(LPは僅かにわたしの方が上…でも、EXデッキのPモンスターはわたしの0に対してアイリスが6…フィールドのカードもわたしの方が少ない)
(きっとアイリスは次のターン、ペンデュラム召喚で一気にモンスターを並べて…わたしのLP削りに来る)
(そのために前の2ターン、EXデッキにPモンスターを可能な限り送り込んで準備を済ませた…)
(だから、このターン中にその攻撃耐えられるような布陣を築かないといけない…もしこのドローで守りを築けなかったら…)
悪い予感が頭によぎり、体にゾクッと震えが走る。
首を振ってかき消そうとするも、何故かその薄ら寒い感覚がわたしから離れない。
心が弱ってるから悪い方に考えてしまうんだ。何も気にせずに進めばいい。
そう自分に言い聞かせながら、ドローしようとデッキに手を伸ばす。
その瞬間だった。
「…!」
アイリスとのデュエル前に頭の端っこで引っかかっていた違和感が、突如思考の中心に躍り出る。
そしてその違和感は数々の疑問点と瞬く間に繋がって行き、
やがて、ひとつの答えを導き出した。
(もしそうだとしたら…!)
半ば慌てるようにデュエルディスクを外そうとする。
しかし衣服にぴったりとくっついているせいか、微かに動くだけで外れそうもない。
(じゃあ、こうする…だけ!)
わたしはデュエルディスクが体に当たらないように両手を自身の衣服へと移し、
衣服ごとデュエルディスクを取り外した。
「…何いきなり脱いでんの?冷や汗でもかいた?」
冷笑するような目で訝しむアイリスをよそに、数メートル先の目的地、クラウンが居た場所へと走る。
(ちゃんと中から、見えるよね…?)
そしてクラウンだった着ぐるみの頭部を拾い上げると、
(…えいっ!)
意を決するように頭から被った。視界が途端に狭くなる。
でも見えないことはない。これなら許容範囲。
続けて萎んだ胴体を身に着ける。
視界が狭くサイズが合わないこともあり、着用に少し手間取ったものの、
(…よし、着れた)
無事わたしの体はクラウンだった着ぐるみに包まれた。
「ねえ何してんの?あまりのプレッシャーでおかしくなった?仮装ならデュエルが終わってからにしてくれない?」
冷たい目を浴びせるアイリスに構わず、着ぐるみ姿のまま元の位置に戻る。
(あとは…)
衣服からデュエルディスクを取り外し、着ぐるみの上から装着し直すと、
「!…」
着ぐるみは唐突に膨らみを取り戻し、
===フフフ、やっぱり譜理子ちゃんは聡明だね。
待ち望んだ声が聞こえてきた。
「クラウン…えっと、その…」
===何かな?
「ごめんなさい…わたし、クラウンのこと全然知らなかった…酷いこと言っちゃって、本当にごめんなさい…」
===何のことかよくわかんないけど、言ってないことは知らなくて当然だよね。それよりどうやって気付いたんだい?ボクはそっちが知りたいな。
「クラウン…」
(…ありがとう)
「えっとね、違和感があったの」
===違和感?
「うん。このデュエルが始まる前から頭の端っこで引っかかって…さっきその正体がわかったの」
===へえ。何だったんだい?
「わたしがまだ、ここにいることそのもの」
「だって手品師であるクラウンを倒したのに、元の世界に戻ってないもの」
「クラウン言ってたよね、手品師を倒せば帰れるって」
===言ったね。
「それなのにわたしがまだここにいるってことは、手品師であるクラウンを倒していないってことになる」
「やっぱりそうだった」
===その通りだよ。譜理子ちゃんはボクをまだ倒しきってはいないんだよね。それで、どうやってボクを見つけたのかな?
「さっきのデュエルでクラウンジョーカーを破壊した時と、デュエル終了後のクラウンが光った時のことを思い返してみて…ひょっとしたら、って」
「クラウンジョーカーの時は、あのピエロの着ぐるみの中からP(パフォーマー)・ジョーカーが出てきて…クラウンが光った時には着ぐるみの中は空だった」
「それって、もしかしたらそのままの意味なんじゃないかって思ったの」
「クラウンという手品師は着ぐるみに身を包んでわたしとデュエルしてた。そしてわたしに負けて着ぐるみの中の手品師は光となった」
「そうだとしたらクラウンの時だけ光が淡いように感じたのも説明がつくし…あれって着ぐるみが光を塞いでいたからだよね?」
===そうだね。確かにあの光はP(パフォーマー)・ジョーカーとしてのボクだった。でもボクを見つけた理由にはなってないよ?それに譜理子ちゃんがクラウンジョーカーを着ていることも。
「それはね、単純な発想で…」
「わたしがこの着ぐるみの新しい中身になればいいかな、って思って着てみた。そしたら復活するかもって」
===フフフ、じゃあこの中身の無いピエロの着ぐるみ自体がボクだってことわかってたんだ。
「もちろん。クラウン言ってたじゃない」
「『ボクは手品師でもありクラウンでもあった。ボクのことは忘れずに覚えておいて欲しいな』って」
「それってつまり、この着ぐるみ自体もクラウンってことでしょ?」
===正解。このピエロの名は『クラウン』。譜理子ちゃんという中身を得たことで再び通じ合えたんだ。
「うん…!」
「あのさ、いつまでボーっと突っ立ってるつもり!?やる気が無いならさっさとサレンダーして欲しいんだけど!?」
「!」
(あっ…!そうだった、制限時間…!)
===おっと、彼女がそろそろ痺れを切らしそうだね。
「ねえクラウン、お願いがあるの」
===何かな?
「わたしに、力を貸して…アイリスに勝つための力を…!」
===ボクと繋がりたいのなら目を閉じて唱えよう。
「うん…!」
「I CONNECT WITH CLOWN」
===気分はどうかな?
『…良い感じ、かも』
===フフフ、早速声に出さずに返事したね。
「…アイリス、待たせてごめん」
「待たせすぎよ!っていうかアナタその格好でデュエルするとか正気!?」
「うん、そのおかげで今…わたしはクラウンと繋がってるから…!」
「!?」
===さあ、逆転劇の始まりだ。
「ドロー…!」
(!…来た、繋がった証…!)
「スタンバイ、メイン」
「I(イメージ)・ペインターのP効果発動。わたしはR(リング)を選択して、Iトークンを特殊召喚」
《シンメトリアル=Iトークン》攻撃表示
星3/炎属性/雷族/攻1500/守600
「そしてフィールド魔法、《エンタメトリアル・シアター》を発動!」
《エンタメトリアル・シアター》
フィールド魔法
(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキからカード名が異なる「エンタメトリアル」Pモンスターを2体まで選んで自分のEXデッキに表側表示で加える。
(2):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、元々の攻撃力と元々の守備力が同じ数値の自分の光属性Pモンスターの効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。
(3):「エンタメトリアル」Pモンスターが守備表示で特殊召喚された場合、または自身の効果で守備表示になった場合に発動できる。そのモンスターを表側攻撃表示にする。
(4):1ターンに1度、自分のPゾーンにカードが存在しない場合、または片方の自分のPゾーンに「エンタメトリアル」カードが存在する場合に発動できる。自分フィールドに表側表示で存在する元々の持ち主が自分となるPモンスター1体を選んで自分のPゾーンに置く。この効果で置いたPモンスターのP効果は無効化される。
「なっ!そのカード…!アナタもしかして本当にクラウンと…!?」
===わお、1枚目にそれを引いたんだね。
「このカードの発動時の効果処理として、デッキからカード名が異なる「エンタメトリアル」Pモンスターを2体まで選んでEXデッキに加える」
(!…ステータスも効果も全員戻ってる…?ってことは、この状態が本来のエンタメトリアル…!これなら…!)
「わたしはデッキから《エンタメトリアル=o(オルガン)・ブースター》、《エンタメトリアル=v(ヴァイオリン)・ヒーラー》の2体をEXデッキに加える」
(エンタメトリアル…わたしとクラウンの力が合わさって生まれた子たち)
(前のデュエルの時とは違う…クラウンだけじゃない。わたしも今、この子たちと繋がってる)
(わたし…ううん、わたしたちと一緒にこの舞台でもう1度…)
(奏でて…!ハーモニーを…!)
「ペンデュラム召喚…!」
「o(オルガン)・ブースター、v(ヴァイオリン)・ヒーラー…!」
《エンタメトリアル=o(オルガン)・ブースター》攻撃表示
ペンデュラム・効果モンスター
星4/光属性/悪魔族/攻1000/守1000
【モンスター効果】
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、元々の攻撃力と元々の守備力が同じ数値の自分の光属性Pモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。
《エンタメトリアル=v(ヴァイオリン)・ヒーラー》攻撃表示
ペンデュラム・効果モンスター
星4/光属性/悪魔族/攻1000/守1000
【モンスター効果】
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、元々の攻撃力と元々の守備力が同じ数値の自分の光属性Pモンスターが相手に戦闘ダメージを与える度に、自分はその数値分だけLPを回復する。
「…ふん、どうやら倒されてなかったみたいね!ま、ちょうどいいハンデだわ。2人一緒にかかってきなさい!」
「魔法発動、《ペンデュラム・リアクション》。自分のPゾーンにカードが存在する場合に発動できる。お互いのPゾーンのカードを全てデッキに加えてシャッフルする」
「その後、デッキに加えたカードの枚数によって効果を適用する。デッキに加えた枚数は2枚なので2枚の効果を適用」
《ペンデュラム・リアクション》
通常魔法
(1):自分のPゾーンにカードが存在する場合に発動できる。お互いのPゾーンのカードを全てデッキに加えてシャッフルする。その後、デッキに加えたカードの枚数によって以下の効果を適用する。
●1枚:自分のEXデッキの表側表示のPモンスター1体を選んで自分のPゾーンに置く。
●2枚:デッキからPモンスター1体を選んで手札に加える。
●3枚:自分のEXデッキの表側表示のPモンスターの種類の数まで、相手フィールドのカードを選んで除外する。その後、お互いのプレイヤーはデッキの一番上のカードをめくり、それがPモンスターだった場合は手札に加える。違った場合は墓地へ送る。
●4枚:フィールドのPモンスター及びお互いのEXデッキの表側表示のPモンスターを全て除外する。その後、お互いのプレイヤーはデッキの一番上のカードをめくり、それがPモンスターだった場合は手札に加える。違った場合は墓地へ送る。
(2):両方の自分のPゾーンにカードが存在する場合に墓地のこのカードを除外して発動できる。相手フィールドにセットされたカード2枚を選び、そのカードを手札に戻す。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。
「デッキからPモンスター1体を選んで手札に加える。わたしはデッキから《エンタメトリアル=i(アイドル)・シンガー》を手札に加える」
「R(リング)をリリースしてi(アイドル)・シンガーをアドバンス召喚」
《エンタメトリアル=i(アイドル)・シンガー》
ペンデュラム・効果モンスター
星6/光属性/悪魔族/攻2000/守2000
【モンスター効果】
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。
(2):1ターンに1度、自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。デッキから元々の攻撃力と元々の守備力が同じ数値の光属性Pモンスター1体を選んで自分のPゾーンに置く。
「召喚に成功したi(アイドル)・シンガーの効果発動。このカードを守備表示にする」
《エンタメトリアル=i(アイドル)・シンガー》攻撃表示→表側守備
「《エンタメトリアル・シアター》の効果発動。「エンタメトリアル」Pモンスターが守備表示で特殊召喚された場合、または自身の効果で守備表示になった場合に発動できる」
「そのモンスターを表側攻撃表示にする」
《エンタメトリアル=i(アイドル)・シンガー》表側守備→攻撃表示
「i(アイドル)・シンガーのモンスター効果発動。1ターンに1度、自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる」
「デッキから元々の攻撃力と元々の守備力が同じ数値の光属性Pモンスター1体を選んで自分のPゾーンに置く。わたしはデッキから《エンタメトリアル=l(リュート)・フリッカー》を青のPゾーンに置く」
《エンタメトリアル=l(リュート)・フリッカー》
【Pスケール:青3/赤3】
(1):1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンに「エンタメトリアル」カードが存在する場合に自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりレベルが高い相手フィールドのモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。
「《エンタメトリアル・シアター》の効果発動。1ターンに1度、自分のPゾーンにカードが存在しない場合、または片方の自分のPゾーンに「エンタメトリアル」カードが存在する場合に発動できる」
「自分フィールドに表側表示で存在する元々の持ち主が自分となるPモンスター1体を選んで自分のPゾーンに置く。この効果で置いたPモンスターのP効果は無効化される」
「わたしは《エンタメトリアル=v(ヴァイオリン)・ヒーラー》を赤のPゾーンに置く」
《エンタメトリアル=v(ヴァイオリン)・ヒーラー》
【Pスケール:青5/赤5】
(1):このカードの発動時、もう片方の自分のPゾーンに「エンタメトリアル」カードが存在する場合に発動できる。除外されている自分のカードを3枚まで選んでデッキに戻す。
「l(リュート)・フリッカーのP効果発動。1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンに「エンタメトリアル」カードが存在する場合に自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる」
「そのモンスターよりレベルが高い相手フィールドのモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。わたしはレベル4のo(オルガン)・ブースターを対象として発動し、レベル5のS(シールド)を手札に戻す」
(Iトークンのステータスは《アシンメトリアル・R(リング)》のコピー。だけどアシンメトリアルの名はついていないから、攻撃しても《アシンメトリアル・リカバリー》の効果は発動しない…!)
===いい動きだね。やっぱり譜理子ちゃんの飲み込みの早さには感心するよ。
『…ありがとう』
===というかこの状況ってあれだよね。残りLPが6000だから、
===全員の攻撃が通れば届いちゃうよね。ぴったり6000ダメージが入ってさ。
『そうね…通ればの話だけど』
(気になるのは最初のターンから伏せられてるあのカード…アイリスの様子からして、たぶんこのターンじゃ決まらない)
(ただ、届かなくても結構ダメージは入りそうな気がする)
「バトル、i(アイドル)・シンガーでレッド・ホークに攻撃」
「…受けるわ」
アイリスLP6000-500=5500
「o(オルガン)・ブースターのモンスター効果、このカードがモンスターゾーンに存在する限り、元々の攻撃力と元々の守備力が同じ数値の自分の光属性Pモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる」
「もう1度i(アイドル)・シンガーで攻撃」
(何かあるとすれば、このタイミング…!)
「罠発動、《アシンメトリアル・パッケージ》!」
「相手フィールドの表側表示モンスターを任意の数だけ対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは「アシンメトリアル」モンスターとしても扱う」
《アシンメトリアル・パッケージ》
通常罠
(1):相手フィールドの表側表示モンスターを任意の数だけ対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは「アシンメトリアル」モンスターとしても扱う。
「…!」
「当然対象はアナタのモンスター3体全部よ!」
アイリスLP5500-2000=3500
「さらに相手モンスターの攻撃によって戦闘ダメージを受けた時、《アシンメトリアル・リカバリー》の効果発動!相手フィールドの「アシンメトリアル」モンスターのレベルの合計×500LP回復する効果を選択するわ!」
「レベルの合計は13!よって6500回復!」
アイリスLP3500+6500=10000
(う…通らないのはわかってたけど、この回復量は…)
「残念ね。クラウンの力を得たからってそう簡単に勝てるわけないでしょ!」
「…」
「ただ本音を言うと、こんな形で使うことになるとは思わなかったわ。大量ドローするつもりだったのに。予定を狂わせたことだけは褒めてあげてもいいわよ!」
「…それはどうも。o(オルガン)・ブースターで攻撃」
アイリスLP10000-1000=9000
「o(オルガン)・ブースターのモンスター効果は自身にも適用される。もう1度o(オルガン)・ブースターで攻撃」
アイリスLP9000-1000=8000
「Iトークンで攻撃」
アイリスLP8000-1500=6500
「ターンエンド」
EX7 墓地4 除外0
アイリス LP6500 手札3
◇ ア ◇ イ ◇
◇ 空 ◇
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ア=《アシンメトリアル・センサー》
イ=《アシンメトリアル・リカバリー》
TURN6→7 譜理子→アイリス
i=《エンタメトリアル=i(アイドル)・シンガー》攻撃表示
o=《エンタメトリアル=o(オルガン)・ブースター》攻撃表示
う=《シンメトリアル=Iトークン》攻撃表示
場=《エンタメトリアル・シアター》
l=《エンタメトリアル=l(リュート)・フリッカー》青スケール3
v=《エンタメトリアル=v(ヴァイオリン)・ヒーラー》赤スケール5
i o う ◇ ◇
l 場 v
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
譜理子 LP6200 手札1
EX0 墓地3 除外0