蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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二十七話

 東京キングダムにあるとある高層ビルの一室。そこに十数名の人影が一つのテーブルを囲んで座っていた。

 

 その十数名の人影の中には人間だけでなく、オークやオーガを初めとした様々な魔族の姿が見えた。彼らはこの東京キングダムで暗躍していると武装勢力や犯罪結社、そして彼ら相手に商売をしている武器商人のリーダー達であった。

 

「それでは今回の議題はこの最近の対魔忍達の動きについてだ……」

 

 部屋に集まった人影の一人、スーツを着た人間の男がそう言うと、他の部屋に集まっていた他の者達が頷いて口を開く。

 

「そうだな。確かにこの二、三年の間、対魔忍によって壊滅させられた下部組織の数は今までよりも増えている……」

 

「対魔忍によってチンピラ達が間引きされているのはいつもの事だが、それでも俺達と同じレベルの組織が潰される事も増えている」

 

「それにこちらが狩れている対魔忍の数も少しだが減っているしな」

 

 ここにいる人間や魔族の組織は、東京キングダムに存在している闇組織の中では中級とされるレベルばかりであった。下級レベルの組織や組織に入ることさえできない弱小の魔族にとって対魔忍は、出会う事が死と直結している死神のような存在だが、彼らのような中級レベルの組織にとっては少々厄介だが少し策を練れば充分対処可能な存在でしかない。

 

 それなのにこの二、三年の間、一部の対魔忍が妙に手強くなり、中級レベルの組織が潰される件が続けて起こったのだ。

 

「昨日もある武装グループが対魔忍達によって潰された。その武装グループは規模こそは小さいが、鬼族の戦士を一人雇っていたらしい。だがその鬼族の戦士も含めて武装グループのメンバー全てが殺されていたそうだ」

 

「それで敵の対魔忍は何人倒せたのだ?」

 

 部屋に集まっているオーガが昨日起こった対魔忍による武装勢力への襲撃事件について説明すると、それに別の魔族が質問する。しかしオーガはその質問に首を横に振って答える。

 

「……武装グループのアジトにあったのは、その武装グループの死体だけ。対魔忍の死体は確認できなかったそうだ」

 

『『………』』

 

 オーガの言葉に部屋に集まっている人影達が僅かに緊張した表情となる。

 

「一体どういうことだ? 確かに対魔忍は強力な能力を持ってはいるが、ほとんどがその能力に頼ってばかりで、行き当たりばったりの戦いしか出来ない奴らだ。鬼族の戦士がいれば死人の一人や二人が出てもおかしくないはずだ」

 

「……もしや『アイツ』が関係しているのか?」

 

 人間の男が首を傾げて疑問を口にすると、魔族の男が考える素振りを見せて呟いた。

 

「アイツ?」

 

「お前も聞いたことがあるだろう? ……『蜘蛛の対魔忍』だ」

 

『『………』』

 

 魔族の男が人間の男に言うと、二人の会話を聞いていた者達の間に先程よりも強い緊張が走る。

 

 蜘蛛の対魔忍。

 

 それは東京キングダムの間で密かに噂されている一人の対魔忍のことであった。正体は不明だが蜘蛛の使い魔のような存在を操る忍法を使い、遠く離れた場所からの偵察や暗殺を遂行する、今までの正面からの戦いを好む対魔忍とは違う異色の対魔忍。

 

 先程までここにいる者達が話していた一部の対魔忍が妙に手強くなったり、中級レベルの組織が壊滅させられた件は全てこの蜘蛛の対魔忍が関わっているという噂があり、その噂は限りなく本当だというのがここにいる者達の見解であった。

 

「……その蜘蛛の対魔忍を放っておいたら、次は俺たちの誰かがソイツの餌食になるかもしれないな」

 

「ああ、そうだな。どうだろう? ここは一つ、その蜘蛛の対魔忍を調べてその情報を共有するというのは?」

 

『『異議なし』』

 

 部屋に集まった東京キングダムで中級レベルとされる闇組織のリーダー達の意見は一致して、その後彼らはどうやって蜘蛛の対魔忍の情報を集めるか相談を始めた。

 

 ……その数日後。東京キングダムの各地では、蜘蛛の対魔忍の情報を得た者、あるいは彼を殺した者には多額の賞金を払うという指名手配書が大量に出回る事になるのだった。


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