「…」
===譜理子ちゃん。
「あはは!54000対100って、夢も希望も無いわね!手札も0でデッキの残り枚数もアナタの方が少ないし、ここから逆転するっていうのならむしろ見てみたいわ!」
===ボクの声、届いているかい?
『…ねえ、クラウン』
===何だい?
『わたし、幻でも見てるのかな…?こんなに追い詰められてるのに…』
『光が見えるの…さっきまでは見えなかった光が』
===奇遇だね。その幻、ボクも見えるみたいなんだ。
『…遠くて、薄くて、か細くて』
===だけど、確かに差し込む一縷の光。
『わたしに…掴めるかな?』
===心配いらないよ。その光を掴むために譜理子ちゃんはここまで希望を紡いできたのだから。
『…うん』
手を胸に当て、目を閉じる。
ここまで本当に色々なことがあった。
だけど振り返るには、ほんのちょっと早い。
わたしが目指すべき場所は、ただひとつ。
===さあ、光に手を伸ばして。
無心。今の精神状態を一言で表すならそれが近い。
こんなに差が開いているというのに恐怖も、焦りも、絶望も、全く感じていなかった。
まぶたの裏に映るのは、暗闇に差し込む一筋の光。
それを掴むためにデッキへと手を伸ばす。きっと…いや、間違いなくこれが最後のドロー、最後のターン。
===この手で手繰り寄せよう、奇跡を。
「ふふ、今回もためらってるわね。そりゃそっか。アナタにとっては最後のドローになるんだし」
「…」
「でも時間は限られてるってこと、忘れてないわよね?まあ、時間切れで終了でもアタシは別にいいけどさ」
「…アイリス」
「なに?」
「…見てみたいのなら、見せてあげる」
「はあ?」
「奇跡の…」
「逆転を…!」
「ドロー!」
「ぷっ、あはは!何が奇跡の逆転よ!気合入れてドローすれば引けるとでも思ってるの!?」
「…スタンバイ、メイン」
「そもそもデッキにあるわけないでしょ!たった1枚でこの状況を逆転できるような、そんな都合の良いカードなんて!」
「…罠発動、《ペンデュラム・スイープ》」
《ペンデュラム・スイープ》
通常罠
(1):フィールドのPモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。
「ふーん、それ伏せてたんだ。で、Z(ズィリス)を除外しようってわけ?」
「ううん…Z(ズィリス)を対象にしても、Pゾーンに逃げられちゃうから…」
「除外するのは、わたしのフィールドにいるD(ディスペア)」
「そう、モンスターゾーンを空けるためってことね」
「って、それならスタンバイフェイズの前に発動したら良かったんじゃないの?Z(ズィリス)がモンスターゾーンから離れれば、闇属性アシンメトリアルの効果が適用されてアタシのフィールドに全部移るんだし」
「…」
「ま、今更どっちでもいいけど。どうせ1枚じゃできることも限られてるし」
「…わたしも1枚じゃ、逆転は厳しいと思う」
「当然よ!これだけ差がついてるんだから。それがわからないアナタじゃないでしょ」
「でも…」
「…なに?」
「2枚じゃわからない…!」
「魔法発動、《シンメトリアル・リターン》…!」
「!」
《シンメトリアル・リターン》
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分のEXデッキの表側表示の同じ種族でカード名が異なる「シンメトリアル」Pモンスター2体を対象として発動できる。そのモンスター2体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。
「EXデッキから同じ種族でカード名が異なる「シンメトリアル」Pモンスター2体をデッキに戻すことで、デッキから2枚ドローする」
「へえ、手札を増やすカードを引くなんて運が良いわね」
===フフフ、それを引いたんだね。
『うん…だけど』
===まだ半分、だよね。
『…そうね』
===しかも今度は倍の2枚だ。
『…わかってたけど、厳しいな…』
===だからこそ奇跡って呼ばれるんじゃないかな。
『奇跡…』
ドローフェイズに引いたカードは、わたしが望んでいたカード。
しかしそれはまだ、奇跡の通過点。
もう1度わたしが望むカードを引き当てて、初めて奇跡となる。
今度は2枚。確率的にはさっきより断然薄い。
「わたしは同じ幻竜族のX(ホリゾンタル)・ライナーとY(ヴァーティカル)・ライナーをデッキに加えてシャッフル」
デッキに加えるのは、同じライナーの名を持つ水平と垂直。もとよりそれ以外に選択肢は無い。
複数のシンメトリアルが手札から直接墓地へ送られているため、《シンメトリアル・リターン》の発動条件を満たす組み合わせは、唯一この1組のみ。
だけどそれで良かった。何より、他でもないその1組がそこに存在していたことそのものが、
わたしと光を繋ぐ架け橋となっていたのだから。
「ふん、1枚でも2枚でも大して変わんないわよ。さっさと引きなさい」
「…」
===さあ、あと一歩だ。譜理子ちゃん。
(そう、あと一歩)
(ここまで紡いできた、繋いできた)
(これが正真正銘、本当に最後の一歩。踏み出せ、わたし)
(光を、この手に掴むために…!)
「2枚…ドロー!」
「…」
「ふふ、どう?引けたかしら?奇跡の逆転となるカードは」
「わたしは…」
「X(ホリゾンタル)・ライナーを青のPゾーンに発動」
《シンメトリアル=X(ホリゾンタル)・ライナー》
【Pスケール:青1/赤1】
このカード名の(2)のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):もう片方の自分のPゾーンに「シンメトリアル」カードが存在する限り、自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力はフィールドの「シンメトリアル」カードの枚数×200アップする。
(2):
「へえ。で、もう1枚は?」
「さらに…」
「Y(ヴァーティカル)・ライナーを赤のPゾーンに発動」
《シンメトリアル=Y(ヴァーティカル)・ライナー》
【Pスケール:青1/赤1】
「…ふふ、あはははは!戻した2枚を引いてくるなんてすごい運ね!笑いが止まらないわ!あはは!」
「…」
「まあでも、ある意味良かったんじゃない?スケール1が2枚揃ったし。出すんでしょ?あの2枚ドローできるアークモンスター」
「…《チアフル・ツイン・フェアリー》は、召喚しない」
「は?Pゾーンに発動しといて何言ってんのよ?それとも別のアークモンスターでも出すつもり?」
「…うん」
「ふーん、誰を出すのかしら?」
「わたしは…」
「X(ホリゾンタル)・ライナーのP効果発動」
「はあ!?P効果を発動、ってそいつらのP効果はシンメトリアルの枚数だけステータスを上げたり下げたりする永続効果でしょ!?」
「それもあるけど…もうひとつあるの。発動条件を満たすことで、発動できるP効果が」
「自分のPゾーンのこのカードと、もう片方の自分のPゾーンの「シンメトリアル=Y(ヴァーティカル)・ライナー」を対象として発動できる」
「!」
「対象のカードのPスケールをターン終了時までそれぞれ6つ上げる」
《シンメトリアル=X(ホリゾンタル)・ライナー》スケール1→7
《シンメトリアル=Y(ヴァーティカル)・ライナー》スケール1→7
「そう、相方と揃ってる場合のみ発動できるP効果があったってわけね」
「それで、両スケールを7にして誰を呼ぶつもり?《トライアングル・スコーピオン》はもう出しちゃったでしょ?」
「まだ…もう片方も」
「え?もう片方?…あっ!」
「Y(ヴァーティカル)・ライナーのP効果発動」
「自分のPゾーンのこのカードと、もう片方の自分のPゾーンの「シンメトリアル=X(ホリゾンタル)・ライナー」を対象として発動できる」
「対象のカードのPスケールをターン終了時までそれぞれ6つ上げる」
《シンメトリアル=X(ホリゾンタル)・ライナー》スケール7→13
《シンメトリアル=Y(ヴァーティカル)・ライナー》スケール7→13
「なるほど、そっちも同じP効果ってわけね」
「それにしてもスケール13ってデカイわね!一体どんなモンスターが出てくるのかしら?」
「アイリス」
「なに?」
「どうか最後まで見ていて欲しい。このデュエルの決着、この勝負の結末を」
「ふん、言われなくても見てあげるわよ!アナタがこの最後のターンを終えるその時をね!」
「何があっても、目を逸らさないでね」
「もう!わかったから早く出しなさいよ!今アナタにできることはそれしかないでしょ!」
「…そうだね」
「それじゃあ…」
===譜理子ちゃん。
『クラウン…』
===長かったね、ここまで。
『本当に…こんなに長いとは思わなかった』
===厳しくて険しくて逆風も吹いてたよね。
『途中からは…ずっとそんな感じだった』
===だけど譜理子ちゃんはそんな道を歩き切った。諦めることなく、最後の一歩まで。
『うん…』
===さあ、準備はいいかい?
『うん…!』
===フルバージョンで行くよ。
『…えっ?』
===ボクと繋がってから初めてだからね。自力で出すのは。
『そういえば…』
===だから最高の形で飾ろう。これまでの集大成として、最初で最後のこの瞬間を。
『…うん!』
===それじゃあ、カウントダウン。
===5、4…
(3、2、1…)
「わたしはスケール13のX(ホリゾンタル)・ライナーとスケール13のY(ヴァーティカル)・ライナーを」
===「「コネクト!!」」===
===「「繋がれし一対の境界点は、未知なる世界との架け橋を築く!虚空に描きし光の弧と共鳴せよ!!」」===
===「「アーク召喚!!!」」===
「わたしに繋がる一縷の光は、全てを救う希望の光となる!」
「26の原初にして弧を司る幻の竜よ!今奇跡の具象を果たし、わたしに闇を照らし出す力を!!」
「《シンメトリアル=A(アーク)・マスターペンデュラム》!!!」
「うっ…!何よ!?この光…!?」
《アシンメトリアル・ダークネス》によって包まれていた闇が、瞬く間に晴れていく。
光を伴って現れたのは、『A』の名を冠するシンメトリアル。
《アシンメトリアル・Z(ズィリス)》が終わりの象徴だとしたら、こちらは始まりの象徴。
その姿は神々しいまでに眩く、光り輝くドラゴン。
ではなく、わたし。
===わお、ドラゴンコスチュームの譜理子ちゃんだ。
(わたしが…ドラゴンの格好をしてる…!?)
凛とした面持ちでフィールドに立つそのわたしは、まるでドラゴンを装備したような、半人半竜の姿をしていた。
半人の方は顔も体も見たままのわたし。
半竜の方は、心なしか《幻双煌翼竜ドラゴネシア》の面影が感じられた。
===そういえば、いたよね?こんな風に神々しいドラゴンと人が合わさったようなモンスターがさ。ちょうど同じ光属性の幻竜族で名前も似てて。
『言われてみれば…』
(あれだよね…こっちでは、禁止されてるあの…)
===フフフ、あちらと比べると譜理子ちゃんのは人間部分の露出が多めだね。
『!…クラウン』
===何だい?
『恥ずかしいから…見ないで』
(うう…もうちょっとドラゴンで隠して…)
===案外しおらしい反応をするんだね。大丈夫だよ、もう後ろ姿しか見えてないからさ。
『…うん』
「ふふ、ここにきてやっと真の切り札が登場のようね!」
===さあ、譜理子ちゃん。あとは手にしたその光で、奇跡を起こすだけだ。
『うん…!』
「で、そいつの効果はーーー」
直後、アイリスの表情が一変する。
「!?な、何よこれ…!見えないじゃない!」
「見えない…?」
「光ってて見えないのよ!効果もステータスも!」
「!…」
『ねえクラウン、ひょっとして…』
===特別製なのかもね。あちらからは光ってるようにしか見えなかったりして。
『…やっぱり、そっか』
つまり、《アシンメトリアル・Z(ズィリス)》の時と同じ。
アイリスのデュエルディスクからは《シンメトリアル=A(アーク)・マスターペンデュラム》が見えない。
わたしが見ても闇にしか映らなかったように、きっと光が映っているだけ。
だから、この後の流れもそのままで。
「大丈夫、見えるよ」
「えっ?」
「アーク召喚に成功したから」
「!?…まさか、アナタのそのカードも…!」
闇ではなく光、非対称ではなく対称、終わりではなく始まり。
様々な対となる切り札の正体は、特別と呼ばれるに相応しいもう1体。
《シンメトリアル=A(アーク)・マスターペンデュラム》攻撃表示
アーク・ペンデュラム・効果モンスター
星12/光属性/幻竜族/攻 0/守 0
【モンスター効果】
スケール13×2
このカード名の(3)(4)のモンスター効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。