はぁ……。働きたくない。
失礼、忍法が発現したことで五車学園に入学して二年が経ち、中学三年生になった五月女頼人です。
いきなりだが俺が所属している正義(?)の対魔忍を育成している五車学園について説明したいと思う。
五車学園は中等部と高等部の二つに分かれており、中等部では学業と共に対魔忍としての基礎訓練を受けて、高等部になって本格的な忍法を使った戦い方や任務遂行の為の知識を教えられる。そうして五車学園を卒業する事でようやく一人前の対魔忍として認められて、任務につくのはそれからとなる。
一部には対魔忍シリーズのヒロインみたいに、強力な忍法や戦闘能力の高さを認められて卒業前の五車学園学生にもかかわらず任務を与えられる対魔忍見習いもいるが、それは例外中の例外だ。
つまり何が言いたいのかと言うと、高等部どころか今だ中等部であるのに任務に駆り出されている俺の今の状況は頭がおかしいという事だ。
いや、実際おかしいって。もう俺、偵察任務ばかりだけど五車学園に入学してからのこの二年で二十回以上の任務を経験しているんだぞ? 月に二回のペースでベテランの対魔忍の先輩方に混じって偵察任務やっているんだけど?
お陰で五車学園の生徒からは引かれた目で見られて陰でヒソヒソ言われるし、任務で同行する対魔忍の先輩方からは……。
「あれが『蜘蛛の対魔忍』か……」
「そうだ。彼が『蜘蛛使いの五月女』だ」
「私が聞いた異名は『電磁蜘蛛』だったが、まさかあんな小さい子供だったなんて……」
と、何やら俺の忍法にちなんだ異名で呼ばれていた。
いやいや、やめてくれない? 異名がつく程有名になるなんて、この「対魔忍」の世界ではこれ以上ない死亡フラグだから本当にやめてくれない?
そして対魔忍の先輩方と一緒にいる事から分かるように、俺は今、いつも通り対魔忍の任務に参加している真っ最中であった。しかも場所はあの人間の犯罪者だけでなく魔族や吸血鬼といった魔の種族が多数暮らしている混沌の都市「東京キングダム」。……正直、対魔忍の任務でなければ絶対に近づきたくない都市だ。
この最近、対魔忍を男女問わず捕らえて奴隷娼婦、あるいは奴隷男娼にしている魔族がいるらしく、その魔族を調査して、可能ならば捕らえられた対魔忍達を救出せよというのが今回の任務である。
正直、いつもの偵察任務よりも危険度が高くて断りたかったのだが、そうすればどんなペナルティーを受けるのか恐かった俺は、任務を受けるという選択肢しかなかった。任務に出る前、五車学園で「今日も任務なんだ。でも五月女君なら大丈夫だよ。頑張って」と笑顔で言ってきたさくらに「そんな事はないから代わってください」と言いそうになったのは秘密だ。
(ああ、気が重い……)
いつもより危険度が高い任務というだけで気が重いのに、今回任務に同行している三人の対魔忍の先輩方の事を考えると更に気が重くなる。
今回任務に同行しているのは男一人に女性二人の対魔忍で、去年五車学園を卒業したばかりの若い対魔忍だ。そして三人はそれぞれ火遁、雷、風遁を駆使した剣術や格闘術を得意とする、戦闘能力「だけ」は頼りになる先輩方なのだが……。
『『この程度の任務すぐに片付ける。君はここで見ておけばいい』』
と、多少は言い方が違うが異口同音で言い、俺を置いて目標の魔族に向かって突撃していく脳筋ばかりであった。やっぱり対魔忍って脳筋しかいないんだな……。
三人の先輩方に置いていかれた俺だが、何もせずにボケっとしている訳にもいかないので、忍法で作り出した蜘蛛に先輩方の後をつけさせる事にした。そして蜘蛛の視覚を通じて俺が見たのは……。
男も女も関係なく数十人のオークに輪姦されている、三人の対魔忍の先輩方であった。
何故先輩方がこうなったのかというと、話の展開は次の通りになる。
先ず、三人の先輩方が目標の魔族を見つけて正面から強襲。目標の魔族は近くにいた部下達に迎撃を命じるが、先輩方はこれを危なげなく全滅させる。
次に魔族の部下を全滅させた先輩方は魔族に、捕らえた対魔忍の所へ案内しろと脅迫。魔族は大人しく対魔忍を捕らえている自分のアジトへ先輩方を連れて行くが、アジトには人間にしか効果が出ない催淫ガスが充満していて、すでに任務は達成できたと油断しきっていた先輩方は、その催淫ガスによって身動きがとれなくなる。
そして最後に身動きがとれなくなった先輩方は、武装を全て奪われた上に拘束されて、今の数十人のオークに輪姦される。
……本当に何やっているんだよ、あの先輩方は? 最初は上手くいっていたのに、途中であっさり罠にはまるなんて馬鹿じゃないの? 俺にあんなに偉そうに言っておいてこんなオチなんて全く笑えないからな?
とりあえず、捕まった対魔忍の居場所は蜘蛛を使って確認したので、新たに捕まった三人の先輩方の事も含めて報告はした。それによって後日、捕まった対魔忍達はあの三人の先輩方も含めて全員救出されて、俺はその事をサクラから教えられた。
しかし今回の任務「も」疲れたな。肉体的にじゃなくて精神的に……。
毎回毎回俺の事を「地味な忍法しか使えない対魔忍見習い」と馬鹿にする……ぐらいならまだ我慢できるけど、正面から敵に突っ込む対魔忍と同行させられるのは本当に疲れる。
はぁ……。もう働きたくないな。
「ふぅ……。『今回』も駄目だったみたいね……」
五車学園の学園長室で、アサギは書類を読んでため息を吐いた。
アサギが読んでいた書類は、今回頼人が参加した任務の報告書で、その内容は「調査任務は無事完了したが、同行していた対魔忍達が功を焦って暴走。結果、同行していた対魔忍達は敵に捕らえられてしまう」というある意味「いつも通り」の内容であった。
「今回はそれなりに協調性の高い子達を選んだつもりなんだけど、どうしてうまくいかないのかしら? ……はぁ」
そう呟いてからアサギはもう一度ため息を吐く。
今年に入ってからアサギは、頼人を任務に出す際、必ず戦闘能力が高くて主に白兵戦を得意とする先輩の対魔忍を同行させていた。そしてそれは戦力の補強ではなく、「頼人の護衛」という目的によるものであった。
頼人の実績は偵察任務などの任務だけで言えば、すでにベテランの対魔忍にも匹敵している。しかし戦闘能力はそれほど高くなく、特に忍法で遠距離にいる蜘蛛を操っている時は無防備になりやすい。
それを補うため、アサギは白兵戦が得意な対魔忍を頼人に同行させていたのだが、最近の対魔忍は戦闘力や家柄を重視する者が多く、頼人の護衛をするどころか逆に彼の負担になるばかりであった。
「しょうがないわね……。こうなったらさくらに五月女君の護衛をしてもらうしかないわね」
アサギの妹のさくらは、五車学園で対魔忍見習いを訓練する教師を勤めていてそれなりに多忙なのだが、それでも彼女ならば今までの対魔忍のように功を焦って頼人の護衛を放棄したりしないだろう。
そこまで考えてアサギは、頼人と相性がいい相方が見つかるまで、さくらに彼の護衛を頼むことに決めた。
……尤も、頼人からしたら「護衛以前に学生を任務に駆り出すな」と声を大にして言いたいのだろうが、彼の心からの願いを気づく者はここにはいなかった。