「さて、譜理子ちゃん。質問はあるかい?」
暫しの間の後、クラウンが問う。
「どんな質問でも受け付けるよ。今更隠すこともないからね」
「どんな質問でもいいの?」
クラウンは頷く。わたしはいくつか気になってたことを質問した。
何故わたしが選ばれたのか、観客席に座っていた人たちはどうなったのか。そもそもサーカス世界とは何なのか。
他にも細かな部分で気になってたこともまとめて質問してみたけど、どの答えもわたしの想像の範囲内だった。
ただひとつを除いて。
「えっと、それじゃあ最後の質問」
「どうぞ」
「どうして、勝負がデュエルだったの?」
ーーー
「アイリス、ゲームをしないかい?」
「ゲーム?」
クラウンは唐突に提案します。
「今あっちの世界でまあまあ流行ってるカードゲームがあるんだけどね」
クラウンの周囲には無数のカードが出現していました。
「これが面白いんだよ。ルールはちょっと複雑だけど、アイリスならすぐに覚えられるよね」
「するなんて一言も言ってないんだけど?」
「まずはカードの種類について説明しようか」
「いや、だからーーー」
「アイリス。ボクらは決着をつけないといけない」
クラウンは遮るように断言します。
「そろそろ飽きたでしょ?白黒つける手段が無いこの状況にも」
「…」
「ボクらにはこのカードゲームがふさわしいと思うんだよね」
無数のカードの中からクラウンは何枚かのカードを取り出します。
「アタシもいい加減決着をつけたいって思ってたわ。でも何でそんなカードゲームなのよ」
「これといって理由は無いんだ。強いて言うなら」
クラウンは取り出したカードを翻しました。
「振り子が導いてくれるような気がしたんだ」
ーーー
「何が『導いてくれる気がした』よ。Pゾーンの色と位置がアタシの目と同じだったからとかそんな理由でしょ」
「フフフ、もしそうだとしても導いてくれたでしょ」
クラウンがわたしの方へと首を向ける。
「これが質問の答えだよ、譜理子ちゃん」
「うん…なんとなくわかったかも」
きっとこれといって理由は無かったのだろう。
だから理由をつけた。アイリスが言い放ったようなそんな理由を。
ひょっとするとクラウンは読んでいたのかもしれない。勝負がデュエルに決まった時点で、最初から最後まで。
いや、それは考えすぎかな。
「でも、デュエルで良かった」
クラウンやアイリスとも出会えたから。
とはちょっと恥ずかしくて口には出せないけど、2人ともわたしと同じ気持ちだったら嬉しいな。
「そうだね。おかげで譜理子ちゃんとも出会えた」
「うん…」
まるでわたしの心を読んだかのようなクラウンの言葉に思わず頬が緩む。
もしかしたら代わりに言ってくれたのかもしれない。
きっと、これは考えすぎじゃないよね。
「さて、お話も終わったし、そろそろお開きかな」
そして訪れる終わりの時間。
「長い昔話だったわね」
ようやく終わったと言わんばかりに体を伸ばすアイリス。
しかしその声は寂しさを帯びていた。
「アイリス」
「なに?」
「もっとクラウンといたい?寂しいって顔に出てるよ」
「っ!?出てるわけないでしょ!」
わかりやすい。
「わたしは寂しいな。まだまだ色んなお話聞きたい」
「また近いうちに会えるよ譜理子ちゃん。その時はもっと面白い話聞かせてあげる」
クラウンはわたしの頭をポンポンと撫でる。
「うん。楽しみにしてる」
「次は譜理子ちゃんのお話も聞きたいな」
「…あまり面白くないかも」
「フフフ、話すことに困ったらアイリスに投げてみよう」
「投げ返すわよ!」
口元を緩めて頷いてみる。
「うん、そうする」
「そうしない!」
やっぱりわたしよりアイリスの方が面白いよね。
「それじゃあ譜理子ちゃん、改めてアイリスをよろしくね」
「うん、まかせて」
あの時と同じように強い決意を持って頷いた。
「アイリス、焦らなくていいんだよ。自分のペースで幸せを掴んでいくんだ」
「…言われなくてもわかってるわよ」
「フフフ、その様子だと心配いらないかな」
「また、会えるよね?」
アイリスは不安そうに尋ねる。
「もちろん。ボクはずっとここにいるからね。それに住む世界が違っても、ボクとアイリスと譜理子ちゃんは繋がってる」
「うん…そうね」
アイリスも心の準備が整ったようだった。
「クラウン」
名前を呼んでみる。
「何だい?譜理子ちゃん」
「また遊びに来るね」
「ぜひそうして欲しいな。待ってるよ」
クラウンに笑顔を見せた直後、世界は光に包まれた。
ーーー
「………ん」
音がする。ジリリリリ、と騒がしい金属の音。
この音は聞き覚えがある。
目覚まし時計の音だ。
「…う」
意識が少しはっきりしてきた。でも目がまだ重い気がする。
つまり、もうちょっと寝ていたい。
~~~早く起きなさい!遅刻するわよ!
頭の中に声が響く。寂しがりな同居人の声。
『ん~…あと5分』
~~~今すぐ起きろー!
目覚まし時計よりも騒がしい声に体は起こさざるを得なかった。
慌ただしい朝の準備を終わらせて靴を履く。
~~~忘れ物はない?
『うん』
~~~じゃあ行きましょ!
『毎朝元気だね、アイリス』
~~~当たり前よ!アタシは今毎日が楽しいんだから!
『そっか、それは何よりだね』
~~~譜理子はどうなの?
『わたし?わたしはね…』
「行ってきます」
ドアを開けると光が差し込んでくる。
朝の陽射しを浴びながら足取りは軽快、気分は上々。
今日も楽しくなりそうだった。
【真目譜理子とサーカス世界 完】
お久しぶりです。番外編を投稿すると書きながら2年以上放置してしまって申し訳ありませんでした。長らく間が空きましたが、こちらのエピローグを持ちまして「真目譜理子とサーカス世界」はひとまず完結という形にさせていただきます。最後まで読んで頂きありがとうございました。