「…」
~~~おめでとう!本当によくやったわね!
『アイリス…ありがとう。アイリスのおかげでわたし、クラウンに勝てた…!』
~~~何言ってんのよ、アナタが最後まで諦めずに戦ったからでしょ!
『ううん、諦めずにいられたのもアイリスがいたから…ありがとう』
~~~に、2回もありがとうなんて言われるとくすぐったいわ…!
『えへへ…』
~~~えへへじゃないわよ!もう…!でもそうね。これで、やっと…
『アイリス…?』
~~~邪魔者が消えたわ。
「!…」
直後、力が抜けるような感覚に襲われ、視界が一瞬ブラックアウトする。
「うっ…」
意識を取り戻し、目を開けると…
「はいっ、契約解除」
わたしの目の前に、わたしが立っていた。
「そういうわけで、これからはアタシが真目譜理子だから」
「え…あっ…」
頭が回らない。状況が理解できない。
「混乱してるみたいね。そりゃそっか、自分がもう1人いるんだし」
「あなたは…アイリスなの…?」
「話し方でわかるでしょ?体は見ての通りね」
「何で…わたしの姿をして…」
「アナタと繋がった時に知り得たアナタの情報を元にね、この体を構築したのよ。よくできてるでしょ?」
「…」
わたしの姿をしたアイリスが得意気にニコリと笑う。
「にしても、やーっとアタシの体が手に入ったわ!クラウンが連れてくる人間共はどいつもこいつもザコばっかりでさ、アタシが力を貸したところですぐ負けちゃうし、心底うんざりしっ放しだったのよね」
「!…待って、わたしがクラウンを倒したから…その姿になってるってこと…?」
「結果的にはそうなるわね。クラウンのせいでアタシの力の大半がずっと封じられてきたから。この能力だってそうよ」
「ひどいと思わない?アタシをこんな場所に閉じ込めてさ。『キミを野放しにするわけにはいかない』、なんて言ってずっとアタシを縛り続けてきたのよアイツ!」
「…どうして閉じ込められてたの?」
「アナタたち人間を守るためよ、アタシの計画からね」
「えっ…?計画…?」
「まだ気付かないの?アナタにしちゃ鈍いわね!まあ計画よりは野望って言った方がいいかしら」
「…!」
その言葉で気付いてしまった。
「まさか…アイリス、あなたの野望って…!」
そしてその答えを聞いた瞬間、
「そうよ。アタシが抱いてる野望、それは」
わたしとアイリスの繋がりが、完全に切れた気がした。
「人間共を滅ぼすこと」
「っ…!どうして…何故そんなこと…!」
「そんなの人間が憎いからに決まってるじゃない。復讐してやらなきゃ気が済まないわ!」
「アイリス…何があったの?」
「…別に何でもいいでしょ。アナタには関係ないわ」
「関係なくないよ…わたしだって人間だから」
「人間、ね…だとしたらなおさら関係ないわね。アナタはもうすぐ人間じゃなくなるし」
「えっ…?」
「アタシね、体が無いの。いくらアタシが人間共を滅ぼせる力を持ってたとしてもね、体が無いとアナタたちがいたそっちの世界に行けないのよ」
「…だからわたしの体を構築した、ってこと…?」
「そうよ。でも所詮はコピーの体。人間じゃないからこの世界に閉じ込められたまま、近いうちに消滅する運命にあるわ」
「…」
「でもご心配なく。アタシはコピーをオリジナルにできる力を持ってるからね」
「!…わたしとアイリスの、中身を入れ替える…」
「察しがいいわね!そのためにはコピー元を倒す必要があるのよ。あとはわかるわよね?」
「そっか…わたしと繋がったのも、全てはそのためだったんだ…」
信じたくなかった。認めたくなかった。
唯一の味方だと思ってた存在が、本当の敵だったなんて。
失意と絶望が心を覆い始める。体中から何かが溢れ出てくるような感覚に陥るものの、それらを耐えながら何とか踏みとどまった。
「ああ、やっぱり人間の絶望した顔はたまんないわね!この顔がもうすぐ大量に見れるって思うとワクワクしてくるわ!」
「っ…ねえ、クラウンは全部知ってたの…?」
「当然よ。知ってたからこそアタシをここに閉じ込めたのよ!ねえ、知ってる?ここって見た目はただの劇場だけどね、その正体はクラウンがアタシを封じるためにわざわざ作った牢獄なのよ!」
「牢獄…って、ちょっと待って…アイリスの力を知ってたなら、何故クラウンはわたしたち人間をここに連れてくるの…?」
「さあね。維持費とか言ってたけど、どう考えても別の目的があるのが見え見えよね!だってアタシの力を知ってたなら普通そういう設計にはしないはずだし」
「別の目的って…世界征服…?」
「ぷっ!あれはそれっぽく言っただけの出まかせよ。もしクラウンの目的が世界征服ならとっくにやってるわよ!むしろ逆!こんなの作ってまでアタシから人間を守ろうとするくらいには人間好きよアイツ!」
「…」
「まあ人間を集めてアタシをどうにかしようとでも企んでたんでしょ!今となってはもうどうでもいい話だけど」
「さ、もう話はいいでしょ。さっさとデュエルするわよ!」
アイリスはわたしから同じくコピーしたデュエルディスクを構える。
勝たなきゃいけないのは、これまでと同じ。だけど負けた時のリスクは…これまでとは比べ物にならない。
わたしはわたしじゃなくなり、わずかに残ってるかもしれない復活の可能性も完全に消え、文字通り体ごとわたしは消滅。
そしてアイリスが真目譜理子となり、人類は滅ぼされる。
そんなの絶対にだめ!何が何でも勝たなきゃ…!
息を整えて、デュエルディスクを構える。
「今にも泣き出しそうな弱々しい目ね。さっきのデュエルの時とは大違いだわ。ちゃんとデュエルできるのかしら?」
侮るような目でわたしを見下すアイリス。悔しいけれど実際アイリスの言う通り、今こうして構えながら立っているだけでも精一杯。
「ご心配なく…わたしは、戦える」
でも立ち向かわなければならない。わたしのために、わたしたちのために…絶対にアイリスの野望を阻止しないといけない…!
「そう。その気力は評価してあげるわ。だけど今のアナタじゃ、どうやったってアタシに勝つのは不可能ね」
「負けない…アイリスの好きにはさせない…!」
デュエルに向けて集中力を高める。アイリスの言ってることとは全く別の違和感が頭の端っこで引っかかっていたけど、今はそれらに囚われないよう余計な思考は全て振り払う。
「あはは!声も微妙に震えてるわよ!まあせいぜい抗いなさい。そしてアタシとの力の差に絶望しながら倒れるといいわ!」
人類の存亡を賭けたデュエルが、この瞬間幕を開けた。
“DUELSTART”
「先攻はアタシね!スタンバイ、メイン」
「《アシンメトリアル・S(シールド)》を青のPゾーンに発動してP効果発動!デッキから《アシンメトリアル・J(ジェット)》をEXデッキに加えるわ!」
《アシンメトリアル・S(シールド)》
【Pスケール:青1/赤4】
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードの発動時、もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。デッキから水属性以外の「アシンメトリアル」Pモンスター1体を選び、自分のEXデッキに表側表示で加える。
(アシンメトリアルは元々アイリスの力…それが無くなった今、わたしのデッキのモンスターはシンメトリアルだけ…)
(いや、メインデッキだけじゃない…!アーク召喚にアークモンスターだって…!)
(今のわたしはアイリスと繋がる前の最初のデュエルの時と同じ…それでも勝つ道は、必ずきっと…)
「なんだか懐かしいわね、体を動かすこの感じ!久々だったからちゃんと動けるか不安だったけど、これなら満足に操れそうだわ!」
「今更だけどアナタで良かったわ。体があった頃のアタシとよく似てるから違和感とか全然無いし!まああの頃のアタシよりはちょっとだけ小さいけど」
「っ…」
「やっぱり女の子ってのがいいよね!アタシ自身がそうだったからわかるんだけど、周りの反応とかが違うっていうかさ。滅ぼされる側としても冴えない中年男みたいなのよりは余程いいでしょ!」
「…」
「言い返すどころか話す気力すら無いみたいね。サレンダーならいつでも受け付けるわ!」
「カードを2枚セットして、アタシはこれでターンエンドよ!」
EX1 墓地0 除外0
アイリス LP8000 手札2
◇ ◇ 裏 裏 ◇
◇ 空 S
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
S=《アシンメトリアル・S(シールド)》青スケール1
TURN1→2 アイリス→譜理子
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ 空 ◇
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
譜理子 LP8000 手札5
EX0 墓地0 除外0