蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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十一話

 左目が邪眼になったこと以外、特に体に異常が無かった俺は、目覚めるとすぐに病院を退院できた。しかし俺が邪眼に目覚めた事実は、どこからか五車学園全てに広まっていて、久しぶりに登校すると学生と教師問わず注目された。

 

 まあ、元々俺は中学生なのに対魔忍の任務を行っているせいで注目されているので、今更この程度の事はどうでもいい(開き直ったとも言う)。それより気になるのは小太郎君の事だ。

 

 小太郎君は数々の邪眼使いを輩出してきた名門、ふうま宗家の嫡男として生まれたのにも関わらず邪眼を持たず忍法も使えない為、周囲から陰で「眼ぬけ」と笑われてきていた。そんな彼に「忍法が使えないならば体術を磨いて対魔忍になればいい」と助言した人間に邪眼が目覚めたとすれば、それは考えようによっては酷い裏切りと思われるかもしれない。

 

 だから今日、小太郎君が兄のように慕っている同級生に、小太郎君が俺の邪眼の事を知ってどう思っているのか聞いてみると、

 

「ええ。確かに小太郎様も貴方の邪眼の事を知って驚いていましたが、それ以外は特に何も感じていないみたいでしたよ。『先輩は先輩。俺は俺。無い物ねだりをするのはもう止めだ』と言って、体術の修行に励むお姿は非常に頼もしく見えました」

 

 と、相変わらず優雅に答えてくれて、その答えに俺は一安心した。しかし……。

 

「それにしても私は嬉しいですよ。まさか我らふうまに貴方のような邪眼を持つ優秀な対魔忍が新たに加わるだなんて」

 

 この続けて言われた同級生の言葉に、俺は思わず内心で「ビクゥッ!」と驚いた。あー、やっぱり知っているのか……。

 

 別に隠していたわけじゃない……というか、これを知ったのは五車学園に来てからなのだが、俺の実家と母親の生家の両家が一応ふうま宗家に仕える下忍の家である事を同級生が知っているという事は、当然上層部も知っているって事だよな……。今だにふうまを警戒している上層部が、一応はふうまに属する俺に邪眼が宿ったと知ってどう思うかだなんて考えたくもない。正直、同級生の言葉を聞くまで強制的に記憶を封印していたぞ、俺?

 

 話を終えて同級生と別れた俺は、学生寮にある自室に戻ることにした。今日の夜には対魔忍の任務があるので、装備の点検などの任務の準備をする為である。だが自室へと戻る途中で、一人の女性が俺の前に立ちふさがった。

 

 突然俺の前に現れたその女性は、少々奇妙な格好をしていた。年齢は俺より少し下くらいで、着ているのは五車学園の女子生徒の制服。

 

 そこまでは別におかしくなかったのだが、彼女はバイザーをつけて顔を隠しており、そのバイザーと制服が凄まじい違和感を出していた。

 

 一体彼女は誰なんだ? どこか会った……いや、姿を見たような気がするのだが……?

 

「えっと……? 君は?」

 

「私は獅子神自斎。今日からさくら先生に代わって、貴方と一緒に任務をする事になったの。よろしくね、五月女先輩」

 

 俺の質問に彼女、獅子神自斎は感情のこもっていない声でそう答えたのであった。


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