蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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二十話

「あ……。ひゃああっ!?」

 

 バイザーが顔から離れた獅子神は、大慌てで俺から離れるとその場にしゃがみ込んでしまった。一体どうしたんだ? そんなに素顔が見られるのが恥ずかしいのか?

 

「あっ、すまない。ワザとじゃなかったんだ。ほら、これ……って」

 

 床に落ちたバイザーを拾って獅子神に手渡そうとした時、俺はそこで初めて彼女の素顔を目にした。バイザーがない彼女の素顔は、まだ中学二年生ということもあってまだ少し幼さが見えるが、それでも充分美少女と言えた。

 

「獅子神、美人じゃないか。そんなに美人なのに何でいつもバイザーで顔を隠しているんだ? 勿体無くないか?」

 

「び、美人!? あ、ありがとうございます。……じゃなくて! 私から離れてください! じゃないと……ああっ!」

 

 俺の言葉に顔を真っ赤にした獅子神は、こちらを見て何かを言おうとしたが、その前に大きな失敗をしてしまったような表情となって短い悲鳴のような声を上げる。

 

「獅子神? 一体どうし……た……!?」

 

 絶句する獅子神に声をかけようとしたその時、俺は彼女の背後にいきなり現れた「それ」の存在に気づいた。気づいてしまった。

 

 

 獅子神の背後に現れたのは、白い光を全身から放つ半透明のロボットのような姿の巨人。

 

 

 な、何コレ!? ス、◯タンド!? スタン◯能力ですか!? もしかしてこのス◯ンド能力みたいなのが獅子神の忍法なの?

 

 俺の忍法「獣遁・電磁蜘蛛」はスタ◯ド能力を参考にしたものだけど、◯タンド能力者はスタン◯能力者と引かれ合うって事ですか、◯木飛呂彦先生!?

 

「も、もう駄目……! 私、五月女先輩を殺してしまう……。お願い、五月女先輩、早く逃げて……えっ?」

 

 馬鹿な事を考えている俺に向かって、何やら懺悔するような表情で物騒な事を言おうとしていた獅子神だったが、その言葉は途中で遮られた。獅子神は驚愕の表情を浮かべて俺を、正確には俺の背後を見つめていた。

 

 おいおい、味方がス◯ンド能力者だってだけでも驚きなのに、これ以上何があるっていうんだよ?

 

「さ、五月女先輩? 後ろの『それ』は……何ですか?」

 

「後ろ? 俺の後ろに何がいるって……?」

 

 獅子神が震える指で俺の背後を指差し、呆けたような声で聞いてきて、それに俺は後ろを振り返る。するとそこにいたのは……。

 

 

 四本の巨大な脚をもって地面に立つ三メートルくらいの鉄球と、その鉄球と背中が繋がった状態でぶら下がっている八つの目を持つロボットであった。

 

 

 えっ!? もう一回何コレ!? スーパー◯ボット大戦の◯ン・アーレス!? 俺、あのいかにも不気味でボスっぽいデザインが好きだったんだよな……じゃなくて! 新手のスタ◯ド!? 新手の◯タンドだとしたら能力者は誰よ?

 

『……………』

 

『……………』

 

 驚愕する俺と獅子神を他所に、二体のスタン◯は互いに見つめ合い(多分だけどそんな気がした)、十秒くらいそんな状態が続くと、二体とも何をする事もなく宙に溶けるように消えていった。

 

「い、いなくなった……? それも二体とも。一体何だったんだ?」

 

「よ、よかった……。もう駄目だと思いました。……五月女先輩が」

 

「待って。そこら辺、詳しく説明して」

 

 聞き捨てならない事を言う獅子神に詳しい話を聞くと、最初に現れたあの半透明の巨人は獅子神の忍法によるものであった。

 

 獅子神は千年に一人だけ使用者が現れるという「神遁の術」の使い手らしい。神遁の術とは自然界に潜む超常のもの、一説には滅びし古き神々の力を借りる忍法らしく、その使い手である彼女の両目には神気が宿り、その両目で見つめたものに恐ろしい「祟り」があるという。

 

 そしてその祟りというのが先程俺達の前に現れたあの半透明の巨人で、彼女はあれを「忌神」と呼んでいて神の一種であるらしいとも言った。更に忌神は獅子神の制御を全く受け付けず、これまでにも彼女の大切な人を何人も殺してきたと聞いて、俺は思わず血の気が引いた。

 

 あ、危なかった……!? 俺ってばもう少しで獅子神のス◯ンド……じゃなくて忌神に殺されるところだったのか。

 

「ま、まあ、とりあえず無事だからよかったじゃないか」

 

「……え? それでいいんですか? 私は五月女先輩を殺そうとしたんですよ?」

 

 怖くなった気持ちを振り払うように俺が明るく言うと、バイザーを付け直した獅子神が恐る恐るこちらを見ながら聞いてくる。

 

「いや……。確かに驚いたけど、ワザとじゃないんだろ? だったら別にいいよ。俺も次から気をつけるからさ。だからまあ、これからも一緒に任務をしてくれると助かるんだけど……いいかな」

 

 正直、獅子神は俺にとってかなり相性がいい相方だ。接近戦に長けていて護衛に向いているし、真面目だし、それに何より他の対魔忍と違って頭対魔忍じゃないし。

 

「………! はい!」

 

 そう考えて俺が言うと、獅子神は何故か頬を赤くして元気よく返事をしたのだった。

 

 それにしてもあの半透明の巨人が獅子神の忍法によるものだったら、後から現れた鉄球にぶら下がった八つの目のロボットは一体何だったんだ?


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