唯。
その名前に何人かの信者たちが反応を示す。どちらとも、教団の聖地で暮らしていた子どもたちである。優斗は本土に逃れて保護されているが——唯は、教団の儀式の代表者として選ばれた少女だ。
その少女が所持していた筈の御守りが、そのなりそこないの首に掛けられていた。
『オオオ、ウォオオオ……』
つまり、そこにいるなりそこないこそが——唯という少女の、変わり果てた姿ということになる。
「まさか……唯ちゃんが!?」
「そ、そんな……馬鹿なことが……」
近しい人の名前が出たことで信者たちの間に動揺が走る。特に唯という少女と親交が深かったものたちにとっては聞き逃せない話だ
「けど! 彼女は不老不死になって新天地に旅立ったんじゃ?」
「そ、そうだよ! あの子は選ばれたんだ!! こんな化け物になるわけが……」
それでも、信者たちの中には頑なにその事実を認めようとしないものもいる。人魚の肉など教団の教えにも記されていないのだから、湧太の言葉など間に受ける必要もないと。
「おやおや? 教祖様が抱えていらっしゃるそれは……もしかして人魚ではございませんか!?」
「!!」
ところが、ここでねずみ男がわざとらしく大きな声を上げる。これ見よがしに、教祖が大事に抱え込んでいるもの——人魚のミイラに言及したのだ。
「なんと!? それがもし本物の人魚だというのなら……その青年の言っていることは事実ということになるのでは!?」
「ま、まさか……それじゃあ……さっきの話は!?」
何とも白々しい大根役者丸出しの演技。だがねずみ男の言葉だからこそ、信者たちは耳を傾け始める。
湧太とねずみ男の二人が、まるで示し合わせていたかのように教祖の立場を切り崩しに掛かったのだ。
「ほ……本当に、そんなことが……?」
「教祖様!! いったい、どういうことなのでしょう!?」
ついには教祖に疑問を持つものが、その真意を直接彼に問い質す。
湧太やねずみ男の言っていることは事実なのか?
本当に、このなりそこないという化け物が元人間だというのか?
続々と投げ掛けられる疑問。だが彼らの問い掛けには『出来ることなら否定して欲しい』という願望が込められていた。
教祖がその口で断固として否定してくれるのであれば、自分たちはまだ教団の教えを強く信じられる——信じたいと切実に望んでいた。
「——ええ、そうですね。ですが……それがどうかしましたか?」
しかし、教祖はそんな信者たちの切なる願いを切り捨てるかのよう。
湧太が語る残酷な真実を、事実として全面的に肯定していた。
「なっ!?」
「えっ……」
「そ、そんな……」
誰も彼もが言葉を失った。儀式と称して人魚の肉を食べさせていたこと。信者をなりそこないへと作り替えていた事実を、教祖はあっさりと認めたのだ。
開き直り——いや、最初から後ろめたさなど何一つ覚えていなかったのだろう。その表情からは微塵も罪の意識など感じられない。
「確かに、私は彼女たちに人魚の肉を食べさせました。それこそ、人が不老不死に到達する唯一の手段なのですから」
それもその筈。人魚の肉を食べさせることが『不老不死を得るための儀式』であることに違いはないのだから、彼に信者たちを騙しているなどという意識はない。
「ですが誰一人として、不老不死を得ることは叶わなかった……皆、なりそこないとなってしまいました」
教祖としても、なりそこないになってしまうのは意図しないトラブルだ。不老不死を得られずになりそこないになってしまうのは、ただの結果論に過ぎない。
「誠に残念なことではありますが……仕方がないことです」
そう、だからそれはとても残念なことだと。他人事のように——。
「——彼女たちは神に選ばれなかった、ただそれだけのことなのですから」
まるで神に選ばれなかった信者たちにこそ、責任があるかのように平然と言い放ったのだ。
「…………」
「…………」
「…………」
教祖の告げられた言葉に、何人もの信者が言葉が出ずに絶句していた。
「そんなことより、その愚か者を私の前から排除するのです!」
「……!!」
しかし、信者たちの心境などさして気にした様子もなく。教祖はそれを既に『終わった話』とし、信者たちに湧太の排除を命じる。
彼は湧太の存在を絶対に認めたくないのか、その言葉には明確な嫌悪が込められている。
「…………」
「…………」
だが、既に信者たちの心は教祖から離れ掛けていた。まだ反旗を翻すまでには至らないが、だからと言って彼の命令を考えなしに実行することなどもう出来ない。
「どうしたのですか? さあ!! 皆で神に逆らうものに罰を!!」
そうやって信者たちの心が離れていっていることを、まだ理解できていないのは教祖だけ。尚も湧太を排除するようムキになって叫ぶ彼の姿に、ますます信者たちの心は遠のいていくのだが
そんな裸の王様になりかけている教祖に向かって、一人の信者が駆け出していた。
「——はっ……?」
その信者は『ドスっ』と、教祖の脇腹に——鋭い刃物を突き立てた。
自分が刺されたと自覚することも出来ず、教祖の口から呆けたような声が漏れ出る。
「き、教祖様!?」
「お、お前……いったい何を!?」
突然の凶行。未だに教祖への敬意を捨て切れない信者が慌てて止めに掛かる。人々に取り押さえられる中、その信者の男性は怒りを押し殺した声で呟きを溢す。
「……唯は、娘は……選ばれたと喜んでいたんだぞ! なのに……それなのに……!!」
「……っ!!」
教祖を刺したその男は——唯の父親だった。
父として、娘の存在が無下にされるような発言が我慢ならなかったのだ。手持ちの刃物で衝動的に刺してしまったというところか。
「うぐっ……!」
一瞬遅れで、刺された痛みに教祖が膝を突いた。
遅れてやってきた激痛に顔を顰め、その手に大事に抱えていた人魚のミイラも地面へ取りこぼしてしまう。
「これを……!! これを食べれば……わ、私も……不老不死に!!」
すると今度は女性の信者が、縋るように人魚のミイラへと手を伸ばす。
「私は死にたくない! ずっと若いままで……永遠に!!」
彼女は血走った目で不老不死を、永遠の若さを求めていた。その望みが手を伸ばせば届くところにあると。負傷した教祖などには目も暮れず、人魚の肉をその手に掴み取る。
「よせっ!? やめろ!!」
彼女が何をしようとしているのかを察して湧太は叫ぶが——手遅れだ。制止の声に聞く耳を持たず、女性は人魚の肉へと直に喰らい付いていく。
「はぁっ! はぁっ……! くはっ!?」
一口で、大量の人魚の肉を摂取してしまった女性を即座に異変が襲う。苦しみに悶えながら、彼女の身体が人ではない別のものへと作り替えられていく。
どうやら、その女性も人魚の肉に適応できる身体ではなかったようだ。
瞬く間にその肉体が——なりそこないへと変貌を遂げていく。
『——ウォオオオオオオオオオオオオオ!!』
「ま、マジかよ……」
「本当に……人間が、化け物に……」
人間がなりそこないに変わる瞬間を目の当たりにしてしまっては、信者たちも受け入れるしかあるまい。
なりそこないは元人間だと。自分たち信者が教祖に使い潰されていたという事実を。
『グアアアアアアアアアア!!』
だが人々の戸惑いなどお構いなしに、なりそこないは本能の赴くままに行動を起こしていく。
「な、何をするつもりですか!?」
そのなりそこないは、すぐ側にいた教祖の頭をその強靭な腕で掴み上げた。
「待てっ……!?」
これに静観を決め込んでいた鬼太郎が慌てて動き出す。なりそこないの暴挙を何とか阻止しようと試みるが。
「や、やめなさい!! 私は神の意思を体現……こんな、こんなところで——」
なりそこないに頭を鷲掴みにされながら、教祖は命乞いのように叫んでいた。
しかし、そこから先の言葉を喚き散らすよりも先に。
なりそこないが、教祖の頭部を——ぐちゃりと、粉々に握り潰す。
「ひぃっ!?」
「い、いやあああああああ!?」
腐った果実のよう、ぐちゃぐちゃに潰される人間の頭部。正視に耐え難い光景に目を背け、人々が逃げ出していく。
「っ……!! 髪の毛針!!」
『グォオオオ!?』
鬼太郎は大慌てで髪の毛針を高速連打。なりそこないは仰向けに倒れていくが、その腕にあった教祖の身が海面へと投げ出されてしまった。
海に沈んでいく教祖の死体。しかし、彼は不老不死の筈だと人々の顔に最後の希望が宿る。
「教祖様……!」
「だ、大丈夫さ!! あのお方は死なないんだ!! 直ぐに、生き返って……」
教祖は死なない、死んだところで何度でも蘇る筈だと。
最後まで彼を信じる信者たちが、教祖の復活を待ち望む。
ところが——。
「…………上がって、来ない?」
「う、嘘だろ? だって教祖は……」
いつまで経っても遺体すら上がってこない教祖に、彼らは壊れたように首を振り続ける。
「……無理なんだよ」
そんな憐れ迷える子羊たちに、湧太は現実を突きつけていく。
「この世に完璧な不老不死なんかあるもんか。あれで生き返るようなら、それこそ奴は本物の化け物さ……」
湧太の言う通り、人魚の肉を食べることで得られる不死性には限界があった。
不老不死になれば確かに歳は取らない。飢えや病気で死ぬこともないし、死ぬような怪我を負っても脅威的な回復力が瞬く間に傷口を塞いでしまう。
だが、その回復力でも補えないような致命傷。身体の欠損などの根本的な損失までは補填できない。腕を失った場合、他者の腕を奪って繋げるなどの処置を施さなければ元に戻らないのだ。
もしも首など切り落とされようものなら、もう二度と動くことはできないだろう。
あるいは、『人魚以外』の力と掛け合わせれば、より強い再生力を得られるかもしれないが。少なくとも、人魚だけの力で完全な不老不死など得ることは不可能。
永遠に生きるなど、夢物語に過ぎない。
どんな命であれ、生きている以上いつかは終わりが訪れる。
二百年もの時を過ごした教祖の命も、こうして呆気なく終わりを迎えたのである。
×
「湧太。人がいっぱいだな……?」
「ああ、そうだな……真魚」
教団での騒動から——二週間ほどの月日が経過していた。
その日、湧太と真魚の二人は人でごった返す空港のロビーを訪れていた。手にはスーツケース、服装も新調、身だしなみを整え、しっかりと旅支度を進めていた。
必要な手続きもは終わらせているので、あとは搭乗ゲートを潜れば国際線に——『海外行き』の飛行機で旅立つことができるだろう。
まだ出発予定時刻まで余裕があったため、二人は搭乗口の前で待ち合わせの相手が来るのを大人しく待つ。暫くするとその待ち人が、二人の元まで静かに歩み寄って来た。
「湧太さん、真魚さん……お久しぶりです」
「よお、ゲゲゲの鬼太郎……元気だったか?」
湧太たちが待ち合わせていたのはゲゲゲの鬼太郎と、その仲間たちだった。あの教団での騒動で知り合った彼らと顔を合わせ、とりあえず報告すべきことを話し合っていく。
「ここに来る前に優斗くんに会ってきたわよ。親御さんも教団を抜けられたっていうし、なんとかなりそうな感じだったわ!」
まずは鬼太郎の隣に立つ猫娘、彼女が優斗少年について話していく。教団から逃げ出したところを保護された彼だが、今はちゃんと家族の元へ戻っているという。
教団に熱を上げていた彼の母親も、今は目が覚めたように教団の教えから離れていったとのことだ。
優斗の母親だけではない。教団の秘密、教祖の人間性を目の当たりにしたことで多くの信者たちが教団の教えに疑問を持ったのだ。
不老不死だった筈の教祖の『死』も、それに拍車を掛けたのだろう。
象徴を失ったことで、教団の活動も下火となった。このまま教団そのものが自然消滅するのも、時間の問題とのことだ。
「そいつは結構なこった……けっ! 結局、一文の特にもならなかったけどな!!」
喜ぶべき話だろうが、これにねずみ男が不貞腐れたように愚痴を溢していく。
元々、教団に集まる寄付金を狙って入信したねずみ男だ。思い掛けず教団の暗部に首を突っ込んでしまい、危うく命の危機に直面したりと。
苦労だけを重ね、結局何も得るものがなく無駄骨となってしまった。
もしかしたら、教祖の死亡時やなりそこないの出現などの混乱時、どさくさに紛れて密輸品の金塊など持ち出そうと思えば持ち出せたかもしれない。
しかし、それをやれば——突入してきた『警官隊』に、ねずみ男も捕まっていただろう。
そう、教祖の死によりあの場がパニックとなったその直後——警察の人間が、一気になだれ混んできたのである。
彼らは教祖と手を組んでいた黒服たちを一人残らず検挙し、交易港で扱われていた密輸品を全て押収していった。
何故、そんなにも都合の良いタイミングで警察の手が伸びたのか。それは、彼らを手引きしたものが『黒服』の中にいたからである。
「まさか……あの黒服の兄ちゃんが潜入捜査官だったなんてな……」
そう、あの『後輩の黒服』——彼こそが、黒服たちの組織に潜り込んだ警察の人間だったのである。
彼は窮地に陥っていた湧太を助け、さらにはねずみ男にも秘密裏に協力を要請し、教祖を追い詰めるように手を回した。
本来ならば、教祖を逮捕したかったとのことだが、そこまでは思惑通りにいかず。
しかし、黒服たちの組織の支部だった教団を崩壊させたりと、最低限の目標は達したと。
あの黒服は最後まで名前も名乗らず、湧太や鬼太郎たちの前から姿を消していった。
「あの怪物……いや、なりそこないと言ったか。彼らに関しては……とりあえず、今は放っておくしかあるまいよ」
そして、目玉おやじが『なりそこない』の処遇について語っていく。
教祖の業によって産み出されてしまった信者たちの成れの果て、なりそこない。あの場にいたなりそこないは、その全てが鬼太郎の手によって戦闘不能にされた。
しかしその強靭な生命力で、数日後には何事もなく平然と動き回るようになったという。そして、大人しく自分たちの巣穴へと戻っていき、今もあの場所で静かに息を潜めているのだ。
あるいは、鬼太郎であれば彼らに『トドメ』を刺すことも出来たかもしれないが、彼にそのような真似は出来なかった。
かつて人間だったものの息の根を止めるなど——もう、鬼太郎には出来ない。
「……まあ、希望論かもしれんが……彼らを元に戻す術がないとも限らんしのう」
それにと、目玉おやじが僅かな可能性について言及する。
なりそこないとなったものが元の人間に戻れる可能性は、今のところ存在しない。しかし存在しないからと言って、何もかも諦めて彼らの息の根を止めるのは違うだろう。
「もしかしたら、この世界のどこかに彼らを元に戻せるような方法があるかもしれん。キミたちも……自分たちが元の人間に戻れる可能性を模索し続けるのじゃろう?」
「……ああ、そうかもしれねぇな……」
実際、湧太や真魚の二人も、自分たちの不死性を消し去る方法——『不老不死から元の人間に戻れる方法』を探していくという。
そう、湧太と真魚は——ずっと二人で、元の人間に戻れる方法を探して旅を続けていたのだ。
今回、彼らが漁師町で働いていたのも、その旅の資金集めのため。
そして、まとまった金が入ったということで——この機会に海外へ旅立つという。
日本国内に拘るのではなく、海外——世界へと。
これは真魚の発想とのことだ。五百年前の人間である湧太には、そもそも『世界に目を向ける』という考えがなかったのか。
これに最初はかなり戸惑い、色々と迷ったとのことだが——。
「……本当に行くんですね?」
それでも、行くと決めたのだろう。彼らの覚悟を再度確かめるよう、鬼太郎は湧太に問う。
「ああ、死ぬなんていつでも出来るが……やっぱり普通の人間に戻る夢は捨てきれねぇ……」
正直、その気になれば湧太たちも自身の人生を終わらせることが出来た。完璧な不老不死などないと彼自身が口にしたよう、自分の首を落とせばすぐにでも楽になれる。
「俺も真魚も……人として真っ当に生きて死にたいんだ……そのために、今後もやれることをやっていくつもりさ」
「うん、私も……湧太となら、どこへでも行けるよ」
だが、彼らはそんな安易な方法で自分の人生を終わらせるような真似は否定する。
死ぬのならば最後まで天寿を全うして死にたいと、そのためにこれからも旅を続けていくという。
それは、きっと気が遠くなるような人生になるだろう。
世界の何処かにあるかもしれない、ない可能性の方が高いものを模索し続ける人生。
それでも、彼らは『人として死ぬ』という夢を諦めない。
どんな命もいずれは終わるのだから、その時が来るまで懸命に生きていくことをやめはしない。
「そうですか。では、お気をつけて……」
「ああ、お前さんたちも……達者でね」
飛行機の出発時刻が迫っていたこともあり、そこで鬼太郎と湧太は最後に握手をして別れた。
鬼太郎はこれからも続いていく湧太と真魚の人生にエールを送るよう、寄り添いながら立ち去っていく二人の背中に小さく手を振っていくのであった。
人物紹介
教祖
教祖という役割を全うしてもらうため、あえて名前は考えませんでした。
性格のモチーフは『狂信者のサイコパス』といった感じです。
最後まで自分が神に選ばれたと疑わず、その命を終えました。
後輩黒服——潜入捜査官
後輩黒服の正体は、潜入捜査官。多分、公安警察かな?
尺の都合上、全ては書き切れませんでしたが最後の方、『ねずみ男が信者たちを地下に連れてこれた』のも、彼の手引きがあったからです。
今後について書くつもりはありませんが、きっとこれからも黒服の組織とバチバチにやりあっていくことでしょう。
前回の其の③で、次回は『ぼっち・ち・ろっく!』をやると予告をしておきました。
その予定に変わりはありませんが、ここで何もないのは寂しいかと。
なので最後は、いずれやる予定の短編。
それの次回予告で締めとさせていただきます。
あくまで予定ですので、首を長くしてお待ちいただければと。
次回予告
「罪を犯しながらも、法の目を掻い潜る外道な人間。
そんな外道を狩る職業が、人間たちの間でまことしやかに囁かれているとか。
彼らはいったい、何者なのか。
その行いを……人間たちは正義と呼ぶのでしょうか、父さん。
次回——ゲゲゲの鬼太郎 『拷問ソムリエ』 見えない世界の扉が開く」
あくまで予定です、今年中には書きたいと思いますが。