蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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十四話

 さくらに代わって獅子神と一緒に任務を行うようになってから三度目の任務。今俺は敵のアジトに電磁蜘蛛を忍び込ませていて、そしてその電磁蜘蛛の視線の先では、邪眼の力で生み出されたあの半透明の蜘蛛が例の黒い球体となって敵の魔族に襲いかかっていた。

 

(なるほど……。大体コイツの事が分かってきたぞ)

 

 俺は今回のも含めた獅子神と一緒に行った三回の任務では全て邪眼を使っており、流石に三回も試すと大体の効果が分かってくる。電磁蜘蛛の視線を通じて黒い球体となって敵の魔族に次々と襲いかかっていく邪眼の蜘蛛を見て、俺は内心で頷き呟いた。

 

 ちなみに当の獅子神は俺が相変わらず遠距離で邪眼を使っているのでその力を見る事が出来ず、かと言って俺の護衛から離れる事も出来ないので、若干不満気な視線をこちらに向けてきていた。自分勝手な脳筋の対魔忍達ならともかく、彼女のような真面目な対魔忍を欺くのは気がひけるのだが、こっちも自分の安全がかかっているので我慢してほしいと思う。

 

 俺は心の中で獅子神に詫びると、電磁蜘蛛の視界に映る黒い球体と化して暴れている半透明の蜘蛛を見ながら、あの半透明の蜘蛛について分かった事を頭の中でまとめる。

 

 まずこの邪眼で作り出した半透明の蜘蛛の目的は周囲の敵の殲滅で、俺と電磁蜘蛛以外の者を無差別に攻撃する。攻撃手段は各脚の先端にある刃と牙、そして意外と力が強いようで八本の脚による圧迫。敵味方の区別は体から感じられる微弱な電磁波と対魔粒子の量で判断している。

 

 次に移動できる距離は大体五十メートルくらいで、俺の邪眼から作られれば俺を、電磁蜘蛛の視線から作られれば電磁蜘蛛を移動の基点としている。そして自分の移動できる範囲内にいる敵を近い者から攻撃していく。

 

 そしてこれが一番大きい特徴なのだが、どうやら半透明の蜘蛛は「周囲の光を吸収して自分を強化する」ことが出来るようだ。半透明の蜘蛛が黒い球体になっているのは、蜘蛛が自分の周囲の光を吸収して自分の力にしている結果であり、よく見ると黒い球体の外側から内側へと向かって光の糸みたいなのが伸びていて、黒い球体の中央にはうっすらと蜘蛛のシルエットが見えている。

 

 半透明の蜘蛛が光を自分の力に変えている事に気づいたのは二回目の邪眼の実験の時だ。薄暗い通路から蛍光灯がついている明るい部屋に出た途端、一気にスピードとパワーが段違いに上がった事から光を自分の力に変える能力に気づいたのだ。

 

 明るい部屋に出た時の半透明の蜘蛛は今まで任務で見てきた、頭はともかく実力は本物な対魔忍の先輩方の誰よりも素早く強力であった。蛍光灯の光だけでこれだけのパワーアップが出来るのなら、もし快晴の太陽の下で半透明の蜘蛛を作り出せば、一体どれだけ強くなるのだろうか?

 

 ……更に俺は、この半透明の蜘蛛の能力にはまだ続きがあった事を、偶然にもついさっき気づいたのだった。

 

(やっぱり治っているな……)

 

 視界を電磁蜘蛛から自分の目に戻した俺が、側にいる獅子神に気づかれないように自分の右の掌を見ると、右の掌には包帯が巻かれていた。この包帯は昨日、五車学園での訓練中に負ったもので、傷はかなり深く先程まで痛みを感じていたのだが、その痛みはすでに無くなっており傷も完治しているのが分かった。

 

 加えて言えば半透明の蜘蛛を作り出した時から妙に体が軽く、力が漲ってきている。

 

 この事から察するに、どうやら半透明な蜘蛛を出している間は俺自身も光を吸収して自分の力を強化出来るみたいだ。

 

 光を吸収して自分の力を強化出来る能力は、電磁蜘蛛の操作に集中して不意を突かれる危険が高い俺には非常に有り難いのだが、これは周りに知られないように特に気をつける事にしよう。だってそうしないと、ただでさえ命の危険がある任務を一人で行かされるかもしれないからな。それだけは絶対に避けたい。

 

 まあ、それはとにかく能力の内容も大体分かった事だし、そろそろこの邪眼と半透明な蜘蛛にも名前をつけてみようと思う。

 

 ……そうだな左眼の邪眼は「土蜘蛛の紫眼」、半透明の蜘蛛の方は「光を吸収する」と「(ライト)に従う捕食者(クモ)」の二つの意味で「ライトイーター」とでも名付けよう。

 

 やや安直な気がするが、そこまで酷い名前ではないだろう。


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