「……っ!? 電磁蜘蛛!」
校庭での格闘技の訓練で、忍法を使う対魔忍見習いの生徒を体術だけで倒した小太郎君を見た俺は、考えるより先に忍法で電磁蜘蛛を作り出すと校庭へと向かわせた。
「五月女先輩? どうしたんですか?」
獅子神が突然電磁蜘蛛を出した俺に尋ねてくるが、今は小太郎君に何が起こったのか確認するのが先決で、彼女の質問に答える余裕はなかった。
そうして電磁蜘蛛を大急ぎで校庭に向かわせてから視界を共有させると、校庭にはボロボロになった対魔忍見習いの生徒達が怒り、驚愕、畏怖といった様々な感情のこもった目で小太郎君を見ており、その事から彼らが格闘技の訓練で彼に負けたのだと分かった。それに対して小太郎君はかすり傷程度の傷しか負っておらずまだまだ余裕がありそうで、その表情は自信に満ちていた。
……いや、本当に何があったの、小太郎君? もしかして以前俺が言った「忍法が使えないなら、体術のスペシャリストになればいいじゃない」発言を真に受けて本当に体術のスペシャリストになったの? でも百歩譲って俺の言葉にせいだとしても、小太郎君と俺が会ったあの日からまだ一ヶ月くらいしか経っていないよね? たった一ヶ月の間に一体どんな修業をしたっていうの?
「つ、強い……? あのふうまが、嘘だろ?」
「家柄だけのお坊ちゃんじゃなかったのかよ?」
「少し前まで俺達に手も足も出なかったのに、どうして急に……?」
俺が小太郎君の急成長に驚いていると、口々に驚きの言葉を呟くのが、電磁蜘蛛を通じて聞こえてきた。
「な、何故だ? あいつはふうま宗家に生まれながら邪眼の力を使えない『目抜け』じゃなかったのか……?」
これは対魔忍見習いの生徒ではなく、格闘技に訓練を監督してした教官役の対魔忍の言葉……って、オイコラ。仮にも教官、教師がそんな事を言っていいのかよ? それに「目抜け」って小太郎君にとって最大の禁句だぞ? それを思わずとはいえ言うだなんて、教師失格としか言いようがない。
やっぱり対魔忍が普通の職業に就くのは、非常に難しいようだ。
そんな事を考えながら小太郎を観察してみると、小太郎君は緑を基調にした対魔忍スーツを着用しており、更に彼のスーツには他の生徒達にはない少しゴツい感じのベルトが装備されていた。
……それってどこの◯ック・リー? 前に助言した時にロッ◯・リーを想像したけれど、まさか本当にロック・◯ーにならなくてもいいんじゃない? これで髪型をおかっぱにして「青春だー!」が口癖になったら、俺はふうま一門の方々にどうお詫びしたらいいのか見当もつかない。……いや、別にロ◯ク・リーが駄目なわけじゃないんだけどさ。
「ま、まぐれだ! お前がそんな強いわけがない!」
俺が内心で頭を抱えていると、一人の対魔忍見習いの男子生徒がヤケクソ気味に小太郎君を指差して叫ぶ。
「忍法が使えないお前なんかが俺達より強くてたまるか! 今までのはただのマグレだ! それを俺が証明してやる! かかってこい、この『目抜け』がぁ!」
その男子生徒の言葉は、今校庭にいるほとんどの生徒の気持ちなのだろう。しかし小太郎君はそんな敵意の視線に囲まれても面と向かって「目抜け」と自身の禁句を言われてもまるで動じず、むしろ笑みを浮かべていた。
「いいぜ。相手になってやるよ」
小太郎君はそう答えると、自分を指差して怒鳴った男子生徒に向かってゆっくりと歩いて行った。その姿は明らかな強者の姿で俺が何を言いたいのかというと……。
小太郎君。変わりすぎだろ……。